(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009896
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】トナーバインダー及びトナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
G03G9/087 331
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024091805
(22)【出願日】2024-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2023109617
(32)【優先日】2023-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松井 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】嘉納 亮治
(72)【発明者】
【氏名】宇田 京平
(72)【発明者】
【氏名】秦 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】神保 克明
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500AA01
2H500CA06
2H500EA46B
(57)【要約】
【課題】耐久性、帯電性に優れ、広い定着幅を有するトナーを得ることができるトナーバインダーを提供する。
【解決手段】アルコール成分とカルボン酸成分を重縮合させて得られるポリエステル樹脂を含むトナーバインダーであって、前記ポリエステル樹脂は、前記アルコール成分がエチレングリコールを含み、前記カルボン酸成分がテレフタル酸を含むポリエステル樹脂(A)であり、蛍光X線による測定において、バリウム元素を10~1500ppmの範囲で含むことを特徴とするトナーバインダー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させて得られるポリエステル樹脂を含むトナーバインダーであって、前記ポリエステル樹脂は、前記アルコール成分がエチレングリコールを含み、前記カルボン酸成分がテレフタル酸を含むポリエステル樹脂(A)であり、蛍光X線による測定において、バリウム元素を10~1500ppmの範囲で含むことを特徴とするトナーバインダー。
【請求項2】
蛍光X線による測定において、カルシウム元素を20~3000ppmの範囲で含む請求項1に記載のトナーバインダー。
【請求項3】
蛍光X線による測定において、リン元素を2~500ppmの範囲で含む請求項1又は2に記載のトナーバインダー。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂のアルコール成分が更にビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含む請求項1又は2に記載のトナーバインダー。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のトナーバインダーを含むトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトナーバインダー及びトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真システムの発展に伴い、商業印刷や産業印刷などの用途に電子写真技術の適用を広げる取り組みが進んできている。商業印刷や産業印刷の分野では安定的に高速印刷する必要があるため、一定の低温定着性と耐ホットオフセット性、つまり広い定着幅を有することが求められる。また、微粉などが生じないようトナーがカートリッジ内で受ける撹拌に伴うせん断や圧縮に対して耐久性を有することや、同品質の画像を大量に安定して印刷するために帯電性能を保持することなどの要件を具備する必要がある。
トナーバインダーは、上述のようなトナー特性に大きな影響を与えるものであり、ポリスチレン樹脂、スチレン-アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等が知られているが、定着性と帯電性のバランスを取りやすいことから、ポリエステル樹脂が特に注目されている。
例えば、定着性や帯電性に優れ、炭素数2~4の脂肪族ジオールを主成分とするポリエステル樹脂を含有するトナーバインダーが開示されている(特許文献1及び2)。
しかしながら商業印刷や産業印刷などの用途のトナーに適用するには十分な耐久性、帯電性、十分広い定着幅を有しているとは言えず、それらの改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-141966号公報
【特許文献2】特開平9-278873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐久性、帯電性に優れ、広い定着幅を有するトナーを得ることができるトナーバインダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討した結果、本発明に至った。すなわち本発明はアルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させて得られるポリエステル樹脂を含むトナーバインダーであって、前記ポリエステル樹脂は、前記アルコール成分がエチレングリコールを含み、前記カルボン酸成分がテレフタル酸を含むポリエステル樹脂(A)であり、蛍光X線による測定において、バリウム元素を10~1500ppmの範囲で含むことを特徴とするトナーバインダーである。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、耐久性、帯電性に優れ、広い定着幅を有するトナーを得ることができるトナーバインダーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のトナーバインダーは、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させて得られるポリエステル樹脂を含むトナーバインダーであって、前記ポリエステル樹脂は、前記アルコール成分がエチレングリコールを含み、前記カルボン酸成分がテレフタル酸を含むポリエステル樹脂(A)であり、蛍光X線による測定において、バリウム元素を10~1500ppmの範囲で含むことを特徴とする。
以下に、本発明のトナーバインダーを順次説明する。
【0008】
本発明のトナーバインダーは、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させて得られるポリエステル樹脂を含む。
本明細書におけるポリエステル樹脂としては、アルコール成分がエチレングリコールを含み、カルボン酸成分がテレフタル酸を含むポリエステル樹脂(A)、ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)が挙げられる。
【0009】
まず、ポリエステル樹脂(A)について説明する。
ポリエステル樹脂(A)は、アルコール成分がエチレングリコールを含み、カルボン酸成分がテレフタル酸を含む。
【0010】
カルボン酸成分がテレフタル酸を含むことにより、トナーの耐久性を向上させ、帯電性を向上させることができる。
【0011】
ポリエステル樹脂(A)は、エチレングリコールの他にポリオール成分(x)を含んでいてもよい。
ポリオール成分(x)としては、エチレングリコール以外のジオール(x1)及び3価以上のポリオール(x2)が挙げられる。これらは、1種単独であっても、2種以上の組み合わせであっても良い。
【0012】
ジオール(x1)としては、炭素数3~36のアルキレングリコール(プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール及び1,12-ドデカンジオール等)、炭素数4~36のアルキレンエーテルグリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリテトラメチレンエーテルグリコール等)、炭素数6~36の脂環式ジオール(1,4-シクロヘキサンジメタノール及び水素添加ビスフェノールA等)、上記脂環式ジオールの(ポリ)アルキレンオキサイド付加物(好ましくは平均付加モル数1~30)、芳香族ジオール[単環2価フェノール(例えばハイドロキノン等)及びビスフェノール類等]及び上記芳香族ジオールのアルキレンオキサイド付加物(好ましくは平均付加モル数2~30)等が挙げられる。
【0013】
上記のビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物は、ビスフェノールにアルキレンオキサイド(以下、「アルキレンオキサイド」をAOと略記することがある。)を付加して得られる。
【0014】
ビスフェノールとしては、下記一般式(1)で示されるもの等が挙げられる。
HO-Ar-P-Ar-OH (1)
[式中、Pは炭素数1~3のアルキレン基、-SO2-、-O-、-S-又は直接結合を表し、Arは、水素原子がハロゲン原子又は炭素数1~30のアルキル基で置換されていてもよいフェニレン基を表す。]
【0015】
ビスフェノールの具体例としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールB、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、トリクロロビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、ジブロモビスフェノールF、2-メチルビスフェノールA、2,6-ジメチルビスフェノールA及び2,2’-ジエチルビスフェノールF等が挙げられ、これらは2種以上を併用することもできる。
【0016】
ビスフェノールに付加するアルキレンオキサイドとしては、炭素数が2~30のアルキレンオキサイド、例えば、エチレンオキサイド(以下、「エチレンオキサイド」をEOと略記することがある。)、プロピレンオキサイド(「プロピレンオキサイド」をPOと略記することがある。)、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、及びこれらの2種以上の併用等が挙げられる。
【0017】
これらのジオール(x1)のうち、低温定着性と耐熱保存性の観点から、炭素数3~36のアルキレングリコール、芳香族ジオールのアルキレンオキサイド付加物が好ましく、炭素数3~10のアルキレングリコール、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物(平均付加モル数は好ましくは2~5)がより好ましく、炭素数3~6のアルキレングリコール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(平均付加モル数は好ましくは2~5)が更に好ましく、ビスフェノールAのEO及び/又はPO付加物(平均付加モル数は好ましくは2~3)が特に好ましい。
【0018】
また、ポリエステル樹脂(A)のアルコール成分がビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含有することが好ましく、ビスフェノールAのEO及び/又はPO付加物(平均付加モル数は好ましくは2~3)を含有することがより好ましい。
ポリエステル樹脂(A)のアルコール成分がビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含むと、これを含まない場合と比較してトナーの状態の耐久性が向上する。
【0019】
3価以上のポリオール(x2)としては、炭素数3~36の3価以上の価数の脂肪族多価アルコール、糖類及びその誘導体、脂肪族多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物(平均付加モル数は好ましくは1~30)、トリスフェノール(トリスフェノールPA等)のアルキレンオキサイド付加物(平均付加モル数は好ましくは2~30)、ノボラック樹脂(フェノールノボラック及びクレゾールノボラック等が含まれ、平均重合度としては好ましくは3~60)のアルキレンオキサイド付加物(平均付加モル数は好ましくは2~30)等が挙げられる。
【0020】
炭素数3~36の3価以上の価数の脂肪族多価アルコールとしては、アルカンポリオール及びその分子内又は分子間脱水物が挙げられ、例えばグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ポリグリセリン及びジペンタエリスリトール等が挙げられる。
また、糖類及びその誘導体としては、例えばショ糖及びメチルグルコシド等が挙げられる。
【0021】
これらの3価以上のポリオール(x2)のうち、低温定着性と耐ホットオフセット性との両立の観点から、炭素数3~36の3価以上の価数の脂肪族多価アルコール、ノボラック樹脂(フェノールノボラック及びクレゾールノボラック等が含まれ、平均重合度としては好ましくは3~60)のアルキレンオキサイド付加物(平均付加モル数は好ましくは2~30)が好ましく、炭素数3~8の3価の脂肪族多価アルコールが更に好ましく、トリメチロールプロパンが特に好ましい。
【0022】
ポリエステル樹脂(A)のポリオール成分(x)中におけるジオール(x1)は、80~100モル%であることが好ましい。また、ジオール(x1)と3価以上のポリオール(x2)とを併用する場合、ジオール(x1)と3価以上のポリオール(x2)のモル比[(x1)/(x2)]は、耐ホットオフセット性の観点から、80/20~99/1が好ましく、85/15~98/2がより好ましい
【0023】
また、ポリエステル樹脂(A)のアルコール成分として、必要により上記ポリオール成分(x)に加えて、モノオール成分を含有させることもできる。モノオールとしては、炭素数1~30の直鎖又は分岐アルキルアルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、1-デカノール、ドデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール及びリグノセリルアルコール等)等が挙げられる。
【0024】
これらモノオールのうち、画像強度及び耐熱保存性の観点から、炭素数8~24の直鎖又は分岐アルキルアルコールが好ましく、炭素数8~24の直鎖アルキルアルコールがより好ましく、ドデシルアルコール、ステアリルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール及びリグノセリルアルコールが更に好ましい。
【0025】
ポリエステル樹脂(A)は、テレフタル酸の他にポリカルボン酸成分(y)を含んでいてもよい。
ポリカルボン酸成分(y)としては、テレフタル酸以外のジカルボン酸(y1)、3価以上のポリカルボン酸(y2)が挙げられる。これらは、1種単独であっても、2種以上の組み合わせであっても良い。
【0026】
ジカルボン酸(y1)としては、炭素数8~36の芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸及びナフタレンジカルボン酸等)、炭素数2~50の脂肪族ジカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、レパルギン酸及びセバシン酸等)、炭素数6~40の脂環式ジカルボン酸〔ダイマー酸(2量化リノール酸)等〕、炭素数4~36のアルケンジカルボン酸(ドデセニルコハク酸等のアルケニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸及びメサコン酸等)及びこれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。ここで、エステル形成性誘導体とは、カルボン酸無水物、アルキル(炭素数1~24のメチル、エチル、ブチル、ステアリル等、好ましくは炭素数1~4のもの)エステル及び部分アルキルエステルを意味する。
【0027】
これらのジカルボン酸(y1)のうち、低温定着性、耐ホットオフセット性及び耐熱保存性の両立の観点から、炭素数8~36の芳香族ジカルボン酸、炭素数2~50の脂肪族ジカルボン酸、炭素数4~36のアルケンジカルボン酸が好ましく、イソフタル酸、アジピン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸がより好ましく、イソフタル酸、アジピン酸、フマル酸、コハク酸が更に好ましく、イソフタル酸、アジピン酸、コハク酸が特に好ましい。また、これらの酸の無水物や低級アルキルエステルであってもよい。
【0028】
3価以上のポリカルボン酸(y2)としては、炭素数9~20の3価以上の芳香族ポリカルボン酸(トリメリット酸及びピロメリット酸等)、炭素数6~36の脂肪族(脂環式を含む)トリカルボン酸(ヘキサントリカルボン酸及びデカントリカルボン酸等)及びこれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0029】
これらの3価以上のポリカルボン酸(y2)のうち、低温定着性と耐ホットオフセット性との両立の観点から、炭素数9~20の芳香族ポリカルボン酸が好ましく、トリメリット酸、ピロメリット酸がより好ましい。また、これらの酸の無水物や低級アルキルエステルであってもよい。
【0030】
また、ポリエステル樹脂(A)のカルボン酸成分として、必要により、モノカルボン酸成分を含有させることもできる。モノカルボン酸としては、炭素数7~37の芳香族モノカルボン酸(安息香酸、トルイル酸、4-エチル安息香酸、4-プロピル安息香酸等)、炭素数2~50の脂肪族(脂環式を含む)モノカルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸及びベヘン酸等)等が挙げられる。
【0031】
これらモノカルボン酸のうち、画像強度及び耐熱保存性の観点から、炭素数7~37の芳香族モノカルボン酸が好ましく、安息香酸がより好ましい。
【0032】
ポリエステル樹脂(A)は、蛍光X線による測定において、ポリエステル樹脂(A)の重量に基づいてバリウム元素を10~1500ppmの範囲で含むことが好ましい。
ポリエステル樹脂(A)に含まれるバリウム元素の含有量は、ポリエステル樹脂(A)の製造時に添加するバリウム元素含有化合物の量を調整することにより定めることができる。
本明細書において、蛍光X線によるバリウム元素の含有量の定量を以下に述べる。
<サンプルの調整>
ポリエステル樹脂(A)、トナーバインダー、トナー等の粉体を押し固めてペレットにする加圧成型法を用いることができる。例えば塩化ビニル樹脂製の5mm厚さのリングの中央に軽く山になる程度の粉体試料を充填し、プレス機で10tの荷重を掛けてプレス成型してペレット化することができる。この際に他の成分、特にバリウム元素のコンタミが無いように注意する。
特にトナーの場合は外添剤にバリウム元素を含む場合もあるので、あらかじめトナーをメタノール等で超音波洗浄して表面の外添剤を取り除いてから、STEM等の表面分析により外添剤の除去ができているかを確認した試料を用いて分析を行うことで正確なバリウム元素含有量を測定することができる。
<測定法>
予めバリウム元素濃度が分かっている標準試料で検量線を準備しておき、分析試料のX線強度から分析値を決定することもできるし、大半の樹脂組成が分かっている場合はファンダメンタルパラメーター法(FP法)によって概略の含有率を求める事もできる。但し、トナー等の含有物等が不明な場合を除き、FP法は比較的精度に劣るため、より正確にバリウム元素濃度が測定できる検量線法を使用することが好ましい。
<測定装置>
例えば、蛍光X線分析装置(リガク社製、Supermini200)等によって測定することができる。
【0033】
ポリエステル樹脂(A)は、蛍光X線による測定において、ポリエステル樹脂(A)の重量に基づいてカルシウム元素を20~3000ppmの範囲で含むことが好ましい。
ポリエステル樹脂(A)に含まれるカルシウム元素の含有量は、ポリエステル樹脂(A)の製造時に添加するカルシウム元素含有化合物の量を調整することにより定めることができる。
本明細書において、蛍光X線によるカルシウム元素の含有量の定量は、バリウム元素含有量の定量と同様の方法で測定することができる。
【0034】
ポリエステル樹脂(A)は、蛍光X線による測定において、ポリエステル樹脂(A)の重量に基づいてリン元素を2~500ppmの範囲で含むことが好ましい。
ポリエステル樹脂(A)に含まれるリン元素の含有量は、ポリエステル樹脂(A)の製造時に添加するリン元素含有化合物の量を調整することにより定めることができる。
本明細書において、蛍光X線によるリン元素の含有量の定量は、バリウム元素含有量の定量と同様の方法で測定することができる。
【0035】
ポリエステル樹脂(A)の酸価は、低温定着性、帯電維持率及び印刷品質の耐久性の観点から、0~50mgKOH/gが好ましく、0.1~30mgKOH/gであることがより好ましい。
なお、酸価は、JIS K0070に規定の方法で測定することができる。
【0036】
ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は、耐熱保存性及び低温定着性の観点から、50~75℃であることが好ましく、55~70℃であることがより好ましい。
ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、ASTM D3418-82に規定の方法(DSC法)により決定することができる。ガラス転移温度(Tg)の測定には、例えば、TA Instruments(株)製、DSC Q20等を用いることができる。ガラス転移温度(Tg)は、下記の条件で測定することができる。
<測定条件>
(1)30℃から20℃/分で150℃まで昇温
(2)150℃で10分間保持
(3)20℃/分で-35℃まで冷却
(4)-35℃で10分間保持
(5)20℃/分で150℃まで昇温
(6)(5)の過程にて測定される示差走査熱量曲線を解析し、変曲点の位置をガラス転移温度とする。
【0037】
ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量は、低温定着性、トナーの耐久性の観点から、3,000~100,000であることが好ましく、5,000~50,000であることがより好ましい。
【0038】
本発明において、重量平均分子量及びピークトップ分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定することができる。
装置(一例) : 東ソー(株)製 HLC-8120
カラム(一例): TSK GEL GMH6 2本 [東ソー(株)製]
測定温度 : 40℃
試料溶液 : 0.25重量%のTHF溶液
溶液注入量 : 100μL
検出装置 : 屈折率検出器
基準物質 : 東ソー(株)製 標準ポリスチレン(TSKstandard POLYSTYRENE)12点(分子量 500 1,050 2,800 5,970 9,100 18,100 37,900 96,400 190,000 355,000 1,090,000 2,890,000)
分子量の測定は、0.25重量%になるように試料をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、不溶解分をアパチャー220nmのPTFEフィルターでろ別したものを試料溶液とする。
【0039】
アルコール成分のうち、エチレングリコールの含有量は、帯電性(帯電維持率)の観点からアルコール成分の合計モル数を基準として好ましくは10~60モル%であり、更に好ましくは20~50モル%である。
アルコール成分のうち、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、耐久性の観点からアルコール成分の合計モル数を基準として好ましくは0~70モル%であり、更に好ましくは0~60モル%である。
アルコール成分のうち、エチレングリコール及びビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物以外のアルコール成分の含有量は、帯電性(帯電維持率)の観点からアルコール成分の合計モル数を基準として好ましくは0~70モル%であり、更に好ましくは0~60モル%である。
【0040】
カルボン酸成分のうち、テレフタル酸の含有量は、トナーの耐久性の観点からカルボン酸成分の合計モル数を基準として好ましくは30~100モル%であり、更に好ましくは40~100モル%である。
カルボン酸成分のうち、テレフタル酸以外のカルボン酸成分の含有量は、トナーの耐久性の観点からカルボン酸成分の合計モル数を基準として0~70モル%であり、好ましくは0~60モル%である。
【0041】
アルコール成分とカルボン酸成分との反応比率は、水酸基とカルボキシル基のモル比{[OH]/[COOH]}として、好ましくは1/2~2/1であり、より好ましくは1/1.3~1.5/1、さらに好ましくは1/1.2~1.4/1である。
【0042】
ポリエステル樹脂(A)はエチレングリコールを含むアルコール成分と、テレフタル酸を含むカルボン酸成分とを混合し、重合触媒の存在下で重縮合反応を行うことによって得ることができる。
また、ポリエステル樹脂(A)に含まれるテレフタル酸成分は、PET(ポリエチレンテレフタレート)由来のテレフタル酸成分であってもよい。
【0043】
具体的には、ポリエステル樹脂(A)は、例えば以下のようにして製造することができる。例えば、エチレングリコールを含むアルコール成分と、テレフタル酸を含むカルボン酸成分とを、不活性ガス(窒素ガス等)雰囲気中で、反応温度が好ましくは150~280℃、より好ましくは160~250℃、更に好ましくは170~235℃で重縮合反応させる。
この反応の際にバリウム元素含有化合物を加えることにより、バリウム元素を含むポリエステル樹脂(A)を得ることができる。バリウム元素含有化合物としては、チタン酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸水素バリウム、塩化バリウム、硫酸バリウム、酸化バリウム、リン酸バリウム、水酸化バリウム、水素化バリウム、酢酸バリウム、バリウムの脂肪族カルボン酸塩、バリウムの芳香族カルボン酸塩等が挙げられる。
必要により、この反応の際にカルシウム元素含有化合物を加えることにより、カルシウム元素を含むポリエステル樹脂(A)を得ることができる。カルシウム含有化合物としては、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、酸化カルシウム、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、水素化カルシウム、酢酸カルシウム、カルシウムの脂肪族カルボン酸塩、カルシウムの芳香族カルボン酸塩等が挙げられる。
必要により、この反応の際にリン含有化合物を加えることにより、リンを含むポリエステル樹脂(A)を得ることができる。リン含有化合物としては、リンを含んでいれば特に制限されないが、例えば、リン酸、リン酸塩、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、テトラアルキル(C12-15)-4,4‘-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ジフェニル(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリイソデシルホスファイト、及びトリフェニルホスファイト等が挙げられる。
【0044】
また、反応時間は、重縮合反応を確実に行う観点から、好ましくは30分以上、より好ましくは2~40時間である。反応末期の反応速度を向上させるために減圧することも有効である。
ポリエステル樹脂(A)は、好ましくはバリウム元素を含む状態で重縮合させることでトナーの耐久性を向上させるとともに、広い定着幅をもたせることができる。これは、バリウム元素を含むことでポリエステル化反応中に副生物として生成する環状ポリエステル化合物が低減され、結果としてトナー中の環状ポリエステル化合物が低減されるためと推定される。
また、カルシウム元素を含む状態で合成したポリエステル樹脂を使用することでトナー中の環状ポリエステル化合物が低減される。トナー中の環状ポリエステル化合物が低減されると、トナーの耐久性を向上させることができる。
また、ポリエステル樹脂(A)は、好ましくは更にカルシウム元素を含む状態で重縮合させることでトナーの耐久性をより向上させるとともに、より広い定着幅をもたせることができる。これは、カルシウム元素を含むことでポリエステル化反応中に副生物として生成する環状ポリエステル化合物がより低減され、結果としてトナー中の環状ポリエステル化合物がより低減されるためと推定される。
また、リンを含む状態で合成したポリエステル樹脂を使用することで熱分解生成物が低減され、トナー帯電維持率を向上させることができるため好ましい。
【0045】
また、この反応の際に、エチレングリコール以外のポリオール成分、テレフタル酸以外の(ポリ)カルボン酸成分を加えてもよい。
また、上述したように、テレフタル酸に代えて、又はテレフタル酸と共に、PETを混合してもよい。
【0046】
このとき必要に応じてエステル化触媒を使用することができる。
エステル化触媒の例には、スズ含有触媒(例えばジブチルスズオキシド等)、三酸化アンチモン、チタン含有触媒[例えばチタンアルコキシド(テトラブトキシチタネート等)、シュウ酸チタン酸カリウム、テレフタル酸チタン、テレフタル酸チタンアルコキシド、特開2006-243715号公報に記載の触媒{チタニウムジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)、チタニウムモノヒドロキシトリス(トリエタノールアミネート)、チタニルビス(トリエタノールアミネート)及びそれらの分子内重縮合物等}及び特開2007-11307号公報に記載の触媒(チタントリブトキシテレフタレート、チタントリイソプロポキシテレフタレート及びチタンジイソプロポキシジテレフタレート等)等]、ジルコニウム含有触媒(例えば酢酸ジルコニル等)及び酢酸亜鉛等が挙げられる。これらの中で好ましくはチタン含有触媒である。
【0047】
また、ポリエステルの重合を安定的に進める目的で、安定剤を添加してもよい。安定剤としては、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン及びヒンダードフェノール化合物等が挙げられる。
【0048】
本発明のトナーバインダーは、ポリエステル樹脂(A)の他に、ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)、ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂及び等の樹脂を含んでいてもよく、これらの樹脂は非晶性樹脂でも結晶性樹脂でもよい。
【0049】
本発明のトナーバインダーがポリエステル樹脂(A)以外の樹脂を含む場合、トナーバインダーの重量を基準(100重量%)として、ポリエステル樹脂(A)の重量割合がトナーの定着幅の観点から、好ましくは20重量%以上であり、更に好ましくは60重量%以上である。
また、トナーバインダーの重量を基準(100重量%)として、ポリエステル樹脂(A)以外の樹脂の重量割合がトナーの定着幅の観点から、好ましくは80重量%以下であり、更に好ましくは40重量%以下である。
【0050】
本発明のトナーバインダーは、ポリエステル樹脂(A)を1種類又は複数種類含んでいてもよく、ポリエステル樹脂(A)以外の樹脂を1種類又は複数種類含んでいてもよい。
【0051】
本発明のトナーバインダーは、蛍光X線による測定において、トナーの耐久性と定着幅の両立の観点から、バリウム元素を10~1500ppmの範囲で、好ましくは30~500ppmの範囲で、更に好ましくは50~200ppmの範囲で含む。
トナーバインダーに含まれるバリウム元素の、蛍光X線による定量は、上述の方法で行うことができる。
トナーバインダーに含まれるバリウム元素の含有量が10ppm未満であると、トナーの耐久性向上の効果が不十分であり、1500ppmを超えると、定着幅が悪化する。
本発明のトナーバインダーは、蛍光X線による測定において、トナーの耐久性と定着幅の両立の観点から、好ましくはカルシウム元素を20~3000ppmの範囲で含む。
トナーバインダーに含まれるカルシウム元素の、蛍光X線による定量は、上述の方法で行うことができる。
本発明のトナーバインダーは、蛍光X線による測定において、帯電性(帯電維持率)の観点から、好ましくはリン元素を2~500ppmの範囲で含む。
トナーバインダーに含まれるリン元素の、蛍光X線による定量は、上述の方法で行うことができる。
【0052】
本発明のトナーは、本発明のトナーバインダーを含む。
トナーは、本発明のトナーバインダー以外に、必要により、着色剤、離型剤、荷電制御剤及び流動化剤等から選ばれる1種以上の公知の添加剤を含有してもよい。
【0053】
着色剤としては、トナー用着色剤として使用されている染料及び顔料等のすべてを使用することができる。例えば、カーボンブラック、鉄黒、スーダンブラックSM、ファーストイエローG、ベンジジンイエロー、ピグメントイエロー、インドファーストオレンジ、イルガシンレッド、パラニトロアニリンレッド、トルイジンレッド、カーミンFB、ピグメントオレンジR、レーキレッド2G、ローダミンFB、ローダミンBレーキ、メチルバイオレットBレーキ、フタロシアニンブルー、ピグメントブルー、ブリリアントグリーン、フタロシアニングリーン、オイルイエローGG、カヤセットYG、オラゾールブラウンB及びオイルピンクOP等が挙げられる。着色剤は、これらのいずれか単独であってもよく、2種以上が混合されたものであってもよい。また、必要により磁性粉(鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性金属の粉末若しくはマグネタイト、ヘマタイト、フェライト等の化合物)を着色剤としての機能を兼ねて含有させることができる。
着色剤の含有量は、本発明のトナーバインダー100重量部に対して、好ましくは1~40重量部、より好ましくは3~10重量部である。なお、磁性粉を用いる場合は、トナーバインダー100重量部に対して、好ましくは20~150重量部、より好ましくは40~120重量部である。
【0054】
離型剤としては、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレンポリエチレン共重合体、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物、カルナバワックス、モンタンワックス、サゾールワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステルワックス、脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0055】
ポリオレフィンワックスとしては、オレフィン(例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセン、1-ドデセン、1-オクタデセン及びこれらの混合物等)の(共)重合体[(共)重合により得られるもの及び熱減成型ポリオレフィンを含む]、オレフィンの(共)重合体の酸素及び/又はオゾンによる酸化物、オレフィンの(共)重合体のマレイン酸変性物[例えばマレイン酸及びその誘導体(無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル及びマレイン酸ジメチル等)変性物]、オレフィンと不飽和カルボン酸[(メタ)アクリル酸、イタコン酸及び無水マレイン酸等]及び/又は不飽和カルボン酸アルキルエステル[(メタ)アクリル酸アルキル(アルキルの炭素数1~18)エステル及びマレイン酸アルキル(アルキルの炭素数1~18)エステル等]等との共重合体及びサゾールワックス等が挙げられる。
【0056】
高級アルコールとしては、炭素数30~50の脂肪族アルコールなどであり、例えばトリアコンタノールが挙げられる。脂肪酸としては、炭素数30~50の脂肪酸などであり、例えばトリアコンタンカルボン酸が挙げられる。
【0057】
荷電制御剤としては、ニグロシン染料、3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン染料、4級アンモニウム塩、ポリアミン樹脂、イミダゾール誘導体、4級アンモニウム塩基含有ポリマー、含金属アゾ染料、銅フタロシアニン染料、サリチル酸金属塩、ベンジル酸のホウ素錯体、スルホン酸基含有ポリマー、含フッ素ポリマー及びハロゲン置換芳香環含有ポリマー等が挙げられる。
荷電制御剤の具体例としては、例えばT-77(保土谷化学工業株式会社製のアゾ系鉄錯体)等が挙げられる。
【0058】
流動化剤としては、コロイダルシリカ、アルミナ粉末、酸化チタン粉末等が挙げられる。
【0059】
トナー中のトナーバインダーの含有量はトナー重量に基づき、好ましくは30~97重量%、より好ましくは40~95重量%、更に好ましくは45~92重量%である。
着色剤の含有量はトナー重量に基づき、好ましくは0.05~60重量%、より好ましくは0.1~55重量%、更に好ましくは0.5~50重量%である。
離型剤の含有量はトナー重量に基づき、好ましくは0~30重量%、より好ましくは0.5~20重量%、更に好ましくは1~10重量%である。
荷電制御剤の含有量はトナー重量に基づき、好ましくは0~20重量%、より好ましくは0.1~10重量%、更に好ましくは0.5~7.5重量%である。
流動化剤の含有量はトナー重量に基づき、好ましくは0~10重量%、より好ましくは0~5重量%、更に好ましくは0.1~4重量%である。
また、添加剤の含有量の合計量はトナー重量に基づき、好ましくは3~70重量%、より好ましくは5~60重量%、更に好ましくは8~55重量%である。
トナーの組成比を上記の範囲とすることで、低温定着性、耐ホットオフセット性、帯電性(帯電維持率)、印刷品質の耐久性、トナーの耐久性が良好なトナーを容易に得ることができる。
【0060】
トナーは、蛍光X線による測定において、バリウム元素を10~1500ppmの範囲で含むことが好ましい。
トナーがバリウム元素を10~1500ppmの範囲で含むと、耐久性及び定着幅に優れるトナーとすることができる。
トナーは、蛍光X線による測定において、カルシウム元素を20~3000ppmの範囲で含むことが好ましい。
トナーがカルシウム元素を20~3000ppmの範囲で含むと、耐久性及び定着幅に優れるトナーとすることができる。
トナーに含まれるカルシウム元素の、蛍光X線による定量は、上述の方法で行うことができる。
トナーは、蛍光X線による測定において、リン元素を2~500ppmの範囲で含むことが好ましい。
トナーがリン元素を2~500ppmの範囲で含むと、帯電性に優れるトナーとすることができる。
トナーに含まれるリン元素の、蛍光X線による定量は、上述の方法で行うことができる。
【0061】
トナーは、公知の混練粉砕法、乳化転相法及び重合法等のいずれの方法により得られたものであってもよい。
例えば、混練粉砕法によりトナーを得る場合、流動化剤を除くトナーを構成する成分を乾式ブレンドした後、溶融混練し、その後粗粉砕し、最終的にジェットミル粉砕機等を用いて微粒化して、更に分級することにより、体積平均粒径(D50)が好ましくは5~20μmの微粒とした後、流動化剤を混合して製造することができる。
なお、体積平均粒径(D50)はコールターカウンター{例えば、商品名:マルチサイザーIII[ベックマン・コールター(株)製]}を用いて測定される。
【0062】
また、乳化転相法によりトナーを得る場合、流動化剤を除くトナーを構成する成分を有機溶剤に溶解又は分散後、水を添加する等によりエマルジョン化し、必要に応じて凝集等を経て、次いで分離、分級して製造することができる。トナーの体積平均粒径は、3~15μmが好ましい。
【0063】
トナーは、必要に応じて鉄粉、ガラスビーズ、ニッケル粉、フェライト、マグネタイト及び樹脂(アクリル樹脂、シリコーン樹脂等)により表面をコーティングしたフェライト等のキャリア粒子と混合されて電気的潜像の現像剤として用いられる。キャリア粒子を用いる場合、トナーとキャリア粒子との重量比は、1/99~99/1が好ましい。また、キャリア粒子の代わりに帯電ブレード等の部材と摩擦し、電気的潜像を形成することもできる。
なお、トナーは、キャリア粒子を含まなくてもよい。
【0064】
トナーは、複写機、プリンター等により支持体(紙、ポリエステルフィルム等)に定着して記録材料とされる。支持体に定着する方法としては、公知の熱ロール定着方法及びフラッシュ定着方法等が適用できる。
【0065】
トナー及び本発明のトナーバインダーは電子写真法、静電記録法や静電印刷法等において、静電荷像又は磁気潜像の現像に用いられる。更に詳しくは、特にフルカラー用に好適な静電荷像又は磁気潜像の現像に用いられる。
【0066】
本明細書には以下の事項が開示されている。
【0067】
本開示(1)は、アルコール成分とカルボン酸成分を重縮合させて得られるポリエステル樹脂を含むトナーバインダーであって、前記ポリエステル樹脂は、前記アルコール成分がエチレングリコールを含み、前記カルボン酸成分がテレフタル酸を含むポリエステル樹脂(A)であり、蛍光X線による測定において、バリウム元素を10~1500ppmの範囲で含むことを特徴とするトナーバインダーである。
【0068】
本開示(2)は、 蛍光X線による測定において、カルシウム元素を20~3000ppmの範囲で含む本開示(1)に記載のトナーバインダーである。
【0069】
本開示(3)は、蛍光X線による測定において、リン元素を2~500ppmの範囲で含む本開示(1)又は(2)に記載のトナーバインダーである。
【0070】
本開示(4)は、前記ポリエステル樹脂のアルコール成分が更にビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含む本開示(1)~(3)のいずれか1項に記載のトナーバインダーである。
【0071】
本開示(5)は、本開示(1)~(4)のいずれか1項に記載のトナーバインダーを含むトナーである。
【実施例0072】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
<実施例1>トナーバインダー(TB1)の合成
反応槽中に、エチレングリコール73重量部、トリメチロールプロパン15重量部、ビスフェノールA・PO2モル付加物204重量部、ビスフェノールA・PO3モル付加物365重量部、テレフタル酸435重量部、添加剤としてチタン酸バリウム0.213重量部、及び縮合触媒としてテトラブトキシチタネート1重量部を入れ、220℃で窒素気流下に、生成する水、エチレングリコールを留去しながら5時間反応させ、次いで0.5~2.5kPaの減圧下で反応させ、酸価が2mgKOH/g以下になった時点で175℃まで冷却し取り出した。留去で回収した留出物は、水94重量部、エチレングリコール11重量部であった。得られた樹脂を室温まで冷却後、粉砕し粒子化しポリエステル樹脂(A1)を含むトナーバインダー(TB1)を得た。
トナーバインダー(TB1)のTgは61℃、重量平均分子量は40000であった。トナーバインダー(TB1)の物性を表1に示す。なお、表1中、N.D.とは、検出されなかったことを示す。
【0074】
<実施例2~4>トナーバインダー(TB2)~(TB4)の合成
添加剤を表1に記載した組成・重量部に変更した以外は、実施例1のトナーバインダー(TB1)の製造方法と同様にして、ポリエステル樹脂(A2)~(A4)を含むトナーバインダー(TB2)~(TB4)を製造した。
各トナーバインダーの物性を表1に示す。
【0075】
<実施例5>トナーバインダー(TB5)の合成
反応槽中に、PETフレーク(市販のPETボトルを1cm角にカットしたもの)731重量部、プロピレングリコール578重量部、添加剤としてチタン酸バリウム0.017重量部、炭酸カルシウム7.500重量部、リン酸0.063重量部、及び触媒としてテトラブトキシチタネート1重量部を入れ、220℃密閉化で5時間反応させ、均一粘調液を得た。続いて、ここにグリセリン16重量部、ビスフェノールA・PO2モル付加物103重量部、ビスフェノールA・PO3モル付加物170重量部を入れ、220℃で窒素気流下に、エチレングリコール及びプロピレングリコールを留去しながら5時間反応させ、次いで0.5~2.5kPaの減圧下で反応させ、酸価が2mgKOH/g以下になった時点で175℃まで冷却し取り出した。留去で回収した留出物は、エチレングリコール164重量部、プロピレングリコール434重量部であった。得られた樹脂を室温まで冷却後、粉砕し粒子化しポリエステル樹脂(A5)を含むトナーバインダー(TB5)を得た。
トナーバインダー(TB5)の物性を表1に示す。
【0076】
<実施例6>トナーバインダー(TB6)の合成
反応槽中に、PETフレーク(市販のPETボトルを1cm角にカットしたもの)492重量部、エチレングリコール318重量部、添加剤としてチタン酸バリウム0.213重量部、炭酸カルシウム0.563重量部、リン酸0.063重量部、及び触媒としてテトラブトキシチタネート1重量部を入れ、220℃密閉化で5時間反応させ、均一粘調液を得た。続いて、ここにトリメチロールプロパン16重量部、ビスフェノールA・PO2モル付加物239重量部、ビスフェノールA・PO3モル付加物334重量部、コハク酸7重量部を入れ、220℃で窒素気流下に、生成する水及びエチレングリコールを留去しながら5時間反応させ、次いで0.5~2.5kPaの減圧下で反応させ、酸価が2mgKOH/g以下になった時点で175℃まで冷却し取り出した。留去で回収した留出物は、水2重量部、エチレングリコール406重量部であった。得られた樹脂を室温まで冷却後、粉砕し粒子化しポリエステル樹脂(A6)を含むトナーバインダー(TB6)を得た。
トナーバインダー(TB6)の物性を表1に示す。
【0077】
<実施例7>トナーバインダー(TB7)の合成
反応槽中に、PETフレーク(市販のPETボトルを1cm角にカットしたもの)407重量部、プロピレングリコール113重量部、ネオペンチルグリコール123重量部、トリメチロールプロパン16重量部、イソフタル酸433重量部、添加剤としてチタン酸バリウム2.501重量部、炭酸カルシウム0.050重量部、リン酸1.531重量部、及び触媒としてテトラブトキシチタネート1重量部を入れ、200℃で窒素気流下に、生成する水、プロピレングリコール及びエチレングリコールを留去しながら15時間反応させ、次いで2.5~5.0kPaの減圧下で反応させ、酸価が2mgKOH/g以下になった時点で175℃まで冷却し取り出した。留去で回収した留出物は、水94重量部、プロピレングリコール7重量部、エチレングリコール6重量部であった。得られた樹脂を室温まで冷却後、粉砕し粒子化しポリエステル樹脂(A7)を含むトナーバインダー(TB7)を得た。
トナーバインダー(TB7)の物性を表1に示す。
【0078】
<比較例1、2>トナーバインダー(RTB1)~(RTB2)の合成
添加剤を加えなかった以外は、実施例1のトナーバインダー(TB1)の製造方法と同様にして、ポリエステル樹脂(RA1)~(RA2)を含むトナーバインダー(RTB1)~(RTB2)を得た。
トナーバインダー(RTB1)~(RTB2)の物性を表1に示す。
【0079】
<比較例3>
添加剤を表1に記載した組成・重量部に変更した以外は、実施例1のトナーバインダー(TB1)の製造方法と同様にして、ポリエステル樹脂(RA3)を含むトナーバインダー(RTB3)を得た。
トナーバインダー(RTB3)の物性を表1に示す。
【0080】
【0081】
<実施例8>
下記の方法で本発明のトナー(TC1)を得た。
【0082】
ヘンシェルミキサー[三井三池化工機(株)製 FM10B]を用いて、トナーバインダー(TB1)と、着色剤、離型剤及び荷電制御剤とを予備混合した後、二軸混練機[(株)池貝製 PCM-30]で混練した。次いで超音速ジェット粉砕機ラボジェット[日本ニューマチック工業(株)製]を用いて微粉砕した後、気流分級機[日本ニューマチック工業(株)製 MDS-I]で分級し、粒径D50が7μmのトナー粒子を得た。
ついで、トナー粒子100重量部にコロイダルシリカ[アエロジルR972:日本アエロジル(株)製]0.5重量部をサンプルミルにて混合して本発明のトナー(TC1)を得た。トナー(TC1)の物性及び評価結果を表2に示す。なお、表2中、N.D.とは、検出されなかったことを示す。
【0083】
なお、表2中の着色剤、離型剤、荷電制御剤は以下の通りである。
着色剤:カーボンブラックMA-100[三菱化学(株)製]
離型剤:カルナバワックス[東洋アドレ(株)製]
荷電制御剤:T-77[保土谷化学(製)]
【0084】
[評価方法]
〔1〕低温定着性
上記のトナーを用いて、市販複写機[AR5030;シャープ(株)製]を用いて現像した未定着画像を、市販複写機[AR5030;シャープ(株)製]の定着機を用いて評価した。定着画像をパットで擦った後の、マクベス反射濃度計RD-191[マクベス(株)製]を用いて測定した画像濃度の残存率が75%以上となる定着ロール温度を最低定着温度(MFT)(℃)とした。MFTが低いほど、低温定着性に優れることを意味する。
表2にはMFTを低温定着性(℃)として示した。
【0085】
〔2〕耐ホットオフセット性
上記の低温定着性評価方法と同様にして、定着画像へのホットオフセットの有無を目視評価した。ホットオフセットが発生した定着ロール温度をホットオフセット発生温度(HOT)(℃)とした。HOTが高いほど、耐ホットオフセット性に優れることを意味する。
表2にはHOTを耐ホットオフセット性(℃)として示した。
【0086】
〔3〕定着幅
HOTからMFTを差し引いたものを定着幅(℃)として表2に示した。定着幅が大きいほど、低温定着性と耐ホットオフセット性のバランスがよいことを意味する。
【0087】
〔4〕帯電性(帯電維持率)
(1)トナー1gとアエロジルR8200(エボニックジャパン(株)製)0.01gをシェイカーで1時間混合した。本混合物0.5gとフェライトキャリア(パウダーテック社製、F-150)20gとを50mLのガラス瓶に入れ、これを25℃、相対湿度50%で8時間調湿した(低温低湿条件と呼ぶ)。
(2)ターブラーシェーカーミキサーにて50rpmで10分間及び60分間摩擦攪拌し、それぞれの時間での帯電量をブローオフ帯電量測定装置[京セラケミカル(株)製]を用いて測定した。
得られた値を用いて「摩擦時間60分後の帯電量/摩擦時間10分後の帯電量」を計算し、これを帯電安定性指数とした。
本帯電安定性指数が大きいほど帯電維持率に優れることを意味する。この評価条件では0.8以上であると好ましい。
表2には帯電安定性指数を帯電維持率として示した。
【0088】
〔5〕耐久性
市販複写機[MX-M754FN、シャープ(株)製]を用いて、中身のトナーを取り出し、キャリアとトナーを分離し、エアブローでカートリッジ内部を洗浄したのち、作製したトナーとキャリアを混合し、これを40℃、相対湿度50%で14日間調湿した。これによってより厳しい条件での耐久性を評価することができる。これを二成分現像剤として、75枚/分の印刷速度で連続コピーを行い、2千枚、6千枚、1万枚の各印刷状態の確認、及びトナーの一部を抜き取って粒径測定を行い、以下の基準で耐久性を評価した。
体積平均粒径(D50)はコールターカウンター{商品名:マルチサイザーIII[ベックマン・コールター(株)製]}を用いて測定した。結果を表2に示した。
[判定基準]
<印刷品質>
◎:1万枚コピー後も画質に変化なく、カブリの発生もない。
○:1万枚コピー後でカブリが発生している。
△:6千枚コピー後でカブリが発生している。
×:2千枚コピー後でカブリが発生している。
<トナーの状態>
◎:粒径D50の変化が3%未満で、2μm以下の微粉は確認されない。
○:粒径D50の変化が3以上4%未満で、2μm以下の微粉は確認されない。
△:粒径D50の変化が4以上5%以下で、2μm以下の微粉は確認されない。
×:粒径D50の変化が5%を超えている、又は2μm以下の微粉の発生がある。
この評価条件では印刷品質とトナーの状態がいずれも〇又は◎の範囲であることが好ましい。
【0089】
<実施例9~16、比較例4~6>
実施例8と同様に、表2に示す配合比に従って配合し、トナー(TC2)~(TC9)、及び(RTC1)~(RTC3)を得た。トナー(TC2)~(TC9)、及び(RTC1)~(RTC3)の物性及び評価結果を表2に示す。
【0090】
【0091】
実施例のトナーバインダーを含むトナーは、いずれも耐久性、帯電性及び定着幅に優れていた。また、トナーバインダー中のリン元素含有量が2~500ppmの範囲内である実施例のトナーは、より帯電性に優れていた。
一方で、比較例のトナーバインダーを含むトナーは、少なくとも耐久性及び定着幅が劣っていた。
本発明のトナーバインダーを含むトナーは、耐久性、帯電性に優れ、広い定着幅を有するため、電子写真、静電記録や静電印刷等に用いる、静電荷像現像用トナーとして好適に使用できる。