(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099042
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】トロイダル型無段変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 15/38 20060101AFI20250626BHJP
【FI】
F16H15/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215387
(22)【出願日】2023-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】西村 健
(72)【発明者】
【氏名】大田黒 智也
【テーマコード(参考)】
3J051
【Fターム(参考)】
3J051AA03
3J051BA03
3J051BD02
3J051BE09
3J051EC01
3J051EC02
3J051FA01
(57)【要約】
【課題】ディスクの変形による、ディスクとシャフトとの係合部の摩耗を抑制できるトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】入力軸1と、この入力軸1にそれぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的にかつ入力軸1と一体的に回転可能に設けられた入力側ディスク2および入力軸1に対して回転可能に設けられた出力側ディスク3と、これら両ディスクの間に挟持されるパワーローラ11とを備え、入力側ディスク2の小端面2eに、入力軸1の軸方向に延びる延出部40が設けられ、入力軸1に延出部40が係合している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と、この軸にそれぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的にかつ前記軸と一体的に回転可能に設けられた第1ディスクおよび前記軸に対して回転可能に設けられた第2ディスクと、これら両ディスクの間に挟持されるパワーローラと、を備えたトロイダル型無段変速機において、
前記第1ディスクの小端面に、前記軸の軸方向に延びる延出部が設けられ、
前記軸に前記延出部が係合していることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記延出部は前記軸に螺合によって係合され、
前記螺合のねじの螺旋の向きは、トロイダル型無段変速機の運転時に前記軸が一方向に回転する際に作用するトルクにより締まる側に向いていることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
前記ねじの締付けトルクは、トロイダル型無段変速機の運転時に前記軸が一方向に回転している際に、ねじ締付と逆方向の向きにトルクが作用した場合の前記トルクより大きいことを特徴とする請求項2に記載のトロイダル型無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、航空機の発電機または各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、
図4および
図5に示すように構成されている。
図4に示すように、ケーシング50の内側には入力軸1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車(伝達歯車)4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部(スリーブ)4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
入力軸1は、
図4中左側に位置する入力側ディスク2とカム板(ローディングカム)7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0003】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、
図4中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、
図4中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1とともに回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面;トラクション面とも言う)2a,2aと出力ディスク3,3の内側面(凹面;トラクション面とも言う)3a,3aとの間には、パワーローラ11(
図5参照)が回転自在に挟持されている。
【0004】
図4中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(
図4の右面)は、入力軸1の外周面に形成されたネジ部に螺合されたローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力(予圧)を付与する。
【0005】
図5は、
図4のA-A線に沿う断面図である。
図5に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、
図5においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、支持板部16の長手方向(
図5上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0006】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部23bの周囲には、各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0007】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(
図5の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(
図5の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は円筒面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ56によって揺動自在に支持されている。
【0008】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(
図5で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0009】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受(スラスト軸受)24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0010】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0011】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(
図5の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ56と下側シリンダボディ57とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0012】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、さらにこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0013】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、
図5の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。
その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0014】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2018-84282号公報
【特許文献2】特開2006-308034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、
図6に示すようにトロイダル型無段変速機の反カム側(ローディングカム式の押圧装置が設けられていない側)は、パワーローラ11からの荷重が作用するディスク(入力側ディスク)2と当該ディスク2を支持するシャフト(入力軸)1で主に構成されている。パワーローラ11からの荷重によりディスク2は1回転につき、パワーローラ11の個数だけ変形する。ディスク2は変形量が大きくかつ高振動数で変形することからディスク2とシャフト1との係合部、特に、ディスク2とシャフト1が軸方向で互いに当接している当接面2s,1sにすべりが発生し、摩耗(フレッチング摩耗)が生じる懸念がある。
特許文献1および特許文献2に記載されている従来のトロイダル型無段変速機でも、ディスクとシャフトとの当接面はディスクの半径方向内側にあり、ディスクの変形による影響を受けやすく、摩耗(フレッチング摩耗)が生じる懸念がある。
【0017】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、ディスクの変形による、ディスクとシャフトとの係合部の摩耗を抑制できるトロイダル型無段変速機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するために、本発明のトロイダル型無段変速機は、軸と、この軸にそれぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的にかつ前記軸と一体的に回転可能に設けられた第1ディスクおよび前記軸に対して回転可能に設けられた第2ディスクと、これら両ディスクの間に挟持されるパワーローラと、を備えたトロイダル型無段変速機において、
前記第1ディスクの小端面に、前記軸の軸方向に延びる延出部が設けられ、
前記軸に前記延出部が係合していることを特徴とする。
【0019】
トロイダル型無段変速機の運転時に第1ディスクがパワーローラから作用する荷重によって変形する場合、第1ディスクの内側面(トラクション面)から軸方向に離れる部位ほど前記変形の影響を受け難い。つまり、第1ディスクの小端面側の部位ほど前記変形の影響を受け難い。
そこで、本発明においては、第1ディスクの小端面に、軸の軸方向に延びる延出部が設けられ、この延出部が軸に係合している。したがって、この係合している部位は、第1ディスクの小端面から離れることで、第1ディスクのトラクション面から軸方向に離れているので、ディスクの変形による、ディスクとシャフトとの係合部の摩耗を抑制できる。
【0020】
また、本発明の前記構成において、前記延出部は前記軸に螺合によって係合され、
前記螺合のねじの螺旋の向きは、トロイダル型無段変速機の運転時に前記軸が一方向に回転する際に作用するトルクにより締まる側に向いていてもよい。
【0021】
例えば航空機向け発電機用のトロイダル型無段変速機の運転時は、基本的に軸が一方向に回転し、当該軸に一定方向のトルクが作用する。そのため、前記構成のように、延出部が軸に螺合によって係合されている場合に、螺合のねじの螺旋の向きが、トロイダル型無段変速機の運転時に軸が一方向に回転する際に作用するトルクにより締まる側に向いているので、運転時のトルク作用時のねじの緩みは発生しない。
【0022】
また、本発明の前記構成において、前記ねじの締付けトルクは、トロイダル型無段変速機の運転時に前記軸が一方向に回転している際に、ねじ締付と逆方向の向きにトルクが作用した場合の前記トルクより大きくてもよい。
【0023】
このような構成によれば、ねじの締め付けトルクが、ねじ締付と逆方向の向きにトルクが作用した場合の前記トルクより大きいので、運転時に意図しないトルクが作用してもねじが緩まない。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ディスクの変形による、ディスクとシャフトとの係合部の摩耗を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るトロイダル型無段変速機を示すもので、全体の概略を示す断面図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係るトロイダル型無段変速機を示すもので、要部の断面図である。
【
図4】従来のトロイダル型無段変速機の一例を示す断面図である。
【
図6】従来のトロイダル型無段変速機の一例を示すもので、要部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るトロイダル型無段変速機を示す半平断面図、
図2は要部の半平断面図である。
本実施形態のトロイダル型無段変速機は、いわゆるダブルキャビティ型のハーフトロイダル型無段変速機であり、2つの入力側ディスク(第1ディスク)2,2と2つの出力側ディスク(第2ディスク)3,3とが、入力軸(軸)1の外周に取り付けられて構成されている。
また、出力側ディスク3,3の背面には、円筒状の出力歯車4,4が出力側ディスク3,3と同軸かつ一体的に設けられている。
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。
【0027】
また、一方(
図1において右方)の入力側ディスク2は、入力軸1と共に回転するように、その入力軸1の一端部にボールスプライン6を介して支持されている。したがって、一方の入力側ディスク2は入力軸1の軸方向(
図1において左方)に移動可能となっている。
他方(
図1において左方)の入力側ディスク2は入力軸1の他端部に外嵌され、入力軸1と共に回転するようになっている。また、他方の入力側ディスク2は、入力軸1に後述する延出部40が係合することによって、入力軸1の軸方向外方(
図1において左方)への移動が規制されている。
また、入力側ディスク2,2の内面(凹面)2a,2aと出力側ディスク3,3の内面(凹面)3a,3aとの間には、パワーローラ11が回転自在に挟持されている。
【0028】
また、入力軸1は、
図1中右側に位置する入力側ディスク2の背面側(
図1において右側)に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、図示しない駆動軸により回転駆動されるようになっている。
押圧装置12は、図示しない駆動軸とともに回転するカム板20と、複数個のカムローラ(ころ)22とを備えている。カム板20の片側面(
図1の左側面)には、円周方向に亙る凹凸(波状部)であるカム面が形成され、入力側ディスク2の外側面(
図1の右側面)にも、同様の形状を有するカム面が形成されている。
【0029】
このような押圧装置12では、入力側ディスク2およびカム板20の回転トルクが増加すると、カム作用によって入力側ディスク2がカム板20から離れる向きに押圧される。
そして、入力軸1に回転力が入力されると、入力軸1と一体で入力側ディスク2,2が回転し、その回転がパワーローラ11,11によって出力側ディスク3,3に一定の変速比で伝達される。また、出力側ディスク3,3の回転は、出力歯車4から図示しない伝達歯車などを介して、図示しない出力軸に伝達される。
【0030】
また、入力軸1の一端部側には(
図1において右端部側)には、スラスト軸受31が設けられている。このスラスト軸受31は、入力軸1の外周部に形成された内輪31aと、カム板20の内周部に形成された外輪31bと、内輪31aと外輪31bとの間に介在する転動体31cとを有している。また、カム板20と入力側ディスク2との間には、入力側ディスク2に予圧を付与する皿ばね28が設けられ、この皿ばね28の付勢力によって入力側ディスク2がパワーローラ11に押し付けられている。
【0031】
また、本実施形態では、
図1および
図2に示すように、反カム側(ローディングカム式の押圧装置12が設けられていない側)にある入力側ディスク(第1ディスク)2の小端面2eに、入力軸1の軸方向に延びる延出部40が入力側ディスク2と一体的に設けられている。
【0032】
延出部40は円筒状に形成されており、当該延出部40は入力軸1に係合している。
すなわちまず、入力軸1の端部(
図1および
図2において左端部)には、切欠溝1eが周方向に延在して形成されている。この切欠溝1eは入力軸1の軸線Oと直交する当接面1fを有している。当接面1fは軸線Oを中心とする円環面状に形成されている。
また、延出部40は軸線Oを中心(軸)とする円筒状に形成された延出部本体40aと、この延出部本体40aの先端部(
図1および
図2において右端部)に、延出部本体40aと同軸かつ一体的に形成された円板状の内フランジ部40bとを有している。この内フランジ部40bは延出部本体40aの端部に内側に円環状に突出するようにして形成されている。
そして、延出部本体40aは、入力軸1の外周面に外嵌され、内フランジ部40bは切欠溝1eに挿入され、かつ当接面1fに当接している。これによって、延出部40は入力軸1に係合している。
【0033】
トロイダル型無段変速機では、
図6に示すように、運転時にパワーローラ11からの荷重により入力側ディスク2が高振動数で変形することから入力側ディスク2と入力軸1との係合部、特に当接面1s,2sにすべりが発生し、摩耗(フレッチング摩耗)が生じる懸念がある。従来のトロイダル型無段変速機では、入力側ディスク2と入力軸1との当接面1s,2sは入力側ディスク2の半径方向内側にあり、入力側ディスク2の変形による影響を受けやすく、摩耗(フレッチング摩耗)が生じる懸念がある。
【0034】
これに対し、本実施形態のトロイダル型無段変速機では、
図2に示すように、入力側ディスク2の小端面2eに、入力軸1の軸方向に延びる延出部40が設けられ、この延出部40が入力軸1に、延出部40の内フランジ部40bが入力軸1の当接面1fに当接するようにして、係合している。
したがって、この当接している部位(当接面1fと内フランジ部40bとが当接している部位)は、入力側ディスク2の小端面2eから離れることで、入力側ディスク2のトラクション面2aから軸方向に離れているので、入力側ディスク2の変形による影響を受け難くなる。したがって、入力側ディスク2の変形による、入力側ディスク2と入力軸1との係合部(特に、当接面1fに内フランジ部40bが当接している部位)の摩耗を抑制できる。
【0035】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態に係るトロイダル型無段変速機を示す要部の半平断面図である。
本実施形態のトロイダル型無段変速機は、航空機(の発電機)向けのダブルキャビティ型のハーフトロイダル型無段変速機であり、航空機のエンジンからの回転数が変動する回転を一定の回転数となるように変速して発電機に出力する。また、本実施形態では、第1の実施形態における出力歯車4が入力歯車(図示略)となっており、入力歯車には、例えば、エンジンのタービンの回転軸からの回転力が歯車等を介して伝達される。
なお、本実施形態において、押圧装置は第1の実施形態の押圧装置12と同一構成であるので、その図示および説明は省略する。
【0036】
また、本実施形態では、第1の実施形態のトロイダル型無段変速機に対して、入力側ディスクと出力側ディスクとの配置関係が逆となっているととともに、第1の実施形態では入力軸1であったものが、出力軸1Aとなっている。
すなわち、
図3に示すように、出力側ディスク(第1ディスク)3は出力軸1Aの端部に外嵌され、出力軸1Aと共に回転するようになっている。また、出力側ディスク3は、出力軸1Aに後述する延出部41が係合することによって、出力軸1Aの軸方向外方(
図3において左方)への移動が規制されている。
【0037】
反カム側(ローディングカム式の押圧装置が設けられていない側)に位置する出力側ディスク(第1ディスク)3の小端面3eに、出力軸1Aの軸方向に延びる延出部41が出力側ディスク3と一体的に設けられている。
延出部41は円筒状に形成されており、その内周面には雌ねじ41aが形成されている。また、出力軸1Aの端部は、軸方向において出力側ディスク3の小端面3eに届いておらず、当該出力軸1Aの端部は円筒状の小径部1gとなっている。この小径部1gは出力軸1Aの端部(
図3において左端部)を断面矩形状に切り欠くことによって形成されており、小径部1gの基端部(
図3において右端部)には、円環状の当接面1hが形成されている。また、小径部1gの外周面には、前記雌ねじ41aに螺合する雄ねじ41bが形成されている。
そして、延出部41は出力軸1Aに、雌ねじ41aと雄ねじ41bとの螺合によって係合している。また、この係合状態において、延出部41の先端面(
図3において右端面)は出力軸1Aの当接面1hに当接している。
【0038】
また、本実施形態では、雌ねじ41aと雄ねじ41bとの螺合のねじの螺旋の向きは、トロイダル型無段変速機の運転時に出力軸1Aが一方向に回転する際に作用するトルクにより締まる側に向いている。
すなわち、本実施形態のような航空機向け発電機用のトロイダル型無段変速機の運転時は、基本的に出力軸1Aに一定方向のトルクが作用する。そのため、上述したように、延出部41が出力軸1Aに螺合によって係合されている場合に、螺合のねじの螺旋の向きが、トロイダル型無段変速機の運転時に出力軸1Aが一方向に回転する際に作用するトルクにより締まる側に向いている。
【0039】
さらに、本実施形態では、雌ねじ41aと雄ねじ41bとによるねじ螺合の際の締付けトルクは、トロイダル型無段変速機の運転時に出力軸1Aが一方向に回転している際に、ねじ締付と逆方向の向きにトルクが作用した場合の前記トルクより大きくなっている。
例えば、本実施形態のトロイダル型無段変速機を介して、エンジンの回転を発電機に出力する際に、非常停止信号が入力された場合に、発電機が減速され、これによって、出力軸1Aに運転時とねじ締付けと逆向きにトルクが作用する。この場合に、ねじ締付けトルクが、ねじ締付と逆方向の向きにトルクが作用した場合の当該トルクより大きく設定されている。このため、運転時に意図しないトルクが作用してもねじが緩まない。
【0040】
本実施形態によれば、出力側ディスク3の小端面3eに、出力軸1Aの軸方向に延びる延出部41が設けられ、この延出部41が出力軸1Aに、雌ねじ41aと雄ねじ41bとの螺合によって係合している。したがって、係合している部位は、出力側ディスク3の小端面3eから離れることで、出力側ディスク3のトラクション面3aから軸方向に離れているので、出力側ディスク3の変形による影響を受け難くなる。したがって、出力側ディスク3の変形による、出力側ディスク3と出力軸1Aとの係合部の摩耗を抑制できる。
また、延出部41の先端面と出力軸1Aの当接面1hとが当接している部位は、出力側ディスク3のトラクション面3aから軸方向に離れているので、出力側ディスク3の変形による影響を受け難くなる。したがって、出力側ディスク3の変形による、出力側ディスク3と出力軸1Aとの当接部の摩耗を抑制できる。
【0041】
また、延出部41は出力軸1Aに螺合によって係合され、螺合のねじの螺旋の向きは、トロイダル型無段変速機の運転時に出力軸1Aが一方向に回転する際に作用するトルクにより締まる側に向いているので、運転時のトルク作用時のねじ(雌ねじ41aと雄ねじ41b)の緩みは発生しない。
さらに、ねじ(雌ねじ41aと雄ねじ41b)の締付けトルクは、トロイダル型無段変速機の運転時に出力軸1Aが一方向に回転している際に、ねじ締付と逆方向の向きにトルクが作用した場合の当該トルクより大きいので、運転時に意図しないトルクが作用してもねじが緩まない。
【0042】
なお、第1の実施形態では、入力側ディスク2の小端面2eに、入力軸1の軸方向に延びる延出部40を設け、入力軸1に延出部40が係合している場合を例にとって説明したが、本発明では、入力側ディスク2と出力側ディスク3との配置関係を逆にし、第2の実施形態のように、出力側ディスク3の小端面3eに、出力軸1Aの軸方向に延びる延出部40を設け、出力軸1Aに延出部40を係合してもよい。
また、第2の実施形態では、出力側ディスク3の小端面3eに延出部41を設け、出力軸1Aに延出部41を螺合によって係合する場合を例にとって説明したが、本発明では、入力側ディスク2と出力側ディスク3との配置関係を逆にし、第1の実施形態のように、入力側ディスク2の小端面2eに延出部41を設け、入力軸1に延出部41を螺合によって係合してもよい。
【0043】
また、第1および第2の実施形態では本発明を、ダブルキャビティ型のハーフトロイダル型無段変速機に適用する場合を例にとって説明したが、これに限ることなく、本発明はダブルキャビティ型のフルトロイダル型無段変速機にも適用でき、さらに、シングルキャビティ型のハーフトロイダル型無段変速機や、シングルキャビティ型のフルトロイダル型無段変速機にも適用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 入力軸(軸)
1A 出力軸(軸)
2 入力側ディスク
2e 小端面
3 出力側ディスク
3e 小端面
11 パワーローラ
40,41 延出部
41a 雌ねじ
41b 雄ねじ