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特開2025-9918カラム充填剤、液体クロマトグラフィー用カラム及び液体クロマトグラフィー用カラムの製造方法
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  • 特開-カラム充填剤、液体クロマトグラフィー用カラム及び液体クロマトグラフィー用カラムの製造方法 図1
  • 特開-カラム充填剤、液体クロマトグラフィー用カラム及び液体クロマトグラフィー用カラムの製造方法 図2
  • 特開-カラム充填剤、液体クロマトグラフィー用カラム及び液体クロマトグラフィー用カラムの製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009918
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】カラム充填剤、液体クロマトグラフィー用カラム及び液体クロマトグラフィー用カラムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/078 20060101AFI20250109BHJP
   C03C 3/083 20060101ALI20250109BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20250109BHJP
   C03C 3/089 20060101ALI20250109BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20250109BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20250109BHJP
   C03C 3/06 20060101ALI20250109BHJP
   C03B 32/00 20060101ALI20250109BHJP
   C03C 15/00 20060101ALI20250109BHJP
   C03C 17/30 20060101ALI20250109BHJP
   B01J 20/283 20060101ALI20250109BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20250109BHJP
   B01J 20/287 20060101ALI20250109BHJP
   B01D 15/32 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C03C3/078
C03C3/083
C03C3/087
C03C3/089
C03C3/093
C03C3/097
C03C3/06
C03B32/00
C03C15/00 G
C03C17/30 A
B01J20/283
B01J20/281 G
B01J20/287
B01J20/281 X
B01D15/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024097540
(22)【出願日】2024-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2023106209
(32)【優先日】2023-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】冨永 卓海
(72)【発明者】
【氏名】相徳 孝志
(72)【発明者】
【氏名】辻口 雅人
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 克
(72)【発明者】
【氏名】益田 紀彰
【テーマコード(参考)】
4D017
4G015
4G059
4G062
【Fターム(参考)】
4D017AA03
4D017BA03
4D017CA01
4D017CB01
4D017DA03
4D017EA01
4G015EA01
4G059AA16
4G059AA17
4G059AB11
4G059AC30
4G059BB04
4G059FA30
4G062AA12
4G062BB01
4G062CC08
4G062DA07
4G062DA08
4G062DB01
4G062DB02
4G062DB03
4G062DC01
4G062DC02
4G062DC03
4G062DD01
4G062DD02
4G062DD03
4G062DE01
4G062DF01
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4G062EA10
4G062EB01
4G062EB02
4G062EB03
4G062EC01
4G062EC02
4G062EC03
4G062ED01
4G062EE01
4G062EE02
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4G062EF01
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4G062FK01
4G062FL01
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4G062HH01
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4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM21
4G062NN33
4G062NN40
(57)【要約】
【課題】高い機械的強度、良好な細孔特性、及び固体酸性を有し、有機化合物の保持能と分離能に加え、特定の有機化合物に対しては吸着能を有するカラム充填剤、液体クロマトグラフィー用カラム及び液体クロマトグラフィー用カラムの製造方法を提供する。
【解決手段】破壊強度が0.1GPa以上の高い機械的強度、良好な細孔特性、及び固体酸性を有し、有機化合物の保持能と分離能に加え、特定の有機化合物に対しては吸着能を有する多孔質ガラスビーズからなる、カラム充填剤。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
破壊強度が0.1GPa以上であり、かつ略球状の多孔質ガラスビーズからなる、カラム充填剤。
【請求項2】
前記多孔質ガラスビーズが、ガラス組成として、SiO及びZrOを含有する、請求項1に記載のカラム充填剤。
【請求項3】
前記多孔質ガラスビーズが、ガラス組成として、質量%で、SiO 70~95%、ZrO 0超~25%、Al 0~10%、B+NaO+KO+CaO+P+TiO 0~10%を含有する、請求項1又は2に記載のカラム充填剤。
【請求項4】
前記多孔質ガラスビーズが、ガラス組成として、質量%で、ZrO 10~25%を含有する、請求項1又は2に記載のカラム充填剤。
【請求項5】
前記多孔質ガラスビーズの平均粒子径D50が0.1~300μm、細孔径が1~1000nmである、請求項1又は2に記載のカラム充填剤。
【請求項6】
前記多孔質ガラスビーズの比表面積が10~800m/gである、請求項1又は2に記載のカラム充填剤。
【請求項7】
前記多孔質ガラスビーズの細孔分布における半値幅Δdとモード径dの比Δd/dが0.55以下である、請求項1又は2に記載のカラム充填剤。
【請求項8】
前記多孔質ガラスビーズの細孔内面の少なくとも一部が疎水性官能基で修飾されている、請求項1又は2に記載のカラム充填剤。
【請求項9】
前記疎水性官能基がオクタデシルシリル基及び/又はトリメチルシリル基である、請求項8に記載のカラム充填剤。
【請求項10】
液体クロマトグラフィー用である、請求項1又は2に記載のカラム充填剤。
【請求項11】
カラム筐体と、前記カラム筐体に充填された請求項1又は2に記載のカラム充填剤を備える、液体クロマトグラフィー用カラム。
【請求項12】
逆相液体クロマトグラフィー用カラムである、請求項11に記載の液体クロマトグラフィー用カラム。
【請求項13】
ガラス母材を粉砕することにより前駆体粒子を得る前駆体作製工程、
前記前駆体粒子を熱処理して2相に分相させた後、一方の相を酸で除去することにより多孔質ガラスビーズを得る多孔質化工程、
シランカップリング剤を用いて表面修飾を行う表面修飾工程、
前記多孔質ガラスビーズをカラム筐体に充填する充填工程、
を備え、
前記多孔質ガラスビーズは、破壊強度が0.1GPa以上であり、かつ略球状である、液体クロマトグラフィー用カラムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラム充填剤、液体クロマトグラフィー用カラム及び液体クロマトグラフィー用カラムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カラム充填剤には、ゾルゲル法を用いて作製されるシリカゲル等が広く用いられている。また、分相法で作製したカラム充填剤用の多孔質ガラスビーズが報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2023-26324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体クロマトグラフィー用カラムでは、カラム充填剤としてシリカゲルが用いられている。ゾルゲル法によって作製されるシリカゲルは、シリカ骨格におけるシロキサン結合が一部切断されていることが多いため、カラム充填剤の機械的強度が低くなりやすい。また、ゾルゲル法は細孔特性に関与する因子が極めて多い(例えば、組成、溶媒の種類と量、触媒の種類、ゲル化条件、エージング条件、乾燥条件など)ため、シャープな細孔分布を得ることが難しく、液体クロマトグラフィー用カラムの分離特性に影響が生じる恐れがある。さらに、シリカゲル表面には有機化合物を強く吸着する吸着点が少ない。そのため、有機化合物の保持能と分離能の他に吸着能(カラム内に化合物を吸着させ、溶出させないことを意味する)を付与したい場合、吸着能を有する有機修飾基を追加で導入する必要があり、カラム充填剤の製造プロセスが複雑化する。
【0005】
以上に鑑み、本発明は、高い機械的強度、良好な細孔特性及び固体酸性を有し、有機化合物の保持能と分離能に加え、特定の有機化合物に対して吸着能を有するカラム充填剤、液体クロマトグラフィー用カラム及び液体クロマトグラフィー用カラムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するカラム充填剤、液体クロマトグラフィー用カラム及び液体クロマトグラフィー用カラムの製造方法の各態様について説明する。
【0007】
態様1のカラム充填剤は、破壊強度が0.1GPa以上であり、かつ略球状の多孔質ガラスビーズからなることを特徴とする。
【0008】
態様2のカラム充填剤は、態様1において、前記多孔質ガラスビーズが、ガラス組成として、SiO及びZrOを含有することが好ましい。
【0009】
態様3のカラム充填剤は、態様1又は態様2において、前記多孔質ガラスビーズが、ガラス組成として、質量%で、SiO 70~95%、ZrO 0超~25%、Al 0~10%、B+NaO+KO+CaO+P+TiO 0~10%を含有することが好ましい。
【0010】
態様4のカラム充填剤は、態様1から態様3のいずれか一つの態様において、前記多孔質ガラスビーズが、ガラス組成として、質量%で、ZrO 10~25%を含有することが好ましい。
【0011】
態様5のカラム充填剤は、態様1から態様4のいずれか一つの態様において、前記多孔質ガラスビーズの平均粒子径D50が0.1~300μm、細孔径が1~1000nmであることが好ましい。
【0012】
態様6のカラム充填剤は、態様1から態様5のいずれか一つの態様において、前記多孔質ガラスビーズの比表面積が10~800m/gであることが好ましい。
【0013】
態様7のカラム充填剤は、態様1から態様6のいずれか一つの態様において、前記多孔質ガラスビーズの細孔分布における半値幅Δdとモード径dの比Δd/dが0.55以下であることが好ましい。
【0014】
態様8のカラム充填剤は、態様1から態様7のいずれか一つの態様において、前記多孔質ガラスビーズの細孔内面の少なくとも一部が疎水性官能基で修飾されていることが好ましい。
【0015】
態様9のカラム充填剤は、態様8において、疎水性官能基がオクタデシルシリル基及び/又はトリメチルシリル基であることが好ましい。
【0016】
態様10のカラム充填剤は、態様1から態様9のいずれか一つの態様において、液体クロマトグラフィー用であることが好ましい。
【0017】
態様11の液体クロマトグラフィー用カラムは、カラム筐体と、カラム筐体に充填された態様1から態様10のいずれか一つの態様のカラム充填剤を備えることを特徴とする。
【0018】
態様12の液体クロマトグラフィー用カラムは、態様11において、逆相液体クロマトグラフィー用カラムであることが好ましい。
【0019】
態様13の液体クロマトグラフィー用カラムの製造方法は、ガラス母材を粉砕することにより前駆体粒子を得る前駆体作製工程、前駆体粒子を熱処理して2相に分相させた後、一方の相を酸で除去することにより多孔質ガラスビーズを得る多孔質化工程、シランカップリング剤を用いて表面修飾を行う表面修飾工程、多孔質ガラスビーズをカラム筐体に充填する充填工程、を備え、多孔質ガラスビーズは、破壊強度が0.1GPa以上であり、かつ略球状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高い機械的強度、良好な細孔特性及び固体酸性を有し、有機化合物の保持能と分離能に加え、特定の有機化合物に対して吸着能を有するカラム充填剤、液体クロマトグラフィー用カラム及び液体クロマトグラフィー用カラムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るカラムの模式的側面図である。
図2図2は、図1におけるA-A断面図である。
図3図3は、本発明の実施例1及び比較例1における細孔分布を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、好ましい実施態様について説明する。ただし、以下の実施態様は単なる例示であり、本発明は以下の実施態様に限定されるものではない。
【0023】
<カラム充填剤>
本発明のカラム充填剤は、破壊強度が0.1GPa以上であり、かつ略球状の多孔質ガラスビーズからなる。より詳細には、破壊強度が0.1GPa以上であり、0.2GPa以上、0.4GPa以上、0.6GPa以上、特に0.8GPa以上であることが好ましい。これにより、移動相に高い圧力を加える(すなわち、移動相の流速を大きくする)ことができ、高速分離が可能となる。破壊強度の上限は特に限定されないが、例えば5GPa以下、特に3GPa以下としてもよい。また、多孔質ガラスビーズが略球状であることにより機械的強度を一層高めやすくなる。また、カラム筐体への充填率を高めることができるため、分離能を高めることができる。
【0024】
本発明のカラム充填剤は、多孔質ガラスビーズが、ガラス組成として、SiO及びZrOを含有することが好ましく、質量%で、SiO 70~95%、ZrO 0超~25%、Al 0~10%、B+NaO+KO+CaO+P+TiO 0~10%を含有することがより好ましい。このようにガラス組成を限定した理由を以下に説明する。なお、以下の説明において、特に断りがない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0025】
SiOは多孔質ガラスビーズにおける網目形成酸化物の主成分である。SiOの含有量は70~95%であることが好ましい。より詳細には、SiOの含有量の下限は70%以上、75%以上、79%以上、80%以上、特に81%以上であることが好ましい。SiOの含有量の上限は95%以下、90%以下、特に85%以下であることが好ましい。SiOの含有量が少なすぎると、多孔質ガラスビーズの耐候性や機械的強度が低下する傾向がある。
【0026】
ZrOは多孔質ガラスビーズの固体酸性を発現させ、有機化合物の吸着能を得るための成分であり、特に塩基性化合物に対する吸着能を得ることができる成分である。また、多孔質ガラスビーズの機械的強度を高める成分でもある。ZrOの含有量は0超~25%であることが好ましく、10~25%であることがより好ましい。より詳細には、ZrOの含有量の下限は0超、0.1%以上、1%以上、3%以上、5%以上、7%以上、9%以上、10%以上、特に10.1%以上であることが好ましい。ZrOの含有量の上限は25%以下、特に20%以下であることが好ましい。ZrOの含有量が少なすぎると、上記効果が得られなくなる。ZrOの含有量が多すぎると、多孔質ガラスビーズ表面にオクタデシルシリル基(ODS基)やトリメチルシリル基(TMS基)を化学結合させづらくなる。
【0027】
Alは多孔質ガラスビーズの耐候性や機械的強度を向上させる成分である。Alの含有量は0~10%であることが好ましい。より詳細には、Alの含有量の下限は0%以上、0.1%以上、0.5%以上、特に1%以上であることが好ましい。Alの含有量の上限は10%以下、特に5%以下であることが好ましい。
【0028】
多孔質ガラスビーズの耐候性や機械的強度を高める観点から、B+NaO+KO+CaO+P+TiO(B、NaO、KO、CaO、P及びTiOの含有量の合量)は0~10%であることが好ましい。より詳細には、B+NaO+KO+CaO+P+TiOの含有量の上限は10%以下、8%以下、特に5%以下であることが好ましい。B+NaO+KO+CaO+P+TiOの含有量の下限は、例えば0%以上、特に0.1%以上としてもよい。なお、B、NaO、KO、CaO、P及びTiOの各成分の含有量の好ましい範囲は以下のとおりである。
【0029】
の含有量の上限は10%以下、8%以下、5%以下、3%以下、特に1%以下であることが好ましい。Bの含有量の下限は、例えば0%以上、特に0.1%以上としてもよい。
【0030】
NaOの含有量の上限は10%以下、8%以下、5%以下、3%以下、特に1%以下であることが好ましい。NaOの含有量の下限は、例えば0%以上、特に0.1%以上としてもよい。
【0031】
Oの含有量の上限は10%以下、8%以下、5%以下、3%以下、特に1%以下であることが好ましい。KOの含有量の下限は、例えば0%以上、特に0.1%以上としてもよい。
【0032】
RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択されるいずれか1種)の含有量の上限は、各々10%以下、8%以下、5%以下、特に3%以下であることが好ましい。ROの含有量の下限は、例えば各々0%以上、特に0.1%以上であることが好ましい。また、MgO、CaO、SrO及びBaOから選択される少なくとも2種以上の成分を含有させる場合、その合量の上限は10%以下、8%以下、5%以下、特に3%以下であることが好ましく、その合量の下限は0%以上、特に0.1%以上であることが好ましい。
【0033】
の含有量の上限は10%以下、8%以下、5%以下、特に3%以下であることが好ましい。Pの含有量の下限は、例えば0%以上、特に0.1%以上としてもよい。
【0034】
TiOの含有量の上限は10%以下、8%以下、5%以下、特に3%以下であることが好ましい。TiOの含有量の下限は、例えば0%以上、特に0.1%以上としてもよく、特にガラス骨格の機械的強度を高める観点からは、TiOの含有量の下限は0.1%以上であることが好ましい。
【0035】
多孔質ガラスビーズには、上記成分以外にも、LiO、ZnO、La、Ta、TeO、Nb、Gd、Y、Eu、Sb、SnO及びBi等を各々10%以下、各々5%以下、特に各々3%以下含有してもよく、合量で20%以下の範囲で含有させてもよい。
【0036】
なお、PbOは環境負荷物質であるため、実質的に含有しないことが好ましい。ここで「実質的に含有しない」とは、意図的に原料として含有させないことを意味し、客観的には含有量が0.1%未満の場合を指す。
【0037】
多孔質ガラスビーズの平均粒子径D50は0.1~300μmであることが好ましい。より詳細には、平均粒子径D50の下限は0.1μm以上、0.3μm以上、0.5μm以上、特に1μm以上であることが好ましく、平均粒子径D50の上限は300μm以下、100μm以下、30μm以下、20μm以下、特に10μm以下であることが好ましい。多孔質ガラスビーズの平均粒子径D50が小さすぎると液体クロマトグラフィー用カラムのカラム圧力が高くなるため、カラム充填剤としての使用が困難になる。多孔質ガラスビーズの平均粒子径D50が大きすぎると、カラムの理論段数が大幅に低下するためカラム充填剤として使用しづらくなる。なお、平均粒子径D50(体積基準の平均粒子径)はレーザー回折散乱法により測定された値を指す。具体的には、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒子径を表す。また、以下の説明において平均粒子径D50を「50%粒子径」と表すことがある。
【0038】
なお、多孔質ガラスビーズの10%粒子径は0.01~300μmであることが好ましく、0.1~100μmであることがより好ましい。また、多孔質ガラスビーズの90%粒子径は0.1~1000μmであることが好ましく、1~500μmであることがより好ましい。ここで、「10%粒子径」は、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して10%である粒子径を表す。「90%粒子径」は、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して90%である粒子径を表す。
【0039】
多孔質ガラスビーズの細孔径d(細孔分布の中央値)は、1~1000nmであることが好ましい。より詳細には、細孔径dの下限は1nm以上、3nm以上、10nm以上、11nm以上、特に12nm以上であることが好ましく、細孔径dの上限は1000nm以下、500nm以下、100nm以下、80nm以下、50nm以下であることが好ましい。細孔径dが小さすぎると高分子化合物の分離が困難となる。一方、細孔径dが大きすぎると多孔質ガラスビーズの比表面積が小さくなり、カラムの分離能が低下するため、カラム充填剤としての利用が困難となる。
【0040】
多孔質ガラスビーズの比表面積は10~800m/gであることが好ましい。より詳細には、比表面積の下限は10m/g以上、30m/g以上、50m/g以上、特に100m/g以上であることが好ましく、比表面積の上限は800m/g以下であることが好ましい。多孔質ガラスビーズの比表面積が小さすぎると、カラムの保持能、分離能又は吸着能が低下するため、カラム充填剤としての利用が困難となる。多孔質ガラスビーズの比表面積が大きすぎると、化合物の保持能、分離能又は吸着能が目的以上に大きくなりすぎる可能性がある。
【0041】
多孔質ガラスビーズは細孔分布における半値幅Δdとモード径dの比Δd/dは0.55以下、0.5以下、特に0.4以下であることが好ましい。Δd/dが上記値を満たす多孔質ガラスビーズは細孔分布がシャープであるため、液体クロマトグラフィー用カラムの分離特性を向上させることができる。Δd/dの下限は特に限定されないが、0.01以上、特に0.05以上としてもよい。なお、半値幅Δdとモード径dの好ましい範囲は以下のとおりである。
【0042】
多孔質ガラスビーズの細孔分布における半値幅Δdは、15nm以下、特に10nm以下であることが好ましい。半値幅Δdが小さいことにより、液体クロマトグラフィー用カラムの分離特性を高めることが可能である。半値幅Δdの下限は特に限定されないが、1nm以上、特に2nm以上としてもよい。
【0043】
多孔質ガラスビーズの細孔分布におけるモード径dは、1nm以上、3nm以上、10nm以上、11nm以上、特に12nm以上であることが好ましく、1000nm以下、500nm以下、100nm以下、80nm以下、50nm以下、特に30nm以下であることが好ましい。モード径dが小さすぎると、高分子化合物の分離が困難となる。一方、モード径dが大きすぎると、多孔質ガラスビーズの比表面積が小さくなり、カラムの保持能、分離能及び吸着能が低下するため、カラム充填剤としての利用が困難となる。
【0044】
カラム充填剤は、多孔質ガラスビーズの細孔内面の少なくとも一部が疎水性官能基で修飾されていることが好ましい。言い換えると、カラム充填剤は、多孔質ガラスビーズの細孔内面に疎水性官能基を含むことが好ましい。また、疎水性官能基はオクタデシルシリル基(ODS基)及び/又はトリメチルシリル基(TMS基)であることが好ましい。
【0045】
多孔質ガラスビーズにODS基を化学結合させるODS化は、ジメチルオクタデシルクロロシランやオクタデシルトリクロロシラン等を用いてトルエン還流法により行うことが好ましい。多孔質ガラスビーズは、その孔内面をODS基で化学修飾することにより、疎水性相互作用を利用して化合物を分離する逆相液体クロマトグラフィー用カラム充填剤として使用できる。また、ODS化後の多孔質ガラスビーズは、残存シラノール基をTMS基に置換するエンドキャッピング処理(2次シリル化)を行うことが好ましい。エンドキャッピング処理により、残存シラノール基による二次的相互作用の影響が小さくなり、カラムの分離能を高めることができる。エンドキャッピング処理は、例えば、トリメチルクロロシラン等を用いてトルエン還流法により行うことが好ましい。多孔質ガラスビーズのODS化処理及びエンドキャッピング処理を行った場合、カラム充填剤は、多孔質ガラスビーズの細孔内面にODS基及びTMS基の両方を含む。
【0046】
このように、本発明のカラム充填剤は、上記構成を有することにより、高い機械的強度、良好な細孔特性及び固体酸性を有し、有機化合物の保持能と分離能に加え、特定の有機化合物に対しては吸着能を有することができる。そのため、本発明のカラム充填剤は、特定の有機化合物を吸着する液体クロマトグラフィー用のカラム充填剤として好適である。特に特定の有機化合物を吸着する逆相液体クロマトグラフィー用のカラム充填剤として好適である。
【0047】
例えば、本発明のカラム充填剤は、塩基性化合物に対する吸着能を有することが好ましい。塩基性化合物としては、例えば、ピロリジン、ピペリジン、ピリジン、ビピリジン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ヒスチジン等が好適である。
【0048】
<液体クロマトグラフィー用カラム>
図1は、本発明の一実施形態に係る液体クロマトグラフィー用カラムの模式的側面図である。また、図2は、図1におけるA-A断面図である。図1、2に示すように、液体クロマトグラフィー用カラム10は、カラム筐体1と、カラム筐体1に充填されたカラム充填剤2を備える。カラム充填剤2は上述した多孔質ガラスビーズからなる。
【0049】
カラム筐体1は円筒状であることが好ましい。カラム筐体1の大きさは特に限定されないが、例えば、内径は1~10mmであることが好ましい。また、カラムの分離能の低下を抑制する観点から、カラム筐体1の長さの下限は10mm以上、50mm以上、特に100mm以上であることが好ましい。カラム筐体1の長さの上限は特に限定されないが、取り扱いを容易にする観点から500mm以下としてもよい。
【0050】
カラム筐体1は、金属材料、ガラス又は樹脂材料からなることが好ましい。例えば、金属材料としてステンレス鋼を用いることが好ましい。また、樹脂材料としてPEEK樹脂、アクリル樹脂、又はフッ素系樹脂を用いることが好ましい。なお、液体クロマトグラフィー用カラムの機械的強度を高める観点から、カラム筐体1は金属材料からなることが好ましい。
【0051】
本発明の液体クロマトグラフィー用カラムは、上述した本発明のカラム充填剤を備えるため、高い機械的強度、良好な細孔特性及び固体酸性を有し、有機化合物の保持能と分離能に加え、特定の有機化合物に対しては吸着能を有することができる。特に、本発明の液体クロマトグラフィー用カラムは、逆相液体クロマトグラフィー用カラムとして使用されることが好ましい。より詳細には、本発明の液体クロマトグラフィー用カラムは、特定の有機化合物を吸着する液体クロマトグラフィーに好適に用いることができる。特に特定の有機化合物を吸着する逆相液体クロマトグラフィーに好適に用いることができる。
【0052】
<液体クロマトグラフィー用カラムの製造方法>
本発明の液体クロマトグラフィー用カラムの製造方法は、ガラス母材を粉砕することにより前駆体粒子を得る前駆体作製工程、前駆体粒子を熱処理して2相に分相させた後、一方の相を酸で除去することにより多孔質ガラスビーズを得る多孔質化工程、シランカップリング剤を用いて表面修飾を行う表面修飾工程、多孔質ガラスビーズをカラム筐体に充填する充填工程、を備え、多孔質ガラスビーズは、破壊強度が0.1GPa以上であり、かつ略球状であることを特徴とする。
【0053】
(前駆体作製工程)
前駆体作製工程では、ガラス母材を作製し、当該ガラス母材を粉砕することにより前駆体粒子(ガラス粒子)を得る。はじめに、ガラス原料を1300~1600℃で2~12時間溶融する。次に、溶融ガラスを成形してガラス母材を得た後、ボールミル等を用いて当該ガラス母材を粉砕することにより前駆体粒子を得る。粉砕後、必要に応じて分級を行うことで、所望の平均粒子径を有する前駆体粒子を得ることができる。得られた前駆体粒子を、バーナー等を用いて1000~3000℃で加熱し、軟化流動させることにより球状化させる。これにより、略球状化した前駆体粒子(ガラス粒子)を得ることができる。なお、ガラス母材は、例えば、質量%で、SiO 30~70%、B 0超~40%、LiO 0~20%、NaO 0~20%、KO 0~20%、P 0~10%、ZrO 0超~30%、Al 0~20%、及びRO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種) 0~20%を含有することが好ましい。
【0054】
(多孔質化工程)
次に、前駆体粒子を熱処理して2相に分相させた後、一方の相を酸で除去することにより多孔質ガラスビーズを得る。より詳細には、前駆体粒子を熱処理することで、シリカリッチ相と酸化ホウ素リッチ相の2相に分相(スピノーダル分相)させた後、酸化ホウ素リッチ相を酸で除去することにより多孔質ガラスビーズを得る。得られた多孔質ガラスビーズは破壊強度が0.1GPa以上であり、かつ略球状である。
【0055】
前駆体粒子の熱処理温度は500~800℃、特に600~780℃であることが好ましい。熱処理温度が高すぎると、前駆体粒子が軟化変形する恐れがある。一方、熱処理温度が低すぎると、前駆体粒子を分相させにくくなる。熱処理時間は1分以上、10分以上、30分以上、特に1時間以上であることが好ましい。熱処理時間が短すぎると、前駆体粒子を分相させにくくなる。熱処理時間の上限は特に限定されないが、長時間熱処理しても分相はある一定以上は進まなくなるため、現実的には180時間以下である。
【0056】
熱処理を行う際には、前駆体粒子に対し無機ナノ粒子を混合することが好ましい。これにより、前駆体粒子同士の融着を抑制することができる。無機ナノ粒子としては、アルミナ微粒子やジルコニア微粒子等が挙げられ、特にアルミナ粒子を用いることが好ましい。無機ナノ粒子の平均粒子径D50は1~100nm、5~50nm、特に10~40nmであることが好ましい。無機ナノ粒子の平均粒子径が小さすぎると、凝集しやすくなり、取り扱いが困難になる。一方、無機ナノ粒子の平均粒子径が大きすぎると、前駆体粒子同士の融着を抑制する効果を得にくくなる。
【0057】
無機ナノ粒子の添加量は、前駆体粒子100質量部に対して、0.5質量部以上、1質量部以上、特に2質量部以上であることが好ましい。無機ナノ粒子の添加量が少なすぎると、前駆体粒子同士の融着を抑制する効果を得にくくなる。なお、前駆体粒子の平均粒子径が小さい場合は、前駆体粒子同士が融着しやすくなるため、無機ナノ粒子の添加量を多くすることが好ましい。具体的には、前駆体粒子100質量部に対して、無機ナノ粒子の添加量を5質量部以上、10質量部以上、20質量部以上、特に25質量部以上としてもよい。無機ナノ粒子の添加量の上限は特に限定されないが、多すぎてもさらなる効果を得にくいため、前駆体粒子100質量部に対して、無機ナノ粒子の添加量を100質量部以下、さらには80質量部以下とすることが好ましい。
【0058】
なお、前駆体粒子を分相させる工程において、前駆体粒子の表面に異質層(シリカを概ね80モル%以上含有するシリカリッチ層)が形成される場合がある。この場合、前駆体粒子をフッ化水素酸に短時間(例えば、1秒~10分)浸漬させて異質層を除去することが好ましい。
【0059】
次に、2相に分相させた前駆体粒子を酸に浸漬させ、酸化ホウ素リッチ相を除去することにより多孔質ガラスビーズを得る。酸としては塩酸や硝酸を用いることが好ましく、これらの酸を混合して用いてもよい。酸の濃度は0.1~5mol/L、特に0.5~3mol/Lであることが好ましい。酸の浸漬時間は0.1時間以上、特に0.2時間以上であることが好ましい。浸漬時間が短すぎると、エッチングが不十分となり、所望の細孔径、細孔容積、又は比表面積を有する多孔質ガラスビーズを得にくくなる。浸漬時間が長すぎると、前駆体粒子が酸に溶解する恐れがあるため、浸漬時間の上限は20時間以下、特に10時間以下であることが好ましい。浸漬温度は20℃以上、25℃以上、特に30℃以上であることが好ましい。浸漬温度が低すぎると、エッチングが不十分となり、所望の連続孔を有する多孔質ガラスビーズを得にくくなる。浸漬温度の上限は特に限定されないが、現実的には、99℃以下である。
【0060】
また、酸化ホウ素リッチ相を酸で除去した前駆体粒子は、細孔内にホウ素リッチ相由来のSiOゲル及びZrOゲルが堆積した構造となっている。したがって、酸化ホウ素リッチ層の除去処理に加えて、さらに酸溶液及びアルカリ溶液による追加のエッチング処理を行うことが好ましい。これにより分相構造を反映した多孔質ガラスビーズを得ることができる。
【0061】
ZrOゲルは、例えば前駆体粒子を硫酸に浸漬させることで除去することができる。硫酸の濃度は0.1~5mol/L、特に1~5mol/Lであることが好ましい。硫酸への浸漬時間は0.1時間以上、特に0.2時間以上であることが好ましい。浸漬時間が短すぎると、ZrOゲルを除去しにくくなる。浸漬時間の上限は特に限定されないが、現実的には20時間以下、さらには10時間以下である。浸漬温度は20℃以上、25℃以上、特に30℃以上であることが好ましい。浸漬温度が低すぎると、ZrOゲルを除去しにくくなる。浸漬温度の上限は特に限定されないが、現実的には99℃以下である。
【0062】
SiOゲルは、例えば前駆体粒子をアルカリ水溶液に浸漬させることで除去することができる。アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等を用いることができる。なお、これらのアルカリ水溶液を混合して用いてもよい。アルカリ溶液の濃度は0.1~5mol/L、特に0.5~3mol/Lであることが好ましい。アルカリ水溶液への浸漬時間は0.1時間以上、特に0.2時間以上であることが好ましい。浸漬時間が短すぎると、SiOゲルを除去しにくくなる。浸漬時間の上限は特に限定されないが、現実的には20時間以下、さらには10時間以下である。浸漬温度は15℃以上、特に20℃以上であることが好ましい。浸漬温度が低すぎると、SiOゲルを除去しにくくなる。浸漬温度の上限は特に限定されないが、現実的には99℃以下である。
【0063】
(表面修飾工程)
表面修飾工程では、シランカップリング剤を用いて表面修飾を行う。より詳細には、多孔質ガラスビーズを100℃以上の温度で乾燥(例えば1時間以上、特に5時間以上)させた後、ジメチルオクタデシルクロロシランやオクタデシルトリクロロシラン等のシランカップリング剤を使用し、トルエン還流下で多孔質ガラスビーズ表面にODS基を化学結合させることが好ましい。また、ODS化では触媒としてピリジンを用いることが好ましい。ODS化の反応時間は6時間以上、特に12時間以上であることが好ましい。反応時間が短すぎると、多孔質ガラスビーズ表面にODS基を十分に導入することができない。反応時間の上限は特に限定されないが、ODS基の導入がある程度進むと、それ以上反応させてもODS基が多孔質ガラスビーズ表面に化学結合しなくなるため、現実的には48時間以下である。
【0064】
反応終了後は、反応溶液から多孔質ガラスビーズを濾別し、トルエン、メタノールで多孔質ガラスビーズを順次洗浄することが好ましい。トルエンとメタノールによる洗浄を行うことにより、多孔質ガラスビーズのODS化で生成するピリジン塩酸塩やシロキサン等の反応副産物を除去することができる。
【0065】
ODS化多孔質ガラスビーズに対して、さらにエンドキャッピング処理を行うことが好ましい。より詳細には、ODS化多孔質ガラスビーズの残存シラノール基をTMS基に置換するエンドキャッピング処理(2次シリル化)を行うことが好ましい。エンドキャッピング処理は、ODS化多孔質ガラスビーズを100℃以上の温度で乾燥(例えば1時間以上、特に5時間以上)させた後、シランカップリング剤としてトリメチルクロロシラン、触媒としてピリジンを使用し、トルエン還流下で行うことが好ましい。エンドキャッピング処理の反応時間は6時間以上、特に12時間以上であることが好ましい。反応時間が短すぎると、多孔質ガラスビーズ表面にTMS基を十分に導入することができない。反応時間の上限は特に限定されないが、TMS基の導入がある程度進むと、それ以上反応させてもTMS基が多孔質ガラスビーズ表面に化学結合しなくなるため、現実的には48時間以下である。
【0066】
反応終了後は、反応溶液から多孔質ガラスビーズを濾別し、トルエン、メタノールで多孔質ガラスビーズを順次洗浄することが好ましい。トルエンとメタノールによる洗浄を行うことにより、多孔質ガラスビーズのTMS化で生成するピリジン塩酸塩やシロキサン等の副産物を除去することができる。また、多孔質ガラスビーズの細孔内面における残存シラノール基を減少させる観点から、上記のキャッピング処理を2回以上行ってもよい。
【0067】
(充填工程)
最後に、得られた多孔質ガラスビーズをカラム筐体に充填することにより、液体クロマトグラフィー用カラムを作製することができる。
【実施例0068】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
(実施例1:多孔質ガラスビーズ)
実施例1は以下の手順で作製した。はじめに、ガラス母材の組成が、質量%で、SiO 52.4%、Al 2.6%、B 17.5%、NaO 5.2%、CaO 7.4%、ZrO 11.0%、KO 1.1%、P 0.8%、TiO 2.0%となるようにガラス原料を白金坩堝に入れ、1500℃で3時間溶融した。ガラス原料の溶融に際しては、白金棒を用いて攪拌し、均質化を行った。次いで、溶融ガラスを一対の冷却ローラー間に流し出すことによりフィルム状に成形した。得られたフィルム状ガラスをボールミル粉砕した後、空気分級機で分級することにより平均粒子径0.5~15μmの前駆体粒子(ガラス粒子)を得た。得られた前駆体粒子をテーブルフィーダーで炉内へ供給し、空気バーナーで1000~3000℃で加熱して軟化流動させることにより前駆体粒子を球状化させた。その後、水簸処理によって前駆体粒子を更に分級した。このとき、前駆体粒子の10%粒子径D10は3.2μm、50%粒子径D50は4.1μm、90%粒子径D90は5.3μmであった。
【0070】
球状化した前駆体粒子100質量部に対し、平均粒子径数十nmのアルミナ微粒子(アエロジル社製)を25質量部添加、混合した後、アニール炉にて695℃で10時間熱処理を行うことにより2相に分相させた。また、分相後の前駆体粒子をフッ化水素酸に1秒~300秒浸漬し、前駆体粒子表面に形成された異質層(シリカリッチ相)を除去した。フッ化水素酸によるエッチングは、HBO水溶液を加えて溶液を中和させることで停止させた。
【0071】
次に、異質層を除去した前駆体粒子を酸に浸漬させ、酸化ホウ素リッチ相を除去した。具体的には、前駆体粒子を1mol/L硝酸(96℃)中に0.5~5時間浸漬した後、イオン交換水で洗浄した。また、追加のエッチング処理として、1.5mol/L硫酸(96℃)中に0.5~5時間浸漬した後、イオン交換水で洗浄した。さらに0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液(室温)中に0.5~5時間浸漬した後、イオン交換水で洗浄した。これにより、多孔質ガラスビーズ(実施例1)を得た。
【0072】
得られた多孔質ガラスビーズをFE-SEM(電界放出形走査電子顕微鏡、日立製作所製SU-8220)で観察したところ、スピノーダル分相に基づく多孔質構造を有していた。また、得られた多孔質ガラスビーズについてEDX(エネルギー分散型X線分析装置、堀場製作所製EMAX Evolution EX-370 X-Max150)により組成分析を行った。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
(比較例1:シリカゲルビーズA)
比較例1として、ゾルゲル法で作製した平均粒子径D50が約5μmのシリカゲルビーズAを用意した。
【0075】
実施例1及び比較例1に対して、細孔分布測定装置(アントンパール社製QUARASORB SI)を用いて細孔径d(細孔分布の中央値)、比表面積及び細孔分布を測定した。また、細孔分布から算出したモード径dと半値幅Δd、半値幅Δdとモード径dの比Δd/dを求めた。結果を表2に示す。また、多孔質ガラスビーズの細孔分布を図2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表2及び図2に示すように、実施例1のΔd/dは比較例1と比較して小さく、細孔分布がシャープであった。
【0078】
圧縮試験は、微小圧縮試験機(島津製作所製 MCT-510)を用いて行った。平面で直径20mmの加圧圧子を使用し、負荷速度1.1155mN/secで表3に記載の粒子径dを有する試料1粒子に負荷を加えた。試験を5回行い、試料破壊時の負荷P[mN]及び粒子径d[μm]を用いて、式1から破壊強度Cs[GPa]を算出した。また、5回の試験結果の平均を求めた。破壊強度の評価結果を表3に示す。
【0079】
[式1]
Cs=2.48×P/(π・d
【0080】
【表3】
【0081】
表3に示すように、実施例1の多孔質ガラスビーズは、比較例1のシリカゲルビーズAと比較して約18倍の破壊強度を有していた。
【0082】
(実施例1-2:ODS化多孔質ガラスビーズ)
150℃で5~12時間乾燥させた多孔質ガラスビーズ1~10gを乾燥トルエン20~200mLに分散させ、ジメチルオクタデシルクロロシラン0.7~7gとピリジン0.15~1.5mLを加えて、トルエン還流下で6~24時間加熱することによりODS化多孔質ガラスビーズを作製した。ODS化多孔質ガラスビーズを反応溶液から濾別した後、トルエン、メタノールで順次洗浄し、120℃で5~12時間乾燥させた。
【0083】
続いて、ODS化多孔質ガラスビーズ1~10gを乾燥トルエン20~200mLに分散させ、トリメチルクロロシラン0.2~2gとピリジン0.15~1.5mLを加えてトルエン還流下で6~24時間加熱することにより、ODS化多孔質ガラスビーズのエンドキャッピングを行った。多孔質ガラスビーズを反応溶液から濾別した後、トルエン、メタノールで順次洗浄し、120℃で5~12時間乾燥させた。
【0084】
ODS化多孔質ガラスビーズを内径2.1mm、長さ150mmのカラムに充填し、液体クロマトグラフィー用カラムを作製した。
【0085】
(比較例2-1:シリカゲルビーズB)
比較例2として、ゾルゲル法で作製した粒径が約5μm、細孔径が約6nm、比表面積が356m/gのシリカゲルビーズBを用意した。
【0086】
(比較例2-2:ODS化シリカゲルビーズB)
150℃で5~12時間乾燥させたシリカゲルビーズB 1~10gを乾燥トルエン20~200mLに分散させ、ジメチルオクタデシルクロロシラン1~10gとピリジン0.23~2.3mLを加えて、トルエン還流下で6~24時間加熱することによりODS化シリカゲルビーズBを作製した。ODS化シリカゲルビーズBを反応溶液から濾別した後、トルエン、メタノールで順次洗浄し、120℃で5~12時間乾燥させた。
【0087】
続いて、ODS化シリカゲルビーズB1~10gを乾燥トルエン20~200mLに分散させ、トリメチルクロロシラン0.3~3gとピリジン0.23~2.3mLを加えてトルエン還流下で6~24時間加熱することにより、ODS化シリカゲルビーズBのエンドキャッピングを行った。多孔質ガラスビーズを反応溶液から濾別した後、トルエン、メタノールで順次洗浄し、120℃で5~12時間乾燥させた。
【0088】
ODS化シリカゲルビーズBを内径2.1mm、長さ150mmのカラムに充填し、液体クロマトグラフィー用カラムを作製した。
【0089】
(分離特性の評価)
作製した液体クロマトグラフィー用カラムの分離特性を評価した。分離特性は田中試験と呼ばれる評価方法により、表4に示す保持係数k’及び分離係数αを測定・評価した。また、移動相の流速は0.2mL/min、温度は室温、検出はUV254nmで行い、非保持化合物としてウラシル(Uracil)を用いた。
【0090】
【表4】
【0091】
表5に田中試験で使用した化合物の保持係数k’をまとめた。また、表5を基に算出した (1)疎水保持、(2)疎水選択性、(3)立体選択性、(4)水素結合量の結果を表6に示した。
【0092】
【表5】
【0093】
【表6】
【0094】
ODS化多孔質ガラスビーズの(1)疎水保持は1.35を示し、ODSシリカゲルビーズBの5.19と比較して非常に低くなった。したがって、ODS多孔質ガラスビーズを用いたカラムは、ODS化シリカゲルビーズBを用いた場合と比較してカラム全体のアルキル鎖の量が少ない。これは多孔質ガラスビーズの比表面積がシリカビーズBと比較して小さいためである。一方、(2)疎水選択性、(3)立体選択性の評価結果は、ODS化シリカゲルビーズBの結果と殆ど等しくなった。(2)疎水選択性は、ODS基及びトリメリルシリル(TMS)基による固定相表面の被覆率が高くなれば大きくなることが判っている。従って、疎水性官能基による表面被覆率は同程度である。また、(3)立体選択性は1.42を示し、ODS化シリカゲルビーズBの結果よりも大きい。一般に、ODS基が固定相表面に緊密に存在する場合に、(3)立体選択性が大きくなる傾向がある。これは、トリフェニレン(Triphenylene)は平面状の立体構造であることから、ODS基の間に挟み込まれて保持が増大する一方、o-テルフェニル(o-Tephenyl)はODS基の間に入り込みにくくなり保持が低下するためである。従って、多孔質ガラスビーズのODS化は適切に行われていると考えられる。また、(2)疎水選択性、(3)立体選択性の結果から、ODS化多孔質ガラスビーズを用いた液体クロマトグラフィー用カラムは、疎水性化合物を分離できる性能においてODS化シリカゲルビーズと同等であると判った。
【0095】
(4)水素結合量は、ODS化多孔質ガラスビーズにおいて測定することができなかった。これは酸性化合物のフェノール(Phenol)は非保持化合物のウラシルと分離されてカラムから溶出された一方、塩基性化合物のピリジン(Pyridine)がカラム内に吸着したためである。一方、ODS化シリカゲルビーズBを用いた液体クロマトグラフィー用カラムは、フェノールおよびピリジンが分離・溶出され、(4)水素結合量は1.82を示した。従って、ODS化多孔質ガラスビーズを用いた液体クロマトグラフィー用カラムは、ピリジン等の塩基性化合物を吸着する特性を有していることが判った。
【0096】
(固体酸性の評価)
多孔質ガラスがピリジン等の塩基性化合物の吸着能を有していた原因を調査するため、SiOとZrOを主成分として含有する多孔質ガラスの固体酸性を評価した。まず、実施例1と同じ組成のガラス母材を厚さ0.5mmの板状に加工した。その後、電気炉にて695℃で12時間熱処理を行うことにより2相に分相させた。分相後のガラス母材は、まず、フッ化水素酸に数十秒~数分浸漬してガラス母材表面の異質層を取り除いた。次に、1.0mol/L硝酸(95℃)中に48時間浸漬した後、イオン交換水で洗浄した。その後、1.5mol/Lの硫酸(95℃)中に48時間浸漬した後、イオン交換水で洗浄した。さらに、0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(室温)中に5時間浸漬した後、イオン交換水で洗浄し、多孔質ガラス板を得た。得られた多孔質ガラス板をFE-SEMで観察したところ、スピノーダル分相に基づく多孔質構造を有していた。また、得られた多孔質ガラス板についてEDXを用いて組成分析を行ったところ、その組成は、質量%で、SiO 83.3%、ZrO 10.6%、Al 2.9%、NaO 0.1%、KO 0.1%、CaO 0.4%、P 1.6%、TiO 1.0%であり、実施例1と同様にZrOが10.6%含有したSiO-ZrO系の多孔質ガラスであった。
【0097】
次に、アンモニア昇温脱離法(NH-TPD)から、多孔質ガラス板(すなわち、ODS基やTMS基による表面修飾を行っておらず、実施例1と同様にZrOが10.6%含有したSiO-ZrO系の多孔質ガラス板)の比表面積当たりのアンモニア脱離量は0.745μmol/mとなった。したがって、多孔質ガラス板は細孔内面に固体酸点を有していることがわかった。
【0098】
さらに、多孔質ガラス板のピリジン吸着FT-IR(試料に吸着したピリジン分子をフーリエ変換赤外分光法により測定する評価手法)を測定した。その結果、多孔質ガラス板にはルイス酸点とブレンステッド酸点が存在することを確認した。
【0099】
比較例2-1のシリカゲルビーズB(すなわち、ODS基やTMS基による表面修飾を行っていないシリカゲルビーズ)についても、アンモニア昇温脱離法(NH-TPD)により、固体酸点の評価を行った。その結果、脱離ガスの検出値が検量線の定量可能範囲を下回ったため、シリカゲルビーズのアンモニア脱離量を算出することはできなかった。したがって、シリカゲルビーズBの固体酸点は多孔質ガラスと比較して極めて少ないと考えられる。
【0100】
(まとめ)
以上から、実施例1-2のODS化多孔質ガラスビーズを用いた液体クロマトグラフィー用カラムが、ピリジン等の塩基性化合物の吸着能を有していたのは、多孔質ガラスビーズの表面に固体酸点が多く存在していたためであると考えられる。また、ピリジン等の塩基性化合物が吸着したと考えられる固体酸点は、多孔質ガラスビーズ由来の酸点である。従って、本発明のカラム充填剤は、塩基性化合物の吸着能を有する官能基を多孔質ガラスビーズに追加で導入することなく疎水性化合物や酸性化合物の保持能と分離能、さらには塩基性化合物の吸着能を有する逆相液体クロマトグラフィー用カラムを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明のカラム充填剤は、高い機械的強度、良好な細孔特性及び固体酸性を有し、有機化合物の保持能と分離能に加え、特定の有機化合物に対して吸着能を有するカラム充填剤、液体クロマトグラフィー用カラムとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0102】
1 カラム筐体
2 カラム充填剤
10 液体クロマトグラフィー用カラム
図1
図2
図3