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特開2025-99283塩化マグネシウムの製造システム及び塩化マグネシウムの製造システムの運転方法
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  • 特開-塩化マグネシウムの製造システム及び塩化マグネシウムの製造システムの運転方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099283
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】塩化マグネシウムの製造システム及び塩化マグネシウムの製造システムの運転方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20250626BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20250626BHJP
   B01D 61/46 20060101ALI20250626BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20250626BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
C02F1/44 Z
B01D61/44 500
B01D61/46 500
B01D61/02 500
B01D61/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215821
(22)【出願日】2023-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】堀 文音
(72)【発明者】
【氏名】江川 薫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉晃
(72)【発明者】
【氏名】上戸 龍
(72)【発明者】
【氏名】竹内 和久
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA17
4D006HA44
4D006HA47
4D006JA41Z
4D006JA42Z
4D006JA43Z
4D006JA44Z
4D006JA45Z
4D006KA16
4D006KA52
4D006KA54
4D006KA57
4D006KA64
4D006KB30
4D006MA03
4D006MA13
4D006MA14
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB03
(57)【要約】
【課題】薬品の添加量を低減しつつ、pHの影響を抑え、海水を原料とする被処理水から高効率でマグネシウムイオンを回収する。
【解決手段】電気透析で硫酸イオンの濃度が低減されてマグネシウムイオンが濃縮された濃縮水を排出する第一除去部と、前記第一除去部から排出された前記濃縮水にpH調整剤を添加して、前記濃縮水のpHを2<pH<5の範囲内に調整するpH調整部と、前記pH調整部でpHが調整された前記濃縮水の一部が供給され、前記ナトリウムイオンの濃度が低減されたナトリウム低減水を排出する第二除去部と、前記第二除去部から排出された前記ナトリウム低減水を濃縮し、塩化マグネシウムが晶析したスラリーを生成する濃縮部と、を備える。前記第二除去部は、pHが調整された前記濃縮水の一部から一価イオンと多価イオンを分離するナノろ過膜を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水を原料とする被処理水中の硫酸イオンを電気透析で低減し、前記硫酸イオンの濃度が低減されてマグネシウムイオンが濃縮された濃縮水を排出する第一除去部と、
前記第一除去部から排出された前記濃縮水にpH調整剤を添加して、前記濃縮水のpHを2<pH<5の範囲内に調整するpH調整部と、
前記pH調整部でpHが調整された前記濃縮水の一部が供給され、pHが調整された前記濃縮水の一部に含まれるナトリウムイオンの濃度を低減させ、前記ナトリウムイオンの濃度が低減されたナトリウム低減水を排出する第二除去部と、
前記第二除去部から排出された前記ナトリウム低減水を濃縮し、塩化マグネシウムが晶析したスラリーを生成する濃縮部と、を備え、
前記第二除去部は、pHが調整された前記濃縮水の一部から一価イオンと多価イオンを分離するナノろ過膜を有する塩化マグネシウムの製造システム。
【請求項2】
前記ナノろ過膜は、2<pH<5の範囲内に等電点を有する膜である請求項1に記載の塩化マグネシウムの製造システム。
【請求項3】
pHが調整された前記濃縮水の一部に溶解する炭酸を低減する脱炭酸部をさらに備える請求項1又は請求項2に記載の塩化マグネシウムの製造システム。
【請求項4】
前記脱炭酸部は、前記第一除去部と前記第二除去部との間又は前記第二除去部と前記濃縮部との間に配置されている請求項3に記載の塩化マグネシウムの製造システム。
【請求項5】
前記脱炭酸部は、pHが調整された前記濃縮水の一部に酸を添加してpHを2<pH≦4の範囲内に調整した後に曝気する請求項3に記載の塩化マグネシウムの製造システム。
【請求項6】
前記第一除去部は、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された第一膜と、前記陽極と前記陰極との間で前記第一膜と間隔を開けて交互に配置された第二膜とを有し、
前記陽極と前記陰極との間には、前記第一膜及び前記第二膜の二種類の膜のみが配置され、
前記第一膜は、陽イオン交換膜であり、
前記第二膜は、一価選択性陰イオン交換膜又は一価選択性ナノろ過膜である請求項1又は請求項2に記載の塩化マグネシウムの製造システム。
【請求項7】
海水を原料とする被処理水中の硫酸イオンを電気透析で低減し、前記硫酸イオンが低減されてマグネシウムイオンが濃縮された濃縮水と、前記硫酸イオンが濃縮されて前記マグネシウムイオンが希釈されている希釈水とを排出する第一除去部と、
前記第一除去部から排出された前記濃縮水にpH調整剤を添加して、前記濃縮水中のpHを2~5の間に調整するpH調整部と、
前記pH調整部でpHが調整された前記濃縮水の一部が供給され、前記濃縮水の一部に含まれるナトリウムイオンの濃度を低減させ、前記ナトリウムイオンの濃度が低減されたナトリウム低減水を排出する第二除去部と、
前記第二除去部から排出された前記ナトリウム低減水を濃縮し、塩化マグネシウムが晶析したスラリーを生成する濃縮部と、を備える塩化マグネシウムの製造システムの運転方法であって、
前記第二除去部は、pHが調整された前記濃縮水の一部から一価イオンと多価イオンを分離するナノろ過膜を有し、
前記ナノろ過膜が、2<pH<5の範囲内に等電点を有する膜である場合に、前記pH調整部によって、前記濃縮水中のpHを2~5の間に調整させる塩化マグネシウムの製造システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塩化マグネシウムの製造システム及び塩化マグネシウムの製造システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海水から塩化マグネシウムを回収する方法として、特許文献1に記載されているように、電気透析(Electrodialysis、ED)で海水中の硫酸イオン(SO 2-)を分離した後に、ナノろ過膜(NF:Nanofiltration)での圧力ろ過によってナトリウムイオン(Na)を分離する方法が知られている。この方法では、硫酸イオン及びナトリウムイオンを海水等の処理水から除去することで、塩化マグネシウム(MgCl)が主成分となる水溶液が得られる。塩化マグネシウムが主成分となる水溶液を晶析によって濃縮することで、塩化マグネシウムを析出させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-109791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した特許文献1の方法では、ナノろ過膜によるろ過を行う際に、ナノろ過膜を透過する溶液のpHによって膜の分離性能が変化する。そのため、pHの変動によって、海水を原料とする被処理水からのマグネシウムイオンを十分回収できない可能性がある。一方で、pHを所定の範囲に抑えるために、酸性の薬品を添加してpHの調整を行うことも考えられるが、薬品の添加量を抑えることも求められている。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、薬品の添加量を低減しつつ、pHの影響を抑え、海水を原料とする被処理水から高効率でマグネシウムイオンを回収可能な塩化マグネシウムの製造システム及び塩化マグネシウムの製造システムの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係る塩化マグネシウムの製造システムは、海水を原料とする被処理水中の硫酸イオンを電気透析で低減し、前記硫酸イオンの濃度が低減されてマグネシウムイオンが濃縮された濃縮水を排出する第一除去部と、前記第一除去部から排出された前記濃縮水にpH調整剤を添加して、前記濃縮水のpHを2<pH<5の範囲内に調整するpH調整部と、前記pH調整部でpHが調整された前記濃縮水の一部が供給され、pHが調整された前記濃縮水の一部に含まれるナトリウムイオンの濃度を低減させ、前記ナトリウムイオンの濃度が低減されたナトリウム低減水を排出する第二除去部と、前記第二除去部から排出された前記ナトリウム低減水を濃縮し、塩化マグネシウムが晶析したスラリーを生成する濃縮部と、を備え、前記第二除去部は、pHが調整された前記濃縮水の一部から一価イオンと多価イオンを分離するナノろ過膜を有する。
【0007】
また、本開示に係る塩化マグネシウムの製造システムの運転方法は、海水を原料とする被処理水中の硫酸イオンを電気透析で低減し、前記硫酸イオンが低減されてマグネシウムイオンが濃縮された濃縮水と、前記硫酸イオンが濃縮されて前記マグネシウムイオンが希釈されている希釈水とを排出する第一除去部と、前記第一除去部から排出された前記濃縮水にpH調整剤を添加して、前記濃縮水中のpHを2~5の間に調整するpH調整部と、前記pH調整部でpHが調整された前記濃縮水の一部が供給され、前記濃縮水の一部に含まれるナトリウムイオンの濃度を低減させ、前記ナトリウムイオンの濃度が低減されたナトリウム低減水を排出する第二除去部と、前記第二除去部から排出された前記ナトリウム低減水を濃縮し、塩化マグネシウムが晶析したスラリーを生成する濃縮部と、を備える塩化マグネシウムの製造システムの運転方法であって、前記第二除去部は、pHが調整された前記濃縮水の一部から一価イオンと多価イオンを分離するナノろ過膜を有し、前記ナノろ過膜が、2<pH<5の範囲内に等電点を有する膜である場合に、前記pH調整部によって、前記濃縮水中のpHを2~5の間に調整させる。
【発明の効果】
【0008】
本開示の塩化マグネシウムの製造システム及び塩化マグネシウムの製造システムの運転方法によれば、薬品の添加量を低減しつつ、pHの影響を抑え、海水を原料とする被処理水から高効率でマグネシウムイオンを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第一実施形態に係る塩化マグネシウムの製造システムを示す模式図である。
図2】第二実施形態に係る塩化マグネシウムの製造システムを示す模式図である。
図3】第三実施形態に係る第一除去部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本開示による塩化マグネシウムの製造システムを実施するための形態を説明する。しかし、本開示はこの実施形態のみに限定されるものではない。
【0011】
<第一実施形態>
(塩化マグネシウムの製造システム)
塩化マグネシウムの製造システムは、海水中の硫酸イオンとナトリウムイオンを低減させ、海水から塩化マグネシウム(MgCl)を製造する。海水を濃縮する際には、さまざまな種類の塩が析出する。具体的には、海水を濃縮する際に析出する塩としては、水に対する溶解度の違いから、まず少量の酸化鉄(Fe)が析出される。次いで、炭酸カルシウム(CaCO)が析出し、さらに硫酸カルシウム(CaSO)、塩化ナトリウム(NaCl)、硫酸マグネシウム(MgSO)が順に析出する。その際、これらの塩の析出量は、塩化ナトリウムが最も多く、次いで硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化鉄の順となっている。そして、製造の対象とする塩化マグネシウムは、これらの塩が析出した後に析出する。さらに、塩化マグネシウムの前に析出する塩について着目すると、海水に含まれる硫酸イオン(SO 2-)を選択的に減らすことができれば、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウムの析出を抑制できる。同様に、海水に含まれるナトリウムイオン(Na)を選択的に減らすことができれば、塩化ナトリウムの析出を抑制できる。そのため、本実施形態の塩化マグネシウムの製造システム1では、海水中の硫酸イオンとナトリウムイオンを選択的に減らすことで、塩化マグネシウムの析出量を増やしている。
【0012】
本実施形態の塩化マグネシウムの製造システム1は、第一除去部10と、pH調整部30と、第二除去部20と、濃縮部50と、を備えている。
【0013】
第一除去部10は、海水を原料とする被処理水W中の硫酸イオンを電気透析で低減させる。第一除去部10は、異なる複数の種類の膜を有する電気透析槽である。例えば、本実施形態の第一除去部10は、陽イオン交換膜と、一価選択性陰イオン交換膜と、一価選択性陽イオン交換膜と、陰イオン交換膜との四種類を、陽極11(図3参照)と陰極12(図3参照)との間に有する電気透析槽である。ここで、「陽イオン交換膜」とは、価数によらず陽イオンを透過させ、陰イオンを透過させないイオン交換膜を指す。また、「一価選択性陰イオン交換膜」とは、一価の陰イオンを選択的に透過させ、多価の陰イオン及び価数によらず陽イオンを透過させないイオン交換膜を指す。また、「一価選択性陽イオン交換膜」とは、一価の陽イオンを選択的に透過させ、多価の陽イオン及び価数によらず陰イオンを透過させないイオン交換膜を指す。さらに、「陰イオン交換膜」とは、価数によらず陰イオンを透過させ、陽イオンを透過させないイオン交換膜を指す。なお、第一除去部10は、公知の電気透析槽を採用することも可能である。電気透析槽により、二価以上の陰イオンを除去することで、被処理水W中の硫酸イオンの濃度が低減される。被処理水Wは、海水のほか、海水から水を除去して濃縮した濃縮海水も含む。濃縮海水は、例えば、海水を逆浸透膜処理し、水を分離して生じる濃縮液が該当する。被処理水Wは、海から第一供給ラインL1を介して第一除去部10に供給される。被処理水Wは、海水または濃縮海水に脱炭酸処理を施すことなく、第一除去部10に供給される。
【0014】
第一除去部10では、被処理水Wを供給し電気透析を行うことで、硫酸イオン等の二価の陰イオン濃度が低減されて、マグネシウムイオン(Mg2+)が濃縮された濃縮水CWが排出される。具体的には、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、及び塩化物イオンが濃縮された濃縮水CWが第一除去部10から排出される。第一除去部10から排出される濃縮水CWの量は、第一除去部10に供給される被処理水Wの量に対して数%程度となっている。第一除去部10から排出された濃縮水CWは、オーバーフロー循環ラインLOに送られる。オーバーフロー循環ラインLOでは、濃縮水CWを鉛直方向の上方に送った後に下方に向かって流通させ、再び第一除去部10に戻している。第一除去部10に戻された濃縮水CWは、再び電気透析される。オーバーフロー循環ラインLOは、第二供給ラインL2と接続されている。オーバーフロー循環ラインLOを流通する濃縮水CWの一部が第二供給ラインL2に送られている。第二供給ラインL2は、第二除去部20と接続されている。
【0015】
また、第一除去部10では、濃縮水CWとは別に、ナトリウムイオンや塩化物イオン(Cl)等の一価のイオン濃度が低減された希釈水AWと、硫酸イオン、ナトリウムイオン、及び塩化物イオンが濃縮された第一廃水EW1とが排出される。希釈水AWは、RO膜(不図示)に通された後に第二除去部20に流入する直前の後述するpH調整濃縮水CPWへ合流されたり、RO膜に通されることなく、第一供給ラインL1に送られて第一除去部10に戻されたり、第一廃水EW1と合流して廃棄されたりしている。
【0016】
pH調整部30は、第一除去部10から排出された濃縮水CWにpH調整剤を添加する。pH調整部30は、pH調整剤の添加によって、濃縮水CWのpHを2<pH<5の範囲内に調整する。本実施形態のpH調整部30では、オーバーフロー循環ラインLOにpH調整剤と添加する。pH調整剤を添加された濃縮水CWは、pHが調整されてpH調整水PWとなり、オーバーフロー循環ラインLOをそのまま流れて第一除去部10に送られる。
【0017】
第二除去部20は、pH調整部30でpHが調整された濃縮水CWの一部であるpH調整濃縮水CPWが供給される。pH調整濃縮水CPWは、pH調整水PW及び新たに供給された被処理水Wが混合された状態で、第一除去部10によって処理された濃縮水CWである。第二除去部20は、pH調整濃縮水CPWに含まれるナトリウムイオンの濃度を低減させる。つまり、第二除去部20は、第一除去部10から排出されて硫酸イオンの濃度が低減されたpH調整濃縮水CPW中のナトリウムイオンの濃度を低減させる。第二除去部20では、pH調整濃縮水CPW中のマグネシウムイオンの濃度はほとんど低減されない。
【0018】
第二除去部20は、第一除去部10と接続されている。第二除去部20には、オーバーフロー循環ラインLO及び第二供給ラインL2を介してpH調整濃縮水CPWが供給される。第二除去部20は、第一除去部10の後段(被処理水Wの流通方向の下流の位置)に少なくとも一つ配置されている。本実施形態の塩化マグネシウムの製造システム1では、第二除去部20は、一つのみが配置されている。本実施形態の第二除去部20は、ナノろ過膜(NF膜)を有している。ナノろ過膜は、一価のイオンのみを通すことで、一価イオンと多価イオンの分離が可能な膜である。ナノろ過膜は、第一除去部10において硫酸イオンの濃度が低減されたpH調整濃縮水CPWから一価イオンと多価イオンを分離させる。なお、本実施形態のナノろ過膜は、ゼータ電位(膜表面の荷電特性)の正負に関わらず、2<pH<5の範囲内に等電点を有する膜とされている。このようなナノろ過膜により、pH調整濃縮水CPWは処理されることで、pH調整濃縮水CPWよりもナトリウムイオンの濃度が低減されたナトリウムイオン低減水NWと、pH調整濃縮水CPWよりもナトリウムイオンの濃度が増加した第二廃水EW2と、に分離される。第二除去部20から排出されたナトリウムイオン低減水NWは、第三供給ラインL3に送られる。第三供給ラインL3は、濃縮部50と接続されている。
【0019】
濃縮部50は、第二除去部20から排出されてナトリウムイオンの濃度が低減されたナトリウムイオン低減水NWを濃縮する。これにより、濃縮部50は、塩化マグネシウムが晶析したスラリーSを生成する。濃縮部50は、第二除去部20と第三供給ラインL3を介して接続されている。濃縮部50には、第三供給ラインL3を介してナトリウムイオン低減水NWが供給される。濃縮部50としては、公知の晶析装置を採用することができる。例えば、濃縮部50は、ナトリウムイオン低減水NWを加熱、減圧、送風及びこれらの組み合わせにより処理し、水分を蒸発させる構成を採用することができる。
【0020】
濃縮部50は、ナトリウムイオン低減水NWを濃縮することによりナトリウムイオン低減水NWに溶解したイオンが塩となり析出する。ここで、本実施形態では、濃縮部50に供給する前に第一除去部10及び第二除去部20によって硫酸イオン及びナトリウムイオンが低減されている。そのため、濃縮部50においては、少量の酸化鉄及び炭酸カルシウムの他には、目的とする塩化マグネシウムが析出し、塩化マグネシウムが晶析したスラリーSが得られる。また、濃縮部50では、スラリーSを生成時に、スラリーSを含まない廃液FWが生じる。
【0021】
また、塩化マグネシウムの製造システム1で得られた塩化マグネシウムが晶析したスラリーSは、マグネシウムの製造システム100での金属マグネシウムの生成に利用される。マグネシウムの製造システム100は、上述の塩化マグネシウムの製造システム1に加え、生成部60と、生成部60とを有する。
【0022】
生成部60は、塩化マグネシウムが晶析したスラリーSから水を分離し、塩化マグネシウムを得る装置である。スラリーSは、第四供給ラインL4を介して濃縮部50から生成部60に供給される。
【0023】
生成部60では、スラリーSを加熱、減圧、送風及びこれらの組み合わせにより処理し、水分を蒸発させる構成を採用することができる。生成部60で生成された塩化マグネシウムは、第五供給ラインL5を介して電解部70に送られる。
【0024】
電解部70は、塩化マグネシウムを溶融塩電解し、金属マグネシウムを得る装置である。電解部70の構成としては、公知の溶融塩電解設備を採用することができる。
【0025】
また、上述したような塩化マグネシウムの製造システム1では、第二除去部20のナノろ過膜に種類によって、pH調整部30による濃縮水CWへのpHの調整の実施を切り替えて運転している。具体的には、塩化マグネシウムの製造システム1の運転方法は、ナノろ過膜が、2<pH<5の範囲内に等電点を有する膜である場合に、pH調整部30によって、濃縮水CW中のpHを2~5の間の等電点付近まで調整させる。また、塩化マグネシウムの製造システム1の運転方法は、ナノろ過膜が、2<pH<5の範囲内に等電点を有さない膜である場合に、pH調整部30によって、pHを2~5の間としつつも、濃縮水CW中のpHを等電点のような特定の値までは調整させない。例えば、ナノろ過膜が、2<pH<5の範囲内に等電点を有さない膜である場合には、等電点に関わらず、pH4.5等の薬品量が最小限になるようにのみ調整される。つまり、第二除去部20のナノろ過膜が2<pH<5の範囲内に等電点を有する膜である場合のみに、pH調整部30によって、等電点まで濃縮水CWのpH調整が実施される。
【0026】
上述したような塩化マグネシウムの製造システム1では、第一供給ラインL1を介して、海から供給された海水等の被処理水Wが第一除去部10に送られる。第一除去部10は、供給された被処理水Wに電気透析を行い、マグネシウムイオンが濃縮された濃縮水CWと、硫酸イオン等の二価の陰イオン濃度が低減された希釈水AWと、残部である第一廃水EW1を排出する。第一除去部10で生成された希釈水AW及び第一廃水EW1は、外部に排出される。
【0027】
また、排出された濃縮水CWは、オーバーフロー循環ラインLOに送られる。ここで、第二除去部20のナノろ過膜が2<pH<5の範囲内に等電点を有する膜である場合、オーバーフロー循環ラインLOを流通する濃縮水CWには、pH調整部30によって、塩酸がpH調整剤として添加される。その結果、濃縮水CW中のpHが2<pH<5の範囲内に調整される。pHが調整されてpH調整水PWとなった濃縮水CWは、オーバーフロー循環ラインLOによって、循環されて再び第一除去部10に供給される。したがって、第一除去部10には、循環したpH調整水PWと、第一供給ラインL1を介して送られてくる被処理水Wとが同時に供給される。その後、第一除去部10で再び処理されたpH調整水PW及び被処理水Wは、pHが調整された濃縮水CWとなって排出される。このように、濃縮水CWは、pH調整部30によってpHが調整されながら、循環し続ける。
【0028】
さらに、pHが調整された濃縮水CWの一部は、オーバーフロー循環ラインLOから第二供給ラインL2に送られる。pHが調整された濃縮水CWの一部であって、第二供給ラインL2に送られたpH調整濃縮水CPWは、第二除去部20に供給される。その結果、第二除去部20では、ナトリウムイオンの濃度が低減されたナトリウムイオン低減水NWと、残部である第二廃水EW2が生成される。第二除去部20で生成された第二廃水EW2は、外部に排出される。
【0029】
また、第二除去部20で生成されたナトリウムイオン低減水NWは、第三供給ラインL3を介して、濃縮部50に供給される。その結果、濃縮部50には、ナトリウムイオン低減水NWが供給される。濃縮部50では、ナトリウムイオン低減水NWが濃縮され、塩化マグネシウムが晶析したスラリーSが得られる。また、残部として廃液FWが生成され、外部に排出される。
【0030】
また、濃縮部50で生成された塩化マグネシウムが晶析したスラリーSは、第四供給ラインL4を介して、生成部60に供給される。生成部60では、スラリーSから水が分離され、塩化マグネシウムが生成される。さらに、生成部60で生成された塩化マグネシウムは、第五供給ラインL5を介して、電解部70に供給され、金属マグネシウムが生成される。
【0031】
(作用効果)
上記構成の塩化マグネシウムの製造システム1では、第一除去部10での電気透析によって、硫酸イオンの濃度が低減されてマグネシウムイオンが濃縮された濃縮水CWが排出される。この濃縮水CWに対して、pHが2<pH<5の範囲内に調整されている。そして、pHが調整された濃縮水CWは、第一除去部10に対して循環している。また、pHが調整された濃縮水CWの一部であるpH調整濃縮水CPWが、第二除去部20及び濃縮部50を経ることで、塩化マグネシウムが晶析したスラリーSが得られている。このように、濃縮水CWのpHが2<pH<5の範囲内に調整されることで、第二除去部20で、ナノろ過膜によってナトリウムイオンを低減させる際に、マグネシウムイオンも低減されてしまうことを抑制できる。つまり、第二除去部20で、ナトリウムイオン低減水NWに含まれるマグネシウムの濃度が低下してしまうことを抑制できる。したがって、濃縮部50で回収できるスラリーS含まれる塩化マグネシウムの量が減ってしまうことを抑制できる。これにより、被処理水Wから高効率でマグネシウムイオンを回収することができる。
【0032】
特に、pHが5未満(pH<5)とされることで、濃縮水CW中に含まれるカルシウム成分やマグネシウム成分による第一除去部10、第二除去部20、及び濃縮部50でのスケールの発生を抑制することができる。また、pHが2を超えている(2<pH)ことで、第一除去部10、第二除去部20、及び濃縮部50や、各種ライン(配管)で使用されている金属部品の腐食を抑制することができる。
【0033】
そして、第一除去部10に供給される被処理水Wではなく、第一除去部10から排出される濃縮水CWにpH調整剤を添加している。濃縮水CWの量は、第一除去部10に供給される被処理水Wの量に対して極めて少なくなっている。したがって、添加するpH調整剤の量を抑えることができる。これにより、薬品の添加量を低減しつつ、pHの影響を抑え、海水を原料とする被処理水Wから高効率でマグネシウムイオンを回収できる。
【0034】
さらに、本実施形態では、濃縮水CWは、pHが調整されつつ、循環されている。つまり、既にpHが調整済みであるpH調整水PWと、新たに被処理水Wから生成された濃縮水CWとが混ざることで、混合された溶液は、新たに被処理水Wから生成された濃縮水CWだけの場合に比べてpHが抑えられた状態となる。したがって、オーバーフロー循環ラインLOを循環している濃縮水CWは、低pHとなっている。これにより、pHを2<pH<5の範囲内に調整する際に、pH調整部30で添加するpH調整剤の量をより抑えることができる。
【0035】
また、被処理水Wに対してpH調整剤を直接添加した場合、被処理水W中の水素イオン(H)の濃度が増加する。そのため、第一除去部10での電気透析時に、陽イオン交換膜を透過して、濃縮水CWに移動する水素イオンの比率が増加してしまう。その結果、濃縮水CWへのマグネシウムイオンの移動量が減少し、濃縮水CWのマグネシウムイオンの濃度が低減してしまう可能性がある。つまり、被処理水Wからマグネシウムイオンの回収効率が低下してしまう現象が生じる可能性がある。しかしながら、本実施形態では、濃縮水CWにpH調整剤を添加しているため、このような現象が生じてしまうことを抑制できる。
【0036】
また、第二除去部20のナノろ過膜は、2<pH<5の範囲内に等電点を有する膜とされている。ナノろ過膜は、膜表面に荷電特性を有する。そして、ナノろ過膜を通過する溶液のpHが低いほどゼータ電位が高くなる。ナノろ過膜では、このpHとマグネシウムイオンの除去率は相関関係があることが発明者らによって見出された。具体的には、溶液のpHが、ナノろ過の等電点に近い範囲で低いほど、マグネシウムイオンの除去率が特に向上することが発明者らによってわかっている。これに対し、本願発明では、ナノろ過膜は、2<pH<5の範囲内に等電点を有している。したがって、第二除去部20でのマグネシウムイオンの除去率(回収率)を向上させることができる。
【0037】
また、塩化マグネシウムの製造システム1では、長期にわたって運転が継続されていくと、第一除去部10や第二除去部20に使用されている膜を交換する必要が出てくる。つまり、第二除去部20に使用されているナノろ過膜も交換される。その際、交換後のナノろ過膜の種類(2<pH<5の範囲内に等電点を有する膜であるか否か)によって、pH調整部30での濃縮水CWのpH調整の実施の有無が切り替えられる。具体的には、ナノろ過膜が2<pH<5の範囲内に等電点を有する膜でない場合には、等電点のような特定の値までpH調整を行わないことで、pH添加剤を効率良く使用できる。したがって、薬品の添加量を低減しつつ、pHの影響を抑え、海水を原料とする被処理水Wから高効率でマグネシウムイオンを回収することができる。
【0038】
<第二実施形態>
次に、本開示に係る第二実施形態の塩化マグネシウムの製造システム1Aについて説明する。なお、以下に説明する第二実施形態においては、上記第一実施形態と共通する構成については図中に同符号を付してその説明を省略する。第二実施形態では、塩化マグネシウムの製造システム1Aが、pH調整濃縮水CPWに溶解する炭酸を低減する点で第一実施形態と異なっている。
【0039】
第二実施形態の塩化マグネシウムの製造システム1Aは、図2に示すように、脱炭酸部80をさらに備える。
【0040】
脱炭酸部80は、pH調整濃縮水CPWに溶解する炭酸を低減する。つまり、脱炭酸部80は、第一除去部10に対して、被処理水Wの流通方向の上流の位置には配置されておらず、被処理水Wの流通方向の下流の位置のみに配置されている。脱炭酸部80は、第一除去部10と第二除去部20との間又は第二除去部20と濃縮部50との間に配置されている。第二実施形態では、第一除去部10と第二除去部20との間に配置された脱炭酸部80を例に挙げて説明する。脱炭酸部80は、第二供給ラインL2の途中に配置されている。脱炭酸部80は、例えば、脱炭酸塔のような公知の構成を採用することができる。例えば、脱炭酸部80は、まず、pH調整濃縮水CPWに酸を加える。pH調整濃縮水CPWに加える酸として、pH調整剤と同じ薬品が好ましい。脱炭酸部80で添加する酸としては、例えば、塩酸が挙げられる。その後、脱炭酸部80では、pH調整濃縮水CPWを曝気することで、pH調整濃縮水CPWに含まれる炭酸が除去される。脱炭酸部80では、pH調整濃縮水CPWのpHが、2<pH≦4の範囲内となるまで曝気され、脱炭酸処理が継続される。これは、pHを4以下とすることで、溶液であるpH調整濃縮水CPWから炭酸が除去できているとみなせるためである。脱炭酸部80で脱炭酸処理されたpH調整濃縮水CPWは、第二供給ラインL2を介して第二除去部20に供給される。
【0041】
(作用効果)
第二実施形態の塩化マグネシウムの製造システム1Aでは、脱炭酸部80によって、pH調整濃縮水CPWに溶解する炭酸が低減されている。そのため、濃縮部50には、炭酸が除去された状態のナトリウムイオン低減水NWが供給されて、塩化マグネシウムが晶析したスラリーSが生成される。その結果、濃縮部50で濃縮してスラリーSを生成する際に、スラリーSに不純物して含まれてしまう炭酸カルシウムの生成量を低減することができる。特に、第一除去部10に供給される被処理水Wではなく、第一除去部10から排出される濃縮水CWに対して脱炭酸処理を施すことで、脱炭酸処理のために添加する酸の量を抑えることができる。これにより、脱炭酸処理でも薬品の添加量を低減しつつ、不純物である炭酸カルシウムの生成を抑制できる。
【0042】
また、本実施形態では、脱炭酸部80は、第一除去部10と第二除去部20との間に配置されている。そのため、ナノろ過膜を通過する前のpH調整濃縮水CPW中から炭酸を除去できる。したがって、ナノろ過膜での炭酸スケールの発生を抑えることができる。
【0043】
なお、本実施形態では、脱炭酸部80は、第一除去部10と第二除去部20との間に配置されていたが、第二除去部20と濃縮部50との間に配置されていてもよい。第二除去部20に供給されるpH調整濃縮水CPWと、第二除去部20から排出されるナトリウムイオン低減水NWとでは、ナトリウムイオン低減水NWの流量の方が少なくなっている。そのため、脱炭酸部80を第二除去部20と濃縮部50との間に配置することで、添加する酸の量をより抑えることができる。これにより、薬品の添加量を大きく低減しつつ、不純物である炭酸カルシウムの生成を抑制できる。
【0044】
また、脱炭酸部80は、酸を添加してpH調整濃縮水CPWのpHを2<pH≦4の範囲内に調整して曝気している。したがって、既に、pH調整部30でpHが2<PH<5の範囲内に調整された状態で、pHを2<pH≦4の範囲内に調整することになる。そのため、ほとんど酸を添加する必要がなくなっている。つまり、添加する酸の量を非常に抑えることができる。これにより、薬品の添加量を非常に大きく低減しつつ、不純物である炭酸カルシウムの生成を抑制できる。
【0045】
<第三実施形態>
次に、本開示に係る第三実施形態の塩化マグネシウムの製造システム1Bについて説明する。なお、以下に説明する第三実施形態においては、上記第一実施形態及び第二実施形態と共通する構成については図中に同符号を付してその説明を省略する。第三実施形態では、第一除去部10Bの内部の構成が第一実施形態及び第二実施形態と異なっている。
【0046】
第三実施形態の塩化マグネシウムの製造システム1Bでは、図3に示すように、第一除去部10Bは、異なる二種類の膜を有する電気透析槽である。第三実施形態の第一除去部10Bは、陽極11と、陰極12と、複数の第一膜15と、複数の第二膜16とを有している。つまり、第一除去部10Bでは、陽極11と陰極12との間には、第一膜15及び第二膜16の二種類の膜のみが配置されている。第一膜15は、陽極11と陰極12との間に間隔を開けて複数配置されている。第二膜16は、陽極11と陰極12との間で第一膜15と間隔を開けて交互に複数配置されている。第一膜15は、陽イオン交換膜である。第二膜16は、一価選択性陰イオン交換膜又はナノろ過膜である。
【0047】
また、第一除去部10Bでは、陽極11及び陰極12の間には、交互に配置された第一膜15及び第二膜16によって、複数の濃縮室102及び複数の希釈室101が形成されている。濃縮室102と希釈室101とは、第一膜15又は第二膜16を介して隣り合っている。
【0048】
濃縮室102には、隣に位置する希釈室101から陽イオン交換膜である第一膜15を透過したカルシウムイオン(Ca2+)やマグネシウムイオンが流入する。さらに、濃縮室102には、逆側の隣に位置する希釈室101から一価選択性陰イオン交換膜又は一価選択性ナノろ過膜である第二膜16を透過した塩化物イオンが流入する。濃縮室102は、入口及び出口の両方がオーバーフロー循環ラインLOに接続されている。これにより、濃縮室102では、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、及び塩化物イオンが濃縮された濃縮水CWが排出される。濃縮室102から排出された濃縮水CWは、オーバーフロー循環ラインLOによってpH調整部30を経て循環し、再び濃縮室102に供給される。
【0049】
また、希釈室101には、第二膜16を透過できなかった硫酸イオンが残存する。さらに、希釈膣には、第一膜15を透過せずに、わずかに残ったカルシウムイオン等が残存する。希釈室101からは、希釈水AWが排出される。
【0050】
(作用効果)
第三実施形態の塩化マグネシウムの製造システム1Bでは、第一除去部10Bにおいて、第一膜15として、陽イオン交換膜が使用され、第二膜16として、一価選択性陰イオン交換膜又は一価選択性ナノろ過膜が使用されている。そして、陽極11と陰極12との間には、第一膜15及び第二膜16の二種類の膜のみが配置されている。一価選択性陰イオン交換膜及び一価選択性ナノろ過膜では、一価のイオンを選択的に透過させ、多価のイオンを透過させない。そのため、二価の陰イオンである硫酸イオンをより多く除去することが可能とされている。つまり、第一除去部10Bは、硫酸イオンの除去に特化した構造となる。さらに、第一除去部10Bでは、陽極11と陰極12との間に、第一膜15及び第二膜16の一対の膜のみが多数配置された状態となっている。そのため、第一除去部10Bにおける膜全体としての膜面積が減少し、第一除去部10Bでの膜のコストを抑えることができる。さらに、一対の膜が陽極11と陰極12との間に多数配置されるため、三種や四種の膜を使用した電気透析槽に比べて、陽極11と陰極12との間での膜の積総数(電気を流す部分の厚み)が小さくなる。その結果、電気透析にかかる電力コストも抑えることができる。これらにより、第一除去部10Bで、コストを抑えて、多くの硫酸イオンを除去することができる。
【0051】
また、第二膜16として一価選択性陰イオン交換膜又は一価選択性ナノろ過膜が使用されるが、一価選択性ナノろ過膜は、一価選択性陰イオン交換膜に比べて、非常に低コストとなっている。そのため、一価選択性陰イオン交換膜ではなく、一価選択性ナノろ過膜を使用することで、第一除去部10Bで、よりコストを抑えて、多くの硫酸イオンを除去することができる。
【0052】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0053】
なお、塩化マグネシウムの製造システム1、1A、1Bでは、pH調整部30でpHが調整された濃縮水CWの一部が第二除去部20に供給されれば、上述した構成に限定されるものではない。例えば、第一除去部10、10Bは、濃縮水CWをオーバーフロー循環ラインLOに供給して、pHが調整された濃縮水CWを循環させる構成でなくてもよい。即ち、pH調整部30は、オーバーフロー循環ラインLOにpH調整剤を添加する構造でなくてもよい。例えば、pH調整部30は、第二供給ラインL2にpH調整剤を添加する構造であってもよい。また、濃縮水CWをオーバーフロー循環ラインLOにpH調整剤を添加するpH調整部30に加えて、第二供給ラインL2にpH調整剤を添加するpH調整部30をさらに備えた構造であってもよい。
【0054】
また、第二除去部20は、本実施形態のように一つのナノろ過膜を有する構造に限定されるものではない。第二除去部20は、複数のナノろ過膜を有する多段の構造であってもよい。その際、多段構造のナノろ過膜では、各ナノろ過膜の供給部にpH調整部30を配置してもよい。
【0055】
また、濃縮部50は、塩化マグネシウムを含むスラリーSを得られれば他の構成であってもよい。例えば、濃縮部50は沈降等を利用して塩化マグネシウムを含むスラリーSを取得してもよい。
【0056】
<付記>
各実施形態に記載の塩化マグネシウムの製造システム1、1A、1Bは、例えば以下のように把握される。
【0057】
(1)第1の態様に係る塩化マグネシウムの製造システム1、1A、1Bは、海水を原料とする被処理水W中の硫酸イオンを電気透析で低減し、前記硫酸イオンの濃度が低減されてマグネシウムイオンが濃縮された濃縮水CWを排出する第一除去部10、10Bと、前記第一除去部10、10Bから排出された前記濃縮水CWにpH調整剤を添加して、前記濃縮水CWのpHを2<pH<5の範囲内に調整するpH調整部30と、前記pH調整部30でpHが調整された前記濃縮水CWの一部が供給され、pHが調整された前記濃縮水CWの一部に含まれるナトリウムイオンの濃度を低減させ、前記ナトリウムイオンの濃度が低減されたナトリウム低減水を排出する第二除去部20と、前記第二除去部20から排出された前記ナトリウム低減水を濃縮し、塩化マグネシウムが晶析したスラリーSを生成する濃縮部50と、を備え、前記第二除去部20は、pHが調整された前記濃縮水CWの一部から一価イオンと多価イオンを分離するナノろ過膜を有する。
【0058】
このような構成によれば、濃縮水CWのpHが2<pH<5の範囲内に調整されることで、第二除去部20で、ナノろ過膜によってナトリウムイオンを低減させる際に、マグネシウムイオンも低減されてしまうことを抑制できる。つまり、第二除去部20で、ナトリウムイオン低減水NWに含まれるマグネシウムの濃度が低下してしまうことを抑制できる。したがって、濃縮部50で回収できるスラリーS含まれる塩化マグネシウムの量が減ってしまうことをよくできる。これにより、被処理水Wから高効率でマグネシウムイオンを回収することができる。そして、第一除去部10、10Bに供給される被処理水Wではなく、第一除去部10、10Bから排出される濃縮水CWにpH調整剤を添加している。濃縮水CWの量は、第一除去部10、10Bに供給される被処理水Wの量に対して極めて少なくなっている。したがって、添加するpH調整剤の量を抑えることができる。これにより、薬品の添加量を低減しつつ、pHの影響を抑え、海水を原料とする被処理水Wから高効率でマグネシウムイオンを回収できる。
【0059】
(2)第2の態様に係る塩化マグネシウムの製造システム1、1A、1Bは、(1)の塩化マグネシウムの製造システム1、1A、1Bであって、前記ナノろ過膜は、2<pH<5の範囲内に等電点を有する膜である。
【0060】
ナノろ過膜では、pHとマグネシウムイオンの除去率は相関関係があることが発明者らによって見出された。具体的には、溶液のpHが、ナノろ過の等電点に近い範囲で低いほど、マグネシウムイオンの除去率が特に向上することが発明者らによってわかっている。これに対し、本願発明では、ナノろ過膜は、2<pH<5の範囲内に等電点を有している。したがって、第二除去部20でのマグネシウムイオンの除去率(回収率)を向上させることができる。
【0061】
(3)第3の態様に係る塩化マグネシウムの製造システム1、1A、1Bは、(1)又は(2)の塩化マグネシウムの製造システム1、1A、1Bであって、pHが調整された前記濃縮水CWの一部に溶解する炭酸を低減する脱炭酸部80をさらに備える。
【0062】
このような構成によれば、濃縮部50には、炭酸が除去された状態のナトリウムイオン低減水NWが供給されて、塩化マグネシウムが晶析したスラリーSが生成される。その結果、濃縮部50で濃縮してスラリーSを生成する際に、スラリーSに不純物して含まれてしまう炭酸カルシウムの生成量を低減することができる。特に、第一除去部10、10Bに供給される被処理水Wではなく、第一除去部10、10Bから排出される濃縮水CWに対して脱炭酸処理を施すことで、添加する酸の量を抑えることができる。これにより、薬品の添加量を低減しつつ、不純物である炭酸カルシウムの生成を抑制できる。
【0063】
(4)第4の態様に係る塩化マグネシウムの製造システム1、1A、1Bは、(3)の塩化マグネシウムの製造システム1、1A、1Bであって、前記脱炭酸部80は、前記第一除去部10、10Bと前記第二除去部20との間又は前記第二除去部20と前記濃縮部50との間に配置されている。
【0064】
このような構成によれば、脱炭酸部80は、第一除去部10、10Bと第二除去部20との間に配置されている。そのため、ナノろ過膜を通過する前のpH調整濃縮水CPW中から炭酸を除去できる。したがって、ナノろ過膜での炭酸スケールの発生を抑えることができる。また、脱炭酸部80を第二除去部20と濃縮部50との間に配置することで、添加する酸の量をより抑えることができる。これにより、薬品の添加量を大きく低減しつつ、不純物である炭酸カルシウムの生成を抑制できる。
【0065】
(5)第5の態様に係る塩化マグネシウムの製造システム1、1A、1Bは、(3)又は(4)の塩化マグネシウムの製造システム1、1A、1Bであって、前記脱炭酸部80は、pHが調整された前記濃縮水CWの一部に酸を添加してpHを2<pH≦4の範囲内に調整した後に曝気する。
【0066】
このような構成によれば、既に、pH調整部30でpHが2<PH<5の範囲内に調整された状態で、pHを2<pH≦4の範囲内に調整することになる。そのため、ほとんど酸を添加する必要がなくなる。つまり、添加する酸の量を非常に抑えることができる。これにより、薬品の添加量を非常に大きく低減しつつ、不純物である炭酸カルシウムの生成を抑制できる。
【0067】
(6)第6の態様に係る塩化マグネシウムの製造システム1、1A、1Bは、(1)から(5)のいずれか一つの塩化マグネシウムの製造システムであって、前記第一除去部10Bは、陽極11と、陰極12と、前記陽極11と前記陰極12との間に配置された第一膜15と、前記陽極11と前記陰極12との間で前記第一膜15と間隔を開けて交互に配置された第二膜16とを有し、前記陽極11と前記陰極12との間には、前記第一膜15及び前記第二膜16の二種類の膜のみが配置され、前記第一膜15は、陽イオン交換膜であり、前記第二膜16は、一価選択性陰イオン交換膜又は一価選択性ナノろ過膜である。
【0068】
このような構成によれば、陽極11と陰極12との間には、第一膜15及び第二膜16の二種類の膜のみが配置されている。一価選択性陰イオン交換膜及び一価選択性ナノろ過膜では、一価のイオンを選択的に透過させ、多価のイオンを透過させない。そのため、二価の陰イオンである硫酸イオンをより多く除去することが可能とされている。つまり、第一除去部10Bは、硫酸イオンの除去に特化した構造となる。さらに、第一除去部10Bでは、陽極11と陰極12との間に、第一膜15及び第二膜16の一対の膜のみが多数配置された状態となっている。そのため、第一除去部10Bにおける膜全体としての膜面積が減少し、第一除去部10Bでの膜のコストを抑えることができる。さらに、一対の膜が陽極11と陰極12との間に多数配置されるため、三種や四種の膜を使用した電気透析槽に比べて、陽極11と陰極12との間での膜の積総数(電気を流す部分の厚み)が小さくなる。その結果、電気透析にかかる電力コストも抑えることができる。これらにより、第一除去部10Bで、コストを抑えて、多くの硫酸イオンを除去することができる。
【0069】
(7)第7の態様に係る塩化マグネシウムの製造システム1、1A、1Bの運転方法は、海水を原料とする被処理水W中の硫酸イオンを電気透析で低減し、前記硫酸イオンが低減されてマグネシウムイオンが濃縮された濃縮水と、前記硫酸イオンが濃縮されて前記マグネシウムイオンが希釈されている希釈水とを排出する第一除去部10、10Bと、前記第一除去部10、10Bから排出された前記濃縮水CWにpH調整剤を添加して、前記濃縮水CW中のpHを2~5の間に調整するpH調整部30と、前記pH調整部30でpHが調整された前記濃縮水CWの一部が供給され、前記濃縮水CWの一部に含まれるナトリウムイオンの濃度を低減させ、前記ナトリウムイオンの濃度が低減されたナトリウム低減水を排出する第二除去部20と、前記第二除去部20から排出された前記ナトリウム低減水を濃縮し、塩化マグネシウムが晶析したスラリーSを生成する濃縮部50と、を備える塩化マグネシウムの製造システム1、1A、1Bの運転方法であって、前記第二除去部20は、pHが調整された前記濃縮水CWの一部から一価イオンと多価イオンを分離するナノろ過膜を有し、前記ナノろ過膜が、2<pH<5の範囲内に等電点を有する膜である場合に、前記pH調整部30によって、前記濃縮水CW中のpHを2~5の間に調整させる。
【0070】
このような構成によれば、交換後のナノろ過膜の種類(2<pH<5の範囲内に等電点を有する膜であるか否か)によって、pH調整部30での濃縮水CWのpH調整の実施の有無が切り替えられる。したがって、ナノろ過膜が2<pH<5の範囲内に等電点を有する膜でない場合には、pH調整を行わないことで、pH添加剤を効率良く使用できる。
【符号の説明】
【0071】
1、1A、1B…塩化マグネシウムの製造システム
10、10B…第一除去部
20…第二除去部
50…濃縮部
30…pH調整部
L1…第一供給ライン
LO…オーバーフロー循環ライン
L2…第二供給ライン
L3…第三供給ライン
100…マグネシウムの製造システム
60…生成部
70…電解部
L4…第四供給ライン
L5…第五供給ライン
W…被処理水
CW…濃縮水
AW…希釈水
PW…pH調整水
EW1…第一廃水
CPW…pH調整濃縮水
NW…ナトリウムイオン低減水
EW2…第二廃水
FW…廃液
S…スラリー
80…脱炭酸部
11…陽極
12…陰極
15…第一膜
16…第二膜
101…希釈室
102…濃縮室
図1
図2
図3