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特開2025-99322全固体リチウムイオン電池用正極材料、正極及びその製造方法並びに全固体リチウムイオン電池
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  • 特開-全固体リチウムイオン電池用正極材料、正極及びその製造方法並びに全固体リチウムイオン電池 図1
  • 特開-全固体リチウムイオン電池用正極材料、正極及びその製造方法並びに全固体リチウムイオン電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099322
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン電池用正極材料、正極及びその製造方法並びに全固体リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20250626BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250626BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20250626BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20250626BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20250626BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M4/139
H01M4/13
H01M10/0565
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215900
(22)【出願日】2023-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521493765
【氏名又は名称】株式会社関兵
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】劉 長林
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM14
5H029AM16
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029CJ22
5H029DJ09
5H029DJ16
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA13
5H050EA11
5H050EA28
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA22
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】全固体リチウムイオン電池に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる新規な正極材料及び該正極材料を有する正極並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、全固体リチウムイオン電池用正極材料であって、電解質粒子を少なくとも含み、前記電解質粒子は、ポリエーテルブロックアミド共重合体及びリチウム塩を含有する。本発明の正極材料は、全固体リチウムイオン電池に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体リチウムイオン電池用正極材料であって、
電解質粒子を少なくとも含み、
前記電解質粒子は、ポリエーテルブロックアミド共重合体及びリチウム塩を含有する、全固体リチウムイオン電池用正極材料。
【請求項2】
前記ポリエーテルブロックアミド共重合体は、構造単位中にポリエーテル部位及びポリアミド部位を有する、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記ポリエーテルブロックアミド共重合体の前記構造単位は、下記一般式(1)
-(CO-PA-COO-PE-O)- (1)
(ここで、PAはポリアミド部位を示し、PEはポリエーテル部位を示す)
で表される、請求項2に記載の正極材料。
【請求項4】
正極活物質、バインダー及び導電助剤をさらに含む、請求項1に記載の正極材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の正極材料を備える、全固体リチウムイオン電池用正極。
【請求項6】
請求項5に記載の正極を備える、全固体リチウムイオン電池。
【請求項7】
請求項5に記載の全固体リチウムイオン電池用正極を製造する方法であって、
前記電解質粒子及び溶媒を含むスラリーを集電体上に塗布してコーティング膜を形成する工程と、
前記コーティング膜を熱プレスすることで前記正極材料を得る工程と
を備える、全固体リチウムイオン電池用正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン電池用正極材料、正極及びその製造方法並びに全固体リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体リチウムイオン電池は、最も有望な次世代エネルギー貯蔵装置として大きな期待が寄せられている。全固体リチウムイオン電池は、可燃性有機液体電解質を含まないので、安全上の問題を引き起こしにくいと考えられることから、安全性の問題に対する究極の解決策と考えられている。
【0003】
一方で、現状の各種全固体リチウムイオン電池は、電極と電解質の界面抵抗が大きいため、電極間のリチウムイオンの移動抵抗が高くなる原因となり、また、正極(カソード)側の活物質担持量の増加(負荷変動耐性)を制限するため、電池として出力を上げにくいという課題がある。従って、現状の全固体リチウムイオン電池には改善の余地が残されており、より優れた電池性能を実現すべく、盛んに研究開発が進められている。例えば、非特許文献1には、ポリマー骨格に結合したペンダント分子を含む架橋ポリマーを全固体リチウムイオン電池に適用した技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】Journal of the American Chemical Society, 138 (2016) 9385-9388.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、電池容量が大きく、サイクル数が増えても安定した電池容量を有する全固体リチウムイオン電池が求められている。従って、優れたイオン伝導性と電子伝導性の両方を備えた高負荷耐性を有する正極を開発することは、全固体リチウムイオン電池の実用化を大きく前進させるものであり、新規な正極材料を開発することは当該分野で極めて重要な位置づけにある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、全固体リチウムイオン電池に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる新規な正極材料及び該正極材料を有する正極並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリエーテルブロックアミド共重合体及びリチウム塩を含有する電解質粒子を必須成分とすることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
全固体リチウムイオン電池用正極材料であって、
電解質粒子を少なくとも含み、
前記電解質粒子は、ポリエーテルブロックアミド共重合体及びリチウム塩を含有する、全固体リチウムイオン電池用正極材料。
項2
前記ポリエーテルブロックアミド共重合体は、構造単位中にポリエーテル部位及びポリアミド部位を有する、項1に記載の正極材料。
項3
前記ポリエーテルブロックアミド共重合体の前記構造単位は、下記一般式(1)
-(CO-PA-COO-PE-O)- (1)
(ここで、PAはポリアミド部位を示し、PEはポリエーテル部位を示す)
で表される、項2に記載の正極材料。
項4
正極活物質、バインダー及び導電助剤をさらに含む、項1~3のいずれか1項に記載の正極材料。
項5
項1~4のいずれか1項に記載の正極材料を備える、全固体リチウムイオン電池用正極。
項6
項5に記載の正極を備える、全固体リチウムイオン電池。
項7
項5に記載の全固体リチウムイオン電池用正極の製造方法であって、
前記電解質粒子及び溶媒を含むスラリーを集電体上に塗布してコーティング膜を形成する工程と、
前記コーティング膜を熱プレスすることで前記正極材料を得る工程と
を備える、全固体リチウムイオン電池用正極の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の全固体リチウムイオン電池用正極材料は、全固体リチウムイオン電池に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例及び比較例の正極に形成されている正極材料の断面をSEM観察した結果である。
図2】比較例1の正極を備えるコインセルの、60℃における容量保持性能を示すグラフである。
図3】実施例1の正極を備えるコインセルの、60℃における容量保持性能を示すグラフである。
図4】正極材料における三次元電子伝導ネットワークを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
1.全固体リチウムイオン電池用正極材料
本発明の全固体リチウムイオン電池用正極材料(以下、「正極材料」と略記することがある)は、電解質粒子を少なくとも含み、前記電解質粒子は、ポリエーテルブロックアミド共重合体及びリチウム塩を含有する。
【0013】
本発明の正極材料は、前記電解質粒子を含むことで、全固体リチウムイオン電池に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる。従って、本発明の正極材料は、全固体リチウムイオン電池に組み込まれる正極を形成するための材料として好適に使用することができる。
【0014】
(電解質粒子)
電解質粒子は、少なくともポリエーテルブロックアミド共重合体及びリチウム塩を含有するものであって、粒子状に形成された材料である。もっとも、後記するように正極材料は熱プレスの処理がなされるので、これにより、正極においては電解質粒子が正極活物質と共に粒子どうしが融着された形態となり得る。
【0015】
前記リチウム塩の種類は特に限定されず、例えば、全固体リチウムイオン電池の電解質に用いられる公知のリチウム塩を広く挙げることができる。
【0016】
リチウム塩としては、LiPF(六フッ化リン酸リチウム)、LiClO、LiBF、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロ(シュウ酸塩)ホウ酸塩(LiDFOB)、LiF,LiCl、LiBr、LiI、LiN、LiP、LiS、LiNO等が例示される。電解質粒子に含まれるリチウム塩は、1種単独又は2種以上とすることができる。
【0017】
リチウム塩は、公知の方法で製造することができ、また、市販品等から入手することもできる。
【0018】
電解質粒子がリチウム塩を含有することで、リチウムイオンの転導性が向上するので、全固体リチウムイオン電池に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる。
【0019】
ポリエーテルブロックアミド共重合体は、電解質粒子を構成する主成分である。ポリエーテルブロックアミド共重合体の種類は特に限定されず、例えば、公知のポリエーテルブロックアミド共重合体を本発明でも広く適用することができる。
【0020】
ポリエーテルブロックアミド共重合体は、構造単位中にポリエーテル部位(ポリエーテルセグメントともいう)及びポリアミド部位(ポリアミドセグメントともいう)を有することができる。
【0021】
ポリエーテルセグメントの種類は特に限定されず、例えば、公知のポリエーテルを広く適用することができる。ポリエーテルセグメントとしては、例えば、ポリアルキレンオキシドを挙げることができ、具体的にはポリエチレンオキシド、ポリメチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド、ポリテトラメチレンオキシド、ポリトリメチレンオキシド等を挙げることができる。ポリエーテルセグメントの数平均分子量は特に限定されない。
【0022】
ポリアミドセグメントの種類は特に限定されず、例えば、公知のポリアミドを広く適用することができる。ポリアミドセグメントとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610等を挙げることができる。ポリアミドセグメントの数平均分子量は特に限定されない。
【0023】
前記ポリエーテルブロックアミド共重合体の前記構造単位は、下記式(1)
-(CO-PA-COO-PE-O)- (1)
で表される構造を有することが好ましい。
【0024】
式(1)において、PAは前記ポリアミド部位を示す。すなわち、式(1)中のPAは、前記ポリアミドセグメントと同義である。式(1)において、PEは前記ポリエーテル部位を示す。すなわち、式(1)のPEは、前記ポリエーテルセグメントと同義である。
【0025】
式(1)で表される構造単位は、例えば、PAがナイロン12、PEがポリテトラメチレンオキシドである構造単位を挙げることができる。この場合、本発明の正極材料は、全固体リチウムイオン電池に特に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる。
【0026】
前記ポリエーテルブロックアミド共重合体が式(1)で表される構造単位を備える場合、斯かるポリエーテルブロックアミド共重合体は、その構造中に、優れた動的特性を可能にする硬質ポリアミド(PA)ブロックと軟質ポリエーテル(PE)ブロックが含まれることになる点で有利である。必ずしも限定的な解釈を望むものではないが、ポリエーテルブロックアミド共重合体が有するアミド基及びエーテル基はいずれも、リチウム塩と相互作用するための豊富な化学的性質を提供できるものと推察される。
【0027】
前記ポリエーテルブロックアミド共重合体の数平均分子量は特に限定されず、例えば、従来の全固体リチウムイオン電池に使用されるポリマー材料の数平均分子量と同様の範囲とすることができる。
【0028】
電解質粒子に含まれるポリエーテルブロックアミド共重合体は1種単独又は2種以上とすることができる。電解質粒子がポリエーテルブロックアミド共重合体を2種以上含む場合、例えば、PAやPEの種類の異なる2種以上のポリエーテルブロックアミド共重合体が電解質粒子に含まれていてもよい。
【0029】
前記ポリエーテルブロックアミド共重合体を製造する方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法により、ポリエーテルブロックアミド共重合体を製造することができる。また、ポリエーテルブロックアミド共重合体は、市販品等から入手することもでき、例えば、アルケマ社のPebax(登録商標)エラストマーを挙げることができ、具体的には、「PEBA2533」、「PEBAX」等が例示される。
【0030】
電解質粒子は、本発明の効果が阻害されない限り、前記ポリエーテルブロックアミド共重合体以外の他の高分子化合物を含むことができ、また、リチウム塩以外の電解質を含むこともできる。また、電解質粒子は、本発明の効果が阻害されない限り、他の成分が含まれていてもよい。電解質粒子は、前記ポリエーテルブロックアミド共重合体及びリチウム塩のみからなるものであってもよい。
【0031】
電解質粒子において、前記ポリエーテルブロックアミド共重合体及びリチウム塩の含有割合は特に限定されない。例えば、電解質粒子に含まれる前記リチウム塩の含有割合は、5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、15~30質量%であることがさらに好ましい。
【0032】
電解質粒子の形状は特に限定されず、例えば、球形、楕円形、球や楕円以外の異形状等が挙げられる。電解質粒子の大きさも特に限定されず、例えば、1~50μmとすることができ、好ましくは5~10μmとすることができる。ここでいう電解質粒子の大きさは、電極の走査型電子顕微鏡による直接観察によって無作為に50個の粒子を選択し、これらの円相当径を計測して算術平均した値をいう。
【0033】
電解質粒子の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の粒子の製造方法を広く採用することができる。例えば、前記ポリエーテルブロックアミド共重合体と、リチウム塩と、溶剤とを混合することで、ゲル化物を得た後、このゲル化物を粉砕することで、電解質粒子を得ることができる。粉砕して得られた電解質粒子に含まれる溶剤は、適宜の方法で乾燥させることができる。あるいは、ゲル化物に含まれる溶剤を適宜の方法で乾燥させてから粉砕してもよい。
【0034】
電解質粒子を製造するにあたって使用する前記溶剤は、各種有機溶媒を挙げることができる。有機溶媒としては、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の塩素系炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル化合物;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;酢酸ビニル等のエステル化合物;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールおよびt-ブタノール等のアルコール;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のホルムアミド;2-ピロリドン、N-メチルピロリドン等のピロリドン;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0035】
ポリエーテルブロックアミド共重合体と、リチウム塩と、溶剤とを混合する方法も特に限定されず、これらを所定の配合量で混合すればよい。この混合にあたっては、使用する溶媒の沸点等を考慮した上で適宜加温することもでき、例えば、40~80℃で混合することができる。ゲル化物を粉砕する方法も特に限定されず、例えば、公知の粉砕手段を用いて粉砕を行うことができる。
【0036】
(正極材料)
本発明の正極材料は、前述の電解質粒子の他、正極活物質、バインダー及び導電助剤をさらに含むことができる。正極活物質、バインダー及び導電助剤は、例えば、公知の全固体リチウムイオン電池の正極(カソード)を形成するために用いられている材料を広く挙げることができる。
【0037】
正極活物質としては、リチウム系の各種正極活物質が挙げられる。正極活物質の例として、LiFePO、LiCoO、LiNiMnCo(0.3≦x≦0.95、0.025≦y≦0.4、0.025≦y≦0.4)、LiNi1-y-zCoAl(0.05≦y≦0.15、0<z≦0.05)、LiMn、LiMPO(M=Co、Ni)、LiFePOF、V、Li(1.5≦x≦5.5)、Li1-XVOPO(0.5≦x≦0.92)、LiTi12、LiFeMO(M=Mn、Si)、S、Se、SeS、Na(PO、NaMnP、NaFePO、NaMnZr(PO等が挙げられる。
【0038】
バインダーとしては、全固体リチウムイオン電池において使用されている公知の材料を使用することができ、例えば、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリエチレンオキシド等の各種ポリマーが例示される。
【0039】
導電助剤としては、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、気相成長カーボンファイバー、カーボンナノチューブ等が例示される。
【0040】
本発明の正極材料において、電解質粒子の含有割合は、例えば、電解質粒子、正極活物質、バインダー及び導電助剤の総質量に対して1~50質量%であることが好ましく、5~40質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましく、15~25質量%であることが特に好ましい。
【0041】
本発明の正極材料において、正極活物質の含有割合は、例えば、電解質粒子、正極活物質、バインダー及び導電助剤の総質量に対して30~80質量%であることが好ましく、40~70質量%であることがより好ましく、45~60質量%であることがさらに好ましい。
【0042】
本発明の正極材料において、導電助剤の含有割合は、例えば、電解質粒子、正極活物質、バインダー及び導電助剤の総質量に対して1~30質量%であることが好ましく、3~20質量%であることがより好ましく、5~15質量%であることがさらに好ましい。
【0043】
本発明の正極材料は、電解質粒子が含まれることで、正極材料中の三次元電子伝導ネットワークが構築され、優れたリチウムイオンの電子転導をもたらし、この結果、全固体リチウムイオン電池に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる。特に本発明の正極材料は、後記する図4に示すように、正極活物質と電解質粒子とが密に接触しているので、リチウムイオンの電子転導に特に有利である。
【0044】
2.全固体リチウムイオン電池用正極
本発明の全固体リチウムイオン電池用正極(以下、「正極」と略記することがある)は、前述の本発明の正極材料を備える。本発明の正極は、全固体リチウムイオン電池に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる。従って、本発明の正極材料は、全固体リチウムイオン電池に組み込まれる電極として好適に使用することができる。
【0045】
本発明の正極は、例えば、集電体上に正極材料が形成されてなる。集電体の種類は特に限定されず、例えば、公知の正極に用いられる集電体を広く採用することができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等の金属箔等が挙げられる。金属箔の形状は、例えば、多孔質体、箔、板、繊維からなるメッシュ等である。
【0046】
本発明の正極は、例えば、下記の工程1及び工程2を備える製造方法によって製造される。
工程1:前記電解質粒子及び溶媒を含むスラリーを集電体上に塗布してコーティング膜を形成する工程。
工程2:前記コーティング膜を熱プレスすることで前記正極材料を得る工程。
【0047】
工程1で使用するスラリーは、前記電解質粒子及び溶媒を含む他、正極材料を形成するために必要な成分を含む。従って、スラリーは、前記電解質粒子の他、前述の正極活物質、バインダー及び導電助剤をさらに含むことができる。スラリーに含まれる溶媒は、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の塩素系炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル化合物;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;酢酸ビニル等のエステル化合物;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールおよびt-ブタノール等のアルコール;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のホルムアミド;2-ピロリドン、N-メチルピロリドン等のピロリドン;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0048】
中でも、溶媒は、電解質粒子が溶解しないものであることが好ましく、この観点から2-ピロリドン、N-メチルピロリドン等のピロリドン系が好ましい。
【0049】
前記スラリーにおいて、電解質粒子の含有割合は、例えば、電解質粒子、正極活物質、バインダー及び導電助剤の総質量に対して1~50質量%であることが好ましく、5~40質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましく、15~25質量%であることが特に好ましい。
【0050】
前記スラリーにおいて、正極活物質の含有割合は、例えば、電解質粒子、正極活物質、バインダー及び導電助剤の総質量に対して30~80質量%であることが好ましく、40~70質量%であることがより好ましく、45~60質量%であることがさらに好ましい。
【0051】
前記スラリーにおいて、導電助剤の含有割合は、例えば、電解質粒子、正極活物質、バインダー及び導電助剤の総質量に対して1~30質量%であることが好ましく、3~20質量%であることがより好ましく、5~15質量%であることがさらに好ましい。
【0052】
前記スラリーの調製方法は特に限定されず、例えば、電解質粒子を含む所定の材料と溶媒とを混合することでスラリーを得ることができる。
【0053】
前記工程1では、上述のスラリーを集電体上に塗布してコーティング膜を形成する。塗布する方法は特に限定されず、例えば、公知の塗工手段を広く用いることができる。集電体上にコーティング膜を形成するにあたり、スラリーを集電体上に塗布した後、適宜の条件で加熱することができる。溶媒が乾燥することにより、集電体上にコーティング膜が形成される。加熱方法及び加熱条件は特に限定されず、例えば、60~150℃であり、好ましくは70~100℃である。
【0054】
工程2では、前記コーティング膜を熱プレスする。これにより、集電体上に目的の正極材料が形成され、正極が得られる。
【0055】
熱プレスの方法は特に限定されず、例えば、公知の熱プレス機を用いて熱プレスを行うことができる。熱プレスの温度は、例えば、50~200℃であり、好ましくは70~180℃、より好ましくは80~150℃である。また、熱プレス時の圧力は、例えば、0.1~5MPa、好ましくは0.5~4MPa、より好ましくは1~3MPaである。
【0056】
斯かる熱プレスにより、正極材料中の正極活物質と電解質粒子とが密に接触し、高度な三次元電子伝導ネットワークが構築され、優れたリチウムイオンの電子転導をもたらし、この結果、全固体リチウムイオン電池に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる。
【0057】
3.全固体リチウムイオン電池
本発明の全固体リチウムイオン電池は、前記正極と、負極と、固体電解質とを備える。
【0058】
負極は、例えば、従来の全固体リチウムイオン電池が備える負極を広く挙げることができる。例えば、負極は、金属箔に活物質が担持された構造を有することができる。金属箔としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。金属箔の形状は、例えば、多孔質体、箔、板、繊維からなるメッシュ等が挙げられる。負極の活物質としては、Li、Na、K、Mg、Al、Zn等の金属;グラファイトおよび他の炭素材料;Si(C)ベース、Si(O)ベース又はSnベースの合金あるいは金属酸化物;LiTi12;等を挙げることができる。
【0059】
本発明の全固体リチウムイオン電池では、固体電解質として、例えば、前述の電解質粒子を熱プレスによって形成したシートを用いることができる。この場合の熱プレスの条件は、前述と同様、公知の熱プレス機を用いて熱プレスを行うことができ、熱プレスの温度は、例えば、50~200℃であり、好ましくは70~180℃、より好ましくは80~150℃である。また、熱プレス時の圧力は、例えば、0.1~5MPa、好ましくは0.5~4MPa、より好ましくは1~3MPaである。
【0060】
固体電解質は、上記の他、従来の全固体リチウムイオン電池が備える固体電解質を広く用いることもできる。例えば、固体電解質は、ベース材料と、電解質とを含んで構成され得る。
【0061】
ベース材料としては、例えば、Li10GeP12、xLiS-(1-x)P(0.6≦x≦0.85)及びNa11SnPS12等の硫化物系電解質;NaPSe;Li3xLa2/3-xTiO(0≦x≦0.16)等の酸化物系電解質;、Li1+xAlTi2-x(PO(0≦x≦0.5)(LATP);LiLa12(3≦x≦7.5、M=Ta,Nb,Zr);NaZrSiPO12;ポリマーベースの電解質;等を挙げることができる。ポリマーベースの電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)あるいは、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)を挙げることができる。
【0062】
固体電解質に含まれる電解質の種類は特に限定されず、例えば、全固体リチウムイオン電池用固体電解質に適用される公知の電解質を挙げることができる。電解質としては、LiPF、LiClO、LiTFSI、NaClO、NaBF等が例示される。
【0063】
その他、固体電解質としては、公知の無機電解質と混合してなるハイブリッド電解質を挙げることもできる。固体電解質には、前記電解質用添加剤及びベース材料及び他の電解質以外に、例えば、全固体リチウムイオン電池用固体電解質に適用されている各種添加剤をさらに含むこともできる。固体電解質の厚さも特に限定されず、例えば、30~150μmとすることができる。
【0064】
セパレータとしては、全固体リチウムイオン電池に適用されている公知のセパレータを使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリイミド;ポリビニルアルコール;末端アミノ化ポリエチレンオキシドポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;アクリル樹脂;ナイロン;芳香族アラミド;無機ガラス;セラミックス等の材質からなり、多孔質膜、不織布、織布等の形態の材料を用いることができる。
【0065】
電池の大きさ及び形状は、電池の用途に応じて適宜決定することができる。全固体リチウムイオン電池は、例えば、二次電池である。全固体リチウムイオン電池を組み立てる方法も特に制限はなく、公知の組み立て方法と同様の方法で全固体リチウムイオン電池を得ることができる。
【0066】
本開示に包含される発明を特定するにあたり、本開示の各実施形態で説明した各構成(性質、構造、機能等)は、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各構成のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0067】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0068】
(製造例1)
ポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製「PEBA2533」)のペレットと、リチウム塩としてリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)とを、質量比75:25(ポリエーテルブロックアミド共重合体(1.5g):LiTFSI(0.5g))で混合し、これを8gのN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)に加えた。その後、60℃に保持することでゲル化物を得た。その後、室温まで冷却してから、ゲル化物の粉砕処理を行った。粉砕は乳鉢で行い、得られた粉砕物はミクロンサイズのメッシュでふるい分けた。これにより、電解質粒子を得た。
【0069】
(実施例1)
正極活物質としてLiFePOを60質量%、バインダーとしてPVDFを10質量%、導電助剤としてSuperPを10質量%、及び、製造例1で得られた電解質粒子20質量%とからなる原料を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に加え、室温(25℃)で2時間にわたり撹拌することで、スラリーを調製した。このスラリーをアルミニウム箔(集電体)上に塗布し、80℃で24時間乾燥することで、アルミニウム箔上にコーティング膜を形成させた。次いで、アルミニウム箔上にコーティング膜を熱プレスすることで、アルミニウム箔上に正極材料を形成し、これを正極として得た。熱プレスは、SINTO CYPT Digital-Press L Typeを使用して行い、温度は100℃、圧力は2MPa、プレス時間は0.5時間とした。
【0070】
(比較例1)
市販のLiFePOベース電極(1.5mAhcm-2、宝泉株式会社)を正極として準備した。
【0071】
(比較例2)
製造例1で得られた電解質粒子を使用しなかったこと以外は実施例1と全て同様の方法で正極を得た。
【0072】
(コインセルの製作)
直径12mmの円形のペレットに切断した実施例又は比較例の正極と、これと同サイズのリチウム金属からなる負極とを準備した。両電極の厚みはいずれも0.1mmとした。また、固体電解質は、製造例1で得た電解質粒子を熱プレスして得た。熱プレスは、SINTO CYPT Digital-Press L Typeを使用して行い、温度は100℃、圧力は2MPa、プレス時間は0.5時間とした。これらの正極と、負極と、固体電解質を組み立てることで、全固体リチウムイオン電池としてのコインセルを得た。組み立てたコインセルを、LANDバッテリー試験システム「CT2001A」(Wuhan LAND electronics Co., Ltd. China)を使用して電気化学的性能(電池性能)を測定した。ここで、測定温度は60℃とした。コインセルは、Arを充填したグローブボックス内(HO及びO濃度がいずれも0.1ppm以下)で構築した。測定条件は、60℃、電圧範囲2.5~4.0V、電流密度0.2Cとした。
【0073】
図1には、実施例及び比較例の正極に形成されている正極材料の断面をSEM観察した結果を示している。具体的には、図1の(A)は比較例1、(B)は実施例1の正極である。この結果、実施例1の正極に形成されている正極材料は、比較例1に形成されている正極材料よりも密に形成されていることがわかった。
【0074】
図2は、比較例1の正極を備えるコインセルの、60℃における容量保持性能を示すグラフである(図2中の第2Y軸の「CE」とはクーロン効率を意味する。後記する図3(B)も同様である)。図2の結果、比較例1のカソードの比容量は、最大90mAhg-1に留まるものであった。
【0075】
図3は、実施例1の正極を備えるコインセルのフルセル性能の結果であって、(A)は、60℃でサイクルした様々な充放電速率でのコインセルの電圧プロファイルであり、(B)は、60℃でサイクル(電流密度0.1mAcm-2)した様々な充放電速率でのコインセルのサイクル性能を示す。
【0076】
図3から、実施例1の正極を備えるコインセルは、12サイクル後も安定性を維持しており、電流密度0.1mAcm-2で125mAhg-1という高い比容量を実現することがわかった。
【0077】
図4は、正極材料における三次元電子伝導ネットワークを模式的に示したものであって、(A)は比較例1の正極材料、(B)は実施例1の正極材料である。比較例1(図4(A))では、正極活物質と電解質粒子との間の接触が不十分であるのに対し、実施例1(図4(B))では、電解質粒子を含むので、これが正極活物質との間に介在し、接触が十分となる結果、イオン伝導ネットワークが極めて良好なると考えられる。電解質粒子は、正極材料を調製するときに使用するスラリー中で溶媒(NMP)に溶けずに存在する。そして、当該溶媒が揮発して形成されるコーティング膜が熱プレスされることで、電解質粒子と正極活物質とが互いに連結し、この結果、Liイオンの転導に有利になると推察される。これに対し、従来のような、電解質粒子を含有しない場合、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)等の電解質ベース材料は溶媒に溶解し、活物質や導電添加材と混和するので、イオンと電子の二重伝導ネットワークが形成されに留まり、イオンと電子の転導効果が十分に得られないものと推察される。
図1
図2
図3
図4