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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099437
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】免震建物の応答解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/02 20060101AFI20250626BHJP
   G01V 1/30 20060101ALI20250626BHJP
   G01M 7/06 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
G01M7/02 J
G01V1/30
G01M7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216101
(22)【出願日】2023-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100169111
【弁理士】
【氏名又は名称】神澤 淳子
(72)【発明者】
【氏名】森 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】竹内 貞光
(72)【発明者】
【氏名】加藤 亨二
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB01
2G105DD02
2G105EE02
2G105GG04
2G105MM00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】性能にばらつきが発生した免震部材又は既に試験を行った免震部材と特性が異なる免震部材を使用した免震建物の応答解析システムを提供する。
【解決手段】上部構造物10と下部構造物20と免震層30と備え、上部構造物10の挙動解析を弾性体または弾性体に減衰を付加したモデルにより行い、免震層30の挙動解析を実験により行い、上部構造物10の解析結果と免震層30の解析結果とを振動方程式上で重ね合わせて解析する免震建物の応答解析方法において、第一免震部材41、241の特性Gb、Gb(γ)に対する第二免震部材42、242の特性Gr、Gr(γ)との比を変換係数η、η(γ)として求め、第一免震部材41、241を用いた免震層30の挙動解析を、第二免震部材42、242を用いた免震層30の実験結果に変換係数η、η(γ)を乗じて行って免震建物1の全体の挙動を解析する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造物(10)と、下部構造物(20)と、前記上部構造物(10)と前記下部構造物(20)との間に設けられた免震層(30)と備えた免震建物(1)の地震動や外風力等を受けた際の応答解析を、
前記上部構造物(10)の挙動解析を、弾性体または弾性体に減衰を付加したモデルにより行い、
前記免震層(30)の挙動解析を、前記免震層(30)の免震部材(40)の実験により行い、
前記上部構造物(10)の解析結果と、前記免震層(30)の解析結果とを、振動方程式上で重ね合わせ、免震建物(1)の全体の挙動を解析する免震建物の応答解析方法において、
前記免震層(30)に用いられる第一免震部材(41,241)の特性(Gb, Gb(ε))に対する、前記第一免震部材(41,241)と異なる特性を有する第二免震部材(42,242)の特性(Gr, Gr(ε))との比を、変換係数(η,η(ε))として求め、
前記第一免震部材(41,241)を用いた前記免震層(30)の挙動解析を、前記第二免震部材(42,242)を用いた前記免震層(30)の実験結果に、前記変換係数(η,η(ε))を乗じて行うことを特徴とする免震建物の応答解析方法。
【請求項2】
前記免震部材(40)の実験は、前記免震部材(40)のモデルとなる試験体(100)を用いて行い、
前記第一免震部材(41)は、前記免震層(30)の基準とする基準免震部材(41)であり、
前記第二免震部材(42)は、試験体(120)を作成した実免震部材(42)であり、
前記第一免震部材(41)を有する免震層(30)の挙動解析は、前記実免震部材(42)の実試験体(120)の実験結果に、前記変換係数(η)を乗じて行うことを特徴とする請求項1に記載の免震建物の応答解析方法。
【請求項3】
前記変換係数(η)は、前記実免震部材(42)の実試験体(120)の剛性(Gr)を、前記基準免震部材(41)の基準試験体(110)の剛性(Gb)で除したものであることを特徴とする請求項2に記載の免震建物の応答解析方法。
【請求項4】
前記免震層(30)の挙動解析は、
前記実試験体(120)が垂直方向の加力により得られた水平荷重(F(120))を、前記実試験体(120)の水平断面積(A(120)に前記変換係数(η)を乗じたもので除して、せん断応力を算出し、
前記せん断応力に前記免震層(30)の免震装置(31)の全体の水平断面積(A(30))を乗じて、
前記免震層(30)の水平荷重(F(30))を算出して行うことを特徴とする請求項3に記載の免震建物の応答解析方法。
【請求項5】
前記免震部材(40)の実験は、前記免震部材(40)のモデルとなる試験体(300)を用いて行い、
前記第一免震部材(241)は、前記免震層(30)の目標とする目標免震部材(241)であり、
前記第二免震部材(242)は、試験体(120)を作成した実免震部材(242)であり、
前記目標震部材(241)を有する免震層(30)の挙動解析は、前記実免震部材(42)の実試験体(120)の実験結果に、前記変換係数(η(ε))を乗じて行い、
前記変換係数(η(ε))は、ひずみ(ε)に依存する式であることを特徴とする請求項1に記載の免震建物の応答解析方法。
【請求項6】
前記変換係数(η(ε))は、前記実試験体(120)のひずみ依存式(Gr(ε))を、前記目標免震部材(241)の目標試験体(330)のひずみ依存式(Gb(ε))で除したものであることを特徴とする請求項5に記載の免震建物の応答解析方法。
【請求項7】
前記免震層(30)の挙動解析は、
前記実試験体(120)が垂直方向の加力により得られた水平荷重(F(120))を、前記実試験体(120)の水平断面積(A(120)に前記変換係数(η(ε))を乗じたもので除して、せん断応力を算出し、
前記せん断応力に前記免震層(30)の免震装置(31)の全体の水平断面積(A(30))を乗じて、
前記免震層(30)の水平荷重(F(30))を算出して行うことを特徴とする請求項6に記載の免震建物の応答解析方法。
【請求項8】
前記免震部材(40)は、積層ゴムからなる免震部材であることを特徴とする請求項1に記載の免震建物の応答解析方法。
【請求項9】
前記免震部材(40)の実験は、動力2軸試験装置(60)による載荷試験であることを特徴とする請求項1に記載の免震建物の応答解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部構造物、下部構造物、上部構造物と下部構造物との間に設けられた免震層と備えた免震建物の応答解析方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来、このような免震建物が地震動や風外乱等の外力を受けた際の応答解析システムとして、リアルタイムに精度の良い数値解析を行うために、建築物を質点系モデルに置換し、上部構造を解析部分、免震層を実験部分とするものがある。
質点系モデルに置換した上部構造の応答は、一般的に略線形な挙動を示すため数値解析で求め、複雑な非線形挙動を示す免震層の部分の応答は、免震層に使用する免震装置の試験体を用いた載荷実験としてその挙動を求める。両者を振動方程式上で組み合わせることにより、地震や風外力下における免震部材の複雑な挙動を精確に考慮した免震建物全体の応答解析を行う免震建物の応答解析方法がある。
【0003】
しかし、載荷試験に用いた免震部材が製造の影響等により、その性能が基準となる免震部材の性能に対してばらつきが発生する場合がある。このような基準状態の免震装置と異なる状態において応答解析を行うと、応答解析の結果に誤差を含んでしまう。
【0004】
また、免震部材の載荷試験を行う際に、例えば、基準となる免震部材と、ひずみ依存特性例えばハードニング特性等の特性が異なる免震部材の実験を行う際には、別途実験用の免震部材を製造した上で、その免震部材を用いた載荷試験を別に行う必要があり、複数種の免震部材を製造し、それぞれの試験体ごとに試験を行って解析をする必要があり、手間やコストが大きくかかっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本建築学会構造系論文集 2022年 28巻 68号 121頁-126頁 発行日:2022年2月20日 公開日:2022年2月20日 「既存試験機を用いた応答遅れの小さい免震建築物サブストラクチャ・リアルタイム・オンライン応答実験システムの開発」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題に鑑みて、免震建物の応答解システムにおいて、実験に用いた免震部材が製造の影響等により、その性能が基準となる免震部材の性能に対してばらつきが発生した場合でも、応答解析の結果を精度良く求めることができ、さらに基準となる免震部材と特性が異なる免震部材の試験を行う際に、別途免震部材を製造することや、載荷試験を別に行うことが不要となり、手間やコストの低減を図ることができる免震建物の応答解析システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一態様は、上部構造物と、下部構造物と、前記上部構造物と前記下部構造物との間に設けられた免震層と備えた免震建物の地震動や外風力等を受けた際の応答解析を、
前記上部構造物の挙動解析を、弾性体または弾性体に減衰を付加したモデルにより行い、
前記免震層の挙動解析を、前記免震層の免震部材の実験により行い、
前記上部構造物の解析結果と、前記免震層の解析結果とを、振動方程式上で重ね合わせ、免震建物の全体の挙動を解析する免震建物の応答解析方法において、
前記免震層に用いられる第一免震部材の特性(に対する、前記第一免震部材と異なる特性を有する第二免震部材の特性との比を、変換係数として求め、
前記第一免震部材を用いた前記免震層の挙動解析を、前記第二免震部材を用いた前記免震層の実験結果に、前記変換係数を乗じて行うことを特徴とする免震建物の応答解析方法である。
【0008】
本発明の第一態様によれば、前記免震層の挙動解析を、前記免震層に用いられる第一免震部材の特性に対する、前記第一免震部材と異なる特性を有する第二免震部材の特性との比を、変換係数として求め、
前記第一免震部材を用いた前記免震層の挙動解析を、前記第二免震部材を用いた前記免震層の実験結果に、前記変換係数を乗じて行うので、載荷試験に用いた免震部材が、製造の影響等によりその性能が基準となる免震部材の性能に対してばらつきが発生した場合でも、応答解析の結果を精度良く求めることができ、さらに基準となる免震部材と特性が異なる免震部材の試験を行う際に、別途免震部材を製造することや、載荷試験を別に行うことが不要となり、応答解析の手間やコストの低減を図ることができる。
【0009】
本発明の第二態様は、前記免震部材の実験は、前記免震部材のモデルとなる試験体を用いて行い、
前記第一免震部材は、前記免震層の基準とする基準免震部材であり、
前記第二免震部材は、試験体を作成した実免震部材であり、
前記第一免震部材を有する免震層の挙動解析は、前記実免震部材の実試験体の実験結果に、前記変換係数を乗じて行うことを特徴とする免震建物の応答解析方法である。
【0010】
本発明の第二態様によれば、前記免震部材の実験は、前記免震部材のモデルとなる試験体を用いて行い、
前記第一免震部材は、前記免震層の基準とする基準免震部材であり、
前記第二免震部材は、試験体を作成した実免震部材であり、
前記第一免震部材を有する免震層の挙動解析は、前記実免震部材の実試験体の実験結果に、前記変換係数を乗じて行うので、載荷試験に用いた実試験体が、試験体の製造の影響等によりその性能が基準となる基準試験体の性能に対してばらつきが発生した場合でも、応答解析の結果を精度良く求めることができる。
【0011】
本発明の第三態様は、前記変換係数は、前記実免震部材の実試験体の剛性を、前記基準免震部材基準試験体の剛性で除したものであることを特徴とする免震建物の応答解析方法である。
【0012】
本発明の第三態様によれば、前記変換係数は、前記実免震部材の実試験体の剛性を、前記基準免震部材基準試験体の剛性で除したものであるので、応答解析の結果をより精度良く求めることができる。
【0013】
本発明の第四態様は、前記免震層の挙動解析は、
前記実試験体が垂直方向の加力により得られた水平荷重を、前記実試験体の水平断面積に前記変換係数を乗じたもので除して、せん断応力を算出し、
前記せん断応力に前記免震層の免震装置の全体の水平断面積を乗じて、
前記免震層の水平荷重を算出して行うことを特徴とする免震建物の応答解析方法である。
【0014】
本発明の第四実施態様によれば、前記免震層の挙動解析は、前記実試験体が垂直方向の加力により得られた水平荷重を、前記実試験体の水平断面積に前記変換係数を乗じたもので除して、せん断応力を算出し、前記せん断応力に前記免震層の免震装置の全体の水平断面積を乗じて、前記免震層の水平荷重を算出して行うので、
【0015】
本発明の第五態様は、前記免震部材の実験は、前記免震部材のモデルとなる試験体を用いて行い、
前記第一免震部材は、前記免震層の目標とする目標免震部材であり、
前記第二免震部材は、試験体を作成した実免震部材であり、
前記目標免震部材を有する免震層の挙動解析は、前記実免震部材の実試験体の実験結果に、前記変換係数を乗じて行い、
前記変換係数は、ひずみに依存する式であることを特徴とする免震建物の応答解析方法である。
【0016】
本発明の第五態様によれば、前記免震部材の実験は、前記免震部材のモデルとなる試験体を用いて行い、前記第一免震部材は、前記免震層の目標とする目標免震部材であり、前記第二免震部材は、試験体を作成した実免震部材であり、前記目標震部材を有する免震層の挙動解析は、前記実免震部材の実試験体の実験結果に、前記変換係数を乗じて行い、前記変換係数は、ひずみに依存する式であるので、目標とする免震部材を用いた免震建物の挙動解析を、実際に目標とする免震部材の試験体を製造したり、目標とする免震部材の試験体による試験を行わなくても、精度良く行うことができる。
【0017】
本発明の第六態様は、前記変換係数は、前記実試験体のひずみ依存式を、前記目標免震部材の目標試験体のひずみ依存式で除したものであることを特徴とする免震建物の応答解析方法である。
【0018】
本発明の第六態様によれば、前記変換係数は、前記実試験体のひずみ依存式を、前記目標免震部材の目標試験体のひずみ依存式で除したものであるので、応答解析の結果をより精度良く求めることができる。
【0019】
本発明の第七態様は、前記免震層の挙動解析は、
前記実試験体が垂直方向の加力により得られた水平荷重を、前記実試験体の水平断面積に前記変換係数を乗じたもので除して、せん断応力を算出し、
前記せん断応力に前記免震層の免震装置の全体の水平断面積を乗じて、
前記免震層の水平荷重を算出して行うことを特徴とする免震建物の応答解析方法である。
【0020】
本発明の第七態様によれば、前記免震層の挙動解析は、前記実試験体が垂直方向の加力により得られた水平荷重を、前記実試験体の水平断面積に前記変換係数を乗じたもので除して、せん断応力を算出し、前記せん断応力に前記免震層の免震装置の全体の水平断面積を乗じて、前記免震層の水平荷重を算出して行うので、応答解析の結果をさらに精度良く求めることができる。
【0021】
本発明の第八態様は、前記免震部材は、積層ゴムからなる免震部材であることを特徴とする第一態様に記載の免震建物の応答解析方法である。
【0022】
本発明の第八態様によれば、積層ゴムからなる免震部材の試験体に製造のばらつきがあった場合でも、応答解析の結果を精度良く求めることができる。特性の異なる積層ゴムごとに試験体を作成する必要がなくなり、応答解析の手間やコストを低減することができる。
【0023】
本発明の第九態様は、前記試験体の実験は、動力2軸試験装置による載荷試験であることを特徴とする第一態様または第二態様に記載の免震建物の応答解析方法である。
【0024】
本発明の第九態様によれば、試験体の実験は、動力2軸試験装置による載荷試験であるので、従来からの載荷実験装置を利用することができるので、コスト増大を抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の免震建物の応答解析方法によれば、載荷試験に用いた免震部材が、製造の影響等によりその性能が基準となる免震部材の性能に対してばらつきが発生した場合でも、応答解析の結果を精度良く求めることができ、さらに基準となる免震部材と特性が異なる免震部材の試験を行う際に、別途免震部材を製造することやその免震部材を用いた載荷試験を別に行うことが不要となり、手間やコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施の形態の免震建物の応答解析方法で解析する免震建物の一例を示した図である。
図2図1の免震建物をモデル化した図である。
図3】免震建物の応答解析方法に用いられる免震建物の応答解析システムの一例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の免震建物の応答解析方法の一実施の形態について説明する。
図1は、本発明の免震建物の応答解析方法で解析される免震建物の一例を示している。免震建物1は、下部構造物20、上部構造物10、下部構造物20と上部構造物10との間に配置される免震層30を有している。下部構造物20は、地盤Gを掘削して形成された凹部11に設けられ、下部構造物20の上には、上部構造物10を支持する免震層30が設けられている。免震層30には、例えば複数の天然ゴムの積層体である積層ゴム33を用いた免震装置31が複数配置されている。
【0028】
本発明の免震建物の応答解析方法では、上記のような免震建物1が地震動や風外乱等の外力を受けた際における応答を解析する方法として、サブストラクチャ・リアルタイム・オンライン応答実験法(以下、SROLTという)が用いられている。SROLTでは、免震建物1の全体を比較的単純な挙動を示す解析部分と、複雑な挙動を示す実験部分に分離する。解析部分は数値モデルによって、実験部分は実載荷実験によって、復元力の値を評価する。最終的にこの載荷実験はリアルタイムで行われ、速度依存性等を含む様々な依存性や非線形性を含む複雑な復元力を直接取り込んだ解析が可能である。また、実験部分のみ載荷実験を実施するため、加力の容量を小さくすることができる。
【0029】
図2は、図1の免震建物1を、本発明の免震建物の応答解析方法で解析するためにモデル化した図である。
SROLTを免震建物1に適用するために、免震建物を質点系モデル置換する。質点系モデルに置換した上部構造物10の応答は、一般的に略線形な挙動を示すため数値解析により求める。また、複雑は非線形挙動を示す免震装置31の応答は、免震装置31の試験体100を作成し、試験体100を用いた載荷実験によってその挙動を求める。
【0030】
一般的なSROLTの支配方程式を(1)に示す。
【0031】
【数1】
・・・(1)
[m]:質量マトリックス
[c]:減衰マトリックス
{α}:加速度ベクトル
{β}:速度ベクトル
{r}:解析サブアッセンブリの支持構造における復元力
{r}:実験用サブアッセンブリにおける免震層の復元力
{1}:ユニットベクトル
γ:地面加速度
【0032】
質点系モデルに置換した解析部分の復元力は数値解析で求め、実験部分の復元力はリアルタイムの載荷実験により求める。両者を振動方程式上で組み合わせることによって、免震部材の複雑な挙動を考慮した地震外力下における、免震建物1全体の解析が可能となる。
【0033】
図3に、本発明の一実施形態の免震建物の応答解析方法に用いられる免震建物応答解析システム50の概略図を示す。
免震建物応答解析システム50は、免震装置31の試験体100に載荷試験を施す動力2軸試験装置60と、動力2軸試験装置60の制御・応答結果の記憶、免震建物1の数値モデルによる解析、両者を振動方程式上で組み合わせ免震建物1全体の応答解析を行う制御・解析システム70を備えている。
【0034】
動力2軸試験装置60は、免震装置31の免震部材40のスケールを縮小した試験体100の挙動解析を行う。試験体100は、解析を行う免震装置31の基準となる性能を備えた基準試験体110が想定されている。この基準試験体110を目標として実試験体120を作成し、実試験体120を用いて載荷試験を行う。上部構造物10の挙動解析は、弾性体または少量の弾性体に減衰を付加したモデルにより行う。
【0035】
図3に、実試験体120の動力2軸試験を行う動力2軸試験装置60の概要を示す。
【0036】
動力2軸試験装置60は、実試験体120の載荷試験を行う動力2軸試験装置60と、動力2軸試験装置60に対して変位の制御を行う指令や、動力2軸試験装置60からの応答データを記録する制御・解析システム70を備えている。
【0037】
動力2軸試験装置60は、次のような構成となっている。基台61の上に載置テーブル63が取り付けられており、載置テーブル63上には、載置テーブル63に対して水平方向に摺動可能に水平スライダー62が設置されている。上方水平治具65と下方水平治具64とを備え、実試験体120は、上方水平治具65と下方水平治具64との間に挟み込まれて載荷実験が行われる。上方水平治具65の上方には、実試験体120に対して鉛直方向に荷重する鉛直方向アクチュエータ66が設けられている。水平スライダー62は、水平方向アクチュエータ67に接続されており、実試験体120に対して水平方向の変位を与える。実試験体120に作用する水平荷重および鉛直荷重を計測する2分力計68が、実試験体120の直上に取り付けられており、荷重が直接計測される。
【0038】
動力2軸試験装置60を制御する制御・解析システム70は、パーソナルコンピュータや、ワークステーションなどの情報処理装置からなるコンピュータ71より構成される。コンピュータ71は、演算処理を行うCPU(不図示)を備え、CPUが実行するコンピュータプログラムや、CPUが処理するデータ等を記憶する記憶装置(不図示)などを備えている。
【0039】
コンピュータ71には、D/Aコンバータ72およびコントロールユニット74を介して、鉛直方向アクチュエータ66と、水平方向アクチュエータ67が接続されている。コンピュータ71からの指令に基づいて、鉛直方向アクチュエータ66および水平方向アクチュエータ67が作動する。
【0040】
動力2軸試験装置60実試験体120の直上に取り付けられた2分力計68により計測されたデータがアンプ75およびA/Dコンバータ73を介して、コンピュータ71に入力される。
【0041】
動力2軸試験装置60の制御は、変位制御とする。コンピュータ71から水平変位の指令値を、水平方向アクチュエータ67により実試験体120に与える。動力2軸試験装置60より得られた水平荷重データをコンピュータ71に取り込み、応答計算を行う。
【0042】
本実施の形態の免震建物の応答解析方法では、第一免震部材41として免震部材40の基準となる基準免震部材41の特性Gbと、第二免震部材42として実際に試験を行う実免震部材42の特性Grとの、比を変換係数ηとして免震建物1の応答解析を行う。
【0043】
実免震部材42の実試験体120を、免震部材40の基準となる性能を持つ基準試験体110を目標として、製造する。製造した実試験体120の剛性試験を行い、基準試験体110との性能のばらつきを計測する。動力2軸試験装置60により、実試験体120に垂直方向に所定の面圧を与え、水平方向に所定のせん断ひずみとなるように加力して、実試験体120の剛性G(120)の結果を得る。
例えば、実試験体120に、水平方向にせん断ひずみ100%で3サイクル加力し、3サイクル目の履歴から、実試験体120の剛性G(120)を得る。
【0044】
実試験体120の剛性Grと基準試験体110の剛性Gbとのばらつきの状態を表す係数として、下記のように変換係数ηを求める。
η = Gr / Gb
【0045】
通常、実試験体120の加力により得られた水平荷重Frを実試験体120の水平断面積Arで除することでせん断応力を算出し、そのせん断応力に免震層30の免震装置全体の水平断面積Aを掛けることで、免震層30の水平荷重Fを算出し応答解析を実施する。
【0046】
本実施の形態では、実試験体120と基準試験体110とのばらつきの係数として変換係数ηを上記のように求め、実試験体120の水平断面積Arに変換係数ηを掛けた水平断面積を用いて、免震建物1の応答の解析を行う。
このように、実試験体120と基準試験体110とのばらつきを、変換係数ηにより補正することにより、基準試験体110を設置した免震建物1として応用解析を行う。
【0047】
本発明の一実施形態の免震建物の応答解析方法は、上部構造物10と、下部構造物20と、上部構造物10と下部構造物20との間に設けられた免震層30と備えた免震建物1の地震動や外風力等を受けた際の応答を解析する免震建物の応答解析方法である。免震層30の免震部材40のモデルとなる実試験体120を作成し、上部構造物10の挙動解析を、弾性体または弾性体に減衰を付加した数値モデルにより行い、免震層30の挙動解析を、実試験体120の実験結果に所定の変換係数を乗じて行い、上部構造物10の解析結果と、免震層30の解析結果とを、振動方程式上で重ね合わせ、免震建物1の全体の挙動を解析するものである。
【0048】
さらに、免震層30の挙動解析を、実試験体120の実験結果に、実免震部材42の実試験体120の剛性Grを、基準免震部材41の基準試験体111の剛性Gbで除した変換係数ηを乗じて行うので、載荷試験に用いた免震部材40の実試験体120が製造の影響等により、試験体100の基準となる基準試験体110の性能に対してばらつきが発生した場合でも、免震建物1の応答解析の結果を精度良く求めることができる。さらに基準となる免震部材と特性が異なる免震部材40の試験を行う際に、別に実試験体120を製造することや、別途載荷試験を行うことが不要となり、手間やコストの低減を図ることができる。
【0049】
また、実試験体120の実験は、動力2軸試験装置60による載荷試験であるので、従来からの載荷実験装置を利用することができるので、コスト増大を抑制することができる。
【0050】
さらにまた、実試験体120の剛性を基準試験体100の剛性で除したものを変換係数ηとし、試験体100に加力装置による実験の結果に変換係数ηを乗じて行うので、載荷試験に用いた免震部材40の実試験体120が、製造時の影響等によりその性能が基準となる基準試験体110の性能に対してばらつきが発生した場合でも、応答解析の結果を精度良く求めることができる。
【0051】
次に、第二の実施の形態の免震建物の応答解析方法について説明する。第二の実施の形態の免震建物の応答解析方法は、免震部材40の実験として、免震部材40の縮小体をモデルの試験体300を用いて行う。
第一免震部材241として、目標とする目標免震部材241を想定する。第二免震部材242は、実免震部材242であり、実験には実免震部材242の縮小体モデルの実試験体330を作成する。
【0052】
免震部材40のひずみ依存は、ひずみ依存式G(ε)で表される。目標免震部材241のひずみ依存は、ひずみ依存式Gb(ε)で表され、実免震部材242のひずみ依存は、ひずみ依存式Gr(ε)で表される。
【0053】
ひずみ依存特性の一例として、例えばハードニング特性がある。以下、ひずみ依存特性の一例としてハードニング特性を用いた免震装置の応答解析方法について説明する。
【0054】
弾性材料は、一般的なゴムのように、せん断ひずみεが所定の値に達すると、せん断応力σが急激に上昇する。すなわち、弾性材料の剛性G(=σ/ε)は、せん断ひずみεが所定の値に達すると急激に大きくなる。
弾性材料のハードニング特性は、一次剛性K1に対する二次剛性K2の比Rk(=K2/K1)で表される。ハードニング特性は、弾性材料に固有の特性である。
【0055】
ハードニング特性とは、免震部材40の剛性Gがせん断ひずみεに依存する特性であり、ひずみ依存式G(ε)として表される。
【0056】
目標免震部材241の特性Gb(ε)と、実免震部材242の特性Gr(ε)との、比を変換係数η(ε)として、目標免震部材241を有する免震建物1の応答解析を行う。
【0057】
実免震部材240の実試験体320を製造する。製造した実試験体320の剛性試験を行い、ひずみ依存特性を評価する。ひずみ依存特性は、様々なひずみ下における剛性を計測し、ひずみ依存式Gr(ε)を求める。
2軸試験装置60により、実試験体320に垂直方向に所定の面圧を与え、水平方向に所定のせん断ひずみとなるように加力して、実試験体320の剛性Gr(ε)の結果を得る。
例えば、実試験体320に、水平方向にせん断ひずみを、50%、100%、150%、200%、250%、300%、350%、400%の順に変えて、3サイクル加力し、3サイクル目の履歴から、実試験体320のひずみ依存特性を評価し、ひずみ依存式Gr(ε)を得る。
【0058】
目標とする目標免震部材241のひずみ依存式Gb(ε)を想定し、実試験体320のひずみ依存式Gr(ε)との比により、変換係数η(ε)を求める。変換係数η(ε)は、下記の式で表される。
η(ε) = Gr(ε) / Gb(ε)
【0059】
目標免震部材241を有する免震層30の挙動解析は、実免震部材242の実試験体320の実験結果に、変換係数η(ε)を乗じて行う。
【0060】
このように、既に免震部材40について載荷試験を行いひずみ依存特性の試験結果のデータを得ていれば、この免震部材40と異なるひずみ依存特性を有する免震部材40を具備した免震建物1について、既に得た試験結果を利用して応答解析をすることができる。
【0061】
通常、実試験体320の加力により得られた水平荷重Frを実試験体320の水平断面積Arで除することでせん断応力を算出し、そのせん断応力に免震層30の免震装置全体の水平断面積Aを掛けることで、免震層30の水平荷重Fを算出し応答解析を実施する。
【0062】
本実施の形態では、ひずみに依存した変換係数η(ε)を水平断面積Arに掛けた水平断面積を用いることで、様々なひずみ依存特性を有する免震装置を設置した免震建物の応答を解析できる。
【0063】
第二の実施の形態の免震建物の応答解析方法は、既に試験が行われた実震部材242と異なるひずみ依存特性を有する目標免震部材241を具備した免震建物1についての応答解析は、変換係数η(ε)を、実免震部材242のひずみ依存式Gr(ε)を、目標免震部材241のひずみ依存式Gb(ε)で除したものを用いて、せん断ひずみに応じて変化させて行うので、異なるひずみ依存特性を有する目標免震部材240を具備した免震建物1についての応答解析のために、別途試験体を製造することや、その試験体を用いた載荷試験を別に行うことが不要となり、応答解析のための手間やコストの低減を図ることができる。
【0064】
本発明の免震建物の応答解析方法について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能であり、本発明の要旨の範囲で多様な態様で実施されるものを含むことは勿論である。
【国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)への貢献】
【0065】
持続可能な社会の実現に向けてSDGsが提唱されている。本発明は住み続けられるまちなどに貢献する技術になり得ると考えられる。
【符号の説明】
【0066】
1…免震建物、10…上部構造物、20…下部構造物、30…免震層、31…免震装置、40…免震部材、41…第一免震部材、42…第二免震部材、60…動力2軸試験装置、100…試験体、110…基準試験体、120…実試験体、240…免震部材、241…第一免震部材、242…第二免震部材、300…試験体、320…実試験体。
図1
図2
図3