(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099438
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】免震装置の性能予測装置、免震装置の性能予測方法及び免震装置の性能予測プログラム
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20250626BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20250626BHJP
G06F 30/27 20200101ALI20250626BHJP
G01M 13/00 20190101ALI20250626BHJP
G01N 3/00 20060101ALI20250626BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20250626BHJP
【FI】
G01M7/02 J
G06F30/23
G06F30/27
G01M13/00
G01N3/00 K
G06N20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216102
(22)【出願日】2023-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100169111
【弁理士】
【氏名又は名称】神澤 淳子
(72)【発明者】
【氏名】森 隆浩
【テーマコード(参考)】
2G024
2G061
5B146
【Fターム(参考)】
2G024AA09
2G024AD18
2G024BA15
2G024BA17
2G024DA12
2G024FA06
2G061AA01
2G061AA11
2G061AB04
2G061BA18
2G061CA16
2G061DA11
2G061DA12
5B146AA04
5B146DC03
5B146DJ02
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】実製品に対する有限要素モデルを用いた有限要素法の解析を行う必要がなく、従来より少ない工数、時間及びコストで免震装置の性能予測が可能な免震装置の性能予測装置、免震装置の性能予測方法及び免震装置の性能予測プログラムを提供する。
【解決手段】弾性体を用いた免震装置の性能予測装置において、変数生成部202が弾性体の形状、材料定数と加力条件の一部又は全てを含む変数をランダムに生成し、生成された変数に基づいて有限要素モデル生成部204が有限要素モデルを生成し、生成された有限要素モデルを用いて解析部206が解析を実行し、実行された解析の結果に基づいて算出部208が免震装置に関する力学的特性を算出し、生成した変数を入力とし、算出された力学的特性を出力とした場合の相関関係に基づいて、学習済みモデル生成部210が前記免震装置の特性を予測する学習済みモデルを生成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体を用いた免震装置の性能予測装置において、
前記弾性体の形状、材料定数と加力条件の一部又は全てを含む変数をランダムに生成する変数生成部と、
生成した前記変数に基づいて有限要素モデルを生成する有限要素モデル生成部と、
生成した前記有限要素モデルを用いて前記免震装置の解析を実行する解析部と、
実行した前記解析の結果に基づいて前記免震装置に関する力学的特性を算出する算出部と、
生成した前記変数を入力とし、算出した前記力学的特性を出力とした場合の相関関係に基づいて、前記免震装置の特性を予測する学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成部と、を有する免震装置の性能予測装置。
【請求項2】
前記免震装置の解析は、座屈解析であり、
前記力学的特性は、座屈ひずみであることを特徴とする請求項1記載の免震装置の性能予測装置。
【請求項3】
前記免震装置の解析は、破断解析であり、
前記力学的特性は、破断強度であることを特徴とする請求項1記載の免震装置の性能予測装置。
【請求項4】
前記免震装置の解析は、引張解析であり、
前記力学的特性は、引張強度であることを特徴とする請求項1記載の免震装置の性能予測装置。
【請求項5】
前記免震装置の性能予測装置はさらに、
生成した前記学習済みモデルを用いて前記免震装置の特性を予測する請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の免震装置の性能予測装置。
【請求項6】
前記免震装置の性能予測装置において、
前記免震装置の特性は、前記免震装置の座屈ひずみである請求項5記載の免震装置の性能予測装置。
【請求項7】
前記免震装置の性能予測装置において、
前記免震装置の特性は、前記免震装置の1又は複数の圧縮限界強度線図である請求項5記載の免震装置の性能予測装置。
【請求項8】
前記免震装置は、
所定形状のゴム体を有する請求項1記載の免震装置の性能予測装置。
【請求項9】
前記免震装置において、
前記所定形状は円柱形状である請求項8記載の免震装置の性能予測装置。
【請求項10】
前記免震装置において、
前記所定形状はフレア形状と円柱形状との組み合わせによる形状である請求項8記載の免震装置の性能予測装置。
【請求項11】
弾性体を用いた免震装置の性能予測方法において、
コンピュータが、
前記弾性体の形状、材料定数と加力条件の一部又は全てを含む変数をランダムに生成し、
生成した前記変数に基づいて有限要素モデルを生成し、
生成した前記有限要素モデルを用いて前記免震装置の解析を実行し、
実行した前記解析の結果に基づいて前記免震装置に関する力学的特性を算出し、
生成した前記変数を入力にするとともに算出した前記力学的特性を出力とした場合の相関関係に基づいて、前記免震装置の特性を予測する学習済みモデルを生成する免震装置の性能予測方法。
【請求項12】
前記免震装置の解析は、座屈解析であり、
前記力学的特性は、座屈ひずみであることを特徴とする請求項11記載の免震装置の性能予測方法。
【請求項13】
前記免震装置の解析は、破断解析であり、
前記力学的特性は、破断強度であることを特徴とする請求項11記載の免震装置の性能予測方法。
【請求項14】
前記免震装置の解析は、引張解析であり、
前記力学的特性は、引張強度であることを特徴とする請求項11記載の免震装置の性能予測方法。
【請求項15】
弾性体を用いた免震装置の性能予測プログラムにおいて、
コンピュータに、
前記弾性体の形状、材料定数と加力条件の一部又は全てを含む変数をランダムに生成させ、
生成した前記変数に基づいて有限要素モデルを生成させ、
生成した前記有限要素モデルを用いて前記免震装置の解析を実行させ、
実行した前記解析の結果に基づいて前記免震装置に関する力学的特性を算出させ、
生成した前記変数を入力にするとともに算出した前記力学的特性を出力とした場合の相関関係に基づいて、前記免震装置の特性を予測させる学習済みモデルを生成する免震装置の性能予測プログラム。
【請求項16】
前記免震装置の解析は、座屈解析であり、
前記力学的特性は、座屈ひずみであることを特徴とする請求項15記載の免震装置の性能予測プログラム。
【請求項17】
前記免震装置の解析は、破断解析であり、
前記力学的特性は、破断強度であることを特徴とする請求項15記載の免震装置の性能予測プログラム。
【請求項18】
前記免震装置の解析は、引張解析であり、
前記力学的特性は、引張強度であることを特徴とする請求項15記載の免震装置の性能予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置の性能予測装置、免震装置の性能予測方法及び免震装置の性能予測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
免震装置として、ゴム層と当該ゴム層よりも剛性の高い剛性板とが交互に積層された積層体の軸線方向の上下両端部に例えば一対の連結板が一体に加硫され、上下の連結板のそれぞれに組立ボルトにより一体化された剛性フランジを備えており、当該剛性フランジに設けられた取付孔に取付ボルトを挿通したのち、取付ボルトを上部構造体と下部構造体のそれぞれに螺合して、下部構造体と上部構造体にそれぞれ固定するようになっているものがある(特許文献1、特許文献2参照)。なお、上記の連結板が無く、当該連結板の代わりに上下端部にフランジを備えていても良い。
【0003】
このような免震装置の挙動を解析するとともに免震装置と構造物の設計値を適切に設定することを目的として、時間経過に従って変化する変位量を示す情報が変位量入力部から入力される変位量入力ステップを実行し、入力された変位量と当該変位量の履歴に対応して反力を算出する解析ステップを実行し、そして、当該解析ステップによって算出された反力を示す解析結果を出力する解析結果出力ステップを実行する。ここでは、1つの変位量が入力される度にこれら変位量入力ステップ、の各ステップが実行される。解析結果出力ステップでは解析ステップによって算出された反力に基づいて変位量対反力の特性線図をプリンタなどによって出力する技術が知られている(特許文献3参照)。
【0004】
また、複数のゴム及び鋼板を交互に積層して加硫接着した積層ゴム体と、当該積層ゴム体の中心部に埋め込まれた鉛プラグとを有する免震装置を介して支承された免震構造物の地震応答解析を行う場合、免震装置の履歴特性モデルが初期変位の立上がりを正確に表すことができ、しかも変位の大きさに関わらず同一のモデルで精度よくシミュレーションできるようにして、免震構造物の地震応答解析精度の向上を図ることを目的として、免震装置についてばね要素及びスライダ要素が直列に接続された複数のばねスライダ要素と、1つのばね要素と、1つのダッシュポット要素とを互いに並列に接続した履歴特性モデルを設定し、この履歴特性モデルに基づいて免震構造物の地震応答解析を行うことにより、弾性及び塑性の両特性を兼ね備えた実際の免震装置と同様の履歴特性モデルを得ることが知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-77892号公報
【特許文献2】特開2017-194098号公報
【特許文献3】特開2000-81363号公報
【特許文献4】特開平9-113403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、免震装置の座屈特性を解析したい場合、考えられる方法としては免震装置の実装置(実製品)を製作するとともに、制作した実製品に対する高面圧下での水平加力試験を実施する必要があり、これらの免震装置の実製品の評価には多くの工数、時間及びコストが生じていた。免震装置の実製品を現実に製作する代わりに、モデル化された免震装置をプログラムにより解析することも可能だが、このように免震装置をモデル化する場合、複数のパラメータのそれぞれに対応した複数の免震装置モデルを作成する必要があるため、実製品を製作して評価する場合よりも軽減されるにしろ、それでもなお、解析には多くの工数、時間及びコストが生じることになる。
本発明は、弾性体を用いた免震装置の性能予測装置において、弾性体の形状、材料定数と面圧を含む変数をランダムに生成し、生成した変数に基づいて有限要素モデルを生成し、生成した前記有限要素モデルを用いて前記免震装置の解析を実行し、実行した前記解析の結果に基づいて前記免震装置に関する力学的特性を算出し、生成した前記変数を入力とし、算出した前記力学的特性を出力とした場合の相関関係に基づいて、前記免震装置の特性を予測する学習済みモデルを生成することにより、実製品に対する有限要素モデルを用いた有限要素法の解析を行う必要がなく、従来より少ない工数、時間及びコストで免震装置の性能予測が可能な免震装置の性能予測装置、免震装置の性能予測方法及び免震装置の性能予測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、弾性体を用いた免震装置の性能予測装置において、
前記弾性体の形状、材料定数と面圧を含む変数をランダムに生成する変数生成部と、
生成した前記変数に基づいて有限要素モデルを生成する有限要素モデル生成部と、
生成した前記有限要素モデルを用いて前記免震装置の解析を実行する解析部と、
実行した前記解析の結果に基づいて前記免震装置に関する力学的特性を算出する算出部と、
生成した前記変数を入力とし、算出した前記力学的特性を出力とした場合の相関関係に基づいて、前記免震装置の特性を予測する学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成部と、を有する免震装置の性能予測装置であることを特徴とする。
【0008】
前記構成によれば、生成した変数を入力とし、算出した免震装置に関する力学的特性を出力とした場合の相関関係が学習された学習済みモデルを生成することにより、前記免震装置の特性を予測することができるために最適な学習済みモデルを生成できるため、実製品に対する有限要素モデルを用いた有限要素法の解析を行う必要がなく、従来より少ない工数、時間及びコストで免震装置の性能予測を可能とすることができる。
【0009】
前記構成において、前記免震装置の解析は、座屈解析であり、
前記力学的特性は、座屈ひずみであることを特徴とする。
【0010】
前記構成によれば、前記構成によれば、生成した変数を入力とし、算出した座屈ひずみを出力とした場合の相関関係が学習された学習済みモデルを生成することにより、前記免震装置の特性を予測することができるために最適な学習済みモデルを生成できるため、実製品に対する有限要素モデルを用いた有限要素法の解析を行う必要がなく、従来より少ない工数、時間及びコストで免震装置の性能予測を可能とすることができる。
【0011】
前記構成において、前記免震装置の解析は、破断解析であり、
前記力学的特性は、破断強度であることを特徴とする。
【0012】
前記構成によれば、 前記構成によれば、生成した変数を入力とし、算出した破断強度を出力とした場合の相関関係が学習された学習済みモデルを生成することにより、前記免震装置の特性を予測することができるために最適な学習済みモデルを生成できるため、実製品に対する有限要素モデルを用いた有限要素法の解析を行う必要がなく、従来より少ない工数、時間及びコストで免震装置の性能予測を可能とすることができる。
【0013】
前記構成において、前記免震装置の解析は、引張解析であり、
前記力学的特性は、引張強度であることを特徴とする
【0014】
前記構成によれば、 前記構成によれば、生成した変数を入力とし、算出した引張強度を出力とした場合の相関関係が学習された学習済みモデルを生成することにより、前記免震装置の特性を予測することができるために最適な学習済みモデルを生成できるため、実製品に対する有限要素モデルを用いた有限要素法の解析を行う必要がなく、従来より少ない工数、時間及びコストで免震装置の性能予測を可能とすることができる。
。
【0015】
前記構成において、
前記免震装置の性能予測装置はさらに、
生成した前記学習済みモデルを用いて前記免震装置の特性を予測する特性予測部を有する免震装置の性能予測装置であることを特徴とする。
【0016】
前記構成によれば、生成した学習済みモデルを用いて免震装置の特性を予測する特性予測部を有するため、実製品に対する有限要素モデルを用いた有限要素法の解析を行う必要がなく、従来より少ない工数、時間及びコストで免震装置の性能予測を可能とすることができる。
【0017】
前記構成はさらに、
前記免震装置の性能予測装置において、
前記免震装置の特性は、前記免震装置の座屈ひずみである免震装置の性能予測装置であることを特徴とする。
【0018】
前記構成によれば、免震装置の特性として免震装置の座屈ひずみを予測するため、実製品に対する有限要素モデルを用いた有限要素法の解析を行う必要がなく、従来より少ない工数、時間及びコストで免震装置の座屈ひずみに関する性能予測を可能とすることができる。
【0019】
前記構成はさらに、
前記免震装置の性能予測装置において、
前記免震装置の特性は、前記免震装置の1又は複数の圧縮限界強度線図である免震装置の性能予測装置であることを特徴とする。
【0020】
前記構成によれば、免震装置の特性として免震装置の1又は複数の圧縮限界強度線図を予測するため、実製品に対する有限要素モデルを用いた有限要素法の解析を行う必要がなく、従来より少ない工数、時間及びコストで1又は複数の免震装置の圧縮限界強度線図に関する性能予測を可能とすることができる。
【0021】
前記構成において、
前記免震装置は、
所定形状のゴム体を有する免震装置の性能予測装置であることを特徴とする。
【0022】
前記構成によれば、所定形状のゴム体を有する免震装置について、実製品に対する有限要素モデルを用いた有限要素法の解析を行う必要がなく、従来より少ない工数、時間及びコストで免震装置の圧縮限界強度線図に関する性能予測を可能とすることができる。
【0023】
前記免震装置において、
前記所定形状は円柱形状である性能予測装置であることを特徴とする。
【0024】
前記構成によれば、円柱形状のゴム体を有する免震装置について、実製品に対する有限要素モデルを用いた有限要素法の解析を行う必要がなく、従来より少ない工数、時間及びコストで免震装置の圧縮限界強度線図に関する性能予測を可能とすることができる。
【0025】
前記免震装置において、
前記所定形状はフレア形状と円柱形状との組み合わせによる形状である性能予測装置であることを特徴とする。
【0026】
前記構成によれば、フレア形状と円柱形状との組み合わせによる形状のゴム体を有する免震装置について、実製品に対する有限要素モデルを用いた有限要素法の解析を行う必要がなく、従来より少ない工数、時間及びコストで免震装置の圧縮限界強度線図に関する性能予測を可能とすることができる。
【0027】
本発明はさらに、弾性体を用いた免震装置の性能予測方法において、
コンピュータが、
前記弾性体の形状、材料定数と面圧を含む変数をランダムに生成し、
生成した前記変数に基づいて有限要素モデルを生成し、
生成した前記有限要素モデルを用いて前記免震装置の解析を実行し、
実行した前記解析の結果に基づいて前記免震装置に関する力学的特性を算出し、
生成した前記変数を入力にするとともに算出した前記力学的特性を出力とした場合の相関関係に基づいて、前記免震装置の特性を予測する学習済みモデルを生成する免震装置の性能予測方法であることを特徴とする。
【0028】
前記構成によれば、コンピュータが、弾性体の形状、材料定数と面圧を含む変数をランダムに生成し、生成した変数に基づいて有限要素モデルを生成し、生成した有限要素モデルを用いて前記免震装置の解析を実行し、実行した解析の結果に基づいて前記免震装置に関する力学的特性を算出し、生成した変数を入力にするとともに算出した前記力学的特性を出力とした場合の相関関係に基づいて、免震装置の特性を予測する学習済みモデルを生成することにより、前記免震装置の特性を予測することができるために最適な学習済みモデルを生成できるため、実製品に対する有限要素モデルを用いた有限要素法の解析を行う必要がなく、従来より少ない工数、時間及びコストで免震装置の性能予測を可能とすることができる。
【0029】
本発明はさらに、弾性体を用いた免震装置の性能予測プログラムにおいて、
コンピュータに、
前記弾性体の形状、材料定数と面圧を含む変数をランダムに生成させ、
生成した前記変数に基づいて有限要素モデルを生成させ、
生成した前記有限要素モデルを用いて前記免震装置の解析を実行させ、
実行した前記解析の結果に基づいて前記免震装置に関する力学的特性を算出させ、
生成した前記変数を入力にするとともに算出した前記力学的特性を出力とした場合の相関関係に基づいて、前記免震装置の特性を予測させる学習済みモデルを生成する免震装置の性能予測プログラムであることを特徴とする。
【0030】
前記構成によれば、コンピュータに、弾性体の形状、材料定数と面圧を含む変数をランダムに生成させ、生成した変数に基づいて有限要素モデルを生成させ、生成した有限要素モデルを用いて前記免震装置の解析を実行させ、実行した解析の結果に基づいて前記免震装置に関する力学的特性を算出させ、生成した変数を入力にするとともに算出した前記力学的特性を出力とした場合の相関関係に基づいて、免震装置の特性を予測する学習済みモデルを生成させることにより、前記免震装置の特性を予測することができるために最適な学習済みモデルを生成できるため、実製品に対する有限要素モデルを用いた有限要素法の解析を行う必要がなく、従来より少ない工数、時間及びコストで免震装置の性能予測を可能とすることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、生成した変数を入力とし、算出した座屈ひずみを出力とした場合の相関関係が学習された学習済みモデルを生成することにより、前記免震装置の特性を予測することができるために最適な学習済みモデルを生成できるので、実製品に対する有限要素モデルを用いた有限要素法の解析を行う必要がなく、従来より少ない工数、時間及びコストで免震装置の性能予測を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の一実施形態における性能予測対象である免震装置をゴム体の軸線に沿って切断した縦断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態における性能予測装置の機能ブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態におけるFEMモデルの例である。
【
図4】本発明の一実施形態におけるFEMモデルの概要である。
【
図5】本発明の一実施形態におけるAIモデルの模式図である。
【
図6】本発明の一実施形態におけるAIの概要である。
【
図7】本発明の一実施形態における学習済みモデルを生成する場合のフローチャートである。
【
図8】本発明の一実施形態における免震装置の特性を予測する場合のフローチャートである。
【
図11】Ref-LSSファイル又はNew-LSSファイルに対応するSS曲線の例である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の一形態について図面を参照しながら説明する。本発明の性能予測対象である免震装置1の一例として、
図1に基づいて説明する。本発明の説明において、免震装置1の「中心軸線L」(以下、単に「中心軸線L」という)は、ゴム体2の中心軸線である。免震装置1の中心軸線Lは、鉛直方向に延在するように指向される。免震装置の1「内周側」、「外周側」、「径方向」、「周方向」は、免震装置1の中心軸線Lを中心としたときの「内周側」、「外周側」、「径方向」、「周方向」をそれぞれ指す。また、「上」、「下」とは、鉛直方向における「上」、「下」をそれぞれ指す。
【0034】
免震装置1は、
図1に示されるように、円柱形状による従来構造のゴム体2と、例えばこのゴム体2の中心軸線Lの両側に一体にされる一対の連結板6と、一対の連結板6のそれぞれに組立ボルト15により組み付けられ、連結板6より径の大きい一対の剛性フランジ10とを備えている。なお、上記の連結板が無く、当該連結板の代わりに上下端部にフランジを備えていても良い。
免震装置1は、上部構造体20Aと下部構造体20Bとの間に配置されて、上部構造体20Aと下部構造体20Bのそれぞれに、取付ボルト16により固定される。上部構造体20Aとは、例えば建物や橋等の建造物であり、下部構造体20Bとは、例えば建造物の基礎である。
【0035】
免震装置1は、免震装置1の上下方向中央に位置し、所定の高さの柱状のゴム体2を備えている。本実施の形態のゴム体2は円筒状に形成されているが、四角柱状や多角中状であってもよい。
ゴム体2は、鉛直方向の荷重に対して所定の剛性を有しているとともに、水平方向の荷重に対して所定の変形量を確保することができる。
【0036】
さらにゴム体2に対しては、ゴム体2の上下両端を覆うように、一対の金属製の例えば鋼からなる連結板6が配置される。ゴム体2及び一対の連結板6は、金型(不図示)に入れられて加硫成型により接着されて強固に一体化される。
【0037】
図1に示されるように、組立ボルト15は、軸部15aと、該軸部15aよりも径の大きい頭部15bと、を備えている。また、取付ボルト16は、軸部15aと、該軸部16aよりも径の大きい頭部16bと、を備えている。
【0038】
図1に示されるように、組立孔11は、剛性フランジ10の連結板6に接する面からに所定の深さに形成されている。剛性フランジ10の構造体20に接する側には、組立孔11に連通するように、組立ボルト15の頭部15bを収容する頭部収容孔12が形成されている。
【0039】
剛性フランジ10を連結板6に取り付けるには、組立ボルト15を、剛性フランジ10の頭部収容孔12から組立孔11に向かって挿通して、その先端が連結板6の組立ボルト穴7に到達すると、組立ボルト15を組立ボルト穴7に螺合する。
組立ボルト15が組立ボルト穴7に完全に螺合されると、組立ボルト15の頭部15bは、組立孔11より径の大きい頭部収容孔12内に収容されて、組立孔11と頭部収容孔12の径の違いによる段部に、組立ボルト15の頭部15bの下面が当接されて、剛性フランジ10は組立ボルト15により連結板6に固定される。組立ボルト15の頭部15bは、頭部収容孔12内に完全に収容されるので、剛性フランジ10を構造体20に取り付ける妨げになることがない。
【0040】
図2は、免震装置の性能予測装置の機能ブロック図である。性能予測装置1は、所定形状のゴム体を有する免震装置の性能を予測する予測装置である。
ここて゛、免震装置の性能予測装置は、一般的には、中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)と当該中央演算処理装置に接続された主記憶装置(メモリ)とを有するコンピュータ等の情報処理装置である。
【0041】
本発明は、弾性体を用いた免震装置の性能予測装置であって、弾性体の形状、材料定数と加力条件の一部又は全てを含む変数をランダムに生成する変数生成部と、生成した変数に基づいて有限要素モデルを生成する有限要素モデル生成部と、生成した有限要素モデルを用いて免震装置の解析を実行する解析部と、実行した解析の結果に基づいて免震装置に関する力学的特性を算出する算出部と、生成した変数を入力とし、算出した力学的特性を出力とした場合の相関関係に基づいて、免震装置の特性を予測する学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成部と、を有するものである。
【0042】
本発明の一実施の形態では、生成した変数に基づいて有限要素モデル生成部により生成された有限要素モデルを用いて解析する免震装置の解析部は、座屈解析を行い、さらに実行した座屈解析の結果に基づいて算出する算出部が算出する免震装置の力学的特性は、座屈ひずみを用いて、免震装置の性能予測を行っている。
本実施の形態の免震装置の性能予測装置では、解析を座屈解析で行い、免震装置の力学的特性を座屈ひずみとして、免震装置の性能予測を行っているが、例えば、解析を破断解析や引張解析として、免震装置の力学的特性を破断強度や引張強度としてもよい。
【0043】
図2において、変数生成部202は後述するゴムの材料定数とゴムに対する面圧とを含む複数の変数データ203をランダムに生成し、生成した複数の変数データ203を有限要素モデル生成部204に出力する。
次に有限要素モデル生成部204は、変数生成部203が生成し出力した変数データ203を入力し、変数データ203に対応する免震装置の有限要素モデル205を生成し、生成した免震装置の有限要素モデル205を出力する。ここで有限要素モデル205は、物理現象の解析やシミュレーションを行う場合において、モデル全体の方程式を導き出して解くのではなく、モデルを複数のメッシュに分解し、複数のメッシュ各々に対応するより簡易な方程式を解き、それぞれのメッシュの解をまとめて最終的な解を導き出す有限要素法(FEM:Finite Element Method)に用いられるモデルをいう。
【0044】
そして、座屈解析部206は、有限要素モデル生成部204が生成した有限要素モデル205を用いて座屈解析を実行する。ここで「座屈」とは構造物に加える荷重を次第に増加していくと、ある荷重で急に構造物に大きなたわみ等の変更を生ずることをいい、免震装置における座屈に関してはより具体的には応力-ひずみ曲線が負勾配になった現象を指す。また、「座屈ひずみ」とは構造物に座屈が発生した際の単位長さあたりの変形量(ひずみ)[%]であって、当該ひずみは、主として構造物の末端領域に生じる。
ここでは、座屈解析部206は免震装置の有限要素モデル205に対し、0%から面圧に相当する圧縮力を垂直方向に加力していき、有限要素モデル205に座屈が発生した際におけるせん断ひずみとせん断応力との相関関係を表す相関関係データを座屈解析結果207として出力する。
例えば、座屈解析結果207は有限要素モデル205のせん断ひずみとせん断応力との相関関係を表したSS(Shear Stain-Shear Stress:せん断ひずみ-せん断応力)曲線であってもよい。また、座屈解析については400%まで加力し、例えば、400%まで加力しても座屈ひずみが発生しなければ座屈400%として出力しても良い。
【0045】
次に、座屈ひずみ算出部208は、座屈解析部206が生成し出力した有限要素モデル205に座屈が発生した際におけるせん断ひずみとせん断応力との相関関係を表す相関関係データである座屈解析結果207に基づき、座屈ひずみ209を算出する。
例えば、座屈ひずみ算出部208は、座屈解析部206が生成し出力した有限要素モデル205に座屈が発生した際におけるせん断ひずみとせん断応力との相関関係を表す相関関係データについて、せん断ひずみとせん断応力をSS曲線に表した場合、例えば、当該SS曲線の傾きに基づいて当該有限要素モデル205の座屈ひずみ209を算出してもよい。
【0046】
より具体的には、一般的に免震装置を構成するゴムのSS曲線(不図示)については、せん断ひずみが増加するにつれてせん断応力の値が単調増加し、所定のせん断ひずみの値まではSS曲線の傾きが正勾配であるが、せん断ひずみの値のあるポイントでSS曲線の傾きが0となり、その後は傾きが負勾配となる。この場合において、例えば、当該SS曲線の傾きが0となった時点におけるせん断ひずみの値、すなわちSS曲線の負勾配が生じた瞬間を座屈ひずみ209として算出してもよい。
また、SS曲線について負勾配が生じない場合であっても、当該SS曲線の勾配が小さくなり、再度勾配が大きくなる現象が見られるときには、例えば、勾配が小さくなった時点で座屈が生じたものとして当該有限要素モデル205の座屈ひずみ209を算出してもよい。
【0047】
そして、学習済みモデル生成部210は、座屈ひずみ算出部208が算出した座屈ひずみ209を入力して後述するフィードフォワードニューラルネットワークに対する機械学習を実行することにより、学習済みAIモデル212を生成する。
ここで学習対象のフィードフォワードニューラルネットワークはあくまでもAIモデルの一例であって、本発明におけるAIモデルはフィードフォワードニューラルネットワークに限定されず、他の手法として例えば、勾配ブースティング、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン等であってもよい。
以上の変数生成部202、有限要素モデル生成部204、座屈解析部206、座屈ひずみ算出部208、学習済みモデル生成部210により、前処理としての学習済みAIモデル212の生成が行われることになる。
【0048】
次に、前処理としての前処理としての学習済みAIモデル212の生成後、生成した学習済みAIモデル212を用いて免震装置の特性を予測する手法について説明する。
まず、ラボ(実験設備)におけるラップシェアサンプル(以下「LSS」(Lap Shear Sample))に対するLSS試験データ211を予め準備し、準備したLSS試験データ211を学習済みAIモデル212に入力することにより、予測対象の特性予測結果データ213が得られることとなる。
ここで、予め準備するLSS試験データ211は、後述するスプレッドシートにより準備してもよい。また、得られる特性予測結果データ213は、座屈ひずみを含んでもよく、及び/又は、後述する1つ乃至複数の圧縮限界強度線図(UPD:Ultimate Property Diagram)を含んでもよい。
【0049】
図3は、本発明の一実施形態における
図2における有限要素モデル生成部204が生成するフレア形状と円柱形状との組み合わせであるフレア構造による有限要素モデル205(FEMモデル:Finite Element Methodモデル)(メッシュについては簡略化のため不図示)の例である。
前述したとおり、有限要素モデルは、物理現象の解析やシミュレーションを行う場合において、モデル全体の方程式を導き出して解くのではなく、モデルを複数のメッシュに分解し、複数のメッシュ各々に対応するより簡易な方程式を解き、それぞれのメッシュの解をまとめて最終的な解を導き出す有限要素法(FEM:Finite Element Method)に用いられるモデルをいう。
なお、本発明における有限要素モデルは、フレア形状に限定されず、円柱形状等の他の形状であってもよい。
【0050】
ここで、
図4に、本発明の一実施形態における
図3の有限要素モデル205に対応し、
図2における有限要素モデル生成部204が生成する有限要素モデルの概要として、生成対象のパラメータとそのランダム値生成区間の一覧を示す。
S1は、有限要素モデル205の1次形状係数を示し、有限要素モデル生成部204によるランダム値生成範囲は例えば25~40の範囲であるが、本発明はこれに限定されない。
S2は、有限要素モデル205の2次形状係数を示し、有限要素モデル生成部204によるランダム値生成範囲は例えば2.8~4.3の範囲であるが、本発明はこれに限定されない。
R1は、有限要素モデル205のゴムと鋼板の厚み比を示し、有限要素モデル生成部204によるランダム値生成範囲は例えば0.24~1の範囲であるが、本発明はこれに限定されない。
R2は、有限要素モデル205の中央径と最大径の差を中央径で除した値を示し、有限要素モデル生成部204によるランダム値生成範囲は例えば0~0.35の範囲であるが、本発明はこれに限定されない。
R3は、有限要素モデル205の中央径と最大径の差を上下傾斜部のゴム総厚さで除した値を示し、傾斜部がない場合は0であり、有限要素モデル生成部204によるランダム値生成範囲は例えば0~55の範囲であるが、本発明はこれに限定されない。
R4は、有限要素モデル205の内径と中央径の比示し、有限要素モデル生成部204によるランダム値生成範囲は例えば0~0.55の範囲の範囲であるが、本発明はこれに限定されない。
【0051】
σは、有限要素モデル205の面圧を示し、有限要素モデル生成部204によるランダム値生成範囲は例えば基準面圧~基準面圧×2倍の範囲であるが、本発明はこれに限定されない。
ここで「基準面圧」とは、水平方向の変形が0の場合における圧縮限界強度の10%~30%に相当する面圧であって、免震装置の基本性能を測定する際に定められる基準となる面圧である。
【0052】
C10は、有限要素モデル205に関する材料モデルであるYeohモデルから変形した変形モデルにおいて、材料の偏差部(形状変化)を指定する材料定数を示し、有限要素モデル生成部204によるランダム値生成範囲は例えば0.13~0.26[MPa]の範囲であるが、本発明はこれに限定されない。
C30は、有限要素モデル205に関する材料モデルであるYeohモデルから変形した変形モデルにおいて、材料の偏差部(形状変化)を指定する材料定数を示し、有限要素モデル生成部204によるランダム値生成範囲は例えば0.00005~0.0003[MPa]の範囲であるが、本発明はこれに限定されない。
kは、有限要素モデル205に関する材料モデルであるYeohモデルから変形した変形モデルにおける体積弾性係数を示し、有限要素モデル生成部204によるランダム値生成範囲は例えば700~2,100[MPa]の範囲であるが、本発明はこれに限定されない。
【0053】
なお、弾性材料の解析で用いられるひずみエネルギー密度関数の一種である上記の変形モデルは、以下の式(1)で表される。
【0054】
【数1】
・・・(1)
W:ひずみエネルギー密度(物体の単位体積当たりのひずみエネルギー)
C
10:材料定数
I
1:ひずみ不変量
C
30:材料定数
k:体積弾性係数
J:ヤコビアン
【0055】
図5は、本発明の一実施形態における
図2の学習済みモデル生成部210が生成する学習済みAIモデル210のニューラルネットワーク構造を表す模式図である。
ここで、AIモデル301は、例えば中間層が3層の4層フィードフォワードニューラルネットワークであるが、ニューラルネットワークはこの構成に限定されず、他の手法として例えば、勾配ブースティング、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン等であってもよい。
より具体的には、AIモデル301が有する入力層303、中間層304、出力層305はそれぞれ複数のノード302を含み、AIモデル301に対する学習が行われると、各ノード302には学習の結果としての重み値が設定される。
【0056】
図6は、本発明の一実施形態における
図5のAIモデル301の概要を示す。
入力ユニット数としては、例えば、S1, S2, R1, R2, R3, R4, σ, C
10, C
30, kの10ユニットだが、本発明はこのユニット数に限定されない、他の形状係数や加力条件パラメータ、他の材料モデルの材料定数でもよい。
【0057】
中間層1-3のユニット数は35ユニットであるが、本発明はこのユニット数に限定されない。
また、中間層1-3の活性化関数は、例えばReLU(Rectified Linear Unit)関数を用いるが、本発明はこれに限定されず他の適切な関数を用いてもよい。
ここでReLU(Rectified Linear Unit)関数は、入力値が0以下の場合には出力値が0となり、入力値が0より大きい場合には出力値が入力値と同じ値となる関数である。
【0058】
出力層のユニット数は、座屈ひずみの値に対応する2.0~4.0まで0.1毎(0.1刻み)の解像度による21ユニットであるが、本発明はこの刻み幅及び/又はユニット数に限定されない。
本発明の一実施形態において、
図2の学習済みモデル生成部210が生成する学習済みAIモデル210を用いることにより、0.1毎(0.1刻み)の解像度による座屈ひずみを2.0~4.0の範囲で予測することが可能となる。なお、上記の学習済みAIモデルについては、予測結果として上記の所定範囲に分類する分類AIではなく、連続値を予測結果として出力する回帰AIであっても良い。
【0059】
図7は、本発明の一実施形態における
図5のAIモデル301の学習に関し、学習済みAIモデルの生成に向けた各種パラメータ等を示す。
訓練データ数は、AIモデル301の機械学習に用いられる訓練データ(教師データ)の数であり、例えば5,920個の訓練データを学習に用いるが、本発明はこの訓練データ数に限定されない。
テストデータ数は、
図2における学習済みモデル212の性能評価に用いられるデータ(試験データ)の数であり、一般的には訓練データと異なる未知のデータが準備され、例えば1,480個のテストデータを性能評価に用いるが、本発明はこのテストデータ数に限定されない。
総データ数は、上記の訓練データ数とテストデータ数の合計であり、例えば、上記の訓練データ数とテストデータ数の場合、7,200個の総データ数となるが、本発明はこの総データ数に限定されない。
【0060】
学習率初期値は、学習率の初期値として設定される値であり、具体的には機械学習の最適化において重み値を一度にどの程度変化させるかを表すハイパーパラメータを指し、この場合、学習率初期値として所定の学習率初期値が設定される。
学習率低減率は、機械学習の性能向上のために使われる手法である学習率減衰法において、学習がある程度進んだ場合に学習精度を向上させる目的で学習率を下げる手法において、学習率初期値に掛ける低減率を指し、学習率低減率として所定の学習率低減率が設定される。
【0061】
バッチサイズは、AIモデル301に対して一度に入力するデータの数を指すハイパーパラメータであり、バッチサイズとして所定のバッチサイズが設定されるが、本発明はこのバッチサイズの値に限定されない。
ここで、一般的にバッチサイズが大きい場合、AIモデルはより多くのデータを一度に学習することができ学習効率が高くなるが、計算時間が増加することとなる。
一方、バッチサイズが小さい場合、計算時間が短縮されるが、AIモデルの学習効率が低下することとなる。
【0062】
エポック数は、機械学習においてハイパーパラメータの一つで、AIモデル301の学習において、訓練データ全体を何回繰り返して学習するかを表す学習回数を指し、エポック数として所定のエポック数が設定される。
機械学習では、訓練データから値を予測し、その予測値と正解値との差を小さくしなければならず、そのため、エポック数が少ない場合にはパラメータが適切に収束する前に学習が終了してしまうおそれがある。他方、エポック数が大きい場合には特定の訓練データのみに強い過学習を起こしてしまうという問題が発生するおそれがあるため、適切なエポック数の設定が望ましい。
【0063】
図7は、免震装置の性能予測方法及び免震装置の性能予測プログラムのフローチャートのうち、学習済みAIモデルを生成する部分のフローチャートである。
ここて゛、免震装置の性能予測方法及び免震装置の性能予測プログラムは、
図2における免震装置の性能予測装置201により実行され、一般的には、中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)と当該中央演算処理装置に接続された主記憶装置(メモリ)とを有するコンピュータ等の情報処理装置により実行される。
【0064】
免震装置の性能予測方法及び免震装置の性能予測プログラムにおける学習済みAIモデルを生成する動作については、ステップS801のスタートから動作が開始される(S801)。
ステップS802において、
図2における変数生成部202は材料定数と面圧とを含む、
図2における複数の変数データ203(
図4参照)をランダムに生成し、生成した複数の変数データ203を
図2における有限要素モデル生成部204に出力する(S802)。
次に、ステップS803において、有限要素モデル生成部204は、変数生成部203が生成し出力した変数データ203を入力し、変数データ203に対応する
図2における免震装置の有限要素モデル205を生成し、生成した免震装置の有限要素モデル205を出力する(S803)。
【0065】
そして、ステップS804において、
図2における座屈解析部206は有限要素モデル生成部204が生成した有限要素モデル205を用いて座屈解析を実行する(S804)。
ここでは、座屈解析部206は免震装置の有限要素モデル205に対し、0%から面圧に相当する圧縮力を垂直方向に加力していき、有限要素モデル205に座屈が発生した際におけるせん断ひずみとせん断応力との相関関係を表す相関関係データを
図2における座屈解析結果207として出力する。例えば、座屈解析結果207は有限要素モデル205のせん断ひずみとせん断応力との相関関係を表したSS(Shear Stain-Shear Stress:せん断ひずみ-せん断応力)曲線であってもよい。また、座屈解析については400%まで加力し、例えば、400%まで加力しても座屈ひずみが発生しなければ座屈400%として出力しても良い。
【0066】
次に、ステップS805において、
図2における座屈ひずみ算出部208は、座屈解析部206が生成し出力した有限要素モデル205に座屈が発生した際におけるせん断ひずみとせん断応力との相関関係を表す相関関係データである座屈解析結果207に基づき、
図2における座屈ひずみ209を算出する(S805)。
例えば、座屈ひずみ算出部208は、座屈解析部206が生成し出力した有限要素モデル205に座屈が発生した際におけるせん断ひずみとせん断応力との相関関係を表す相関関係データについて、せん断ひずみとせん断応力をSS曲線に表した場合、例えば、当該SS曲線の傾きに基づいて当該有限要素モデル205の座屈ひずみ209を算出してもよい。
【0067】
より具体的には、一般的に免震装置を構成するゴムのSS曲線(不図示)については、せん断ひずみが増加するにつれてせん断応力の値が単調増加し、SS曲線の傾きが正勾配であるが、あるポイントでSS曲線の傾きが0となり、その後は傾きが負勾配となる。この場合において、例えば、当該SS曲線の傾きが0となった時点におけるせん断ひずみの値、すなわちSS曲線の負勾配が生じた瞬間を座屈ひずみ209として算出してもよい。
また、SS曲線について負勾配が生じない場合であっても、当該SS曲線の勾配が小さくなり、再度勾配が大きくなる現象が見られるときには、例えば、勾配が小さくなった時点で座屈が生じたものとして当該有限要素モデル205の座屈ひずみ209を算出してもよい。
【0068】
そして、ステップS806において、
図2における学習済みモデル生成部210は、座屈ひずみ算出部208が算出した座屈ひずみ209を入力してフィードフォワードニューラルネットワークに対する機械学習を実行することにより、
図2における学習済みAIモデル212を生成する(S806)。
ここで学習対象のフィードフォワードニューラルネットワークはあくまでもAIモデルの一例であって、AIモデルはフィードフォワードニューラルネットワークに限定されず、他の手法として例えば、勾配ブースティング、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン等であってもよい。
【0069】
そして、フィードフォワードニューラルネットワークに対する機械学習が完了後、
図2における学習済みAIモデル212の生成が完了し、学習済みAIモデル212の生成が完了する(S807)。
以上、
図7のフローチャートに基づき、
図2における変数生成部202、有限要素モデル生成部204、座屈解析部206、座屈ひずみ算出部208、学習済みモデル生成部210により、前処理としての学習済みAIモデル212の生成が行われることになる。
【0070】
次に、前処理としての学習済みAIモデルの生成後、生成した学習済みAIモデルを用いて免震装置の特性を予測する手法について説明する。
図8は、免震装置の性能予測方法及び免震装置の性能予測プログラムのフローチャートのうち、学習済みAIモデルを用いて免震装置の特性を予測する部分のフローチャートである。免震装置の性能予測方法及び免震装置の性能予測プログラムにおける学習済みAIモデルを用いて免震装置の特性を予測する動作は、ステップS901のスタートから動作か゛開始される(S901)。
【0071】
まず、ステップS902でラボ(実験設備)におけるラップシェアサンプル(以下「LSS」(Lap Shear Sample))に対するLSS試験データ211を予め準備し、準備した予測対象変数データを
図2における学習済みAIモデル212に入力するとともに、ここで、入力されたRefゴムとNewゴムのLSSのSS特性から新ゴム材料の材料定数C
10、C
30、体積弾性係数kをそれぞれ決定する(S902)。
ここで、Refゴムのデータが不要な場合はRefゴムデータはなくても良い。
さらに、免震装置における引張強度や破断強度に関する力学的特性に関する解析を行う場合、この材料定数の決定については、LSS試験データ211のみならず、ディスク円盤等に基づいて決定しても良い。
ここで、予め準備する予測対象変数データ211は、以下の
図9、
図10及び
図12に示されるスプレッドシート等により準備してもよい。
また、例えば主ひずみが所定値に達したときに破断を生じる等の場合における当該所定値である破断クライテリア値についても材料定数となり得る。
【0072】
図9は、ラボにおけるリファレンスとなる基準ゴム(以下「Refゴム」)のLSSのせん断に対する強さの測定実測値であり、400%まで加力されたSS曲線データを含むスプレッドシート「Ref-LSSファイル」であり、数値はあくまでも例示である。
また、
図10は、上記の既存のゴム製品に対し、新たに検討した新ゴム材料に材料を変更した場合や免震装置の形状を円柱形状の従来構造から
図3に示すようなフレア形状と円柱形状との組み合わせによるフレア構造に変更した場合等におけるLSSに対するせん断に対する強さの測定実測値であり、400%まで加力されたSS曲線データを含むスプレッドシート「New-LSSファイル」であり、数値はあくまでも例示である。
前提として、実製品におけるRefゴム及びNewゴムの材料モデルと材料定数は予め試験結果から決められているものとする。
そして、
図12は、Ref-LSSファイル又はNew-LSSファイルに対応するSS曲線の例である。
【0073】
次に、材料モデルであるYeohモデルについては、前述の式(1)とし、その材料定数は製品の大変形試験結果に合うように決定する。
実製品におけるRefゴムの材料定数及び体積弾性係数についてはそれぞれ、C10
ref,
product、C30
ref,
product、k ref,
productとし、同様に実製品におけるNewゴムの材料定数及び体積弾性係数についてはそれぞれ、C10
new,
product、C30
new,
product、k new,
productとする。
LSSにおけるRefゴムの材料定数及び体積弾性係数についてはそれぞれ、C10
ref,
LSS、C30
ref,
LSS、k ref,
LSSとし、同様にLSSにおけるNewゴムの材料定数及び体積弾性係数についてはそれぞれ、C10
new,
LSS、C30
new,
LSS、k new,
LSSとする。
即ち、製品とLSSでは材料定数及び体積弾性係数にギャップがあり、それらの値は両者で異なることを前提としている。
【0074】
ここで、入力されたRefゴムとNewゴムのLSSのSS特性に基づき、NewゴムのC10、C30、kをそれぞれ決定する。このNewゴムの材料定数C10、C30、体積弾性係数kの決定に際しては、適切な変換式を用いて決定してもよい。
【0075】
そして、LSSと製品の材料定数にはギャップがあることを考慮し、当該ギャップがある場合、製品におけるNewゴム材料の材料定数C10
new,
product、C30
new,
product、体積弾性係数k new,
productについては、適切な変換式を用いてそれぞれ算出される。
【0076】
次に
図12は、圧縮限界強度線図(UPD:Ultimate Property Diagram)のサイズを示すUPDサイズ一覧表ファイルの例である。
具体的には、入力する値はそれぞれ、2次形状係数であるS2、フレア構造におけるフレア形状部分における最大径D2と最小径D1の差をD1で除した値である(D2-D1)/D1、傾斜部の傾斜の大きさを表す(D2-D1)/(tr*n2)、基準となる面圧、ゴム種を表すゴム種No.を含むが、本発明はこれらに限定されない。
ここて゛、trはゴムの層厚、n2は上側(または下側)の傾斜部積層数、ゴム種No.の「1」は天然ゴム系G4を表す。
【0077】
また、S1や内外径比等も入力値とすることが出来るが、現状では簡単化のためそれらは固定値として平均値としている。
ゴムの形状がフレア形状と円柱形状との組み合わせによるフレア構造ではなく、円柱形状の従来構造の場合、(D2-D1)/D1、(D2-D1)/(tr*n2)は0とする。
図12の例では、Refゴムを上記の天然ゴム系G4とし、S2については3.5と4の2ケース、構造は円柱形状による従来構造とフレア形状と円柱形状との組み合わせによるフレア構造の2ケースの合計4ケースを出力する仕様としている。
【0078】
図8に戻り、ステップS903では、上記
図12のUPDサイズ一覧表ファイル記載された各サイズに対し、
図2における学習済みAIモデル212を用いてNewゴムのUPDを予測する(S903)。
そして、ステップS904において、
図12のUPDサイズ一覧表ファイル記載された各サイズに対し、予測されたNewゴムの圧縮限界強度線図の数値を1又は複数のスプレッドシートで出力することにより、
図2における特性予測結果データ213が得られることとなる(S904)。
ここで、得られる特性予測結果データ213は、座屈ひずみを含んでもよい。
【0079】
そして、ステップS905において、圧縮限界強度線図の数値について1又は複数のスプレッドシートの出力が完了したら、
図2における特性予測結果データ213の予測が完了し、
図2における学習済みAIモデル212による予測対象の特性予測結果データ213が得られることとなる(S905)。
【0080】
図15乃至
図16は、
図12の例において、Refゴムを天然ゴム系G4とし、S2については3.5と4の2ケース、構造は円柱形状による従来構造とフレア形状と円柱形状との組み合わせによるフレア構造の2ケースの合計4ケースにそれぞれ対応する圧縮限界強度線図である。
具体的には、
図13は、
図12の1組目の(a)ゴム種N3、S2=3.5、従来構造に対応する圧縮限界線図の例を示す。
次に、
図14は、
図12の2組目の(b)ゴム種N3、S2=4.0、従来構造に対応する圧縮限界線図の例を示す。
そして、
図15は、
図12の3組目の(c)ゴム種N3、S2=3.5、フレア構造に対応する圧縮限界線図の例を示す。
さらに、
図16は、
図12の4組目の(d)ゴム種N3、S2=4.0、フレア構造に対応する圧縮限界線図の例を示す。
【0081】
本発明の免震装置の性能予測装置、免震装置の性能予測方法及び免震装置の性能予測プログラムについて説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能であり、本発明の要旨の範囲で多様な態様で実施されるものを含むことは勿論である。
【国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)への貢献】
【0082】
持続可能な社会の実現に向けてSDGsが提唱されている、本発明は住み続けられるまちなどに貢献する技術になり得ると考えられる。
【符号の説明】
【0083】
1…免震装置、2…ゴム体、6…連結板、7…組立ボルト穴、
10…剛性フランジ、11…組立長孔、11a…端部、11b…外側周部、11b…内側周部、13…取付孔、15…組立ボルト、16…取付ボルト、20A…上部構造体、20B…下部構造体
201…免震装置の性能予測装置、202…変数生成部、203…変数データ、204…有限要素モデル生成部、205…有限要素モデル、206…座屈解析部、207…座屈解析結果、208…座屈ひずみ算出部、209…座屈ひずみ、210…学習済みモデル生成部、211…LSS試験データ、212…学習済みAIモデル、213…特性予測結果データ
301…AIモデル、302…ノード、303…入力層、304…中間層、305…出力層