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特開2025-9946半透膜エレメントおよび溶媒駆動モジュール
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009946
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】半透膜エレメントおよび溶媒駆動モジュール
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/08 20060101AFI20250109BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20250109BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20250109BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20250109BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20250109BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20250109BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B01D63/08
B01D61/00 500
B01D61/02 510
B01D61/58
B01D69/00
B01D69/12
B01D69/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024101466
(22)【出願日】2024-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2023107629
(32)【優先日】2023-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】518250058
【氏名又は名称】株式会社アシュマラボラトリーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100180976
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 一郎
(72)【発明者】
【氏名】石井 哲好
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA14
4D006HA41
4D006JA07A
4D006JA08C
4D006KA02
4D006KA33
4D006KA52
4D006KA55
4D006KA57
4D006KA64
4D006KB14
4D006KD28
4D006KD30
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA28
4D006MA31
4D006MB19
4D006MC11
4D006MC18
4D006MC54
4D006MC69X
4D006NA45
4D006NA50
4D006PA01
4D006PB03
(57)【要約】
【課題】FO法による溶液処理において、半透膜を介して対象溶液から駆動溶液中に引き出した溶媒を駆動溶液から容易に分離することができる半透膜エレメントおよび溶媒駆動モジュールを提供すること。
【解決手段】本発明の一態様は、半透膜を介して対象溶液に含まれる溶媒を圧力によって押し出すための半透膜エレメントであって、少なくとも一部に第1半透膜を有する半透膜部材と、半透膜部材に対して一体的に接続配置または分離配置され、少なくとも一部に弾性膜を有する弾性部材と、を備えた、半透膜エレメントである。また、本発明の他の一態様は、駆動溶液を収容し、密閉可能に設けられる駆動溶液室と、駆動溶液室に接続され、一方側で対象溶液と接し、他方側で駆動溶液と接する第2半透膜と、駆動溶液室に接続される上記の半透膜エレメントと、を備え、半透膜エレメントの第1半透膜は一方側で駆動溶液と接する、溶媒駆動モジュールである。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半透膜を介して対象溶液に含まれる溶媒を圧力によって押し出すための半透膜エレメントであって、
少なくとも一部に第1半透膜を有する半透膜部材と、
前記半透膜部材に対して一体的に接続配置または分離配置され、少なくとも一部に弾性膜を有する弾性部材と、
を備えた、半透膜エレメント。
【請求項2】
前記第1半透膜は、1種類または2種類以上の層構成を有し、かつ、浸透圧差による正浸透現象が発現しない浸透限界以上の膜厚を有する、請求項1記載の半透膜エレメント。
【請求項3】
前記弾性膜は、ゴム弾性を有する材料によって形成された、請求項1記載の半透膜エレメント。
【請求項4】
半透膜を介して対象溶液に含まれる溶媒を浸透圧差によって引き出す機能を備えた溶媒駆動モジュールであって、
駆動溶液を収容し、密閉可能に設けられる駆動溶液室と、
前記駆動溶液室に接続され、一方側で前記対象溶液と接し、他方側で前記駆動溶液と接する第2半透膜と、
前記駆動溶液室に接続される請求項1から3のいずれか1項に記載の半透膜エレメントと、
を備え、
前記半透膜エレメントの前記第1半透膜は前記第2半透膜と対向し、前記第2半透膜と対向する側で前記駆動溶液と接する、溶媒駆動モジュール。
【請求項5】
前記第2半透膜と前記駆動溶液室との間、および前記駆動溶液室と前記半透膜エレメントとの間に各部を着脱可能に接続するためのフランジが設けられた、請求項4記載の溶媒駆動モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液処理に用いられる半透膜エレメントおよび溶媒駆動モジュールに関し、例えば、海水を淡水化する際に用いられる半透膜エレメントおよび溶媒駆動モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化、人口増加にともなう水需要の高まりから海水淡水化技術を用いた水の生産が急拡大している。現在実用化されている海水淡水化技術には、大別すると、熱を利用する蒸発法と、半透膜を利用する逆浸透(RO:Reverse Osmosis)法との2つの方式がある。これらのうち、エネルギー効率の点から、後者のRO法が主流となっている。
【0003】
RO法では、浸透圧差以上の高圧で、正浸透とは逆向きに強制的に水を押し出すため多くの外部エネルギーが必要となる。そこで、より省エネルギーとなる方式として、浸透圧差に基づいた自発的な水の移動現象を利用する正浸透(FO:Forward Osmosis)法が注目されている。
【0004】
FO法の典型的な例は、半透膜を介して海水から淡水を引き出す駆動媒体に駆動溶液と呼ばれる液体を使用している。ここで、上述したように、FO法は浸透圧差に基づいた自発的な水の移動現象であるが、FO法において「駆動溶液」と呼ばれる理由は、あたかも、駆動溶液が海水から水を引き出しているように見えるためである。
【0005】
図11は、従来の駆動溶液を用いた淡水化システムの概略構成図である。
図11に示す淡水化システムにおいて、駆動溶液810には海水L1に対して浸透圧が十分高くなるように設計された高濃度の溶質粒子(駆動微粒子)を含む溶媒が使用されている。この駆動溶液810で満たされた溶媒駆動モジュール800aには処理槽815が接続される。そして、この処理槽815に、前処理槽816でゴミ、夾雑物等の不要物が除去された海水L1がポンプ817aによって供給されると、海水L1と駆動溶液810との浸透圧差によって、半透膜820を介して海水側(低浸透圧側)から駆動溶液810側(高浸透圧側)に水が移動(浸透)する。
【0006】
この浸透水(処理水L2)は駆動溶液810に吸収されるため、淡水として水を利用するためには、別途、駆動溶液分離/調整槽819を設置し、駆動溶液810から処理水L2(淡水)を分離して処理水保管タンク818に収容される。一方、分離後の駆動溶液810は濃度調整後、ポンプ817bによって循環、再使用される。分離方法として、分離膜と組みわせ、熱、圧力、電気・磁気等の外部エネルギーを利用する種々の方法が提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0007】
また、最近、駆動溶液から浸透水を分離する際に、駆動溶液が収容されている駆動溶液タンクの内圧上昇を利用して加圧濾過することにより、外部エネルギーを不要とするFO法が提案されている。(非特許文献2)。
【0008】
図12は、従来の駆動溶液を用いた内圧利用の淡水化システムの概略構成図である。
図12に示す淡水化システムにおいて、高分子のポリスチレンスルホン酸塩(PSS:Polystyrene sulfonate)を駆動微粒子に用いた水溶液が駆動溶液810として使用されている。この駆動溶液810で満たされた溶媒駆動モジュール800bには処理槽815が接続される。そして、この処理槽815に、前処理槽816でゴミ、夾雑物等の不要物が除去された海水L1がポンプ817aによって供給されると、海水L1と駆動溶液810との浸透圧差に基づき、半透膜820を介して海水側(低浸透圧側)から駆動溶液810側(高浸透圧側)に水が移動(浸透)する。ここまでは、上記図11に示した従来の淡水化システムと同様であるが、本システムでは駆動溶液から淡水を分離する際に外部エネルギーが不要となる点が異なっている。
【0009】
すなわち、図12に示す淡水化システムでは、半透膜820を介して処理槽815側から駆動溶液810側に移動した浸透水の増加により駆動溶液タンク830の内圧が高まり、その内圧上昇により駆動溶液タンク830に接続された分離膜840で、駆動溶液が加圧濾過され、駆動溶液810から処理水L2(淡水)が分離され処理水保管タンク818に収容される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016-087494号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Aondohemba Aende, Jabbar Gardy and Ali Hassanpour, “Seawater Desalination: A Review of Forward Osmosis Technique, Its Challenges, and Future Prospects,” オンラインジャーナルProcesses 2020, Vol.8, No.8 901, pp. 1-36、[令和5年6月22日検索]、インターネット<https://www.mdpi.com/2227-9717/8/8/901>
【非特許文献2】Sung-Ju Im, Jungwon Choi, Sanghyun Jeong and Am Jang,“New concept of pump-less forward osmosis (FO) and low-pressure membrane (LPM) process,” オンラインジャーナルScientific Reports、Vol.7、pp.1-6 (2017)、[令和5年6月22日検索]、インターネット<https://www.nature.com/articles/s41598-017-15274-z>
【非特許文献3】独立行政法人農畜産業振興機構、砂糖類情報、[令和5年6月22日検索]、インターネット<https//sugar.alic.go.japan/japan/view/jv_0005c.htm>
【非特許文献4】流石啓司他著、“寒天と電気泳動用アガロースについて”、THE CHEMICAL TIMES, Vol.222, No.4, pp.8-14 (2011)、[令和5年6月22日検索]、インターネット<https//www.kanto.co.jp/dcms_media/other/backno7_pdf38.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述したように、FO法では、通常、駆動媒体に駆動溶液を用いており、駆動溶液から淡水を分離するために、熱、圧力、電気・磁気等の外部エネルギーが必要となる。また、駆動溶液には有害なものが多く、半透膜を通して逆流し、海水側に漏えいして環境汚染を引き起こしかねない。
【0013】
また、最近提案されている駆動溶液を用いた内圧利用のFO法では、加圧濾過によって駆動溶液から駆動微粒子と処理水(淡水)とを分離するため分離膜を用いていることから、加圧濾過時の分離効率を上げるために駆動微粒子に粒子サイズの大きな高分子を利用している。しかし、高分子は、一般的に、水に対する溶解度が低く高濃度の駆動溶液を調整することが難しく、したがって、実用的な海水淡水化のために十分な浸透圧差を確保することは困難である。
【0014】
本発明は、FO法による溶液処理において、半透膜を介して対象溶液から駆動溶液中に引き出した溶媒を駆動溶液から容易に分離することができる半透膜エレメントおよび溶媒駆動モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様は、半透膜を介して対象溶液に含まれる溶媒を圧力によって押し出すための半透膜エレメントであって、少なくとも一部に第1半透膜を有する半透膜部材と、半透膜部材に対して一体的に接続配置または分離配置され、少なくとも一部に弾性膜を有する弾性部材と、を備えた、半透膜エレメントである。
【0016】
このような構成によれば、第1半透膜では正浸透現象による水の移動が抑制されるとともに、第1半透膜が高浸透圧側から加圧されることで弾性部材を弾性変形させて加圧力を調整しながら高浸透圧側から低浸透圧側への水の移動が行われることになる。
【0017】
上記半透膜エレメントにおいて、第1半透膜は、1種類または2種類以上の層構成を有し、かつ、浸透圧差による正浸透現象が発現しない浸透限界以上の膜厚(非浸透性半透膜)を有することが好ましい。これにより、従来のFO法またはRO法に使用されている半透膜も利用可能となり、本発明の実用性が高まる。また、浸透圧差による正浸透現象、すなわち、低浸透圧側から高浸透側への水の移動が抑制され、逆に、加圧によって、高浸透側から低浸透圧側への水の移動が可能となる。
【0018】
上記半透膜エレメントにおいて、弾性膜は、ゴム弾性を有する材料によって形成されていてもよい。これにより、半透膜を介して対象溶液から引き出した溶媒を多量に収容できるように駆動溶液室の容積を増加させながら駆動溶液室の内圧を上昇させ、さらに、その内圧上昇により、浸透限界以上の膜厚を有する半透膜を介して駆動溶液から溶媒を押し出すことが可能となる。
【0019】
本発明の他の一態様は、半透膜を介して対象溶液に含まれる溶媒を浸透圧差によって引き出す機能を備えた溶媒駆動モジュールであって、駆動溶液を収容し、密閉可能に設けられる駆動溶液室と、駆動溶液室に接続され、一方側で対象溶液と接し、他方側で駆動溶液と接する第2半透膜と、駆動溶液室に接続される上記の半透膜エレメントと、を備え、半透膜エレメントの第1半透膜は一方側で駆動溶液と接する、溶媒駆動モジュールである。
【0020】
このような構成によれば、第2半透膜での正浸透現象によって駆動溶液室に水の移動が行われる。一方、第1半透膜では正浸透現象が抑制されるため、第2半透膜を介して駆動溶液室に移動した水によって駆動溶液室の内圧が自動的に高まる。第1半透膜が設けられた半透膜エレメントには弾性膜を有する弾性部材が設けられているため、駆動溶液室の内圧の上昇によって弾性膜が弾性変形して駆動溶液室への水の移動と内圧上昇の調整が行われる。駆動溶液室の自動的な内圧上昇によって、第1半透膜を介して駆動溶液室の水の移動が行われる。すなわち、外部エネルギーを必要とすることなく、対象溶液に含まれる溶媒を、駆動溶液に引き出し、かつ駆動溶液から分離し、第1半透膜を介して処理水を定常的に移動させることが可能となる。
【0021】
上記溶媒駆動モジュールにおいて、第2半透膜と駆動溶液室との間、および駆動溶液室と半透膜エレメントとの間に各部を着脱可能に接続するためのフランジが設けられていてもよい。これにより、前記各構成部間の接続/切り離し作業を簡便に実行でき、実用性の高い溶媒駆動モジュールとなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、FO法による溶液処理において、対象溶液から駆動溶液中に引き出した溶媒を駆動溶液から容易に分離することができる半透膜エレメントおよび溶媒駆動モジュールを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1A】半透膜エレメントの構成を例示する模式平面図である。
図1B】半透膜エレメントの構成を例示する模式断面図である。
図1C】半透膜エレメントの構成を例示する模式断面図である。
図1D】半透膜エレメントの構成を例示する模式断面図である。
図1E】半透膜エレメントの他の構成を例示する模式平面図である。
図1F】半透膜エレメントの他の構成を例示する模式断面図である。
図1G】半透膜エレメントの他の構成を例示する模式断面図である。
図2】半透膜の正浸透実験において膜厚と浸透速度との関係を説明する図である。
図3A】半透膜の正浸透実験において膜厚による浸透の状態を説明する模式図である。
図3B】半透膜の正浸透実験において膜厚による浸透の状態を説明する模式図である。
図4】浸透限界以上の膜厚の半透膜に圧力をかけた場合について説明する模式図である。
図5】溶媒駆動モジュールを例示する模式図である。
図6】溶液処理システム(その1)を例示する模式図である。
図7】溶液処理システム(その2)を例示する模式図である。
図8】溶液処理システム(その3)を例示する模式図である。
図9】溶液処理システム(その4)を例示する模式図である。
図10】溶液処理システム(その5)を例示する模式図である。
図11】駆動溶液を用いた海水淡水化処理システムの概略構成図である。
図12】駆動溶液を用いた内圧利用の海水淡水化処理システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。
【0025】
(第1実施形態:半透膜エレメント)
まず、第1実施形態に係る半透膜エレメントについて説明する。
図1Aは、半透膜エレメントの構成を例示する模式平面図である。
図1Bから図1Dは、半透膜エレメントの構成を例示する模式断面図である。図1Bから図1Dには、図1Aに示すX1-X1’の模式断面図が示される。
【0026】
図1Aに示されるように、本実施形態に係る半透膜エレメント1は、少なくとも一部に第1半透膜10を有する半透膜部材11と、この半透膜部材11に対して一体的に接続された、少なくとも一部に弾性膜15を有する弾性部材16と、を備える。半透膜部材11は、全て第1半透膜10で構成されていてもよいし、一部に第1半透膜10を備える構成であってもよい。本実施形態では、半透膜部材11は、第1半透膜10と、第1半透膜10の周囲を保持するフレーム部13とを備える構成となっている。弾性膜15は弾性部材の例である。
【0027】
図1Aに示されるように、本実施形態に係る一体的な接続配置構造の半透膜エレメント1には、半透膜エレメント1の中央部に溶媒透過用の開口部12が設けられる。開口部12はフレーム部13の内側であって弾性膜15の中央部に設けられる。弾性膜15は、半透膜部材の周囲の接合部14に接合される。弾性膜15は、接合部14から外方に向けて延出するように設けられる。本実施形態に係る半透膜エレメント1の平面視の外形は矩形であり、開口部12も矩形に設けられるが、この形状に限定されない。
【0028】
図1Bから図1Dに示すように、半透膜エレメント1には、半透膜エレメント1A、1Bおよび1Cの少なくとも3種類がある。すなわち、半透膜エレメント1A、1Bおよび1Cは、それぞれ、第1半透膜10として、半透膜10aの単層構成、半透膜10aと半透膜10bの2層構成、半透膜10a、半透膜10bおよび半透膜10cの3層構成を有する。それぞれの第1半透膜10の構成において半透膜部材11には弾性膜15が接続される。なお、第1半透膜10の半透膜構成は上記の3種類に限定されない。
【0029】
第1半透膜10としては、従来RO法やFO法に使用されているセロハン(セルロース)、酢酸セルロース等のセルロース系やポリアミド、芳香族ポリアミド等のポリアミド系の半透膜が使用可能である。その他に、天然高分子の寒天(主成分アガロース)ゲル膜も利用可能である。
【0030】
本実施形態では、後述するように、少なくとも数百ミクロン以上の厚膜が必要となるが、RO法やFO法用のセルロース系膜やポリアミド系膜は、通常、分離効率を上げるために数ミクロン~数十ミクロンの薄膜であり、単独では適用困難である。一方、寒天ゲル膜は容易にミリメートルレベルの厚膜が作製可能であり、単独でも適用可能である。
【0031】
また、弾性膜15としては、低弾性率で第1半透膜10よりも容易に伸張して液体を多量に収容し、かつ高い内部応力(復元力)によってその液体を加圧することができる材料が適している。弾性膜15としては、例えば、風船やダイアフラムポンプ等に用いられているゴム弾性を有する材料、すなわち、ゴム(シリコーン、ニトリル、ウレタン等)のシートが好適である。
【0032】
さらに、半透膜部材11と弾性膜15との接合には、接着剤を用いた接着法や、バネ、ネジ等を用いた圧着法が適用可能である。
【0033】
半透膜エレメント1A、1Bおよび1Cは、それぞれ、第1半透膜10を介して、駆動溶液に含まれる溶媒を圧力差によって押し出すためのエレメントであり、後述する溶媒駆動モジュールに装着し、さらに、その溶媒駆動モジュールを溶液処理システムに組み込むことにより、外部エネルギーを使用することなく、対象溶液から溶媒を分離することが可能となる。その原理については後述する。
【0034】
図1Eは、半透膜エレメントの他の構成を例示する模式平面図である。
図1Fおよび図1Gは、半透膜エレメントの他の構成を例示する模式断面図である。図1Fには図1Eに示すX2-X2’の模式断面図が示され、図1Gには図1Eに示すX3-X3’の模式断面図が示される。
図1Eに示されるように、他の構成に係る半透膜エレメント1Dは、少なくとも一部に第1半透膜10を有する半透膜部材11と、この半透膜部材11に対して、分離配置された少なくとも一部に弾性膜15を有する弾性部材16と、を備える。半透膜部材11は、全て第1半透膜10で構成されていてもよいし、一部に第1半透膜10を備える構成であってもよい。
【0035】
図1Eおよび図1Fに示されるように、分離配置構造の半透膜エレメント1Dの半透膜部材11は、第1半透膜10と、第1半透膜10の周囲を保持するフレーム部13とを備える構成となっている。半透膜部材11の中央部には、溶媒透過用の開口部12が設けられる。開口部12はフレーム部13の内側であって第1半透膜10の中央部に設けられる。第1半透膜10は第1半透膜10の周囲の接合部14でフレーム部13に接合される。半透膜部材11は、接合部14から外方に向けて延出するように設けられる。本実施形態に係る半透膜エレメント1Dの半透膜部材11の平面視の外形は矩形であり、開口部12も矩形に設けられるが、この形状に限定されない。
【0036】
図1Fに示すように、一例として、半透膜部材11の第1半透膜10は半透膜10aの単層構造になっている。なお、半透膜部材11は、図1Cに示すような半透膜10aと半透膜10bの2層構成であってもよいし、図1Dに示すような半透膜10a、半透膜10bおよび半透膜10cの3層構成であってもよい。また、第1半透膜10の半透膜構成は上記の3種類に限定されない。
【0037】
また、図1Eおよび図1Gに示すように、分離配置構造の半透膜エレメント1Dの弾性部材16は、弾性膜15と、弾性膜15の周囲を保持するフレーム部18とを備える構成となっている。弾性部材16の中央部には、駆動溶液室の内圧調整用の開口部17が設けられる。開口部17はフレーム部18の内側であって弾性膜15の中央部に設けられる。弾性膜15は弾性膜15の周囲の接合部19でフレーム部18に接合され、弾性部材16は接合部19から外方に向けて延出するように設けられる。本実施形態に係る半透膜エレメント1Dの弾性部材16の平面視の外形は矩形であり、開口部17も矩形に設けられるが、この形状に限定されない。
【0038】
半透膜エレメント1Dにおいて、弾性部材16は半透膜部材11に対して分離配置される。ここで分離配置とは、弾性部材16が半透膜部材11とは別体で構成された状態で配置されることを言う。弾性部材16は半透膜部材11と図示しない連結部材(例えば、フレーム部13とフレーム部18とを連結する連結部材)によって連結されていてもよいし、フレーム部13とフレーム部18とが接続されていてもよいし、弾性部材16と半透膜部材11とが連結されていない構成であってもよい。ここで、弾性部材16と半透膜部材11とが別体で構成されていて、連結している半透膜エレメント1Dを半透膜エレメント1D-1と称し、連結されていない半透膜エレメント1Dを半透膜エレメント1D-2と称することにする。また、半透膜エレメント1D-1と半透膜エレメント1D-2とを区別しないときは半透膜エレメント1Dと総称することにする。
【0039】
なお、第1半透膜10とフレーム部13との間、第1半透膜10と弾性膜15との間、弾性膜15とフレーム部18との間、弾性膜15と弾性部材16との間、および、その他の各部材間の接合を行う場合には、接着剤を用いた接着法や、バネ、ネジ等を用いた圧着法が適用可能である。
【0040】
<正浸透実験>
次に、半透膜エレメントによって対象溶液から溶媒を分離する原理について説明する。
まず、本実施形態に係る半透膜エレメントについて詳述する前に、本発明の原理説明のために、単層構成の半透膜を用いた正浸透実験について説明する。
図2は、半透膜の正浸透実験において膜厚と浸透速度の関係を説明する図である。本実験では、半透膜として市販のセロハン膜(1枚の膜厚20μm)を使用し、セロハン膜の両側に淡水と駆動溶液を配置し、セロハン膜の膜厚に対する浸透液(水)の浸透速度(ミリメートル/時間、mm/h)の変化を求めた。駆動溶液として、濃度50重量パーセント(wt%)のショ糖水と濃度25wt%の食塩水の2種類を調整、準備した。非特許文献3によれば、濃度50wt%のショ糖水の浸透圧は約65気圧であり、一方、食塩水のほうは約150気圧と見積もられ、したがって、淡水との浸透圧差は、それぞれ、約65気圧、約150気圧となる。
【0041】
図2の○印のプロットで示すグラフは、駆動溶液として濃度25wt%の食塩水を用いた場合の膜厚と浸透速度との関係を示し、図2の●印のプロットで示すグラフは、駆動溶液として濃度50wt%のショ糖水を用いた場合の膜厚と浸透速度との関係を示す。図2から明らかなように、両者とも浸透速度は膜厚にほぼ反比例して減少し、およそ800μm(セロハン膜40枚相当)で浸透速度は実質0となり浸透は停止する(浸透停止状態)。この現象は、正浸透において、溶解している溶質粒子の種類にかかわらず、浸透が停止する浸透限界が存在することを示唆するものである。すなわち、浸透限界以下の膜厚では通常の正浸透が起こるが、浸透限界以上の膜厚では正浸透現象は発現しないということである。
【0042】
図3Aおよび図3Bは、半透膜の正浸透実験において膜厚による浸透の状態を説明する模式図である。ここでは、50wt%ショ糖水の正浸透実験の状態を示している。図3Aには、浸透限界以下の膜厚の半透膜31を用いた場合の状態が示され、図3Bには、浸透限界以上の膜厚の半透膜32を用いた場合の状態が示される。
【0043】
図3Aに示す浸透限界以下の膜厚の半透膜31を用いた場合では、浸透圧差65気圧により、半透膜31を介して淡水La側(低浸透圧側)から50wt%ショ糖水Lb側(高浸透圧側)に水が浸透し、通常の正浸透が起こる。この場合、両方の側から浸透水が移動しているが、トータルとして淡水La側からのほうが50wt%ショ糖水Lb側からよりも単位時間当たりの浸透量が多いため、結果として50wt%ショ糖水Lb側の液面が上昇する。実際の淡水化処理システムにおいては、半透膜31の膜厚が薄いほど流速が大きくなるため、半透膜31は、図2の実験で使用したセロハン膜(20μm)より薄いものが使用されている。
【0044】
一方、図3Bに示す浸透限界以上の膜厚の半透膜32を用いた場合では、すでに図2で述べたように、淡水La側、50wt%ショ糖水Lb側ともに半透膜32の膜中での浸透は停止しており、浸透現象は発現せず液面は不変である。この浸透停止状態の理由は、水分子が半透膜32中を移動する際に、厚い膜中で細孔壁と何度も衝突、摩擦を繰り返すうちに徐々に運動エネルギーを失い、最終的に進行が停止するものと推察される。
【0045】
ところで、図3Bに示す浸透限界以上の膜厚を有する半透膜32の場合において、高浸透圧側(50wt%ショ糖水Lb側)に圧力をかけた場合に水がどのように移動するかについては、これまで報告例がない。現在、海水淡水化技術の主流となっている逆浸透法(RO法)は、高浸透圧側に圧力をかける点では類似している。しかしながら、RO法の場合には、図3Aに示されるように浸透限界以下の膜厚の半透膜31が用いられ、しかも、大きな流速を得るために極力薄膜化されている。さらに、RO法では、半透膜31を介して低浸透圧側から高浸透圧側に常に浸透水が流入してくるため、逆方向に水を流出させるためには、少なくとも浸透圧差以上の高圧(外圧)をかけ浸透圧差を解消する必要がある。図3Aに示す例でいえば、淡水Laと50wt%ショ糖水Lbの浸透圧差は約65気圧なので、RO法で淡水化するためには少なくとも65気圧以上という非常に大きな外圧が必要となる。
【0046】
図4は浸透限界以上の膜厚の半透膜に圧力をかけた場合について説明する模式図である。
浸透限界以上の膜厚の半透膜32では、浸透が停止しており(図3Bに示す状態)、低浸透圧側(淡水La側)から高浸透圧側(50wt%ショ糖水Lb側)への浸透水の流入がないため、RO法で必要であった浸透圧差以上の高圧よりは相当程度低い圧力で淡水La側に水を押し出すことが可能となることが期待される。
【0047】
そこで、本願の発明者は、図4に示されるように、浸透限界以上の膜厚の半透膜32に対して圧力をかけ、50wt%ショ糖水Lb側(高浸透圧側)から淡水La側(低浸透圧側)に水を押し出し、淡水Laを得る実験を試行した。その結果、RO法で必要とした浸透圧差(65気圧)よりも低い10気圧以下という低圧で50wt%ショ糖水Lb側から淡水La側に水が移動(浸透)することを実験的に確認した。詳細については、以下の<半透膜エレメント>、<溶媒駆動モジュール>および<溶液処理システム>で説明する。
【0048】
<半透膜エレメント(その1)>
図1Aおよび図1Bに示されるように、半透膜エレメント1Aは、一体的な接続配置構造の一実施例であって、単層構成の半透膜10aで構成された第1半透膜10を有する半透膜部材11と、この半透膜部材11に接続された弾性膜15とを備えている。本実施形態では、半透膜10aとして寒天ゲルが使用される。寒天は、非特許文献4に記載されているように、海藻から製造される天然高分子(主成分アガロース)で、ゲル化により3次元網目構造体となり半透膜化することが知られている。そして、その網目サイズ、すなわち、半透膜性能はゲル化率(調整時の寒天の仕込み量)で調整可能である。さらに、ミリメートル単位での厚膜化が可能であり、浸透限界以上を目的とする膜厚を有する第1半透膜10を容易に作製することできる(具体的作製法は後述する。)。
【0049】
一方、弾性膜15にはシリコーンゴムシート(厚さ約0.5mm)を使用し、図1Aおよび図1Bに示されるように、中央の位置に開口部12を加工した。またフレーム部13については、同様にシリコーンゴムを用いて加工し、それに、開口部12を加工したシリコーンゴム製シートからなる弾性膜15を接着した。本実施形態での作製法は一例であり、弾性膜15とフレーム部13とを一体型で作製してもよいし、またフレーム部13は弾性膜15と異なる材料であってもよい。また、弾性膜15の一例であるシリコーンゴムシートの厚さは0.5mmに限定されず、他の膜厚であってもよい。
【0050】
以下に寒天ゲル膜(半透膜10a)の調整、作製法について説明する。
まず、粉末状寒天を調整容器内で精製水に対して濃度2wt%になるように仕込み、その内容物を80℃~90℃まで徐々に加熱して流動性のあるゾル状態にした。その後、そのゾル状調整物を徐冷し、寒天のゲル化温度(35℃~45℃)以上で、上述のシリコーンゴム製のフレーム部13内に注入し、常温まで冷却して完全に固化(ゲル化)させた。これにより、寒天ゲルの半透膜10aが作製された。
【0051】
本実施形態では、注入前に前記フレーム部13内の開口部12上に網目シートを設置し、注入時の漏出を防止した。また網目シート上に脱脂綿シート(セルロース繊維の不織布)を配置し、前記ゾル状調整物を含浸させることにより寒天ゲル膜(半透膜10a)を補強した(セルロース繊維による寒天ゲルの補強効果)。その後、前記フレーム部13の内側側面に沿って寒天ゲル膜(半透膜10a)の上面周辺部をシール材で防水処理した。作製された寒天ゲル膜(半透膜10a)の厚さは約5mmであった。この厚さは、浸透限界よりも十分に厚く、正浸透現象が発現しない膜厚であることを、後述の<溶液処理システム>の実験で確認した。
【0052】
本実施形態では、半透膜10aに寒天ゲルを使用したが、これは浸透限界よりも厚い膜厚が容易に得られるためであり、厚膜化が可能であるならば他の材料を用いてもよい。例えば、前述したとおり、従来のFO法やRO法に使用されているセルロース系やポリアミド系の半透膜はすべて使用可能である。また寒天の仕込み濃度2wt%は一例であり、他の濃度でもよい。
【0053】
上記のようにして作製した半透膜エレメント1Aを溶媒駆動モジュールに装着し、さらに、それを溶液処理システムに組み込み、淡水化処理の実験を行った。これについては、後述の<溶媒駆動モジュール>および<溶液処理システム>で説明する。
【0054】
<半透膜エレメント(その2)>
図1Aおよび図1Cに示されるように、半透膜エレメント1Bは、一体的な接続配置構造の一実施例であって、2層構成の半透膜10b(下層)/半透膜10a(上層)で構成された第1半透膜10を有する半透膜部材11と、この半透膜部材11に接続された弾性膜15とを備えている。本実施形態では、下層の半透膜10bにセロハン膜(厚さ20μm)を、上層の半透膜10aには寒天ゲル膜を使用した。弾性膜15は、半透膜エレメント1Aと同様に、シリコーンゴムシート(厚さ約0.5mm)を使用し、同様な加工を行った。
【0055】
第1半透膜10における2層構成のセロハン膜(半透膜10b)/寒天ゲル膜(半透膜10a)の調整、作製は以下の方法で行った。
まず、シリコーンゴム製のフレーム部13の内側の接合部14に、開口部12全体を覆うように所定の大きさに切断したセロハン膜(半透膜10b)を配置し接着剤で接着した。つぎに、そのセロハン膜(半透膜10b)上に寒天ゲル膜(半透膜10a)を調整、作製した。寒天ゲル膜(半透膜10a)の調整、作製は、上記半透膜エレメント1Aの場合と同様に行った。
【0056】
その後、前記フレーム部13の内側側面に沿って寒天ゲル膜(半透膜10a)の上面周辺部をシール材で防水処理した。作製されたセロハン膜(半透膜10b)および寒天ゲル膜(半透膜10a)の2層を合わせた合計の膜厚は約5mmであった。この厚さは、浸透限界よりも十分に厚く正浸透現象が発現しない膜厚であることを、後述の溶液処理システムの実験で確認した。
【0057】
本実施形態では、半透膜10aに寒天ゲルを使用したが、これは浸透限界よりも厚い膜厚が容易に得られるためであり、厚膜化が可能であるならば他の材料を用いてもよい。例えば、前述したとおり、従来のFO法やRO法に使用されているセルロース系やポリアミド系の半透膜はすべて使用可能である。半透膜10bについても全く同様である。原理的には、2層合わせた第1半透膜10の膜厚が浸透限界以上の膜厚になればよい。また、半透膜10a、10bの層内または層間に補強材または補強用の支持層を有していてもよい。また、弾性膜15の一例であるシリコーンゴムシートの厚さは0.5mmに限定されず、他の膜厚であってもよい。
【0058】
上記のようにして作製した半透膜エレメント1Bを溶媒駆動モジュールに装着し、さらに、それを溶液処理システムに組み込み、淡水化処理の実験を行った。これについては、後述の<溶媒駆動モジュール>および<溶液処理システム>で説明する。
【0059】
<半透膜エレメント(その3)>
図1Aおよび図1Dに示されるように、半透膜エレメント1Cは、一体的な接続配置構造の一実施例であって、3層構成の半透膜10b(下層)、半透膜10a(中間層)および半透膜10c(上層)で構成された第1半透膜10を有する半透膜部材11と、この半透膜部材11に接続された弾性膜15を備えている。本実施形態では、半透膜10bにセロハン膜(厚さ20μm)を、半透膜10aに寒天ゲル膜を、そして、半透膜10cにはセロハン膜(厚さ20μm)を使用した。弾性膜15は、半透膜エレメント1A、1Bと同様に、シリコーンゴムシート(厚さ約0.5mm)を使用し、同様な加工を行った。
【0060】
第1半透膜10における3層構成のセロハン膜(半透膜10b)/寒天ゲル膜(半透膜10a)/セロハン膜(半透膜10c)の調整、作製は以下の方法で行った。
まず、シリコーンゴム製のフレーム部13内側の接合部14上に、開口部12全体を覆うように所定の大きさに切断したセロハン膜(半透膜10b)を配置し接着剤で接着した。つぎに、そのセロハン膜(半透膜10b)上に寒天ゲル膜(半透膜10a)を作製した。寒天ゲル膜(半透膜10a)の調整、作製は、上記半透膜エレメント1A、1Bの場合と同様に行った。
【0061】
その後、上記寒天ゲル膜(半透膜10a)上に下層のセロハン膜と同様に所定の大きさに切断したセロハン膜(半透膜10c)を密着させ、前記フレーム部13内側側面に沿って、セロハン膜(半透膜10c)の上面周辺部との隙間をシール材で防水処理した。作製されたセロハン膜(半透膜10b)、寒天ゲル膜(半透膜10a)、およびセロハン膜(半透膜10c)の3層を合わせた合計膜厚は約5mmであった。この厚さは、浸透限界よりも十分に厚く正浸透現象が発現しない膜厚であることを、後述の溶液処理システムの実験で確認した。
【0062】
本実施形態では、半透膜10aに寒天ゲルを使用したが、これは浸透限界よりも厚い膜厚が容易に得られるためであり、厚膜化が可能であるならば他の材料を用いてもよい。例えば、前述したとおり、従来のFO法やRO法に使用されているセルロース系やポリアミド系の半透膜はすべて使用可能である。半透膜10b、10cについても全く同様である。原理的には、3層合わせた第1半透膜10の膜厚が浸透限界以上の膜厚になればよい。また、半透膜10a、10b、および10cの層内または層間に補強材または補強用の支持層を有していてもよい。また、弾性膜15の一例であるシリコーンゴムシートの厚さは0.5mmに限定されず、他の膜厚であってもよい。
【0063】
上記のようにして作製した半透膜エレメント1Cを溶媒駆動モジュールに装着し、さらに、それを溶液処理システムに組み込み、淡水化処理の実験を行った。これについては、後述の<溶媒駆動モジュール>および<溶液処理システム>で説明する。
【0064】
<半透膜エレメント(その4)>
図1E図1Fおよび図1Gに示されるように、半透膜エレメント1Dは、分離配置構造の一実施例であって、単層構成の半透膜10aで構成された第1半透膜10を有する半透膜部材11と、この半透膜部材11に対して分離配置された弾性膜15を有する弾性部材16とを備えている。本実施形態では、半透膜10aとしてセロハン膜(厚さ約1mm)を使用した。この厚さは、浸透限界よりも厚く、正浸透現象が発現しない膜厚であることを、前述の<正浸透実験>、および後述の<溶液処理システム>の実験で確認した。
【0065】
また、図1Eおよび図1Fに示されるように、セロハン膜の中央部に開口部12を設け、周辺部の接合部14で樹脂材料を用いて融着固定しフレーム部13を作製した。本実施形態での作製法は一例であり、半透膜10aにセロハン膜以外の膜材料、例えば、前述したとおり、従来のFO法やRO法に使用されているセルロース系やポリアミド系の半透膜はすべて使用可能であり、先に説明した一体的な接続配置構造の半透膜エレメントと同様に、複数の半透膜の多層構成でも構わないし、また層間に補強材または補強用の支持層を有していてもよい。また、フレーム部13を樹脂以外の他の材料で作製してもよい。さらに、フレーム部13に加えて、フレーム部13の補強や、駆動溶液室110との接合用して樹脂、金属等の部材が使用可能であり、それらも半透膜部材11に含まれる。
【0066】
一方、図1Eおよび図1Gに示されるように、弾性膜15にはシリコーンゴムシート(厚さ約0.5mm)を使用した。図1Eおよび図1Gに示されるように、前述セロハン膜と同様に、中央部に開口部17を設け、周辺部の接合部19で樹脂材料を用いて接着固定してフレーム部18を作製した。本実施形態での作製法は一例であり、弾性膜15にシリコーンゴムシート以外の膜材料を使用してもよいし、またフレーム部18を樹脂以外の他の材料で作製してもよい。さらに、フレーム部18に加えて、フレーム部18の補強や駆動溶液室110との接合用として樹脂や金属等の部材が使用可能であり、それらも弾性部材16に含まれる。また、弾性膜15の一例であるシリコーンゴムシートの厚さは0.5mmに限定されず、他の膜厚であってもよい。
【0067】
上記のようにして作製した半透膜エレメント1Dを溶媒駆動モジュールに装着し、さらに、それを溶液処理システムに組み込み、淡水化処理の実験を行った。これについては、後述の<溶媒駆動モジュール>および<溶液処理システム>で説明する。
【0068】
(第2実施形態:溶媒駆動モジュール)
次に、第2実施形態に係る溶媒駆動モジュールについて説明する。
図5は、溶媒駆動モジュールを例示する模式図である。
図5には、溶媒駆動モジュール100の一部断面斜視図が示される。
図5に示されるように、溶媒駆動モジュール100は、駆動溶液を収容し、密閉可能に設けられる駆動溶液室110と、駆動溶液室110に接続され、一方側で対象溶液と接し、他方側で駆動溶液と接する第2半透膜20と、駆動溶液室110に接続される半透膜エレメント1と、を備える。ここで、半透膜エレメント1は、上記説明した半透膜エレメント1A、1B、1Cおよび1Dのうちいずれかである。半透膜エレメント1A、1B、1Cおよび1Dを総称するときは、半透膜エレメント1と言うことにする。なお、説明の都合上、図5には、半透膜エレメント1として半透膜エレメント1A、1Bおよび1Cのうちのいずれかを用いた場合が示されている。半透膜エレメント1の第1半透膜10は一方側は駆動溶液室110に収容される駆動溶液と接する。半透膜エレメント1の第1半透膜10の他方側(駆動溶液室110とは反対側)には処理水室111が設けられる。
【0069】
具体的には、第2半透膜20は、駆動溶液室110の側面に対象溶液が供給される処理槽と接続するために設けられたフランジ112aの内側に配置されて接合される。フランジ112aには処理槽と接続用のネジ穴114が設けられる。また、第2半透膜20の補強のために網目膜21も同様に配置して接合される。第2半透膜20および網目膜21の接合は、本実施形態では、ネジ113aを用いた圧着固定法により行ったが、バネを用いた圧着固定法や、接着剤を用いた接着固定法でもよい。本実施形態では、圧着固定を確実なものにするために、第2半透膜20と網目膜21の上に支持枠22を配置し、上からネジ113aで締結した。さらに、液漏れ防止のために接合部にシール材を適用してもよい。
【0070】
第2半透膜20には、従来FO法に使用されている半透膜、すなわち、浸透限界以下の膜厚の半透膜が使用可能である。第2半透膜20には、例えば、酢酸セルロース系の半透膜が用いられるが、これに限定されない。
【0071】
駆動溶液室110には、第2半透膜20が接合されたフランジ112aと反対側の側面に、半透膜エレメント1を接続するためのフランジ112bが設けられる。また、上部には駆動溶液供給用の配管115aとバルブ116aとが設けられる。また、後述の(第3実施形態:溶液処理システム)の<溶液処理システム(その5)>では、駆動溶液室110が駆動溶液室110a(図10参照)と駆動溶液室110b(図10参照)との2つに分離配置されている。駆動溶液室110aにおいては、第2半透膜20が接合されたフランジ112aと反対側の側面に、半透膜エレメント1D-2を接続するためのフランジ112bが設けられ、また、上部には駆動溶液供給用の配管115aとバルブ116aとが設けられる。一方、駆動溶液室110bにおいては、弾性部材16を接続するためのフランジ112bが設けられ、また、駆動溶液供給用の配管115aとバルブ116aとが設けられる。
【0072】
半透膜エレメント1は、駆動溶液室110に設けられたフランジ112bと、処理水室111に設けられたフランジ112cとの間に接合される。フランジ112bおよびフランジ112cは、一体的な接続配置構造の半透膜エレメント1においては、半透膜エレメント1の弾性膜15の外周部分を挟持して、半透膜エレメント1を接合する。一方、分離配置構造の半透膜エレメント1においては、半透膜エレメント1の半透膜部材11および弾性部材16の外周部分を挟持して、半透膜エレメント1を接合する。接合方法は、本実施形態では、第2半透膜20と同様に、ネジ113bを用いた圧着固定法により行った。接合方法は、バネを用いた圧着固定法や、接着剤を用いた接着固定法でもよい。半透膜エレメント1の弾性膜15、半透膜部材11および弾性部材16は、フランジ112bおよび112cとの密着性が良好でシール材としての機能も有しているため、フランジ112bおよび112cとの接合部分からの液漏れは発生しづらいが、もし必要であれば、追加で液漏れ防止ためのシール材を適用してもよい。
【0073】
半透膜エレメント1には、図1Bから図1Gに示されるように、半透膜エレメント1A、1B、1Cおよび1Dの4種類がある。2つのフランジ112bおよび112cの開閉により、それぞれの半透膜エレメント1を簡便に交換することが可能である。処理水室111は、半透膜エレメント1の他方側(駆動溶液室110とは反対側)に設けられる。処理水室111の上部には、淡水供給用の配管115bとバルブ116b、および処理水配送用の配管115cが設けられる。
【0074】
(第3実施形態:溶液処理システム)
次に、第3実施形態に係る溶液処理システムについて説明する。
【0075】
<溶液処理システム(その1)>
図6は、溶液処理システム(その1)を例示する模式図である。
図6に示す溶液処理システム500Aは、溶媒駆動モジュール100と、処理槽515と、前処理槽516と、溶液供給用のポンプ517と、処理水保管タンク518と、を備える。溶液処理システム500Aで用いられる溶媒駆動モジュール100は、第2半透膜20と、第2半透膜20と接する駆動溶液室110と、駆動溶液室110と接する半透膜エレメント1Aと、半透膜エレメント1Aと接する処理水室111と、を備える。
【0076】
この溶液処理システム500Aを用いた溶液処理として、海水水淡水化の実証実験を行った。海水淡水化処理は以下の工程に従って行われる。
【0077】
(工程1)先ず、溶媒駆動モジュール100の駆動溶液室110と処理水室111に対して、配管115aと115bを通して、それぞれ、駆動溶液510(50wt%ショ糖水、浸透圧約65気圧)と淡水511を供給し、それぞれの室内を液で満たしておく。この時、半透膜エレメント1Aの半透膜10a(約5mm厚の寒天ゲル膜)は、浸透限界以上の膜厚で浸透停止状態であるため、半透膜10aを介して正浸透は起こらず、すなわち、淡水側(処理水室111側)から50wt%ショ糖水側(駆動溶液室110側)への水の移動はなく、両方の液面は一定に保たれる。
【0078】
(工程2)次に、前処理槽516でゴミ、夾雑物等の不要物が除去された海水L1(原水、濃度約3.5wt%、浸透圧約25気圧)をポンプ517で処理槽515に供給する。処理槽515に海水L1が供給されることで、溶媒駆動モジュール100による淡水化処理が始まる。すなわち、供給された海水L1の溶媒(水)は、海水(低浸透圧側)と50wt%ショ糖水(高浸透圧側)の浸透圧差(約40気圧)によって、第2半透膜20を介して駆動溶液室110側に移動(浸透)しショ糖水に吸収され、ショ糖水の体積は徐々に増加する。そしてこれに伴い、駆動溶液室110および配管115a内の水位が上昇するので、バルブ116aを閉じる。
【0079】
(工程3)このバルブ116aの閉鎖により、駆動溶液室110は密閉状態となり、駆動溶液室110の内圧は徐々に上昇する。そして、この内圧上昇により半透膜エレメント1Aの弾性膜15(約0.5mm厚のシリコーンゴムシート)は徐々に伸張し、伸張にともなう浸透水の流入によりさらに伸張して、弾性膜15の復元力は増大する。そうすると、この増大する復元力により、浸透水は半透膜10aを介して処理水室111側に押し出され淡水511に吸収されて淡水511の水位が上昇する。その一方で、駆動溶液室110側では、浸透水が押し出されたことによる内圧降下により、半透膜エレメント1Aの弾性膜15は収縮し、それと接続している駆動溶液室110も収縮して、ショ糖水濃度は上昇し、工程2のバルブ116a閉鎖時の状態に近い濃度に戻る。すなわち、弾性膜15がダイヤフラムとして機能し駆動溶液室110の内圧を調整することによって、処理槽515から第2半透膜20を介した駆動溶液室110へ、さらには駆動溶液室110から第1半透膜10を介した処理水室111への一連の水の移動がサイクル的に実行される。
【0080】
(工程4)工程2と工程3とが定常的に繰り返され、処理水室111の水位が一定以上に達すると、処理水L2(淡水)は配管115cを通して処理水保管タンク518内に流出し、そこで保管される。
【0081】
上記の工程に従った実験において、先ず、工程1で半透膜エレメント1Aの半透膜10aを介して淡水側から50wt%ショ糖水側に水は移動せず、半透膜10a(約5mm厚の寒天膜)は浸透限界以上の膜厚であることを確認した。また、処理水保管タンク518において、時間経過とともにタンク内の水位が上昇し、工程2と工程3が定常的に繰り返されていることも確認した。さらに、駆動溶液室110の内圧は、その膨張の程度から、数気圧程度と見積もられ、少なくともRO法で必要とする数十気圧よりはかなり低い値であることも確認した。
【0082】
本実験結果から、FO法によって(浸透性)半透膜を介して対象溶液から引き出された溶媒(水)により駆動溶液室110内の圧力が高まり、浸透限界以上の厚い(非浸透性)半透膜10aを介して溶媒(水)が押し出されること、またこれにより、駆動溶液の分離工程が不要、すなわち、外部エネルギーが不要となることも実証された。
【0083】
本実施形態では、駆動溶液510の駆動微粒子にショ糖を使用したが、溶解度が高く、水溶液が高浸透圧を示すものであれば駆動微粒子として使用可能である。例えば、ブドウ糖、果糖、麦芽糖等の糖類、エタノール(エチルアルコール)、グリセロール(グリセリン)、エチレングリコール等のアルコール類、および塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化カルシウム(CaCl)等の塩類が該当する。また、本実施形態では、ショ糖水の濃度を50wt%と設定したが、これは一例であり、より高濃度、さらには飽和濃度としてもよい。これにより、駆動溶液室110の内圧が最大化し、処理水室111への流速が増大する。
【0084】
<溶液処理システム(その2)>
図7は、溶液処理システム(その2)を例示する模式図である。
図7に示す溶液処理システム500Bは、溶媒駆動モジュール100と、処理槽515と、前処理槽516と、溶液供給用のポンプ517と、処理水保管タンク518と、を備える。溶液処理システム500Bで用いられる溶媒駆動モジュール100は、第2半透膜20と、第2半透膜20と接する駆動溶液室110と、駆動溶液室110と接する半透膜エレメント1Bと、半透膜エレメント1Bと接する処理水室111と、を備える。
【0085】
この溶液処理システム500Bを用いた溶液処理として、海水水淡水化の実証実験を行った。海水淡水化処理は以下の工程に従って行われる。
【0086】
(工程1)先ず、溶媒駆動モジュール100の駆動溶液室110と処理水室111に対して、配管115aと115bを通して、それぞれ、駆動溶液510(50wt%ショ糖水、浸透圧約65気圧)と淡水511を供給し、それぞれの室内を液で満たしておく。この時、半透膜エレメント1Bの2層構成の半透膜10b(下層)/半透膜10a(上層)(約5mm厚のセロハン膜/寒天ゲル膜)を有する第1半透膜10は浸透限界以上の膜厚で浸透停止状態であるため、半透膜10b/10aを介して正浸透は起こらず、すなわち、淡水側から50wt%ショ糖水側への水の移動はなく、両方の液面は一定に保たれる。
【0087】
(工程2)次に、前処理槽516でゴミ、夾雑物等の不要物が除去された海水L1(原水、濃度約3.5wt%、浸透圧約25気圧)をポンプ517で処理槽515に供給する。処理槽515に海水L1が供給されることで、溶媒駆動モジュール100による淡水化処理が始まる。すなわち、供給された海水L1の溶媒(水)は、海水(低浸透圧側)と50wt%ショ糖水(高浸透圧側)の浸透圧差(約40気圧)によって、第2半透膜20を介して駆動溶液室110側に移動(浸透)しショ糖水に吸収され、ショ糖水の体積は徐々に増加する。そしてこれに伴い、駆動溶液室110および配管115a内の水位が上昇するので、バルブ116aを閉じる。
【0088】
(工程3)このバルブ116aの閉鎖により、駆動溶液室110は密閉状態となり、駆動溶液室110の内圧は徐々に上昇する。そして、この内圧上昇により半透膜エレメント1Bの弾性膜15(約0.5mm厚のシリコーンゴムシート)は徐々に伸張し、伸張にともなう浸透水の流入によりさらに伸張して、弾性膜15の復元力は増大する。そうすると、この増大する復元力により、浸透水は半透膜10b/10aを介して処理水室111側に押し出され淡水511に吸収されて淡水511の水位が上昇する。その一方で、駆動溶液室110側では、浸透水が押し出されたことによる内圧降下により、半透膜エレメント1Bの弾性膜15は収縮し、それと接続している駆動溶液室110も収縮して、ショ糖水濃度は上昇し、工程2のバルブ116a閉鎖時の状態に近い濃度に戻る。すなわち、弾性膜15がダイヤフラムとして機能し駆動溶液室110の内圧を調整することによって、処理槽515から第2半透膜20を介した駆動溶液室110へ、さらには駆動溶液室110から第1半透膜10を介した処理水室111への一連の水の移動がサイクル的に実行される。
【0089】
(工程4)工程2と工程3が定常的に繰り返され、処理水室111の水位が一定以上に達すると、処理水L2(淡水)は配管115cを通して処理水保管タンク518内に流出し、そこで保管される。
【0090】
上記の工程に従った実験において、先ず、工程1で半透膜エレメント1Bの半透膜10b/10aを介して淡水側から50wt%ショ糖水側に水は移動せず、半透膜10b/10a(約5mm厚のセロハン膜/寒天ゲル膜)は浸透限界以上の膜厚であることを確認した。また、処理水保管タンク518において、時間経過とともにタンク内の水位が増大し、工程2と工程3が定常的に繰り返されていることも確認した。さらに、駆動溶液室110の内圧は、その膨張の程度から、数気圧程度と見積もられ、少なくともRO法で必要とする数十気圧よりはかなり低い値であることも確認した。
【0091】
本実験結果から、FO法によって(浸透性)半透膜を介して対象溶液から引き出された溶媒(水)により駆動溶液室内の圧力が高まり、浸透限界以上の厚い(非浸透性)半透膜10b/10aを介して溶媒(水)が押し出されること、またこれにより、駆動溶液の分離工程が不要、すなわち、外部エネルギーが不要となることも実証された。
【0092】
本実施形態では、駆動溶液510の駆動微粒子にショ糖を使用したが、溶解度が高く、水溶液が高浸透圧を示すものであれば駆動微粒子として使用可能である。例えば、ブドウ糖、果糖、麦芽糖等の糖類、エタノール(エチルアルコール)、グリセロール(グリセリン)、エチレングリコール等のアルコール類、および塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化カルシウム(CaCl)等の塩類が該当する。また、本実施形態では、ショ糖水の濃度を50wt%と設定したが、これは一例であり、より高濃度、さらには飽和濃度としてもよい。これにより、駆動溶液室110の内圧が最大化し、処理水室への流速が増大する。
【0093】
<溶液処理システム(その3)>
図8は、溶液処理システム(その3)を例示する模式図である。
図8に示す溶液処理システム500Cは、溶媒駆動モジュール100と、処理槽515と、前処理槽516と、溶液供給用のポンプ517と、処理水保管タンク518と、を備える。溶液処理システム500Cで用いられる溶媒駆動モジュール100は、第2半透膜20と、第2半透膜20と接する駆動溶液室110と、駆動溶液室110と接する半透膜エレメント1Cと、半透膜エレメント1Cと接する処理水室111と、を備える。
【0094】
この溶液処理システム500Cを用いた溶液処理として、海水水淡水化の実証実験を行った。海水淡水化処理は以下の工程に従って行われる。
【0095】
(工程1)先ず、溶媒駆動モジュール100の駆動溶液室110と処理水室111に対して、配管115aと115bを通して、それぞれ、駆動溶液510(50wt%ショ糖水、浸透圧約65気圧)と淡水511を供給し、それぞれの室内を液で満たしておく。この時、半透膜エレメント1Cの3層構成の半透膜10b(下層)/10a(中間層)/10c(上層)(約5mm厚のセロハン膜/寒天ゲル膜/セロハン膜)は、浸透限界以上の膜厚で浸透停止状態であるため、半透膜10b/10a/10cを介して正浸透は起こらず、すなわち、淡水側から50wt%ショ糖水側への水の移動はなく、両方の液面は一定に保たれる。
【0096】
(工程2)次に、前処理槽516でゴミ、夾雑物等の不要物が除去された海水L1(原水、濃度約3.5wt%、浸透圧約25気圧)をポンプ517で処理槽515に供給する。処理槽515に海水L1が供給されることで、溶媒駆動モジュール100による淡水化処理が始まる。すなわち、供給された海水L1の溶媒(水)は、海水(低浸透圧側)と50wt%ショ糖水(高浸透圧側)の浸透圧差(約40気圧)によって、第2半透膜20を介して駆動溶液室110側に移動(浸透)しショ糖水に吸収され、ショ糖水の体積は徐々に増加する。そしてこれに伴い、駆動溶液室110および配管115a内の水位が上昇するので、バルブ116aを閉じる。
【0097】
(工程3)このバルブ116aの閉鎖により、駆動溶液室110は密閉状態となり、駆動溶液室110の内圧は徐々に上昇する。そして、この内圧上昇により半透膜エレメント1Cの弾性膜15(約0.5mm厚のシリコーンゴムシート)は徐々に伸張し、伸張にともなう浸透水の流入によりさらに伸張して、弾性膜15の復元力は増大する。そうすると、この増大する復元力により、浸透水は半透膜10b/10a/10cを介して処理水室111側に押し出され淡水511に吸収されて淡水511の水位が上昇する。その一方で、駆動溶液室110側では、浸透水が押し出されたことによる内圧降下により、半透膜エレメント1Cの弾性膜15は収縮し、それと接続している駆動溶液室110も収縮して、ショ糖水濃度は上昇し、工程2のバルブ116a閉鎖時の状態に近い濃度に戻る。すなわち、弾性膜15がダイヤフラムとして機能し駆動溶液室110の内圧を調整することによって、処理槽515から第2半透膜20を介した駆動溶液室110へ、さらには駆動溶液室110から第1半透膜10を介した処理水室111への一連の水の移動がサイクル的に実行される。
【0098】
(工程4)工程2と工程3が定常的に繰り返され、処理水室111の水位が一定以上に達すると、処理水L2(淡水)は配管115cを通して処理水保管タンク518内に流出し、そこで保管される。
【0099】
上記の工程に従った実験において、先ず、工程1で半透膜エレメント1Cの半透膜10b/10a/10cを介して淡水側から50wt%ショ糖水側に水は移動せず、半透膜10b/10a/10c(約5mm厚のセロハン膜/寒天ゲル膜/セロハン膜)は浸透限界以上の膜厚であることを確認した。また、処理水保管タンク518において、時間経過とともにタンク内の水位が増大し、工程2と工程3が定常的に繰り返されていることも確認した。さらに、駆動溶液室110の内圧は、その膨張の程度から、数気圧程度と見積もられ、少なくともRO法で必要とする数十気圧よりはかなり低い値であることも確認した。
【0100】
本実験結果から、FO法によって(浸透性)半透膜を介して対象溶液から引き出された溶媒(水)により駆動溶液室内の圧力が高まり、浸透限界以上の厚い(非浸透性)半透膜10b/10a/10cを介して溶媒(水)が押し出されること、またこれにより、駆動溶液の分離工程が不要、すなわち、外部エネルギーが不要となることも実証された。
【0101】
本実施形態では、駆動溶液510の駆動微粒子にショ糖を使用したが、溶解度が高く、水溶液が高浸透圧を示すものであれば駆動微粒子として使用可能である。例えば、ブドウ糖、果糖、麦芽糖等の糖類、エタノール(エチルアルコール)、グリセロール(グリセリン)、エチレングリコール等のアルコール類、および塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化カルシウム(CaCl)等の塩類が該当する。また、ショ糖水の濃度を50wt%と設定したが、これは一例であり、より高濃度、さらには飽和濃度としてもよい。これにより、駆動溶液室110の内圧が最大化し、処理水室への流速が増大する。
【0102】
<溶液処理システム(その4)>
図9は、溶液処理システム(その4)を例示する模式図である。
図9に示す溶液処理システム500Dは、溶媒駆動モジュール100と、処理槽515と、前処理槽516と、溶液供給用のポンプ517と、処理水保管タンク518と、を備える。溶液処理システム500Dで用いられる溶媒駆動モジュール100は、第2半透膜20と、第2半透膜20と接する駆動溶液室110と、駆動溶液室110と接する半透膜エレメント1D-1と、半透膜エレメント1D-1と接する処理水室111と、を備える。
【0103】
この溶液処理システム500Dを用いた溶液処理として、海水水淡水化の実証実験を行った。海水淡水化処理は以下の工程に従って行われる。
【0104】
(工程1)先ず、溶媒駆動モジュール100の駆動溶液室110と処理水室111に対して、配管115aと115bを通して、それぞれ、駆動溶液510(50wt%ショ糖水、浸透圧約65気圧)と淡水511を供給し、それぞれの室内を液で満たしておく。この時、半透膜エレメント1D-1の半透膜10a(約1mm厚のセロハン膜)は、浸透限界以上の膜厚で浸透停止状態であるため、半透膜10aを介して正浸透は起こらず、すなわち、淡水側(処理水室111側)から50wt%ショ糖水側(駆動溶液室110側)への水の移動はなく、両方の液面は一定に保たれる。
【0105】
(工程2)次に、前処理槽516でゴミ、夾雑物等の不要物が除去された海水L1(原水、濃度約3.5wt%、浸透圧約25気圧)をポンプ517で処理槽515に供給する。処理槽515に海水L1が供給されることで、溶媒駆動モジュール100による淡水化処理が始まる。すなわち、供給された海水L1の溶媒(水)は、海水(低浸透圧側)と50wt%ショ糖水(高浸透圧側)の浸透圧差(約40気圧)によって、第2半透膜20を介して駆動溶液室110側に移動(浸透)しショ糖水に吸収され、ショ糖水の体積は徐々に増加する。そしてこれに伴い、駆動溶液室110および配管115a内の水位が上昇するので、バルブ116aを閉じる。
【0106】
(工程3)このバルブ116aの閉鎖により、駆動溶液室110は密閉状態となり、駆動溶液室110の内圧は徐々に上昇する。そして、この内圧上昇により半透膜エレメント1D-1の弾性膜15(約0.5mm厚のシリコーンゴムシート)は徐々に伸張し、伸張にともなう浸透水の流入によりさらに伸張して、弾性膜15の復元力は増大する。そうすると、この増大する復元力により、浸透水は半透膜10aを介して処理水室111側に押し出され淡水511に吸収されて淡水511の水位が上昇する。その一方で、駆動溶液室110側では、浸透水が押し出されたことによる内圧降下により、半透膜エレメント1D-1の弾性膜15は収縮し、それと接続している駆動溶液室110も収縮して、ショ糖水濃度は上昇し、工程2のバルブ116a閉鎖時の状態に近い濃度に戻る。すなわち、弾性膜15がダイヤフラムとして機能し駆動溶液室110の内圧を調整することによって、処理槽515から第2半透膜20を介した駆動溶液室110へ、さらには駆動溶液室110から第1半透膜10を介した処理水室111への一連の水の移動がサイクル的に実行される。
【0107】
(工程4)工程2と工程3とが定常的に繰り返され、処理水室111の水位が一定以上に達すると、処理水L2(淡水)は配管115cを通して処理水保管タンク518内に流出し、そこで保管される。
【0108】
上記の工程に従った実験において、先ず、工程1で半透膜エレメント1D-1の半透膜10aを介して淡水側から50wt%ショ糖水側に水は移動せず、半透膜10a(約1mm厚のセロハン膜)は浸透限界以上の膜厚であることを確認した。また、処理水保管タンク518において、時間経過とともにタンク内の水位が上昇し、工程2と工程3が定常的に繰り返されていることも確認した。さらに、駆動溶液室110の内圧は、その膨張の程度から、数気圧程度と見積もられ、少なくともRO法で必要とする数十気圧よりはかなり低い値であることも確認した。
【0109】
本実験結果から、FO法によって(浸透性)半透膜を介して対象溶液から引き出された溶媒(水)により駆動溶液室110内の圧力が高まり、浸透限界以上の厚い(非浸透性)半透膜10aを介して溶媒(水)が押し出されること、またこれにより、駆動溶液の分離工程が不要、すなわち、外部エネルギーが不要となることも実証された。
【0110】
本実施形態では、駆動溶液510の駆動微粒子にショ糖を使用したが、溶解度が高く、水溶液が高浸透圧を示すものであれば駆動微粒子として使用可能である。例えば、ブドウ糖、果糖、麦芽糖等の糖類、エタノール(エチルアルコール)、グリセロール(グリセリン)、エチレングリコール等のアルコール類、および塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化カルシウム(CaCl2)等の塩類が該当する。また、本実施形態では、ショ糖水の濃度を50wt%と設定したが、これは一例であり、より高濃度、さらには飽和濃度としてもよい。これにより、駆動溶液室110の内圧が最大化し、処理水室111への流速が増大する。
【0111】
<溶液処理システム(その5)>
図10は、溶液処理システム(その5)を例示する模式図である。
図10に示す溶液処理システム500Eは、溶媒駆動モジュール100と、処理槽515と、前処理槽516と、溶液供給用のポンプ517と、処理水保管タンク518と、を備える。溶液処理システム500Eで用いられる溶媒駆動モジュール100は、第2半透膜20と、第2半透膜20と接する駆動溶液室110と、駆動溶液室110と接する半透膜エレメント1D-2と、半透膜エレメント1D-2と接する処理水室111と、を備える。本実施例での溶液処理システム500Eにおいては、駆動溶液室110は駆動溶液室110aと駆動溶液室110bとの2つに分離されており、両者間は配管で接続されており、それぞれに半透膜エレメント1D-2の半透膜部材11と弾性部材16とが分離配置されて備えられている。これにより、駆動溶液室110aと駆動溶液室110bとは分離(離間)した領域であるが、互いに同一圧力領域となる。駆動溶液室110aと駆動溶液室110bとが分離配置されていることで、駆動溶液室110aを開放することなく、駆動溶液室110bを開放して弾性部材16のみを交換しやすくなる。また、駆動溶液室110bを開放することなく、駆動溶液室110aを開放して第1半透膜10のみを交換しやすくなる。
【0112】
この溶液処理システム500Eを用いた溶液処理として、海水水淡水化の実証実験を行った。海水淡水化処理は以下の工程に従って行われる。
【0113】
(工程1)先ず、溶媒駆動モジュール100の駆動溶液室110aと駆動溶液室110b、および処理水室111に対して、配管115aと115bを通して、それぞれ、駆動溶液510(50wt%ショ糖水、浸透圧約65気圧)と淡水511を供給し、それぞれの室内を液で満たしておく。この時、半透膜エレメント1D-2の半透膜10a(約1mm厚のセロハン膜)は、浸透限界以上の膜厚で浸透停止状態であるため、半透膜10aを介して正浸透は起こらず、すなわち、淡水側(処理水室111側)から50wt%ショ糖水側(駆動溶液室110側)への水の移動はなく、両方の液面は一定に保たれる。
【0114】
(工程2)次に、前処理槽516でゴミ、夾雑物等の不要物が除去された海水L1(原水、濃度約3.5wt%、浸透圧約25気圧)をポンプ517で処理槽515に供給する。処理槽515に海水L1が供給されることで、溶媒駆動モジュール100による淡水化処理が始まる。すなわち、供給された海水L1の溶媒(水)は、海水(低浸透圧側)と50wt%ショ糖水(高浸透圧側)の浸透圧差(約40気圧)によって、第2半透膜20を介して駆動溶液室110側に移動(浸透)しショ糖水に吸収され、ショ糖水の体積は徐々に増加する。そしてこれに伴い、駆動溶液室110aおよび配管115a内の水位が上昇するので、バルブ116aを閉じる。
【0115】
(工程3)このバルブ116aの閉鎖により、駆動溶液室110aおよび駆動溶液室110bは密閉状態となり、駆動溶液室110の内圧は徐々に上昇する。そして、この内圧上昇により半透膜エレメント1D-2の弾性膜15(約0.5mm厚のシリコーンゴムシート)は徐々に伸張し、伸張にともなう浸透水の流入によりさらに伸張して、弾性膜15の復元力は増大する。そうすると、この増大する復元力により、浸透水は半透膜10aを介して処理水室111側に押し出され淡水511に吸収されて淡水511の水位が上昇する。その一方で、駆動溶液室110側では、浸透水が押し出されたことによる内圧降下により、半透膜エレメント1D-2の弾性膜15は収縮し、それと接続している駆動溶液室110bも収縮して、ショ糖水濃度は上昇し、工程2のバルブ116a閉鎖時の状態に近い濃度に戻る。すなわち、弾性膜15がダイヤフラムとして機能し駆動溶液室110aおよび駆動溶液室110bの内圧を調整することによって、処理槽515から第2半透膜20を介した駆動溶液室110aへ、さらには駆動溶液室110aから第1半透膜10を介した処理水室111への一連の水の移動がサイクル的に実行される。
【0116】
(工程4)工程2と工程3とが定常的に繰り返され、処理水室111の水位が一定以上に達すると、処理水L2(淡水)は配管115cを通して処理水保管タンク518内に流出し、そこで保管される。
【0117】
上記の工程に従った実験において、先ず、工程1で半透膜エレメント1D-2の半透膜10aを介して淡水側から50wt%ショ糖水側に水は移動せず、半透膜10a(約1mm厚のセロハン膜)は浸透限界以上の膜厚であることを確認した。また、処理水保管タンク518において、時間経過とともにタンク内の水位が上昇し、工程2と工程3が定常的に繰り返されていることも確認した。さらに、駆動溶液室110の内圧は、その膨張の程度から、数気圧程度と見積もられ、少なくともRO法で必要とする数十気圧よりはかなり低い値であることも確認した。
さらに、上述したように、駆動溶液室を2つに分離して配置することにより、半透膜部材と弾性部材とをそれぞれ別々に分離して駆動溶液室内に接合することが可能となり、薬液補充やメンテナンス等で利便性が向上し実用性が一段と高まる。
【0118】
本実験結果から、FO法によって(浸透性)半透膜を介して対象溶液から引き出された溶媒(水)により駆動溶液室110内の圧力が高まり、浸透限界以上の厚い(非浸透性)半透膜10aを介して溶媒(水)が押し出されること、またこれにより、駆動溶液の分離工程が不要、すなわち、外部エネルギーが不要となることも実証された。
【0119】
本実施形態では、駆動溶液510の駆動微粒子にショ糖を使用したが、溶解度が高く、水溶液が高浸透圧を示すものであれば駆動微粒子として使用可能である。例えば、ブドウ糖、果糖、麦芽糖等の糖類、エタノール(エチルアルコール)、グリセロール(グリセリン)、エチレングリコール等のアルコール類、および塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化カルシウム(CaCl2)等の塩類が該当する。また、本実施形態では、ショ糖水の濃度を50wt%と設定したが、これは一例であり、より高濃度、さらには飽和濃度としてもよい。これにより、駆動溶液室110の内圧が最大化し、処理水室111への流速が増大する。
【0120】
以上説明したように、実施形態に係る半透膜エレメント1A、1B、1C、1Dおよび溶媒駆動モジュール100によれば、FO法による溶液処理において、対象溶液から引き出した溶媒を駆動溶液から容易に分離することが可能となる。
【0121】
なお、上記に本実施形態およびその適用例(変形例、具体例)を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例えば、上記の例では、溶液の処理として海水淡水化を例とし、溶媒の例として水を示したが、海水以外の溶液の処理(溶液から溶媒を抽出する処理)であっても適用可能である。この場合、溶媒は水以外となる。また、前述の各実施形態またはその適用例(変形例、具体例)に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、各実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0122】
1,1A,1B,1C,1D,1D-1,1D-2…半透膜エレメント
10…第1半透膜
10a,10b,10c…半透膜
11…半透膜部材
12…開口部
13…フレーム部
14…接合部
15…弾性膜
16…弾性膜部材
17…開口部
18…フレーム部
19…接合部
20…第2半透膜
21…網目膜
22…支持枠
31,32…半透膜
100…溶媒駆動モジュール
110,110a,110b…駆動溶液室
111…処理水室
112a,112b,112c…フランジ
113a,113b…ネジ
114…ネジ穴
115a,115b,115c…配管
116a,116b…バルブ
500A,500B,500C,500D,500E…溶液処理システム
510…駆動溶液
511…淡水
515…処理槽
516…前処理槽
517…ポンプ
518…処理水保管タンク
800a,800b…溶媒駆動モジュール
810…駆動溶液
815…処理槽
816…前処理槽
817a,817b…ポンプ
818…処理水保管タンク
819…駆動溶液分離/調整槽
820…半透膜
830…駆動溶液タンク
840…分離膜
L1…海水
L2…処理水
La…淡水
Lb…ショ糖水
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12