(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009948
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】防食被覆損傷位置検出方法及び防食被覆損傷位置検出装置
(51)【国際特許分類】
G01V 3/06 20060101AFI20250109BHJP
G01N 27/20 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01V3/06
G01N27/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024101512
(22)【出願日】2024-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2023110223
(32)【優先日】2023-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000182937
【氏名又は名称】日鉄パイプライン&エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】赤間 智典
【テーマコード(参考)】
2G060
2G105
【Fターム(参考)】
2G060AA14
2G060AD04
2G060AE05
2G060AF03
2G060AF09
2G060AG07
2G060AG09
2G060AG11
2G060EA03
2G060EA06
2G060EB05
2G060GA01
2G060HA02
2G060HC01
2G060HC07
2G060HC12
2G060HC15
2G060KA13
2G105AA02
2G105BB03
2G105DD02
2G105EE01
2G105FF02
2G105FF13
2G105GG03
2G105LL02
(57)【要約】
【課題】小さい損傷であっても発見を容易にすることができる防食被覆損傷位置検出方法及び防食被覆損傷位置検出装置を提供する。
【解決手段】外面に防食被覆が施された地中埋設物Bにおける被覆損傷部Bsの位置を、車輪電極11を有する受信装置10を用いて検出する防食被覆損傷位置検出方法であって、地中埋設物Bの直上の地表面で地中埋設物Bに沿って受信装置10を移動させ、車輪電極11により地表面の電位差を検出する検出工程と、検出工程で検出して得られる電位差の正弦または余弦を積算する積算工程と、積算工程で積算して得られる電位分布の積算波形を表示装置15に表示する表示工程と、を含み、積算工程では、電位差の振幅に対する基準値を設定し、基準値に基づく電位差の振幅の割合の正弦または余弦を積算する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面に防食被覆が施された地中埋設物における被覆損傷部の位置を、車輪電極を有する受信装置を用いて検出する防食被覆損傷位置検出方法であって、
前記地中埋設物の直上の地表面で前記地中埋設物に沿って前記受信装置を移動させ、前記車輪電極により地表面の電位差を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出して得られる前記電位差の正弦または余弦を積算する積算工程と、 前記積算工程で積算して得られる電位分布の積算波形を表示装置に表示する表示工程と、を含み、
前記積算工程では、前記電位差の振幅に対する基準値を設定し、前記基準値に基づく前記電位差の振幅の割合の正弦または余弦を積算する、防食被覆損傷位置検出方法。
【請求項2】
前記積算波形の変化量が、前記受信装置が前記地中埋設物に沿って一定距離進む間連続して所定の設定値以下である場合に、積算値がゼロになるように前記積算波形をリセットする、
請求項1に記載の防食被覆損傷位置検出方法。
【請求項3】
前記積算工程では、前記積算波形にゲインを設定することで、前記積算波形の大きさを拡大又は縮小する、
請求項1に記載の防食被覆損傷位置検出方法。
【請求項4】
前記積算工程では、前記積算の計算式にオフセットを追加することで、前記積算波形の傾きを補正する、
請求項2に記載の防食被覆損傷位置検出方法。
【請求項5】
前記基準値は、前記表示装置の表示範囲に対応するレンジである、
請求項1に記載の防食被覆損傷位置検出方法。
【請求項6】
前記基準値は、手動又は自動で設定変更可能である、
請求項1から5のいずれか1項に記載の防食被覆損傷位置検出方法。
【請求項7】
前記基準値の設定変更前後の前記積算波形を、前記表示装置に同時に表示する、
請求項6に記載の防食被覆損傷位置検出方法。
【請求項8】
前記基準値の設定変更に連動して、前記基準値を設定変更した時点以降の前記積算波形が、前記基準値を設定変更した後の前記基準値の大きさに応じた表示態様に変更される、 請求項7に記載の防食被覆損傷位置検出方法。
【請求項9】
外面に防食被覆が施された地中埋設物における被覆損傷部の位置を検出する防食被覆損傷位置検出装置であって、
前記地中埋設物の直上の地表面で前記地中埋設物に沿って移動することで、地表面の電位差を検出する車輪電極を有する受信装置と、
前記車輪電極で検出して得られる前記電位差の正弦または余弦を積算する積算装置と、 前記積算装置が積算して得られる電位分布の積算波形を表示する表示装置と、を含み、 前記積算装置は、前記電位差の振幅に対して設定された基準値に基づく前記電位差の振幅の割合の正弦または余弦を積算する、防食被覆損傷位置検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食被覆損傷位置検出方法及び防食被覆損傷位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
外面に防食被覆が施された地中埋設物の被覆損傷部の位置を、地上から検出する技術が開示されている。例えば、特許文献1では、受信装置に地表面電位差の正弦または余弦を積算する積算装置を設け、積算して得られる地表面電位分布を表示装置に表示し、その波形のピーク点から防食被覆の損傷位置を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
表示装置に所定の範囲の積算波形を表示させた際、グラフ内に大きい損傷がある場合に、大きい損傷のピーク点を表示できるスケールで積算波形を表示すると、小さい損傷の積算波形のピーク点が相対的に小さく表示されてしまい、損傷の発見には経験を要していた。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、小さい損傷であっても発見を容易にすることができる防食被覆損傷位置検出方法及び防食被覆損傷位置検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1>本発明の態様1に係る防食被覆損傷位置検出方法は、外面に防食被覆が施された地中埋設物における被覆損傷部の位置を、車輪電極を有する受信装置を用いて検出する防食被覆損傷位置検出方法であって、前記地中埋設物の直上の地表面で前記地中埋設物に沿って前記受信装置を移動させ、前記車輪電極により地表面の電位差を検出する検出工程と、前記検出工程で検出して得られる前記電位差の正弦または余弦を積算する積算工程と、前記積算工程で積算して得られる電位分布の積算波形を表示装置に表示する表示工程と、を含み、前記積算工程では、前記電位差の振幅に対する基準値を設定し、前記基準値に基づく前記電位差の振幅の割合の正弦または余弦を積算する。
【0007】
この発明によれば、検出工程において検出した電位差の正弦または余弦を積算する積算工程において、電位差の振幅に対する基準値を設定し、基準値に基づく電位差の振幅の割合の正弦または余弦を積算する。積算工程で積算して得られる電位分布の積算波形は、表示工程において表示装置に表示される。これにより、基準値を適宜設定することで、積算値の大きさを適宜変更することができ、例えば、表示装置において、比較的小さい波形を増幅して大きな波形として表示することができる。したがって、小さい損傷の積算波形を表示装置に比較的大きく表示することができる。よって、積算波形のピーク点が視認しやすく、小さい損傷であってもその発見を容易にすることができる。
【0008】
<2>本発明の態様2に係る防食被覆損傷位置検出方法は、態様1に係る防食被覆損傷位置検出方法において、前記積算波形の変化量が、前記受信装置が前記地中埋設物に沿って一定距離進む間連続して所定の設定値以下である場合に、積算値がゼロになるように前記積算波形をリセットする。
【0009】
ここで、地中埋設物の電位を測定する際、被覆損傷部以外から生じる被覆材の絶縁抵抗値に起因する計測対象外の誤差電位を積算し続けることで、積算波形が表示装置の表示範囲から外れることがある。
この発明によれば、積算波形の変化量が、受信装置が地中埋設物に沿って一定距離進む間連続して設定値以下である場合に、積算値がゼロになるように積算波形をゼロリセットする。これにより、例えば、受信装置が計測対象外の誤差電位のみを検出し続けた際に、積算波形が表示装置の表示範囲から外れることを抑えることができる。また、表示装置に表示される積算波形から誤差電位による波形を除去することで、より積算波形のピーク点を見やすくすることができる。
【0010】
<3>本発明の態様3に係る防食被覆損傷位置検出方法は、態様1又は態様2に係る防食被覆損傷位置検出方法において、前記積算工程では、前記積算波形にゲインを設定することで、前記積算波形の大きさを拡大又は縮小する。
【0011】
この発明によれば、積算工程では、積算波形にゲインを設定することで、積算波形の大きさを拡大又は縮小する。これにより、例えば、表示装置において、比較的小さい波形を拡大して大きな波形として表示することができる。更に、比較的大きい波形を縮小して小さな波形として表示することができる。よって、積算波形をより見やすい大きさに自由に調整することができる。
【0012】
<4>本発明の態様4に係る防食被覆損傷位置検出方法は、態様1から態様3のいずれか1つに係る防食被覆損傷位置検出方法において、前記積算工程では、前記積算の計算式にオフセットを追加することで、前記積算波形の傾きを補正する。
【0013】
この発明によれば、積算工程では、積算装置において積算の計算式にオフセットを追加することで、積算波形の傾きを補正する。よって、更に積算波形を見やすくすることができる。
【0014】
<5>本発明の態様5に係る防食被覆損傷位置検出方法は、態様1から態様4のいずれか1つに係る防食被覆損傷位置検出方法において、前記基準値は、前記表示装置の表示範囲に対応するレンジである。
【0015】
この発明によれば、基準値は、表示装置の表示範囲に対応するレンジである。これにより、レンジを適宜設定することで、例えば、表示装置において、比較的小さい波形を増幅して大きな波形として表示することができる。したがって、小さい損傷の積算波形を表示装置に比較的大きく表示することができる。よって、積算波形のピーク点が視認しやすく、小さい損傷であってもその発見を容易にすることができる。
【0016】
<6>本発明の態様6に係る防食被覆損傷位置検出方法は、態様1から態様5のいずれか1つに係る防食被覆損傷位置検出方法において、前記基準値は、手動又は自動で設定変更可能である。
【0017】
この発明によれば、基準値を手動で設定変更可能とする場合は、振幅波形及び積算波形の拡大又は縮小を、より作業者の感覚に合わせて行うことができる。基準値を自動で設定変更可能とする場合は、作業者による基準値の設定変更を不要として、作業の効率を向上することができる。
【0018】
<7>本発明の態様7に係る防食被覆損傷位置検出方法は、態様1から態様6のいずれか1つに係る防食被覆損傷位置検出方法において、前記基準値の設定変更前後の前記積算波形を、前記表示装置に同時に表示する。
【0019】
この発明によれば、例えば、表示装置において、拡大された比較的小さい波形と、縮小された比較的大きい波形とを、同時に目視することができる。よって、例えば、被覆損傷部の大きさを問わず、地中埋設物における被覆損傷部の位置を把握しやすくすることができる。
【0020】
<8>本発明の態様8に係る防食被覆損傷位置検出方法は、態様1から態様7のいずれか1つに係る防食被覆損傷位置検出方法において、前記基準値の設定変更に連動して、前記基準値を設定変更した時点以降の前記積算波形が、前記基準値を設定変更した後の前記基準値の大きさに応じた表示態様に変更される。
【0021】
この発明によれば、表示装置において、拡大された比較的小さい波形と、縮小された比較的大きい波形とを、同時に目視することができる。
【0022】
<9>本発明の態様9に係る防食被覆損傷位置検出装置は、外面に防食被覆が施された地中埋設物における被覆損傷部の位置を検出する防食被覆損傷位置検出装置であって、前記地中埋設物の直上の地表面で前記地中埋設物に沿って移動することで、地表面の電位差を検出する車輪電極を有する受信装置と、前記車輪電極で検出して得られる前記電位差の正弦または余弦を積算する積算装置と、前記積算装置が積算して得られる電位分布の積算波形を表示する表示装置と、を含み、前記積算装置は、前記電位差の振幅に対して設定された基準値に基づく前記電位差の振幅の割合の正弦または余弦を積算する。
【0023】
この発明によれば、受信装置が検出した電位差の正弦または余弦を積算する積算装置は、電位差の振幅に対して設定された基準値に基づく受信装置が検出した電位差の振幅の割合の正弦または余弦を積算する。積算装置が積算して得られる電位分布の積算波形は、表示装置に表示される。これにより、基準値を適宜設定することで、例えば、表示装置において、比較的小さい波形を増幅して大きな波形として表示することができる。したがって、小さい損傷の積算波形を表示装置に比較的大きく表示することができる。よって、積算波形のピーク点が視認しやすく、小さい損傷であってもその発見を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、小さい損傷であっても発見を容易にすることができる防食被覆損傷位置検出方法及び防食被覆損傷位置検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】
図1に示す防食被覆損傷位置検出装置の受信装置の概要図である。
【
図3】ロックインアンプによって出力される波形の例である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る防食被覆損傷位置検出装置100及び防食被覆損傷位置検出方法を説明する。本実施形態に係る防食被覆損傷位置検出装置100は、例えば、外面に防食被覆が施された地中埋設物Bにおける被覆損傷部Bsの位置を検出する。地中埋設物Bは、例えば、埋設配管である。地中埋設物Bは、例えば、鋼管等の金属管であってもよい。
図1及び
図2に示すように、防食被覆損傷位置検出装置100は、受信装置10と、測定信号発信器20と、を備える。
【0027】
受信装置10は、地表面の電位差を検出する。受信装置10は、車輪電極11と、ロックインアンプ12と、参照信号発信器13、積算装置14、表示装置15、オフセット設定器16、レンジ切替器17、を備える。
車輪電極11は、地中埋設物Bの直上の地表面で地中埋設物Bに沿って移動しながら、地表面の電位差を連続的に検出する。車輪電極11には、例えば、導電性スポンジゴム車輪が好適に用いられる。
図1及び
図2に示すように、車輪電極11は、受信装置10において2つ設けられる。このことで、一方の車輪電極11が検出した電位と、他方の車輪電極11が検出した電位と、の間の電位差を検出する。
【0028】
車輪電極11はロックインアンプ12の入力部に接続され、また参照信号発信器13の出力部はロックインアンプ12の参照信号入力部に接続されている。また、ロックインアンプ12の出力信号は、積算装置14を介して、表示装置15に接続されている。
【0029】
上記の防食被覆損傷位置検出装置100において、測定信号発信器20を用いてそれぞれ地中埋設物Bと対極22(後述する)との間に交流信号電流を通じ、地中埋設物Bに沿って移動する前記2つの車輪電極11により測定信号発信器20より発生する地表面の2点間の電位差を検出し、その検出信号をロックインアンプ12の検出信号入力部に入力する。なお、前記車輪電極11の車輪には図示していないエンコーダ等の回転信号発生器が設けられ車輪回転量を移動距離に変換して表示装置15に表示するようにされている。
【0030】
一方、参照信号発信器13から発信される参照信号は、測定信号発信器20が出力する交流信号電流との相対的位相変化の程度が少なくとも180度/時間より小さい範囲の同じ周波数の信号を用い、その参照信号がロックインアンプ12の参照信号入力部に入力される。
【0031】
ロックインアンプ12においては、
図3に示すように、
・入力された検出信号から演算された振幅Aの波形W1[
図3(A)]
・Acosφの波形W2[
図3(b)]
・Asinφの波形W3[
図3(c)]
・位相φの波形W4[
図3(d)]
が出力される。
なお、
図3において、横軸は被覆損傷部Bsからの距離を示し、また、
図3(a)、(b)および(c)における縦軸は電位差を示し、
図3(d)における縦軸は位相φの大きさを示している。
【0032】
電位差の振幅Aに対してレンジを設定するレンジ切替器17を設けている。レンジとは、表示装置15が提示できる電位差の振幅A(mV、あるいはV)の最大振幅、すなわち表示範囲(フルスケール)のことであり、小さい値から大きい値までを精度良く表示するために、測定される電位差の振幅が表示装置15の表示範囲に可能な限り近いレンジを選択することが望ましい。
図3に示したロックインアンプ12から出力された波形のうち、
図2に示すように、振幅Aの波形W1の出力信号はレンジ切替器17によって設定されたレンジに基づくパーセント振幅%Aの情報に変換された後に積算装置14に入力され、また同時に位相φの波形W4の出力信号も積算装置14に入力され、積算装置14において%Aとφから%Asinφが計算され、更に%Asinφが積算される(詳細は後述する)。
さらに、積算装置14の結果は表示装置15に入力され、この表示装置15においては、
図3(e)に示す波形W5が表示される。
【0033】
前記各波形のうち、振幅Aの波形W1を示す
図3(a)においては、電位の極小位置が被覆損傷部Bsの位置であり、Acosφの波形W2を示す
図3(b)およびAsinφの波形W3を示す
図3(c)においては電位の正負の変換位置が被覆損傷部Bsの位置であり、位相φの波形W4を示す
図3(d)においては、位相φの反転位置が被覆損傷部Bsの位置である。さらに%Asinφを積算することにより得られる波形W5の形状は、
図3(e)に示すようにピーク点が被覆損傷部Bsの位置を示す。本実施形態において、ピーク点とは、波形の極大値をいう。
地表面電位分布を求める場合に、正弦%Asinφを積算する代わりに、余弦%Acosφを積算しても同様の波形を得ることができる。
【0034】
積算装置14は、電位差の正弦または余弦を積算する。このことで、受信装置10が検出した電位差を、波形として表示装置15に表示可能にする。具体的には、積算装置14は、例えば、電位差の振幅に対して設定されたレンジに基づく電位差の振幅の百分率の正弦または余弦を積算する(詳細は後述する)。
表示装置15は、積算装置14が積算して得られる電位分布の積算波形を表示する。表示装置15には、例えば、公知のディスプレイが用いられる。すなわち、表示装置15は、例えばCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイや液晶ディスプレイ、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等の表示装置15を含んで構成される。表示装置15は、例えば、公知のPCのディスプレイであってもよい。この場合は、PCの備えるCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ及びメモリ等によってプログラムを実行することで、PCによって上述の積算装置14等の機能を担保してもよい。表示装置15は、例えば、公知の平衡記録計などのペンレコーダーであってもよい。
【0035】
(防食被覆損傷位置検出方法)
次に、上述した防食被覆損傷位置検出装置100による防食被覆損傷位置検出方法について説明する。本実施形態に係る防食被覆損傷位置検出方法は、外面に防食被覆が施された地中埋設物Bにおける被覆損傷部Bsの位置を、車輪電極11を有する受信装置10を用いて検出する方法である。
本実施形態に係る防食被覆損傷位置検出方法は、検出工程と、積算工程と、表示工程と、を含む。
【0036】
検出工程は、地中埋設物Bの上部の地表面で地中埋設物Bに沿って受信装置10を移動させ、車輪電極11により地表面の電位差を検出する工程である。
図1及び
図2に示すように、地中埋設物Bには、測定信号発信器20が設けられている。測定信号発信器20は、地中埋設物Bと、地中(土壌の内部)に配置された対極22に接続されている。測定信号発信器20は、地中埋設物Bと対極22との間に交流電圧を印加し、交流電流を通電する。このとき、地中埋設物Bに被覆損傷部Bsがあると、被覆損傷部Bsを介して地中埋設物Bに電流Iが流れ込む。これにより、被覆損傷部Bsの周囲において、電位差が生じる。検出工程においては、このように発生した地表面での電位差を受信装置10によって検出する。
【0037】
積算工程は、電位差の振幅に対して設定された基準値に基づく電位差の振幅の割合の正弦または余弦を積算する工程である。本実施形態において、基準値は、レンジであり、割合は、百分率である。本実施形態においては、例えば、電位差の振幅に対して設定されたレンジに基づく電位差の振幅Aの百分率%Aの正弦(%Asinφ)を積算する。電位差の振幅に対して設定されたレンジに基づく電位差の振幅の百分率の正弦の積算は、受信装置10が地中埋設物Bに沿って移動する毎に行われる。積算された結果は、表示装置15に適宜プロットされる。このことで、受信装置10が受信した電位差の振幅に対して設定されたレンジに基づく電位差の振幅の百分率の正弦を、積算波形として表示装置15に表示可能とする。
【0038】
本実施形態において、積算工程では、電位差の振幅に対して設定されたレンジに基づく電位差の振幅の百分率の正弦または余弦を積算装置14にて積算する。前記百分率の計算は、レンジ切替器17にて行われる。レンジは、例えば、50mV~10Vの範囲に変更が可能である。すなわち、例えば、レンジを50mVに設定した場合、表示装置15には、電位差の最大振幅を50mVとした振幅が表示される。レンジを100mVに設定した場合、表示装置15には、電位差の最大振幅を100mVとした振幅が表示される。
【0039】
本実施形態において、電位差の振幅に対して設定されたレンジに基づく電位差の振幅Aの百分率を、パーセント振幅%Aと定義する。すなわち、パーセント振幅%Aは、受信装置10が検出した電位差の振幅Aに基づき、以下の式によって求められる。
%A=A÷レンジ×100
例えば、振幅Aを200mV、レンジを500mVとした場合、パーセント振幅%Aは、
%A=200÷500×100=40(%)
となる。つまり、表示装置15のレンジを500mVに設定した場合に、受信装置10が200mVの振幅Aを検出すると、レンジ切替器17にてパーセント振幅%Aが「表示範囲の最大値の40%」と計算され、積算装置14にてその正弦が積算され、その結果が積算波形として表示装置15にプロットされる。
積算は例えば、(1)式で計算される。
Σ%Asinφ …(1)
積算は(1)式に、積算を行う間隔(移動距離)を乗じても良い。
Σ(%Asinφ×D) …(2)
ここで、Dは積算を行う間隔(m)である。
積算は、例えば車輪電極11の移動開始時から行い、積算を行う間隔は、例えば0.01mである。
【0040】
ここで、地表面で検出される被覆損傷部Bsから生じる電位差の振幅Aは、被覆損傷部Bsの面積、地中埋設物Bの電位、埋設深さ、土壌抵抗率などに依存する。受信装置10が検出する電位差の大きさ、つまり、積算装置14によって出力される積算波形の大きさは、例えば、被覆損傷部Bsの面積によって大きく異なることがある。このため、例えば、表示装置15のレンジを大きく設定すると、小さな電位差の振幅波形が目視困難となることがある。表示装置15のレンジを小さく設定すると、大きな電位差の振幅波形が表示装置15の表示範囲に表示されなくなることがある。
この課題に対応するため、本実施形態において、レンジは、手動又は自動で切り替え可能である。すなわち、例えば、レンジは、作業者がレンジ切替器17の操作盤を操作することで切り替え可能である。又は、レンジは、レンジ切替器17による切り替え要否の判定結果により、自動で切り替え可能であってもよい。
【0041】
ここで、地中埋設物Bの電位を測定する際、被覆損傷部Bs以外から生じる被覆材の絶縁抵抗値に起因する計測対象外の誤差電位を積算し続けることで、積算波形が表示装置15の表示範囲から外れることがある。本実施形態では、これを抑える為に、積算波形の変化量が、受信装置10が地中埋設物Bに沿って一定距離進む間連続して設定値以下である場合に、積算値がゼロになるように積算波形をゼロリセットする。このことで、受信装置10が計測対象外の誤差電位のみを検出し続けた際に、積算波形が表示装置15の表示範囲から外れることを抑えることが好ましい。また、表示装置15に表示される積算波形から誤差電位による波形を除去することで、より積算波形のピーク点を見やすくすることが好ましい。設定値は、検出開始前に予め所定の値に設定されていてもよいし、検出中に変更されてもよい。設定値は、例えば作業者が任意の値を予め設定(入力)するようになっていてもよいし、自動で任意の値に設定されてもよい。設定値は、例えば表示装置15の表示範囲の最大値の5%であってもよい。
【0042】
また、積算工程では、積算波形にゲインを設定し、積算波形の大きさを拡大又は縮小することで、表示装置15に表示される積算波形をより見やすい大きさに自由に調整するようにしてもよい。
また、積算工程では、積算装置14において積算の計算式にオフセットを追加することで、積算波形の傾きを補正し、更に表示装置15に表示される積算波形を見やすくするようにしてもよい。
ゲインを設定した場合の積算は例えば、(3)式で計算される。
Σ(G×%Asinφ) …(3)
ここで、Gはゲインである。
オフセットを設定した場合の積算は例えば、(4)式で計算される。
Σ(%Asinφ+K) …(4)
ここで、Kはオフセットである。
【0043】
表示工程は、積算工程で積算して得られる電位分布の積算波形を表示装置15に表示する工程である。表示工程は、例えば、積算装置14によって出力される積算波形の情報が、表示装置15に伝達されることで行われる。
本実施形態において、レンジの切り替え前後の積算波形は、表示装置15に同時に表示される。具体的には、レンジの大きさの切り替えに連動して、レンジを切り替えた時点以降の積算波形が、レンジを切り替えた後のレンジの大きさに応じた表示態様に変更される。そして、レンジを切り替えた時点より前の積算波形は、レンジを切り替える前のレンジの大きさに応じた表示態様で表示される。表示装置の一画面において、レンジの切り替え前の積算波形に連続して、レンジ切り替え後の積算波形が表示される。このようにして表示された積算波形を、
図4に示す。
【0044】
図4(a)に、測定結果の一例に係るパーセント振幅%Aと、位相φとを、
図4(b)に、Asinφの積算波形であるΣAsinφと、%Asinφの積算波形であるΣ%Asinφを示す。すなわち、ΣAsinφの波形は、レンジ切替器17による百分率の計算を行わずに振幅Aを積算した状態の波形であり、Σ%Asinφの波形は、レンジ切替器17による百分率の計算を行った振幅A、すなわちパーセント振幅%Aを積算した状態の波形である。
図4(a)において、縦軸は振幅(%)及び位相(deg)又はレンジ(mV)、横軸は距離(m)を示す。
図4(b)において、縦軸は積算電位又はレンジ(mV)、横軸は距離(m)を示す。
図4において、符号Rを付された線は、レンジの切り替えが行われた地点と、設定されたレンジの値を示す。すなわち、
図4においては、レンジは、距離0の地点から、50mV、500mV、100mV、500mV、20mV、200mVと切り替えられている。
【0045】
図4(b)に係る例では、矢印によって示された部位に、合わせて5つの被覆損傷部Bsが位置している。すなわち、被覆損傷部Bsの位置は、積算波形のピーク点によって判定される。
【0046】
図4(b)に示すように、本実施形態に係る百分率の積算を行う前のΣAsinφの波形は、例えば、ピーク点の波形が小さい部分や、ピーク点において表示装置15の表示範囲を超える部分がある。これに対して、本実施形態に係る百分率の積算を行った後のΣ%Asinφの波形は、ΣAsinφの波形よりもピーク点の判別がしやすい。また、ピーク点において表示装置15の表示範囲を超えることを防ぐのが容易になる。
このように、本実施形態に係る百分率の積算によって、作業者にとって積算波形を見やすくできることがわかる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係る防食被覆損傷位置検出方法によれば、検出工程において検出した電位差の正弦または余弦を積算する積算工程において、電位差の振幅Aに対する基準値を設定し、基準値に基づく電位差の振幅Aの割合%Aの正弦%Asinφまたは余弦%Acosφを積算する。積算工程で積算して得られる電位分布の積算波形Σ%AsinφまたはΣ%Acosφは、表示工程において表示装置15に表示される。これにより、基準値を適宜設定することで、積算値の大きさを適宜変更することができ、例えば、表示装置15において、比較的小さい波形を増幅して大きな波形として表示することができる。したがって、小さい損傷の積算波形Σ%AsinφまたはΣ%Acosφを表示装置15に比較的大きく表示することができる。よって、積算波形Σ%AsinφまたはΣ%Acosφのピーク点が視認しやすく、小さい損傷であってもその発見を容易にすることができる。
【0048】
ここで、地中埋設物Bの電位を測定する際、被覆損傷部Bs以外から生じる被覆材の絶縁抵抗値に起因する計測対象外の誤差電位を積算し続けることで、積算波形が表示装置15の表示範囲から外れることがある。
上記に対応するため、積算波形の変化量が、受信装置10が地中埋設物Bに沿って一定距離進む間連続して設定値以下である場合に、積算値がゼロになるように積算波形をゼロリセットする。これにより、例えば、受信装置10が計測対象外の誤差電位のみを検出し続けた際に、積算波形が表示装置15の表示範囲から外れることを抑えることができる。また、表示装置15に表示される積算波形から誤差電位による波形を除去することで、より積算波形のピーク点を見やすくすることができる。
【0049】
また、積算工程では、積算波形にゲインを設定することで、積算波形の大きさを拡大又は縮小する。これにより、例えば、表示装置15において、比較的小さい波形を拡大して大きな波形として表示することができる。更に、比較的大きい波形を縮小して小さな波形として表示することができる。よって、積算波形をより見やすい大きさに自由に調整することができる。
【0050】
また、積算工程では、積算装置14において積算の計算式にオフセットを追加することで、積算波形の傾きを補正する。よって、更に積算波形を見やすくすることができる。
【0051】
また、基準値は、表示装置15の表示範囲に対応するレンジである。これにより、レンジを適宜設定することで、例えば、表示装置15において、比較的小さい波形を増幅して大きな波形として表示することができる。したがって、小さい損傷の積算波形を表示装置15に比較的大きく表示することができる。よって、積算波形のピーク点が視認しやすく、小さい損傷であってもその発見を容易にすることができる。
【0052】
また、レンジは、手動又は自動で切り替え可能(設定変更可能)である。レンジを手動で切り替え可能とする場合は、振幅波形及び積算波形の拡大又は縮小を、より作業者の感覚に合わせて行うことができる。レンジを自動で切り替え可能とする場合は、作業者によるレンジの切り替えを不要として、作業の効率を向上することができる。
【0053】
また、レンジの切り替え前後の積算波形を、表示装置15に同時に表示する。よって、例えば、表示装置15において、拡大された比較的小さい波形と、縮小された比較的大きい波形とを、同時に目視することができる。よって、例えば、被覆損傷部Bsの大きさを問わず、地中埋設物Bにおける被覆損傷部Bsの位置を把握しやすくすることができる。
【0054】
また、レンジの大きさの切り替えに連動して、レンジを切り替えた時点以降の積算波形が、レンジを切り替えた後のレンジの大きさに応じた表示態様に変更される。これにより、表示装置15において、拡大された比較的小さい波形と、縮小された比較的大きい波形とを、同時に目視することができる。
【0055】
また、本実施形態に係る防食被覆損傷位置検出装置100によれば、受信装置10が検出した電位差の正弦または余弦を積算する積算装置14は、電位差の振幅に対して設定された基準値に基づく受信装置10が検出した電位差の振幅Aの割合の正弦または余弦を積算する。積算装置14が積算して得られる電位分布の積算波形Σ%AsinφまたはΣ%Acosφは、表示装置15に表示される。これにより、基準値を適宜設定することで、例えば、表示装置15において、比較的小さい波形を増幅して大きな波形として表示することができる。したがって、小さい損傷の積算波形Σ%AsinφまたはΣ%Acosφを表示装置15に比較的大きく表示することができる。よって、積算波形Σ%AsinφまたはΣ%Acosφのピーク点が視認しやすく、小さい損傷であってもその発見を容易にすることができる。
【0056】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述の実施形態においては、防食被覆損傷位置検出装置100による検出作業中にレンジの切り替えを行うことを前提に説明したが、これに限らない。すなわち、本実施形態に係る方法は、例えば、防食被覆損傷位置検出装置100によって検出した電位差のデータを保存し、検出作業後にレンジを切り替えて積算波形を検証する際に用いてもよい。
例えば、実施形態において説明したレンジの代わりに、任意の基準値を設けても良い。 また、実施形態において説明した百分率の代わりに、任意の基準値に対する割合としても良い。すなわち、例えば、実施形態において説明したように、振幅Aを200mV、レンジを500mVとした場合、百分率であるパーセント振幅%Aは、
%A=200÷500×100=40(%)
となる。
これを「任意の基準値」として、例えば、基準値=レンジ×1.2と定義した場合、基準値=500mV×1.2=600mV
割合=200÷600=0.333
とすることができる。
この「割合」の正弦を積算すると、「%A」の正弦の積算波形と同様の形状をした積算波形を得ることができる。
なお、上述の例ではレンジを元に基準値を定義したが、これに限らない。すなわち、基準値は、例えば、振幅Aの5m平均の2倍としてもよいし、10m毎の振幅Aの3倍としてもよい。このように、例えば、車輪電極11の所定の移動距離の振幅Aの平均値に基づき基準値を設定してもよいし、所定の移動距離毎の振幅Aの値に基づき基準値を設定してもよい。あるいは、その他任意の基準値を定めてもよい。
【0057】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0058】
10 受信装置
11 車輪電極
12 ロックインアンプ
13 参照信号発信器
14 積算装置
15 表示装置
16 オフセット設定器
17 レンジ切替器
20 測定信号発信器
22 対極
100 防食被覆損傷位置検出装置
A 振幅
B 地中埋設物
Bs 被覆損傷部
φ 位相