(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099516
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】乗用草刈機
(51)【国際特許分類】
A01D 34/64 20060101AFI20250626BHJP
A01D 34/74 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
A01D34/64 H
A01D34/74
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216222
(22)【出願日】2023-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】後藤 聖人
【テーマコード(参考)】
2B083
【Fターム(参考)】
2B083AA02
2B083BA12
2B083BA15
2B083DA02
2B083HA52
2B083HA55
(57)【要約】 (修正有)
【課題】草刈作業を伴わない移動走行において、草刈装置の故障を防止し、また、安全性を向上できる乗用草刈機を提供する。
【解決手段】走行機体2と、草刈装置6と、昇降用油圧シリンダ78と、走行機体2の走行及び速度を検知する走行検知部材と、草刈装置6の高さ位置を検出する高さ位置検出手段と、草刈装置6の駆動を操作するための駆動操作スイッチ8aと、昇降用油圧シリンダ78の伸縮を制御する制御部90とを備え、制御部90は、走行検知部材の検知情報及び高さ位置検出手段の検出情報を取得し、草刈装置6の駆動が停止した状態で、草刈装置6の高さ位置が所定の設定位置より下にあり、かつ、走行機体2が所定時間走行すると、草刈装置6を自動で上昇させるよう構成され、また、草刈装置6の高さ位置が所定の設定位置より上のとき、駆動操作スイッチ8aが操作されると、草刈装置6を下降させるよう構成された。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行輪を備えて走行可能に構成された走行機体と、
前記走行機体の前部に位置する草刈装置と、
伸縮により前記草刈機装置を昇降する昇降用油圧シリンダと、
前記走行機体の走行及び速度を検知する走行検知部材と、
前記草刈装置の高さ位置を検出する高さ位置検出手段と、
前記草刈装置の駆動を操作するための駆動操作スイッチと、
前記昇降用油圧シリンダの伸縮を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記走行検知部材の検知情報及び高さ位置検出手段の検出情報を取得し、前記草刈装置の駆動が停止した状態で、前記草刈装置の高さ位置が所定の設定位置より下にあり、かつ、前記走行機体が所定時間走行すると、前記昇降用油圧シリンダを制御して、前記草刈装置を自動で上昇させるよう構成され、また、前記草刈装置の高さ位置が所定の設定位置より上のとき、前記駆動操作スイッチが操作されると、前記昇降用油圧シリンダを制御して、前記草刈装置を下降させるよう構成されたことを特徴とする乗用草刈機。
【請求項2】
前記草刈装置の昇降を操作するための昇降操作レバーを備え、
前記制御部は、前記昇降操作レバーが上操作位置に操作されている場合、前記駆動操作スイッチの操作による前記草刈装置の下降を規制することを特徴とする請求項1に記載の乗用草刈機。
【請求項3】
前記制御部は、前記駆動操作スイッチの操作による前記草刈装置の下降を開始させた後、前記駆動操作スイッチが再度操作されると、前記草刈装置の下降を停止して、駆動を開始させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗用草刈機。
【請求項4】
前記制御部は、前記駆動操作スイッチの操作による前記草刈装置の下降を開始させた後、
前記草刈装置が作業開始位置に到達すると、草刈装置の下降を停止し、駆動を開始させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗用草刈機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、草刈作業を行う乗用草刈機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の乗用草刈機として、例えば、特許文献1や特許文献2に記載のものが知られている。この従来の乗用草刈機は、(走行)機体の前部に草刈装置を備えている(所謂、フロントモーア)。また、草刈装置は、油圧シリンダの伸縮によって、昇降可能に構成されており、これにより、草刈作業を行う作業位置と、作業位置から上方へと退避させた非作業位置とを切り替え可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-328822号公報
【特許文献2】特開2007-267625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の乗用草刈機は、草刈作業を伴わない移動走行時は、草刈装置を非作業位置に退避させることが望ましいが、作業者が、作業後に操作を失念し、作業位置のまま走行してしまうおそれがあった。その結果、草刈装置が、障害物や段差に接触して故障(ブレードの損傷やモアデッキの破損等)を招く要因となっている。また、移動走行時、草刈装置が非作業位置にあるときに誤って駆動すると、ブレードが外部と接触する可能性があるため、安全上も改善の余地が存在するものであった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、草刈作業を伴わない移動走行において、草刈装置の故障を防止し、また、安全性を向上できる乗用草刈機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、第1の発明は、
走行輪を備えて走行可能に構成された走行機体と、
前記走行機体の前部に位置する草刈装置と、
伸縮により前記草刈機装置を昇降する昇降用油圧シリンダと、
前記走行機体の走行及び速度を検知する走行検知部材と、
前記草刈装置の高さ位置を検出する高さ位置検出手段と、
前記草刈装置の駆動を操作するための駆動操作スイッチと、
前記昇降用油圧シリンダの伸縮を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記走行検知部材の検知情報及び高さ位置検出手段の検出情報を取得し、前記草刈装置の駆動が停止した状態で、前記草刈装置の高さ位置が所定の設定位置より下にあり、かつ、前記走行機体が所定時間走行すると、前記昇降用油圧シリンダを制御して、前記草刈装置を自動で上昇させるよう構成され、また、前記草刈装置の高さ位置が所定の設定位置より上のとき、前記駆動操作スイッチが操作されると、前記昇降用油圧シリンダを制御して、前記草刈装置を下降させるよう構成されたことを特徴とする乗用草刈機を提供する。
【0007】
上記第1の発明によれば、草刈装置の駆動が停止した状態で、草刈装置の高さ位置が所定の設定位置より下にあり、かつ、走行機体が所定時間走行すると、昇降用油圧シリンダを制御して、草刈装置を自動で上昇させるよう構成されたことで、移動走行時、草刈装置が、障害物や段差に接触して故障することを防止できる。加えて、作業者が、作業終了時に、都度草刈装置を上昇させる操作を行う手間が省かれるため、利便性を大幅に向上できる。さらに、草刈装置の高さ位置が所定の設定位置より上のとき、駆動操作スイッチが操作されると、昇降用油圧シリンダを制御して、(草刈装置を駆動せず)草刈装置を下降させるよう構成されたことで、移動走行時、草刈装置が非作業位置(上がった状態)にあるときに誤って駆動することを防止し、これにより、カッタ―のブレードが外部と接触する事態を防止できる。その結果、安全上を向上できる。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明の構成に加え、
前記草刈装置の昇降を操作するための昇降操作レバーを備え、
前記制御部は、前記昇降操作レバーが上操作位置に操作されている場合、前記駆動操作スイッチの操作による前記草刈装置の下降を規制することを特徴とする。
【0009】
上記第2の発明によれば、上記第1の発明の効果に加え、
昇降操作レバーの操作位置に反して、草刈装置が下降してしまう事態を防止し、作業者の(昇降操作レバーによる)操作意図を反映した昇降動作を行うことで、作業者の意図せぬ動作を防止して安全性を向上できる。
【0010】
第3の発明は、上記第1または上記第2の発明の構成に加え、
前記制御部は、前記駆動操作スイッチの操作による前記草刈装置の下降を開始させた後、前記駆動操作スイッチが再度操作されると、前記草刈装置の下降を停止して、駆動を開始させることを特徴とする。
【0011】
上記第3の発明によれば、上記第1または上記第2の発明の効果に加え、
草刈装置が上がった状態で駆動することを防止しつつ、作業者は、(昇降操作レバーの操作によらず)簡易な操作により、草刈装置を所望の高さ位置で迅速に作業を開始させることができる。
【0012】
第4の発明は、上記第1または上記第2の発明の構成に加え、
前記制御部は、前記駆動操作スイッチの操作による前記草刈装置の下降を開始させた後、前記草刈装置が作業開始位置に到達すると、草刈装置の下降を停止し、駆動を開始させることを特徴とする。
【0013】
上記第4の発明によれば、上記第1または上記第2の発明の効果に加え、
草刈装置が下降によって、作業開始位置に到達すると、草刈装置の駆動を自動で開始させる構成によれば、作業者が作業開始の操作を行う手間を省き、迅速に作業を開始できるため、利便性がよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、草刈作業を伴わない移動走行において、草刈装置の故障を防止し、また、安全性を向上できる乗用草刈機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本実施形態の乗用草刈機の要部左側面図である。
【
図3】
図3は、
図1の昇降操作レバー周辺の概略側面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る乗用草刈機の伝動線図である。
【
図5】
図5は、乗用草刈機の制御部を中心とするブロック図である。
【
図6】
図6は、草刈装置駆動開始処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、草刈装置自動上昇処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、草刈装置の高さ位置に係る位置関係を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<乗用草刈機1の全体構成>
以下、図面に基づいて、この発明の実施例を説明する。なお、以下の説明において、乗用草刈機1の前進方向を、「前」、その反対方向を「後」、前方を向いて右方向を「右」、左方向を「左」とする。各方向は、説明の便宜上定義したものであり、これらの方向定義自体によって本発明が限定されるものではない。
【0017】
本実施形態の乗用草刈機の要部左側面図を
図1に示し、本実施形態の乗用草刈機の正断面図を
図2に示す。乗用草刈機1は、左右一対の前輪3L(3R)及び後輪4L(4R)を備えた走行機体2(以下、単に、機体2ということがある。)によって骨格が形成され、機体2の前部の下方には縦軸回りに回転するカッター5を有する草刈装置6(モーア6)が設けられる。
【0018】
機体2の前部上方のフロア7にはステアリングコラム8を立設し、該コラム8の上部にはハンドル10が設けられている。また、ハンドル10の後方には操縦席11を設け、該操縦席11の後方にエンジン12及びラジエータ13及びこれらを覆うボンネット14が配置されており、該ボンネット14上方にコレクタ16が設けられ、操縦席11側方には、フェンダ22が設けられている。また、フロア7上には、踏圧操作により、アクセル操作を行うためのアクセルペダル7aが配設されている。また、ステアリングコラム8上には、後述する草刈装置6の駆動に係る操作を行う押圧式スイッチである操作スイッチ8aが設けられている。
【0019】
なお、エンジン12は、その前部に配された出力軸12aからミッションケース24内に動力を伝達する分配伝動軸51に動力を伝達する(
図4参照)。また、該ミッションケース24の後面側には静油圧式無段変速装置(以下、HSTという)40を装着し、該ミッションケース24の前面側には軸支持メタル兼用のスペーサ(図示せず)を介在して、ブロアケース18を着脱自在に設けた構成となっている。
【0020】
駆動操作スイッチ8aは、作業者が、押圧操作することにより、草刈装置6の駆動(例えば、カッター5の回転駆動の開始、停止)を操作するためのスイッチである。なお、操作スイッチ8bは、点灯ランプ付スイッチとしてもよく、点灯パターンによって、草刈装置6の駆動や昇降の状態を示唆してもよい。例えば、カッター5が回転駆動しているときは点灯状態、停止しているときは消灯状態としてもよい。
【0021】
また、操縦席11の側方には、作業者が、作業に応じて操作する操作レバー19が設けられている。この操作レバー19は、役割の異なる複数のレバー部材からなり、より詳細には、後述する草刈装置6の昇降を操作する昇降操作レバー19a、エンジン12の出力を調節するスロットルレバー19b、機体2の停車時に後輪4L(4R)の回動を規制するためのパーキングレバー19cを備えている。なお、操作レバー19の操作は、操作レバーセンサS6によって検出され、検出された操作情報は、後述する制御部90が取得するよう構成されている。
【0022】
図3は、
図1の昇降操作レバー19a周辺の概略側面図である。
図3に示されるように、昇降操作レバー19aは、成樹脂部材で形成した把持部191とロッド部192、回動プレート193、枢支軸部194とを備え、作業者が把持部191を前後いずれかに操作すると、把持部19と一体のロッド部192が枢支軸部194を中心に回動し、これに追従して回動プレート193が回動する仕組みとなっている。さらに、昇降操作レバー19aの操作位置は、ポテンショメータ195によって検出可能となっている。より詳細には、ポテンショメータ195の検出軸195aから先端側に向けて二股状に枝分かれした係合部195bに、回動プレート193に設けられたピン体193aが係合されており、これにより、回動プレート193の回動に応じて、係合部195b及び検出軸195aが回動し、この検出軸195aの回動角度をポテンショメータ195によって検出することで、昇降操作レバー19aの操作位置が検出される。なお、このポテンショメータ195は、上述の操作レバーセンサS6に含まれる。昇降操作レバー19aは、例えば、草刈装置6を上昇させるための上操作位置と、下降させるための下操作位置と、昇降を行わない中立位置(ニュートラル位置)の3位置を切替可能に構成されている。
【0023】
草刈装置6は、草刈装置用PTO軸(モーアPTO軸)28を介して、エンジン12の動力の伝達を受け(
図4参照)、これにより、カッタ―5を回転駆動して、作業地(圃場等)の草を刈り取る機能を果たす。この草刈装置6自体は、公知の構成を採用可能であるため、その詳細な説明を省略するが、例えば、特開2023-157741号公報を参照されたい。
【0024】
また、草刈装置6は、機体2に対して左右一対のリフトリンク71で回動自在に取り付けられており、機体2の左右の一側(例えば右側)に配設したモーア昇降用油圧シリンダ78の伸縮動作によって、該リフトリンク71を回動支点71aを中心として回動することで、後述するように草刈装置6の昇降を行うことができる。なお、図示されていないが、リフトリンク71の回動中心軸71aは、機体2に固定された縦アームによって支持されている。このようにして、機体2(及び走行面)に対する草刈装置6の高さ位置は、昇降用油圧シリンダ78のストローク量(伸縮量)によって決定される仕組みとなっている。なお、草刈装置6は、
図1に示される下限位置Pminから、
図2に示される上限位置Pmaxまでの昇降範囲Wで、昇降が可能となっている。
【0025】
なお、機体2の適宜の位置に、上限位置Pmaxでリフトリンク71に当接して、草刈装置6が昇降範囲の上限位置Pmaxに達したことを検知する上限リミットスイッチS3と、下限位置Pminにおいて、リフトリンク71に当接して、草刈装置6が下限位置Pminに達したことを検知するを検知する下限リミットスイッチS4が設けられている。さらに、機体2の適宜の位置に、ワイヤ式変位センサS5が設けられており、草刈装置6の高さと連動するワイヤの引き量を検出することで、草刈装置6の高さ位置(上下位置)を良好に検出可能となっている。この、上限リミットスイッチS3、下限リミットスイッチS4、ワイヤ式変位センサS5は、草刈装置6の高さ位置を検出する手段である高さ位置検出手段として機能するものである。
【0026】
また、前後方向に軸芯を設けたブロア17を内装したブロアケース18が操縦席11の下方で左右前輪伝動ケース23L、23Rの間に配置されており、エンジン12の出力によりブロア17が作動する。ブロアケース18の上部にはブロアケース18とコレクタ16を繋ぐ刈草搬送用のダクト20が設けられている。さらに、ブロア17と草刈装置6の間には側面視後上がり形状のシュータ21が配置されていて、モーア6により刈り取られた刈草は、モーアデッキ6aの後部中央の排出口から短筒状の案内ガイド部6b及び端部をこのガイド部6bに重合させて折曲をとることができる前記シュータ21を経由してブロア17に送られ、さらにダクト20を経由して後方のコレクタ16に空気(風力)搬送される。
【0027】
<2.乗用草刈機1の伝動構成>
次に、
図4を参照して、乗用草刈機1の伝動構成について簡単に説明する。
図3は、本実施形態に係る乗用草刈機1の伝動線図である。
図4に示すように、乗用草刈機1では、エンジン12から出力された動力(回転動力)は、エンジン12の出力軸12aに接続された分配伝動軸51に伝達され、ブロアPTO軸52Aに伝達される。ブロアPTO軸52Aから出力された回転動力は、たとえば、ブロア伝動装置(ギヤ伝動装置など)を経由して、上記したブロア17に伝達される。
【0028】
また、分配伝動軸51から出力された回転動力は、走行伝動装置を経由して駆動輪に伝達され、HST40の油圧ポンプ40aを介して、トラニオン軸が傾動して油圧モータ40bを変速する。なお、乗用草刈機1は、二輪駆動(2WD)と四輪駆動(4WD)とを切り替え可能に構成されている。このため、駆動輪は、乗用草刈機1が2WDの場合には、左右の前輪3L,3Rおよび左右の後輪4L,4Rのいずれか(例えば、左右の前輪3L,3R)となり、乗用草刈機1が4WDの場合は、左右の前輪3L,3Rおよび左右の後輪4L、4Rとなる。
【0029】
4WDの場合、分配伝動軸51から出力された回転動力は、HST40の油圧ポンプ40aおよび油圧モータ40bを経由して、デフケース54内のギヤ伝動装置54aおよびデフ機構54bを経由して前輪3L(3R)に伝達される。また、分配伝動軸51から出力された回転動力は、HST40の油圧ポンプ40aおよび油圧モータ40bを経由して、デフケース55内のギヤ伝動装置55aおよびデフ機構55bを経由して後輪4L(4R)に伝達される。
【0030】
また、分配伝動軸51から出力された回転動力は、草刈装置用PTO軸28に伝達される。草刈装置用PTO軸28から出力された回転動力は、モーア入力軸(図示せず)とモーアデッキ6aのモーア伝動装置6dを経由して、上記したカッター5に伝達される(
図1、
図3参照)。
【0031】
なお、分配伝動軸51からブロアPTO軸52Aへの動力伝達を入切するブロア用クラッチ56Aと、分配伝動軸51から草刈装置用PTO軸28への動力伝達を入切する草刈装置用クラッチ(モーア用クラッチ)56Bが設けられており、ブロア用クラッチ56A及び草刈装置用クラッチ56Bは、後述する制御部Cにより、入切(オンオフ)が制御されるよう構成されている。
【0032】
<3.乗用草刈機1の制御系>
ここで、
図5を参照して制御部90を中心とする乗用草刈機1の制御系について説明する。
図5は、乗用草刈機1の制御部90を中心とするブロック図である。
【0033】
制御部90は、電子制御によって、乗用草刈機1が備える各部を制御することが可能であり、CPU(Central Processing Unit)などを有する処理部を備え、より詳細には、エンジンECU(Electronic Control Unit)91、走行系ECU92および作業機系ECU93を備える。また、制御部90は、各部の制御を行うプログラムやデータ類が記憶される記憶部94を備える。この記憶部94は、ハードディスク、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などで構成される。
【0034】
エンジンECU92は、エンジン12の出力などを制御し、走行系ECU93は、HST40などを制御して、機体の走行全般を制御する。作業機系ECU93は、モーア6の駆動全般を制御するもので、ブロア用クラッチ56A、草刈装置用クラッチ56B(
図4参照)を入切(オンオフ)するソレノイドバルブなどを制御する他、昇降用油圧シリンダ78を制御して草刈装置6の昇降制御を行う。
【0035】
また、制御部90の入力側には、車速センサS1、PTOセンサS2、上限リミットスイッチS3、下限リミットスイッチS4、ワイヤ式変位センサS5、操作レバーセンサS6(ポテンショメータ195)等の各種センサや、駆動操作スイッチ8bが接続され、これの検知・検出情報を取得可能となっている。
【0036】
車速センサS1は、機体2の走行速度(車速)を算出するためのもので、前輪3L、3Rおよび後輪4L、4Rの回転数から車速の実測値を導出する。これにより、車速センサS1は、乗用草刈機1(機体2)の走行を検知する走行検知部材としての機能を果たし、制御部90は、車速センサS1の検知結果に基づき走行距離を算出可能となっている。また、PTOセンサS2は、ブロアPTO軸52Aや草刈装置用PTO軸28(
図4参照)の回転数を検出する。
【0037】
このように構成された制御部90は、各部におけるさまざまなデータを取得し、そのデータおよびデータから演算された結果などに基づいて、機体2及び草刈装置6の各部の動作を制御する。以下に、制御部90の制御例について、説明する。
【0038】
<4.制御部90の制御例1(草刈装置駆動開始処理)>
図6は、制御部90による草刈装置駆動開始処理の流れを示すフローチャートである。
ここで、草刈装置駆動開始処理は、草刈装置6の駆動開始に係る処理であって、エンジン12が駆動しており、草刈装置6が駆動停止している状態(草刈装置用クラッチ56Bが「切」の状態)から、草刈装置6を駆動させる(草刈装置用クラッチ56Bを「入」とする)処理である。
【0039】
制御部90は、エンジン12が駆動しており、草刈装置6が駆動停止している状態となると、草刈装置駆動開始処理を実行開始する。
図6に示されるように、草刈装置駆動開始処理においては、まず、作業者によって、駆動操作スイッチ8aが押圧操作されたか判定を行う(ステップ♯1)。
【0040】
駆動操作スイッチ8aが押圧操作されると(ステップ♯1でY)、草刈装置6が作業位置にあるか判定する(ステップ♯2)。なお、作業位置とは、草刈装置6が作業を行う(予め設定された)高さ位置をいう(
図8参照)。草刈装置6が作業位置にあるとき(ステップ♯2でY)、制御部90は、草刈装置6の駆動を開始(草刈装置用クラッチ56Bを「入」に切替え)する(ステップ♯3)。これにより、カッタ―5が回転駆動して、草刈り作業が行われる。
【0041】
草刈装置6が下限位置にないとき(ステップ♯2でN)、制御部90は、ポテンショメータ195の検出情報から、昇降操作レバー19aが、下操作位置に操作されているか判定する(ステップ♯4)。下操作位置に操作されている場合(ステップ♯4でY)、昇降用油圧シリンダ78の制御により、草刈装置6の下降を開始し、所定の速度で草刈装置6を下降させる(ステップ♯5)。一方、昇降操作レバー19aが、下操作位置に操作されていない(上操作位置である)場合(ステップ♯4でN)、ステップ♯1に戻る。すなわち、作業者による駆動操作スイッチ8aの押圧操作をキャンセルして、草刈装置6を下降させない。このように構成することで、昇降操作レバー19aの操作位置に反して、草刈装置6が下降してしまう事態を防止し、作業者の(昇降操作レバー19aによる)操作意図を反映した昇降動作を行うことで、作業者の意図せぬ動作を防止して安全性を向上できる。
【0042】
制御部90は、草刈装置6の下降中(ステップ♯5の実行後)、駆動操作スイッチ8aが再度押圧操作されると(ステップ♯6でY)、草刈装置6が作業可能位置にあるか判定する(ステップ♯7)。ここで、作業可能位置とは、昇降範囲Wのうち、草刈装置6が作業可能な高さ位置をいう。草刈装置6が作業可能位置にあるとき(ステップ♯7でY)、草刈装置6の下降を停止させ(ステップ♯8)、草刈装置6の駆動を開始させる(ステップ♯3)。一方、草刈装置6が作業可能位置にないとき(ステップ♯7でN)、すなわち、作業を行わない非作業位置にあるときは、作業者による駆動操作スイッチ8aの押圧操作をキャンセルして、ステップ♯6に戻る。
【0043】
また、制御部90は、草刈装置6の下降中(ステップ♯5の実行後)、草刈装置6が作業開始位置Psに到達したかを監視する(ステップ♯9)。ここで、作業開始位置Psは、草刈装置6が作業を開始する(予め設定された)高さ位置をいう。草刈装置6が下降によって、作業開始位置Psに到達すると、制御部90は、草刈装置6の駆動を開始させる。つまり、制御部90は、草刈装置6の下降開始後(ステップ♯5の実行後)において、草刈装置6の作業可能位置にて駆動操作スイッチ8bが押圧操作されるか、または、草刈装置6が作業開始位置Psに到達すると、草刈装置6の下降を停止し(ステップ♯8)、草刈装置6の駆動を開始させる(ステップ♯3)よう構成されている。このように、(作業可能位置にて)駆動操作スイッチ8bが押圧操作されたとき、草刈装置6の下降を停止し、駆動を開始させる構成によれば、草刈装置6が上がった状態で駆動することを防止しつつ、作業者は、(昇降操作レバー19aの操作によらず)簡易な操作により、草刈装置6を所望の高さ位置で迅速に作業を開始させることができる。また、草刈装置6が下降によって、作業開始位置Psに到達すると、草刈装置6の駆動を自動で開始させる構成によれば、作業者が作業開始の操作を行う手間を省き、迅速に作業を開始できるため、利便性がよい。
【0044】
<5.制御部90の制御例2(草刈装置自動上昇処理)>
図7は、制御部90による草刈装置自動上昇処理の流れを示すフローチャートである。
草刈装置自動上昇処理は、草刈装置6が駆動状態(草刈装置用クラッチ56Bが「入」の状態)となると実行開始され、所定条件が満たされると、草刈装置6(の高さ位置)を自動で上昇させる処理である。
【0045】
制御部90は、草刈装置6が駆動している状態となると(草刈装置6が駆動開始すると)、草刈装置自動上昇処理を開始する。
図7に示されるように、草刈装置自動上昇処理が開始されると、制御部90は、草刈装置6が駆動停止されたか監視する(ステップ♯11)。草刈装置6が駆動停止されたと判定すると(ステップ♯11でY)、草刈装置6の高さ位置が、設定位置より下(設定位置以下としてもよい。)であるか判定する(ステップ♯12)。ここで、設定位置は、所定操作により作業者が予め設定可能な草刈装置6の高さ位置であり、例えば、非作業位置の下限の高さ位置となるように設定される。すなわち、設定位置より上方は、草刈装置6が作業を行わず上方に退避し、設定位置より下方は、作業を行いうる高さ位置となるように、設定位置の高さが設定されることが望ましい。なお、この設定位置に係る情報は、記憶部94に記憶される。
【0046】
草刈装置6の高さ位置が、設定位置より下であると判定すると(ステップ♯12でY)、モーア6の停止時間のカウントを開始し(ステップ♯13)、乗用草刈機1の走行距離のカウントを開始する(ステップ♯14)。ここで、走行距離の算出は、車速センサS1の検出値に時間を乗算して算出されてもよく、また、ギア比、タイヤ径を考慮して車速が算出されてもよい。
【0047】
続いて、草刈装置6が駆動されたかを判定し(ステップ♯15)、草刈装置6が駆動されていない場合(ステップ♯15でN)、草刈装置6が設定位置以上の高さに移動されたかを判定し(ステップ♯16)、草刈装置6が設定位置以上の高さに移動されていない場合(ステップ♯16でN)、停止時間のカウントが設定時間以上であるか(ステップ♯17)、走行距離のカウントが設定距離以上であるか判定する(ステップ♯18)。ここで、設定時間及び設定距離の設定値は、作業者が予め設定することができ、設定時間は例えば30秒、設定距離は例えば3m(メートル)程度に設定されることが望ましい。なお、設定時間及び設定距離に係る情報は、記憶部94に記憶される。
【0048】
ここで、草刈装置6が駆動された場合(ステップ♯15でY)や、草刈装置6が設定位置以上の高さに移動された場合(ステップ♯16でY)は、停止時間及び走行距離のカウントをリセットし、ステップ♯11に戻る。
【0049】
停止時間のカウントが設定時間に満たない場合であって(ステップ♯16でN)、走行距離のカウントが設定距離にも満たない場合(ステップ♯17でN)は、カウントを継続しつつ、ステップ♯15に戻る。
【0050】
一方で、停止時間のカウントが設定時間以上となった場合(ステップ♯16でY)や、走行距離のカウントが設定距離以上となった場合(ステップ♯17でY)は、制御部90は、昇降用油圧シリンダ78の制御により、草刈装置6の高さ位置を上昇させる(ステップ♯19)。ここで、上昇される草刈装置6の高さ位置は、非作業位置まで上昇されるよう構成されることが望ましいが、作業者が予め所望する高さ位置を設定できるよう構成されてもよい。また、上限位置Pmaxまで、上昇させるよう構成されてもよい。草刈装置6の高さ位置を上昇させると、停止時間及び走行距離のカウントをリセットし(ステップ♯20)、処理を終了する。
【0051】
上記構成によれば、草刈装置6が駆動停止した状態において、所定の設定時間が経過するか、または、乗用草刈機1が、所定の設定距離以上走行すると、制御部90が、自動で草刈装置6を上昇させる。これにより、作業者の失念等により、非作業時に草刈装置6を下げたまま走行してしまう事態を良好に防止できる。その結果、草刈装置6が、障害物や段差に接触してしまう事態を防止することができ、草刈作業を伴わない移動走行時の安全性も向上できる。加えて、作業者が、作業終了時に、都度草刈装置6を上昇させる操作を行う手間が省かれるため、利便性を大幅に向上できる。なお、所定時間が経過すると、昇降用油圧シリンダ78を制御して、草刈装置6を自動で上昇させるよう構成されたことで、作業者が離席したときに、自動で草刈装置6を上昇させることができるため、安全性を向上することができる。なお、この草刈装置自動上昇処理により、草刈装置6を自動で上昇させた場合、昇降操作レバー19aが、下操作位置に操作されている状態で、草刈装置6が上がっている状態が生じうるが、その際、所定の表示部(例えば、操縦席11前方に設けたモニタ)に警報を表示するとともに、作業者が、一旦、昇降操作レバー19aを上操作位置に操作すると、草刈装置6を上限位置Pmaxに移動し、草刈装置6の自動上昇による、昇降操作レバー19aの操作位置と、草刈装置6の高さ位置の乖離を解消するよう構成されてもよい。
【0052】
図8は、草刈装置6の高さ位置に係る位置関係を説明するための説明図である。
上述の処理の実行において、
図8に示されるように、草刈装置6の昇降範囲Wのうち、上限が上限位置Pmax、下限が下限位置Pminとなっている。
図8に示される草刈装置6の高さ位置に係る位置関係は、記憶部94に設定可能となっている。まず、昇降範囲Wにおける草刈装置6の高さ位置は、草刈装置6が作業を行わない非作業位置と、作業を行うことが可能な作業可能位置に分けることができる。この非作業位置と、作業可能位置の境界となる高さ位置は、草刈装置6が駆動している状態において作業を停止する境界の位置となるため作業停止位置Ptとなり、作業停止位置Ptは、作業者が予め高さを設定可能な設定位置であり、上述の草刈装置自動上昇処理において、判定に使用する基準の高さ位置となる。また、作業可能位置のうち、実際に作業が行われる高さが作業位置として設定される。この作業位置は、下限位置Pminから所定の高さの範囲が設定されてもよいし、下限位置Pminの高さが、作業位置に設定されてもよい。また、作業位置の範囲内で、作業開始位置Psが設定される。なお、作業開始位置Psは、下限位置Pminと同一の高さに設定されてもよい。
【0053】
上述のような草刈装置6の高さ位置に係る位置関係の設定により、作業者が、昇降操作レバー19aにより手動操作で、草刈装置6の昇降を行う場合、制御部90は、昇降操作レバー19aが、下操作位置に操作され、草刈装置6を下降させる際、下降により草刈装置6が作業開始位置Psに到達すると、一時停止するよう制御することが好ましい。また、昇降操作レバー19aが、上操作位置に操作され、草刈装置6を上昇させる際、上昇により作業停止位置Ptに到達すると、草刈装置6の駆動を自動で停止させるよう制御することが好ましい。
【0054】
以上、本発明の実施形態を説明した。本件発明は、前記した実施形態の態様にのみ限定されない。技術的思想の範囲内で、適宜変更であることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0055】
1 乗用草刈機
2 走行機体
3 前輪
4 後輪
5 カッター
6 草刈装置(モーア)
6a モーアデッキ
6b 案内ガイド部
7 フロア
8 ステアリングコラム
8a 駆動操作スイッチ
10 ハンドル
11 操縦席
12 エンジン
12a エンジン出力軸
13 ラジエータ
14 ボンネット
16 コレクタ
17 ブロア
18 ブロアケース
20 ダクト
21 シュータ
22 フェンダ
23 前輪伝動ケース
24 ミッションケース
40 静油圧式無段変速装置(HST)
90 制御部