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  • 特開-ポリアミド樹脂組成物および成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099524
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/10 20060101AFI20250626BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20250626BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
C08L77/10
C08K7/14
C08K7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216235
(22)【出願日】2023-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 彰太
(72)【発明者】
【氏名】前田 正信
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CL031
4J002DA016
4J002DE186
4J002DE236
4J002DJ006
4J002DK006
4J002DL006
4J002FA046
4J002FA116
4J002FD016
(57)【要約】
【課題】成形体のリフロー耐熱性を高めつつ、成形直後およびリフロー後の成形体の反りを抑制できるポリアミド樹脂組成物およびその成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】示唆走査熱量計(DSC)により測定される融点が280℃以上であるポリアミド樹脂(A)と、繊維状強化材(B)と、を含み、前記繊維状強化材(B)は、断面のアスペクト比が1.5以上である強化材(B-1)と、断面のアスペクト比が1.5未満である強化材(B-2)とを含み、前記強化材(B-1)の含有量は、前記強化材(B-1)および前記強化材(B-2)の全質量に対して、15質量%以上85質量%以下である、ポリアミド樹脂組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
示唆走査熱量計(DSC)により測定される融点が280℃以上である半芳香族ポリアミド樹脂(A)と、
繊維状強化材(B)と、を含み、
前記繊維状強化材(B)は、断面のアスペクト比が1.5以上である強化材(B-1)と、断面のアスペクト比が1.5未満である強化材(B-2)とを含み、
前記強化材(B-1)の含有量は、前記強化材(B-1)および前記強化材(B-2)の全質量に対して、15質量%以上85質量%以下である、
ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記強化材(B-1)の含有量は、前記強化材(B-1)および前記強化材(B-2)の全質量に対して、50質量%以上83質量%以下である、
請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記強化材(B-1)の断面のアスペクト比は3.0以上である、
請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記繊維状強化材(B)の含有量は、前記ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、20質量%以上40質量%以下である、
請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
示唆走査熱量計(DSC)により測定される融解熱量(ΔH)は、10J/g以上100J/g以下である、
請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)に含まれるポリアミド樹脂の種類は1種類である、
請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる、
成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、成形材料として、ポリアミド樹脂組成物が知られている。ポリアミド樹脂組成物は、例えば、自動車用部品、電気・電子用部品などの種々の部品の材料として広く用いられており、成形体の機械的強度に優れることが知られている。
【0003】
成形体の機械的強度および剛性などを向上させる観点から、ポリアミド樹脂組成物にガラス繊維などの繊維状強化材を含ませることが知られている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、ポリアミド樹脂と、特定の成分を特定量含むガラス繊維と、を含む樹脂組成物が開示されている。特許文献1では、断面が円形または扁平形であるガラス繊維を用いることで、樹脂組成物の流動性を高め、かつ耐熱性、高温剛性、機械強度、耐衝撃性および表面外観に優れた成形体を製造できたとされている。
【0005】
また、特許文献2には、特定の2種のポリアミドと、断面積が特定の範囲にあるガラス繊維とを含むポリアミド樹脂組成物が開示されている。特許文献2では、上記ポリアミド樹脂の成形体は、高い共振周波数、良好な成形品外観、高い強度、および高い耐衝撃性を有していたとされている。
【0006】
また、特許文献3には、脂肪族または半芳香族の半結晶質ポリアミドと、ガラス繊維などの充填材とを含むポリアミド樹脂組成物が開示されている。特許文献3によれば、上記ポリアミド樹脂組成物の成形体は機械的強度が高かったとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-105359号公報
【特許文献2】国際公開第2015/029780号
【特許文献3】特表2012-528904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~3に記載のように、繊維状強化材を含むポリアミド樹脂組成物が知られている。
【0009】
ところで、半芳香族ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂組成物の成形体を、自動車用部品、および電気・電子用部品などに用いるとき、上記成形体を基板に対してリフローはんだ付けを行うことがある。このとき、リフロー工程における加熱(リフロー処理)により、成形体に含まれる水分が気化し、上記気化による蒸気圧によって成形体にブリスター(膨れ)が生じることがある。成形体の外観や寸法精度を良好にする観点から、加熱によってブリスターが生じにくい(リフロー耐熱性が高い)ポリアミド樹脂組成物を用いることが望ましい。
【0010】
また、ポリアミド樹脂組成物の成形体は、成形後およびリフロー処理後に反りが生じることがある。成形体を所望の形状にする観点からは、成形後およびリフロー処理後に成形体の反りが生じにくいポリアミド樹脂組成物を用いることが望ましい。
【0011】
本発明者らの検討によれば、特許文献1~3に記載のポリアミド樹脂組成物では、成形体のリフロー耐熱性の向上および上記反りの抑制を両立させることができなかった。
【0012】
本発明の目的は、成形体のリフロー耐熱性を高め、かつ成形後およびリフロー処理後の成形体の反りを抑制できるポリアミド樹脂組成物、およびその成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための、本発明の一態様は、下記[1]~[6]のポリアミド樹脂組成物に関する。
[1]示唆走査熱量計(DSC)により測定される融点が280℃以上である半芳香族ポリアミド樹脂(A)と、繊維状強化材(B)と、を含み、前記繊維状強化材(B)は、断面のアスペクト比が1.5以上である強化材(B-1)と、断面のアスペクト比が1.5未満である強化材(B-2)とを含み、前記強化材(B-1)の含有量は、前記強化材(B-1)および前記強化材(B-2)の全質量に対して、15質量%以上85質量%以下である、ポリアミド樹脂組成物。
[2]前記強化材(B-1)の含有量は、前記強化材(B-1)および前記強化材(B-2)の全質量に対して、50質量%以上83質量%以下である、[1]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[3]前記強化材(B-1)の断面のアスペクト比は3.0以上である、[1]または[2]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[4]前記繊維状強化材(B)の含有量は、前記ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、20質量%以上40質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[5]示唆走査熱量計(DSC)により測定される融解熱量(ΔH)は、10J/g以上100J/g以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[6]前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)に含まれるポリアミド樹脂の種類は1種類である、[1]~[5]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【0014】
上記課題を解決するための、本発明の一態様は、下記[7]の成形体に関する。
[7][1]~[6]のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成形体のリフロー耐熱性を高め、かつ成形後およびリフロー処理後の成形体の反りを抑制できるポリアミド樹脂組成物、およびその成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本願の実施例で実施したリフロー耐熱試験のリフロー工程の温度と時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
【0018】
1.ポリアミド樹脂組成物
本実施形態に係るポリアミド樹脂組成物は、示唆走査熱量計(DSC)により測定される融点が280℃以上である半芳香族ポリアミド樹脂(A)と、繊維状強化材(B)と、を含み、前記繊維状強化材(B)は、断面のアスペクト比が1.5以上である強化材(B-1)と、断面のアスペクト比が1.5未満である強化材(B-2)とを含み、上記強化材(B-1)の含有量は、上記強化材(B-1)および上記強化材(B-2)の全質量に対して、15質量%以上85質量%以下である。
【0019】
本発明者らは、上記ポリアミド樹脂組成物を用いることで、成形体のリフロー耐熱性を高め、かつ成形後およびリフロー処理後の成形体の反りを抑制できることを見出した。
【0020】
ポリアミド樹脂組成物は、成形される際、溶融した状態で金型に流し込まれる。そして、ポリアミド樹脂組成物が冷却されてポリアミド樹脂が固化し、ポリアミド樹脂が結晶化することで体積収縮が生じる。このとき、ポリアミド樹脂組成物の体積収縮率に異方性があると、成形体に反り変形が生じやすい。さらに、成形後の成形体をリフロー処理する場合にはリフロー工程での加熱・冷却によってポリアミド樹脂の未結晶化部分の結晶化が進行するため、ポリアミド樹脂組成物にさらなる体積収縮が生じる。このとき、ポリアミド樹脂組成物の体積収縮率に異方性があると、成形体の反り変形がより一層生じやすい。
【0021】
繊維状強化材をポリアミド樹脂組成物に含ませた場合、繊維状強化材は、ポリアミド樹脂組成物の成形時に、繊維状強化材の長さ方向とポリアミド樹脂組成物の流れ方向とが平行になるように配列されると考えられる。すなわち、成形体において、繊維状強化材は、繊維状強化材の1本1本が上記流れ方向に沿うようにして配列されやすい。ここで、繊維状強化材の、長さ方向に直交する方向の長さが十分でないとき、上記直交する方向におけるポリアミド樹脂組成物への補強効果は、上記長さ方向におけるポリアミド樹脂組成物の補強効果よりも顕著に小さい。そのため、上述のように繊維状強化材が上記流れ方向に沿って配向しているポリアミド樹脂組成物においては、上記流れ方向についての体積収縮率が、上記流れ方向に直交する方向についての体積収縮率よりも顕著に小さくなりやすく、その結果、体積収縮率に異方性が生じやすい。したがって、長さ方向に直交する方向の長さが十分でない繊維状強化材をポリアミド樹脂組成物に含ませた場合には、ポリアミド樹脂組成物の流れ方向と当該流れ方向に直交する方向とで体積収縮率が異なることとなり、成形体の反り変形が生じやすくなる。
【0022】
ここで、繊維状強化材として、広く一般に用いられている断面が略円形の繊維状強化材に代えて、上記流れ方向に直交する方向に十分な長さを有する、断面が略扁平な繊維状強化材を用いることで、体積収縮率の異方性を小さくし、成形体の反り変形を抑制できることが知られている。
【0023】
しかし、本発明者らが検討した結果、本発明者らは、断面が略扁平な繊維状強化材を用いた場合には、成形体の反り変形を抑制できる反面、成形体にリフロー処理を施すとブリスターが発生しやすくなることを見いだした。これは、断面が略扁平な繊維状強化材が成形体中で配向していると、成形体の内部に含まれている水分が成形体外部に移動する経路が遮断または長経路化されて成形体外部への移動が妨げられ、成形体の内部に水分が保持されやすくなるためであると考えられる。成形体の内部に水分が保持された状態でリフロー処理が施されると、内部に保持された水分が気化して成形体表面にブリスターが生じやすくなる。
【0024】
そこで本発明者らがさらに検討した結果、繊維状強化材(B)として、断面のアスペクト比が1.5以上である強化材(B-1)と、断面のアスペクト比が1.5未満である強化材(B-2)と、を上記強化材(B-1)および上記強化材(B-2)の全質量に対する、上記強化材(B-1)の含有量が15質量%以上85質量%以下となるように併用することで、成形体のリフロー耐熱性を高め、かつ成形後およびリフロー処理後の成形体の反りを抑制できることを見いだした。
【0025】
上記強化材(B-2)は、上記強化材(B-1)よりも、上記流れ方向に沿って配向した状態において、上記流れ方向に直交する方向の長さが短い。そのため、一定量以上の強化材(B-2)が含まれることで、成形体内部において、成形体内部に含まれる水分が移動するための経路が形成されやすいと考えられる。これにより、上記水分が成形体外部へ移動しやすくなり、リフロー処理時において、成形体内部に含まれる水分量が少なくなるため、ブリスターが生じにくくなると考えられる。
【0026】
1-1.半芳香族ポリアミド樹脂(A)
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、示唆走査熱量計(DSC)により測定される融点が280℃以上であるポリアミド樹脂である。半芳香族ポリアミド樹脂(A)は成形体中で結晶を形成し、成形体の機械強度(曲げ強度など)を高めることができる。また、半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、高い融点を有するため、リフロー工程においてポリアミド樹脂が溶融することを抑制できる。半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点の測定方法については後述する。
【0027】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、例えば、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)と、ジアミンに由来する成分単位(Ab)とを含むポリアミド樹脂である。以下、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)と、ジアミンに由来する成分単位(Ab)とを含むポリアミド樹脂について説明する。
【0028】
(ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa))
ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)は、芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位を含むことが好ましく、テレフタル酸に由来する成分単位を含むことがより好ましい。
【0029】
芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)の総モル数に対して、40モル%以上100モル%以下であることが好ましく、50モル%以上100モル%以下であることがより好ましく、60モル%以上80モル%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
テレフタル酸に由来する成分単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)の総モル数に対して、40モル%以上100モル%以下であることが好ましく、50モル%以上100モル%以下であることがより好ましく、60モル%以上80モル%以下であることがさらに好ましく、40モル%以上65モル%以下がさらに好ましく、55モル%以上65モル%以下であることが特に好ましい。上記含有量が20モル%以上であると、ポリアミド樹脂(A)中の芳香環濃度が高まり、ポリアミド樹脂が炭化しやすくなる。これにより、成形体の難燃性が高まりやすくなる。
【0031】
ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)は、他のジカルボン酸に由来する成分単位を含んでもよい。他のジカルボン酸の例には、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、およびテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸などが含まれる。これらのうち、脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
【0032】
上記脂肪族ジカルボン酸の例には、炭素原子数4以上20以下の脂肪族ジカルボン酸が含まれる。上記炭素原子数は、6以上12以下であることが好ましい。そのような脂肪族ジカルボン酸の例には、アジピン酸、アゼライン酸およびセバシン酸が含まれる。これらの中でも、アジピン酸およびセバシン酸が好ましく、アジピン酸がより好ましい。
【0033】
上記脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)の総モル数に対して、0モル%以上60モル%以下であることが好ましく、30モル%以上60モル%以下であることがより好ましく、30モル%以上45モル%以下であることがさらに好ましく、35モル%以上45モル%以下であることが特に好ましい。
【0034】
上記脂環式ジカルボン酸の例には、シクロヘキサンジカルボン酸およびそのエステルが含まれる。
【0035】
テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸の例には、イソフタル酸、2-メチルテレフタル酸およびナフタレンジカルボン酸などが含まれる。
【0036】
脂環式ジカルボン酸およびテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)の総モル数に対して、20モル%以上80モル%以下であることが好ましく、25モル%以上75モル%以下であることがより好ましい。
【0037】
(ジアミンに由来する成分単位(Ab))
ジアミンに由来する成分単位(Ab)は、例えば、炭素数4以上15以下の脂肪族ジアミンに由来する成分単位、炭素数4~20の脂環式ジアミンに由来する成分単位、および芳香族ジアミンに由来する成分単位などを含む。
【0038】
上記脂肪族ジアミンの炭素数は、4以上12以下であることが好ましく、6以上12以下であることがより好ましい。上記脂肪族ジアミンの例には、直鎖状のアルキレンジアミンおよび分岐鎖状のアルキレンジアミンが含まれる。
【0039】
上記直鎖状アルキレンジアミンの例には、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカンなどが含まれる。これらの中でも、1,6-ジアミノヘキサン、1,9-ノナンジアミンおよび1,10-ジアミノデカンが好ましく、1,6-ジアミノヘキサンがより好ましい。直鎖状アルキレンジアミンは、1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。
【0040】
上記分岐鎖状アルキレンジアミンの例には、2,2-ジメチルジアミノプロパン、1,1-ジメチル-1,4-ジアミノブタン、1-エチル-1,4-ジアミノブタン、1,2-ジメチル-1,4-ジアミノブタン、1,3-ジメチル-1,4-ジアミノブタン、1,4-ジメチル-1,4-ジアミノブタン、2,3-ジメチル-1,4-ジアミノブタン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、2,5-ジメチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,4-ジメチル-1,6-ジアミノヘキサン、3,3-ジメチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,2-ジメチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,2,4-トリメチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,4,4-トリメチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,4-ジエチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,3-ジメチル-1,7-ジアミノヘプタン、2,4-ジメチル-1,7-ジアミノヘプタン、2,5-ジメチル-1,7-ジアミノヘプタン、2,2-ジメチル-1,7-ジアミノヘプタン、2-メチル-4-エチル-1,7-ジアミノヘプタン、2-エチル-4-メチル-1,7-ジアミノヘプタン、2,2,5,5-テトラメチル-1,7-ジアミノヘプタン、3-イソプロピル-1,7-ジアミノヘプタン、3-イソオクチル-1,7-ジアミノヘプタン、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン、1,3-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、1,4-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、2,4-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、3,4-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、4,5-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、2,2-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、3,3-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、4,4-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、3,3,5-トリメチル-1,8-ジアミノオクタン、2,4-ジエチル-1,8-ジアミノオクタン、および5-メチル-1,9-ジアミノノナンなどが含まれる。これらの中でも、2-メチル-1,8-ジアミノオクタンが好ましい。
【0041】
上記脂肪族ジアミンに由来する成分単位の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(Ab)の総モル数に対して、30モル%以上100モル%以下であることが好ましく、70モル%以上100モル%以下であることがより好ましい。
【0042】
炭素原子数4~20の脂環式ジアミンの例には、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、2,5-ビスアミノメチルノルボルナンおよび2,6-ビスアミノメチルノルボルナンなどが含まれる。芳香族ジアミンの例には、メタキシリレンジアミンなどが含まれる。
【0043】
上記脂環式ジアミンおよび芳香族ジアミンに由来する成分単位の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(Ab)の総モル数に対して、0モル%以上70モル%以下であることが好ましく、0モル%以上30モル%以下であることがより好ましい。
【0044】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の各構成単位およびその比率は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の調製時の仕込み比から算出するか、または、NMR法で測定することができる。
【0045】
H-NMR測定の場合、例えば、核磁気共鳴装置(日本電子(株)製 ECX400型)を用い、溶媒は重水素化オルトジクロロベンゼンとし、試料濃度は20mg/0.6mL、測定温度は120℃、観測核はH(400MHz)、シーケンスはシングルパルス、パルス幅は5.12μ秒(45°パルス)、繰り返し時間は7.0秒、積算回数は500回以上とする条件である。基準のケミカルシフトは、テトラメチルシランの水素を0ppmとするが、他にも、重水素化オルトジクロロベンゼンの残存水素由来のピークを7.10ppmとしてケミカルシフトの基準値とすることでも同様の結果を得ることができる。官能基含有化合物由来のHなどのピークは、常法によりアサインしうる。
【0046】
13C-NMR測定の場合、例えば、測定装置として核磁気共鳴装置(日本電子(株)製ECP500型)を用い、溶媒としてオルトジクロロベンゼン/重ベンゼン(80/20容量%)混合溶媒、測定温度は120℃、観測核は13C(125MHz)、シングルパルスプロトンデカップリング、45°パルス、繰り返し時間は5.5秒、積算回数は1万回以上、27.50ppmをケミカルシフトの基準値とする条件である。各種シグナルのアサインは常法を基にして行い、シグナル強度の積算値を基に定量を行うことができる。
【0047】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の具体例には、ポリアミド6T6I、ポリアミド6T66、ポリアミド6TDTなどが含まれる。
【0048】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、1種の半芳香族ポリアミド樹脂のみを含んでもよく、2種以上の半芳香族ポリアミド樹脂を含んでもよいが、1種の半芳香族ポリアミド樹脂のみを含むことが好ましい。1種の半芳香族ポリアミド樹脂のみを用いることで、2種以上の半芳香族ポリアミド樹脂を用いたときよりも、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の結晶性を高めることができる。これは、複数種の半芳香族ポリアミド樹脂どうしの相溶を生じさせずに、樹脂の分子を配列させて結晶部分をより形成しやすくできるためだと考えられる。そして、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の結晶性をより高めることで、高温時における分子鎖運動を抑制できるため、リフロー処理時における成形体の変形を抑制できる。これにより、成形体内部の水分の気化によるブリスターの発生を抑制できるため、リフロー耐熱性をより高められる。なお、本明細書では、半芳香族ポリアミド樹脂(A)に含まれる成分単位の種類が同じであっても、上記成分単位の含有量が異なるものは、2種類以上の半芳香族ポリアミド樹脂として扱う。
【0049】
なお、半芳香族ポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸に由来する成分単位は、バイオマス由来のジカルボン酸に由来する成分単位を含んでもよいし、ジアミンに由来する成分単位は、バイオマス由来のジアミンに由来する成分単位を含んでもよい。また、半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、バイオマス由来の原料を含む原料群を重合してなる、バイオマス由来の半芳香族ポリアミド樹脂(A)であってもよい。
【0050】
(物性)
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点は、成形体の機械強度をより高める観点からは、280℃以上であり、290℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましい。また、半芳香族ポリアミド樹脂(A)のアミド結合の分解の抑制の観点からは、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点は、320℃以下であることが好ましい。
【0051】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の組成を調整することによって、上記範囲にすることができる。例えば、後述するテレフタル酸に由来する成分単位の含有比率を多くすることによって、上記融点を高めることができる。
【0052】
また、半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、示差走査熱量計(DSC)で測定されるガラス転移温度(Tg)が、70℃以上145℃以下であることが好ましく、75℃以上125℃以下であることがより好ましく、80℃以上100℃以下であることがさらに好ましい。上記ガラス転移温度(Tg)が70℃以上であると、高温環境下における分子の運動性が活発になる温度が高くなるため、分子の運動性を抑制してブリスター発生をより抑制できる。その結果、リフロー耐熱性をより高めることができる。また、上記ガラス転移温度(Tg)が145℃以下であると、成形加工時に金型温度を過剰に高めずとも樹脂組成物の流動性を維持しやすくでき、成形加工性を向上させることができる。
【0053】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の示差走査熱量測定(DSC)により測定される融解熱量(ΔH)は、5J/g超であることが好ましい。融解熱量は、樹脂の結晶性の指標であり、融解熱量が大きいほど、結晶性が高いことを示す。半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融解熱量(ΔH)が5J/gを超えると、結晶性が高まるため、得られる成形体の機械的強度(曲げ強度など)を高めることができる。
【0054】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点および融解熱量(ΔH)は、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0055】
具体的には、約5mgの半芳香族ポリアミド樹脂(A)を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱する。樹脂を完全融解させるために、350℃で3分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却する。30℃で5分間置いた後、10℃/minで350℃まで2度目の加熱を行う。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)を半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とする。融解熱量(ΔH)は、JIS K7122に準じて、1度目の昇温過程での融解時の吸熱ピークの面積から求める。
【0056】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の、温度25℃、96.5%硫酸中で測定される極限粘度[η]は、0.9dl/g以上1.2dl/g以下であることが好ましく、1.0dl/g以上1.2dl/g以下であることがより好ましく、1.0dl/g以上1.1dl/g以下であることが特に好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]が0.9dl/g以上であると、成形体の機械的強度(曲げ強度など)を十分に高めやすく、1.2dl/g以下であると、樹脂組成物の成形時の流動性が損なわれにくい。極限粘度[η]は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)およびジアミンに由来する成分単位(Ab)のモル比を調整することで、調整可能である。具体的には、カルボン酸に由来する成分単位(Aa)およびジアミンに由来する成分単位(Ab)のモル比を1:1に近づけるほど、極限粘度を高めることができる。また、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の末端封止量などによっても調整することができる。
【0057】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]は、以下のようにして測定することができる。ポリアミド樹脂(A)0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させて、試料溶液とする。得られた溶液の、25℃±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定し、下記式に基づき算出する。
[η]=ηSP/(C*(1+0.205ηSP))
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
ηSP=(t-t)/t
【0058】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、公知のポリアミド樹脂と同様の方法で製造することができ、例えばジカルボン酸とジアミンとを均一溶液中で重縮合させて製造することができる。具体的には、ジカルボン酸とジアミンとを、国際公開第03/085029号に記載されているように触媒の存在下で加熱することにより低次縮合物を得て、次いでこの低次縮合物の溶融物にせん断応力を付与して重縮合させることで製造することができる。
【0059】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、35質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。上記含有量が20質量%以上であると、ポリアミド樹脂組成物の曲げ強度および靱性をより高めることができる。上記含有量が80質量%以下であると、後述する繊維状強化材(B)および難燃剤などの他の成分を十分にポリアミド樹脂組成物に含ませることができる。
【0060】
1-2.繊維状強化材(B)
本実施形態において、繊維状強化材(B)は、断面のアスペクト比が1.5以上である強化材(B-1)(以下、単に「強化材(B-1)」と称する)と、断面のアスペクト比が1.5未満である強化材(B-2)(以下、単に「強化材(B-2)」と称する)とを含む。本明細書において、繊維状強化材(B)の「断面」とは、繊維の長さ方向に直交する方向で切った断面のことをいう。「アスペクト比」は、上記断面の中心を通り、かつ上記断面における互いに対向する縁どうしを結ぶ線分のうち、最も長い線分を第1線分とし、当該最も長い線分に直交する線分を第2線分としたときの、第1線分/第2線分の値のことをいう。
【0061】
(強化材(B-1))
強化材(B-1)は、断面のアスペクト比が2.0以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましく、4.0以上であることがさらに好ましい。上記アスペクト比が2.0以上であることで、強化材(B-1)の長さ方向(成形時のポリアミド樹脂組成物の流れ方向)に直交する方向の長さがより大きくなる。そのため、成形体の上記流れ方向の体積収縮に加えて、上記直交する方向の体積収縮をより抑制できる。その結果、上記流れ方向と上記直交する方向とで、体積収縮率の差をより低減させて、成形体の成形直後およびリフロー処理後の反りをより抑制できる。同様の理由から、上記アスペクト比が3.0以上であることで、上記反りをより十分に抑制できる。上記アスペクト比の上限値は、例えば、8.0である。上記アスペクト比は、後述する方法によって重量平均長径(Dw)および重量平均短径(dw)を求め、それらの比(Dw/dw)を計算することによって求めることができる。強化材(B-1)の上記断面の形状は、例えば、楕円形および扁平形である。
【0062】
強化材(B-1)の種類は、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、セピオライト、ゾノトライト、酸化亜鉛ウィスカー、ミルドファイバー、カットファイバー、全芳香族ポリアミド繊維(例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリパラフェニレンイソフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維およびジアミノジフェニルエーテルとテレフタル酸又はイソフタル酸との縮合物から得られる繊維等)、ホウ素繊維液晶ポリエステル繊維等が含まれる。これらの中でも、得られるポリアミド樹脂組成物の強度(剛性)や耐熱性を高めやすいことから、ガラス繊維や炭素繊維が好ましく、ガラス繊維がより好ましい。
【0063】
強化材(B-1)の平均繊維径(重量平均長径(Dw))は、例えば、1μm以上50μm以下であり、5μm以上30μm以下であることが好ましい。強化材(B-1)の平均繊維長は、例えば、10μm以上3000μm以下であり、100μm以上1000μm以下であることが好ましい。なお、本明細書において、「繊維径」とは、繊維状強化剤の断面における、互いに対向する縁どうしを結ぶ線分のうち、最も長い線分(上記第1線分)の長さのことをいう。
【0064】
強化材(B-1)の平均繊維長は、以下の方法により測定することができる。
1)ポリアミド樹脂組成物を、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム溶液(0.1/0.9体積%)に溶解させた後、濾過して得られる濾過物を採取する。
2)上記1)で得られた濾過物を水に分散させ、光学顕微鏡(倍率:50倍)で任意の300本それぞれの長径および短径(長径をDi、短径をdiとする。ここで、長径とは繊維断面における上記第1線分のことをいい、短径とは上記第2線分のことをいう。)と繊維長(Li)を計測する。繊維長がLiである繊維の本数をqiとし、次式に基づいて重量平均長さ(Lw)を算出し、これを強化材(B-1)の平均繊維長とする。
重量平均長さ(Lw)=(Σqi×Li)/(Σqi×Li)
同様に、長径がDiである繊維の本数をRi、短径がdiである繊維の本数をriとし、次式に基づいて重量平均径(重量平均長径Dw、重量平均短径dw)を算出し、これを強化材(B-1)の平均長径および平均短径とする。
重量平均長径(Dw)=(ΣRi×Di)/(ΣRi×Di)
重量平均短径(dw)=(Σri×di)/(Σri×di)
【0065】
強化材(B-1)の含有量は、強化材(B-1)および強化材(B-2)の全質量に対して15質量%以上85質量%以下であり、30質量%以上85質量%以下であることが好ましく、40質量%以上85質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上85質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以上70質量%以下であることが特に好ましい。上記含有量が50質量%以上であることで、成形体の上記流れ方向の体積収縮に加えて、上記直交する方向の体積収縮をより抑制できる。その結果、成形体の成形直後およびリフロー処理後の反りをより抑制できる。
【0066】
(強化材(B-2))
強化材(B-2)は、断面のアスペクト比が1.0以上1.5未満であることが好ましく、1.0以上1.3以下であることがより好ましい。強化材(B-2)の上記アスペクト比は、強化材(B-1)と同様の方法で求めることができる。強化材(B-2)の断面形状は、例えば、楕円形および円形であり、円形であることが好ましい。
【0067】
強化材(B-2)の種類は、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、セピオライト、ゾノトライト、酸化亜鉛ウィスカー、ミルドファイバー、カットファイバー、全芳香族ポリアミド繊維(例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリパラフェニレンイソフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維およびジアミノジフェニルエーテルとテレフタル酸又はイソフタル酸との縮合物から得られる繊維等)、ホウ素繊維液晶ポリエステル繊維等が含まれる。これらの中でも、得られるポリアミド樹脂組成物の強度(剛性)や耐熱性を高めやすいことから、ガラス繊維や炭素繊維が好ましく、ガラス繊維がより好ましい。
【0068】
強化材(B-2)の平均繊維径(重量平均長径(Dw))は、例えば、1μm以上50μm以下であり、5μm以上30μm以下であることが好ましく、5μm以上20μm以下であることがより好ましい。また、強化材(B-2)の平均繊維長は、例えば、500μm以上10mm以下であり、700μm以上5mm以下であることが好ましい。上記平均繊維径および上記平均繊維長は、強化材(B-1)で述べた方法と同様に測定することができる。
【0069】
強化材(B-2)の含有量は、強化材(B-1)および強化材(B-2)の全質量に対して15質量%以上85質量%以下であり、15質量%以上70質量%以下であることが好ましく、15質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましく、30質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0070】
繊維状強化材(B)は、収束剤によって収束されていてもよい。収束剤の例には、アクリル系、アクリル/マレイン酸変成系、エポキシ系、ウレタン系、ウレタン/マレイン酸変性系、ウレタン/エポキシ変性系の化合物が含まれ、集束剤は一種単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。これらのうち、ウレタン系が好ましい。
【0071】
繊維状強化材(B)の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、20質量%以上40質量%以下であることが好ましく、25質量%以上35質量%以下であることがより好ましい。上記含有量が20質量%以上であることで、ポリアミド樹脂組成物の成形体の強度をより高めることができる。これにより、リフロー処理時に成形体が変形しにくくなり、ブリスターが発生しにくくなる。その結果、リフロー耐熱性をより高めることができる。また、上記含有量が40質量%以下であることで、半芳香族ポリアミド樹脂(A)と繊維状強化材(B)との接触総面積が小さくすることができる。これにより、脆弱層である繊維状強化材とポリアミド樹脂との界面の面積を低減させることができるため、半芳香族ポリアミド樹脂(A)と繊維状強化材(B)との界面でブリスターが発生することを抑制できる。すなわち、上記含有量が40質量%以下であることで、ブリスターがより生じにくくなると考えられる。
【0072】
1-3.その他の成分
ポリアミド樹脂組成物は、公知の他の成分を含んでもよい。
【0073】
他の成分の例には、難燃剤、難燃助剤、核剤、滑剤、ドリップ防止剤、ハロゲン捕捉剤、着色剤、耐熱安定剤、耐腐食性向上剤、ドリップ防止剤、イオン捕捉剤、エラストマー(ゴム)、帯電防止剤、離型剤、酸化防止剤(フェノール類、アミン類、イオウ類およびリン類など)、上記以外の耐熱安定剤(ラクトン化合物、ビタミンE類、ハイドロキノン類など)、光安定剤(ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾフェノン類、ベンゾエート類、ヒンダードアミン類およびオギザニリド類など)、他の重合体(ポリオレフィン類、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体などのオレフィン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体などのオレフィン共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキシド、フッ素樹脂、シリコーン樹脂およびLCPなど)などが含まれる。
【0074】
(難燃剤)
難燃剤の例には、ハロゲン含有化合物およびホスフィン酸塩化合物などが含まれる。上記ハロゲン含有化合物の例には、臭素化ポリスチレン、ポリ臭素化スチレン、臭素化ポリフェニレンエーテルなどが含まれる。上記ホスフィン酸塩化合物の例には、下記式(I)および式(II)で表される化合物である。
【0075】
【化1】
【0076】
式(I)および式(II)において、RおよびRは、それぞれ独立して、直鎖状または分岐鎖状の炭素数1以上6以下のアルキル基またはアリール基である。Rは、直鎖状または分岐鎖状の炭素数1以上10以下のアルキレン基、炭素数6以上10以下のアリーレン基、炭素数6以上10以下のアルキルアリーレン基、または炭素数6以上10以下のアリールアルキレン基である。Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kおよび/またはプロトン化窒素塩基である。m、n、およびxは、それぞれ独立して1~4の整数である。
【0077】
ホスフィン酸塩化合物の具体例には、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛などが含まれる。好ましくはジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛であり;さらに好ましくはジエチルホスフィン酸アルミニウムである。
【0078】
(難燃助剤)
難燃助剤の例には、金属酸化物および金属水酸化物が含まれる。具体的には硼酸亜鉛、ベーマイト、錫酸亜鉛、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化錫が好ましく、より好ましくは硼酸亜鉛である。
【0079】
難燃助剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましい。
【0080】
(核剤)
核剤は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の結晶化を促進し得る。そのため、樹脂部材の引張強度および弾性率をより高めることができる。
【0081】
核剤の例には、リン酸-2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウム、トリス(p-t-ブチル安息香酸)アルミニウム、およびステアリン酸塩などを含む金属塩系化合物、ビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、およびビス(4-エチルベンジリデン)ソルビトールなどを含むソルビトール系化合物、ならびに、タルク、炭酸カルシウム、およびハイドロタルサイトなどを含む無機物などが含まれる。これらのうち、樹脂部材の結晶化度をより高める観点から、タルクが好ましい。これらの核剤は、一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
タルクは、一般的に、含水ケイ酸マグネシウム(SiO:58~64%、MgO:28~32%、Al:0.5~5%、Fe:0.3~5%)を主成分とする。タルクの平均粒子径は、特に制限されないが、1~15μmであることが好ましい。タルクの平均粒子径が上記範囲内であると、ポリアミド樹脂組成物の流動性を損なうことなく、タルクをポリアミド樹脂(A)中に分散させやすい。同様の観点から、タルクの平均粒子径は、1~7.5μmであることがより好ましい。タルクの平均粒子径は、レーザー回折法、例えば、株式会社島津製作所製の島津粒度分布測定器(SALD-2000A型)を用いたレーザー回折法により測定できる。
【0083】
核剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0.10質量部以上5.00質量部以下であることが好ましく、0.10質量部以上3.00質量部以下であることがより好ましい。核剤の含有量が上記範囲内であると、樹脂部材の結晶化度を十分に高めやすく、十分な機械的強度が得られやすい。
【0084】
(滑材)
滑剤は、ポリアミド樹脂組成物の射出流動性を高め、かつ、得られる樹脂部材の外観を良好にする。滑剤は、オキシカルボン酸金属塩および高級脂肪酸金属塩などの脂肪酸金属塩とすることができる。
【0085】
上記オキシカルボン酸金属塩を構成するオキシカルボン酸は、脂肪族オキシカルボン酸であってもよく、芳香族オキシカルボン酸であってもよい。上記脂肪族オキシカルボン酸の例には、α-ヒドロキシミリスチン酸、α-ヒドロキシパルミチン酸、α-ヒドロキシステアリン酸、α-ヒドロキシエイコサン酸、α-ヒドロキシドコサン酸、α-ヒドロキシテトラエイコサン酸、α-ヒドロキシヘキサエイコサン酸、α-ヒドロキシオクタエイコサン酸、α-ヒドロキシトリアコンタン酸、β-ヒドロキシミリスチン酸、10-ヒドロキシデカン酸、15-ヒドロキシペンタデカン酸、16-ヒドロキシヘキサデカン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、およびリシノール酸などの炭素原子数10以上30以下の脂肪族のオキシカルボン酸が含まれる。上記芳香族オキシカルボン酸の例には、サリチル酸、m-オキシ安息香酸、p-オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、およびトロバ酸などが含まれる。
【0086】
上記オキシカルボン酸金属塩を構成する金属の例には、リチウムなどのアルカリ金属、ならびにマグネシウム、カルシウムおよびバリウムなどのアルカリ土類金属が含まれる。
【0087】
これらのうち、上記オキシカルボン酸金属塩は、12-ヒドロキシステアリン酸の金属塩であることが好ましく、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウムおよび12-ヒドロキシステアリン酸カルシウムがより好ましい。
【0088】
上記高級脂肪酸金属塩を構成する高級脂肪酸の例は、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、ベヘン酸、およびモンタン酸などの炭素原子数15以上30以下の高級脂肪酸が含まれる。
【0089】
上記高級脂肪酸金属塩を構成する金属の例には、カルシウム、マグネシウム、バリウム、リチウム、アルミニウム、亜鉛、ナトリウム、およびカリウムなどが含まれる。
【0090】
これらのうち、上記高級脂肪酸金属塩は、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、ベヘン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、およびモンタン酸カルシウムであることが好ましい。
【0091】
滑剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0.01質量%以上1.30質量%以下であることが好ましい。滑剤の含有量が0.01質量%以上であると、成形時の流動性が高まりやすく、得られる成形品の外観性が高まりやすい。滑剤の含有量が1.30質量%以下であると、滑剤の分解によるガスが成形時に発生し難く、製品の外観が良好になりやすい。
【0092】
(ドリップ防止剤)
ドリップ防止剤は、ポリアミド樹脂組成物の成形体の燃焼試験(例えば、UL94規格(1991年)の試験)において、樹脂の液滴の滴化を抑制するための添加剤である。ドリップ防止剤の例には、マレイン酸変性スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)共重合体、フッ素樹脂などが含まれる。
【0093】
(ハロゲン捕捉剤)
ハロゲン捕捉剤は、上述の難燃剤として、ハロゲン含有化合物を用いるときに、ポリアミド樹脂組成物に含まれることが好ましい。ハロゲン捕捉剤は、ハロゲン含有化合物を含むポリアミド樹脂組成物の成形体を燃焼させたときに生じる、ハロゲン化物イオンを捕捉して、有害物質の発生を抑制できる。ハロゲン捕捉剤の例には、ハイドロタルサイトなどが含まれる
【0094】
1-4.ポリアミド樹脂組成物の製造方法
ポリアミド樹脂組成物は、上述の半芳香族ポリアミド樹脂(A)、繊維状強化材(B)、ホスフィン酸塩化合物(C)および必要に応じて他の成分を、公知の樹脂混練方法、例えばヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、またはタンブラーブレンダーで混合する方法、あるいは混合後、さらに一軸押出機、多軸押出機、ニーダー、またはバンバリーミキサーで溶融混練した後、造粒または粉砕する方法で製造することができる。このとき、溶融混練するときの溶融温度は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)+10℃以上で、且つ半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)+20℃以下であることが好ましい。
【0095】
1-5.ポリアミド樹脂組成物の物性
本実施形態におけるポリアミド樹脂組成物は、示唆走査熱量計(DSC)により測定される融解熱量(ΔH)は、5J/g以上であることが好ましく、10J/g以上であることがより好ましく、15J/g以上であることがさらに好ましく、20J/g以上であることが特に好ましく、25J/g以上であることが最も好ましい。ポリアミド樹脂組成物の融解熱量(ΔH)が5J/g以上であることで、ポリアミド樹脂組成物の結晶性をより高めて、成形体のリフロー耐熱性をより高めることができる。同様の理由から、上記融解熱量(ΔH)が10J/g以上であると、成形体のリフロー耐熱性をより十分に高めることができる。上記融解熱量(ΔH)の上限値は、特に限定されないが、例えば、100J/gであり、80J/gであることが好ましく、60J/gであることがより好ましいい。
【0096】
ポリアミド樹脂組成物の融解熱量(ΔH)は、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0097】
具体的には、約5mgのポリアミド樹脂組成物を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱する。樹脂を完全融解させるために、350℃で3分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却する。ポリアミド樹脂組成物の融解熱量(ΔH)は、JIS K7122に準じて、上述の昇温過程での融解時の吸熱ピークの面積から求める。
【0098】
2.成形体
本発明の成形体は、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形してなる。上述のポリアミド樹脂組成物により、リフロー耐熱性を高められ、かつ成形後およびリフロー処理後の成形体の反りを抑制される。
【0099】
上記成形体は、上述のポリアミド樹脂組成物を用いて、通常の溶融成形法、例えば圧縮成形法、射出成形法などにより製造することができる。例えば、本発明のポリアミド樹脂組成物を、シリンダー温度がポリアミド樹脂(A)の融点以上、例えば、280℃以上350℃以下程度に調整された射出成形機に投入して溶融状態にして、所定の形状の金型内に導入することにより成形体を製造することができる。
【0100】
本発明のポリアミド樹脂組成物を用いて製造される成形体の形状は、特に制限はなく、用途に応じて種々の形状をとりうる。
【0101】
本実施形態におけるポリアミド樹脂組成物の成形体の用途の例には、車両用構造部品、車両搭載用品、電子機器の筐体、家電機器の筐体、構造用部品、機械部品、種々の自動車用部品、電子機器用部品、医療機器、などが含まれる。上述のように、上記ポリアミド樹脂組成物は、成形体のリフロー耐熱性を高めることができるため、これらの用途のうち、特に、電子機器用部品に対して好適に用いられ得る。
【実施例0102】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0103】
1.材料の合成/用意
1-1.半芳香族ポリアミド樹脂(A)の合成
<ポリアミド樹脂PA-1(6T66)>
テレフタル酸2515g(15.1モル)、1,6-ジアミノヘキサン2800g(24.1モル)、アジピン酸1325g(9.0モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7g、および蒸留水554gを、内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温した。このとき、オートクレーブの内圧を3.01MPaまで昇圧した。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低次縮合物を抜き出した。抜き出した低次縮合物を室温まで冷却し、その後、粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥した。
【0104】
次に、この低次縮合物を棚段式固相重合装置に入れ、窒素置換後、約1時間30分かけて220℃まで昇温させた。その後、低次縮合物を1時間反応させて、室温まで降温させた。その後、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度330℃、スクリュー回転数200rpm、6kg/時間の樹脂供給速度でさらにポリアミド(高縮合物)を溶融重合させて、ポリアミド樹脂PA-1を得た。
【0105】
得られたポリアミド樹脂PA-1の、極限粘度[η]は0.8dl/gであり、融点(Tm)は320℃、ガラス転移温度(Tg)は95℃、融解熱量(ΔH)は49J/gであった。また、得られたポリアミド樹脂PA-1の組成はジカルボン酸に由来する成分単位の総モル数に対するテレフタル酸に由来する成分単位の含有量は62.5モル%、アジピン酸に由来する成分単位の含有量は37.5モル%であり、ジアミンに由来する成分単位の総モル数に対する1,6-ジアミノヘキサンに由来する成分単位の含有量は100モル%であった。
【0106】
1-2.繊維状強化材(B)
1-2-1.強化材(B-1)
強化材(B-1a):ガラス繊維(CSG-3PA820S、日東紡績株式会社製、断面形状のアスペクト比:4)
強化材(B-1b):ガラス繊維(CSG 3PL-810、日東紡績株式会社製、断面形状のアスペクト比:2)
【0107】
1-2-2.強化材(B-2)
ガラス繊維(ECS03-615、セントラル硝子株式会社製、断面形状のアスペクト比:1)
【0108】
1-3.その他の成分
1-3-1.難燃剤 臭素化ポリスチレン(アルベマール社製、HP-3010、臭素含有量:68質量%、数平均分子量(Mn):3400、重量平均分子量(Mw):4000、Mw/Mn:1.2)
【0109】
1-3-2.難燃助剤
アンチモン酸ナトリウム(日本精鉱株式会社製、SA-A)
【0110】
1-3-3.核剤
タルク(松村産業株式会社製、ハイフィラー#5000PJ、平均粒子径4.5μm)
【0111】
1-3-4.滑剤
モンタン酸カルシウム(クラリアントジャパン社製、Licomont CAV102)
【0112】
1-3-5.ドリップ防止剤
m-SEBS(マレイン化SEBS、株式会社旭ケミカルス製、タフテックM1913)
【0113】
1-3-6.ハロゲン捕捉剤
ハイドロタルサイト(戸田工業株式会社製、NAOX-33)
【0114】
2.測定
上記各樹脂の物性は、以下の方法により測定した。
【0115】
<融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)>
ポリアミド樹脂の融点(Tm)、およびガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて測定した。具体的には、約5mgのポリアミド樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、示差走査熱量測定にセットした。そして、室温から10℃/minで350℃まで加熱した。当該樹脂を完全融解させるために、350℃で3分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却した。30℃で5分間置いた後、10℃/minで350℃まで2度目の加熱を行った。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)をポリアミド樹脂の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0116】
<融解熱量(ΔH)>
ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)は、JIS K 7122(2012年)に準じて、1回目の昇温過程での結晶化の発熱ピークの面積から求めた。
【0117】
<極限粘度[η]>
ポリアミド樹脂の極限粘度[η]は、ポリアミド樹脂0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させ、得られた溶液の、25℃±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定し、「数式:[η]=ηSP/(C(1+0.205ηSP))」に基づき算出した。
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
ηSP=(t-t)/t
【0118】
3.ポリアミド樹脂組成物の調製
上記の材料を、表1に示す組成比(単位は質量部)でタンブラーブレンダーにて混合し、30mmφのベント式二軸スクリュー押出機を用いて300~335℃のシリンダー温度条件で溶融混練した。その後、混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却させた。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状のポリアミド樹脂組成物1~7を得た。
【0119】
<ポリアミド樹脂組成物の融解熱量>
各ポリアミド樹脂組成物の融解熱量(ΔH)は、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて測定した。
【0120】
具体的には、約5mgのポリアミド樹脂組成物を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱した。樹脂組成物を完全融解させるために、360℃で3分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却した。30℃で5分間置いた後、10℃/minで360℃まで2度目の加熱を行った。そして、ポリアミド樹脂組成物の融解熱量(ΔH)を、JIS K7122(2012)に準じて、1度目の昇温過程での結晶化の吸熱ピークの面積から求めた。
【0121】
<繊維状強化材(B)のアスペクト比>
繊維状強化材(B)の断面のアスペクト比は、以下の方法により、繊維状強化材(B)の重量平均長径(Dw)および重量平均短径(dw)測定し、Dw/dwを算出することで求めた。
1)ポリアミド樹脂組成物を、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム溶液(0.1/0.9体積%)に溶解させた後、濾過して得られる濾過物を採取した。
2)上記1)で得られた濾過物を水に分散させ、光学顕微鏡(倍率:50倍)で任意の300本それぞれの長径および短径(長径をDi、短径をdiとする。ここで、長径とは繊維断面における上記第1線分のことをいい、短径とは上記第2線分のことをいう。)を計測した。長径がDiである繊維の本数をRi、短径がdiである繊維の本数をriとし、次式に基づいて重量平均径(重量平均長径Dw、重量平均短径dw)を算出した。
重量平均長径(Dw)=(ΣRi×Di)/(ΣRi×Di)
重量平均短径(dw)=(Σri×di)/(Σri×di)
【0122】
4.評価
<曲げ強度および靭性>
長さ64mm、幅6mm、厚さ0.8mmの試験片を射出成形で調製した。用いた成形機と、成形機シリンダー温度、金型温度を以下に示す。
成形機:ツパールTR40S3A(株式会社ソディック プラステック製)
成形機シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:120℃
調製した試験片を、温度23℃、窒素雰囲気下で24時間放置した。次いで、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で、曲げ試験機(NTESCO社製 AB5)で曲げ試験を行った。試験条件は、スパン26mm、曲げ速度5mm/分とした。曲げ試験から、曲げ強度、およびその試験片を破壊するのに要するエネルギー(靭性)を測定した。
【0123】
<流動長>
各ポリアミド樹脂組成物を、幅10mm、厚み0.5mmのバーフロー金型を使用して以下の条件で射出成形し、金型内の樹脂の流動長(mm)を測定した。
射出成形機:ツパールTR40S3A(株式会社ソディック プラステック社製)
射出設定圧力:2000kg/cm
成形機シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:120℃
【0124】
<リフロー耐熱温度>
各ポリアミド樹脂組成物を、以下の条件で射出成形して、長さ64mm、幅6mm、厚さ0.8mmの試験片を調製した。
成形機:ツパールTR40S3A(株式会社ソディック プラステック製)
成形機シリンダー温度:各ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:120℃
【0125】
調製した試験片を温度40℃、相対湿度95%で96時間調湿した。調湿処理を行った試験片を、厚み1mmのガラスエポキシ基板上に載置した。この基板上に温度センサーを設置した。試験片を載置したガラスエポキシ基板を、エアーリフローはんだ装置(AIS-20-82-C、エイテックテクトロン株式会社製)にセットし、図1に示す温度プロファイルのリフロー工程を行った。図1に示されるように、所定の速度で温度230℃まで昇温し;次いで、20秒間で所定の設定温度(図1におけるaは270℃、bは265℃、cは260℃、dは255℃、eは235℃)まで加熱したのち;230℃まで降温した。このとき、試験片が溶融せず、且つ表面にブリスターが発生しない設定温度の最大値を求め、この設定温度の最大値をリフロー耐熱温度とした。
【0126】
<難燃性>
各ポリアミド樹脂組成物を、以下の条件で射出成形して、1/32インチ×1/2×5インチの試験片を調製した。調製した試験片を用いて、UL94規格(1991年6月18日付のUL Test No.UL94)に準拠して、垂直燃焼試験を行い、難燃性を評価した。
成形機:ツパールTR40S3A(株式会社ソディック プラステック製)
成形機シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:120℃
【0127】
<反り量>
(評価方法)
長さ50mm、幅30mm、厚さ0.6mmの試験片を射出成形で調製した。成形体の調製条件を以下に示す。
成形機:オールラウンダー270S(アーブルグ社製)
成形機シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点(Tm)+10℃
金型温度:120℃
ゲート位置:試験片の幅30mm方向の中央
ゲートサイズ:幅2mm
射出速度:30cc/s
射出圧力:2500bar(最大)
保圧力:300bar
保圧時間:1s
冷却時間:15s
調製した試験片を、温度23℃で24時間放置した。次いで、定盤上に置いたときの試験片の最小高さと最大高さの差を「成形後の反り量」とした。さらにその試験片を、リフロー耐熱性試験と同じ試験機にてピーク温度260℃のリフロー炉を通過させ、23℃まで冷却させた。冷却後の試験片の反り量と、成形後の反り量との差を「リフロー後の反り量」とした。
【0128】
<線膨張率の測定>
十分に乾燥させた樹脂組成物を、射出成形機(住友重機械工業(株)社製、SE75EV―A)を用いて射出成形(成形機シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点(Tm)+10℃、金型温度:120℃)し、ISO規格3167に記載の多目的試験片A型を得た。その試験片を、成形時におけるポリアミド樹脂組成物の流れ方向(MD)および当該流れ方向に直交する方向(TD)に対して、10mm×4mm×4mm(厚)に切り出した。上記流れ方向(MD)および上記直交する方向(TD)についての線膨張率を、装置TMA-SS7100(セイコーインスツル株式会社製)を用いて、以下の条件にてISO 11359-2に準拠して測定を行った。 成形機:住友重機械工業(株)社製、SE50DU
測定モード:圧縮膨張モード
温度範囲:23℃~270℃
試験荷重:49mN(5gf)
昇降温速度:5℃/min
測定雰囲気:窒素(100mL/min)
プローブ径:2.9mmφ
試験n数:n=3
真空乾燥:110℃×10hr
【0129】
表1に各ポリアミド樹脂組成物の組成、評価結果を示した。なお、表1の組成の数値は質量部を表す。
【0130】
【表1】
【0131】
ポリアミド樹脂組成物1~4の結果から、強化材(B-1)の含有量が、強化材(B-1)および強化材(B-2)の全質量に対して、15質量%以上85質量%以下であることで、成形体のリフロー耐熱性を高めつつ、成形直後およびリフロー後の成形体の反りを抑制できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形体のリフロー耐熱性を高めつつ、成形直後およびリフロー後の成形体の反りを抑制できる。したがって、本発明は、例えば、電子部品の分野において有用である。
図1