(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099551
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】室内被害推定システム
(51)【国際特許分類】
G01V 1/01 20240101AFI20250626BHJP
【FI】
G01V1/01 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216291
(22)【出願日】2023-12-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和5年8月10日に「2023年度日本建築学会大会 学術講演梗概集(構造II第101-102頁,一般社団法人日本建築学会(大会専用マイページhttps://www.gakkai-web.net/p/aij/reg/mod2.php))」において公開 (2)令和5年9月14日に京都大学吉田キャンパス(京都府京都市左京区吉田本町)において開催された「2023年度日本建築学会大会(近畿)学術講演会」において公開
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貢一
(72)【発明者】
【氏名】上田 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】森川 隆
(72)【発明者】
【氏名】関山 雄介
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE02
2G105MM01
2G105NN02
(57)【要約】
【課題】地震動に基づく室内被害を精度よく推定することができる。
【解決手段】事前に実施する学習工程の結果に基づいて、室内被害状況を推定工程で推定する室内被害推定システムであって、什器認識用モデルを用いて前記室内画像に写る什器を認識し、什器の種類、位置および寸法を推定する室内什器推定工程S23と、地震発生時から第1時点までの時刻歴応答波形を学習済みの床応答推定用モデルに入力することによって、当該第1時点から第2時点までの時刻歴応答波形を予測する時刻歴応答波形予測工程S24と、応答挙動情報と、室内の推定した什器の種類、位置および寸法と、第1時点から第2時点までの予測した時刻歴応答波形とに基づいて、第1時点から第2時点までの前記什器の時刻毎の挙動を求める什器挙動推定工程S25とを有する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震による建物内の室内被害状況を推定する、室内被害推定システムであって、
入力データを、什器の位置、及び3次元形状を表す什器情報データと、地震発生前後の什器を含む室内被害状況を表す室内画像データとし、前記入力データに対応する教師データとして、地震発生後の什器の挙動を含む室内被害状況データを学習データとして、畳み込みニューラルネットワークに基づいて深層学習された什器挙動推定部と、
入力データを、建物の位置、及び構造形態や階数を表す建物情報データと、過去の床単体の時刻歴波形データとし、前記入力データに対応する教師データとして、地震発生後の床単体の時刻歴波形データを学習データとして、LSTMネットワーク手法に基づいて深層学習された床応答推定用モデルと、
前記什器挙動推定部、及び前記床応答推定用モデルに、室内被害状況の推定対象となる什器情報データと地震情報データを入力して、地震発生後の床単体の時刻歴応答、及び床応答を含んだ什器の移動量を予測する被害推定本体部を備え、
前記什器の移動量は、前記什器挙動推定部で得られる什器単体の挙動、及び前記床応答推定用モデルで得られる床単体の時刻歴応答を用いて、合成スペクトルを作成した後、前記合成スペクトルに対して順および逆フーリエ変換を行い、床応答を含んだ什器の移動量から揺れやすさの周期特性を算定することを特徴とする室内被害推定システム。
【請求項2】
前記被害推定本体部では、第1時点から第2時点までの予測した時刻歴応答波形と、什器単体での挙動とを用いて合成スペクトルを作成した後、前記合成スペクトルに対して逆フーリエ変換を行い、前記時刻歴応答波形の影響を考慮した前記什器の移動量を算出することを特徴とする請求項1に記載の室内被害推定システム。
【請求項3】
前記被害推定本体部では、時刻歴応答波形の加速度に什器の質量を乗じた荷重が床と什器との間に作用する動摩擦力を上回った場合に、什器単体での挙動に動摩擦力による滑り量分を付加して、前記什器の移動量を増大させることを特徴とする請求項1に記載の室内被害推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震による建物内の室内被害状況を推定する室内被害推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震直後の建物の健全性評価を速やかに行う構造ヘルスモニタリングシステムが知られている。構造ヘルスモニタリングシステムは、総合建設業主導で普及および展開を図っており、企業等への導入が開始されている。構造ヘルスモニタリングシステムによれば、地震観測や建物の健全性評価が速やかに行われるので、地震直後の企業BCP(Business Continuity Planning)の一助となる。しかし、構造体が安全でも居住者の安全が担保されるとは限らない。その理由として、例えば室内に置かれている本棚や机などの什器が固定されていないことが挙げられる。什器が固定されていない場合、地震の揺れによる移動や転倒のリスクが高く、人への直接的な危害のほか、出入口の封鎖による避難阻害を与える可能性も少なくない。
【0003】
既往の研究として、1990年代には家具の転倒調査から転倒率と床応答の関係性についての論文があった(非特許文献1参照)。
また、2011年の東日本大震災に関するアンケート調査(非特許文献2参照)等により、超高層建物における家具の転倒が確認されたため、それ以降の2015年頃までは家具の転倒による被害推定の論文(非特許文献3参照)や、実験による家具の地震時挙動シミュレーションの論文(非特許文献4,5参照)が主流であった。
その後の研究としては家具の地震時の3Dシミュレーションを学習し、CNNによる室内被害の研究(非特許文献6参照)がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】翠川 三郎,佐藤 俊明,松岡 昌志、「1993年釧路沖地震での釧路市役所および釧路気象台での家具の転倒調査(家具転倒率と設置状態の関係)」、日本建築学会構造系論文集 59巻 461号、日本建築学会、p.11-17、1994年7月
【非特許文献2】肥田 剛典,永野 正行、「アンケート調査と強震記録に基づく2011年東北地方太平洋沖地震時における超高層集合住宅の室内被害-不安度と行動難度および家具の転倒率の検討-」、日本建築学会構造系論文集 第77巻 第677号、日本建築学会、p.1065-1072、2012年7月
【非特許文献3】金子 美香、「家具の転倒率関数を用いた住宅内の地震被害推定」、日本建築学会構造系論文集 第78巻 第693号、日本建築学会、p.1879-1886、2013年11月
【非特許文献4】松下 卓矢、他5名、「振動台実験に基づく地震時室内被災状況のモニタリング技術とシミュレーションの開発」、日本建築学会技術報告集 第19巻 第43号、日本建築学会、p.871-874、2013年10月
【非特許文献5】磯部 大吾郎、他5名、「有限要素法を用いた地震時における家具の挙動解析」、日本建築学会構造系論文集 第80巻 第718号、日本建築学会、p.1891-1900、2015年12月
【非特許文献6】松本 雄馬,肥田 剛典,糸井 達哉、「3D モデル画像をデータセットとした畳み込みニューラルネットワークによる地震時室内被災度判定」、日本建築学会大会学術講演梗概集(東海)、日本建築学会、pp.221-222、2021年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来、什器の動きのみで室内被害を検討しており、そのため地震動が異なった場合は、什器の動きの予測がつかないという課題があった。つまり、床の動きとの相互作用を考慮していないので、地震動に基づく室内被害を精度よく推定することが難しかった。
【0006】
このような観点から、本発明は、地震動に基づく室内被害を精度よく推定することができる室内被害推定システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、地震による建物内の室内被害状況を推定する室内被害推定システムであって、入力データを、什器の位置、及び3次元形状を表す什器認識用モデル(什器情報データ)と、地震発生前後の什器を含む室内被害状況を表す室内画像データとし、前記入力データに対応する教師データとして、地震発生後の什器の挙動を含む室内被害状況データを学習データとして、畳み込みニューラルネットワークに基づいて深層学習された什器挙動推定部と、入力データを、建物の位置、及び構造形態や階数を表す質点系モデル(建物情報データ)と、過去の床単体(加速度と変位)の時刻歴波形データとし、前記入力データに対応する教師データとして、地震発生後の床単体の時刻歴波形データを学習データとして、LSTMネットワーク手法に基づいて深層学習された床応答推定用モデルと、前記什器挙動推定部、及び前記床応答推定用モデルに、室内被害状況の推定対象となる什器情報データと地震情報データを入力して、地震発生後の床単体の時刻歴応答、及び床応答を含んだ什器の移動量を予測する被害推定本体部を備え、前記什器の移動量は、前記什器挙動推定部で得られる什器単体の挙動、及び前記床応答推定用モデルで得られる床単体の時刻歴応答を用いて、合成スペクトルを作成した後、前記合成スペクトルに対して順および逆フーリエ変換を行い、床応答を含んだ什器の移動量から揺れやすさの周期特性を算定することを特徴とする。
【0008】
前記被害推定本体部では、第1時点から第2時点までの予測した時刻歴応答波形と、什器単体での挙動とを用いて合成スペクトルを作成した後、前記合成スペクトルに対して逆フーリエ変換を行い、前記時刻歴応答波形の影響を考慮した前記什器の移動量を算出してもよい。
【0009】
また、前記被害推定本体部では、時刻歴応答波形の加速度に什器の質量を乗じた荷重が床と什器との間に作用する動摩擦力を上回った場合に、什器単体での挙動に動摩擦力による滑り量分を付加して、前記什器の移動量を増大させてもよい。
このようにすると、床と什器との間の摩擦力の影響を考慮した実現象に即した、床応答に適応する什器の移動量を推定できる。
【0010】
また、本発明に係る室内被害推定システムでは、事前に実施する学習工程の結果に基づいて、室内被害状況を推定工程で推定するシステムである。学習工程は、学習準備工程と、応答解析工程と、時刻歴応答波形学習工程と、を有する。推定工程は、推定準備工程と、推定用情報取得工程と、室内什器推定工程と、時刻歴応答波形予測工程と、什器挙動推定工程と、を有する。
【0011】
学習準備工程では、建物の質点系モデルを作成する。応答解析工程では、前記質点系モデルに対して応答解析を行うことで各階の床の時刻歴応答波形を求める。時刻歴応答波形学習工程では、地震発生時から第1時点までの時刻歴応答波形を床応答推定用モデルに入力することで、前記第1時点から当該第1時点よりも後である第2時点までの時刻歴応答波形を出力するように前記床応答推定用モデルを学習させる。前記床応答推定用モデルは、再帰型ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)を拡張したLSTM(Long Short-Team Memory)のネットワーク構造を有する。
【0012】
推定準備工程では、室内画像から什器を検出すると共に検出した前記什器の種類、位置および寸法を出力する什器認識用モデルと、前記什器の挙動と時刻歴応答波形との関係を紐づけた応答挙動情報と、を準備する。推定用情報取得工程では、地震発生時の室内を撮影した室内画像を取得すると共に、推測を行う階の地震発生時から第1時点までの時刻歴応答波形を取得する。
【0013】
室内什器推定工程では、前記什器認識用モデルを用いて前記室内画像に写る什器を認識し、什器の種類、位置および寸法を推定する。時刻歴応答波形予測工程では、地震発生時から第1時点までの時刻歴応答波形を学習済みの前記床応答推定用モデルに入力することによって、当該第1時点から第2時点までの時刻歴応答波形を予測する。什器挙動推定工程では、前記応答挙動情報と、室内の推定した什器の種類、位置および寸法と、第1時点から第2時点までの予測した時刻歴応答波形とに基づいて、第1時点から第2時点までの前記什器の時刻毎の挙動を求める。
【0014】
本発明に係る室内被害推定システムにおいては、床の動きとの相互作用を考慮しているので、様々な地震動に対する什器の動きの予測が可能である。そのため、地震動に基づく室内被害を精度よく推定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、地震動に基づく室内被害を精度よく推定可能な、室内被害推定システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る室内被害推定システムの概略構成図である。
【
図4】LSTMのネットワーク構造を説明するための図である。
【
図5】LSTMのネットワーク構造の改良版を説明するための図である。
【
図6】学習工程に関する処理の流れを示したフローチャートの例示である。
【
図7】推定工程に関する処理の流れを示したフローチャートの例示である。
【
図8】実際のデータを用いた被害の予測試験の流れを示したフローチャートである。
【
図10】インスタンス・セグメンテーションの処理による結果のイメージである。
【
図11】OpticalFlowにおけるIDの付加処理のイメージである。
【
図12】OpticalFlowを適用した処理のイメージである。
【
図13】床の時刻歴応答波形の予測結果の一例である。
【
図14】地震による什器の移動量予測の結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、地震発生時から数秒後の床応答を含む室内に設置される什器の挙動を推定する室内被害推定システムである。室内被害推定システムでは、床応答推定用モデル(LSTM手法)で得られる床応答の時刻歴応答と、什器挙動推定部(畳み込みニューラルネットワーク)で得られる什器単体の挙動とを推定することができる。さらに、それらの各値から合成スペクトルを作成した後、当該合成スペクトルを順および逆フーリエ変換して、床応答を含んだ什器の周期特性を予測するものである。
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0018】
<実施形態に係る室内被害推定システムの構成>
図1を参照して、実施形態に係る室内被害推定システム1の構成について説明する。
図1は、実施形態に係る室内被害推定システム1の概略構成図である。室内被害推定システム1は、地震動による室内の被害を推定するシステムである。本実施形態での被害は、室内に配置された什器(一例は、家具)が移動や転倒することである。室内被害推定システム1は、地震動に起因する未来の床応答に対する什器の挙動を予測するものであり、特に地震発生中において数秒後の什器の動きを予測することができる。
【0019】
図1に示すように、実施形態に係る室内被害推定システム1は、振動を検出する、または動画像や静止画像を撮影する情報取得部(センサ2、撮影装置3)と、地震発生に伴い発生する床スラブの応答、及び什器の挙動を推定する室内被害推定装置4とを備える。センサ2および撮影装置3は、建物が有する室の内部に設置される。建物は、例えば複数の階を有しており、何れかの階に室が設けられている。室内には、什器(一例は、家具)が配置されている。室内被害推定装置4の設置場所は特に限定されず、センサ2および撮影装置3とデータ通信可能である。
【0020】
センサ2は、振動を検出するセンサであり、例えば加速度や変位の時刻歴応答波形を出力する。センサ2は、例えば地表面または室が設けられた階に設置される。検出した時刻歴応答波形は、室内被害推定装置4に送信される。
【0021】
撮影装置3は、動画像または静止画像を撮影し、撮影した動画像または静止画像を出力する。静止画像を撮影する場合、撮影装置3は、所定時間間隔(例えば、数ミリ秒)での連続撮影が可能である。撮影した動画像または静止画像(区別せずに、単に「画像」と表現する場合がある)は、室内被害推定装置4に送信される。
【0022】
室内被害推定装置4は、地震動による室内の被害を推定するもので、地震発生に伴い発生する床スラブの応答、及び什器の挙動を推定する装置である。室内被害推定装置4は、地震発生時に室に関する時刻歴応答波形および室内の画像を取得して地震動による数秒後の什器の動きを予測する。室内被害推定装置4は、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)や当該パーソナルコンピュータと通信可能に接続されたアプリケーションサーバである。室内被害推定装置4は、クラウドシステムを構成する装置であってもよい。なお、パーソナルコンピュータおよびアプリケーションサーバは、コンピュータの一例である。
【0023】
室内被害推定装置4は、例えば、室内被害を推定する学習済みモデル、及びその学習済みモデルに用いるパラメータに関する各情報を保管する学習モデル記憶部10と、室内被害を推定する制御部20と、推定結果出力部30と、を備える。本実施形態では、室内被害推定装置4が単一の装置であることを想定しているが、複数の装置で構成されてもよい。例えば、室内被害推定装置4が制御部20のみを有し、学習モデル記憶部10および推定結果出力部30は別の装置が有していてもよい。
【0024】
学習モデル記憶部10は、室内被害の推定に必要な情報を記憶する構成要素である。学習モデル記憶部10は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の記憶媒体である。学習モデル記憶部10は、記憶する情報を必要に応じて制御部20に送信する。
【0025】
制御部20は、演算処理によって室内被害を推定する構成要素である。制御部20は、学習済みモデル部(応答解析部21、床応答推定用モデル学習処理部22、応答挙動情報作成処理部23)と、被害推定本体部(推定用情報取得部24、室内什器推定部25、時刻歴応答波形予測部26、什器挙動推定部27など)を実現する。制御部20がプログラム実行処理により各種機能を実現する場合、学習モデル記憶部10には、各種機能を実現するためのプログラム(室内被害推定プログラム)が記憶される。制御部20は、学習モデル記憶部10から必要に応じて室内被害の推定に必要な情報を取得する。
【0026】
推定結果出力部30は、推定された室内被害の結果を出力する構成要素である。推定結果出力部30は、地震発生後の床応答の時刻歴波形、什器の挙動、及び地震発生時の什器の挙動を表す什器の動画像をディスプレイまたは生成ファイルにする。例えば、特開2011-163837「建物状況表示システム」に記載される表示方法によって、これらの情報をディスプレイに表示することが可能である。
推定結果出力部30による表示方法の一例を説明する。推定結果出力部30は、例えば、床に対応する仮想の発光手段を画面内に表示させ、床応答に関する物理量に応じて発光手段の発光状態を変化させることで室内被害の結果を知らせる。また、推定結果出力部30は、例えば、各々の什器に対応する仮想の発光手段を画面内に表示させ、什器の挙動に関する物理量に応じて発光手段の発光状態を変化させることで室内被害の結果を知らせる。
【0027】
学習モデル記憶部10は、例えば、質点系モデル、室内モデル、什器認識用モデル、床応答推定用モデル、応答挙動情報、室内パース図などを記憶する。
【0028】
質点系モデルは、室を有する建物のモデルである。具体的には、質点系モデルは、被害推定本体部を構成する什器挙動推定部27の入力データとなる建物の位置、及び構造形態や階数を表す建物情報データである。
室内モデルは、什器が配置された室内のモデルである。室内モデルは、例えば、三次元CADなどを用いて作成された立体的なモデルである。室内モデルには、什器の立体データが含まれる。
【0029】
什器認識用モデルは、室内画像から什器を検出すると共に検出した什器の種類、位置、寸法を出力する人工知能(AI)である。什器認識用モデルは、例えば、インスタンス・セグメンテーション(=オブジェトディテクション×セマンティックセグメンテーション)の手法により実現可能であり、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)として構築される。なお、什器認識用モデルは、什器の種類、位置、寸法のそれぞれを別に推定する人工知能(AI)として構成されてもよい。
具体的には、什器認識用モデルは、被害推定本体部を構成する什器挙動推定部の入力データとなる什器の位置、及び3次元形状を表す什器情報である。
【0030】
床応答推定用モデルは、数秒前の過去の床応答(一例は、加速度や変位の時刻歴応答波形)に基づいて、未来(例えば、数十秒後)の床応答(一例は、加速度や変位の時刻歴応答波形)を予測する人工知能(AI)である。床応答推定用モデルは、再帰型ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)により実現可能であり、LSTM(Long Short-Team Memory)として構築されるのが望ましい。LSTMは、再帰型ネットワーク(RNN)を拡張したものであり、時刻歴波形のt秒からそれ以降の数秒後taの波形を予測する。
具体的には、床応答推定用モデルでは、入力データを、建物の位置、及び構造形態や階数を表す建物情報データと、過去の床応答(加速度と変位)の時刻歴波形データとし、前記入力データに対応する教師データとして、地震発生後の床応答の時刻歴波形データを学習データとして、LSTMネットワーク手法に基づいた1例としてNN(ニューラルネットワーク)で構築した。
【0031】
RNNモデルでは、短期的かつ周期的に近い床応答(時刻歴波形)に対し、時刻t時点を境にそれより前のtb秒間の波形からそれより後のta秒間の波形の値を予測する手法である。しかし、地震波のような長期的なランダム波形(数分程度の波形)には不向きであるため、本実施形態では、RNNを拡張することで長期的なランダム波形にも適用可能なLSTMを採用した。
【0032】
図2ないし
図5を参照して、床応答推定用モデルの構成について説明する。
図2は、基本的なネットワーク構成図である。
図3は、RNNの構成図である。
図4は、LSTMのネットワーク構造である。
図5は、LSTMのネットワーク構造の改良版である。なお、本実施形態では、一部の数式(式(3)~式(7))を除きベクトル表記をスカラー表記としている。
【0033】
図2に示すように、基本的なネットワークは、回帰結合で表現される。ここで、「f」,「g」は関数を意味しており、非線性が強いため、活性化関数で表現する。このニューラルネットワークの方程式は、以下の式(1)のように表現できる。
【数1】
【0034】
このように2つの式で表され、中間層の値「t
i
*」を式(1)から消去することで、式(2)のように合成関数として表現できる。
【数2】
【0035】
一方、
図3に示すRNNのネットワークの方程式は、時間を考慮する必要があるため、時間tを用いて表現すると式(3)のようになる。
【数3】
【0036】
式(3)の第1式は、線形結合で表現されているが、実現象では非線形結合が一般的であることを考慮すると式(4)の表現ができる。また、これを簡略化した式に整理すると、RNNの方程式は、式(5)のように表現される。
【数4】
【0037】
ここで、中間層Z(t)を消去して合成関数にする。現時点の時間から以前までの時間をt
bとし、徐々に時間ステップを増やしていくと、式(4)は式(6)のように表現できる。
【数5】
【0038】
中間層Z(t)を逐次消去すると、式(7)のようになる。この式(7)より、X(t)のt
bとZ(t-t
b)が既知であれば、次の時間ステップが算出できる。
【数6】
【0039】
次に、
図4を参照して、RNNのデメリットを補うLSTMについて説明する。LSTMの内部要素は、「入力ゲート(Input)i
t」、「忘却ゲート(Forget)f
t」、「出力ゲート(Output)o
t」、「記憶領域」の4つから構成される。なお、
図4におけるその他の符号は以下の内容である。
X
t:時刻tの応答データ、h
t-1,h
t:時刻(t-1)および時刻tの短期記憶データ、「~(チルダ)」付きC
t:新たな応答候補ベクトル、C
t-1,C
t:古い応答ベクトルおよび新たな応答ベクトル、σ:シグモイド関数、○と×を組み合わせた記号:テンソル積、○と+を組み合わせた記号:直和
【0040】
入力ゲートi
tは、入力および1つ前の時刻データから出力がどのように反映されているのかを判断する機能である。
忘却ゲートf
tは、過去の記憶の内容をどの程度を残すか調整する機能である。
出力ゲートo
tは、過去の出力を入力にフィードバックする機能である。
記憶領域は、時刻歴の過去の記憶を保持する機能である。
この手法の特徴は、入力ゲートi
tと忘却ゲートf
tを構築することで、
図3で示したRNNに比べて使用するデータを最小限にすることができる。また、入力と忘却で再帰型の構成を持ち、さらに計算時間も早くなる点である。
【0041】
続いて、
図4を参照して、LSTMの各構成要素についてより具体的に説明する。
(入力ゲート)
入力ゲートi
tは、新しい入力(x
t)を処理するものである。入力ゲートi
tは、h
t-1と新しいインプット(x
t)をそれぞれシグモイド関数σとtanh関数にかけ、XORすることで新たな候補値のベクトルを計算する。そして、この新たな候補値を、忘却ゲートf
tに古い候補値C
t-1をかけたものを加算する。
【数7】
【0042】
(忘却ゲート)
忘却ゲートf
tは、不要なデータを「記憶しない」ためのゲートであり、時刻歴波形が大きく変化する場合、一度メモリセルで記憶した内容を「記憶しない」処理をする。
【数8】
【0043】
(記憶領域)
記憶領域は、入力ゲートi
tと忘却ゲートf
tから算出されたものを、一時メモリに蓄えるための処理を行う。
【数9】
【0044】
(出力ゲート)
出力ゲートo
tは、出力を処理するためのものである。他のゲートと同様に入力をシグモイド処理した後で、セル状態をtanh関数で処理したものと掛け合わせる構造になっている。
【数10】
【0045】
しかし、この方法は、出力ゲートo
tで算出された値の再帰型になっておらず、出力の信頼性が確保されているとは限らない。
そこで、本特許は、
図5に示すように、出力ゲートo
tで算出されたものを再度入力ゲートi
tのtanhに戻すことで、予測の精度確保するネットワークを構築した。同時に記憶領域の再帰を忘却のみならず、入力にも適用することで地震動のようなランダム波の特徴量を記憶する(
図5の破線矢印を参照)。
【0046】
図5を参照して、LSTM(改良版)の各構成要素についてより具体的に説明する。
(入力ゲート)
入力ゲートi
tは、
図4に示す場合と同様に、新しい入力(x
t)を処理するものである。入力ゲートi
tは、h
t-1と新しいインプット(x
t)をそれぞれシグモイド関数σとtanh関数にかけ、XORすることで新たな候補値のベクトルを計算する。ただし、記憶領域に保管されている過去の計算結果C
t-1をネットワーク機能に付加することで、入力の特徴量(振幅や周期性など)を際立たせてある。
【数11】
【0047】
(忘却ゲート)
忘却ゲートf
tは、
図4に示す場合と同様に、不要なデータを「記憶しない」ためのゲートである。入力ゲートi
tに反して、この記憶領域に保管されている過去の計算結果C
t-1の中でも特徴量を記憶しない処理を付加することで、ノイズなどを削除する場合に適用可能と考えられるため、本処理が加えられている。
【数12】
【0048】
(記憶領域)
記憶領域は、入力ゲートi
tと忘却ゲートf
tから算出されたものを、一時メモリに蓄えるための処理を行う。
【数13】
【0049】
(出力ゲート)
出力ゲートo
tは、
図4に示す場合と同様に、出力を処理するためのものである。出力ゲートo
tの特徴は、記憶領域C
tの重みにより、現時刻の出力の振幅を計算する。その後、入力ゲートi
tと忘却ゲートf
tの特徴量から最適な出力を算出する。
【数14】
【0050】
図1の学習モデル記憶部10に示す応答挙動情報は、什器の挙動と時刻歴応答波形との関係を紐づけた情報である。応答挙動情報は、例えば、関数や人工知能(AI)として構築される。応答挙動情報は、例えば、決定木のLightGBM(Light Gradient Boosting Machine)手法を適用したものであってよく、地震の床応答に応じた什器の揺れを回帰式の平均2乗偏差で表したものであってよい。また、応答挙動情報は、例えば、時刻歴応答波形と什器の種類、位置、寸法に応じた什器の時刻毎の挙動との関係を学習したモデルであってよい。
【0051】
室内パース図は、室内のパース図である。室内パース図は、例えば室内モデルに視点を設定し、当該視点から見た地震発生中の様子を示したものであり、時系列で連続して作成されている。
【0052】
図1に示す制御部20は、学習済みモデル部(応答解析部21、床応答推定用モデル学習処理部22、応答挙動情報作成処理部23)と、被害推定本体部(推定用情報取得部24、室内什器推定部25、時刻歴応答波形予測部26、什器挙動推定部27など)を有する。なお、ここでは、各機能の概要を説明する。
【0053】
応答解析部21は、質点系モデルに対して応答解析を行う機能である。
床応答推定用モデル学習処理部22は、床応答推定用モデルを学習させる機能である。
応答挙動情報作成処理部23は、応答挙動情報を作成するための機能である。
推定用情報取得部24は、室内被害の推定に必要な情報を取得する機能である。
【0054】
室内什器推定部25は、室内画像に写る什器を認識し、什器の種類、位置および寸法を推定する機能である。
時刻歴応答波形予測部26は、地震発生時から第1時点までの時刻歴応答波形に基づいて、当該第1時点から第2時点までの時刻歴応答波形を予測する機能である。
什器挙動推定部27は、第1時点から第2時点までの前記什器の時刻毎の挙動を求める機能である。
【0055】
<実施形態に係る室内被害推定システムによる室内被害推定方法>
図6および
図7を参照して(適宜、
図1を参照)、実施形態に係る室内被害推定システム1による室内被害推定方法について説明する。実施形態に係る室内被害推定方法は、主に「学習済みモデルを構築する学習工程(S10)」と「被害推定本体部を構成する推定工程(S20)」とを有する。
図6は、学習工程に関する処理の流れを示したフローチャートの例示である。
図7は、推定工程に関する処理の流れを示したフローチャートの例示である。学習工程(S10)は、推定工程(S20)よりも前に実施される。
【0056】
(学習済みモデルを構築する学習工程(S10))
学習工程S10は、学習準備工程S11と、応答解析工程S12と、時刻歴応答波形学習工程S13と、応答挙動関連付け工程S14と、を主に有する。学習工程S10は、地震が発生する前に予め実施される。
【0057】
学習準備工程S11では、建物の質点系モデル、および、室内被害を推定する室内の室内モデルを作成する。室内モデルには、什器が配置されている。
応答解析工程S12では、質点系モデルに対して応答解析を行うことで各階の床の時刻歴応答波形を求める。
【0058】
時刻歴応答波形学習工程S13では、地震発生時から第1時点までの床の時刻歴応答波形を床応答推定用モデルに入力することで、前記第1時点から当該第1時点よりも後である第2時点までの床の時刻歴応答波形を出力するように床応答推定用モデルを学習させる。時刻歴応答波形学習工程S13では、単一の時刻歴応答波形(例えば、加速度波形)のみではなく、複数の時刻歴応答波形を読み込んで、それらを床応答推定用モデルに学習させる。
具体的には、床応答推定用モデルでは、入力データを、建物の位置、及び構造形態や階数を表す建物情報データと、過去の床応答(加速度と変位)の時刻歴波形データとし、前記入力データに対応する教師データとして、地震発生後の床応答の時刻歴波形データを学習データとして、LSTMネットワーク手法に基づいて深層学習モデルを構築する。
【0059】
応答挙動関連付け工程S14では、床の時刻歴応答波形および室内モデルを用いて地震シミュレーションを行い、前記地震シミュレーションの結果に基づいて応答挙動情報を作成する。応答挙動関連付け工程S14は、例えば、室内モデル什器推定工程S14aと、挙動判定工程S14bと、応答挙動情報作成工程S14cとを有する。
【0060】
室内モデル什器推定工程S14aでは、室内モデルに視点を設定し、当該視点から見た地震発生中の様子を示した室内パース図を時系列で連続して作成する。また、室内モデル什器推定工程S14aでは、什器認識用モデルを用いて室内パース図に写る什器を認識し、什器の種類、位置および寸法を推定する。室内モデル什器推定工程S14aでは、深度推定技術を用いて、遠近感を考慮した什器の寸法を計算してもよい。また、室内モデルを構成する什器の立体データに登録される情報を用いて什器を認識し、また、什器の種類、位置および寸法を特定してもよい。なお、過去に地震が発生したときに室内を撮影した画像を用いて応答挙動情報を作成することも可能である。その場合には、地震発生中の様子を撮影した室内画像を時系列で連続して準備し、室内画像に写る什器を認識し、什器の種類、位置および寸法を推定する。
【0061】
挙動判定工程S14bでは、Optical Flow技術を用いて、時系列で連続した室内パース図の前後関係の差分から什器の挙動を導き出す。ここで、Optical Flowとは、動画像のフレームレイト(サンプリング間隔)ごとに物体の動きを変位ベクトルで算出したものである。なお、室内モデルを構成する什器の立体データに登録される情報を用いる場合、地震シミュレーションの結果から什器の挙動を導き出すことが可能である。
【0062】
応答挙動情報作成工程S14cでは、時間の経過に伴う各々の什器の挙動と、床の時刻歴応答波形とに基づいて、応答挙動情報を作成する。例えば、床の時刻歴応答波形の時刻毎における値と、各々の什器の時刻毎における移動量とを求め、床がこれだけ動いたら什器がどれだけ動くなどの相関関係に基づいて応答挙動情報を作成する。応答挙動情報は、例えば、地震の床応答に応じた什器の揺れを回帰式の平均2乗偏差で表したものであってよい。また、時刻歴応答波形と什器の種類、位置、寸法を入力として、什器の時刻毎の挙動を出力とする応答挙動モデルを学習によって作成することも可能である。
【0063】
(被害推定本体部を構成する推定工程(S20))
推定工程S20は、推定準備工程S21と、推定用情報取得工程S22と、室内什器推定工程S23と、時刻歴応答波形予測工程S24と、什器挙動推定工程S25と、推定結果の表示工程S26と、を主に有する。推定工程S20は、地震発生の直後(地震動が継続している期間)に実施され、当該発生中の地震での数秒先の室内被害を推定する。
【0064】
推定準備工程S21では、什器認識用モデルと、床応答推定用モデルと、応答挙動情報とを準備する。推定工程S20で使用する什器認識用モデルは、学習工程S10で使用した什器認識用モデルと同じであってよい。床応答推定用モデルおよび応答挙動情報は、学習工程S10で学習や作成したものである。
【0065】
推定用情報取得工程S22では、地震発生時の室内を撮影装置3で撮影した室内画像を取得する。また、推定用情報取得工程S22では、推定を行う階の地震発生時から第1時点までの期間であり、センサ2で検出した時刻歴応答波形を取得する。
【0066】
室内什器推定工程S23では、什器認識用モデルを用いて、室内画像に写る什器を認識し、什器の種類、位置および寸法を推定する。室内什器推定工程S23では、深度推定技術を用いて、遠近感を考慮した什器の寸法を計算してもよい。
【0067】
時刻歴応答波形予測工程S24では、地震発生時から第1時点までの特定階の床の時刻歴応答波形を学習済みの床応答推定用モデルに入力することによって、当該第1時点から第2時点までの特定階の床の時刻歴応答波形を予測する。
【0068】
什器挙動推定工程S25では、例えば、応答挙動情報と、室内の推定した什器の種類、位置および寸法と、第1時点から第2時点までの予測した時刻歴応答波形とに基づいて、第1時点から第2時点までの什器の時刻毎の挙動を求める。
具体的は、什器挙動推定部27では、入力データを、什器の位置、及び3次元形状を表す什器情報データと、地震発生前後の什器を含む室内被害状況を表す室内画像データとし、前記入力データに対応する教師データとして、地震発生後の什器の挙動を含む室内被害状況データを学習データとして、畳み込みニューラルネットワークに基づいて深層学習モデルを構築する。
【0069】
什器挙動推定工程S25では、第1時点から第2時点までの予測した特定階の床の時刻歴応答波形と、什器単体での時刻毎の挙動とを用いて合成スペクトルを作成する。さらに、合成スペクトルに対して逆フーリエ変換を行い、時刻歴応答波形の影響を考慮した什器の周期特性を算出することで什器の足下のロック対策にも活用できる。具体的には、揺れやすさの周期特性として、地震発生時の建物において、建物内に設置される什器の揺れ方、または什器の挙動がどのような周期の地震動に対して敏感であるか算定する。
【0070】
また、什器挙動推定工程S25では、時刻歴応答波形の加速度に什器の質量を乗じた荷重が床と什器との間に作用する動摩擦力を上回った場合に、什器単体での挙動に動摩擦力による滑り量分を付加して、什器の移動量を増大するようにしてもよい。
【0071】
推定結果の表示工程S26では、第1時点から第2時点までの什器の時刻毎の挙動を推定結果出力部30に表示させる。推定結果の表示方法は特に限定されない。推定結果の表示工程S26では、什器の配置および第1時点から第2時点までの什器の時刻毎の挙動に対応した室内パース図を推定結果出力部30に表示させてもよい。その場合、例えば、推定準備工程S21において、什器の配置および挙動に対応付けて、室内パース図を学習モデル記憶部10に記憶させておき、推定結果に応じた室内パース図を学習モデル記憶部10から取得して表示させる。
【0072】
以上のように、本実施形態に係る室内被害推定システム1によれば、床の動きとの相互作用を考慮しているので、様々な地震動に対する什器の動きの予測が可能である。そのため、地震動に基づく室内被害を精度よく推定することができる。
また、標準的なRNNを適用した場合では直近0.1秒先の予測が限界であったが、
図5に示すLSTMのネットワーク構造の改良版を用いることで、10秒先の予測が可能になっている。
【0073】
本実施形態に係る室内被害推定システム1の効果を検証するために、実際のデータを用いた被害の予測試験を行ったので説明する。
予測試験の流れを
図8に示す。
図8は、実際のデータを用いた被害の予測試験の流れを示したフローチャートである。
【0074】
(1)室内画像に写る什器(机・椅子や書棚など)の種類を推定するCNNの構築。
(2)什器の位置・大きさを推定するCNNを構築。なお、
図9は、室内モデルの例示であり、
図10は、インスタンス・セグメンテーションの処理による結果のイメージである。
【0075】
(3)動きの前後の画像の差分から什器の挙動(移動量)を把握するOpticalFlowを適用。なお、
図11は、OpticalFlowにおけるIDの付加処理のイメージである。
図12は、OpticalFlowを適用した処理のイメージである。
(4)什器のサイズや移動量は、画像上ではこれらの値が同じであっても、実際のサイズや移動量が異なることがあるため、単眼撮影装置でも遠近差を補正した深度推定AIを適用して算出する。
【0076】
(5)読み込みを行う床の時刻歴応答波形は、以下の条件に基づいて算出した。入力地震動としては、東北地方を震源とする地震による宮城県、茨城県、東京都の某所3地点、および、胆振地方を震源とする地震による北海道の某所3地点のものを用いた。対象とする建物としては、高層建物(20層)、低層建物(4層)を想定し、高層建物の1階、5階、10階、15階、20階、および、低層建物の各階の床応答を出力とした。
【0077】
(6)時刻歴波形時刻をダウンサンプリングした。今回の処理は、画像のサンプリングレートが通常30fps(30Hzと同等)、(5)の解析のサンプリング時間が100Hzであるため、最大公約数を適用して5Hzにダウンサンプリングをした。ただし、画像が今後30Hzではなく、100Hzでも技術上取得することが可能であれば、ダウンサンプリングすることなく100Hzでも可能である。
【0078】
(7)床の時刻歴応答波形に時刻tを設定し、それ以前の数秒前tbとそれ以降の数秒後taを決定する。例として、数秒前をtb=5秒間、数秒後をta=10秒間とした。
(8)再帰型ネットワーク(RNN)を拡張したLSTM(Long Short-Team Memory)により、時刻歴波形のt秒からそれ以降の数秒後taの波形を予測する(
図5参照)。
床の時刻歴応答波形の予測結果の一例を
図13に示す。
図13に示すグラフの横軸は、時間(STEP数)であり、縦軸は、加速度である。
図13では、実測値を薄い細線で示しており、予測値を濃い太線で示している。
【0079】
(9)CNNモデルとRNNモデルの2つの学習モデルを1つに決定する際に、決定木のLightGBM手法を適用した。各什器の時刻断面毎の状況を2つの学習モデルにより、地震の床応答に応じた什器の揺れを回帰式の平均2乗偏差で予測する。
地震による什器(机、本棚、椅子)の移動量予測の結果の一例を
図14に示す。
図14に示すグラフの横軸は、時間であり、縦軸は、移動量の絶対値である。
図14では、解析値を薄い細線で示しており、機械学習による推定値を濃い太線で示している。
【0080】
実際のデータを用いた被害の予測試験の結果、室内被害推定システム1によれば、地震発生時での建物内に設置される什器の揺れ方を表す周期特性や波形の形状が再現可能であることが確認できた(
図13および
図14参照)。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を変えない範囲で実施することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 室内被害推定システム
2 センサ
3 撮影装置(カメラ、ビデオ)
4 室内被害推定装置
10 学習モデル記憶部
20 制御部
21 応答解析部
22 床応答推定用モデル学習処理部
23 応答挙動情報作成処理部
24 推定用情報取得部
25 室内什器推定部
26 時刻歴応答波形予測部
27 什器挙動推定部
30 推定結果出力部