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特開2025-9961電極複合体及びその製造方法、ポリマー組成物、電池
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  • 特開-電極複合体及びその製造方法、ポリマー組成物、電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009961
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】電極複合体及びその製造方法、ポリマー組成物、電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20250109BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20250109BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20250109BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20250109BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20250109BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20250109BHJP
   H01M 50/423 20210101ALI20250109BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20250109BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/13
H01M4/139
H01M50/46
H01M50/489
H01M50/491
H01M50/423
H01M10/058
H01M4/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024102611
(22)【出願日】2024-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2023105669
(32)【優先日】2023-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】榮村 弘希
(72)【発明者】
【氏名】島津 綾子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良将
(72)【発明者】
【氏名】沢本 敦司
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H021AA06
5H021BB11
5H021EE07
5H021HH00
5H021HH01
5H021HH02
5H021HH03
5H021HH06
5H021HH07
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK06
5H029AK07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL13
5H029AM03
5H029AM07
5H029BJ13
5H029CJ22
5H029DJ04
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ03
5H029HJ04
5H029HJ09
5H029HJ10
5H029HJ12
5H029HJ13
5H029HJ14
5H029HJ20
5H050AA07
5H050BA09
5H050BA13
5H050BA14
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050BA20
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA12
5H050CA14
5H050CB12
5H050CB13
5H050DA18
5H050DA19
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA03
5H050HA04
5H050HA09
5H050HA10
5H050HA13
5H050HA14
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】金属Li負極を用いた電池の高寿命化する電極複合体及びその製造方法、ポリマー組成物、電池を提供する。
【解決手段】 本発明は、
ポリマー層と前記ポリマー層の少なくとも片面に電極を近接して有する電極複合体であって、前記電極が金属Liまたは集電体を含み、前記ポリマー層を構成するポリマーが、主鎖に芳香環およびヘテロ原子を含んでおり、前記ポリマー層のイオン伝導度が1.0×10-6S/cm以上1.0×10S/cm以下であり、断面SEMで観察される前記ポリマー層の空孔率が0%以上10%以下であり、前記ポリマー層の表面の算術平均粗さRaが0μm以上1.0μm以下である電極複合体に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー層と前記ポリマー層の少なくとも片面に電極を近接して有する電極複合体であって、
前記電極が金属Liまたは集電体を含み、
前記ポリマー層を構成するポリマーが、主鎖に芳香環およびヘテロ原子を含んでおり、
前記ポリマー層のイオン伝導度が1.0×10-6S/cm以上1.0×10S/cm以下であり、断面SEMで観察される前記ポリマー層の空孔率が0%以上10%以下であり、前記ポリマー層の表面の算術平均粗さRaが0μm以上1.0μm以下である電極複合体。
【請求項2】
X線光電子分光法(XPS)分析により測定される、Li原子比率およびF原子比率がともに5%以上50%以下である領域が、前記ポリマー層の前記電極を近接して有する面の表層に存在するか、前記ポリマー層と前記電極間に存在する、請求項1記載の電極複合体。
【請求項3】
前記ポリマー層中の溶媒含有量が0重量%以上60重量%以下である請求項1記載の電極複合体。
【請求項4】
前記溶媒がN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホランのいずれか1種以上を含む請求項3記載の電極複合体。
【請求項5】
前記ポリマーが下記化学式の構造を有する芳香族ポリアミドである請求項1記載の電極複合体。
【化1】
ArおよびArは主鎖中の一部に芳香環を含んだ構造である。ArとArは同一の構造であってもよく、異なる構造であってもよい。ArおよびArは例えば複数の芳香環がエーテル結合などにより結合していてもよく、芳香環と結合した非芳香族が主鎖中に含まれていてもよい。
【請求項6】
前記芳香族ポリアミドが下記化学式の構造を有する請求項5記載の電極複合体。
【化2】
~Rは、それぞれC、H、O、N、Si、S、ハロゲン原子の1種以上で構成される官能基。
【請求項7】
前記ポリマーがチオウレア基を有するポリマーである請求項1記載の電極複合体。
【請求項8】
前記ポリマー層の厚みが0.1μm以上50.0μm以下である請求項1記載の電極複合体。
【請求項9】
前記ポリマー層のリチウム平均原子数比が0.005以上1.0以下である請求項1記載の電極複合体。
【請求項10】
主鎖が芳香族およびヘテロ原子を含むポリマーと、溶媒とを有するポリマー組成物。
【請求項11】
フッ素発生剤を含む請求項10記載のポリマー組成物。
【請求項12】
前記ポリマーがチオウレア基を有する請求項10記載のポリマー組成物。
【請求項13】
前記溶媒が、沸点が0℃以上150℃未満である溶媒を含む請求項10記載のポリマー組成物。
【請求項14】
前記溶媒が、沸点が0℃以上150℃未満である溶媒Aと、沸点が150℃以上300℃以下である溶媒Bとを含む請求項10記載のポリマー組成物。
【請求項15】
前記溶媒Aと前記溶媒Bが共沸組成である請求項14記載のポリマー組成物。
【請求項16】
前記ポリマーが芳香族ポリアミドである請求項10記載のポリマー組成物。
【請求項17】
対数粘度が1.5dl/g以上10dl/g以下である請求項10記載のポリマー組成物。
【請求項18】
前記ポリマーの重量比率が0.1重量%以上13.0重量%以下である請求項10記載のポリマー組成物。
【請求項19】
水分率が0ppm以上200ppm未満である請求項10記載のポリマー組成物。
【請求項20】
請求項10記載のポリマー組成物を電極に塗布する工程を含む電極複合体の製造方法。
【請求項21】
請求項1記載の電極複合体を含む電池。
【請求項22】
請求項21記載の電池を含む乗り物、無人輸送機、電子機器または蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極複合体及びその製造方法、ポリマー組成物、電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用電子機器の小型化、高機能化が進んでいる。これに伴い、その電源である二次電池の高エネルギー密度化が要求されている。二次電池の負極に金属Liを適用できれば、現行リチウムイオン電池に比べて大幅な高容量化が期待できる。
【0003】
しかし、金属Liを負極とする電池の実用化には、多くの課題が残されている。金属Liは、反応性が高いため、電池製造工程で水、酸素及び窒素と反応し、電極性能のバラツキ等の原因となる。また、金属負極は充放電の繰り返しにより、金属デンドライトの形成や高い反応性に由来する電解液の分解が問題もある。デンドライトが成長し正極まで到達すると、短絡により発火などの危険がある。
【0004】
このような課題に対して、特許文献1ではリチウムメタル層及びその一面に付着した多孔性ポリマー層を含むことを特徴とする電極複合体が開示されている。特許文献2では、イオン伝導性を有する耐熱性樹脂を含む、全固体二次電池用の短絡防止層が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-134403号公報
【特許文献2】特開2021-163622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のポリマー層は、多孔性のため、デンドライトを抑制する機能を有さない。特許文献2のポリマー層は、イオン伝導度が低く、実用的な高い電流密度で使用することはできない。
【0007】
そこで本発明では、金属Li負極を用いた電池を高寿命化する電極複合体及びその製造方法、ポリマー組成物、電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の[I]~[XXII]を包含する。
[I] ポリマー層と前記ポリマー層の少なくとも片面に電極を近接して有する電極複合体であって、前記電極が金属Liまたは集電体を含み、前記ポリマー層を構成するポリマーが、主鎖に芳香環およびヘテロ原子を含んでおり、前記ポリマー層のイオン伝導度が1.0×10-6S/cm以上1.0×10S/cm以下であり、断面SEMで観察される前記ポリマー層の空孔率が0%以上10%以下であり、前記ポリマー層の表面の算術平均粗さRaが0μm以上1.0μm以下である電極複合体。
[II]X線光電子分光法(XPS)分析により測定される、Li原子比率およびF原子比率がともに5%以上50%以下である領域が、前記ポリマー層の前記電極を近接して有する面の表層に存在するか、前記ポリマー層と前記電極間に存在する、[I]記載の電極複合体。
[III]前記ポリマー層中の溶媒含有量が0重量%以上60重量%以下である[I]または[II]記載の電極複合体。
[IV]前記溶媒がN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホランのいずれか1種以上を含む[III]記載の電極複合体。
[V]前記ポリマーが下記化学式の構造を有する芳香族ポリアミドである[I]~[IV]いずれか記載の電極複合体。
【0009】
【化1】
【0010】
ArおよびArは主鎖中の一部に芳香環を含んだ構造である。ArとArは同一の構造であってもよく、異なる構造であってもよい。ArおよびArは例えば複数の芳香環がエーテル結合などにより結合していてもよく、芳香環と結合した非芳香族が主鎖中に含まれていてもよい。
[VI]前記芳香族ポリアミドが下記化学式の構造を有する[V]記載の電極複合体。
【0011】
【化2】
【0012】
~Rは、それぞれC、H、O、N、Si、S、ハロゲン原子の1種以上で構成される官能基。
[VII]前記ポリマーがチオウレア基を有するポリマーである[I]~[VI]いずれか記載の電極複合体。
[VIII]前記ポリマー層の厚みが0.1μm以上50.0μm以下である[I]~[VII]いずれか記載の電極複合体。
[IX]前記ポリマー層のリチウム平均原子数比が0.005以上1.0以下である[I]~[VIII]いずれか記載の電極複合体。
[X]主鎖が芳香族およびヘテロ原子を含むポリマーと、溶媒とを有するポリマー組成物。
[XI]フッ素発生剤を含む[X]記載のポリマー組成物。
[XII]前記ポリマーがチオウレア基を有する[X]または[XI]記載のポリマー組成物。
[XIII]前記溶媒が、沸点が0℃以上150℃未満である溶媒を含む[X]~[XII]いずれか記載のポリマー組成物。
[XIV] 前記溶媒が、沸点が0℃以上150℃未満である溶媒Aと、沸点が150℃以上300℃以下である溶媒Bとを含む[X]~[XIII]いずれか記載のポリマー組成物。
[XV]前記溶媒Aと前記溶媒Bが共沸組成である[XIV]記載のポリマー組成物。
[XVI]前記ポリマーが芳香族ポリアミドである[X]~[XV]いずれか記載のポリマー組成物。
[XVII]対数粘度が1.5dl/g以上10dl/g以下である[X]~[XVI]いずれか記載のポリマー組成物。
[XVIII]前記ポリマーの重量比率が0.1重量%以上13.0重量%以下である[X]~[XVII]いずれか記載のポリマー組成物。
[XIX]水分率が0ppm以上200ppm未満である[X]~[XVIII]いずれか記載のポリマー組成物。
[XX][X]~[XIX]いずれか記載のポリマー組成物を電極に塗布する工程を含む電極複合体の製造方法。
[XXI][I]~[IX]いずれか記載の電極複合体を含む電池。
[XXII][XXI]記載の電池を含む乗り物、無人輸送機、電子機器または蓄電装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属リチウム表面と大気または電解液との反応や充放電過程でのデンドライトの成長を抑制することで安全かつ高いエネルギー密度の二次電池用電極として利用可能な電極複合体を提供できる。また、該電極複合体を電極とすると同時に、セパレータとして用いることで、安全かつ高いエネルギー密度を有する電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例16のX線光電子分光法(XPS)分析の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細を説明する。
【0016】
本発明の実施形態に係る電極複合体は、ポリマー層と前記ポリマー層の少なくとも片面に電極を近接して有する電極複合体であって、前記電極が金属Liまたは集電体を含み、前記ポリマー層を構成するポリマーが、主鎖に芳香環およびヘテロ原子を含んでおり、前記ポリマー層のイオン伝導度が1.0×10-6S/cm以上1.0×10S/cm以下であり、断面走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で観察される前記ポリマー層の空孔率が0%以上10%以下であり、前記ポリマー層の表面の算術平均粗さRaが0μm以上1.0μm以下である電極複合体である。
【0017】
本発明の実施形態に係るポリマー組成物は、主鎖が芳香族およびヘテロ原子を含むポリマーと、溶媒とを有するポリマー組成物である。
【0018】
本発明の実施形態において、電極複合体とは、電池の構成要素である電極として使用することができる。
【0019】
本発明の実施形態に係る電極複合体は二次電池用正極または負極として好適に用いられるが、金属Liを含むことから、負極として用いることがより好ましい。また、集電体をふくむ電極複合体もアノードレス電極として用いることできるため、負極として用いることが好ましい。本発明の実施形態において、二次電池とは、充電と放電を2回以上繰り返して行うことのできる化学電池の総称である。二次電池は正極、負極、及びこれらが短絡しないよう電気的に分け隔てるセパレータを最低限の構成要素として成立する。
【0020】
本発明において、正極はどのような材料であってもよい。具体的な正極材料としては、特に限定されないが、例えばニッケル、リチウム、コバルト及びマンガンなどの金属酸化物や金属硫化物などの無機物質、グラファイト、カーボン及びCNTなどの炭素材料並びにこの炭素材料に金属を担持させたもの、空気中の酸素を正極活物質とする空気極などが挙げられる。またこれらの正極材料は集電体と組み合わせて使用してもよい。本発明において、負極材料は特に限定されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛などの金属単体、これらの金属を担持したカーボン材料や無機物質などが挙げられる。また負極材料も集電体と組み合わせて使用することができる。セパレータは、特に限定されないが、例えば、微多孔膜、ゲル電解質、固体電解質などが挙げられる。また、本発明の本発明の実施形態に係る電極複合体中のポリマー層は、セパレータとして用いることができ、上記のセパレータ部材と併用しても良く、上記のセパレータ部材を省略することも可能である。
【0021】
また本発明の実施形態における二次電池は正極と負極、セパレータ以外に電解質や固体電解質を含んでいてもよい。電解質は溶媒に溶解することで特定のイオンを伝導する物質の総称である。溶媒としては有機溶媒、水系溶媒など任意のものを必要に応じて選択できる。固体電解質は溶媒を含まずともイオンを伝導することができる電解質である。このような固体電解質としてはゲル電解質、無機系固体電解質などが例示できる。
【0022】
さらに本発明の実施形態における二次電池は正極と負極、セパレータ、電解質以外にも電池の安定動作を目的に任意の添加物を含んでいてもよい。
【0023】
このような二次電池を具体的に例示するならば、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、ニッケル鉄電池、ニッケル亜鉛電池、リチウム金属電池、リチウム金属空気電池、アルミニウム金属空気電池、ナトリウム硫黄電池、亜鉛空気電池、ナトリウム金属空気電池、リチウム硫黄電池などが挙げられる。これらの電池の中でも重量エネルギー密度に優れる観点から負極にリチウム、ナトリウム、アルミニウム、亜鉛等の金属単体を用いたものが好ましく、リチウム金属を用いる場合が最も好ましい。さらに、重量エネルギー密度を高めることができる点で正極に空気極を用いたリチウム金属空気電池、ナトリウム金属空気電池、亜鉛空気電池がより好ましい。
【0024】
リチウムイオン電池において好ましく使用される電解質を例示するならば、LiPF、LiAsF、LiClO、LiBF、LiBr、リチウムビス(オキサレート)ボラート、リチウムジフルオロ(オキサレート)ボラート、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド等のリチウム塩が挙げられる。これらのリチウム塩は単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0025】
これらの電解質を溶解する溶媒の具体例としてはジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)などのカーボネート系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)やスルホランなどの含硫黄溶媒、γ-ブチルラクトンなどのラクトン、テトラヒドロフラン(THF)やジオキサン、1,3-ジオキソラン(DOL)などのエーテル系溶媒、水やメタノールなどの水系溶媒などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、電位安定性や粘度を調整する目的で2種類以上を適宜混合して使用してもよい。また、セパレータを介して正極側と負極側で異なる電解液やその混合物を使用してもよい。
【0026】
本発明の実施形態における電極複合体は、ポリマー層と前記ポリマー層の少なくとも片面に電極を近接して有する。ここでの、近接して有するとは、本発明の正極と負極の少なくとも一方とイオン伝導ポリマー膜とが近接して有することが好ましい。本発明のポリマー層は、各電極の少なくとも一方に近接することで、電池製造工程中及び電池使用時の電極表面の劣化、電池使用時のデンドライト発生による短絡や発火を抑制できる。ここで、近接して有するとは1μm以内に有することを表し、直接に接しても良く、その他の層を介して有していてもよい。その他の層の具体例としては、電極表面での反応で形成するSEI層(Solid Electrolyte Interphase)、無機物層などが挙げられる。
【0027】
本発明の電極複合体は、後述する条件でX線光電子分光法(XPS)分析により測定される、Li原子比率およびF原子比率がともに5%以上50%以下である領域が、前記ポリマー層の前記電極を近接して有する面の表層に存在するか、前記ポリマー層と前記電極間に存在することが好ましい。前記ポリマー層の前記電極を近接して有する面の表層か、前記ポリマー層と前記電極間にLi原子比率およびF原子比率が上記範囲内の領域を有することで、イオン伝導性を有しながら、Liデンドライトの成長を抑制する効果を向上させることが可能である。Li原子比率およびF原子比率は、XPSにより各領域で検出される総原子数に対するLi原子やF原子の個数比率である。Li原子およびF原子は、イオン化していないLi金属原子やC-F結合などの共有結合したF原子を含まない。なお、「前記ポリマー層の前記電極を近接して有する面の表層に存在する」とは、後述するXPS分析において、前記ポリマー層の前記電極を近接して有する面から深さ(Depth)が300nm以内の領域に存在することを表す。Li原子比率およびF原子比率がともに5%以上50%以下である領域は、LiFを多く存在すると考えられ、LiFが多く存在することで、高イオン伝導性でありながら、デントライトの成長を抑制することで電池寿命や性能を向上させていると考えている。
【0028】
また、本発明の電極複合体を電池の電極として用いる場合、電極複合体に有するポリマー層は、もう一方の電極側に近い面に有することが好ましい。電極複合体を用いた電極のもう一方の電極側にポリマー層を配することにより、電池使用時のデンドライト発生による短絡や発火をより抑制できる。また、ポリマー層は、電極複合体を用いた電極のもう一方の電極側に近い面にのみ有することが好ましい。ポリマー層が電極複合体を用いた電極のもう一方の電極側に近い面にのみ有することで、ポリマーを有さない面の電子伝導性が良好となり、作製した電池の容量が向上する。
【0029】
本発明の実施形態における電極複合体は、ポリマー層を有し、前記ポリマー層を構成するポリマーが、主鎖に芳香環およびヘテロ原子を含んでいる。構成するポリマーとしては、二次電池に電解液を用いる場合、その電解液で溶解しない限りにおいて既知のものを必要に応じて用いることができる。具体的に例示すると、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエステル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド(ポリアミド酸を含む)、ポリアリーレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトンやポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンエーテルケトンなどのポリエーテル、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリメチルメタクリレートをはじめとするビニル系ポリマー、およびこれらのアロイ、共重合体などが挙げられる。本発明の実施形態に係る電極複合体に含まれるポリマー層は、これらの中でも耐熱性に優れる観点で、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリアリーレンエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアリーレンエーテルケトン及びこれらの共重合体からなる群から選ばれる1以上で構成されることが好ましい。成形性に優れる点で、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホンがより好ましく、これらの中でも耐熱性耐溶剤性、に優れる観点で芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミドが特に好ましく、その中でも高強度である点で芳香族ポリアミド(アラミド)が最も好ましい。これらのポリマーは単独で用いられても、複数組み合わせて用いられてもよい。例えば、異なる種類のポリマーが共重合されていてもよく、膜中でアロイとなっていてもよい。
【0030】
本発明の実施形態において好適に用いることができるポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドとして、以下の化学式(1)から(3)のいずれかの構造を有するポリマーを含むことが好ましい。芳香族ポリアミドとしては次の化学式(1)、芳香族ポリイミドとしては次の化学式(2)、芳香族ポリアミドイミドとしては次の化学式(3)で表される繰り返し単位を有するものを挙げることができる。
【0031】
【化3】
【0032】
【化4】
【0033】
【化5】
【0034】
ここで、化学式(1)~(3)中のArおよびArは主鎖中の一部に芳香環を含んだ構造である。ArとArは同一の構造であってもよく、異なる構造であってもよい。ArおよびArは例えば複数の芳香環がエーテル結合などにより結合していてもよく、芳香環と結合した非芳香族が主鎖中に含まれていてもよい。なお、ここで芳香環とは、ベンゼンをはじめとする環状不飽和有機化合物である芳香族炭化水素、または環構造中に炭素以外の元素を含んだ複素芳香族化合物を含んだ総称である。
【0035】
ArおよびArに含まれる芳香環上で主鎖を構成する結合手はメタ配向、パラ配向、オルト配向のいずれであってもよい。さらに、ArおよびArに含まれる芳香環上の水素原子の一部が任意の官能基で置換されていてもよい。このような官能基の例としては、水酸基、エーテル基、チオエーテル基、カルボキシ基、ホスフィン基、スルホン基などが挙げられる。
【0036】
本発明の電極複合体に含まれるポリマーは、前記芳香族ポリアミドであることが好ましく、化学式(1)の-CO-Ar-CO-が下記化学式の構造を有することが好ましい。下記構造を有することでポリマー鎖が広がった剛直構造をとなり、耐デンドライト性が向上する。また、本発明の電極複合体に含まれるポリマーは、芳香族ポリアミド以外に、芳香族ポリアミドイミド、芳香族ポリイミド、半芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミドイミド、半芳香族ポリイミド、脂肪族ポリアミド、脂肪族ポリアミドイミド、脂肪族ポリイミドの構造を有しても良い。
【0037】
【化6】
【0038】
~Rは、それぞれC、H、O、N、Si、S、ハロゲン原子の1種以上で構成される官能基。
【0039】
芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミドイミド、芳香族ポリイミドを構成する芳香族ジアミンの具体例としては、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、オルトフェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジトリクロロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、2-クロロ-1,4-フェニレンジアミン、2-トリフルオロメチル-1,4-フェニレンジアミン、5-トリフルオロメチル-1,3-フェニレンジアミン、4,’-オキシビス(3-トリフルオロメチル)アニリン、1,4-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、1,5’-ナフタレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
また、非芳香族ジアミンの具体例としては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
本発明の実施形態における電極複合体は、ポリマー層を有し、前記ポリマー層を構成するポリマーが、チオカルボニル基、チオウレア基、チオアミド基およびチオウレタン基のうち少なくとも1種を有することが好ましく、チオウレア基が特に好ましい。上記官能基を有することで、ポリマーとアニオンの相互作用が大きくなり、カチオン輸率が向上する。カチオン輸率の向上により電池作動中の分解物が減少し、電池寿命が向上する。特に、前記ポリマー層を構成するポリマーとしては、主鎖上に芳香族環を有するポリマーが好適に使用できる。主鎖上に芳香族環を有するポリマーとしては、例えば芳香族ポリチオケトン、芳香族ポリチオウレア、芳香族ポリチオアミド、芳香族ポリチオウレタン、半芳香族ポリチオケトン、半芳香族ポリチオウレア、半芳香族ポリチオアミド、半芳香族ポリチオウレタンが挙げられる。また、複数のポリマーのブレンドとしてもよい。中でも薄膜化した際に高強度を維持しやすいことから、芳香族ポリチオウレア、芳香族ポリチオアミド、芳香族ポリチオウレタン、半芳香族ポリチオウレアがより好ましく、芳香族ポリチオウレアが特に好ましい。すなわち、本発明の実施形態に係るイオン伝導ポリマーが、芳香族ポリチオウレアを含むことが好ましい。
【0042】
本発明において好適に用いることができる芳香族ポリチオウレア、半芳香族ポリチオウレアとしては、下記化学式(7)、化学式(8)および/または化学式(9)で表される繰り返し単位を有するものを挙げられる。化学式(7)中のAr、化学式(8)中のAr1、及びAr2、化学式(9)中のAr1は芳香族基を含む基であり、それぞれ単一の基であってもよいし、複数の基で、多成分の共重合体であってもよい。化学式(9)中のRは、芳香環を含まない非芳香族構造である。上記芳香族ポリチオウレア、半芳香族ポリチオウレアを用いることで、電池作動に寄与するイオン以外の物資の透過阻止性能を向上する。下記化学式(7)、化学式(8)および/または化学式(9)の中で、化学式(7)、(8)がより好ましい。また、芳香環上で主鎖を構成する結合手はメタ配向、パラ配向のいずれであってもよい。さらに、芳香環上の水素原子の一部が任意の基で置換されていてもよい。
【0043】
【化7】
【0044】
【化8】
【0045】
【化9】
【0046】
芳香族ポリチオウレア、芳香族ポリチオアミド、芳香族ポリチオウレタンを構成する芳香族ジアミンの具体例としては、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、オルトフェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジトリクロロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、2-クロロ-1,4-フェニレンジアミン、2-トリフルオロメチル-1,4-フェニレンジアミン、5-トリフルオロメチル-1,3-フェニレンジアミン、4,’-オキシビス(3-トリフルオロメチル)アニリン、1,4-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、1,5’-ナフタレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
また、非芳香族ジアミンの具体例としては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
本発明の実施形態に係る電極複合体のポリマー層の透気度は1000秒/100cc以上であることが好ましい。透気度は、より好ましくは5000秒/100cc以上、さらに好ましくは10000秒/100cc以上である。透気度が1000秒/100ccより小さいと、ポリマーイオン伝導膜が物理的な貫通孔を有することが多く、デンドライトなどの貫入を遮断する効果が得られない場合があることに加え、液透過を抑制することが困難となりやすい。透気度が1000秒/100cc以上であることで、デンドライトなどの貫入を遮断しやすく、また、液透過を抑制しやすく好ましい。透気度をかかる範囲とするためには、後述する製造方法でポリマー膜を形成することが好ましい。
【0049】
本発明の実施形態に係るポリマー層のイオン伝導度は、1.0×10-6S/cm以上1.0×10S/cm以下であることが好ましい。ここでいうイオン伝導度とは、25℃環境下において後述する測定法で計測した値をさす。イオン伝導度は1.5×10-5S/cm以上であることが好ましく、5.0×10-5S/cm以上であることがより好ましく、1.0×10-4S/cm以上であることがより好ましく、1.4×10-4S/cm以上であることがより好ましく、2.0×10-4S/cm以上であることがより好ましく、5.0×10-4S/cm以上であることがより好ましく、1.0×10-3S/cm以上であることがさらに好ましい。イオン伝導度を上記範囲内とすることで、電池内部でのイオン透過性が高く、優れた出力特性やサイクル特性が得られる。イオン伝導度が1.0×10-6S/cm未満の場合、イオン透過性が低く、出力特性の低下が起き、繰り返し使用した際に容量劣化が大きくなるおそれがある。イオン伝導度は大きい程好ましく、その上限は特に限定されないが、1.0×10S/cm以下であることが一般的である。イオン伝導度をかかる範囲とするためには、後述するポリマーを用いてポリマー層を形成すること、ポリマー層にLi塩を添加することなどが好ましい方法として挙げられる。
【0050】
本発明の実施形態におけるポリマー層は断面SEMで観察される空孔率が10%以下である。空孔率が小さいほど、空孔内部での金属Liの析出を抑制することができ、電池の短絡を防止することができる。5%以下であることが好ましく2%以下であることがより好ましく、1%以下が特に好ましい。空孔率の下限は定義から、0%である。空孔率を少なくする方法は特に限定されないが、例えば製膜時に用いるポリマーを好ましい構造、対数粘度とすることや、製膜時の乾燥条件を後述の好ましい方法とすることが挙げられる。断面SEMの測定方法は後述する。
【0051】
さらに本発明の実施形態におけるポリマー層の表面の算術平均粗さRaが1.0μm以下である。表面粗さが小さいことで、金属Liの析出が均一となり、電池の短絡を防止することができる。表面粗さはより好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.1μm以下、よりさらに好ましくは0.05μm以下である。下限はその定義から0μmである。表面粗さを比較的小さくする方法は特に限定されないが、例えば、ポリマー組成物中の溶媒の組成、乾燥条件を後述の好ましい組成、方法とすることが挙げられる。
【0052】
さらに本発明の実施形態における電極複合体は、ポリマー層中の溶媒含有量が0重量%以上60.0重量%以下であることが好ましく、0重量%以上30.0重量%以下がより好ましく、0重量%以上20.0重量%以下がさらに好ましく、0重量%以上10.0重量%以下がさらに好ましく、0重量%以上5.0重量%以下がさらに好ましく。上記範囲内とすることで、ポリマー層が良好なイオン伝導性を示しながら、金属Li表面での溶媒の分解を抑制することができる。
【0053】
さらに本発明の実施形態における電極複合体は、ポリマー層中の溶媒含有量が0重量%以上5.0重量%以下であることがより好ましい。溶媒含有量がさらに小さいことで、金属Li表面での溶媒の分解を抑制することができ、電池寿命が向上する。3.0重量%以下であることがより好ましく、1.0重量%以下であることが特に好ましい。溶媒含有量の下限は定義から、0重量%であり、0.1重量%以上であることが好ましい。溶媒含有量は、後述する方法において、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)の重量減少率から算出することができる。溶媒含有量を小さくする方法は特に限定されないが、例えば、製膜時の溶液組成、乾燥条件を後述の好ましい組成、方法とすることでポリマー層中に残存する溶媒の量を低下させる方法が挙げられる。
【0054】
さらに本発明の実施形態における電極複合体中のポリマー層中の溶媒が、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホランのいずれか1種以上を含む溶媒であることが好ましい。電極複合体中に含まれる溶媒は、NMR測定から同定することができる。上述の溶媒を電極複合体に含ませる方法は特に限定されないが、例えば、製膜時の溶液組成に上述の溶媒を添加することが挙げられる。
【0055】
さらに本発明の実施形態におけるポリマー層の厚みが0.1μm以上50.0μm以下であることが好ましく、0.2μm以上50.0μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上50.0μm以下であることがより好ましく、0.5μm以上50.0μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上50.0μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上10μm以下がより好ましく、1.0μm以上5.0μm以下がより好ましく、0.3μm以上3.0μm以下が特に好ましい。ポリマー層の厚みを上記範囲内とすることで、電極複合体のイオン伝導の抵抗を小さくしながら、充放電時のデンドライトの析出を抑制することができ、電池の放電容量と寿命を両立することができる。ポリマー層の厚みを上記範囲内とするは特に限定されないが、例えば、製膜時の溶液中に含まれるポリマーの濃度を上述の好ましい条件とすることや塗工厚みを上述の好ましい条件とすることが挙げられる。
【0056】
さらに本発明の実施形態におけるポリマー層のリチウム平均原子数比は0.005以上1.0以下であることが好ましく、0.01以上0.6以下であることがより好ましく、0.01以上0.5以下がさらに好ましく、0.02以上0.5以下がさらに好ましく、0.05以上0.5以下がさらに好ましく、0.07以上0.5以下が特に好ましい。リチウム平均原子数比とは、ポリマー層に含まれる全原子に対するリチウム比率を表すものである。ポリマー層のリチウム平均原子数比が大きいほど、電極複合体のイオン伝導の抵抗が小さくなり、高い放電容量が可能となる。特に、上記範囲内のリチウム平均原子数比となる電極複合体は、電解液を用いない全固体電池に特に好ましく用いることができる。ポリマー層のリチウム平均原子数比が小さいほど、ポリマー層の強度が高くなるため、充放電時のデンドライトの析出を抑制することができ、電池の寿命が向上する。ポリマー層のリチウム平均原子数比は、後述するラザフォード後方散乱分光法(RBS)測定により測定することができる。ポリマー層のリチウム平均原子数比を上記範囲内とする方法は特に限定されないが、例えば、ポリマー層にリチウム元素を含有させる方法として製膜時の溶液中にLi塩を後述の好ましい濃度に添加することが挙げられる。
【0057】
本発明の実施形態におけるポリマー層に含まれるリチウム元素は、電解質としてリチウム塩の状態でポリマー膜内に添加されていてもよい。リチウム塩は熱的及び電気化学的安定性の観点から、LiPF、LiAsF、LiClO、LiBF、LiBr、リチウムビス(オキサレート)ボラート、リチウムジフルオロ(オキサレート)ボラート、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド等が好ましい。これらのリチウム塩は単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。本発明の実施形態におけるポリマーイオン伝導膜に含まれるナトリウム、マグネシウム、亜鉛及びアルミニウムからなる群から選択される1種以上の金属元素も同様に、電解質として塩の状態でポリマー膜内に添加されていてもよい。
【0058】
本発明の実施形態におけるポリマー層はフッ素発生剤を含むことが好ましい。フッ素発生剤は、分解物としてFイオンを発生する化合物であり、主にF原子を有する化合物である。フッ素発生剤を含むことにより高電流密度条件でも電池が安定に作動し、電池の寿命が向上する。具体的には、LiPF,LiBF,LiTFSI、LiFSI、フルオロエチルカーボネートなどがフッ素発生剤として挙げられる。Fイオンを発生しやすいLiPF、LiFSI、フルオロエチルカーボネートがより好ましく、LiPF,フルオロエチルカーボネートがさらに好ましく、LiPFが特に好ましい。上記の効果は、本発明の実施形態におけるポリマー層内でFイオンを発生することで、金属Li表面がF-イオンと反応し、LiFが界面付近に生成し、界面抵抗が低下することで得られるものと考えている。ポリマー層にフッ素発生剤を含ませる方法としては、ポリマー層の形成するための塗布溶液にフッ素発生剤を添加する方法やフッ素発生剤を含む溶液に電極複合体を浸漬する方法などが挙げられる。また、一般的には電池内でFイオンが発生すると、Fイオンと正極材料が反応し、電池容量や寿命が低下する可能性があるため、電池内にフッ素発生剤を含むことは避けられる傾向にある。しかしながら、本発明の実施形態におけるポリマー層は、空孔率が小さいため、金属Li表面での発生するF-イオンが、正極側に到達することを抑制できるため、Fイオンと正極材料の反応による寿命低下の発生を避けることができ、むしろ電池の寿命を向上させることができる。
【0059】
本発明の実施形態におけるポリマー層は、ポリマー層にフッ素発生剤を含ませた後、40℃以上で静置する工程を含む製造方法で製造されることが好ましい。Fイオンの発生を促進するために、50℃以上がより好ましく、60℃以上が特に好ましい。上記温度での静置時間は、2時間以上が好ましく、6時間以上がさらに好ましく、12時間以上がより好ましく、24時間以上が特に好ましい。ポリマー層と金属リチウムとの界面剥がれを抑制するために、上記温度での静置は加圧条件であることが好ましい。具体的には、0.1MPa以上が好ましく、0.5MPa以上がより好ましく、1.0MPa以上がより好ましく、3.0MPa以上がさらに好ましく、5.0MPa以上が特に好ましい。上記温度での静置は、電池作製後に行っても良い。
【0060】
本発明の実施形態における電極複合体は、無機系イオン伝導体を含んでも良い。耐デンドライト性の向上や界面抵抗の低減のために、無機イオン伝導耐、ポリマー層、金属Liの順で構成されることが好ましい。これは、無機系イオン伝導体は高いイオン伝導性を有する一方、耐デンドライト性や界面抵抗において上述したポリマー層に劣る。一方で、これらを組みわせた電極複合体は、高いイオン伝導度と耐デンドライト性を両立でき、安全性と高い性能を兼ね備えた二次電池に寄与する。無機系イオン伝導体としては公知のものを適宜利用でき、例示するならば無機固体電解質としては、例えばLiS-PやLi11などの硫化物系固体電解質や、LiIやLiO-B-Pなどの酸化物系固体電解質などが挙げられる。なお、無機系イオン伝導体の形状は特に限定されるものではないが、電極複合体に用いられる場合、一般的には、シート状に塗工あるいは成形された形態のものが好適に用いられる。
【0061】
本発明の一態様として、上述の電極複合体を電極として有する電池が挙げられる。特に、二次電池として好適に用いられる。二次電池において、電極複合体の好ましい態様は上述と同様である。上述した電極複合体は低いイオン抵抗及び優れた耐デンドライト性を併せ持つため、この電極複合体を用いた二次電池は高い性能と安全性を両立することができる。ここで二次電池の種類は特に問わないが、特に金属リチウム負極を用いた電池において高エネルギー密度と安全性が両立できることから好適である。また、正極側と負極側で用いる電解液が異なる電池、もう一方電極で発生する溶解物や副反応物がもう一方の電極に悪影響を及ぼす電池に用いるのに好適である。具体的には、2液電池、リチウム硫黄電池、クレイ電池、金属リチウム空気電池などに用いることが好ましい。
【0062】
本発明の実施形態に係る二次電池は、モバイル端末などの小型の電子機器を始め、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、UAMなどの乗り物、産業用クレーンなどの大型の産業機器、ドローンやHAPS(High Altitude Platform Station)などの無人輸送機の動力源などとして好適に用いることができる。また、太陽電池、風力発電装置などにおける電力の平準化やスマートグリッドのための蓄電装置としても好適に用いることができる。本発明の実施形態に係る二次電池は、軽量性が求められる乗り物、電子機器、無人輸送機に用いることが特に好ましい。すなわち本発明は、本発明の実施形態に係る二次電池を含む物品を挙げることができる。当該物品は電子機器、乗り物、産業機器、無人輸送機及び蓄電装置からなる群から選択される1種以上であることが好ましく、乗り物、電子機器及び無人輸送機からなる群から選択される1種以上であることが特に好ましい。
【0063】
続いて本発明の実施形態における電極複合体の製造方法について記載する。本発明の実施形態における電極複合体の製造方法としては、特に限られるものでは無いが、例えば、主鎖が芳香族およびヘテロ原子を含むポリマーと、溶媒とを有するポリマー組成物を用いる方法が挙げられる。電極複合体の製造方法は、上述のポリマー組成物から得られるフィルムを金属Liにプレス等で貼り合わせて作製する方法、ポリマー組成物を金属Liに塗布後、ポリマー組成物の揮発成分を乾燥させる方法、上述のポリマー組成物から得られるフィルムにLiを電析または蒸着させる方法などが挙げられる。ポリマー層となるフィルムは、ポリマー組成物を基材に塗布後、ポリマー組成物の揮発成分を乾燥させ、基材から剥離することで作製することも可能である。その中でも、ポリマー層を欠点なく、薄く均一に形成させることができるため、電極複合体の製造方法は、ポリマー組成物を電極に塗布する工程を含むことが好ましい。欠点の発生や表面粗さの増加の要因となるポリマー層を基材から剥離させ、電極上に転写する工程が不要となるためである。
【0064】
また、本発明の一態様として、主鎖が芳香族およびヘテロ原子を含むポリマーと、溶媒とを有するポリマー組成物が挙げられる。本発明の実施形態に係るポリマー組成物に含まれるポリマーは、主鎖に芳香環およびヘテロ原子を含んでいる。構成するポリマーとしては、二次電池に電解液を用いる場合、その電解液で溶解しない限りにおいて既知のものを必要に応じて用いることができる。かかるポリマーとしては、前述した電極複合体のポリマー層を構成するポリマーとして例示したポリマーが挙げられる。具体的に例示すると、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエステル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド(ポリアミド酸を含む)、ポリアリーレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトンやポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンエーテルケトンなどのポリエーテル、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリメチルメタクリレートをはじめとするビニル系ポリマー、およびこれらのアロイ、共重合体などが挙げられる。本発明の実施形態に係るポリマー組成物に含まれるポリマーは、これらの中でも耐熱性に優れる観点で、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリアリーレンエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアリーレンエーテルケトン及びこれらの共重合体からなる群から選ばれる1以上で構成されることが好ましい。成形性に優れる点で、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホンがより好ましく、これらの中でも耐熱性耐溶剤性、に優れる観点で芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミドが特に好ましく、その中でも高強度である点で芳香族ポリアミド(アラミド)が最も好ましい。これらのポリマーは単独で用いられても、複数組み合わせて用いられてもよい。例えば、異なる種類のポリマーが共重合されていてもよく、膜中でアロイとなっていてもよい。
【0065】
本発明の実施形態に係るポリマー組成物に含まれるポリマーは、チオカルボニル基、チオウレア基、チオアミド基およびチオウレタン基のうち少なくとも1種を有することが好ましく、チオウレア基が特に好ましい。上記官能基を有することで、ポリマーとアニオンの相互作用が大きくなり、カチオン輸率が向上する。カチオン輸率の向上により電池作動中の分解物が減少し、電池寿命が向上する。特に、主鎖上に芳香族環を有するポリマーが好適に使用できる。主鎖上に芳香族環を有するポリマーとしては、例えば芳香族ポリチオケトン、芳香族ポリチオウレア、芳香族ポリチオアミド、芳香族ポリチオウレタン、半芳香族ポリチオケトン、半芳香族ポリチオウレア、半芳香族ポリチオアミド、半芳香族ポリチオウレタンが挙げられる。また、複数のポリマーのブレンドとしてもよい。中でも薄膜化した際に高強度を維持しやすいことから、芳香族ポリチオウレア、芳香族ポリチオアミド、芳香族ポリチオウレタン、半芳香族ポリチオウレアがより好ましく、芳香族ポリチオウレアが特に好ましい。すなわち、本発明の実施形態に係るイオン伝導ポリマーが、芳香族ポリチオウレアを含むことが好ましい。
【0066】
本発明の実施形態に係るポリマー組成物はフッ素発生剤を含むことが好ましい。フッ素発生剤は、分解物としてFイオンを発生する化合物であり、主にF原子を有する化合物である。具体的には、LiPF,LiBF,LiTFSI、LiFSI、フルオロエチルカーボネートなどが挙げられる。Fイオンを発生しやすいLiPF、LiFSI、フルオロエチルカーボネートがより好ましく、LiPF,フルオロエチルカーボネートがさらに好ましく、LiPFが特に好ましい。フッ素発生剤が含むポリマー組成物を電極複合体の作製に用いることで、電極複合体のポリマー層にフッ素発生剤を含有させることができ、電池寿命が向上する。
【0067】
本発明の実施形態に係るポリマー組成物に含まれるポリマーの重量比率は製膜性、得られる電極複合体の抵抗の観点から、0.1重量%以上13.0重量%以下であることが好ましく、1.0重量%以上13.0重量%以下であることがより好ましく、1.0重量%以上8.0重量%。ポリマー濃度を小さくすることにより、得られるポリマー層の厚みを薄くすることができ、電極複合体の抵抗を小さくすることができる。一方、大きくすることで、製膜性が良好となる。
【0068】
本発明の実施形態に係るポリマー組成物に含まれるポリマーの対数粘度は、0.5~10.0dL/gであることが好ましく、1.0~10.0dL/gであることがより好ましく、1.5~10.0dL/gであることがより好ましく、1.5~5.0dL/gであることがより好ましく、1.5~4.0dL/gであることが特に好ましい。対数粘度を上記範囲とすることで、靭性や強度に優れ、イオン伝導性に優れる電極複合体が得られる。また、上記範囲内であることで、ポリマー濃度が小さくても、高い粘度とすることができ、薄層のポリマー層の均一形成が可能となる。それによって、得られる電極複合体で作成した電池の寿命が向上する。
【0069】
本発明の実施形態に係るポリマー組成物に含まれる溶媒は、沸点が0℃以上150℃未満である溶媒を含むことが好ましく、沸点が0℃以上120℃未満である溶媒を含むことがより好ましく、沸点が0℃以上100℃未満である溶媒を含むことがより好ましく、沸点が0℃以上85℃未満である溶媒を含むことがより好ましく、沸点が0℃以上60℃未満である溶媒を含むことが特に好ましい。上記溶媒を含むことで、瞬時に溶媒が蒸発することで、表面粗さが小さいポリマー層を形成させることができる。沸点が0℃以上150℃未満である溶媒の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、炭酸ジエチル、炭酸ジメチルが挙げられる。
【0070】
本発明の実施形態に係るポリマー組成物に含まれる溶媒は、沸点が0℃以上150℃未満である溶媒Aと、沸点が150℃以上300℃以下である溶媒Bとを含むことが好ましい。溶媒Bを含むことでポリマーを効率的に溶解させることでき、組成物が均一となり、均一なポリマー層を形成させることができる。溶媒Bの具体例としては、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、炭酸プロピレン、炭酸エチレンなどが挙げられる。また、蒸発速度の観点から、溶媒Bの沸点は、200℃以下がより好ましく、180℃以下であることがさらに好ましい。
【0071】
本発明の実施形態に係るポリマー組成物に含まれる上記溶媒Aと上記溶媒Bは、共沸組成であることが好ましい。共沸組成であることが、溶媒AとBが同時に蒸発することで蒸発速度が向上し、均一なポリマー層を有する電極複合体が得られる。共沸組成の具体例としては、エチレングリコールとトルエン、アセトアミドとオルト-キシレン、エチレングリコールとクロロベンゼンが挙げられる。
【0072】
本発明の実施形態に係るポリマー組成物の水分率が0ppm以上200ppm未満であることが好ましく、100ppm未満がより好ましく、50ppm未満がさらに好ましく、10ppm未満が特に好ましい。水分率が小さいことで、ポリマー組成物を金属Li上に塗布した際に表面粗さの増加を抑制することができる。ポリマー組成物を小さくする方法としては、水分率が小さいポリマーや溶媒を不活性雰囲気で充填されたグローブボックスやドライルーム内で調合する方法が挙げられる。
【0073】
本発明の実施形態において、電極複合体のポリマー層として用いることができるポリマーを得る方法を芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミドあるいはその前駆体であるポリアミド酸を例に説明する。ただし、用いることができるポリマーおよびその重合方法はこれに限定されるものではない。
【0074】
芳香族ポリアミドを得る方法は種々の方法が利用可能であるが、例えば、酸ジクロライドとジアミンを原料として低温溶液重合法を用いる場合には、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性有機溶媒中で合成される。溶液重合の場合、分子量の高いポリマーを得るために、重合に使用する溶媒の水分率を500ppm以下(重量基準、以下同様)とすることが好ましく、200ppm以下とすることがより好ましい。さらに、ポリマーの溶解を促進する目的で金属塩を添加してもよい。この金属塩としては、非プロトン性有機極性溶媒に溶解するアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物が好ましく、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウムなどが挙げられる。使用する酸ジクロライドおよびジアミンの両者を等量用いると超高分子量のポリマーが生成することがあるため、モル比を、一方が他方の95.0~100.0モル%になるように調整することが好ましい。また、芳香族ポリアミドの重合反応は発熱を伴うが、重合系の温度が上がると、副反応が起きて重合度が十分に上がらないことがあるため、重合中の溶液の温度を40℃以下に冷却することが好ましい。さらに、酸ジクロライドとジアミンを原料とする場合、重合反応に伴って塩化水素が副生するが、これを中和する場合には炭酸リチウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムなどの無機の中和剤、あるいは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等の有機の中和剤を使用するとよい。
【0075】
一方、本発明の実施形態において用いることができる芳香族ポリイミドあるいはその前駆体であるポリアミド酸を、例えば、テトラカルボン酸無水物と芳香族ジアミンを原料として重合する場合には、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性有機極性溶媒中で溶液重合により合成する方法などをとることができる。原料のテトラカルボン酸無水物および芳香族ジアミンの両者を等量用いると超高分子量のポリマーが生成することがあるため、モル比を、一方が他方の90.0~99.5モル%になるように調整することが好ましい。また、重合反応は発熱を伴うが、重合系の温度が上がると、イミド化反応により析出が起こることがあるため、重合中の溶液の温度は70℃以下とすることが好ましい。このようにして合成した芳香族ポリアミド酸をイミド化して芳香族ポリイミドを得る方法としては、熱処理や化学処理、およびそれらの併用などが用いられる。熱処理法は、一般的にポリアミド酸を100~500℃程度で加熱処理することでイミド化する方法である。一方、化学処理としては、トリエチルアミンなどの第三級アミンを触媒として、非芳香族酸無水物、芳香族酸無水物などの脱水剤を用いる方法や、ピリジンなどのイミド化剤を用いる方法がある。
【0076】
芳香族ポリアミドおよび芳香族ポリイミドあるいはその前駆体であるポリアミド酸の対数粘度ηは0.5~10.0dL/gであることが好ましく、1.5~5.0dL/gがより好ましく、1.5~4.0dL/gが特に好ましい。粘度を上記範囲とすることで、靭性や強度に優れ、イオン伝導性に優れるポリマーを得られる。また、上記範囲内であることで、ポリマー濃度が小さくても、高い粘度とすることができ、薄層のポリマー層の形成が容易となる。それによって、得られる電極複合体で作成した電池の寿命が向上する効果を良好に得ることができる。
【0077】
次に、本発明の実施形態に係るポリマー層を製膜する方法について、説明する。上述したように、ポリマー層は、金属リチウムなどの電極に直接ポリマー組成物を塗布、乾燥することにより形成させても良く、ポリマー層を離型フィルムなどの基材上にポリマー組成物を塗布、乾燥後に基材からポリマー層を剥離し、金属リチウム等の電極にロールプレスで貼り付けても良い。
【0078】
製膜原液には重合後のポリマー組成物をそのまま使用してもよいが、溶液中に中和塩などの不要な物質を多く含む場合、ポリマーを一度単離してから上述の非プロトン性有機極性溶媒や硫酸などの有機溶剤に再溶解して使用するのが好ましい。ポリマーを単離する方法は特に限定されないが、重合後のポリマー溶液を多量の水中に少量ずつ添加することで溶媒および中和塩を水中に抽出し、析出したポリマーのみを分離した後、乾燥させる方法などが挙げられる。中和塩などの不要物質を除去したポリマー固体は良溶媒に再度溶解することで製膜原料として使用できる。
【0079】
製膜の前にポリマー組成物にはリチウム元素を添加することが好ましい。この操作により、得られるポリマー組成物1g中に50μg以上の濃度でリチウム元素を含有させられ、得られる電極複合体中のポリマー層のイオン伝導度が向上する。このようなリチウム元素の添加方法は特に限定されないが、例示するならばリチウム金属やリチウム塩を、ポリマー組成物に添加する方法などが挙げられる。ここでリチウム塩としては特に限定されないが、例示するならば、LiPF、LiAsF、LiClO、LiBF、LiBr、リチウムビス(オキサレート)ボラート、リチウムジフルオロ(オキサレート)ボラート、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド等が挙げられる。添加量としてはポリマー重量1gに対してリチウム元素が50μg以上になることが好ましく、得られる電極複合体のポリマー層において、リチウム元素の含有量が上述した好適範囲となるようにすることがより好ましい。
【0080】
上述のように作製したポリマー組成物、好ましくは、不要物の除去及びリチウム元素等の添加を行ったポリマー組成物は、いわゆる溶液製膜法により製膜を行うことができる。溶液製膜法には乾湿式法、乾式法、湿式法などがあるが、電解質層のリチウム元素等の溶出を抑制する観点から、乾式法を用いることが好ましい。溶媒を除去するための乾燥工程において、乾燥条件は、ポリマー及び、リチウム塩等の添加物が分解しない乾燥温度及び乾燥時間であればよいが、例えば50~220℃、120分以内の範囲が好ましい。ただし、ポリアミド酸ポリマーを使用し、イミド化させずにポリアミド酸からなる膜を得たい場合、乾燥温度は50~150℃とすることが好ましい。いずれのポリマーでも、乾燥条件はより好ましくは減圧下で50~130℃である。
【0081】
これらの工程を経ることで、上述の電極複合体のポリマー層が得られる。
【0082】
続いて、無機系イオン伝導体の少なくとも片面にポリマー層を有する複合イオン透過膜を製造する方法について説明する。
【0083】
無機系イオン伝導体の少なくとも片面にポリマー層を有する複合イオン透過膜は、例えば、上述した方法で得られたポリマー組成物を無機系イオン伝導体表面に塗布し、溶媒を除去することで得られる。この際、塗布する方法は既知の方法を利用できる。溶媒を除去する方法についても公知のいずれの方法を用いてもよいが、水洗や溶媒洗浄を用いるとリチウム元素の溶出や、無機系イオン伝導体の失活の可能性があるため、50℃以上220℃以下の温度で揮発させることが好ましい。より好ましくは、減圧下で50~130℃である。得られた複合イオン透過膜を上述した方法で電極に接着させることで、電極複合体を作製することが可能ある。
【実施例0084】
以下実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例の物性は以下の方法で測定した。
【0085】
(1)ポリマー層のイオン伝導度
HSセル(宝泉株式会社製)を用い、ポリマー層を対極側に向けた電極複合体、非水電解質(1M LiTFSI エチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=1/1)200μL、SUS(ステンレス鋼)304電極の積層させたセルを作製した。
【0086】
24時間25℃で静置した後、作製したセルについて、25℃で電気化学試験装置(Biologic社製、型番:SP-150)にて振幅10mV、周波数1MHz-10mHzの条件で交流インピーダンスを測定し、複素平面上にプロットしたグラフから抵抗値を読み取り、以下の(i)式に代入し、イオン伝導度を計算した。5回測定し、計算した平均値をイオン伝導度とした。
【0087】
σ=T/AR (i)
σ:イオン伝導度(S/cm)
:ポリマー層の厚み(cm)
A:電極の面積(cm
R:抵抗値(Ω)。
【0088】
(2)ポリマー層の厚み
厚み測定器(株式会社ミツトヨ製VL-50)を用い、電極複合体の厚みを測定した。ポリマー層の厚みは、電極複合体を蒸留水に浸漬させ、金属Liを取り除いた後に残ったフィルムの厚みとした。
【0089】
(3)ポリマー層の空孔率
BIB(Broad Ion Beam)法により、実施例の電極複合体の断面を作製し、走査型電子顕微鏡(日立ハイテク製S-4800)を用いて、倍率1万倍、加速電圧1.0kVでSEM観察を行った。試料は導電処理を行わなかった。観察箇所は、幅10μm一方の表面からもう一方の表面の最短距離の連続的に観察した。SEM-EDX測定で炭素原子が検出される領域をポリマー層とし、1960nm以上(円相当直径が50nm以上)の孔をすべて抽出し、その孔面積の和/ポリマー層の断面積×100を空孔率とした。
【0090】
(4)ポリマー層の表面粗さ(算術平均粗さRa)
表面粗さ測定器(TIME社製)を用いて、算術平均粗さ(以下、「Ra」と記す。単位:μm)を測定した。下記の条件にて1サンプルにつき3回測定し、平均値をとった。
カットオフ長さ:0.25mm
評価の長さ:1.25mm
Raの数字が大きいほど表面平滑性が低いことを示す。
【0091】
(5)ポリマー層の溶媒含有量、含有溶媒種
DTG-50(島津製作所製)を用いて、電極複合体のTGA測定を行った。測定条件は、窒素雰囲気下、昇温速度5℃/分で室温から200℃まで昇温後、2時間200℃を保持する条件である。重量減少分を溶媒含有量とした。含有する溶媒成分の同定は、重水に電極複合体を浸漬することで溶媒を抽出し、得られた抽出溶液をH-NMR測定を行うことで、溶媒組成を同定した。
【0092】
(6)ポリマー層のリチウム平均原子数比
Pelletron 5SDH-2(National Electronics Corporation製)を用いて、電極複合体のラザフォード後方散乱分光法(RBS)/核反応解析法(NRA)測定を行った。各組成の深さプロファイルにおいて、Li組成が99atomic%以下の領域のLiの平均atomic%を測定した。測定条件は以下の通りである。
RBS測定
入射イオン: He++
入射エネルギー: 2300keV
入射角: 0deg
散乱角: 160deg
試料電流: 7nA
ビーム径: 2mm
面内回転: 無
照射量: 45μC
核反応:-
NRA測定
入射イオン: H
入射エネルギー: 1500keV
入射角: 0deg
散乱角: 146deg
試料電流: 5nA
ビーム径: 2mm
面内回転: 無
照射量: 48μC
核反応:7Li(p,α)4He。
【0093】
(7)ポリマー組成物の対数粘度
臭化リチウム(LiBr)を2.5重量%添加したN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に、ポリマーを0.5g/dlの濃度で溶解させ、ウベローデ粘度計を使用して、30℃にて流下時間を測定した。ポリマーを溶解させないブランクのLiBr2.5重量%/NMPの流下時間も同様に測定し、下式を用いて対数粘度ηinh(dl/g)を算出した。
【0094】
対数粘度ηinh(dl/g)=〔ln(t/t0)〕/0.5
t0:ブランクの流下時間(秒)
t:サンプルの流下時間(秒)。
【0095】
(9)ポリマー組成物の水分率
カールフィッシャー水分測定機(平沼産業株式会社製;AQV-7)を用いて水分率を測定した。投入されたポリマー組成物の水分量を定量し、その得られた値から、水分率を算出する。
【0096】
(10)XPS分析
ポリマー層を電極から取りだし、電極と近接している面からもう一方の面へポリマー層をイオンエッチングしながら、XPS分析することにより、各層の原子組成分析を行った。イオンエッチングは、各の結合エネルギーのピーク位置からその原子種を、ピーク強度から原子比率がそれぞれ算出することができる。例えば、Liイオンは、55eV、Li金属は、53eV、Fイオンは、684eVにピークがみられる。測定条件、イオンエッチング条件は下記の通りである。なお、イオンエッチングした層厚みは、1回のエッチング時間とポリメチルメタクリレート(PMMA)の分析から算出されたエッチングレートより算出した。
測定条件
装置: PHI Genesis (Ulvac-PHI)
励起X線: monochromatic Al K 1,2 線(1486.6 eV)
X線径: 200 μm
光電子検出角度: 90°(試料表面に対する検出器の傾き)
イオンエッチング条件
イオン種: Ar ガスクラスターイオン(Ar-GCIB)
電圧: 10 kV
1回のエッチング時間: 0.4min
エッチングレート: 54.2 nm/min(PMMA 換算値)。
【0097】
(11)耐デンドライト性
電極複合体に金属リチウムを含む場合、HSセル(宝泉株式会社製)を用い、ポリオレフィン微多孔フィルム(厚み25μm、透気度191秒/100cc、東レ製)の両側に、ポリマー層が対面となるように2枚の電極複合体を積層し、1M LiTFSI EC/DEC=1/1(体積比)で300μL注入し封をした。充放電試験装置(HJ1005SM8A、北斗電工株式会社製)にて電流密度0.5mA/cm、充放電時間1時間、50サイクルの試験を行った。過電圧条件(3V以上、-2以下)をとならずに、100サイクル作動した場合「優れる:◎」、50サイクル以上100サイクル未満作動した場合「合格:○」、50サイクル未満作動した場合「不合格:×」と評価した。
【0098】
電極複合体に金属リチウムを含まない場合、HSセル(宝泉株式会社製)を用い、ポリオレフィン微多孔フィルム(厚み25μm、透気度191秒/100cc、東レ製)の一方に、金属Liを、もう一方にポリマー層が対極側となるように1枚の電極複合体を配置し、1M LiTFSI EC/DEC=1/1(体積比)で300μL注入し封をした。充放電試験装置(HJ1005SM8A、北斗電工株式会社製)にて、金属Liを正極、電極複合体を負極として、電流密度0.1mA/cm、40時間で充電電流を流し、電極複合体に金属リチウムを析出させた。次に、HSセル(宝泉株式会社製)を用い、ポリオレフィン微多孔フィルム(厚み25μm、透気度191秒/100cc、東レ製)の両側に、ポリマー層が対面となるように2枚の金属リチウムを析出させた電極複合体を積層し、1M LiTFSI EC/DEC=1/1(体積比)で300μL注入し封をした。充放電試験装置(HJ1005SM8A、北斗電工株式会社製)にて電流密度0.5mA/cm、充放電時間1時間、50サイクルの試験を行った。過電圧条件(3V以上、-2以下)をとならずに、100サイクル作動した場合「優れる:◎」、50サイクル以上100サイクル未満作動した場合「合格:○」、50サイクル未満作動した場合「不合格:×」と評価した。
【0099】
(参考例1)ポリマーP-1の重合
脱水したNMP(N-メチル-2-ピロリドン、三菱ケミカル株式会社製)にジアミンとして4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(東京化成工業株式会社製)を窒素気流下で溶解させ、30℃以下に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下、30℃以下に保った状態で、ジアミン全量に対して100モル%に相当する2-クロロテレフタロイルクロライド(日本軽金属株式会社製)を60分かけて添加し、全量添加後、約1時間の撹拌を行うことで、芳香族ポリアミドを重合した。得られた重合溶液を、酸クロライド全量に対して97モル%の炭酸リチウム(本荘ケミカル株式会社製)および6モル%のジエタノールアミン(東京化成工業株式会社製)により中和することでポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液を重量比で10倍以上の精製水に投入し、溶媒および中和塩を水中に抽出して、析出したポリマーのみを分離した後、80℃で10時間真空乾燥させてポリマーP-1を得た。得られたポリマーの対数粘度ηは2.3dL/gであった。
【0100】
(参考例2)ポリマーP-2の重合
用いたジアミンを1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンとした以外は参考例1と同様に重合を行い、ポリマーP-2を得た。得られたポリマーの対数粘度ηは2.3dL/gであった。
【0101】
(参考例3)ポリマーP-3の重合
脱水したNMP(N-メチル-2-ピロリドン、三菱ケミカル株式会社製)にジアミンとして2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(東京化成工業株式会社製)を窒素気流下で溶解させ、30℃以下に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下、30℃以下に保った状態で、ジアミン全量に対して98.5モル%に相当する2-フルオロテレフタル酸クロライド(イハラニッケイ化学工業株式会社)を60分かけて添加し、全量添加後、約1時間の撹拌を行うことで、芳香族ポリアミドを重合した。得られた重合溶液を、酸クロライド全量に対して97モル%の炭酸リチウム(本荘ケミカル株式会社製)および6モル%のジエタノールアミン(東京化成工業株式会社製)により中和することでポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液を重量比で10倍以上の精製水に投入し、溶媒および中和塩を水中に抽出して、析出したポリマーのみを分離した後、80℃で10時間真空乾燥させてポリマーP-2を得た。得られたポリマーの対数粘度ηは3.8dL/gであった。
【0102】
(参考例4)ポリマーP-4の重合
脱水したNMP(N-メチル-2-ピロリドン、三菱化学株式会社製)に、ジアミンとして4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(東京化成工業株式会社製)を窒素気流下で溶解させ、そこへ、系内を窒素気流下、ジアミン全量に対して100モル%に相当する1,4-フェニレンジチオイソシアネート(東京化成工業株式会社製)を5minかけて添加し、全量添加後、約7時間の撹拌を行うことで、芳香族ポリチオウレア(ポリマーP-4)を重合した。また、重合溶液中の4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,4-フェニレンジチオイソシアネートの合計の濃度は19wt%となるようにした。得られたポリマーの対数粘度ηinhは1.5dl/gであった。次いで、このポリマー溶液を質量比で10倍以上のエタノールに投入し、溶媒および未反応物をエタノール中に抽出して、析出したポリマーのみを分離した後、60℃で10時間真空乾燥させてポリマー粉末を得た。
【0103】
(参考例5)ポリマーP-5の重合
4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの代わりにテトラメチレンジアミン(東京化成工業社製)を用いて半芳香族ポリチオウレア(ポリマーP-5)を重合したこと以外は参考例4と同様にすることにより、ポリマー粉末を得た。
【0104】
(参考例6)ポリマーP-6の重合
2-クロロテレフタロイルクロライドの代わりにイソフタロイルクロライド(東京化成工業社製)を用いて(ポリマーP-6)を重合したこと以外は参考例4と同様にすることにより、ポリマー粉末を得た。
【0105】
(実施例1)
ポリマーP-1 5.0重量%、LiTFSI(富士フィル和光純薬、有機合成用) 2.5重量%、DMF(富士フィル和光純薬、超脱水、有機合成用、沸点153℃)85.5重量%、アセトン(富士フィル和光純薬、超脱水、有機合成用、沸点56℃)7.0重量%となるように、グローブボックス内(露点-75℃以下、酸素濃度0.02ppm以下)で秤量し、30mLスクリュー瓶に封入した。スクリュー瓶内のポリマー組成物を自転公転ミキサー(THINKY社製、AR-250)用いて、固形物がなくなるまで攪拌することにより、ポリマー組成物を得た。
【0106】
(実施例2~9、比較例1~3)
表1の組成となるように、実施例1と同様の方法でポリマー組成物を調合した。LiPF、フルオロエチレンカーボネートは、富士フィルム和光純薬製の電池研究用を用いた。NMP(沸点202℃)、及びTHF(沸点66℃)は、富士フィルム和光純薬製の有機合成用超脱水品を用いた。
【0107】
(実施例10)
実施例1で作製したポリマー組成物を用いて金属リチウム箔(本城金属製 厚み200μm、円形直径16mm)に膜状に真空乾燥後のポリマー層の厚みが1μmとなるように塗布し、80℃のホットステージ上で1時間静置後、130℃の真空乾燥機で1時間乾燥を行った。上記の作業は、すべてグローブボックス内(露点-50℃以下、酸素濃度100ppm以下)で行った。得られた電極複合体の特徴を表2に示す。
【0108】
(実施例11)
実施例2で作製したポリマー組成物を用いた以外は、実施例10と同様の方法で電極複合体を作製した。得られた電極複合体の特徴を表2に示す。
【0109】
(実施例12)
実施例3で作製したポリマー組成物を用い、真空乾燥後のポリマー層の厚みが2μmとなるようにした以外は、実施例10と同様の方法で電極複合体を作製した。得られた電極複合体の特徴を表2に示す。
【0110】
(実施例13)
実施例3で作製したポリマー組成物を用いて支持体であるガラス板上に膜状に真空乾燥後のポリマー層の厚みが5μmとなるよう塗布し、130℃の熱風オーブンでフィルムが自己支持性を持つまで乾燥させた後、フィルムを支持体から剥離した。次いで、剥離したフィルムを金属枠に固定し、130℃の真空乾燥機で0.5時間乾燥を行い、ポリマー層を作製した。得られたポリマー層を、12時間25℃で真空乾燥後、グローブボックス内で金属リチウム箔(本城金属製 厚み200μm、円形直径16mm)に50μLのジオキサン(富士フィル和光純薬、脱水、有機合成用)を滴下後、作製したポリマー層を金属リチウム箔にのせ、ローラーで接着させた。得られた積層体を130℃の真空乾燥機で0.5時間乾燥を行った。得られた電極複合体の特徴を表2に示す。
【0111】
(実施例14)
実施例4で作製したポリマー組成物を用いて支持体である離型フィルム上に膜状に真空乾燥後のポリマー層の厚みが2μmとなるよう塗布し、60℃で真空乾燥1時間を行った。上記の作業は、ドライルーム内(露点-50℃以下)で行った。グローブボックス内で離型フィルムを支持体から剥離し、金属リチウム箔(本城金属製 厚み200μm、円形直径16mm)に50μLのジオキサン(富士フィル和光純薬、脱水、有機合成用)を滴下後、作製したポリマー層を金属リチウム箔にのせ、ローラーで接着させた。得られた積層体を130℃の真空乾燥機で1.0時間乾燥を行った。得られた電極複合体の特徴を表2に示す。
【0112】
(実施例15)
実施例5で作製したポリマー組成物を用いた以外は実施例14と同様の方法で電極複合体を作製した。得られた電極複合体の特徴を表2に示す。
【0113】
(実施例16)
実施例12で作製した電極複合体をHSセル(宝泉株式会社製)に入れ、300μL1M LiPF EC/DEC滴下し、セルを密閉した。このセルを60℃24時間静置後に電極複合体を取りだし、130℃1.0時間真空乾燥を行い、電極複合体を乾燥した。得られた電極複合体の特徴を表2に示す。XPS分析の結果を図1に示す。電極を近接して有する面の表層(Depth 0nm~300nm)を含めDepthが約500nmまでの領域において、Li原子とF原子の存在比率は、ともに5%以上である領域を有していた。
【0114】
(実施例17)
金属リチウムの代わりに、銅箔を用いる以外は実施例11と同様の方法で電極複合体を作製した。得られた電極複合体の特徴を表2に示す。
【0115】
(実施例18)
実施例6で作製したポリマー組成物を用いた以外は実施例10と同様の方法で電極複合体を作製した。得られた電極複合体の特徴を表3に示す。
【0116】
(実施例19)
実施例7で作製したポリマー組成物を用いた以外は実施例10と同様の方法で電極複合体を作製した。得られた電極複合体の特徴を表3に示す。
【0117】
(実施例20)
実施例8で作製したポリマー組成物を用いた以外は実施例10と同様の方法で電極複合体を作製した。得られた電極複合体の特徴を表3に示す。
【0118】
(実施例21)
実施例9で作製したポリマー組成物を用いた以外は実施例10と同様の方法で電極複合体を作製した。得られた電極複合体の特徴を表3に示す。
【0119】
(比較例4)
比較例1で作製したポリマー組成物を用い、乾燥後のポリマー層の厚みが5μmとなるようにした以外は、実施例4と同様の方法で電極複合体を作製した。得られた電極複合体の特徴を表3に示す。
【0120】
(比較例5)
比較例2で作製したポリマー組成物を用いた以外は、実施例4と同様の方法で電極複合体を作製した。得られた電極複合体の特徴を表3に示す。
【0121】
(比較例6)
ポリエーテルスルホン(住化エクセル5900P、住友化学社製、)の20重量%NMP溶液を支持体であるガラス板上に膜状に乾燥後のポリマー層の厚みが10μmとなるように塗布し、25℃の蒸留水に15分浸漬した後、支持体から得られたポリマー膜を剥がし、130℃1時間真空乾燥を行った。ポリマー膜を、12時間25℃で真空乾燥後、グローブボックス内で金属リチウム箔(本城金属製 厚み200μm、円形直径16mm)に50μLのジオキサン(富士フィル和光純薬、脱水、有機合成用)を滴下後、作製したポリマーイオン伝導膜を金属リチウム箔にのせ、ローラーで接着させた。得られた積層体を130℃の真空乾燥機で0.5時間乾燥を行った。得られた電極複合体の特徴を表3に示す。
【0122】
(比較例7)
比較例3で作製したポリマー組成物を用いた以外は、実施例7と同様の方法で電極複合体を作製した。得られた電極複合体の特徴を表3に示す。
【0123】
(モデル全固体電池の作製)
実施例5、6それぞれの電極複合体を、金属Li箔金属リチウム箔(本城金属製 厚み200μm、円形直径16mm)が電極複合体のポリマー層側となるように、全固体電池用セル(ミックラボ製)に封入した。作製したセルについて、25℃で電気化学試験装置(Biologic社製、型番:SP-150)にて振幅10mV、周波数1MHz-10mHzの条件で交流インピーダンスを測定した。実施例5の電極複合体は、イオン伝導度が6.8×10-7S/cmを示したのに対して、実施例6はイオン伝導性が確認されなかった。
【0124】
表2より、実施例1~9のポリマー組成物を用いて作製した実施例10~21の電極複合体は、比較例4~7の電極複合体に対して耐デンドライト性が良い結果となった。また、リチウム原子数比が高く、Li原子比率およびF原子比率がともに5%以上50%以下である領域を有する電極複合体ほど耐デンドライト性のサイクル試験の結果が良好であることを確認した。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
【表3】
図1