(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099640
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】隆起部を有する光学フィルム積層体並びにその製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20250626BHJP
B23K 26/38 20140101ALI20250626BHJP
【FI】
G02B5/30
B23K26/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216445
(22)【出願日】2023-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】弁理士法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】竹田 覚
【テーマコード(参考)】
2H149
4E168
【Fターム(参考)】
2H149AA02
2H149AA18
2H149AB26
2H149CA02
2H149EA01
2H149FB01
2H149FB06
2H149FD46
4E168AD07
4E168CB02
4E168DA02
4E168DA23
4E168HA01
4E168JA23
4E168JA27
4E168JB05
(57)【要約】
【課題】 レーザー光によって切断された切断部分の端部における隆起が抑制された光学フィルム積層体を提供する。
【解決手段】 1つ又は複数のフィルムを含む光学機能層の一方面に第1の樹脂フィルムが積層され、他方面に第2の樹脂フィルムが積層された、任意形状の光学フィルム積層体を提供する。光学フィルム積層体は、第1の樹脂フィルムの端部に第1の隆起部を有する。また、光学フィルム積層体は、第1の樹脂フィルムの端部に対応する位置にある第2の樹脂フィルムの端部に第2の隆起部を有する。第1の隆起部の高さと第2の隆起部の高さとは、異なる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数のフィルムを含む光学機能層の一方面に第1の樹脂フィルムが積層され、他方面に第2の樹脂フィルムが積層された、任意形状の光学フィルム積層体であって、
前記第1の樹脂フィルムの端部に第1の隆起部を有し、
前記第1の樹脂フィルムの前記端部に対応する位置にある前記第2の樹脂フィルムの端部に第2の隆起部を有し、
前記第1の隆起部の高さと前記第2の隆起部の高さとが異なる、
光学フィルム積層体。
【請求項2】
前記第1の隆起部の高さ及び前記第2の隆起部の高さのいずれか一方は、1μmである、請求項1に記載の光学フィルム積層体。
【請求項3】
前記第1の隆起部の高さと前記第2の隆起部の高さとの合計は、これらの隆起部のない部分の前記光学フィルム積層体の厚さの20%より低い、請求項1に記載の光学フィルム積層体。
【請求項4】
前記第1の隆起部の高さと前記第2の隆起部の高さとの合計は、35μm以下である、請求項3に記載の光学フィルム積層体。
【請求項5】
前記第1の隆起部と前記第2の隆起部との間における前記光学フィルム積層体の端面は、傾斜面である、請求項1に記載の光学フィルム積層体。
【請求項6】
前記第1の樹脂フィルム及び前記第2の樹脂フィルムの一方は、表面保護フィルムであり、前記第1の樹脂フィルム及び前記第2の樹脂フィルムの他方は、剥離ライナである、請求項1に記載の光学フィルム積層体。
【請求項7】
前記剥離ライナの隆起部の高さは、ゼロである、請求項6に記載の光学フィルム積層体。
【請求項8】
光学フィルム積層体の形状は、異形である、請求項1に記載の光学フィルム積層体。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の光学フィルム積層体を製造する方法であって、
1つ又は複数のフィルムを含む光学機能層の一方面に第1の樹脂フィルムが積層され、他方面に第2の樹脂フィルムが積層された、原料積層体を搬送する工程と、
前記原料積層体の前記第1の樹脂フィルム及び前記第2の樹脂フィルムのいずれか一方に基材を積層して、基材付き原料積層体を得る工程と、
前記原料積層体、前記基材、若しくは前記基材付き原料積層体、又はこれらの複数に静電気を帯電させることによって、前記基材と前記原料積層体とを密着させる工程と、
前記原料積層体に、レーザー光を用いて任意形状の切断面を形成する工程と、
前記基材付き原料積層体から静電気を除去する工程と、
任意形状の前記切断面を有する1つ又は複数の前記光学フィルム積層体を前記基材から剥離する工程と
を含む方法。
【請求項10】
前記原料積層体は、シート状の積層体である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記基材は、ウェブ状の基材である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記基材は、非粘着性の基材である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
帯電させる静電気量は、前記レーザー光による前記切断面の形成時に前記基材と前記原料積層体とが剥離しない静電気量である、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記静電気量は、-10kV以上-0.5kV以下、又は、0.5kV以上10kV以下である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記静電気量は、-4.0kV以上-0.5kV以下である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
基材付き原料積層体を得る工程において前記第1の樹脂フィルム及び前記第2の樹脂フィルムのいずれか一方に積層される基材は、任意形状の前記切断面を有する1つ又は複数の前記光学フィルム積層体を前記基材から剥離する工程において剥離された基材を再利用したものである、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の光学フィルム積層体を製造する装置であって、
1つ又は複数のフィルムを含む光学機能層の一方面に第1の樹脂フィルムが積層され、他方面に第2の樹脂フィルムが積層された原料積層体を搬送する、搬送装置と、
前記原料積層体の前記第1の樹脂フィルム及び前記第2の樹脂フィルムのいずれか一方に基材を積層して、基材付き原料積層体を作製する、積層装置と、
前記基材と前記原料積層体とを密着させるために、前記原料積層体、前記基材、若しくは前記基材付き原料積層体、又はこれらの複数に静電気を帯電させる、帯電装置と、
前記基材付き原料積層体の前記原料積層体を切断して、任意形状の1つ又は複数の前記光学フィルム積層体を形成する、レーザー切断装置と、
前記基材付き原料積層体から静電気を除去する、除電装置と、
任意形状の1つ又は複数の前記光学フィルム積層体を、前記基材から剥離する剥離装置と
を備える装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム積層体及びその製造技術に関し、より具体的には、切断前の光学フィルム積層体と基材フィルムとを静電気で密着させた状態でレーザー光で切断することによって生成される、切断部分の端部に生じる場合がある隆起が抑制された光学フィルム積層体並びにその製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置や有機EL表示装置などの光学表示装置には、偏光フィルムや位相差フィルムといった各種の光学フィルム積層体が用いられる。従来の光学フィルム積層体の製造においては、最終製品の用途や形状に応じて、複数の異なる工程が採用されている。
【0003】
例えば、スマートフォン用途に用いられる光学フィルム積層体の製造工程においては、複数のフィルムが積層された所定の幅を有する長尺ウェブ状の積層体を繰り出し、円形刃物を用いて積層体を所定の長さに切断することによって、矩形状の複数の光学フィルム積層体を得ることができる。あるいは、近年需要が増大しつつある車載用途やスマートウォッチ用途に用いられる光学フィルム積層体の製造工程においては、所定の幅を有する長尺ウェブ状の積層体を繰り出し、トムソン型を用いて打ち抜くことによって、任意形状の複数の光学フィルム積層体を得ることができる。いずれの工程においても、長尺ウェブ状の積層体に代えて、シート状の積層体が用いられる場合や、1枚から複数の光学フィルム積層体を得ることができるシート状のマザー積層体が用いられる場合もある。このようにして得られた複数の光学フィルム積層体は、必要に応じて重ねて端面の処理を行い、梱包して出荷される。
【0004】
しかし、このように最終製品の用途や形状に応じて種々の工程が採用されると、用途や形状ごとに異なる製造装置を導入し、それぞれの製造装置への個別の対応が必要となるため、製造コストの増大を招くことになる。したがって、最終製品の用途や形状の如何に関わらず、統一された製造工程を実現することが望ましい。統一された製造工程を実現するためには、円形刃物やトムソン型に代えて、レーザー光を用いて積層体を切断する方法を採用することが好ましい。
【0005】
長尺ウェブ状やシート状の積層体をレーザー光によって切断する場合、切断された積層体の端部に盛り上がり(隆起部)が発生したり、ヒューム(溶融時に発生した蒸気が凝集した微細な粉塵)が端部に付着したりすることがある。端部に隆起部が発生すると、複数の光学フィルム積層体をそれらの縁部を揃えて重ねたときに、それぞれの光学フィルム積層体の隆起部が互いにずれたり、画像認識に不具合が生じる可能性がある。その結果、出荷時の梱包の不具合や、後の工程で液晶セルや有機ELセルに貼り合わせるためのアライメント時や、重ねた複数の光学フィルム積層体から1枚ずつ光学フィルム積層体を取り出すときの不具合などにつながるおそれがある。
【0006】
また、例えば表面保護フィルムを有する光学フィルム積層体から、後の工程で表面保護フィルムを剥離する際には、通常、表面保護フィルムは、その表面に貼り合わせた剥離テープを引き上げることによって剥離することができる。しかし、光学フィルム積層体の端部(この場合には、表面保護フィルムの端部)に隆起部があると、隆起部がないときと比較して剥離テープの端部と表面保護フィルムの表面との接触面積が小さくなり、剥離テープを引き上げても表面保護フィルムを剥離させることができない場合がある。
【0007】
特許文献1は、多層光学フィルムをレーザー光によって切断する際に発生するヒュームの除去方法が提案されている。しかし、特許文献1には、多層光学フィルムをレーザー光によって切断する場合、切断された積層体の端部における隆起部の発生及びその解決手段については、開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の課題に鑑み、本発明は、レーザー光によって切断された切断部分の端部における隆起が抑制された光学フィルム積層体を提供することを目的とする。
また、本発明は、レーザー光によって切断された場合に、端部において隆起の発生が抑制された光学フィルム積層体を製造する方法及び装置を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、レーザー光によって切断される前の積層体(原料積層体)に基材フィルム(キャリア)を積層し、静電気を利用し両者を帯電させて密着させた上でレーザー光によって切断することによって、基材フィルムを積層した面の端部には隆起部が発生しないか、又は発生する場合でもその大きさが抑制された光学フィルム積層体を得られることを見出した。
【0011】
本発明は、一つの態様において、1つ又は複数のフィルムを含む光学機能層の一方面に第1の樹脂フィルムが積層され、他方面に第2の樹脂フィルムが積層された、任意形状の光学フィルム積層体を提供する。光学フィルム積層体は、第1の樹脂フィルムの端部に第1の隆起部を有する。また、光学フィルム積層体は、第1の樹脂フィルムの端部に対応する位置にある第2の樹脂フィルムの端部に第2の隆起部を有する。第1の隆起部の高さと第2の隆起部の高さとは、異なる。
【0012】
本発明は、別の態様において、1つ又は複数のフィルムを含む光学機能層の一方面に第1の樹脂フィルムが積層され、他方面に第2の樹脂フィルムが積層された、任意形状の光学フィルム積層体を製造する方法を提供する。本方法においては、まず、1つ又は複数のフィルムを含む光学機能層の一方面に第1の樹脂フィルムが積層され、他方面に第2の樹脂フィルムが積層された、原料積層体を搬送する。次に、原料積層体の第1の樹脂フィルム及び第2の樹脂フィルムのいずれか一方に基材を積層して、基材付き原料積層体を得る。次に、原料積層体、基材、若しくは基材付き原料積層体、又はこれらの複数に静電気を帯電させることによって、基材と原料積層体とを密着させた後、基材付き原料積層体に、レーザー光を用いて任意形状の切断面を形成する。基材付き原料積層体から静電気を除去し、任意形状の切断面を有する1つ又は複数の光学フィルム積層体を基材から剥離する。
【0013】
本発明は、さらに別の態様において、1つ又は複数のフィルムを含む光学機能層の一方面に第1の樹脂フィルムが積層され、他方面に第2の樹脂フィルムが積層された、任意形状の光学フィルム積層体を製造する装置を提供する。本装置は、1つ又は複数のフィルムを含む光学機能層の一方面に第1の樹脂フィルムが積層され、他方面に第2の樹脂フィルムが積層された原料積層体を搬送する搬送装置と、原料積層体の第1の樹脂フィルム及び第2の樹脂フィルムのいずれか一方に基材を積層して、基材付き原料積層体を作製する積層装置と、基材と原料積層体とを密着させるために、原料積層体、基材、若しくは基材付き原料積層体、又はこれらの複数に静電気を帯電させる帯電装置と、基材付き原料積層体の原料積層体を切断して、任意形状の1つ又は複数の光学フィルム積層体を形成するレーザー切断装置と、基材付き原料積層体から静電気を除去する除電装置と、任意形状の1つ又は複数の光学フィルム積層体を、基材から剥離する剥離装置とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態による隆起部を有する光学フィルム積層体の模式的な断面図を示し、(a)は、一方の面に隆起部があり、他方の面に隆起部がない光学フィルム積層体であり、(b)は、一方の面及び他方の面に隆起部がある光学フィルム積層体である。また、(c)は、原料積層体がレーザー光によって切断された状態を示す模式的な断面図である。
【
図2】隆起部のある光学フィルム積層体を製造する工程の概念図である。
【
図3】第1の実施形態による、隆起部のある光学フィルム積層体を製造する装置の概念図であり、シート状の原料積層体にシート状の基材フィルムを積層させて切断を行う装置を示す。
【
図4】第2の実施形態による、隆起部のある光学フィルム積層体を製造する装置の概念図であり、シート状の原料積層体にウェブ状の基材フィルムを積層させて切断を行う装置を示す。
【
図5】第3の実施形態による、隆起部のある光学フィルム積層体を製造する装置の概念図であり、ウェブ状の原料積層体にウェブ状の基材フィルムを積層させて切断を行う装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
(隆起部を有する光学フィルム積層体の構成)
図1は、本発明の一実施形態による、隆起部を有する光学フィルム積層体の模式的な断面図を示す。
図1(a)は、一方の面11に隆起部があり、他方の面13に隆起部のない光学フィルム積層体F1の模式的な断面図である。また、
図1(c)は、原料積層体RMがレーザー光によって切断された状態を示す模式的な断面図である。光学フィルム積層体F1は、本発明に係る後述の製造方法によって製造することでき、例えばウェブ状の原料積層体RMの一方の面(
図1(c)の積層体の下面)に基材フィルムBFを積層し、静電気を帯電させることによって原料積層体RMと基材フィルムBFとを密着させ、レーザー光を用いて切断することによって得られる。
図1(a)は、切断部分を側面からみた状態(
図1(c)の左斜め下方から見た状態)を示す。
図1(c)の各参照番号の部分は、
図1(a)及び
図1(b)の参照番号に対応する部分である。
【0017】
光学フィルム積層体F1は、偏光フィルムPOLの一方面に表面保護フィルムPFが積層され、他方面に剥離ライナRLが積層された積層体である。なお、本明細書においては、この構成の光学フィルム積層体を例として説明するが、本発明を利用することができる光学フィルム積層体は、これに限定されるものではい。光学フィルム積層体は、例えば、偏光フィルムに代えて、複数のフィルムから構成される光学機能層を有するものとすることもできる。また、光学フィルム積層体は、光学機能層の一方面に剥離ライナRLが積層され、多方面に表面保護フィルムPFが積層された積層体であってもよい。光学機能層は、例えば、偏光フィルム、位相差フィルム、偏光フィルムと位相差フィルムとの組み合わせ、OCA(Optical Clear Adhesive)、偏光フィルムとOCAとの組み合わせ、PETフィルムなどとすることができる。あるいは、光学フィルム積層体は、例えば、OCAの一方面に軽剥離ライナが積層され、他方面に重剥離ライナが積層された積層体や、PETフィルムの一方面に軽剥離ライナが積層され、他方面に重剥離ライナが積層された積層体とすることもできる。
【0018】
光学フィルム積層体F1は、レーザー光を用いて、例えばウェブ状の原料積層体RMから任意形状を有する積層体として切り出すことができる。任意形状は、四角形、円形、楕円形などの形状だけでなく、異形も含む。異形の積層体は、例えば、四角形の形状のいずれかの片に切り欠きや凹み(いわゆるノッチ)を有する形状、自動車のインストルメントパネル用途で用いられるかまぼこ形状、四角形のフィルムの一部に円形や四角形などの孔が設けられた形状などといった、特殊な形状の積層体を含むことができる。例えば、四角形の形状のいずれかの片に切り欠きや凹み(いわゆるノッチ)を有する形状の積層体の場合には、レーザー光による切断面は、各辺だけでなく、切り欠きや凹みの内部にも形成されることになる。
【0019】
光学フィルム積層体F1は、表面保護フィルムPF側の面11の端部11aに隆起部12を有し、剥離ライナRLの面13の端部13aには隆起部を有しない。
図1(a)においては、光学フィルム積層体F1は、表面保護フィルムPF側の面11にのみ隆起部12を有するが、これに限定されるものではなく、剥離ライナRL側の面13にのみ隆起部を有していてもよい。ここで、端部11aは、光学フィルム積層体F1の面11の切断部分の縁11b(
図1(c))とその内方近傍とを含む。端部13aも同様である。
【0020】
光学フィルム積層体F1は、原料積層体RMを切断することによって得られる。原料積層体RMは、光学フィルム積層体F1と同様の樹脂フィルムが積層された積層体とすることができる。隆起部12は、例えばウェブ状の原料積層体RMをレーザー光を用いて切断する際の熱で、レーザー光によって切断された部分の最外面に積層された樹脂フィルム(表面保護フィルム)が溶融し、盛り上がって固まることによって、形成される。また、溶融時に生じた原料積層体RMの蒸気が凝集した微細な粉塵(ヒューム)も発生し、切断面の周囲に飛散することがある。
【0021】
本発明に係る光学フィルム積層体の製造方法においては、後述するように、原料積層体RMをレーザー光で切断する前に、剥離ライナRL側の面13に基材フィルムBFを積層し、基材付き原料積層体RMBに静電気を帯電させる。静電気によって原料積層体RMの剥離ライナRLの面13と基材フィルムBFとが密着しているため、この状態で原料積層体RMを切断すると、通常は、面13に隆起部が生じることがない。また、面13には、ヒュームも生じない。ここで、密着とは、2つのフィルムの間に空気層又は空気溜まりが存在しておらず、搬送されることによってもそうした空気層又は空気溜まりが形成されない状態をいう。剥離ライナRLの面13と基材フィルムBFとが完全に密着していれば、物理的に隆起部が発生する空間が存在せず、また、レーザー光による切断時の熱が基材フィルムBFに伝導して表層温度が上昇しにくいため、面13には隆起部が生じない。
【0022】
隆起部12は、所定の高さを有する。高さは、面11から隆起部12の頂部までの距離である。隆起部12の高さは、隆起部12の存在しない部分の光学フィルム積層体F1の厚さの12%より低いことが好ましく、8%より低いことがより好ましく、5%より低いことがさらに好ましい。隆起部12の高さは、20μmより低いことが好ましく、14μmより低いことがより好ましく、8μmより低いことがさらに好ましい。隆起部12の高さが光学フィルム積層体F1の厚さの12%より低ければ、複数の光学フィルム積層体F1を端部を揃えて重ねたときに、それぞれの光学フィルム積層体F1が隆起部12によってずれる現象が生じず、また、画像認識の不具合も生じない。また、光学フィルム積層体F1の厚さの12%より低い隆起部12であれば、剥離テープによる表面保護フィルムPFの剥離に影響を与えない。隆起部12は、切断するためのレーザー光の強度が強くなると、高くなる傾向がある。
【0023】
隆起部12の幅、すなわち、光学フィルム積層体F1の縁11b方向から内側方向(
図1(a)の左右方向)の長さは、100μmより小さいことが好ましく、80μmより小さいことがより好ましい。隆起部12の幅が100μm以上の場合には、光学フィルム積層体F1を後の工程で液晶セルなどに貼り合わせるためのアライメントや側長の際に、隆起部を認識して撮影画像の線幅が太くなることがあり、設定されたしきい値によっては読み取り位置の変位が生じ、貼り合わせの精度低下、読み取りエラーなどの問題が発生するおそれがある。
【0024】
光学フィルム積層体F1は、レーザー光によって切断された切断面である端面15を有する。端面15は、光学フィルム積層体F1の面11の縁11bと面13の縁13bとの間に位置する。端面15は、レーザー光による切断面の形成の特性上、典型的には傾斜面であるが、これに限定されるものではなく、面11及び面13に垂直な面であってもよい。端面15は、
図1(a)においては平面として表されているが、これに限定されるものではなく、用途に応じて任意形状の光学フィルム積層体F1とする場合には、端面15は曲面又は平面と曲面との組み合わせであってもよい。
【0025】
図1(b)は、一方の面21にも他方の面23にも隆起部を有する光学フィルム積層体F2の模式的な断面図である。光学フィルム積層体F2もF1と同様に、本発明に係る後述の製造方法によって製造される。
図1(b)は、切断部分を側面(
図1(c)の左斜め下方)からみた状態を示す。
【0026】
光学フィルム積層体F2は、偏光フィルムPOLの一面に表面保護フィルムPFが積層され、他面に剥離ライナRLが積層された積層体である。光学フィルム積層体F2は、表面保護フィルムPF側の面21の端部21aに隆起部22を有し、剥離ライナRL側の面23の端部23aに隆起部24を有する。隆起部22は、例えばウェブ状の原料積層体RMをレーザー光を用いて切断する際の熱で、レーザー光によって切断された部分の最外面に積層された樹脂フィルム(表面保護フィルム、剥離ライナ)が溶融し、表面に盛り上がって固まることによって、形成される。また、溶融時に生じた原料積層体RMの蒸気が凝集した微細な粉塵(ヒューム)も発生し、切断面の周囲に飛散することがある。
【0027】
光学フィルム積層体F2を製造する場合も、光学フィルム積層体F1を製造する場合と同様、原料積層体RMをレーザー光で切断する前に、剥離ライナRL側の面23に基材フィルムBFを積層し、静電気を帯電させる。光学フィルム積層体F1の説明でも述べたように、剥離ライナRLの面23と基材フィルムBFとがしっかり密着していれば、隆起部は生じない。しかしながら、例えば帯電の低下及び/又は不均一などに起因して部分的に密着度が不足する場合があり、この部分に、レーザー光による切断時の衝撃や基材付き原料積層体RMBの搬送張力の不均一によって僅かな空気層が形成されたときには、隆起部が生じる場合がある。光学フィルム積層体F2において、基材フィルムBFを積層したにも関わらず剥離ライナRL側の面23に隆起部24が生じているのは、こうした理由による。
【0028】
光学フィルム積層体F2においては、隆起部24が存在する端部23aは、隆起部22が存在する端部21aに対応する位置にある。具体的には、端部21aは、光学フィルム積層体F2において表面保護フィルムPFの面21のレーザー光による切断部に隣接する位置にあり、端部23aは、剥離ライナRLの面23のレーザー光による切断部に隣接する位置にある。
【0029】
光学フィルム積層体F2では、隆起部24は、隆起部22と比較して高さが低い。好ましくは、隆起部22の高さ(面21から隆起部22の頂部までの距離)と隆起部24(面23から隆起部24の頂部までの距離)の高さの合計は、隆起部22、24の存在しない部分の光学フィルム積層体F2の厚さの20%より低いことが好ましく、15%より低いことがより好ましく、10%より低いことがさらに好ましい。隆起部22の高さと隆起部24の高さとの合計は、35μm以下であることが好ましく、30μmより低いことがより好ましく、15μm以下であることがより好ましい。隆起部24の高さは、1μm以下であることが好ましい。隆起部24の高さはゼロであることが最も好ましいが、この場合の光学フィルム積層体F2は、光学フィルム積層体F1に相当する。
【0030】
光学フィルム積層体F2は、光学フィルム積層体F1と同様、面21の縁21bと面23の縁23bとの間に、レーザー光によって形成される切断面である端面25を有する。端面25もまた、端面15同様、典型的には傾斜面であるが、これに限定されるものではなく、面21及び面23に垂直な面であってもよい。さらに、端面25は、
図1(b)においては平面として表されているが、これに限定されるものではなく、端面25は曲面又は平面と曲面との組み合わせであってもよい。
【0031】
(本発明に係る光学フィルム積層体を製造する工程)
図2は、隆起部を有する光学フィルム積層体F1又はF2を製造する工程の概念図である。
図2(a)において、原料積層体RMの一方の面に基材フィルムBFを積層して、基材付き原料積層体RMBを得る。原料積層体RMは、偏光フィルムPOLの一面に表面保護フィルムPFが積層され、他面に剥離ライナRLが積層された積層体であり、ウェブ状又はシート状のどちらであってもよい。ここでは、基材フィルムBFは、原料積層体RMの剥離ライナRL側の面13Rに積層されているが、これに限定されるものではなく、表面保護フィルムPF側の面11Rに積層してもよい。
【0032】
基材フィルムBFとして、粘着層のない非粘着性の材料を用いても、粘着性の材料を用いてもよい。本発明に係る製造方法では、原料積層体RMと基材フィルムBFとを静電気で密着させるため、基材フィルムBFとして非粘着性の材料を用いることができ、したがって、例えば、本発明に係る光学フィルム積層体を製造する工程で用いた基材フィルムBFを再利用すること又は他の工程や製品で用いられた廃材を用いることが可能であり、基材フィルムの使用量の減少、製造コストの低減などが期待できる。本発明において使用できる非粘着性の基材フィルムBFは、張力がかかっても伸び難いフィルムであればよく、基材フィルムBFとして、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンフィルムなどを用いることができる。
【0033】
一方、基材フィルムBFとして粘着性の材料を用いる場合には、原料積層体RMと基材フィルムBFとをより強固に密着させることができるため、基材フィルムBFが積層された面における隆起部の発生をより効果的に抑制することが可能である。ただし、粘着性の材料を用いる場合には、一度使用した基材フィルムBFを再利用することは難しく、材料使用量が増加し、それにより製造コストが増大する可能性がある。また、用いられる材料の粘着力が、原料積層体RMの各フィルム間の粘着力より大きい場合には、基材フィルムBFを剥離しようとしても剥離できなかったり、原料積層体RMのフィルム間が剥離したりするおそれがあるため、使用可能な基材フィルムBFに制限がある。したがって、粘着性の基材フィルムBFは、弱粘着性の材料であることが好ましく、例えば、日東電工株式会社製の表面保護材AW303EBなどを用いることができる。
【0034】
次に、
図2(b)に示されるように、原料積層体RMと基材フィルムBFとが積層された基材付き原料積層体RMBに静電気を帯電させる(40)。静電気を帯電させることによって、原料積層体RM及び基材フィルムBFの対向する面を密着させることができる(
図2(c))。
図2(b)及び
図2(c)に示されるように、例えば、原料積層体RMが基材フィルムBFの面から離れている箇所Vが存在していても、静電気を帯電させて原料積層体RMと基材フィルムBFと密着させることによって、離れている箇所Vをなくすことができる。静電気の帯電は、基材付き原料積層体RMBに対して行われることに限定されるものではなく、基材フィルムBFと積層される前の原料積層体RMに対して行われてもよく、又は、原料積層体RMに積層される前の基材フィルムBFに対して行われてもよい。図示されてはいないが、基材付き原料積層体RMBに静電気を帯電させるときには、基材付き原料積層体RMBの帯電させる部分を例えば金属ローラなどの導体に接触させた状態とし、その接触している部分に対向させるように、金属ローラとは反対側に帯電装置を配置して帯電させることが好ましい。
【0035】
静電気は、原料積層体RM及び基材フィルムBFの全面に均一に帯電させることが好ましい。帯電させる静電気量は、搬送時及びレーザー光41による切断面の形成時に基材フィルムBFと原料積層体RMとが剥離しない(密着が失われない)静電気量である。静電気量は、-10kV以上-0.5kV以下、又は、0.5kV以上10kV以下であることが好ましく、-4.0kV以上-0.5kV以下、又は、0.5kV以上4.0kV以下であることがより好ましく、-4.0kV以上-0.5kV以下であることが最も好ましい。静電気量が-10kVより小さい場合又は+10kVより大きい場合は、隆起部の発生を抑制する効果は高まるものの、異物の吸い寄せ、除電しきれず剥離不良、大気放電による周辺装置への悪影響などという問題があり、-0.5kVより大きく+0.5kVより小さい場合は、密着力が弱く、レーザー光を照射した時の衝撃で空隙が発生するという問題がある。
【0036】
図2(c)に示されるように、静電気を帯電させた後、レーザー光41を用いて基材付き原料積層体RMBを切断し、光学フィルム積層体F1が形成される。レーザー光41による切断は、基材付き原料積層体RMBの基材フィルムBFとは反対側(ここでは、表面保護フィルム(PF)の側)からレーザー光41を照射することによって行われる。レーザー光41の強度は、表面保護フィルムPF、偏光フィルムPOL及び剥離ライナRLは切断されるが基材フィルムBFは切断されない深さまで到達するように、設定されることが好ましい。
【0037】
上述のとおり、レーザー光41による切断は、必要とされる光学フィルム積層体F1の形状が四角形の場合には直線的に行われるが、光学フィルム積層体F1の形状が任意形状の場合には曲線的に行われることもある。レーザー光41による切断部分の両側には、
図2(d)に示されるように、切断時に発生する熱によって原料積層体RMが溶融し、表面に盛り上がって固まることによって、隆起部12が形成される。隆起部12は、表面保護フィルムPFの端部11aの一部又は全部に形成される。
【0038】
次に、
図2(d)に示されるように、レーザー光41による切断の後、基材付き原料積層体RMBから静電気を除電する(42)。静電気を除電することによって、原料積層体RMと基材フィルムBFとの密着状態が解除される。帯電前に離れている箇所Vが存在していた場合には、その箇所は、再び離れることもある。除電のときには、帯電のときとは逆に、基材付き原料積層体RMBは、どこにも接触していない状態で除電させることが好ましい。
【0039】
最後に、
図2(e)に示されるように、原料積層体RMの光学フィルム積層体F1に相当する部分を基材フィルムBFから剥離し、隆起部12を有する光学フィルム積層体F1を得ることができる。基材フィルムBFとして非粘着性の材料が用いられる場合には、除電を行うことによって、剥離ライナRLと基材フィルムBFとを容易に剥離することができる。一方、基材フィルムBFとして粘着性の材料が用いられる場合には、その粘着力によっては、除電を行った場合でも、光学フィルム積層体F1を基材フィルムBFから剥離しようとすると剥離ライナRLと基材フィルムBFとがうまく剥離されず、剥離ライナRLと偏光フィルムPOLとの間で剥離され、剥離ライナRLが基材フィルムBF上に残るおそれがある。したがって、粘着性の基材フィルムBFを用いる場合には、基材フィルムBFの粘着力は、剥離ライナRLの粘着力より小さいことが好ましい。
【0040】
(隆起部を有する光学フィルム積層体を製造する装置)
[第1の実施形態]
図3は、第1の実施形態による、隆起部を有する光学フィルム積層体を製造する装置50の概念図である。装置50は、シート状の原料積層体RMにシート状の基材フィルムBFを積層してシート状の基材付き原料積層体RMBを形成し、その基材付き原料積層体RMBを帯電させてレーザー光による切断を行う、シート-シート方式の装置を示す。
【0041】
装置50は、例えばストッカからシート状の原料積層体RMを取り出し、基材フィルムBFとの積層装置52まで搬送する搬送装置51aと、同様にストッカからシート状の基材フィルムBFを取り出し、原料積層体RMとの積層装置52まで搬送する搬送装置51bとを備える。搬送装置51a及び51bとして、当業者に周知の吸着ピックアップ装置及び搬送ローラなどを適宜用いることができる。
【0042】
装置50は、積層装置52及び帯電装置53を備える。
積層装置52においては、原料積層体RMと基材フィルムBFとを一対の積層ローラ52aの間に通すことによって、シート状の基材付き原料積層体RMBを形成することができる。積層ローラ52aとして、当業者に周知の、粘着剤を介して2つの樹脂フィルムを貼り合わせるための貼合ローラを適宜用いることができる。
【0043】
帯電装置53は、原料積層体RMに静電気を帯電させるための装置である。帯電装置53として、当業者に周知の帯電装置を適宜用いることができ、例えば、春日電機株式会製のJPK-3などを用いることができる。
図3においては、帯電装置53は積層装置52の下流側において、原料積層体RMの上方に配置されている。したがって、装置50では、原料積層体RMと基材フィルムBFとを積層した基材付き原料積層体RMBの原料積層体RM側から静電気を帯電させることによって、原料積層体RMと基材フィルムBFとが静電気によって密着するようになっている。帯電させることによる最も望ましい密着力を確保するためには、基材付き原料積層体RMBに帯電させることが好ましい。ただし、帯電装置53の位置は、これに限定されるものではなく、帯電装置53は、積層装置52の下流側において基材フィルムBFの側に配置してもよい。あるいは、積層装置52の上流側において基材フィルムBFの近くに配置してもよい。この場合には、原料積層体RMに積層される前に基材フィルムBFに静電気を帯電させ、積層装置52で両者が積層されたときに密着することになる。あるいは、帯電装置53は、積層装置52の上流側において、原料積層体RMの近くに配置してもよい。この場合には、積層される前に原料積層体RMに静電気を帯電させ、積層装置52で両者が積層されたときに密着することになる。あるいは、帯電装置53は、上記の配置場所の複数に配置してもよい。例えば、積層装置52の上流側と下流側とに帯電装置を配置して、原料積層体RM及び基材付き原料積層体RMBの両方で帯電させるようにしてもよい。
【0044】
帯電した状態の基材付き原料積層体RMBは、当業者に周知の吸着ピックアップ装置を含む搬送装置54によって、レーザー切断を行うための台座55の上に搬送される。台座55は、その上に配置された基材付き原料積層体RMBがレーザー切断の際に動かないように、吸着台座であることが好ましい。台座55は、当業者に周知のものを適宜用いることができる。
【0045】
装置50は、レーザー切断装置56を備える。レーザー切断装置56は、例えば、レーザー光を生成して、台座55の上に配置された基材付き原料積層体RMBに照射することができるレーザー光発生部と、基材付き原料積層体RMBを任意形状に切断するようにレーザー光発生部を移動させる移動部とを有するものとすることができる。レーザー切断装置56は、樹脂フィルムを切断するために用いられる、当業者に周知の装置を適宜用いることができる。
【0046】
上述のとおり、レーザー光の強度は、基材付き原料積層体RMBに含まれる表面保護フィルムPF、偏光フィルムPOL及び剥離ライナRLは切断されるが基材フィルムBFは切断されない深さまで到達するように、設定されることが好ましい。レーザー切断装置56によって、基材付き原料積層体RMBに含まれる原料積層体RMを切断して、任意形状の光学フィルム積層体F1を基材フィルムBF上に形成することができる。この場合、1つの基材付き原料積層体RMBから1つの光学フィルム積層体F1のみを形成することも、1つの基材付き原料積層体RMBから複数の光学フィルム積層体F1を形成することもできる。
【0047】
装置50は、除電装置57を備える。除電装置57は、帯電した基材付き原料積層体RMBから静電気を除去するための装置である。除電装置57は、当業者に周知の除電装置を適宜用いることができ、例えば、除電装置57として、春日電機株式会製のJPK-3などを用いることができる。
【0048】
除電装置57によって静電気が除去された、光学フィルム積層体F1を含む基材付き原料積層体RMBにおいては、基材付き原料積層体RMB及び光学フィルム積層体F1と基材フィルムBFとの間の密着状態が解除されており、光学フィルム積層体F1を基材フィルムBFから容易に剥離できる状態になっている。第1の実施形態では、除電後のシート状の基材フィルムBFを剥離することによって、光学フィルム積層体F1を得ることができる。
【0049】
そのために、装置50は、テープTPを基材フィルムBFに貼り合わせてシート状の基材フィルムBFを繋げ、基材フィルムBFをテープTPとともに光学フィルム積層体F1から剥離する剥離装置58を備える。テープTPは、テープのロールTPRから、その粘着面が基材フィルムBF側に向いた状態で繰り出される。繰り出されたテープTPは、貼合部58aにおいて、台座55から送出され静電気が除去された、光学フィルム積層体F1を含む基材付き原料積層体RMBの基材フィルムBFに貼り合わされる。テープTPを貼り合わせる位置は、限定されるものではないが、基材フィルムBFの少なくとも一部、例えば両端部のみでよい。
図3においては、幅の狭い2本のテープTPがロールTPRから繰り出されるように示されている。
【0050】
基材付き原料積層体RMBとテープTPとの貼合部58aの下流において、テープTPで貼り合わされた基材フィルムBFは、剥離ローラ(又は剥離バー)58bを経由して基材付き原料積層体RMBの搬送方向から離れる方向に引かれる。したがって、テープTPで繋がれた基材フィルムBFが巻き取られる一方、基材フィルムBFから剥離された光学フィルム積層体F1は、剥離ローラ58bによって搬送方向が変わることなく剥離装置58から送出され、当業者に周知の搬送装置59によって取り出される。このようにして、1つ又は複数の任意形状を有する光学フィルム積層体F1を得ることができる。光学フィルム積層体F1は、次に、当業者に周知のピックアップ装置を含む搬送装置(図示せず)によって後の工程、例えば、端面処理工程や梱包工程に渡される。
【0051】
[第2の実施形態]
図4は、第2の実施形態による、隆起部を有する光学フィルム積層体を製造する装置60の概念図である。装置60は、シート状の原料積層体RMにウェブ状の基材フィルムBFを積層してウェブ状の基材付き原料積層体RMBを形成し、その基材付き原料積層体RMBを帯電させてレーザー光による切断を行う、シート-ウェブ方式の装置を示す。以下においては、主に、実施形態1の装置50と異なる構成を説明する。
【0052】
装置50は、シート状の原料積層体RMがシート状の基材フィルムBFに積層されて、シート状の基材付き原料積層体RMBを形成するように構成されている。これに対して、装置60では、複数のシート状の原料積層体RMがウェブ状の基材フィルムBFに、その長さ方向に連続的に積層されて、ウェブ状の基材付き原料積層体RMBを形成する。このため、装置60においては、基材フィルムのロールBFRから繰り出されたウェブ状の基材フィルムBFが、原料積層体RMと基材フィルムBFとを積層する積層装置62まで搬送されるように構成されている。シート状の原料積層体RMの搬送装置61及びその機能は、装置50の搬送装置51aと同様とすることができる。
【0053】
積層装置62においては、シート状の原料積層体RMとウェブ状の基材フィルムBFとを一対の積層ローラ62aの間に通すことによって、ウェブ状の基材付き原料積層体RMBを形成することができる。
【0054】
装置60は、積層装置62の下流側に帯電装置63を備える。帯電装置63は、ウェブ状の基材フィルムBFにシート状の原料積層体RMが積層された後に基材付き原料積層体RMBに静電気を帯電させ、それにより、原料積層体RMと基材フィルムBFとが静電気によって密着する。帯電装置63の位置は、これに限定されるものではなく、帯電装置63は、積層装置62の上流側において、積層される前のシート状の原料積層体RM又はウェブ状の基材フィルムBFを帯電させるように配置してもよい。
【0055】
帯電した状態のウェブ状の基材付き原料積層体RMBは、当業者に周知の搬送装置64によって台座65の上を通るように搬送される。台座65の上で、基材付き原料積層体RMBは一端停止し、レーザー切断装置66のレーザー光によって切断される。台座65は、その上に配置された基材付き原料積層体RMBがレーザー切断の際に動かないように、吸着台座であることが好ましい。切断後の基材付き原料積層体RMBは、除電装置67によって除電される。レーザー切断装置66及びその機能は、装置50のレーザー切断装置56と同様とすることができ、除電装置67及びその機能についても、装置50の除電装置57と同様とすることができる。
【0056】
除電装置67によって静電気が除去された、光学フィルム積層体F1を含む基材付き原料積層体RMBにおいては、原料積層体RM及び光学フィルム積層体F1とウェブ状の基材フィルムBFとの間の密着状態が解除されており、光学フィルム積層体F1を基材フィルムBFから容易に剥離できる状態になっている。装置60においては、光学フィルム積層体F1とシート状の基材フィルムBFとを剥離するために、除電装置67の下流に剥離装置68を備える。
【0057】
剥離装置68は、剥離ローラ(又は剥離バー)68aを有しており、ウェブ状の基材フィルムBFは、剥離ローラ68aを経由して基材付き原料積層体RMBの搬送方向から離れる方向に引かれている。したがって、ウェブ状の基材フィルムBFは、光学フィルム積層体F1から剥離され、巻き取られる。光学フィルム積層体F1が切断された原料積層体の残部RMRは、除電されることによって基材フィルムBFとは密着状態が解除されているため、ウェブ状の基材フィルムBFが巻き取られたときに基材フィルムBFとは離れ、例えばそのまま落下させて回収される。一方、基材フィルムBFから剥離された光学フィルム積層体F1は、剥離ローラ68aによって搬送方向が変わることなく剥離装置68から送出され、当業者に周知の搬送装置69によって取り出される。このようにして、1つ又は複数の任意形状を有する光学フィルム積層体F1を得ることができる。
【0058】
[第3の実施形態]
図5は、第3の実施形態による、隆起部を有する光学フィルム積層体を製造する装置70の概念図である。装置70は、ウェブ状の原料積層体RMにウェブ状の基材フィルムBFを積層してウェブ状の基材付き原料積層体RMBを形成し、その基材付き原料積層体RMBを帯電させてレーザー光による切断を行う、ウェブ-ウェブ方式の装置を示す。以下においては、主に、実施形態1の装置50及び実施形態2の装置60と異なる構成を説明する。
【0059】
装置50は、シート状の原料積層体RMがシート状の基材フィルムBFに積層されて、シート状の基材付き原料積層体RMBを形成するように構成され、装置60では、複数のシート状の原料積層体RMがウェブ状の基材フィルムBFに連続的に積層されて、ウェブ状の基材付き原料積層体RMBを形成する。これに対して、装置70では、ウェブ状の原料積層体RMがウェブ状の基材フィルムBFに積層されて、ウェブ状の基材付き原料積層体RMBを形成する。このため、装置70においては、原料積層体のロールRMRから繰り出されたウェブ状の原料積層体RMが、原料積層体RMと基材フィルムBFとを積層する積層装置72まで搬送されるように構成されている。
【0060】
積層装置72においては、ウェブ状の原料積層体RMとウェブ状の基材フィルムBFとを一対の積層ロール72aの間に通すことによって、ウェブ状の基材付き原料積層体RMBを形成することができる。
【0061】
装置70は、積層装置72の下流側に帯電装置73を備える。帯電装置73は、ウェブ状の基材フィルムBFにウェブ状の原料積層体RMが積層された後の基材付き原料積層体RMBに静電気を帯電させ、それにより、原料積層体RMと基材フィルムMBとが静電気によって密着する。帯電装置73の位置は、これに限定されるものではなく、帯電装置73は、積層装置72の上流側において、積層される前のウェブ状の原料積層体RM又はウェブ状の基材フィルムBFを帯電させるように配置してもよい。
【0062】
帯電された基材付き原料積層体RMBは、搬送装置74によって搬送され、台座75の上でレーザー光で切断される。切断された基材付き原料積層体RMBは、その後、除電装置77によって除電される。搬送装置74、台座75、レーザー切断装置76、及び除電装置77、並びにそれらの機能については、装置60と同様とすることができる。
【0063】
除電装置77によって静電気が除去された、光学フィルム積層体F1を含む基材付き原料積層体RMBにおいては、基材付き原料積層体RMB及び光学フィルム積層体F1とウェブ状の基材フィルムBFとの間の密着状態が解除されており、光学フィルム積層体F1を基材フィルムBFから容易に剥離できる状態になっている。装置70においても、光学フィルム積層体F1とウェブ状の基材フィルムBFとを剥離するために、除電装置77の下流に剥離装置78を備える。
【0064】
剥離装置78は、剥離ローラ(又は剥離バー)78aを有しており、ウェブ状の基材フィルムBFは、剥離ローラ78aを経由して基材付き原料積層体RMBの搬送方向から離れる方向に引かれている。したがって、ウェブ状の基材フィルムBFは、光学フィルム積層体F1から剥離され、巻取ローラに巻き取られる。また、光学フィルム積層体F1が切断されたウェブ状の原料積層体の残部RMRは、除電されることによって基材フィルムBFとは密着状態が解除されており、剥離ローラ78aを経由してウェブ状の基材フィルムBFが巻き取られる方向とは別の方向に巻き取られる。一方、除電によって基材フィルムBFから剥離され、ウェブ状の原料積層体RMから切り出された光学フィルム積層体F1は、剥離ローラ78aによって搬送方向が変わることなく剥離装置78から送出され、当業者に周知の搬送装置79によって取り出される。このようにして、1つ又は複数の任意形状を有する光学フィルム積層体F1を得ることができる。
【実施例0065】
以下に、本発明の実施例及び比較例を説明する。表1は、本発明の実施例及び比較例を示す。
実施例では、シート状の光学機能フィルム(光学機能層)の一方の面に表面保護フィルムが積層され、他方の面に剥離ライナが積層された光学積層体を準備し、剥離ライナの面にシート状のキャリアフィルムを積層した。これを当業者に周知の積層ローラでニップして基材付き原料積層体とし、静電気を帯電させた。実施例1~実施例2及び実施例4~実施例6は、ニップ前に帯電させ、実施例3はニップ後に帯電させた。実施例1~実施例5は、負の電荷を帯電させ、実施例6は、正の電荷を帯電させた。
【0066】
次に、帯電した状態の基材付き原料積層体の表面の静電気量を測定し、キャリアフィルムが積層された側とは反対側(表面保護フィルム側)からレーザー光で、キャリアフィルムを残して、基材付き原料積層体を切断した。切断後、静電気を除電し、キャリアフィルムを剥離して得られた光学フィルム積層体について、切断部分の端部に形成された隆起部の高さを測定した。
【0067】
一方、比較例では、原料積層体を当業者に周知の積層ローラでニップした後、帯電させることなくレーザー光で切断し、キャリアフィルムを除去した光学フィルム積層体の隆起部の高さを測定した。
【0068】
光学積層体として、日東電工株式会社製のモバイル用位相差付き偏光フィルム(GRT1794XH1UHC)を用い、厚みは178μmであった。キャリアフィルムとして、厚み25μmのPETフィルムを用いた。静電気の帯電及び除電のための装置は、実施例1~実施例4及び実施例6では春日電機株式会社製のJPK-3を用い、実施例5では、春日電機株式会社製のPSM-2005PNを用いた。切断に用いたレーザー光は、波長9.4μmのCO2レーザーであった。レーザー光の発生装置として、武井電機工業株式会社製のTLSM301を用い、出力35W、周波数15kH、送り速度500mm/secで、偏光フィルムの表面に焦点を合わせて切断した。
【0069】
隆起部の高さは、次のように測定した。実施例1~6及び比較例のそれぞれについて、上記の方法で3つの光学フィルム積層体を作製し、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製)を用いて、それぞれの光学フィルム積層体の切断部分における端部の一部の画像から断面プロファイルを取得した。それぞれの断面プロファイルから50カ所の隆起量を測定し、50個の隆起量の平均値を算出した。実施例及び比較例のそれぞれについて、このようにして算出された3つの光学フィルム積層体の隆起量の平均値をさらに平均し、これを光学フィルム積層体の隆起部の高さとした。
【0070】
【0071】
実施例1及び実施例2は、いずれも帯電した静電気量が-1.0kV~-4.0kVであった。ただし、実施例1では、基材付き原料積層体のキャリアフィルムとは反対側から帯電させ、実施例2では、基材付き原料積層体のキャリアフィルム側から帯電させた。いずれの実施例でも、キャリアフィルムが積層されていた密着面(表1における「剥離ライナ側」)には、隆起部が発生しない(実施例1)か、発生したとしても隆起部の高さは1μm(実施例2)であった。一方、キャリアフィルムが積層されていない開放面(表1における「表面保護フィルム側」)には、8μm(実施例2)、13μm(実施例1)の高さの隆起部が発生した。
【0072】
実施例3は、ニップ前に基材付き原料積層体を帯電させた場合である。帯電面は、キャリアフィルムとは反対側の面であった。実施例3の静電気量の数値は、実施例1及び実施例2と比較して大きく(すなわち、静電気による密着力が弱く)、-0.2kV~-0.5kVであった。実施例3における帯電装置の出力は、実施例1及び実施例2と同じであったが、帯電後にニップされることによって電荷が逃げたことなどが原因となって、測定時の静電気量が大きくなったものと考えられる。この実施例では、密着面にも開放面にも隆起部が発生したものの、密着面の隆起部は開放面の隆起部より低かった。
【0073】
実施例4は、ニップ後にキャリアフィルムとは反対側の面から帯電させた場合である。測定時の静電気量は、実施例3と同程度であった。この実施例では、実施例1及び実施例2と同じ帯電装置を同じ出力で動作させて静電気を帯電させたが、帯電面までの距離をこれらの実施例より大きくすることによって、実施例3と同程度の静電気量になるように調整した。この実施例でも、実施例3と同様に、密着面にも開放面にも隆起部が発生したものの、密着面の隆起部は開放面の隆起部より低かった。
【0074】
実施例3及び実施例4は、実施例1及び実施例2より静電気量の数値が大きい(すなわち、静電気による密着力が弱い)ため、原料積層体とキャリアフィルムとの密着度が部分的に不足して、レーザー光による切断時の衝撃によって空気層が形成され、その結果、密着面においても実施例1及び実施例2と比較してより高い隆起部が発生したと考えられる。
【0075】
実施例5は、静電気量が-11.0kV~-12.0kVの場合であり、帯電はニップ後であった。このように小さい数値の静電気量を帯電させた(すなわち、静電気による密着力が強い)場合には、密着面には隆起部が発生しなかったものの、異物の吸い寄せ、除電しきれず剥離不良、大気放電による周辺装置への悪影響などという問題が発生するおそれがある。
【0076】
実施例6は、基材付き原料積層体に、実施例1~実施例5とは逆の正電荷を帯電させた場合の結果である。帯電させた静電気量は、+5kV~+7kVであった。正電荷の静電気を帯電させた場合は、帯電させた静電気量の絶対値としては実施例1~実施例4の場合より大きいものの、原料積層体とキャリアフィルムとの密着力が弱く、隆起部の抑制効果は実施例4と同程度であった。
【0077】
比較例は、上述の通り、基材付き原料積層体を帯電させることなくレーザー光で切断した場合の結果である。比較例の基材付き原料積層体も、摩擦などによりわずかに帯電した。比較例では、キャリアフィルムの有無に関わらず、密着面及び開放面のいずれにも大きな隆起が生成された。