(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099650
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】シリコーンゴムコンパウンド、およびこれを含むシリコーンゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20250626BHJP
C08L 83/06 20060101ALI20250626BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20250626BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20250626BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/06
C08K3/36
C08K3/013
C08K5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216467
(22)【出願日】2023-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松井 寛和
(72)【発明者】
【氏名】山岡 正次
(72)【発明者】
【氏名】竹平 章良
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CP033
4J002CP044
4J002CP052
4J002CP062
4J002CP121
4J002CP131
4J002CP141
4J002DA027
4J002DA037
4J002DE077
4J002DE087
4J002DE107
4J002DE117
4J002DE137
4J002DE147
4J002DE237
4J002DE287
4J002DG047
4J002DJ007
4J002DJ016
4J002DJ017
4J002DJ037
4J002DJ047
4J002EK038
4J002EK048
4J002EK058
4J002EK088
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD090
4J002FD130
4J002FD144
4J002FD148
4J002FD160
(57)【要約】 (修正有)
【課題】経時的な可塑化戻りが抑制されたシリコーンゴムコンパウンドを提供する。
【解決手段】(A)平均組成式(I):R
1
aSiO
(4-a)/2(式中、R
1は、同一/異種の非置換/置換の一価のC
1~10炭化水素基であり、全R
1基中の0.01~20mol%は、C
2~10アルケニル基であり、aは、1.5~2.8である)で示される、25℃での粘度が9,000,000~100,000,000mPa・sのオルガノポリシロキサン100質量部、および(B)式(II):R
3O(SiR
2
2O)
mR
3(式中、R
2は、同一/異種の非置換/置換の一価のC
1~10炭化水素基であり、各R
3は、各々独立して、C
1~10アルキル基または水素原子であり、mは、1~50である)で示される、25℃での粘度が10~1,000mPa・sのオルガノポリシロキサン0.3~10質量部を含む、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)平均組成式(I):
(化1)
R1
aSiO(4-a)/2 (I)
(式中、
R1は、同一または異種の非置換または置換の一価のC1~10炭化水素基であり、
全R1基中の0.01~20mol%は、C2~10アルケニル基であり、
aは、1.5~2.8である)
で示される、25℃での粘度が9,000,000~100,000,000mPa・sのオルガノポリシロキサン 100質量部、および
(B)式(II):
(化2)
R3O(SiR2
2O)mR3 (II)
(式中、
R2は、同一または異種の非置換または置換の一価のC1~10炭化水素基であり、
各R3は、各々独立して、C1~10アルキル基または水素原子であり、
mは、1~50である)
で示される、25℃での粘度が10~1,000mPa・sのオルガノポリシロキサン 0.3~10質量部
を含む、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドであって、
前記(A)成分の緩和時間τ(秒)と前記(B)成分の質量部が下記数式:
(数1)
(A)成分の緩和時間τ×0.207-14 ≦ (B)成分の質量部
を満たし、
前記(A)成分の緩和時間τは、本明細書中に開示されるレオロジー試験方法によって測定される、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド。
【請求項2】
前記(A)成分の緩和時間τが、30~100である、請求項1に記載のミラブル型シリコーンゴムコンパウンド。
【請求項3】
前記(B)成分が、式(IIa):
(化3)
HO(Si(CH3)2O)mH (IIa)
(式中、mは、上記で定義されるとおりである)
で示されるオルガノポリシロキサンを含む、請求項1に記載のミラブル型シリコーンゴムコンパウンド。
【請求項4】
(C)シリカをさらに含む、請求項1に記載のミラブル型シリコーンゴムコンパウンド。
【請求項5】
(D)充填材、および
(E)無官能オルガノシロキサン
からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含む、請求項1に記載のミラブル型シリコーンゴムコンパウンド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のミラブル型シリコーンゴムコンパウンド、および
(F)硬化剤
を含む、ミラブル型シリコーンゴム組成物。
【請求項7】
前記(F)成分が、付加硬化型の硬化剤を含む、請求項6に記載のミラブル型シリコーンゴム組成物。
【請求項8】
前記(F)成分が、有機過酸化物硬化型の硬化剤を含む、請求項6に記載のミラブル型シリコーンゴム組成物。
【請求項9】
請求項6に記載のミラブル型シリコーゴム組成物を硬化してなる、シリコーンゴム硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリコーンゴムコンパウンド、およびこれを含むシリコーンゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴム組成物またはそれを硬化してなる硬化物は、優れた耐候性、電気特性、低圧縮永久歪み性、耐熱性、耐寒性等の特性を有しているため、電気機器、自動車、建築、医療、食品を初めとして様々な分野で広く使用されている。
【0003】
シリコーンゴム組成物を硬化してなる硬化物は、通常、オルガノポリシロキサンを含むシリコーンゴムコンパウンドを、硬化剤等と共に混錬し、硬化させて製造される。
【0004】
しかしながら、シリコーンゴムコンパウンドは、経時的に硬化する現象(可塑化戻り)を起こすことが知られている。シリコーンゴムコンパウンドが可塑化戻りを起こすと、混錬を適切に行うことができない場合があり、その結果、シリコーンゴム組成物等への加工性が低下するという問題が生じる。そのため、シリコーンゴムコンパウンドは、可塑化戻りを抑制することが重要である。
【0005】
可塑化戻りを抑制する方法について、例えば特許文献1では、シリコーンゴム生ゴムおよび微粉末状の湿式シリカに、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンとポリエーテル変性ポリオルガノシロキサンを混合することが提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、所定のオルガノハイドロジェンポリシロキサンと補強性シリカと共に、比表面積が1m2/g以上の炭酸カルシウムを配合すること提案されている。
【0007】
さらに、特許文献3では、(A)重合度が100以上で一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、(B)分子鎖末端にアルコキシ基又は水酸基を有するオルガノポリシロキサン又はオルガノシラン、(C)比表面積50m2/g以上の補強性シリカを含有するシリコーンゴム組成物に、(D)リン酸のアルカリ金属塩を配合することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-214062号公報
【特許文献2】特開2005-029664号公報
【特許文献3】特開2001-055511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1~3において提案されている可塑化戻りの抑制方法では、シリコーンゴムコンパウンドの可塑化戻りの程度にばらつきがあることが、本開示者の検討により明らかとなった。そのため、特許文献1~3に開示されている方法では、シリコーンゴムコンパウンドの可塑化戻りを必ずしも抑制できているとはいえない。
【0010】
本開示は、経時的な可塑化戻りが抑制されたシリコーンゴムコンパウンドを提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示者は、鋭意検討した結果、シリコーンゴムコンパウンドに含まれるオルガノポリシロキサンの緩和時間が、シリコーンゴムコンパウンドの可塑化戻りに影響していることを見出した。本開示はかかる知見に基づくものである。
【0012】
本開示の一実施態様によれば、(A)平均組成式(I):
(化1)
R1
aSiO(4-a)/2 (I)
(式中、
R1は、同一または異種の非置換または置換の一価のC1~10炭化水素基であり、
全R1基中の0.01~20mol%は、C2~10アルケニル基であり、
aは、1.5~2.8である)
で示される、25℃での粘度が9,000,000~100,000,000mPa・sのオルガノポリシロキサン 100質量部、および
(B)式(II):
(化2)
R3O(SiR2
2O)mR3 (II)
(式中、
R2は、同一または異種の非置換または置換の一価のC1~10炭化水素基であり、
各R3は、各々独立して、C1~10アルキル基または水素原子であり、
mは、1~50である)
で示される、25℃での粘度が10~1,000mPa・sのオルガノポリシロキサン 0.3~10質量部
を含む、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドであって、
上記(A)成分の緩和時間τ(秒)と上記(B)成分の質量部が下記数式:
(数1)
(A)成分の緩和時間τ×0.207-14 ≦ (B)成分の質量部
を満たし、
上記(A)成分の緩和時間τは、本明細書中に開示されるレオロジー試験方法によって測定される、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本開示による可塑化戻りが抑制されたシリコーンゴムコンパウンドは、加工が容易である点で有利である。本開示によるシリコーンゴムコンパウンドは、シリコーンゴム組成物および/またはそれを硬化してなる硬化物等への加工が容易である点で特に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】試験例1において、可塑化戻り時間を評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[定義]
本開示における「一価のC1~10炭化水素基」とは、1~10個の炭素原子、および水素原子を含む基を意味する。一価のC1~C10炭化水素基は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよく、飽和または不飽和のいずれであってもよい。また、一価のC1~C10炭化水素基は、1つまたは複数の環構造を含んでいてもよい。一価のC1~C10炭化水素基は、その末端または分子鎖中に、1つまたは複数の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を有していてもよい。一価のC1~C10炭化水素基としては、これらに限定されるものではないが、例えば、C1~C10アルキル基、C2~C10アルケニル基、C2~C10アルキニル基、C3~C10シクロアルキル基、C3~C10シクロアルケニル基、C6~C10アリール基、C3~C10ヘテロアリール基等が挙げられる。
【0016】
本開示における「C1~C10アルキル基」とは、1~10個の炭素原子を含む飽和の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基を意味する。C1~C10アルキル基は、これらに限定されるものではないが、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、ヘキシル(例えば、n-ヘキシル)、ヘプチル(例えば、n-ヘプチル)、オクチル(n-オクチル、イソオクチル、2,2,4-トリメチルペンチル)、ノニル(例えば、n-ノニル)、デシル(例えば、n-デシル)等が挙げられる。本開示における「C1~C8アルキル基」は、1~8個の炭素原子を含む飽和の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基を意味する。本開示における「C1~C5アルキル基」は、1~5個の炭素原子を含む飽和の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基を意味する。
【0017】
本開示における「C2~C10アルケニル基」とは、2~10個の炭素原子を含み、少なくとも1つの不飽和二重結合を有する直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基を意味する。C2~C10アルケニル基は、これらに限定されるものではないが、例えば、エテニル(ビニル)、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、ペンテニル、へキセニル等が挙げられる。本開示における「C2~C8アルケニル基」とは、2~8個の炭素原子を含み、少なくとも1つの不飽和二重結合を有する直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基を意味する。本開示における「C2~C5アルケニル基」とは、2~5個の炭素原子を含み、少なくとも1つの不飽和二重結合を有する直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基を意味する。
【0018】
本開示における「C2~C10アルキニル基」とは、2~10個の炭素原子を含み、少なくとも1つの不飽和三重結合を有する直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基を意味する。C2~C10アルキニル基は、これらに限定されるものではないが、例えば、アセチニル、プロパルギル等が挙げられる。
【0019】
本開示における「C3~C10シクロアルキル基」とは、3~10個の炭素原子を含む飽和の単環式または二環式の炭化水素基を意味する。C3~C10シクロアルキル基は、これらに限定されるものではないが、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル等が挙げられる。
【0020】
本開示における「C3~C10シクロアルケニル基」とは、3~10個の炭素原子を含み、少なくとも1つの不飽和二重結合を有する単環式または二環式の炭化水素基を意味する。C3~C10シクロアルケニル基は、これらに限定されるものではないが、例えば、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロヘキセニル等が挙げられる
【0021】
本開示における「C6~C10アリール基」は、6~10個の炭素原子を環構成に含む、単環式、多環式(例えば、二環式または三環式)のいずれであってもよく、これらに限定されるものではないが、例えば、フェニル、ナフチル等が挙げられる。
【0022】
本開示における「C3~C10ヘテロアリール基」は、3~10個の炭素原子を環構成に含み、かつ1または複数の酸素原子、窒素原子および/または硫黄原子を環構成に含むものであれば、単環式、多環式(例えば二環式または三環式)のいずれであってもよく、これらに限定されるものではないが、例えば、フリル、チエニル、ピリジル、インドリル、キノリル、イソキノリル、イミダゾリル等が挙げられる。
【0023】
本開示における「同一または異種の非置換または置換の一価のC1~10炭化水素基」とは、上記一価のC1~10炭化水素基の1つ以上の水素原子が、置換基で置換されていなくてもよいし、同一または異種の置換基で置換されていてもよい、一価のC1~10炭化水素基を意味する。かかる置換基としては、これらに限定されるものではないが、例えば、上記一価の炭化水素基、-OH基、C1~C10アルコキシ基、アルデヒド基(-C(=O)H)、エステル基、アシルオキシ基、アミド基、アミノ基、ハロゲン基、チオール基(-SH)、イミノ基、オキシム基等が挙げられる。
【0024】
本開示における「C1~C10アルコキシ基」とは、「-O-C1~C10アルキル基」の構造を有する基を意味し、これらに限定されるものではないが、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ等が挙げられる。
【0025】
本開示における「エステル基」とは、「-C(=O)O-R」(式中、Rは、上記一価の炭化水素基を示す)の構造を有する基を意味する。
を意味する。
【0026】
本開示における「アシルオキシ基」とは、「-O-C(=O)-R」(式中、Rは、上記一価の炭化水素基を示す)の構造を有する基を意味する。
【0027】
本開示における「アミド基」とは、「-C(=O)NR(R’)」(式中、RおよびR’は、独立して、水素、または上記一価の炭化水素基を示す)の構造を有する基を意味する。アミド基は、これらに限定されるものではないが、例えば、カルバモイル基(-C(=O)NH2)、モノアルキルカルバモイル基(例えば、メチルカルバモイル基)、ジアルキルカルバモイル基(例えば、ジメチルカルバモイル基)等が挙げられる。
【0028】
本開示における「アミノ基」とは、「-NR2」(式中、各Rは、独立して、水素、または上記一価の炭化水素基を示す)で表される基を意味する。アミノ基は、すべてのRが水素の場合、第1級アミノ基であり、1つのRが水素の場合、第2級アミノ基であり、2つのRがいずれも水素でない場合、第3級アミノ基である。
【0029】
本開示における「ハロゲン基」としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0030】
本開示における「イミノ基」とは、「RN=C(R’)-」(式中、RおよびR’は、独立して、任意の置換基を示す)の構造を有する基を意味する。
【0031】
本開示における「オキシム基」とは、「R2C=N-O-」(式中、各Rは、独立して、任意の置換基を示す)の構造を有する基を意味する。
【0032】
[ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド]
本開示の一実施態様によれば、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドにおいて、(A)平均組成式(I):
(化3)
R1
aSiO(4-a)/2 (I)
(式中、
R1は、同一または異種の非置換または置換の一価のC1~10炭化水素基であり、
全R1基中の0.01~20mol%は、C2~10アルケニル基であり、
aは、1.5~2.8である)
で示される、25℃での粘度が9,000,000~100,000,000mPa・sのオルガノポリシロキサン 100質量部、および
(B)式(II):
(化4)
R3O(SiR2
2O)mR3 (II)
(式中、
R2は、同一または異種の非置換または置換の一価のC1~10炭化水素基であり、
各R3は、各々独立して、C1~10アルキル基または水素原子であり、
mは、1~50である)
で示される、25℃での粘度が10~1,000mPa・sのオルガノポリシロキサン 0.3~10質量部
を含み、
上記(A)成分の緩和時間τ(秒)と上記(B)成分の質量部が下記数式:
(数2)
(A)成分の緩和時間τ×0.207-14 ≦ (B)成分の質量部
を満たし、
上記(A)成分の緩和時間τは、本明細書中に開示されるレオロジー試験方法によって測定される。以下、本開示のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドについて詳述する。
【0033】
[(A)成分]
本開示の一実施態様によれば、(A)成分は、(A)平均組成式(I):
(化5)
R1
aSiO(4-a)/2 (I)
(式中、
R1は、同一または異種の非置換または置換の一価のC1~10炭化水素基であり、
全R1基中の0.01~20mol%は、C2~10アルケニル基であり、
aは、1.5~2.8である)
で示される、25℃での粘度が9,000,000~100,000,000mPa・sのオルガノポリシロキサン(本開示において「(A)成分」ともいう)である。
【0034】
(A)成分は、直鎖状であってもよいし、分岐状の構造および/または環状の構造を含むものであってもよい。本開示の一実施態様によれば、(A)成分は、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖され、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなる直鎖状構造を有するものである。
【0035】
R1は、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のC1~10アルキル基;シクロヘキシル基等のC1~10シクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のC6~C10アリール基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基等のC2~C10アルケニル基;シクロヘキセニル基等のC3~C10シクロアルケニル基;等の非置換の一価の炭化水素基、クロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等の置換の一価の炭化水素基等である。
【0036】
(A)成分中のR1におけるC2~10アルケニル基は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。R1におけるC2~10アルケニル基は、分子鎖末端のケイ素原子、分子鎖途中のケイ素原子、またはこれらの両者に結合していてもよい。ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを硬化させた際に優れた機械的特性を付与する観点からは、上記C2~10アルケニル基は、(A)成分の分子鎖末端に少なくとも存在することが好ましい。R1におけるC2~10アルケニル基としては、好ましくは、C2~8アルケニル基であり、より好ましくは、C2~5アルケニル基であり、さらに好ましくは、ビニル基である。
【0037】
(A)成分において、全R1基中のC2~10アルケニル基は、好ましくは、0.01~約10mol%、より好ましくは、0.01~約5mol%、さらに好ましくは、0.01~約1mol%、よりさらに好ましくは、0.01~約0.5mol%である。
【0038】
本開示の一実施態様によれば、(A)成分は、1分子中に、ケイ素原子と結合するC2~10アルケニル基を2個以上(好ましくは、2~約50個、より好ましくは2~約30個、さらに好ましくは2~約20個)含有する。
【0039】
本開示の一実施態様によれば、(A)成分において、全R1の約90mol%以上(好ましくは、95mol%以上、より好ましくは、98mol%以上、さらに好ましくは99mol%以上)がC1~10アルキル基(好ましくは、C1~8アルキル基、より好ましくは、C1~5アルキル基、さらに好ましくは、メチル基)である。本開示の好ましい実施態様によれば、(A)成分において、R1は、C2~10アルケニル基以外がすべてC1~10アルキル基(好ましくは、C1~8アルキル基、より好ましくは、C1~5アルキル基、さらに好ましくは、メチル基)である、すなわち、R1は、C2~10アルケニル基とC1~10アルキル基(好ましくは、C1~8アルキル基、より好ましくは、C1~5アルキル基、さらに好ましくは、メチル基)とから構成される。
【0040】
aは、好ましくは、約1.8~約2.5であり、より好ましくは、約1.95~約2.05である。
【0041】
(A)成分の25℃での粘度は、好ましくは、9,000,000~約70,000,000mPa・sであり、より好ましくは、9,000,000~約50,000,000mPa・sであり、さらに好ましくは、9,000,000~約40,000,000mPa・sである。(A)成分がかかる粘度を有することで、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを硬化させた際に、高温下でも優れた機械強度、引裂き強さ、耐亀裂性等が付与される点で有利である。なお、本開示における(A)成分の粘度は、特段の記載がない限り、25℃において回転粘度計(せん断速度:0.1/s)を用いて測定した際の粘度(DIN EN ISO 3219)を意味する。
【0042】
(A)成分の平均重合度(平均鎖長)は、特段限定されるものではないが、例えば、約3,000~約10,000、好ましくは、約4,000~約8,000、より好ましくは、約5,000~約7,000であってもよい。
【0043】
(A)成分は、1種であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
【0044】
本開示の好ましい実施態様によれば、(A)成分は、式(Ia):
(化6)
-Si(CH3)2O- (Ia)
で示されるジメチルシロキサン単位、および式(Ib):
(化7)
-Si(CH3)(CH=CH2)O- (Ib)
で示されるメチルビニルシロキサン単位を分子内に含む。
【0045】
本開示のさらに好ましい実施態様によれば、(A)成分は、約90mol%以上(好ましくは、約95mol%以上、より好ましくは、約98mol%以上、さらに好ましくは約99molmol%以上、なおさらに好ましくは、約99.5mol%以上)の上記式(Ia)で示されるジメチルシロキサン単位、および、0.01~約10mol%(好ましくは、0.01~約5mol%、より好ましくは、0.01~約2mol%、さらに好ましくは、0.01~約1mol%、さおさらに好ましくは、0.01~約0.5mol%)の上記式(Ib)で示されるメチルビニルシロキサン単位を分子内に含む。
【0046】
[(B)成分]
本開示の一実施態様によれば、(B)成分は、(B)式(II):
(化8)
R3O(SiR2
2O)mR3 (II)
(式中、
R2は、同一または異種の非置換または置換の一価のC1~10炭化水素基であり、
各R3は、各々独立して、C1~10アルキル基または水素原子であり、
mは、1~50である)
で示される、25℃での粘度が10~1,000mPa・sのオルガノポリシロキサン(本開示において「(B)成分」ともいう)である。
【0047】
(B)成分は、直鎖状であってもよいし、分岐状の構造および/または環状の構造を含むものであってもよい。本開示の一実施態様によれば、(B)成分は、分子鎖両末端がジメチルシラノール基で封鎖され、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなる直鎖状構造を有するものである。
【0048】
R2は、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のC1~10アルキル基;シクロヘキシル基等のC1~10シクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のC6~C10アリール基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基等のC2~C10アルケニル基;シクロヘキセニル基等のC3~C10シクロアルケニル基;等の非置換の一価の炭化水素基、クロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等の置換の一価の炭化水素基等である。より好ましくは、R2は、C1~10アルキル基(好ましくは、C1~8アルキル基、より好ましくは、C1~5アルキル基、さらに好ましくは、メチル基)を少なくとも含む。
【0049】
本開示の一実施態様によれば、(B)成分におけるR2は、C2~C10アルケニル基(好ましくは、C2~8アルケニル基であり、より好ましくは、C2~5アルケニル基であり、さらに好ましくは、ビニル基)を含む。(B)成分中のR2においてC2~10アルケニル基を含む場合、C2~10アルケニル基は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。R2におけるC2~10アルケニル基としては、好ましくは、C2~8アルケニル基であり、より好ましくは、C2~5アルケニル基であり、さらに好ましくは、ビニル基である。
【0050】
(B)成分にけるR2としてC2~C10アルケニル基を含む場合、全R2基中のC2~10アルケニル基は、例えば、約0~約100mol%、好ましくは、約0~約50mol%、より好ましくは、約0~約25mol%であってもよい。
【0051】
本開示の一実施態様によれば、(B)成分は、1分子中に、ケイ素原子と結合するC2~10アルケニル基を0個以上(好ましくは、0~約10個、より好ましくは0~約5個、さらに好ましくは0~2個)含有する。
【0052】
本開示の一実施態様によれば、(B)成分において、全R2の0~約100mol%(好ましくは、0~約50mol%、より好ましくは、0~約30mol%、さらに好ましくは0~約10mol%)がC1~10アルキル基(好ましくは、C1~8アルキル基、より好ましくは、C1~5アルキル基、さらに好ましくは、メチル基)である。本開示の一実施態様によれば、(B)成分において、R2は、C2~10アルケニル基以外がすべてC1~10アルキル基(好ましくは、C1~8アルキル基、より好ましくは、C1~5アルキル基、さらに好ましくは、メチル基)である、すなわち、R2は、C2~10アルケニル基とC1~10アルキル基(好ましくは、C1~8アルキル基、より好ましくは、C1~5アルキル基、さらに好ましくは、メチル基)とから構成される。
【0053】
本開示の好ましい実施態様によれば、(B)成分における両末端の構造の少なくとも一方は、下記式II-1:
(化II-1)
R3O-Si(CH3)R2O- (II-1)
(式中、R3およびR2は、上記で定義されるとおりである)
を有する。本開示のさらに好ましい実施態様によれば、(B)成分における両末端の構造のいずれもが、上記式II-1の構造を有する。
【0054】
本開示の別の好ましい実施態様によれば、(B)成分における両末端の構造の少なくとも一方は、下記式II-2:
(化II-2)
R3O-Si(CH2CH)R2O- (II-2)
(式中、R3およびR2は、上記で定義されるとおりである)
を有する。本開示のさらに好ましい実施態様によれば、(B)成分における両末端の構造のいずれもが、上記式II-2の構造を有する。
【0055】
各R3は、好ましくは、少なくとも一方が水素原子である。より好ましくは、各R3は、いずれも水素原子である。本開示の一実施態様によれば、(B)成分は、少なくとも一方の末端が、ジオルガノシラノール末端(より好ましくは、ジアルキルシラノール末端、さらに好ましくは、ジメチルシラノール末端)である。本開示の好ましい実施態様によれば、(B)成分は、両末端が、ジオルガノシラノール末端(より好ましくは、ジアルキルシラノール末端、さらに好ましくは、ジメチルシラノール末端)である。各R3の少なくとも一方が(好ましくは、いずれもが)水素原子である場合、他の成分(例えば、後述するシリカ等の(C)成分)の表面の水酸基と水素結合し、親和性を高める点で有利である。
【0056】
本開示の好ましい実施態様によれば、(B)成分は、分子中にSiOHを約0.1~約10質量%、好ましくは約0.5~約8質量%、より好ましくは約1~約5質量%有するものである。
【0057】
mは、好ましくは、1~約50であり、より好ましくは、2~約30であり、さらに好ましくは、3~約25である。
【0058】
(B)成分の25℃での粘度は、好ましくは、10~約500mPa・sであり、より好ましくは、約15~約100mPa・sであり、さらに好ましくは、約20~約80mPa・sである。(B)成分がかかる粘度を有することで、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド中に含まれる(B)成分を減量することが可能となり、(B)成分の大量配合によるゴム物性の低下を防止することができる点で有利である。なお、本開示における(B)成分の粘度は、特段の記載がない限り、25℃において回転粘度計(せん断速度:0.9/s)を用いて測定した際の粘度(DIN EN ISO 3219)を意味する。
【0059】
(B)成分は、1種であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
【0060】
(B)成分の量は、好ましくは、100質量部の上記(A)成分を基準として、約0.4~約8質量部、より好ましくは、約0.5~約7.5質量部である。
【0061】
本開示の好ましい実施態様によれば、(B)成分は、式(IIa):
(化IIa)
HOSi(CH3)2O(Si(CH3)2O)m-2Si(CH3)2OH (IIa)
(式中、mは、上記で定義されるとおりである)
で示されるオルガノポリシロキサンを含む。
【0062】
本開示の一実施態様によれば、上記(A)成分の緩和時間τ(秒)と上記(B)成分の質量部が下記数式:
(数3)
(A)成分の緩和時間τ×0.207-14 ≦ (B)成分の質量部
を満たす。
【0063】
本開示における「緩和時間」とは、(A)成分に一定の歪みを与え、その歪みが解消するまでの時間を意味する。本開示における上記(A)成分の緩和時間τは、後述するレオロジー試験方法によって測定される。
【0064】
[(C)成分]
本開示の一実施態様によれば、上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、(C)シリカ(本開示において「(C)成分」ともいう)をさらに含む。
【0065】
(C)成分は、特段限定されるものではなく、乾式シリカ(例えば、フュームドシリカ)、湿式シリカ等であってもよい。(C)成分は、上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド、後述するミラブル型シリコーンゴム組成物および/またはそれらの硬化物において良好な機械物性を付与する観点からは、乾式シリカが好ましい。
【0066】
本開示の一実施態様によれば、(C)成分は、上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド、後述するミラブル型シリコーンゴム組成物および/またはそれらの硬化物においてより良好な機械物性を付与しうることから、補強性シリカであることが好ましい。
【0067】
(C)成分としては、任意の表面積を有するものを使用してもよい。(C)成分としては、例えば、BET法による比表面積が、約50m2/g以上、好ましくは、約100~約500m2/g、より好ましくは、約100~約300m2/gのものを使用してもよい。上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド、後述するミラブル型シリコーンゴム組成物および/またはそれらの硬化物において良好な強度を得る観点からは、(C)成分は、比表面積が約50m2/g以上のものであることが好ましい。
【0068】
(C)成分は、そのまま用いてもよいし、表面処理剤と組み合わせて用いてもよいし、表面処理剤等で予め処理したものを用いてもよい。上記表面処理剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、アルキルアルコキシシラン、アルキルクロロシラン、アルキルシラザン、シランカップリング剤、チタネート系処理剤、脂肪酸エステル等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を(同時にまたは異なるタイミングで)組み合わせて用いてもよい。
【0069】
(C)成分の量は、本開示の目的を達成することができる限り、特段限定されるものではない。上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドが上記(C)成分を含む場合、(C)成分の量は、例えば、100質量部の上記(A)成分に対して、約0.1~約150質量部、好ましくは、約1~約100質量部、より好ましくは約2~約70質量部、さらに好ましくは、約3~約40質量部である。上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドおよび/またはその硬化物における圧縮永久ひずみを防止する観点からは、(C)成分の量は、100質量部の上記(A)成分に対して、150質量部以下であることが好ましい。
【0070】
[(D)成分、(E)成分]
本開示の一実施態様によれば、上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、(D)充填材(本開示において「(D)成分」ともいう)および(E)無官能オルガノシロキサン(本開示において「(E)成分」ともいう)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含む。
【0071】
(D)成分は、上記(C)成分のシリカ(好ましくは補強性シリカ)と区別する観点から、「充填材(但し、シリカを除く)」、好ましくは「充填材(但し、補強性シリカを除く)」と定義することが好ましい。
【0072】
(D)成分としては、任意の充填材を使用してもよく、無機充填材であってもよいし、有機充填材であってもよい。(D)成分としては、これらに限定されるものではないが、例えば、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ケイ酸マグネシウム(タルク)、ケイ酸アルミニウム(クレー)、珪藻土、メタケイ酸カルシウム、ゼオライト、ハイドロタルサイト、石英、アルミナ、等の無機充填材;グラファイト、カーボンブラック、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(例えば、ケブラー(登録商標))、セルロースナノファイバー、膨張黒鉛等の有機充填材;が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
(E)成分としては、任意の無官能オルガノシロキサンを使用してもよい。(E)成分としては、これらに限定されるものではないが、例えば、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ポリジメチルシロキサン等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
(D)成分の量および(E)成分の量は、本開示の目的を達成することができる限り特段限定されるものではなく、当業者であれば適宜調整しうる。
【0075】
[その他成分]
上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、本開示の目的を達成することができる限り、必要に応じて上述した成分以外に、離型剤、顔料、反応抑制剤、耐熱付与剤、難燃剤、分散剤、防腐剤、安定剤等のその他の成分を含んでいてもよい。なお、上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、後述するミラブル型シリコーンゴム組成物と区別する観点から、硬化剤を含まないことが好ましい。
【0076】
離型剤としては、例えば、カルボン酸系離型剤、エステル系離型剤、エーテル系離型剤、ケトン系離型剤、アルコール系離型剤等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
顔料としては、例えば、酸化チタン、アルミナケイ酸、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、カーボンブラック、希土類酸化物、セリウムシラノレート、アルミニウムオキシド、アルミニウムヒドロキシド、チタンイエロー、クロムイエロー、コバルトブルー等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
反応抑制剤としては、例えば、アセチレン系化合物、ヒドラジン類、トリアゾール類、フォスフィン類、メルカプタン類等(例えば、アセチレンアルコール、ビニル基含有ポリオルガノポリシロキサン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタールアミド、トリアリルホスフェート、アセチレン基含有シラン、シロキサン)等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
耐熱付与剤としては、例えば、カーボンブラック、有機酸セリウム、水酸化セリウム、酸化セリウム、酸化鉄、有機酸鉄、ヒュームド二酸化チタン等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸亜鉛、シリカ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、セラミック粉、シリコーンゴム硬化物の粉砕粉、ハロゲン化合物、リン化合物等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
これらその他の成分の量は、本開示の目的を達成することができる限り、特段限定されるものではなく、当業者であれば適宜調整しうる。
【0082】
[緩和時間τの測定のためのレオロジー試験方法]
本開示における上記(A)成分の緩和時間τの測定のためのレオロジー試験方法は、以下の装置および測定手順とされる。なお、1%の歪とは、コーン・プレート型の回転粘度計においてずり速度Dを下記式で表した際、D=0.01となる状態を意味し、100%の歪とは、コーン・プレート型の回転粘度計においてずり速度Dを下記式で表した際、D=1となる状態を意味する。下記式のφとしては、一般に0.005~0.05(0.3~3°相当)のものを用いる。
<装置>
円錐-平板(コーン・プレート)型回転粘度計(モジュラーコンパクトレオメータ、MCR 302、Anton Paar社製)
<測定手順>
手順1.以下の条件下で試料((A)成分)に予備せん断を与える。
治具 PP25
d(試料厚み) 1mm
温度 25℃
γ(歪) 1%
f(周波数) 100Hz
時間 100秒
手順2.歪を除去し、20秒間のインターバルを与える。
手順3.モーターの回転により試料に100%の歪を瞬時に与え、応力の変化を観測する(観測時間:1000秒、測定ポイント数:264点(対数昇降:0.01~30秒))。
手順4.手順3の開始を起点として、応力が100Paを下回るまでに要した時間を緩和時間τとする。
【0083】
(数4)
D=0.1047N/Φ
D:ずり速度
N:回転速度(rpm)
Φ:コーン面とプレートとの間の角度(radian)
【0084】
本開示者は、(A)成分の緩和時間τが加成性を示すことを本検討により明らかにした。したがって、(A)成分が2種以上の混合物である場合、(A)成分の緩和時間τは、各種のオルガノポリシロキサンの緩和時間τを上記のとおり測定し、以下の数式により計算することができる。
【0085】
(数5)
緩和時間τ=(τ1×M1+τ2×M2+[...]+τn×Mn)/(M1+M2+[...]+Mn)
τ1: オルガノポリシロキサン1の緩和時間
τ2: オルガノポリシロキサン2の緩和時間
τn: オルガノポリシロキサンnの緩和時間
M1: オルガノポリシロキサン1の質量部
M2: オルガノポリシロキサン2の質量部
Mn: オルガノポリシロキサンnの質量部
n: 自然数
【0086】
例えば、(A)成分が3種(M1、M2、M3)の混合物である場合、(A)成分の緩和時間τは、「(τ1×M1+τ2×M2+τ3×M3)/(M1+M2+M3)」の値となる。
【0087】
[ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの製造方法]
上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、任意の方法で製造することができる。
例えば、上記(A)成分および上記(B)成分、ならびに、必要に応じて上記(C)成分、上記(D)成分、上記(E)成分および/または上記その他の成分を、任意の混練機で混合する方法が挙げられる。混練する際の温度、時間等の条件は、当業者であれば適宜調整しうる。
【0088】
[ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの用途]
上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、後述するミラブル型シリコーンゴム組成物および/またはシリコーンゴム硬化物を製造するための中間体として有利に使用することができる。
【0089】
本開示の別の実施態様によれば、ミラブル型シリコーンゴム組成物を製造するための、上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドが提供される。本開示の別の実施態様によれば、ミラブル型シリコーンゴム組成物を製造するための、上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの使用が提供される。
【0090】
本開示の別の実施態様によれば、シリコーンゴム硬化物を製造するための、上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドが提供される。本開示の別の実施態様によれば、シリコーンゴム硬化物を製造するための、上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの使用が提供される。
【0091】
[ミラブル型シリコーンゴム組成物]
【0092】
本開示の別の実施態様によれば、上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドおよび(F)硬化剤(本開示において「(F)成分」ともいう)を含む、ミラブル型シリコーンゴム組成物が提供される。
【0093】
[(F)成分]
(F)成分としては、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを所望の硬度に硬化させうるものである限り、特段限定されるものではない。(F)成分としては、例えば、付加硬化型の硬化剤、過酸化物硬化型の硬化剤等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
付加型の硬化剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、貴金属(例えば、白金、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、ルテニウム等の白金族金属)、またはこれらを微粒子状の担体材料(例えば、活性炭、酸化アルミニウム、酸化ケイ素)に固定したもの;貴金属のハロゲン化物(例えば、白金ハロゲン化物、ジシクロペンタジエン-白金ジクロライド、シクロオクタジエン-白金ジクロライド、シクロペンタジエン-白金ジクロライド);貴金属の錯体(例えば、白金-オレフィン錯体、白金-アルコール錯体、白金-アルコラート錯体、白金-ビニルシロキサン錯体);鉄を含むもの(例えば、鉄-カルボニル錯体触媒、シクロペンタジエニル基を配位子として有する鉄触媒、ターピリジン系配位子やターピリジン系配位子とビストリメチルシリルメチル基とを有する鉄触媒、ビスイミノピリジン配位子を有する鉄触媒、ビスイミノキノリン配位子を有する鉄触媒、アリール基を配位子として有する鉄触媒、不飽和基を有する環状または非環状のオレフィン基を有する鉄触媒、不飽和基を有する環状または非環状のオレフィニル基を有する鉄触媒);その他、コバルト、バナジウム、サマリウム、ニッケルおよび/またはマンガンを含むもの;等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
(F)成分として付加硬化型の硬化剤を使用する場合には、オルガノハイドロジェンポリシロキサン等を併用してもよい。オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、トリメチルシロキシ両末端メチルハイドロジェンポリシロキサン、トリメチルシロキシ両末端ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、ジメチルハイドロジェンシロキシ両末端ジメチルポリシロキサン、ジメチルハイドロジェンシロキシ両末端ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ両末端メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ両末端メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ両末端メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、ジメチルハイドロジェンシロキシ両末端メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、ジメチルハイドロジェンシロキシ両末端メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位と(CH3)3SiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C6H5)3SiO1/2単位とからなる共重合体などや、上記例示化合物において、メチル基の一部又は全部を他のアルキル基や、フェニル基等に置換したもの等が挙げられる。
【0096】
本開示の一実施態様によれば、上記(F)成分は、付加型の硬化剤を含む。本開示の好ましい実施態様によれば、上記(F)成分が付加型の硬化剤の場合、上記ミラブル型シリコーンゴム組成物は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンをさらに含む。
【0097】
本開示の一実施態様によれば、上記(F)成分は、有機過酸化物硬化型の硬化剤を含む。
【0098】
有機過酸化物硬化型の硬化剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p-メチルベンゾイルパーオキサイド、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーベンゾエート、1,6-ヘキサンジオール-ビス-t-ブチルパーオキシカーボネート、1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボキシ)ヘキサン等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
(F)成分は、微粒子固体等にマイクロカプセル化したもの(例えば、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル樹脂又はシリコーン樹脂)等に上記貴金属等を含有させたもの)であってもよい。また、(F)成分は、包接化合物(例えば、シクロデキストリン)に包接させたものであってもよい。
【0100】
(F)成分の量は、上記ミラブル型シリコーンゴム組成物を所望の硬度に硬化しうる量である限り特段限定されるものではない。(F)成分の量は、例えば、上記ミラブル型シリコーンゴム組成物 100質量部に対して、約0.05~約10質量部、好ましくは約0.1~約8質量部、より好ましくは約0.2~約5質量部であってもよい。
【0101】
また、(F)成分が付加型の硬化剤の場合、上記ミラブル型シリコーンゴム組成物中の付加型の硬化剤の量は、当業者であれば、所望の硬化温度、硬化時間に応じて適宜調整することができる。付加型の硬化剤の量は、例えば、上記ミラブル型シリコーンゴム組成物の全量に対して、硬化剤中の金属元素として、約0.01~約1,000ppm、好ましくは約0.1~約500ppm、より好ましくは約1~約100ppmであってもよい。
【0102】
上記ミラブル型シリコーンゴム組成物は、任意の方法で製造することができる。例えば、上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドと上記(F)成分とを、任意の条件(温度、時間)で混合する方法等が挙げられる。これら条件は、当業者であれば適宜調整しうる。
【0103】
上記ミラブル型シリコーンゴム組成物は、硬化させることでシリコーンゴム硬化物として使用してもよい。本開示の別の実施態様によれば、シリコーンゴム硬化物を製造するための、上記ミラブル型シリコーンゴム組成物が提供される。本開示の別の実施態様によれば、シリコーンゴム硬化物を製造するための、上記ミラブル型シリコーンゴム組成物の使用が提供される。
【0104】
[シリコーンゴム硬化物]
本開示の別の実施態様によれば、上記ミラブル型シリコーゴム組成物を硬化してなる、シリコーンゴム硬化物が提供される。
【0105】
上記シリコーンゴム硬化物は、任意の方法で製造することができる。例えば、上記シリコーンゴム組成物を、任意の条件(温度、時間、圧力等)で硬化させる方法等が挙げられる。これら条件は、当業者であれば適宜調整しうる。
【0106】
[キット]
本開示の別の実施態様によれば、上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドおよび上記(F)成分を含む、ミラブル型シリコーンゴム組成物用のキットが提供される。
【0107】
本開示の別の実施態様によれば、上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドおよび上記(F)成分を含む、シリコーンゴム硬化物用のキットが提供される。
【0108】
また、本開示の一実施態様によれば、以下が提供される。
[1](A)平均組成式(I):
(化10)
R1
aSiO(4-a)/2 (I)
(式中、
R1は、同一または異種の非置換または置換の一価のC1~10炭化水素基であり、
全R1基中の0.01~20mol%は、C2~10アルケニル基であり、
aは、1.5~2.8である)
で示される、25℃での粘度が9,000,000~100,000,000mPa・sのオルガノポリシロキサン 100質量部、および
(B)式(II):
(化11)
R3O(SiR2
2O)mR3 (II)
(式中、
R2は、同一または異種の非置換または置換の一価のC1~10炭化水素基であり、
各R3は、各々独立して、C1~10アルキル基または水素原子であり、
mは、1~50である)
で示される、25℃での粘度が10~1,000mPa・sのオルガノポリシロキサン 0.3~10質量部
を含む、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドであって、
上記(A)成分の緩和時間τ(秒)と上記(B)成分の質量部が下記数式:
(数6)
(A)成分の緩和時間τ×0.207-14 ≦ (B)成分の質量部
を満たし、
上記(A)成分の緩和時間τは、本明細書中に開示されるレオロジー試験方法によって測定される、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド。
[2]上記(A)成分の緩和時間τが、30~100である、[1]に記載のミラブル型シリコーンゴムコンパウンド。
[3]上記(B)成分が、式(IIa):
(化12)
HO(Si(CH3)2O)mH (IIa)
(式中、mは、上記で定義されるとおりである)
で示されるオルガノポリシロキサンを含む、[1]または[2]に記載のミラブル型シリコーンゴムコンパウンド。
[4](C)シリカをさらに含む、[1]~[3]のいずれかに記載のミラブル型シリコーンゴムコンパウンド。
[5](D)充填材、および
(E)無官能オルガノシロキサン
からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載のミラブル型シリコーンゴムコンパウンド。
[6][1]~[5]のいずれかに記載のミラブル型シリコーンゴムコンパウンド、および
(F)硬化剤
を含む、ミラブル型シリコーンゴム組成物。
[7]上記(F)成分が、付加硬化型の硬化剤を含む、[6]に記載のミラブル型シリコーンゴム組成物。
[8]上記(F)成分が、有機過酸化物硬化型の硬化剤を含む、[6]に記載のミラブル型シリコーンゴム組成物。
[9][6]~[8]のいずれかに記載のミラブル型シリコーゴム組成物を硬化してなる、シリコーンゴム硬化物。
【実施例0109】
以下に実施例を挙げて、本開示をさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されない。なお、後述する実施例および参考例で使用した原料は、以下のとおりである。
・オルガノポリシロキサン生ゴム1:ジメチルシロキサン単位 99.73±0.03mol%およびビニルメチルシロキサン単位 0.29±0.07mol%からなり、25℃における粘度が14,000,000~22,000,000mPa・sのオルガノポリシロキサン(Wacker Chimie社製)
・オルガノポリシロキサン生ゴム2:ジメチルシロキサン単位 99.95±0.01mol%およびビニルメチルシロキサン単位 0.08±0.04mol%からなり、25℃における粘度が22,000,000~31,000,000mPa・sのオルガノポリシロキサン(Wacker Chimie社製)
・ジメチルシラノール両末端ジメチルポリシロキサン1:両末端にジメチルシラノール基を有し、25℃における粘度が30~50mPa・sであるジメチルポリシロキサン(Wacker Chimie社製)
・ジメチルシラノール両末端ジメチルポリシロキサン2:両末端にジメチルシラノール基を有し、25℃における粘度が30~50mPa・sであるジメチルポリシロキサン(Wacker Chimie社製)
・シリカ:BET法比表面積が130~170m2/gの未処理ヒュームドシリカ(HDK V15D、Wacker Chimie社製)
・石英粉末(CRYSTALITE 5X、株式会社龍森製)
【0110】
後述する実施例および比較例において使用したオルガノポリシロキサン生ゴム1またはオルガノポリシロキサン生ゴム2の緩和時間τは、以下の方法により測定した。なお、1%の歪とは、コーン・プレート型の回転粘度計においてずり速度Dを下記式で表した際、D=0.01となる状態を意味し、100%の歪とは、コーン・プレート型の回転粘度計においてずり速度Dを下記式で表した際、D=1となる状態を意味する。下記式のφとしては、一般に0.005~0.05(0.3~3°相当)のものを用いる。
<装置>
円錐-平板(コーン・プレート)型回転粘度計(モジュラーコンパクトレオメータ、MCR 302、Anton Paar社製)
<測定手順>
手順1.以下の条件下でオルガノポリシロキサン生ゴム(試料)に予備せん断を与えた。
治具 PP25
d(試料厚み) 1mm
温度 25℃
γ(歪) 1%
f(周波数) 100Hz
時間 100秒
手順2.歪を除去し、20秒間のインターバルを与えた。
手順3.モーターの回転により試料に100%の歪を瞬時に与え、応力の変化を観測した(観測時間:1000秒、測定ポイント数:264点(対数昇降:0.01~30秒))。
手順4.手順3の開始を起点として、応力が100Paを下回るまでに要した時間を緩和時間τとした。
【0111】
(数7)
D=0.1047N/Φ
D:ずり速度
N:回転速度(rpm)
Φ:コーン面とプレートとの間の角度(radian)
【0112】
なお、後述する実施例および参考例においては、オルガノポリシロキサン生ゴム1とオルガノポリシロキサン生ゴム2の混合物(本開示において「生ゴム混合物」ともいう)の緩和時間τを以下の式により算出した。なお、後述する実施例および参考例では、オルガノポリシロキサン生ゴム1とオルガノポリシロキサン生ゴム2の合計が100質量部であるため、下記数式の分母(M1+M2)が100となる。
(数8)
生ゴム混合物の緩和時間τ=(τ1×M1+τ2×M2)/(M1+M2)
τ1:オルガノポリシロキサン生ゴム1の緩和時間
τ2:オルガノポリシロキサン生ゴム2の緩和時間
M1:オルガノポリシロキサン生ゴム1の質量部
M2:オルガノポリシロキサン生ゴム2の質量部
【0113】
[実施例1]
100質量部のオルガノポリシロキサン生ゴム1(緩和時間τが63.0秒のもの)を25℃でニーダーに投入し、窒素雰囲気下、6.47質量部のジメチルシラノール両末端ジメチルポリシロキサン1を1/4量ずつ、0.5時間ごとに4回に分けて投入し、混合した。この混合物をさらに0.5時間混合し、実施例1のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを得た。
実施例1のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、可塑化戻りがないものであった。
【0114】
[実施例2~4]
実施例1において、緩和時間τが63.0秒のオルガノポリシロキサン生ゴム1に替えて表1に記載の緩和時間τを有するオルガノポリシロキサン生ゴム1を使用し、ジメチルシラノール両末端ジメチルポリシロキサン1の質量部を表1に記載の量に変更したこと以外、同様の方法を実施し、実施例2~4のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを得た。
実施例2~4のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、可塑化戻りがないものであった。
【0115】
[実施例5]
100質量部のオルガノポリシロキサン生ゴム1(緩和時間τが31.0秒のもの)を25℃でニーダーに投入し、窒素雰囲気下、0.46質量部のジメチルシラノール両末端ジメチルポリシロキサン1を1/2量、8.8質量部のシリカ、および15.8質量部の石英粉末を加え、0.5時間混合した。得られた混合物に、ジメチルシラノール両末端ジメチルポリシロキサン1の残部を加え、1.5時間混合することで、実施例5のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを得た。
実施例5のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、可塑化戻りがないものであった。
【0116】
[実施例6~8]
実施例5において、緩和時間τが31.0秒のオルガノポリシロキサン生ゴム1に替えて表1に記載の緩和時間τを有するオルガノポリシロキサン生ゴム1を使用し、ジメチルシラノール両末端ジメチルポリシロキサン1、シリカおよび粉末石英の質量部を表1に記載の量に変更したこと以外、同様の方法を実施し、実施例6~8のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを得た。
実施例6~8のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、可塑化戻りがないものであった。
【0117】
[実施例9]
28.6質量部のオルガノポリシロキサン生ゴム1および71.4質量部のオルガノポリシロキサン生ゴム2を、窒素雰囲気下、25℃でニーダーに投入し、略均一になるまで1時間混合した(得られた生ゴム混合物の緩和時間τは60.7秒)。
この生ゴム混合物に、窒素雰囲気下、1.01質量部のジメチルシラノール両末端ジメチルポリシロキサン2を1/2量および27.2質量部のシリカを加え、0.5時間混合した。得られた混合物に、1.01質量部のジメチルシラノール両末端ジメチルポリシロキサン2を1/3量を加え、窒素雰囲気下で0.5時間混合した。ここに、ジメチルシラノール両末端ジメチルポリシロキサン2の残部(1/6量)を加えて、窒素雰囲気下、150℃で3.5時間混合することで、実施例9のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを得た。
実施例9のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、可塑化戻りがないものであった。
【0118】
[実施例10]
実施例9において、緩和時間τが60.7秒のオルガノポリシロキサン生ゴム混合物に替えて表1に記載の緩和時間τを有するオルガノポリシロキサン生ゴム混合物を使用し、1.01質量部のジメチルシラノール両末端ジメチルポリシロキサン2に替えて0.60質量部のジメチルシラノール両末端ジメチルポリシロキサン1および1.13質量部のジメチルシラノール両末端ジメチルポリシロキサン2の混合物を使用し、シリカの質量部を表1に記載の量に変更したこと以外、同様の方法を実施し、実施例10のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを得た。
実施例10のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、可塑化戻りがないものであった。
【0119】
[実施例11~16]
実施例9において、緩和時間τが60.7秒のオルガノポリシロキサン生ゴム混合物に替えて表1に記載の緩和時間τを有するオルガノポリシロキサン生ゴム混合物を使用し、ジメチルシラノール両末端ジメチルポリシロキサン2およびシリカの質量部を表1に記載の量に変更したこと以外、同様の方法を実施し、実施例11~16のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを得た。
実施例11~16のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、可塑化戻りがないものであった。
【0120】
[参考例1~4]
実施例1において、緩和時間τが63.0秒のオルガノポリシロキサン生ゴム1に替えて表1に記載の緩和時間τを有するオルガノポリシロキサン生ゴム1を使用し、ジメチルシラノール両末端ジメチルポリシロキサン1の質量部を表1に記載の量に変更したこと以外、同様の方法を実施し、参考例1~4のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを得た。
参考例1~4のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、可塑化戻り時間が10秒以上であった。
【0121】
[参考例5~7]
実施例5において、緩和時間τが31.0秒のオルガノポリシロキサン生ゴム1に替えて表1に記載の緩和時間τを有するオルガノポリシロキサン生ゴム1を使用し、ジメチルシラノール両末端ジメチルポリシロキサン1、シリカおよび粉末石英の質量部を表1に記載の量に変更したこと以外、同様の方法を実施し、実施例6~8のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを得た。
参考例5~7のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、可塑化戻り時間が10秒以上であった。
【0122】
[参考例8および9]
実施例9において、緩和時間τが60.7秒のオルガノポリシロキサン生ゴム混合物に替えて表1に記載の緩和時間τを有するオルガノポリシロキサン生ゴム混合物を使用し、ジメチルシラノール両末端ジメチルポリシロキサン2およびシリカの質量部を表1に記載の量に変更したこと以外、同様の方法を実施し、参考例8および9のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを得た。
参考例8および9のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、可塑化戻り時間が10秒以上であった。
【0123】
[試験例1:可塑化戻り時間の評価]
実施例1~16および参考例1~9のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを用いて、以下の方法により可塑化戻り時間を評価した。
製造直後の各ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド 500gを、ギャップ幅を3mmに調整した直径8インチの2本ロール(R-2046、日新科学株式会社製)上で寄せ板の間隙90mmのバンクに乗せた。ロールミリングの開始時を基準(0秒)とし、各ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドがフロントロールに巻き付き、その表面が外観、蝕感ともに滑らかになった(練り戻った)時点までの時間(可塑化戻り時間)を測定した。可塑化戻り時間が10秒未満のものを。可塑化戻りがないと判断した。結果を表1に示す。
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
試験例1の結果からも明らかなとおり、実施例1~16のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、可塑化戻りがないものであった。そのため、本開示のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、保存安定性に優れ、加工性等の低下を抑制できうる点で有利である。
【0128】
理論に拘束されるものではないが、歪を与えたときに歪むのは(A)成分中のシリコーンポリマーであり、ポリマー分子鎖間の干渉が強いほど歪の解消に時間を要すると考えられる。上記分子鎖間の干渉としては、分岐構造による分子鎖の絡み合いや、分子間力によるクロスリンクが考えられる。可塑化戻りした際に可塑化戻りが解消しにくいポリマーは、上記分子鎖間の干渉が強いポリマーであると考えられる。したがって、緩和時間τの長いシリコーンポリマー(例えば、参考例1~9)は、可塑化戻りが解消しにくいと考えられる。
【0129】
試験例1の結果をプロット(縦軸:(B)成分の質量部/横軸:(A)成分の緩和時間)したものが、
図1である。
図1からも明らかなとおり、下記数式を満たした場合において、可塑化戻りがないミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを得ることができると考えられる。
【0130】
(数9)
(A)成分の緩和時間τ×0.207-14 ≦ (B)成分の質量部
【0131】
緩和時間については、特開2023-089198号公報において、ゴム組成物((A)成分のようなポリマーではない)を用いて、ムーニー緩和速度を測定する方法が記載されている。しかしながら、この測定方法は、100℃の温度、2rpmの回転速度で4分間せん断をかけてから測定する方法であり、ゴム組成物等の非常に粘度の高い物質における緩和時間の測定には使用可能であるが、上記(A)成分のような粘度の比較的低い物質における緩和時間の測定が実質的に不可能である。
一方、本開示における緩和時間の測定方法は、上記(A)成分のような粘度の比較的低い物質の緩和時間も測定可能な点で有利である。さらに、本開示における緩和時間の測定方法において、測定対象のポリマー(例えば、上記(A)成分)の緩和時間と、得られるコンパウンド(例えば、上記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド)の特性との間に相関が出現することは、全くもって意外な事実である。