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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099652
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20250626BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20250626BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20250626BHJP
   F16C 33/54 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C19/38
F16C33/58
F16C33/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216481
(22)【出願日】2023-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 陽三
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA47
3J701BA49
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA69
3J701CA13
3J701FA33
3J701GA11
3J701XB03
3J701XB19
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】複列の内輪及び円すいころを有する軸受装置において、円すいころの大径側端面と内輪の鍔面との間における焼付きの発生を抑制する。
【解決手段】軸受装置1は、内周側に軸方向の一方側及び他方側に形成される一対の第1軌道面11及び第2軌道面12を有する外輪10と、外周側に内輪軌道面21を有し、軸方向の一方側及び他方側に配置される一対の第1の内輪20a及び第2の内輪20bと、複数の円すいころ30と、一対の保持器40と、を備え、第1の内輪20a及び第2の内輪20bは、軸方向の端面同士の間に隙間を有して同軸状に配置されると共に、軸方向における第1の内輪20a及び第2の内輪20bの間の径方向内側から前記隙間に向けて潤滑油が供給され、外輪10は、第1軌道面11及び第2軌道面12の間の内周面10aから径方向内側に突出し、かつ、前記隙間に挿入される突出部15を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周側に、軸方向の一方側及び他方側に形成される一対の外輪軌道面を有する外輪と、
外周側に、内輪軌道面、前記内輪軌道面の軸方向一端側に設けられる小鍔部、及び前記内輪軌道面の軸方向他端側に設けられる大鍔部を有し、軸方向の一方側及び他方側に配置される一対の内輪と、
前記外輪軌道面及び前記内輪軌道面の間に配置される複数の円すいころと、
軸方向一方側の前記外輪軌道面及び前記内輪軌道面の間、及び、軸方向他方側の前記外輪軌道面及び前記内輪軌道面の間、において前記複数の円すいころをそれぞれ保持する一対の保持器と、
を備え、
前記円すいころの大径側端面は、前記大鍔部の鍔面に転がり接触し、
前記一対の内輪は、軸方向の端面同士の間に隙間を有して同軸状に配置されると共に、軸方向における前記一対の内輪の間の径方向内側から前記隙間に向けて潤滑油が供給され、
前記外輪は、前記一対の外輪軌道面の間の内周面から径方向内側に突出し、かつ、前記隙間に挿入される突出部を有する、軸受装置。
【請求項2】
前記保持器は、前記円すいころの小径側端面と対向する小径円環部を有し、
前記突出部の内径は、前記小径円環部の内径以下である、請求項1記載の軸受装置。
【請求項3】
前記突出部の内径は、前記小鍔部の外径以上である、請求項1又は請求項2記載の軸受装置。
【請求項4】
前記突出部の内周面は、
軸方向一方側に向かって内径寸法が拡大する第1の傾斜面と、
軸方向他方側に向かって内径寸法が拡大する第2の傾斜面と、を有する、請求項1又は請求項2記載の軸受装置。
【請求項5】
前記保持器は、前記円すいころの小径側端面と対向する小径円環部を有し、
前記外輪の中心線を含む断面において、前記第1の傾斜面の延長線、及び、前記第2の傾斜面の延長線は、前記小径円環部と前記小鍔部との間を通る、請求項4記載の軸受装置。
【請求項6】
前記外輪は、外周面においてギヤの歯を備える、請求項1又は請求項2記載の軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のトランスミッションに用いられる遊星歯車機構において、プラネタリギヤの支持に用いられる軸受装置が、特許文献1に開示されている。前記軸受装置は、複列の内輪及び円すいころを有する複列円すいころ軸受である。
【0003】
図6は、従来の軸受装置の中心線を含む位置における断面図であり、潤滑油の流れを示す説明図である。図6に示す従来の軸受装置101は、複列円すいころ軸受である。図6に示すように、軸受装置101は、外輪110、内輪120、円すいころ130、及び保持器140を備える。
【0004】
外輪110は、内周面110aにおいて第1の外輪軌道面111及び第2の外輪軌道面112を有する。内輪120は、軸方向一方側に配置された第1の内輪120aと、軸方向の他方側に配置された第2の内輪120bとを含む。内輪120は、外周面に形成された内輪軌道面121と、小鍔部122及び大鍔部123とを有する。第1の内輪120a及び第2の内輪120bは、双方の小鍔部122同士を隙間を有して対向させると共に、同軸状に配置される。円すいころ130は、小径側端面131、大径側端面132、及び外周面133を有する。円すいころ130は、第1の外輪軌道面111と内輪軌道面121との間、及び、第2の外輪軌道面112と内輪軌道面121との間のそれぞれにおいて複数配置される。保持器140は、小径円環部141及びポケット142を有する。保持器140は、軸方向一方側に配置された第1の保持器140aと、軸方向他方側に配置された第2の保持器140bとを含む。第1の保持器140aは、第1の外輪軌道面111及び内輪軌道面121の間において複数の円すいころ130を保持する。第2の保持器140bは、第2の外輪軌道面112及び内輪軌道面121の間において複数の円すいころ130を保持する。
【0005】
軸受装置101は、中心線C0を軸150の中心線C2と一致させた状態で、軸150に対して装着される。軸受装置101は、軸150に螺合された一対のナット153によって軸方向に挟まれて軸150に装着されると共に、予圧が付与される。軸受装置101は、図示しない油圧ポンプから軸孔151及び給油孔152を介して、第1の内輪120a及び第2の内輪120bの間の隙間に向けて、径方向内側から潤滑油が供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-185977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図6に示す従来の軸受装置101において、給油孔152から供給された潤滑油は、遠心力の作用によって径方向外側に流れ、外輪110の内周面110aに到達した後に軸方向一方側及び他方側へ流れる。このとき潤滑油は、外輪110と保持器140との間に流入し、第1の外輪軌道面111及び第2の外輪軌道面112に沿って流れる。この場合、小径円環部141と小鍔部122との間に流入する潤滑油が少なくなり、大径側端面132と大鍔部123の鍔面124との間の摺動部に潤滑油が行き渡りにくくなる。このため、従来の軸受装置101は、前記潤滑部の焼付きが懸念される。
【0008】
本開示は、複列の内輪及び円すいころを有する軸受装置において、円すいころの大径側端面と内輪の鍔面との間における焼付きの発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の軸受装置は、内周側に、軸方向の一方側及び他方側に形成される一対の外輪軌道面を有する外輪と、外周側に、内輪軌道面、前記内輪軌道面の軸方向一端側に設けられる小鍔部、及び前記内輪軌道面の軸方向他端側に設けられる大鍔部を有し、軸方向の一方側及び他方側に配置される一対の内輪と、前記外輪軌道面及び前記内輪軌道面の間に配置される複数の円すいころと、軸方向一方側の前記外輪軌道面及び前記内輪軌道面の間、及び、軸方向他方側の前記外輪軌道面及び前記内輪軌道面の間、において前記複数の円すいころをそれぞれ保持する一対の保持器と、を備え、前記円すいころの大径側端面は、前記大鍔部の鍔面に転がり接触し、前記一対の内輪は、軸方向の端面同士の間に隙間を有して同軸状に配置されると共に、軸方向における前記一対の内輪の間の径方向内側から前記隙間に向けて潤滑油が供給され、前記外輪は、前記一対の外輪軌道面の間の内周面から径方向内側に突出し、かつ、前記隙間に挿入される突出部を有する。
【0010】
本開示によれば、複列の内輪及び円すいころを有する軸受装置において、円すいころの大径側端面と内輪の鍔面との間における焼付きの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の第1の実施形態に係る軸受装置の中心線を含む位置における断面図である。
図2図2は、図1に示す断面図の部分拡大図である。
図3図3は、軸に対する軸受装置の装着状態、及び、潤滑油の流れを示す説明図である。
図4図4は、本開示の第2の実施形態に係る軸受装置の中心線を含む位置における断面図である。
図5図5は、図4に示す断面図の部分拡大図である。
図6図6は、従来の軸受装置の中心線を含む位置における断面図であり、潤滑油の流れを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<本開示の実施形態の概要>
以下、本開示の発明の実施形態の概要を列記して説明する。
【0013】
(1)本開示の軸受装置は、内周側に、軸方向の一方側及び他方側に形成される一対の外輪軌道面を有する外輪と、外周側に、内輪軌道面、前記内輪軌道面の軸方向一端側に設けられる小鍔部、及び前記内輪軌道面の軸方向他端側に設けられる大鍔部を有し、軸方向の一方側及び他方側に配置される一対の内輪と、前記外輪軌道面及び前記内輪軌道面の間に配置される複数の円すいころと、軸方向一方側の前記外輪軌道面及び前記内輪軌道面の間、及び、軸方向他方側の前記外輪軌道面及び前記内輪軌道面の間、において前記複数の円すいころをそれぞれ保持する一対の保持器と、を備える。前記円すいころの大径側端面は、前記大鍔部の鍔面に転がり接触する。前記一対の内輪は、軸方向の端面同士の間に隙間を有して同軸状に配置されると共に、軸方向における前記一対の内輪の間の径方向内側から前記隙間に向けて潤滑油が供給される。前記外輪は、前記一対の外輪軌道面の間の内周面から径方向内側に突出し、かつ、前記隙間に挿入される突出部を有する。
【0014】
前記軸受装置によれば、潤滑油を突出部によって案内し、外輪の内周面より径方向内側に流すことができる。これにより、複列の内輪及び円すいころを有する軸受装置において、円すいころの大径側端面と内輪の鍔面との間における焼付きの発生を抑制することができる。
【0015】
(2)前記(1)の形態に係る軸受装置において、前記保持器は、前記円すいころの小径側端面と対向する小径円環部を有し、前記突出部の内径は、前記小径円環部の内径以下であると好ましい。
この構成によれば、突出部によって、潤滑油を保持器の小径円環部と内輪の小鍔部との間に案内することができる。このような構成により、円すいころの大径側端面と内輪の鍔面との間に潤滑油を供給することが可能となる。
【0016】
(3)前記(1)又は(2)の形態に係る軸受装置において、前記突出部の内径は、前記小鍔部の外径以上であると好ましい。
この構成によれば、突出部によって、潤滑油を保持器の小径円環部と内輪の小鍔部との間へ確実に案内することができる。このような構成により、円すいころの大径側端面と内輪の鍔面との間に潤滑油を供給することが可能となる。
【0017】
(4)前記(1)又は(2)の形態に係る軸受装置において、前記突出部の内周面は、軸方向一方側に向かって内径寸法が拡大する第1の傾斜面と、軸方向他方側に向かって内径寸法が拡大する第2の傾斜面と、を有すると好ましい。
この構成によれば、潤滑油を第1の傾斜面及び第2の傾斜面によって案内し、外輪の内周面より径方向内側に流すことができる。これにより、複列の内輪及び円すいころを有する軸受装置において、円すいころの大径側端面と内輪の鍔面との間における焼付きの発生を抑制することができる。
【0018】
(5)前記(4)の形態に係る軸受装置において、前記保持器は、前記円すいころの小径側端面と対向する小径円環部を有し、前記外輪の中心線を含む断面において、前記第1の傾斜面の延長線、及び、前記第2の傾斜面の延長線は、前記小径円環部と前記小鍔部との間を通ると好ましい。
この構成によれば、第1の傾斜面及び第2の傾斜面によって、潤滑油を保持器の小径円環部と内輪の小鍔部との間へ確実に案内することができる。このような構成により、円すいころの大径側端面と内輪の鍔面との間に潤滑油を供給することが可能となる。
【0019】
(6)前記(1)から(5)の何れかの形態に係る軸受装置において、前記外輪は、外周面においてギヤの歯を備えると好ましい。
この構成によれば、ギヤの駆動により生じる遠心力によって潤滑油が飛散しやすい条件において、円すいころの大径側端面と内輪の鍔面との間における焼付きの発生を抑制することができる。
【0020】
[軸受装置の全体構成]
図1は、本開示の第1の実施形態に係る軸受装置の中心線を含む位置における断面図である。図2は、図1に示す断面図の部分拡大図である。図1及び図2には、本開示の第1の実施形態に係る軸受装置1が示される。図1及び図2に示す本開示の軸受装置1は、複列の内輪及び複列の円すいころを有する複列円すいころ軸受である。以下の説明では、第1の実施形態に係る軸受装置1を、第1軸受装置1Aとも称する。なお、以下の説明において、単に「軸受装置1」と称する場合は、第1軸受装置1A、及び、後で説明する第2の実施形態に係る軸受装置1(図4に示す第2軸受装置1B参照)において共通する構成を説明する。
【0021】
図1及び図2に示すように、軸受装置1は、外輪10と、外輪10の径方向内方に設けられる一対の内輪20と、外輪10及び内輪20の間に設けられる複数の円すいころ30と、円すいころ30を保持する一対の保持器40とを備える。
【0022】
外輪10、内輪20、及び保持器40の各説明における「軸方向」「径方向」について定義する。「軸方向」とは、外輪10、内輪20、保持器40それぞれの中心線に沿った方向である。なお、その軸方向には、前記中心線に平行な方向も含まれる。「径方向」とは、それぞれの中心線に直交する方向である。なお、それぞれの中心線を中心とした円に沿う方向は周方向である。各図において、外輪10、内輪20、保持器40それぞれの中心線が一致した状態でのその中心線の符号を「C1」としている。
【0023】
円すいころ30の説明における「軸方向」について定義する。円すいころ30の「軸方向」とは、円すいころ30の中心線に沿った方向である。外輪10、内輪20、保持器40の「軸方向」と区別するために、円すいころ30の軸方向を「ころ軸方向」と称する場合がある。なお、ころ軸方向には、中心線に平行な方向も含まれる。
【0024】
図1及び図2に示す外輪10は、軸受鋼又は機械構造用鋼等を用いて形成された環状の部材である。図1及び図2に示すように、本開示の軸受装置1において、外輪10は、内周面10aの軸方向一方側に形成されたテーパ状の第1軌道面(外輪軌道面)11と、内周面10aの軸方向他方側に形成されたテーパ状の第2軌道面(外輪軌道面)12とを備える。
【0025】
本実施形態の外輪10は、外周面において、ギヤの歯13をさらに備える。本実施形態の外輪10は、ギヤであり、遊星歯車機構を構成するプラネタリギヤとして使用される。プラネタリギヤである外輪10は、図示しないサンギヤ及び/又はリングギヤの回転に応じて駆動される。なお、本開示の軸受装置において、外輪はギヤでなくてもよく、この場合、外輪の歯は省略されてもよい。
【0026】
図1及び図2に示す内輪20は、軸受鋼又は機械構造用鋼等を用いて形成された環状の部材である。図1及び図2に示すように、本開示の軸受装置1において、内輪20は、軸方向の一方側に配置される第1の内輪20aと、軸方向の他方側に配置される第2の内輪20bとを含む。内輪20(第1の内輪20a及び第2の内輪20b)は、外周面に形成されたテーパ状の内輪軌道面21を有する。第1の内輪20aの内輪軌道面21は、第1軌道面11と対向する。第2の内輪20bの内輪軌道面21は、第2軌道面12と対向する。
【0027】
内輪20(第1の内輪20a及び第2の内輪20b)は、小鍔部22及び大鍔部23をさらに有する。小鍔部22及び大鍔部23は、それぞれ径方向外方に突出している。第1の内輪20a及び第2の内輪20bは、双方の小鍔部22の軸方向の端面同士の間に隙間を有して同軸状に配置される。
【0028】
円すいころ30は、軸受鋼等を用いて形成された円すい台形状の部材である。円すいころ30は、小径側端面31、大径側端面32、及び外周面33を有する。小径側端面31は、ころ軸方向の一方側に位置する直径の小さい円形の部位であり、内輪20の小鍔部22に対向する。大径側端面32は、ころ軸方向の他方側に位置する直径の大きい円形の部位であり、内輪20の大鍔部23の鍔面24に対向する。円すいころ30は、第1軌道面11と第1の内輪20aの内輪軌道面21との間に複数配置される。この円すいころ30は、第1軌道面11及び内輪軌道面21に転がり接触する。円すいころ30は、第2軌道面12と第2の内輪20bの内輪軌道面21との間に複数配置される。この円すいころ30は、第2軌道面12及び内輪軌道面21に転がり接触する。小径側端面31は、小鍔部22に転がり接触する。大径側端面32は、大鍔部23の鍔面24に転がり接触する。
【0029】
保持器40は、合成樹脂製であり、射出成形によって円環状に成形される。本実施形態の保持器40は、例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)製である。保持器40は、潤滑油に対する耐性(耐油性)を有し、比較的、硬質であり、弾性変形し難い。
【0030】
保持器40は、円すいころ30を収容するポケット42を複数有し、複数の円すいころ30を周方向に等しい間隔をあけて保持する。保持器40は、軸方向の一端に形成された円環状の小径円環部41を備える。小径円環部41は、ポケット42に収容された円すいころ30の小径側端面31と対向する。
【0031】
本開示の軸受装置1において、保持器40は、第1保持器40a及び第2保持器40bを含む。第1保持器40a及び第2保持器40bは、小径円環部41の軸方向端面を互いに対向させて、同軸状に配置される。双方の小径円環部41の軸方向端面は、隙間を有して軸方向に対向している。第1保持器40aは、軸方向一方側に配置される。第1保持器40aは、第1軌道面11と第1の内輪20aの内輪軌道面21とに転がり接触する複数の円すいころ30を保持する。第2保持器40bは、軸方向他方側に配置される。第2保持器40bは、第2軌道面12と第2の内輪20bの内輪軌道面21とに転がり接触する複数の円すいころ30を保持する。
【0032】
図1及び図2に示すように、本開示の軸受装置1において、外輪10は、突出部15を備える。突出部15は、第1軌道面11及び第2軌道面12の間の内周面10aから径方向内側に突出された円環状の部位である。突出部15は、第1の内輪20a及び第2の内輪20bの間に形成された隙間に向かって径方向内側に延びて、前記隙間に挿入されている。また、突出部15は、対向する小径円環部41の間に形成された隙間に挿入されている。
【0033】
[軸受装置の使用状態について]
図3は、軸に対する軸受装置の装着状態、及び、潤滑油の流れを示す説明図である。図3に示すように、軸受装置1は、軸50に対して装着して使用される。本実施形態の軸50は、プラネタリキャリアに設けられたプラネタリギヤを支持する軸である。軸50は、潤滑油を供給するための軸孔51及び給油孔52を備える。各図において、軸50の中心線の符号を「C2」としている。
【0034】
軸受装置1は、中心線C1を軸50の中心線C2と一致させた状態で内輪20に軸50が挿通され、軸50に対して装着される。軸受装置1は、軸50に螺合された一対のナット53によって軸方向に挟まれて軸50に装着されると共に、予圧が付与される。
【0035】
図3に示すように、軸受装置1は、図示しない油圧ポンプから軸孔51及び給油孔52を介して、第1の内輪20a及び第2の内輪20bの間の隙間に向けて、径方向内側から潤滑油が供給される。
【0036】
[第1軸受装置について]
図1図3に示すように、第1軸受装置1Aにおいて、外輪10に設けられる突出部15は、内周面16を有する。
【0037】
図3に示すように、第1軸受装置1Aにおいて、給油孔52から径方向外側に吐出された潤滑油は、遠心力によって径方向外側へ流れ、突出部15に到達する。次に潤滑油は、内周面16に沿って軸方向に流れ、小径円環部41と小鍔部22との間に到達する。次に潤滑油は、小径円環部41と小鍔部22との間に流れ込んで円すいころ30に向かって流れる。そして潤滑油は、外周面33に沿って流れると共に、円すいころ30の大径側端面32と大鍔部23との間に到達する。第1軸受装置1Aは、このようにして、大径側端面32と大鍔部23の鍔面24との間に潤滑油を供給する。これにより、大径側端面32と鍔面24との間における焼付きの発生を抑制することができる。
【0038】
図2に示すように、第1軸受装置1Aにおいて、内周面16の内径φPは、保持器40の小径円環部41の内径φQ以下の寸法であると好ましい(φP≦φQ)。この場合、潤滑油を、小径円環部41より径方向内側において、内周面16に沿って流すことができる。これにより、潤滑油が第1軌道面11及び第2軌道面12に沿って流れることを抑制でき、小径円環部41と小鍔部22との間へ流れる潤滑油の減少を抑制することができる。
【0039】
また、第1軸受装置1Aにおいて、内周面16の内径φPは、内輪20の小鍔部22の外径φR以上の寸法であるとより好ましい(φR≦φP)。この場合、潤滑油を、小鍔部22より径方向外側において、内周面16に沿って流すことができる。これにより、大径側端面32と大鍔部23の鍔面24との間に潤滑油を確実に案内することができる。
【0040】
第1軸受装置1Aは、内周面16の内径φPと、小径円環部41の内径φQと、内輪20の小鍔部22の外径φRとの寸法関係を、(φR≦φP≦φQ)の関係とすることによって、内周面16に到達した潤滑油を、小径円環部41と小鍔部22との間へ確実に流入させることができる。このような構成の第1軸受装置1Aによれば、大径側端面32と鍔面24との間に潤滑油を確実に供給することができる。
【0041】
[第2軸受装置について]
図4は、本開示の第2の実施形態に係る軸受装置の中心線を含む位置における断面図である。図5は、図4に示す断面図の部分拡大図である。図4及び図5には、本開示の第2の実施形態に係る軸受装置1が示される。以下の説明では、第2の実施形態に係る軸受装置1を、第2軸受装置1Bとも称する。
【0042】
図4及び図5に示すように、第2軸受装置1Bにおいて、突出部15の内周面16は、第1の傾斜面(以下、第1傾斜面16aと称する)及び第2の傾斜面(以下、第2傾斜面16bと称する)を含んでおり、この点が第1軸受装置1A(図1参照)と異なっている。なお、第2軸受装置1Bは、その他の構成については第1軸受装置1Aと共通している。
【0043】
第2軸受装置1Bにおいて、第1傾斜面16a及び第2傾斜面16bは、小径円環部41と小鍔部22との間に潤滑油を案内することが可能な傾斜を有する。第2軸受装置1Bにおいて、突出部15に到達した潤滑油は、第1傾斜面16a及び第2傾斜面16bに沿って流れる。このとき、潤滑油は、小径円環部41と小鍔部22との間に向かって流れる。このような構成の第2軸受装置1Bによれば、大径側端面32と鍔面24との間に潤滑油を確実に供給することができる。これにより、大径側端面32と鍔面24との間における焼付きの発生を抑制することができる。
【0044】
図5に示すように、第2軸受装置1Bにおいて、第1傾斜面16a及び第2傾斜面16bは、それぞれの延長線L1及び延長線L2が、小径円環部41と小鍔部22との間を通過すると好ましい。なお、第1傾斜面16aの延長線L1は、第2軸受装置1Bの中心線C1を含む断面において、第1傾斜面16aを延長した線であり、第2傾斜面16bの延長線L2は、中心線C1を含む断面において、第2傾斜面16bを延長した線である。このような構成とした場合、突出部15に到達した潤滑油を、第1傾斜面16a及び第2傾斜面16bによって案内し、小径円環部41と小鍔部22との間へ確実に流入させることができる。このような構成の第2軸受装置1Bによれば、大径側端面32と鍔面24との間に潤滑油を確実に供給することができる。
【0045】
[本実施形態の作用及び効果]
(1)上記実施形態の軸受装置1は、内周側に、軸方向の一方側及び他方側に形成される一対の外輪軌道面(第1軌道面11及び第2軌道面12)を有する外輪10と、外周側に、内輪軌道面21、内輪軌道面21の軸方向一端側に設けられる小鍔部22、及び内輪軌道面21の軸方向他端側に設けられる大鍔部23を有し、軸方向の一方側及び他方側に配置される一対の内輪20(第1の内輪20a及び第2の内輪20b)と、各軌道面11,12及び内輪軌道面21の間に配置される複数の円すいころ30と、第1軌道面11及び内輪軌道面21の間、及び、第2軌道面12及び内輪軌道面21の間、において複数の円すいころ30をそれぞれ保持する一対の保持器40a,40bと、を備える。円すいころ30の大径側端面32は、大鍔部23の鍔面24に転がり接触する。一対の内輪20(第1の内輪20a及び第2の内輪20b)は、軸方向の端面同士の間に隙間を有して同軸状に配置されると共に、軸方向における第1の内輪20a及び第2の内輪20bの間の径方向内側から前記隙間に向けて潤滑油が供給される。外輪10は、第1軌道面11及び第2軌道面12の間の内周面10aから径方向内側に突出し、かつ、前記隙間に挿入される突出部15を有する。
【0046】
上記実施形態の軸受装置1によれば、潤滑油を突出部15によって案内し、外輪10の内周面10aより径方向内側に流すことができる。これにより、複列の内輪20及び円すいころ30を有する軸受装置1において、円すいころ30の大径側端面32と内輪20の鍔面24との間における焼付きの発生を抑制することができる。
【0047】
(2)上記実施形態の軸受装置1において、保持器40は、円すいころ30の小径側端面31と対向する小径円環部41を有する。突出部15の内径φPは、小径円環部41の内径φQ以下である。
上記実施形態の構成によれば、突出部15によって、潤滑油を保持器40の小径円環部41と内輪20の小鍔部22との間に案内することができる。このような構成により、潤滑油を円すいころ30の大径側端面32と内輪20の鍔面24との間へ供給することが可能となる。
【0048】
(3)上記実施形態の軸受装置1において、突出部15の内径φPは、小鍔部22の外径φR以上である。
上記実施形態の構成によれば、突出部15によって、潤滑油を保持器40の小径円環部41と内輪20の小鍔部22との間へ確実に案内することができる。このような構成により、潤滑油を円すいころ30の大径側端面32と内輪20の鍔面24との間へ確実に供給することが可能となる。
【0049】
(4)上記実施形態の軸受装置1において、突出部15の内周面16は、軸方向一方側に向かって内径寸法が拡大する第1傾斜面16aと、軸方向他方側に向かって内径寸法が拡大する第2傾斜面16bと、を有する。
上記実施形態の構成によれば、潤滑油を第1傾斜面16a及び第2傾斜面16bによって案内し、外輪10の内周面10aより径方向内側に流すことができる。これにより、複列の内輪20及び円すいころ30を有する軸受装置1において、円すいころ30の大径側端面32と内輪20の鍔面24との間における焼付きの発生を抑制することができる。
【0050】
(5)上記実施形態の軸受装置1において、保持器40は、円すいころ30の小径側端面31と対向する小径円環部41を有する。外輪10の中心線C1を含む断面において、第1傾斜面16aの延長線L1、及び、第2傾斜面16bの延長線L2は、小径円環部41と小鍔部22との間を通る。
上記実施形態の構成によれば、第1傾斜面16a及び第2傾斜面16bによって、潤滑油を、保持器40の小径円環部41と内輪20の小鍔部22との間へ確実に案内することができる。このような構成により、潤滑油を円すいころ30の大径側端面32と内輪20の鍔面24との間へ確実に供給することが可能となる。
【0051】
(6)上記実施形態の軸受装置1において、外輪10は、外周面においてギヤの歯13を備える。
上記実施形態の構成によれば、ギヤである外輪10の駆動により生じる遠心力によって潤滑油が飛散しやすい条件において、円すいころ30の大径側端面32と内輪20の鍔面24との間における焼付きの発生を抑制することができる。
【0052】
今回開示した形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0053】
1 軸受装置
10 外輪
10a 内周面
11 第1軌道面(外輪軌道面)
12 第2軌道面(外輪軌道面)
13 歯
15 突出部
16 内周面
16a 第1傾斜面(第1の傾斜面)
16b 第2傾斜面(第2の傾斜面)
20 内輪
20a 第1の内輪
20b 第2の内輪
21 内輪軌道面
22 小鍔部
23 大鍔部
24 鍔面
30 円すいころ
31 小径側端面
32 大径側端面
40 保持器
41 小径円環部
φP (突出部の)内径
φQ (小径円環部の)内径
φR (小鍔部の)外径
図1
図2
図3
図4
図5
図6