(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099692
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20250626BHJP
C08J 7/043 20200101ALI20250626BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20250626BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
C08J7/043 Z
B32B27/00 L
B32B27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216561
(22)【出願日】2023-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 健翔
(72)【発明者】
【氏名】早野 知子
(72)【発明者】
【氏名】貫井 啓介
【テーマコード(参考)】
4F006
4F071
4F100
【Fターム(参考)】
4F006AA35
4F006BA11
4F006BA12
4F006CA08
4F006EA05
4F071AA46
4F071AD02
4F071AD06
4F071AF62Y
4F071AG28
4F071AH12
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F100AK41A
4F100AK52B
4F100BA02
4F100EH46
4F100EJ86
4F100JA02A
4F100JK07A
4F100JL14B
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】70℃~140℃での加熱を伴う加工工程を経た際のしわ発生や加工ずれを抑制することができるポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】30℃における寸法に対する幅方向の70℃~140℃の寸法変化率が0.00%以上0.20%以下であるポリエステルフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
30℃における寸法に対する幅方向の70℃~140℃の寸法変化率が0.00%以上0.20%以下であるポリエステルフィルム。
【請求項2】
前記ポリエステルフィルムの30℃における寸法に対する長手方向の70℃~140℃の寸法変化率が-0.10%以上0.30%以下である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記ポリエステルフィルムの長手方向の100℃でのF5値が48MPa以上80MPa以下である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記ポリエステルフィルムの厚みが15μm以上500μm以下である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記ポリエステルフィルムの片面に離型層を有してなる請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱を伴う加工工程を経た際の寸法安定性が高いポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、機械特性や熱特性、コストの観点から、工業材料用途として広範に用いられている。中でも、昨今のスマートフォンや電気自動車、自動運転の普及に伴う電子部材、特に、積層セラミックコンデンサ(以下、MLCCということがある)の需要拡大に応じて、その製造に使用されるポリエステルフィルムの消費量も増加することが見込まれている。MLCCは以下の工程を経て製造される。離型層を塗布した基材フィルム上に誘電体ペーストを塗工、乾燥し、内部電極印刷後に誘電体ペーストからなる固形物を離型フィルムから剥離する。得られた誘電体シートを積層、プレスして圧縮後、所定の大きさに切断し、焼成した後に外部電極を鍍金することで完成する。
【0003】
MLCC製造用の基材フィルムに求められる特性として厚みの均一性、異物や粗大突起等の欠陥がないこと、誘電体ペースト乾燥時や内部電極印刷時に加熱することから、加工温度領域での寸法安定性が挙げられる。また、MLCC製造用の基材フィルムは一般的にポリエステルフィルムの片面に離型層が積層されているが、この離型層は離型成分を含有する溶剤をポリエステルフィルム片面に塗工後に加熱乾燥する工程を経て積層されている。従って離型層積層工程においても加工温度領域での寸法安定性は重要となる。これまでに寸法安定性を向上させたポリエステルフィルムを提供する技術として、特許文献1ではポリエステルフィルムの表面粗さと結晶化度を規定することで、ポリエステルフィルム製造時にフィルムロールとして巻き取った際のしわ発生を抑制した熱転写インクリボン用ポリエステルフィルムが、特許文献2ではポリエステルフィルムの表面粗さと動摩擦係数を規定することで、局所的な弛み欠点のない転写材用ポリエステルフィルムロールが、それぞれ開示されている。また積層セラミックコンデンサの製造工程の基材として用いる場合に好適なポリエステルフィルムとしては、ポリエステルフィルムの長手方向の屈折率と両面の表面粗さを規定した特許文献3や、ポリエステルフィルムの長手方向及び幅方向のヤング率と80℃~140℃における長手方向の寸法変化率を規定した特許文献4が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-144243号公報
【特許文献2】特開2018-123318号公報
【特許文献3】特開2015-174357号公報
【特許文献4】特開2023-39921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、MLCCが小型化、大容量化される傾向に伴い、誘電体シートの厚みは益々薄膜化されている。加えて、自動運転のような信頼性が特に重要視される分野への利用も増加している。その為、従来の基材フィルムではMLCCの品質への影響が小さかったが、加工時に基材フィルムに生じる微細なしわに起因する誘電体シートの厚み不良も、MLCCの品質や歩留まりに大きく影響するようになってきた。またMLCC製造時には、内部電極の印刷された誘電体シートを基材フィルムから剥離して多数積層する工程を経るが、基材フィルムの寸法安定性が低いと、積層後の内部電極の印刷ずれが生じる原因にもなる。
【0006】
一般的にポリエステルフィルムを使用した加工工程では、フィルム幅方向には張力が加えられていないことから、加工時に生じるしわや電極の印刷ずれに対してはフィルム幅方向の寸法安定性が特に重要となる。また加工時に生じるしわの中でも、加工時に熱を加える工程でのしわ発生抑制等の為には、加工温度領域における寸法安定性が重要となる。例えばMLCC製造時においては離型層塗工、誘電体シート形成、内部電極印刷といった工程で加熱を伴う加工工程を経るが、離型層塗工時には90℃~140℃に、誘電体シート形成時には50℃~100℃に、内部電極印刷時には40℃~120℃に加熱する例が示されている。従ってポリエステルフィルムのガラス転移温度以上140℃以下での寸法安定性を向上させることが、前記不具合を抑制することに効果的である。
【0007】
これまでに特許文献1から3のような150℃や190℃での加熱収縮率について規定された寸法安定性の高いポリエステルフィルムについては数多く開示されているが、MLCC製造工程での微細などを抑制する為には、140℃以下の温度領域での特に幅方向の寸法安定性を高度に制御する必要がある。
【0008】
本発明の課題は、70℃~140℃での加熱を伴う加工工程を経た際のしわ発生や加工ずれを抑制することができるポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、以下の構成とすることで、上記の課題を解決したポリエステルフィルムとすることができることを見出し本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明の好ましい一態様は以下の構成からなる。
(1)30℃における寸法に対する幅方向の70℃~140℃の寸法変化率が0.00%以上0.20%以下であるポリエステルフィルム。
(2)前記ポリエステルフィルムの30℃における寸法に対する長手方向の70℃~140℃の寸法変化率が-0.10%以上0.30%以下である(1)に記載のポリエステルフィルム。
(3)前記ポリエステルフィルムの長手方向の100℃でのF5値が48MPa以上80MPa以下である(1)または(2)に記載のポリエステルフィルム。
(4)前記ポリエステルフィルムの厚みが15μm以上500μm以下である(1)~(3)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
(5)前記ポリエステルフィルムの片面に離型層を有してなる(1)~(4)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、70℃~140℃での加熱を伴う加工工程を経た際のしわ発生や加工ずれを抑制することができるポリエステルフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0013】
本発明は、30℃における寸法に対する幅方向の70℃~140℃の寸法変化率が0.00%以上0.20%以下であるポリエステルフィルムに関する。
【0014】
本発明のポリエステルフィルムにおけるポリエステルとは、二塩基酸とグリコールを構成成分とするポリエステルである。芳香族二塩基酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、ナトリウムスルホイソフタル酸、ジブロモテレフタル酸などを用いることができる。脂環族二塩基酸としては、蓚酸、琥珀酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸などを用いることができる。グリコールとしては、脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコールなどを用いることができる。芳香族ジオールとしては、ナフタレンジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[4(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ヒドロキノンなどを用いることができる。脂環族ジオールとしては、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなどを用いることができる。
【0015】
上記ポリエステルは公知の方法で製造することができ、固有粘度は下限0.50、上限0.80のものを用いることが好ましい。更に好ましくは下限0.55、上限0.75である。なお、固有粘度の測定は、オルトクロロフェノール中、25℃で測定した溶液粘度から、下式で計算した値を用いる。
ηsp/C=[η]+K[η]2・C
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)-1であり、Cは、溶媒100mlあたりの溶解ポリマー重量(g/100ml、通常1.2)、Kはハギンス定数(0.343とする)である。また、溶液粘度、溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定する。単位は[dl/g]で示す。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムは、単層構造であっても二層以上の積層構造であってもよい。二層構造の場合はポリエステルA層とポリエステルB層からなるA層/B層の積層構造が、三層構造の場合はポリエステルA層とポリエステルB層からなるA層/B層/A層や、ポリエステルA層とポリエステルB層に加えてポリエステルC層を用いたA層/B層/C層の積層構造が挙げられる。また必要に応じて四層以上の構成にすることも可能である。上記ポリエステルフィルム表面に凹凸を形成することで、ポリエステルフィルムの製膜工程や加工工程における易滑性を付与することができる。ポリエステルフィルム表面に凹凸を形成させる方法としては、最表層を構成する層に粒子を含有せしめたり、三層以上の積層構造の場合は最表層を無粒子として中間層に粒子を含有せしめたりすることで可能である。含有せしめる粒子は有機粒子、無機粒子のいずれか、又は両方を用いることができる。有機粒子としては、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン-アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子が好ましく、無機粒子においては、球状シリカ、酸化アルミニウム、炭酸カルシウムが好ましい。粒子の形状・粒子径分布については均一なものが好ましく、特に粒子形状は球形に近いものが好ましい。体積形状係数は好ましくはf=0.3~π/6であり、より好ましくはf=0.4~π/6である。体積形状係数fは、次式で表される。
f=V/Dm3
ここでVは粒子体積(μm3),Dmは粒子の投影面における最大径(μm)である。なお、体積形状係数fは粒子が球のとき、最大のπ/6(=0.52)をとる。また、必要に応じて濾過などを行うことにより、凝集粒子や粗大粒子などを除去することが好ましい。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムの幅方向とは、ポリエステルフィルムの製膜工程時におけるポリエステルフィルムの流れと垂直な方向を言い、ポリエステルフィルムの長手方向とは、その幅方向と垂直な方向を言う。
【0018】
本発明における寸法変化率は熱伸縮測定装置によって測定される。詳細な測定方法は後述する。尚、寸法変化率はポリエステルフィルムが膨張した場合に正の値を、収縮した場合に負の値を取る。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムは30℃における寸法に対する幅方向の70℃~140℃の寸法変化率が0.00%以上0.20%以下であることが必要である。本発明のポリエステルフィルムを基材として加熱工程を経る加工した場合、一般的に加工工程ではポリエステルフィルム幅方向には張力が掛かっていないことから、30℃における寸法に対する幅方向の70℃~140℃の寸法変化率を上記範囲とすることで寸法安定性が向上する。一方で30℃における寸法に対する幅方向の70℃~140℃の寸法変化率が0.00%未満、もしくは0.20%より大きくなると、加工時の加熱工程でフィルムの幅方向への縮み、または伸びが生じてフィルム長手方向のしわが生じやすくなる。
【0020】
例えば本発明のポリエステルフィルムをMLCCの誘電体シートのような厚み均一性が特に要求される用途の離型フィルム基材として用いる場合は、加熱工程で生じる離型フィルムの微細なしわによる誘電体シートの厚み斑もMLCCの容量不良の原因となることから、寸法変化率を上記範囲とすることは重要である。なお、当該寸法変化率は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0021】
30℃における寸法に対する幅方向の70℃~140℃における寸法変化率を上記範囲とする為には、幅方向の延伸倍率と温度、熱固定温度を後述する範囲に調整したり、熱固定後に中間冷却室や徐冷室を設けたりすることで可能である。また、前述の中間冷却室や徐冷室においてポリエステルフィルム幅方向に0.5%~7%程度弛緩処理を施すことでも寸法変化率を上記範囲とすることができるが、特にポリエステルフィルムの温度が70℃~140℃の時の弛緩処理が効果的である。30℃における寸法に対する幅方向の70℃~140℃における寸法変化率のより好ましい範囲は0.03%以上0.17%以下、更に好ましい範囲は0.05%以上0.15%以下である。
【0022】
本発明のポリエステルフィルムの30℃における寸法に対する長手方向の70℃~140℃の寸法変化率は-0.10%以上0.30%以下であることが好ましい。30℃における寸法に対する長手方向の70℃~140℃の寸法変化率を上記範囲とすることで、本発明のポリエステルフィルムを基材として加熱工程を経る加工をした際の寸法安定性が向上する。一般的に加工工程ではポリエステルフィルム長手方向には張力を加えていることから、この張力を調整することである程度のしわや変形を抑制することが可能であるが、30℃における寸法に対する長手方向の70℃~140℃の寸法変化率が-0.10%未満の場合はポリエステルフィルムの収縮する応力が加工張力に勝ることでの局所的なしわ発生し、長手方向の70℃~140℃の寸法変化率が0.30%より大きいとポリエステルフィルムの膨脹によるしわや弛みの発生といった不具合が生じやすくなる場合がある。
【0023】
30℃における寸法に対する長手方向の70℃~140℃における寸法変化率を上記範囲とするには、長手方向の延伸倍率と温度、熱固定温度を後述する範囲に調整したり、熱固定後に中間冷却室や徐冷室を設けたりすることで可能である。また、前述の中間冷却室や徐冷室においてポリエステルフィルム長手方向に0.5%~7%程度弛緩処理を施すことや、ポリエステルフィルム製膜時に長手方向に加わる張力を調整することでも寸法変化率を上記範囲とすることができる。弛緩処理や張力を制御する場合は、特にポリエステルフィルムの温度が70℃~140℃の時に実施すると効果的である。30℃における寸法に対する長手方向の70℃~140℃における寸法変化率のより好ましい範囲は-0.10%以上0.20%以下、更に好ましい範囲は-0.10%以上0.15%以下である。なお、当該寸法変化率は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0024】
本発明のポリエステルフィルムの長手方向の100℃でのF5値は48MPa以上80MPa以下であることが好ましい。F5値とは後述する引張り試験においてポリエステルフィルムが5%伸長した際の応力である。長手方向の100℃でのF5値を上記範囲とすることで、本発明のポリエステルフィルムを基材として加熱工程を経る加工をした際の寸法安定性が向上する。長手方向の100℃でのF5値が48MPa未満であると、加工張力によりポリエステルフィルムが長手方向に伸長し、フィルム長手方向のしわや弛みが生じやすくなる。長手方向の100℃でのF5値の上限は特段制限されないが、一般的なポリエステルフィルムの製造方法から80MPaが上限である。
【0025】
長手方向の100℃でのF5値を上記範囲とするには、長手方向の延伸倍率と温度、及び熱固定温度を後述する範囲に調整することで可能である。長手方向の100℃でのF5値のより好ましい範囲は50MPa以上80MPa以下である。
【0026】
本発明のポリエステルフィルムは厚みが15μm以上500μm以下であることが好ましい。厚みが15μm未満であると薄膜すぎるため、製膜安定性が不安定となったり、加工工程や離型用途に用いた際にポリエステルフィルムが破断したりする場合がある。一方で、500μmを超えると、同一幅、同一重量のフィルムロールを採取した場合に巻長さが短くなり加工工程の生産性が悪化する他、離型用として用いた場合には本発明のポリエステルフィルムは使用後に廃棄されるため、廃棄物削減の観点からも好ましくない。ポリエステルフィルムの厚みは15μm以上100μm以下であるとより好ましく、15μm以上50μm以下であると更に好ましい。
【0027】
次に、本発明のポリエステルフィルムの製造方法について、ポリエステルの中でもポリエチレンテレフタレートを用いて説明する。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムの主成分を構成するポリエチレンテレフタレートには前述の通り粒子を含有せしめることができる。その方法としては、例えばジオール成分であるエチレングリコールに粒子を所定割合にてスラリーとして分散せしめ、このエチレングリコールスラリーをポリエステル重合完結前の任意段階で添加する。ここで、粒子を添加する際には、例えば、粒子を合成時に得られる水ゾルやアルコールゾルを一旦乾燥させることなく添加することで、粒子の分散性が良好になり粗大突起の発生を抑制でき好ましい。また粒子の水スラリーを直接、所定のポリエステルペレットと混合し、ベント方式の2軸混練押出機に供給しポリエステルに練り込む方法も有効である。
【0029】
このようにして製造した粒子含有マスターペレットと、粒子等を実質的に含有しない無粒子ペレットを所定の割合で混合し、乾燥したのち、公知の溶融積層用押出機に供給する。本発明のポリエステルフィルムの製造における押出機は、1軸、2軸の押出機を用いることができる。ペレットの乾燥工程を省くために、押出機に真空引きラインを設けたベント式押出機を用いることもできる。また、最も押出量が多くなる層には、ペレットを溶融する機能と溶融したペレットを一定温度に保つ機能をそれぞれの押出機で分担する、いわゆるタンデム押出機を用いることもできる。
【0030】
押出機で溶融して押し出したポリマーは、フィルターにより濾過する。極小さな異物もフィルム中に入ると粗大突起欠陥となるため、例えば3μm以上の異物を95%以上捕集する高精度なフィルターを用いることが有効である。続いてスリット状のスリットダイからシート状に押し出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。即ち、単層構造のポリエステルフィルムの場合は1台の押出機から押出した溶融ポリマーを、二層構造のポリエステルフィルムの場合は2台の押出機と2層のマニホールドまたは合流ブロック(例えば短形合流部を有する合流ブロック)を用いて2層に積層した溶融ポリマーを、異種3層構成のポリエステルフィルムの場合は3台の押出機と3層のマニホールドまたは合流ブロックを用いて3層に積層した溶融ポリマーを、それぞれ口金からシート状に押し出し、キャスティングロールで冷却して未延伸フィルムを作る。また、背圧の安定化及び厚み変動の抑制の観点からポリマー流路にスタティックミキサー、ギヤポンプを設置することが好ましい。
【0031】
延伸方法は逐次二軸延伸であっても同時二軸延伸であってもよい。同時二軸延伸はロールによる延伸を伴わないため、ポリエステルフィルム表面の局所的な加熱斑を抑制し、均一な品質が得られると共に、延伸時にロール延伸に伴うポリエステルフィルムとロールとの接触場所での速度差、ロールの微小傷の転写による傷の発生を抑制できる点で好ましく、逐次二軸延伸は長手方向と幅方向の特性を個別に細かく制御できる点で好ましい。
【0032】
以下では逐次二軸延伸を例に延伸方法を説明する。上記から得られた未延伸フィルムを、まず長手方向及び幅方向に延伸温度をポリエステル樹脂のガラス転移温度+1℃以上ガラス転移温度+60℃以下、好ましくはガラス転移温度+1℃以上ガラス転移温度+50℃以下として長手方向に2.5倍以上5.0倍以下延伸する。延伸温度がガラス転移温度+1℃よりも低くなるとポリエステルフィルムが破断しやすく、延伸温度がガラス転移温度+60℃よりも高くなると十分な強度が得られない傾向がある。幅方向の延伸温度はガラス転移温度+20℃以上ガラス転移温度+80℃以下、好ましくはガラス転移温度+20℃以上ガラス転移温度+65℃以下である。幅方向の延伸倍率は2.5倍以上5.0倍以下であることが好ましい。また、長手方向・幅方向の面積延伸倍率(長手方向の延伸倍率と幅方向の延伸倍率の積)は、9倍以上25倍以下が好ましく、12倍以上25倍以下がより好ましい。かかる範囲とすることで、十分な強度を維持したまま、安定してポリエステルフィルムを製造することができる。長手方向・幅方向に延伸した後、ガラス転移温度+130℃以上ガラス転移温度+170℃以下、好ましくはガラス転移温度+140℃以上ガラス転移温度+170℃以下で0.5秒以上20秒以下、好ましくは1.0秒以上15秒以下熱固定を行う。熱固定温度がガラス転移温度+130℃よりも低いとポリエステルフィルムの熱結晶化が進まないため寸法変化率などが安定しにくい傾向がある。また、ポリエステルフィルム上下の温度差は20℃以下、好ましくは10℃以下、更に好ましくは5℃以下であるとポリエステルフィルム物性の安定化の点で好ましい。ポリエステルフィルム上下での温度差が20℃よりも大きいと、熱固定時に微小な平面性の悪化を引き起こしやすい傾向にある。その後、長手方向及び/または幅方向に0.5%以上7.0%以下の弛緩処理を施す。ポリエチレンテレフタレートを具体例にすると、ポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度は一般的に70℃であるため、長手方向の延伸温度が71℃以上130℃以下、幅方向の延伸温度が90℃以上150℃以下、熱固定温度が200℃以上240℃以下である。段階的に延伸する場合であっても同範囲の条件であればよく、その手法としては、長手方向に延伸した後幅方向に延伸し再度長手方向に延伸し必要に応じて再度幅方向に延伸する方法や、長手方向に延伸した後再度長手方向に延伸し幅方向に延伸する方法などが挙げられる。
【0033】
逐次二軸延伸において、長手方向の延伸過程は、ポリエステルフィルムとロールが接触し、ロールの周速とポリエステルフィルムの速度差による傷が発生しやすい工程につき、ロール周速がロール毎に個別に設定できる駆動方式が好ましい。長手方向の延伸過程において、搬送ロールの材質は、延伸前に未延伸フィルムをガラス転移温度以上に加熱するか、ガラス転移温度未満の温度に保った状態で延伸ゾーンまで搬送し、延伸時に一挙に加熱するかにより選択される。延伸前に未延伸フィルムをガラス転移温度以上まで加熱する場合は、加熱による粘着を防止する上で、非粘着性シリコーンロール、セラミックス、テフロン(登録商標)から選択できる。また、延伸ロールは最もフィルムに負荷がかかり、該プロセスで傷や延伸斑が発生しやすい工程につき、延伸ロールの算術平均粗さRaは、0.005μm以上1.0μm以下が好ましく、0.1μm以上0.6μm以下であるとより好ましい。Raが1.0μmよりも大きいと延伸時ロール表面の凹凸がフィルム表面に転写するため好ましくなく、0.005μmよりも小さいとロールとポリエステルフィルム地肌が粘着し、ポリエステルフィルムが熱ダメージを受けやすくなる傾向にある。表面粗さを制御するためには研磨剤の粒度、研磨回数などを適宜調整することが有効である。未延伸フィルムをガラス転移温度未満に保った状態で延伸ゾーンまで搬送し、延伸時に一挙に加熱する場合は、予熱ゾーンの搬送ロールはハードクロムやタングステンカーバイドで、表面処理を行ったRaが0.2μm以上0.6μm以下の金属ロールを使用するのが好ましい。
【0034】
熱固定後のポリエステルフィルムは、例えば中間冷却ゾーンや徐冷ゾーンを設け、寸法変化率や平面性を調整することができる。特に、30℃における寸法に対する幅方向の70℃~140℃の寸法変化率を0.0%以上0.2%以下とする為には、中間冷却室や徐冷室に角度変更機構を持つ遮蔽板を上下に設ける等して熱固定ゾーンの高温が漏れないよう、かつ、逆流しないように調整することや、70℃~140℃の温度領域において、縦方向及び/または横方向に弛緩することも効果的である。逐次二軸延伸の場合も同時二軸延伸の場合もテンター内ではポリエステルフィルム幅方向の両端部をクリップ等で把持していることから両クリップの間隔を制御することでポリエステルフィルム幅方向の寸法変化率を調整できる。一方でテンター出口でのクリップ解放後はポリエステルフィルム幅方向には張力が掛からないことから、ポリエステルフィルムが自然に収縮した結果により寸法変化率が左右される。クリップ解放以降の温度領域での幅方向の寸法変化率を制御する為には、クリップ解放時のポリエステルフィルム温度を調整することが有効である。
【0035】
二軸延伸後のポリエステルフィルムは、搬送工程にて冷却させた後、エッジを切断後に巻取ることで、本発明のポリエステルフィルムが得られる。搬送工程のロール回転速度を調整することで、テンター出口でのクリップ解放後のポリエステルフィルムにかかる長手方向の張力が変化することから、クリップ解放時のポリエステルフィルム温度が70℃以上の場合は、長手方向の寸法変化率の制御には上記調整が効果的である。また、この搬送工程にて、ポリエステルフィルムの厚みを測定し、該データをフィードバックしてダイ厚み等の調整によってポリエステルフィルム厚みの調整を行ったり、欠点検出器による異物検知を行ったりすることができる。エッジの切断時には、切粉の発生を抑制することが好ましい。エッジの切断は丸刃、シェア刃、ストレート刃のいずれを使用して行うことも可能であるが、ストレート刃を用いる場合は、刃のポリエステルフィルムに当たる箇所を常に同じにさせないことが刃の摩耗を抑制できるため好ましい。更に刃はオシレーションする機構を有することが好ましい。また、ポリエステルフィルム切断箇所に吸引装置を設けて、発生した切粉や切断後のポリエステルフィルム端部同士が削れて発生する削粉を吸引することも効果的である。
【0036】
また、得られた本発明のポリエステルフィルムを適切な幅、長さにスリットして本発明のポリエステルフィルムとして巻き取ることも可能である。
【0037】
本発明のポリエステルフィルムは、加熱工程を含む加工をした際のしわ発生が抑制されているため、70℃~140℃での加熱を伴う加工工程基材用ポリエステルフィルムとして好適に用いることができ、とくに70℃~140℃での加熱を伴うロールtoロール加工工程基材用ポリエステルフィルムとして好適に用いることができる。例えば離型フィルムとして用いた場合に凹凸の抑制された均一な被離型物を得ることができる。特に積層セラミックコンデンサの製造工程における誘電体シート形成用の離型フィルムとして用いることで、厚み不良や内部電極の印刷ずれのない均一な誘電体シートを得ることができ、積層セラミックコンデンサ製造の歩留まりを向上させることができる。
【実施例0038】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はかかる例に限定して解釈されるものではない。
【0039】
[特性の評価方法]
(1)ポリエステルフィルムの幅方向及び長手方向の寸法変化率
ポリエステルフィルムから測定方向を長手とした40mm×5mmの矩形の試料を切り出し、株式会社池田理化製の熱伸縮測定装置(TM9300)を用いて以下の条件でフィルムの伸縮を測定した。
昇温速度:10℃/分
測定範囲:30~190℃
測定雰囲気:窒素
荷重:1g(幅方向測定時)、50g(長手方向測定時)
チャック間距離:20.00mm
測定間隔:1秒
温度30℃のときのフィルム長さをL(30)mm、温度T℃の時のフィルム長さをL(T)mmとして、温度T℃の時の寸法変化率(%)を以下の式より求めた。
【0040】
寸法変化率(%)=(L(T)-L(30))÷L(30)×100。
【0041】
(2)ポリエステルフィルムの長手方向の100℃でのF5値
ポリエステルフィルムから長手方向に長さ150mm×幅10mmの矩形の試料を切り出し、引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT-100)を用いて以下の条件で引張試験を行った。
引張速度:300mm/分
初期チャック間距離:50mm
予め100℃に設定した恒温層中にフィルムサンプルをセットし、90秒間の予熱の後で引張試験を行った。サンプルが5%伸長した時(チャック間距離が52.5mmとなった時)のフィルムに掛かる荷重を読み取り、試験前の試料の断面積(フィルム厚み×10mm)で除した値を、5%伸長時応力(F5)とした。なお、測定は各試料で5回ずつ行い、その平均値で評価を行った。
【0042】
(3)ポリエステルフィルムの厚み
ソニー株式会社製のデジタルマイクロメータ(μ-mate)を用いて、ポリエステルフィルムを5枚重ねた試料を幅方向に等間隔な10箇所の厚みを測定した。その平均値を5で除してポリエステルフィルム1枚当たりの厚みを求めた。
【0043】
(4)しわの評価(製膜工程後(室温)、離型層積層(120℃20秒)後)
ポリエステルフィルムの製膜工程で巻き取ったポリエステルフィルムロール、前記ポリエステルフィルムを巻出して後述する方法で離型層を積層して巻き取ったポリエステルフィルムロールを用いて、以下の手順でしわの評価を行った。ポリエステルフィルムロール表層よりフィルムを繰り出し、繰り出し方向に5N/mの張力を掛けて把持した。繰り出したポリエステルフィルムの背面より1500ルクスの直管形LEDライトを照射し、1m×1mの範囲を目視観察し、フィルム長手方向に生じるしわの数を以下の方法で数えた。ポリエステルフィルムにLEDライトが白色の線として投影される。この白色の線はポリエステルフィルムにしわが発生していない場合は直線状であるが、ポリエステルフィルムにしわが生じていると波打つ形状となる。白色の線があるべき直線(しわが発生しない場合の直線)に対して垂直方向に1mm以上変動している箇所をしわとして集計した。尚、測定は異なる視野で5回行い、その平均値を以て1m2当たりのしわの数とした。また、フィルム幅が1m未満の場合は、1m×フィルム全幅中のしわを観察し、しわの数をフィルム幅で除することで1m2当たりのしわの数に換算した。
◎:しわの数が0個/m2
〇:しわの数が0個/m2より多く、1個/m2以下
△:しわの数が1個/m2より多く、3個/m2以下
×:しわの数が3個/m2より多い。
【0044】
(5)誘電体シート形成(100℃乾燥)及び内部電極印刷(90℃乾燥)後の寸法安定性の評価
離型層積層後の離型フィルムにフィルム両端部から5mmの位置に長手方向に100mm間隔毎にアライメントマークを施した。セラミックスラリー塗工前に幅方向及び長手方向の各アライメントマークの距離(L0)を計測し、誘電体シート形成及び内部電極印刷後に再度アライメントマーク間の距離(L1)を計測した。長手方向及び幅方向それぞれで100箇所の距離を計測し、加工によるアライメントマークの差(L1-L0)の標準偏差をL1の平均で除した変動係数(CV)を算出した。
◎:変動係数が0.0005以下
〇:変動係数が0.0005より大きく、0.0007以下
△:変動係数が0.0007より大きく、0.001以下
×:変動係数が0.001より大きい。
【0045】
[実施例1]
(1)ポリエステルペレットの作製
(ポリエステルペレットAの作製)
テレフタル酸86.5質量部とエチレングリコール37.1質量部を255℃で、水を溜出しながらエステル化反応を行う。エステル化反応終了後、トリメチル燐酸0.02質量部、酢酸マグネシウム0.06質量部、酢酸リチウム0.01質量部、三酸化アンチモン0.0085質量部を添加し、引き続き減圧下で290℃まで加熱、昇温して重縮合反応を行い、固有粘度0.63dl/gのポリエステルペレットAを得た。
【0046】
(ポリエステルペレットBの作製)
シード法によるジビニルベンゼン80質量%、エチルビニルベンゼン15質量%、スチレン5質量%からなる体積平均粒径0.8μm、体積形状係数f=0.51のジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子(架橋度80%)の水スラリーを、上記の実質的に粒子を含有しないホモポリエステルペレットに、ベント式二軸混練機を用いて含有させ、体積平均粒径0.8μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子をポリエステルに対し2.0質量%含有するポリエステルペレットBを得た。
【0047】
(2)ポリエステルペレットの調合
各層の押出機に供給するポリエステルペレットは、以下の比率で調合する。なお以下に記載する比率は、各々の層を構成するポリエステル樹脂全体に対する質量比(単位:質量%)である。
A層
ポリエステルペレットA:92.5
ポリエステルペレットB:7.5
B層
ポリエステルペレットA:100.0。
【0048】
(3)ポリエステルフィルムの製造
前述の各層について調合した原料を混合して160℃で8時間減圧乾燥した後、A層の原料は押出機1へ、B層の原料は押出機2へ供給した。押出機1及び2では275℃でポリエステルペレットを溶融し、押出された溶融ポリマーはフィルターで高精度濾過した。押出機1から押し出された溶融ポリマーは高精度濾過後に流路を二手に分離し、B層の両面にA層が積層されるように矩形の3層用合流ブロックでA/B/Aの3層に積層した。この時、最終フィルムの厚みがA層は2μm、B層は26μmとなるよう押出機1及び2から吐出される溶融ポリマーの量を調整した。その後、295℃に保ったスリットダイを介し冷却ロール上に静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングドラムに巻き付け冷却固化し、未延伸フィルムを得た。
【0049】
この未延伸フィルムを2組ずつのロールの周速差を用いて延伸するロール式延伸機にて80℃で長手方向に3.5倍で延伸した。得られた一軸延伸フィルムの両端をクリップで把持しながらテンター内の90℃の予熱ゾーンに導き、引き続き連続的に110℃の加熱ゾーンで長手方向に垂直な幅方向に4.0倍延伸した。得られた二軸延伸フィルムを225℃で4秒間の熱固定を施し、更に200℃から130℃に冷却する区間で4.0%幅方向に弛緩処理を行った。その後フィルム温度が105℃になったところでクリップから解放した。この時テンターの幅方向の温度斑を延伸及び熱固定工程は2%以下、冷却工程は5%以下になるように、給排気の風量を調整したり、温度の異なる空間の気体が混ざり合わないように遮蔽板を設置したりした。また、テンター後の搬送工程の最初のロールの周速は、フィルム搬送速度の0.999倍になるように調整した。その後、ポリエステルフィルムのエッジを除去し、コアに巻き取り、全体厚さ30μmのポリエステルフィルムを得た。更に得られたポリエステルフィルムをスリットし、幅1100mmのポリエステルフィルムロールとした。スリットして得られたポリエステルフィルムについて、前述のしわの評価を実施した。評価結果は表に示す。
【0050】
(4)離型層の塗布
次に得られたポリエステルフィルムのロールに、架橋プライマー層(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製商品名BY24-846)を固形分1質量%に調整した塗布液を乾燥後の塗布厚みが0.1μmとなるようにグラビアコーターで塗布し、100℃で20秒乾燥硬化した。その後1時間以内に付加反応型シリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製商品名LTC750A)100質量部、白金触媒(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製商品名SRX212)2質量部を固形分5質量%に調整した塗布液を、乾燥後の塗布厚みが0.1μmとなるようにグラビアコートで塗布し、120℃で30秒乾燥硬化した後に巻き取り、離型フィルムを得た。得られた離型フィルムについて、前述のしわの評価を実施した。評価結果は表に示す。更にしわ評価後の離型フィルムについてスリットし、幅150mmの離型フィルムとした。
【0051】
(5)誘電体シートの塗布
チタン酸バリウム(富士チタン工業株式会社製商品名HPBT-1)100質量部、ポリビニルブチラール(積水化学株式会社製商品名BL-1)10質量部、フタル酸ジブチル5質量部とトルエン-エタノール(質量比30:30)60質量部に、数平均粒径2mmのガラスビーズを加え、ジェットミルにて20時間混合、分散させた後、濾過してペースト状のセラミックスラリーを調整した。得られたセラミックスラリーを、離型フィルムの上に乾燥後の厚みが0.8μmとなるように、ダイコーターにて塗布し100℃で乾燥させ、巻き取り誘電体シートを得た。
【0052】
(6)内部電極の印刷
Ni粒子44.6質量部と、テルピネオール52質量部と、エチルセルロース3質量部と、ベンゾトリアゾール0.4質量部とを混練し、スラリー化して内部電極層用塗料を得た。内部電極層用塗料を、誘電体シートの上に、スクリーン印刷法によって所定パターンで塗布し、90℃で5分間乾燥し、内部電極パターンを有する誘電体シートを得た。得られた誘電体シートについて、前述の誘電体シート形成及び内部電極印刷後の寸法安定性の評価を実施した。評価結果は表に示す。
【0053】
[実施例2]
ポリエステルフィルムの製造において、縦延伸温度を120℃、熱固定温度を230℃、熱固定時間を3.5秒間、幅方向の弛緩処理を3.0%、テンター後の搬送工程の最初のロールの周速をフィルム搬送速度の1.000倍とした他は実施例1と同様に実施した。各評価の結果は表に示す。
【0054】
[実施例3]
ポリエステルフィルムの製造において、熱固定温度を235℃、幅方向の弛緩処理を6.0%、クリップ解放時のフィルム温度を110℃、テンター後の搬送工程の最初のロールの周速をフィルム搬送速度の1.001倍とした他は実施例1と同様に実施した。各評価の結果は表に示す。
【0055】
[実施例4]
ポリエステルフィルムの製造において、縦延伸倍率を4.0倍、横延伸温度を120℃、横延伸倍率を5.0倍、熱固定温度を215℃、幅方向の弛緩処理を3.0%、クリップ解放時のフィルム温度を101℃、テンター後の搬送工程の最初のロールの周速をフィルム搬送速度の1.002倍とした他は実施例1と同様に実施した。各評価の結果は表に示す。
【0056】
[実施例5]
ポリエステルフィルムの製造において、縦延伸温度を85℃、縦延伸倍率を2.8倍、横延伸温度を130℃、横延伸倍率を4.5倍、熱固定温度を240℃、熱固定時間を6秒、幅方向の弛緩処理を6.0%、クリップ解放時のフィルム温度を101℃、テンター後の搬送工程の最初のロールの周速をフィルム搬送速度の1.003倍とした他は実施例1と同様に実施した。各評価の結果は表に示す。
【0057】
[実施例6]
ポリエステルフィルムの製造において、縦延伸倍率を3.1倍、横延伸温度を95℃、熱固定温度を235℃、幅方向の弛緩処理を5.0%、クリップ解放時のフィルム温度を108℃、テンター後の搬送工程の最初のロールの周速をフィルム搬送速度の0.995倍とした他は実施例1と同様に実施した。各評価の結果は表に示す。
【0058】
[実施例7]
ポリエステルフィルムの製造において、縦延伸温度を75℃、縦延伸倍率を5.0倍、横延伸温度を100℃、熱固定温度を210℃、熱固定時間を3秒、クリップ解放時のフィルム温度を102℃、テンター後の搬送工程の最初のロールの周速をフィルム搬送速度の0.997倍とした他は実施例1と同様に実施した。各評価の結果は表に示す。
【0059】
[実施例8]
ポリエステルフィルムの製造において、縦延伸温度を84℃、縦延伸倍率を4.5倍、横延伸倍率を3.5倍、熱固定温度を220℃、幅方向の弛緩処理を5.0%、クリップ解放時のフィルム温度を106℃、テンター後の搬送工程の最初のロールの周速をフィルム搬送速度の1.004倍とした他は実施例1と同様に実施した。各評価の結果は表に示す。
【0060】
[実施例9]
ポリエステルフィルムの製造において、最終フィルムの厚みがA層は1.5μm、B層は15μmとなるよう押出機1及び2から吐出される溶融ポリマーの量を調整し、熱固定時間を3秒とした他は実施例1と同様に実施し、全体厚さ18μmのポリエステルフィルムを得た。各評価の結果は表に示す。
【0061】
[実施例10]
ポリエステルフィルムの製造において、最終フィルムの厚みがA層は3.0μm、B層は94μmとなるよう押出機1及び2から吐出される溶融ポリマーの量を調整し、熱固定時間を12秒とした他は実施例1と同様に実施し、全体厚さ100μmのポリエステルフィルムを得た。各評価の結果は表に示す。
【0062】
[比較例1]
ポリエステルフィルムの製造において、熱固定温度を245℃、幅方向の弛緩処理を8.0%、クリップ解放時のフィルム温度を116℃、テンター後の搬送工程の最初のロールの周速をフィルム搬送速度の1.003倍とした他は実施例1と同様に実施した。各評価の結果は表に示す。
【0063】
[比較例2]
ポリエステルフィルムの製造において、縦延伸倍率を4.5倍、横延伸倍率を4.5倍、熱固定温度を230℃、幅方向の弛緩処理を8.0%、クリップ解放時のフィルム温度を114℃、テンター後の搬送工程の最初のロールの周速をフィルム搬送速度の0.996倍とした他は実施例1と同様に実施した。各評価の結果は表に示す。
【0064】
[比較例3]
ポリエステルフィルムの製造において、縦延伸温度を79℃、横延伸温度を115℃、熱固定温度を245℃、幅方向の弛緩処理を0.1%、クリップ解放時のフィルム温度を95℃、テンター後の搬送工程の最初のロールの周速をフィルム搬送速度の1.000
倍とした他は実施例1と同様に実施した。各評価の結果は表に示す。
【0065】
【0066】
本発明のポリエステルフィルムは、加熱工程を含む加工をした際のしわ発生や加工ずれが抑制されているため、70℃~140℃での加熱を伴う加工工程基材用ポリエステルフィルムとして好適に用いることができ、とくに70℃~140℃での加熱を伴うロールtoロール加工工程基材用ポリエステルフィルムとして好適に用いることができる。例えば離型フィルムとして用いた場合に凹凸の抑制された均一な被離型物を得ることができる。特に積層セラミックコンデンサの製造工程における誘電体シート形成用の離型フィルムとして用いることで、厚み不良や内部電極の印刷ずれのない均一な誘電体シートを得ることができ、積層セラミックコンデンサ製造の歩留まりを向上させることができる。