(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099733
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】フレキシブルプリント基板
(51)【国際特許分類】
H05K 1/09 20060101AFI20250626BHJP
C09J 115/02 20060101ALI20250626BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20250626BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20250626BHJP
B32B 15/06 20060101ALI20250626BHJP
B32B 25/04 20060101ALI20250626BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20250626BHJP
B32B 15/088 20060101ALI20250626BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20250626BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
H05K1/09 A
C09J115/02
H05K1/03 610N
H05K1/02 B
B32B15/06 Z
B32B25/04
B32B7/12
B32B15/088
B32B27/34
B32B15/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216627
(22)【出願日】2023-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000230249
【氏名又は名称】メクテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳本 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】大庭 久恵
(72)【発明者】
【氏名】真辺 貴久
【テーマコード(参考)】
4E351
4F100
4J040
5E338
【Fターム(参考)】
4E351AA02
4E351AA04
4E351AA16
4E351BB01
4E351CC18
4E351DD04
4E351DD05
4E351DD06
4E351DD08
4E351DD10
4E351DD12
4E351DD17
4E351DD19
4E351DD21
4E351EE15
4E351EE16
4E351GG04
4F100AB16C
4F100AB17D
4F100AB31C
4F100AB33D
4F100AK19B
4F100AK49A
4F100AN02B
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100CB00B
4F100GB43
4F100JA06
4F100JD03
4F100JG01D
4F100JK06
4F100JL11B
4F100YY00C
4J040DC091
4J040EC072
4J040HA306
4J040HC01
4J040KA16
4J040KA23
4J040LA08
4J040MA02
4J040MA10
4J040NA19
4J040PA30
4J040PA33
5E338AA01
5E338AA02
5E338AA12
5E338AA16
5E338BB55
5E338EE01
5E338EE60
(57)【要約】 (修正有)
【課題】従来のフレキシブルプリント基板と比較して、長期間高温の環境下に保持した場合でも接着剤層の剥離が生じにくいフレキシブルプリント基板を提供することを課題とする。
【解決手段】フレキシブルプリント基板100は、少なくとも基材層110、接着剤層120、ニッケル含有層130および導体140をこの順番に有し、前記接着剤層が、フッ素含有ゴムを含み、前記ニッケル含有層中のニッケルの単位面積当たりの質量が、100mg/m
2以上であり、基材層が、ポリイミドを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材層、接着剤層、ニッケル含有層、および導体をこの順番に有し、
前記接着剤層が、フッ素含有ゴムを含み、
前記ニッケル含有層中のニッケルの単位面積当たりの質量が、100mg/m2以上である、フレキシブルプリント基板。
【請求項2】
前記基材層が、ポリイミドを含む、請求項1に記載のフレキシブルプリント基板。
【請求項3】
前記ニッケル含有層中のニッケルの単位面積当たりの質量が、125mg/m2以上、500mg/m2以下である、請求項1又は2に記載のフレキシブルプリント基板。
【請求項4】
前記導体が銅を含む、請求項1又は2に記載のフレキシブルプリント基板。
【請求項5】
少なくとも基材層、接着剤層、ニッケル含有層、および導体層をこの順番に含む積層体を得る積層工程、および
前記積層体を、回路パターンが形成されるように加工する回路パターン形成工程を有し、
前記接着剤層が、フッ素含有ゴムを含み、
前記ニッケル含有層中のニッケルの単位面積当たりの質量が、100mg/m2以上である、
フレキシブルプリント基板の製造方法。
【請求項6】
前記積層工程が、前記基材層と、前記ニッケル含有層および前記導体層からなる積層体層と、を接着剤で接着する工程を含む、請求項5に記載のフレキシブルプリント基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント基板に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント基板は多様な電子機器の基板として広く使用されており、近年はインバーターの半導体付近などの高温環境下における長期間の使用が検討されている(特
許文献1)。
一般的なフレキシブルプリント基板は、長期耐熱温度が80℃程度であり、上記のような環境で使用される場合、基材層と回路パターンを形成する導体との間に設けられた接着剤層が脆化することにより、基材層と導体との間で生じる剥離などの問題が懸念されている。
【0003】
一般的なフレキシブルプリント基板では、上記の接着剤層において、エポキシ樹脂又はアクリル樹脂などが主成分として用いられているが、長期高温環境下での使用には向いておらず、層間の剥離などが発生してしまう。
このため、フッ素含有ゴムを含む接着剤を用いた開発も進められている。例えば、特許文献2には、フッ素系ゴムを含有する熱分解温度の高い接着剤と、高温環境下における酸素透過性の低いフィルムと、を用いることで1000時間に渡る長期耐熱性が達成されたフレキシブルプリント基板に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-195751号公報
【特許文献2】特開2021-091873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2のフレキシブルプリント基板に設けられるフッ素系ゴムを含有する接着剤層は、1000時間程度であれば耐熱性を維持できることが分かったが、実際の自動車部品に求められる3000時間に及ぶ長期間の高温環境下では、基板端部から徐々に接着剤層の剥離が発生するため、使用環境や設計上の制限が生じる。
【0006】
かかる問題に鑑み、本発明は、従来のフレキシブルプリント基板と比較して、長期間高温の環境下に保持した場合でも接着剤層の剥離が生じにくいフレキシブルプリント基板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、フッ素含有ゴムを含む接着剤層と導体との間に、特定量のニッケルを含有する層を設けることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 少なくとも基材層、接着剤層、ニッケル含有層、および導体をこの順番に有し、
前記接着剤層が、フッ素含有ゴムを含み、
前記ニッケル含有層中のニッケルの単位面積当たりの質量が、100mg/m2以上である、フレキシブルプリント基板。
[2] 前記基材層が、ポリイミドを含む、[1]に記載のフレキシブルプリント基板。
[3] 前記ニッケル含有層中のニッケルの単位面積当たりの質量が、125mg/m2以上、500mg/m2以下である、[1]又は[2]に記載のフレキシブルプリント基板。
[4] 前記導体が銅を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のフレキシブルプリント基板。
[5] 少なくとも基材層、接着剤層、ニッケル含有層、および導体層をこの順番に含む積層体を得る積層工程、および
前記積層体を、回路パターンが形成されるように加工する回路パターン形成工程を有し、
前記接着剤層が、フッ素含有ゴムを含み、
前記ニッケル含有層中のニッケルの単位面積当たりの質量が、100mg/m2以上である、
フレキシブルプリント基板の製造方法。
[6] 前記積層工程が、前記基材層と、前記ニッケル含有層および前記導体層からなる積層体層と、を接着剤で接着する工程を含む、[5]に記載のフレキシブルプリント基板の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来のフレキシブルプリント基板と比較して、長期間高温の環境下に保持した場合でも接着剤層の剥離が生じにくいフレキシブルプリント基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】フレキシブルプリント基板の層構成を説明する概略図である。
【
図2】パワーモジュールの構成を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これらの説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
また、本明細書では複数の実施形態を説明するが、適用できる範囲で各実施形態における種々の条件を互いに適用し得る。
また、本願の図面は、実施形態の特徴の理解を容易にするために模式的に図示されており、各構成要素の寸法比率等は実際のものと同じであるとは限らない。
【0012】
<フレキシブルプリント基板>
本発明の一実施形態に係るフレキシブルプリント基板(以下、単に「フレキシブルプリント基板」とも称する。)は、少なくとも基材層、接着剤層、ニッケル含有層、および導体をこの順番に有し、前記接着剤層が、フッ素含有ゴムを含み、前記ニッケル含有層中のニッケルの単位面積当たりの質量が、100mg/m2以上である、フレキシブルプリント基板である。
【0013】
一般的なフレキシブルプリント基板における接着剤の剥離は、接着剤層と導体との間で生じやすい。例えば、高温環境下では、一般的に導体の材料として用いられる銅が接着剤層中のフッ素含有ゴムの熱分解反応(低分子化)を促進させることがあり、この結果として接着剤の剥離が生じる。
一方で、上記のフレキシブルプリント基板は、接着剤層と導体との間に、特定のニッケル含有量を有するニッケル含有層を設けることにより、銅のような導体に用いられ得る金
属と接着剤層中のフッ素含有ゴムとの反応が抑制され、長期間高温下、特に期間としては3000時間以上という実際の自動車部品に求められる期間で、接着剤の劣化の抑制、ひいては接着剤層の剥離の抑制を達成することができる。
銅のような導体に用いられ得る金属と接着剤層中のフッ素含有ゴムとの反応について、「大武義人、「エラストマー製品の劣化とトラブルと対策(地球環境悪化による残留塩素水劣化,金属劣化およびオゾン劣化)」、日本ゴム協会誌、2006年79巻19号、p.529-536」に、銅によりフッ素ゴムが熱酸化劣化することが開示されている。
【0014】
本実施形態に係るフレキシブルプリント基板の一例を
図1に示す。
図1に示すフレキシブルプリント基板100は、基材層110、接着剤層120、ニッケル含有層130、および回路パターンを形成する導体140をこの順番に有するフレキシブルプリント基板である。
本実施形態に係るフレキシブルプリント基板100は、少なくとも上記の構成要素を有していればよく、その他の層を有していてもよい。
図1では、導体が回路パターンを形成している様子の描写は省略している。
以下、フレキシブルプリント基板100を構成する各構成要素について説明する。
【0015】
[基材層]
基材層110の平均厚みは特に制限されないが、12.5μm以上、125μm以下であることが好ましく、25μm以上、75μm以下であることがより好ましい。
本明細書において、「平均厚み」とは、対象の物質の複数か所で測定された厚みの平均値を意味する。
【0016】
基材層110の材質は特に制限されず、例えば、基材層110として、ポリイミドフィルム、又は液晶ポリマーフィルムなどの樹脂フィルムからなる層を用いることができる。また、該樹脂フィルム層は、ポリイミドフィルム及び液晶ポリマーからなる群から選択される少なくとも一を含む層とすることができる。
該基材層110は、一種のフィルムからなっていてもよく、二種以上のフィルムが積層されたフィルムであってもよい。また、アルミニウムなどの金属が樹脂フィルムに蒸着された金属蒸着フィルムも、樹脂フィルム層として使用することができる。
基材層110として、具体的には、UPILEXシリーズ(宇部興産製ポリイミドフィルム)、ベクスターシリーズ(クラレ製液晶ポリマー)などを使用することができる。
ベクスターシリーズの液晶ポリマーを樹脂フィルム層として使用する場合は、ベクスターシリーズのなかでも、ベクスターCTFが酸素透過率の観点から好ましい。
【0017】
基材層110は、耐熱性向上の観点から、ポリイミドを含むことが好ましく、ポリイミドフィルムであることが好ましい。基材層110としてポリイミドフィルムを使用する場合、該ポリイミドフィルムは、テトラカルボン酸成分と、ジアミン成分と、の重合体であるポリイミドを含有することが好ましい。
該テトラカルボン酸成分としては特に制限されないが、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸などのビフェニルテトラカルボン酸、ピロメリット酸並びにこれらの酸無水物及びこれらの低級アルコールのエステル化物からなる群から選ばれる少なくとも一であることが好ましい。該テトラカルボン酸成分は、より好ましくは3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸を含み、さらに好ましくは3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含む。
該ジアミン成分としては特に制限されないが、1,4-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、1,2-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエン及び2,6-ジアミノトルエンからなる群から選ばれる少なくとも一であることが好ましい。
【0018】
該ポリイミドフィルムは、1,2-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン及び1,4-フェニレンジアミンからなる群から選択される少なくとも一、並びに、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を少なくとも含むモノマーの重合体であるポリイミドを含むことがより好ましい。さらに好ましくは、1,4-フェニレンジアミン及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を少なくとも含むモノマーの重合体であるポリイミドを含む。
該ポリイミドフィルムが上記ポリイミドを含むと、該ポリイミドの単位構造同士が重なりあうことで酸素をより通しにくい構造となるため、好ましい。
1,4-フェニレンジアミン及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を少なくとも含むモノマーの重合体に該当するポリイミドフィルムとしては、具体的にはUPILEX-Sなどが挙げられる。
【0019】
基材層110の酸素透過率は、通常1.50×10-10cc・cm/cm2・sec・cmHg以下あり、好ましくは1.00×10-10cc・cm/cm2・sec・cmHg以下であり、より好ましくは1.00×10-11cc・cm/cm2・sec・cmHg以下である。該酸素透過率の下限値は特に制限されず、低いほど好ましいが、例えば1.00×10-15cc・cm/cm2・sec・cmHg以上とすることができ
る。また、該酸素透過率の範囲は、200℃における酸素透過率で満たされることが好ましい。
上記の酸素透過率が上記の上限以下であると、高温環境下における導体の酸化劣化が抑制され、基材層110の剥離強度の低下を防ぎやすくなる。
該酸素透過率は、樹脂フィルムを構成するモノマー成分により制御することができる。また、該酸素透過率は、樹脂フィルムに有機層や無機層をコーティングしたり、樹脂フィルムに有機フィルムや無機フィルムを接着したり、樹脂フィルムに有機フィラーや無機フィラーを添加したりすることによっても制御することができる。
【0020】
基材層110の酸素透過率は、以下の条件で測定することができる。
測定方法:JIS K7126-1 附属書2に準拠
試験ガス種:酸素
試験ガス流量:90ml/min
キャリアガス種:ヘリウム
キャリアガス流量:35ml/min
透過面積:15.2cm2
測定装置:GTR-10AH(200℃)又はGTR-30XANO(~120℃)、いずれもGTRテック製
セル恒温槽温度:25℃、120℃、200℃
ガスクロマトグラフ検量方法:0.0μlと15.3μlによる2点検量
【0021】
[接着剤層]
接着剤層120の平均厚みは特に制限されないが、接着性の観点から、5μm以上が好ましく、導体の粗度を埋め込む観点から、10μm以上であることが好ましく、フレキシブルプリント基板の加工性の観点から、30μm以下であることが好ましい。通常、この厚みが10μm以上では、厚みを大きくしても接着力は変化しない。
【0022】
接着剤層120は、接着剤の硬化物であってよい。以下、接着剤の条件について説明するが、接着剤の条件は、適用可能な範囲で接着剤層120の条件として扱ってよい。例えば、「接着剤中のフッ素含有ゴムの含有量」は、「接着剤層中のフッ素含有ゴムの含有量」として扱うことができる。
【0023】
該接着剤は、フッ素含有ゴムを含んでいれば特に制限されず、公知の接着剤を用いるこ
とができる。該フッ素含有ゴムは、不飽和結合を有していてもよく、不飽和結合を有さなくてもよいが、不飽和結合を有することがより好ましい。
不飽和結合を有するフッ素含有ゴムは、フッ素含有ゴムに公知の方法で不飽和結合を導入することで得ることができる。例えば、アルカリ変性など塩基変性による方法が挙げられる。
【0024】
接着剤層120の材質は、耐熱性の観点から、フッ素含有ゴムを含んでいれば特に制限されないが、他の成分を有していてもよい。
該接着剤がフッ素含有ゴムを含有すると耐熱性が向上する理由として、本発明者らは以下のように推測している。
炭素-フッ素間(C-F間)の結合エネルギーは、炭素-水素間(C-H間)の結合エネルギーよりも大きいことが知られている。そのため、ゴムをフッ素で変性してC-F結合を増やすことで、熱による元素間結合の切断を起こりにくくすることができる。また、樹脂中の主鎖における炭素-炭素間(C-C間)の結合の回転のしやすさに着目すると、フッ素変性を行っていない場合(すなわち-CH2-の場合)よりも、フッ素変性を行っている場合(すなわち-CF2-の場合)のほうが回転しにくくなり、結合エネルギーが大きくなる。そのため、熱による分解が起こりにくくなり、耐熱性が向上する。
さらに、フッ素含有ゴムが不飽和結合を有する場合、該不飽和結合と後述する熱硬化性樹脂が反応し得るため、より耐熱性が向上する。
【0025】
該フッ素含有ゴムとしては、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン、及びテトラフルオロエチレンなどからなる群から選択される少なくとも一つのモノマーの重合体又は共重合体が挙げられる。より好ましくは、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン、及びテトラフルオロエチレンなどからなる群から選択される少なくとも一つのモノマーの共重合体である。共重合体は、好ましくは二元共重合体又は三元共重合体であり、より好ましくは二元共重合体である。
また、不飽和結合を有するフッ素含有ゴムとしては、上記重合体又は共重合体の不飽和結合導入物が挙げられる。
共重合体中には、本開示の効果を損なわない程度に、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロイソブテン、酢酸ビニルなどのフッ素化オレフィン、オレフィン、ビニル化合物等が共重合されていてもよい。
具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロペン共重合体、クロロフルオロエチレン-フッ化ビニリデン共重合体、及びこれらの不飽和結合導入物などが挙げられる。
好ましくはフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン共重合体及び該共重合体の不飽和結合導入物であり、より好ましくはフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン共重合体の不飽和結合導入物である。共重合割合(フッ化ビニリデン:ヘキサフルオロプロペン)は、質量基準で、好ましくは3:7~9.5:0.5であり、より好ましくは5:5~9:1である。
フッ素含有ゴムは、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。また、不飽和結合を有さないフッ素含有ゴムと不飽和結合を有するフッ素含有ゴムを併用してもよい。
【0026】
フッ素含有ゴム又は不飽和結合を有するフッ素含有ゴムのムーニー粘度(ML1+10(121℃))は、40~110であることが好ましい。上記範囲であると、シート加工性に優れ、弾性率と伸び率が適正な範囲となるため、抜き加工性、高温での接着力、半田耐熱性、高温長時間の耐久試験後の接着力、及びBステージ状態での加工性が良好になる。ムーニー粘度(ML1+10(121℃))は、より好ましくは50~100である。
ムーニー粘度は、材料の分子量などにより制御することができる。例えば、分子量を大きくすることでムーニー粘度をより大きくすることができる。
ムーニー粘度の測定は、JIS K 6300-1(2013)に準じて行う。ムーニービスコメータSMV-201(株式会社島津製作所製)を用いて、温度条件121℃にて、予熱時間1分及びローターの回転時間10分の条件で粘度を測定する。
【0027】
これらの重合体又は共重合体に対し、必要に応じてアセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒の存在下、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、トリエチルアミン等のアルカリ性物質により、好ましくは2~70℃程度の温度で処理することにより、脱フッ化水素化反応して分子内に不飽和結合を形成させることができる。
不飽和結合を有するフッ素含有ゴムにおける不飽和結合の含有量(-CH=CH-の含有量)は、好ましくは0.1質量%~30質量%であり、より好ましくは0.5質量%~10質量%である。フッ素含有ゴム及び不飽和結合を有するフッ素含有ゴムは、市販のものを用いることもできる。
【0028】
接着剤中のフッ素含有ゴムの含有量は特段制限されず、例えば、40質量%以上であってもよく、また、80質量%以下であってもよい。
【0029】
接着剤は、本発明の効果が得られる範囲で、フッ素含有ゴム以外のゴムを含有していてもよい。
【0030】
(熱硬化性樹脂)
該接着剤は、接着剤組成物としてもよい。該接着剤組成物は、熱硬化性樹脂を含有することができる。
熱硬化性樹脂は軟化点が、30℃以上であることが好ましい。すなわち、常温(25℃)で固形状態であることが好ましい。軟化点は、より好ましくは30℃~160℃であり、さらに好ましくは40℃~160℃であり、さらにより好ましくは50℃~150℃であり、特に好ましくは60℃~130℃である。
フレキシブルプリント基板などのプリント配線板の製造工程において、熱プレス前のBステージ(半硬化)状態で、部品実装のための穴あけなどの加工が必要となる場合がある。軟化点が上記範囲であり、常温で固形状態の熱硬化性樹脂を用いることで、フッ素含有ゴムと他のゴムとの混合性が良好となったり、後述する無機充填剤の弾性率が向上したりするなどの効果が得られ、Bステージ状態での加工性がさらに良好になる。
樹脂の軟化点は、JIS K 7234の環球法により測定することができる。測定装置には、例えば、メトラートレド社製メトラー軟化点測定装置(FP900サーモシステム)などを使用することができる。
【0031】
熱硬化性樹脂は、反応性、耐熱性の点から、フェノール樹脂、エポキシ樹脂のいずれか又はこれら2種類以上の混合物であることが好ましい。
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、ビフェノールのジグリシジルエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジルエーテル化物、フェノール類のジグリシジルエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物、又はこれらのアルキル置換体、もしくは水素添加物などが例示される。エポキシ樹脂は、1種類のものを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0032】
フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒドを酸又はアルカリを触媒として加え反応させたものである。
フェノール類としては、フェノール、メタクレゾール、パラクレゾール、オルソクレゾール、イソプロピルフェノール、又はノニルフェノール等が挙げられる。
アルデヒド類として、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、パラアセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、オクチルアルデヒド、又はベンズアルデヒド等が挙げられる。一般にはホルムアルデヒド又はパラホルムアルデヒドが使用される。この他に、植物油変性フェノール樹脂を用いることもできる。植物油変性フェノール樹脂は、フェノール類と植物油とを酸触媒の存在下に反応させ、ついで、アルデヒド類をアルカリ触媒の存在下に反応させることにより得られる。酸触媒としてはパラトルエンスルホン酸などが挙げられる。アルカリ触媒としては、アンモニア、トリメチルアミン、又はトリエチルアミンなどのアミン系触媒が挙げられる。
また、熱硬化性樹脂として、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シアネート樹脂、マレイミド樹脂、又はベンゾシクロブテン樹脂などを用いることもできる。
【0033】
熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂を含むことが好ましく、エポキシ樹脂であることが好ましい。エポキシ樹脂は、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が好ましく、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂がより好ましい。このようなエポキシ樹脂は、市販のものを用いてもよく、例えば、YDCN700-10(新日鉄住金化学株式会社)、N695(DIC株式会社)などが挙げられる。
熱硬化性樹脂の含有量は、フッ素含有ゴム100質量部に対し、8質量部~120質量部であることが好ましい。上記範囲であると、抜き加工性及び高温での接着力が良好になる。該含有量は、より好ましくは8質量部~110質量部であり、さらに好ましくは8質量部~100質量部である。
【0034】
(無機充填剤)
接着剤組成物は、無機充填剤を含有することができる。無機充填剤には、公知の材料を用いることができる。無機充填剤は電気絶縁性のものが好ましい。
例えば、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化チタン、酸化マンガン、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、タルク、マイカ、又はカオリンなどが挙げられる。
【0035】
フッ素含有ゴムは弾性率が低いため、Bステージ状態での加工の際に、接着剤のバリの発生や加工部への接着剤の付着などが発生することがある。これに対し、接着剤組成物に無機充填剤を用いることで、弾性率を向上させることができ、加工性が良好になる。
無機充填剤は、ある程度凝集して弾性率を高めやすいチキソトロピー性を有するものが好ましい。このような観点から、シリカ、水酸化アルミニウム、タルクなどが好ましい。より好ましくはシリカである。シリカは、乾式シリカ又は湿式シリカなど特に制限なく使用することができる。シリカは市販のものを用いることもできる。例えば、アエロジル200(日本アエロジル工業)などが挙げられる。
【0036】
無機充填剤は、疎水化処理されていてもよい。疎水化処理としては、シリコーンオイル処理、シランカップリング剤処理などが挙げられる。
無機充填剤の一次粒子の個数平均粒径は、好ましくは10nm~100000nmであり、より好ましくは50nm~10000nm程度である。
無機充填剤の含有量は、フッ素含有ゴム100質量部に対し、好ましくは1質量部~3
5質量部であり、より好ましくは1質量部~30質量部であり、さらに好ましくは3質量部~25質量部である。上記範囲であることで、加工性に加え、接着性、はんだ耐熱性、及び高温長時間の耐久性が良好になる。
【0037】
(アミン化合物)
接着剤組成物は、硬化剤としてアミン化合物を含有してもよい。
熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂の硬化剤としては、硬化開始温度が低く、常温での安定性に優れるジシアンジアミドが好ましく、必要に応じて硬化助剤としてイミダゾール化合物を使用してもよい。
また、不飽和結合を有するフッ素含有ゴムの硬化剤としては、アミン化合物は硬化性の観点から、芳香族ジアミン化合物が好ましい。
芳香族ジアミン化合物は、例えば下記式(I)で表されるものが挙げられる。
【0038】
【0039】
式(I)中、R1、R2はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基であり、R3は、炭素数1~6のアルキレン基、芳香族炭化水素基、カルボニル基、フルオレン基、スルホニル基、エーテル基及びスルフィド基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、m、nはそれぞれ独立して0~4の整数である。
アルキル基は、好ましくは、メチル基、エチル基、又はプロピル基が挙げられる。アルキル基は硬化性の観点から、メチル基、又はエチル基がより好ましい。
アルキレン基は、好ましくは、メチレン基、又はエチレン基が挙げられる。アルキレン基は硬化性の観点から、メチレン基がより好ましい。
【0040】
m、nは貯蔵安定性、速硬化性により優れるという観点から、それぞれ独立して0~2の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、2であることがさらに好ましい。
式(I)中、-NH2の配置は、硬化性の観点から、R3に対してパラ位であるのが好ましい。
芳香族炭化水素基は、2価であれば特に制限されない。例えば、フェニレンが挙げられる。芳香族炭化水素基は例えばメチル基のような置換基を有することができる。
【0041】
R3は、芳香族炭化水素基とアルキレン基とが組み合わされた置換基であってもよく、芳香族炭化水素とアルキレン基との組み合わせは特に制限されない。例えば、芳香族炭化水素基を有するアルキレン基が挙げられる。具体的には例えば、2つのアルキレン基が芳香族炭化水素を介して結合する態様、アルキレン基の側鎖として芳香族炭化水素が結合している態様、芳香族炭化水素基とアルキレン基とが結合し芳香族炭化水素基及びアルキレン基が式(I)に示される2つのベンゼン環とそれぞれ結合する態様が挙げられる。芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレンが挙げられる。芳香族炭化水素はメチル基のような置換基を有することができる。
式(I)で示される化合物の中でも、4,4’-メチレンビス(2-エチル-6-メチルアニリン)が特に好ましい。
アミン化合物の含有量は、フッ素含有ゴム100質量部に対し、好ましくは0.1質量
部~20質量部であり、より好ましくは1質量部~10質量部である。また、アミン化合物の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して0.5質量部~30質量部であることも好ましい態様である。
【0042】
(接着剤組成物)
上記接着剤組成物は、フッ素含有ゴムと、必要に応じて、熱硬化性樹脂、無機充填剤、硬化剤など他の添加剤と、を混合して得ることができる。混合する際は、必要に応じて有機溶媒を用いてもよい。
上記接着剤又は接着剤組成物は、フレキシブルプリント基板の製造に用いるためのものであることが好ましい。
例えば、接着剤又は接着剤組成物を用いた接着フィルムを得て、これをフレキシブルプリント基板の製造に用いることもできる。
【0043】
JIS K 7127 引張特性の試験方法に準拠して測定される、接着剤層の弾性率(又は接着剤組成物をBステージ状態(半硬化状態)としたときの弾性率)が、15MPa以上であることが好ましい。より好ましくは、20MPa以上である。上限は特に制限されないが、好ましくは3000MPa以下であり、より好ましくは1000MPa以下であり、さらに好ましくは100MPa以下である。
また、JIS K 7127(1999) 引張特性の試験方法に準拠して測定される、接着剤層の破断伸び率(又は接着剤組成物をBステージ状態(半硬化状態)としたときの破断伸び率)が400%未満であることが好ましい。より好ましくは、300%未満であり、さらに好ましくは200%未満である。下限は特に制限されないが、好ましくは50%以上であり、より好ましくは100%以上である。
弾性率及び破断伸び率が上記範囲であることで、加工性が良好になる。弾性率及び破断伸び率は、熱硬化性樹脂の軟化点、フッ素含有ゴムのムーニー粘度、無機充填剤の含有量、などにより制御することができる。
【0044】
接着剤層120は公知の方法で製造することができる。例えば、上記接着剤組成物の有機溶媒溶液を調製し、ポリイミドなどの樹脂フィルム層に塗布してプレ接着剤層を形成する。そして、例えば50℃~160℃、1分~15分の条件下で乾燥させ、プレ接着剤層をBステージ状態にし、接着剤層120が得られる。その後、得られた接着剤層120を被接着物と貼り合わせ、加熱硬化させることができる。
フレキシブルプリント基板100の製造において、被覆層などの接着に上記接着剤組成物を用いる場合も同様に接着することで、接着剤組成物の硬化物を含む接着剤層を有するフレキシブルプリント基板100を得ることができる。Bステージ状態から加熱硬化の間に、必要に応じて、穴あけ加工などを行うこともできる。
【0045】
Bステージ状態の接着剤組成物を得る方法は、特に制限されず、上記のように加熱乾燥させる方法を含め、公知の方法を採用することができる。
有機溶媒は、特に制限されず、公知のものを用いることができる。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、又はメチルイソブチルケトン等が挙げられる。有機溶媒の使用量は、特に制限されないが、含有する固形分量が、好ましくは10質量%~70質量%、より好ましくは20質量%~40質量%になる範囲で用いればよい。
【0046】
接着剤の3%熱質量減少温度は、320℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましく、370℃以上であることがさらに好ましい。該3%熱質量減少温度の上限値は特に制限されないが、レーザー加工性の観点から、600℃以下であることが好ましい。
該3%熱質量減少温度は、分子構造の最適化、架橋密度の最適化などにより制御するこ
とができる。
【0047】
接着剤層120としては、2以上の樹脂を積層したものを使用することもでき、接着剤層120として2層以上の層が積層される場合には、その積層体を1つの接着剤層として扱う。
【0048】
[ニッケル含有層]
ニッケル含有層130は、その層中のニッケルの単位面積当たりの質量が100mg/m2以上であれば特段制限されず、この層を接着剤層120と導体140との間に設けることにより、長期間高温下での接着剤の劣化の抑制、ひいては接着剤層120の剥離の抑制を達成することができる。
ニッケル含有層中のニッケルの単位面積当たりの質量は、100mg/m2以上であればよいが、125mg/m2以上、500mg/m2以下であることが好ましい。該範囲の下限以上とすることで、十分な剥離抑制の効果を得ることができる。また、該範囲の上限以下とすることで、基板の製造が有利なものとなる、例えば、配線を形成するためのエッチング処理が容易になる。
ニッケル含有層130の平均厚みは特段制限されず、例えば、110Å以上であってよく、また、570Å以下であってもよい。この平均厚みは、ニッケル含有層の面積と、ニッケル含有層中の成分の量と比重とから算出することができる。
【0049】
ニッケル含有層130中のニッケル含有量は、以下の方法で測定することができる。
まず、塩酸:硝酸=3:1(体積比)で混合させた第1混合液と、水:王水=3:2(体積比)で混合させた第2混合液(水に王水を加えていくことで混合する)を得る。フレキシブルプリント基板100中の導体(導体層)140とニッケル含有層130の積層体を第2混合液中に浸漬させて抽出を行い、得られた抽出液を用いてICP発光分析を行い、ニッケルの量を求める。最終的に、得られたニッケル量とニッケル含有層130の質量とからニッケル含有層130中のニッケル含有量を算出することができる。また、フレキシブルプリント基板100からのニッケル含有層130の取り除きが難しい場合には、フレキシブルプリント基板100又はその一部をニッケル含有層130が溶解する溶媒に浸漬させ、得られた溶液に対してICP発光分析を行うことにより評価することができる。なお、第2混合液中に浸漬させる対象(抽出の対象)は、上述した様に、フレキシブルプリント基板100中の導体140とニッケル含有層130の積層体であることが好ましいが、フレキシブルプリント基板100であってもよい。
ニッケル含有層中のニッケルの単位面積当たりの質量は、ニッケル含有層中のニッケルの含有量を、ニッケル含有層の平面方向の面積で除することで求めることができる。
【0050】
ニッケル含有層130を構成するニッケル以外の成分は特に制限されないが、例えば、Co、Mo、Zn、又はCr等が挙げられる。
【0051】
[導体]
導体140としては特に制限なく、公知の材料を用いることができる。例えば、銅、銀、金、錫、アルミニウム、もしくはインジウム、又はこれらの合金等が挙げられる。導体140は、銅を含む材料であることが好ましく、銅箔がより好ましい。
導体140の平均厚みは特に制限されないが、5μm以上、500μm以下であることが好ましく、12μm以上、500μm以下であることがより好ましい。
導体140が形成する回路パターンは特に制限されず、用途に応じて適宜設計することができる。
【0052】
[その他の層]
フレキシブルプリント基板100は、上記の基材層110、接着剤層120、ニッケル
含有層130、及び導体140以外の層(その他の層)を有していてもよい。
【0053】
[ピール強度]
導体の基材層に対するピール強度は特に制限されないが、JPCA規格JPCA-DG02-2006に準拠して0.49N/mm以上が好ましく、また自動車部品として使用される場合に要求される強度を達成する観点から、225℃、3000時間後に該ピール強度であることが好ましい。
ピール強度は、IPC TM650 2.4.9(フリーホイーリングロータリードラム法)に準拠して評価することができる。
【0054】
<フレキシブルプリント基板の製造方法>
上述したフレキシブルプリント基板100を製造する方法は特に制限されず、公知の方法を用いて、又は公知の方法組み合わせて製造することができる。
フレキシブルプリント基板100の製造方法は、例えば、
少なくとも基材層、接着剤層、ニッケル含有層、および導体層をこの順番に含む積層体を得る積層工程、および
前記積層体を、回路パターンが形成されるように加工する回路パターン形成工程を有し、
前記接着剤層が、フッ素含有ゴムを含み、
前記ニッケル含有層中のニッケルの単位面積当たりの質量が、100mg/m2以上である、
フレキシブルプリント基板の製造方法であってよい。特に、前記積層工程は、前記基材層と、前記ニッケル含有層および前記導体層からなる積層体層と、を接着剤で接着する工程を含むことが好ましい。
【0055】
ニッケル含有層を形成する方法は特段制限されないが、例えば、導体の表面にニッケルをめっきして設ける方法が挙げられ、湿式めっき又は乾式めっき等の公知の方法を適用することができ、具体的には、電解めっき、無電解めっき、真空蒸着、又はスパッタリング等の方法を適用することができる。
【0056】
<フレキシブルプリント基板の用途>
上述したフレキシブルプリント基板100の用途は特段制限されず、例えば、自動車、プリント配線板、液晶ディスプレイ、ロボット、テレビ、カーナビゲーション、ゲーム機、携帯電話、デジタルカメラ、パーソナルコンピュータ、プリンタ、発光ダイオード照明、又はウェアラブルデバイス等に積載される基板として利用することができる。これらの中でも、高い温度で長期間保持される観点から、自動車用の部材(部品)として利用することが好ましい。
【0057】
フレキシブルプリント基板100の使用態様は特段制限されないが、パワーモジュールに備わる基板として用いることができる。パワーモジュールの態様は特段制限されず、例えば、
基板と、
前記基板に設けられる導体に電気的に接続されるSiC半導体素子と、
前記SiC半導体素子に接続されるフレキシブルプリント基板と、
を備え、
前記フレキシブルプリント基板は、前記SiC半導体素子に電気的に接続される導体層を有しており、
前記フレキシブルプリント基板が、上述した実施形態に係るフレキシブルプリント基板である、
パワーモジュールとすることができる。
このパワーモジュールの一例を
図2に示す。
【0058】
図2を参照して、パワーモジュール200の一例について説明する。パワーモジュール200は、樹脂製のケース310と、モジュール内の熱を逃がすためのヒートシンク320とを備えている。また、パワーモジュール200は、DBC基板400と、DBC基板400に固定される複数のSiC半導体素子500と、上述した実施形態に係るフレキシブルプリント基板(以下、「FPC100」と称する)とを備えている。なお、図ではSiC半導体素子500が2つ設けられているが、SiC半導体素子の個数が限定されることはない。
図2では、導体が回路パターンを形成している様子の描写は省略している。
【0059】
DBC基板400は、絶縁性の基材410と、基材410の両面にそれぞれ設けられる第1導体層421及び第2導体層422とを備えている。基材410はセラミック材料などにより構成される。そして、第1導体層421はヒートシンク320に接続されかつ固定されている。また、第2導体層422には、外部の装置に電気的に接続するための外部接続端子430が電気的に接続されている。
【0060】
複数のSiC半導体素子500は、焼結銀や半田などにより構成される接合部材511によって第2導体層422に電気的に接続されている。
【0061】
FPC100は、基材層110の一方の面に、接着剤層120、ニッケル含有層130、及び導体140がこの順番に積層され、また、もう一方の面に、接着剤層122、ニッケル含有層132、及び導体141がこの順番に積層されている。
【0062】
そして、導体140は、焼結銀や半田などにより構成される接合部材512によってSiC半導体素子500と電気的に接続されている。また、導体140は、焼結銀や半田などにより構成される接合部材600によってDBC基板400における第2導体層422にも電気的に接続されている。なお、各導体層間においては、所望の電気回路に応じて、スルーホールやビアホールなどにより電気的に接続することができる。
【0063】
また、SiC半導体素子500と電気的に接続され、かつSiC半導体素子500が配される側に最も近い素子側導体層としての導体140の平均厚みは70μm以上、500μm以下となるように構成されている。また、導体141についても同様に、その平均厚みが70μm以上、500μm以下となるように構成されている。なお、導体141についても、導体140、及びスルーホール又はビアホールを介して、SiC半導体素子500と電気的に接続することができる。
【0064】
更に、FPC100においては、225℃の環境下で3000時間経過した時点で素子側導体層である導体140と基材層110が剥がれることのない耐熱性を有している。また、FPC100は、225℃の環境下で3000時間経過した時点で導体140と被覆層が剥がれることのない耐熱性を有している。ここで、被覆層は、素子側導体層としての導体140よりもSiC半導体素子500が配される側に接着剤層を介して設けられる素子側フィルムである。なお、FPC100においては、全てのフィルム及び接着剤層について、225℃の環境下で3000時間経過した時点で、フィルムと導体層が剥がれることのない耐熱性を有している。
【0065】
また、ケース310の内部においては、充填後に硬化することで構成される樹脂材330によって、DBC基板400と、複数のSiC半導体素子500と、FPC100と、外部接続端子430の一部が埋没するように構成されている。
【0066】
パワーモジュール200においては、FPC100を採用したことで、配線路長を短くすることができる。すなわち、FPC100を複数のSiC半導体素子500を介してDBC基板400の表面に沿って配することで、ワイヤボンディング方式を採用する場合に比べて配線路長を短くすることができる。これにより、寄生インダクタンスを低減することができ、サージ電圧の抑制をすることができる。また、本来的に柔軟性を有するFPC100を採用することで、DBC基板400の表面上において、複数のSiC半導体素子500に倣って配することができるため、リジッド基板を採用する場合に比べて、モジュールを小型化することもできる。
【実施例0067】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0068】
<フレキシブルプリント基板の作製>
[実施例1]
・フッ素含有ゴム 二重結合変性(フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンの二元共重合体(共重合割合:フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロペン=8/2)の不飽和変性品、ムーニー粘度(ML1+10(121℃)):98、二重結合の含有量:4質量%) 100質量部
・シリカ(ヒュームドシリカ:アエロジル200(日本アエロジル工業)) 15質量部・エポキシ樹脂(固形 軟化点95℃)o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(N695(DIC株式会社)) 20質量部
・アミン化合物(4,4’-メチレンビス(2-エチル-6-メチルアニリン):クミアイ化学工業製キュアハードMED-J) 5質量部
メチルエチルケトンを用いて、上記固形分が30質量%になるように溶解させて、フッ素含有ゴムを含む接着剤組成物を得た。得られた接着剤組成物の3質量%熱質量減少温度は373℃であった。なお、シリカはビーズミルを用いて分散させた。
また、得られた接着剤組成物の溶液をポリイミドフィルム(宇部興産製ポリイミドフィルムUPILEX-S 厚み25μm)に乾燥後の平均厚みが25μmとなるように塗布し、140℃で3分間熱風乾燥機により乾燥させ、Bステージ状態(半硬化状態)の接着フィルムを得た。
この接着フィルムの接着剤塗布面と、銅箔の一方の面にニッケル合金層が積層された積層シート1(福田金属株式会社製CF-T4M-HD、電解銅箔、平均厚み35μm、ニッケル合金層中のニッケルの単位面積当たりの質量150mg/m2)のニッケル合金層とを、真空プレスラミネート機を用いて、160℃、3MPa、30秒間減圧下で熱圧着させた。その後、160℃で10時間加熱硬化させ、シート状の試験サンプル(平面方向の面積:100cm2)を得た。得られた試験サンプルを用いて、下記評価を行った。結果を表1に示す。
なお、本実施例におけるニッケル合金層に含まれるNi以外の金属元素の単位面積当たりの質量は、Zn:7mg/m2、Cr:7mg/m2であった。
【0069】
[実施例2]
ニッケル合金層中のニッケルの単位面積当たりの質量を239mg/m2に変更したこと以外は実施例1と同様の方法でフレキシブルプリント基板を得た。
なお、本実施例におけるニッケル合金層に含まれるNi以外の金属元素の単位面積当たりの質量は、Zn:6mg/m2、Cr:6mg/m2であった。
【0070】
[実施例3]
積層シート1を、銅箔の一方の面にニッケル合金層が積層された積層シート2(福田金属株式会社製RCF箔、圧延銅箔、平均厚み35μm、ニッケル合金層中のニッケルの単
位面積当たりの質量150mg/m2)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法でフレキシブルプリント基板を得た。
なお、本実施例におけるニッケル合金層に含まれるNi以外の金属元素の単位面積当たりの質量は、Zn:7mg/m2、Cr:7mg/m2であった。
【0071】
[比較例1]
ニッケル合金層中のニッケルの単位面積当たりの質量を63mg/m2に変更したこと以外は実施例1と同様の方法でフレキシブルプリント基板を得た。
なお、本比較例におけるニッケル合金層に含まれるNi以外の金属元素の単位面積当たりの質量は、Zn:7mg/m2、Cr:7mg/m2であった。
【0072】
[比較例2]
積層シート1を、銅箔の一方の面にニッケル合金層が積層された積層シート3(JX金属株式会社製BHY-82F-HA-V2、平均厚み35μm、ニッケル合金層中のニッケルの単位面積当たりの質量70mg/m2)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法でフレキシブルプリント基板を得た。
なお、本比較例におけるニッケル合金層に含まれるNi以外の金属元素の単位面積当たりの質量は、Co:169mg/m2、Zn:39mg/m2、Cr:6mg/m2であった。
【0073】
[比較例3]
接着剤組成物を株式会社プリンテック製エポックスAH357に変更したこと以外は実施例3と同様の方法でフレキシブルプリント基板を得た。この際、乾燥後の平均厚みが25μmとなるようにポリイミドフィルムへの塗布を行った。
なお、本比較例におけるニッケル合金層に含まれるNi以外の金属元素の単位面積当たりの質量は、Zn:7mg/m2、Cr:7mg/m2であった。
【0074】
[比較例4]
積層シート1を、積層シート1のニッケル含有合金層をニッケル非含有合金層へ変更したこと、及び接着剤組成物を株式会社プリンテック製エポックスAH357に変更したこと以外は実施例1と同様の方法でフレキシブルプリント基板を得た。この際、接着剤組成物の乾燥後の平均厚みが25μmとなるようにポリイミドフィルムへの塗布を行った。
なお、本比較例におけるニッケル非含有合金層に含まれる金属元素の単位面積当たりの質量は、Co:33mg/m2、Mo:26mg/m2、Zn:17mg/m2、Cr:12mg/m2であった。
【0075】
<評価>
[ニッケル含有量]
塩酸:硝酸=3:1(体積比)で混合させた第1混合液と、水:王水=3:2(体積比)で混合させた第2混合液(水に王水を加えていくことで混合した)を得た。上記の積層シート1、積層シート2、又は積層シート3を第2混合液中に浸漬させて抽出を行い、得られた抽出液を用いてICP発光分析を行い、ニッケルの量を求めた。最終的に、ニッケル含有層中のニッケルの含有量を、ニッケル含有層の平面方向の面積で除することで、ニッケル含有層中のニッケルの単位面積当たりの質量を算出した。評価結果を表1に示す。
【0076】
ニッケル含有層に含まれる金属元素の単位面積当たりの質量と、各金属元素の比重とから、ニッケル含有層の厚みを算出した。算出した結果を表1に示す。
【0077】
[ピール強度]
225℃で表1に示す時間保管した後、IPC TM650 2.4.9(フリーホイ
ーリングロータリードラム法)に準拠してピール強度を評価した。なお、初期(0時間)のピール強度は、保管前に評価したピール強度である。この際、3つの評価サンプルを準備して評価を行い、その平均値を採用した。評価結果を表1に示す。
【0078】
[酸素透過率]
下記の測定条件に従い、ポリイミドフィルム(UPILEX-S)の酸素透過率を測定した。
その測定結果は、25℃で5.93×10-14cc・cm/cm2・sec・cmHg、120℃で1.67×10-12cc・cm/cm2・sec・cmHg、200℃で8.72×10-12cc・cm/cm2・sec・cmHgであった。
(酸素透過率の測定条件)
測定方法:JIS K7126-1 附属書2に準拠
試験ガス種:酸素
試験ガス流量:90ml/min
キャリアガス種:ヘリウム
キャリアガス流量:35ml/min
透過面積:15.2cm2
測定装置:GTR-30XANO(25℃、120℃)、GTR-10AH(200℃);いずれもGTRテック製
セル恒温槽温度:25℃、120℃、200℃
ガスクロマトグラフ検量方法:0.0μlと15.3μlによる2点検量
【0079】
【0080】
比較例3~4と、その他の比較例および実施例との比較から、接着剤としてフッ素含有
ゴムを含むものを用いることにより、225℃の高温下でも接着剤層の剥離を生じにくいフレキシブルプリント基板を得られることが分かった。
また、実施例1~3と比較例1~2との比較から、ニッケル含有層中のニッケルの単位面積当たりの質量が100mg/m2以上であることにより、225℃、3000時間の長期高温の環境下でも接着剤層の剥離を生じにくいフレキシブルプリント基板を得られることが分かった。
【0081】
以上より、本発明によれば、従来のフレキシブルプリント基板と比較して、長期間高温の環境下に保持した場合でも接着剤層の剥離が生じにくいフレキシブルプリント基板を提供することができることが分かった。