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  • 特開-カカオハスク由来の天然氷結晶制御剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009979
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】カカオハスク由来の天然氷結晶制御剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20250109BHJP
   C09K 5/10 20060101ALI20250109BHJP
   A23G 9/38 20060101ALN20250109BHJP
   A23L 29/00 20160101ALN20250109BHJP
【FI】
C09K3/00 102
C09K5/10 F
A23G9/38
A23L29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024103142
(22)【出願日】2024-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2023106599
(32)【優先日】2023-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】516289753
【氏名又は名称】河原 秀久
(72)【発明者】
【氏名】河原 秀久
【テーマコード(参考)】
4B014
4B035
【Fターム(参考)】
4B014GB18
4B014GB21
4B014GG06
4B014GL08
4B014GP01
4B014GP12
4B014GP27
4B035LC16
4B035LE20
4B035LG15
4B035LG33
4B035LP22
4B035LP43
(57)【要約】
【課題】食品分野、特に冷凍加工食品において、冷凍時の氷結晶の巨大化が起因する品質劣化に対して抑制する機能を利用することによってこれまでに解決できなかった食品にも応用できる。さらに、冷凍食品分野以外の様々な分野でも応用が可能であり、安全性及び生産性の面で優れた過冷却促進活性(抗氷核活性)、氷再結晶化抑制活性(RI活性)、熱ヒステレシス活性を含む氷結晶制御剤を提供すること。
【解決手段】カカオハスク熱水抽出エキスを含有する氷結晶制御剤。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カカオハスク抽出物より得られる氷結晶制御剤。
【請求項2】
過冷却促進活性、氷再結晶化抑制活性又は熱ヒステレシス活性のいずれか1種を含む剤である、請求項1に記載の氷結晶制御剤。
【請求項3】
過冷却促進活性、氷再結晶化抑制活性又は熱ヒステレシス活性のいずれか2種以上を含む剤である、請求項1に記載の氷結晶制御剤。
【請求項4】
常圧下で熱水抽出によって調製される剤である、請求項1から請求項3のいずれかに記載の氷結晶制御剤。
【請求項5】
熱水抽出されたエキスで分子量10,000以上及び100,000以下の成分が活性物質である、請求項4に記載の氷結晶制御剤。
【請求項6】
熱水抽出されたエキスで分子量10,000以下の成分が活性物質である、請求項4に記載の氷結晶化抑制剤。
【請求項7】
熱水抽出されたエキスで分子量3,000以下の成分が活性物質である、請求項4に記載の氷結晶化抑制剤。
【請求項8】
請求項4から7のいずれかに記載の活性物質のうち、過冷却促進活性及び氷再結晶化抑制活性を有する活性物質がタンパク質もしくはペプチドである氷結晶制御剤。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過冷却促進活性及び氷再結晶化抑制活性を有する天然氷結晶制御剤に関する。より詳しくは、カカオハスクから抽出されたエキスに含有する天然氷結晶化抑制剤で、分子量10,000以上である。
【背景技術】
【0002】
一般に、水は融点(0℃)以下の温度で凝固(氷核形成)するが、異物が全く含まれていない純水は-39℃まで凝固(氷核形成)しない。このように、融点以下の温度まで冷却しても水が凝固(氷核形成)しない現象は過冷却現象と呼ばれている。氷核の形成を抑制した場合、過冷却状態が拡大され(促進状態)、未凍結状態が維持される。この過冷却現象を解除するのは、水中の異物が核となり氷核を形成する(不均質核形成)ことによって起きる時である。
【0003】
一旦、異物が氷核となり氷核形成を起きて、その時に発生した潜熱によって、0℃付近まで水の温度が上昇し、その異物で形成された微小な氷結晶が成長することによって、水全体が氷に変化し、凍結状態になる。この氷核が形成し、微小な氷結晶になるときに水溶液中に溶けている活性成分が氷結晶に結合し、氷結晶の成長を抑制し、氷結晶成長温度を低下させたり(熱ヒステレシス活性)、さらに凍結時における氷再結晶化を抑制できる天然物質は、不凍タンパク質(非特許文献1、2、特許文献1、2、3)や不凍多糖(非特許文献3、特許文献4)がある。
【0004】
この氷再結晶化抑制活性を有する不凍タンパク質は、魚、植物由来の不凍タンパク質や昆虫由来の不凍ペプチド等がよく研究されている。食品分野では、カイワレ大根由来の不凍タンパク質(特許文献5)があり、非遺伝子組換え技術による不凍タンパク質の実用化により冷凍食品が製造販売された。しかしながら、不凍タンパク質は一般的に低温生物由来であり、低温下に晒さないと遺伝子発現し、生物内に蓄積されない。そのため、これまでに非低温生物より同様の活性を有する活性成分の報告はほとんどない。
【0005】
氷再結晶化抑制活性を有する代表的な天然物質としての不凍タンパク質としての機能としては、タンパク質自身が氷結晶に結合することによって、氷結晶の成長を完全に抑止し、それによって0℃における氷結晶が成長する温度を低下させる能力(熱ヒステレシス活性)と、冷凍の長期保存における氷再結晶化を抑制する氷結晶抑制活性の2つの機能がある(非特許文献4)。この後者の機能が、冷凍食品の長期保存における品質劣化の抑制することに重要な活性である。
【0006】
過冷却促進物質として知られている物質は、例えば、香辛料成分のオイゲンポール(非特許文献4)、台湾檜の成分であるヒノキチオールー鉄(非特許文献5)、針葉樹であるカツラの細胞内に存在するケンフェロール‐7-グルコシド(非特許文献6)等の低分子化合物、Acinetobacter calcoaceticus由来のタンパク質(非特許文献7)、Bacillus thuringien sis由来の多糖(非特許文献8)等の高分子化合物が報告されている。しかし、これら抗氷核活性物質は、水に含まれる氷核活性による過冷却点の上昇を低下させる機能が高く、ヨウ化銀等の氷核活性を示す異物による過冷却点の上昇を低下させることは、細菌に比べて活性が低く、加えて、これら化合物は、安全性や生産性、価格性の問題から、食品分野や化成品分野での利用が困難となっている。
【0007】
本発明者は、食品分野での利用を考慮して種々の検討した結果、餡粕エキスに含まれる低分子ペプチド(特許文献6)、日本酒エキスの抽出物(特許文献7)、コーヒー豆から抽出された芳香族炭化水素構造とカルボキシル基を有する化合物(特許文献8)、グルコースとグリシンの反応したメラノイジン(特許文献9)、アミノ酸であるチロシンのトリペプチド(特許文献10)、核酸であるアデニンの重合体(特許文献11)等を利用する過冷却促進物質を提案している。
【0008】
カカオハスクは、カカオ豆の外皮で、カカオ豆を焙煎・粉砕した時にカカオニブとカカオハスクに分けられ、カカオニブはチョコレートや商品の素材に、カカオハスクは一般的に廃棄されている。カカオ豆にはカカオポリフェノールが含まれており、主に、エピカテキン、カテキンとプロシアニジン(カテキンとエピカテキンはいくつか結合した化合物)からなり、これらはフラバール(フラバン‐3-オール)と呼ばれている。これらカカオポリフェノールは、摂取した場合、3つの効果、血圧降下、動脈硬化予防、老化防止などが期待できる。
【0009】
カカオハスク中から抽出された天然物の一つとして、熱水抽出された水溶性多糖がある(特許文献12,13)。100~130℃の高温下、pH6.5以下の弱酸性下で熱水抽出したカカオハスクの抽出エキスは、様々な機能を示し、蛋白の等電点以上の酸性pH域において蛋白質を分散安定化し、調製した食品に適度の粘度を与える、従来の安定剤 とは異なる特徴的な機能を有する。この機能を利用することにより、従来なかった酸性 蛋白食品を製造することが可能となった。更に、製造された酸性蛋白食品は、レトルト殺菌などの高温加熱をしても、安定な状態を保持できる機能を付与できる。 本発明におけるカカオハスク由来の水溶性食物繊維を日持ち向上剤として食品に添加すると、少量の添加量で十分な日持ち向上効果を示し良好な保存性を示している(特許文献12,13)。
【0010】
カカオハスク成分にはカカオ豆由来の多くのポリフェノール関連化合物が存在している。そのうち、フラバール(フラバン‐3-オール)は、水が凍結する際に形成される氷核形成温度を遅らせる作用である過冷却促進活性を示すことが報告されている(特許文献14,15)。その活性には、カテキン型タンニンの構造を持つ化合物が関与している(分子量834以下)。さらに、カカオ成分中には、プリン塩基と構造が似たアルカロイドの一種であるテオブロミン(分子量180)は、アデニン、カフェインなどのプリン塩基類であり、これらプリン塩基が過冷却促進活性を有していることも明らかにされている(特許文献11)。これら活性しかしならが、カカオハスクの熱水抽出エキスが氷再結晶化抑制活性や昇華抑制活性があることは、今まで知られていない。さらに、過冷却促進活性を有する分子量10,000以上の成分についての報告も皆無である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許4228068
【特許文献2】特許4235083
【特許文献3】特許4257970
【特許文献4】特許5881118
【特許文献5】特許5681494
【特許文献6】特許5322602
【特許文献7】特許5608435
【特許文献8】特許6423998
【特許文献9】特許6963225
【特許文献10】特許6704143
【特許文献11】特許6826730
【特許文献12】特許3772833
【特許文献13】特許3804562
【特許文献14】特許6035371
【特許文献15】特許6220427
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】P.L. Davies & C.L. Hew, FASEB J., 4, 2460-2468, 1990.
【非特許文献2】C.H.C. Cheng, Curr. Opin. Genet. Dev., 8, 715-720, 1998
【非特許文献3】H. Kawahara et al, Biocontrol Sci., 21, 153-159, 2016.
【非特許文献4】H. Kawahara et al, J. Antibact. Antifung. Agents, 24,95-100, 2006
【非特許文献5】H. Kawahara et al, Biosci. Biotech. Biochem., 64, 2651-2656, 2000
【非特許文献6】Kasuga J. et al, Cryobiology, 60, 240-243, 2010
【非特許文献7】H. Kawahara et al, Biocontrol Sci., 1, 11-17, 1996
【非特許文献8】Y. Yamashita et al, Biosci. Biotech. Biochem., 66, 948-954, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、食品分野を含む様々な分野で応用が可能であり、安全性及び生産性、価格性の面で適している、高分子型過冷却促進活性剤(過冷却促進活性)と活性の高い氷再結晶化抑制活性剤(氷再結晶化抑制活性)を含有する氷結晶制御剤エキスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、意外にも、カカオハスクの熱水抽出液に分子量10k以上の過冷却促進活性とともに、強い氷再結晶化抑制活性があることを見出して、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]常圧下、熱水抽出して得られるエキス中に2種類の氷結晶制御活性を見出した。
[2]熱水抽出して得られたエキスの氷結晶制御活性が、高分子型過冷却氷再結晶化抑制活性である。
[3]カカオハスク熱水抽出エキスに含まれる2種類の氷結晶制御活性を有する成分は、タンパク質であり、主として分子量10k以上で100k以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の氷再結晶化抑制剤は、カカオハスクを熱水抽出することにより得られる天然エキスであり、生産性や安全性の面で優れている。この活性を有したエキスの場合、冷凍食品における凍結時と保存時の氷結晶を制御することができ、より品質良く冷凍食品を保存することができる。特に、アイスクリームや氷菓子などの水分の多い冷凍スイーツにおいては、氷再結晶化を抑制することは品質維持のために重要な機能である。さらに、食品加工食品分野では、例えば、凍結時の氷結晶をより小さくなることで冷凍食品の長期保存時での劣化を防いで品質を向上させることが可能になる。さらに、冷凍保存時の氷結晶の巨大化(再結晶化)を妨げることによって、食品中の氷による物理的損傷を妨げ、解凍時のドリップの軽減などが可能になる。農業分野では、例えば、寒冷地での遅霜、早霜時の農作物の霜損傷を軽減することもできる。医療分野では、医療用又は実験用等の細胞を安定的に保存することが可能になる。さらに、高分子型過冷却促進活性を有する成分により、組織などの未凍結保存も可能になる。畜産分野では家畜の精子や受精卵を、漁業分野では、魚の精子や受精卵を安定的に冷凍保存や未凍結保存することが可能なる。さらに、環境分野では、道路、車両、看板、コンクリートや航空機等における氷付着を軽減することが可能になる。これ以外にも、凍結に関わる様々な応用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】HE(3k以下)のゲルろ過クロマトグラフィー
【発明を実施するための形態】
【0017】
1. カカオハスク
カカオ豆は古くよりチョコレートの原料として利用されているが、カカオ豆の外皮、すなわちカカオハスクは、一部が堆肥や家畜の飼料として利用されている。しかし、大部分は廃棄され、有効活用されている割合が少ないのが現状である。SDGsの観点から、昨今、食品加工時に産生する未利用資源をリサイクル、アップサイクルする事業の報告が多く、このカカオハスクにおいて、チョコレートを製造している企業やカカオ豆の輸入に関わっている企業などが多様な商品化を試みられている。例えば、カカオハスクの香りを利用したビールやジン、カカオハスクそのものを一部の原料都市利用するタンブラーやネクタイなどがある。カカオハスクは抗酸化力の強いポリフェノールを含んでいるので、カカオハスクを利用した商品の開発を試みており、カカオハスクティーは、芳醇なチョコレート風味の香りがするティーとして飲用されている。
カカオハスクに含まれる機能性成分の一つとしては、カカオハスクに含まれるテオブロミンやカカオポリフェノールの一つであるフラバールやプロシアニジンが、血流を促進し、冷えや手足のむくみの解消の作用が報告されている。さらに、テオブロミンは、苦味と香りののもとになっており、癒しに関係する脳内ホルモンであるセロトニンを増加させることで、リラックス感が得られる と考えられている。カフェインに比べて効果がおだやかなため、興奮作用も少ないのが特徴で、効果が期待できる。特に、LDLコレステロールを下げる働きがあり、動脈硬化の予防効果にも期待できる。
【0018】
2.氷結晶制御剤
カカオハスクの熱水抽出エキスは、昇華抑制活性を除いた2種類の氷結晶制御活性を有する。本発明のカカオハスク熱水抽出エキスを含有する氷結晶制御活性は、例えば、氷核の形成を阻害することで、水の過冷却状態を保ち、氷の形成を遅らせる過冷却促進活性と、氷核を形成し、微小な氷結晶を形成後、その成長を抑制する氷再結晶化抑制活性を含んでいる。
本発明の氷結晶制御剤は、食品分野を含む様々な分野で応用が可能であり、カカオハスクを熱水で調理したものはカカオハスクティーとして食されているので、安全性の面で優れている。また、本発明の氷結晶制御剤は、チョコレート製造における副産物である一部未利用資源となっているカカオハスクを、熱水抽出で簡便に調製可能であるので、生産性の面でも優れている。食品素材分野では、例えば、寒冷地での農作物の凍結耐性を向上させたり、さらに、冷凍加工食品では、冷凍保存時におきる氷結晶の巨大化による組織破壊を軽減し、解凍後のドリップ発生量を抑制、解凍後でも食感を維持させたりすることができる。特に、アイスクリームや氷菓子の場合には、表面に付着する氷結晶量を制御したり、より滑らかな状態の品質を維持できる可能性がある。医療分野では、移植用又は実験用等の臓器や組織を安定に未凍結保存することが可能になり、さらに細胞の生存性を向上させて冷凍保存することが可能になる。畜産分野では、家畜の細胞、臓器、精子及び受精卵を安定に保存することが可能である。さらに、環境(化成品)分野では、道路などの不凍剤、道路の標識、熱交換器、航空機の主翼などの氷付着を軽減することが可能になる。これ以外にも、様々な応用が可能になる。
【0019】
本発明の氷結晶制御剤は、用途に応じて適した使い方がなされる。例えば、食品分野では、本発明の氷結晶制御剤を含むエキスを適した濃度で、冷凍食品の原材料に添加して適用することができる。場合によっては、食材や加工食品に適した濃度に希釈した水溶液を噴霧して適用することもできる。医療分野及び畜産分野では、本発明の氷結晶制御剤を含む水溶液を調製して、適用することができる。環境(化成品)分野では、道路などの凍結防止においては、本発明の氷結晶制御剤を含む水溶液を調製して、そのまま散布して適用することができる。さらに、看板や熱交換器などの用途においては、本発明の氷結晶制御剤を含む水溶液を調製して、別の接着能を有する製剤との併用によって、噴霧で適用することができる。
【実施例0020】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
氷結晶制御効果のうち、過冷却促進活性(抗氷核活性)と氷再結晶化抑制活性(RI活性)は、下記の通りの方法で評価した。
【0021】
試験例1. 過冷却促進活性(抗氷核活性)の評価
評価試料のタンパク質濃度が1.0 mg/mLとなるように50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で希釈した。その希釈液をそれぞれ500μL用意した。一方で、ヨウ化銀濃度が10 mg/mLとなるように、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解させた水溶液500μLを用意した。それぞれの評価用のサンプルを、上記2つの水溶液を混合することによって調製した。また、ブランクサンプルを、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)500μLと上記のヨウ化銀溶液500μLとを混合することによって調製した。
【0022】
過冷却促進活性は、Valiの小滴凍結法によって測定した。コールドプレート冷却装置(TCP-12、三和製作所)の銅版の上にアルミホイルを置き、シリコングリースを薄く塗布させた後、その表面に各評価用サンプル及びブランクサンプルを10μLずつ30箇所に滴下する。その後、毎分1.0℃の速度で温度を低下させて、30個の小滴の50%が凍結する温度をT50とする。各サンプルの上記小滴凍結時の温度をSampleT50とし、ブランクサンプルの上記小凍結時の温度をBlankT50とする。そして、過冷却促進活性値(抗氷核活性値)ΔT50(℃)を、下記式によって求めた。
ΔT50(℃)= BlankT50-SampleT50
【0023】
試験例2. 氷再結晶化抑制活性(RI活性)の評価
評価試料のタンパク質濃度が1.0 mg/mlとなるように脱イオン水で希釈した。さらに、脱イオン水で調製した60%(w/v)ショ糖水溶液 を用意し、各々100μLずつ混合し、最終ショ糖濃度が30%(w/v)となるように調製した。また、ブランクサンプルは、脱イオン水100μLと60%(w/v)ショ糖水溶液100μLを混合して調製した。
【0024】
氷再結晶化抑制活性は、シュークロースサンドイッチ法によって測定した。温度制御可能な顕微鏡システム(温度制御装置 KL-600P リンカム社製、位相差顕微鏡 BX50 オリンパス社製)に、上記混合液の1μLをカバーガラス2枚で挟んで、サンプルステージに固定した。液体窒素を用いて、1分間当たり100℃の速度で、-40℃まで急速冷凍させ、微小な氷結晶を形成させた。その後、-6℃まで温度を上昇させ、0時間の氷結晶写真を撮影した。-6℃で30分間維持させ、30分後に再結晶を起こさせた氷結晶写真を撮影した。1サンプルで3回の撮影を行い、ブランクとして脱イオン水を用いた。
【0025】
30分後に撮影した画像の数値化(一定面積における氷結晶1個当たりを見かけの面積pixel)を行った。数値化は無料画像解析ソフトImage Jを用いて行った。
500×500pixelの大きさにトリミング機能を用いて、評価サンプル毎の3枚の画像の同じ位置から切り抜いた。切り抜いた画像中の氷結晶は、黒く塗りつぶし、その面積pixel数を算出した。その面積を氷結晶の個数で割り、氷結晶1個当たりの面積の平均値を算出した。氷再結晶化抑制活性(RI活性)値を、下記式によって求めた。
サンプルの氷結晶1個当たりの見かけの面積(pixel)/ ブランク(脱イオン水)の氷結晶1個当たりの見かけの面積(pixel)
【0026】
試験例3.熱ヒステレシス活性の評価
評価試料のタンパク質濃度が1.0 mg/mlとなるように脱イオン水で希釈した。さらに、脱イオン水で調製した60%(w/v)ショ糖水溶液 を用意し、各々100μLずつ混合し、最終ショ糖濃度が30%(w/v)となるように調製した。また、ブランクサンプルは、脱イオン水100μLと60%(w/v)ショ糖水溶液100μLを混合して調製した。
【0027】
熱ヒスレシス活性は、シュークロースサンドイッチ法の測定に用いた装置で行った。上記混合液の1μLをカバーガラス2枚で挟んで、サンプルステージに固定した。液体窒素を用いて、1分間当たり100℃の速度で、-40℃まで急速冷凍させ、微小な氷結晶を形成させた。その後、-6℃まで温度上昇させ、氷結晶が単結晶として見える状態にした。その後、温度をゆっくりと0℃付近まで上昇させ、顕微鏡の視野中に氷単結晶の直径が10μm付近になるまで、温度制御しながら調整した。氷単結晶になる時に試料ステージ温度を一定に保持した。保持した時点の時間を0時間として、それから、1分間当たり1℃の速度で低温に下げていき、氷単結晶が成長開始するまでの時間(秒)を測定した。測定した時間(秒)を60で割った数値を熱ヒステレシス活性(℃)とした。さらに、成長する際の氷単結晶の形態も写真撮影した。
【0028】
実施例1
カカオハスク50gを家庭用鍋(内径28cm)に入れ、水道水950mLを追加し、5%(w/v)とし、攪拌混合した。鍋に蓋をして、クッキングヒーター(IH)で強火で5分加熱し、沸騰したところを確認した後、とろ火設定に変更して30分(約99℃)加熱した。処理後に、常温まで室温に放置した。得られた熱水抽出物は、ガーゼで漉し、固形残渣及びろ液に分離した。ろ液はさらに、No.2およびNo.5Cの濾紙で吸引ろ過した。最終ろ過後のろ液を抽出エキスとした。
【0029】
実施例1で調製した抽出エキスについてのタンパク質量、ポリフェノール量、糖量を測定した。以下の表1に記載する。さらに、得られた抽出エキスの両活性を測定し、以下の表2に記載する。
【0030】
【表1】
【0031】
試験例4.過冷却促進活性(抗氷核活性)と氷再結晶化抑制活性(RI活性)の試験
実施例1得られた抽出エキスは、タンパク質量及びポリフェノール量を測定した。タンパク質量は、BCAタンパク質アッセイ法(ThermoFisehr製)で測定した。ポリフェノール量は、フォーリンチオカルト法で、標準物質は没食子酸を使用した。糖量は、フェノール硫酸法により測定し、標準物質はグルコースを使用した。
【0032】
【表2】
【0033】
表1のように、抽出エキス中にはタンパク質量が最も多くあることが判明した。さらに、カカオハスクエキスに含まれる低分子型ポリフェノールは過冷却促進活性があることが明らかにされているが、そのポリフェノール量は、コーヒー粕エキス調製時より多く抽出されていることが判明した。そこで、ポリフェノール量を基準として、200μg/mlに調製した後に、両活性を測定した。その結果、表2のように、過冷却促進活性は、2.3℃を示し、濃度を上げると2.8℃で一定の値となった。また、氷再結晶化抑制活性(RI活性)は、0.46を示し、これまでに報告されている多様な未利用資源からの抽出エキス(コーヒー粕、味噌、おからなど)の同活性よりも高い活性を示した。以上の結果から、カカオハスクが2つの氷結晶制御活性を示することがわかり、次にこれら両活性が、どのくらいの分子量の成分であるかどうかを検討した。
【0034】
実施例2
過冷却促進活性(抗氷核活性)及び氷再結晶化抑制活性(RI活性)に関与している物質が、どのくらいの分子量の化合物で、抽出エキス中のどの成分であるかを決定するために、まず初めに、透析チューブを用いて、実施例1の抽出エキスの分子量分画をした。分画分子量100k以上では、透析チューブ(スペクトラム社製100kDa、31mm)、分子量100k以下の画分は、VIVASPIN6(ザルトリウス社製100kDa)を使用した。さらに、分子量10k以上100k以下の画分および分子量10k以下の画分は、100k以下画分をVIVASPIN6(ザルトリウス社製10kDa)で、分子量10k以下および3k以下の分画は、VIVASPIN20(ザルトリウス社製10kDa)およびVIVASPIN20(ザルトリウス社製3kDa)で分画した。分離した各分画サンプルは、タンパク質量、ポリフェノール量及び糖量を測定し、比較した。
【0035】
実施例2で調製した抽出エキスの分子量によって分離した各画分のタンパク質量、ポリフェノール量及び糖量を測定した(表3に記載)後、ポリフェノール200μg/mlに調製した分子量によって分離した各画分の両活性の測定結果は、以下 の表4に記載する。
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
表3に示すように、分子量100k以上の画分には、タンパク質、ポリフェノールは全くなく、糖は若干量(0.5mg/ml)含有していた。タンパク質およびポリフェノールのほとんどは分子量100k以下に存在し、分子量10k~100kの画分と分子量10kおよび3k以下の画分では3つの成分濃度は同じであった。その結果、分画できた各画分の容量を換算すると、抽出エキス中の両活性を有する分子量10k以上及び3k~10kおよび3k以下のタンパク質量割合は、各々15.7%と49.0%および35.3%であった。さらに、分子量10k以上、10k以下のポリフェノール量割合は各々16.7%と83.3%であった。
【0039】
表4に示すように、過冷却促進活性(抗氷核活性)においては、実施例1の分画なしの抽出エキスの2.3℃に対し、実施例2の分子量10k~100kの画分と分子量10k以下の画分は、各々2.1℃と1.9℃の活性となり、ほぼ同程度の活性を示した。これまでに報告されているカカオハスクに含まれる低分子型ポリフェノール類は分子量10k以下であるので、分子量10k~100kの画分のような高分子型の過冷却活性剤の報告は皆無である。また、カカオハスクの抽出エキス(実施例1)の氷再結晶化抑制活性(RI活性)(表2)は0.46であったのに対し、表4に示したように、分子量10k以下の画分のRI活性は高い値(0.45)、分子量3k以下の画分のRI活性はさらに高い値(0.40)を示し、低分子の氷再結晶化抑制活性剤であることが判明した。この結果は、低分子の化合物が活性成分であり、これまでの報告から、ペプチドあるいは糖が活性に関与していると判断した。分子量10k以上100k以下の画分の活性から、本発明の氷結晶制御剤中の過冷却促進活性(抗氷核活性)を有する成分は、高分子型の活性剤も含まれていると判断できた。しかしながら、この高分子活性成分が表3に示した成分のどの成分があるかどうかを確認する必要があり、最も活性成分として可能性のあるタンパク質の除去作用が過冷却促進活性(抗氷核活性)および氷再結晶化抑制活性(RI活性)に影響するかどうかを検討した。
【0040】
試験例5.タンパク質分解処理し、透析したエキスの成分量及び両活性の測定
実施例1で調製された抽出エキス5.0mlに、このエキス中のタンパク質量の50分の1量に値する量のアルカラーゼ(メルク社製 126741, 2.995 U/ml)300μlを加え、60℃で2時間処理する。分画分子量VIVASPIN6(ザルトリウス社製10kDa)で、分子量10k以下を分画した。分離した分画サンプルは、タンパク質量、ポリフェノール量及び糖量を測定し、比較した。
【0041】
実施例3
実施例3において、タンパク質を分解処理して調製した分子量10k以上の画分についてのタンパク質量、ポリフェノール量及び糖量を測定した(表5)後、実施例1においてポリフェノール量200μg/mlとなるように希釈する倍率と同じ条件で調製したタンパク質を分解処理し、分画した実施例3のエキスの両活性の測定結果を実施例1の両活性と比較したものを、以下の表5に記載する。
【0042】
【表5】
【0043】
表6に示したように、アルカラーゼ処理によって、実施例1の抽出エキスのタンパク質成分が分解され、低分子化されたペプチドは、分子量カット10kの限外ろ過により除去された。そのため、実施例3のタンパク質量は実施例1の約10分の1となった。このタンパク質に吸着してたと思われる(一般に、ポリフェノールはタンパク質に吸着する性質がある)ポリフェノール(カテキンなど)も同様の限外ろ過処理により除去された。さらに、糖タンパク質として存在している糖成分も除去されていた。そのため、ポリフェノール量および糖量とも実施例1抽出エキスの10分の1以下となった。
【0044】
【表6】
【0045】
表6に示したように、分子量10k以上した画分のタンパク質を分解した場合、過冷却活性(抗氷核活性)は0.20℃となり、活性としては無い画分となった。さらに、氷再結晶化抑制活性(RI活性)もまた無い画分となった。これらの結果から、分子量10k以上の活性成分はタンパク質が関与していると判断した。同様な結果は、分子量10k以下の活性成分でも確認できている。
【0046】
実施例4
分子量3k以下の画分は、VIVASPIN20(ザルトリウス社製3kDa)で分画した。得られた画分は、分子量排除限界が5000であるSepadexLH-20(Cytiba)カラム径1.5cm、長さ100cmを用いたゲルろ過クロマトグラフィーで分画を行った。1フラクションの分画量は3mlずつ行った。ペプチドの分離であるので、ペプチド結合の指標となる波長230nm(実線)と芳香族化合物の指標となる280nm(破線)の吸光度を測定した。
【0047】
図1に示したように、ゲルろ過分画によって、ピーク(1)から(4)の4つのピークに分離でき、各々のピークを集めて、タンパク質量とポリフェノール量を測定した。以下の表7に示した。次に、分離した4つの各ピーク溶液は、エバポレーターにて濃縮後に、同じペプチド量に合わせて、氷結晶制御活性として、過冷却活性、氷再結晶化抑制活性および熱ヒステレシスを測定した。表8に示したように、不凍タンパク質と同じように、ピーク(3)が熱ヒステレシス値と高い氷再結晶化抑制活性を示した。ピーク(3)は最も高い氷結晶制御能を示し、氷結晶成長時の氷結晶の形は六角形となり、ピーク(3)には不凍ペプチドが含まれていることがわかった。
【表7】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によって、食品分野、特に冷凍食品分野を含む様々な分野で応用が可能であり、安全性、生産性に優れた氷結晶制御剤が提供される。



図1