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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099797
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】シリンダ錠
(51)【国際特許分類】
   E05B 15/00 20060101AFI20250626BHJP
【FI】
E05B15/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216731
(22)【出願日】2023-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】秋山 史記
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏隆
(72)【発明者】
【氏名】安藤 萌
(57)【要約】
【課題】内筒が外筒に対して自由に回転可能であるとともに、内筒と外筒との軸方向のずれ量を最小限にすることができ、小径化が可能なシリンダ錠を提供すること。
【解決手段】内筒と、内筒を回動可能に嵌合する外筒と、を備え、内筒は、外周面に周方向に沿って延びる固定ピン挿入溝を有し、外筒は、固定ピン挿入溝に対応する位置に、固定ピン挿入溝に連通する固定ピン挿入孔を有し、固定ピン挿入孔に、固定ピン挿入溝内に向けて固定ピンが挿入されることによって、内筒が外筒に対して、回動可能且つ軸方向に抜け出し不能に位置決めされる、シリンダ錠である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内筒と、前記内筒を回動可能に嵌合する外筒と、を備え、
前記内筒は、外周面に周方向に沿って延びる固定ピン挿入溝を有し、
前記外筒は、前記固定ピン挿入溝に対応する位置に、前記固定ピン挿入溝に連通する固定ピン挿入孔を有し、
前記固定ピン挿入孔に、前記固定ピン挿入溝内に向けて固定ピンが挿入されることによって、前記内筒が前記外筒に対して、回動可能且つ軸方向に抜け出し不能に位置決めされる、シリンダ錠。
【請求項2】
前記外筒は、前記固定ピン挿入孔に挿入された前記固定ピンを径方向の外側から押さえる押さえ部材を有する、請求項1に記載のシリンダ錠。
【請求項3】
前記押さえ部材は、前記外筒の外周面に、周方向に沿って弾性的に装着される、請求項2に記載のシリンダ錠。
【請求項4】
前記外筒の外周面に、周方向に沿って前記押さえ部材が収容される収容溝が形成される、請求項3に記載のシリンダ錠。
【請求項5】
前記固定ピン挿入孔及び前記固定ピンは、複数設けられる、請求項1~4のいずれか1項に記載のシリンダ錠。
【請求項6】
少なくとも2つの前記固定ピン挿入孔に挿入される少なくとも2つの前記固定ピンのそれぞれの中心軸が前記外筒の周方向に交差する角度は、180度未満である、請求項5に記載のシリンダ錠。
【請求項7】
請求項1又は2のいずれかに記載のシリンダ錠を備える、建具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリンダ錠に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅等の扉に設置されるシリンダ錠が知られている。シリンダ錠は、外筒と、外筒に回転可能に嵌合する内筒と、内筒の回動を規制するドライバーピン及びタンブラーピンと、を有する。シリンダ錠に対応する解錠鍵には、タンブラーピンとの当接部に凹凸が形成されている。シリンダ錠の鍵穴に対して解錠鍵を挿入し、ドライバーピンとタンブラーピンとの接触面を、内筒の外周面であるシアーラインに揃えることで、内筒が回動可能になる。これによって、シリンダ錠の施解錠が行われる。ドライバーピン及びタンブラーピンは、外筒及び内筒に形成される孔部に、バネ等の付勢部材と共に収容される。
【0003】
内筒は、外筒に対して回転方向に自由に回転し、軸方向には抜けないことが必要である。そのため、従来では、内筒の一方端部に外筒の端面に当接する鍔部を設けるとともに、内筒の他方端部に抜け止め部品を設けて、内筒が外筒に対して軸方向に抜けないように、外筒を軸方向の両側から挟むようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-121939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、抜け止め部品は、ねじ止めもしくはクリップ止め等によって内筒に固定される。しかしながら、シリンダ錠を小型化するために内筒及び外筒を小径化すると、ねじ止めの場合においては、ねじ部をタップ加工するための面積が不足し、クリップ止めの場合においては、クリップの弾性変形量が小さくなり、形状的に安定した抜け止め機能を果たすことが困難になる。クリップ止めの場合は、さらに、内筒、外筒、クリップの板厚毎に公差が集積されるため、内筒と外筒との軸方向のずれ量(遊び)が大きくなる。
【0006】
そこで、本開示は、内筒が外筒に対して自由に回転可能であるとともに、内筒と外筒との軸方向のずれ量を最小限にすることができ、小径化が可能なシリンダ錠を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、内筒と、前記内筒を回動可能に嵌合する外筒と、を備え、前記内筒は、外周面に周方向に沿って延びる固定ピン挿入溝を有し、前記外筒は、前記固定ピン挿入溝に対応する位置に、前記固定ピン挿入溝に連通する固定ピン挿入孔を有し、前記固定ピン挿入孔に、前記固定ピン挿入溝内に向けて固定ピンが挿入されることによって、前記内筒が前記外筒に対して、回動可能且つ軸方向に抜け出し不能に位置決めされる、シリンダ錠に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係るシリンダ錠及び解錠鍵を示す斜視図である。
図2】本実施形態に係るシリンダ錠の分解斜視図である。
図3】本実施形態に係るシリンダ錠を図2とは異なる方向から視た分解斜視図である。
図4】本実施形態に係るシリンダ錠を室外側から視た正面図である。
図5】本実施形態に係るシリンダ錠を室内側から視た背面図である。
図6図4中のA-A線に沿う断面図である。
図7】本実施形態に係るシリンダ錠に設けられる蓋材の正面図である。
図8】本実施形態に係るシリンダ錠を備えるドアの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本実施形態に係るシリンダ錠1は、シリンダ錠1を施解錠可能な解錠鍵100と共に用いられる。シリンダ錠1は、図2及び図3に示すように、内筒2と、外筒3と、ドライバーピン41と、タンブラーピン42と、ドライバーピン41をタンブラーピン42に向けて付勢するバネからなる付勢部材43と、クリックピン5と、一対の蓋材6と、を有する。
【0010】
ここで、各図中の方向について定義する。図中の両端矢印が示す方向は、シリンダ錠1の中心軸Jに沿う方向を示す。この方向は内筒2及び外筒3の軸方向に一致する。X1はシリンダ錠1の前方側を示し、X2はシリンダ錠1の後方側を示す。例えば、シリンダ錠1が玄関扉に取り付けられた場合、前方側X1は室外側であり、後方側X2は室内側である。
【0011】
内筒2は、図2及び図3に示すように、外筒3に回動可能に嵌合する略円筒状部材である。内筒2の材質は特に限定されないが、例えば、真鍮等の金属により構成される。内筒2は、外筒3の内側に嵌合する。内筒2には、内筒2の軸方向に沿って、解錠鍵100が挿入可能な鍵穴21が形成される。
【0012】
内筒2の外周面20には、図2及び図3に示すように、鍵穴21に連通する円筒形状のピン孔22が複数形成される。ピン孔22は、ドライバーピン41及びタンブラーピン42の少なくとも一部が挿脱可能な孔である。本実施形態では、内筒2の軸方向に沿って複数のピン孔22が配列されることによって1列のピン孔列が形成される。ピン孔列は、内筒2の周方向に複数列形成されている。
【0013】
内筒2の後方側X2の端部における外周面20には、図2図3及び図6に示すように、鍵穴21に連通する複数の嵌合孔23が、周方向に所定の間隔をあけて形成されている。本実施形態では、内筒2の外周面20に4つの嵌合孔23が形成されている。嵌合孔23の内周面における鍵穴21側は小径に形成されている。これによって、図6に示すように、嵌合孔23の内周面に環状の段部23aが形成されている。
【0014】
4つの嵌合孔23には、それぞれ駆動ピン24が挿入される。駆動ピン24は、図3及び図6に示すように、内筒2の径方向の外側から駆動ピン24の軸方向に沿って順に、大径部241、小径部242、駆動端部243を有する。駆動端部243の外径は、小径部242の外径よりも小さい。駆動ピン24が内筒2の径方向の外側から嵌合孔23に挿入された際、駆動ピン24の大径部241が嵌合孔23の環状の段部23aに当接し、それ以上の鍵穴21へ向けた挿入が阻止される。この状態で、駆動端部243は、図4図6に示すように、嵌合孔23から鍵穴21内に突出して配置される。駆動ピン24の大径部241は嵌合孔23内に完全に収容され、内筒2の外周面20よりも径方向の外側には突出していない。4つの駆動ピン24の駆動端部243は、後述するように鍵穴21に挿入される解錠鍵100の先端と係合する。これによって、4つの駆動ピン24は、解錠鍵100の回動操作に連動して内筒2を外筒3に対して回動させる。
【0015】
内筒2の後方側X2の端部における外周面20には、図3及び図5に示すように、後述するクリックピン5が嵌合する凹部25が形成される。凹部25は、内筒2の軸方向に沿って延びている。内筒2の外周面20の周方向に沿う凹部25の幅は、図5に示すように、円筒形状のクリックピン5の外径よりも小さい。
【0016】
外筒3は、図2及び図3に示すように、内側に内筒2が嵌合可能な略円筒状部材である。外筒3の材質は特に限定されないが、例えば、内筒2と同様に、真鍮等の金属により構成される。外筒3は、シリンダ錠1が取り付けられる図示しない扉に対して回動不能に固定されている。外筒3は、内筒2との摺動面である内周面を、内筒2の外周面20に当接させて内筒2と嵌合する。外筒3の軸方向の長さは、内筒2の軸方向の長さよりも僅かに短い。これによって、図6に示すように、前方側X1の位置が揃えられて外筒3に嵌合した内筒2は、外筒3よりも後方側X2に向けて突出する。外筒3よりも後方側X2に突出した内筒2の部位は、シリンダ錠1の図示しない機能部品との接続のために利用される。
【0017】
外筒3には、外筒3の軸方向に沿って、内筒2が嵌合可能な円筒形状の孔部31が形成される。外筒3の外周面30には、孔部31に連通する円筒形状のピン孔32が複数形成される。ピン孔32は、ドライバーピン41及びタンブラーピン42の少なくとも一部が挿脱可能な孔である。外筒3の複数のピン孔32は、内筒2の複数のピン孔22と連通可能に配置される。本実施形態では、外筒3の軸方向に沿って複数のピン孔32が配列されることによって1列のピン孔列が形成される。ピン孔列は、内筒2のピン孔列と同様に、外筒3の周方向に複数列形成されている。内筒2の複数のピン孔22と、外筒3の複数のピン孔32とは、内筒2を外筒3に対して回動させ、所定の位置に配置させた際に、ドライバーピン41及びタンブラーピン42の少なくとも一部が挿脱可能であるように互いに連通する。
【0018】
図2図5に示すように、外筒3の外周面30には、軸方向に沿う蓋材取付溝33が設けられる。蓋材取付溝33は、断面視で略直方形状を有し、外筒3の外周面30に向けて開口している。蓋材取付溝33は、外筒3の前方側X1の端面から後方側X2の端面にかけて形成される。本実施形態において、蓋材取付溝33は、外筒3の外周面30に2つ設けられる。2つの蓋材取付溝33は、図4及び図5に示すように、外筒3の外周面30の周方向に180度の角度で離れて配置されている。2つの蓋材取付溝33は、後述する蓋材6の屈曲部62が係合可能に構成される。
【0019】
図3及び図5に示すように、外筒3の後方側X2の端部には、軸方向に沿う切り欠き部34が形成されている。切り欠き部34は、内筒2の凹部25に連通可能に配置される。切り欠き部34は、外筒3の後方側X2の端面から前方側X1に向けて、平面視で略直方体形状に外周面30を切り欠くことによって形成される。孔部31は、切り欠き部34によって外筒3の径方向の外側と連通している。切り欠き部34の切り欠き幅及び切り欠き長さは、円筒形状のクリックピン5の外径及び軸方向長さに略等しい。
【0020】
ドライバーピン41及びタンブラーピン42は、それぞれ略円柱形状の部材である。ドライバーピン41及びタンブラーピン42は、内筒2のピン孔22及び外筒3のピン孔32の各々に、内筒2及び外筒3の径方向に摺動可能に収容される。タンブラーピン42は、ピン孔22,32における鍵穴21側に配置されるピンである。解錠鍵100と当接するタンブラーピン42の先端部は、丸みを帯びた形状を有する。ドライバーピン41の一方の端部はタンブラーピン42と当接し、他方の端部は付勢部材43と当接している。図2及び図3では一組のドライバーピン41、タンブラーピン42及び付勢部材43のみを図示しているが、ドライバーピン41、タンブラーピン42及び付勢部材43の組は、複数のピン孔22,32の組に対応して設けられる。
【0021】
クリックピン5は、外筒3に対する内筒2の回動状態が、鍵穴21に対して解錠鍵100を挿脱可能な状態である場合に、外筒3に対する内筒2の回動を抑制する部材である。クリックピン5は円筒形状である。クリックピン5の軸方向は、内筒2及び外筒3の軸方向に沿っている。クリックピン5の軸方向の中央部には、全周に亘る括れ部5aが形成されている。クリックピン5は、図5に示すように、内筒2と外筒3とが嵌合した状態で、内筒2の凹部25に嵌合するように配置されるとともに外筒3の切り欠き部34内に完全に収容される。切り欠き部34内のクリックピン5は、外筒3の外周面30よりも径方向外側に突出していない。
【0022】
切り欠き部34内に収容されたクリックピン5は、付勢部材としての円弧形状のトーションバネ51によって、内筒2に向けて付勢されている。トーションバネ51は、外筒3の後方側X2の端部における外周面30に周方向に沿って形成されたバネ取付溝35に装着される。トーションバネ51の2つの端部51aは、外筒3の外周面30に形成されたバネ係止溝36に係止される。バネ取付溝35に装着されたトーションバネ51は、クリックピン5の括れ部5aに係合し、外筒3の径方向の外側から付勢力を与える。
【0023】
図5に示す状態では、外筒3の切り欠き部34内のクリックピン5は、内筒2の凹部25に嵌合している。このとき、外筒3に対する内筒2の回動が抑制されるとともに、クリックピン5が凹部25に嵌合する際のクリック感が、解錠鍵100を回動させる使用者の手指に伝達される。これによって、使用者は、解錠鍵100の挿脱可能な位置を認識できるとともに、挿脱可能な位置で外筒3に対する内筒2の回動状態を容易に保持することができる。クリックピン5を付勢するトーションバネ51は、クリックピン5の括れ部5aに係合するとともに、外筒3のバネ取付溝35に装着されるため、外筒3の外径が大きくなることはなく、シリンダ錠1の小径化が可能である。
【0024】
蓋材6は、外筒3の外周面30に沿って取り付けられることによって、外周面30に開口する複数のピン孔32を被覆する。蓋材6は、ドライバーピン41に対して付勢力を与える付勢部材43の付勢力に抗した状態で、外筒3に取り付けられる。これによって、ドライバーピン41はピン孔32に収容されると共に、外筒3の径方向内側に向かう付勢力が加えられる。蓋材6が外筒3の複数のピン孔32を被覆することで、ドライバーピンのピン孔を一列毎に被覆する蓋材と比較して、蓋材を固定するための溝部の配置スペースを低減することができる。これによって、外筒3を小径化することができる。図1及び図6に示すように、蓋材6の後方側X2の端部は、バネ取付溝35を覆っていない。
【0025】
本実施形態において、蓋材6は、外筒3に2つ設けられる。2つの蓋材6は、組み合わされることによって、外筒3の外周面30に略円筒状に形成される。蓋材6を複数設けることによって、単一の円筒形状の蓋材を用いる場合と比較して、シリンダ錠1の組立作業性を向上させることができる。蓋材6の材質としては、バネ鋼材を用いることが好ましい。これによって、蓋材6と外筒3とを隙間なく密着させることが可能となる。特に、ステンレス製のバネ鋼材を用いることがより好ましい。具体的には、SUS304CSPが挙げられる。
【0026】
蓋材6は、図7に示すように、平板を外筒3の外周面30に沿って湾曲させた形状を有する湾曲部61と、湾曲部61の両端にそれぞれ形成される屈曲部62と、を有する。湾曲部61は、略半円弧状の断面形状を有する。屈曲部62は、湾曲部61の曲率を有する方向の両端に配置され、それぞれ湾曲部61の内側に向けて屈曲している。2つの蓋材6、6は、同一の形状を有し、シリンダ錠1の中心軸Jを中心として対称となる位置に配置される。
【0027】
2つの蓋材6は、それぞれの屈曲部62を、外筒3の外周面30に形成された2つの蓋材取付溝33,33に係止することによって、外筒3の外周面30に取り付けられる。蓋材6の湾曲部61は、蓋材6が外筒3に取り付けられる前の状態において、外筒3の外周面30の曲率よりも多少大きな曲率で内側に湾曲している。そのため、蓋材6を外筒3に取り付けた際に、湾曲部61が発揮するバネ力によって、屈曲部62が蓋材取付溝33に強固に係止されるとともに、湾曲部61が外筒3に対して密着する。
【0028】
本実施形態の解錠鍵100は、円柱状の棒状体からなる。解錠鍵100の先端には、図1に示すように、内筒2の鍵穴21における複数の駆動ピン24の駆動端部243の周方向の配置に対応する複数の係合溝101が形成されている。解錠鍵100の外周面には、シリンダ錠1に設けられる複数のタンブラーピン42の配列に対応する図示しない凹凸が形成されている。解錠鍵100が鍵穴21に挿入されると、解錠鍵100の複数の係合溝101が、鍵穴21内の複数の駆動端部243に係合するとともに、複数のドライバーピン41とタンブラーピン42との間のシアーラインが内筒2の外周面20に一致する。この状態で解錠鍵100が回動操作されると、内筒2は外筒3に対して回動する。
【0029】
次に、本実施形態のシリンダ錠1における内筒2と外筒3との軸方向の抜け止め構造について説明する。
【0030】
図2図3及び図6に示すように、内筒2の外周面20には、周方向に沿って延びる固定ピン挿入溝26が形成される。固定ピン挿入溝26は、図6に示すように、内筒2の外周面20から鍵穴21に向けて、軸方向に沿って同幅で凹設された断面矩形状の溝である。本実施形態において、固定ピン挿入溝26は内筒2の前方側X1の端部に配置され、外周面20に対して全周に亘って切削加工することによって、環状に形成されている。内筒2の複数のピン孔22は、固定ピン挿入溝26よりも後方側X2に配置されている。
【0031】
図2図3及び図6に示すように、外筒3の前方側X1の端部における外周面30には、内筒2の固定ピン挿入溝26に対応する位置に、円筒形状の固定ピン挿入孔37が形成される。固定ピン挿入孔37は、孔部31に連通している。図1及び図6に示すように、蓋材6の前方側X1の端部は、固定ピン挿入孔37を覆っていない。
【0032】
図6に示すように、固定ピン挿入孔37の内径は、内筒2の軸方向に沿う固定ピン挿入溝26の溝幅よりも大きい。そのため、内筒2と外筒3とが嵌合した状態で、固定ピン挿入孔37内には、固定ピン挿入溝26と、その固定ピン挿入溝26の前方側X1及び後方側X2にそれぞれ配置される段部26aと、が臨んでいる。段部26aは、内筒2の外周面20の一部によって形成される。
【0033】
外筒3には複数の固定ピン挿入孔37が形成される。本実施形態では、外筒3に4つの固定ピン挿入孔37が形成されている。外筒3には、2つの固定ピン挿入孔37を1つの組として、固定ピン挿入孔37の2つの組が、蓋材取付溝33を挟んで、外筒3の周方向に沿って配置されている。図4に示すように、1つの組を構成する2つの固定ピン挿入孔37のそれぞれの中心軸37aが外筒3の周方向に交差する角度θは、180度未満である。この角度θの下限は、2つの固定ピン挿入孔37同士が干渉せず、且つ各固定ピン挿入孔37に挿入される後述する2つの内外筒固定ピン7同士が干渉しない程度の角度に設定される。具体的な角度θは、180度以外であれば特に限定されないが、例えば30度に設定することができる。
【0034】
複数の固定ピン挿入孔37のうちの少なくとも2つの固定ピン挿入孔37には、内外筒固定ピン7が挿入可能である。本実施形態では、4つの固定ピン挿入孔37のうちの1つの組を構成する2つの固定ピン挿入孔37に、それぞれ金属製の内外筒固定ピン7が挿入されている。内外筒固定ピン7は、図4及び図6に示すように、外筒3の径方向の外側から内外筒固定ピン7の軸方向に沿って順に、それぞれ円筒形状の小径部71、大径部72、位置決め端部73を有する。大径部72の外径は、固定ピン挿入孔37の内径以下、且つ内筒2の軸方向に沿う固定ピン挿入溝26の溝幅よりも大きい。位置決め端部73の外径は、大径部72の外径よりも小さく、且つ内筒2の軸方向に沿う固定ピン挿入溝26の溝幅以下である。本実施形態でいう内外筒固定ピン7は、軸方向に外筒3から内筒2が抜け出さないように内筒2の軸方向の動きを規制して、固定するための固定ピンである。
【0035】
内外筒固定ピン7の軸方向の長さは、固定ピン挿入孔37の軸方向の長さよりも大きい。詳しくは、内外筒固定ピン7の軸方向における小径部71と大径部72とを合わせた長さは、固定ピン挿入孔37の軸方向の長さよりも短い。内外筒固定ピン7の軸方向における位置決め端部73の長さは、内筒2の固定ピン挿入溝26の深さ以下である。
【0036】
内外筒固定ピン7が、位置決め端部73を先頭にして外筒3の径方向の外側から固定ピン挿入孔37に挿入されると、内外筒固定ピン7の大径部72が固定ピン挿入孔37内に臨む段部26aに当接し、それ以上の挿入が阻止される。この状態で、内外筒固定ピン7の位置決め端部73は、図4及び図6に示すように、外筒3の固定ピン挿入孔37を貫通して内筒2の固定ピン挿入溝26内に挿入される。これによって、内筒2は、外筒3に対して軸方向に抜け出し不能に位置決めされた状態で、外筒3の孔部31に嵌合する。内外筒固定ピン7の位置決め端部73は、内筒2の固定ピン挿入溝26内を周方向に移動可能である。そのため、解錠鍵100の鍵穴21への挿入によってシリンダ錠1が解錠状態にあるときに、内筒2は、外筒3に対して自由に回動可能である。
【0037】
内筒2は、外筒3の径方向の外側から挿入される内外筒固定ピン7によって、軸方向に抜け出し不能に位置決めされるため、従来のように内筒2によって外筒3を軸方向の両側から挟む必要がない。内筒2及び外筒3の軸方向の長さを可及的に短くすることができるため、シリンダ錠1の小型化が可能である。
【0038】
このように内筒2と外筒3とが嵌合された状態における公差関係は、内筒2に形成される固定ピン挿入溝26の溝幅、外筒3の孔部31の内径、内外筒固定ピン7の外径の3つである。このうちの外筒3の孔部31の内径以外は、固定ピン挿入溝26及び内外筒固定ピン7を切削加工する工作機械による外周加工であるため、高精度の加工が実現できる。そのため、内筒2と外筒3との軸方向のずれ量を最小限にすることができる。内筒2と外筒3との間の隙間を小さくすることができるため、シリンダ錠1を小径化することが可能である。
【0039】
図2図4及び図6に示すように、2つの固定ピン挿入孔37に挿入された2つの内外筒固定ピン7は、外筒3の径方向の外側から押さえ部材8によって押さえられる。これによって、内外筒固定ピン7が自重によって外筒3から抜け出ることが防止される。本実施形態の押さえ部材8は、バネ弾性を有する金属からなる棒状体を、外筒3の周方向に沿って湾曲させた円弧形状のバネ部材からなる。押さえ部材8の両端部には、それぞれ同一方向に屈曲形成された係止部8aが形成される。押さえ部材8は、外筒3の前方側X1の端部における外周面30に周方向に沿って形成された収容溝38内に収容される。収容溝38は、外筒3の全周に亘って形成され、2つの固定ピン挿入孔37を横断している。
【0040】
外筒3の外周面30には、周方向に間隔をあけて配置される2つの押さえ部材係止溝331が形成される。2つの押さえ部材係止溝331は、外筒3の前方側X1の端部における外周面30に、外筒3の径方向の外側及び前方側X1に向けて開放するように凹設されている。押さえ部材係止溝331は、蓋材取付溝33に対して、2つの内外筒固定ピン7が挿入される2つの固定ピン挿入孔37に近い側にずれた位置に配置される。2つの押さえ部材係止溝331は、外筒3の外周面30において、それぞれ蓋材取付溝33に対して周方向に連通している。
【0041】
押さえ部材8の円弧形状に沿う2つの係止部8a間の長さは、外筒3の周方向に沿う2つの押さえ部材係止溝331間の距離よりも僅かに小さい。そのため、押さえ部材8は、係止部8aをそれぞれ押さえ部材係止溝331に嵌合することによって、収容溝38内に外筒3の周方向に沿って弾性的に装着される。
【0042】
収容溝38に装着された押さえ部材8は、収容溝38内において2つの内外筒固定ピン7の小径部71の端面を横断するよう配置される。これによって、2つの内外筒固定ピン7は、それぞれ固定ピン挿入孔37から抜け出ないように、外筒3の径方向の外側から押さえられる。固定ピン挿入孔37に挿入された内外筒固定ピン7の小径部71の端面は、図4及び図6に示すように、外筒3の外周面30に対して、少なくとも押さえ部材8を形成する棒状体の外径以上の距離だけ径方向の内側に引っ込んだ位置に配置される。収容溝38の深さは、少なくとも押さえ部材8を形成する棒状体の外径以上である。これによって、押さえ部材8によって2つの内外筒固定ピン7を外筒3の径方向の外側から押さえても、外筒3の外径が大きくなることはなく、シリンダ錠1の小径化を阻害することはない。
【0043】
押さえ部材8は、内外筒固定ピン7が固定ピン挿入孔37から抜け出ない程度に内外筒固定ピン7を押さえているだけであり、内外筒固定ピン7に対して内筒2に向けた付勢力を実質的に与えていない。内外筒固定ピン7は、内筒2を押圧しないため、内筒2が外筒3に対して回動する際に抵抗となることはない。そのため、内筒2は外筒3に対して円滑に回動可能である。
【0044】
2つの固定ピン挿入孔37の中心軸37aは180度未満の角度θで交差するため、2つの固定ピン挿入孔37に挿入された2つの内外筒固定ピン7の中心軸7aも、180度未満の角度θで交差する。これによって、内筒2が、外筒3に対して、内外筒固定ピン7の中心軸7aを中心にして回動する方向にガタつくことはない。
【0045】
内筒2と外筒3との軸方向の位置決め及び抜け止めは、内外筒固定ピン7を外筒3の径方向の外側から固定ピン挿入孔37に挿入し、押さえ部材8によって押さえるだけで完了するため、内筒2と外筒3との嵌合作業を簡易に行うことができる。固定ピン挿入孔37は蓋材6によって覆われていないため、内筒2と外筒3との位置決め状態は、外筒3から押さえ部材8を取り外し、固定ピン挿入孔37から内外筒固定ピン7を引き抜くだけで容易に解除することができる。内外筒固定ピン7は、小径部71をピンセット等の治具を用いて摘まむことによって容易に引き抜くことができる。
【0046】
以上の実施形態では、外筒3に形成される4つの固定ピン挿入孔37のうちの1つの組を構成する2つの固定ピン挿入孔37を使用して、それぞれ内外筒固定ピン7を挿入するように構成されるが、2つの内外筒固定ピン7の配置は、外筒3の周方向に180度の角度で配置されない条件であれば、4つの固定ピン挿入孔37のうちのいずれか2つの固定ピン挿入孔37に2つの内外筒固定ピン7を挿入するように構成されてもよい。固定ピン挿入孔37は、4つの固定ピン挿入孔37の全てに挿入されてもよい。
【0047】
本実施形態のシリンダ錠1は、以下の効果を奏する。
【0048】
(1) シリンダ錠1は、内筒2と、内筒2を回動可能に嵌合する外筒3と、を備え、内筒2は、外周面20に周方向に沿って延びる固定ピン挿入溝26を有し、外筒3は、固定ピン挿入溝26に対応する位置に、固定ピン挿入溝26に連通する固定ピン挿入孔37を有し、固定ピン挿入孔37に、固定ピン挿入溝26内に向けて内外筒固定ピン7が挿入されることによって、内筒2が外筒3に対して、回動可能且つ軸方向に抜け出し不能に位置決めされる。
【0049】
これによれば、内筒2が外筒3に対して自由に回転可能であるとともに、内筒2と外筒3との軸方向のずれ量を最小限にすることができ、小径化が可能なシリンダ錠1を提供することができる。
【0050】
(2) 上記(1)に記載のシリンダ錠1において、外筒3は、固定ピン挿入孔37に挿入された内外筒固定ピン7を径方向の外側から押さえる押さえ部材8を有する。
【0051】
これによれば、内外筒固定ピン7が自重によって固定ピン挿入孔37から抜け出ることはない。押さえ部材8は、内外筒固定ピン7を径方向の外側から押さえるだけであるため、内外筒固定ピン7が内筒2を押圧することはなく、内筒2が外筒3に対して回動する際に抵抗となることはない。そのため、内筒2は外筒3に対して円滑に回動可能である。
【0052】
(3) 上記(2)に記載のシリンダ錠1において、押さえ部材8は、外筒3の外周面30に、周方向に沿って弾性的に装着される。
【0053】
これによれば、外筒3に対する押さえ部材8の取り付け及び取り外しを容易に行うことができるため、内外筒固定ピン7の取り出しが容易である。そのため、内筒2と外筒3との位置決め状態を容易に解除することができる。
【0054】
(4) 上記(3)に記載のシリンダ錠1において、外筒3の外周面30に、周方向に沿って押さえ部材8が収容される収容溝38が形成される。
【0055】
これによれば、押さえ部材8を取り付けても外筒3の外径が大きくなることはないため、シリンダ錠1の小径化が阻害されることはない。
【0056】
(5) 上記(1)~(4)のいずれかに記載のシリンダ錠1において、固定ピン挿入孔37及び内外筒固定ピン7は、複数設けられる。
【0057】
これによれば、内筒2を、外筒3に対して、より安定して回動可能且つ軸方向の抜け出し不能に位置決めすることができる。
【0058】
(6) 上記(5)に記載のシリンダ錠1において、少なくとも2つの固定ピン挿入孔37に挿入される少なくとも2つの内外筒固定ピン7のそれぞれの中心軸37a,7aが外筒3の周方向に交差する角度θは、180度未満である。
【0059】
これによれば、内筒2が、外筒3に対して、内外筒固定ピン7の中心軸7aを中心にして回動する方向にガタつくことが阻止される。そのため、内筒2はより円滑に回動可能である。
【0060】
図8は、本実施形態に示すシリンダ錠1を備える建具であるドア200を示す。ドア200は、建物躯体のドア開口部300に開閉可能に納められる。ドア200は、戸先側に、ドア200の開閉操作用のハンドル201と、ハンドル201の上下にそれぞれ配置される一対のシリンダ錠1と、を有する。ドア200は、例えば、玄関ドアとして用いられる。
【0061】
本実施形態では、シリンダ錠1が搭載される建具の一例として玄関ドアを示したが、玄関ドアに限られず、セキュリティ性が求められるあらゆるドアや扉に適用可能であり、例えば勝手口ドア、テラスドア、門扉、室内ドア、シャッター等に適用し得る。さらに、シリンダ錠1が適用し得るものであれば建具以外にも適用可能であり、例えば宅配ボックス、ロッカー、金庫、冷蔵庫にも適用し得る。本開示は以下の態様に記載のシリンダー錠及び建具を含む。
【0062】
<態様1>
内筒と、前記内筒を回動可能に嵌合する外筒と、を備え、
前記内筒は、外周面に周方向に沿って延びる固定ピン挿入溝を有し、
前記外筒は、前記固定ピン挿入溝に対応する位置に、前記固定ピン挿入溝に連通する固定ピン挿入孔を有し、
前記固定ピン挿入孔に、前記固定ピン挿入溝内に向けて固定ピンが挿入されることによって、前記内筒が前記外筒に対して、回動可能且つ軸方向に抜け出し不能に位置決めされる、シリンダ錠。
【0063】
<態様2>
前記外筒は、前記固定ピン挿入孔に挿入された前記固定ピンを径方向の外側から押さえる押さえ部材を有する、態様1に記載のシリンダ錠。
【0064】
<態様3>
前記押さえ部材は、前記外筒の外周面に、周方向に沿って弾性的に装着される、態様2に記載のシリンダ錠。
【0065】
<態様4>
前記外筒の外周面に、周方向に沿って前記押さえ部材が収容される収容溝が形成される、態様2又は3に記載のシリンダ錠。
【0066】
<態様5>
前記固定ピン挿入孔及び前記固定ピンは、複数設けられる、態様1~4のいずれかに記載のシリンダ錠。
【0067】
<態様6>
少なくとも2つの前記固定ピン挿入孔に挿入される少なくとも2つの前記固定ピンのそれぞれの中心軸が前記外筒の周方向に交差する角度は、180度未満である、態様5に記載のシリンダ錠。
【0068】
<態様7>
態様1~6のいずれかに記載のシリンダ錠を備える、建具。
【符号の説明】
【0069】
1 シリンダ錠、 2 内筒、 3 外筒、 7 内外筒固定ピン、 7a 内外筒固定ピンの中心軸、 8 押さえ部材、 20 内筒の外周面、 26 固定ピン挿入溝、 30 外筒の外周面、 37 固定ピン挿入孔、 37a 固定ピン挿入孔の中心軸、 38 収容溝、 100 ドア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8