(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099801
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】離散時間モデルの算出方法
(51)【国際特許分類】
G05B 13/04 20060101AFI20250626BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20250626BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20250626BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20250626BHJP
H02P 29/00 20160101ALI20250626BHJP
【FI】
G05B13/04
F02D41/04
F02D43/00 301E
F02D43/00 301Z
F02D45/00 369
F02D45/00 370
H02P29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216741
(22)【出願日】2023-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】中山 慶一
【テーマコード(参考)】
3G301
3G384
5H004
5H501
【Fターム(参考)】
3G301JA18
3G301MA01
3G301MA11
3G301NA09
3G384DA04
5H004GA04
5H004GB11
5H004HA02
5H004HA14
5H004HB02
5H004HB14
5H004KC21
5H004KC22
5H004KC27
5H004LA12
5H501BB20
5H501JJ04
5H501JJ17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】離散時間モデルで使用される係数に局所的な最適解が得られてしまうことを防止して、離散時間モデルの式を精度よく算出する。
【解決手段】フーリエ変換された制御対象からの取得データとの差が最小となり、かつ上記制御対象の連続時間モデルの式に変換した際に変換した連続時間モデルの式にある物理的な意味を有するパラメータが上記制御対象からの取得データから読みとれる物理的な意味を反映したものとなるように、上記制御対象の挙動を表す離散時間モデルで使用される係数を決定する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象からの取得データとの差が最小となり、かつ上記制御対象の連続時間モデルの式に変換した際に変換した連続時間モデルの式にある物理的な意味を有するパラメータが上記制御対象からの取得データから読みとれる物理的な意味を反映したものとなるように、上記制御対象の離散時間モデルで使用される係数を決定することを特徴とする離散時間モデルの算出方法。
【請求項2】
連続時間モデルの式中の物理的な意味を有するパラメータは、固有角周波数と減衰比であることを特徴とする請求項1に記載の離散時間モデルの算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離散時間モデルの算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
制御対象の入出力データから数学モデルを構築する技術は、例えば非特許文献1等によって知られている。
【0003】
制御対象の離散時間モデルは、制御対象から検出された取得データとのフィッティングによって離散時間モデルで使用される係数(パラメータ)を決定することで算出可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】MATLAB(登録商標)による制御のためのシステム同定,東京電機大学出版局(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、制御対象から検出された取得データとのフィッティングによって離散時間モデルで使用される係数を決定する場合、離散時間モデルで使用される係数の組み合わせは複数通りあり、離散時間モデルで使用される係数の局所的な最適解が得られてしまう可能性がある。
【0006】
つまり、制御対象から検出された取得データとのフィッティングのみで得られた離散時間モデルでは、制御対象の制御精度が低下する虞がある。
【0007】
また、制御対象のデータを取得する運転条件を変えると、離散時間モデルで使用される係数は不連続に変化してしまうため、離散時間モデルを組み込んだ制御装置では、運転条件に応じた切換制御が必要になってしまい、制御対象からの取得データが得られていない運転条件において制御対象の制御精度が低下する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の離散時間モデルの算出方法は、制御対象からの取得データとの差が最小となり、かつ上記制御対象の連続時間モデルの式に変換した際に変換した連続時間モデルの式にある物理的な意味を有するパラメータが上記制御対象からの取得データから読みとれる物理的な意味を反映したものとなるように、上記制御対象の離散時間モデルで使用される係数を決定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、制御対象の離散時間モデルの式と制御対象からの取得データとのフィッティングが改善され、離散時間モデルの式で使用される係数の全域的な最適解を得ることが可能となる。
【0010】
そのため、制御対象からの取得データから算出された制御対象の離散時間モデルにより、制御対象を精度よく制御することが可能となる。
【0011】
また、離散時間モデルで使用される係数は、制御対象のデータを取得した運転条件に応じて連続に変化するようになるため、制御対象からの取得データが得られていない運転条件においては、制御対象からの取得データが得られている運転条件で算出された制御対象の離散時間モデルの係数を内挿して利用することにより、制御対象を精度よく制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】制御対象への入力と制御対象からの出力との関係を模式的に示した説明図。
【
図2】制御対象の出力データをフーリエ変換して得られたデータと、制御対象の離散時間モデルとの相関を模式的に示した説明図。
【
図3】制御対象の連続時間モデルの式に用いられる減衰比ζを読み取る手順を模式的に示した説明図。
【
図4】制御対象の離散時間モデルの式中の係数a
0をフィッティングにより求める際に、この離散時間モデルから変換された制御対象の連続時間モデルの式にある物理的な意味を有するパラメータの値を考慮しない場合と、考慮した場合とを対比して示す説明図。
【
図5】離散時間モデルを組み込んで制御対象を制御した場合の制御結果を対比して示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1は、制御対象への入力と制御対象からの出力との関係を模式的に示した説明図である。
【0015】
制御対象である内燃機関(エンジン)は、例えば、入力データとして燃料噴射量(噴射量)の指令値が入力されると、その結果の出力データとして空燃比が出力される。また、制御対象である電動機(モータ)は、例えば、入力として印加される電圧の指令値が入力されると、その結果の出力データとして電動機を流れる電流値が出力される。つまり、制御対象の出力データは、例えば制御対象に取り付けられた各種センサ類の出力信号の時間変化を表すものであり、各種センサ類の出力信号と、その出力信号が検出された時間(タイミング)とを対にしたデータとして得られる。
【0016】
このような制御対象において、当該制御対象の挙動を表す離散時間モデルは、例えば式(1)のように表すことができる。式(1)中のzは、独立変数である。式(1)中のa0、a1、b0は、それぞれ係数(パラメータ)である。式(1)中の「1」は、定数であり、式(1)においてはその値が予めすでに決定されている。離散時間モデルで使用される係数及び定数は、物理的な意味を持つものではない。
【0017】
【0018】
式(1)における係数a0、a1、b0は、例えば、制御対象の入出力データを利用して算出可能である。具体的には、式(1)中の係数a0、a1、b0は、フーリエ変換された時間の関数である制御対象の出力データとのフィッティングにより決定する。つまり、制御対象の離散時間モデルは、フーリエ変換された制御対象からの取得データとの差が最小となるように離散時間モデル(の式)に使用されている係数の組み合わせを決定することで求めることが可能である。制御対象からの取得データは、制御対象の出力データである。なお、例えば各種センサ類によって検出された制御対象から取得データは、例えば横軸を時間として表示可能である。一方、フーリエ変換された制御対象からの取得データは、例えば横軸を周波数として表示可能である。
【0019】
図2は、制御対象の出力データをフーリエ変換して得られたデータと、制御対象の離散時間モデル(の式)との相関を模式的に示した説明図である。
図2に破線で示す特性線P1は、制御対象の出力データをフーリエ変換して得られたものである。
図2に実線で示す特性線P2は、式(1)に示すような離散時間モデルで得られる出力値である。
【0020】
制御対象の離散時間モデルは、例えば
図2に示すように、制御対象の出力データをフーリエ変換して得られたグラフである特性線P1と重なり合うような離散時間モデルの式中の係数の組み合わせを見出すことで、制御対象の出力データとのフィッティングが可能である。制御対象の離散時間モデルは、制御対象の運転条件毎に算出される。
【0021】
ここで、制御対象の出力データをフーリエ変換して得られたデータ(例えば特性線P1)と重なり合う(一致する)ようにする制御対象の離散時間モデル、すなわち制御対象の出力データとフィッティングされた制御対象の離散時間モデルで使用される係数の組み合わせは複数通り存在する。
【0022】
つまり、制御対象の出力データをフーリエ変換して得られたデータ(例えば特性線P1)と重なり合う(一致する)ような結果が得られる係数の組み合わせの中には、制御対象の出力データに対応する運転条件にのみ対応し、制御対象の出力データが得られていない運転条件との連続性が担保されない局所的な最適解も存在する。
【0023】
そこで、本願発明では、特性線P1との差が最小となるような特性線P2が得られるように、制御対象の離散時間モデルの式中の係数の組み合わせを演算するとともに、演算された係数の値を使った離散時間モデルの式を制御対象の連続時間モデルの式に変換し、この変換された連続時間モデルの式において物理的な意味を有するパラメータが制御対象からの取得データから読み取れる物理的な意味を反映したものになっているか検証し、この検証結果に基づいてフィッティングされた制御対象の離散時間モデルの式中における係数の組み合わせを決定する。
【0024】
制御対象の連続時間モデルの式は、例えば式(2)のように表すことができる。式(2)中のsは、独立変数である。式(2)中のk0、k1は、それぞれ係数である。式(2)中のζは、減衰比(応答波形)であり、物理的な意味合いを有するパラメータである。式(2)中のωは、固有角周波数(応答速度)であり、物理的な意味合いを有するパラメータである。
【0025】
【0026】
本願発明において、制御対象の離散時間モデルの式は、当該離散時間モデルの式を変換した連続時間モデルの式にある減衰比ζ及び固有角周波数ωが制御対象からの取得データから読み取れる物理的な意味を反映したものとなるように決定される。
【0027】
例えば、式(2)中の減衰比ζは、例えば
図3に示すように、制御対象から検出された取得データを用いて読みとることが可能である。
【0028】
図3は、制御対象の連続時間モデルの式に用いられる減衰比ζを読み取る手順を模式的に示した説明図である。
【0029】
例えば、制御対象である内燃機関の取得データである空燃比の時系列データを利用して当該データの減衰比の波形がどのような値の減衰比であるかを読み取ることが可能である。
【0030】
そして、本願発明では、フーリエ変換された制御対象からの取得データとの差が最小となり、かつ制御対象の連続時間モデルの式に変換した際に変換したこの連続時間モデルの式にある物理的な意味を有するパラメータが制御対象からの取得データから読みとれる物理的な意味を反映したものとなるように制御対象の挙動を表す離散時間で使用される係数を決定する。
【0031】
このように決定された離散時間モデルの式中の係数は、制御対象の出力データが得られていない運転条件との連続性が担保されたものとなる。
【0032】
図4は、制御対象の離散時間モデルの式中の係数a
0をフィッティングにより求める際に、離散時間モデルから変換された制御対象の連続時間モデルの式にある物理的な意味を有するパラメータの値を考慮しない場合と、考慮した場合とを対比して示す説明図である。
図4中の(a)は、制御対象の離散時間モデルから変換された制御対象の連続時間モデルの式にある物理的な意味を有するパラメータの値を考慮しない場合の一例を示している。
図4中の(b)は、制御対象の離散時間モデルから変換された制御対象の連続時間モデルの式にある物理的な意味を有するパラメータの値を考慮した場合の一例を示している。
【0033】
図4(a)に示すように、制御対象の離散時間モデルから変換された制御対象の連続時間モデルの式にある物理的な意味を有するパラメータの値を考慮しない場合、フィッティングによって得られた値が局所的な最適解である場合があり、制御対象の出力データが得られていない運転条件の変化に対応する連続性を欠いた値の場合がある。
【0034】
一方、
図4(b)に示すように、制御対象の離散時間モデルから変換された制御対象の連続時間モデルの式にある物理的な意味を有するパラメータの値を考慮した場合、フィッティングによって得られた値が全域的な最適解となり、制御対象の出力データが得られていない運転条件の変化に対応する連続性を有するものになる。
【0035】
図5は、離散時間モデルを組み込んで制御対象を制御した場合の同定結果、制御結果及び各種推定結果の一例を対比して示した説明図である。
【0036】
図5(a)は、制御対象の離散時間モデルから変換された制御対象の連続時間モデルの式にある物理的な意味を有するパラメータの値を考慮せず、フーリエ変換された制御対象の出力データとの差が最小となるように制御対象の離散時間モデルの式に使用されている係数を決定した同定結果を示している。
図5(a)の同定結果における破線は、フーリエ変換された制御対象の出力データであり、同定結果における実線は、同定結果の離散時間モデルである。
【0037】
また、
図5(a)は、制御対象の連続時間モデルの式にある物理的な意味を有するパラメータの値を考慮せずにフーリエ変換された制御対象の出力データとの差が最小となるようにフィッティングして得られた制御対象の離散時間モデルを利用した制御対象である内燃機関の空燃比制御、制御対象である内燃機関の空燃比推定、及び制御対象である内燃機関の外乱推定の結果を示している。
【0038】
図5(b)は、本願発明であり、制御対象の離散時間モデルから変換された制御対象の連続時間モデルの式にある物理的な意味を有するパラメータの値を考慮しつつ、フーリエ変換された制御対象の出力データとの差が最小となるように制御対象の離散時間モデルの式に使用されている係数を決定した同定結果を示している。
図5(b)の同定結果における破線は、フーリエ変換された制御対象の出力データであり、同定結果における実線は、同定結果の離散時間モデルである。
【0039】
また、
図5(b)は、本願発明であり、制御対象の連続時間モデルの式にある物理的な意味を有するパラメータの値を考慮しつつ、フーリエ変換された制御対象の出力データとの差が最小となるようにフィッティングして得られた制御対象の離散時間モデルを利用した制御対象である内燃機関の空燃比制御、制御対象である内燃機関の空燃比推定、及び制御対象である内燃機関の外乱推定の結果を示している。
【0040】
図5(b)に示すように、制御対象の離散時間モデルから変換された制御対象の連続時間モデルの式にある物理的な意味を有するパラメータの値を考慮しつつフィッティングした本願発明に係る制御対象の離散時間モデルを利用すれば、例えば制御対象である内燃機関の空燃比制御、制御対象である内燃機関の空燃比推定、及び制御対象である内燃機関の外乱推定を精度良く実施することが可能となる。
【0041】
以上、説明してきたように、本願発明は、フーリエ変換された制御対象からの取得データとの差が最小となり、かつ制御対象の連続時間モデルの式に変換した際に変換したこの連続時間モデルの式にある物理的な意味を有するパラメータ(減衰比ζ、固有角周波数ω)が制御対象からの取得データから読みとれる物理的な意味を反映したものとなるように、制御対象の挙動を表す離散時間モデルで使用される係数を決定する。
【0042】
これによって、本願発明では、制御対象の離散時間モデルの式と制御対象からの取得データとのフィッティングが改善され、制御対象の離散時間モデルで使用される係数の全域的な最適解を得ることが可能となり、制御対象の離散時間モデルの式の精度を向上させることができる。そのため、本願発明では、制御対象からの取得データから算出された制御対象の離散時間モデルの式を利用して制御対象を精度よく制御することが可能となる。
【0043】
また、本願発明により、制御対象の離散時間モデルの式の精度が向上するため、制御対象の離散時間モデルを制御装置に組み込めば、当該制御装置による制御対象の制御精度が向上する。
【0044】
本願発明では、制御対象の離散時間モデルの式で使用される係数が、制御対象の出力データが得られていない運転条件に対応した連続性を有するものになるため、いわゆる内挿・外挿により制御対象の挙動を予測することができる。つまり、いくつかの運転条件において上述したように制御対象の離散時間モデルを算出しておけば、制御対象の離散時間モデルが算出されていない運転条件での制御対象の挙動を精度よく予測することができる。
【0045】
その結果、本願発明では、運転条件に応じて制御を切り替えるのではなく、算出されている離散時間モデルを利用して運転条件に応じて連続的に制御対象を制御できるようになり、制御対象の制御精度が向上する。
【0046】
また、本願発明では、制御対象の離散時間モデルの式で使用される係数が運転条件の変化に対応した連続性を有するものとして扱うことが可能となり、制御対象の離散時間モデルを制御装置に組み込む際に、離散時間モデルの組み込み用のテーブルにおける運転条件の数を少なくして、メモリの使用量を減少させることができる。
【0047】
なお、制御対象の離散時間モデルを制御装置に組み込む方法としては、テーブルの代わりに近似式を使うことも可能であり、この場合でも離散時間モデルを組み込むにあたって制御装置で使用するメモリの使用量を減少させることができる。
【0048】
また、運転条件の数の削減により、制御対象のデータ取得や、離散時間モデルの係数決定の、作業工数削減も可能となる。
【0049】
以上、本発明の具体的な実施例を説明してきたが、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0050】
例えば、制御対象の離散時間モデルの式は、2次式に限定されるものではないが、オーバーフィッティングを抑制する意味でも、2次式で十分であることが多い。