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特開2025-99847蓄電デバイス用セパレータ及び蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099847
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用セパレータ及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/489 20210101AFI20250626BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20250626BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20250626BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20250626BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250626BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20250626BHJP
【FI】
H01M50/489
H01M50/417
H01M50/491
H01M4/58
H01M10/052
H01G11/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216800
(22)【出願日】2023-12-22
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】内田 一徳
(72)【発明者】
【氏名】杉田 佳之
(72)【発明者】
【氏名】楠坂 啓太
【テーマコード(参考)】
5E078
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA09
5E078AA10
5E078AB01
5E078CA02
5E078CA06
5E078CA10
5E078CA20
5H021EE04
5H021HH00
5H021HH01
5H021HH02
5H021HH03
5H021HH07
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ04
5H029EJ12
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ04
5H029HJ09
5H029HJ11
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB12
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA09
5H050HA11
(57)【要約】
【課題】高突刺強度と低透気度と高MD伸度と低熱収縮率とを兼ね備え、かつ薄膜化の可能な蓄電デバイス用セパレータを提供すること。
【解決手段】ポリオレフィンを主成分として含有し、かつ熱可塑性エラストマーを含有する微多孔層(A)を有するセパレータ基材を備える蓄電デバイス用セパレータが提供され、前記微多孔層(A)は、その全質量を基準として、前記ポリオレフィンを80.0質量%以上99.5質量%以下、前記熱可塑性エラストマーを0.5質量%以上20.0質量%以下含み、かつ前記ポリオレフィンの全質量を基準として、ポリプロピレンを80.0質量%以上99.5質量%以下含み、前記蓄電デバイス用セパレータの突刺強度測定において最終破断深度が5.5mm以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンを主成分として含有し、かつ熱可塑性エラストマーを含有する微多孔層(A)を有するセパレータ基材を備える、蓄電デバイス用セパレータであって、
前記微多孔層(A)は、前記微多孔層(A)の全質量を基準として、前記ポリオレフィンを80.0質量%以上99.5質量%以下、前記熱可塑性エラストマーを0.5質量%以上20.0質量%以下含み、かつ前記ポリオレフィンの全質量を基準として、ポリプロピレンを80.0質量%以上99.5質量%以下含み、
前記蓄電デバイス用セパレータの突刺強度測定の最終破断深度が5.5mm以上である蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項2】
前記蓄電デバイス用セパレータの突刺強度測定において、第一破断点強度に対して、最終破断点強度が1.5倍以上である、請求項1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項3】
前記蓄電デバイス用セパレータの最終破断深度が11mm以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項4】
前記蓄電デバイス用セパレータの突刺強度測定において、第一破断点強度に対して、最終破断点強度が2.5倍以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマーは、繰り返し単位として、エチレン、プロピレン、及び1-ブテンから成る群から選ばれる1種以上を含む、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項6】
前記微多孔層(A)は、荷重2.16kg、温度230℃で測定した際のメルトフローレイト(MFR)が、0.9g/10min以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項7】
前記熱可塑性エラストマーの含有量が、前記微多孔層(A)の全質量を基準として、3.0~10.0質量%である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項8】
前記微多孔層(A)の240℃での溶融張力Mtが、10mN以上35mN以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項9】
前記微多孔層(A)の重量平均分子量(Mw)が25万以上150万以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項10】
前記微多孔層(A)の前記重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値である分子量分布(Mw/Mn)が3以上30以下である、請求項9に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項11】
前記微多孔層(A)は、荷重2.16kg、温度230℃で測定した際のメルトフローレイト(MFR)が、0.3g/10min以上である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項12】
前記ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)が30万以上130万以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項13】
13C-NMR(核磁気共鳴法)で測定した前記ポリプロピレンのペンタッド分率が、94.0%以上である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項14】
前記セパレータ基材の気孔率が、40%以上60%以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項15】
前記セパレータ基材の厚みが、3μm以上20μm以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項16】
前記微多孔層(A)のMD-ND断面のSEM像の解析より算出した面積平均長孔径が50nm以上500nm以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項17】
前記セパレータ基材の105℃、1時間におけるTD熱収縮率が5%以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項18】
前記セパレータ基材の105℃、1時間におけるMD熱収縮率が20%以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項19】
前記セパレータ基材のMD引張伸度が20%以上60%以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項20】
前記セパレータ基材のMD引張強度が2000~2500kgf/cm、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項21】
前記セパレータ基材が、前記微多孔層(A)の240℃での溶融張力Mtと異なる溶融張力Mtである微多孔層(B)を含む、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項22】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータとを備え、前記正極は、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含む、蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蓄電デバイス用セパレータ等に関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜、特にポリオレフィン系微多孔膜は、精密濾過膜、電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ、燃料電池用材料等の多くの技術分野で使用されており、特にリチウム二次電池、リチウムイオン二次電池に代表される蓄電デバイス用セパレータとして使用されている。リチウムイオン電池は、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ等の小型電子機器用途のほか、ハイブリッド自動車、及びプラグインハイブリッド自動車を含む電気自動車等、様々な用途へ応用されている。
【0003】
近年、高エネルギー容量、高エネルギー密度、かつ高い出力特性を有するリチウムイオン電池が求められ、それに伴い、薄膜であり、電池性能、電池の信頼性、安全性に優れたセパレータへの需要が高まっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、絶縁破壊および強度を含む特性を改良し得る多層マイクロポーラス薄膜または膜が記載されている。好ましい多層マイクロポーラス膜は、ミクロ層および1以上の積層バリアを含む。
【0005】
特許文献2には、高強度かつ薄膜化が可能な蓄電デバイス用セパレータが記載されており、ポリオレフィンを主成分とし、温度230℃で測定した際の溶融張力が、30mN以下であり、荷重2.16kg、温度230℃で測定した際のメルトフローレイト(MFR)が、0.9g/10min以下である、微多孔膜が開示されている。
【0006】
特許文献3には、製品安全性などに優れた蓄電デバイス用セパレータが記載されており、ポリプロピレン樹脂と熱可塑性エラストマーを含み、特定のMFR及びモルフォロジーを有する微多孔膜が開示されている。
【0007】
特許文献4には、透気特性に優れ、シャットダウン特性を具備するリチウムイオンリチウム電池用セパレータが記載されており、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、及び結晶融解ピーク温度若しくはガラス転移温度がポリエチレン系樹脂の結晶融解ピーク温度以下である熱可塑性樹脂を含有する混合樹脂層を有し、かつβ活性を有する多孔性フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2018/089748号
【特許文献2】国際公開第2020/196120号
【特許文献3】国際公開第2019/103947号
【特許文献4】特開2010-111832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~4に記載の方法では、特定の膜物性や樹脂混合により、薄膜や高強度、優れた透気特性などを各々発現させているが、蓄電デバイスには薄膜かつ高強度と低透気度を両立するセパレータが求められており、その観点で更なる改善の余地があった。
【0010】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、高突刺強度と低透気度、高MD伸度、低熱収縮率とを兼ね備え、かつ薄膜化の可能な蓄電デバイス用セパレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定量のポリプロピレンと熱可塑性エラストマーとを含む同一層内に含有し、特定の最終破断深度の微多孔膜層を有するセパレータ基材を使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
(1)
ポリオレフィンを主成分として含有し、かつ熱可塑性エラストマーを含有する微多孔層(A)を有するセパレータ基材を備える、蓄電デバイス用セパレータであって、
前記微多孔層(A)は、前記微多孔層(A)の全質量を基準として、前記ポリオレフィンを80.0質量%以上99.5質量%以下、前記熱可塑性エラストマーを0.5質量%以上20.0質量%以下含み、かつ前記ポリオレフィンの全質量を基準として、ポリプロピレンを80.0質量%以上99.5質量%以下含み、
前記蓄電デバイス用セパレータの突刺強度測定の最終破断深度が5.5mm以上である蓄電デバイス用セパレータ。
(2)
前記蓄電デバイス用セパレータの突刺強度測定において、第一破断点強度に対して、最終破断点強度が1.5倍以上である、項目1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(3)
前記蓄電デバイス用セパレータの最終破断深度が11mm以下である、項目1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(4)
前記蓄電デバイス用セパレータの突刺強度測定において、第一破断点強度に対して、最終破断点強度が2.5倍以下である、項目1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(5)
前記熱可塑性エラストマーは、繰り返し単位として、エチレン、プロピレン、及び1-ブテンから成る群から選ばれる1種以上を含む、項目1~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(6)
前記微多孔層(A)は、荷重2.16kg、温度230℃で測定した際のメルトフローレイト(MFR)が、0.9g/10min以下である、項目1~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(7)
前記熱可塑性エラストマーの含有量が、前記微多孔層(A)の全質量を基準として、3.0~10.0質量%である、項目1~6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(8)
前記微多孔層(A)の240℃での溶融張力Mtが、10mN以上35mN以下である、項目1~7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(9)
前記微多孔層(A)の重量平均分子量(Mw)が25万以上150万以下である、項目1~8のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(10)
前記微多孔層(A)の前記重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値である分子量分布(Mw/Mn)が3以上30以下である、項目9に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(11)
前記微多孔層(A)は、荷重2.16kg、温度230℃で測定した際のメルトフローレイト(MFR)が、0.3g/10min以上である、項目1~10のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(12)
前記ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)が30万以上130万以下である、項目1~11のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(13)
13C-NMR(核磁気共鳴法)で測定した前記ポリプロピレンのペンタッド分率が、94.0%以上である、項目1~12のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(14)
前記セパレータ基材の気孔率が、40%以上60%以下である、項目1~13のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(15)
前記セパレータ基材の厚みが、3μm以上20μm以下である、項目1~14のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(16)
前記微多孔層(A)のMD-ND断面のSEM像の解析より算出した面積平均長孔径が50nm以上500nm以下である、項目1~15のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(17)
前記セパレータ基材の105℃、1時間におけるTD熱収縮率が5%以下である、項目1~16のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(18)
前記セパレータ基材の105℃、1時間におけるMD熱収縮率が20%以下である、項目1~17のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(19)
前記セパレータ基材のMD引張伸度が20%以上60%以下である、項目1~18のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(20)
前記セパレータ基材のMD引張強度が2000~2500kgf/cm、項目1~19のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(21)
前記セパレータ基材が、前記微多孔層(A)の240℃での溶融張力Mtと異なる溶融張力Mtである微多孔層(B)を含む、項目1~20のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
(22)
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された項目1~21のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータとを備え、前記正極は、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含む、蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高突刺強度と低透気度、高MD伸度および低熱収縮率とを兼ね備え、かつ薄膜化の可能な蓄電デバイス用セパレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本開示の成膜方向(MD)の一軸延伸で製造した場合の微多孔層(A)のMD―ND(厚み方向)断面における、ポリマーマトリックス、連結ドメイン、フィブリル及び空孔の関係を説明した模式図である。
図2図2は、セパレータ基材のMD-ND断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を画像解析によってフィブリルを除去し、樹脂部と孔部で二値化した図において、一部を切り抜き、幹高さ算出に用いる検出箇所を説明した図である。
図3】突刺試験を説明するための模式図である。
図4】突刺試験における針とセパレータの関係を説明するための模式図である。
図5】突刺試験における変位と応力の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書中、各種の測定は、特に断りがない限り、実施例に記載の手法に基づいて行われる。本明細書中、段階的な記載の数値範囲における上限値又は下限値は、対応する他の段階的な記載の数値範囲における上限値又は下限値に置き換わってよく、更に、実施例に記載の、対応する値に置き換わってよい。本明細書中、「工程」について、独立した工程である場合のみならず、他の工程と明確に区別できない場合でも、その工程の機能が達成されれば本用語に含まれる。
【0015】
《蓄電デバイス用セパレータ》
本開示の蓄電デバイス用セパレータは、ポリオレフィンを主成分として含有し、かつ熱可塑性エラストマーを含有する微多孔層(A)を有するセパレータ基材を有する。セパレータ基材は、所望により、微多孔層(A)とは別に、ポリオレフィンを主成分とする微多孔層(B)を含んでもよい。また、セパレータ基材は、微多孔層(A)及び/又は微多孔層(B)上に、更に塗工層(「表面層」、「被覆層」などとも呼ばれる。以下、単に「塗工層」という。)を有してもよい。本開示において、「微多孔層」とは、セパレータの基材を構成する微多孔質の各層を意味し、「セパレータ基材」とは、任意の塗工層を除くセパレータの基材を意味し、「セパレータ」とは、任意の塗工層も含めたセパレータ全体を意味する。
【0016】
〈微多孔層(A)〉
本開示の蓄電デバイス用セパレータは、微多孔層(A)を有する。蓄電デバイス用セパレータは、微多孔層(A)を一層のみ有していても、二層以上有していてもよい。微多孔層(A)はポリオレフィンを主成分として含有し、かつ熱可塑性エラストマーを含有し、当該ポリオレフィンとしてポリプロピレンを同一層内に含有する。本開示において、微多孔層(A)は当該微多孔層(A)の全質量を基準として、ポリオレフィンを80.0質量%以上99.5質量%以下、熱可塑性エラストマーを0.5質量%以上20.0質量%以下含む。また、本開示の微多孔層(A)は、ポリオレフィンの全質量を基準として、ポリプロピレンを80.0質量%以上99.5質量%以下含む。
【0017】
本開示の微多孔層(A)は上述のように、構成材料としてポリプロピレン、及び熱可塑性エラストマーを含む。本開示の微多孔層(A)のモルフォロジーは限定されないが、例えば、成膜方向(MD)の一軸延伸で製造した場合のモルフォロジーは模式的に図1のようになる。複数のポリマーマトリックス(1)の間には、複数のフィブリル(2)が微多孔層(A)のMDに沿って延在し、ポリマーマトリックスの内部又は表面、及び/若しくはポリマーマトリックスの間には、微多孔層(A)のMDに並列に連結ドメイン(2)が配向し、ポリマーマトリックス(1)、フィブリル(3)及び連結ドメイン(2)を除く部分が空孔(4)であることが好ましい。ポリマーマトリックスは少なくともポリプロピレンを含み、一軸延伸で製造した場合はラメラ結晶が配列した構造となり、フィブリルは少なくともポリプロピレンを含み、一軸延伸で製造した場合は延伸開孔時にポリマーマトリックスのポリマー鎖が延伸されて形成され、連結ドメインは熱可塑性エラストマーを含むことが好ましい。連結ドメインにポリエチレンを含んでも良い。
【0018】
理論には限定されないが、本開示の微多孔層(A)は連結ドメインが形成されることが重要で、空孔を過度に潰さずにポリマーマトリックスを補強することで低透気度と高突刺強度を兼ね備える微多孔層(A)を形成することが可能となると推察される。微多孔層(A)おいて突刺強度の破壊モードとしては、ポリマーマトリックスの割れが挙げられる。ポリマーマトリックスの内部又は表面、及び/若しくはポリマーマトリックスの間に連結ドメインが存在することで、破壊時にポリマーマトリックスに掛かる応力を緩和することが可能になり高突刺強度が発現できると考えられる。本開示の微多孔層(A)ではポリプロピレンに対して少量の熱可塑性エラストマーを添加するが、必要に応じて、ドメインサイズを調整するためにポリエチレンを添加しても良い。
【0019】
微多孔層(A)中のポリオレフィンの含有量の下限は、開孔性等の観点から85.0質量%以上が好ましく、90.0質量%以上がより好ましく、92.5質量%以上が更に好ましく、95.0質量%以上がより更に好ましい。微多孔層(A)中のポリオレフィンの含有量の上限は、良好な電池性能を得る観点から99.0%質量以下が好ましく、98.5質量%以下がより好ましく、98.0質量%以下が更に好ましく、97.5質量%以下がより更に好ましい。
【0020】
微多孔層(A)中の熱可塑性エラストマーの含有量の下限は、成膜性、薄膜化、低透気度及び高突刺強度の観点から1.0質量%以上が好ましく、2.0質量%以上がより好ましく、3.0質量%以上が更に好ましい。微多孔層(A)中の熱可塑性エラストマーの含有量の上限は、開孔性を維持する観点から15.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以下がより好ましく、7.5質量%以下が更に好ましく、5.0質量%以下がより更に好ましい。
【0021】
ポリオレフィン中のポリプロピレンの含有量の下限は、高温(例えば130℃)保存後も良好な電池性能を維持する観点から、85.0質量%以上が好ましく、90.0質量%以上がより好ましく、92.5質量%以上が更に好ましく、95.0質量%以上がより更に好ましい。ポリオレフィン中のポリプロピレンの含有量の上限は、良好な突刺強度と透気度の維持の観点から99.0%質量以下が好ましく、98.5質量%以下がより好ましく、98.0質量%以下が更に好ましく、97.5質量%以下がより更に好ましい。
【0022】
〈微多孔層(A)の材料〉
微多孔層(A)は、ポリオレフィンを主成分とし、ポリプロピレンを同一層内に含有する。ポリオレフィンを主成分とすることで、開孔性が良好で、良好な電池性能を得ることができる。微多孔層(A)は、ポリオレフィンの全質量を基準として、ポリプロピレンを80.0質量%以上99.5質量%以下含む。これによって、高温(例えば130℃)保存後も良好な電池性能を維持することができる。微多孔層(A)のポリプロピレンは、後述する微多孔層(B)のポリプロピレンと同一の材料であってもよく、化学構造的に異なるポリプロピレン、より具体的には、モノマー組成、立体規則性、分子量、及び結晶構造等の少なくとも一つが異なるポリプロピレンであってもよい。ポリプロピレンの立体規則性としては、限定されないが、例えば、アタクチック、アイソタクチック、又はシンジオタクチックのホモポリマー等が挙げられる。本開示に係るポリプロピレンは、好ましくはアイソタクチック、又はシンジオタクチックの高結晶性ホモポリマーである。
【0023】
微多孔層(A)のポリプロピレンは、好ましくはホモポリマーであり、プロピレン以外の少量のコモノマー、例えばα-オレフィンコモノマーを共重合したコポリマー、例えばブロックポリマーであってもよい。ポリプロピレンに繰り返し単位として含まれるプロピレン構造の量は、限定されないが、例えば70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、又は99モル%以上であってよい。ポリプロピレンに含まれる、プロピレン構造以外のコモノマーに由来する繰り返し単位の量としては、限定されないが、例えば30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下、5モル%以下、又は1モル%以下であってよい。ポリプロピレンは、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0024】
微多孔層(A)のポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)は、微多孔層の高突刺強度等の観点から、300,000以上であることが好ましく、良好な成膜性、生産性、薄膜化及び低透気度を担保する観点から、1,300,000以下であることが好ましい。ポリプロピレンのMwは、より好ましくは、500,000以上、1,200,000以下、さらに好ましくは、650,000以上、1,100,000以下、より更に好ましくは、750,000以上、1,000,000以下、特に好ましくは、800,000以上、1,000,000以下である。
【0025】
微多孔層(A)のポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)の上限値は、好ましくは20以下であり、より好ましくは、18以下、16以下、14以下、又は12以下である。ポリプロピレンのMw/Mnを20以下とすることにより、良好な成膜性、生産性及び薄膜化を担保することができる傾向にある。また、ポリプロピレンのMw/Mnの下限値は、好ましくは3以上、より好ましくは、4以上、4.5以上、5.0以上である。ポリプロピレンのMw/Mnを3以上とすることにより、適度な分子の絡み合いが維持されて良好な成膜安定性が得られる。なお、本開示のポリプロピレンの重量平均分子量、数平均分子量、Mw/Mnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグロフィー)測定により得られるポリスチレン換算の分子量である。
【0026】
微多孔層(A)のポリプロピレンの密度は、好ましくは0.85g/cm以上、例えば0.88g/cm以上、0.89g/cm以上、又は0.90g/cm以上であってよい。ポリプロピレンの密度は、好ましくは1.1g/cm以下、例えば1.0g/cm以下、0.98g/cm以下、0.97g/cm以下、0.96g/cm以下、0.95g/cm以下、0.94g/cm以下、0.93g/cm以下、又は0.92g/cm以下であってよい。ポリプロピレンの密度は、ポリプロピレンの結晶性に関連し、ポリプロピレンの密度を0.85g/cm以上とすることで微多孔層の生産性が向上し、特に乾式法において有利である。
【0027】
微多孔層(A)のポリプロピレンのペンタッド分率の下限値は、低透気度の微多孔層を得る観点から、好ましくは94.0%以上、例えば、95.0%以上、96.0%以上、96.5%以上、97.0%以上、97.5%以上、98.0%以上、98.5%以上、又は99.0%以上であってよい。ポリプロピレンのペンタッド分率の上限値は、限定されないが、99.9%以下、99.8%以下、又は99.5%以下であってよい。ポリプロピレンのペンタッド分率は、13C-NMR(核磁気共鳴法)で測定する。
【0028】
ポリプロピレンのペンタッド分率が94.0%以上であるとは、ポリプロピレンの結晶性が高いことを示す。延伸開孔法、特に乾式法で得られるセパレータは、結晶質同士の間の非晶質部分が延伸されることにより開孔するため、ポリプロピレンの結晶性が高いと、開孔性が良好となり、透気度を低く抑えることもできるため、電池の高入出力化が可能となる。
【0029】
微多孔層(A)のポリプロピレンの240℃での溶融張力MtAPP(単層のMtAPP)の上限値としては、良好な成膜性、生産性、薄膜化及び低透気度の微多孔層(A)を得る観点から、好ましくは35mN以下であり、より好ましくは32mN以下、更に好ましくは30mN以下、より更に好ましくは28mN以下、特に好ましくは26mN以下である。微多孔層(A)のポリプロピレンの溶融張力MtAPP(単層のMtAPP)の下限値としては、より高突刺強度の微多孔層(A)を得る観点から、好ましくは10mN以上、より好ましくは13mN以上、更に好ましくは16mN以上、より更に好ましくは18mN以上、特に好ましくは19mN以上である。
【0030】
微多孔層(A)はポリオレフィンを主成分とするが、ポリプロピレン以外のポリオレフィンを含有してもよい。ポリオレフィンとは、炭素-炭素二重結合を有するモノマーを繰り返し単位として含むポリマーである。ポリプロピレンとポリエチレン以外のポリオレフィンを構成するモノマーとしては、限定されないが、炭素-炭素二重結合を有する炭素原子数4~10のモノマー、例えば、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等が挙げられる。ポリオレフィンは、例えば、ホモポリマー、コポリマー、又は多段重合ポリマー等が挙げられる。
【0031】
微多孔層(A)は、ポリオレフィンを主成分とし、熱可塑性エラストマーを含有する。熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン、ポリオレフィンの共重合体、ポリスチレンとポリオレフィンの共重合体が挙げられる。ポリオレフィンとは、炭素-炭素二重結合を有するモノマーを繰り返し単位として含むポリマーである。ポリオレフィンを構成するモノマーとしては、限定されないが、炭素-炭素二重結合を有する炭素原子数2~10(C2~C10)のモノマー、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等が挙げられる。ポリオレフィンとしては低立体規則性領域を有する低結晶性ポリプロピレン等が挙げられる。ポリオレフィンの共重合体を構成するモノマーとしては、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。ポリスチレンとポリオレフィンの共重合体としては、スチレン-(エチレン-プロピレン)-スチレン共重合体(SEPS)、スチレン-(エチレン-ブテン)-スチレン共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-スチレン共重合体、スチレン-(エチレン-ブテン)-オレフィン共重合体(SEBC)、オレフィン-(エチレン-ブテン)-スチレン共重合体(CEBS)等が挙げられ、それらは水添重合体であってもよい。これらの共重合体は、ランダム共重合体又はブロック共重合体でもよく、好ましくはブロック共重合体である。
【0032】
本開示の微多孔層(A)に含まれる熱可塑性エラストマーとしては、役割を果たすことによって高突刺強度と高MD伸度を両立する微多孔層(A)を得るという観点から、繰り返し単位として、エチレン、プロピレン、及び1-ブテンから成る群から選ばれる1種以上を含む共重合体が好ましい。
【0033】
熱可塑性エラストマーとしては、エチレン/α-オレフィン共重合体、エチレン/スチレン共重合体、プロピレン/α-オレフィン共重合体、1-ブテン/α-オレフィン共重合体、スチレンとブタジエンのブロック共重合体(SBS)及びその水添重合体(SEBS)、スチレンとイソプレンのブロック共重合体(SIS)及びその水添重合体(SEPS)などが挙げられる。また、α-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等の脂肪族系のα-オレフィンが挙げられる。エチレンとα-オレフィンを共重合した高分子量体、直鎖状低密度ポリエチレン又は超低密度ポリエチレン等のように重合時に連鎖移動させて長鎖分岐を共重合させた高分子量体等も挙げられる。これらの熱可塑性エラストマーは、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。この中で、好ましい熱可塑性エラストマーは、プロピレンを含まない熱可塑性エラストマーである。プロピレンを含まない熱可塑性エラストマーは、ポリプロピレンとの相互作用が低いため、完全に独立のドメインを形成し、ポリプロピレンのラメラ結晶間に入り応力緩和による効果を生み出す。より好ましい熱可塑性エラストマーは、エチレン/1-ブテン共重合体、エチレン/1-ヘキセン共重合体、及びエチレン/1-オクテン共重合体から成る群から選択される少なくとも1つの成分を有するポリマーである。これらのポリマーは、ランダム共重合体又はブロック共重合体でもよく、エチレン/1-ブテン共重合体、エチレン/1-ヘキセン共重合体、及びエチレン/1-オクテン共重合体の各成分は、ポリプロピレンとの界面接着性が高くなり、微分散化し易いという利点がある。即ち、これらの共重合体成分は、微多孔膜のMD方向に並列に配向し易い高分子量体成分である。
【0034】
〈微多孔層(A)のメルトフローレート(MFR)〉
本開示の微多孔層(A)のメルトフローレイト(MFR)は、1.0g/10min以下である。微多孔層(A)のメルトフローレート(MFR)(単層のMFR)の上限値は、より高突刺強度の微多孔層(A)を得る観点から、0.9g/10min以下が好ましく、0.8g/10min以下がより好ましく、0.7g/10min以下が更に好ましく、0.6g/10min以下がより更に好ましい。微多孔層(A)のMFR(単層のMFR)の下限値は、限定されないが、より低透気度、成膜性及び薄膜化の微多孔層(A)を得る観点から、例えば、0.2g/10min以上、0.25g/10min以上、0.3g/10min以上、0.35g/10min以上、0.4g/10min以上、又は0.45g/10min以上であってもよい。微多孔層(A)のMFRは、荷重2.16kg、及び温度230℃の条件下で測定する。微多孔層(A)のMFRが1.0g/10min以下であることは、微多孔層(A)に含まれるポリオレフィンの分子量がある程度高いことを意味する。ポリオレフィンの分子量が高いことにより、結晶質同士を結合するタイ分子が多くなるため、高突刺強度の微多孔層(A)が得られる傾向にある。また、微多孔層(A)のMFRが0.2g/10min以上であることにより、微多孔層(A)の溶融張力が高くなり過ぎず、良好な成膜性、薄膜化及び生産性を担保することが可能となる。
【0035】
微多孔層(A)のポリプロピレンのMFRは、高突刺強度、低透気度及び薄膜の微多孔層(A)を得る観点から、荷重2.16kg、及び温度230℃の条件下で測定した際に、0.2~0.9g/10minであることが好ましい。ポリプロピレンのMFRの上限値は、より高突刺強度の微多孔層(A)を得る観点から、例えば、0.8g/10min以下、0.7g/10min以下m0.65g/10min以下、0.6g/10min以下、又は0.55g/10min以下であってよい。ポリプロピレンのMFRの下限値は、限定されないが、より低透気度、成膜性及び薄膜化の微多孔層(A)を得る観点から、例えば、例えば、0.2g/10min以上、0.25g/10min以上、0.3g/10min以上、0.35g/10min以上、0.4g/10min以上、又は0.45g/10min以上であってもよい。
【0036】
微多孔層(A)の熱可塑性エラストマーのMFRは、高突刺強度、低透気度、薄膜及び良好な成膜安定性の微多孔層(A)を得る観点から、荷重2.16kg、及び温度230℃の条件下で測定した際に、0.1~100.0g/10minであることが好ましい。熱可塑性エラストマーのMFRの上限値は、ポリオレフィンと均一に混練され、高突刺強度及び良好な成膜性安定性の微多孔層(A)を得る観点から、例えば、80.0g/10min以下、60.0g/10min以下、40.0g/10min以下、30.0g/10min以下、20.0g/10min以下、15.0g/10min以下、10.0g/10min以下、8.0g/10min以下、6.0g/10min以下、又は5.0g/10min以下であってもよい。熱可塑性エラストマーのMFRの下限値は、限定されないが、より低透気度、成膜性及び薄膜化の微多孔層(A)を得る観点から、例えば、0.5g/10min以上、1.0g/10min以上、1.5g/10min以上、2.0g/10min以上、2.5g/10min以上、又は3.0g/10min以上であってもよい。
【0037】
〈微多孔層(A)のMw、Mw/Mn〉
微多孔層(A)の重量平均分子量(Mw)は、より高突刺強度の微多孔層(A)を得る観点から、250,000以上であることが好ましく、良好な成膜性、生産性、薄膜化及び低透気度を担保する観点から、1,500,000以下であることが好ましい。微多孔層(A)のMwは、より好ましくは、400,000以上、1,300,000以下、さらに好ましくは、500,000以上、1,200,000以下、より更に好ましくは、600,000以上、1,100,000以下、特に好ましくは、700,000以上、1,000,000以下である。
【0038】
微多孔層(A)の重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)の上限値は、好ましくは30以下であり、より好ましくは、25以下、20以下、18以下、16以下、14以下、12以下、又は10以下である。微多孔層(A)のMw/Mnを30以下とすることにより、良好な成膜性、生産性及び薄膜化を担保することができる傾向にある。また、微多孔層(A)のMw/Mnの下限値は、好ましくは3以上、より好ましくは、4以上、4.5以上、5.0以上である。微多孔層(A)のMw/Mnを3以上とすることにより、適度な分子の絡み合いが維持されて良好な成膜安定性が得られる。なお、本開示の微多孔層(A)の重量平均分子量、数平均分子量、Mw/Mnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグロフィー)測定により得られるポリスチレン換算の分子量である。また、本開示の微多孔層(A)はポリプロピレン及びポリエチレンを含むポリオレフィンを主成分として、加えて熱可塑性エラストマーを含有するため、上述の微多孔層(A)のMw及びMw/Mnはこれらの構成材料の組み合わせの影響が反映された値となる。
【0039】
〈微多孔層(A)の溶融張力〉
微多孔層(A)の240℃での溶融張力Mt(単層のMt)の上限値としては、良好な成膜性、生産性、薄膜化及び低透気度の微多孔層(A)を得る観点から、好ましくは35mN以下であり、より好ましくは32mN以下、更に好ましくは30mN以下、より更に好ましくは28mN以下、特に好ましくは26mN以下である。微多孔層(A)の溶融張力Mt(単層のMt)の下限値としては、より高突刺強度の微多孔層(A)を得る観点から、好ましくは10mN以上、より好ましくは13mN以上、更に好ましくは16mN以上、より更に好ましくは18mN以上、特に好ましくは19mN以上である。
【0040】
〈微多孔層(A)の面積平均長孔径〉
微多孔層(A)のMD-ND断面での面積平均長孔径(以下、単に「面積平均長孔径」ともいう。)は、好ましくは50nm以上500nm以下である。本開示において、「ND」とは、微多孔層の厚み方向を示し、「MD」とは、微多孔層の成膜方向を示す。例えば、微多孔層を有するセパレータのMDは、ロールであれば長手方向である。「長孔径」とは、MDの孔径を意味する。また、微多孔層(A)及び/又は微多孔層(B)が二層以上ある場合は、各層の平均の面積平均長孔径値に基づいて、微多孔層(A)と微多孔層(B)の面積平均長孔径を比較する。微多孔層(A)の面積平均長孔径の下限は、蓄電デバイス中で高入出力を担保する観点及び低透気度の微多孔層(A)を得る観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは80nm以上、更に好ましくは100nm以上、より更に好ましくは120nm以上、特に好ましくは130nm以上である。また、微多孔層(A)の面積平均長孔径の上限は、高突刺強度の微多孔層(A)を得る観点から、好ましくは500nm以下、より好ましくは400nm以下、更に好ましくは350nm以下、より更に好ましくは300nm以下、特に好ましくは250nm以下、最も好ましくは210nm以下である。
【0041】
面積平均長孔径は、セパレータのMD-ND断面の断面SEM観察を行い、得られた画像から画像解析により測定することができる。詳細の条件は実施例に示す。なお、断面SEM画像から平均孔径を測定する際には、数平均孔径、及び面積平均孔径を算出することができるが、よりセパレータの物性との相関が取れるよう、本開示では、平均孔径として面積平均孔径を用いる。
【0042】
〈微多孔層(A)の気孔率〉
微多孔層(A)の気孔率は、蓄電デバイス中での目詰まり回避の観点、及び低透気度の微多孔層(A)を得る観点から、30%以上が好ましく、高突刺強度の微多孔層(A)を得る観点から60%以下であることが好ましい。微多孔層(A)の気孔率は、より好ましくは30%以上55%以下、さらに好ましくは35%以上50%以下、特に好ましくは40%以上45%以下である。
【0043】
〈微多孔層(A)の厚み〉
蓄電デバイス用セパレータの基材が微多孔層(A)を1層のみ有する単層構造で構成される場合、微多孔層(A)の厚みの上限値は、蓄電デバイスの高エネルギー密度化及び微多孔層(A)の低透気度の観点から、好ましくは20μm以下、例えば18μm以下、16μm以下、14μm以下、13μm以下、12μm以下、11μm以下、又は10μm以下であってよい。単層構造で構成される場合の微多孔層(A)の厚みの下限値は、高突刺強度の微多孔層(A)を得る観点から、好ましくは3μm以上、例えば4μm以上、5μm以上、6μm以上、7μm以上、又は8μm以上であってよい。
【0044】
蓄電デバイス用セパレータの基材が微多孔層(A)を1層以上含む多層構造で構成される場合、微多孔層(A)の厚みの上限値は、蓄電デバイスの高エネルギー密度化及びセパレータ基材の低透気度の観点から、好ましくは10μm以下、例えば8μm以下、7μm以下、6μm以下、5μm以下、4.5μm以下、又は4μm以下であってよい。多層構造で構成される場合の微多孔層(A)の厚みの下限値は、高突刺強度のセパレータ基材を得る観点から、好ましくは1μm以上、例えば2μm以上、3μm以上、又は3.5μm以上であってよい。
【0045】
〈微多孔層(A)の添加剤〉
ポリオレフィンを主成分とする微多孔層(A)は、ポリプロピレン、ポリエチレン、熱可塑性エラストマー以外に、エラストマー、結晶核剤、酸化防止剤、フィラーなどの添加剤を必要に応じて更に含有してもよい。添加剤の量は、特に限定されないが、微多孔層(A)の全質量を基準として、例えば、0.01質量%以上、0.1質量%以上又は1質量%以上、20質量%以下、10質量%以下又は7質量%以下であってよい。
【0046】
〈微多孔層(B)〉
本開示の蓄電デバイス用セパレータは、所望により、微多孔層(B)を有する。蓄電デバイス用セパレータは、微多孔層(B)を1層のみ有していても、2層以上有していてもよい。微多孔層(B)もまたポリオレフィンを主成分とし、より好ましくはポリプロピレンおよび/またはポリエチレンを主成分とする。これによって、開孔性が良好で、良好な電池性能を得ることができる。微多孔層(B)は、さらに好ましくはポリプロピレンを主成分とし、これによって、高温(例えば130℃)保存後も良好な電池性能を維持することができる。本開示において、微多孔層(B)がポリプロピレンを「主成分とする」とは、当該微多孔層(B)の全質量を基準として、ポリプロピレンを50質量%以上含むことを意味する。微多孔層(B)中のポリプロピレンの含有量の下限は、セパレータの濡れ性、薄膜化等の観点から、好ましくは55質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってもよい。微多孔層(B)中のポリプロピレンの含有量の上限は、限定されないが、例えば60質量%以下、70質量%以下、80質量%以下、90質量%以下、95質量%以下、98質量%以下、又は99質量%以下であってよく、100質量%であってもよい。
【0047】
〈微多孔層(B)の材料〉
微多孔層(B)のポリプロピレンは、上述の微多孔層(A)のポリプロピレンと同一の材料であってもよく、化学構造的に異なるポリプロピレン、より具体的には、モノマー組成、立体規則性、分子量、及び結晶構造等の少なくとも一つが異なるポリプロピレンであってもよい。微多孔層(B)のポリプロピレンの立体規則性としては、限定されないが、例えば、アタクチック、アイソタクチック、又はシンジオタクチックのホモポリマー等が挙げられる。本開示に係るポリプロピレンは、好ましくはアイソタクチック、又はシンジオタクチックの高結晶性ホモポリマーである。
【0048】
微多孔層(B)のポリプロピレンは、好ましくはホモポリマーであり、プロピレン以外の少量のコモノマー、例えばα-オレフィンコモノマーを共重合したコポリマー、例えばブロックポリマーであってもよい。ポリプロピレンに繰り返し単位として含まれるプロピレン構造の量は、限定されないが、例えば70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、又は99モル%以上であってよい。ポリプロピレンに含まれる、プロピレン構造以外のコモノマーに由来する繰り返し単位の量としては、限定されないが、例えば30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下、5モル%以下、又は1モル%以下であってよい。ポリプロピレンは、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0049】
微多孔層(B)のポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)は、微多孔層の強度等の観点から、250,000以上であることが好ましく、微多孔層の孔径を大きくし、良好な透気度を発現する観点から、1,000,000以下であることが好ましい。ポリプロピレンのMwは、より好ましくは、400,000以上、950,000以下、さらに好ましくは、550,000以上、900,000以下、より更に好ましくは、600,000以上、900,000以下、特に好ましくは、700,000以上、900,000以下である。
【0050】
微多孔層(B)のポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)の上限値は、好ましくは7以下であり、より好ましくは、6.5以下、6以下、5.5以下、又は5以下である。ポリプロピレンのMw/Mnの値が小さくなるほど、得られる微多孔層の溶融張力も小さくなる傾向にある。したがって、ポリプロピレンのMw/Mnの値が7以下であることは、微多孔層(B)の溶融張力を小さく制御するために好ましい。また、Mw/Mnは、好ましくは1.1以上、例えば1.3以上、1.5以上、2.0以上、又は2.5以上であってよい。Mw/Mnが1.1以上であることにより、適度な分子の絡み合いが維持され、成膜時の安定性が良好となることがある。なお、本開示のポリオレフィンの重量平均分子量、数平均分子量、Mw/Mnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグロフィー)測定により得られるポリスチレン換算の分子量である。
【0051】
微多孔層(B)のポリプロピレンの密度は、好ましくは0.85g/cm以上、例えば0.88g/cm以上、0.89g/cm以上、又は0.90g/cm以上であってよい。ポリプロピレンの密度は、好ましくは1.1g/cm以下、例えば1.0g/cm以下、0.98g/cm以下、0.97g/cm以下、0.96g/cm以下、0.95g/cm以下、0.94g/cm以下、0.93g/cm以下、又は0.92g/cm以下であってよい。ポリオレフィンの密度は、ポリプロピレンの結晶性に関連し、ポリプロピレンの密度を0.85g/cm以上とすることで微多孔層の生産性が向上し、特に乾式法において有利である。
【0052】
微多孔層(B)はポリプロピレン以外に、その他の樹脂を含有してもよい。その他の樹脂としては、例えば、ポリプロピレン以外のポリオレフィン(「その他のポリオレフィン」ともいう。)が挙げられる。ポリオレフィンとは、炭素-炭素二重結合を有するモノマーを繰り返し単位として含むポリマーである。ポリプロピレン以外のポリオレフィンを構成するモノマーとしては、限定されないが、炭素-炭素二重結合を有する炭素原子数2又は4~10のモノマー、例えば、エチレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等が挙げられる。
【0053】
微多孔層(B)は、ポリプロピレン以外に、熱可塑性のエラストマーを含有しても良い。熱可塑性のエラストマーとしては、特に限定はされないが、ポリプロピレン、ポリプロピレン以外のポリオレフィン(「その他のポリオレフィン」ともいう。)、ポリスチレンとポリオレフィンの共重合体が挙げられる。ポリプロピレンとしては低立体規則性領域を有する低結晶性ポリプロピレン等が挙げられる。ポリオレフィンとは、炭素-炭素二重結合を有するモノマーを繰り返し単位として含むポリマーである。ポリプロピレン以外のポリオレフィンを構成するモノマーとしては、限定されないが、炭素-炭素二重結合を有する炭素原子数2又は4~10のモノマー、例えば、エチレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等が挙げられる。ポリオレフィンは、例えば、ホモポリマー、コポリマー、又は多段重合ポリマー等であり、一例として、ポリエチレンを含有させることも可能である。ポリスチレンとポリオレフィンの共重合体としては、スチレン-(エチレン-プロピレン)-スチレン共重合体(SEPS)、スチレン-(エチレン-ブテン)-スチレン共重合体(SEBS)、水添-スチレン-(エチレン-ブテン)-スチレン共重合体(水添SEBS)、スチレン-エチレン-スチレン共重合体、オレフィン結晶-(エチレン-ブテン)-オレフィン結晶共重合体(CEBC)、水添-オレフィン結晶-(エチレン-ブテン)-オレフィン結晶共重合体(水添CEBC)、スチレン-(エチレン-ブテン)-オレフィン結晶共重合体(SEBC)、水添―スチレン-(エチレン-ブテン)-オレフィン結晶共重合体(水添SEBC)などが好ましく上げることができる。特に好ましくは、水添-スチレン-(エチレン-ブテン)-スチレン共重合体(水添SEBS)、水添-スチレン-(エチレン-ブテン)-オレフィン結晶共重合体(水添SEBC)、スチレン-(エチレン―プロピレン)-スチレン共重合体(SEPS)である。
【0054】
微多孔層(B)に含有される熱可塑性のエラストマーとしては、ポリプロピレンと非相溶となるエラストマーが、開孔性、孔径を大孔径化する観点から、より好ましい。ポリプロピレンと非相溶となるエラストマーとしては、特に限定はされないが、好ましくは、ポリエチレンと他のポリオレフィンの共重合体、ポリスチレンとポリオレフィンとの共重合体が挙げられる。ポリスチレンとポリオレフィンとの共重合体としては、好ましくは、スチレン―(エチレン―プロピレン)-スチレン共重合体(SEPS)、スチレン―(エチレン―ブテン)-スチレン共重合体(SEBS)、水添―スチレン―(エチレン―ブテン)-スチレン共重合体(水添SEBS)、スチレン―エチレン―スチレン共重合体、オレフィン結晶―(エチレン―ブテン)―オレフィン結晶共重合体(CEBC)、水添―オレフィン結晶―(エチレン―ブテン)―オレフィン結晶共重合体(水添CEBC)、スチレン―(エチレン―ブテン)―オレフィン結晶共重合体(SEBC)、水添―スチレン―(エチレン―ブテン)―オレフィン結晶共重合体(水添SEBC)などが挙げられる。特に好ましくは、水添―スチレン―(エチレン―ブテン)-スチレン共重合体(水添SEBS)、水添―スチレン―(エチレン―ブテン)―オレフィン結晶共重合体(水添SEBC)、スチレン―(エチレン―プロピレン)-スチレン共重合体(SEPS)である。
【0055】
〈微多孔層(B)のメルトフローレート(MFR)〉
微多孔層(B)のメルトフローレート(MFR)(単層のMFR)の上限値は、より高強度の微多孔層(B)を得る観点から、8.0g/10min以下が好ましく、例えば6.0g/10min以下、4.0g/10min以下、3.0g/10min以下、2.0g/10min以下、又は1.1g/10min以下であってよい。微多孔層(B)のMFR(単層のMFR)の下限値は、良好な透気度を発現する観点から、限定されないが、例えば0.3g/10min以上、0.35g/10min以上、0.4g/10min以上、0.45g/10min以上、又は0.5g/10min以上であってよい。微多孔層(B)のMFRは、荷重2.16kg、及び温度230℃の条件下で測定する。微多孔層(B)のMFRが8.0g/10min以下であることは、微多孔層(B)に含まれるポリオレフィンの分子量がある程度高いことを意味する。ポリオレフィンの分子量が高いことにより、結晶質同士を結合するタイ分子が多くなるため、高強度の微多孔層(B)が得られる傾向にある。微多孔層(B)のMFRが0.3g/10min以上であることにより、微多孔層(B)の溶融張力が高くなり過ぎず、良好な透気度を発現するセパレータがより得られ易い。
【0056】
微多孔層(B)のポリプロピレンのMFRは、より高強度の微多孔層(B)を得る観点から、8.0g/10min以下が好ましく、例えば6.0g/10min以下、4.0g/10min以下、3.0g/10min以下、2.0g/10min以下、又は1.1g/10min以下であってよい。微多孔層(B)のMFR(単層のMFR)の下限値は、良好な透気度を発現する観点から、限定されないが、例えば0.3g/10min以上、0.35g/10min以上、0.4g/10min以上、0.45g/10min以上、又は0.5g/10min以上であってよい。
【0057】
微多孔層(B)のMFRは、微多孔層(A)のMFRより高いことが好ましい。微多孔層(B)のMFRを微多孔層(A)のMFRより高くすることにより、得られたセパレータの微多孔層(B)の孔径を微多孔層(A)の孔径より大きく制御することができる。
【0058】
〈微多孔層(B)のペンタッド分率〉
微多孔層(B)のポリプロピレンのペンタッド分率の下限値は、低透気度の微多孔層を得る観点から、好ましくは94.0%以上、例えば、95.0%以上、96.0%以上、96.5%以上、97.0%以上、97.5%以上、98.0%以上、98.5%以上、又は99.0%以上であってよい。ポリプロピレンのペンタッド分率の上限値は、限定されないが、99.9%以下、99.8%以下、又は99.5%以下であってよい。ポリプロピレンのペンタッド分率は、13C-NMR(核磁気共鳴法)で測定する。
【0059】
ポリプロピレンのペンタッド分率が94.0%以上であるとは、ポリプロピレンの結晶性が高いことを示す。延伸開孔法、特に乾式法で得られるセパレータは、結晶質同士の間の非晶質部分が延伸されることにより開孔するため、ポリプロピレンの結晶性が高いと、開孔性が良好となり、透気度を低く抑えることもできるため、電池の高出力化が可能となる。
【0060】
微多孔層(B)のポリプロピレンの240℃での溶融張力MtBPPは、4mN以上、30mN以下であることが好ましい。溶融張力MtBPPの下限としては、微多孔層(A)と微多孔層(B)を有するセパレータ基材の良好な成膜性、生産性の観点から、好ましくは4mN以上、より好ましくは、7mN以上、さらに好ましくは、10mN以上、特に好ましくは13mN以上、最も好ましくは、16mN以上である。溶融張力MtBPPの上限としては、大孔径を達成し、良好な透気度を発現する観点から、好ましくは30mN以下、より好ましくは、28mN以下、さらに好ましくは、26mN以下、最も好ましくは24mN以下である。微多孔層(A)と(B)の温度240℃でのポリプロピレンの溶融張力MtAPPおよびMtBPPは、微多孔膜の面積平均長孔径の観点から、互いに異なってよい。
【0061】
〈微多孔層(B)の溶融張力〉
微多孔層(B)の240℃での溶融張力Mtは、4mN以上、30mN以下であることが好ましい。溶融張力Mtの下限としては、微多孔層(A)と微多孔層(B)を有するセパレータ基材の良好な成膜性、生産性の観点から、好ましくは4mN以上、より好ましくは、7mN以上、さらに好ましくは、10mN以上、特に好ましくは13mN以上、最も好ましくは、16mN以上である。溶融張力Mtの上限としては、大孔径を達成し、良好な透気度を発現する観点から、好ましくは30mN以下、より好ましくは、28mN以下、さらに好ましくは、26mN以下、最も好ましくは24mN以下である。微多孔層(A)と(B)の温度240℃での溶融張力MtおよびMtは、微多孔膜の面積平均長孔径の観点から、互いに異なってよい。
【0062】
〈微多孔層(B)の面積平均長孔径〉
微多孔層(B)のMD-ND断面での面積平均長孔径(以下、単に「面積平均長孔径」ともいう。)は、微多孔層(A)の面積平均長孔径よりも大きいことが好ましい。微多孔層(A)の面積平均長孔径との関係について詳細は、〈微多孔層(A)の面積平均長孔径〉の欄を参照されたい。
【0063】
微多孔層(B)のMD-ND断面での面積平均長孔径は、好ましくは100nm以上600nm以下、より好ましくは120nm以上500nm以下、更に好ましくは140nm以上400nm以下、より更に好ましくは160nm以上350nm以下である。微多孔層(B)の面積平均長孔径がこの範囲内であると、良好な突刺強度と透気度を得ることができる。
【0064】
〈微多孔層(B)の気孔率〉
微多孔層(B)の気孔率は、蓄電デバイス中での目詰まり回避の観点、およびセパレータの良好な透気度を得る観点から、20%以上が好ましく、セパレータの強度保持の観点から70%以下であることが好ましい。微多孔層(B)の気孔率は、より好ましくは25%以上65%以下、さらに好ましくは30%以上60%以下、特に好ましくは35%以上60%以下である。
【0065】
〈微多孔層(B)の厚み〉
微多孔層(B)の厚みは、蓄電デバイスの高エネルギー密度化等の観点から、好ましくは10μm以下、例えば8μm以下、7μm以下、6μm以下、5μm以下、4.5μm以下、又は4μm以下であってよい。微多孔層(B)の厚みの下限値は、強度等の観点から、好ましくは1μm以上、例えば2μm以上、3μm以上、又は3.5μm以上であってよい。
【0066】
〈微多孔層(B)の添加剤〉
微多孔層(B)は、ポリオレフィン以外に、エラストマー、結晶核剤、酸化防止剤、フィラーなどの添加剤を必要に応じて更に含有してもよい。添加剤の量は、特に限定されないが、微多孔層(B)の全質量を基準として、例えば、0.01質量%以上、0.1質量%以上又は1質量%以上、10質量%以下、7質量%以下又は5質量%以下であってよい。
【0067】
理論に拘束されることを望まないが、また、セパレータ及び蓄電デバイスの安全性をさらに向上させるためには、長孔径(a)と直行する方向の孔径(b)との孔径比(a)/(b)が、1.5以上30以下であることが好ましく、より好ましくは、3以上、20以下である。さらに、微多孔膜の長孔径が、一方向に揃っていることが好ましく、その方向がMD方向であることがより好ましい。このような孔径を達成することにより、良好な透気抵抗度を確保しつつ、高い突刺強度を発現し、かつ蓄電デバイス中でのデンドライト生成等の不安全モードを低減することが可能となる。
【0068】
[MD/TD強度比]
セパレータの引張強度は、実施例に詳述するとおりに測定することができる。セパレータのMD/TD引張強度比は、好ましくは16~30であり、さらに好ましくは18~28、よりさらに好ましくは20~26である。MD/TD引張強度比が16以上であると、TDの熱収縮率を低くすることができるため、電池巻き付け時にTDの熱収縮による短絡に対する耐性が高くなる。他方、MD/TD引張強度比が30以下であると、MDに亀裂が入り難く、高突刺強度になり易く、電池作成工程での取り扱い時にセパレータが縦(MD)に裂ける問題が起こり難くなる。
【0069】
〈微多孔層(A)と微多孔層(B)の関係〉
微多孔層(A)の240℃での溶融張力Mtと、微多孔層(B)の240℃での溶融張力Mtとの比Mt/Mtは、好ましくは1.05以上4.0以下である。ここで、Mt/Mtを1.05以上とすることにより、得られたセパレータの微多孔層(A)の孔径を十分に小さく、微多孔層(B)の孔径を十分に大きく制御することができ、良好な耐電圧と透気度とを両立することができる。Mt/Mtを4.0以下とすることにより、良好な開孔性と透気度とを有するセパレータを得ることが可能となる。なお、Mt/Mtは、より好ましくは1.1以上3.5以下、更に好ましくは1.15以上3.3以下、より更に好ましくは1.2以上3.0以下、特に好ましくは1.25以上2.5以下である。
【0070】
微多孔層(B)のMFR(MFR)と微多孔層(A)のMFR(MFR)の比、MFR/MFRは、1.02以上10.0以下が好ましい。MFR/MFRを1.02以上とすることにより、得られたセパレータの微多孔層(A)の孔径を十分に小さく、微多孔層(B)の孔径を十分に大きく制御することができ、良好な耐電圧と透気度とを両立することができる。MFR/MFRを10.0以下とすることにより、安定な成膜性、生産性および、良好な開孔性、透気度を有するセパレータを得ることが可能となる。なお、MFR/MFRは、より好ましくは1.05以上6.0以下、更に好ましくは1.1以上5.0以下、より更に好ましくは1.1以上4.0以下、特に好ましくは1.1以上3.0以下である。
【0071】
微多孔層(A)のポリプロピレンの重量平均分子量Mwと微多孔層(B)のポリプロピレンの重量平均分子量Mwの比Mw/Mwは、1.02以上、2.0以下が好ましい。Mw/Mwを1.02以上とすることにより、微多孔層(A)と微多孔層(B)の溶融張力比Mt/Mtを高く制御することが可能となり、結果、蓄電デバイス中でのデンドライト抑制効果を良好に発言することが可能となる。Mt/Mtを2.0以下とすることにより、安定な成膜性、生産性および、良好な開孔性、透気度を有するセパレータを得ることが可能となる。なお、Mw/Mwは、好ましくは、1.02以上、1.8以下、より好ましくは、1.03以上、1.6以下、最も好ましくは、1.05以上、1.4以下である。
【0072】
〈セパレータ基材の層構造〉
蓄電デバイス用セパレータの基材(本開示において、単に「セパレータ基材」ともいう。)は、微多孔層(A)を少なくとも1層有するか、又は微多孔層(A)と微多孔層(B)とを少なくとも1層ずつ有する。セパレータ基材は、微多孔層(A)及び/又は微多孔層(B)の少なくとも一方を2層以上有する3層以上の多層構造であってもよい。例えば、微多孔層(A)/微多孔層(B)の2層構造、微多孔層(A)/微多孔層(B)/微多孔層(A)の3層構造等が挙げられる。また、セパレータ基材は、微多孔層(A)及び微多孔層(B)以外の層を有していてもよい。例えば、微多孔層(A)及び微多孔層(B)以外の層としては、例えば、(A)(B)以外のポリオレフィンを主成分とする微多孔層、無機物を含む層、及び耐熱樹脂を含む層等を挙げることができる。例えば、セパレータ基材は、微多孔層(A)/微多孔層(B)/微多孔層(C)/微多孔層(A)など、4層以上の多層構造であってもよい。製造のしやすさ、セパレータのカール抑制等の観点から、対称的な積層構造が好ましい。
【0073】
〈セパレータ基材の幹高さ〉
セパレータ基材のMD-ND断面での幹高さは、500nm以上1000nm以下である。幹高さは孔の曲路性と相関があり、孔径とは異なる孔構造を示す数値である。幹高さが高くなると孔の曲路性は小さくなり、幹高さが小さいと孔の曲路性は大きくなり、良好な耐電圧を得ることができる。幹高さの上限は耐電圧かつ高突刺強度の観点から、好ましくは950nm以下、より好ましくは920nm以下、さらに好ましくは900nm以下、特に好ましくは850nm以下、最も好ましくは820nm以下である。幹高さの下限は、良好な透気度を得る観点から、好ましくは520nm以上、より好ましくは540nm以上、さらに好ましくは560nm以上、特に好ましくは580nm以上、最も好ましくは600nm以上である。
【0074】
幹高さは、セパレータ基材のMD-ND断面の断面SEM観察を行い、画像解析によってフィブリルを除き、残ったラメラのNDの長さを画像解析により測定することで算出することができる。詳細の条件は実施例に示す。なお、断面SEM画像から幹高さを測定する際には、数平均幹高さ、及び長さ平均幹高さを算出することができるが、よりセパレータの物性との相関が取れるよう、本願明細書では、幹高さとして長さ平均幹高さを用いる。
【0075】
〈セパレータ基材の厚み〉
セパレータ基材の厚みの上限値は、蓄電デバイスの高エネルギー密度化及び高入出力化の観点から、好ましくは20μm以下であり、例えば18μm以下、16μm以下、14μm以下、13μm以下、12μm以下、11μm以下、又は10μm以下であってよい。セパレータ基材の厚みの下限値は、高突刺強度の微多孔層(A)を得る観点から、好ましくは3μm以上であり、例えば4μm以上、5μm以上、6μm以上、7μm以上、又は8μm以上であってよい。
【0076】
〈セパレータ基材の透気度(透気抵抗度)〉
セパレータ基材の透気度の上限値は、蓄電デバイス中で良好な出力を担保する観点から、好ましくは400秒/100cm以下、より好ましくは350秒/100cm以下、さらに好ましくは300秒/100cm以下、より更に好ましくは250秒/100cm以下、特に好ましくは220秒/100cm以下、最も好ましくは200秒/100cm以下である。セパレータ基材の透気度の下限値は、限定されないが、例えば10秒/100cm以上、20秒/100cm以上、又は30秒/100cm以上であってよい。
【0077】
〈セパレータ基材の気孔率〉
セパレータ基材の気孔率は、蓄電デバイス中での目詰まり回避の観点、およびセパレータの良好な透気度を得る観点から、30%以上が好ましく、セパレータの突刺強度保持の観点から60%以下であることが好ましい。セパレータ基材の気孔率は、より好ましくは35%以上57%以下、40%以上57%以下さらに好ましくは45%以上54%以下、特に好ましくは47%以上53%以下である。
【0078】
〈セパレータ基材の突刺強度および突刺深度〉
セパレータ基材の突刺強度の下限値は、セパレータ基材の厚みを10μmに換算した場合に、好ましくは150gf以上(約1.47N以上)、より好ましくは180gf以上、200gf以上、220gf以上、又は240gf以上であり、特に好ましくは260gf以上、270gf以上、又は280gf以上である。セパレータ基材の突刺強度の上限値は、限定されないが、セパレータ基材の厚みを10μmに換算した場合に、好ましくは500gf以下、例えば450gf以下、又は400gf以下であってよい。
【0079】
本開示では、突刺深度とは、セパレータの周縁を固定し、セパレータの外表面からセパレータの厚み方向に特定サイズの針を突き刺して、針がセパレータに接触してから、穴が開くまでの移動距離(深度)を意味する。
【0080】
本開示の蓄電デバイス用セパレータの突刺試験において、最終破断深度が5.5mm以上であると、セパレータの孔構造の柔軟性が高くなり、応力集中が起こり難く、靭性が向上することで高い突刺強度が得られ易い。このような傾向から、最終破断深度は、5.5mm~12.4mmの数値範囲にあることが好ましく、突刺強度の観点からは、5.5mm以上11mm以下の数値範囲内にあることがより好ましい。
【0081】
理論に拘束されることを望まないが、最終破断深度が13mm以上であると、ポリプロピレンが十分に配向しない場合が多く、フィブリルが均一に延在することが出来ず、高倍率が困難となり、伸び切り鎖が形成し難いため剛性が低下し、孔構造は僅かな応力での容易に変形し、高い突刺強度が得られない傾向にある。
【0082】
突刺深度及び突刺強度を測定する突刺試験は、実施例において説明される。
【0083】
突刺強度測定における第一破断点強度に対して、最終破断点強度が1.5倍以上であると、熱可塑性ポリマーによる応力緩和により破壊が進行し難く、ポリプロピレン成分の伸長を可能とし、結果、高ひずみ域でのラメラ晶の高配向構造が達成されるため高突刺強度になる傾向がある。
【0084】
突刺強度の第一破断点強度に対して、最終破断点強度を2.5倍以下であると、ラメラ結晶の極端な高配向が抑制され、また、エラストマーがラメラ間を連結する構造になり易いため、ひずみに対して破壊が起こり難くなり、高MD伸度になり易い。また、第一破断点強度に対して最終破断点強度を2.5倍以下であると、延伸時に加わるポリプロピレンへの応力が減少するため、熱収縮率も低下する傾向になる。
【0085】
〈セパレータ基材の熱収縮率〉
セパレータ基材は、105℃で1時間熱処理した後の幅方向(TD)の熱収縮率が、5%以下であることが好ましく、-1.0%以上3.0%以下であることがより好ましい。すなわち、105℃でのTD熱収縮率5%以下のセパレータ基材は、高温においても、TDの熱収縮が非常に小さいことを意味する。当該熱収縮率が5%以下又は3.0%以下であることで、高温での短絡を効果的に抑制できる。当該熱収縮率が-1.0%以上である理由は、熱収縮率の測定時、基材がTDに膨張し、熱収縮率が0%より小さくマイナスの値になることがあるからである。当該熱収縮率は、0%以上、又は0%より大きくてもよい。当該熱収縮率が5%以下であるか、又は-1.0%以上3.0%以下であるセパレータ基材を製造する方法としては、例えば、MDの一軸延伸によるセパレータの製造方法があげられ、好ましくは一軸延伸の乾式法で製造する方法が挙げられる。湿式セパレータに代表されるMD、TDの二軸方向への延伸によるセパレータの製造方法では、一般的に、TDの熱収縮が非常に大きくなるのに対して、一軸延伸の乾式セパレータでは、当該熱収縮率が5%以下であるか、又は-1.0%以上3.0%以下であるセパレータ基材を得られやすい。
【0086】
セパレータ基材は、105℃で1時間熱処理した後の成膜方向(MD)の熱収縮率は、蓄電デバイスの生産性及び高温での短絡抑制の観点から、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下、より更に好ましくは8%以下、特に好ましくは6以下、最も好ましくは5.5%以下である。当該熱収縮率の下限値は、限定されないが、好ましくは0.1%以上、例えば0.3%以上、又は0.5%以上であってもよい。本開示のセパレータ基材では、上述のように、MDの一軸延伸で製造して、微多孔層(A)にMDに並列に連結ドメインが存在する場合、MDの熱収縮時にもポリマーマトリックスに掛かる応力を緩和することが可能になり、低いMD熱収縮率を実現できると考えられる。
【0087】
セパレータ基材のMDの引張強度は、電池巻き付け時の操作性及び高突刺強度の観点から、好ましくは、1500kgf/cm以上(約14.7kN/cm以上)、より好ましくは、1600kgf/cm以上、さらに好ましくは、1700kgf/cm以上、より更に好ましくは、1800kgf/cm以上、特に好ましくは、1900kgf/cm以上、最も好ましくは2000kgf/cm以上である。セパレータ基材のMDの引張強度の上限値は、限定されないが、好ましくは4000kgf/cm以下、例えば3800kgf/cm以下、3500kgf/cm以下、3200kgf/cm以下、3000kgf/cm以下、2800kgf/cm以下、又は2500kgf/cm以下であってよい。
【0088】
セパレータ基材のMDの引張伸度は、蓄電デバイスの生産性及び高突刺強度の観点から、好ましくは20%以上、より好ましくは24%以上、更に好ましくは26.5%以上、より更に好ましくは28%以上、特に好ましくは30%以上である。セパレータ基材のMDの引張伸度の上限値は、加工性の観点から、好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下、更に好ましくは50%以下、より更に好ましくは45%以下、特に好ましくは40%以下である。本開示のセパレータ基材では、上述のように、MDの一軸延伸で製造して、微多孔層(A)にMDに並列に連結ドメインが存在する場合、MDの引張時にもポリマーマトリックスに掛かる応力を緩和することが可能になり、高いMD引張伸度を実現できると考えられる。
【0089】
《蓄電デバイス用セパレータの製造方法》
蓄電デバイス用セパレータの製造方法は、ポリプロピレンを主成分とする樹脂組成物(以下、「ポリプロピレン系樹脂組成物」ともいう。)を溶融押出して樹脂シート(前駆体シート)を得る溶融押出工程、及び得られた前駆体シートを開孔して多孔化する孔形成工程を含む。微多孔層の製造方法は、孔形成工程に溶剤を使用しない乾式法と、溶剤を使用する湿式法とに大別される。
【0090】
乾式法としては、ポリプロピレン系樹脂組成物を溶融混練して押出した後、熱処理と延伸によってポリプロピレン結晶界面を剥離させる方法、ポリプロピレン系樹脂組成物と無機充填材とを溶融混練してフィルム状に成形した後、延伸によってポリプロピレンと無機充填材との界面を剥離させる方法などが挙げられる。
【0091】
湿式法としては、ポリプロピレン系樹脂組成物と孔形成材とを溶融混練してフィルム状に成形し、必要に応じて延伸した後、孔形成材を抽出する方法、ポリプロピレン系樹脂組成物の溶解後、ポリプロピレンに対する貧溶媒に浸漬させてポリプロピレンを凝固させると同時に溶剤を除去する方法などが挙げられる。
【0092】
ポリプロピレン系樹脂組成物の溶融混練には、単軸押出機、及び二軸押出機を使用することができ、これら以外にも、例えばニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、及びバンバリーミキサー等を使用することもできる。
【0093】
ポリプロピレン系樹脂組成物は、微多孔層の製造方法に応じて、又は目的の微多孔層の物性に応じて、任意に、ポリプロピレン以外の樹脂、及び添加剤等を含有してもよい。添加剤としては、例えば、孔形成材、フッ素系流動改質材、ワックス、結晶核材、酸化防止剤、脂肪族カルボン酸金属塩等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、及び着色顔料等が挙げられる。孔形成材としては、可塑剤、無機充填材又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0094】
可塑剤としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。
【0095】
無機充填材としては、例えば、アルミナ、シリカ(珪素酸化物)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維が挙げられる。
【0096】
セパレータ基材の製造方法としては、熱処理と延伸によってポリプロピレン結晶界面を剥離させる乾式ラメラ晶開孔プロセスが好ましい。ここで、微多孔層(A)と微多孔層(B)を有するセパレータ基材の製造方法としては、次の方法(i)及び(ii)の少なくとも一方を用いることが好ましい:
(i)微多孔層(A)と微多孔層(B)を共押出成膜し、アニール、冷間延伸、熱間延伸、熱緩和工程に供する、共押出成膜によるセパレータ基材の製造方法;及び
(ii)微多孔層(A)と微多孔層(B)をそれぞれ別々に押出成膜し、ラミネートにより貼り合わせて、その後、アニール、冷間延伸、熱間延伸、熱緩和工程に供する、ラミネートによるセパレータ基材の製造方法。
【0097】
上記、共押出プロセス(i)及びラミネートプロセス(ii)のうち、製造コスト等の観点から、共押出プロセス(i)が好ましい。共押出プロセス(i)において、微多孔層(A)、(B)の押出成膜条件としては、可能な限り低温で樹脂を吐出し、低温のエアを吹き付けることにより効果的に急冷させることが好ましい。成膜後にはエアにより急冷させることが好ましく、吹き付けるエアの温度としては、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下である。このような低温に制御した冷風を吹き付けることにより、成膜後の樹脂が均一にMDに配向する。
【0098】
上記、共押出プロセス(i)及びラミネートプロセス(ii)ともに、セパレータ基材の製造方法は、押出成膜後にアニール工程を含んでもよい。アニール工程を行うことにより、微多孔層(A)および(B)の結晶構造が成長し、開孔性が改善する傾向にある。特定の温度で、所定時間アニールを付与することにより、微多孔層(A)および(B)ともに良好な面積平均長孔径、高気孔率、低透気度及び高突刺強度を得ることが可能となる傾向にある。その理由は、結晶構造が乱れることなく結晶が成長し、高い開孔性が得られるからであると考えられる。アニール工程では、好ましくは115℃以上160℃以下、より好ましくは135℃以上160℃以下の温度範囲で、好ましくは20分以上、より好ましくは60分以上アニール処理をする。これによって、主成分であるポリプロピレンの結晶が高配向となり、後工程の延伸時に高い開孔性が得られ、低透気度かつ高弾性率による高突刺強度のセパレータを実現し、蓄電デバイスの高入出力かつ高エネルギー密度を発現させる観点から好ましい。
【0099】
セパレータ基材の製造方法は、アニール工程の後に、延伸工程を含んでもよい。延伸処理としては、一軸延伸、又は二軸延伸のいずれも用いることができる。限定されないが、乾式法を使用する際の製造コスト、TDの熱収縮低減等の観点では、一軸延伸が好ましい。冷間延伸のMDの延伸率((延伸後の寸法-延伸前の寸法)/延伸前の寸法×100(%))は、好ましくは5%以上50%以下、より好ましくは20%以上45%以下、更に好ましくは25%以上45%以下の範囲であり、冷間延伸時の亀裂発生量が増大することで、熱間延伸時に小さな孔径が得られ易く、過大ではなく適度に良好な幹高さが得られ、さらに小孔径となることによりドメイン(ポリプロピレン(PP)に対して非相溶な熱可塑性エラストマー)が連結し、破壊時でさえも連結したドメインの応力緩和により破壊が進行し難く、主成分であるポリプロピレンの伸長を可能とし、結果的に高ひずみ域でのラメラ晶の高配向構造が達成されるため高突刺強度のセパレータを得ることが出来る。冷間延伸の温度は、好ましくは10℃以上50℃以下、更に好ましくは20℃以上30℃以下であり、製造コストの観点から室温(23±2℃)で行ってよい。得られるセパレータ基材の突刺強度と低透気度の両方を向上させる観点、製造コスト、TDの熱収縮低減等の観点では、一軸延伸が好ましい。
【0100】
セパレータ基材の熱収縮を抑制するために、延伸工程後又は孔形成工程後に熱固定を目的として熱処理工程を行ってもよい。熱処理工程は、物性の調整を目的として、所定の温度及び所定の延伸倍率になるように行う熱間延伸操作、及び/又は、成膜、延伸時に付与される収縮応力の低減を目的として、所定の温度及び所定の緩和倍率になるように行う熱緩和操作を含んでもよい。熱間延伸操作を行った後に熱緩和操作を行ってもよい。熱間延伸及び熱緩和では、延伸前のMDの寸法を100%として、好ましくは140%以上280%以下まで、より好ましくは160%以上260%以下まで、更に好ましくは180%以上240%以下まで延伸させる。これによって、伸び切り鎖を形成させ、強固なフィブリルとすることで高突刺強度のセパレータが得られる。また、上記熱処理工程では、特定の延伸倍率以上で、延伸操作を行うことにより、良好な幹高さを得ることが可能となる傾向にある。その理由は、特定の延伸倍率以下では開孔が優先され、開孔過程の後に、幹高さの変化を伴う構造変化が起こるからであると考えられる。熱間延伸後の熱緩和では、MDに好ましくは10%以上50%、より好ましくは20%以上45%以下緩和させる。これらの熱処理工程は、テンター又はロール延伸機を用いて行うことができる。熱処理工程の温度は、好ましくは120℃以上160℃以下、更に好ましくは130℃以上155℃以下である。熱可塑性エラストマーの融点以上で上記熱処理を行うことで、熱間延伸時の主成分のポリプロピレンの骨格に掛かる応力を緩和させて、MDに均一にフィブリルを延在させることで、剛性と靭性が向上した高突刺強度のセパレータが得られる。
【0101】
得られたセパレータ基材は、それ自体をそのまま蓄電デバイス用セパレータとして使用することができる。任意に、セパレータ基材の片面又は両面に、塗工層等の更なる層を提供してもよく、必要に応じてコロナ処理等の表面処理を施してもよい。
【0102】
《蓄電デバイス》
本開示の蓄電デバイスは、本開示の蓄電デバイス用セパレータを備える。本開示の蓄電デバイスは正極と負極とを有し、正極と負極との間に、本開示の蓄電デバイス用セパレータが配置されることが好ましい。
【0103】
蓄電デバイスとしては、限定されないが、例えば、リチウム二次電池(全固体リチウム電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池を含む)、リチウムイオン二次電池、ナトリウム二次電池、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウム二次電池、カルシウムイオン二次電池、アルミニウム二次電池、アルミニウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスフロー電池、及び亜鉛空気電池等が挙げられる。これらの中でも、高エネルギー密度、低コスト、耐久性の観点から、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、又はリチウムイオンキャパシタが好ましく、より好ましくはリチウムイオン二次電池である。
【0104】
蓄電デバイスは、例えば、正極と負極とを、上記で説明されたセパレータを介して重ね合わせて、必要に応じて捲回して、積層電極体又は捲回電極体を形成した後、これを外装体に装填し、正負極と外装体の正負極端子とをリード体などを介して接続し、さらに、鎖状又は環状カーボネート等の非水溶媒とリチウム塩等の電解質を含む非水電解液を外装体内に注入した後に外装体を封止して作製することができる。
【0105】
本蓄電デバイスは、より好ましくは、リチウムイオン二次電池であり、ここで、リチウムイオン二次電池の好ましい態様を記載する。
【0106】
正極は、リチウムイオン二次電池の正極として作用するものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。正極は、正極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料からなる群より選ばれる1種以上を含有することが好ましい。正極としては、電池容量、安全性の観点から、好ましくは、LiCoOに代表されるリチウムコバルト酸化物、LiMnに代表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物、LiMn1.5Ni0.5に代表されるスピネル系リチウムニッケルマンガン酸化物、LiNiOに代表されるリチウムニッケル酸化物、LiMO(MはNi、Mn、Co、AI及びMgからなる群より選ばれる2種以上の元素を示す)で表されるリチウム含有複合金属酸化物、LiFePOで表されるリン酸鉄リチウム化合物が挙げられる。この中でも、高安全性、長期安定性の観点から、より好ましくは、LiCoOに代表されるリチウムコバルト酸化物、LiNiOに代表されるリチウムニッケル酸化物、LiMO(MはNi、Mn、Co、AI及びMgからなる群より選ばれる2種以上の元素を示す)で表されるリチウム含有複合金属酸化物、LiFePOで表されるリン酸鉄リチウム化合物が挙げられ、特に好ましくは、LiFePOで表されるリン酸鉄リチウム化合物である。
【0107】
負極は、リチウムイオンニ次電池の負極として作用するものであれば特に限定されず、公知のものであってもよい。負極は、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料及び金属リチウムからなる群より選ばれる1種以上の材料を含有すると好ましい。すなわち、負極は、負極活物質として、金属リチウム、炭素材料、リチウムと合金形成が可能な元素を含む材料、及び、リチウム含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の材料を含有すると好ましい。そのような材料としては、金属リチウムの他、例えば、ハードカーボン、ソフトカーボン、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛、熱分解炭素、コークス、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、グラファイト、炭素コロイド、カーボンブラックに代表される炭素材料が挙げられる。
【実施例0108】
以下、本実施例で採用される、測定方法、及び評価方法について説明する。
本実施例では、「セパレータ基材」が「セパレータ」に相当するため、以下の説明中、「セパレータ基材」は「セパレータ」と読み替えられてよい。
【0109】
《測定及び評価方法》
[メルトフローレート(MFR)の測定]
微多孔層(A)及び微多孔層(B)のメルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に準拠し、温度230℃及び荷重2.16kgの条件下で測定した(単位はg/10minである)。ポリプロピレンのMFRは、JIS K 7210に準拠し、温度230℃及び荷重2.16kgの条件下で測定した。ポリエチレンのメルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に準拠し、温度190℃及び荷重2.16kgの条件下で測定した。
【0110】
[GPC(ゲルパーミエーションクロマトグロフィー)によるMw及びMnの測定]
アジレント PL-GPC220を用い、標準ポリスチレンを以下の条件で測定して較正曲線を作成した。試料のポリマーについても同様の条件でクロマトグラフを測定し、較正曲線に基づいて、下記条件によりポリマーのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除したMWD(Mw/Mn)を算出した。
カラム :TSKgel GMHHR-H(20) HT(7.8mmI.D.×30 cm)2本
移動相 :1,2,4-トリクロロベンゼン
検出器 :RI
カラム温度:160℃
試料濃度 :1mg/ml
較正曲線 :ポリスチレン
【0111】
[溶融張力の測定]
東洋精機製作所製キャピログラフを用いて、以下の条件で微多孔層(A)及び微多孔層(B)の溶融張力(mN)を測定した。
・キャピラリー:直径1.0mm、長さ20mm
・シリンダー押出速度:2mm/分
・引き取り速度:60m/分
・温度:240℃
【0112】
[ペンタッド分率の測定]
ポリプロピレンのペンタッド分率は、高分子分析ハンドブック(日本分析化学会編集)の記載に基づいて帰属した13C-NMRスペクトルから、ピーク高さ法によって算出した。13C-NMRスペクトルの測定は、JEOL-ECZ500を使用して、ポリプロピレンペレットをo-ジクロロベンゼン-dに溶解させ、測定温度145℃、積算回数25000回の条件で行った。
【0113】
[DSCの測定]
島津製作所製DSC-60を用いて、以下の条件で微多孔層(A)のDSC測定を行った。
・試料量:約5mg
・使用セル:アルミニウムクリンプセル(直径(dia.)5.8mm)
・使用雰囲気:窒素(流量50mL/min)
・温度プログラム:
第1step:室温から10℃/minで230℃まで昇温し、5min保持
第2step:10℃/minで20℃まで降温し、5min保持
第3step:10℃/minで200℃まで昇温し、5min保持
上記第3stepの昇温過程でのDSC曲線(縦軸を熱流、横軸を温度とする。)から、装置付属の解析ソフトウェアTA-60を用いて、吸熱ピークA及びBのピーク温度を読み取り、吸熱ピークAの面積S及び吸熱ピークBの面積Sを算出し、S/Sを求めた。
【0114】
[厚み(μm)の測定]
ミツトヨ社製のデジマチックインジケータIDC112を用いて、室温23±2℃で、セパレータ基材の厚み(μm)を測定した。各微多孔層の厚みは、後述する面積平均長孔径の評価方法で取得した断面SEMによる画像データから算出した。
【0115】
[気孔率(%)の測定]
10cm×10cm角の寸法を有する試料をセパレータ又は微多孔層から切り取り、その体積(cm)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm)より、次式を用いて気孔率を計算した。
気孔率(%)=(体積-質量/密度)/体積×100
【0116】
[透気度(秒/100cm)]
JIS P-8117に準拠したガーレー式透気度計を用いて、セパレータ基材の透気度(秒/100cm)を測定した。透気度(秒/100cm)をセパレータ基材厚み(μm)で除し10μmを乗じることにより、セパレータ基材の厚みを10μmに換算した場合の透気度(秒/100cm)を求めた。
【0117】
[MD熱収縮率(%)、TD熱収縮率(%)]
セパレータ基材をMD/TDそれぞれ50mmの方形に切り出して得たサンプルを、熱風乾燥機(ヤマト科学社製、DF1032)にコピー紙にのせて入れ、常圧、大気中105℃で1時間熱処理を行った。熱風乾燥機よりサンプルを取り出し、25℃で10分間放冷し、その後、寸法収縮率を求めた。
熱収縮率(%):(加熱前の寸法(mm)-加熱後の寸法(mm))/(加熱前の寸法(mm))×100
【0118】
[突刺強度及び突刺深度]
図3~5を参照して、本開示の突刺強度及び突刺深度の測定について以下に説明する。図1に例示するとおり、先端が半径0.5mmの半球状である針(8)を用意し、直径(dia.)11mmの開口部を有するプレート(9,9)2つの間にセパレータ(7)を挟み、針(8)、セパレータ(7)及びプレート(9,9)をセットした。株式会社イマダ製「MX2-50N」を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、セパレータ保持プレートの開口部直径11mm及び突刺速度25mm/分の条件で突刺試験を行った。針(8)とセパレータ(7)を接触させ、図5に例示されるとおり、最大突刺荷重(すなわち、突刺強度(gf))を測定した。突刺強度(gf)をセパレータ基材厚み(μm)で除し10μmを乗じることにより、セパレータ基材の厚みを10μmに換算した場合の突刺強度(gf)を求めた。図4に示した、セパレータ(7)が最初にMD方向に、針(8)の片側または両側同時に縦裂けして荷重が急落した時の荷重を第一破断点強度とし、図3(c)では、針(8)がセパレータ(7)に触れてから第一破断点までの深度を第一破断深度(D)とする。突刺を続けて、図4(c)に例示するとおり、セパレータ(7)が最終的にTD方向にも完全破断したときの荷重を最終破断点強度として測定した。図4および図5に例示されるとおり、針(8)がセパレータ(7)に触れてから最終破断に達するまでの針の変位(mm)を最終破断深度として測定した。
【0119】
[MD引張強度、MD引張伸度]
セパレータの引張強度は、引張試験機(ミネベア(株)製TG―1kN型)を用いて、試験前の試料長さを35mmにし、速度100mm/minで試料を引張ることで測定した。試料が降伏したときの強度(引張荷重値)、又は降伏前に切断(破断)した場合は切断したときの強度(引張荷重値)を試験片の断面積で除した値を引張強度(kgf/cm)とした。また、試料が破断したときの伸度(試験前からの伸長割合)を引張伸度(%)とした。セパレータのMD方向について引張強度及び引張伸度を測定した。
【0120】
[面積平均長孔径(nm)]
面積平均長孔径は断面SEM観察での画像解析により測定を行った。前処理として、セパレータにルテニウム染色を行い、凍結割断により、断面試料を作製した。断面はMD-ND面とする。上記断面試料を導電性接着剤(カーボン系)により断面観察用SEM試料台に固定、乾燥した後、導電処理としてオスミウムコーター(HPC-30W、株式会社真空デバイス製)を用いて、印加電圧調整つまみ設定4.5、放電時間0.5秒の条件でオスミウムコーティングを実施し、検鏡試料とした。次に、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製 S-4800)を用い、微多孔膜の各微多孔層断面の任意の8点を加速電圧1kV、検出信号LA10、作動距離5mm、倍率30000倍の条件で観察した。
【0121】
観察画像を、プログラミング言語Pythonの環境下で、画像解析用ライブラリであるOpenCVの関数を使い、任意の1つの微多孔層の断面のみが含まれるようにトリミングを行い、表面と外部と他の微多孔層を除いた後、Otsu法を用いて2値化処理し、樹脂部と孔部とを分け、孔部の平均長径を算出した。この際、撮影範囲と撮影範囲外に跨って存在している孔面積が0.001nm以下の孔については、測定対象から除外した。平均径は、各孔の面積から、面積平均により算出した。
【0122】
[幹高さ(nm)]
幹高さは断面SEM観察での画像解析により測定を行った。面積平均長孔径算出時と同様に、断面試料の作製および検鏡試料の作製を行った後、微多孔膜断面の任意の3点を加速電圧1kV、検出信号LA10、作動距離5mm、倍率5000倍の条件で観察した。
【0123】
観察画像を、プログラミング言語Pythonの環境下で、画像解析用ライブラリであるOpenCVの関数を使い、Otsu法を用いて2値化処理し、樹脂部と孔部とを分け、さらに、NDにのみぼかし処理を繰り返し行い、フィブリル部を除去した。上記フィブリル除去処理は、NDに3ピクセル、MDには1ピクセルの棒型処理範囲で、ガウシアンフィルタを用いて100回繰り返すことで行った。ぼかし処理の後、NDに長径7ピクセル、MDには短径3ピクセルの楕円型処理範囲で、オープニング処理とクロージング処理を順に行ってノイズを除去し、フィブリル除去像を得た。
【0124】
上記フィブリル除去像より、幹高さの算出を行った。MD1ピクセル分でフィブリル除去像を切り出し、NDの樹脂部の長さをすべて検出し、MD全てを含むように、繰り返し行い、フィブリル除去像の全範囲のNDの樹脂部の長さを検出した。図2は、フィブリル除去像の一部を切り出した模式図である。図中の明部が樹脂部(5)、暗部が孔部(6)であり、MD1ピクセル分で切り出して検出する箇所の一例が両矢印で示される部分である。得られたNDの樹脂部の長さの数値について、NDの樹脂部の長さを重みとした加重平均を算出し、得られた値を幹高さとした。NDの樹脂部の長さをLとすると幹高さHは、下記数式:
【数1】
で算出される。n個の長さLを用いた加重平均を用いることで、幹高さHは、より突刺強度及び耐電圧と相関の高い数値となる。
【0125】
《実施例1》
[ポリプロピレン樹脂組成物の作製]
表1に示す高分子量のポリプロピレン樹脂(PP1、MFR=0.51)、エチレン/1-ブテン共重合体(C2C4、MFR=6.7)のペレットをPP1:C2C4=88.0:12.0(質量%)の質量比率でドライブレンドした後、TEM26SS(東芝機械社製、L/D=48.5)を使って溶融混練を行った。溶融混練後、ダイス(3穴)からストランドを引いて水冷バスにて冷却後、ペレターザーを使ってカッティングしてポリプロピレン樹脂組成物ペレットを得た。
【0126】
[微多孔層の作製]
微多孔層(A)の樹脂として、表1に示す高分子量のポリプロピレン樹脂(PP1、MFR=0.51)と上記ポリプロピレン樹脂組成物ペレットをPP1:ポリプロピレン樹脂組成物ペレット=73.0:27.0(質量%)の質量比率でドライブレンドした後、2.5インチの押出機で溶融し、単層のインフレーションダイへとギアポンプを使って供給した。インフレーションダイの温度は240℃に設定し、溶融したポリマーをインフレーションダイから吐出後、吹込空気によって吐出樹脂を冷却しながら、ロールに巻き取ることで約12μm厚みの微多孔層(A)から成る単層構造の前駆体シートを得た。ここで、インフレーションダイのリップ間距離(リップクリアランス)は、1.8mmに設定し、9kg/hの吐出量条件で吐出を行った。
【0127】
次いで、得られた前駆体シートを乾燥機に投入し、150℃で、180分アニール処理を実施した。その後、アニールされた前駆体シートを室温にて、MDに30%冷間延伸を行い、延伸後の膜を収縮させることなく135℃のオーブン中に投入し、延伸前の寸法を100%として、MDに200%まで熱間延伸を行い、その後、MDに44%熱緩和させることにより、微多孔層(A)から成る単層構造を有するセパレータ基材を得た。得られたセパレータ基材の構造、物性の評価結果を表1に示す。
【0128】
前駆体シートの下限厚みは、上記約12μm厚みの前駆体シートを製造後、吐出量一定のまま引取速度を段階的に挙げていくことで薄膜化していき、破膜する直前の膜厚みを測定することで求めた。また、得られた下限厚みの前駆体シートを、上記アニール及び延伸条件(150℃で180分間アニールし、室温で30%冷間延伸し、135℃で200%まで熱間延伸し、44%緩和させる)で延伸開孔させることで、単層構造を有するセパレータ基材を得て、膜厚みを測定することでセパレータの下限厚みを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0129】
《実施例2~12、比較例2》
表1に示すとおりに原料を変更し、表1に示す組成のとおりにポリプロピレン樹脂とポリプロピレン樹脂組成物ペレットとの質量比率を調整し、ダイと吐出が安定する押出温度を微調整したこと以外は実施例1と同じ方法に従って単層構造を有するセパレータ基材を得た。得られたセパレータ基材の評価結果を表1に示す。
【0130】
《比較例1》
ポリプロピレン樹脂組成物を作製せず、微多孔層(A)の樹脂として表1に示す高分子量のポリプロピレン樹脂100質量%を2.5インチの押出機で溶融し、ダイと吐出が安定する押出温度を微調整したこと以外は、実施例1と同じ方法に従って単層構造を有するセパレータ基材を得た。得られたセパレータ基材の評価結果を表1に示す。
【0131】
【表1-1】
【0132】
【表1-2】
【産業上の利用可能性】
【0133】
本開示の蓄電デバイス用セパレータは、蓄電デバイス、例えばリチウムイオン二次電池等のセパレータとして好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0134】
1 ポリマーマトリックス
2 染色明部となるドメイン
3 フィブリル
4 空孔
5 樹脂部(明部)
6 孔部(暗部)
7 セパレータ
8 針
9 プレート
D 第一破断深度
dia. 直径
図1
図2
図3
図4
図5