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  • 特開-建築部材及び建築部材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099858
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】建築部材及び建築部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/23 20060101AFI20250626BHJP
   A62C 2/00 20060101ALI20250626BHJP
   C03C 17/30 20060101ALI20250626BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
C03C17/23
A62C2/00 X
C03C17/30 A
E04B1/94 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216812
(22)【出願日】2023-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】501352619
【氏名又は名称】三商株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 圭一
(72)【発明者】
【氏名】広田 正之
(72)【発明者】
【氏名】服部 絵美
【テーマコード(参考)】
2E001
4G059
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001DE07
2E001GA12
2E001HA11
2E001HD14
4G059AA01
4G059AC06
4G059AC19
4G059CA01
4G059EB05
4G059FA30
(57)【要約】
【課題】遮熱性が高い建築部材及び建築部材の製造方法を提供すること。
【解決手段】建築部材は、耐熱結晶化ガラス板から成る基材と、前記基材の少なくとも一方の主面に設けられた透明膜と、を備える。前記透明膜は、けい酸ナトリウムを含む。耐熱結晶化ガラス板から成る基材の少なくとも一方の主面に、けい酸ナトリウムを含む塗料組成物を塗布することで、透明膜を形成する建築部材の製造方法。耐熱結晶化ガラス板から成る基材の少なくとも一方の主面に、けい酸ナトリウムを含む透明膜を接合する建築部材の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱結晶化ガラス板から成る基材と、
前記基材の少なくとも一方の主面に設けられた透明膜と、
を備え、
前記透明膜は、けい酸ナトリウムを含む、
建築部材。
【請求項2】
請求項1に記載の建築部材であって、
前記透明膜は、変性シリコーン樹脂をさらに含む、
建築部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の建築部材であって、
前記透明膜の外側に、厚さ0.5mm以上2mm以下の外側透明膜をさらに備える、
建築部材。
【請求項4】
耐熱結晶化ガラス板から成る基材の少なくとも一方の主面に、けい酸ナトリウムを含む塗料組成物を塗布することで、透明膜を形成する、
建築部材の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の建築部材の製造方法であって、
前記塗料組成物は、変性シリコーン樹脂をさらに含む、
建築部材の製造方法。
【請求項6】
耐熱結晶化ガラス板から成る基材の少なくとも一方の主面に、けい酸ナトリウムを含む透明膜を接合する、
建築部材の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の建築部材の製造方法であって、
前記透明膜は、変性シリコーン樹脂をさらに含む、
建築部材の製造方法。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか1項に記載の建築部材の製造方法であって、
前記透明膜の外側に、厚さ0.5mm以上2mm以下の外側透明膜をさらに設ける、
建築部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は建築部材及び建築部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に耐熱結晶化ガラスが開示されている。特許文献2には、耐熱結晶化ガラスの表面に熱線反射膜を形成した部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-224938号公報
【特許文献2】特開2002-128542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建築部材には遮熱性が要求される。特許文献1、2に記載のガラスを建築部材に用いることが考えられる。その場合、建築部材の遮熱性が不十分である。本開示の1つの局面では、遮熱性が高い建築部材及び建築部材の製造方法を提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の1つの局面は、耐熱結晶化ガラス板から成る基材と、前記基材の少なくとも一方の主面に設けられた透明膜と、を備え、前記透明膜は、けい酸ナトリウムを含む、建築部材である。本開示の1つの局面である建築部材は遮熱性が高い。
【0006】
本開示の別の局面は、耐熱結晶化ガラス板から成る基材の少なくとも一方の主面に、けい酸ナトリウムを含む塗料組成物を塗布することで、透明膜を形成する、建築部材の製造方法である。本開示の別の局面である建築部材の製造方法によれば、遮熱性が高い建築部材を製造できる。
【0007】
本開示の別の局面は、耐熱結晶化ガラス板から成る基材の少なくとも一方の主面に、けい酸ナトリウムを含む透明膜を接合する、建築部材の製造方法である。本開示の別の局面である建築部材の製造方法によれば、遮熱性が高い建築部材を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1A図1Dは、それぞれ、建築部材の構成を表す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
1.建築部材1の構成
図1A図1Dに示すように、建築部材1は、基材3と、透明膜5と、を備える。透明膜5は、基材3の少なくとも一方の主面に設けられている。なお、主面とは、板状の部材の表面のうち、他に比べて面積が大きい面を意味する。基材3は2つの主面を有する。2つの主面は、基材3を挟んで対向している。
【0010】
図1A図1Cに示す形態では、基材3の片方の主面のみに透明膜5が設けられている。図1B図1Dに示す形態では、基材3の両方の主面に透明膜5が設けられている。図1C図1Dに示す形態では、透明膜5の外側に、厚さ0.5mm以上2mm以下の外側透明膜7をさらに備える。図1Dに示す形態では、両方の透明膜5の外側に、それぞれ、外側透明膜7を備える。なお、外側とは、基材3から離れる方向にある側を意味する。
【0011】
基材3は、耐熱結晶化ガラス板から成る。基材3は、板状の形態を有する。耐熱結晶化ガラス板として、例えば、特開平4-22438号公報に開示されているもの等が挙げられる。基材3の厚さは、3mm以上10mm以下であることが好ましい。
【0012】
例えば、基材3の木口に防水シールを施すことができる。この場合、基材3の耐久性が向上する。例えば、基材3の木口に、溶剤に溶解させた塩化ビニル樹脂又は塩化ビニリデン樹脂を塗付して乾燥させることができる。この場合、基材3の耐久性が向上する。
【0013】
透明膜5は、透明な膜である。なお、本明細書において透明とは、透明性を判断する対象となる部材を通して採光できる状態をいう。透明とは、完全な透明には限定されず、例えば、半透明であってもよい。透明膜5の厚さは、0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。
【0014】
透明膜5は、けい酸ナトリウムを含む。けい酸ナトリウムにおける、JIS K 1408:1966に規定されるSiO/NaOのモル比は、1.8~3.0であることが好ましく、1.8~2.6であることが一層好ましい。SiO/NaOのモル比が1.8~3.0である場合、透明膜5が安定し、透明膜5の柔軟性が高い。
【0015】
透明膜5におけるけい酸ナトリウムの含有率は、好ましくは75質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは85質量%以上100質量%以下である。透明膜5における含有率とは、透明膜5の全固形分の質量に対する質量比である。
【0016】
透明膜5は、例えば、変性シリコーン樹脂をさらに含む。変性シリコーン樹脂とは、主骨格にポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール等の構造を有し、主鎖又は側鎖に、反応性シリル基を有する化合物である。
【0017】
変性シリコーン樹脂として、例えば、湿気硬化形の変性シリコーン樹脂が挙げられる。変性シリコーン樹脂は、空気中の水分等により反応性シリル基のアルコキシ基が加水分解し、生成したシラノール基が縮合することによって重合する。変性シリコーン樹脂は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
変性シリコーン樹脂の主骨格は特に限定されない。変性シリコーン樹脂の主骨格として、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン等のポリエーテル系重合体;ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン等の脂肪族炭化水素系重合体;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリレート等のアクリル系重合体;ポリエステル系重合体等が挙げられる。
【0019】
これらのうち、ポリエーテル系重合体を用いることが好ましく、ポリオキシアルキレンを用いることがより好ましい。主骨格としてポリエーテル系重合体を用いる場合、けい酸ナトリウムと変性シリコーン樹脂とが混和し易くなり、透明膜5の透明度が一層向上する。
【0020】
変性シリコーン樹脂の骨格は、直鎖状であっても、分岐状であってもよい。変性シリコーン樹脂の骨格として、直鎖状のものと分岐状のものを混合して用いることが好ましい。
反応性シリル基は特に限定されない。反応性シリル基として、例えば、付加反応性シリル基、縮合反応性シリル基、加水分解性シリル基が挙げられる。より具体的には、反応性シリル基として、ケイ素原子に、水素原子、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アシルオキシ基、アルケニルオキシ基、アミド基、オキシム基、ケトキシメート基、アミド基、酸アミド基、メルカプト基、アミノオキシ基等の反応性基が結合した基が挙げられる。
【0021】
変性シリコーン樹脂は、末端にトリメトキシシリル基又はジメトキシシリル基を有することが好ましい。変性シリコーン樹脂の市販品として、例えば、EST-250、OR110S、MA440、MAX602、S227、SA100S、SAT145、SAX015(カネカ社製)、STP-E10、STP-E15、STP-E30、STP-E35(ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト社製)等が挙げられる。変性シリコーン樹脂の粘度は、好ましくは0.1~20Pa・s、より好ましくは0.2~10Pa・sである。
【0022】
透明膜5において、80質量部のけい酸ナトリウムに対し、変性シリコーン樹脂の好ましい配合量は1質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは2質量部以上80質量部以下であり、特に好ましくは2質量部以上10質量部以下である。変性シリコーン樹脂の配合量がこの範囲にあるとき、透明膜5の耐湿性及び難燃性が一層向上する。
【0023】
透明膜5は、例えば、硬化触媒をさらに含む。硬化触媒は、透明膜5を形成するとき、透明膜5の硬化を早めるとともに、透明膜5の耐湿性を一層向上させる。
硬化触媒は限定されない。硬化触媒として、例えば、有機スズ化合物、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルとアミンとの反応物、飽和若しくは不飽和の多価カルボン酸又はその酸無水物、有機チタネート化合物、有機アルミニウム化合物、金属錯体、有機酸ビスマス等が挙げられる。
【0024】
有機スズ化合物として、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジマレート、ジブチル錫フタレート、オクチル酸錫、ジブチル錫メトキシド等が挙げられる。有機スズ化合物の市販品として、ネオスタン(日東化成社製)等が挙げられる。
【0025】
有機チタネート化合物として、例えば、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、トリエタノールアミンチタネート等が挙げられる。有機アルミニウム化合物として、例えば、アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート等が挙げられる。
【0026】
金属錯体として、例えば、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート等が挙げられる。有機酸ビスマスとして、例えば、オクチル酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマス、ロジン酸ビスマス等が挙げられる。有機酸ビスマスの市販品として、ネオスタン(日東化成社製)、Borchi Kat(松尾産業社製)等が挙げられる。これらの硬化触媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0027】
硬化触媒の添加量は特に限定されない。透明膜5の耐水性の観点から、硬化触媒の添加量は、変性シリコーン樹脂100質量部に対して、0.05~10質量部であることが好ましく、0.1~2質量部であることがより好ましい。
【0028】
透明膜5は、例えば、ガラス繊維をさらに含む。透明膜5がガラス繊維を含む場合、透明膜5のひび割れを抑制することができる。ガラス繊維の直径は、2μm以上15μm以下であることが好ましい。ガラス繊維の長さは、3μm以上200μm以下であることが好ましく、5μm以上50μm以下であることが一層好ましい。ガラス繊維の長さをガラス繊維の直径で除した値を、ガラス繊維のアスペクト比とする。ガラス繊維のアスペクト比は、1.5以上5.5以下であることが好ましい。
【0029】
透明膜5は、例えば、難燃性、透明性を著しく損なわない範囲で、通常の塗料に使用される添加剤、顔料等を含むことができる。添加剤として、例えば、増粘剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、分散剤、湿潤剤、防腐剤、染料等、消泡剤、顔料等が挙げられる。
【0030】
増粘剤として、例えば、有機変性スメクタイト等の粘土鉱物、シリカ等が挙げられる。pH調整剤として、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム等が挙げられる。顔料として、例えば、無機顔料、有機顔料、体質顔料等が挙げられる。無機顔料として、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄等が挙げられる。有機顔料として、例えば、キナクリドン、アゾ顔料等が挙げられる。体質顔料として、例えば、硫酸バリウム、タルク、マイカ等が挙げられる。
【0031】
透明膜5は、例えば、黄変防止の目的で酸化防止剤を含んでいてもよい。酸化防止剤として、例えば、リン系、ヒドロキノン系、ビス・トリス・ポリフェノール系、チオビスフェノール系、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤等が挙げられる。
【0032】
外側透明膜7は、透明な膜である。外側透明膜7の材質として、例えば、フロートガラス、PET、ポリカ、アクリル樹脂等が挙げられる。外側透明膜7の材質として、フロートガラスが好ましい。外側透明膜7の材質がフロートガラスである場合、外側透明膜7の耐久性が一層向上する。外側透明膜7の厚さは、0.5mm以上2mm以下である。外側透明膜7は、例えば、透明膜5と接している。
【0033】
2.建築部材1の製造方法
(2-1)第1の製造方法
建築部材1の製造方法として、基材3の少なくとも一方の主面に、けい酸ナトリウムを含む塗料組成物を塗布することで、透明膜5を形成する方法がある。塗料組成物の塗膜は、透明膜5となる。塗料組成物は、例えば、変性シリコーン樹脂をさらに含む。
【0034】
塗料組成物は、透明膜5の成分と、揮発成分とを含む。揮発成分として、例えば、水等が挙げられる。塗料組成物において、不揮発成分の質量比は、好ましくは40~65質量%、より好ましくは50~60質量%である。不揮発成分の質量比がこの範囲にあるとき、塗料組成物の塗装作業性が一層優れる。
【0035】
図1C又は図1Dに示す形態の建築部材1を製造する場合、塗料組成物を塗布した後、塗料組成物の塗膜の含水率が5質量%以上10質量%以下のときに、外側透明膜7を塗料組成物の塗膜の上に載せることが好ましい。
【0036】
塗料組成物は、例えば、以下のように製造できる。けい酸ナトリウムを塗料製造容器に収容する。次に、ミキサーで攪拌しながら、添加剤、顔料、変性シリコーン樹脂等を添加して均一な溶液とする。このとき、粘度調整のために水希釈してもよい。均一な溶液は、塗料組成物である。
【0037】
塗料組成物において、硬化触媒が存在しなければ、水分と変性シリコーン樹脂(例えば、湿気硬化形の変性シリコーン樹脂)との反応は非常に遅い。そのため、塗料組成物は、数日から数ヶ月程度は流動性を保持することができる。例えば、塗料組成物を保管しているとき、塗料組成物は硬化触媒を含まない。使用する直前に、硬化触媒を塗料組成物に混合する。この場合、塗料組成物の長期保管が可能となる。
【0038】
(2-2)第2の製造方法
建築部材1の製造方法として、基材3の少なくとも一方の主面に、けい酸ナトリウムを含む透明膜5を接合する方法がある。透明膜5は、例えば、変性シリコーン樹脂をさらに含む。
【0039】
基材3の主面に透明膜5を接合するとき、透明膜5の含水率が5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。図1C又は図1Dに示す形態の建築部材1を製造する場合、基材3に接合した透明膜5の含水率が5質量%以上10質量%以下のときに、外側透明膜7を透明膜5の上に載せることが好ましい。
【0040】
透明膜5は、基材3の主面に接合する前から、シート状の形態を有する。シート状の形態を有する透明膜5(以下ではシート状の透明膜5Aとする)は、例えば、以下のように製造できる。
けい酸ナトリウムをミキサーで混練しながら、変性シリコーン樹脂、添加剤、顔料、硬化触媒等を添加して均一な粘土状又は粘調溶液状の部材(以下ではシート中間体とする)を作製する。シート中間体を作製するとき、粘度調整のために加水してもよい。
【0041】
シート中間体において、硬化触媒が存在しなければ、水分と変性シリコーン樹脂(例えば、湿気硬化形の変性シリコーン樹脂)とを混合してもその反応は非常に遅い。そのため、シート中間体は、数日から数週間程度は流動性を維持することができる。例えば、シート中間体を保管しているとき、シート中間体は硬化触媒を含まない。使用する直前に、硬化触媒をシート中間体に混合する。この場合、シート中間体の長期保管が可能となる。
【0042】
次に、シート中間体を成形することで、シート状の透明膜5Aを作製する。具体的には、以下の工程を行う。ナイフコータを用い、所定の幅及び厚さの金型を介して、シート中間体を合成樹脂フィルムの上に塗付し、乾燥させる。次に、シート中間体を、その厚さ方向における両側から合成樹脂フィルムで挟み込む。以上の工程により、シート状の透明膜5Aが得られる。
【0043】
成形方法はナイフコータを用いる方法に限定されず、例えば、押出機を用いて成形してもよいし、シート中間体を型枠に流し込んで成形してもよい。また、シート中間体をプレスして成形してもよい。成形方法は、巻取りの形態であってもよいし、枚葉の形態であってもよい。
【0044】
例えば、シート中間体を加温してから成形してもよい。シート中間体を加温することにより、乾燥時間を短縮することができるとともに、シート状の透明膜5Aに内包される気泡を低減することができる。シート中間体を加温する場合、シート中間体の温度は、好ましくは30~80℃、より好ましくは40~60℃である。
【0045】
シート中間体を乾燥させることで、シート中間体の質量が10~15質量%減少した状態で、シート中間体を合成樹脂フィルムにより挟み込むことが好ましい。この場合、シート状の透明膜5Aの透明性が一層向上する。
【0046】
シート中間体に含まれるけい酸ナトリウムにおいて、JIS K 1408:1966に規定される15℃における重ボーメ度は、45~80であることが好ましい。重ボーメ度がこの範囲にあるとき、シート状の透明膜5Aの成形性が向上する。
【0047】
シート中間体は、粘度が高く流動性が低いものであることが好ましい。シート中間体が粘土状である場合、シート状の透明膜5Aの成形性が一層向上する。シート中間体の不揮発分は75~99質量%であることが好ましく、80~95質量%であることが一層好ましい。不揮発分がこの範囲にあるとき、シート状の透明膜5Aの成形性が向上する。
【0048】
シート状の透明膜5Aの幅は、例えば、1000mmである。また、シート状の透明膜5Aの厚さは、例えば、1.5mmである。成形で用いる合成樹脂フィルムとして、例えば、PET、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール等の透明な合成樹脂から成るフィルムを使用することができる。また、合成樹脂フィルムの表面にシリコーン樹脂等で離型処理を行ってもよい。離型処理を行う場合、製造設備へのシート中間体の付着を抑制することができる。
【0049】
合成樹脂フィルムの表面に、粘着層を有する粘着フィルムを設けてもよい。この場合、合成樹脂フィルムとシート状の透明膜5Aとの密着性が向上する。粘着層として、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。粘着層の厚さは、10~100μmであることが好ましい。成形において、合成樹脂フィルムに代えてガラス板を用いてもよい。
【0050】
シート中間体を乾燥させるときの温度は、150℃以下であることが好ましく、40~60℃であることがより好ましい。シート中間体を乾燥させるときに、乾燥炉を用いて強制乾燥を行うことができる。例えば、乾燥炉の内部に温度に傾斜を設けることができる。例えば、乾燥炉の入口では温度が低く、乾燥炉の奥に進むほど、徐々に温度を高くすることができる。この場合、シート中間体から徐々に水分を揮発させることができるため、水分の急激な揮発による気泡の発生を抑制することができる。シート中間体を乾燥させるときに、自然乾燥を行ってもよい。
【0051】
3.建築部材1が奏する効果
(3-1)建築部材1は、遮熱性、遮炎性、遮煙性が高い。特に、建築部材1は、厚さが薄くても、遮熱性、遮炎性、遮煙性が高い。
【0052】
(3-2)透明膜5は、例えば、変性シリコーン樹脂をさらに含む。この場合、建築部材1は、遮熱性、遮炎性、遮煙性が一層高い。
(3-3)建築部材1は、例えば、外側透明膜7をさらに含む。この場合、建築部材1は、遮熱性、遮炎性、遮煙性が一層高い。
【0053】
(3-4)外側透明膜7は、例えば、フロートガラスから成る。この場合、外側透明膜7の耐久性が一層高い。
(3-5)建築部材1は透明性を有する。そのため、建築部材1を用いれば、開放的な空間を実現できる。また、建築部材1を用いれば、デザイン性の高い建築物を建築することができる。
【0054】
(3-6)従来技術として、ガラスから成る建築部材の遮熱性を高めることを目的として、スプリンクラー等の散水設備により建築部材に散水し、ガラス表面を冷やす方法がある。この方法を用いるためには、散水設備を設ける必要がある。また、散水によりガラスを急冷することでガラスが破損するおそれがある。それに対し、建築部材1を用いれば、建築部材1に散水しなくてもよいので、上記の問題を抑制できる。
【0055】
(3-7)従来技術として、水ガラスとフロートガラスとを多重に積層した部材がある。この部材は、厚く、重くなる。また、この部材は、構造が複雑なため、生産性が低い。それに対し、建築部材1は、薄く、軽くすることができる。また、建築部材1は、構造を単純化し、生産性を高めることができる。
【0056】
(3-8)建築部材1を、例えば、建築物内の第1の区画と第2の区画との間に設けることができる。建築部材1は遮熱性、遮炎性、遮煙性が高いので、第1の区画で火災が発生しても、第2の区画に延焼することを抑制できる。
また、第1の区画で火災が発生しても、第1の区画から第2の区画へ燃焼熱が伝達することを抑制できる。その結果、第2の区画内の内壁や什器等が自然発火することを抑制できる。また、第1の区画で火災が発生しても、第2の区画を避難経路とすることができる。その場合、第2の区画を通って避難する人が火災の熱を受け難い。また、第1の区画で火災が発生しても、第1の区画から第2の区画への煙の流出を抑制できる。
【0057】
4.実施例
(4-1)塗料組成物の製造
表1における「塗料組成物の組成」の行に記載された成分と、水とを混合することで、塗料組成物S1~S2を製造した。
【0058】
【表1】
【0059】
表1における「塗料組成物の組成」の行に記載された数値は、各成分の配合量である。配合量の単位は質量部である。「塗料組成物の組成」の行に記載された成分は不揮発分である。塗料組成物S1~S2において、塗料組成物の全質量に対し、不揮発分全体の質量比は60質量%であり、水の質量比は40質量%であった。
【0060】
表1における変性シリコーン樹脂は、分岐状シリコーン樹脂(カネカ社製、製品名SAT400、粘度24Pa・s)であった。表1における硬化触媒は、ジルコニウムテトラアセチルアセトナートであった。
【0061】
表1に、塗料組成物S1~S2に含まれるけい酸ナトリウムのSiO/NaOのモル比を示す。このSiO/NaOのモル比は、JIS K 1408:1966に規定されるモル比である。
(4-2)シート状の透明膜5Aの製造
表2における「シート状の透明膜5Aの組成」の行に記載された成分を混練した。「シート状の透明膜5Aの組成」の行に記載された数値は成分の配合量である。配合量の単位は質量部である。「シート状の透明膜5Aの組成」の行に記載された成分は不揮発分である。次に、混練した材料を、ナイフコータにより合成樹脂フィルム上に塗工し、乾燥することで、シート状の透明膜5Aを製造した。シート状の透明膜5Aの含水率は5質量%であった。
【0062】
【表2】
【0063】
表2における変性シリコーン樹脂は、分岐状シリコーン樹脂(カネカ社製、製品名:EST280、粘度7Pa・s)と、直鎖状シリコーン樹脂(カネカ社製、製品名:SAT350、粘度6Pa・s)との、質量比が1:1である混合物であった。表2における硬化触媒は、トリエタノールアミンチタネートであった。
【0064】
(4-3)建築部材1の製造
(i)実施例1
基材3として、耐熱結晶化ガラス板を用意した。耐熱結晶化ガラス板は、製品名「ファイアライトネオ」、日本電気硝子社製であった。耐熱結晶化ガラス板の厚さは5mmであった。耐熱結晶化ガラス板の形状は正方形であった。正方形の各辺の長さは70mmであった。
【0065】
基材3の両方の主面に、塗料組成物S2を流し込んで乾燥させた。次に、両面の塗料組成物S2の塗膜の上に、それぞれ、厚さ2mmのフロートガラスを接合した。フロートガラスを接合したとき、塗料組成物S2の塗膜の含水率は5質量%であった。
【0066】
塗料組成物S2の塗膜は、透明膜5となった。透明膜5の厚さは2mmであった。フロートガラスは、外側透明膜7となった。以上の工程により、図1Dに示す形態の建築部材1が得られた。実施例1、及び後述する各実施例及び各比較例の構成及び製造方法を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
(ii)実施例2
基材3として、実施例1と同様の耐熱結晶化ガラス板を用意した。基材3の一方の主面のみに、塗料組成物S2を流し込んで乾燥させた。次に、塗料組成物S2の塗膜の上に、厚さ2mmのフロートガラスを接合した。フロートガラスを接合したとき、塗料組成物S2の塗膜の含水率は5質量%であった。
【0069】
塗料組成物S2の塗膜は、透明膜5となった。透明膜5の厚さは2mmであった。フロートガラスは、外側透明膜7となった。以上の工程により、図1Cに示す形態の建築部材1が得られた。
(iii)実施例3
実施例2と同様にして、図1Cに示す形態の建築部材1を製造した。
【0070】
(iv)実施例4
基本的には実施例1と同様にして、図1Dに示す形態の建築部材1を製造した。ただし、外側透明膜7として、フロートガラスではなく、厚さ100μmのPETフィルムを使用した。
【0071】
(v)実施例5
基材3として、実施例1と同様の耐熱結晶化ガラス板を用意した。基材3の両方の主面に、塗料組成物S2を流し込んで乾燥させた。塗料組成物S2の塗膜は、透明膜5となった。透明膜5の厚さは2mmであった。以上の工程により、図1Bに示す形態の建築部材1が得られた。
【0072】
(vi)実施例6
基本的には実施例1と同様にして、図1Dに示す形態の建築部材1を製造した。ただし、塗料組成物S2ではなく、塗料組成物S1を使用した。塗料組成物S1の塗膜は、透明膜5となった。透明膜5の厚さは2mmであった。
【0073】
(vii)実施例7
基材3として、実施例1と同様の耐熱結晶化ガラス板を用意した。基材3の一方の主面のみに、前記(4-2)で製造したシート状の透明膜5Aを接合した。次に、シート状の透明膜5Aの上に、厚さ2mmのフロートガラスを接合した。基材3に接合したとき、シート状の透明膜5Aの含水率は5質量%であった。また、フロートガラスを接合したとき、シート状の透明膜5Aの含水率は5質量%であった。
【0074】
シート状の透明膜5Aの厚さは2mmであった。シート状の透明膜5Aは透明膜5となった。フロートガラスは、外側透明膜7となった。以上の工程により、図1Cに示す形態の建築部材1が得られた。
【0075】
(Viii)比較例1
実施例1と同様の耐熱結晶化ガラス板を、比較例1の建築部材とした。
(ix)比較例2
基材3として、実施例1と同様の耐熱結晶化ガラス板を用意した。耐熱結晶化ガラス板の両方の主面に、それぞれ、エポキシ接着剤を用いて、厚さ2mmのフロートガラスを貼り合わせた。
【0076】
(4-4)建築部材1の評価
各実施例及び各比較例の建築部材について、遮熱性を評価した。遮熱性の評価方法は以下のとおりであった。
【0077】
建築部材の一方の主面(以下では加熱面とする)を電気炉で加熱するとともに、建築部材における、加熱面とは反対側の主面(以下では非加熱面とする)の温度をK熱電対により継続的に測定した。実施例2、7では、外側透明膜7を設けた主面を加熱面とした。実施例3では、外側透明膜7を設けた主面の反対側の主面を加熱面とした。
【0078】
加熱面の温度Tは、以下の式(1)となるように制御した。
式(1) T=2×10-7×t3-0.0009×t2+1.3835×t+23
式(1)において、Tの単位は℃である。tは加熱を開始した時点からの経過時間である。tの単位は秒である。以下の基準により、遮熱性を評価した。
【0079】
◎:加熱を開始した時点から、非加熱面の温度が200℃に達するまでに要した時間(以下では昇温所要時間とする)が660秒間以上であった。
○:昇温所要時間が600秒間以上、660秒間未満であった。
【0080】
△:昇温所要時間が580秒間以上、600秒間未満であった。
×:昇温所要時間が580秒間未満であった。
評価結果を表3に示す。各実施例の建築部材1は遮熱性が高かった。それに対し、各比較例の建築部材は遮熱性が低かった。
【0081】
5.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0082】
(1)透明膜5は、変性シリコーン樹脂を含まなくてもよい。この場合も、建築部材1は、透明膜5を備えない基材3に比べて、遮熱性、遮炎性、遮煙性が高い。変性シリコーン樹脂を含まない透明膜5の組成として、例えば、各実施例における透明膜5の組成から、変性シリコーン樹脂と、硬化触媒とを除いた組成が挙げられる。
【0083】
(2)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【0084】
(3)上述した建築部材1の他、当該建築部材1を構成要素とするシステム、建築物の建築方法、遮熱方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0085】
1…建築部材、3…基材、5…透明膜、5A…シート状の透明膜、7…外側透明膜
図1