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特開2025-99870同期通信装置、同期通信装置の処理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099870
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】同期通信装置、同期通信装置の処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04W 56/00 20090101AFI20250626BHJP
   H04W 84/20 20090101ALI20250626BHJP
   G04G 5/00 20130101ALI20250626BHJP
   H04L 7/00 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
H04W56/00 130
H04W84/20
G04G5/00 J
H04L7/00 990
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216832
(22)【出願日】2023-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基治
【テーマコード(参考)】
2F002
5K047
5K067
【Fターム(参考)】
2F002AA04
2F002AF01
2F002FA16
2F002GA06
5K047AA18
5K047GG56
5K067DD25
5K067DD30
5K067EE02
(57)【要約】
【課題】無線ネットワークに接続される同期通信装置の時刻同期を簡便に行うことができるようにする。
【解決手段】同期通信装置は、同期通信装置であって、無線ネットワークに接続される自己の同期通信装置と他の同期通信装置との間の時刻同期の要求があると、自己の同期通信装置が同期元と同期先のいずれになるのかを決定する第1の決定手段と、前記第1の決定手段の決定に応じて、自己の同期通信装置の無線モードが親機モードと子機モードのいずれになるのかを決定する第2の決定手段とを有する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期通信装置であって、
無線ネットワークに接続される自己の同期通信装置と他の同期通信装置との間の時刻同期の要求があると、自己の同期通信装置が同期元と同期先のいずれになるのかを決定する第1の決定手段と、
前記第1の決定手段の決定に応じて、自己の同期通信装置の無線モードが親機モードと子機モードのいずれになるのかを決定する第2の決定手段と
を有することを特徴とする同期通信装置。
【請求項2】
自己の同期通信装置が同期元になるように決定した場合には、同期元として同期処理を行い、自己の同期通信装置が同期先になるように決定し場合には、同期先として同期処理を行う同期処理手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の同期通信装置。
【請求項3】
前記第1の決定手段は、
自己の同期通信装置が親機モードを有していない場合には、自己の同期通信装置が同期先になるように決定し、
自己の同期通信装置が親機モードを有し、かつ、他の同期通信装置が親機モードを有しない場合には、自己の同期通信装置が同期元になるように決定し、
自己の同期通信装置と他の同期通信装置が親機モードを有する場合には、同期元が1つになるように、自己の同期通信装置が同期元と同期先のいずれになるのかを決定することを特徴とする請求項1に記載の同期通信装置。
【請求項4】
前記第1の決定手段は、自己の同期通信装置と他の同期通信装置が親機モードを有する場合には、BMCAにより、自己の同期通信装置が同期元と同期先のいずれになるのかを決定することを特徴とする請求項3に記載の同期通信装置。
【請求項5】
前記第1の決定手段は、自己の同期通信装置の情報を基に、自己の同期通信装置が同期元と同期先のいずれになるのかを決定することを特徴とする請求項1に記載の同期通信装置。
【請求項6】
前記第1の決定手段は、自己の同期通信装置のバッテリー残量を基に、自己の同期通信装置が同期元と同期先のいずれになるのかを決定することを特徴とする請求項1に記載の同期通信装置。
【請求項7】
前記第1の決定手段は、自己の同期通信装置及び他の同期通信装置のMACアドレスを基に、自己の同期通信装置が同期元と同期先のいずれになるのかを決定することを特徴とする請求項1に記載の同期通信装置。
【請求項8】
前記第2の決定手段は、自己の同期通信装置が同期元になるように決定した場合には、自己の同期通信装置の無線モードが親機モードになるように決定することを特徴とする請求項1に記載の同期通信装置。
【請求項9】
前記第2の決定手段は、自己の同期通信装置が同期先になるように決定した場合には、自己の同期通信装置の無線モードが子機モードになるように決定することを特徴とする請求項1に記載の同期通信装置。
【請求項10】
前記第2の決定手段は、自己の同期通信装置が同期元になるように決定し、かつ、自己の同期通信装置の無線モードが子機モードである場合には、自己の同期通信装置の無線モードが親機モードになるように変更することを特徴とする請求項1に記載の同期通信装置。
【請求項11】
前記第2の決定手段は、自己の同期通信装置が同期先になるように決定し、かつ、自己の同期通信装置の無線モードが親機モードである場合には、自己の同期通信装置の無線モードが子機モードになるように変更することを特徴とする請求項1に記載の同期通信装置。
【請求項12】
前記第1の決定手段の決定の前に、前記無線ネットワークに接続されている子機モードの同期通信装置の数を表示するように制御する第1の表示制御手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の同期通信装置。
【請求項13】
前記同期処理手段の同期処理の後、同期完了の旨を表示するように制御する第2の表示制御手段を有することを特徴とする請求項2に記載の同期通信装置。
【請求項14】
前記同期処理手段は、自己の同期通信装置が同期先になるように決定した場合には、同期元の同期通信装置の時刻に同期するように、自己の同期通信装置の時刻を補正することを特徴とする請求項2に記載の同期通信装置。
【請求項15】
同期通信装置の処理方法であって、
無線ネットワークに接続される自己の同期通信装置と他の同期通信装置との間の時刻同期の要求があると、自己の同期通信装置が同期元と同期先のいずれになるのかを決定する第1の決定ステップと、
前記第1の決定ステップの決定に応じて、自己の同期通信装置の無線モードが親機モードと子機モードのいずれになるのかを決定する第2の決定ステップと
を有することを特徴とする同期通信装置の処理方法。
【請求項16】
コンピュータを、請求項1~14のいずれか1項に記載された同期通信装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、同期通信装置、同期通信装置の処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラ、プリンタ、携帯電話・スマートフォンなどの電子機器に、無線通信機能が搭載されている。無線機能の普及により、有線通信機器間のみならず、無線通信機器間でもネットワークを使用して時刻同期を行うユースケースが増えている。
【0003】
特許文献1には、通信機器間の同期制御に関し、有線ネットワークを用いた同期制御と無線ネットワークを用いた同期制御の切り替えを実施する技術が開示されている。電波干渉の多い無線通信区間では、有線ネットワークを用いた同期制御を利用することにより、無線を用いた同期確立が困難な場所でも同期できる方法について記載されている。
【0004】
特許文献2には、複数の無線機器間の時刻同期を高精度に実施するための技術が開示されている。具体的には、時刻同期の同期元端末を無線通信におけるアクセスポイント(以下AP)とし、時刻同期の同期先端末をSTAとして、同期元端末に無線接続することで実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-21695号公報
【特許文献2】特開2018-88644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高精度な時刻同期を得たい場合に、以下の課題がある。特許文献1に関し、有線での時刻同期を無線での時刻同期と併用できる場合は有効であるが、無線しかネットワーク機器間で時刻同期を行う方法がない場合には、適用することができない。
【0007】
無線機器間において、時刻同期処理を行うには、まず、無線ネットワークを構築する必要がある。そして、時刻同期処理において高精度を実現するためには、時刻同期に使用する各種パケットのうち、タイムセンシティブなパケット、すなわち、パケットの送信に関して時間制約のあるパケットが安定して送信される必要がある。
【0008】
一方、無線LANネットワークにおいては、ネットワーク内に1台の無線APと、1つ以上の子機(以下STA)から構成されるインフラストラクチャネットワークが一般的である。このネットワークにおいては、すべてのAP/STAの各種パケットの通信タイミングは、APにより制御される。したがって、先のタイムセンシティブなパケットを送信する必要のある時刻同期元となる機器は、APモードで動作することが望ましい。
【0009】
特許文献2において、無線環境下での時刻同期を用いるアプリケーションを実行するユーザーは、上記を鑑みて無線の設定や、時刻同期の同期元/同期先設定を行う必要がある。
【0010】
本開示の目的は、無線ネットワークに接続される同期通信装置の時刻同期を簡便に行うことができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
同期通信装置は、同期通信装置であって、無線ネットワークに接続される自己の同期通信装置と他の同期通信装置との間の時刻同期の要求があると、自己の同期通信装置が同期元と同期先のいずれになるのかを決定する第1の決定手段と、前記第1の決定手段の決定に応じて、自己の同期通信装置の無線モードが親機モードと子機モードのいずれになるのかを決定する第2の決定手段とを有する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、無線ネットワークに接続される同期通信装置の時刻同期を簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】同期通信装置のハードウェア構成例を示す図である。
図2】同期通信装置の機能構成例を示す図である。
図3】ネットワーク構成例を示す図である。
図4】同期通信装置の処理方法を示すフローチャートである。
図5】同期無線ネットワークへの参加台数の確認を示すフローチャートである。
図6】同期元端末の決定を示すフローチャートである。
図7】同期無線ネットワークの再構築を示すフローチャートである。
図8】時刻同期処理を示すシーケンス図である。
図9】APモード時における同期処理を示すフローチャートである。
図10】STAモード時における同期処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る同期通信装置について説明する。なお、本実施形態では、同期通信装置をデジタルカメラに適用した例について説明するが、特にデジタルカメラでなくてもよい。例えば、同期通信装置は、携帯電話、パーソナルコンピュータ(PC)、ビデオカメラ、スマートウォッチ、PDAなどの他の装置であってもよい。
【0015】
図1は、第1の実施形態に係る同期通信装置101のハードウェア構成例を示すブロック図である。同期通信装置101は、制御部102と、記憶部103と、無線通信部104と、表示部105と、入力部107と、撮像部108を有する。
【0016】
制御部102は、記憶部103に記憶される制御プログラムを実行することにより、同期通信装置101の全体を制御する制御部である。後述する各動作は、記憶部103に記憶された制御プログラムを制御部102が実行することにより実現される。制御部102は、例えば、CPU(Central Processing Unit)により構成される。
【0017】
記憶部103は、制御部102が実行する制御プログラムや、撮像部108で生成された撮像データ、また、他機器と無線通信の送受信に使用される通信パケットなどが記憶される。
【0018】
無線通信部104は、IEEE802.11シリーズに準拠した無線LANなどの無線通信を行うための無線通信部である。本実施形態では、無線通信部104は、時刻同期処理を実施するに当たり、用いるIEEE802.11vに対応しているものとして説明する。
【0019】
表示部105は、各種表示を行う表示部であり、LCDやLEDのように視覚で認知可能な情報を出力する機能を備えるものである。
【0020】
アンテナ106は、無線通信部104に接続されるアンテナ部である。アンテナ106は、他機器と無線通信を行うに当たり、必要となる無線パケットの送受信を行う。
【0021】
入力部107は、ユーザーが各種入力などを行う入力部であり、同期通信装置101を操作するための操作機能を有する。
【0022】
撮像部108は、撮像を行う撮像部である。撮像部108は、後述する図2の同期処理部209により他機器と同期化された時刻情報を基に、シャッタータイミングを他機器と合わせて撮影することが可能なものとする。以上が図1の説明である。
【0023】
図2は、図1の同期通信装置101の機能構成例を示すブロック図である。同期通信装置101は、通信パラメータ制御部202と、パケット受信部203と、パケット送信部204と、データ記憶部205と、サービス制御部206と、STA機能制御部207と、AP機能制御部208と、同期処理部209を有する。図1の制御部102が記憶部103に記憶されているプログラムを実行することにより、図2の機能構成部を実現することができる。
【0024】
通信パラメータ制御部202は、端末間で通信パラメータを共有するための通信パラメータ共有処理を実行する。通信パラメータ制御部202は、AP(アクセスポイント)がSTA(ステーション)に対し、APが構築する無線ネットワークへ無線接続するための通信パラメータを提供する。APは親機の一例であり、STAは子機の一例である。
【0025】
ここで、通信パラメータには、ネットワーク識別子としてのSSID(Service Set Identifier)、暗号方式、暗号鍵、認証方式、認証鍵等の無線LAN通信を行うために必要な無線通信パラメータが含まれる。また、通信パラメータには、Wi-Fi DPPに規定されるコネクタ、MACアドレス、PSK、パスフレーズ、IP層での通信を行うためのIPアドレス、上位サービスに必要な情報やネットワークの利用用途等も含めてもよい。DPPは、Device Provisioning Protocolである。
【0026】
通信パラメータ制御部202が実行する通信パラメータ共有処理は、DPPであるとする。しかしながら、通信パラメータ制御部202が実行する通信パラメータ共有処理は、WPS(Wi-Fi Protected Setup)又はWi-Fi Directなどの他の処理であってもよい。DPPを使用する場合、コンフィグレータが提供する通信パラメータは、コンフィグレータ専用の秘密鍵によって暗号化される。なお、時刻同期以外の目的(例えば、撮像データの転送など)でも、通信パラメータ制御部202を使用した無線ネットワークの形成は行えるものとする。
【0027】
パケット受信部203及びパケット送信部204は、上位レイヤの通信プロトコルを含むあらゆるパケットの送受信を制御する。また、パケット受信部203及びパケット送信部204は、対向端末との間で、IEEE802.11規格に準拠したパケットの送信及び受信を行うために、無線通信部104を制御する。
【0028】
データ記憶部205は、プログラムそのもの、及び、通信パラメータや、認証情報などの記憶部103への書き込み及び読み出しの制御を行う。
【0029】
サービス制御部206は、アプリケーションレイヤにおけるサービス制御部である。ここでのアプリケーションレイヤとは、OSI参照モデルにおける第5層以上の上位レイヤにおけるサービス提供層のことを指す。すなわち、サービス制御部206は、無線通信部104による無線通信を用いて、撮像データの転送などを実行する。
【0030】
STA機能制御部207は、IEEE802.11規格に定められたインフラストラクチャモードにおけるSTAとして動作する機能を提供する。STA機能制御部207は、STAとして動作する際に、認証・暗号処理等を実施する。
【0031】
AP機能制御部208は、IEEE802.11規格に定められたインフラストラクチャモードにおけるAPとして動作する機能を提供する。AP機能制御部208は、無線ネットワークを形成し、STAに対する認証・暗号処理及びSTAの管理等を実施する。なお、AP機能制御部208は、無線ネットワークに接続するSTAの数をカウントする機能を有する。
【0032】
同期処理部209は、通信パラメータ制御部202によって接続した無線ネットワークを使用して、APとSTA間の時刻同期の処理を行う。
【0033】
本実施形態では、同期通信装置101は、同期元/同期先のそれぞれのモードで動作できる機能を有しているものとして説明する。なお、時刻同期のシーケンス及び処理フローは、図8図9図10で説明する。以上が図2の説明である。
【0034】
次に、同期通信装置101を適用できる通信システム300及びユースケース等について、図3を用いて説明する。
【0035】
図3(A)は、本実施形態に係る通信システム300の構成例を示す図である。通信システム300は、デジタルカメラ301、302及び303を有する。デジタルカメラ301、302及び303は、それぞれ、図1及び図2の同期通信装置101の一例であり、図1及び図2の構成を有する。
【0036】
デジタルカメラ301、302及び303は、IEEE802.11規格に定められたインフラストラクチャモードにおける無線ネットワーク304で接続されている。今、デジタルカメラ301は、APとして無線ネットワーク304を構築している。そして、デジタルカメラ302及び303は、STAとして無線ネットワーク304に参加している。ここでは、デジタルカメラの台数を3台としているが、2台又は4台以上であってもよい。
【0037】
図3(B)は、デジタルカメラ301、302及び303の時刻同期機能を説明するための図である。図3(B)では、デジタルカメラ301の時刻に、デジタルカメラ302及び303の時刻を合わせている。これにより、複数のデジタルカメラ301~303の各々で撮影を行い、その撮像データを持ち寄っても、タイムスタンプでグループ化/ソートなどが可能になる。
【0038】
図3(C)は、デジタルカメラ301~303の時刻同期機能を用いたアプリケーションを説明するための図である。図3(C)では、デジタルカメラ301のレリーズタイミングに合わせて、デジタルカメラ302及び303もレリーズするシステムを示している。全てのデジタルカメラ301~303は、被写体305に向けられているが、必ずしも被写体が同一である必要はない。
【0039】
高精度な同期処理が必要になるケースがある。例えば、複数のデジタルカメラ301~303の画像から3Dモデルを生成する場合を想定し、仮に被写体305が動体であるとすると、極力高い同期精度で撮影された画像を利用した方が3Dモデルも鮮明になるためである。以上が、同期通信装置101を適用可能な通信システム300及びユースケースの例である。
【0040】
図4は、本実施形態に係る同期通信装置101の処理方法を示すフローチャートである。図4の処理は、制御部102が記憶部103に記憶されているプログラムを実行することにより実現される。図4の処理は、大きく分けて3つのステップS401~S403に分類される。
【0041】
ステップS401では、同期通信装置101は、同期処理を行う端末群からなる無線ネットワーク(以後、同期無線ネットワーク)に参加する端末を決定する。その詳細は、図5を用いて後述する。
【0042】
ステップS402では、同期通信装置101は、同期無線ネットワークに参加した端末のうち、どの端末を同期元とするかを決定する。その詳細は、図6を用いて後述する。
【0043】
ステップS403では、同期通信装置101は、決定した内容に従って、同期無線ネットワークを再構築し、時刻同期処理を行う。その詳細は、図7を用いて後述する。以上が同期通信装置101の全体動作フローである。
【0044】
図5は、図4のステップS401の処理の詳細を示すフローチャートである。まず、ステップS501では、制御部102は、同期通信装置101の電源をオンにする。
【0045】
次に、ステップS502では、制御部102は、同期通信装置101の無線通信部104を起動する。この処理は、制御部102が自動で起動してもよいし、ユーザーからの入力部107の操作により起動してもよい。また、この時点では、無線通信部104の無線モードは、APモードとSTAモードのどちらでもよい。APモードは親機モードの一例であり、STAモードは子機モードの一例である。
【0046】
次に、ステップS503では、制御部102は、無線通信部104により、無線接続を行う。APモードとして立ち上がっていれば、制御部102は、他の同期通信装置101からの接続要求に対して、同期無線ネットワークに加入させる処理を行う。STAとして立ち上がっていれば、制御部102は、所望の同期無線ネットワークに参加する処理を行う。
【0047】
次に、ステップS504では、制御部102は、自己の同期通信装置101に対する同期処理要求が発生しているか否かを判定する。同期処理要求の発生は、2通りある。一つ目は、自己の同期通信装置101を操作しているユーザーから入力部107により同期処理要求がなされた場合である。二つ目は、同期無線ネットワークに参加している他の同期通信装置101より、同期処理要求を受信した場合である。同期処理要求が発生していない場合には、処理はステップS505に進む。同期処理要求が発生している場合には、処理はステップS506に進む。
【0048】
ステップS505では、制御部102は、同期処理要求が発生するまで待機し、ステップS504に戻る。
【0049】
ステップS506では、制御部102は、その同期処理要求がユーザー操作により発生したものである場合には、同期無線ネットワークに参加する他の同期通信装置101に対して、無線通信部104により、同期処理要求を送信する。
【0050】
ステップS507では、制御部102は、同期処理要求を受信した場合には、接続台数についてユーザーが確認を行うための画面を表示部105に表示するように制御する。その画面には、現在までに同期無線ネットワークに参加している端末数や、他の同期通信装置101の情報、具体的にはMACアドレスや、他の同期通信装置101の名称、Hostnameなどを表示するとよい。
【0051】
次に、ステップS508では、制御部102は、接続されている他の同期通信装置101の情報の更新を行い、上記の画面の表示を更新するように制御する。表示内容の取得は、後述のステップS512及びS513で説明する。
【0052】
次に、ステップS509では、制御部102は、時刻同期を行いたい同期通信装置101がすべて接続されたことの指示を受信したか否かを判定する。指示は、自己の同期通信装置101を操作するユーザーから入力部107により受信する場合もあれば、同期無線ネットワークに所属する他の同期通信装置101より受信する場合もある。指示を受信していない場合には、処理はステップS510に進む。指示を受信した場合には、ステップS401の処理が終了する。
【0053】
ステップS510では、制御部102は、指示を受信するまで待機し、ステップS508に戻り、上記の処理を繰り返す。制御部102は、指示を受信するまで、上記の画面の表示を更新する処理を行う。
【0054】
ステップS511では、制御部102は、無線通信部104の通信モードがAPモードであるか否かを判定する。通信モードがAPモードである場合には、処理はステップS512に進む。通信モードがSTAモードである場合には、処理はステップS513に進む。
【0055】
ステップS512では、制御部102は、同期無線ネットワークに接続されているSTAモードの同期通信装置101の数の確認を行い、ステップS514に進む。
【0056】
ステップS513では、制御部102は、無線通信部104により、同期無線ネットワークに接続されているSTAモードの同期通信装置101の数をAPに問い合わせ、同期無線ネットワークに接続されているSTAモードの同期通信装置101の数を受信する。その後、処理はステップS514に進む。
【0057】
ステップS514では、制御部102は、同期無線ネットワークに接続されているSTAモードの同期通信装置101の数を更新し、同期無線ネットワークに接続されているSTAモードの同期通信装置101の数を表示部105に表示するように制御する。ここでは、制御部102は、表示制御部として機能する。
【0058】
次に、ステップS515では、制御部102は、時刻同期を行いたい同期通信装置101がすべて接続されたことの指示を受信したか否かを判定する。指示を受信していない場合には、処理はステップS511に戻る。指示を受信した場合には、ステップS401の処理が終了する。以上が図5の説明である。
【0059】
図6は、図4のステップS402の処理の詳細を示すフローチャートである。まず、ステップS601では、制御部102は、自己の同期通信装置101がAP機能を有しているか否かを判定する。AP機能を有している場合には、処理はステップS602に進む。AP機能を有していない場合には、処理はステップS610に進む。
【0060】
ステップS602では、制御部102は、任意要件を満たしているか否かを判定する。任意要件とは、同期通信装置101の性質や、使用するアプリケーション等で任意に設定されてよい。例えば、同期通信装置101が、別のネットワークにも接続されており、別のネットワークから、時刻を配信してもらっているかといった時刻に伴う機能を含めてもよい。さらには、任意要件は、例えば、同期通信装置101がバッテリー動作している場合は、バッテリー残量が所定量以上残っているかなどの時刻機能と関係のないものを要件としてもよい。これにより、同期元が意図せずバッテリー切れで同期元の機能を果たせないといったことを防ぐことができる。任意要件を満たしている場合には、処理はステップS603に進む。任意要件を満たしていない場合には、処理はステップS610に進む。
【0061】
ステップS603では、制御部102は、自己の同期通信装置101が同期元として動作可能な同期通信装置101であることを決定し、無線通信部104により、自己の同期通信装置101が同期元の候補であることを他の同期通信装置101に対して送信する。
【0062】
次に、ステップS604では、制御部102は、同期無線ネットワーク内の同期通信装置101のすべてが上記の判定と判定結果の送信が完了するまで、一定期間待機する。
【0063】
次に、ステップS605では、制御部102は、同期無線ネットワーク内に同期元となりうる候補の同期通信装置101が他にするか否かを判定する。同期元の候補の同期通信装置101が自己の同期通信装置101以外に存在しない場合には、処理はステップS613に進む。同期元の候補の同期通信装置101が自己の同期通信装置101以外にも存在する場合には、どれを同期元として動作させるかの選定を行うため、処理はステップS606に進む。
【0064】
ステップS606では、制御部102は、同期元の候補の同期通信装置101がIEEE1588で規定されているかBMCA(Best MasterClock Algorism)に対応しているか否かを確認する。BMCAに関する詳細な説明は割愛するが、BMCAは、ネットワーク内の機器群から、同期元(GM:Grand Masterと表現することもある)を選ぶアルゴリズムである。
【0065】
次に、ステップS607では、制御部102は、すべての同期元の候補の同期通信装置101がIEEE1588で規定されているかBMCAに対応しているか否かを判定する。すべてがBMCAに対応している場合には、処理はステップSS611に進む。BMCAに対応していないものがある場合には、処理はステップS608に進む。
【0066】
ステップS608では、制御部102は、別の方法で同期元を選定するため、自己の同期通信装置101がシステム操作端末であるか否かを判定する。すなわち、制御部102は、自己の同期通信装置101が、ユーザーがGUIで操作している同期通信装置101であるが否かを判定する。ユーザーがGUIで操作している同期通信装置101である場合には、システム操作端末であると判定し、システム操作端末が同期元となるため、処理はステップS613に進む。ユーザーがGUIで操作している同期通信装置101でない場合には、システム操作端末でないと判定し、処理はステップS609に進む。
【0067】
ステップS609では、同期元の候補の同期通信装置101内にシステム操作端末があるか否かを判定する。システム操作端末がある場合には、システム操作端末が同期元となるため、処理はステップS610に進む。システム操作端末がない場合には、処理はステップS612に進む。
【0068】
ステップS610では、制御部102は、自己の同期通信装置101が直ちに同期先になるように決定し、ステップS402の処理が終了する。
【0069】
ステップS611では、制御部102は、1台の同期元を選定するため、BMCAにより、同期無線ネットワーク内の各々の同期通信装置101が同期元と同期先のどちらになるのを決定する。BMCAの処理は、AnnouncePacketと呼ばれるパケットの送受信により行われる。BMCAでは、時刻同期元の機能を満たす同期通信装置101が、AnnouncePacketを送信する。自己の同期通信装置101のAnnouncePacketに含まれる情報と、他の同期通信装置101のそれとを比較し、より自己の同期通信装置101の方が同期元になることに対し優先度が高い場合は、AnnouncePacket送信を継続する。他の同期通信装置101の優先度が高いと判断された場合は、AnnouncePacketの送信を停止する。これにより、最後までAnnouncePacketを送信し続けた同期通信装置101が同期元として決定される。したがって、ステップS607でYesであることが分かった同期通信装置101から、AnnouncePacketを送信し始めることで、BMCA処理は問題なく開始される。その後、ステップS402の処理が終了する。
【0070】
ステップS612では、制御部102は、同期無線ネットワーク内の同期元の候補の同期通信装置101のMACアドレスを比較して、MACアドレスの値が一番小さい同期通信装置101が同期元になるように決定する。そして、制御部102は、それ以外の同期通信装置101が同期先になるように決定する。なお、最終的に1台の同期元を決定できればよいので、制御部102は、上記の方法以外の方法で1台の同期元を決定してもよい。その後、ステップS402の処理が終了する。
【0071】
ステップS613では、制御部102は、自己の同期通信装置101が同期元になるように決定し、ステップS402の処理が終了する。
【0072】
なお、同期無線ネットワーク内に、同期元の候補の同期通信装置101が1台も存在しない場合(全ての同期通信装置101がS602でNo)がある。その場合は、任意要件を満たす同期通信装置101を手配するか、任意要件を変更してもう一度同期要求を実行するなどの措置を取ればよい。例えば、任意要件にバッテリー残量を入れているのであれば、充電を行ってから再度試みるとよい。以上が図6の説明である。
【0073】
以上のように、図6では、制御部102は、決定部として機能し、無線ネットワークに接続される自己の同期通信装置101と他の同期通信装置101との間の時刻同期の要求があると、自己の同期通信装置101が同期元と同期先のいずれになるのかを決定する。
【0074】
制御部102は、自己の同期通信装置101と他の同期通信装置101が同期元の候補である場合には、同期元が1つになるように、自己の同期通信装置101が同期元と同期先のいずれになるのかを決定する。
【0075】
ステップS602では、制御部102は、自己の同期通信装置101の情報を基に、自己の同期通信装置101が同期元と同期先のいずれになるのかを決定する。例えば、制御部102は、自己の同期通信装置101のバッテリー残量を基に、自己の同期通信装置101が同期元と同期先のいずれになるのかを決定する。
【0076】
ステップS611では、制御部102は、BMCAにより、自己の同期通信装置101が同期元と同期先のいずれになるのかを決定する。
【0077】
ステップS612では、制御部102は、自己の同期通信装置101及び他の同期通信装置101のMACアドレスを基に、自己の同期通信装置101が同期元と同期先のいずれになるのかを決定する。
【0078】
図7は、図4のステップS403の処理の詳細を示すフローチャートである。まず、ステップS701では、制御部102は、自己の同期通信装置101が同期元に決定したか否かを判定する。自己の同期通信装置101が同期元に決定した場合には、処理はステップS702に進む。自己の同期通信装置101が同期先に決定した場合には、処理はステップS707に進む。
【0079】
ステップS702では、制御部102は、無線通信部104の現在の無線モードがSTAモードであるか否かを判定する。無線モードがSTAモードである場合には、処理はステップS703に進む。無線モードがAPモードである場合には、処理はステップS704に進む。
【0080】
ステップS703では、制御部102は、無線通信部104により一度ネットワークを離脱して、APモードとして無線通信部104の再起動を実施し、ステップS704に進む。
【0081】
ステップS704では、制御部102は、同期元として同期処理を行う動作を開始する。ステップS704の処理の詳細は、図8図10で詳細に説明する。
【0082】
次に、ステップS705では、制御部102は、同期元として動作しており、同期先として同期処理を行っている他の同期通信装置101の同期状態の監視を行い、すべての同期通信装置101の同期が完了したか否かを判定する。監視の方法は、同期元が同期先の同期の状態がわかる同期方法を用いている場合は、そのままその状態を監視すればよい。同期元が同期先の同期状態がわからない方法を用いている場合は、定期的に同期先について同期状態を別途問い合わせる必要がある。同期が完了していない同期通信装置101がある場合には、処理はステップS706に進む。すべての同期通信装置101の同期が完了した場合には、処理はステップS714に進む。
【0083】
ステップS706では、制御部102は、すべての同期通信装置101の同期が完了するまで待機し、ステップS705に戻る。
【0084】
ステップS707では、制御部102は、無線通信部104の現在の無線モードがAPモードであるか否かを判定する。無線モードがAPモードである場合には、処理はステップS708に進む。無線モードがSTAモードである場合には、処理はステップS709に進む。
【0085】
ステップS708では、制御部102は、STAモードとして無線通信部104を再起動する(S708)。そして、制御部102は、無線通信部104により、自己の同期通信装置101が参加したい同期無線ネットワークを検索し、発見した場合には、発見した同期無線ネットワークに参加する。
【0086】
ステップS709では、制御部102は、無線モードを変更しないが、同期無線ネットワークのAPが変更される場合には、無線通信部104により、一度同期無線ネットワークを離脱し、再度新しいAPが構築する同期無線ネットワークに参加する。
【0087】
その後、ステップS710では、制御部102は、同期先として同期処理を行う動作を開始する。すなわち、制御部102は、同期元となる同期通信装置101が報知する時刻に対して同期する処理を開始し、ステップS712に進む。ステップS710の処理の詳細は、図8図10で詳細に説明する。
【0088】
ステップS712では、制御部102は、同期元として動作しており、同期先として同期処理を行っている他の同期通信装置101の同期状態の監視を行い、すべての同期通信装置101の同期が完了したか否かを判定する。同期が完了していない同期通信装置101がある場合には、処理はステップS712に戻る。すべての同期通信装置101の同期が完了した場合には、処理はステップS714に進む。
【0089】
ステップS711では、制御部102は、無線通信部104により、同期元の同期通信装置101に対して、同期処理完了の同期通信装置101の台数の問い合わせ行い、問い合わせ結果を受信し、ステップS713に進む。
【0090】
ステップS713では、制御部102は、すべての同期通信装置101の同期が完了したか否かを判定する。同期が完了していない同期通信装置101がある場合には、処理はステップS711に戻る。すべての同期通信装置101の同期が完了した場合には、処理はステップS714に進む。
【0091】
ステップS714では、制御部102は、表示部105の画面に同期完了の旨を表示するように制御し、ステップS403の処理が終了する。
【0092】
以上のように、ステップS703及びS708では、制御部102は、図6の同期元又は同期先の決定に応じて、自己の同期通信装置101の無線モードがAPモードとSTAモードのいずれになるのかを決定する。
【0093】
ステップS703では、制御部102は、自己の同期通信装置101が同期元になるように決定した場合には、自己の同期通信装置101の無線モードがAPモードになるように決定する。具体的には、制御部102は、自己の同期通信装置101が同期元になるように決定し、かつ、自己の同期通信装置101の無線モードがSTAモードである場合には、自己の同期通信装置101の無線モードがAPモードになるように変更する。
【0094】
ステップS708では、制御部102は、自己の同期通信装置101が同期先になるように決定した場合には、自己の同期通信装置101の無線モードがSTAモードになるように決定する。具体的には、制御部102は、自己の同期通信装置101が同期先になるように決定し、かつ、自己の同期通信装置101の無線モードがAPモードである場合には、自己の同期通信装置101の無線モードがSTAモードになるように変更する。
【0095】
次に、本実施形態における時刻同期処理のシーケンスについて一例を用いて説明する。本実施形態では、時刻同期のプロトコルに802.11vに規定されているTiming Measurement Protocol(以下、TMプロトコルとする)を使用した例について、図8を用いて説明する。以下に、TMプロトコルの手順について説明する。
【0096】
まず、ステップS801では、APは、時刻T1に、STAへActionフレームを送信する。ここで、APはAPモードの同期通信装置101であり、STAはSTAモードの同期通信装置101である。Actionフレームは、802.11シリーズで規定されている。
【0097】
ステップS802において、APは、上記のActionフレームの送信のときに、その送信の時刻T1を記憶する。
【0098】
ステップS803では、STAは、ステップS801のActionフレームを受信し、その受信の時刻T2を記憶する。
【0099】
ステップS804では、STAは、時刻T3に、ACKフレームをAPへ送信する。
【0100】
ステップS805において、STAは、APと同様に、上記のACKフレームの送信のときに、その送信の時刻T3を記憶する。
【0101】
ステップS806では、APは、ステップS804のACKフレームを受信し、その受信の時刻T4を記憶する。
【0102】
ステップS807では、APは、STAへActionフレームを送信する。このActionフレームには、T1とT4の時刻の情報が含まれている。
【0103】
ステップS808において、APは、ステップS802と同様に、上記のActionフレームの送信のときに、その送信の時刻T´1の時刻を記憶する。
【0104】
ステップS809では、STAは、Actionフレームを受信し、ステップS803と同様に、その受信の時刻T´2を記憶する。
【0105】
ステップS810では、STAは、APにACKを送信する。
【0106】
ステップS811において、STAは、ステップS805と同様に、上記のACKの送信のときに、その送信の時刻T´3を記憶する。
【0107】
ステップS812では、APは、ステップS810のACKフレームを受信し、その受信の時刻T´4を記憶する。
【0108】
図8には記載していないが、次にAPがActionフレームを送信する際は、T´1とT´4の時刻を含める。このような処理を定期的に繰り返すことで、STAは、時刻T1~T4(又はT´1~T´4)を取得できる。STAとAPとの間の遅延時間Tdは、往復で対称であると仮定すると、式(1)により求められる。
【0109】
Td=((T4-T1)-(T3-T2))/2 ・・・(1)
【0110】
また、STAとAPとの間の時刻のずれToは、式(2)により求められる。
【0111】
To=T2-(T1+Td) ・・・(2)
【0112】
STAは、自身のシステム時刻にToを加算することにより、APとの時刻同期を実現できる。なお、TMプロトコルでのT1~T4の時刻は32ビットであり、1ビットは10ナノ秒で定義されている。したがって、システム時刻(例えば、POSIX時間のように1970年1月1日00:00:00以降の経過秒数をカウントして表現する時刻表現)を用いた同期を行うには、情報ビットが足りない。そのため、Actionフレーム送信時には、Vendor Specific ID領域にシステム時刻(例えば、64ビットであり、1ビットは10ナノ秒)を追加することで、システム時刻の同期を実現する。
【0113】
システム時刻の同期方法は、以下の2つがあげられる。まず、1つ目の方法(以下、パターンAとする)は、S802、S803、S805、S806において、32ビットの時刻だけでなくシステム時刻を記憶し、S807でシステム時刻(T1のときのシステム時刻とT4のときのシステム時刻)も送信する。STAは、式(1)及び(2)の時刻T1~T4をそれぞれのシステム時刻で置き換えれば、同様の方法により、システム時刻の同期を実現できる。もちろん、TMプロトコル準拠のために、S807において32ビットの時刻も同時に送るように実装してもよい。システム時刻の取得は、S802、S803、S805、S806だけでなく、S808以降も行う。
【0114】
2つ目の方法(以下、パターンBとする)は、S802で時刻T1とそのときのシステム時刻(Ts1とする)を記憶し、S807で時刻T1とT4とTs1を送信する。STAは、式(1)及び(2)により、遅延時間TdとToを求めた後、以下の式(3)により、新しいシステム時刻Tnewを計算する。STAは、式(3)で得られたシステム時刻Tnewを適用することで、APと時刻同期が可能となる。
【0115】
Tnew=Ts1+To ・・・(3)
【0116】
STAは、システム時刻Tnewを適用することで、同期元のAPの時刻に同期するように、自己の同期通信装置101の時刻を補正する。
【0117】
また、STAは、時刻同期と並行して、APのクロック周波数に合わせるために、自身(STA)のクロック周波数の調整をしてもよい。その計算の式(4)は、以下である。
【0118】
Fratio=(T´1-T1)/(T´2-T2) ・・・(4)
【0119】
式(4)が1を下回る場合は、STAのクロック周波数がAPのクロック周波数よりも高いことを表すので、STAは、自身のクロック周波数が遅くなるように調整する。同様に、式(4)が1を上回る場合は、STAは、自身のクロック周波数が早くなるように調整する。
【0120】
なお、TMプロトコルは、通常、ステップS801のActionフレームを送信する前に、TMプロトコルに対応しているかどうかを同期通信装置101間で確認する。本実施形態では、APとSTAは、TMプロトコルに対応していることを前提とした実装なので、確認処理を省略しているが、その手順を行ってから、図8のシーケンスを開始してもよい。
【0121】
また、時刻同期のプロトコルは、TMプロトコルに限らず、例えばNetwork Time Protocol(NTP)や、Precision Time Protocol(PTP)であってもよい。時刻同期にTMプロトコル以外を使用する場合であっても、APの時刻にSTAが合わせるものとする。
【0122】
図9は、図8の時刻同期シーケンスにおけるAPの動作を示すフローチャートである。まず、ステップS901では、APは、STAへ時刻同期のActionフレームを送信し、そのときの送信時刻を記憶する。なお、APは、32ビットの送信時刻だけでなく、システム時刻(64ビット)も記憶する。
【0123】
次に、ステップS902では、APは、Actionフレームを受信したSTAからのACKを受信するまで待ち、ACKを受信した場合には、受信時刻の記憶を行う。APは、前述しているパターンAを実装している場合、システム時刻の記憶もこのときに行う。
【0124】
次に、ステップS903では、APは、Actionフレームの送信時刻とACKの受信時刻が含まれるActionフレームをSTAへ送信し、そのActionフレームの送信時刻の記憶を行う。APは、ステップS901と同様に、そのときの送信時刻(32ビットの時刻とシステム時刻)を記憶する。
【0125】
次に、ステップS904では、APは、Actionフレームを受信したSTAからのACKを受信するまで待ち、ACKを受信した場合には、受信時の受信時刻を記憶する。APは、ステップS902と同様に、前述しているパターンAを実装している場合、システム時刻の記憶もこのときに行う。
【0126】
次に、ステップS905では、APは、STAからの終了要求を受信したか否かを判定する。終了要求を受信していない場合には、処理はステップS903に戻る。終了要求を受信した場合には、処理はステップS906に進む。
【0127】
なお、ステップS905の終了要求は、TM Request Frame(詳細は802.11v参照)のトリガーフィールドが「0」にセットされたものにより、判定してもよい。また、終了要求は、STAのネットワーク切断要求(例えば、DeauthenticationフレームやDisassociationフレーム)であってもよいし、その他のフレームで終了要求であると判定してもよい。
【0128】
ステップS906では、APは、終了要求に対するACKをSTAへ送信し、図9のフローチャートの処理が終了する。
【0129】
図10は、図8の時刻同期シーケンスにおけるSTAの動作を示すフローチャートである。まず、ステップS1001では、STAは、APからのActionフレームを受信するまで待ち、Actionフレームを受信した場合には、受信時の受信時刻を記憶する。
【0130】
次に、ステップS1002では、STAは、Actionフレームを受信したことを示すACKをAPへ送信し、送信時刻の記憶を行う。STAは、パターンAの場合は、送信時刻と受信時刻を記憶するときに、それぞれのシステム時刻も記憶する。
【0131】
次に、ステップS1003では、STAは、自身が記憶したActionフレームの受信時刻とACKの送信時刻と、ステップS1001で受信したActionフレーム内にあるActionフレーム送信時刻とACK受信時刻を用いて、TdとToの計算を行う。遅延時間Tdは、式(1)により計算される。時刻のずれToは、式(2)により計算される。
【0132】
なお、最初に受信するActionフレーム内には、有効な送信時間と受信時間が含まれていないため、正しく計算はできない。したがって、最初のみ、STAは、ステップS1003をスキップする実装であってもよい。
【0133】
次に、ステップS1004では、STAは、時刻同期の終了条件を満たすか否かを判定する。終了条件を満たさない場合には、処理はステップS1001に戻る。終了条件を満たす場合には、処理はステップS1005に進む。
【0134】
ステップS1005では、STAは、遅延時間Tdと時刻のずれToを用いて、自身(STA)のシステム時刻を補正し、図10のフローチャートの処理が終了する。
【0135】
終了条件として、例えばTdとToの計算回数、計算結果の統計処理による遅延時間Tdの収束性の確認などが挙げられる。また、ステップS1005で補正時に使用する値は、各計算結果の平均値や統計値を用いてもよい。
【0136】
以上の説明により、APとSTAは、時刻同期を実現できる。以上が、IEEE802.11vを用いた時刻同期処理方法の一例である。
【0137】
本実施形態によれば、無線で接続された複数の同期通信装置101間で時刻同期が必要となる同期アプリケーションを実行したいユーザーにおいて、特別な知識がなくても、高精度な時刻同期の実現可能な無線ネットワークを構築することができる。
【0138】
(第2の実施形態)
第1の実施形態において、図4のステップS401において、同期通信装置101は、すべての同期処理を行う同期通信装置101と通信が可能な状態になっている。新たにS403内のS703で、時刻同期のための無線ネットワークを構築するにあたり、ネットワークID(以下、BSSID)を変更する場合は、S401の終了前に新しいBSSIDや接続のためのパスワードを共有するとよい。BSSIDを共有することにより、無線ネットワークを再構築する際に、BSSIDをステルスにすることができる。このことは、同期精度に影響を与えかねない高トラフィックを要求する機器の無線ネットワーク参加を抑止するなどの効果が期待できる。
【0139】
無線を用いた時刻同期処理の例として第1の実施形態では、IEEE802.11vを使用した例について説明した。しかし、時刻同期を行うにあたり、必ずしもIEEE802.11vに対応している必要はない。時刻同期を行うにあたり、必要なことは、時刻同期元の時刻を時刻同期先が正しく取得することである。そのために、無線区間の伝送遅延を適切に見積れる方法があれば、事前にその値を適用し、時刻同期元が時刻を報知された時刻と伝送遅延時間を考慮して扱えばよい。
【0140】
また、時刻同期元が無線帯域を予約した状態で時刻を報知できれば、無線区間の伝送遅延の影響を小さくすることができ、必ずしもIEEE802.11vに対応していなくても良好な同期精度を得られる。
【0141】
(その他の実施形態)
本開示は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0142】
なお、上述の実施形態は、何れも本開示を実施するにあたっての具体例を示したものに過ぎず、これらによって本開示の技術的範囲が限定的に解釈されない。すなわち、本開示はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0143】
本実施形態の開示は、以下の構成、方法及びプログラムを含む。
(構成1)
同期通信装置であって、
無線ネットワークに接続される自己の同期通信装置と他の同期通信装置との間の時刻同期の要求があると、自己の同期通信装置が同期元と同期先のいずれになるのかを決定する第1の決定手段と、
前記第1の決定手段の決定に応じて、自己の同期通信装置の無線モードが親機モードと子機モードのいずれになるのかを決定する第2の決定手段と
を有することを特徴とする同期通信装置。
(構成2)
自己の同期通信装置が同期元になるように決定した場合には、同期元として同期処理を行い、自己の同期通信装置が同期先になるように決定し場合には、同期先として同期処理を行う同期処理手段をさらに有することを特徴とする構成1に記載の同期通信装置。
(構成3)
前記第1の決定手段は、
自己の同期通信装置が親機モードを有していない場合には、自己の同期通信装置が同期先になるように決定し、
自己の同期通信装置が親機モードを有し、かつ、他の同期通信装置が親機モードを有しない場合には、自己の同期通信装置が同期元になるように決定し、
自己の同期通信装置と他の同期通信装置が親機モードを有する場合には、同期元が1つになるように、自己の同期通信装置が同期元と同期先のいずれになるのかを決定することを特徴とする構成1又は2に記載の同期通信装置。
(構成4)
前記第1の決定手段は、自己の同期通信装置と他の同期通信装置が親機モードを有する場合には、BMCAにより、自己の同期通信装置が同期元と同期先のいずれになるのかを決定することを特徴とする構成3に記載の同期通信装置。
(構成5)
前記第1の決定手段は、自己の同期通信装置の情報を基に、自己の同期通信装置が同期元と同期先のいずれになるのかを決定することを特徴とする構成1~4のいずれか1項に記載の同期通信装置。
(構成6)
前記第1の決定手段は、自己の同期通信装置のバッテリー残量を基に、自己の同期通信装置が同期元と同期先のいずれになるのかを決定することを特徴とする構成1~5のいずれか1項に記載の同期通信装置。
(構成7)
前記第1の決定手段は、自己の同期通信装置及び他の同期通信装置のMACアドレスを基に、自己の同期通信装置が同期元と同期先のいずれになるのかを決定することを特徴とする構成1~6のいずれか1項に記載の同期通信装置。
(構成8)
前記第2の決定手段は、自己の同期通信装置が同期元になるように決定した場合には、自己の同期通信装置の無線モードが親機モードになるように決定することを特徴とする構成1~7のいずれか1項に記載の同期通信装置。
(構成9)
前記第2の決定手段は、自己の同期通信装置が同期先になるように決定した場合には、自己の同期通信装置の無線モードが子機モードになるように決定することを特徴とする構成1~8のいずれか1項に記載の同期通信装置。
(構成10)
前記第2の決定手段は、自己の同期通信装置が同期元になるように決定し、かつ、自己の同期通信装置の無線モードが子機モードである場合には、自己の同期通信装置の無線モードが親機モードになるように変更することを特徴とする構成1~9のいずれか1項に記載の同期通信装置。
(構成11)
前記第2の決定手段は、自己の同期通信装置が同期先になるように決定し、かつ、自己の同期通信装置の無線モードが親機モードである場合には、自己の同期通信装置の無線モードが子機モードになるように変更することを特徴とする構成1~10のいずれか1項に記載の同期通信装置。
(構成12)
前記第1の決定手段の決定の前に、前記無線ネットワークに接続されている子機モードの同期通信装置の数を表示するように制御する第1の表示制御手段をさらに有することを特徴とする構成1~11のいずれか1項に記載の同期通信装置。
(構成13)
前記同期処理手段の同期処理の後、同期完了の旨を表示するように制御する第2の表示制御手段を有することを特徴とする構成2に記載の同期通信装置。
(構成14)
前記同期処理手段は、自己の同期通信装置が同期先になるように決定した場合には、同期元の同期通信装置の時刻に同期するように、自己の同期通信装置の時刻を補正することを特徴とする構成2又は13に記載の同期通信装置。
(方法1)
同期通信装置の処理方法であって、
無線ネットワークに接続される自己の同期通信装置と他の同期通信装置との間の時刻同期の要求があると、自己の同期通信装置が同期元と同期先のいずれになるのかを決定する第1の決定ステップと、
前記第1の決定ステップの決定に応じて、自己の同期通信装置の無線モードが親機モードと子機モードのいずれになるのかを決定する第2の決定ステップと
を有することを特徴とする同期通信装置の処理方法。
(プログラム1)
コンピュータを、構成1~14のいずれか1項に記載された同期通信装置として機能させるためのプログラム。
【符号の説明】
【0144】
101 同期通信装置、202 通信パラメータ制御部、203 パケット受信部、204 パケット送信部、205 データ記憶部、206 サービス制御部、207 STA機能制御部、208 AP機能制御部、209 同期処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10