(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099872
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】積層造形装置の制御方法、積層造形装置の制御装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20250626BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/095 510D
B23K9/095 501G
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216840
(22)【出願日】2023-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
(72)【発明者】
【氏名】吉川 旭則
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 瑛介
(72)【発明者】
【氏名】陳 朱耀
(72)【発明者】
【氏名】佐野 萌
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕志
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(57)【要約】
【課題】複数の溶接ビードがギャップを形成する造形物を造形する際に、ギャップの幅を適正な範囲に収めることにある。
【解決手段】溶接トーチにより溶接ビードを積層して造形物を造形する積層造形装置の制御方法であって、造形物を造形する工程に関する積層計画から、複数の溶接ビードが形成するギャップの幅の計画値を取得するステップと、積層計画に基づいて積層された複数の溶接ビードにそれぞれ対応する複数の形状プロファイルを計測するステップと、複数の形状プロファイルに基づいて、ギャップの幅の実績値を導出するステップと、ギャップの幅の計画値とギャップの幅の実績値とのずれ量が小さくなるように、複数の溶接ビードの積層条件を補正するステップとを含む、積層造形装置の制御方法。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチにより溶接ビードを積層して造形物を造形する積層造形装置の制御方法であって、
前記造形物を造形する工程に関する積層計画から、複数の溶接ビードが形成するギャップの幅の計画値を取得するステップと、
前記積層計画に基づいて積層された前記複数の溶接ビードにそれぞれ対応する複数の形状プロファイルを計測するステップと、
前記複数の形状プロファイルに基づいて、前記ギャップの幅の実績値を導出するステップと、
前記ギャップの幅の計画値と前記ギャップの幅の実績値とのずれ量が小さくなるように、前記複数の溶接ビードの積層条件を補正するステップと
を含む、積層造形装置の制御方法。
【請求項2】
前記導出するステップでは、前記複数の形状プロファイルの各形状プロファイルの特定位置間の距離を、前記ギャップの幅の実績値として導出する、請求項1に記載の積層造形装置の制御方法。
【請求項3】
前記特定位置は、前記複数の形状プロファイルの各形状プロファイルの前記ギャップの方向に突出した先端位置である、請求項2に記載の積層造形装置の制御方法。
【請求項4】
前記導出するステップでは、前記複数の形状プロファイルの各形状プロファイルの特定位置から、前記複数の溶接ビードの各溶接ビードの前記ギャップの方向に突出した先端位置を推定し、当該先端位置間の距離を、前記ギャップの幅の実績値として導出する、請求項1に記載の積層造形装置の制御方法。
【請求項5】
前記特定位置は、前記複数の形状プロファイルの各形状プロファイルの前記ギャップの方向に突出した先端位置である、請求項4に記載の積層造形装置の制御方法。
【請求項6】
前記補正するステップでは、前記積層条件の標準の設定値に前記ずれ量に応じた比例項、微分項及び積分項の少なくとも何れか1つが加算された補正式を用いて、当該積層条件を補正する、請求項1に記載の積層造形装置の制御方法。
【請求項7】
前記補正するステップでは、積層の進行に応じて、前記積層条件の標準の設定値に前記積分項が加算されていない前記補正式を、前記積層条件の標準の設定値に前記積分項が加算された前記補正式に切り換える、請求項6に記載の積層造形装置の制御方法。
【請求項8】
前記補正するステップでは、次層の前記複数の溶接ビードの各溶接ビードを積層する際の狙い位置の計画値を、前記複数の形状プロファイルの各形状プロファイルの特定位置に補正する、請求項1に記載の積層造形装置の制御方法。
【請求項9】
前記特定位置は、前記狙い位置の計画値を積層方向に延伸して前記各形状プロファイルと交差した位置である、請求項8に記載の積層造形装置の制御方法。
【請求項10】
前記補正するステップでは、積層の進行に応じて、前記積層条件を補正する補正方法を第1補正方法から第2補正方法に切り替え、
前記第1補正方法は、前記複数の溶接ビードの各溶接ビードの積層方向の成長量の計画値と、前記形状プロファイルに基づいて導出された当該成長量の実績値とのずれ量が小さくなるように、前記積層条件を補正する方法であり、
前記第2補正方法は、前記ギャップの幅の計画値と前記ギャップの幅の実績値とのずれ量が小さくなるように、前記積層条件を補正する方法である、請求項1に記載の積層造形装置の制御方法。
【請求項11】
溶接トーチにより溶接ビードを積層して造形物を造形する積層造形装置の制御装置であって、
前記造形物を造形する工程に関する積層計画から、複数の溶接ビードが形成するギャップの幅の計画値を取得する取得部と、
前記積層計画に基づいて積層された前記複数の溶接ビードにそれぞれ対応する複数の形状プロファイルを計測する計測部と、
前記複数の形状プロファイルに基づいて、前記ギャップの幅の実績値を導出する導出部と、
前記ギャップの幅の計画値と前記ギャップの幅の実績値とのずれ量が小さくなるように、前記複数の溶接ビードの積層条件を補正する補正部と
を備える、積層造形装置の制御装置。
【請求項12】
溶接トーチにより溶接ビードを積層して造形物を造形する積層造形装置の制御装置に、
前記造形物を造形する工程に関する積層計画から、複数の溶接ビードが形成するギャップの幅の計画値を取得する機能と、
前記積層計画に基づいて積層された前記複数の溶接ビードにそれぞれ対応する複数の形状プロファイルを計測する機能と、
前記複数の形状プロファイルに基づいて、前記ギャップの幅の実績値を導出する機能と、
前記ギャップの幅の計画値と前記ギャップの幅の実績値とのずれ量が小さくなるように、前記複数の溶接ビードの積層条件を補正する機能と
を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形装置の制御方法、積層造形装置の制御装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、光学式センサやアーク電圧等による開先情報検出手段に溶接ビード幅を検出させてその結果を記憶し、溶接ビード幅を基に溶接条件を制御する第1の制御手段と、溶接中のアーク電圧を検出して記憶し、アーク電圧若しくは予め決めた基準電圧との差電圧を基に溶接条件を制御する第2の制御手段を具備し所定のビード積層高さとなるように溶接条件を制御するように構成する自動多層盛溶接装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数の溶接ビードがギャップを形成する造形物を造形する際に、溶接ビードの積層高さの観点からのみ積層条件を補正する構成を採用したのでは、ギャップの幅を適正な範囲に収めることができない。
【0005】
本発明の目的は、複数の溶接ビードがギャップを形成する造形物を造形する際に、ギャップの幅を適正な範囲に収めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、本発明は、溶接トーチにより溶接ビードを積層して造形物を造形する積層造形装置の制御方法であって、造形物を造形する工程に関する積層計画から、複数の溶接ビードが形成するギャップの幅の計画値を取得するステップと、積層計画に基づいて積層された複数の溶接ビードにそれぞれ対応する複数の形状プロファイルを計測するステップと、複数の形状プロファイルに基づいて、ギャップの幅の実績値を導出するステップと、ギャップの幅の計画値とギャップの幅の実績値とのずれ量が小さくなるように、複数の溶接ビードの積層条件を補正するステップとを含む、積層造形装置の制御方法を提供する。
導出するステップでは、複数の形状プロファイルの各形状プロファイルの特定位置間の距離を、ギャップの幅の実績値として導出してよい。その場合、特定位置は、複数の形状プロファイルの各形状プロファイルのギャップの方向に突出した先端位置であってよい。
導出するステップでは、複数の形状プロファイルの各形状プロファイルの特定位置から、複数の溶接ビードの各溶接ビードのギャップの方向に突出した先端位置を推定し、先端位置間の距離を、ギャップの幅の実績値として導出してよい。その場合、特定位置は、複数の形状プロファイルの各形状プロファイルのギャップの方向に突出した先端位置であってよい。
補正するステップでは、積層条件の標準の設定値にずれ量に応じた比例項、微分項及び積分項の少なくとも何れか1つが加算された補正式を用いて、積層条件を補正してよい。その場合、補正するステップでは、積層の進行に応じて、積層条件の標準の設定値に積分項が加算されていない補正式を、積層条件の標準の設定値に積分項が加算された補正式に切り換えてよい。
補正するステップでは、次層の複数の溶接ビードの各溶接ビードを積層する際の狙い位置の計画値を、複数の形状プロファイルの各形状プロファイルの特定位置に補正してよい。その場合、特定位置は、狙い位置の計画値を積層方向に延伸して各形状プロファイルと交差した位置であってよい。
補正するステップでは、積層の進行に応じて、積層条件を補正する補正方法を第1補正方法から第2補正方法に切り替えてよい。そして、第1補正方法は、複数の溶接ビードの各溶接ビードの積層方向の成長量の計画値と、形状プロファイルに基づいて導出された成長量の実績値とのずれ量が小さくなるように、積層条件を補正する方法であってよい。また、第2補正方法は、ギャップの幅の計画値とギャップの幅の実績値とのずれ量が小さくなるように、積層条件を補正する方法であってよい。
【0007】
また、本発明は、溶接トーチにより溶接ビードを積層して造形物を造形する積層造形装置の制御装置であって、造形物を造形する工程に関する積層計画から、複数の溶接ビードが形成するギャップの幅の計画値を取得する取得部と、積層計画に基づいて積層された複数の溶接ビードにそれぞれ対応する複数の形状プロファイルを計測する計測部と、複数の形状プロファイルに基づいて、ギャップの幅の実績値を導出する導出部と、ギャップの幅の計画値とギャップの幅の実績値とのずれ量が小さくなるように、複数の溶接ビードの積層条件を補正する補正部とを備える、積層造形装置の制御装置も提供する。
【0008】
更に、本発明は、溶接トーチにより溶接ビードを積層して造形物を造形する積層造形装置の制御装置に、造形物を造形する工程に関する積層計画から、複数の溶接ビードが形成するギャップの幅の計画値を取得する機能と、積層計画に基づいて積層された複数の溶接ビードにそれぞれ対応する複数の形状プロファイルを計測する機能と、複数の形状プロファイルに基づいて、ギャップの幅の実績値を導出する機能と、ギャップの幅の計画値とギャップの幅の実績値とのずれ量が小さくなるように、複数の溶接ビードの積層条件を補正する機能とを実現させるためのプログラムも提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の溶接ビードがギャップを形成する造形物を造形する際に、ギャップの幅を適正な範囲に収めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施の形態における金属積層造形システムの概略構成例を示す図である。
【
図2】本実施の形態における制御装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図3】第1の実施の形態における制御装置による制御の概要を示す図である。
【
図4】第1の実施の形態における積層計画装置の機能構成例を示す図である。
【
図5】第1の実施の形態における制御装置の機能構成例を示す図である。
【
図6】制御装置の形状プロファイル受信部が受信する形状プロファイルの一例を示す図である。
【
図7】制御装置のギャップ幅導出部によるギャップ幅及び狙い位置の導出方法を示す図である。
【
図8】第1の実施の形態における積層計画装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図9】第1の実施の形態における制御装置が実行する造形制御処理の内容を示すフローチャートである。
【
図10】第2の実施の形態における制御装置による他の制御の概要を示す図である。
【
図11】第2の実施の形態における制御装置の機能構成例を示す図である。
【
図12】第2の実施の形態における制御装置が実行する造形制御処理の内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
[金属積層造形システムの構成]
図1は、本実施の形態における金属積層造形システム1の概略構成例を示す図である。
図示するように、金属積層造形システム1は、溶接ロボット(マニピュレータ)10と、CAD装置20と、積層計画装置30と、制御装置50とを備える。また、積層計画装置30は、溶接ロボット10を制御する制御プログラムを、例えばメモリカード等のリムーバブルな記録媒体70に書き込み、制御装置50は、記録媒体70に書き込まれた制御プログラムを読み出すことができるようになっている。
【0013】
溶接ロボット10は、複数の関節を有する腕(アーム)11を備え、制御装置50が読み込んだ制御プログラムに従って動作することで溶接作業を行う。また、溶接ロボット10は、腕11の先端に手首部12を介して、積層造形物100を造形するための溶接トーチ13を有している。そして、金属積層造形システム1の場合、溶接ロボット10は、軟鋼製の溶加材(ワイヤ)14を溶融しながら、溶接トーチ13を移動させて、積層造形物100を製造する。具体的には、溶接トーチ13は、溶加材14を供給しつつ、シールドガスを流しながらアークを発生させて溶加材14を溶融及び固化し、母材90上に複数層の溶接ビード(以下、単に「ビード」という)を積層して積層造形物100を製造する。尚、ここでは、溶加材14を溶融する熱源としてアークを用いるが、レーザやプラズマを用いてもよい。また、溶接ロボット10は、この他に、溶加材14を送給する送給装置等も含むが、これについては説明を省略する。溶接ロボット10は、溶接トーチにより溶接ビードを積層して造形物を造形する積層造形装置の一例である。
【0014】
また、溶接ロボット10は、腕11の先端に形状計測器15を備える。形状計測器15は、溶接ロボット10により積層途中の積層造形物100が有する形状を計測する。形状計測器15は、積層造形物100の断面の形状プロファイルを取得できるものが好ましい。このような形状計測器15としては、例えば、照射したレーザ光の反射光強度に基づいて断面の形状プロファイルを取得する形状計測センサ等を利用することができる。或いは、形状計測器15としては、これに限らず三次元の形状を計測できるものを利用してもよいが、以下では、照射したレーザ光の反射光強度に基づいて断面の形状プロファイルを取得するものを利用するものとして説明する。
【0015】
CAD装置20は、コンピュータを用いて造形物の設計を行うと共に、設計によって得られた三次元データ(以下、「三次元CADデータ」という)を保持する機能を有している。
【0016】
積層計画装置30は、CAD装置20が保持する三次元CADデータに基づいて積層造形物100の積層計画を作成する。つまり、積層計画装置30は、溶接トーチ13の軌道を決定すると共に、溶接ロボット10が溶接する際の溶接条件を決定する。そして、積層計画装置30は、この決定した軌道に沿って決定した溶接条件でビードを形成するように溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成し、この制御プログラムを記録媒体70に出力する。
【0017】
制御装置50は、記録媒体70から制御プログラムを読み込んで保持する。そして、制御装置50は、この制御プログラムを動作させることにより、積層計画装置30で作成された積層計画に従って、つまり、積層計画装置30で決定された軌道に沿って、積層計画装置30で決定された溶接条件でビードを形成するよう、溶接ロボット10を制御する。制御装置50は、積層造形装置の制御装置の一例である。
【0018】
[制御装置のハードウェア構成]
図2は、制御装置50のハードウェア構成例を示す図である。
図示するように、制御装置50は、例えば汎用のPC(Personal Computer)等により実現され、演算手段であるCPU51と、記憶手段であるメインメモリ52及び磁気ディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)53とを備える。ここで、CPU51は、OS(Operating System)やアプリケーションソフトウェア等の各種プログラムを実行し、制御装置50の各機能を実現する。また、メインメモリ52は、各種プログラムやその実行に用いるデータ等を記憶する記憶領域であり、HDD53は、各種プログラムに対する入力データや各種プログラムからの出力データ等を記憶する記憶領域である。
また、制御装置50は、外部との通信を行うための通信I/F54と、ビデオメモリやディスプレイ等からなる表示機構55と、キーボードやマウス等の入力デバイス56と、記録媒体70に対してデータの読み書きを行うためのドライバ57とを備える。尚、
図2は、制御装置50をコンピュータシステムにて実現した場合のハードウェア構成を例示するに過ぎず、制御装置50は図示の構成に限定されない。
【0019】
また、
図2に示したハードウェア構成は、積層計画装置30のハードウェア構成としても捉えられる。但し、積層計画装置30について述べるときは、
図2のCPU51、メインメモリ52、磁気ディスク装置53、通信I/F54、表示機構55、入力デバイス56、ドライバ57をそれぞれ、CPU31、メインメモリ32、磁気ディスク装置33、通信I/F34、表示機構35、入力デバイス36、ドライバ37と表記するものとする。
【0020】
[本実施の形態の背景及び概要]
金属積層造形システム1では、積層計画装置30が作成した積層計画に基づいて積層溶接を行うよう、制御装置50が溶接ロボット10を制御する。しかしながら、このように積層計画に基づき積層溶接を実施したとしても、溶接電源や装置の個体差、溶加材14のロットによる微妙な直径差等から、積層される溶着量は毎回一定ではなく、計画からずれる。例えば、空洞を有する流路を左右から積層造形して左右の積層造形物100を形成し、最後にこの左右の積層造形物100を閉合して完成させる場合を考える。この場合、左右の積層造形物100の間のギャップ幅が基準範囲を超えると、溶け落ちが発生したり、裏波が出ず溶け込み不足となったりして、強度不足となる等、問題が多々発生する。
【0021】
本実施の形態では、左右対称にビードを積層して造形する空洞形状を有する流路等の積層造形物100について、最終溶接にて裏波を有する閉合溶接を欠陥なく安定的に行うために、ギャップ幅を目標数値範囲に収まるよう制御する。
【0022】
尚、本実施の形態では、積層造形物100の積層として、円形のアーチ形状の断面を持つ流路の積層を例に説明するが、これには限らない。本実施の形態は、角管等の他の断面形状を持つものや、構造物中の形状に間隔の指定があるもの等の積層に広く適用可能である。つまり、本実施の形態は、2つの独立したビードがギャップを形成する積層造形物100に適用可能である。或いは、独立したビードは2つでなくてもよく、本実施の形態は、複数の独立したビードがギャップを形成する積層造形物100に適用可能と言うこともできる。尚、以下では、積層造形物100がn層からなるものとして説明する。
【0023】
[第1の実施の形態]
(概要)
図3は、第1の実施の形態における制御装置50による制御の概要を示す図である。
図示するように、まず、制御装置50は、積層計画装置30から取得した制御プログラムを溶接ロボット10に実行させ、溶接トーチ13により流路の第1層を造形する(S11)。
【0024】
次に、制御装置50は、形状計測器15により流路の第1層の断面の形状を計測し、断面の形状の計測結果である形状プロファイルを取得する(S12)。
次に、制御装置50は、S12で取得した形状プロファイルから、指定部位のギャップ幅と次層の狙い位置とを導出する(S13)。
次に、制御装置50は、ギャップ幅及び狙い位置について、計画値とS13で導出した値とを比較し、比較結果に基づいて積層条件及び狙い位置を補正する(S14)。
次に、制御装置50は、S14で補正した積層条件及び狙い位置に基づいて、制御プログラムを更新する(S15)。
【0025】
その後、制御装置50は、S11~S15を、第2層から第n層まで繰り返す(S16)。その際、制御装置50は、S11において、S15で更新された制御プログラムを溶接ロボット10に実行させる。また、図では便宜上S12~S15を第n層についても実行するように示したが、流路の第n層を造形した後は閉合するので、厳密にはS12~S15を第n層については実行しなくてよい。
【0026】
そして、最後に、制御装置50は、ギャップを閉合するための閉合ビードの積層を溶接ロボット10に実行させ、溶接トーチ13により閉合ビードを積層する(S17)。
【0027】
(積層計画装置の機能構成)
図4は、第1の実施の形態における積層計画装置30の機能構成例を示す図である。図示するように、第1の実施の形態における積層計画装置30は、CADデータ取得部41と、CADデータ分割部42と、積層計画生成部43と、積層計画出力部44とを備える。
【0028】
CADデータ取得部41は、CAD装置20から、積層造形物100の三次元形状を表す三次元CADデータを取得する。
CADデータ分割部42は、CADデータ取得部41が取得した三次元CADデータを複数の層に分割(スライス)することで、各層の形状をそれぞれが表す複数の層形状データを生成する。その際、CADデータ分割部42は、三次元CADデータを複数の層に分割し易い内部形式に変換してもよい。
【0029】
積層計画生成部43は、CADデータ分割部42が生成した複数の層形状データの各層の高さ及び幅に合ったビードを溶着する際の溶接条件や狙い位置を含む積層計画を生成する。このような積層計画を生成するには、ビードの高さや幅の他、ビードの断面形状を近似するモデルが必要である。これらは測定実験の実測値や、溶着金属量の断面積から計算して推定したものでもよい。本実施の形態では、溶接速度やワイヤ送給速度を数条件振って溶着量を変えつつ、ビードオンプレート溶接や鉛直に数層の積層を行い、各々の条件にて1層当たりの高さや幅を測定した結果をデータベース化する。そして、積層する際に積層する所望の高さや幅を満たす溶接速度と溶着量を選択し、測定した結果から各層の推定形状を随時計算し、狙い位置を決める。尚、溶着断面の計算は溶加材14の材質や、既に積層した部位の形状の状態によって計算方法を変えるようにしてもよい。この計算方法によって造形物を内包する積層を計画していく。
【0030】
積層計画出力部44は、積層計画生成部43が生成した積層計画を記録媒体70に出力する。
【0031】
(制御装置の機能構成)
図5は、第1の実施の形態における制御装置50の機能構成例を示す図である。図示するように、第1の実施の形態における制御装置50は、積層計画取得部61と、制御プログラム記憶部62と、制御プログラム実行部63と、計画値記憶部64と、形状プロファイル受信部65と、ギャップ幅導出部66と、積層条件補正部68と、制御プログラム更新部69とを備える。
【0032】
積層計画取得部61は、記録媒体70に記録された積層計画を取得する。
ここで、積層計画とは、溶接ロボット10を制御する制御プログラムを含むものであってよい。また、積層計画は、溶接ロボット10がビードを積層する狙い位置、溶接速度、溶加材14の送給速度(以下、単に「送給速度」という)、溶接電流、溶接電圧、溶接トーチ13の姿勢、ビードを積層する順番等の計画値を含んでよい。更に、積層計画は、積層造形物100の形状情報、ビードの高さ又は幅、及び積層途中におけるビードの幅又は高さの累積値の少なくとも何れか1つの計画値を含んでよい。更にまた、積層計画は、計画上の形状プロファイルを含んでもよい。後述するように、この計画上の形状プロファイルによってビード間のギャップ幅の計画値が特定される。
そして、積層計画取得部61は、積層計画から制御プログラムと計画値とを取り出す。
本実施の形態では、造形物を造形する工程に関する積層計画から、複数の溶接ビードが形成するギャップの幅の計画値を取得する取得部の一例として、積層計画取得部61を設けている。
【0033】
制御プログラム記憶部62は、積層計画取得部61が積層計画から取り出した制御プログラムを記憶する。
【0034】
制御プログラム実行部63は、制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラム又は制御プログラム更新部69により更新された制御プログラムを実行する。これにより、制御プログラム実行部63は、積層計画生成部43が生成した積層計画又はその後に修正された積層計画に従ってビードを形成するよう、溶接ロボット10を制御する。
【0035】
具体的には、制御プログラム実行部63は、第1層から第n層までのビードを形成するよう、溶接ロボット10を制御する。
その後、制御プログラム実行部63は、開口したギャップの閉合を行うよう、溶接ロボット10を制御する。各層のビードが形成される際に後述する各機能部がギャップ幅を所定の範囲に収めることで、溶接ロボット10は、ギャップの閉合を安定して行うことができる。尚、制御プログラム実行部63は、ギャップを閉合する際に、第1層から第n層までのビードを形成する際とは異なる制御を行ってよい。特に、閉合ビードはギャップの両端のビードと十分に融合させるために十分な溶け込みを得る必要があるため、制御プログラム実行部63は、開口部の形状に合わせて入熱量を調整する制御を行ってよい。ここで、制御プログラム実行部63は、入熱量を調整する制御として、溶接電流や溶接電圧の他、混合シールドガスの混合比を調整する制御を行ってよい。
【0036】
計画値記憶部64は、積層計画取得部61が積層計画から取り出した計画値を記憶する。
【0037】
形状プロファイル受信部65は、制御プログラム実行部63が制御プログラムを実行することによって積層された積層造形物100の断面の形状プロファイルを形状計測器15から受信する。ここで、形状プロファイルは、積層造形物100において複数の独立したビードがギャップを形成する場合、この複数の独立したビードにそれぞれ対応する複数の形状プロファイル部分を含むことになる。
本実施の形態では、積層計画に基づいて積層された複数の溶接ビードにそれぞれ対応する複数の形状プロファイルを計測する計測部の一例として、形状プロファイル受信部65を設けている。
【0038】
図6に、形状プロファイル受信部65が受信する形状プロファイルの一例を示す。図示するように形状プロファイルを積層の進行に合わせて更新することで、形状プロファイルから積層形状の推移を把握することが可能となる。また、図示するように形状プロファイルにおいて積層されたビードB1,B2,…,Bnに対応する狙い位置T1,T2,…,Tnを重ねて配置することで、ビードの形状と狙い位置との位置関係を比較することが可能となる。
【0039】
ギャップ幅導出部66は、形状プロファイル受信部65が受信した形状プロファイルと、計画値記憶部64に記憶された計画値とに基づいて、ギャップ幅及び次層の狙い位置を導出する。
【0040】
形状プロファイル受信部65が
図6のような形状プロファイルを受信した場合、この形状プロファイルでは、左右のそれぞれに湾曲したビード壁が存在する。そこで、ギャップ幅導出部66は、それらのビード壁の頂上に位置するビード間の距離をギャップ幅として導出する。
【0041】
図7に、この場合のギャップ幅の導出方法を示す。
図7では、計画上の形状プロファイル610を破線で示し、実際の形状プロファイル620を実線で示している。また、計画上の形状プロファイル610から得られたギャップ幅の計画値をGapPとし、実際の形状プロファイル620から得られたギャップ幅の実績値をGapG、GapRとしている。レーザ光を用いて得られた形状プロファイル(以下、「センサプロファイル630」という)では、太い実線で示すように実形状の一部までしか情報が得られない場合がある。この場合は、見かけ上のビード間最近接距離であるGapGと、実際のビード間最近接距離であるGapRとが異なる場合がある。流路屋根の閉合等が計画されている場合においては、GapRを把握することが好ましい。よって、ギャップ幅導出部66は、GapGからGapRを推測する等してもよい。具体的には、ギャップ幅導出部66は、簡易試験体等からGapGとGapRとの関係に即したオフセット値を得ることで、GapGをGapRに変換するとよい。或いは、ギャップ幅導出部66は、簡易試験体から得たGapGとGapRとの関係を機械学習したモデルにGapGを入力することによりGapRを推定してもよい。尚、ギャップ幅導出部66は、GapGを導出する際にはセンサプロファイル630上の特定位置を用いてよいが、センサプロファイル630上のギャップ幅方向に最も突出した先端位置をこの特定位置とするのが好ましい。この先端位置は、
図7では、太い実線で示したセンサプロファイル630が取得できた範囲621と細い実線で示したセンサプロファイル630が取得できなかった範囲622との境界の点であってよい。また、後述する新たな狙い位置TR
R,TR
Lを先端位置と見なしてもよく、センサプロファイル630の取得範囲等を考慮して先端位置を抽出してもよい。
【0042】
本実施の形態では、複数の形状プロファイルに基づいて、ギャップの幅の実績値を導出する導出部の一例として、ギャップ幅導出部66のこの機能を設けている。
また、本実施の形態では、複数の形状プロファイルの各形状プロファイルの特定位置間の距離を、ギャップの幅の実績値として導出する導出部の一例として、ギャップ幅導出部66のこの機能を設けている。
更に、本実施の形態では、複数の形状プロファイルの各形状プロファイルの特定位置から、複数の溶接ビードの各溶接ビードのギャップの方向に突出した先端位置を推定し、先端位置間の距離を、ギャップの幅の実績値として導出する導出部の一例として、ギャップ幅導出部66のこの機能を設けている。
【0043】
また、次層の狙い位置がビードの表面から離れた位置に設定されると、アークの発生不良や積層形状の不良を招く恐れがある。そこで、ギャップ幅導出部66は、次層の狙い位置も導出する。
【0044】
図7には、この場合の狙い位置の導出方法も示す。ギャップ幅導出部66は、計画上の狙い位置TP
R,TP
Lをオーバーハング角θ
OHの積層方向であるV
R,V
L方向に延伸してセンサプロファイル630と交差する点を新たな狙い位置TR
R,TR
Lとして導出する。尚、センサプロファイル630とV
R,V
L方向とが交差しない場合は、所定のビード形状モデルで補完して得られる形状プロファイルから次層の狙い位置を導出するとよい。
【0045】
積層条件補正部68は、ギャップ幅導出部66が導出したギャップ幅の実績値及び新たな狙い位置を、計画値記憶部64に記憶された計画上のギャップ幅及び狙い位置と比較する。
【0046】
具体的には、積層条件補正部68は、計画値記憶部64に記憶されたギャップ幅の計画値と、ギャップ幅導出部66が導出したギャップ幅の実績値とを比較し、ずれ量εを算出する。ここで、ギャップ幅の実績値とは、センサプロファイルから直接得られる値(例えば、GapG)であってもよいし、センサプロファイルに基づく推定によって得られる値(例えば、GapR)であってもよい。積層条件補正部68は、算出されたずれ量εに応じた補正量を用いて、次層に積層するビードの積層条件を補正する。例えば、対象とする次層をk層とし、その時のずれ量をεk、前回とのずれ量の変化量をΔεkとすると、積層条件補正部68は、下記式(1)に示す補正量によって溶接速度WeldVkを補正してよい。
【0047】
【0048】
式(1)はPID制御の式であって、Kpは比例ゲイン、Kdは微分ゲイン、Kiは積分ゲイン、θ
OHはオーバーハング角、φは溶接トーチ13の水平面に対する傾斜角を表す。式(1)では、溶接速度の標準の設定値がオーバーハング角度θ
OH及び溶接トーチ13の傾斜角φに基づいて補正され、補正後の溶接速度がギャップ幅のずれ量εに依存した補正項で更に補正される。尚、式(1)の右辺の第2項から第4項は必ずしも全ての項が設けられる必要はない。第2項から第4項の少なくとも1つが設けられていればよい。また、積層の進行に応じて項の追加又は省略を行ってもよい。例えば、式(1)の右辺の第4項は途中の層である第m層から加算されるようにしてよい。この場合、mの値は、ずれ量εの収束性に応じて調整してよい。更に、ゲインKp、Kd、Kiはオーバーハング角θ
OH等、積層されるビードの状況に応じて調整されてよい。式(1)では、ゲインKpがオーバーハング角θ
OHに基づいて修正されている。これは
図7に示す通り、ビードの溶着量が同じであってもオーバーハング角θ
OHによってギャップ幅方向への寄与が異なるためである。このように、積層条件補正部68は、式(1)によって溶接速度を補正するが、式(1)と類似の式によって送給速度を補正してもよい。
【0049】
本実施の形態では、ギャップの幅の計画値とギャップの幅の実績値とのずれ量が小さくなるように、複数の溶接ビードの積層条件を補正する補正部の一例として、積層条件補正部68のこの機能を設けている。
また、本実施の形態では、積層条件の標準の設定値にずれ量に応じた比例項、微分項及び積分項の少なくとも何れか1つが加算された補正式の一例として、式(1)を用いている。そして、本実施の形態では、補正式を用いて、積層条件を補正する補正部の一例として、積層条件補正部68のこの機能を設けている。
更に、本実施の形態では、積層の進行に応じて、積層条件の標準の設定値に積分項が加算されていない補正式を、積層条件の標準の設定値に積分項が加算された補正式に切り換える補正部の一例として、積層条件補正部68のこの機能を設けている。
【0050】
また、積層条件補正部68は、形状プロファイル上で、計画値記憶部64に記憶された計画上の狙い位置と、ギャップ幅導出部66が導出した新たな狙い位置とを比較する。その際、積層条件補正部68は、計画上の狙い位置TP
R,TP
Lと新たな狙い位置TR
R,TR
Lとの間の距離A
R,A
Lを併せて算出する(
図7参照)。ここで、新たな狙い位置TR
R,TR
Lはセンサプロファイル630上の特定位置であってよい。但し、この特定位置は、前述したように、計画上の狙い位置TP
R,TP
Lをオーバーハング角θ
OHの積層方向であるV
R,V
L方向に延伸してセンサプロファイル630と交差する位置とするのが好ましい(
図7参照)。そして、積層条件補正部68は、溶接ロボット10に指示する狙い位置を、下記式(2)の狙い位置間の距離A
R,A
Lを用いた補正量である補正ベクトルによって、新たな狙い位置TR
R,TR
Lに更新する。
【0051】
【0052】
ここで、Vjは、現層の狙い位置から次層の狙い位置へ向かう方向の単位ベクトルである。但し、Vjが水平面となす角は鋭角とする。このような狙い位置の更新を行わないと、積層済みのビードの先端でアークが正しく発生せず、アークが不安定となったり、溶接電源にエラーが発生したりして、装置が止まることがある。
【0053】
本実施の形態では、次層の複数の溶接ビードの各溶接ビードを積層する際の狙い位置の計画値を、複数の形状プロファイルの各形状プロファイルの特定位置に補正する補正部の一例として、積層条件補正部68のこの機能を設けている。
【0054】
制御プログラム更新部69は、積層条件補正部68が求めた補正量によって制御プログラムを更新する。更新対象とするビードはギャップを形成する両端のビードとする。特に溶着量は独立で調整すると左右のビードの形状が不均衡(非対称)になり易いので、式(1)から導かれた溶接速度又は送給速度の補正量はギャップの両端のビードの積層に適用する。他方、狙い位置の補正量に対しては、ギャップの左側と右側とで個別の調整を加えてよい。例えば、溶接トーチ13の先端から溶加材14が所定の方向に曲がっている場合、曲がり方向に合わせたオフセット値の与え方がギャップの左に積層するビードとギャップの右に積層するビードとで異なってもよい。
尚、制御プログラム更新部69は、狙い位置や溶着量の補正に伴って溶接ロボット10の姿勢等を併せて修正してもよい。
【0055】
(積層計画装置の動作)
図8は、第1の実施の形態における積層計画装置30の動作例を示すフローチャートである。
図示するように、積層計画装置30では、まず、CADデータ取得部41が、CAD装置20から三次元CADデータを取得する(ステップ301)。
次に、CADデータ分割部42が、ステップ301で取得された三次元CADデータを複数の層に分割して、層形状データを生成する(ステップ302)。
次に、積層計画生成部43が、ステップ302で生成された層形状データから積層計画を生成する(ステップ303)。
次に、積層計画出力部44が、ステップ303で生成された積層計画を記録媒体70に出力する(ステップ304)。
【0056】
(制御装置の動作)
制御装置50では、まず、積層計画取得部61が、記録媒体70から積層計画を取得し、積層計画に含まれる制御プログラムを制御プログラム記憶部62に、積層計画に含まれる計画値を計画値記憶部64にそれぞれ記憶する。そして、制御プログラム実行部63が、制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出してこれを実行することにより、第1の実施の形態における造形制御処理の実行を開始する。
【0057】
図9は、このような造形制御処理の内容を示すフローチャートである。
図示するように、まず、制御プログラム実行部63は、層のインデックスiを1に設定する(ステップ501)。
次に、制御プログラム実行部63は、層のインデックスiを層数nまで1ずつ増加させながら、各インデックスiについて以下の処理を行う。
【0058】
即ち、制御プログラム実行部63は、積層造形物100のi層目を造形するよう、溶接ロボット10を制御する(ステップ502)。
次に、制御プログラム実行部63は、層のインデックスiが層数nに達したか否かを判定する(ステップ503)。
【0059】
その結果、層のインデックスiが層数nに達していないと判定されれば、形状プロファイル受信部65が、形状計測器15から形状プロファイルを受信する(ステップ504)。
次いで、ギャップ幅導出部66が、計画値記憶部64に記憶された計画値と、ステップ504で受信された形状プロファイルとに基づいて、ギャップ幅の実績値及び次層の新たな狙い位置を導出する(ステップ505)。
次いで、積層条件補正部68が、計画値記憶部64に記憶されたギャップ幅の計画値と、ステップ505で導出されたギャップ幅の実績値とを比較して、そのずれ量が小さくなるように、積層条件を補正する(ステップ506)。具体的には、積層条件補正部68は、ずれ量に応じた補正量を求め、この補正量だけ積層条件を補正する。
次いで、積層条件補正部68が、計画値記憶部64に記憶された次層の狙い位置の計画値と、ステップ505で導出された次層の新たな狙い位置とを比較して、次層の狙い位置を補正する(ステップ507)。具体的には、積層条件補正部68は、狙い位置に関する補正量を求め、この補正量だけ狙い位置を補正する。
次いで、制御プログラム更新部69が、制御プログラム実行部63が実行中の制御プログラムを、ステップ506及びステップ507で求められたた補正量に基づいて更新する(ステップ508)。
その後、制御プログラム実行部63は、層のインデックスiに1を加算して(ステップ509)、処理をステップ502へ戻す。
【0060】
一方、層のインデックスiが層数nに達したと判定すれば、制御プログラム実行部63は、ギャップの閉合を行うよう、溶接ロボット10を制御し(ステップ510)、処理を終了する。
【0061】
(効果)
第1の実施の形態では、複数の溶接ビードがギャップを形成する造形物を造形する際に、ギャップの幅の計画値と実績値とのずれ量が小さくなるように、複数の溶接ビードの積層条件を補正するようにした。これにより、ギャップの幅を適正な範囲に収めることが可能となった。
【0062】
[第2の実施の形態]
(概要)
第1の実施の形態における制御装置50による制御は他の制御と組み合わせてよい。例えば、第2の実施の形態では、第1の実施の形態におけるギャップ幅による制御を、ビードの成長量(以下、単に「成長量」という)による制御と組み合わせるものとする。
例えば、円形のアーチ形状の積層造形物100では、積層造形物100の高さの大半を担う層は前半の層(1,2,3,…,m-1層目)であるため、前半の層において積層高さを管理する観点から成長量を制御することが好ましい。後半の層(m,m+1,…,n層目)においては層数が増加しても積層高さの増加量は小さく、積層高さよりも左右のビード間隔の方が層毎に大きく変化する。従って、左右のビード間隔をギャップ幅と見なしてギャップ幅による制御に切り替えることでビード壁間の間隔を適正な量に調整することができ、閉合ビードの品質を確保し易い。逆に、ビード壁間の間隔が適正な量でないと、裏波ビードの形成不良や溶接金属の溶け落ちによる穴あき等の不具合を招く恐れがある。
【0063】
図10は、第2の実施の形態における制御装置50による他の制御の概要を示す図である。
図示するように、まず、制御装置50は、積層計画装置30から取得した制御プログラムを溶接ロボット10に実行させ、溶接トーチ13により流路の第1層を造形する(S21)。
【0064】
次に、制御装置50は、形状計測器15により流路の第1層の断面の形状を計測し、断面の形状の計測結果である形状プロファイルを取得する(S22)。
次に、制御装置50は、S22で取得した形状プロファイルから、成長量と次層の狙い位置とを導出する(S23)。
次に、制御装置50は、成長量及び狙い位置について、計画値とS23で導出した値とを比較し、比較結果に基づいて積層条件及び狙い位置を補正する(S24)。
次に、制御装置50は、S24で補正した積層条件及び狙い位置に基づいて、制御プログラムを更新する(S25)。
【0065】
その後、制御装置50は、S21~S25を、第2層から第m層まで繰り返す(S26)。その際、制御装置50は、S21において、S25で更新された制御プログラムを溶接ロボット10に実行させる。また、図では便宜上S22~S25を第m層についても実行するように示したが、流路の第m層を造形した後はギャップ幅による制御を行うので、厳密にはS22~S25に代えて、
図3のS12~S15を第m層については実行するとよい。
【0066】
(積層計画装置の機能構成)
第2の実施の形態における積層計画装置30の機能構成例は、第1の実施の形態における積層計画装置30の機能構成例と同様なので、説明を省略する。
【0067】
(制御装置の機能構成)
図11は、第2の実施の形態における制御装置50の機能構成例を示す図である。図示するように、第2の実施の形態における制御装置50は、積層計画取得部61と、制御プログラム記憶部62と、制御プログラム実行部63と、計画値記憶部64と、形状プロファイル受信部65と、ギャップ幅導出部66と、成長量導出部67と、積層条件補正部68と、制御プログラム更新部69とを備える。
【0068】
積層計画取得部61、制御プログラム記憶部62、制御プログラム実行部63、計画値記憶部64、形状プロファイル受信部65、及びギャップ幅導出部66については、第1の実施の形態と同様なので、説明を省略する。
【0069】
成長量導出部67は、形状プロファイル受信部65が受信した形状プロファイルと、計画値記憶部64に記憶された計画値とに基づいて、成長量及び次層の狙い位置を導出する。
【0070】
積層条件補正部68は、第1層から第m-1層については、次の動作を行う。即ち、積層条件補正部68は、成長量導出部67が導出した成長量の実績値及び新たな狙い位置を、計画値記憶部64に記憶された計画上の成長量及び狙い位置と比較する。そして、積層条件補正部68は、計画値記憶部64に記憶された成長量の計画値と、成長量導出部67が導出した成長量の実績値とのずれ量をεとして、式(1)と同様の式により積層条件を更新する。また、積層条件補正部68は、次層の狙い位置を、式(2)と同じ式により更新する。
本実施の形態では、複数の溶接ビードの各溶接ビードの積層方向の成長量の計画値と、形状プロファイルに基づいて導出された成長量の実績値とのずれ量が小さくなるように、積層条件を補正する方法である第1補正方法を実行する補正部の一例として、積層条件補正部68のこの機能を設けている。
【0071】
また、積層条件補正部68は、第m層から第n層については、第1の実施の形態と同じ動作を行う。
本実施の形態では、ギャップの幅の計画値とギャップの幅の実績値とのずれ量が小さくなるように、積層条件を補正する第2補正方法を実行する補正部の一例として、積層条件補正部68のこの機能を設けている。
【0072】
更に、本実施の形態では、積層の進行に応じて、積層条件を補正する補正方法を第1補正方法から第2補正方法に切り替える補正部の一例として、積層条件補正部68を設けている。
【0073】
制御プログラム更新部69については、第1の実施の形態と同様なので、説明を省略する。
【0074】
(積層計画装置の動作)
第2の実施の形態における積層計画装置30の動作例は、第1の実施の形態における積層計画装置30の動作例と同様なので、説明を省略する。
【0075】
(制御装置の動作)
制御装置50では、まず、積層計画取得部61が、記録媒体70から積層計画を取得し、積層計画に含まれる制御プログラムを制御プログラム記憶部62に、積層計画に含まれる計画値を計画値記憶部64にそれぞれ記憶する。そして、制御プログラム実行部63が、制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出してこれを実行することにより、第2の実施の形態における造形制御処理の実行を開始する。
【0076】
図12は、このような造形制御処理の内容を示すフローチャートである。
図示するように、まず、制御プログラム実行部63は、層のインデックスiを1に設定する(ステップ551)。
次に、制御プログラム実行部63は、層のインデックスiを層数nまで1ずつ増加させながら、各インデックスiについて以下の処理を行う。
【0077】
即ち、制御プログラム実行部63は、積層造形物100のi層目を造形するよう、溶接ロボット10を制御する(ステップ552)。
次に、制御プログラム実行部63は、層のインデックスiが層数nに達したか否かを判定する(ステップ553)。
【0078】
その結果、層のインデックスiが層数nに達していないと判定されれば、形状プロファイル受信部65が、形状計測器15から形状プロファイルを受信する(ステップ554)。
次いで、形状プロファイル受信部65は、層のインデックスiが層数mに達したか否かを判定する(ステップ555)。
【0079】
その結果、層のインデックスiが層数mに達していないと判定されれば、成長量導出部67が、計画値記憶部64に記憶された計画値と、ステップ554で受信された形状プロファイルとに基づいて、成長量の実績値及び次層の新たな狙い位置を導出する(ステップ556)。
次いで、積層条件補正部68が、計画値記憶部64に記憶された成長量の計画値と、ステップ556で導出された成長量の実績値とを比較して、そのずれ量が小さくなるように、積層条件を補正する(ステップ557)。具体的には、積層条件補正部68は、ずれ量に応じた補正量を求め、この補正量だけ積層条件を補正する。
【0080】
一方、層のインデックスiが層数mに達したと判定されれば、ギャップ幅導出部66が、計画値記憶部64に記憶された計画値と、ステップ554で受信された形状プロファイルとに基づいて、ギャップ幅の実績値及び次層の新たな狙い位置を導出する(ステップ558)。
次いで、積層条件補正部68が、計画値記憶部64に記憶されたギャップ幅の計画値と、ステップ558で導出されたギャップ幅の実績値とを比較して、そのずれ量が小さくなるように、積層条件を補正する(ステップ559)。具体的には、積層条件補正部68は、ずれ量に応じた補正量を求め、この補正量だけ積層条件を補正する。
【0081】
次いで、積層条件補正部68が、計画値記憶部64に記憶された次層の狙い位置の計画値と、ステップ556又はステップ558で導出された次層の新たな狙い位置とを比較して、次層の狙い位置を補正する(ステップ560)。具体的には、積層条件補正部68は、狙い位置に関する補正量を求め、この補正量だけ狙い位置を補正する。
次いで、制御プログラム更新部69が、制御プログラム実行部63が実行中の制御プログラムを、ステップ557及びステップ560、又はステップ559及びステップ560で求められた補正量に基づいて更新する(ステップ561)。
その後、制御プログラム実行部63は、層のインデックスiに1を加算して(ステップ562)、処理をステップ552へ戻す。
【0082】
一方、層のインデックスiが層数nに達したと判定すれば、制御プログラム実行部63は、ギャップの閉合を行うよう、溶接ロボット10を制御し(ステップ563)、処理を終了する。
【0083】
(効果)
第2の実施の形態では、複数の溶接ビードがギャップを形成する造形物を造形する際に、前半は成長量の計画値と実績値とのずれ量が、後半はギャップの幅の計画値と実績値とのずれ量が小さくなるように、複数の溶接ビードの積層条件を補正するようにした。これにより、造形物の高さや幅を満足させつつ、ギャップの幅を適正な範囲に収めることが可能となった。
【符号の説明】
【0084】
1…金属積層造形システム、10…溶接ロボット、13…溶接トーチ、15…形状計測器、20…CAD装置、30…積層計画装置、41…CADデータ取得部、42…CADデータ分割部、43…積層計画生成部、44…積層計画出力部、50…制御装置、61…積層計画取得部、62…制御プログラム記憶部、63…制御プログラム実行部、64…計画値記憶部、65…形状プロファイル受信部、66…ギャップ幅導出部、67…成長量導出部、68…積層条件補正部、69…制御プログラム更新部、70…記録媒体