(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009989
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】イムノグロブリンの解析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20250109BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N33/50 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024103294
(22)【出願日】2024-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2023108467
(32)【優先日】2023-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深川 聡子
(72)【発明者】
【氏名】桑野 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】根岸 茉由
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045BB03
2G045CB09
2G045DA37
2G045FB01
2G045FB03
2G045FB12
2G045FB13
(57)【要約】
【課題】非侵襲的に採取の容易な皮膚表上脂質を用いて、被験体における抗原特異的イムノグロブリンを解析する方法を提供する。
【解決手段】被験体から採取した皮膚表上脂質中の抗原特異的イムノグロブリンを測定する工程を含む、被験体における抗原特異的イムノグロブリンの解析方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体から採取した皮膚表上脂質中の抗原特異的イムノグロブリンを測定する工程を含む、被験体における抗原特異的イムノグロブリンの解析方法。
【請求項2】
前記測定が前記皮膚表上脂質中の抗原特異的イムノグロブリンを抽出、分離することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記抗原特異的イムノグロブリンが感染症ウイルス抗原特異的イムノグロブリンである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記抗原特異的イムノグロブリンが呼吸器感染症ウイルス抗原特異的イムノグロブリンである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
前記抗原特異的イムノグロブリンがSARS-CoV-2抗原特異的イムノグロブリン又はインフルエンザウイルス抗原特異的イムノグロブリンである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項6】
前記抗原特異的イムノグロブリンがSARS-CoV-2抗原特異的イムノグロブリンである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項7】
前記抗原特異的イムノグロブリンがインフルエンザウイルス抗原特異的イムノグロブリンである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項8】
前記抗原特異的イムノグロブリンがIgA、IgM、IgE、IgD、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項9】
前記抗原特異的イムノグロブリンがSARS-CoV-2抗原特異的IgG又はインフルエンザウイルス抗原特異的IgGである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項10】
前記抗原特異的イムノグロブリンがSARS-CoV-2抗原特異的IgGである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項11】
前記抗原特異的イムノグロブリンがインフルエンザウイルス抗原特異的IgGである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項12】
解析が被験体における抗原特異的イムノグロブリンを定量する定量解析である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
解析が皮膚表上脂質中の抗原特異的イムノグロブリン量に基づき、血中の当該イムノグロブリン量を推定する相関解析である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記解析において、皮膚表上脂質中の抗原特異的イムノグロブリン量値として、当該皮膚表上脂質中の総イムノグロブリン量、内部標準蛋白質量、総蛋白質量又は総脂質量で除した補正値を用いる、請求項12又は13記載の方法。
【請求項15】
被験体における病原微生物感染履歴を検出するための測定方法であって、被験体から採取した皮膚表上脂質中の病原微生物抗原特異的イムノグロブリンを測定する工程を含む、方法。
【請求項16】
被験体における病原微生物に対する免疫性又は易感染性を検出するための測定方法であって、被験体から採取した皮膚表上脂質中の病原微生物抗原特異的イムノグロブリンを測定する工程を含む、方法。
【請求項17】
病原微生物に対する免疫性又は易感染性の検出が、当該病原微生物ワクチンの効果又は当該ワクチン効果の持続性の検出である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
皮膚表上脂質の採取及び保存に必要な用具及び試薬、並びに皮膚表上脂質から前記抗原特異的イムノグロブリンを測定するための試薬を含有する、請求項1、15又は16記載の方法に用いられる測定キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚表上脂質を用いた抗原特異的イムノグロブリンの解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスを始め多くの病原微生物感染歴の診断や微生物に対する免疫性又は易感染性の評価においては、当該微生物の感染によって産生される特異的な抗体であるイムノグロブリン(Ig)を測定することが行われている。
【0003】
ヒトが病原微生物に感染すると最初の2~3週間で特異的抗体の濃度が急速に高まる。感染初期には通常、抗原特異的なIgMが産生されるが、その産生は短期間であるため、感染が発生して間もない頃にしか存在しない。従って、当該イムノグロブリンは感染初期の兆候を捉えるサインとして利用されている。感染してから少し経つと抗原特異的IgGが形成される。このIgG抗体は持続性がより長く、多くの微生物感染において長期間存続する。従って、抗原特異的IgG抗体は、これが特異的に反応する病原微生物感染や該微生物に対する免疫性を示すサインとなり、この抗体が存在しなければ当該微生物に対して易感染性(感染しやすい状態)であることになる。
【0004】
また、一般的にアレルギー反応には血液中のイムノグロブリンが関与する。I型アレルギー疾患としては、食物アレルギー、アレルギー性気管支喘息、アレルギー性鼻炎等が挙げられる。I型アレルギーでは、アレルゲンの侵入により生体内でアレルゲン特異的IgE抗体が誘導され、マスト細胞上の高親和性IgE受容体に結合することで感作が成立する。一般的に血液検査により血中のアレルゲン特異的IgE抗体価を定量することで、感作の状態を客観的に把握することができる。アレルゲン特異的IgE抗体の存在は当該アレルゲンの感作を示し、必ずしもアレルギーの発症に関連するアレルゲンとは限らないが、発症、病勢、治療経過の把握の重要な指標となる。アレルギー反応に関与するイムノグロブリンは主にIgEであるが、IgG(特にIgG4)やIgAも関与するといわれている。アレルゲン免疫療法は、体内に微量のアレルゲンを投与することで免疫寛容を誘導しアレルゲン曝露に伴うアレルギー症状を緩和する治療であり、治療早期に血中においてアレルゲン特異的IgG4が増加することから、治療過程のモニタリングとしてアレルゲン特異的IgG4のモニタリングの有用性が検討されている。
その他、II型アレルギー、III型アレルギー、自己免疫疾患、膠原病、関節リウマチ等においても血液中のイムノグロブリンが関与することが知られ、体内で産生される自己抗原に対する特異的イムノグロブリンの測定は重要な検査項目の一つとされている。
【0005】
抗原特異的イムノグロブリンの存在を調べる検査では、通常、静脈穿刺により採取された血液(血清)に含まれる抗原特異的イムノグロブリンを測定することが行われる。静脈穿刺は簡便な方法ではなく、侵襲性が高く、特に子供及び神経質な成人には適用できないこともある。また、静脈穿刺は殺菌した針、注射器、消毒綿等を必要とするためコストがかかり、場合によっては危険や困難が伴う。
【0006】
抗原特異的イムノグロブリンは、血液以外の体液、例えば唾液、涙、尿中にも存在することが知られているが、検体採取の簡便性の観点から特に小児や乳幼児では採取が容易でないこと、これら体液の分泌量やその中に含まれる蛋白質の量は個人差や日内変動幅が大きいこと等が課題と考えられ、これら体液による検査又はアッセイは十分に実用化されていない。
【0007】
一方、汗中にIgA,IgG,IgM等のイムノグロブリンが含まれること(非特許文献1)、ヒト皮膚の抗体産生細胞においてIgMが検出されたこと(非特許文献2)が報告されているが、皮脂中に定量可能な抗原特異的イムノグロブリンが存在することは全く知られておらず、皮脂を用いた抗体検査はこれまでに行われていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Katchman et al., Proteomics Clin Appl. 12(6):e1800010. (2018)
【非特許文献2】Wilson et al. J Invest Dermatol. 139(12):2477-2487. (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、非侵襲的に採取の容易な皮膚表上脂質を用いて、被験体における抗原特異的イムノグロブリンを解析する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、斯かる課題に鑑み検討したところ、皮膚表上脂質中に抗原特異的なイムノグロブリンが検出され、その濃度及び変化量は血液中の当該イムノグロブリンの濃度及び変化量と相関性が認められ、これを用いることにより病原微生物感染歴の診断や当該微生物に対する免疫性又は易感染性の解析が可能であることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の1)~4)に係るものである。
1)被験体から採取した皮膚表上脂質中の抗原特異的イムノグロブリンを測定する工程を含む、被験体における抗原特異的イムノグロブリンの解析方法。
2)被験体における病原微生物感染履歴を検出するための測定方法であって、被験体から採取した皮膚表上脂質中の病原微生物抗原特異的イムノグロブリンを測定する工程を含む、方法。
3)被験体における病原微生物に対する免疫性又は易感染性を検出するための測定方法であって、被験体から採取した皮膚表上脂質中の病原微生物抗原特異的イムノグロブリンを測定する工程を含む、方法。
4)皮膚表上脂質の採取及び保存に必要な用具及び試薬、並びに皮膚表上脂質から前記抗原特異的イムノグロブリンを測定するための試薬を含有する、1)~3)のいずれかの方法に用いられる測定キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便かつ非侵襲的に、被験体におけるウイルス等の病原微生物による感染歴の診断や当該微生物に対する免疫性又は易感染性の判定、例えばワクチン効果の判定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】皮脂中と血中新型コロナウイルス抗体濃度の相関性。
【
図2】皮脂中と血中新型コロナウイルス抗体濃度変化量の相関性。
【
図3】新型コロナウイルスワクチン接種の応答性(接種前と接種20日後の比較)。
【
図4】新型コロナウイルスワクチン接種の応答性(接種前と接種20日後と接種100日後の比較)。
【
図5】皮脂中と血中インフルエンザウイルスA抗体濃度の相関性。
【
図6】インフルエンザワクチン接種の応答性(接種前と接種1か月後の比較)。
【
図7】インフルエンザワクチン接種の応答性(接種1.5か月後と接種4か月後の比較)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0015】
本発明において、被験体におけるイムノグロブリンの解析方法は、被験体から採取した皮膚表上脂質中の抗原特異的イムノグロブリンを測定する工程を含む。
【0016】
本発明において、抗原特異的イムノグロブリンのイムノグロブリンとしては、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDの主要クラス及びそのサブクラスのいずれか1種以上を意味する。サブクラスとしては、ヒトにおいて知られている、IgGのサブクラスであるIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4が挙げられる。
本発明において測定される抗原特異的イムノグロブリンの種類は抗原によっても異なるが、好ましくはIgG、IgM、IgAが挙げられ、より好ましくはIgGである。
【0017】
抗原特異的イムノグロブリンの抗原としては、病原微生物(細菌、カビ、ウイルス等)由来の抗原、特に感染症を引き起すウイルス由来の抗原が挙げられ、例えば、エボラウイルス、痘そうウイルス、ラッサウイルス、ポリオウイルス、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)、MERSコロナウイルス(MERS-CoV)、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)、鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス、A型肝炎ウイルス、狂犬病ウイルス、サル痘ウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス、エンテロウイルス、麻しんウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、風疹ウイルス、アデノウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、サポウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、コクサッキーウイルス、ヒトパルボウイルスB19、ヒトヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス(A型,B型)、ヒトパピローマウイルス等のウイルス由来の抗原が挙げられる。
このうち、本発明の方法は、SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV-2、インフルエンザウイルス等の呼吸器感染症ウイルス抗原の解析に適し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスであるSARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)抗原特異的なイムノグロブリン又はインフルエンザの原因ウイルスであるインフルエンザウイルス抗原特異的なイムノグロブリンの解析により好適であり、さらに好ましくはSARS-CoV-2抗原特異的IgG(抗SARS-CoV-2 IgG抗体)又はインフルエンザウイルス抗原特異的IgGの解析に適する。
【0018】
本発明において、「皮膚表上脂質(skin surface lipids;SSL)」とは、皮膚の表上に存在する脂溶性画分をいい、皮脂と呼ばれることもある。一般に、SSLは、皮膚にある皮脂腺等の外分泌腺から分泌された分泌物を主に含み、皮膚表面を覆う薄い層の形で皮膚表上に存在している。
なお、「皮膚」とは、特に限定しない限り、体表の表皮、真皮、毛包、ならびに汗腺、皮脂腺及びその他の腺などの組織を含む領域の総称である。
【0019】
SSLが採取される被験体としては、皮膚上にSSLを有する生物であればよく、ヒト及び非ヒト哺乳動物を含む哺乳動物が挙げられるが、好ましくはヒトである。好ましくは、該被験体は、抗原特異的イムノグロブリンの検出を必要とするか又は希望するヒト又は非ヒト哺乳動物である。
【0020】
SSLが採取される皮膚の部位としては、特に限定されず、頭、顔、首、体幹、手足等の身体の任意の部位の皮膚が挙げられ、皮脂の分泌が多い部位、例えば顔の皮膚が好ましい。
【0021】
被験体の皮膚からのSSLの採取には、皮膚からのSSLの回収又は除去に用いられているあらゆる手段を採用することができる。好ましくは、後述するSSL吸収性素材、SSL接着性素材、又は皮膚からSSLをこすり落とす器具を使用することができる。SSL吸収性素材又はSSL接着性素材としては、SSLに親和性を有する素材であれば特に限定されず、例えばポリプロピレン、パルプ等が挙げられる。皮膚からのSSLの採取手順のより詳細な例としては、あぶら取り紙、あぶら取りフィルム等のシート状素材へSSLを吸収させる方法、ガラス板、テープ等へSSLを接着させる方法、スパーテル、スクレイパー等によりSSLをこすり落として回収する方法、等が挙げられる。SSLの吸着性を向上させるため、脂溶性の高い溶媒を予め含ませたSSL吸収性素材を用いてもよい。一方、SSL吸収性素材は、水溶性の高い溶媒や水分を含んでいるとSSLの吸着が阻害されるため、水溶性の高い溶媒や水分の含有量が少ないことが好ましい。SSL吸収性素材は、乾燥した状態で用いることが好ましい。
【0022】
被験体から採取されたSSLは、直ちに後述するイムノグロブリンの分離に用いてもよいが、イムノグロブリンの分離まで保存されてもよい。SSLの保存は冷蔵保存、氷点下での低温保存、常温保存のいずれでもよい。例えば、SSLを含むSSL吸収性素材又はSSL接着性素材を、常温、冷蔵又は低温保存することができる。
【0023】
採取したSSLからのイムノグロブリンの抽出には、生体試料からの蛋白質の抽出又は精製に通常使用される方法、例えば水、phosphate-buffered saline溶液(水溶液、phosphate-buffered saline溶液等)、又は界面活性剤としてTriton X-100、Tween20等を含む溶液による抽出方法、あるいはM-PER buffer(Thermo Fisher Scientific)、MPEX PTS Reagent(GL science)、QIAzol Lysis Reagent(Qiagen)、EasyPep(商標) Mini MS Sample Prep Kit(ThermoFisher Scientific)等の市販の蛋白質抽出試薬やキットによる抽出方法を用いることができる。
【0024】
分離されたSSL由来の抗原特異的イムノグロブリンの測定は、免疫学的測定方法を用いて行うことができ、測定対象のイムノグロブリンに対する抗原を試料と接触させ、当該抗原に結合したイムノグロブリンを検出し、そのレベルが測定される。免疫学的測定法としては、例えば、イムノクロマト法、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIAまたはELISA)、蛍光免疫測定法(FIA)、間接蛍光抗体法(Indirect Fluorescence assay)、発光免疫測定法(Luminescent immunoassay)、物理化学的測定法(TIA、LAPIA、PCIA)、ウェスタンブロッティング法、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、超高感度イムノアッセイ(Simoa Immunoassays)等が挙げられ、好ましくはELISA法である。 ELISA法では、例えば、抗原を固相化したプレートに試料を加えて反応させ、試料中の当該抗原特異的イムノグロブリンを抗原と結合させ、次いで、当該イムノグロブリンに結合する標識された抗体を反応させて、抗原-抗原特異的イムノグロブリン-標識抗体の複合体を形成させ、最後に標識物質由来のシグナルを放射線測定器、蛍光検出器等で測定することが行われる。
尚、測定に用いられる抗原としては、不活性化微生物や微生物由来の蛋白質又はそのペプチド断片等、抗原特異的イムノグロブリンと結合するものであればよい。例えば、SARS-CoV-2抗原としては、例えばSARS-CoV-2のヌクレオカプシド蛋白質(N蛋白質)、スパイク蛋白質(S蛋白質)、S蛋白質受容体結合ドメイン等が、インフルエンザウイルス抗原としては、例えばA型やB型のウイルスの核蛋白質(NP)、粒子表面の赤血球凝集素(HA)、糖蛋白質であるノイラミニダーゼ(NA)等が挙げられ、これらは遺伝子操作された組換体であってもよい。
【0025】
本発明において、被験体における抗原特異的イムノグロブリンの解析には、測定されたSSL中の抗原特異的イムノグロブリンを用いた定性的解析、定量的解析、相関解析等の各種解析が包含される。
後述の実施例に示すとおり、SSL中には定量可能なIgA、IgD、IgE、IgM及びIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)が検出される。そして、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンを接種した被験者のSSL中からは、定量可能な抗SARS-CoV-2 IgG抗体が、インフルエンザウイルスワクチンを接種した被験者のSSL中からは、定量可能な抗インフルエンザウイルスA IgG抗体が検出される。したがって、本発明の被験体における抗原特異的イムノグロブリンの解析には、被験体における抗原特異的イムノグロブリンを定量する定量解析が包含される。
【0026】
また、SSL中の当該イムノグロブリン濃度と血液検体中の同イムノグロブリン濃度には有意な正相関が認められ、SSL中の当該イムノグロブリン濃度の変化量についても血液検体中の同イムノグロブリン濃度の変化量との間で有意な相関が認められる。すなわち、SSL中の抗原特異的イムノグロブリン量又はその変化量から、血中の当該イムノグロブリン量又はその変化量を推定することができ、したがって、本発明の被験体における抗原特異的イムノグロブリンの解析には、被験体における血中抗原特異的イムノグロブリン量又はその変化量との相関解析が包含される。
【0027】
斯かるSSL中の抗原特異的イムノグロブリンを用いた定量解析においては、測定されたSSL中の抗原特異的イムノグロブリン量値を用いても良いが、各被験体から採取されるSSL量のばらつきを補正する観点から、SSL中の抗原特異的イムノグロブリン量を、SSLの重量、抽出液量、或いはSSL中の特定成分の量等、様々な方法で補正することが好ましい。例えば、当該SSL中の総イムノグロブリン量、内部標準蛋白量、総蛋白質量又は総脂質量で、抗原特異的イムノグロブリン量を除した補正値を使用することが好ましく、なかでも当該SSL中の総イムノグロブリン量で除した補正値を用いるのがより好ましい。
ここで、総イムノグロブリン量とは、測定対象の抗原特異的イムノグロブリンと同一のアイソタイプのイムノグロブリンの総量であり、例えば測定される抗原特異的イムノグロブリンがIgGである場合は、SSL中の総IgG量である。
また、内部標準蛋白としては、皮脂表上脂質中において被験体間で発現変動がより小さい蛋白を使用するのが好ましい。
【0028】
斯かる被験体における抗原特異的イムノグロブリンの解析によれば、被験体におけるウイルス等の病原微生物による感染歴の検出や当該微生物に対する免疫性又は易感染性の検出が可能となる。したがって、本発明は、被験体における病原微生物感染歴を検出するための測定方法であって、SSL中の病原微生物抗原特異的イムノグロブリンを測定する工程を含む、方法、並びに被験体における病原微生物に対する免疫性又は易感染性を検出するための測定方法であって、SSL中の病原微生物抗原特異的イムノグロブリンを測定する工程を含む、方法を提供する。
ここで、病原微生物による感染歴の検出には、被験体が病原微生物に感染したことが有るかどうかの検出が挙げられ、病原微生物に対する免疫性又は易感染性の検出には、例えば当該病原微生物ワクチン接種の効果又は当該ワクチン効果の持続性の検出等が挙げられる。
なお、「検出」とは、被験体が病原微生物に感染したことが有るかどうか、又は病原微生物に対する免疫性又は易感染性を有するか否かを明らかにする意味であり、検査、測定、判定、評価支援又は予測などの用語で言い換えることもできる。本発明において、「検出」、「検査」、「測定」、「判定」又は「評価」という用語は、医師による診断を含むものではない。
【0029】
本発明の測定キットは、上記の被験体における抗原特異的イムノグロブリンの解析方法、被験体における病原微生物感染歴を検出するための測定方法、並びに被験体における病原微生物に対する免疫性又は易感染性を検出するための測定方法を実行するためのキットである。
本発明のキットは、SSLの採取及び保存に必要な用具及び試薬、SSLから抗原特異的イムノグロブリンを測定するための試薬を含有する。
SSLの採取及び保存に必要な用具及び試薬としては、例えばSSLを採取するための脂取りフィルム、採取したSSLを保存するための試薬、保存用の容器等が挙げられる。 抗原特異的イムノグロブリンを測定するための試薬としては、例えば採取したSSLからイムノグロブリンを抽出・精製するための試薬、抗原特異的イムノグロブリンと結合する抗原を含む免疫学的測定のための試薬の他、標識試薬、緩衝液、発色基質、二次抗体、ブロッキング剤、ポジティブコントロールやネガティブコントロールとして使用するコントロール試薬、試験に必要な器具の他、抗原特異的イムノグロブリンを検出するための指標又はガイダンス等が包含される。
【0030】
上述した実施形態に関し、本発明においてはさらに以下の態様が開示される。
1)被験体から採取した皮膚表上脂質中の抗原特異的イムノグロブリンを測定する工程を含む、被験体における抗原特異的イムノグロブリンの解析方法 。
2)前記測定が前記皮膚表上脂質中の抗原特異的イムノグロブリンを抽出、分離することを含む、1)の方法。
3)前記抗原特異的イムノグロブリンが感染症ウイルス抗原特異的イムノグロブリンである、1)又は2)の方法。
4)感染症ウイルス抗原が、エボラウイルス、痘そうウイルス、ラッサウイルス、ポリオウイルス、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)、MERSコロナウイルス(MERS-CoV)、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)、鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス、A型肝炎ウイルス、狂犬病ウイルス、サル痘ウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス、エンテロウイルス、麻しんウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、風疹ウイルス、アデノウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、サポウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、コクサッキーウイルス、ヒトパルボウイルスB19、ヒトヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス(A型,B型)及びヒトパピローマウイルスから選ばれるウイルス由来の抗原である、3)の方法。
5)前記抗原特異的イムノグロブリンが呼吸器感染症ウイルス抗原特異的イムノグロブリンである、1)又は2)の方法。
6)前記抗原特異的イムノグロブリンがSARS-CoV-2抗原特異的イムノグロブリン又はインフルエンザウイルス抗原特異的イムノグロブリンである、1)又は2)の方法。
7)前記抗原特異的イムノグロブリンがSARS-CoV-2抗原特異的イムノグロブリンである、1)又は2)の方法。
8)前記抗原特異的イムノグロブリンがインフルエンザウイルス抗原特異的イムノグロブリンである、1)又は2)の方法。
9)前記抗原特異的イムノグロブリンがIgA、IgM、IgE、IgD、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4からなる群より選択される少なくとも1種である、1)又は2)の方法。
10)前記抗原特異的イムノグロブリンがIgGである、1)又は2)の方法。
11)前記抗原特異的イムノグロブリンがSARS-CoV-2抗原特異的IgG又はインフルエンザウイルス抗原特異的IgGである、1)又は2)の方法。
12)前記抗原特異的イムノグロブリンがSARS-CoV-2抗原特異的IgGである、1)又は2)の方法。
13)前記抗原特異的イムノグロブリンがインフルエンザウイルス抗原特異的IgGである、1)又は2)の方法。
14)解析が被験体における抗原特異的イムノグロブリンを定量する定量解析である、1)~13)のいずれかの方法。
15)解析が皮膚表上脂質中の抗原特異的イムノグロブリン量に基づき、血中の当該イムノグロブリン量を推定する相関解析である、1)~14)のいずれかの方法。
16)前記解析において、皮膚表上脂質中の抗原特異的イムノグロブリン量値として、当該皮膚表上脂質中の総イムノグロブリン量、内部標準蛋白質量、総蛋白質量又は総脂質量で除した補正値を用いる、14)又は15)の方法。
17)被験体における病原微生物感染履歴を検出するための測定方法であって、被験体から採取した皮膚表上脂質中の病原微生物抗原特異的イムノグロブリンを測定する工程を含む、方法。
18)被験体における病原微生物に対する免疫性又は易感染性を検出するための測定方法であって、被験体から採取した皮膚表上脂質中の病原微生物抗原特異的イムノグロブリンを測定する工程を含む、方法。
19)病原微生物に対する免疫性又は易感染性の検出が、当該病原微生物ワクチンの効果又は当該ワクチン効果の持続性の検出である、18)の方法。
20)皮膚表上脂質の採取及び保存に必要な用具及び試薬、並びに皮膚表上脂質から前記抗原特異的イムノグロブリンを測定するための試薬を含有する、1)~19)のいずれかの方法に用いられる測定キット。
【実施例0031】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
実施例1 皮脂中イムノグロブリンの定量
健常者(39歳、男性)1名の被験者の皮脂検体中のイムノグロブリンを定量した。あぶら取りフィルム(5×8cm、ポリプロピレン製、3M社)を用いて全顔から皮脂を採
取し、該あぶら取りフィルムをチューブに移し、冷凍にて保管した。実験室にて該あぶら取りフィルムを、500μLの0.1% Triton X-100含有PBS溶液に浸
漬させ、室温にて15分間振とう混和させた後、遠心分離(15,000g、4℃、5分間)により残渣物を除いた上清をイムノグロブリン抽出液として以降の分析に供した。該抽出液中のイムノグロブリンの定量は、Human Ig Isotype Array(QAH-ISO-1-2,RayBiotech)を用いた分析を、フナコシ株式会社に委託した。
【0033】
<結果>
皮脂検体中のIgA、IgD、IgE、IgM、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のイムノグロブリン濃度を表1に示した。このことから、皮脂検体中に定量可能なIgA、IgD、IgE、IgM、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4が検出されることが示された。
【0034】
【0035】
実施例2 皮脂中の抗SARS-CoV-2 IgG抗体の定量
健常者(24歳以上60歳以下、男女)35名の被験者の血液及び皮脂検体中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体価を測定した。被験者は、試験参加より前に新型コロナウイルスワクチンを2回接種しており、3回目の新型コロナウイルスワクチンを接種する者とし、3回目接種前日あるいは当日の接種前、接種19日あるいは20日後、いずれも朝の時間帯に血液及び皮脂検体の採取を行った。さらに、そのうち15名は、接種99日あるいは100日後も、同様に血液及び皮脂検体の採取を行った。血液中の抗SARS-CoV-2 IgG抗体価の測定には、株式会社アイジェノミクス・ジャパンの抗体検査サービスを利用した。
被験者は、検査サービスの添付説明文書に従い、自宅にて簡易採血キット(ランセット)を用いて指先より採血し、血液をろ紙に染み込ませて乾燥させた後、アイジェノミクス・ジャパン社へ郵送した。アイジェノミクス・ジャパン社から通知された、血液中の抗SARS-CoV-2 IgG抗体の分析値を解析に用いた。
また、被験者は、自宅にてあぶら取りフィルム(5×8cm、ポリプロピレン製、3M社)を用いて全顔から皮脂を採取し、該あぶら取りフィルムをチューブに移し、冷凍にて保管した。実験室にて該あぶら取りフィルムを、550μLの0.1% Triton X-100含有 PBS溶液に浸漬させ、室温にて15分間振とう混和させた後、遠心分離(15,000g、4℃、5分間)により残渣物を除いた上清を抗体抽出液として以降の分析に供した。該抽出液中の抗SARS-CoV-2 IgG抗体濃度は、アイジェノミクス・ジャパン社での血液中の抗体価測定法で用いられたのと同一のAnti-SARS-CoV-2 QuantiVac ELISA(IgG) kit(EI 2606、EUROIMMUN)を用いて定量した。また、該抗体抽出液中の総IgG抗体濃度の定量にはIgG ELISA kit(EI7200-1、AssayPro)を用い、総蛋白質の定量にはCBQCA assay kit(MP 06667、Molecular Probes)を用い、総脂質の定量にはLipid Quantification Kit(STA-617、Cell Biolabs)を用いた。
【0036】
<結果>
被験者の皮脂検体中の抗SARS-CoV-2 IgG抗体濃度は、0.45~11.38RU/mLの範囲であった。このことから、皮脂検体中に、定量可能な抗SARS-CoV-2 IgG抗体が検出されることが示された。
皮脂検体中の抗体濃度と血液検体中の抗体価の相関性を解析したところ、有意な正相関が認められた(
図1-(1)、Spearman’s rank correlation coefficient,ρ=0.658、p<0.001、n=84)。皮脂検体中の抗体濃度をそれぞれ、総IgG抗体濃度、総蛋白質濃度、総脂質濃度で除することで補正し、各補正値と血液検体中の抗体価との相関性を解析したところ、いずれも有意な相関性が認められ、なかでも、総IgG抗体濃度、総蛋白質濃度で除した補正値と高い相関性を示した(
図1-(2)~(4))。
【0037】
さらに、同一個人内で、皮脂及び血液検体中の抗体濃度について、各タイムポイント間(接種前日あるいは当日の接種前、接種19日あるいは20日後、接種99日あるいは100日後の3タイムポイントのうちいずれか2タイムポイントの間)の変化量を算出し、相関性を解析したところ、有意な正相関が認められた(
図2-(1)、Spearman’s rank correlation coefficient,ρ=0.614、p<0.001、n=64)。各補正値でも正の相関性が認められ、なかでも、総IgG抗体濃度で除した補正値と高い相関性を示した。これらのことから、皮脂検体中の抗SARS-CoV-2 IgG抗体濃度は血液検体中の濃度と正の相関を示し、なかでも、総IgG抗体濃度で除する補正法が最も相関性が高いことが示唆された(
図2-(2)~(4))。
【0038】
次に、皮脂及び血液検体中の抗体濃度について、各タイムポイント(3回目接種前日あるいは当日の接種前(D0)、接種19日あるいは20日後(D20)の2タイムポイント(35名)、及び接種99日あるいは100日後を加えた3タイムポイント(D100)(15名))での変動を解析した。血液検体中の抗SARS-CoV-2 IgG抗体濃度はD0に比較しD20で有意に上昇し、皮脂検体中の抗SARS-CoV-2 IgG抗体濃度も同様にD0に比較しD20で有意に上昇した(
図3-(1)、(2)、Paired t-test、p<0.001、血液検体n=34、皮脂検体n=35)。
また、皮脂検体中の抗体濃度について、総IgG抗体濃度、総蛋白質濃度、総脂質濃度によるいずれの補正値でも同様に有意な上昇が認められた(
図3-(3),(4),(5))。
【0039】
さらに、D20とD100との比較では、血液検体中の抗SARS-CoV-2 IgG抗体濃度の有意な低下が確認され、皮脂検体中の抗SARS-CoV-2 IgG抗体濃度を総IgG抗体濃度で補正した値で同様に有意な低下が認められた(
図4-(1)~(5))。このことから、皮脂中の抗原特異的抗体(抗SARS-CoV-2 IgG抗体)濃度を定量することで、ワクチン接種(新型コロナウイルスワクチン)による抗体価の変動を把握できることが示唆された。
【0040】
実施例3 皮脂中の抗インフルエンザウイルスA IgG抗体の定量
健常者(24歳以上60歳以下、男女)4名の被験者(ID01~ID04)の血液及び皮脂検体中の抗インフルエンザウイルスA IgG抗体の量を評価した。被験者のうち2名(ID01、ID02)は、インフルエンザワクチン接種前及び接種約1か月後、血液及び皮脂検体の採取を行った。別の2名(ID03、ID04)は、インフルエンザワクチン接種約1.5か月後及び接種約4か月後、血液及び皮脂検体の採取を行った。
前腕内側穿刺にて常法により採取した血液から遠心分離(1,500×g、4℃、15分間)により血清を分取し、該血清中の抗インフルエンザウイルスA IgG抗体量を、Anti-Influenza virus A IgG ELISA kit(ab108745、Abcam)を用いて評価した。
皮脂は、あぶら取りフィルム(5×8cm、ポリプロピレン製、3M社)を用いて全顔から採取した。該あぶら取りフィルムをチューブに移し、冷凍にて保管した。実験室にて該あぶら取りフィルムを、550μLの0.1% Triton X-100含有 PBS溶液に浸漬させ、室温にて15分間振とう混和させた後、遠心分離(15,000g、4℃、5分間)により残渣物を除いた上清を抗体抽出液とした。該抽出液中の抗インフルエンザウイルスA IgG抗体量を、Anti-Influenza virus A IgG ELISA kit(30114050、TECAN)を用いて評価した。
血清及び皮脂検体中の抗インフルエンザウイルスA IgG抗体量は、添付のPositive Control溶液中の抗体量を1とした場合の相対値として算出した。
【0041】
<結果>
血清中と皮脂中の抗インフルエンザウイルスA IgG抗体量の相関性を解析したところ、有意な正相関が認められた(
図5、Spearman’s rank correlation coefficient,ρ=0.952、p<0.01、n=8)。
インフルエンザワクチン接種前及び接種約1か月後に血液及び皮脂を採取した被験者のうち、ID01では、ワクチン接種後に血清中の抗体量が増加し、同様に皮脂中の抗体量も増加した(
図6(1)、(2))。一方、ID02では、ワクチン接種後に血清中の抗体量の顕著な増加は認められず、同様に皮脂中の抗体量もほとんど変化しなかった(
図6(1)、(2))。
また、インフルエンザワクチン接種約1.5か月後及び接種約4か月後に血液及び皮脂を採取した被験者のうち、ID03では、ワクチン接種約1.5か月後から約4か月後にかけて血清中の抗体量が減少し、同様に皮脂中の抗体量も減少した(
図7(1)、(2))。一方、ID04では、ワクチン接種約1.5か月後から約4か月後にかけて血清中の抗体量の顕著な減少は認められず、同様に皮脂中の抗体量もほとんど変化しなかった(
図7(1)、(2))。
これらの結果から、皮脂中にインフルエンザウイルス抗原特異的イムノグロブリンが検出されること、血液中の抗体量と皮脂中の抗体量は相関すること、さらに皮脂中の抗体量を定量することで、ワクチン接種による抗体価の変動を把握できることが示唆された。