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特開2025-9993基腐病抵抗性診断マーカーおよびこれを用いた基腐病抵抗性診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009993
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】基腐病抵抗性診断マーカーおよびこれを用いた基腐病抵抗性診断方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/25 20180101AFI20250109BHJP
【FI】
A01G22/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024103498
(22)【出願日】2024-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2023108160
(32)【優先日】2023-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(71)【出願人】
【識別番号】511169999
【氏名又は名称】石川県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】514231125
【氏名又は名称】株式会社くしまアオイファーム
(74)【代理人】
【識別番号】100189854
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 明美
(72)【発明者】
【氏名】國武 久登
(72)【発明者】
【氏名】平野 智也
(72)【発明者】
【氏名】竹下 稔
(72)【発明者】
【氏名】福留 春香
(72)【発明者】
【氏名】白石 麗依奈
(72)【発明者】
【氏名】大谷 基泰
(72)【発明者】
【氏名】奈良迫 洋介
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AB13
(57)【要約】
【課題】サツマイモの基腐病抵抗性を診断することができる新規な基腐病抵抗性診断マーカーおよびこれを用いた基腐病抵抗性診断方法を提供する。
【解決手段】サツマイモの茎に含まれるポリフェノールを基腐病抵抗性診断マーカーとして利用する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サツマイモの茎に含まれるポリフェノールであることを特徴とする基腐病抵抗性診断マーカー。
【請求項2】
前記ポリフェノールは、前記茎に含まれるクロロゲン酸、3,4-ジカフェオイルキナ酸および3,5-ジカフェオイルキナ酸の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の基腐病抵抗性診断マーカー。
【請求項3】
前記ポリフェノールは、クロロゲン酸であることを特徴とする請求項1に記載の基腐病抵抗性診断マーカー。
【請求項4】
サツマイモの茎に含まれるポリフェノールを基腐病抵抗性診断マーカーとして利用する基腐病抵抗性診断方法であり、
サツマイモの茎におけるポリフェノール含量を測定する測定工程と、
前記測定工程において測定されたポリフェノール含量を前記サツマイモと同じ栽培条件で栽培された基準品種であるサツマイモの茎におけるポリフェノール含量と比較し、得られた比較値に基づいて基腐病抵抗性を診断する診断工程と、を備えることを特徴とする基腐病抵抗性診断方法。
【請求項5】
前記基準品種は、タマアカネであることを特徴とする請求項4に記載の基腐病抵抗性診断方法。
【請求項6】
前記測定工程において、前記茎における総ポリフェノール含量を測定することを特徴とする請求項4または5に記載の基腐病抵抗性診断方法。
【請求項7】
前記診断工程において、前記茎における総ポリフェノール含量を前記基準品種であるタマアカネの茎における総ポリフェノール含量と比較し、得られた比較値が1.05以下で基腐病抵抗性が高いと診断することを特徴とする請求項6に記載の基腐病抵抗性診断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サツマイモにおける基腐病抵抗性品種の選抜に有効な基腐病抵抗性診断マーカーおよびこれを用いた基腐病抵抗性診断方法に関する。
【0002】
サツマイモの基腐病は、2018年11月に沖縄県で発生が確認されてから、全国のサツマイモ産地に被害が拡大している。基腐病は、Diaporthe destruensという糸状菌(以下、「基腐病菌」と言う。)によって引き起こされる土壌病害であり、主に苗床、圃場および塊根の貯蔵中に発生する。サツマイモが基腐病に感染すると、地際部の茎が黒変し、病徴が進むと葉や茎等の地上部が枯れ、その後、塊根が腐敗する症状が見られ、生育阻害、収量の低下および品質低下を引き起こす。
【0003】
また、圃場の土壌に感染したサツマイモの残渣が残ると、基腐病菌が越冬し、春に新たに植えたサツマイモ苗に二次感染を引き起こすことから、特許文献1に示されるように、土壌に次亜塩素酸水溶液を散水するとともに、苗を定植した後、苗を含む地上部に次亜塩素酸水溶液を複数回にわたって散布することにより、苗や土壌を消毒する栽培方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-158726号公報(第4頁~第7頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の栽培方法では、次亜塩素酸水溶液の効果により基腐病菌等の苗の生育に悪影響を与える菌だけでなく、苗の生育に良い影響を与える菌まで殺菌されてしまうため、次亜塩素酸水溶液の散布後には、翌日から1週間以内に植物活性剤を地上部に散布して苗の育成に良い影響を与える菌を定着させる必要があり、圃場の規模が大きくなるほど作業コストが大きくなるという問題がある。基腐病の発生を防止するための革新的な農薬や土壌改良剤等は、未だ開発されておらず、基腐病に抵抗性を持つサツマイモの品種の開発が早急な課題となっている。
【0006】
一般的に、病害抵抗性品種の開発は、病害抵抗性試験と発病性が低い品種の雑種系統を作出する工程を繰り返し、さらに食味試験・成分分析等を実施し、病気に強く、市場価値の高いものが選抜されて品種登録されるが、遺伝情報が少なく遺伝育種学的アプローチが困難なサツマイモにおける基腐病抵抗性品種の選抜には時間がかかってしまうという問題があり、サツマイモの基腐病抵抗性を診断するための新規な技術が求められている。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、サツマイモの基腐病抵抗性を診断することができる新規な基腐病抵抗性診断マーカーおよびこれを用いた基腐病抵抗性診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の基腐病抵抗性診断マーカーは、
サツマイモの茎に含まれるポリフェノールであることを特徴としている。
この特徴によれば、サツマイモの茎に含まれるポリフェノールを基腐病抵抗性診断マーカーとするポリフェノール含量測定により、サツマイモの基腐病抵抗性を診断することができる。
【0009】
前記ポリフェノールは、前記茎に含まれるクロロゲン酸、3,4-ジカフェオイルキナ酸および3,5-ジカフェオイルキナ酸の少なくとも1つであることを特徴としている。
この特徴によれば、サツマイモの茎に含まれるポリフェノールの大半を占め、基腐病の発病率と高い相関を示すクロロゲン酸、3,4-ジカフェオイルキナ酸および3,5-ジカフェオイルキナ酸の少なくとも1つを基腐病抵抗性診断マーカーとするポリフェノール含量測定により、サツマイモの基腐病抵抗性を安定的に診断することができる。
【0010】
前記ポリフェノールは、クロロゲン酸であることを特徴としている。
この特徴によれば、クロロゲン酸を基腐病抵抗性診断マーカーとして利用することにより、サツマイモの基腐病抵抗性を安価に、かつ安定的に診断することができる。
【0011】
本発明の基腐病抵抗性診断方法は、
サツマイモの茎に含まれるポリフェノールを基腐病抵抗性診断マーカーとして利用する基腐病抵抗性診断方法であり、
サツマイモの茎におけるポリフェノール含量を測定する測定工程と、
前記測定工程において測定されたポリフェノール含量を前記サツマイモと同じ栽培条件で栽培された基準品種であるサツマイモの茎におけるポリフェノール含量と比較し、得られた比較値に基づいて基腐病抵抗性を診断する診断工程と、を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、サツマイモの茎に含まれるポリフェノールを基腐病抵抗性診断マーカーとして、診断対象であるサツマイモの茎におけるポリフェノール含量と同じ栽培条件で栽培された基準品種であるサツマイモの茎におけるポリフェノール含量を比較することにより、サツマイモの基腐病抵抗性の診断精度を向上させることができる。
【0012】
前記基準品種は、タマアカネであることを特徴としている。
この特徴によれば、基腐病抵抗性品種の中でも特に基腐病抵抗性が高いタマアカネのポリフェノール含量を比較対象とすることにより、サツマイモの基腐病抵抗性の診断精度を向上させることができる。
【0013】
前記測定工程において、前記茎における総ポリフェノール含量を測定することを特徴としている。
この特徴によれば、サツマイモの基腐病抵抗性を簡便に診断することができる。
【0014】
前記診断工程において、前記茎における総ポリフェノール含量を前記基準品種であるタマアカネの茎における総ポリフェノール含量と比較し、得られた比較値が1.05以下で基腐病抵抗性が高いと診断することを特徴としている。
この特徴によれば、サツマイモの基腐病抵抗性の診断精度をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例の実験1において、サツマイモ苗(2品種)の茎に基腐病菌を接種後7日目から35日目までの茎の横断切片を示す写真図である。
図2】実施例の実験1において、サツマイモ苗(8品種)の茎への基腐病菌接種後の発病度(接種35日後)を示すグラフ図である。
図3】実施例の実験2において、フォーリンチオカルト法により測定されたサツマイモ苗(13品種)の茎における総ポリフェノール含量を示すグラフ図である。
図4】実施例の実験2において、フォーリンチオカルト法により測定されたサツマイモ苗(5品種)の茎における総ポリフェノール含量と発病度の相関関係を示すグラフ図である。
図5】実施例の実験2において、HPLCによる測定されたサツマイモ苗(13品種)の茎におけるポリフェノール組成を示すグラフ図である。
図6】実施例の実験2において、HPLCによる測定されたサツマイモ苗(5品種)の茎における3種類のフェニルプロパノイド系化合物含量と発病度の相関関係を示すグラフ図である。なお、(a)は、クロロゲン酸、(b)は、3,4-ジカフェオイルキナ酸、(c)は、3,5-ジカフェオイルキナ酸に関するグラフである。
図7】実施例の実験3において、クロロゲン酸とタンニン酸を添加した計4種類のポリフェノール添加培地における基腐病菌の培養7日間の変化を示す写真図である。
図8図7の4種類のポリフェノール添加培地における基腐病菌の培養7日間の菌糸面積の変化を示すグラフ図である。
図9】実施例の実験4において、基準品種であるタマアカネとKNI×TA系統(KNI×TA1~15)の茎における総ポリフェノール含量を示すグラフ図である。
図10】実施例の実験4において、サツマイモ苗(3品種)とKNI×TA系統(KNI×TA1~15)の茎への基腐病菌接種後の発病度(接種35日後)を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る基腐病抵抗性診断マーカーおよびこれを用いた基腐病抵抗性診断方法を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0017】
[実験1 サツマイモ苗の基腐病抵抗性評価]
サツマイモ苗の基腐病抵抗性評価を行うため、サツマイモ苗として、2022年7月~10月に栽培し30cm程度に成長したサツマイモ8品種(こないしん、タマアカネ、高系14号、べにはるか、べにまさり、シルクスイート(登録商標)、種子島紫、九州111号(スターチクイン))の挿し木苗を使用した。なお、「こないしん」、「タマアカネ」および「べにまさり」は、「2021年度版のサツマイモ基腐病の防除マニュアル」において、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター(以下、「農研機構」と言う。)から基腐病菌に対する抵抗性の程度が「強」または「やや強」と評価された品種である。
【0018】
また、基腐病菌として、鹿児島県と宮崎県で採取されたA~Fの6種類の菌株を使用した。なお、菌株A~Cは鹿児島県の圃場から、菌株D~Fは宮崎県の罹病固体から採取した。
【0019】
サツマイモ苗を基腐病に罹病させるため、各サツマイモ苗に6種類の基腐病菌を付着させた爪楊枝の先端で3反復ずつ有傷接種し、接種後5週目までの発病状態を観察し、表1に示される0~5の6段階の発病指数により発病状態を評価した。
【0020】
【表1】
【0021】
また、接種後35日目の発病指数から下記式を用いて発病度(平均発病度)を算出した。なお、対照区として、農研機構の調査において基腐病菌に対する抵抗性の評価が「弱」の「べにはるか」と、「やや強」の「こないしん」を用いて補正係数を設定している。
【0022】
【数1】
【0023】
[結果]
図1に示されるように、基腐病菌の接種部位の横断切片(茎断面)を接種後7日目から35日目までの期間、光学顕微鏡で観察した結果、農研機構の調査において基腐病菌に対する抵抗性の評価が「弱」の「べにはるか」は、28日目以降は完全に枯死していた(図1(a)参照)が、基腐病菌に対する抵抗性の評価が「やや強」の「こないしん」は腐敗せず(図1(b)参照)、病徴に明確な組織学的差異が確認できた。
【0024】
また、図2に示されるように、サツマイモの品種間での発病度(接種後35日目)については、基腐病抵抗性品種である「タマアカネ(発病度50.0)」や「べにまさり(発病度52.2)」では発病度が低く、基腐病菌感受性品種の中でも「高系14号(発病度82.2)」や「スターチクイン(発病度81.6)」では発病度が高くなっており、品種間での発病度に差があることが確認できた。
【0025】
また、「高系14号」、「べにはるか」、「べにまさり」、「こないしん」、「タマアカネ」の5品種については、農研機構により本手法と異なる手法で行われた基腐病抵抗性試験の結果と略同じ序列の発病度になっていることが確認できた。
【0026】
[実験2 ポリフェノール含量とその組成の品種間差異]
ポリフェノール含量(総ポリフェノール含量、個々のポリフェノール含量)とその組成の品種間差異を調べるために、サンプルとして、2022年5月22日に定植を行い、2022年7月9日に根際40cmを採取したサツマイモ13品種(コガネセンガン、からゆたか、クイックスイート、すずほっくり、あいこまち、安納、パープルスイートロード、タマアカネ、ひめあやか、高系14号、べにはるか、こないしん、べにまさり)の茎を使用し、凍結乾燥機(東京理化器械(EYELA)社製 FDU1100)および凍結乾燥機用角型ドライチャンバー(東京理化器械(EYELA)社製 DRC-1000)を用いて、-30℃でサンプルを凍結乾燥後、粉末化した。
【0027】
総ポリフェノール含量の測定は、一般的なフォーリンチオカルト法で行った。詳しくは、各サンプルの凍結乾燥粉末0.02gに80%メタノール5mLを加え、15分間超音波抽出を行い、0.22μmシリンジフィルタでろ過して得られた抽出サンプルに、フェノール試薬(シグマアルドリッチジャパン社製 F9252)と飽和炭酸ナトリウム試薬(WAKO社製 199-01585)を添加し、30分静置後、分光光度計(日本バイオ・ラッドラボラトリーズ社製 Smartspec Plus)にて760nmの吸光度を測定した。なお、測定は、各菌株について全て3反復で行い、結果は新鮮重量100gあたりの没食子酸相当量(mg)として算出した。
【0028】
また、個々のポリフェノール含量の測定は、上述した総ポリフェノール含量の測定と同様の抽出サンプルを高速液体クロマトグラフ(島津製作所製 Prominence LC solution system)とODSカラム(GL Sciences社製 ODS-3)を用いて逆相高速液体クロマトグラフィ(逆相HPLC)で分析した。クロマトグラフィー条件は、溶媒Aとして100%エタノール、溶媒Bとして20mM KHPO(pH2.4)、カラム温度40℃、検出波長320nm、流速1.0mL/minとし、バイナリーグラジエントは、85-68%B(0-12min)、68%B(12-15min)、50-55%B(15-20min)、85%B(20-29min)とした。標品(純標準物質)には、クロロゲン酸、カフェ酸、3,4-ジカフェオイルキナ酸、3,5-ジカフェオイルキナ酸および4,5-ジカフェオイルキナ酸を使用し、保持時間とスペクトルを比較し、同定した。測定は全て3反復で行い、結果はmg/100gFWで算出した(図3参照)。
【0029】
なお、サツマイモに含まれる全てのポリフェノールとしては、クロロゲン酸、3,4-ジカフェオイルキナ酸、3,5-ジカフェオイルキナ酸、4,5-ジカフェオイルキナ酸、カフェ酸、カテキンおよびエピカテキンの7種類であり、品種により含量が異なる。また、品種によっては、カフェ酸、カテキンおよびエピカテキンを含まないものもある。
【0030】
[結果]
図3に示されるように、フォーリンチオカルト法によりサツマイモの茎における総ポリフェノール含量を測定すると、品種間で統計的な差が得られた(Tukeyの多重検定により異なるアルファベット間に5%の有意差があることを示す)。
【0031】
また、実験1の基腐病抵抗性評価でも使用した5品種の総ポリフェノール含量は、基腐病菌感受性品種である「高系14号」で304mg/100gFW、「べにはるか」で228mg/100gFWであり、基腐病抵抗性品種である「べにまさり」で150mg/100gFW、「タマアカネ」で124mg/100gFW、「こないしん」で100mg/100gFWであり、5品種の総ポリフェノール含量と基腐病抵抗性評価における発病度との間には、R=0.7765の高い正の相関が確認できた(図4参照)。なお、図4における点線は、上記5品種の総ポリフェノール含量に係る近似曲線である。
【0032】
このように、総ポリフェノール含量と基腐病の発病度との相関から、サツマイモの茎における総ポリフェノール含量が多いほど、基腐病に罹病しやすく、総ポリフェノール含量が少ないほど、基腐病抵抗性が高いものと推測される。
【0033】
また、図5に示されるように、HPLCにより測定したサツマイモに含まれる個々(7種類)のポリフェノール含量測定の結果から、13品種全てにおいてサツマイモの茎に含まれるポリフェノールの大半(80%以上)がフェニルプロパノイド系化合物であるクロロゲン酸、3,4-ジカフェオイルキナ酸、3,5-ジカフェオイルキナ酸で占められていることが確認できた。フェニルプロパノイド系化合物は、キナ酸とカフェ酸のエステル結合化合物であり、植物ではシキミ酸経路で合成される。
【0034】
また、図6(a)に示されるように、実験1の基腐病抵抗性評価でも使用した5品種のクロロゲン酸含量は、基腐病菌感受性品種である「高系14号」で65.8mg/100gFW、「べにはるか」で26.5mg/100gFWであり、基腐病抵抗性品種である「べにまさり」で13.0mg/100gFW、「タマアカネ」で20.8mg/100gFW、「こないしん」で17.9mg/100gFWであり、5品種のクロロゲン酸含量と基腐病抵抗性評価における発病度との間には、R=0.7006の高い正の相関が確認できた。なお、図6(a)における点線は、上述した5品種のクロロゲン酸含量に係る近似曲線である。
【0035】
また、図6(b)に示されるように、3,4-ジカフェオイルキナ酸含量は、基腐病菌感受性品種である「高系14号」で99.2mg/100gFW、「べにはるか」で51.8mg/100gFWであり、基腐病抵抗性品種である「べにまさり」で34.4mg/100gFW、「タマアカネ」で13.8mg/100gFW、「こないしん」で16.3mg/100gFWであり、5品種の3,4-ジカフェオイルキナ酸含量と基腐病抵抗性評価における発病度との間には、R=0.7722の最も高い正の相関が確認できた。なお、図6(b)における点線は、上述した5品種の3,4-ジカフェオイルキナ酸含量に係る近似曲線である。
【0036】
また、図6(c)に示されるように、3,5-ジカフェオイルキナ酸含量は、基腐病菌感受性品種である「高系14号」で70.0mg/100gFW、「べにはるか」で29.7mg/100gFWであり、基腐病抵抗性品種である「べにまさり」で25.2mg/100gFW、「タマアカネ」で16.6mg/100gFW、「こないしん」で15.3mg/100gFWであり、5品種の3,5-ジカフェオイルキナ酸含量と基腐病抵抗性評価における発病度との間には、R=0.6708の高い正の相関が確認できた。なお、図6(c)における点線は、上述した5品種の3,5-ジカフェオイルキナ酸含量(mg/100gFW)に係る近似曲線である。
【0037】
このように、HPLC法により測定されたサツマイモの茎に含まれるポリフェノールの大半を占める3種類のフェニルプロパノイド系化合物含量と基腐病の発病度との相関から、サツマイモの茎における3種類のフェニルプロパノイド系化合物含量が多いほど、基腐病に罹病しやすく、3種類のフェニルプロパノイド系化合物含量が少ないほど、基腐病抵抗性が高いものと推測される。
【0038】
なお、サツマイモの茎は、先端に行くほどポリフェノール含量が多くなることから、茎の根際から30~40cmまでの範囲を採取してポリフェノール含量の測定が行われることが好ましい。
【0039】
[実験3 基腐病菌の試験管内増殖に及ぼすポリフェノールの影響]
基腐病菌の試験管内増殖に及ぼすポリフェノールの影響を調べるため、実験2において基腐病の発病度との正の高い相関が確認できたクロロゲン酸(富士フィルム和光純薬社製)と、同じく代表的なポリフェノールの一種であるタンニン酸(富士フィルム和光純薬社製)を供試した。なお、クロロゲン酸は、上述した3種類のフェニルプロパノイド系化合物の中で最も安価で入手可能であるため標品として採用した。供試菌は、上述した基腐病抵抗性試験に用いた「種子島紫」の罹病苗から採取した基腐病菌の菌株Eを30℃で1週間継代培養したものを使用した。基本培地は、SPDA培地(サツマイモ煎汁+グルコース5%+ゲランガム3%+ストレプトマイシン硫酸塩(30mg/100mg))を使用した。
【0040】
上記基本培地にクロロゲン酸とタンニン酸のいずれかを滅菌フィルタを通して添加した2種類のポリフェノール添加培地(SPDA+クロロゲン酸培地、SPDA+タンニン酸培地)と、対照区として上記基本培地のサツマイモ煎汁を蒸留水に替えた培地にクロロゲン酸とタンニン酸のいずれかを滅菌フィルタを通して添加した2種類のポリフェノール添加培地(クロロゲン酸培地、タンニン酸培地)の計4種類の培地を作製した。また、ポリフェノール(クロロゲン酸、タンニン酸)の添加濃度は、培地100gあたり0mg、20mg、40mg、80mg、120mg、160mg、200mgの7区とし、それぞれ3反復ずつ培養を行った。
【0041】
基腐病菌を培地ごと5mm径にくり抜いたものを4種類の培地の中央に静置し、30℃のインキュベータ内で培養し、培養後の経過(3日目、5日目、7日目)を写真で記録し、画像解析ソフトウェアImageJにより菌糸面積を測定した。
【0042】
[結果]
図7(a),(b)に示されるように、クロロゲン酸を添加した培地(SPDA+クロロゲン酸培地、クロロゲン酸培地(対照区))では、クロロゲン酸無添加の場合(0mg/培地100g)と比べて菌糸面積が大きくなる、すなわち基腐病菌の増殖が促進される傾向が確認できた。
【0043】
また、図8(a)に示されるように、SPDA+クロロゲン酸培地における菌糸面積は、培養3日目まではクロロゲン酸添加濃度による有意差はないが、培養7日目においては、クロロゲン酸添加濃度0mgで543.3mm、20mgで835.2mmとなり、統計的にも有意差があることが確認された。なお、SPDA+クロロゲン酸培地における菌糸面積は、クロロゲン酸添加濃度20mgにおいてピークとなっており、クロロゲン酸添加濃度が20mgよりも増えるにつれて菌糸面積が概ね減少していくことが確認された。
【0044】
また、図8(b)に示されるように、クロロゲン酸培地における菌糸面積も同様に、培養3日目まではクロロゲン酸添加濃度による有意差はないが、培養7日目においては、クロロゲン酸添加濃度40mgにおいて797.3mmでピークとなっており、クロロゲン酸添加濃度が40mgから増加するほど、菌糸面積が概ね減少していくことが確認された。
【0045】
このように、クロロゲン酸を添加した培地(SPDA+クロロゲン酸培地、クロロゲン酸培地(対照区))では、クロロゲン酸添加濃度が所定濃度(20~40mg/培地100g)までは、クロロゲン酸の添加により基腐病菌の増殖が促進され、それよりも高濃度では、基腐病菌の増殖が抑制される傾向が確認された。
【0046】
また、図8(c),(d)に示されるように、タンニン酸を添加した培地(SPDA+タンニン酸培地、タンニン酸培地(対照区))では、タンニン酸無添加の場合(0mg/培地100g)と比べて菌糸面積が有意に小さくなる、すなわち基腐病菌の増殖が抑制される傾向が確認された。なお、タンニン酸の添加濃度が増加するほど、菌糸面積が減少していくことも確認された。
【0047】
このように、クロロゲン酸を培地に添加することにより、所定濃度まで明らかに基腐病菌の増殖が促進されることが確認された。すなわち、基腐病菌は、所定濃度までクロロゲン酸を生育に必要な因子として利用できる、あるいはクロロゲン酸を増殖に有効な物質へと変換している可能性があるものと推測できる。なお、植物において、クロロゲン酸等のフェニルプロパノイド系化合物は、シキミ酸経路で合成され、この合成経路は、菌類にとっても重要な芳香族アミノ酸の合成経路となっていることを踏まえると、サツマイモ基腐病菌の発病には、以下のような菌の増殖メカニズムがあると推測される。まず、台風等の影響によるサツマイモ苗の物理的ダメージにより、折れやすい苗の基部(茎)が傷つくと、サツマイモ苗は傷害応答によりクロロゲン酸等を合成して基部のポリフェノール含量を増加させ自らを防御しようとする。この基部のポリフェノール含量の増加に基腐病菌が誘引され、クロロゲン酸等のポリフェノールを何らかの形で利用して増殖するものと推測される。また、このときの基部(茎)のポリフェノール含量の違いが、サツマイモ品種間の発病度の差に影響しているものと推測される。
【0048】
以上、説明したように、サツマイモの茎に含まれるポリフェノールを基腐病抵抗性診断マーカーとするポリフェノール含量測定により、サツマイモの基腐病抵抗性を診断することができる。
【0049】
また、サツマイモの茎に含まれる全てのポリフェノールを基腐病抵抗性診断マーカーとして利用することにより、フォーリンチオカルト法のような簡便な測定方法により、サツマイモの基腐病抵抗性を診断することができる。
【0050】
また、サツマイモの茎に含まれるポリフェノールの大半を占め、基腐病の発病率と高い相関を示すクロロゲン酸、3,4-ジカフェオイルキナ酸および3,5-ジカフェオイルキナ酸の少なくとも1つを基腐病抵抗性診断マーカーとするポリフェノール含量測定により、基腐病の発病率と相関が低い他のポリフェノールの影響を受けることなく、サツマイモの基腐病抵抗性を安定的に診断することができる。なお、クロロゲン酸、3,4-ジカフェオイルキナ酸および3,5-ジカフェオイルキナ酸の含量を個々に測定する際には、高精度の装置群により構成されるHPLC等の測定方法により測定が行われるため、各ポリフェノール含量の測定精度が高い。
【0051】
さらに、クロロゲン酸を基腐病抵抗性診断マーカーとして利用することにより、サツマイモの基腐病抵抗性を安価に、かつ安定的に診断することができる。
【0052】
また、本発明の基腐病抵抗性診断方法は、サツマイモの茎に含まれるポリフェノールを基腐病抵抗性診断マーカーとして利用する基腐病抵抗性診断方法であり、サツマイモの茎におけるポリフェノール含量を測定する測定工程と、測定工程において測定されたポリフェノール含量を当該サツマイモと同じ栽培条件で栽培された基準品種であるサツマイモの茎におけるポリフェノール含量と比較し、得られた比較値に基づいて基腐病抵抗性を診断する診断工程と、を備えることにより、サツマイモの成長ステージ、土壌(物理性)、土壌成分、土壌水分含量等の栽培条件によって変化する二次代謝産物であるポリフェノールの含量を基腐病抵抗性診断マーカーとして利用して、サツマイモの基腐病抵抗性の診断精度を向上させることができる。
【0053】
また、診断工程において用いられる基準品種は、上述した基腐病抵抗性品種の中でも特に基腐病抵抗性が高い「タマアカネ」のポリフェノール含量を比較対象とすることにより、サツマイモの基腐病抵抗性の診断精度を向上させることができる。
【0054】
例えば、上述した実験2におけるフォーリンチオカルト法による総ポリフェノール含量の測定結果に基づき、基腐病菌に対する抵抗性の程度が「強」と評価される「タマアカネ」の総ポリフェノール含量(124mg/100gFW)を比較対象とすると、基腐病菌に対する抵抗性の程度が「弱」と評価される「高系14号」が304/124=2.45、「べにはるか」が228/124=1.84、「やや強」と評価される「べにまさり」が150/124=1.21、「こないしん」が100/124=0.81という比較値が得られる。
【0055】
サツマイモの茎に含まれる総ポリフェノール含量を基腐病抵抗性診断マーカーとする場合、フォーリンチオカルト法により測定された「タマアカネ」の総ポリフェノール含量を比較対象とした比較値は、1.3以下で「やや強」、1.05以下で「強」の基腐病抵抗性を有するものと診断することができる。
【0056】
また、上述した実験2におけるHPLC法によるクロロゲン酸含量の測定結果に基づき、基腐病菌に対する抵抗性の程度が「強」と評価される「タマアカネ」のクロロゲン酸含量(20.8mg/100gFW)を比較対象とすると、基腐病菌に対する抵抗性の程度が「弱」と評価される「高系14号」が65.8/20.8=3.16、「べにはるか」が26.5/20.8=1.27、「やや強」と評価される「べにまさり」が13.0/20.8=0.63、「こないしん」が17.9/20.8=0.86という比較値が得られる。
【0057】
サツマイモの茎に含まれるクロロゲン酸含量を基腐病抵抗性診断マーカーとする場合、HPLC法により測定された「タマアカネ」のクロロゲン酸含量を比較対象とした比較値は、1.0以下で「やや強」または「強」の基腐病抵抗性を有するものと診断することができる。
【0058】
また、上述した実験2におけるHPLC法による3,4-ジカフェオイルキナ酸含量の測定結果に基づき、基腐病菌に対する抵抗性の程度が「強」と評価される「タマアカネ」の3,4-ジカフェオイルキナ酸含量(13.8mg/100gFW)を比較対象とすると、基腐病菌に対する抵抗性の程度が「弱」と評価される「高系14号」が99.2/13.8=7.19、「べにはるか」が51.8/13.8=3.75、「やや強」と評価される「べにまさり」が34.4/13.8=2.49、「こないしん」が16.3/13.8=1.18という比較値が得られる。
【0059】
サツマイモの茎に含まれる3,4-ジカフェオイルキナ酸含量を基腐病抵抗性診断マーカーとする場合、HPLC法により測定された「タマアカネ」の3,4-ジカフェオイルキナ酸含量を比較対象とした比較値は、2.6以下で「やや強」または「強」の基腐病抵抗性を有するものと診断することができる。
【0060】
また、上述した実験2におけるHPLC法による3,5-ジカフェオイルキナ酸含量の測定結果に基づき、基腐病菌に対する抵抗性の程度が「強」と評価される「タマアカネ」の3,5-ジカフェオイルキナ酸含量(16.6mg/100gFW)を比較対象とすると、基腐病菌に対する抵抗性の程度が「弱」と評価される「高系14号」が70.0/16.6=4.22、「べにはるか」が29.7/16.6=1.79、「やや強」と評価される「べにまさり」が25.2/16.6=1.54、「こないしん」が15.3/16.6=0.92という比較値が得られる。
【0061】
サツマイモの茎に含まれる3,5-ジカフェオイルキナ酸含量を基腐病抵抗性診断マーカーとする場合、HPLC法により測定された「タマアカネ」の3,5-ジカフェオイルキナ酸含量を比較対象とした比較値は、1.6以下で「やや強」または「強」の基腐病抵抗性を有するものと診断することができる。
【0062】
また、測定工程において、サツマイモの茎における総ポリフェノール含量を測定する場合には、比色定量法であるフォーリンチオカルト法により測定を行うことが可能であるため、簡便な測定方法により、サツマイモの基腐病抵抗性を診断することができる。また、サツマイモの茎に含まれる全てのポリフェノールを基腐病抵抗性診断マーカーとして利用する、すなわちフォーリンチオカルト法により総ポリフェノール含量を測定する基腐病抵抗性診断方法は、上述したクロロゲン酸、3,4-ジカフェオイルキナ酸および3,5-ジカフェオイルキナ酸の少なくとも1つを基腐病抵抗性診断マーカーとして利用した場合と同等の基腐病の発病度との高い正の相関を示すことから、診断精度も十分に高い。
【0063】
このように、遺伝情報が少なくDNAマーカーの利用が難しいサツマイモにおいて、ポリフェノールマーカー選抜、特に総ポリフェノール含量の測定によってサツマイモの基腐病抵抗性を簡便に診断することが可能となる。
【0064】
また、従来のサツマイモの育種における病害抵抗性試験は、隔離施設・圃場や病原菌の取り扱い等の極めて専門的な技術が必要であり、一度に試験できるサンプル数にも限界があることから時間がかかるものであったが、基腐病抵抗性診断マーカーとしてポリフェノールを使用した基腐病抵抗性品種の選抜は、病理学の専門知識や技術が不要であり、大量のサンプルを一度に測定できるという利点もある。
【0065】
なお、サツマイモの茎は、葉に比べてクロロゲン酸、3,4-ジカフェオイルキナ酸および3,5-ジカフェオイルキナ酸の含量が少ないこと、さらにタンニン酸含量が少ないことが確認されていることから、本発明においては、サツマイモの茎に含まれるポリフェノールを基腐病抵抗性診断マーカーとして利用することにより、基腐病菌の増殖抑制効果が高いタンニン酸の影響を小さくしつつ、基腐病抵抗性品種の選抜を安定的に行うことが可能である。
【0066】
[実験4 KNI×TA系統の基腐病抵抗性の診断]
本発明の基腐病抵抗性診断方法において、サツマイモの茎に含まれる総ポリフェノール含量を基腐病抵抗性診断マーカーとすることにより、「こないしん」と「タマアカネ」の雑種系統であるKNI×TA系統の基腐病抵抗性の診断を行う。なお、診断工程において用いられる基準品種には、上述した基腐病抵抗性品種の中でも特に基腐病抵抗性が高い「タマアカネ」を用いて、上述したサツマイモの既存品種の場合と同様に、フォーリンチオカルト法により測定された「タマアカネ」の茎における総ポリフェノール含量を比較対象とした比較値が1.05以下で「強」の基腐病抵抗性を有するものと診断する。
【0067】
[結果]
図9に示されるように、フォーリンチオカルト法による茎における総ポリフェノール含量の測定結果に基づき、基腐病菌に対する抵抗性の程度が「強」と評価される「タマアカネ」の総ポリフェノール含量(142mg/100gFW)を比較対象とすると、「KNI×TA8」が113/142=0.80、「KNI×TA7」が146/142=1.03という比較値が得られ、比較値が1.05以下で「強」の基腐病抵抗性を有するものと診断された。なお、「KNI×TA7」と「KNI×TA8」以外のKNI×TA系統の比較値は、全て1.05よりも大きくなった。また、総ポリフェノール含量の測定時において、「KNI×TA1」は枯死していたため、データなしとなっている。
【0068】
次に、図10に示されるように、KNI×TA系統での発病度(接種後35日目)については、「KNI×TA7(発病度1.8)」が最も低く、「KNI×TA8(発病度16.4)」がその次に低くなっており、比較値が1.05以下であった「KNI×TA7」と「KNI×TA8」の基腐病抵抗性が高いことが確認された。また、KNI×TA系統においては、「KNI×TA4」、「KNI×TA10」、「KNI×TA13」、「KNI×TA3」が「タマアカネ」よりも発病度が低くなったが、比較値が1.05以下であった「KNI×TA7」と「KNI×TA8」は特に基腐病抵抗性が高いものであることが確認された。
【0069】
このように、本発明の基腐病抵抗性診断方法は、診断工程において、診断対象であるサツマイモ茎における総ポリフェノール含量を基準品種であるタマアカネの茎における総ポリフェノール含量と比較し、得られた比較値が1.05以下で基腐病抵抗性が高いと診断することにより、サツマイモの基腐病抵抗性の診断精度をさらに向上させることができる。
【0070】
また、本発明の基腐病抵抗性診断方法は、農研機構の調査において基腐病菌に対する抵抗性の評価が行われているサツマイモの既存品種に限らず、KNI×TA系統のような新規な雑種系統においても基腐病抵抗性を有することの診断を高精度で行うことができる。
【0071】
なお、本発明の基腐病抵抗性診断方法の診断工程において比較対象として用いられる基準品種は、「タマアカネ」に限らず、基腐病菌に対する抵抗性の程度が「強」または「やや強」と評価される「ベニハヤト」、「オキコガネダイチノユメ」、「九州201号」、「こないしん」、「べにまさり」、「すずほっくり」、「みちしずく」等であってもよい。また、この場合、比較値のしきい値は、基準品種、測定対象となるポリフェノールの種類やその組み合わせ等によって適宜設定されてよい。
【0072】
以上、本発明の実施例と変形例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0073】
例えば、前記実施例においては、ポリフェノール含量の測定を行うために定植から48日目のサツマイモ苗を用いたが、苗床から圃場への一般的な定植時期である5月上旬に苗の定植が行われた場合、定植から40~80日目のサツマイモ苗であれば基腐病抵抗性診断方法は適用可能であり、診断精度の安定性を向上させることができる。また、本発明の基腐病抵抗性診断方法は、圃場に定植されたサツマイモ苗に限らず、鉢に植えられた状態のサツマイモ苗に対しても適用可能である。
【0074】
また、実際の栽培におけるサツマイモ基腐病の発病は、6~8月が多いことから、ポリフェノール含量の測定時期は6~8月、好ましくは7月に行われることにより、基腐病抵抗性診断の診断精度を向上させることができる。
【0075】
また、前記実施例においては、サツマイモに含まれる全てのポリフェノールは、クロロゲン酸、3,4-ジカフェオイルキナ酸、3,5-ジカフェオイルキナ酸、4,5-ジカフェオイルキナ酸、カフェ酸、カテキンおよびエピカテキンの7種類として説明したが、クロロゲン酸、3,4-ジカフェオイルキナ酸および3,5-ジカフェオイルキナ酸がポリフェノールの大半を占めていれば、これ以外のポリフェノールが含まれるサツマイモに対しても基腐病抵抗性診断方法は適用可能である。
【0076】
また、前記実施例においては、基腐病抵抗性診断方法は、診断対象となるサツマイモと同じ栽培条件で栽培された基準品種であるサツマイモの茎におけるポリフェノール含量を比較対象とし、得られた比較値から基腐病抵抗性を診断するものとして説明したが、これに限らず、サツマイモの茎に含まれるポリフェノールを基腐病抵抗性診断マーカーとして利用していれば、総ポリフェノール含量またはクロロゲン酸、3,4-ジカフェオイルキナ酸および3,5-ジカフェオイルキナ酸の少なくとも1つの含量に対して、ポリフェノール含量のしきい値に基づいて基腐病抵抗性を診断してもよい。この場合、ポリフェノール含量のしきい値は、ポリフェノール含量の測定方法、診断対象となるサツマイモの成長ステージ、土壌(物理性)、土壌成分、土壌水分含量等の条件に応じた適正なしきい値が設定されることが好ましい。
[産業上の利用可能性]
【0077】
本発明は、サツマイモの茎に含まれるポリフェノールを基腐病抵抗性診断マーカーとして利用することにより、例えばサツマイモの茎における総ポリフェノール含量の測定によってサツマイモの基腐病抵抗性を診断することが可能となることから、10年間かかると言われるサツマイモ育種年限の短縮およびサツマイモ基腐病の克服につなげることができ、産業上の利用可能性がある。また、本発明は、サツマイモの茎以外に塊根(イモ)への応用が考えられ、塊根のポリフェノール含量が貯蔵、輸出の際の重要な指標となる可能性がある。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10