(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009997
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】保険料算出システム及び保険料算出方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/22 20240101AFI20250109BHJP
G06Q 40/08 20120101ALI20250109BHJP
A01K 29/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G06Q50/22
G06Q40/08
A01K29/00 A
A01K29/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024103737
(22)【出願日】2024-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2023107519
(32)【優先日】2023-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】514235307
【氏名又は名称】アニコム ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】ムルザバエフ マルセル
(72)【発明者】
【氏名】島(加賀) 綾香
【テーマコード(参考)】
5L040
5L099
【Fターム(参考)】
5L040BB61
5L099AA00
(57)【要約】
【課題】動物に適した保険料を算出する保険料算出システム及び保険料算出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】保険加入対象動物の腸内細菌叢データを受け付ける取得部と、前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データを用いて、前記保険加入対象動物の保険料を算出する計算部とを有し、前記計算部は、動物の腸内細菌叢データと、腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデル、又は、動物の腸内細菌叢データから当該動物を腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスのうちのいずれかに振り分けるプログラムによって、前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データに基づいて、前記保険加入対象動物を所定のクラスに分類し、前記クラスの分類情報を使用して保険料を算出するものである、
保険料算出システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保険加入対象動物の腸内細菌叢データを受け付ける取得部と、
前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データを用いて、前記保険加入対象動物の保険料を算出する計算部とを有し、
前記計算部は、動物の腸内細菌叢データと、腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデル、又は、動物の腸内細菌叢データから当該動物を腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスのうちのいずれかに振り分けるプログラムによって、前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データに基づいて、前記保険加入対象動物を所定のクラスに分類し、前記クラスの分類情報を使用して保険料を算出するものである、
保険料算出システム。
【請求項2】
前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の動物個体群の各個体間のβ多様性に基づいて、前記クラス分け作成用の動物個体群の各個体をクラス分けして得られたものである請求項1記載の保険料算出システム。
【請求項3】
前記クラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラスター分析によるクラスタリング結果である請求項1又は2記載の保険料算出システム。
【請求項4】
前記β多様性が、Jaccard係数又はHamming距離を含む請求項2記載の保険料算出システム。
【請求項5】
前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数を計算し、前記Jaccard係数に基づいてクラス分けを行うことによって得られたものである請求項4記載の保険料算出システム。
【請求項6】
前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数を計算し、得られた複数の個体に対するJaccard係数を含むデータについてクラスター分析をすることによって得られたものである請求項5記載の保険料算出システム。
【請求項7】
前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数を計算し、得られた複数の個体に対するJaccard係数を含むデータについて次元削減処理を行い、各個体の次元削減処理により得られたデータを2次元グラフ上にプロットし、クラスター分析をすることによって、クラス分けを行うことによって得られたものである請求項6記載の保険料算出システム。
【請求項8】
前記クラスター分析が、スペクトラルクタスタリングである請求項6記載の保険料算出システム。
【請求項9】
前記学習済みモデルが、教師データとして、クラス分け作成用の動物個体群の各動物個体の腸内細菌叢のデータと、ある動物個体がどのクラスに分類されたかについてのデータを用いて学習を行ったものである請求項2記載の保険料算出システム。
【請求項10】
コンピュータが保険加入対象動物の腸内細菌叢データを受け付けるステップと、
コンピュータが前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データを用いて、前記保険加入対象動物の保険料を算出するステップとを有し、
前記保険加入対象動物の保険料を算出するステップは、コンピュータが、動物の腸内細菌叢データと、腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデル、又は、動物の腸内細菌叢データから当該動物を腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスのうちのいずれかに振り分けるプログラムによって、前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データに基づいて、前記保険加入対象動物を所定のクラスに分類し、前記クラスの分類情報を使用して保険料を算出するステップである、
保険料算出方法。
【請求項11】
保険加入対象動物の腸内細菌叢データを受け付ける取得部と、
前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データを用いて、前記保険加入対象動物の保険料を算出する計算部とを有し、
前記計算部は、保険加入対象動物の腸内細菌叢データが、所定のクラスターに属する動物個体の腸内細菌叢のデータが有する特徴を有するか又は所定のクラスターに属する動物個体の腸内細菌叢のデータと類似するデータであるかどうかを判断し、当該判断に基づいて、損害率又は保険料を算出するものであり、
前記所定のクラスターは、複数の動物個体の腸内細菌叢のβ多様性に基づいてクラスター分析を行い、前記複数の動物個体を複数のクラスターに分類することによって得られたクラスターである、
保険料算出システム。
【請求項12】
対象動物の腸内細菌叢データを受け付ける取得部と、
前記対象動物の腸内細菌叢データを用いて、前記対象動物の疾患リスクを算出する予測部とを有し、
前記予測部は、動物の腸内細菌叢データと、腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデル、又は、動物の腸内細菌叢データから当該動物を腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスのうちのいずれかに振り分けるプログラムによって、前記対象動物の腸内細菌叢データに基づいて、前記対象動物を所定のクラスに分類し、前記クラスの分類情報を使用して疾患リスクを予測するものである、
疾患リスク予測システム。
【請求項13】
前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の動物個体群の各個体間のβ多様性に基づいて、前記クラス分け作成用の動物個体群の各個体をクラス分けして得られたものである請求項12記載の疾患リスク予測システム。
【請求項14】
前記クラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラスター分析によるクラスタリング結果である請求項12又は13記載の疾患リスク予測システム。
【請求項15】
前記β多様性が、Jaccard係数又はHamming距離を含む請求項12記載の疾患リスク予測システム。
【請求項16】
前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数を計算し、前記Jaccard係数に基づいてクラス分けを行うことによって得られたものである請求項15記載の疾患リスク予測システム。
【請求項17】
前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数を計算し、得られた複数の個体に対するJaccard係数を含むデータについてクラスター分析をすることによって得られたものである請求項16記載の疾患リスク予測システム。
【請求項18】
前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数を計算し、得られた複数の個体に対するJaccard係数を含むデータについて次元削減処理を行い、各個体の次元削減処理により得られたデータを2次元グラフ上にプロットし、クラスター分析をすることによって、クラス分けを行うことによって得られたものである請求項17記載の疾患リスク予測システム。
【請求項19】
前記クラスター分析が、スペクトラルクタスタリングである請求項18記載の疾患リスク予測システム。
【請求項20】
前記学習済みモデルが、教師データとして、クラス分け作成用の動物個体群の各動物個体の腸内細菌叢のデータと、ある動物個体がどのクラスに分類されたかについてのデータを用いて学習を行ったものである請求項13記載の疾患リスク予測システム。
【請求項21】
対象動物の腸内細菌叢データを受け付ける取得部と、
前記対象動物の腸内細菌叢データを用いて、前記対象動物の疾患リスクを算出する予測部とを有し、
前記予測部は、動物の腸内細菌叢データと、腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデル、又は、動物の腸内細菌叢データから当該動物を腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスのうちのいずれかに振り分けるプログラムによって、前記対象動物の腸内細菌叢データに基づいて、前記対象動物を所定のクラスに分類し、前記クラスの分類情報を使用して疾患リスクを予測するものであり、
前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数又はHamming距離を計算し、得られた複数の個体に対するJaccard係数又はHamming距離を含むデータについて次元削減処理を行い、各個体の次元削減処理により得られたデータを2次元グラフ上にプロットし、クラスター分析をすることによって、クラス分けを行うことによって得られたものであり、
前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスの各クラスに所定の疾患リスク値が割り当てられている、
疾患リスク予測システム。
【請求項22】
前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスの各クラスに、各クラスに属する動物個体の腸内細菌叢データのシャノン係数の平均に基づいた所定の疾患リスク値が割り当てられている、
請求項21記載の疾患リスク予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保険料算出システム及び保険料算出方法に関し、詳しくは、動物の腸内細菌叢のデータを用いて、動物に適した保険料を算出する保険料算出システム及び保険料算出方法並びに疾患リスク予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
犬や猫、ウサギを始めとする愛玩動物、牛や豚を始めとする家畜は、人間にとってかけがえのない存在である。近年、人間が飼育する動物の平均寿命が大幅に伸びた一方で、動物がその一生の中で何らかの傷病を患うことが多くなり、飼育者が負担する医療費の高騰が問題となっている。
【0003】
動物の健康を維持するためには、日頃の食事、運動などを通じた体調管理や不調への素早い対応が重要となるが、動物は、自己の言葉で体の不調を訴えることができないため、症状が進行して、外形的に観察可能な何らかの徴候が生じたときに飼育者が初めて動物の疾患の罹患に気付くのが実情である。また、カルシウムやビタミン不足等によって、筋骨格系が衰えている場合には、外形的な兆候が存在することは稀で、骨折等の怪我を被って初めて動物の異常に気付くのが実情である。
【0004】
動物の医療費の高騰に対応する手段として、ペット保険が普及している。ペット保険の保険料は、加入対象のペットについて将来かかる医療費の予測などに基づいて算出することが望ましいが、ペットの個体ごとの具体的な医療費の予測は難しいことから、当該ペットの品種、年齢、性別などの基礎情報を元に保険料が算出されることが多い。
【0005】
しかしながら、同じ品種、年齢、性別のペットであっても、生活環境や遺伝的背景などの違いから、一生のうちにかかる医療費は個体ごとに大きく異なるものである。そのため、個体によっては、従前の保険料算出方法では、保険料が結果的に割高となってしまうことがある。
【0006】
そこで、簡易な方法で、ペット保険の加入対象となる動物個体に適した保険料を算出することのできる保険料算出システムや保険料算出方法が求められている。
【0007】
特許文献1には、腸内細菌叢中、バクテロイデス門(Bacteroidetes)の細菌を増殖させ、ファーミキューテス門(Firmicutes)の細菌を減少させることによって、腸内細菌叢を有効に調整又は改善する効果を有する腸内細菌叢調整又は改善組成物が開示されているが、動物の腸内細菌叢に関するデータから当該動物が傷病を患うかどうかを予測する方法や、腸内細菌叢のデータを使って保険料を算出する方法については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2017/094892号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、簡易な方法で、ペット保険の加入対象となる動物個体に適した保険料を算出することのできる保険料算出システムや保険料算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ペット保険に加入している動物の腸内細菌叢のデータと、当該動物の保険請求の有無、すなわち傷病の有無についての膨大なデータを分析、検討した結果、動物の腸内細菌叢のデータを用いて、動物ごとに適した保険料の算定、及びユーザが負う金銭的負担(医療費)並びに疾患への罹患リスクを予測することが可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の[1]~[22]である。
[1]保険加入対象動物の腸内細菌叢データを受け付ける取得部と、前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データを用いて、前記保険加入対象動物の保険料を算出する計算部とを有し、前記計算部は、動物の腸内細菌叢データと、腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデル、又は、動物の腸内細菌叢データから当該動物を腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスのうちのいずれかに振り分けるプログラムによって、前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データに基づいて、前記保険加入対象動物を所定のクラスに分類し、前記クラスの分類情報を使用して保険料を算出するものである、保険料算出システム。
[2]前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の動物個体群の各個体間のβ多様性に基づいて、前記クラス分け作成用の動物個体群の各個体をクラス分けして得られたものである[1]の保険料算出システム。
[3]前記クラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラスター分析によるクラスタリング結果である[1]又は[2]の保険料算出システム。
[4]前記β多様性が、Jaccard係数又はHamming距離を含む[2]の保険料算出システム。
[5]前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数を計算し、前記Jaccard係数に基づいてクラス分けを行うことによって得られたものである[4]の保険料算出システム。
[6]前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数を計算し、得られた複数の個体に対するJaccard係数を含むデータについてクラスター分析をすることによって得られたものである[5]の保険料算出システム。
[7]前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数を計算し、得られた複数の個体に対するJaccard係数を含むデータについて次元削減処理を行い、各個体の次元削減処理により得られたデータを2次元グラフ上にプロットし、クラスター分析をすることによって、クラス分けを行うことによって得られたものである[6]の保険料算出システム。
[8]前記クラスター分析が、スペクトラルクタスタリングである[6]の保険料算出システム。
[9]前記学習済みモデルが、教師データとして、クラス分け作成用の動物個体群の各動物個体の腸内細菌叢のデータと、ある動物個体がどのクラスに分類されたかについてのデータを用いて学習を行ったものである[2]の保険料算出システム。
[10]コンピュータが保険加入対象動物の腸内細菌叢データを受け付けるステップと、コンピュータが前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データを用いて、前記保険加入対象動物の保険料を算出するステップとを有し、前記保険加入対象動物の保険料を算出するステップは、コンピュータが、動物の腸内細菌叢データと、腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデル、又は、動物の腸内細菌叢データから当該動物を腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスのうちのいずれかに振り分けるプログラムによって、前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データに基づいて、前記保険加入対象動物を所定のクラスに分類し、前記クラスの分類情報を使用して保険料を算出するステップである、保険料算出方法。
[11]保険加入対象動物の腸内細菌叢データを受け付ける取得部と、前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データを用いて、前記保険加入対象動物の保険料を算出する計算部とを有し、前記計算部は、保険加入対象動物の腸内細菌叢データが、所定のクラスターに属する動物個体の腸内細菌叢のデータが有する特徴を有するか又は所定のクラスターに属する動物個体の腸内細菌叢のデータと類似するデータであるかどうかを判断し、当該判断に基づいて、損害率又は保険料を算出するものであり、前記所定のクラスターは、複数の動物個体の腸内細菌叢のβ多様性に基づいてクラスター分析を行い、前記複数の動物個体を複数のクラスターに分類することによって得られたクラスターである、保険料算出システム。
[12]対象動物の腸内細菌叢データを受け付ける取得部と、前記対象動物の腸内細菌叢データを用いて、前記対象動物の疾患リスクを算出する予測部とを有し、前記予測部は、動物の腸内細菌叢データと、腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデル、又は、動物の腸内細菌叢データから当該動物を腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスのうちのいずれかに振り分けるプログラムによって、前記対象動物の腸内細菌叢データに基づいて、前記対象動物を所定のクラスに分類し、前記クラスの分類情報を使用して疾患リスクを予測するものである、疾患リスク予測システム。
[13]前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の動物個体群の各個体間のβ多様性に基づいて、前記クラス分け作成用の動物個体群の各個体をクラス分けして得られたものである[12]の疾患リスク予測システム。
[14]前記クラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラスター分析によるクラスタリング結果である[12]又は[13]の疾患リスク予測システム。
[15]前記β多様性が、Jaccard係数又はHamming距離を含む[12]の疾患リスク予測システム。
[16]前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数を計算し、前記Jaccard係数に基づいてクラス分けを行うことによって得られたものである[15]の疾患リスク予測システム。
[17]前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数を計算し、得られた複数の個体に対するJaccard係数を含むデータについてクラスター分析をすることによって得られたものである[16]の疾患リスク予測システム。
[18]前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数を計算し、得られた複数の個体に対するJaccard係数を含むデータについて次元削減処理を行い、各個体の次元削減処理により得られたデータを2次元グラフ上にプロットし、クラスター分析をすることによって、クラス分けを行うことによって得られたものである[17]の疾患リスク予測システム。
[19]前記クラスター分析が、スペクトラルクタスタリングである[18]の疾患リスク予測システム。
[20]前記学習済みモデルが、教師データとして、クラス分け作成用の動物個体群の各動物個体の腸内細菌叢のデータと、ある動物個体がどのクラスに分類されたかについてのデータを用いて学習を行ったものである[13]の疾患リスク予測システム。
[21]対象動物の腸内細菌叢データを受け付ける取得部と、前記対象動物の腸内細菌叢データを用いて、前記対象動物の疾患リスクを算出する予測部とを有し、前記予測部は、動物の腸内細菌叢データと、腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデル、又は、動物の腸内細菌叢データから当該動物を腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスのうちのいずれかに振り分けるプログラムによって、前記対象動物の腸内細菌叢データに基づいて、前記対象動物を所定のクラスに分類し、前記クラスの分類情報を使用して疾患リスクを予測するものであり、前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数又はHamming距離を計算し、得られた複数の個体に対するJaccard係数又はHamming距離を含むデータについて次元削減処理を行い、各個体の次元削減処理により得られたデータを2次元グラフ上にプロットし、クラスター分析をすることによって、クラス分けを行うことによって得られたものであり、前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスの各クラスに所定の疾患リスク値が割り当てられている、疾患リスク予測システム。
[22]前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスの各クラスに、各クラスに属する動物個体の腸内細菌叢データのシャノン係数の平均に基づいた所定の疾患リスク値が割り当てられている、[21]の疾患リスク予測システム。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、簡易な方法で、ペット保険の加入対象となる動物個体に適した保険料を算出することのできる保険料算出システム及び保険料算出方法並びに疾患リスク予測システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
[保険料算出システム]
本発明の保険料算出システムは、保険加入対象動物の腸内細菌叢データを受け付ける取得部と、前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データを用いて、前記保険加入対象動物の保険料を算出する計算部とを有し、前記計算部は、動物の腸内細菌叢データと、腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデル、又は、動物の腸内細菌叢データから当該動物を腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスのうちのいずれかに振り分けるプログラムによって、前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データに基づいて、前記保険加入対象動物を所定のクラスに分類し、前記クラスの分類情報を使用して保険料を算出するものである。
【0015】
[取得部]
取得部は、動物の腸内細菌叢のデータを取得する。取得部の構成は特に限定されず、データを受け付ける、或いは、取得するための公知の構成を採用することができる。例えば、インターネット等のネットワークを介して、外部端末やコンピュータからの腸内細菌叢のデータや多様性データの送信、入力を受け付ける構成、インターフェースであってよい。
【0016】
[保険加入対象動物]
保険加入対象動物とは、これからペット保険などの動物向けの保険に加入しようとする動物である。好ましくは、愛玩動物であり、さらに好ましくは、犬、猫、ウサギ、鳥、爬虫類、両生類であり、特に好ましくは、犬、猫又はウサギである。
【0017】
[腸内細菌叢のデータ]
腸内細菌叢のデータとは、動物の腸内に存在する細菌に関するデータであり、細菌の種類、有無、割合、分布等に関するデータが挙げられる。例えば、特定の科、門、属ごとに、その科、門、属に分類される細菌の有無、割合などに関するデータが挙げられる。
腸内細菌叢のデータの測定は、NGSなどのシーケンサーを用いたアンプリコンシーケンス、ショットガンシーケンスなどの公知のメタゲノム解析法や細菌叢の解析方法を用いることができる。例えば、動物から糞便などの試料を採取し、試料中に含まれるあらゆる生物のDNAやRNAの塩基配列情報を次世代シーケンサーを用いて解析することによって、当該試料中に含まれる生物を同定する方法が挙げられる。好ましくは、試料中に含まれる16SrRNA遺伝子の全部又は一部を、必要に応じて増幅して、シーケンスを行い、得られた配列をソフトウェアを用いて解析し、試料中の細菌の組成データを得る方法が挙げられる。
【0018】
NGS(次世代シーケンサー)を利用した16SrRNA遺伝子のアンプリコン解析(メタ16S解析)の一例を具体的に説明する。まず、DNA抽出試薬を用いて試料よりDNAを抽出し、抽出したDNAからPCRによって16SrRNA遺伝子を増幅する。その後、増幅したDNA断片についてNGSを用いて網羅的に塩基配列を決定し、低クオリティリードやキメラ配列の除去を行った後、配列同士をクラスタリングしてOTU(Operational Taxonomic Unit)解析を行う。OTUとは、ある一定以上の類似性(例えば、96~97%以上の相同性)を持つ配列同士を一つの菌種のように扱うための操作上の分類単位である。従って、OTU数は菌叢を構成する菌種の数を表し、同一のOTUに属するリードの数はその種の相対的な存在量を表していると考えられる。また、各OTUに属するリード数の中から代表的な配列を選び、データベース検索により科名や属種名の同定が可能となる。このようにして、特定の科や門に属する菌種数を測定することができる。また、ASV(Amplicon Sequence Variant)による解析も可能である。ASVは、PCRおよびシーケンシング中に生成された誤った配列を除去した後に作成されるため、1塩基単位の配列変異を区別でき、より細かい同定が可能である。本発明の保険料算出システムは、予め測定された腸内細菌叢のデータを用いてもよく、ユーザから糞便サンプルを受領して腸内細菌叢のデータを測定し、そのデータを用いることもできる。予め測定された腸内細菌叢のデータを用いる場合、ユーザは、例えば、腸内細菌の分析業者に糞便サンプルを送付し、腸内細菌叢の測定を依頼し、依頼を受けた分析業者から腸内細菌叢のデータを受領する。ユーザはそのようにして受領した腸内細菌叢のデータを、ユーザ端末を通じて本発明の保険料算出システムに送信することができる。また、依頼を受けた分析業者がユーザに代わって、本発明の保険料算出システムに、腸内細菌叢のデータを送信するという構成であってもよい。
【0019】
腸内細菌叢のデータは、動物の腸内細菌叢の細菌の多様性(α多様性)に関連するデータと紐付けられたものであってもよい。腸内細菌叢の多様性が大きいということは、当該腸内細菌叢に様々な種類の菌が幅広く均等に含まれるということである。多様性の指標、いわゆる多様性指数には幾つかの種類があるが、本発明では公知のいずれのものであってもよい。多様性指数としては、シャノン・ウィナーの多様性指数(以下「シャノンインデックス」と省略する場合がある)、シンプソン指数、シーケンサーにより検出されたユニーク配列の数(Amplicon Sequence Variant: ASV)、OTU(Operational Taxonomic Unit)数、Faith‘s PD、Pielou’s eveness等が挙げられる。
【0020】
[計算部]
本発明の保険料算出システムの計算部は、保険加入対象動物の腸内細菌叢データを用いて、前記保険加入対象動物の保険料を算出するものであり、具体的には、動物の腸内細菌叢データと、腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデル、又は、動物の腸内細菌叢データから当該動物を腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスのうちのいずれかに振り分けるプログラムによって、前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データに基づいて、前記保険加入対象動物を所定のクラスに分類し、前記クラスの分類情報を使用して保険料を算出するものである。計算部は、腸内細菌叢のデータに基づいて損害率を算出し、当該損害率をもとに保険料を算出するものであってもよい。
計算部は、例えば、CPU、GPUなどの演算処理装置やプロセッサーからなり、学習済みモデル又は学習済みモデルを含むソフトウェア、プログラムを用いて保険料を算出する。学習済みモデル又は学習済みモデルを含むソフトウェア、プログラムは、別途記憶装置に記憶されていてよい。
また、学習済みモデルによって保険加入対象動物を所定のクラスに分類する機能を有するソフトウェア、プログラムと、クラスの分類情報を使用して保険料を算出するソフトウェア、プログラムは、別々に構成されていてもよく、統合されていてもよい。動物の腸内細菌叢データから当該動物を腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスのうちのいずれかに振り分けるプログラムは、学習済みモデルを含んでいてもよく含まなくてもよい。このようなプログラムは、例えば、腸内細菌叢のデータ中の特有の菌組成や特徴、所定の菌の有無や含有割合等に応じて、当該動物を所定のクラスのいずれかに振り分ける機能を有するプログラムである。
【0021】
[学習済みモデル]
本発明で用いられる学習済みモデルとしては、人工知能(AI)が好ましい。人工知能(AI)とは、人間の脳が行っている知的な作業をコンピュータで模倣したソフトウェアやシステムであり、具体的には、人間の使う自然言語を理解したり、論理的な推論を行ったり、経験から学習したりするコンピュータプログラムなどのことをいう。人工知能としては、汎用型、特化型のいずれであってもよく、具体的には、ロジスティック回帰、決定木、k平均法、多層パーセプトロン、再帰型ニューラルネットワーク、ディープニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク等の公知のもののいずれであってもよく、公開されているソフトウェアを使用することができる。
【0022】
学習済みモデルを生成するための学習としては、例えば機械学習が挙げられる。
【0023】
学習済みモデルを生成するための学習方法としては、特に制限されず、公開されているソフトウェアを用いることができる。例えば、「サポートベクターマシン入門」(共立出版)等において公開されている公知のサポートベクターマシン法(Support Vector Machine法)等によって学習させてもよい。機械学習としては、教師無し学習及び教師あり学習のいずれでもあり得るが、教師あり学習が好ましい。教師あり学習の手法としては特に限定されず、例えば、決定木(ディシジョン・ツリー)、アンサンブル学習、勾配ブースティング等を挙げることができる。公開されている機械学習のアルゴリズムとしては、例えば、XGBoost、CatBoostやLightGBMが挙げられる。
【0024】
[クラス分け結果]
本発明の学習済みモデルは、動物の腸内細菌叢データと、腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習したものである。
β多様性とは、ある2つのサンプルの多様性の相違度を表す。例えば、2点間の距離として表現される指標であり、距離が大きくなるほど、2つのサンプルの組成が異なるということになる。β多様性としては、Jaccard係数(Jaccard距離)、Dice係数、Simpson係数、Bray-Curtis距離、Hamming距離、Unifrac距離、Unweighted Unifrac距離、Weighted Unifrac距離等が挙げられ、Jaccard係数が好ましい。なお、α多様性とは、ある1つのサンプルにおける多様性を表す。
腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラスとは、例えば、予め用意した複数の動物の個体について、それぞれ腸内細菌叢のデータから、各個体間の腸内細菌叢のβ多様性を計算し、そのβ多様性を用いて、各個体を所定の数のクラスに分けた結果やそれにより得られる各クラスをいい、対象動物の腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果とは、当該対象動物がどのクラスに振り分けられたのかをいう。β多様性は、ある2つのサンプルの多様性の相違度を表すものであるから、例えば、β多様性が近い個体同士で一つのクラスとすれば、腸内細菌叢の組成が近い個体同士で一つのクラスを構成することができる。本発明者等は、そのようなクラス分けをすることにより、クラス分け結果を保険料の算出に用いることができることを見い出した。β多様性を使用してクラス分けをした後に、他のパラメータ、例えば、α多様性を使用して、クラスをまとめて、クラス数を減らしたり、クラスをさらに細分化してもよい。
具体例として、動物の複数個体、例えば10000個体分、の腸内細菌叢のデータを用意し、それぞれの個体間でJaccard係数などのβ多様性を計算する。そして、そのβ多様性を用いて、当該複数の個体、例えば10000個体を、所定の数のクラス、例えばA~Eの5つのクラスにクラス分けをする。クラス分けの基準は、特に限定されず、β多様性の平均の大きさや、後述するように、クラスター分析を行ってクラス分けを行ってもよい。個体数は特に限定されないが、好ましくは、5000個体以上、より好ましくは10000個体以上、さらに好ましくは30000個体以上である。
【0025】
本発明の保険料算出システムにおいては、前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数を計算し、前記Jaccard係数に基づいてクラス分けを行うことによって得られたものであることが好ましい。
【0026】
本発明の保険料算出システムにおいては、前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数を計算し、得られた複数の個体に対するJaccard係数を含むデータについて次元削減処理(次元圧縮処理)を行い、各個体の次元削減処理により得られたデータを2次元グラフ上にプロットし、クラスター分析をすることによって、クラス分けを行うことによって得られたものであることがより好ましい。前記クラスター分析としては、非階層クラスター分析、スペクトラルクタスタリングが挙げられ、スペクトラルクラスタリングが好ましい。次元削減処理の方法としては特に限定されず、UMAP、PCA、t-SNE、PCoA等を挙げることができる。
【0027】
クラス分けにおけるクラスの数は特に限定されず、3~100のいずれであってもよく、3~70のいずれかが好ましく、3~50のいずれかがより好ましい。クラスの数が多いほど、きめ細やかな保険料設定が可能となる一方、あまりクラスの数が多いと計算が煩雑となる。
【0028】
本発明では、ある個体がどのクラスに分類されたかというクラス分け結果と、その個体の腸内細菌叢のデータとの関係を学習した学習済みモデルを使用することで、保険加入対象動物について、他の個体の腸内細菌叢のデータとのβ多様性を逐一計算することなく、クラス分け、そして保険料の算出が可能となる。
このような学習済みモデルは、例えば、教師データとして、クラス分け作成用の動物個体群の各動物個体の腸内細菌叢のデータと、ある動物個体がどのクラスに分類されたかについてのデータを用いて学習を行うことにより生成することができる。上記の具体例でいうと、クラス分け生成用の動物の10000個体のうちの一部もしくは全部の腸内細菌叢のデータと、各個体がA~Eのどのクラスに分類されたかというクラス分け結果とを教師データとして用いることができる。
【0029】
本発明の計算部は、動物の種類や品種ごとに複数の学習済みモデルを使い分けてもよい。例えば、動物の品種ごとに複数の学習済みモデルを使い分ける場合、用いられる学習済みモデルは、特定の品種に対応した学習済みモデルである。そのような学習済みモデルは、特定の品種の動物についての腸内細菌叢のデータと、該動物のクラス分け結果の関係を学習した学習済みモデルである。
【0030】
品種に対応した学習済みモデルとしては、1又は複数の特定の品種に係る動物の腸内細菌叢のデータと、前記動物のクラス分けに関するラベルやデータとを教師データとして用いて学習を行ったものが好ましい。例えば、特定の品種のみを集めた動物の集団の腸内細菌叢のデータと、その動物のクラス分けに関するラベルやデータとを用いて学習を行った学習済みモデルである。この場合の特定の品種のみを集めた動物の集団とは、ひとつの品種、例えば、トイプードルのみの集団であってもよいし、複数の品種、例えば、トイプードル、ポメラニアン及びミニチュア・ダックスフントを含む集団であってもよい。また、複数の品種の場合、大型の品種の腸内細菌叢のデータを用いて学習を行った大型品種用の学習済みモデル、中型の品種の腸内細菌叢のデータを用いて学習を行った中型品種用の学習済みモデル、小型の品種の腸内細菌叢のデータを用いて学習を行った小型品種用の学習済みモデル、超小型の品種の腸内細菌叢のデータを用いて学習を行った超小型品種用の学習済みモデルというように、品種を分類し、各分類に対応した学習済みモデルを備える構成としてもよい。分類としては、例えば、犬の例でいうと、成体(成犬)の平均体重が4kg未満の犬種を超小型犬、4~10kg未満の犬種を小型犬、10~25kg未満の犬種を中型犬、25kg以上の犬種を大型犬というように、平均体重によって分類することができる。その他、体高、体長、遺伝的関係等によって品種を分類してもよい。
【0031】
本発明の計算部が、動物の種類や品種ごとに複数の学習済みモデルを使い分ける場合、本発明のシステムは、例えば、取得部が、動物の基礎情報として、当該動物の種類や品種に関する情報を取得する構成であることが好ましい。あるいは、本発明のシステムが、別途、品種判定部を備える構成であってもよい。品種判定部は、品種判定用の学習済みモデルを用いて、例えば取得部に入力された動物の画像からその動物の品種を判定する手段である。品種判定用の学習済みモデルは、例えば、動物の画像と前記動物の品種との関係を学習した学習済みモデルである。好ましくは、動物の画像とその動物の品種とを教師データとして用いて学習を行い、入力を動物の画像とし、出力をその動物の品種の判定とする学習済みモデルを含む。
【0032】
また、本発明の計算部は、動物の年齢や年齢層ごとに複数の学習済みモデルを使い分けてもよい。年齢層とは、年齢の幅毎の区分であり、具体例として、幼齢(1歳未満)、壮年(1歳~7歳未満)、老齢(7歳以上)などの区分が挙げられる。この区分の方法は特に限定されず、0~3歳未満、3歳~7歳未満、7歳以上といった分類でもよい。本発明の計算部が、動物の年齢や年齢層ごとに複数の学習済みモデルを使い分ける場合、用いられる学習済みモデルは、特定の年齢或いは年齢層に対応した学習済みモデルである。そのような学習済みモデルは、特定の年齢或いは年齢層に属する動物の個体や集団についての腸内細菌叢のデータと、該動物のクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデルである。本発明の計算部が、動物の年齢や年齢層ごとに複数の学習済みモデルを使い分ける場合、本発明のシステムは、例えば、取得部が、動物の基礎情報として、当該動物の年齢に関する情報を取得する構成であることが好ましい。あるいは、本発明のシステムが、別途、年齢判定部を備える構成であってもよい。年齢判定部は、年齢判定用の学習済みモデルを用いて、例えば取得部に入力された動物の画像からその動物の年齢を判定する手段である。年齢判定用の学習済みモデルは、例えば、動物の画像と前記動物の年齢との関係を学習した学習済みモデルである。好ましくは、動物の画像とその動物の年齢とを教師データとして用いて学習を行い、入力を動物の画像とし、出力をその動物の年齢の判定とする学習済みモデルを含む。
【0033】
[クラスの分類情報を用いた保険料の算出]
本発明の保険料算出システムは、保険加入対象動物がどのクラスに分類されたかというクラスの分類情報を使用して保険料を算出する。算出方法は特に限定されず、例えば、予め、各クラスと保険料の対応表を作成しておき、どのクラスに分類されたかに応じて対応する保険料を算出してもよい。また、どのクラスに分類されたかを、加算要素または減算要素とし、品種、年齢、性別、既往歴といった他の基礎情報を加味したうえで、保険料を算出してもよい。また、対応表などに基づいて、どのクラスに分類されたかによって対応する保険料を算出し、その保険料を基礎情報に応じて加算ないし減算することによって、最終的な保険料を算出してもよい。また、クラスの分類情報を使用して算出された保険料を、保険加入対象動物が普段摂取しているフードについての情報や、生活習慣に関する情報を元にして修正し、最終的な保険料を算出するという構成であってもよい。また、各クラスごとに損害率やその平均を計算し、当該損害率に応じて保険料を算出するという構成であってもよい。
【0034】
本発明の計算部の別の態様として、前記計算部は、保険加入対象動物の腸内細菌叢データが、所定のクラスターに属する動物個体の腸内細菌叢のデータが有する特徴を有するか又は所定のクラスターに属する動物個体の腸内細菌叢のデータと類似するデータであるかどうかを判断し、当該判断に基づいて、損害率又は保険料を算出するものであってもよい。この場合、前記所定のクラスターは、複数の動物個体の腸内細菌叢のβ多様性に基づいてクラスター分析を行い、前記複数の動物個体を複数のクラスターに分類することによって得られたクラスターであることが好ましい。例えば、10000個体の動物の腸内細菌叢のデータを用意し、それらのデータをβ多様性に基づいてクラスター分析を行い、所定の数のクラスターに分類する。その結果、あるクラスター(クラスターXと称する)は、腸内細菌として、a菌、b菌、c菌を持つ動物個体が多く含まれており、クラスターXに含まれる動物個体の平均損害率を計算すると、平均損害率がNだとわかるとする。一方、保険加入対象の動物個体の腸内細菌叢のデータを調べ、クラスターXの特徴と同じ特徴、即ち、a菌、b菌、c菌を持つという特徴を有することが分かれば、当該保険加入対象の動物個体は、クラスターXと同じような平均損害率Nとなることが期待される。そして、その損害率の期待値を元にして保険料を算出することができる。
【0035】
[出力]
計算部は、保険加入対象動物の腸内細菌叢のデータからその保険加入対象動物に適した保険料の算出を行う。算出結果の出力の形式は特に限定されない。
本発明の保険料算出システムは、計算部から算出結果を受信し、算出結果を出力する出力部や、通信回線を通じて利用者が使用するパソコンや携帯端末に判定結果を送信する送信部を別途有していてもよい。
【0036】
[保険料算出方法]
本発明の保険料算出方法は、コンピュータが保険加入対象動物の腸内細菌叢データを受け付けるステップと、コンピュータが前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データを用いて、前記保険加入対象動物の保険料を算出するステップとを有し、前記保険加入対象動物の保険料を算出するステップは、コンピュータが、動物の腸内細菌叢データと、腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデル、又は、動物の腸内細菌叢データから当該動物を腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスのうちのいずれかに振り分けるプログラムによって、前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データに基づいて、前記保険加入対象動物を所定のクラスに分類し、前記クラスの分類情報を使用して保険料を算出するステップであることを特徴とするものである。学習済みモデルによって、前記保険加入対象動物の腸内細菌叢データに基づいて、前記保険加入対象動物を所定のクラスに分類するステップと、クラスの分類情報を使用して保険料を算出するステップとは、同一のステップであってもよく、別々のステップとして実行されてもよい。各ステップにおける具体的な用語の意義等は、上記の保険料算出システムにおけるものと同様である。
【0037】
[システムの概要]
図1は、本発明の一実施形態に係る保険料算出システムの概要を説明する図である。
図1に示すように、本実施形態に係る保険料算出システムは、サーバ1とユーザ端末2とを含む。サーバ1及び端末2は、ネットワークを介して接続される。サーバ1は、処理演算部(CPU)10と、記憶部20と、インターフェイス部30とを含む。なお、本発明におけるユーザには、保険加入対象動物の飼い主の他、代理人、ブリーダー、ペット保険などの動物向け保険を提供する保険会社等が含まれる。
【0038】
さらに、処理演算部(CPU)10は、計算部11を含み、記憶部20は、少なくとも設定部21を含み、インターフェイス部30は、取得部31と出力部32から構成される。設定部21は、腸内細菌叢のデータとβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデルあるいは当該学習済みモデルを含むソフトウェアを記憶しているという構成であってもよい。このような構成の場合、計算部11が、動物の基礎情報に基づいて設定部21に記憶されている学習済みモデルあるいは当該学習済みモデルを含むソフトウェアを呼び出し、動物の多様性データに基づいて保険リスク又は保険料を算出することができる。この実施形態では設定部21に学習済みモデルが記憶されている構成としているが、設定部21ではなく、記憶部に学習済みモデルが記憶されているという構成であってもよい。
【0039】
ここで、計算部11は、動物の腸内細菌叢のデータとβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデルに基づいて、保険加入対象動物がどのクラスに分類されるのかを導き出し、当該クラスの分類情報を用いて保険料を計算する。
さらに、取得部31は、腸内細菌叢の多様性データ、好ましくは、さらに愛玩動物の基礎情報を取得してもよく、出力部32は、計算部11が算出した保険料等の情報をユーザに提示する。
【0040】
[保険料算出方法]
図2は、本発明の一実施形態に係る保険料算出方法の概要を説明する図である。
図2に示すように、本実施形態に係る保険料算出方法は、保険加入対象動物の腸内細菌叢のデータを取得するステップS1と、保険加入対象動物の腸内細菌叢のデータから当該保険加入対象動物を所定のクラスに分類するステップS2と、当該クラスの分類情報を用いて保険料を算出するステップS3と、を順に備える。
【0041】
ここで、さらに、保険加入対象動物の基礎情報を取得するステップをさらに備えることが好ましく、保険加入対象動物の基礎情報に基づいて保険リスクや保険料を修正することが好ましい。或いは、基礎情報に基づいて仮の保険料を一度算出し、その後学習済みモデルが算出した保険リスクを用いて、仮の保険料を修正し、最終的な保険料を計算することも好ましい。保険加入対象動物の基礎情報を使用することで、より適した保険料を算出することができる。このように、基礎情報に基づく仮の保険料を、クラスの分類情報を用いて導き出された保険リスクを加味して修正する場合、仮の保険料を0.5~2.0倍の間で修正することが好ましい。また、基礎情報に基づいて予想される医療費を一旦算出し、その医療費を、クラスの分類情報に基づいて導き出される保険リスクに応じて修正して得られる医療費に基づいて保険料を算出してもよい。
【0042】
さらに、保険加入対象動物が普段摂取しているフードの情報に基づいて、保険加入対象動物の将来的な保険リスクを予想するステップを備えていてもよい。保険加入対象動物が食べるフードによって腸内細菌叢のα多様性が上がるため、フードの情報を加味することで、より精緻な保険料の算出が期待できる。
【0043】
なお、保険料は、一般的には、動物の医療費に保険会社の負担率を掛け合せ、更に保険会社の手数料・運営費等を加えたものである。したがって、上記保険料算出システムが保険料を算出するのと同様の方法で、ユーザが負う金銭的負担(医療費)を予測することが可能である。
【0044】
[疾患リスク予測システム]
本発明の疾患リスク予測システムは、対象動物の腸内細菌叢データを受け付ける取得部と、前記対象動物の腸内細菌叢データを用いて、前記対象動物の疾患リスクを予測する予測部とを有し、前記予測部は、動物の腸内細菌叢データと、腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデル、又は、動物の腸内細菌叢データから当該動物を腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスのうちのいずれかに振り分けるプログラムによって、前記対象動物の腸内細菌叢データに基づいて、前記対象動物を所定のクラスに分類し、前記クラスの分類情報を使用して疾患リスクを予測するものである。
【0045】
[疾患]
本発明において対象となる疾患の種類は特に限定されず、例えば、皮膚系疾患、耳科系疾患、筋骨格系疾患、眼科系疾患、消化器系疾患、全身性疾患、泌尿器系疾患、肝・胆道系及び膵臓系疾患、循環器系疾患、神経系疾患、呼吸器系疾患、歯及び口腔系疾患、内分泌系疾患、生殖器系疾患、血液及び造血器系疾患が挙げられる。
皮膚系疾患としては、例えば、皮膚炎、アトピー性皮膚炎、膿皮症が挙げられる。
耳科系疾患としては、例えば、外耳炎、中耳炎が挙げられる。
筋骨格系疾患としては、例えば、膝蓋骨脱臼、椎間板ヘルニアが挙げられる。
眼科系疾患としては、例えば、結膜炎、目やに、角膜炎、角膜潰瘍/びらん、流涙症、白内障、緑内障が挙げられる。
消化器系疾患としては、例えば、胃炎、腸炎が挙げられる。
全身性疾患としては、例えば、元気喪失、虚脱が挙げられる。
泌尿器系疾患としては、例えば、膀胱炎、尿石症が挙げられる。
肝・胆道系及び膵臓系疾患としては、例えば、胆泥症、慢性腎不全が挙げられる。
循環器系疾患としては、例えば、弁膜症、心筋症が挙げられる。
神経系疾患としては、例えば、てんかん、痙攣発作が挙げられる。
呼吸器系疾患としては、例えば、発咳、鼻炎、気管虚脱、気管支狭窄が挙げられる。
歯及び口腔系疾患としては、例えば、歯周病、口内炎が挙げられる。
内分泌系疾患としては、例えば、甲状腺機能低下症、糖尿病が挙げられる。
生殖器系疾患としては、例えば、乳腺腫瘍、亀頭炎が挙げられる。
血液及び造血器系疾患としては、例えば、リンパ組織の腫瘍、血小板減少症が挙げられる。
【0046】
疾患リスク予測システムの取得部は、上記保険料算出システムの取得部と同様である。
【0047】
[対象動物]
対象動物とは、疾患リスクの予測の対象となる動物である。例えば、疾患リスク予測システムの利用者、ユーザー又はその被代理人が飼育、管理する愛玩動物、家畜である。好ましくは、愛玩動物であり、さらに好ましくは、犬、猫、ウサギ、鳥、爬虫類、両生類であり、特に好ましくは、犬、猫又はウサギである。
【0048】
[腸内細菌叢のデータ]
腸内細菌叢のデータは、上記保険料算出システムにおける腸内細菌叢のデータと同様である。
【0049】
[予測部]
本発明の疾患リスク予測システムの予測部は、対象動物の腸内細菌叢データを用いて、前記対象動物の疾患リスクを予測するものであり、具体的には、動物の腸内細菌叢データと、腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデル、又は、動物の腸内細菌叢データから当該動物を腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスのうちのいずれかに振り分けるプログラムによって、前記対象動物の腸内細菌叢データに基づいて、前記対象動物を所定のクラスに分類し、前記クラスの分類情報を使用して疾患リスクを予測するものである。予測部は、腸内細菌叢のデータに基づいて損害率を算出し、当該損害率をもとに疾患リスクを算出するものであってもよい。
予測部は、例えば、CPU、GPUなどの演算処理装置やプロセッサーからなり、学習済みモデル又は学習済みモデルを含むソフトウェア、プログラムを用いて疾患リスクを予測する。学習済みモデル又は学習済みモデルを含むソフトウェア、プログラムは、別途記憶装置に記憶されていてよい。
また、学習済みモデルによって対象動物を所定のクラスに分類する機能を有するソフトウェア、プログラムと、クラスの分類情報を使用して疾患リスクを予測するソフトウェア、プログラムは、別々に構成されていてもよく、統合されていてもよい。動物の腸内細菌叢データから当該動物を腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスのうちのいずれかに振り分けるプログラムは、好ましくは、学習済みモデルを含まない。このようなプログラムは、例えば、腸内細菌叢のデータ中の特有の菌組成や特徴、所定の菌の有無や含有割合等に応じて、当該動物を所定のクラスのいずれかに振り分けることのできる機能を有するプログラムである。
【0050】
[学習済みモデル]
学習済みモデルについては、上記保険料算出システムにおける学習済みモデルと同様である。
【0051】
[クラス分け結果]
本発明の疾患リスク予測システムにおける学習済みモデルは、動物の腸内細菌叢データと、腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習したものである。
β多様性とは、ある2つのサンプルの多様性の相違度を表す。例えば、2点間の距離として表現される指標であり、距離が大きくなるほど、2つのサンプルの組成が異なるということになる。β多様性としては、Jaccard係数(Jaccard距離)、Dice係数、Simpson係数、Bray-Curtis距離、Hamming距離、Unifrac距離、Unweighted Unifrac距離、Weighted Unifrac距離等が挙げられ、Jaccard係数が好ましい。なお、α多様性とは、ある1つのサンプルにおける多様性を表す。
腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラスとは、例えば、予め用意した複数の動物の個体について、それぞれ腸内細菌叢のデータから、各個体間の腸内細菌叢のβ多様性を計算し、そのβ多様性を用いて、各個体を所定の数のクラスに分けた結果やそれにより得られる各クラスをいい、対象動物の腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果とは、当該対象動物がどのクラスに振り分けられたのかをいう。β多様性は、ある2つのサンプルの多様性の相違度を表すものであるから、例えば、β多様性が近い個体同士で一つのクラスとすれば、腸内細菌叢の組成が近い個体同士で一つのクラスを構成することができる。本発明者等は、そのようなクラス分けをすることにより、クラス分け結果を疾患リスクの予測に用いることができることを見い出した。β多様性を使用してクラス分けをした後に、他のパラメータ、例えば、α多様性を使用して、クラスをまとめて、クラス数を減らしたり、クラスをさらに細分化してもよい。
具体例として、動物の複数個体、例えば10000個体分、の腸内細菌叢のデータを用意し、それぞれの個体間でJaccard係数又はHamming距離などのβ多様性を計算する。そして、そのβ多様性を用いて、当該複数の個体、例えば10000個体を、所定の数のクラス、例えばA~Eの5つのクラスにクラス分けをする。クラス分けの基準は、特に限定されず、β多様性の平均の大きさや、後述するように、クラスター分析を行ってクラス分けを行ってもよい。個体数は特に限定されないが、好ましくは、5000個体以上、より好ましくは10000個体以上、さらに好ましくは30000個体以上である。
【0052】
本発明の疾患リスク予測システムにおいては、前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数を計算し、前記Jaccard係数に基づいてクラス分けを行うことによって得られたものであることが好ましい。
【0053】
本発明の疾患リスク予測システムにおいては、前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数を計算し、得られた複数の個体に対するJaccard係数を含むデータについて次元削減処理(次元圧縮処理)を行い、各個体の次元削減処理により得られたデータを2次元グラフ上にプロットし、クラスター分析をすることによって、クラス分けを行うことによって得られたものであることがより好ましい。前記クラスター分析としては、非階層クラスター分析、スペクトラルクタスタリングが挙げられ、スペクトラルクラスタリングが好ましい。次元削減処理の方法としては特に限定されず、UMAP、PCA、t-SNE、PCoA等を挙げることができる。
【0054】
クラス分けにおけるクラスの数は特に限定されず、3~100のいずれであってもよく、3~70のいずれかが好ましく、3~50のいずれかがより好ましい。クラスの数が多いほど、きめ細やかな疾患リスクの予測が可能となる一方、あまりクラスの数が多いと計算が煩雑となる。
【0055】
本発明の疾患リスク予測システムでは、ある個体がどのクラスに分類されたかというクラス分け結果と、その個体の腸内細菌叢のデータとの関係を学習した学習済みモデルを使用することで、対象動物について、他の個体の腸内細菌叢のデータとのβ多様性を逐一計算することなく、クラス分け、そして疾患リスクの予測が可能となる。
このような学習済みモデルは、例えば、教師データとして、クラス分け作成用の動物個体群の各動物個体の腸内細菌叢のデータと、ある動物個体がどのクラスに分類されたかについてのデータを用いて学習を行うことにより生成することができる。上記の具体例でいうと、クラス分け生成用の動物の10000個体のうちの一部もしくは全部の腸内細菌叢のデータと、各個体がA~Eのどのクラスに分類されたかというクラス分け結果とを教師データとして用いることができる。
【0056】
本発明の予測部は、動物の種類や品種ごとに複数の学習済みモデルを使い分けてもよい。例えば、動物の品種ごとに複数の学習済みモデルを使い分ける場合、用いられる学習済みモデルは、特定の品種に対応した学習済みモデルである。そのような学習済みモデルは、特定の品種の動物についての腸内細菌叢のデータと、該動物のクラス分け結果の関係を学習した学習済みモデルである。
【0057】
品種に対応した学習済みモデルとしては、1又は複数の特定の品種に係る動物の腸内細菌叢のデータと、前記動物のクラス分けに関するラベルやデータとを教師データとして用いて学習を行ったものが好ましい。例えば、特定の品種のみを集めた動物の集団の腸内細菌叢のデータと、その動物のクラス分けに関するラベルやデータとを用いて学習を行った学習済みモデルである。この場合の特定の品種のみを集めた動物の集団とは、ひとつの品種、例えば、トイプードルのみの集団であってもよいし、複数の品種、例えば、トイプードル、ポメラニアン及びミニチュア・ダックスフントを含む集団であってもよい。また、複数の品種の場合、大型の品種の腸内細菌叢のデータを用いて学習を行った大型品種用の学習済みモデル、中型の品種の腸内細菌叢のデータを用いて学習を行った中型品種用の学習済みモデル、小型の品種の腸内細菌叢のデータを用いて学習を行った小型品種用の学習済みモデル、超小型の品種の腸内細菌叢のデータを用いて学習を行った超小型品種用の学習済みモデルというように、品種を分類し、各分類に対応した学習済みモデルを備える構成としてもよい。分類としては、例えば、犬の例でいうと、成体(成犬)の平均体重が4kg未満の犬種を超小型犬、4~10kg未満の犬種を小型犬、10~25kg未満の犬種を中型犬、25kg以上の犬種を大型犬というように、平均体重によって分類することができる。その他、体高、体長、遺伝的関係等によって品種を分類してもよい。
【0058】
本発明の予測部が、動物の種類や品種ごとに複数の学習済みモデルを使い分ける場合、本発明の疾患リスク予測システムは、例えば、取得部が、動物の基礎情報として、当該動物の種類や品種に関する情報を取得する構成であることが好ましい。あるいは、本発明の疾患リスク予測システムが、別途、品種判定部を備える構成であってもよい。品種判定部は、品種判定用の学習済みモデルを用いて、例えば取得部に入力された動物の画像からその動物の品種を判定する手段である。品種判定用の学習済みモデルは、例えば、動物の画像と前記動物の品種との関係を学習した学習済みモデルである。好ましくは、動物の画像とその動物の品種とを教師データとして用いて学習を行い、入力を動物の画像とし、出力をその動物の品種の判定とする学習済みモデルを含む。
【0059】
また、本発明の予測部は、動物の年齢や年齢層ごとに複数の学習済みモデルを使い分けてもよい。年齢層とは、年齢の幅毎の区分であり、具体例として、幼齢(1歳未満)、壮年(1歳~7歳未満)、老齢(7歳以上)などの区分が挙げられる。この区分の方法は特に限定されず、0~3歳未満、3歳~7歳未満、7歳以上といった分類でもよい。本発明の予測部が、動物の年齢や年齢層ごとに複数の学習済みモデルを使い分ける場合、用いられる学習済みモデルは、特定の年齢或いは年齢層に対応した学習済みモデルである。そのような学習済みモデルは、特定の年齢或いは年齢層に属する動物の個体や集団についての腸内細菌叢のデータと、該動物のクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデルである。本発明の予測部が、動物の年齢や年齢層ごとに複数の学習済みモデルを使い分ける場合、本発明の疾患リスク予測システムは、例えば、予測部が、動物の基礎情報として、当該動物の年齢に関する情報を取得する構成であることが好ましい。あるいは、本発明の疾患リスク予測システムが、別途、年齢判定部を備える構成であってもよい。年齢判定部は、年齢判定用の学習済みモデルを用いて、例えば取得部に入力された動物の画像からその動物の年齢を判定する手段である。年齢判定用の学習済みモデルは、例えば、動物の画像と前記動物の年齢との関係を学習した学習済みモデルである。好ましくは、動物の画像とその動物の年齢とを教師データとして用いて学習を行い、入力を動物の画像とし、出力をその動物の年齢の判定とする学習済みモデルを含む。
【0060】
[クラスの分類情報を用いた疾患リスクの予測]
本発明の疾患リスク予測システムは、対象動物がどのクラスに分類されたかというクラスの分類情報を使用してその動物の疾患リスクを予測する。予測方法は特に限定されず、例えば、予め、各クラスと疾患罹患可能性の数値や高低の対応表を作成しておき、どのクラスに分類されたかに応じて対応する疾患リスクの有無や数値(例えば、リスクの大きさに応じた段階分けの数値)、確率(%)、高低を判定ないし予測してもよい。また、どのクラスに分類されたかを、疾患リスクの加算要素または減算要素とし、品種、年齢、性別、既往歴といった他の基礎情報を加味したうえで、疾患リスクを予測してもよい。また、対応表などに基づいて、どのクラスに分類されたかによって対応する疾患リスクの有無、確率、高低を算出し、その疾患リスクの有無、確率又は高低を基礎情報に応じて加算ないし減算することによって、最終的な疾患リスクの有無、確率又は高低を算出してもよい。また、クラスの分類情報を使用して算出された疾患リスクを、対象動物が普段摂取しているフードについての情報や、生活習慣に関する情報を元にして修正し、最終的な疾患リスクを算出するという構成であってもよい。また、各クラスごとに損害率やその平均を計算し、当該損害率に応じて疾患リスクを算出するという構成であってもよい。
【0061】
本発明の予測部の別の態様として、前記予測部は、対象動物の腸内細菌叢データが、所定のクラスターに属する動物個体の腸内細菌叢のデータが有する特徴を有するか又は所定のクラスターに属する動物個体の腸内細菌叢のデータと類似するデータであるかどうかを判断し、当該判断に基づいて、損害リスクや疾患リスクを算出するものであってもよい。この場合、前記所定のクラスターは、複数の動物個体の腸内細菌叢のβ多様性に基づいてクラスター分析を行い、前記複数の動物個体を複数のクラスターに分類することによって得られたクラスターであることが好ましい。例えば、10000個体の動物の腸内細菌叢のデータを用意し、それらのデータをβ多様性に基づいてクラスター分析を行い、所定の数のクラスターに分類する。その結果、あるクラスター(クラスターXと称する)は、腸内細菌として、a菌、b菌、c菌を持つ動物個体が多く含まれており、クラスターXに含まれる動物個体の平均損害率を計算すると、平均損害率がNだとわかるとする。一方、対象の動物個体の腸内細菌叢のデータを調べ、クラスターXの特徴と同じ特徴、即ち、a菌、b菌、c菌を持つという特徴を有することが分かれば、当該対象の動物個体は、クラスターXと同じような平均損害率Nや疾患リスクとなることが期待される。そして、その損害率の期待値を元にして疾患リスクを算出することができる。
【0062】
[出力]
予測部は、対象動物の腸内細菌叢のデータからその対象動物に適した疾患リスクの算出を行う。予測結果の出力の形式は特に限定されない。
本発明の疾患リスク予測システムは、予測部から予測結果を受信し、予測結果を出力する出力部や、通信回線を通じて利用者が使用するパソコンや携帯端末に判定結果を送信する送信部を別途有していてもよい。
【0063】
本発明の別の態様の疾患リスク予測システムは、対象動物の腸内細菌叢データを受け付ける取得部と、前記対象動物の腸内細菌叢データを用いて、前記対象動物の疾患リスクを算出する予測部とを有し、前記予測部は、動物の腸内細菌叢データと、腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデル、又は、動物の腸内細菌叢データから当該動物を腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスのうちのいずれかに振り分けるプログラムによって、前記対象動物の腸内細菌叢データに基づいて、前記対象動物を所定のクラスに分類し、前記クラスの分類情報を使用して疾患リスクを予測するものであり、前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスが、クラス分け作成用の複数の動物個体の腸内細菌叢のデータを用意し、当該複数の動物個体のそれぞれについて、他の動物個体の腸内細菌叢とのJaccard係数又はHamming距離を計算し、得られた複数の個体に対するJaccard係数又はHamming距離を含むデータについて次元削減処理を行い、各個体の次元削減処理により得られたデータを2次元グラフ上にプロットし、クラスター分析をすることによって、クラス分けを行うことによって得られたものであり、前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスの各クラスに所定の疾患リスク値が割り当てられていることを特徴とするものである。
この態様の疾患リスク予測システムは、前記腸内細菌叢のβ多様性を用いたクラス分け結果におけるクラス、又は、前記腸内細菌叢のβ多様性に基づき設定されたクラスの各クラスに、各クラスに属する動物個体の腸内細菌叢データのシャノン係数の平均に基づいた所定の疾患リスク値が割り当てられていることが好ましい。この態様の疾患リスク予測システムは、腸内細菌叢のデータと保険金支払いデータや損害率などのデータとの紐付けずに基づかずに、疾患リスクの予測を可能にするものである。
【0064】
[疾患リスク予測システムの概要]
図7は、本発明の一実施形態に係る疾患リスク予測システムの概要を説明する図である。
図7に示すように、本実施形態に係る疾患リスクシステムは、サーバ1とユーザ端末2とを含む。サーバ1及び端末2は、ネットワークを介して接続される。サーバ1は、処理演算部(CPU)10と、記憶部20と、インターフェイス部30とを含む。なお、本発明におけるユーザには、対象動物の飼い主の他、代理人、ブリーダー、ペット保険などの動物向け保険を提供する保険会社等が含まれる。
【0065】
さらに、処理演算部(CPU)10は、予測部12を含み、記憶部20は、少なくとも設定部22を含み、インターフェイス部30は、取得部31と出力部32から構成される。設定部22は、腸内細菌叢のデータとβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデルあるいは当該学習済みモデルを含むソフトウェアを記憶しているという構成であってもよい。このような構成の場合、予測部12が、動物の基礎情報に基づいて設定部22に記憶されている学習済みモデルあるいは当該学習済みモデルを含むソフトウェアやプログラムを呼び出し、動物の腸内細菌叢データに基づいて疾患リスクを予測することができる。この実施形態では設定部22に学習済みモデルが記憶されている構成としているが、設定部22ではなく、記憶部に学習済みモデルが記憶されているという構成であってもよい。
【0066】
ここで、予測部12は、動物の腸内細菌叢のデータとβ多様性を用いたクラス分け結果との関係を学習した学習済みモデルに基づいて、対象動物がどのクラスに分類されるのかを導き出し、当該クラスの分類情報を用いて疾患リスクを予測する。
さらに、取得部31は、腸内細菌叢の多様性データ、好ましくは、さらに愛玩動物の基礎情報を取得してもよく、出力部32は、予測部12が算出した疾患リスク等の情報をユーザに提示する。
【0067】
[疾患リスク予測方法]
図8は、本発明の一実施形態に係る疾患リスク予測方法の概要を説明する図である。
図8に示すように、本実施形態に係る疾患リスク予測方法は、対象動物の腸内細菌叢のデータを取得するステップS11と、対象動物の腸内細菌叢のデータから当該対象動物を所定のクラスに分類するステップS21と、当該クラスの分類情報を用いて疾患リスクを算出するステップS31と、を順に備える。
【0068】
ここで、さらに、対象動物の基礎情報を取得するステップをさらに備えることが好ましく、対象動物の基礎情報に基づいて疾患リスクを修正することが好ましい。或いは、基礎情報に基づいて仮の疾患リスクを一度算出し、その後学習済みモデルが算出した疾患リスクを用いて、仮の疾患リスクを修正し、最終的な疾患リスクを計算することも好ましい。対象動物の基礎情報を使用することで、より正確な疾患リスクを算出することができる。このように、基礎情報に基づく仮の疾患リスクを、クラスの分類情報を用いて導き出された疾患リスクを加味して修正する場合、仮の疾患リスクの数値を0.5~2.0倍の間で修正することが好ましい。
【0069】
さらに、対象動物が普段摂取しているフードの情報に基づいて、対象動物の将来的な疾患リスクを予想するステップを備えていてもよい。対象動物が食べるフードによって腸内細菌叢のα多様性が上がるため、フードの情報を加味することで、より精緻な疾患リスクの算出が期待できる。
【実施例0070】
以下本発明の実施例を示す。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
【0071】
(犬の選定)
0歳の犬の47578個体について、以下に記載するように、糞便試料から腸内細菌叢のデータを取得した。
【0072】
(糞便試料からのDNA抽出)
以下のようにして、各犬から糞便試料を採取し、DNAを抽出した。
犬の飼育者が糞便の採取キットを用いて、犬の糞便試料を採取した。当該糞便試料を受領し、固定液(10%EtOH、1.07%NH4Cl、5mM EDTA、0.09%NaN3)に懸濁した。
次に、糞便懸濁液200 uLとLysis buffer(224 ug/mLのProtenaseKを含む)810 uLをビーズチューブに添加し、ビーズ式ホモジナイザーにてビーズ破砕(6,000 rpm、破砕20秒、インターバル30秒、破砕20秒)を行った。その後、検体を70℃のヒートブロック上にて10分間静置することでProtenase Kによる処理を行い、続いて95℃のヒートブロック上にて5分間静置することでProtenase Kを不活化した。溶菌処理を行った検体はchemagic 360(PerkinElmer)を用い、chemagicキットstool用プロトコルにてDNAの自動抽出を行い、100 uLのDNA抽出液を得た。
【0073】
(メタ16SRNA遺伝子シーケンス解析)
メタ16Sシーケンス解析はillumina 16S Metagenomic Sequencing Library Preparation(バージョン15044223 B)を改変して行った。まず、16S rRNA遺伝子の可変領域V3-V4を含む460 bpの領域をユニバーサルプライマー(Illumina_16S_341FおよびIllumina_16S_805RPCR)を用いたPCRで増幅した。PCR反応液は10 uLのDNA抽出液、0.05 uLの各プライマー(100 uM)、12.5 uLの2x KAPA HiFi Hot-Start ReadyMix(F. Hoffmann-La Roche、Switzerland)、2.4 uLのPCR grade waterを混合して調製した。PCRには95℃ 3分間の熱変性後、95℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 30秒のサイクルを30回繰り返し、最後に72℃ 5分の伸長反応を行った。増幅産物は磁気ビーズを用いて精製し、50 uLのBuffer EB(QIAGEN、Germany)で溶出した。精製後の増幅産物はNextera XT Index Kit v2(illumina、CA、US)を用いてPCRを行い、インデックスを付加した。PCR反応液は2.5 uLの増幅産物、2.5 uLの各プライマー、12.5 uLの2x KAPA HiFi Hot-Start ReadyMix、5 uLのPCR grade waterを混合して調製した。PCRには95℃ 3分間の熱変性後、95℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 30秒のサイクルを12回繰り返し、最後に72℃ 5分の伸長反応を行った。インデックス付加を行った増幅産物は磁気ビーズを用いて精製し、80-105 uLのBuffer EBで溶出した。各増幅産物の濃度はNanoPhotometer(Implen、CA、US)で測定し、1.4 nMに調製した後、等量ずつ混合し、これをシーケンス用ライブラリーとした。シーケンス用ライブラリーのDNA濃度および増幅産物のサイズを電気泳動にて確認し、これをMiSeqにより解析した。解析にはMiSeq Reagent Kit V3を用い、2×300 bpのペアエンドシーケンスを行った。得られた配列はQIIME2という解析ソフトウェアにて解析し、細菌の組成データを得た。
上記で用いたユニバーサルプライマーの配列は以下のとおりである。このユニバーサルプライマーは市販されているものを購入することができる。
Illumina_16S_341F
5′-TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAGCCTACGGGNGGCWGCAG- 3’
llumina_16S_805R
5′-GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAGGACTACHVGGGTATCTAATCC- 3’
【0074】
次に、47578個体それぞれについて、他の個体の腸内細菌叢の細菌の組成データとのJaccard係数を計算した。これにより、47578個体それぞれについて、自分以外の47577個体分のJaccard係数が得られた。
その後、47578個体それぞれについて、Jaccard係数を含むデータを、UMAPによって次元削減処理を行い、2次元データとし、2次元グラフにプロットした。結果を
図3に示す。
そして、スペクトラルクラスタリングにより、47578個体を50個のクラスに分けた。クラス分け結果を示す図を、
図4に示す。
図4中、各クラスを示す枠内に記載された数値は、そのクラスに含まれる個体の損害率の平均を示す。
【0075】
比較例として、47578個体それぞれについてシャノンインデックス(α多様性の一種)を計算し、シャノンインデックスの大きい順に並べて、上から順に50個のクラスに分けた(50個のクラスに含まれる個体の数がほぼ等しくなるようにクラス分けを行った。)。そして便宜のため、50個のクラスに0~49のラベルを割り当てた。
【0076】
実施例、比較例のそれぞれのクラスについて、そのクラスに含まれる個体の損害率の平均を計算した。そのうち、最も損害率の平均が高かったクラス(クラス0)、最も損害率が低かったクラス(クラス49)、参考として損害率の平均がクラス0とクラス49の間に含まれるクラス(クラス24)の結果を
図5に示す。その結果、実施例の方が、クラス0とクラス49の損害率の差がより顕著になることがわかった。これにより、本発明のクラス分けを行うことにより、腸内細菌叢のデータから、リスクが高い個体とリスクが低い個体をより明確に分類できるようになることがわかった。損害率は、損害保険における収入保険料に対して支払った保険金の割合のことであり、保険金(Loss)を保険料(Premium)で割ることにより計算される。
【0077】
[実施例2]
【0078】
(犬の選定)
上記実施例1と同様にして、0歳の犬の46508個体、1歳の犬の34012個体、2~3歳の犬の42614個体、4~6歳の犬の35484個体、7歳以上の犬の24768個体のそれぞれについて、糞便試料から腸内細菌叢のデータを取得した。
【0079】
次に、0歳の犬の46508個体それぞれについて、他の個体の腸内細菌叢の細菌の組成データとのJaccard係数を計算した。これにより、46508個体それぞれについて、自分以外の46507個体分のJaccard係数が得られた。
その後、46508個体それぞれについて、Jaccard係数を含むデータを、UMAPによって次元削減処理を行い、2次元データとし、2次元グラフにプロットした。
そして、スペクトラルクラスタリングにより、46508個体を50個のクラスに分けた。クラス分けを示す図を、
図9A~
図9Dに示す。
図9中、各クラスを示す枠内に記載された数値は、そのクラスに含まれる個体の保険金請求割合を示す。保険金請求割合は、ペット保険の保険金請求データを用いて算出したものであり、保険金請求の理由となった疾患ごとに、各クラスに属する個体で所定期間内(180日間)に当該疾患を理由に保険金請求のあった個体数/各クラスに属する個体の数、により計算されたものである。
図9Aが皮膚疾患の保険金請求割合、
図9Bが糖尿病の保険金請求割合、
図9Cが歯周病の保険金請求割合、
図9Dが心臓弁膜症の保険金請求割合のクラスごとの値を示す図である。
図9A~
図9Dから、各疾患について、各クラス間で保険金請求割合が大きく異なっていることが分かる。これにより、ある動物個体が腸内細菌叢のデータからどのクラスに振り分けられるかによって、その動物個体が、ある疾患を起こすリスクが高いのかそうではないのかを判定、予測することができる。
【0080】
1歳の犬の34012個体、2~3歳の犬の42614個体、4~6歳の犬の35484個体、7歳以上の犬の24768個体についても同様に、各年齢区分に属する個体群の中で、Jaccard係数の計算、UMAPによる次元削減処理、グラフへのプロット及びスペクトラルクラスタリングを行った。それぞれの年齢区分についてのクラス分けを示す図を、
図10~
図13に示す。
【0081】
図10A~
図10Dは、1歳の犬の34012個体についてクラス分けを行い、各クラスについて特定の疾患に関する保険金請求割合を示すものであり、
図10Aが皮膚疾患の保険金請求割合、
図10Bが糖尿病の保険金請求割合、
図10Cが歯周病の保険金請求割合、
図10Dが心臓弁膜症の保険金請求割合のクラスごとの値を示す図である。
図10A~
図10Dから、各疾患について、各クラス間で保険金請求割合が大きく異なっていることが分かる。これにより、ある動物個体が腸内細菌叢のデータからどのクラスに振り分けられるかによって、その動物個体が、ある疾患を起こすリスクが高いのかそうではないのかを判定、予測することができる。
【0082】
図11A~
図11Dは、2~3歳の犬の42614個体についてクラス分けを行い、各クラスについて特定の疾患に関する保険金請求割合を示すものであり、
図11Aが皮膚疾患の保険金請求割合、
図11Bが糖尿病の保険金請求割合、
図11Cが歯周病の保険金請求割合、
図11Dが心臓弁膜症の保険金請求割合のクラスごとの値を示す図である。
図11から、各疾患について、各クラス間で保険金請求割合が大きく異なっていることが分かる。これにより、ある動物個体が腸内細菌叢のデータからどのクラスに振り分けられるかによって、その動物個体が、ある疾患を起こすリスクが高いのかそうではないのかを判定、予測することができる。
【0083】
図12A~
図12Dは、4~6歳の犬の35484個体についてクラス分けを行い、各クラスについて特定の疾患に関する保険金請求割合を示すものであり、
図12Aが皮膚疾患の保険金請求割合、
図12Bが糖尿病の保険金請求割合、
図12Cが歯周病の保険金請求割合、
図12Dが心臓弁膜症の保険金請求割合のクラスごとの値を示す図である。
図12A~
図12Dから、各疾患について、各クラス間で保険金請求割合が大きく異なっていることが分かる。これにより、ある動物個体が腸内細菌叢のデータからどのクラスに振り分けられるかによって、その動物個体が、ある疾患を起こすリスクが高いのかそうではないのかを判定、予測することができる。
【0084】
図13A~
図13Dは、7歳以上の犬の24768個体についてクラス分けを行い、各クラスについて特定の疾患に関する保険金請求割合を示すものであり、
図13Aが皮膚疾患の保険金請求割合、
図13Bが糖尿病の保険金請求割合、
図13Cが歯周病の保険金請求割合、
図13Dが心臓弁膜症の保険金請求割合のクラスごとの値を示す図である。
図13A~
図13Dから、各疾患について、各クラス間で保険金請求割合が大きく異なっていることが分かる。これにより、ある動物個体が腸内細菌叢のデータからどのクラスに振り分けられるかによって、その動物個体が、ある疾患を起こすリスクが高いのかそうではないのかを判定、予測することができる。
【0085】
[実施例3]
【0086】
(猫の選定)
上記実施例1と同様にして、0歳の猫の16729個体、1歳の猫の12575個体、2~3歳の猫の13938個体、4~6歳の猫の10509個体、7歳以上の猫の7174個体のそれぞれについて、糞便試料から腸内細菌叢のデータを取得した。
【0087】
次に、0歳の猫の16729個体それぞれについて、他の個体の腸内細菌叢の細菌の組成データとのJaccard係数を計算した。これにより、16729個体それぞれについて、自分以外の16728個体分のJaccard係数が得られた。
その後、16729個体それぞれについて、Jaccard係数を含むデータを、UMAPによって次元削減処理を行い、2次元データとし、2次元グラフにプロットした。
そして、スペクトラルクラスタリングにより、16729個体を50個のクラスに分けた。クラス分けを示す図を、
図14Aに示す。
図14中、各クラスを示す枠内に記載された数値は、そのクラスに含まれる個体の腎臓病を理由とする保険金請求割合を示す。保険金請求割合は、ペット保険の保険金請求データを用いて算出したものであり、保険金請求の理由となった疾患ごとに、各クラスに属する個体で所定期間内(180日間)に当該疾患を理由に保険金請求のあった個体数/各クラスに属する個体の数、により計算されたものである。
また、1歳の猫の12575個体、2~3歳の猫の13938個体、4~6歳の猫の10509個体、7歳以上の猫の7174個体についても同様に、各年齢区分に属する個体群の中で、Jaccard係数の計算、UMAPによる次元削減処理、グラフへのプロット及びスペクトラルクラスタリングを行った。それぞれの年齢区分についてのクラス分けを示す図を、
図14B~
図14Eに示す。
図14Aが、0歳の猫の16729個体の各クラスごとの腎臓病の保険金請求割合を示し、
図14Bが1歳の猫の12575個体の各クラスごとの腎臓病の保険金請求割合を示し、
図14Cが2~3歳の猫の13938個体の各クラスごとの腎臓病の保険金請求割合を示し、
図14Dが4~6歳の猫の10509個体の各クラスごとの腎臓病の保険金請求割合を示し、
図14Eが7歳以上の猫の7174個体の各クラスごとの腎臓病の保険金請求割合を示す。
【0088】
[参考例1]
上記実施例3において腸内細菌叢のデータを収集した7歳以上の猫7174個体について、(1)シャノンインデックスの高い順に7174個体を3等分することにより3クラスに分けた場合(
図15(A))と、(2)Jaccard係数の計算、UMAPによる次元削減処理、グラフへのプロット及びスペクトラルクラスタリングを行って50クラスに分けた場合(
図15(B))とで、腎臓病の保険金請求割合の比較を行った。
(1)については、シャノンインデックスが低い群は、シャノンインデックスが1.64~4.78の個体が含まれており、中間の群は、シャノンインデックスが4.78~5.29の個体が含まれており、シャノンインデックスが高い群は、シャノンインデックスが5.29~6.40の個体が含まれていた。各グラフ中に記載された数値は、各クラス内の保険金請求割合である。
(2)については、50クラスに分けた後で、各クラスを保険金請求割合の高低によって3つのクラスに統合した。保険金割合が高いクラスは、4.0~7.2%であり、中間のクラスは、2.75~4.0%であり、低いクラスは1.9~2.75%であった。各グラフ中に記載された数値は、統合後の各クラス内の保険金請求割合の平均値である。
図15(A)と(B)とを比較すると、シャノンインデックスに基づいて猫の個体を3クラスに分けた場合よりも、β多様性に基づいてクラス分けをした方が、各クラス間の保険金請求割合の差が大きいことが分かる。これにより、シャノンインデックスを用いたクラス分けよりも、β多様性に基づいたクラス分けの方が、より正確な疾患リスクの予測が可能となることが理解できる。
【0089】
[参考例2]
上記実施例3において腸内細菌叢のデータを収集した7歳以上の猫7174個体について、(1)シャノンインデックスの高い順に7174個体を3等分することにより3クラスに分けた場合(
図16(A))と、(2)Jaccard係数の計算、UMAPによる次元削減処理、グラフへのプロット及びスペクトラルクラスタリングを行って20クラスに分けた場合(
図16(B))とで、腎臓病の保険金請求割合の比較を行った。
(1)については、シャノンインデックスが低い群は、シャノンインデックスが1.64~4.78の個体が含まれており、中間の群は、シャノンインデックスが4.78~5.29の個体が含まれており、シャノンインデックスが高い群は、シャノンインデックスが5.29~6.40の個体が含まれていた。各グラフ中に記載された数値は、各クラス内の保険金請求割合である。
(2)については、20クラスに分けた後で、各クラスを保険金請求割合の高低によって3つのクラスに統合した。保険金割合が高いクラスは、4.0~7.2%であり、中間のクラスは、2.75~4.0%であり、低いクラスは1.9~2.75%であった。各グラフ中に記載された数値は、統合後の各クラス内の保険金請求割合の平均値である。
図16(A)と(B)とを比較すると、シャノンインデックスに基づいて猫の個体を3クラスに分けた場合よりも、β多様性に基づいてクラス分けをした方が、各クラス間の保険金請求割合の差が大きいことが分かる。これにより、シャノンインデックスを用いたクラス分けよりも、β多様性に基づいたクラス分けの方が、より正確な疾患リスクの予測が可能となることが理解できる。