(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099993
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】培地監視装置、培地監視方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20250626BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12N1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217052
(22)【出願日】2023-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(74)【代理人】
【識別番号】100139066
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】坂元 佑気
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA07
4B029BB01
4B029DF01
4B029DF02
4B029DF03
4B029DF06
4B029FA15
4B065AA90X
4B065BC02
4B065BC03
4B065BC06
4B065BC07
4B065BC11
(57)【要約】
【課題】細胞培養の効率的な管理を支援する培地監視装置、培地監視方法及びプログラムを提供すること。
【解決手段】培地を用いた細胞培養において、培地を対象としたセンシングにより得られる測定値に関する第1情報と、細胞培養の環境に関する第2情報と、細胞培養の設備に関する第3情報との少なくともいずれかを取得する取得部と、取得部で取得された情報に基づき、培地の状態及び/又は培地の状態の改善方法を推定する推定部と、を有する、培地監視装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地を用いた細胞培養において、前記培地を対象としたセンシングにより得られる測定値に関する第1情報と、前記細胞培養の環境に関する第2情報と、前記細胞培養の設備に関する第3情報との少なくともいずれかを取得する取得部と、
前記取得部で取得された情報に基づき、前記培地の状態及び/又は前記培地の状態の改善方法を推定する推定部と、を有する、
培地監視装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記取得部で取得された情報に基づき、統計的原因分析により、前記培地の状態、及び/又は前記培地の状態の改善方法を推定する、
請求項1に記載の培地監視装置。
【請求項3】
前記推定部により推定された前記培地の状態、及び/又は前記培地の状態の改善方法を出力する出力部をさらに有する、
請求項1に記載の培地監視装置。
【請求項4】
前記第1情報が、培地の撮像情報、及び培地の光学センシング情報のうち少なくとも一種を含み、
前記第2情報が、培養環境の温度に関する情報、湿度に関する情報、二酸化炭素濃度に関する情報、及び、酸素濃度に関する情報のうち少なくとも一種を含み、
前記第3情報が、培地の種類に関する情報、培養細胞に関する情報、及び培養方法に関する情報のうち少なくとも一種を含む、
請求項1に記載の培地監視装置。
【請求項5】
前記培地の状態の改善方法が、前記細胞培養の目標値を含む培養条件を含む、
請求項1に記載の培地監視装置。
【請求項6】
前記出力部は、前記推定部が推定した、前記培地の状態が発生する確率及び/又は前記改善方法が妥当する確率の高さに応じて、前記培地の状態及び/又は前記培地の状態の改善方法を出力する、
請求項3に記載の培地監視装置。
【請求項7】
前記出力部は、前記取得部が取得した情報のうち、前記推定部が推定した前記培地の状態及び/又は前記培地の改善方法に寄与する情報を出力する、
請求項3に記載の培地監視装置。
【請求項8】
培地監視装置が、
培地を用いた細胞培養において、前記培地を対象としたセンシングにより得られる測定値を含む第1情報と、前記細胞培養の環境に関する第2情報と、前記細胞培養の設備に関する第3情報との少なくともいずれかを取得するステップと、
前記取得するステップで取得された情報に基づき、前記培地の状態及び/又は前記培地の状態の改善方法を推定するステップと、
を実行する、
培地監視方法。
【請求項9】
培地監視装置に、
培地を用いた細胞培養において、前記培地を対象としたセンシングにより得られる測定値を含む第1情報と、前記細胞培養の環境に関する第2情報と、前記細胞培養の設備に関する第3情報との少なくともいずれかを取得するステップと、
前記取得するステップで取得された情報に基づき、前記培地の状態及び/又は前記培地の状態の改善方法を推定するステップと、
を実行させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培地監視装置、培地監視方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、業務の標準化や生産効率の向上、品質・稼働の安定化等の目的から、生産管理工程の省人化や自動化が求められている。特に、細胞培養をはじめとするバイオテクノロジーを利用して生産される製品の生産管理工程には、人為的な操作に加えて、環境や設備等、複数の要因が関与することから、望ましい管理を実現させるためのコストが大きく、省人化や自動化が求められる。
【0003】
例えば、特許文献1には、細胞を培養して製造される製品の中間製品を用いた試験において不合格の判定が行われた場合に、不合格判定の原因を特定する細胞培養管理システムに関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では指図書や製造記録書から抽出された細胞培養の操作単位で作業を分析し、不合格判定の原因を特定するため、作業単位外の要因の影響を考慮したりすることは難しい。
【0006】
細胞培養において不具合を生じる要因には様々あるが、複数の要因が相互に影響することが多い。例えば、化学的成分や微生物等によるコンタミネーションの発生という要因には、使用試薬のロットの不均一性、使用細胞の冷解凍操作や保存の状態、使用インキュベータの開閉回数や開閉時間、作業動線上での作業者の手への付着物等の複数の要因が相互に影響し得る。
【0007】
したがって、細胞培養に関する一連の作業プロセスによって生じ得る培地の状態を予想することは困難である。よって、細胞培養という作業に適した効率的な管理を支援する仕組みの提供が求められる。
【0008】
そこで、本発明は、細胞培養の効率的な管理を支援する培地監視装置、培地監視方法及びプログラムを提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る培地監視装置は、培地を用いた細胞培養において、前記培地を対象としたセンシングにより得られる測定値に関する第1情報と、前記細胞培養の環境に関する第2情報と、前記細胞培養の設備に関する第3情報との少なくともいずれかを取得する取得部と、前記取得部で取得された情報に基づき、前記培地の状態及び/又は前記培地の状態の改善方法を推定する推定部と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、細胞培養の効率的な管理を支援する培地監視装置、培地監視方法、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る培地監視システムの構成例を示す図である。
【
図2】データ管理サーバ、培地監視装置、培地状態表示装置及び記録システムのハードウェア構成例を示す図である。
【
図3】培地監視装置の機能ブロック構成例を示す図である。
【
図4】培地監視装置の具体的処理例を説明するための図である。
【
図5】培地監視装置の具体的処理例を説明するための図である。
【
図6】培地監視装置の具体的処理例を説明するための図である。
【
図7】培地監視装置の具体的処理例を説明するための図である。
【
図8】培地監視装置の具体的処理手順例を示すフローチャートである。
【
図9】培地監視装置の具体的処理手順例を示すフローチャートである。
【
図10】データ管理サーバが記憶するデータの具体例を示す図である。
【
図11】データ管理サーバが記憶するデータの具体例を示す図である。
【
図12】データ管理サーバが記憶するデータの具体例を示す図である。
【
図16】培地監視装置が培地監視を実行する際の処理手順例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付図面を参照して、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0013】
<システム構成>
図1は、本実施形態に係る培地監視システム1の構成例を示す図である。
図1に示す培地監視システム1は、データ管理サーバ10と、培地監視装置20と、培地状態表示装置30と、記録システム40と、1つ以上のセンサD(図中、D0、D1、D2又はDnとして示される。)を備える。データ管理サーバ10と、培地監視装置20、記録システム40及び1つ以上のセンサDとは、インターネット、イントラネット、無線LAN又は移動通信等の無線又は有線の通信ネットワークを介して通信可能に接続されている。また、培地監視装置20と、培地状態表示装置30とも同様に、通信可能に接続されている。
本開示において、培地監視システム1がデータ管理サーバ10や培地状態表示装置30や記録システム40を備えるとして説明するが、培地監視システム1は培地監視装置20とセンサDとを備えている限り、必ずしもデータ管理サーバ10や培地状態表示装置30や記録システム40の構成を備えている必要はなく、これらの構成が担う機能を培地監視装置20が担うようにしてもよい。
【0014】
本開示において「培地」は細胞を培養するための物質であり、液体形状であるか固体形状であるかを問わず、「培養地」や「培養液」と互換可能に用いられる場合がある。細胞の種類は問わず、例えば、植物細胞であってもよく、動物細胞であってもよく、微生物細胞であってもよい。
【0015】
本開示において、「培地の状態」は、例えば酸性、アルカリ性又はオーバーグロース等の監視対象の培地に生じる様子である。特に明記しない限り、現在の培地の状態と、将来の培地の状態とを含む。培地の状態は、正常であることと、異常であることとのいずれをも含む。培地の状態は、必ずしも1つのみが存在することに限られず、複数が同時に存在し得る。
【0016】
本開示において、「培地の状態の改善方法」は、培地に対して施すことにより培地の状態を改善したり、培地の状態をより良くしたりするための処置である。例えば、培地の状態の改善方法は、細胞培養に関する具体的な目標値や参考値の提示を含む培養条件の設定、変更、追加、削除又は調整等である。培地の状態が正常である場合には、培地の状態の改善方法は、当該培地の品質を向上させるための処置等である。
【0017】
本開示において、「培養条件」は、「細胞播種量」等の細胞培養に関する生物材料に関する条件や、「インキュベータ内温度」等の細胞培養の環境に関する条件や、「使用培地」等の細胞培養の設備に関する条件である。また、培養条件は、人為的要因に関する条件と、非人為的要因に関する条件とを含み得る。人為的要因に関する条件としては、例えば、「インキュベータ開閉時間」や「作業者の手や衣服の衛生状態」等が挙げられ、非人為的要因に関する条件としては、例えば、「インキュベータ内温度」や「使用培地」等が挙げられる。
【0018】
本開示において、「監視」は「観測」と互換可能に用いられる場合がある。
【0019】
データ管理サーバ10は、センサDによるセンシングで得られる測定値であるセンサデータ(本開示において、「特徴量」という場合がある。)を管理することや、推定結果に関するデータを管理すること等、培地監視の一部の機能を担う情報処理装置である。データ管理サーバ10は、1又は複数の情報処理装置から構成されていてもよいし、仮想的なサーバ(クラウドサーバ等)を用いて構成されていてもよい。データ管理サーバ10はコンピュータにより構成されていてもよい。本開示において、「センサデータ」という場合、センサデータの数や種類は特に限定されず、1つ以上の任意の数や種類であってよい。
【0020】
培地監視装置20は、センサDによるセンシングで得られるセンサデータを用いて、監視対象の培地の状態や培地の状態の改善方法を推定する機能を担う情報処理装置である。例えば、1つ以上のセンサDによるセンシングにより得られる測定値に関する情報と、記録システム40の操作を介して入力された細胞培養の設備に関する情報とを取得し、培地の状態や培地の状態の改善方法を推定する。培地監視装置20は、1又は複数の情報処理装置から構成されていてもよいし、仮想的なサーバを用いて構成されていてもよい。培地監視装置20はコンピュータにより構成されていてもよい。
【0021】
培地状態表示装置30は、培地監視装置20により推定された培地の状態や培地の状態の改善方法、及び各種センサデータ等を表示する機能を担う情報処理装置である。
【0022】
記録システム40は、細胞培養条件に関する情報を管理することや、細胞培養に関するタスクやワークフローの管理を行うことや、プロセスに関するデータの分析を行うこと等の機能を担う情報処理装置である。記録システム40は、1又は複数の情報処理装置から構成されていてもよいし、仮想的なサーバを用いて構成されていてもよい。記録システム40はコンピュータにより構成されていてもよい。記録システム40は、例えば、研究室情報管理システム(LIMS:Laboratory Informatics Software)、監視制御システム(SCADA:Supervisory Control And Data Acquisition)、製造実行システム(MES:Manufacturing Execution System)又は臨床検査情報システム(LIS:Laboratory Information System)である。
【0023】
1つ以上のセンサDは、監視したい培地を対象としたセンシングや、細胞培養の環境を対象としたセンシングを行う装置である。用いるセンサDの数や種類は特に限定されず、1つ以上の任意の数や種類であってよい。
図1において、「センサDn」の「n」は任意の数字を意味する。センサDは、例えば、撮像装置、pHセンサ、酸素センサ、二酸化炭素センサ、生体イメージングセンサ、栄養成分センサ、温度センサ、湿度センサ、濁度センサ、照度センサ、光度センサ、画像センサ又はカラーセンサ等である。
【0024】
<ハードウェア構成>
図2は、データ管理サーバ10、培地監視装置20、培地状態表示装置30及び記録システム40のハードウェア構成例を示す図である。データ管理サーバ10、培地監視装置20、培地状態表示装置30及び記録システム40は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphical Processing Unit)等のプロセッサ71、無線又は有線通信を行う通信IF(Interface)72、メモリ(例えばRAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory))、HDD(Hard Disk Drive)及び/又はSSD(Solid State Drive)等の記憶装置73、入力操作を受け付ける入力装置74及び情報の出力を行う出力装置75を有する。入力装置74は、例えば、キーボード、タッチパネル、マウス及び/又はマイク等である。出力装置75は、例えば、ディスプレイ、タッチパネル及び/又はスピーカ等である。プロセッサ71、通信IF72、記憶装置73、入力装置74及び出力装置75は、1つ又は複数の通信バス76により相互に接続される。
【0025】
<機能ブロック構成>
(培地監視装置)
図3は、培地監視装置20の機能ブロック構成例を示す図である。培地監視装置20は、記憶部201と、取得部202と、モデル構築部203と、推定部204と、出力部205とを有する。記憶部201は、培地監視装置20が有する記憶装置73を用いて実現することができる。取得部202と、モデル構築部203と、推定部204と、出力部205とは、培地監視装置20が有するプロセッサ71が、記憶装置73に記憶されたプログラムを実行することにより実現することができる。また、当該プログラムは、記憶媒体に格納することができる。当該プログラムを格納した記憶媒体は、コンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体(Non-transitory computer readable medium)であってもよい。非一時的な記憶媒体は特に限定されないが、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ又はCD-ROM(Compact Disc Read-Only Memory)等の記憶媒体であってもよい。
本開示において、培地監視装置20がモデル構築部203を有するとして説明するが、培地監視装置20は必ずしもモデル構築部203を有している必要はなく、モデル構築部203が担う機能を培地監視装置20とは異なる情報処理装置が担うようにして、培地監視装置20は当該異なる情報処理装置において構築されたモデルを用いてもよい。
【0026】
<記憶部>
記憶部201は、培地監視装置が培地監視を実行するために必要な各種データを記憶する。
【0027】
<取得部>
取得部202は、培地を対象としたセンシングにより得られる測定値に関する第1情報と、細胞培養の環境に関する第2情報と、細胞培養の設備に関する第3情報との少なくともいずれかを取得する機能を有する。
【0028】
本開示において、培地を対象としたセンシングにより得られる測定値に関する第1情報は、培地を対象とした各種のセンサDによるセンシングで得られた測定値に関する情報である。
【0029】
本開示において、「測定値」は測定により得られる値であり、「設定値」は測定によらずユーザの入力や設定により得られる値である。いずれの値も、数値であることに限られない。測定値は、例えば、pH値、温度又は色相等である。設定値は、例えば、使用細胞(培養細胞)、使用培地種、使用インキュベータ又はインキュベータ内設定温度等である。本開示において、「測定値に関する情報」は、測定値と、測定値に対する加工処理や解析処理により得られる測定値に基づく情報と、測定値に基づいて推測される情報とを含む。
【0030】
第1情報は、例えば、培地の色相や細胞占有率を取得する撮像情報や、培地のpH、濁度又は所定の物質の濃度変化等を取得する光学センシング情報であってもよい。第1情報は、例えば、pHセンサで測定されたpH値、カラーセンサで測定された色相値に基づいて推測されるpH値等であってもよい。取得部202は、第1情報をセンサDから取得してもよく、データ管理サーバ10等の培地監視装置20とは異なる情報処理装置との通信を介して取得してもよい。
【0031】
本開示において、細胞培養の環境に関する第2情報は、細胞培養の環境を対象としたセンシングにより得られる測定値に関する情報や、記録システム40や培地監視装置20の入力装置74を介して入力された各種の設定値に関する情報である。細胞培養の環境を対象としたセンシングにより得られる測定値に関する情報は、例えば、インキュベータ内温度変化等の培養環境の温度に関する情報や、湿度、二酸化炭素濃度又は酸素濃度に関する情報である。各種の設定値に関する情報は、人為的に設定をすることにより定められた情報であり、例えば、インキュベータ内温度等である。取得部202は、第2情報をセンサDから取得してもよく、記録システム40やデータ管理サーバ10等の培地監視装置20とは異なる情報処理装置との通信を介して取得してもよい。
【0032】
本開示において、細胞培養の設備に関する第3情報は、細胞培養に使用する設備や機器に関する情報である。例えば、使用インキュベータ(保管庫)、使用培地、使用細胞(培養細胞)種又は使用試薬等の設備(機器や機材や生物材料を含む)に関する情報や、細胞の培養方法等のこれらの設備の使用状態に関する情報や、作業者の手や衣服の衛生状態に関する情報である。第3情報は、測定値に関する情報と設定値に関する情報との少なくともいずれかを含む。
【0033】
取得部は、各種の情報を、当該情報を取得した時系列に関する時系列データとともに取得するようにしてもよい。これにより、細胞培養の時系列に沿った培地の監視が可能となる。
【0034】
<モデル構築部>
モデル構築部203は、取得部202で取得された情報に基づいて、数理モデル(以下、「モデル」ともいう。)を構築する機能を有する。一例として、モデル構築部203は、取得部202で取得される情報に基づいて、ベイジアンネットワークモデル、重回帰分析モデル、決定木モデル等の統計的原因分析に用いる数理モデルを構築する。モデル構築部203がモデル構築に用いる情報は、細胞培養に関する既存の情報として記憶部201に記憶された情報を参照してもよい。モデル構築部203により構築されるモデルに、取得部202で取得される第1情報と、第2情報と、第3情報との少なくともいずれかを入力することにより、当該入力された情報の影響を受けて発生する培地の状態を推定することができ、推定された培地の状態が妥当する確率を算出することができる。
【0035】
図4は、モデル構築部203により構築されるベイジアンネットワークモデルの構造例を示す図である。4つの楕円は、各事象を示すノードである。モデル構築部203により構築されるモデルでは、例えば、細胞培養に関する既存の情報に基づいて作成された1000個のトレーニングデータから学習エンジンを用いてモデルを構築することができ、1000個のトレーニングデータのうち、800個が「正常又はその他の状態(ノード101)」であり、200個が「状態1(例:オーバーグロース)(ノード102)」である。800個の「正常又はその他の状態」のトレーニングデータのうち、106個が「10.0<センサD1値<20.0(ノード103)」であり、8個が「250.0<センサDn値<300.0(ノード104)」である。また、200個の「状態1」のトレーニングデータのうち、6個が「10.0<センサD1値<20.0(ノード103)」であり、195個が「250.0<センサDn値<300.0(ノード104)」である。
図4に示すモデルの例では、「センサDn値<300.0」である場合に「状態1」である確率が0.96であることが推定される。
【0036】
図5は、モデル構築部203により構築されるベイジアンネットワークモデルの構造例を示す図である。
図4の場合と同様にして、モデル構築部203により構築されるモデルでは、全てのセンサデータや設定値に基づく所定のパラメータに関する各事象(
図5中、ノード204、ノード205、ノード206及びノード207)から、培地の状態を示す各事象(
図5中、ノード201、ノード202及びノード203)の推定確率を求めることができる。
図5に示すモデルの例では、例えば、センサデータが「10.0<センサD1値<20.0(ノード204)」である場合に、培地の状態が「正常(ノード201)」である確率は0.13、培地の状態が「状態1(ノード202)」である確率は0.09、培地の状態が「状態2(ノード203)」である確率は0.92と推定される。
【0037】
図6は、モデル構築部203により構築されるベイジアンネットワークモデルの構造例を示す図である。モデル構築部203により構築されるモデルでは、全てのセンサデータや設定値に基づく所定のパラメータに関する各事象(
図6中、ノード304、ノード305、ノード306及びノード307)間の因果関係に関する推定確率を求めることもできる。
【0038】
図7は、モデル構築部203により構築されるベイジアンネットワークモデルの構造例を示す図である。
図6で説明したように、モデル構築部203により構築されるモデルでは、全てのセンサデータや設定値に基づく所定のパラメータに関する各事象間の因果関係に関する推定確率を求めることができる。
図7に示すモデルの例では、1000個のトレーニングデータのうち、782個が「10.0<センサD1値<20.0(ノード404)」である。782個の「10.0<センサD1値<20.0」のトレーニングデータのうち、203個が「250.0<センサD2値<300.0(ノード405)」であり、586個が「700.0<センサD3値<750.0(ノード406)」であり、113個が「1000.0<センサD4値<1100.0(ノード407)」である。113個の「1000.0<センサD4値<1100.0」のトレーニングデータのうち、78個が「状態2(ノード403)」であり、30個が「状態1(ノード402)」であり、13個が「正常(ノード401)」である。
図7に示すモデルの例では、センサデータがtable10に示す測定値であるとき、妥当する確率の高い順に、「状態2」、「状態1」及び「正常」と培地の状態が推定される。
【0039】
図8は、モデル構築部203によりベイジアンネットワークモデルを構築する際の手順例を示すフローチャートである。インキュベータ内やクリーンベンチ内に、監視したい培地に対するセンシングを行うための各種のセンサDを設置する(ステップS101)。培地管理DB101aに、各種のデータを登録する(ステップS102)。各種のセンサDによりセンシングされるセンサデータや、記録システム40に入力される設定値を収集し、各種DBに格納する(ステップS103)。各センサデータに推定結果をラベル付けする(ステップS104)。連続値である各センサデータを離散化する(ステップS105)。離散化したセンサデータからベイジアンネットワークモデルを構築する(ステップS106)。ベイジアンネットワークモデルに適用する条件(例えば、事象Aからは矢印は発しない等)を選定する(ステップS107)。細胞培養に関する経験則等の既知のノウハウがある場合には、当該ノウハウをベイジアンネットワークモデルに適用する条件として反映させる(ステップS108:YES)。ノウハウがない場合には、ベイジアンネットワークモデルの構築を完了する(ステップS108:NO)。
【0040】
モデル構築部203は、取得部202により取得される情報に対して、時系列データに基づいて調整する前処理を行ってもよい。モデル構築部203は、前処理を行った取得部202により取得された情報に基づいて、ベイジアンネットワークモデルのモデルを構築してもよい。
【0041】
モデル構築部203は、取得部202により取得される情報に対して、センサデータの測定値や設定値に基づいて調整する前処理を行ってもよい。モデル構築部203は、前処理を行った取得部202により取得された情報に基づいて、ベイジアンネットワークモデルを構築してもよい。
【0042】
モデル構築部203は、ユーザにより入力される、細胞培養に関する経験則に関する情報に基づいてベイジアンネットワークモデルを構築してもよい。例えば、センサデータが無い場合であっても、ユーザが確率を手動で設定してもよい。これにより、センサデータがなかったとしても、熟練者の知見を組み込んだモデルを構築することができる。
本開示において、細胞培養に関する経験則には、例えば、細胞培養の継代数に基づく経験則や、細胞培養の培養期(接着期、誘導期、対数増殖期又は静止期等)に基づく経験則等がある。
【0043】
モデル構築部203は、取得部202が取得した情報には測定値や設定値が含まれていなくとも、推定部204により推定された当該培地の状態に寄与した細胞培養に関する情報に基づいてベイジアンネットワークモデルを構築してもよい。これにより、培地の状態に寄与し得る全ての要因を必ずしも監視することができる設備環境になかったとしても、培地の状態に寄与し得る要因を網羅的にモデル構築に活用することができる。
【0044】
<推定部>
推定部204は、取得部202で取得された情報に基づいて、培地の状態や培地の状態の改善方法を推定する機能を有する。推定部204が用いる取得部202で取得された情報は、測定値及び/又は設定値を含む。推定部204が用いる取得部202で取得された情報は、第1情報と、第2情報と、第3情報と、の少なくともいずれかを含む。また、推定部204は、培地の状態や培地の状態の改善方法を推定する機能に加えて、当該培地の状態や培地の状態の改善方法が妥当する確率を推定する機能を有する。
【0045】
本開示において、「培地の状態の改善方法を推定する」とは、推定部204による推定の結果を用いて培地の状態の改善方法を特定することである。例えば、推定部204が推定した培地の状態、センシング項目、又はセンサデータの数値に応じて事前に登録された培地の状態の改善方法の一覧の中から、所定の妥当する確率を有する培地の状態の改善方法を特定することであってもよい。例えば、推定部204が推定した培地の状態に対して寄与した要因情報に基づいて、所定の培地の状態の改善方法を特定することであってもよい。
【0046】
推定部204は、モデル構築部203で構築されたベイジアンネットワークモデル等の統計的原因分析に用いる数理モデルにより、培地の状態や培地の状態の改善方法を推定してもよい。
【0047】
図9は、推定部204により推定を行う際の手順例を示すフローチャートである。各種のセンサDによりセンシングされるセンサデータや、記録システム40に入力される設定値を収集し、各種DBに格納する(ステップS201)。収集したセンサデータをベイジアンネットワークモデルに入力する(ステップS202)。算出した推定確率から培地の状態を推定する(ステップS203)。各データと推定された結果を推定結果データTSDB101eに格納する(ステップS204)。培地状態情報DB101bから、推定された原因(状態)の情報をランキング形式で表示する(ステップS205)。ランキング上位の原因(状態)の対策(改善方法)を実行させる(ステップS206)。対策実行後に収集したセンサデータに基づいて培地の状態の推定を行い、培地の状態が改善されたか否か判定する(ステップS207)。改善されていないと判定された場合はステップS204に戻る(ステップS207:NO)。改善されている判定された場合はステップS208に進む(ステップS207:YES)。推定結果データをモデルのトレーニングデータに適用するか否かを判定する(ステップS208)。
【0048】
推定部204は、培地の状態や培地の状態の改善方法を推定する機能に加えて、取得部202が取得した測定値又は設定値に基づく情報のうち、当該培地の状態に寄与した要因情報を推定する機能を有してもよい。
【0049】
推定部204は、培地の状態や培地の状態の改善方法を推定する機能に加えて、取得部202が取得した情報には測定値や設定値が含まれていなくとも、当該培地の状態に寄与した要因情報を推定する機能を有してもよい。これにより、必ずしも全ての要因を監視することができる設備環境になかったとしても、培地の状態が発生した要因を網羅的に推定することが可能となる。
【0050】
推定部204は、ユーザにより入力される、細胞培養に関する経験則に関する情報に基づいて、培地の状態や培地の改善方法を推定してもよい。これにより、センサデータがなかったとしても、熟練者の知見を考慮した推定をすることが可能となる。
【0051】
<出力部>
出力部205は、推定部204によって推定された培地の状態や培地の状態の改善方法に関する情報を出力させる機能を有する。出力部205による出力方法は、特に限定されないが、表示装置などに対する表示出力であってもよく、スピーカーなどに対する音声出力であってもよい。出力部205は、出力装置75の表示を制御する表示制御部205aを有する。
【0052】
「培地の状態」の出力は、培地の状態の名称と、培地の状態の説明とを含んでもよい。培地の状態の説明は、静止画像や動画像を含んでもよい。
図10の例では、培地の状態の名称を示す名称欄d101と、培地の状態の説明を示す概要欄d102と、培地の状態の写真欄d103とが設けられている。
【0053】
「培地の状態の改善方法」の出力は、当該改善方法の内容と、「センサD1による測定値が推奨値以下である」といったような、センシングした項目やセンサデータに関する情報とを含んでもよい。改善方法の内容は、センシングした項目やセンサデータに関する情報に基づいて出力されてもよい。
図10の例では、改善方法の内容d201と、特徴量(センサデータ)に基づいて培地の状態を改善するための培養操作のアドバイスd202とが出力されている。
【0054】
出力部205は、推定部204によって推定された培地の状態や培地の状態の改善方法が妥当する確率の高さに応じて、当該培地の状態や培地の状態の改善方法を出力してもよい。例えば、培地の状態や培地の状態の改善方法を、当該培地の状態や培地の状態の改善方法が妥当する確率の高さに応じてランキング形式で出力してもよい。例えば、培地の状態や培地の状態の改善方法を、当該培地の状態や培地の状態の改善方法が妥当する確率を示す数値や標識とともに出力してもよい。
図10の例では、培地の状態の発生確率の高さに応じたランキングのリスト画面d301が出力されている。また、
図10の例では、ランキング形式で出力された培地の状態のリストから、詳細を確認したい培地の状態の名称を示す名称欄d101を選択すると、選択された培地の状態の詳細を示す画面d302が出力されている。
本開示において、「妥当する確率」は「発生確率」と互換可能に用いられる場合がある。
【0055】
出力部205は、取得部202が取得した情報のうち、推定部204が推定した培地の状態に寄与した情報である要因情報を出力してもよい。要因情報は、「センサD1値:15」や「10.0<センサD1値<20.0」等のセンサデータの値に基づく情報として出力されてもよく、「細胞培養温度」や「インキュベータ内温度」等の要因の項目名として出力されてもよい。
図10の例では、取得部202が取得した情報のうち、培地の状態に寄与した要因情報として、特徴量1のデータを示すグラフd401が出力されている。
【0056】
出力部205は、推定部204によって推定された培地の状態や培地の状態の改善方法を、取得部が取得した測定値又は設定値に基づく情報のうち当該培地の状態や培地の状態の改善方法に寄与した情報である要因情報と、紐づけて出力してもよい。例えば、推定部204によって推定された「オーバーグロース」という培地の状態がある場合に、当該「オーバーグロース」という培地の状態を、取得部202が取得した情報のうち「オーバーグロース」という培地の状態の発生に寄与した要因情報である「細胞培養温度が推奨値超」という情報と紐づけて出力してもよい。これにより、ユーザは、複数の要因が複雑に絡み合う細胞培養という操作においても、培地の状態が発生した要因や当該培地の状態の改善方法を効率的に把握することが可能となる。
【0057】
出力部205は、推定部204によって推定された培地の状態や培地の改善方法を、測定値や設定値を有しないが推定部204によって当該培地の状態に寄与すると推定される細胞培養に関する情報と紐づけて出力してもよい。例えば、推定部204によって推定された「オーバーグロース」という培地の状態がある場合に、「細胞培養温度」に関する測定値や設定値を有さない場合であっても、推定部204によってモデルを介して「細胞培養温度が推奨値超」が「オーバーグロース」という培地の状態に寄与したと推定された場合に、「オーバーグロース」という培地の状態を、「細胞培養温度が推奨値超」という情報と紐づけて出力してもよい。この場合、測定値や設定値を有しないが推定部204により推定された要因であることをユーザが認識可能な態様で出力してもよい。これにより、ユーザは、複数の要因が複雑に絡み合う細胞培養という操作において、必ずしも全ての要因を監視することができる設備環境になかったとしても、培地の状態が発生した要因や当該培地の状態の改善方法を網羅的に把握することが可能となる。
【0058】
要因情報は、当該培地の状態や培地の改善方法に寄与する確率の高さに応じて出力されてもよい。例えば、培地の状態に寄与する要因情報を、当該培地の状態や培地の状態の改善方法に寄与する確率の高さに応じてランキング形式で出力してもよい。例えば、培地の状態や培地の状態の改善方法に寄与する要因情報を、培地の状態や培地の状態の改善方法に寄与する確率を示す数値や標識とともに出力してもよい。例えば、培地の状態に寄与する要因情報を示すノードと、培地の状態を示すノードとを含み、ノード間をノード間の因果を示す矢印で繋いだベイジアンネットワークモデル図として出力してもよい。
図12は、ベイジアンネットワークモデル図の出力の例を示す図である。
【0059】
ベイジアンネットワークモデル図では、因果の向きや強さを、矢印の向き、線の種類、線の色又は線の太さ等を使って表現してもよい。これにより、因果関係の強弱を可視化することができ、優先的に改善すべき要因を特定することが可能となる。
【0060】
ベイジアンネットワークモデル図では、所定の閾値以上の確率を示すオブジェクトのみを出力するようにしてもよい。これにより、根本的な要因を効率的に把握することが可能となる。
【0061】
出力部205は、推定部204が推定した培地の状態に寄与した要因情報間の関係を出力してもよい。例えば、取得部202が取得した測定値又は設定値に基づく情報のうち、当該培地の状態に寄与した情報である複数の要因情報間の因果関係等の関係を出力してもよい。これにより、ユーザは要因の関係構造を理解することができ、培養効率や培地品質の向上を期待することができる。
図11の例では、培地の状態に影響する複数の要因を示す要因情報のリスト画面d311が出力され、要因情報のリストから、詳細を確認したい要因(特徴量A:細胞密度の値)を選択すると、選択された要因(特徴量A:細胞密度の値)の詳細を示す画面d312が出力される。ユーザが、選択した要因について該当するセンサデータの離散化後のラベルd411を選択すると、当該センサデータの値の範囲に対して影響した他の要因を示す要因情報のランキングd412が出力される。例えば、特徴量A(細胞密度の値)というセンサデータの値が685.0であった場合、ユーザはラベルd411を選択すると、特徴量A(細胞密度の値)という当該数値に寄与した他の要因を示す要因情報のランキングd412が表示される。
本開示において、「培地の状態に寄与する」と「培地の状態に影響する」は互換可能に用いられる場合がある。
【0062】
出力部205は、目標となる細胞培養の指標に関する情報を出力するようにしてもよい。目標となる細胞培養の指標に関する情報は、培養を成功した場合や失敗した場合の細胞培養環境を示す情報であってもよく、監視対象にある細胞培養環境と培養を成功した場合や失敗した場合の細胞培養環境とを比較した情報であってもよく、センサデータの目標数値範囲であってもよい。目標となる細胞培養の指標に関する情報は、静止画像や動画像を含んでもよい。これにより、ユーザは、培地の状態をより客観的に把握することが可能となり、培養効率や培地品質の向上を期待することができる。
図10の例では、センサデータの参考正常値範囲d501が表示されている。
図11の例では、センサデータの参考値範囲d511が表示されている。
【0063】
出力部205は、要因情報を構成するセンサデータを、当該データを取得した時系列を反映した時系列データとして出力するようにしてもよい。これにより、ユーザは、要因情報を構成する当該センサデータが要因として寄与した時期を認識し分析することが可能となる。
図10の例では、センサデータである特徴量1や特徴量2等が、横軸を時間軸とする時系列を反映したグラフd401として表示されている。
【0064】
出力部205は、細胞培養サンプルの総数に対する、所定の培地の状態を有すると推定された細胞培養サンプルの数を、ユーザが認識可能に出力するようにしてもよい。これにより、ユーザは、サンプル全体に対する所定の培地の状態の発生率をも考慮して、細胞培養の操作の見直しや改善を行うことが可能となり、効率的な細胞培養環境の改善を提供することが可能となる。
【0065】
出力部205は、要因情報のうち、システムエラー(非人為的要因に基づくエラー)に関する情報と、ヒューマンエラー(人為的要因に基づくエラー)に関する情報とをユーザが識別可能に出力するようにしてもよい。例えば、培地の状態に寄与した確率が所定値以上である要因情報のうち、「インキュベータ内温度」等のシステムエラーに関する情報と、「培養容器の蓋のしめ忘れ」等のヒューマンエラーに関する情報との表示に用いる色を異ならせる等により、出力態様を異ならせる。これにより、ユーザは、培地の状態の発生に寄与した要因情報を効率的に把握することが可能となる。
【0066】
出力部205は、培地の状態や培地の状態の改善方法とともに培地交換又は培地回収のタイミングに関する情報を出力させてもよい。これにより、ユーザは、培地の状態を把握するとともに、当該培地の状態が培地の交換や回収の必要性を有するかを把握することが可能となる。
【0067】
(データ管理サーバ)
データ管理サーバ10は、少なくとも記憶部101を有する。記憶部101は、1つ以上のセンサDによるセンシングにより得られる各種のセンサデータや、記録システム40の操作を介して入力された細胞培養の設備に関する各種の情報を記憶する。データ管理サーバ10が記憶部101により記憶するデータは、培地管理DB(Data Base)101a、培地状態情報DB101b、センサデータTSDB(Time Series Data Base)101c、pH値データTSDB101d及び推定結果データTSDB101eに記憶される。
【0068】
図13は、データ管理サーバ10が記憶するデータの具体例を示す図である。培地管理DB101aは、培地の製品ID、ロット番号、名称、センサDのID等を管理する。培地の製品IDは、例えば、培地を製品単位で特定するための識別子であり、培地の種類や製品名等が紐づけて記憶される。ロット番号は、例えば、培地をロット単位で特定するための識別子であり、培地の製造年月日、材料等が紐づけて記憶される。センサDのIDは、例えば、システムの構成を管理する目的で用いられ、培地を各種センサでセンシングする際に用いられるセンサを特定するための識別子である。また、センサDのIDは、使用しているセンサの情報(名称、型式、分解能等)を特定するための識別子であってもよく、培地をセンシングした際に得られたセンサデータ等が紐づけて記憶されてもよい。
【0069】
培地状態情報DB101bは、培地の状態の名称、当該培地に生じている症状(例えば、酸性化又はアルカリ化等)、当該培地の状態のpH指示薬による呈色(例えば、フェノールレッドによる呈色)、当該培地の状態の説明(例えば、細胞の代謝物、主に乳酸が培地中に溜まっている等)及び当該培地の状態の対処方法(例えば、150×gで5分間ほど遠心して、推奨濃度よりも高い細胞密度で新しい培地にまき、10~20%程度の馴化培地を加える等)等を管理する。
【0070】
本開示において、「対処方法」は、「改善方法」と互換可能に用いられる場合がある。
【0071】
センサデータTSDB101cは、センサDによるセンシングにより得られた各種のセンサデータを、それらのデータの取得日時とともに管理する。
【0072】
pH値データTSDB101dは、センサDによるセンシングにより得られた培地のpH値データを、それらのデータの取得日時とともに管理する。pH値データTSDB101dは、培地の製品IDも管理してもよい。
【0073】
図14は、データ管理サーバ10が記憶するデータの具体例を示す図である。推定結果データTSDB101eは、培地の状態の推定結果を、推定日時、培地のロット番号、製品ID、センサDによるセンサデータ及びpH値等とともに管理する。推定結果には、推定された培地の状態が記憶される。
【0074】
図15は、培地状態情報DB101bが記憶するデータの詳細例を示す図である。
図15の例では、培地状態情報DB101bが、酸性化又はアルカリ化のpH変化について、それぞれの発生に関し推定される原因と、特定方法とを管理している。
【0075】
本開示において、「原因」と「要因」は互換可能に用いられる場合がある。
【0076】
3.動作
図16は、培地監視装置が培地監視を実行する際の処理手順例を示すフローチャートである。培地監視装置20は、取得部202により、第1情報と、第2情報と、第3情報との少なくともいずれかを取得する(ステップS301)。培地監視装置20は、モデル構築部203により、取得部202で取得した情報に基づいて、培地の状態を推定するためのモデルを構築する(ステップS302)。培地監視装置20は、取得部202が取得した情報を、モデル構築部203が構築したモデルに入力し、推定部204により培地の状態や培地の状態の改善方法を推定する(ステップS303)。培地監視装置20は、出力部205により、推定部204が推定した培地の状態や培地の状態の改善方法に関する情報を出力する(ステップS304)。
【0077】
4.プログラム
本発明の一態様に係るプログラムは、培地を用いた細胞培養において、前記培地を対象としたセンシングにより得られる測定値を含む第1情報と、前記細胞培養の環境に関する第2情報と、前記細胞培養の設備に関する第3情報との少なくともいずれかを取得するステップと、前記取得部で取得された情報に基づき、前記培地の状態及び/又は前記培地の状態の改善方法を推定するステップと、を実行させる。
【符号の説明】
【0078】
1…培地監視システム、10…データ管理サーバ、20…培地監視装置、201…記憶部、202…取得部、203…モデル構築部、204…推定部、205…出力部、205a…表示制御部、30…培地状態表示装置、40…記録システム、71…プロセッサ、72…通信IF、73…記憶装置、74…入力装置、75…出力装置、76…通信バス、D…センサ