(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2026001946
(43)【公開日】2026-01-08
(54)【発明の名称】圧粉成形体の製造方法、圧粉磁心の製造方法及び混合潤滑剤
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20251225BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20251225BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20251225BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20251225BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20251225BHJP
【FI】
H01F41/02 D
H01F1/26
B22F3/00 B
B22F1/102 100
B22F3/02 M
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024099556
(22)【出願日】2024-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(71)【出願人】
【識別番号】524234547
【氏名又は名称】株式会社若柳タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】渡部 純也
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】石原 千生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 忍
(72)【発明者】
【氏名】後藤 秀寿
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018BA13
4K018BB04
4K018BC29
4K018CA07
4K018FA08
4K018KA44
5E041AA01
5E041AA02
5E041AA04
5E041AA07
5E041BB03
5E041BC05
5E041CA02
5E041HB05
5E041HB11
5E041HB14
5E041HB19
5E041NN04
5E041NN17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】潤滑剤を容易に金型に均一に塗布することができる圧粉成形体の製造方法、圧粉磁心の製造方法及び混合潤滑剤を提供する。
【解決手段】圧粉成形体の作製方法は、潤滑剤を混合液に混合して混合潤滑剤を作製する混合潤滑剤作製工程と、ノズルNから混合潤滑剤を金型Mに霧状に噴霧し、金型に混合潤滑剤を塗布する混合潤滑剤噴霧工程と、金型に軟磁性粉末を充填し、軟磁性粉末を加圧して圧粉成形体を作製し、圧粉成形体を金型から取り出す加圧成形工程と、を含む。潤滑剤は、粒度分布におけるD100が41μm以上61μm以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤を混合液に混合して混合潤滑剤を作製する混合潤滑剤作製工程と、
前記混合潤滑剤を金型に霧状に噴霧する混合潤滑剤噴霧工程と、
前記金型に軟磁性粉末を充填し、前記軟磁性粉末を加圧して圧粉成形体を作製し、前記圧粉成形体を前記金型から取り出す加圧成形工程と、
を含み、
前記潤滑剤は、粒度分布におけるD100が41μm以上61μm以下であること、
を特徴とする圧粉成形体の製造方法。
【請求項2】
前記潤滑剤は、粒度分布におけるD100が42μm以上61μm以下であること、
を特徴とする請求項1に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項3】
前記混合潤滑剤の粘度は、8(sec)以上10(sec)以下であること、
を特徴とする請求項1に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項4】
前記混合潤滑剤噴霧工程では、1回の噴霧で100(mg)以上の前記混合潤滑剤を放出すること、
を特徴とする請求項1に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項5】
前記混合潤滑剤噴霧工程は、ノズルによって前記混合潤滑剤を霧状に噴霧し、
前記ノズルは、ノズル口径が0.5mm以下であること、
を特徴とする請求項1に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項6】
前記圧粉成形体は、複数の脚部と、前記複数の脚部を繋ぐヨーク部を有し、
前記脚部は、前記ヨーク部と接続する面とは反対側の端面になる先端面を有し、
前記先端面は、前記加圧成形工程において、金型と擦れる摺動面であり、
前記混合潤滑剤噴霧工程では、少なくとも前記金型の前記先端面が形成される部分に前記混合潤滑剤を噴霧していること、
を特徴とする請求項1に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項7】
加圧成形工程よりも前段階において、軟磁性粉末の周囲に絶縁材料から成る絶縁層を形成させる絶縁層形成工程を備えること、
を特徴とする請求項6に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかの方法により作製された圧粉成形体を熱処理する焼鈍工程を含むこと、
を特徴する圧粉磁心の製造方法。
【請求項9】
圧粉成形体を作製する金型に霧状に噴霧され、前記金型に塗布される混合潤滑剤であって、
粒度分布におけるD100が41μm以上61μm以下である潤滑剤と、
前記潤滑剤と混合される混合液と、
を備えること、
を特徴とする混合潤滑剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
金型に潤滑剤を噴霧する圧粉成形体の製造方法、圧粉磁心の製造方法及び混合潤滑剤に関する。
【背景技術】
【0002】
圧粉磁心は、リアクトルなどのコイル部品のコアとして用いられる。例えば、リアクトルは、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品であり、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池車の駆動システム等をはじめ、OA機器、太陽光発電システム、無停電電源といった各種の分野で使用されている。
【0003】
圧粉磁心は、軟磁性粉末又は表面に絶縁層を付着させた軟磁性粉末を金型に充填し、加圧成形して圧粉成形体を作製し、この圧粉成形体を焼鈍したものである。一般的に、加圧成形の際に、10~20ton/cm2という高い圧力がかけられる。
【0004】
加圧成形が行われ、圧粉成形体を金型から取り出す際に、圧粉成形体は金型と擦れる。圧粉成形体の金型と擦れた面を摺動面という。そして、圧粉成形体を金型から取り出す際に、摺動面が損傷する場合がある。摺動面が損傷すると、渦電流損失が高まり、磁気特性が悪化する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、金型に潤滑剤を塗布し、圧粉成形体の離型性を向上させる手法が知られている。例えば、潤滑剤を帯電させ、金型に塗布する静電塗布方式が知られている。しかし、静電塗布方式の場合、帯電が不安定になり、金型に均一に潤滑剤を塗布できない虞がある。
【0007】
そこで、潤滑剤を刷毛などを用いて作業者が手塗りで行う方式やパンチに潤滑剤を塗布して、パンチを上下に動かすことで金型の壁面に潤滑剤を塗布する手法がある。しかし、手塗りで行う場合は、作業者の熟練度に左右され、また、パンチを用いる場合は、パンチと金型の寸法精度に左右され、金型に潤滑剤を均一に塗布することが困難である。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、潤滑剤を容易に金型に均一に塗布することができる圧粉成形体の製造方法、圧粉磁心の製造方法及び混合潤滑剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の圧粉成形体の製造方法は、潤滑剤を混合液に混合して混合潤滑剤を作製する混合潤滑剤作製工程と、前記混合潤滑剤を金型に霧状に噴霧し、前記金型に前記混合潤滑剤を塗布する混合潤滑剤噴霧工程と、前記金型に軟磁性粉末を充填し、前記軟磁性粉末を加圧して圧粉成形体を作製し、前記圧粉成形体を前記金型から取り出す加圧成形工程と、を含み、前記潤滑剤は、粒度分布におけるD100が41μm以上61μm以下であること、を特徴とする。
【0010】
また、本発明の圧粉磁心の製造方法は、上記方法により作製された圧粉成形体を熱処理する焼鈍工程を含むこと、を特徴する。
【0011】
さらに、本発明の混合潤滑剤は、圧粉成形体を作製する金型に霧状に噴霧され、前記金型に塗布される混合潤滑剤であって、粒度分布におけるD100が41μm以上61μm以下である潤滑剤と、前記潤滑剤と混合される混合液と、を備えること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、潤滑剤を容易に金型に均一に塗布することができる圧粉成形体の製造方法、圧粉磁心の製造方法及び混合潤滑剤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】ノズルから金型に混合潤滑剤を噴霧している状態を示す模式図である。
【
図3】軟磁性粉末を金型に充填した状態を示す模式図である。
【
図4】軟磁性粉末が下パンチ及び上パンチによって加圧されている状態を示す模式図である。
【
図5】圧粉成形体を取り出す工程を示す模式図である。
【
図6】潤滑剤のD100の粒度と放出量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
「実施形態」
本実施形態の圧粉成形体1及び圧粉磁心の構成について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、圧粉成形体1の全体構成を示す斜視図である。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0015】
リアクトル等のコイル部品は、磁性体を含むコアを備える。コアとしては、圧粉磁心が用いられている。圧粉磁心、軟磁性粉末の周囲を絶縁材料によって被覆した軟磁性粉末を金型に充填し加圧成形して圧粉成形体1を作製し、この圧粉成形体1を焼鈍という熱処理することで作製される。
【0016】
図1に示すように、圧粉成形体1は、3つ脚部11、12、13と、3つの脚部11、12、13を繋ぐヨーク部14から成る。3つの脚部11、12、13は、延び方向が平行になるように、隙間を介して並んでいる。即ち、脚部12が真ん中に配置され、脚部12の両隣に脚部11、13がそれぞれ配置されている。このように、圧粉磁心は、概略E字型形状となっている。
【0017】
コイル部品に設けられる際には、2つの圧粉成形体1の脚部11、12、13の先端面15を接合する。これにより、コアは環形状となり、閉磁路となる。
【0018】
また、圧粉成形体1は、プレス面16及び摺動面17を有する。プレス面16は、圧粉成形体1を作製する際にパンチ等で押圧される面である。摺動面17は、加圧形成の際に、パンチの摺動の痕が残る面である。本実施形態では、E字型を形成する面がプレス面16となり、脚部11、12、13の先端面15を含めその他の面が摺動面17となる。
【0019】
圧粉成形体1は、軟磁性粉末を有する。軟磁性粉末は鉄を主成分とする。軟磁性粉末としては、純鉄粉、鉄を主成分とするパーマロイ(Fe-Ni合金)、Si含有鉄合金(Fe-Si合金)、センダスト合金(Fe-Si-Al合金)、又はこれら2種以上の粉末の混合粉などが使用できる。また、軟磁性粉末として、アモルファス合金、ナノ結晶合金粉末を使用してもよい。もっとも、軟磁性粉末としては、純鉄を含むこと、即ち、純鉄又は純鉄と他の合金粉末を混合した混合粉末であることが好ましい。
【0020】
軟磁性粉末の円形度は、平均粒子径(メジアン径D50)の粉末において、0.85以上であることが好ましい。軟磁性粉末の円形度が0.85以上にすると、軟磁性粉末間の隙間が少なくなり、密度及び透磁率の向上を図ることができる。密度及び透磁率の向上の効果が顕著になる軟磁性粉末の円形度が0.90以上にすることが特に好ましい。また、軟磁性粉末の平均粒子径(メジアン径D50)は、1以上100μm以下であることが好ましい。なお。軟磁性粉末としては、平均粒子径の異なる複数の粉末を用いてもよい。
【0021】
軟磁性粉末の周囲には絶縁層が形成されている。絶縁層は、絶縁材料から成る。絶縁材料としては、シラン化合物、シリコーンレジン、シリコーンオリゴマーなどを用いることができる。また、絶縁層として用いる絶縁材料は、1種類でもよいし、2種類以上用いてもよい。2種類以上用いる場合には、各種類の絶縁層を積層させてもよいし、2種類以上の絶縁材料を混合した単層であってもよい。即ち、例えば、シラン化合物とシリコーンレジンを用いる場合、軟磁性粉末の周囲にシラン化合物から成る絶縁層を形成させ、この絶縁層の周囲にシリコーンレジンから成る絶縁層を形成させてもよいし、シラン化合物とシリコーンレジンが混合した単層の絶縁層を形成させてもよい。
【0022】
シラン化合物には、官能基の無いシラン化合物及びシランカップリング剤が含まれる。官能基の無いシラン化合物としては、例えばエトキシ系及びメトキシ系等のアルコキシシランを使用することができ、特にテトラエトキシシランが好ましい。シランカップリング剤としては、アミノシラン系、エポキシシラン系、イソシアヌレート系のシランカップリング剤を使用することができ、特に、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、トリス-(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートが好ましい。
【0023】
シラン化合物の添加量としては、軟磁性粉末に対して、0.05wt%以上、1.0wt%以下が好ましい。シラン化合物の添加量をこの範囲にすることで、軟磁性粉末の流動性を向上させるとともに、成形された圧粉成形体1の密度、磁気特性、強度特性を向上させることができる。
【0024】
シリコーンレジンは、シロキサン結合(Si-O-Si)を主骨格に持つ樹脂である。シリコーンレジンを用いることで可撓性に優れた絶縁層を形成することができる。シリコーンレジンは、メチル系、メチルフェニル系、プロピルフェニル系、エポキシ樹脂変性系、アルキッド樹脂変性系、ポリエステル樹脂変性系、ゴム系等を用いることができる。この中でも特に、メチルフェニル系のシリコーンレジンを用いた場合、加熱減量が少なく、耐熱性に優れた絶縁層を形成することができる。
【0025】
シリコーンレジンの添加量は、軟磁性粉末に対して、0.6wt%以上2.5wt%であることが好ましい。添加量が0.6wt%より少ないと絶縁層として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下する。添加量が2.5wt%より多いと圧粉成形体1の密度低下を招く。
【0026】
シリコーンオリゴマーとしては、アルコキシシリル基を有し、反応性官能基を有さないメチル系、メチルフェニル系のものや、アルコキシシリル基及び反応性官能基を有するエポキシ系、エポキシメチル系、メルカプト系、メルカプトメチル系、アクリルメチル系、メタクリルメチル系、ビニルフェニル系のもの、又はアルコキシシリル基ではなく、反応性官能基を有する脂環式エポキシ系のもの等を用いることができる。特に、メチル系またはメチルフェニル系のシリコーンオリゴマーを用いることで厚く硬い絶縁層を形成することができる。また、絶縁層の形成のしやすさを考慮して、粘度の比較的低いメチル系、メチルフェニル系を用いてもよい。
【0027】
シリコーンオリゴマーの添加量は、軟磁性粉末に対して0.1wt%以上2.0wt%以下が好ましい。添加量が0.1wt%より少ないと絶縁層として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下する。添加量が2.0wt%より多いと、圧粉成形体1の密度低下を招く。
【0028】
以上のような絶縁層が形成された軟磁性粉末を混合潤滑剤が塗布された金型に充填し、加圧成形することで、圧粉成形体1が作製される。そして、この圧粉成形体1を所謂、焼鈍と呼ばれる熱処理を施すことで、圧粉磁心が作製させる。
【0029】
次に、圧粉成形体1及び圧粉磁心の製造方法について、詳細に説明する。本実施形態の圧粉成形体1及び圧粉磁心の製造方法は、混合潤滑剤を作製し、混合潤滑剤を金型に噴霧することで、金型に混合潤滑剤が均一に塗布され、圧粉成形体1の離型性を高める点に特徴がある。圧粉成形体1の製造方法は、(1)絶縁層形成工程、(2)混合潤滑剤作製工程、(3)混合潤滑剤噴霧工程、(4)加圧成形工程を経る。そして、(4)加圧成形工程の後、(5)焼鈍工程を経ることで、圧粉磁心は作製させる。
【0030】
(1)絶縁層形成工程
絶縁層形成工程は、軟磁性粉末の周囲に絶縁材料から成る絶縁層を形成させる工程である。まず、軟磁性粉末にシラン化合物、シリコーンレジン、シリコーンオリゴマー等の絶縁材料を添加して混合する。その後、加熱乾燥させることで軟磁性粉末の表面に絶縁層を形成させる。加熱乾燥条件としては、これに限定されるものではないが、25℃以上350℃以下の温度で2時間程度である。なお、絶縁層形成工程は、加圧成形工程の前までに行っていればよい。
【0031】
(2)混合潤滑剤作製工程
混合潤滑剤作製工程は、潤滑剤を混合液に混合し、金型に塗布する混合潤滑剤を作製する工程である。潤滑剤は、粒度分布におけるD100が41μm以上61μm以下のものを用いる。
【0032】
本発明者らは、鋭意研究の結果、潤滑剤を混合液に混合した混合潤滑剤を霧状に金型に向かって噴霧することで、均一に塗布できることに至った。そして、潤滑剤は粒度分布におけるD100が41μm以上61μm以下にすることで、後述の潤滑剤噴霧工程において、霧状に噴霧でき、容易に金型に対して均一に混合潤滑剤を塗布することができるという知見を得た。換言すれば、D100が41未満又は61μmより大きいと、混合潤滑剤の少なくとも一部が霧状にならずに垂れた状態で塗布されてしまうため、金型に均一に塗布できない。
【0033】
従来では、混合潤滑剤を静電塗布方式で、金型に付着させる手法が知られている。静電塗布方式では、混合潤滑剤を帯電させて塗布する。この場合、粒度分布において中心的、支配的部分となるD50に着目する。これは、帯電性などに最も影響を与えるからである。また、潤滑剤を刷毛などで手塗りする場合やパンチの上下運動によって金型に塗布させる場合においても、中心的・支配的部分となる粒度分布のD50に着目する。
【0034】
一方、本実施形態では、混合潤滑剤を霧状に噴霧させるため粒度分布D100に着目し、潤滑剤は粒度分布におけるD100が41μm以上61μm以下にして、霧状に吹くことを可能にしている。換言すると、41μm未満、又は、61μm超であると一部が垂れ、均一に金型に混合潤滑剤を塗布できず、摺動面17が損傷しやすい。しかし、D100を41μm以上61μm以下にすると、静電塗布方式や手塗り方式やパンチの上下運動方式と比較して、より容易に金型に潤滑剤を均一に塗布することができ、摺動面17を保護することができる。
【0035】
また、静電塗布方式では、帯電装置や帯電させた混合潤滑剤の帯電を保持するような構造を別途設ける必要があり、装置が大型化する。一方、噴霧方式では、ノズルから噴霧させるだけなので、静電塗布方式に比べて装置の大型化させずに設置可能である。
【0036】
さらに、D100が41μm以上61μm以下にすることで、潤滑剤の固形分濃度を20%以上にしても粘度が10(Pa・s)以下になる。即ち、混合潤滑剤における潤滑剤濃度が適切なものとなり、かつ、1回のノズルNのプッシュで100(mg)以上の混合潤滑剤を噴霧することができる。そのため、噴霧回数が増加せず、生産効率が良い。また、混合潤滑剤噴霧工程から加圧成形工程に至る時間も短いので、混合潤滑剤は垂れ下がることなく金型に均一に塗布された状態を維持できる。したがって、圧粉成形体1は金型からの離型性がよく、圧粉成形体1の摺動面17が損傷することを効果的に防止できる。
【0037】
特に、D100が42μm以上61μm以下であることがより好ましい。この範囲にすることで、混合潤滑剤噴霧工程における1回も噴霧量が200(mg)を超え、一度に噴霧できる量が増え、生産性が向上する。また、金型に塗布された混合潤滑剤の層が厚くなり、離型性が更に向上し、圧粉成形体1の摺動面17が損傷することを防止できる。
【0038】
また、潤滑剤の粒度分布は、D50が16μm以上であることがより好ましい。D50を16μm以上にすることで、混合潤滑剤を噴霧する際、混合潤滑倍の霧状の粒の粒径が安定し、所定の位置に十分な塗布量を塗布することができる。換言すれば、D50が16μm未満の場合、噴霧した霧状の粒の粒径が小さく、塗布面に到達する前に他の場所に霧散してしまい、十分な塗布量を確保できない。
【0039】
また、混合潤滑剤の粘度は、8(sec)以上10(sec)以下であることが好ましい。混合潤滑剤の粘度をこの範囲にすることで、金型内の上方部分も含めて均一に混合潤滑剤を金型に塗布することができる。換言すれば、混合潤滑剤の粘度が8(sec)よりも低いと、金型の上方に塗布された混合潤滑剤が、下方に垂れ下がってきてしまう虞がある。
【0040】
潤滑剤としては、ニッサンエレクトール、エチレンビスステアラマイド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸モノアミド、ミリスチン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ヒドロキシステアリン酸亜鉛、ヒドロキシステアリン酸アルミニウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸アルミニウム、ウンデシレン酸亜鉛などを用いることができる。また、混合液としては、イソプロピルアルコール(IPA)、メタノール、エタノールを用いることができる。
【0041】
(3)混合潤滑剤噴霧工程
混合潤滑剤噴霧工程は、混合潤滑剤を金型に塗布する工程である。
図2は、ノズルNから金型に混合潤滑剤を噴霧している状態を示す模式図である。
図2に示すように、ノズルNは金型Mの上方に配置され、混合潤滑剤を霧状に噴霧し、金型の表面に混合潤滑剤を付着させる。混合潤滑剤噴霧工程を経ることで、金型Mの表面に混合潤滑剤層2が均一に形成される。
【0042】
ここで、本実施形態では、2つの圧粉成形体1を接合する先端面15が摺動面17となる。先端面15が摺動面17になる場合、加圧成形によって作製された圧粉成形体1を金型Mから取り出す際、先端面15を形成する軟磁性粉末の絶縁層の摺動面17側の表層部分が摺動の摩擦によって損傷し、渦電流損失が大きくなる虞がある。
【0043】
そこで、混合潤滑剤噴霧工程では、少なくとも、脚部11、12、13の先端面15が形成される金型の箇所に混合潤滑剤を塗布する。本実施形態では、軟磁性粉末の表面に絶縁層を形成されており、圧粉成形体1を金型から取り出す際に、金型との摺動の摩擦が原因で先端面15を形成する軟磁性粉末の絶縁層の摺動面17側の表層部分が損傷する虞がある。この先端面15の絶縁層が損傷すると、隣り合う軟磁性粉末間に渦電流が流れ、渦電流損失が増加してしまう虞がある。そのため、少なくとも脚部11、12、13の先端面15が形成される金型の箇所に混合潤滑剤を均一に塗布することで、先端面15の離型性が上がり、圧粉成形体1を金型から取り出す際に、先端面15の絶縁層が損傷することを抑制でき、磁気特性に優れた圧粉磁心になる。なお、先端面15以外の脚部11、12、13及びヨーク部14の摺動面17となる金型部分にも混合潤滑剤を塗布した方が好ましい。
【0044】
ノズルNから1度に噴霧される混合潤滑剤は、100(mg)以上であることが好ましい。即ち、ノズルNを1プッシュすると、混合潤滑剤は100(mg)以上噴霧されることが好ましい。ここでいう1プッシュとは、ノズルNを始端位置から終端位置まで押すことを指し、始端位置から途中段階まで押し、当該途中段階から終端位置まで2回に分けるなど始端位置から終端位置に向けて複数回に分けて押した場合も1プッシュに含まれる。本実施形態では、脚部11が形成される金型の上方、脚部12が形成される金型の上方、脚部13が形成される金型の上方にノズルNを配置して、それぞれの位置から1回噴霧し、それぞれの位置で混合潤滑剤が100(mg)以上噴霧される。1度に100(mg)以上噴霧することで、1プッシュで金型と圧粉成形体1の離型性向上の効果を得ることができ、生産性が向上する。
【0045】
ノズルNのノズル口径は、0.5mm以下であることが好ましい。ノズル径を0.5mmより大きいと、噴霧された混合潤滑剤の霧状の粒の粒径が大きくなり、金型の塗布面に斑点状のムラが発生する虞がある。そのため、ノズル径を0.5mm以下にすることで、金型の塗布面に均一に混合潤滑剤を塗布することができ、金型と圧粉成形体1の離型性をより向上させることができる。
【0046】
金型Mの深さは、60mm以上であり、例えば、65mmである。静電塗布方式では、混合潤滑剤を帯電させて塗布するので、深さが60mm以上の大きな金型Mの場合、帯電が不安定になって金型の隅々まで均一に混合潤滑剤を塗布することは困難となる。一方、噴霧方式によって行えば、深さ60mm以上の大型な金型Mであっても、金型の隅々まで均一に混合潤滑剤を塗布することができる。
【0047】
(4)加圧成形工程
加圧成形工程は、圧粉成形体1を作製する工程である。
図3は、軟磁性粉末を金型に充填した状態を示す模式図である。加圧成形工程では、まず、下パンチ3及び金型Mによって画成されたスペースに、絶縁層形成工程において周囲に絶縁層が形成された軟磁性粉末5を充填する。
【0048】
図4は、軟磁性粉末5が下パンチ3及び上パンチ4によって加圧されている状態を示す模式図である。
図4に示すように、上パンチ4が下パンチ3に向かって加圧する。上パンチ4による押圧力は、5ton/cm
2~20ton/cm
2である。上パンチ4及び下パンチ3によって軟磁性粉末5は加圧され、圧粉成形体1が作製される。
【0049】
図5は、圧粉成形体1を取り出す工程を示す模式図である。
図5に示すように、押圧し終わった上パンチ4は、上方に移動する。その後、下パンチ3が上方に移動し、圧粉成形体1を金型Mから露出させる。そのとき、圧粉成形体1は、金型M内を摺動するが、金型Mの表面には、混合潤滑剤層2が均一に形成されているので、摺動によって圧粉成形体1が損傷することが抑制される。金型Mから露出した圧粉成形体1を取り出す。このようにして、圧粉成形体1は作製される。
【0050】
(5)焼鈍工程
焼鈍工程は、加圧成形工程を経て作製された圧粉成形体1を熱処理する工程である。焼鈍工程では、窒素ガス中、窒素と水素の混合ガス、酸素濃度が0.01%等の低酸素雰囲気等の非酸化雰囲気中又は大気中において、600℃以上900℃以下の温度で熱処理を行う。この焼鈍工程を経ることで圧粉磁心が作製される。焼鈍工程を経ることで、圧粉成形体1に含まれる歪み及び残留応力を除去する。
【0051】
(実施例)
実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。実施例1~5及び比較例1~3の混合潤滑剤を作製した。
【0052】
実施例1は、潤滑剤として、粒度分布におけるD100が41μmのものを用いた。この潤滑剤を混合液に混合した。混合液としては、イソプロピルアルコールを用いた。潤滑剤は、イソプロピルアルコールに対して、固形分濃度21wt%添加した。なお、固形分濃度とは、イソプロピルアルコールと潤滑剤の混合潤滑剤における潤滑剤の濃度のことである。混合は、1000mlのポリ瓶(ポリエチレンの瓶状の樹脂容器)に、イソプロピルアルコールと潤滑剤を総量300gとなるように比率を調整して入れた。そして、イソプロピルアルコールと潤滑剤を入れた容器をポットミルで回転数150rpm、30分混合した。このようにして、実施例1の混合潤滑剤を作製した。
【0053】
実施例2は、潤滑剤の粒度が実施例1と異なるのみで、その他作製材料、作製方法、作製条件は実施例1と同一である。実施例2の潤滑剤は、粒度分布におけるD100が42μmのものを用いた。
【0054】
実施例3は、潤滑剤の粒度が実施例1と異なるのみで、その他作製材料、作製方法、作製条件は実施例1と同一である。実施例3は、粒度分布におけるD100が46μmの潤滑剤を用いた。
【0055】
実施例4は、潤滑剤の粒度が実施例1と異なるのみで、その他作製材料、作製方法、作製条件は実施例1と同一である。実施例4は、粒度分布におけるD100が61μmの潤滑剤を用いて混合潤滑剤を作製した。
【0056】
比較例1は、潤滑剤の粒度が実施例1と異なるのみで、その他作製材料、作製方法、作製条件は実施例1と同一である。比較例1は、粒度分布におけるD100が25μmの潤滑剤を用いて混合潤滑剤を作製した。
【0057】
比較例2は、潤滑剤の粒度が実施例1と異なるのみで、その他作製材料、作製方法、作製条件は実施例1と同一である。比較例2は、粒度分布におけるD100が31μmの潤滑剤を用いて混合潤滑剤を作製した。
【0058】
比較例3は、潤滑剤の粒度が実施例1と異なるのみで、その他作製材料、作製方法、作製条件は実施例1と同一である。比較例3は、粒度分布におけるD100が73μmの潤滑剤を用いて混合潤滑剤を作製した。
【0059】
比較例4は、潤滑剤の粒度が実施例1と異なるのみで、その他作製材料、作製方法、作製条件は実施例1と同一である。比較例4は、粒度分布におけるD100が78μmの潤滑剤を用いて混合潤滑剤を作製した。
【0060】
比較例5は、潤滑剤の粒度が実施例1と異なるのみで、その他作製材料、作製方法、作製条件は実施例1と同一である。比較例5は、粒度分布におけるD100が121μmの潤滑剤を用いて混合潤滑剤を作製した。
【0061】
以上のように作製された実施例1~4及び比較例1~5の混合潤滑剤について、粘度及び放出量を測定した。粘度は、粘度カップ(アネスト岩田株式会社製 NK-2型)を用いた。粘度の計測は、まず、混合潤滑剤の中に粘度カップの容器部を埋設させ、粘度を混合潤滑剤から引き上げると同時に、ストップウォッチで時間の計測を開始した。そして、粘度カップ内の混合潤滑剤の流出が途切れるまでの時間(sec)を測定した。
【0062】
放出量は、1プッシュした際にノズルから放出された混合潤滑剤の量である。放出量の測定は、ノズル(ノズル径0.5mm)を用いた。容器の中にティッシュペーパーを入れた状態で容器内に向かってノズルから混合潤滑剤を1プッシュ分放出し、即座に容器に蓋をした。ノズルからの放出のエア圧は、0.5MPaで行った。そして、混合潤滑剤の放出後の容量から放出前の容量を差分することで、放出量を測定した。
【0063】
以上の結果を下記表1に示す。また、
図6は、潤滑剤のD100の粒度と放出量の関係を示すグラフである。
【0064】
【0065】
表1及び
図6に示すように、実施例1~4は、ノズルによって霧状に噴霧できることが確認された。また、実施例1~4は、1プッシュによって放出量が110(mg)以上であることが確認された。一方、比較例1の粘度は、150(sec)と高粘度であり、比較例2の粘度は、粘性が高すぎて粘度の測定が不可能であった。そのため、比較例1及び2は、ノズルによって霧状に噴霧できず、ティッシュペーパーを入れた容器内に放出することができなかった。また、比較例3~5は、混合潤滑剤を霧状に噴霧できず、ティッシュペーパーを入れた容器内に放出することができなかった。よって、潤滑剤の粒度分布は、D100が41μm以上61μm以下にするとノズルで均一に噴霧できることが確認された。
【0066】
特に、実施例2~4は、放出量が210(mg)以上であり、実施例1と比較すると、2倍程度以上である。そのため、潤滑剤の粒度分布をD100が42μm以上61μm以下にすることで、1プッシュの放出量が多くなることが確認された。
【0067】
次に、比較例6及び7の混合潤滑剤を作製した。比較例6は、潤滑剤の固形分濃度が比較例1と異なるのみで、潤滑剤のD100を含め、その他作製材料、作製方法、作製条件は比較例1と同一である。比較例6は、潤滑剤の固形分濃度が4wt%になるようにイソプロピルアルコールに対して潤滑剤を添加した。
【0068】
比較例7は、潤滑剤の固形分濃度が比較例2と異なるのみで、潤滑剤のD100を含め、その他作製材料、作製方法、作製条件は比較例2と同一である。比較例7は、潤滑剤の固形分濃度が11wt%になるようにイソプロピルアルコールに対して潤滑剤を添加した。そして、上記と同一の方法及び同一の条件で、粘度及び放出量を測定した。
【0069】
測定結果を下記表2に示す。
【0070】
【0071】
表2に示すように、潤滑剤の固形分濃度を低減させると、潤滑剤のD100が41μm未満であってもノズルから噴霧させることができることが確認された。もっとも、比較例6及び7は、実施例1~4に比べると、潤滑剤の固形分濃度が少ないため、混合潤滑剤における潤滑剤の濃度が薄い。そのため、霧状に噴霧させても離型性を向上させる効果は低い。一方、実施例1~4は、潤滑剤の固形分濃度が21wt%あり、混合潤滑剤における潤滑剤の濃度が高いため、1プッシュで離型性を向上させる効果が十分発揮される。この観点からも、潤滑剤の粒度分布は、D100が41μm以上61μm以下にすることがよいことが確認された。
【0072】
(他の実施形態)
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0073】
上記実施形態では、圧粉成形体1はE字型形状であったが、圧粉成形体1の形状はこれに限定されない。圧粉成形体1は、例えば、U字型形状、I字型形状、トロイダル形状であってもよい。
【0074】
上記実施形態では、金型に混合潤滑剤を塗布させていたが、これに加えて軟磁性粉末に潤滑剤を添加させてもよい。即ち、(4)加圧成形工程の前段階、例えば、(1)絶縁層形成工程の後において、絶縁層が形成された軟磁性粉末に対して、潤滑剤を添加、混合してもよい。潤滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、エチレンビスステアラミド、エチレンビスステアロアマイド、エチレンビスステアレートアミドなどが挙げられる。潤滑剤の添加量は、軟磁性粉末に対して、0.2wt%~0.8wt%程度であることが好ましい。軟磁性粉末自体にも潤滑剤を添加することで、圧粉成形体1の金型との離型性を更に向上させることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 圧粉成形体
11、12、13 脚部
14 ヨーク部
15 先端面
16 プレス面
17 摺動面
2 混合潤滑剤層
3 下パンチ
4 上パンチ
5 軟磁性粉末
N ノズル
M 金型