(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2026026623
(43)【公開日】2026-02-18
(54)【発明の名称】温度測定装置、ガス吸収分光装置、および温度測定方法
(51)【国際特許分類】
G01K 7/25 20060101AFI20260210BHJP
G01N 21/01 20060101ALI20260210BHJP
【FI】
G01K7/25 Z
G01K7/25 D
G01N21/01 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024128864
(22)【出願日】2024-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隼規
(72)【発明者】
【氏名】松花 文太
【テーマコード(参考)】
2F056
2G059
【Fターム(参考)】
2F056RD01
2F056RD10
2G059AA01
2G059BB01
2G059DD13
2G059EE01
2G059GG01
2G059GG09
2G059KK02
2G059NN02
(57)【要約】
【課題】温度測定の精度を向上させるための技術を提供すること。
【解決手段】温度測定装置は、温度モニタ用回路と、スイッチング素子42と、制御回路と、を含む。温度モニタ用回路は、サーミスタ41と、複素インピーダンス素子43とを含む。スイッチング素子42は、温度モニタ用回路と直流電源との接続のオン/オフを切り替える。制御回路は、スイッチング素子42の動作を制御する。制御回路は、温度モニタ用回路の過渡応答特性に基づく特性値を取得し、当該特性値に基づいてサーミスタ41の抵抗値の推定値を導出し、当該推定値に基づいてサーミスタの測定温度を特定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度モニタ用回路と、
前記温度モニタ用回路と直流電源との接続のオン/オフを切り替えるスイッチと、
前記スイッチの動作を制御する制御回路と、を備え、
前記温度モニタ用回路は、サーミスタと、前記サーミスタと電気的に接続される複素インピーダンス素子と、を含み、
前記制御回路は、
前記温度モニタ用回路の過渡応答特性に基づく特性値を取得し、
当該特性値に基づいて前記サーミスタの抵抗値の推定値を導出し、そして、
当該推定値に基づいて前記サーミスタの測定温度を特定する、温度測定装置。
【請求項2】
前記複素インピーダンス素子は、キャパシタおよびインダクタの少なくとも一方を含む、請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項3】
温度と前記サーミスタの抵抗値との関係を格納するメモリをさらに備え、
前記制御回路は、前記推定値と前記メモリに格納された前記関係とに基づいて、前記測定温度を特定する、請求項1または請求項2に記載の温度測定装置。
【請求項4】
光源と、
測定対象ガスを収容するガスセルと、
前記光源から出射され、前記ガスセルを通過した後の光の光強度を検出する光検出器と、
請求項1または請求項2に記載の温度測定装置と、
前記温度測定装置によって特定される前記測定対象ガスの測定温度に基づいて、前記測定対象ガスの温度を調整する温度調整部と、を備える、ガス吸収分光装置。
【請求項5】
サーミスタおよび前記サーミスタと電気的に接続される複素インピーダンス素子を含む温度モニタ用回路を用いて、温度を測定する方法であって、
前記温度モニタ用回路の過渡応答特性に基づく特性値を取得するステップと、
前記特性値に基づいて、前記サーミスタの抵抗値の推定値を導出するステップと、
前記推定値に基づいて、前記サーミスタの測定温度を特定するステップと、を備える、温度測定方法。
【請求項6】
前記複素インピーダンス素子は、キャパシタおよびインダクタの少なくとも一方を含む、請求項5に記載の温度測定方法。
【請求項7】
前記サーミスタの測定温度を特定するステップは、前記推定値、および、メモリに格納された、温度と前記サーミスタの抵抗値との関係に基づいて、前記測定温度を決定することを含む、請求項5または請求項6に記載の温度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度測定装置、ガス吸収分光装置、および温度測定方法に関し、特に、サーミスタを利用した温度測定の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
極低温環境下での温度測定には、非特許文献1(「極低温用白金抵抗温度計」、株式会社ネツシン、[online]、[令和6年5月14日検索]、インターネット<URL:https://netsushin.co.jp/sprt/nsr13k-1000/>)に記載されるような測温抵抗体(RTD)センサを利用することがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「極低温用白金抵抗温度計」、株式会社ネツシン、[online]、[令和6年5月14日検索]、インターネット<URL:https://netsushin.co.jp/sprt/nsr13k-1000/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
温度測定は、数多くの装置において実施されている。そのような装置の一例として、ガス吸収分光装置が挙げられる。
【0005】
ガス吸収分光装置において実施されるガス吸収分光法では、ガス温度および圧力を一定にして吸収スペクトル形状を固定した状態で、波長掃引を含む測定が行われる。高感度が求められる測定では、スペクトル形状の変化が測定精度の悪化につながる。このため、極低温において実施される測定では、電流はμAオーダとなることが想定される。この場合、測定結果におけるノイズの割合が高く、測定結果に多くの誤差が含まれることが想定される。
【0006】
本発明は、係る実情に鑑み考え出されたものであり、その目的は、温度測定の精度を向上させるための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある局面に従う温度測定装置は、温度モニタ用回路と、温度モニタ用回路と直流電源との接続のオン/オフを切り替えるスイッチと、スイッチの動作を制御する制御回路と、を備え、温度モニタ用回路は、サーミスタと、サーミスタと電気的に接続される複素インピーダンス素子と、を含み、制御回路は、温度モニタ用回路の過渡応答特性に基づく特性値を取得し、当該特性値に基づいてサーミスタの抵抗値の推定値を導出し、そして、当該推定値に基づいてサーミスタの測定温度を特定する。
【0008】
本開示のある局面に従うガス吸収分光装置は、光源と、測定対象ガスを収容するガスセルと、光源から出射され、ガスセルを通過した後の光の光強度を検出する光検出器と、上記の温度測定装置と、温度測定装置によって特定される測定対象ガスの測定温度に基づいて、測定対象ガスの温度を調整する温度調整部と、を備える。
【0009】
本開示のある局面に従う温度測定方法は、サーミスタおよびサーミスタと電気的に接続される複素インピーダンス素子を含む温度モニタ用回路を用いて、温度を測定する方法であって、温度モニタ用回路の過渡応答特性に基づく特性値を取得するステップと、特性値に基づいて、サーミスタの抵抗値の推定値を導出するステップと、推定値に基づいて、サーミスタの測定温度を特定するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示のある局面に従うと、温度測定の精度を向上させるための技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】コントローラ50のハードウェア構成を示す図である。
【
図3】温度モニタ部40の構成の一例を模式的に示す図である。
【
図4】温度モニタ部40における過渡応答特性に基づいた出力電圧の変化を示す図である。
【
図5】冷却装置31の動作を制御する処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0013】
[ガス吸収分光装置]
図1は、ガス吸収分光装置の構成を示す図である。本実施の形態のガス吸収分光装置では、ガスセルに収容されたガスの温度が調整され、温度の調整にはサーミスタを利用して測定された温度が利用される。まず、
図1を参照して、ガス吸収分光装置の構成を説明する。
【0014】
図1に示すように、ガス吸収分光装置1は、ガスセル11と、レーザ光源12と、光検出器13と、光源制御部14と、測定部20と、を有する。ガスセル11の素材は、たとえば、ガラス、金属または樹脂である。ガスセル11は、測定対象ガスを収容し、ガスを導入するための導入口11Xおよびガスを排出するための排出口11Yを有する。
【0015】
ガスセル11は、レーザ光源12と光検出器13によって挟まれている。レーザ光源12は、ガスセル11の一方側に位置し、光検出器13は、他方側に位置する。レーザ光源12とガスセル11との間にはレンズ11Aが配置され、光検出器13とガスセル11との間にはレンズ11Bが配置されている。
【0016】
レーザ光源12は、たとえば、量子カスケードレーザ(QCL)、または、注入電流制御型波長可変ダイオードレーザによって構成される。レーザ光源12から出力されるレーザ光の波長は、少なくとも測定対象ガスの吸収波長の一部をカバーする範囲で可変である。
【0017】
光源制御部14は、レーザ光源12を制御して、レーザ光源12の波長を所定の最低波長から最高波長の間で掃引する(変化させる)装置である。
【0018】
光検出器13は、たとえば、レーザ光源12の波長可変範囲内に分光感度を有するフォトダイオードによって構成される。光検出器13は、レーザ光源12から出射され、ガスセル11を通過した後の光の強度を検出し、当該光の強度の情報(電気信号)を測定部20へ出力する。
【0019】
ガス吸収分光装置1は、さらに、図示せぬ圧力センサを含む。圧力センサは、センサ面がガスセル11内に露出し、ガスセル11内の圧力を検出する。圧力センサは、検出された圧力の情報(電気信号)を、測定部20へ出力する。
【0020】
測定部20は、A/D(アナログ/デジタル)変換器と、メモリと、解析部とを有する。A/D変換器は、光検出器13から出力される光強度の情報と、圧力センサから出力される圧力の情報を、デジタルデータへ変換して、メモリに格納する。解析部は、A/D変換器によって得られたデータ(上記メモリ内のデータ)に対して数学的演算を行うことにより、測定対象ガスの濃度(および/または、測定対象ガスに含まれる被測定ガスの濃度)を算出する。
【0021】
ガス吸収分光装置1は、ケース30、冷却装置31、温度モニタ部40、およびコントローラ50をさらに有する。
【0022】
ケース30は、断熱材によって構成され、ガスセル11の温度を保つ。一実現例では、ケース30の内部は真空に維持される。冷却装置31は、たとえばスターリング冷凍機によって構成され、ガスセル11を冷却することにより、ガスセル11内の測定対象ガスを冷却する。冷却装置31は、温度調整部の一例を構成する。
【0023】
温度モニタ部40は、サーミスタ41を有する。サーミスタ41は、ガスセル11に装着されている。温度モニタ部40は、サーミスタ41および複素インピーダンス素子(たとえば、
図3を参照して後述されるキャパシタ43を含むモニタ用回路に直流電力を供給し、また、モニタ用回路におけるサーミスタ41と複素インピーダンス素子の間の電圧の検出値をコントローラ50へ出力する。
【0024】
ケース30には、光検出器13と測定部20とを接続する配線、および、サーミスタ41と温度モニタ部40のサーミスタ以外の要素とを接続する配線のための、フィードスルー30Aが形成されている。
【0025】
ガス吸収分光装置1は、当該ガス吸収分光装置1全体を制御するコントローラ50をさらに有する。コントローラ50は、光源制御部14および測定部20に接続されている。コントローラ50は、光源制御部14に、レーザ光源12からのレーザ光の出力を指示し、また、測定部20に、上述のような測定対象ガスの濃度の算出を指示する。
【0026】
コントローラ50は、冷却装置31および温度モニタ部40に接続されている。コントローラ50は、温度モニタ部40から出力される電圧の検出値に基づいて、サーミスタの抵抗値の推定値を導出し、当該推定値に基づいてサーミスタ41の測定温度を特定し、そして、測定温度を利用して冷却装置31の動作を制御する。冷却装置31の動作は、測定温度が予め定められた設定温度に近づくように制御される。
【0027】
[コントローラ50]
図2は、コントローラ50のハードウェア構成を示す図である。
図5に示されるように、コントローラ50は、コントローラ50全体を制御するためのCPU(Central Processing Unit)60と、ROM(Read Only Memory)61と、RAM(Random Access Memory)62と、HDD(Hard Disk Drive)65とを含む。
【0028】
ROM61は、CPU60によって実行されるプログラムを非一時的に格納する。RAM62は、CPU60におけるプログラムの実行中に利用されるデータを一時的に格納する。RAM62は、作業領域として利用される一時的なデータメモリとして機能する。HDD65は、不揮発性の記憶装置であり、コントローラ50で生成された情報(たとえば、試料ごとのデータファイル)を格納する。HDD65に加えて、あるいは、HDD65に代えて、フラッシュメモリなどの半導体記憶装置が採用されてもよい。
【0029】
コントローラ50は、さらに、通信インターフェイス(I/F)66、操作部63および表示部64を含む。通信I/F66は、コントローラ50が、光源制御部14、測定部20、冷却装置31、および温度モニタ部40と通信するためのインターフェイスである。
【0030】
操作部63は、ユーザ(例えば、分析者)からの入力(たとえば、ガス吸収分光装置1に対する指示)を受け付ける。操作部63は、たとえば、キーボード、マウス、および/または、表示部64の表示画面と一体的に構成されたタッチパネルによって構成され、測定条件などの種々の情報の入力を受け付ける。表示部64は、各種の情報を表示し、たとえば液晶ディスプレイによって実現される。
【0031】
[温度モニタ部40]
図3は、温度モニタ部40の構成の一例を模式的に示す図である。
図4に示されるように、温度モニタ部40は、スイッチング素子42(スイッチの一例)とキャパシタ43を含むモニタ用回路を有する。モニタ用回路では、スイッチング素子42とキャパシタ43とが、サーミスタ41を挟むように、直列に接続されている。
【0032】
温度モニタ部40には、点P1に、直流電源(図示せず)からの直流電圧が供給される。スイッチング素子42は、回路の開閉により、モニタ用回路への直流電圧の供給のオフ/オンを切り替える。温度モニタ部40では、また、サーミスタ41とキャパシタ43との間の電圧値が、点P2において測定され、コントローラ50へと送信される。
【0033】
温度モニタ部40は、サーミスタ41とキャパシタ43とを含むことにより、いわゆるRC直列回路を含み、これにより、直流電圧を供給されたときに、サーミスタ41とキャパシタ43の間の電圧は過渡応答特性を示す。
【0034】
図4は、温度モニタ部40における過渡応答特性に基づいた出力電圧の変化を示す図である。
図4において、枠F1は、点P1を介して入力される電圧値を示す。電圧値の変化は、波形W1として示されている。枠F2は、点P2で測定(出力)される電圧値を示す。電圧値の変化は、波形W2として示されている。枠F1および枠F2において、縦軸は電圧値を表し、横軸は時間を表す。枠F1と枠F2の時間軸は共通である。
【0035】
枠F1において示されるように、時刻T1において直流電圧の供給が開始された後、供給が停止され、その後、時刻T2において直流電圧の供給が再度開始された後、供給が停止されている。
【0036】
枠F2において示されるように、点P2において検出される電圧値は、時刻T1および時刻T2のそれぞれにおける直流電圧の供給開始から少し遅れて立ち上がる。
【0037】
[サーミスタの抵抗値の推定値]
本実施の形態では、サーミスタの抵抗値の推定に、モニタ用回路の過渡応答特性に基づく特性値が利用される。なお、モニタ用回路の過渡応答特性に基づく特性値の一例として、時定数が採用される。
【0038】
ガス吸収分光装置1において、コントローラ50は、温度モニタ部40から直流電圧の供給開始時に出力される電圧値の変化に基づいて、時定数τを取得する。より具体的には、出力される電圧値(キャパシタ43の電圧)が供給される直流電圧の電圧値の0.632倍に到達したときの時間が、時定数τとして特定される。
【0039】
時定数τ、キャパシタ43の容量C、およびサーミスタ41の抵抗値Rの関係は、次の式(1)として記述され得る。
【0040】
τ=CR (1)
なお、時定数τは、上述のような、直流電圧の供給開始時の電圧値の変化から算出されるもの、すなわち、
図4を参照して後述される電圧値の波形の立ち上がりにおいて算出されるものに限定されない。時定数τは、
図4を参照して後述される電圧値の波形における、「立ち下がり」において算出されるものであってもよい。より具体的には、時定数τは、直流電圧の供給が停止されてから、電圧値が、供給されていた電圧値の0.368倍の値まで低下するまでの時間として特定されてもよい。
【0041】
また、過渡応答特性に基づく特性値の他の例として、時定数τが対応する期間とは異なる期間の時間の長さが挙げられる。より具体的には、時定数τは、供給される電圧値とeとを用いて表され得る。たとえば、立ち上がりにおける時定数τは、供給される電圧値を「Ep」とした場合、電圧供給開始から電圧値が「Ep(1-1/e)」に到達するまでの時間として表される。また、立ち下がりにおける時定数τは、供給される電圧値を「Ep」とした場合、電圧供給停止から電圧値が「Ep・(1/e)」まで低下するまでの時間として表される。一方、過渡応答特性に基づく特性値の他の例として、電圧供給開始時において、電圧値がEpに対する第1の割合から第2の割合まで変化する時間(たとえば、Epの10%から90%まで変化する時間)が採用されてもよく、また、電圧供給停止時において、電圧値がEpに対する第1の割合から第2の割合まで変化する(たとえば、Epの90%から10%まで変化する時間)が採用されてもよい。
【0042】
また、過渡応答特性に基づく特性値のさらに他の例として、点P1に正弦波(たとえば中心0.5V±0.5V)をかけた状態で求められる、点P1と点P2の位相差および/または点P1と点P2の振幅の比率であってもよい。たとえば、正弦波の周波数を上げられていくと、点P2の振幅は小さくなり(コンデンサのインピーダンスが小さくなり)、このため、点P2の振幅は点P1の振幅1に対して小さくなる。すなわち、これらの振幅の比率が変わる。
【0043】
キャパシタ43の容量Cはコントローラ50のHDD65に予め登録されている。コントローラ50は、時定数τと容量Cを式(1)に適用することにより、サーミスタ41の抵抗値Rを導出する。たとえば、キャパシタ43の容量Cが0.1μFであり、時定数τが0.3秒である場合、サーミスタ41の抵抗値Rは3MΩとして導出される。
【0044】
[測定温度の特定]
サーミスタ41による測定温度は、サーミスタ41の抵抗値Rに対応する温度として特定される。HDD65には、サーミスタ41の抵抗値Rと温度との対応関係が予め登録されている。コントローラ50は、ある時点においてサーミスタ41の抵抗値の推定値を導出すると、当該抵抗値に対応する温度を、当該時点における測定温度として特定する。
【0045】
[サーミスタの抵抗値の推定に、モニタ用回路の過渡応答特性に基づく特性値が利用されることによる利点]
非特許文献1に記載されるようなRTDセンサとしてPt100センサが利用される場合、温度Tにおける抵抗値Rは、基準温度T0における抵抗値R0および温度係数αを用いて下の式(2)で表される。
【0046】
R=R0{1+α(T-T0)} (2)
RTDセンサは、温度に対して抵抗値が線形に変化し、広い範囲の温度を測定できるセンサとして知られている。たとえば、基準温度T0=0[℃]において、RTDセンサの抵抗値および温度係数がR0=100[Ω]およびα=0.003851[℃-1]である場合、0℃におけるRTDセンサの抵抗値は100Ωであると計算され、-100℃におけるRTDセンサの抵抗値は61.5Ωであると計算される。素子の自己発熱を抑えるために低い値の定電流(たとえば1mA)が流され、測温抵抗体の両端の電圧から抵抗値が算出され、温度に換算される。
【0047】
RTDセンサは、高温から極低温まで1つの温度センサで測定することができ、これにより、使い勝手がよいセンサであると考えられてきた。さらに非特許文献1に記載されるように、低温領域を測定するための測温抵抗体も開発されている。非特許文献1では、従来のPt100の10倍の抵抗値を持つ素子Pt1000も報告されている。
【0048】
-100℃近傍で、プラスマイナス0.1℃よりも高精度な温度安定性を求められる場合がある。しかしながら、上述のRTDセンサでは、Pt1000であっても、0.1℃の温度変化に相当する抵抗値の変化は、わずか0.03851Ω程度と見積もられる。この変化は、測温抵抗体に定電流1mAを流すとき、0.1℃の変化は、38.5μVというわずかな電圧値の変化として出力される。また、RTDセンサには、定電流による測温抵抗体の自己発熱によって、測定結果が真の温度よりも高い値を示す傾向がある。したがって、定電流の値を大きくすると、測定結果により多くの誤差が含まれることが想定される。
【0049】
そこで、温度変化に対する抵抗値変化の大きい、Negative Temperature Coefficient(NTC)サーミスタのようなサーミスタを使用することが考えられる。しかしながら、一般的なNTCサーミスタを用いたいずれの方法(直列に接続されたサーミスタと抵抗との接続点の電圧を測定する回路[分圧回路]、または、サーミスタに定電流を流してサーミスタ両端の電圧を測定する回路)で測定が行われた場合でも、-100℃におけるサーミスタの抵抗値は、例えば3MΩと比較的大きい。
【0050】
本実施の形態では、サーミスタの抵抗値の推定に利用されるモニタ用回路の特性値は、過渡応答特性に基づく特性値である。すなわち、モニタ用回路にサーミスタが利用される場合であっても、過渡応答特性に基づく特性値、すなわち、上述のようにサーミスタの抵抗値が上昇する前の特性値が利用され得る。これにより、抵抗値の推定のための測定結果においてノイズの割合が低く抑えられ得る。したがって、サーミスタの抵抗値の推定の精度が向上され、これにより、温度測定の精度が向上され得る。
【0051】
[処理の流れ]
図5は、冷却装置31の動作を制御する処理のフローチャートである。一実現例では、コントローラ50は、
図5の処理を、CPU60に所与のプログラムを実行させることによって実現する。一実現例では、
図5の処理は、ガス吸収分光装置1において、ガスセル11の温度調整を伴う測定が開始されることに応じて開始される。
【0052】
図5を参照して、ステップS10にて、冷却装置31への指示の更新タイミングが到来しているか否かを判断する。
【0053】
温度調整を伴う測定において、コントローラ50は、サーミスタ41によって測定された温度に基づいて、冷却装置31の動作を制御する。一実現例では、コントローラ50は、一定時間ごとに、サーミスタ41によって温度を測定し、当該温度に基づいて、冷却装置31への指示の内容を決定する。コントローラ50は、
図5の処理の開始時、または、前回ステップS12以降の制御が実行されてから上記一定時間が経過している場合には、上記「更新タイミング」が到来していると判断する。
【0054】
コントローラ50は、上記「更新タイミング」が到来していると判断するまでステップS10に制御を留め(ステップS10にてNO)、上記「更新タイミング」が到来していると判断すると(ステップS10にてYES)、ステップS12へ制御を進める。
【0055】
ステップS12にて、コントローラ50は、変数Nの値を1に設定する。
【0056】
ステップS14にて、コントローラ50は、温度モニタ部40へ直流電圧を供給する。
【0057】
ステップS16にて、コントローラ50は、ステップS14での直流電圧の供給の初期におけるキャパシタ43の電圧値に変化に基づいて、温度モニタ部40における時定数を取得する。
【0058】
ステップS18にて、コントローラ50は、ステップS18にて、ステップS16において取得した時定数を用いて、サーミスタ41の抵抗値を導出する。ステップS18において導出される抵抗値は、後述されるステップS24において導出される抵抗値と区別するために「一次抵抗値」と称される。
【0059】
ステップS20にて、コントローラ50は、変数Nの値がK(任意に設定される、正の整数)に到達しているか否かを判断する。コントローラ50は、変数Nの値がKに到達していれば(ステップS20にてYES)、ステップS24へ制御を進め、そうでなければ(ステップS20にてNO)、ステップS22へ制御を進める。
【0060】
ステップS22にて、コントローラ50は、変数Nの値を1加算更新して、ステップS14へ制御を戻す。
【0061】
ステップS24にて、コントローラ50は、「最終抵抗値」を導出する。ステップS10~S22の制御で、ステップS18の制御がK回実行され、これにより、K個の「一次抵抗値」が導出される。「最終抵抗値」は、K個の「一次抵抗値」が統計処理されることによって導出される。統計処理の一例は、平均値の算出である。
【0062】
ステップS26にて、コントローラ50は、サーミスタ41の抵抗値Rと温度との対応関係とステップS24において導出された「最終抵抗値」とを利用して、サーミスタ41による測定温度を特定する。
【0063】
ステップS28にて、コントローラ50は、ステップS26において特定された測定温度に基づいて、冷却装置31への指示を生成する。たとえば、測定温度が高いほど、より高い冷凍能力に対応する指示が生成される。
【0064】
ステップS30にて、コントローラ50は、ステップS28において生成された指示を冷却装置31へ出力する。その後、コントローラ50は、ステップS10へ制御を戻す。
【0065】
以上説明された本実施の形態では、温度モニタ部40のモニタ用回路の時定数からサーミスタ41の抵抗値が導出される。そして、当該抵抗値から測定温度が特定される。本実施の形態では、温度モニタ部40とコントローラ50は、温度測定装置の一例を構成する。
【0066】
測定温度の特定において、直流電圧は、モニタ用回路に、時定数を取得できる程度の長さの時間だけ供給されれば良い。これにより、サーミスタ41における自己発熱による測定精度への影響は少ないと考えられる。
【0067】
ステップS14~S22では、時定数の取得が繰り返される。ここでは、想定される時定数、または、取得された時定数に基づいて特定されるサンプリングレートに従って時定数の取得が繰り返されても良い。
【0068】
本実施の形態において、キャパシタ43の容量およびサーミスタ41の抵抗値は、温度モニタ部40が測定の対象とする温度範囲に従って調整されてもよい。たとえば、測定の対象とされる温度範囲が低い温度に対応するほど、キャパシタ43として容量の大きいものが選択され、また、サーミスタ41として抵抗値の大きいものが選択される。ただし、求められる測定精度によっては、キャパシタ43として容量の小さいものが選択され(または、サーミスタ41として抵抗値が小さいものが選択され)、繰り返し測定により温度測定精度を高めることもできる。
【0069】
本実施の形態では、温度の測定精度を高めるための構成としてキャパシタが採用されることにより、他の構成(たとえば、光学的な手法による構成)が採用されるよりも、低コストでの測定精度の向上が可能になる。なお、キャパシタ43の容量が小さく、点P1の電圧値がゼロレベルになる時間が長いほど、サーミスタ41の自己発熱は抑えられる。必要な温度測定精度を安価に実現できる構成(キャパシタ容量)が適切なサンプリングレートと組み合わせられることにより、温度測定装置およびガス吸収分光装置の低コスト化が可能になる。
【0070】
[変形例]
図3を参照して説明された例では、温度モニタ部40は、モニタ用回路(サーミスタ41を含むRC直列回路)を有し、コントローラ50は、当該モニタ用回路の時定数を用いてサーミスタ41の抵抗値を導出する。なお、モニタ用回路は、RC直列回路に限定されない。インピーダンスに虚数成分を有する複素インピーダンス素子を含む限り、モニタ用回路は、他の種類の回路(たとえば、RL直列回路)であってもよい。RL直列回路が採用された場合、温度モニタ部40は、キャパシタ43の代わりに、インダクタを有する。当該インダクタは、スイッチング素子42とサーミスタ41の間に配置される。
【0071】
上記インダクタのインダクタンスは、温度モニタ部40が測定の対象とする温度範囲に従って調整されてもよい。たとえば、測定の対象とされる温度範囲が低い温度に対応するほど、上記インダクタとして、インダクタンスが大きいものが選択される。
【0072】
[態様]
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0073】
(第1項) 一態様にかかる温度測定装置は、温度モニタ用回路と、前記温度モニタ用回路と直流電源との接続のオン/オフを切り替えるスイッチと、前記スイッチの動作を制御する制御回路と、を備え、前記温度モニタ用回路は、サーミスタと、前記サーミスタと電気的に接続される複素インピーダンス素子と、を含み、前記制御回路は、前記温度モニタ用回路の過渡応答特性に基づく特性値を取得し、当該特性値に基づいて前記サーミスタの抵抗値の推定値を導出し、そして、当該推定値に基づいて前記サーミスタの測定温度を特定してもよい。
【0074】
第1項に記載の温度測定装置によれば、温度測定の精度を向上させるための技術が提供される。
【0075】
(第2項) 第1項に記載の温度測定装置では、前記複素インピーダンス素子は、キャパシタおよびインダクタの少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0076】
第2項に記載の温度測定装置によれば、モニタ用回路が容易に実現され得る。
【0077】
(第3項) 第1項または第2項に記載の温度測定装置は、温度と前記サーミスタの抵抗値との関係を格納するメモリをさらに備え、前記制御回路は、前記推定値と前記メモリに格納された前記関係とに基づいて、前記測定温度を特定してもよい。
【0078】
第3項に記載の温度測定装置によれば、モニタ用回路の特性値から容易に測定温度が特定され得る。
【0079】
(第4項) 一態様にかかるガス吸収分光装置は、光源と、測定対象ガスを収容するガスセルと、前記光源から出射され、前記ガスセルを通過した後の光の光強度を検出する光検出器と、第1項~第3項のいずれか1項に記載の温度測定装置と、前記温度測定装置によって特定される前記測定対象ガスの測定温度に基づいて、前記測定対象ガスの温度を調整する温度調整部と、を備えていてもよい。
【0080】
第4項に記載の温度測定装置によれば、温度測定の精度を向上させるための技術が提供される。
【0081】
(第5項) 一態様にかかる温度測定方法は、サーミスタおよび前記サーミスタと電気的に接続される複素インピーダンス素子を含む温度モニタ用回路を用いて、温度を測定する方法であって、前記温度モニタ用回路の過渡応答特性に基づく特性値を取得するステップと、前記特性値に基づいて、前記サーミスタの抵抗値の推定値を導出するステップと、前記推定値に基づいて、前記サーミスタの測定温度を特定するステップと、を備えていてもよい。
【0082】
第5項に記載の温度測定方法によれば、温度測定の精度を向上させるための技術が提供される。
【0083】
(第6項) 第5項に記載の温度測定方法では、前記複素インピーダンス素子は、キャパシタおよびインダクタの少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0084】
第6項に記載の温度測定方法によれば、モニタ用回路が容易に実現され得る。
【0085】
(第7項) 第5項または第6項に記載の温度測定方法では、前記サーミスタの測定温度を特定するステップは、前記推定値、および、メモリに格納された、温度と前記サーミスタの抵抗値との関係に基づいて、前記測定温度を決定することを含んでいてもよい。
【0086】
第7項に記載の温度測定方法によれば、モニタ用回路の特性値から容易に測定温度が特定され得る。
【0087】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、実施の形態中の各技術は、単独でも、また、必要に応じて実施の形態中の他の技術と可能な限り組み合わされても、実施され得ることが意図される。
【符号の説明】
【0088】
1 ガス吸収分光装置、11 ガスセル、11A,11B レンズ、12 レーザ光源、13 光検出器、14 光源制御部、20 測定部、30 ケース、30A フィードスルー、31 冷却装置、40 温度モニタ部、41 サーミスタ、42 スイッチング素子、43 キャパシタ、50 コントローラ、F1,F2 枠。