(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2026034634
(43)【公開日】2026-02-27
(54)【発明の名称】多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスクの製造方法、及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20260219BHJP
【FI】
G03F1/24
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025258480
(22)【出願日】2025-12-17
(62)【分割の表示】P 2022551911の分割
【原出願日】2021-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2020162097
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】中川 真徳
(57)【要約】
【課題】 マスク製造工程及びマスク使用時の洗浄等による多層反射膜の膜剥がれを防止し、多層反射膜の膜剥がれに起因する吸収体膜上の欠陥発生を低減することのできる多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスクの製造方法、及び半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】 多層反射膜付き基板10は、基板10と、基板10の主表面上に形成された多層反射膜12とを含む。多層反射膜12は、高屈折率層と低屈折率層を交互に積層した構造を有する。高屈折率層はSiを含む材料からなる。低屈折率層は遷移金属を含む材料からなる。多層反射膜12の最外周部60は、Siと遷移金属とを含む化合物からなる。前記化合物におけるSiと遷移金属の合計含有率(原子%)に対するSiの含有率(原子%)の比は、0.50以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板の主表面上に形成された多層反射膜とを含む多層反射膜付き基板であって、
前記多層反射膜は、高屈折率層と低屈折率層を交互に積層した構造を有し、
前記高屈折率層はSiを含む材料からなり、前記低屈折率層は遷移金属を含む材料からなり、
前記多層反射膜の最外周部は、Siと遷移金属とを含む化合物からなり、
前記化合物におけるSiと遷移金属の合計含有率(原子%)に対するSiの含有率(原子%)の比は、0.50以下であることを特徴とする多層反射膜付き基板。
【請求項2】
前記化合物は酸素を含有することを特徴とする請求項1記載の多層反射膜付き基板。
【請求項3】
前記化合物中の前記酸素の含有率は、0.5原子%以上75原子%以下であることを特徴とする請求項2記載の多層反射膜付き基板。
【請求項4】
前記多層反射膜上に、保護膜が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項5】
基板の主表面上に、高屈折率層と低屈折率層を交互に積層した多層反射膜と、吸収体膜とが形成された反射型マスクブランクにおいて、
前記多層反射膜における前記高屈折率層はSiを含む材料からなり、前記低屈折率層は遷移金属を含む材料からなり、
前記主表面上に形成された前記多層反射膜の最外周部は、Siと遷移金属とを含む化合物からなり、
前記化合物におけるSiと遷移金属の合計含有率(原子%)に対するSiの含有率(原子%)の比は、0.50以下であることを特徴とする反射型マスクブランク 。
【請求項6】
前記化合物は酸素を含有することを特徴とする請求項5記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記化合物中の前記酸素の含有率は、0.5原子%以上75原子%以下であることを特徴とする請求項6記載の反射型マスクブランク。
【請求項8】
前記多層反射膜と前記吸収体膜との間に、前記吸収体膜とエッチング選択性が異なる材料からなる保護膜が形成されていることを特徴とする請求項5乃至7の何れか一に記載の反射型マスクブランク。
【請求項9】
前記吸収体膜上にレジスト膜が形成されていることを特徴とする請求項5乃至8の何れか一に記載の反射型マスクブランク。
【請求項10】
前記レジスト膜の外周の端部は、前記化合物からなる前記多層反射膜の最外周部の上方に位置することを特徴とする請求項9記載の反射型マスクブランク。
【請求項11】
請求項9または10に記載の反射型マスクブランクを準備し、前記吸収体膜をパターニングして、前記多層反射膜上に吸収体パターンを形成することを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の反射型マスクの製造方法によって得られた反射型マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に吸収体パターンを転写する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスクの製造方法、及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における超LSIデバイスの高密度化、高精度化の更なる要求に伴い、極紫外(Extreme Ultra Violet、以下、EUVと称す)光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィが有望視されている。EUV光とは軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2~100nm程度の光のことである。
【0003】
反射型マスクは、基板の上に形成された露光光を反射するための多層反射膜と、多層反射膜の上に形成され、露光光を吸収するためのパターン状の吸収体膜である吸収体パターンとを有する。半導体基板上にパターン転写を行うための露光機に搭載された反射型マスクに入射した光は、吸収体パターンのある部分では吸収され、吸収体パターンのない部分では多層反射膜により反射される。多層反射膜により反射された光像が、反射光学系を通してシリコンウエハ等の半導体基板上に転写される。
【0004】
多層反射膜としては、一般的に、屈折率の異なる元素が周期的に積層された多層膜が用いられる。例えば、波長13~14nmのEUV光に対する多層反射膜としては、Mo膜とSi膜を交互に40周期程度積層したMo/Si周期積層膜が好ましく用いられる。
【0005】
特許文献1には、基板と、基板の表面に形成された多層反射膜と、多層反射膜の上に形成された保護膜と、保護膜の上に形成された吸収膜を備えたEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【0007】
反射型マスクブランクは、一般に、基板の一方の主表面に露光光(EUV光)を反射する多層反射膜が形成され、この多層反射膜上に露光光(EUV光)を吸収する吸収体膜が形成された構造を有する。
【0008】
反射型マスクブランクを用いて反射型マスクを製造する場合、まず反射型マスクブランクの表面に電子線描画用のレジスト膜を形成する。次に、このレジスト膜に対し所望のパターンを電子線で描画し、パターンの現像を行ってレジストパターンを形成する。次いで、このレジストパターンをマスクとして、吸収体膜をドライエッチングして吸収体パターン(転写パターン)を形成する。これにより、多層反射膜上に吸収体パターンが形成された反射型マスクを製造することができる。
【0009】
近年、反射型マスクの品質に対する要求が高くなっており、従来では問題にならなかった多層反射膜付き基板及び反射型マスクブランクにおける、多層反射膜に起因する欠陥が問題となっている。
【0010】
反射型マスクブランクにおける多層反射膜は、通常、イオンビームスパッタリング装置やマグネトロンスパッタリング装置を用いて基板の主表面上に形成される。多層反射膜は、基板の端面に回り込むように形成されることがある。また、多層反射膜は、基板の端面に回り込まないように形成されることがある。多層反射膜を形成する際に、静電チャック装置を用いて基板を保持した場合には、通常は基板の端面に回り込むように多層反射膜が形成される。一方、多層反射膜を形成する際に、機械的なチャック装置(例えば特開2005-77845号公報に記載のチャック装置)を用いて基板を保持した場合には、基板の主表面の周縁部がチャック装置の上面プレートによって覆われる。そのため、通常は基板の端面に回り込まないように多層反射膜が形成される。そして、上記レジスト膜は反射型マスクブランクの全面に形成される。基板周縁部のレジスト膜の剥離による発塵を抑制するため、通常、マスクパターンが形成されない基板周縁部のレジスト膜を除去すること(エッジリンス)が行われる。
【0011】
このように基板周縁部のレジスト膜が除去された(換言すれば、基板周縁部にはレジスト膜が形成されていない)状態の反射型マスクブランクを用いて上記のように反射型マスクを製造した場合、基板周縁部にはレジスト膜が形成されていない。そのため、露出している吸収体膜がエッチングにより除去されてしまい、吸収体膜の下にある多層反射膜が露出することになる。通常、反射型マスクの製造工程において、吸収体パターンを形成した後に、レジストパターン除去のために酸性やアルカリ性の水溶液(薬液)を用いたウェット洗浄が行われる。また、半導体装置の製造においても、露光時に反射型マスクに付着した異物を除去するため、薬液を用いたウェット洗浄が行われる。これらの洗浄は少なくとも複数回行われる。波長13~14nmのEUV光に対する多層反射膜としては、Mo膜とSi膜を交互に40周期程度積層したMo/Si周期積層膜が好ましく用いられる。この洗浄によって、基板周縁部において露出した多層反射膜が損傷し、膜剥がれが発生することがある。このような多層反射膜の膜剥がれは、重大なパターン欠陥の原因となるおそれがある。
【0012】
上記特許文献1に記載の多層反射膜付き基板及び反射型マスクブランクでは、多層反射膜の外周領域に改質領域を形成している。この改質領域は、多層反射膜を構成する高屈折率層の材料と低屈折率層の材料の化合物によって形成されている。このような改質領域を形成することによって、多層反射膜や吸収体膜の膜剥がれに起因する欠陥発生を低減することができる。高屈折率層の材料としては、ケイ素(Si)を含む材料が用いられる。低屈折率層の材料としては、モリブデン(Mo)を含む材料が用いられている。
【0013】
上記特許文献1に記載の多層反射膜付き基板及び反射型マスクブランクによれば、多層反射膜の外周領域に改質領域を形成しているため、多層反射膜の外周の端部における耐薬品性が向上し、多層反射膜の膜剥がれを低減することができる。しかし、改質領域はSiを含んでおり、Si含有率が高いシリサイド膜は圧縮応力が高いため、多層反射膜の膜剥がれや、膜剥がれに起因する吸収体膜上の欠陥を十分に低減することができないという問題があった。
【0014】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものである。本発明は、マスク製造工程及びマスク使用時の洗浄等による多層反射膜の膜剥がれを防止し、多層反射膜の膜剥がれに起因する多層反射膜上、または、吸収体膜上の欠陥発生を低減することのできる多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスクの製造方法、及び半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0016】
(構成1)
基板と、該基板の主表面上に形成された多層反射膜とを含む多層反射膜付き基板であって、
前記多層反射膜は、高屈折率層と低屈折率層を交互に積層した構造を有し、
前記高屈折率層はSiを含む材料からなり、前記低屈折率層は遷移金属を含む材料からなり、
前記多層反射膜の最外周部は、Siと遷移金属とを含む化合物からなり、
前記化合物におけるSiと遷移金属の合計含有率(原子%)に対するSiの含有率(原子%)の比は、0.50以下であることを特徴とする多層反射膜付き基板。
【0017】
(構成2)
前記化合物は酸素を含有することを特徴とする構成1記載の多層反射膜付き基板。
【0018】
(構成3)
前記化合物中の前記酸素の含有率は、0.5原子%以上75原子%以下であることを特徴とする構成2記載の多層反射膜付き基板。
【0019】
(構成4)
前記多層反射膜上に、保護膜が形成されていることを特徴とする構成1乃至3の何れか一に記載の多層反射膜付き基板。
【0020】
(構成5)
基板の主表面上に、高屈折率層と低屈折率層を交互に積層した多層反射膜と、吸収体膜とが形成された反射型マスクブランクにおいて、
前記多層反射膜における前記高屈折率層はSiを含む材料からなり、前記低屈折率層は遷移金属を含む材料からなり、
前記主表面上に形成された前記多層反射膜の最外周部は、Siと遷移金属とを含む化合物からなり、
前記化合物におけるSiと遷移金属の合計含有率(原子%)に対するSiの含有率(原子%)の比は、0.50以下であることを特徴とする反射型マスクブランク 。
【0021】
(構成6)
前記化合物は酸素を含有することを特徴とする構成5記載の反射型マスクブランク。
【0022】
(構成7)
前記化合物中の前記酸素の含有率は、0.5原子%以上75原子%以下であることを特徴とする構成6記載の反射型マスクブランク。
【0023】
(構成8)
前記多層反射膜と前記吸収体膜との間に、前記吸収体膜とエッチング選択性が異なる材料からなる保護膜が形成されていることを特徴とする構成5乃至7の何れか一に記載の反射型マスクブランク。
【0024】
(構成9)
前記吸収体膜上にレジスト膜が形成されていることを特徴とする構成5乃至8の何れか一に記載の反射型マスクブランク。
【0025】
(構成10)
前記レジスト膜の外周の端部は、前記化合物からなる前記多層反射膜の最外周部の上方に位置することを特徴とする構成9記載の反射型マスクブランク。
【0026】
(構成11)
構成9または10に記載の反射型マスクブランクを準備し、前記吸収体膜をパターニングして、前記多層反射膜上に吸収体パターンを形成することを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【0027】
(構成12)
構成11に記載の反射型マスクの製造方法によって得られた反射型マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に吸収体パターンを転写する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【0028】
本発明によれば、マスク製造工程及びマスク使用時の洗浄等による多層反射膜の膜剥がれを防止し、多層反射膜の膜剥がれに起因する多層反射膜上、または、吸収体膜上の欠陥発生を低減することのできる多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスクの製造方法、及び半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本実施形態の多層反射膜付き基板の一例を示す断面模式図である。
【
図2】本実施形態の反射型マスクブランクの一例を示す断面模式図である。
【
図3】本実施形態の反射型マスクブランクの別の例を示す断面模式図である。
【
図4a-f】反射型マスクの製造方法の一例を示す模式図である。
【
図6】多層反射膜の最外周部を拡大した断面の模式図である。
【
図7】多層反射膜の成膜に用いられるイオンビームスパッタリング装置の一例を示す模式図である。
【
図8】多層反射膜の成膜に用いられるイオンビームスパッタリング装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体的に説明するための形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0031】
図1は、本実施形態の多層反射膜付き基板100の一例を示す断面模式図である。
図1に示す多層反射膜付き基板100は、基板10と、基板10の上に形成された多層反射膜12とを含む。多層反射膜12の上には、保護膜14が形成されてもよい。基板10の裏面(多層反射膜12が形成された側と反対側の面)には、静電チャック用の裏面導電膜22が形成されてもよい。
【0032】
なお、本明細書において、基板や膜の「上に」とは、その基板や膜の上面に接触する場合だけでなく、その基板や膜の上面に接触しない場合も含む。すなわち、基板や膜の「上に」とは、その基板や膜の上方に新たな膜が形成される場合や、その基板や膜との間に他の膜が介在している場合等を含む。また、「上に」とは、必ずしも鉛直方向における上側を意味するものではない。「上に」とは、基板や膜などの相対的な位置関係を示しているに過ぎない。
【0033】
<基板>
基板10は、EUV光による露光時の熱による転写パターンの歪みを防止するため、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO2-TiO2系ガラス、多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。
【0034】
基板10の転写パターン(後述の吸収体パターン)が形成される側の主表面は、平坦度を高めるために加工されることが好ましい。基板10の主表面の平坦度を高めることによって、パターンの位置精度や転写精度を高めることができる。例えば、EUV露光の場合、基板10の転写パターンが形成される側の主表面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。また、転写パターンが形成される側と反対側の主表面(裏面)は、露光装置に静電チャックによって固定される面である。裏面の142mm×142mmの領域において、平坦度が0.1μm以下、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。なお、本明細書において平坦度は、TIR(Total Indicated Reading)で示される表面の反り(変形量)を表す値である。具体的には、平坦度は、基板表面を基準として最小二乗法で定められる平面を焦平面とし、この焦平面より上にある基板表面の最も高い位置と、焦平面より下にある基板表面の最も低い位置との高低差の絶対値である。
【0035】
EUV露光の場合、基板10の転写パターンが形成される側の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rq)で0.1nm以下であることが好ましい。なお表面粗さは、原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0036】
基板10は、その上に形成される膜(多層反射膜12など)の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有しているものが好ましい。特に、65GPa以上の高いヤング率を有しているものが好ましい。
【0037】
<多層反射膜>
多層反射膜12は、屈折率の異なる元素を主成分とする複数の層が周期的に積層された構成を有している。一般的に、多層反射膜12は、高屈折率材料である軽元素又はその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素又はその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に40~60周期程度積層された多層膜からなる。
多層反射膜12を形成するために、基板10側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に複数周期積層してもよい。この場合、1つの(高屈折率層/低屈折率層)の積層構造が、1周期となる。
【0038】
なお、多層反射膜12の最上層、すなわち多層反射膜12の基板10と反対側の表面層は、高屈折率層であることが好ましい。基板10側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層する場合は、最上層が低屈折率層となる。しかし、低屈折率層が多層反射膜12の表面である場合、低屈折率層が容易に酸化されることで多層反射膜の表面の反射率が減少してしまう。そのため、その低屈折率層の上に高屈折率層を形成することが好ましい。一方、基板10側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層する場合は、最上層が高屈折率層となる。その場合は、最上層の高屈折率層が、多層反射膜12の表面となる。
【0039】
多層反射膜12に含まれる高屈折率層は、Siを含む材料からなる層である。高屈折率層は、Si単体を含んでもよく、Si化合物を含んでもよい。Si化合物は、Siと、B、C、N、O及びHからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含んでもよい。Siを含む層を高屈折率層として使用することによって、EUV光の反射率に優れた多層反射膜が得られる。
【0040】
多層反射膜12に含まれる低屈折率層は、遷移金属を含む材料からなる層である。低屈折率層に含まれる遷移金属は、Mo、Ru、Rh、及びPtからなる群から選択される少なくとも1つの遷移金属であることが好ましい。低屈折率層は、Moを含む材料からなる層であることがより好ましい。
【0041】
例えば、波長13~14nmのEUV光のための多層反射膜12としては、好ましくは、Mo膜とSi膜を交互に40~60周期程度積層したMo/Si多層膜を用いることができる。
【0042】
このような多層反射膜12の単独での反射率は、例えば65%以上である。多層反射膜12の反射率の上限は、例えば73%である。なお、多層反射膜12に含まれる層の厚み及び周期は、ブラッグの法則を満たすように選択することができる。
【0043】
多層反射膜12は、公知の方法によって形成できる。多層反射膜12は、例えば、イオンビームスパッタ法により形成できる。
【0044】
例えば、多層反射膜12がMo/Si多層膜である場合、イオンビームスパッタ法により、Moターゲットを用いて、厚さ3nm程度のMo膜を基板10の上に形成する。次に、Siターゲットを用いて、厚さ4nm程度のSi膜を形成する。このような操作を繰り返すことによって、Mo/Si膜が40~60周期積層した多層反射膜12を形成することができる。このとき、多層反射膜12の基板10と反対側の表面層は、Siを含む層(Si膜)である。1周期のMo/Si膜の厚みは、7nmとなる。
【0045】
本実施形態の多層反射膜付き基板100において、多層反射膜12の最外周部は、高屈折率層に含まれるSiと、低屈折率層に含まれる遷移金属とを含む化合物を含む。このような化合物において、Siと遷移金属の合計含有率(原子%)に対するSiの含有率(原子%)の比は、0.50以下であり、好ましくは0.45以下であり、さらに好ましくは0.40以下である。また、Siと遷移金属の合計含有率(原子%)に対するSiの含有率(原子%)の比は、0.10以上が好ましい。化合物中に含まれるSi及び遷移金属の割合がこのような範囲内に調整されることによって、化合物中の圧縮応力が低減されるため、マスク製造工程及びマスク使用時の洗浄等による多層反射膜の膜剥がれを防止することができる。その結果、多層反射膜の膜剥がれに起因する多層反射膜上、または、吸収体膜上の欠陥発生を低減することができる。なお、化合物中の全部の領域で上記の条件が満たされる必要はなく、化合物中の少なくとも一部の領域で上記の条件が満たされる場合も、本発明の範囲に含まれる。
【0046】
多層反射膜12の最外周部に含まれる化合物は、さらに酸素を含有することが好ましい。化合物が酸素を含有することによって、多層反射膜12の最外周部における耐薬品性が向上する。また、パターン転写に寄与しない部分である多層反射膜12の最外周部の露光光(EUV光)に対する反射率を低減することができるため、露光時におけるパターン転写精度をさらに向上させることが可能となる。
【0047】
多層反射膜12の最外周部に含まれる化合物中の酸素の含有率は、0.5原子%以上75原子%以下であることが好ましく、5原子%以上60原子%以下であることがより好ましく、5原子%以上40原子%以下であることがさらに好ましい。化合物中に含まれる酸素の割合がこのような範囲内に調整されることによって、多層反射膜12の最外周部における耐薬品性がさらに向上する。多層反射膜12の最外周部に含まれる化合物は、多層反射膜12の成膜後に多層反射膜付き基板をチャンバーから大気中に一旦取り出して、多層反射膜12の成膜とは非連続で保護膜14を成膜することにより酸素を含ませることができる。また、化合物中の酸素の含有率は、多層反射膜付き基板の洗浄や熱処理の条件を調整することによって調整することができる。
【0048】
低屈折率層に含まれる遷移金属がモリブデン(Mo)であり、高屈折率層に含まれる材料がケイ素(Si)である場合には、多層反射膜12の最外周部が金属シリサイド(具体的には、モリブデンシリサイド)によって形成される。モリブデンは、SPM洗浄の際に使用する硫酸によって溶出するが、金属シリサイド(具体的には、モリブデンシリサイド)は、硫酸によって溶出しにくい。したがって、マスクブランク製造工程、マスク製造工程及びマスク使用時における耐薬品性が向上するため、多層反射膜12が溶出することに起因する膜剥がれの発生を防止することができる。その結果、多層反射膜12の膜剥がれに起因する多層反射膜上、または、吸収体膜上の欠陥発生を低減することができる。
【0049】
本明細書において、多層反射膜12の最外周部とは、好ましくは多層反射膜12の最も外周側の端部から内側に向かって20mm以内の範囲であり、より好ましくは10mm以内の範囲であり、更に好ましくは6mm以内の範囲である。
【0050】
多層反射膜12の最外周部に含まれる化合物中のSi及び遷移金属の割合は、例えば、高屈折率層及び低屈折率層を成膜する際のスパッタ粒子の入射角度及びエネルギーによって調整することが可能である。高屈折率層及び低屈折率層を成膜する際のスパッタ粒子の入射角度及びエネルギーは、高屈折率層及び低屈折率層を成膜する際の基板の角度及びスパッタターゲットの角度によって調整することが可能である。
【0051】
本明細書において、「基板の角度」とは、
図7において、直線L1と、直線L2とがなす角度を意味する。直線L1は、基板10の主表面の中心P1と、スパッタターゲットTGの表面の中心を結ぶ直線である。直線L2は、基板10の主表面の中心P1を通る、基板10の主表面に垂直な直線(法線)である。
図7において、基板10を時計回りに回転させる方向を正の角度とする。
【0052】
本明細書において、「スパッタターゲットの角度」とは、
図8において、直線L3と、直線L4とがなす角度を意味する。直線L3は、スパッタターゲットTGの表面の中心P2と、イオンビーム源BSのビームグリッドBGの表面の中心を結ぶ直線である。直線L4は、スパッタターゲットTGの表面の中心P2を通る、スパッタターゲットTGの表面に垂直な直線(法線)である。
図8において、スパッタターゲットTGを時計回りに回転させる方向を正の角度とする。
【0053】
基板の角度及びスパッタターゲットの角度によって、多層反射膜12の最外周部に含まれる化合物中のSi及び遷移金属の割合を調整することができる。より具体的には、低屈折率層を成膜する際の基板の角度は、20度以上45度以下であることが好ましく、スパッタターゲットの角度は、45度以上65度以下であることが好ましい。高屈折率層を成膜する際の基板の角度は、20度以上45度以下であることが好ましく、スパッタターゲットの角度は、45度以上65度以下であることが好ましい。
【0054】
<保護膜>
本実施形態の多層反射膜付き基板100は、多層反射膜12の上に、保護膜14を有してもよい。保護膜14は、後述する反射型マスク200の製造工程におけるドライエッチング及び洗浄から多層反射膜12を保護する機能を有する。また、保護膜14は、電子線(EB)を用いた転写パターンの黒欠陥修正の際に、多層反射膜12を保護する機能も有している。多層反射膜12の上に保護膜14を形成することによって、反射型マスク200を製造する際の多層反射膜12の表面へのダメージを抑制することができる。その結果、多層反射膜12のEUV光に対する反射率特性が良好となる。
【0055】
保護膜14は、公知の方法を用いて成膜することが可能である。保護膜14の成膜方法として、例えば、イオンビームスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、反応性スパッタリング法、気相成長法(CVD)、及び真空蒸着法が挙げられる。保護膜14は、多層反射膜12の成膜後に、イオンビームスパッタリング法によって連続的に成膜してもよい。
【0056】
保護膜14は、後述の吸収体膜24とエッチング選択性が異なる材料によって形成することができる。保護膜14の材料としては、例えば、Ru、Ru-(Nb,Rh,Zr,Y,B,Ti,La,Mo),Si-(Ru,Rh,Cr,B),Rh,Si,Zr,Nb,La,B等の材料を使用することができる。これらのうち、ルテニウム(Ru)を含む材料を適用すると、多層反射膜12の反射率特性がより良好となる。具体的には、Ru、Ru-(Nb,Rh,Zr,Y,B,Ti,La,Mo)であることが好ましい。このような保護膜14は、特に、吸収体膜24をTa系材料とし、Cl系ガスのドライエッチングで当該吸収体膜24をパターニングする場合に有効である。
【0057】
図2は、本実施形態の反射型マスクブランク110の一例を示す断面模式図である。
図2に示す反射型マスクブランク110は、上述の多層反射膜付き基板100の保護膜14の上に、EUV光を吸収するための吸収体膜24を有する。反射型マスクブランク110は、吸収体膜24の上に、レジスト膜26などの他の薄膜をさらに有することができる。
【0058】
図3は、本実施形態の反射型マスクブランク110の別の例を示す断面模式図である。
図3に示すように、反射型マスクブランク110は、吸収体膜24とレジスト膜26の間に、エッチングマスク膜28をさらに有してもよい。
【0059】
吸収体膜24の上にレジスト膜26が形成された場合、通常、マスクパターンが形成されない基板周縁部のレジスト膜26を除去すること(エッジリンス)が行われる。レジスト膜26の周縁部が除去された場合、その下にある吸収体膜24が露出する。マスク製造工程において、露出した吸収体膜24はエッチングによって除去されるため、吸収体膜24の下にある多層反射膜12が露出する。多層反射膜12が露出した場合、マスク製造工程及びマスク使用時の洗浄等によって、多層反射膜12が損傷することがある。このため、エッジリンスによって除去された後のレジスト膜26の外周の端部は、多層反射膜12の最外周部の上方に位置することが好ましい。このような構成によれば、マスク製造工程及びマスク使用時の洗浄等によって、多層反射膜12が損傷し、膜剥がれが発生することをより効果的に防止することができる。
【0060】
<吸収体膜>
本実施形態の反射型マスクブランク110の吸収体膜24は、保護膜14の上に形成される。吸収体膜24の基本的な機能は、EUV光を吸収することである。吸収体膜24は、EUV光の吸収を目的とした吸収体膜24であってもよいし、EUV光の位相差も考慮した位相シフト機能を有する吸収体膜24であっても良い。位相シフト機能を有する吸収体膜24とは、EUV光を吸収するとともに一部を反射させて位相をシフトさせるものである。すなわち、位相シフト機能を有する吸収体膜24がパターニングされた反射型マスク200において、吸収体膜24が形成されている部分では、EUV光を吸収して減光しつつパターン転写に悪影響がないレベルで一部の光を反射させる。また、吸収体膜24が形成されていない領域(フィールド部)では、EUV光は、保護膜14を介して多層反射膜12で反射される。そのため、位相シフト機能を有する吸収体膜24からの反射光と、フィールド部からの反射光との間に所望の位相差が生ずる。位相シフト機能を有する吸収体膜24は、吸収体膜24からの反射光と、多層反射膜12からの反射光との位相差が170度から260度となるように形成されることが好ましい。180度近傍の反転した位相差の光同士がパターンエッジ部で干渉し合うことにより、投影光学像の像コントラストが向上する。その像コントラストの向上に伴って解像度が上がり、露光量裕度、及び焦点裕度等の露光に関する各種裕度を大きくすることができる。
【0061】
吸収体膜24は単層の膜であってもよいし、複数の膜(例えば、下層吸収体膜及び上層吸収体膜)からなる多層膜であっても良い。単層膜の場合は、マスクブランク製造時の工程数を削減できて生産効率が向上する。多層膜の場合には、上層吸収体膜が、光を用いたマスクパターン欠陥検査時の反射防止膜になるように、その光学定数と膜厚を適当に設定することができる。このことにより、光を用いたマスクパターン欠陥検査時の検査感度が向上する。また、上層吸収体膜に酸化耐性が向上する酸素(O)及び窒素(N)等が添加された膜を用いると、経時安定性が向上する。このように、吸収体膜24を多層膜にすることによって、吸収体膜24に様々な機能を付加することが可能となる。吸収体膜24が位相シフト機能を有する場合には、多層膜にすることによって光学面での調整の範囲を大きくすることができるので、所望の反射率を得ることが容易になる。
【0062】
吸収体膜24の材料としては、EUV光を吸収する機能を有し、エッチング等により加工が可能(好ましくは塩素(Cl)系ガス及び/又はフッ素(F)系ガスのドライエッチングでエッチング可能)であり、保護膜14に対してエッチング選択比が高い材料である限り、特に限定されない。そのような機能を有するものとして、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、白金(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、ハフニウム(Hf)、鉄(Fe)、銅(Cu)、テルル(Te)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、及びケイ素(Si)から選ばれる少なくとも1つの金属、又はこれらの化合物を好ましく用いることができる。
【0063】
吸収体膜24は、DCスパッタリング法及びRFスパッタリング法などのマグネトロンスパッタリング法で形成することができる。例えば、タンタル化合物等の吸収体膜24は、タンタル及びホウ素を含むターゲットを用い、酸素又は窒素を添加したアルゴンガスを用いた反応性スパッタリング法により成膜することができる。
【0064】
吸収体膜24を形成するためのタンタル化合物は、Taと上述の金属との合金を含む。吸収体膜24がTaの合金の場合、平滑性及び平坦性の点から、吸収体膜24の結晶状態は、アモルファス状又は微結晶の構造であることが好ましい。吸収体膜24の表面が平滑あるいは平坦でない場合、吸収体パターン24aのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなることがある。吸収体膜24の好ましい表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で、0.5nm以下であり、より好ましくは0.4nm以下、さらに好ましくは0.3nm以下である。
【0065】
吸収体膜24を形成するためのタンタル化合物の例として、TaとBとを含む化合物、TaとNとを含む化合物、TaとOとNとを含む化合物、TaとBとを含み、さらにOとNの少なくともいずれかを含む化合物、TaとSiとを含む化合物、TaとSiとNとを含む化合物、TaとGeとを含む化合物、及びTaとGeとNとを含む化合物、等を挙げることができる。
【0066】
Taは、EUV光の吸収係数が大きく、また、塩素系ガス又はフッ素系ガスで容易にドライエッチングすることが可能な材料である。そのため、Taは、加工性に優れた吸収体膜24の材料であるといえる。さらにTaにB、Si及び/又はGe等を加えることにより、アモルファス状の材料を容易に得ることができる。この結果、吸収体膜24の平滑性を向上させることができる。また、TaにN及び/又はOを加えれば、吸収体膜24の酸化に対する耐性が向上するため、経時的な安定性を向上させることができる。
【0067】
<エッチングマスク膜>
吸収体膜24の上には、エッチングマスク膜28を形成してもよい。エッチングマスク膜28の材料としては、エッチングマスク膜28に対する吸収体膜24のエッチング選択比が高い材料を用いることが好ましい。エッチングマスク膜28に対する吸収体膜24のエッチング選択比は、1.5以上が好ましく、3以上が更に好ましい。
【0068】
本実施形態の反射型マスクブランク110は、吸収体膜24の上に、クロム(Cr)を含むエッチングマスク膜28を有することが好ましい。エッチングマスク膜28の材料として、クロム又はクロム化合物を使用することが好ましい。クロム化合物の例としては、Crと、N、O、C及びHから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料が挙げられる。エッチングマスク膜28は、CrN、CrO、CrC、CrON、CrOC、CrCN又はCrOCNを含むことがより好ましく、クロム及び酸素を含むCrO系膜(CrO膜、CrON膜、CrOC膜又はCrOCN膜)であることが更に好ましい。
【0069】
エッチングマスク膜28の材料としては、タンタル又はタンタル化合物を使用することが好ましい。タンタル化合物の例として、Taと、N、O、B及びHから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料が挙げられる。エッチングマスク膜28は、TaN、TaO、TaON、TaBN、TaBO又はTaBONを含むことがより好ましい。
【0070】
エッチングマスク膜28の材料としては、ケイ素又はケイ素化合物を使用することが好ましい。ケイ素化合物の例として、Siと、N、O、C及びHから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料、並びにケイ素及びケイ素化合物に金属を含む金属ケイ素(金属シリサイド)、及び金属ケイ素化合物(金属シリサイド化合物)などが挙げられる。金属ケイ素化合物の例としては、金属と、Siと、N、O、C及びHから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料が挙げられる。
【0071】
エッチングマスク膜28の膜厚は、パターンを精度よく吸収体膜24に形成するために、3nm以上であることが好ましい。また、エッチングマスク膜28の膜厚は、レジスト膜26の膜厚を薄くするために、15nm以下であることが好ましい。
【0072】
<裏面導電膜>
基板100の裏面(多層反射膜12が形成された側と反対側の面)の上に、静電チャック用の裏面導電膜22を形成してもよい。静電チャック用として、裏面導電膜22に求められるシート抵抗は、通常100Ω/□(Ω/square)以下である。裏面導電膜22は、例えば、クロム又はタンタル等の金属、又はそれらの合金のターゲットを使用したマグネトロンスパッタリング法又はイオンビームスパッタリング法によって形成することができる。裏面導電膜22の材料は、クロム(Cr)又はタンタル(Ta)を含む材料であることが好ましい。例えば、裏面導電膜22の材料は、Crに、ホウ素、窒素、酸素、及び炭素から選択される少なくとも一つを含有したCr化合物であることが好ましい。Cr化合物としては、例えば、CrN、CrON、CrCN、CrCON、CrBN、CrBON、CrBCN及びCrBOCNなどを挙げることができる。また、裏面導電膜22の材料は、Ta(タンタル)、Taを含有する合金、又はこれらのいずれかにホウ素、窒素、酸素、及び炭素の少なくとも一つを含有したTa化合物であることが好ましい。Ta化合物としては、例えば、TaB、TaN、TaO、TaON、TaCON、TaBN、TaBO、TaBON、TaBCON、TaHf、TaHfO、TaHfN、TaHfON、TaHfCON、TaSi、TaSiO、TaSiN、TaSiON、及びTaSiCONなどを挙げることができる。
【0073】
裏面導電膜22の膜厚は、静電チャック用の膜として機能する限り特に限定されないが、例えば10nmから200nmである。
【0074】
<反射型マスクの製造方法>
本実施形態の反射型マスクブランク110を使用して、本実施形態の反射型マスク200を製造することができる。以下、反射型マスクの製造方法の例について説明する。
【0075】
図4a-fは、反射型マスク200の製造方法の一例を示す模式図である。
図4a-fに示すように、まず、基板10と、基板10の表面上に形成された多層反射膜12と、多層反射膜12の上に形成された保護膜14と、保護膜14の上に形成された吸収体膜24と、基板10の裏面に形成された裏面導電膜22とを有する反射型マスクブランク110を準備する(
図4a)。つぎに、吸収体膜24の上に、レジスト膜26を形成する(
図4b)。基板周縁部27のレジスト膜26の剥離による発塵を抑制するため、基板周縁部27のレジスト膜26を、レジスト膜26が溶解する溶媒により除去する(エッジリンス)(
図4c)。レジスト膜26に、電子線描画装置によってパターンを描画し、さらに現像・リンス工程を経ることによって、レジストパターン26aを形成する(
図4d)。
【0076】
レジストパターン26aをマスクとして、吸収体膜24をドライエッチングする。これにより、吸収体膜24のレジストパターン26aによって被覆されていない部分がエッチングされ、吸収体パターン24aが形成される(
図4e)。
【0077】
吸収体膜24のエッチングガスとしては、例えば、フッ素系ガス及び/又は塩素系ガスを用いることができる。フッ素系ガスとしては、CF4、CHF3、C2F6、C3F6、C4F6、C4F8、CH2F2、CH3F、C3F8、SF6、及びF2等を用いることができる。塩素系ガスとしては、Cl2、SiCl4、CHCl3、CCl4、及びBCl3等を用いることができる。また、フッ素系ガス及び/又は塩素系ガスと、O2とを所定の割合で含む混合ガスを用いることができる。これらのエッチングガスは、必要に応じて、更に、He及び/又はArなどの不活性ガスを含むことができる。
【0078】
吸収体パターン24aが形成された後、レジスト剥離液によりレジストパターン26aを除去する。レジストパターン26aを除去した後、酸性やアルカリ性の水溶液を用いたウェット洗浄工程を経ることによって、本実施形態の反射型マスク200が得られる(
図4f)。
【0079】
なお、吸収体膜24の上にエッチングマスク膜28が形成された反射型マスクブランク110を用いた場合には、レジストパターン26aをマスクとして用いてエッチングマスク膜28にパターン(エッチングマスクパターン)を形成した後、エッチングマスクパターンをマスクとして用いて吸収体膜24にパターンを形成する工程が追加される。
【0080】
このようにして得られた反射型マスク200は、基板10の上に、多層反射膜12、保護膜14、及び吸収体パターン24aが積層された構成を有している。
【0081】
多層反射膜12(保護膜14を含む)が露出している領域30は、EUV光を反射する機能を有している。多層反射膜12(保護膜14を含む)が吸収体パターン24aによって覆われている領域32は、EUV光を吸収する機能を有している。本実施形態の反射型マスク200によれば、反射率が例えば2.5%以下になるような吸収体パターン24aの厚みを従来よりも薄くすることができるため、より微細なパターンを被転写体に転写することができる。
【0082】
<半導体装置の製造方法>
本実施形態の反射型マスク200を使用したリソグラフィにより、半導体基板上に転写パターンを形成することができる。この転写パターンは、反射型マスク200のパターンが転写された形状を有している。半導体基板上に反射型マスク200によって転写パターンを形成することによって、半導体装置を製造することができる。
【0083】
図5を用いて、レジスト付き半導体基板56にEUV光によってパターンを転写する方法について説明する。
【0084】
図5は、パターン転写装置50を示している。パターン転写装置50は、レーザープラズマX線源52、反射型マスク200、及び、縮小光学系54等を備えている。縮小光学系54としては、X線反射ミラーが用いられている。
【0085】
反射型マスク200で反射されたパターンは、縮小光学系54により、通常1/4程度に縮小される。例えば、露光波長として13~14nmの波長帯を使用し、光路が真空中になるように予め設定する。このような条件で、レーザープラズマX線源52で発生したEUV光を、反射型マスク200に入射させる。反射型マスク200によって反射された光を、縮小光学系54を介して、レジスト付き半導体基板56上に転写する。
【0086】
反射型マスク200によって反射された光は、縮小光学系54に入射する。縮小光学系54に入射した光は、レジスト付き半導体基板56上のレジスト膜に転写パターンを形成する。露光されたレジスト膜を現像することによって、レジスト付き半導体基板56上にレジストパターンを形成することができる。レジストパターンをマスクとして半導体基板56をエッチングすることにより、半導体基板上に例えば所定の配線パターンを形成することができる。このような工程及びその他の必要な工程を経ることによって、半導体装置を製造することができる。
【実施例0087】
以下、実施例1~5、及び比較例1について、図面を参照しつつ説明する。
【0088】
(多層反射膜付き基板100)
まず、主表面が研磨された6025サイズ(約152mm×152mm×6.35mm)の基板10を準備した。この基板10は、低熱膨張ガラス(SiO2-TiO2系ガラス)からなる基板である。基板10の主表面は、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、局所加工工程、及びタッチ研磨加工工程によって研磨した。
【0089】
次に、基板10の主表面上に、多層反射膜12を形成した。基板10上に形成される多層反射膜12は、波長13.5nmのEUV光に適した多層反射膜12とするために、MoとSiからなる周期多層反射膜12とした。多層反射膜12は、MoターゲットとSiターゲットを使用し、プロセスガスとしてクリプトン(Kr)を用いたイオンビームスパッタリング法により、基板10上にMo膜及びSi膜を交互に積層して形成した。先ず、Si膜を4.2nmの厚みで成膜し、続いて、Mo膜を2.8nmの厚みで成膜した。これを1周期とし、同様にして40周期積層した後、最後にSi膜を4.0nmの厚みで成膜した。イオンビームスパッタリング法による多層反射膜12の成膜の際、基板の角度及びスパッタターゲットの角度を、以下の表1の通りに設定した。
【0090】
【0091】
さらに、比較例1では、多層反射膜12の最外周部にレーザ光を照射した。レーザ光の照射には、CO2レーザ(CW、波長10.6μm、出力3W)を用いた。レーザ光の照射ビーム径がφ200μmとなるように集光したビームをスキャンすることにより、照射時間300msとなる条件にてレーザ光の照射を行った。レーザ光は、多層反射膜12の最も外周側の端部から6mmの範囲内に照射した。
【0092】
実施例1~3では、多層反射膜12の成膜後、更に連続して多層反射膜12上にイオンビームスパッタリング法によりRu保護膜14(膜厚2.5nm)を成膜した。イオンビームスパッタリング法によるRu保護膜14の成膜の際、基板10の主表面の法線に対するRuスパッタ粒子の入射角度は40度、イオンソースのガス流量は8sccmに設定した。実施例4及び5では、多層反射膜12の成膜後、多層反射膜付き基板をチャンバーから大気中に一旦取り出して、多層反射膜12の成膜とは非連続でRu保護膜14を成膜した。Ru保護膜14は、Arガス雰囲気中で、Ruターゲットを使用したDCマグネトロンスパッタリング法により2.5nmの膜厚で成膜した。
【0093】
なお、上述の実施例1~5、及び比較例1において、多層反射膜12および保護膜14を形成する際には、機械的なチャック装置を用いて基板10を保持し、多層反射膜12を形成した。そのため、基板10の主表面上に形成された多層反射膜12は、基板10の端面には回り込まず、基板10の主表面の外周部には形成されなかった。
【0094】
以上のようにして、実施例1~5、及び比較例1の多層反射膜付き基板100を作製した。
【0095】
(反射型マスクブランク110)
次に、上述の多層反射膜付き基板100を用いて、反射型マスクブランク110を作製した。以下、反射型マスクブランク110の製造方法について、説明する。
【0096】
DCマグネトロンスパッタリング法により、多層反射膜付き基板100の保護膜14の上に、吸収体膜24を形成した。吸収体膜24は、吸収層であるTaN膜及び低反射層であるTaO膜の二層からなる積層膜の吸収体膜24とした。上述した多層反射膜付き基板100の保護膜14の表面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、吸収層としてTaN膜を成膜した。このTaN膜は、Taターゲットに多層反射膜付き基板100を対向させ、Arガス及びN2ガスの混合ガス雰囲気中で、反応性スパッタリング法により成膜した。次に、TaN膜の上に、TaO膜(低反射層)を、DCマグネトロンスパッタリング法によって形成した。このTaO膜は、TaN膜と同様に、Taターゲットに多層反射膜付き基板100を対向させ、Ar及びO2の混合ガス雰囲気中で、反応性スパッタリング法により成膜した。
【0097】
TaN膜の組成(原子比率)は、Ta:N=70:30であり、膜厚は48nmであった。TaO膜の組成(原子比率)はTa:O=35:65であり、膜厚は11nmであった。
【0098】
次に、基板10の裏面に、CrNからなる裏面導電膜22をマグネトロンスパッタリング法(反応性スパッタリング法)により、下記の条件にて形成した。
裏面導電膜22の形成条件:Crターゲット、ArとN2の混合ガス雰囲気(Ar:90原子%、N:10原子%)、膜厚20nm。
【0099】
なお、上述の吸収体膜24および裏面導電膜22の形成の際には、基板10の端面に吸収体膜24や裏面導電膜22が回り込まないように、基板10の外周部の一部を遮蔽して、吸収体膜24および裏面導電膜22を形成した。
【0100】
以上のようにして、実施例1~5、及び比較例1の反射型マスクブランク110を作製した。
【0101】
(反射型マスクブランク110の評価)
作製した実施例1~5の反射型マスクブランク110の多層反射膜12の最外周部の断面をTEMで観察した。
図6は、反射型マスクブランク110の多層反射膜12の最外周部60の断面を拡大した模式図である。
図6に示すように、多層反射膜12の最外周部60では、Mo層及びSi層の界面がなくなっていた。また、多層反射膜12の最外周部60では、モリブデンシリサイドからなる化合物が形成されていることが確認された。さらに、多層反射膜12の最外周部60は、基板10の中心から外側に向かって、その厚みが徐々に減少していることが確認された。
【0102】
実施例1~5、及び比較例1の反射型マスクブランク110について、多層反射膜12の最外周部60の組成をTEM-EDXで分析したところ、以下の表2の通りであった。
【0103】
【0104】
実施例1~5及び比較例1の反射型マスクブランク110に対して、SPM洗浄を行った。洗浄の条件は、以下の通りである。
洗浄液 H2SO4:H2O2=2:1(重量比)
洗浄温度 120℃
洗浄時間 10分
【0105】
洗浄後の実施例1~5及び比較例1の反射型マスクブランク110に対して、検査光源波長355nmの高感度欠陥検査装置(レーザーテック社製「MAGICSシリーズ」)を使用して、吸収体膜24の表面における132mm×132mmの領域について欠陥検査を行った。その結果、実施例1~5及び比較例1の反射型マスクブランク110は、欠陥が検出されなかった。
【0106】
つぎに、実施例1~5及び比較例1の反射型マスクブランク110における吸収体膜24の上に、レジスト膜26を形成した。その後、基板周縁部のレジスト膜26を、レジスト膜26が溶解する溶媒により除去し、基板周縁部のレジスト膜26が除去された反射型マスクブランクを作製した。
【0107】
次に、マスク製造工程及びマスク使用時の洗浄等による多層反射膜の膜剥がれに起因する欠陥を評価した。
【0108】
上述の基板周縁部のレジスト膜26が除去された反射型マスクブランクについて、レジスト膜24をマスクにして吸収体膜24をエッチングにより除去した。具体的には、レジスト膜24をマスクにして、吸収体膜24が露出した領域をエッチングにより除去した。
【0109】
その後、上述のSPM洗浄を行った。なお、洗浄の条件は、上述と同じ条件で実施した。
【0110】
上述と同様、洗浄後の実施例1~5及び比較例1の反射型マスクブランクに対して、検査光源波長355nmの高感度欠陥検査装置(レーザーテック社製「MAGICSシリーズ」)を使用して、吸収体膜24の表面における132mm×132mmの領域について欠陥検査を行った。
【0111】
欠陥検査の結果、実施例1の反射型マスクブランク110では、欠陥検出個数が2個であった。実施例2~5の反射型マスクブランク110では、欠陥検出個数が0個であった。これに対して、比較例1の反射型マスクブランク110では、欠陥検出個数が20個であった。
【0112】
比較例1の反射型マスクブランク110では、実施例1~5よりも吸収体膜24の表面に多くの欠陥が検出された。このような結果となった理由は、比較例1の反射型マスクブランク110では、多層反射膜12の最外周部60のSi含有率が高かったためであると考えられる。すなわち、Si含有率が高いシリサイド膜は圧縮応力が高いため、多層反射膜の膜剥がれや、膜剥がれに起因する吸収体膜上の欠陥がより多く発生したことが原因であると考えられる。これに対して、実施例1~5の反射型マスクブランク110では、多層反射膜12の最外周部60のSi含有率が低かったため、最外周部60の圧縮応力が低くなっており、多層反射膜12の膜剥がれに起因する吸収体膜24上の欠陥発生を低減できたと考えられる。
【0113】
したがって、実施例1~5の反射型マスクブランク110を用いて反射型マスク200を作製した場合、マスク製造工程やマスク使用時の洗浄による多層反射膜12の膜剥がれに起因する多層反射膜上、または、吸収体膜上の欠陥発生を低減できる。一方、比較例1の場合、マスク製造工程やマスク使用時の洗浄による多層反射膜の膜剥がれが発生し、多層反射膜の膜剥がれに起因する多層反射膜上、または、吸収体膜上の欠陥が多く発生すると考えられる。
【0114】
(反射型マスク200の作製)
上述の多層反射膜の膜剥がれに起因する欠陥を評価した反射型マスクブランクとは別に、実施例1~5、及び比較例1の反射型マスクブランク110を準備した。つぎに、反射型マスクブランク110における吸収体膜24の上に、レジスト膜26を形成し、その後、基板周縁部のレジスト膜26を除去した。つぎに、レジスト膜26に電子線描画装置によってパターンを描画・現像してレジストパターン20aを形成した。その後、レジストパターン20aをマスクとして、吸収体膜24をドライエッチングして、吸収体パターン24aを形成した。以上のようにして反射型マスク200を作製した。
【0115】
このようにして得られた反射型マスク200について、SPM洗浄によるマスク洗浄を行った。この反射型マスク200について、球相当直径SEVD(Sphere Equivalent Volume Diameter)で21.5nmの欠陥を検出できる欠陥検査が可能な高感度欠陥検査装置を用いて、欠陥検査を行った。反射型マスク200の多層反射膜12上、および、吸収体パターン24a上には、多層反射膜12の膜剥がれに起因する欠陥は検出されなかった。
【0116】
一方、比較例1の反射型マスクブランクを用いて作製された反射型マスクについて欠陥検査を行ったところ、多層反射膜12上、および、吸収体パターン24a上に、多層反射膜12の膜剥がれに起因する欠陥が14個検出された。