(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2026050026
(43)【公開日】2026-03-19
(54)【発明の名称】打ち込み工具
(51)【国際特許分類】
B25C 1/06 20060101AFI20260312BHJP
B25C 1/04 20060101ALI20260312BHJP
【FI】
B25C1/06
B25C1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024154967
(22)【出願日】2024-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 友紀雄
(72)【発明者】
【氏名】長尾 雅也
【テーマコード(参考)】
3C068
【Fターム(参考)】
3C068AA01
3C068BB01
3C068CC02
3C068CC07
3C068JJ20
(57)【要約】
【課題】ガス圧でドライバを移動させて打ち込み具を打ち込み、リフト機構のホイールを係合させてドライバを下動端から上動端位置に戻す打ち込み工具において、速射性を高めるためにホイールの回転速度を高めるとドライバのバウンド動作中にホイールの係合部にドライバのラック歯が下方から衝突するおそれがある。本開示では、打ち込み工具の速射性を確保しつつ、バウンド動作によるホイールへの衝撃を抑制する。
【解決手段】ドライバ15が下動端に至った後、第1係合部P1がドライバ15の第1ラック歯L1に係合される。第1係合部P1は基準係合部である他の係合部P2~P9より細い。このためバウンド動作B中に第1係合部P1が第1ラック歯L1と第2ラック歯L2との間に進入するタイミングが細い分だけ遅れる。また、進入した後に第1係合部P1に第2ラック歯L2がバウンド動作Bにより下方から干渉することが回避される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
打ち込み工具であって、
ガス圧によって打ち込み方向へ移動するピストンと、
前記ピストンに設けられて前記ピストンと一体で移動して打ち込み具を打撃するドライバと、
前記打ち込み方向に沿って前記ドライバに設けられる複数のラック歯と、
複数の係合部を備え、回転することで前記複数の係合部が前記複数のラック歯に順次係合して前記ドライバを反打ち込み方向に移動させるホイールと、を有し、
前記複数の係合部は、前記複数のラック歯のうち前記反打ち込み方向の最端に位置する第1ラック歯に係合する第1係合部と、前記第1係合部よりも太い3つ以上の基準係合部を含む打ち込み工具。
【請求項2】
請求項1記載の打ち込み工具であって、
前記複数の係合部は、前記複数のラック歯のうち前記打ち込み方向の最端に位置する最終ラック歯に係合する最終係合部を有し、
前記第1係合部と前記最終係合部との間に沿って前記ドライバの打ち込み方向の移動を許容する係合逃がし部が設けられており、
前記係合逃がし部が、前記ホイールの回転軸線を中心として前記ドライバの前記移動を許容し得る角度以上で110°以下の角度範囲に設けられる打ち込み工具。
【請求項3】
請求項1又は2記載の打ち込み工具であって、
前記ホイールは5~10本の前記係合部を有する打ち込み工具。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の打ち込み工具であって、
前記ホイールの回転速度が、毎秒3.5~7回転である打ち込み工具。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1つに記載の打ち込み工具であって、
前記ピストンが前記打ち込み方向の移動端位置で衝突するダンパを有し、
前記ピストンが前記ダンパに衝突することにより反打ち込み方向に跳ね返るバウンド動作が終わった後に、前記第1係合部が前記第1ラック歯に係合する打ち込み工具。
【請求項6】
請求項5に記載の打ち込み工具であって、
前記第1係合部の径が、前記ドライバの前記反打ち込み方向への移動時に、前記第1ラック歯の前記打ち込み方向側に隣接する第2ラック歯との干渉が回避され得る大きさである打ち込み工具。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の打ち込み工具であって、
前記ダンパは、硬度が(85°±5°)であるゴム製である打ち込み工具。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1つに記載の打ち込み工具であって、
前記第1ラック歯の前記打ち込み方向側に隣接する第2ラック歯を有し、
前記第2ラック歯の反打ち込み方向側が欠落されて前記第2ラック歯の歯幅が小さくなっている打ち込み工具。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1つに記載の打ち込み工具であって、
前記第1ラック歯の前記打ち込み方向側に隣接する第2ラック歯が他のラック歯よりも低い打ち込み工具。
【請求項10】
請求項1~9の何れか1つに記載の打ち込み工具であって、
前記複数のラック歯が相互に等間隔に配置され、前記複数の係合部が相互に等間隔に配置された打ち込み工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、釘やステープル等の打ち込み具を木材等に打ち込むための打ち込み工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、圧縮ガスの推力を打撃力として利用するガスバネ式の打ち込み工具が開示されている。ガスバネ式の打ち込み工具は、シリンダ内を上下動するピストンと、ピストンに結合されて一体で下動して打ち込み具を打撃するドライバを有する。ピストンとドライバは蓄圧室のガス圧で打ち込み方向に下動する。ピストンは下動端に至るとダンパに衝突して衝撃が吸収される。ピストンとドライバはリフト機構により下動端位置から反打ち込み方向に戻される。
【0003】
リフト機構は、ドライバに設けた複数のラック歯に順次係合される複数の係合部を備えたリフトホイールを有する。リフトホイールは電動モータにより回転する。打ち込み動作後にリフトホイールの係合部がドライバのラック歯に順次噛み合わされることでドライバが反打ち込み方向に上動される。ピストンが反打ち込み方向に上動されることで、蓄圧室のガス圧が高められる。ドライバが上動端位置に上動されると、ドライバに対するリフト機構の係合状態が解除される。これによりドライバがガス圧により下動して打ち込み動作がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
係る打ち込み工具では、ドライバが下動端に至った打ち込み動作後にリフト機構による戻し動作を短時間で行うことで打ち込み工具の速射性を向上させることができる。しかしながら、ピストンは下動端でダンパに衝突することで複数回上下動する跳ね返り動作(バウンド動作)を繰り返す。このため、速射性を高めるためにドライバに対するリフト機構の戻し動作を早めるとピストンの跳ね返り動作によりドライバのラック歯がリフトホイールの係合部に対して下方から衝突しやすくなる。これによりリフト機構の耐久性が損なわれるおそれがある。本開示では、打ち込み工具の速射性及びリフト機構の耐久性が確保されるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの局面によれば、打ち込み工具は、ガス圧によって打ち込み方向へ移動するピストンと、ピストンに設けられてピストンと一体で移動して打ち込み具を打撃するドライバを有する。打ち込み工具は、打ち込み方向に沿ってドライバに設けられる複数のラック歯と、複数の係合部を備え、回転することで複数の係合部が複数のラック歯に順次係合してドライバを反打ち込み方向に移動させるホイールとを有する。複数の係合部は、複数のラック歯のうち反打ち込み方向の最端に位置する第1ラック歯に係合する第1係合部と、第1係合部よりも太い3つ以上の基準係合部を含む。
【0007】
従って、ホイールの回転により第1係合部が第1ラック歯に係合し始めるタイミングが、第1係合部が基準係合部と同じ太さである場合に比して遅れる。これにより第1係合部に対して、第1ラック歯の打ち込み方向側に隣接する第2ラック歯がバウンド動作により干渉することが抑制される。従って、ホイールを含むリフト機構の耐久性を損なうことなく、打ち込み工具の速射性(例えばホイールの回転速度)が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図1中II-II線断面矢視図である。本図は、リフト機構の縦断面を表している。
【
図3】
図1中III-III線断面矢視図である。本図は、ドライバが待機位置に位置する状態を示している。
【
図4】工具本体の横断面図である。本図はドライバが下動端に至った状態を示している。
【
図5】工具本体の横断面図である。本図は、第1係合部が第1ラック歯の下面側に係合された状態を示している。
【
図6】ホイールとドライバの拡大図である。本図は第1係合部が第1ラック歯と第2ラック歯との間に進入する前の状態を示している。進入した第1係合部が二点鎖線で示されている。
【
図7】第2ラック歯の上面側を欠落させて第1ラック歯との間の溝幅を他のラック歯間よりも大きくした状態を示している。
【
図8】第2ラック歯の頭部を欠落させて他のラック歯よりも低くした状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1つ又はそれ以上の実施形態において、複数の係合部は、複数のラック歯のうち打ち込み方向の最端に位置する最終ラック歯に係合する最終係合部を有する。第1係合部と最終係合部との間に沿ってドライバの打ち込み方向の移動を許容する係合逃がし部が設けられる。係合逃がし部が、ホイールの回転軸線を中心としてドライバの移動を許容し得る角度以上で110°以下の角度範囲に設けられる。従って、ドライバの移動を許容しつつ係合逃がし部の角度範囲を小さくすることで複数の係合部の間隔を大きく設定できる。これによりホイールを大型化することなくドライバの移動距離を大きく設定できる。
【0010】
1つ又はそれ以上の実施形態において、ホイールは5~10本の係合部を有する。従って、5~10本の係合部を順次ラック歯に係合させてドライバが反打ち込み方向に戻される。
【0011】
1つ又はそれ以上の実施形態において、ホイールの回転速度が、毎秒3.5~7回転である。従って、高い速射性が確保される。
【0012】
1つ又はそれ以上の実施形態において、ピストンが打ち込み方向の移動端位置で衝突するダンパを有し、ピストンがダンパに衝突することにより反打ち込み方向に跳ね返るバウンド動作が終わった後に、第1係合部が第1ラック歯に係合する。従って、ホイールの回転により第1ラック歯の打ち込み方向側に進入した第1係合部に対して第2ラック歯が打ち込み方向側から干渉することが確実に回避される。
【0013】
1つ又はそれ以上の実施形態において、第1係合部の径が、ドライバの反打ち込み方向への移動時に、第1ラック歯の打ち込み方向側に隣接する第2ラック歯との干渉が回避され得る大きさである。従って、第1係合部が十分に細いことによりホイールを含むリフト機構の耐久性を損なうことなく、打ち込み工具の速射性(例えばホイールの回転速度)が高められる。
【0014】
1つ又はそれ以上の実施態様において、ダンパは、硬度が(85°±5°)であるゴム製である。従って、ドライバのバウンド動作が抑制されることで打ち込み工具の速射性が確保される。
【0015】
1つ又はそれ以上の実施形態において、第1ラック歯の打ち込み方向側に隣接する第2ラック歯を有し、第2ラック歯の反打ち込み方向側が欠落されて第2ラック歯の歯幅が小さくなっている。従って、第1係合部に対する第2ラック歯の干渉がより確実に回避される。
【0016】
1つ又はそれ以上の実施形態において、第1ラック歯の打ち込み方向側に隣接する第2ラック歯が他のラック歯よりも低い。従って、第1係合部に対する第2ラック歯の干渉がより確実に回避される。
【0017】
1つ又はそれ以上の実施形態において、複数のラック歯が相互に等間隔に配置され、複数の係合部が相互に等間隔に配置されている。従って、各ラック歯に対して各係合部がそれぞれ均等に係合されてドライバが反打ち込み方向に戻される。
【実施例0018】
次に本開示の実施例の1つを説明する。打ち込み工具1の一例として、蓄圧室のガス圧を打ち込み具nを打ち込むための推力として利用するガスばね式の打ち込み工具1を示す。以下の説明では、打ち込み具nの打ち込み方向を下方向とし、反打ち込み方向を上方向とする。打ち込み工具1の使用者は、
図1において概ね打ち込み工具1の左側に位置する。使用者の手前側を後方向(使用者側)、手前側と反対側の奥側を前方向とする。左右方向については使用者を基準とする。
【0019】
図1~4に示すように打ち込み工具1は、工具本体10を有する。工具本体10は、概ね円筒形の本体ハウジング11にシリンダ12を収容した構成を有する。シリンダ12内にはピストン13が上下に往復動可能に収容される。ピストン13よりも上方のシリンダ12の上部は、蓄圧室14に連通される。蓄圧室14には、例えば空気等の圧縮ガスが封入される。蓄圧室14のガス圧は、ピストン13の上面に下動させる推力として作用する。
【0020】
図3,4に示すようにシリンダ12の下部は、工具本体10の下部に設けられた打ち込みノーズ部2の打ち込み通路2aに連通される。打ち込みノーズ部2は、多数本の打ち込み具n(
図1参照)が装填されたマガジン8と結合される。打ち込み通路2aには、マガジン8内から打ち込み具nが1本ずつ上下に延出した姿勢で供給される。打ち込みノーズ部2の下部には、上下方向に相対移動可能なコンタクトアーム3が設けられる。コンタクトアーム3は、被打ち込み材Wと当接することにより打ち込みノーズ部2に対して相対的に上動する。
【0021】
ピストン13の下面には、上下に長いドライバ15が結合される。ドライバ15の下部は、打ち込み通路2a内に進入している。ドライバ15は、ピストン13の上面に作用する蓄圧室14のガス圧によって打ち込み通路2a内を下動する。ドライバ15の下端が打ち込み通路2a内に供給された1本の打ち込み具nを打撃する。打撃された打ち込み具nは、打ち込みノーズ部2の射出口2bから射出される。射出された打ち込み具nは被打ち込み材Wに打ち込まれる。
【0022】
シリンダ12の下部には、ピストン13の下動端での衝撃を吸収するための下動端ダンパ17が配置されている。下動端ダンパ17はゴム製で円筒形を有し、硬度(JIS-K-6253 デュロメータ硬さ)は例えば約85°を有している。下動端ダンパ17の硬度は(85°±5°)の範囲で変更可能である。下動端ダンパ17をより硬くするとバウンド動作Bが抑制される。これによっても第1係合部P1に対する第2ラック歯L2の衝突を回避できる。下動端ダンパ17の内周側にドライバ15が進入している。ピストン13が下動端に至って打ち込み動作がなされるとともに、ピストン13が下動端ダンパ17に衝突する。
【0023】
ピストン13は下動端ダンパ17に衝突した後に、下動端ダンパ17の弾性力により複数回上下にわずかな距離だけバウンド動作Bする。ドライバ15もピストン13と一体的にバウンド動作Bする。バウンド動作Bにより衝撃エネルギが吸収されてピストン13が下動端位置に停止する。ピストン13が下動端位置に完全に停止した後、若しくは上下にバウンド動作Bする途中の段階において、後述するリフト機構20によりピストン13とドライバ15が上方の待機位置に戻される。
図3は、ピストン13とドライバ15が待機位置に戻された状態を示している。待機位置においてホイール22の回転によりドライバ15がさらに上動端位置まで上動すると、ホイール22の係合部Pがラック歯Lから外れる。ラック歯Lに対する係合が外れることで、ピストン13が上面に作用するガス圧により下動する。従ってドライバ15が打ち込み方向に下動して打ち込み動作がなされる。
【0024】
ドライバ15の右側部に複数のラック歯Lが設けられている。各ラック歯Lはドライバ15の長手方向(上下方向)に相互に一定の間隔をおいて設けられている。各ラック歯Lは、右方へ突き出す状態に設けられている。本実施例では9個のラック歯L1~L9が設けられている。以下、9個のラック歯L1~L9を、必要に応じて上側から順に、第1ラック歯L1、第2ラック歯L2、第3ラック歯L3、第4ラック歯L4、第5ラック歯L5、第6ラック歯L6、第7ラック歯L7、第8ラック歯L8、最終ラック歯L9とも称する。9個のラック歯Lに、後述するリフト機構20が具備する係合部Pが順に係合される。
【0025】
図1に示すように工具本体10の後部には、使用者が把持するグリップ4が設けられる。グリップ4の前部下面には、使用者が指先で引いて操作するトリガ5が設けられる。被打ち込み材Wにコンタクトアーム3を押し付けて打ち込みノーズ部2に対して相対的に上動させることでトリガ5の引き操作が有効になる。グリップ4の後部にはバッテリ取付部6が設けられている。バッテリ取付部6の後面には、バッテリパック7を取り外し可能に装着できる。バッテリ取付部6に対して上方へスライドさせることでバッテリパック7をバッテリ取付部6から取り外すことができる。取り外したバッテリパック7は別途用意した充電器で充電することで繰り返し使用できる。バッテリパック7の電力が、後述するリフト機構20に供給される。
【0026】
図3に示すように打ち込みノーズ部2の右側部には、リフト機構20が結合されている。リフト機構20は、打撃後にピストン13とドライバ15を一体で上方の待機位置へ戻す機能を有する。リフト機構20によりピストン13が上方へ戻されることで、蓄圧室14のガス圧が高められる。
【0027】
図1に示すようにリフト機構20は円筒形のリフトハウジング30に内装されている。リフトハウジング30は本体ハウジング11の下部に一体に設けられている。リフトハウジング30の後部とグリップ4の後部間に跨ってバッテリ取付部6が設けられている。
【0028】
図2に示すようにリフト機構20は、駆動源としての電動モータ31を有する。電動モータ31は、出力軸32の軸線(モータ軸線J)を前後方向に沿わせた姿勢で収容される。このためモータ軸線Jは、打ち込み方向(
図2において紙面直交方向)に直交している。電動モータ31は、バッテリパック7の電力を電源としてトリガ5の引き操作によって起動する。
【0029】
図2に示すように電動モータ31の出力軸32は、軸受33,34を介してリフトハウジング30に回転可能に支持されている。出力軸32の前部は、減速ギア部40に接続される。減速ギア部40には3列の遊星ギア列が用いられている。3列の遊星ギア列は、相互に同軸でありかつモータ軸線Jと同軸に配置されている。電動モータ31の回転出力は、3列の遊星ギア列を含む減速ギア部40で減速されて前方のリフト機構20に出力される。
【0030】
リフト機構20は、減速ギア部40に連結された回転軸21と、回転軸21に支持されたホイール22を有する。リフト機構20は、リフトハウジング30に収容された略円筒状の機構ケース29に収容される。回転軸21の回転軸線(回転中心C)は、モータ軸線Jに一致している。機構ケース29の前部は蓋部29aで塞がれている。回転軸21の前端は、軸受26を介して蓋部29aに回転可能に支持されている。回転軸21の後端は、減速ギア部40の最終段のキャリア43に結合されている。減速ギア部40の最終段のキャリア43は、外周側に設けられた軸受27を介して機構ケース29に回転可能に支持されている。キャリア43には複数個の遊星ギア41が支持されている。遊星ギア41はインターナルギア42に噛み合わされている。
【0031】
電動モータ31が起動すると、リフト機構20の回転軸21とホイール22が一体で
図3に示す矢印Rの方向(
図3において反時計回り方向)に回転する。ホイール22が矢印R方向に回転することでドライバ15が上方へリフトされる。
【0032】
図6に示すようにホイール22は、ドライバ15のラック歯Lに順次噛み合う複数の係合部Pを有する。複数の係合部Pは、ホイール22の外周縁に沿って一定間隔をおいて配置されている。本実施例では、例えば9個の係合部P(P1~P9)が設けられている。各係合部Pには、円柱形の軸部材(ピン)が用いられている。以下、9個の係合部Pを、ホイール22の矢印Rの回転方向先頭側から順に第1係合部P1、第2係合部P2、第3係合部P3、第4係合部P4、第5係合部P5、第6係合部P6、第7係合部P7、第8係合部P8、最終係合部P9とも称する。
【0033】
9個の係合部P1~P9は、ホイール22の周縁部のほぼ3/4の領域に配置されている。ホイール22の回転方向Rについて、第1係合部P1の反回転方向側に第2係合部P2が隣接して設けられている。以下順に反回転方向側に隣接して第3係合部P3~最終係合部P9が配置されている。ホイール22の周縁部の残余の領域(第1係合部P1と最終係合部P9間の領域)は係合逃がし部24とされている。係合逃がし部24には、係合部P1~P9が配置されていない。係合逃がし部24は、ホイール22の回転軸線(回転中心C)を中心として角度αが例えば96.4°の領域に設けられている。係合逃がし部24の領域は、例えば110°以下の範囲で変更可能である。
図6に示すように係合逃がし部24がドライバ15に対向されることでホイール22の係合部Pとドライバ15のラック歯Lとの干渉が回避される。これによりドライバ15の打ち込み方向へのスムーズな移動(打ち込み動作)が許容される。
【0034】
ホイール22は長孔形状の支持孔22aを介して回転軸21に支持されている。支持孔22aは、相互に対向する2つの円弧形の内面(円弧内面22b,22c)を有する。2つの円弧内面22b,22cの間に相互に平行な2つの平坦面22dが設けられている。支持孔22aの平坦面22dに回転軸21の平坦面21aが摺接されている。このため
図6中白抜き矢印で示すようにホイール22は回転軸21に対して径方向に一定の範囲で変位可能に支持されている。ホイール22は支持孔22aの一方の円弧内面22bに回転軸21を当接させた通常位置と、一方の円弧内面22bと回転軸21との間に隙間を発生させる退避位置(他方の円弧内面22cに回転軸21を当接させる位置)との間を変位可能に支持されている。
図6ではホイール22が通常位置に位置する状態が示されている。
【0035】
回転軸21対するホイール22の変位方向は、ホイール22が第1係合部P1をドライバ15のラック歯Lに噛み合わせる位置(
図6中に二点鎖線で示す位置)まで回転した段階において概ね第1係合部P1をラック歯Lに対して接近離間させる方向に一致している。
【0036】
支持孔22aの他方の円弧内面22cと回転軸21との間に1つの圧縮ばね23が介装されている。圧縮ばね23によりホイール22は回転軸21に対して概ね第1係合部P1を回転軸21から離間させる方向(通常位置側)であって、第1係合部P1の噛み合わせ時に第1係合部P1がラック歯Lに接近する方向に付勢されている。
【0037】
例えば釘詰まりや打ち込み力不足によりドライバ15が下動端の手前で停止した場合に、第1係合部P1がラック歯Lから離間する方向に退避することでラック歯Lに対する第1係合部P1の干渉(噛み合いロック)状態が回避される。例えば釘詰まり等によりドライバ15が下動端の手前で停止した結果、第1係合部P1が第2ラック歯L2の頭部に干渉した場合に、第1係合部P1を経てホイール22に付加される蓄圧室14のガス圧によりホイール22が圧縮ばね23に抗して退避位置に変位する。これにより第2ラック歯L2に対する第1係合部P1の干渉が回避されて、第1係合部P1は第1ラック歯L1の下面側に正常に噛み合わされる。従って、噛み合いロック状態が回避された後に正常な噛み合い状態によりドライバ15が上方へ戻される。これにより詰まった釘の除去作業の便宜が図られる。
【0038】
ホイール22はドライバ15を下動端位置から待機位置を経て上動端位置まで上動させるために概ね3/4回転する。この間にホイール22の各係合部Pにはドライバ15の各ラック歯Lを経て蓄圧室14のガス圧が作用する。ガス圧の全推力のうち、支持孔22aの平坦面22dと回転軸21の平坦面21aとの摺接方向の成分がホイール22を打ち込み方向に向けて押し下げる方向に作用する。
【0039】
ホイール22の1回転中において各係合部Pに作用するガス圧によりホイール22が通常位置と退避位置との間を1往復する。
図3に示す待機位置(最終係合部P9が最終ラック歯L9に係合する位置)から
図5に示す第1係合部P1が第1ラック歯L1に噛み合う位置に至る回転領域(係合逃がし部24の領域)では、ホイール22は圧縮ばね23の付勢力により通常位置に保持される。ホイール22の第2~第8係合部P2~P8がラック歯Lに係合される段階では、ホイール22がラック歯Lを経て付加されるガス圧により圧縮ばね23に抗して退避位置側に変位する。
【0040】
ホイール22が1回転する間に通常位置と退避位置との間を1往復するすることで、各ラック歯Lに対する各係合部Pの噛み合い深さが少しずつ変化する。ラック歯Lに対する噛み合い深さの変化を吸収するため本実施例では例えば第2~第5係合部P2~P5が第1、第6~最終係合部P1、P6~P9よりもわずかに外周側に変位している。これによりホイール22が回転軸21に対して径方向に変位しつつモータ軸線Jを回転中心Cとして回転してドライバ15を待機位置まで上動させる過程において、各ラック歯Lに対して各係合部Pが均等な深さかつ均等なタイミングで噛み合わされる。これによりドライバ15がスムーズに待機位置に戻される。
【0041】
釘詰まり対策等のためにホイール22が回転軸21に対して径方向に変位可能とする支持構造を有する場合には、上記したように複数の係合部Pの一部を内周側あるいは外周側にずらして配置することの他、各係合部P間の角度を変更すること、ラック歯間の間隔を変更すること、あるいはラック歯間の歯溝深さを変更することにより、係合部Pとラック歯Lとが均等なタイミングで噛み合わされるようになって、ドライバ15のスムーズな戻し動作が実現される。
【0042】
図4に示すように正常な打ち込み動作によりドライバ15は下動端に至った後において、ホイール22が引き続き矢印R方向に回転することにより上方へ戻される。打ち込み動作後に、ホイール22の回転により第1係合部P1が第1ラック歯L1の下面側へ進入する際に、ドライバ15が上記したバウンド動作Bにより上方へ変位することが想定される。バウンド動作Bにより上方へ変位する第1ラック歯L1と第2ラック歯L2との間に第1係合部P1が進入する場合には、第1係合部P1に対して第2ラック歯L2が下方から衝突することが想定される。この場合には、ホイール22が結合された減速ギア部40の最終段のキャリア43に対して打ち込み方向とは逆方向の衝撃が付加される。これによりキャリア43に支持される遊星ギア41及び最終段のインターナルギア42の耐久性が損なわれる。
【0043】
本実施例では、第1係合部P1に対する第2ラック歯L2の衝突を回避するため、第1係合部P1が他の係合部P2~P9(本実施例の基準係合部)に比して最も細くなっている。本実施例では、第1係合部P1は例えば直径3.5ミリメートル、基準係合部である第2係合部P2~最終係合部P9は例えば直径4.5ミリメートルを有する。第1係合部P1は第2係合部P2~最終係合部P9よりも直径で1ミリメートル細くなっている。第1係合部P1が細くなることで最終係合部P9との間の間隔が大きくなる。これにより第1係合部P1がドライバ15の第1ラック歯L1に噛み合うタイミングが遅くなる。
【0044】
また、第1係合部P1が他の係合部P2~P9よりも細くなっていることで、第1係合部P1に対して第2ラック歯L2が下方から衝突することが回避される。これによりホイール22への衝撃が低減されてその耐久性が確保される。また、ホイール22を経て減速ギア部40への衝撃が低減されることでその耐久性を高めることができる。
【0045】
また、第1係合部P1が他の係合部P2~P9よりも細い分だけ、第1係合部P1が第1ラック歯L1の下面側に進入するタイミングが遅くなる。これにより第1係合部P1に対して第2ラック歯L2が下方から衝突することが回避される。
【0046】
このようにホイール22及び減速ギア部40の耐久性を損なうことなくドライバ15のバウンド動作B中における第1係合部P1のラック歯Lへの噛み合いが許容されることから、ホイール22の回転速度を高めて打ち込み工具1の速射性を確保することができる。本実施例では、ホイール22及び減速ギア部40の耐久性を確保しつつ、ホイール22が毎秒3.5~7回転して高い速射性が確保されている。
【0047】
第1係合部P1の基準位置は、ドライバ15のバウンド動作Bが終わった直後に、第2ラック歯L2に干渉することなく第1ラック歯L1の下面に当接することとなる位置である。この基準位置を変更することなく、直径を細くすることによりドライバ15のバウンド動作B中における第1係合部P1の第2ラック歯L2との干渉を回避しつつ第1ラック歯L1への噛み合わせが実現される。
【0048】
実施例によればリフト機構20において、反打ち込み方向の最端に位置する第1ラック歯L1に係合する第1係合部P1の径が他の係合部Pに比して最も細くなっている。従って、ホイール22の回転により第1係合部P1が第1ラック歯L1に係合し始めるタイミングが、第1係合部P1が他の係合部Pと同じ太さである場合に比して遅れる。これにより第1係合部P1に対して、第1ラック歯L1の打ち込み方向側に隣接する第2ラック歯L2がバウンド動作Bにより干渉することが抑制される。従って、ホイール22を含むリフト機構20の耐久性を損なうことなく、打ち込み工具1の速射性(例えばホイール22の回転速度)が高められる。
【0049】
実施例によれば、複数の係合部Pは、複数のラック歯Lのうち打ち込み方向の最端に位置する最終ラック歯L9に係合する最終係合部P9を有する。ホイール22の回転軸線を回転中心Cとして第1係合部P1と最終係合部P9の間の角度が110°以下の係合逃がし部24である。係合逃がし部24がドライバ15の打ち込み方向の移動を許容する。従って、ドライバ15の移動を許容する係合逃がし部24を小さく設定することで、ホイール22の回転によるドライバ15の移動距離(リフト量)を大きく設定できる。
【0050】
実施例によれば、第1係合部P1が細いことから他の係合部Pと同じ太さである場合に比してラック歯Lに噛み合うタイミングが遅れる。ドライバ15のバウンド動作Bが終わった後に、第1係合部P1が第1ラック歯L1に係合する。従って、ホイール22の回転により第1ラック歯L1の打ち込み方向側に進入した第1係合部P1に対して第2ラック歯L2が打ち込み方向側から干渉することが確実に回避される。
【0051】
実施例によれば、ホイール22の回転速度が、毎秒3.5~7回転である。従って、打ち込み工具1の高い速射性が確保される。
【0052】
実施例によれば、第1係合部P1の径が、ドライバ15の反打ち込み方向への移動時に、第1ラック歯L1の打ち込み方向側に隣接する第2ラック歯L2との干渉が回避され得る大きさである。従って、第1係合部P1が十分に細いことによりホイール22を含むリフト機構20の耐久性を損なうことなく、打ち込み工具1の速射性(例えばホイール22の回転速度)が高められる。
【0053】
実施例によれば、下動端ダンパ17は、デュロメータ硬度が(85°±5°)であるゴム製である。従って、ドライバ15のバウンド動作Bが抑制されることで打ち込み工具1の速射性が確保される。
【0054】
図7において二点鎖線で示すように第2ラック歯L2の反打ち込み方向側(上面部La)を欠落して第2ラック歯L2の歯幅を小さくすることで、第1ラック歯L1と第2ラック歯L2との間のピッチ基準線上の溝幅dを他のラック歯間の溝幅よりも大きくすることができる。これによりドライバ15のバウンド動作中において第1係合部P1に対する第2ラック歯L2の干渉若しくは衝突がより確実に回避される。従って、ホイール22を含むリフト機構20の耐久性を損なうことなく、打ち込み工具1の速射性(例えばホイール22の回転速度)が高められる。
【0055】
図8において二点鎖線で示すように第2ラック歯L2の先端部Lbを欠落することで、第2ラック歯L2の歯高さhを他のラック歯Lよりも低くすることができる。これによりドライバ15のバウンド動作B中に第1係合部P1に対する第2ラック歯L2の干渉若しくは衝突がより確実に回避される。従って、ホイール22を含むリフト機構20の耐久性を損なうことなく、打ち込み工具1の速射性(例えばホイール22の回転速度)が高められる。第2ラック歯L2に対して上面部Laと先端部Lbの双方を欠落させて第1係合部P1に対する干渉を回避する構成としてもよい。
【0056】
以上説明した実施例には種々変更を加えることができる。例えば、9つの係合部Pのうち第1係合部P1が細く、他の第2~最終係合部P2~P9を同径の基準係合部とする構成を例示したが、複数の係合部のうち同径の少なくとも3つ以上の係合部を基準係合部とし、これよりも第1係合部が細くなる構成とすればよい。従って、例えば複数の係合部のうち、第1係合部と3つの基準係合部の他により細い係合部あるいはより太い係合部を有するホイールについても、例示した構成を適用することができる。
【0057】
例えば、9個の係合部Pを有するホイール22、9個のラック歯Lを有するドライバ15を例示したが、より少ない係合部Pとラック歯L,あるいはより多くの係合部Pとラック歯Lを有する場合にも例示したように第1係合部P1を他の係合部Pよりも細くする構成を適用することができる。
【0058】
下動端ダンパ17の硬度は例えば(85°±5°)の範囲で適宜変更してピストン13とドライバ15のバウンド動作Bの大きさを抑制することができる。
【0059】
実施例では例えば釘詰まり対策として第1係合部P1が第2ラック歯L2に対して干渉しないよう退避可能とするためにホイール22が回転軸21に対して径方向に変位可能に支持される構成を例示した。係るホイール22の支持構造では、ホイール22の係合部Pの一部をより外周側若しくは内周側に変位させ、あるいはこれに合わせてラック歯の間隔や溝深さを変更することで、ドライバ15のスムーズな移動が実現されるようになっている。係る支持構造に対してホイールが回転軸に対して径方向に固定された支持構造を適用することでホイールに等間隔に配置された複数の係合部、ドライバに等間隔に配置された複数のラック歯を相互に均等に噛み合わせてドライバを反打ち込み方向に戻す構成とすることができる。
【0060】
実施例とは異なりホイールが回転軸に対して径方向に固定された支持構造を採用する場合には、ホイールの全ての係合部を同じ太さとしつつ第1係合部を基準位置(すべての係合部を同一円周上で等間隔に配置する場合の位置)よりもわずかに第2係合部側にずらして配置することで第1ラック歯に対する噛み合いのタイミングを遅らせることができる。これによっても第1係合部に対して第2ラック歯が干渉することを抑制できる。
【0061】
また、すべての係合部を同じ太さで同じ間隔となる基準位置に配置しつつ、第1係合部の反打ち込み側を欠落させることで第1ラック歯に対する噛み合いのタイミングを遅らせることができ、若しくは第1係合部の打ち込み方向側を欠落させることでバウンド動作により第2ラック歯が第1係合部に下方から衝突すること回避できる。これらの構成によってもリフト機構20及び減速ギア部40の耐久性を損なうことなく打ち込み工具1の速射性を確保することができる。