(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】ゼラチン架橋体の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
C08J 3/24 20060101AFI20220127BHJP
A61L 2/02 20060101ALI20220127BHJP
A61K 9/06 20060101ALN20220127BHJP
A61K 47/42 20170101ALN20220127BHJP
A61K 9/14 20060101ALN20220127BHJP
A61K 9/70 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
C08J3/24 Z
A61L2/02 100
A61K9/06
A61K47/42
A61K9/14
A61K9/70
(21)【出願番号】P 2017119301
(22)【出願日】2017-06-19
【審査請求日】2020-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】藤田 典明
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/049800(WO,A1)
【文献】特開2014-218464(JP,A)
【文献】特表平11-500032(JP,A)
【文献】特開2007-044080(JP,A)
【文献】特開2004-065780(JP,A)
【文献】特開2003-062063(JP,A)
【文献】特表2013-532139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28;99/00
A61K 9/00-9/72;47/00-47/48
A61L 2/00-2/28;11/00-12/14
C08H 1/00-99/00
C09H 1/00- 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ゼラチンを液体に溶解してゼラチン溶解液とする溶解工程と、上記ゼラチン溶解液を加熱して無菌化フィルタに通す無菌化工程と、上記ゼラチン溶解液を所定形状のゼラチン形成物として形成する形成工程と、上記ゼラチン形成物を架橋してゼラチン架橋体を作製する架橋工程とを有し、
上記ゼラチン形成物が粒状であって、無菌化されたゼラチン溶解液から形成した
粒状のゼラチン形成物を架橋してゼラチン架橋体を作製することを特徴とするゼラチン架橋体の製造方法。
【請求項2】
上記形成工程と上記架橋工程を無菌作業室で行い、
上記無菌化フィルタを備えた管体を介して外部から無菌作業室内にゼラチン溶解液を供給することを特徴とする
請求項1に記載のゼラチン架橋体の製造方法。
【請求項3】
原料ゼラチンを液体に溶解してゼラチン溶解液とする溶解手段と、上記ゼラチン溶解液を加熱する加熱手段と、管体により上記ゼラチン溶解液を送液する送液手段と、上記管体に設けられた無菌化フィルタと、上記ゼラチン溶解液を所定形状のゼラチン形成物として形成する形成手段と、上記ゼラチン形成物を架橋してゼラチン架橋体を作製する架橋手段とを備え、
上記形成手段および架橋手段を無菌作業室に設けるとともに、上記無菌作業室の外部に上記溶解手段および上記加熱手段を設け、
上記送液手段は、上記加熱手段で加熱したゼラチン溶解液を上記管体を介して無菌作業室内へ送液し、その際当該加熱されたゼラチン溶解液を上記無菌化フィルタに通過させることを特徴とするゼラチン架橋体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゼラチン架橋体の製造方法および製造装置に関し、詳しくはゼラチンを所定形状に形成して架橋するゼラチン架橋体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゼラチンに薬剤を含浸させた徐放性製剤を人体内に埋植し、含浸した薬剤を放出させて治療を行うことが知られ、ここで用いられるゼラチンとしては、製造過程において架橋を行ったゼラチン架橋体が用いられている(特許文献1)。
上記特許文献1では、上記ゼラチン架橋体を、所定形状に形成する工程と、当該ゼラチンを架橋する工程とを経て作製するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記ゼラチン架橋体の作製作業は、クリーンベンチで行われることが一般的となっており、これらの空間は一定の清浄度が確保されているものの、無菌環境として担保されてはいない。
そこで、原料ゼラチンを無菌環境に維持されたアイソレータの内部に搬入して、上記ゼラチン架橋体として無菌環境下で製造することが考えられる。この場合、原料ゼラチンは容器に密封された状態で供給されるが、容器内の無菌性は担保されていないため、アイソレータ内に搬入する際に外面のみならず内部の滅菌が必要となる。
そのような場合、一般的には容器の外部からガンマ線や電子線を照射して容器の内部を滅菌することが行われているが、ガンマ線や電子線の照射によって意図しない原料ゼラチンの架橋が生じるという問題があった。
このような問題に鑑み、本発明はゼラチン架橋体を無菌状態で製造することが可能なゼラチン架橋体の製造方法および製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかるゼラチン架橋体の製造方法は、原料ゼラチンを液体に溶解してゼラチン溶解液とする溶解工程と、上記ゼラチン溶解液を加熱して無菌化フィルタに通す無菌化工程と、上記ゼラチン溶解液を所定形状のゼラチン形成物として形成する形成工程と、上記ゼラチン形成物を架橋してゼラチン架橋体を作製する架橋工程とを有し、
上記ゼラチン形成物が粒状であって、無菌化されたゼラチン溶解液から形成した粒状のゼラチン形成物を架橋してゼラチン架橋体を作製することを特徴としている。
また請求項3の発明にかかるゼラチン架橋体の製造装置は、原料ゼラチンを液体に溶解してゼラチン溶解液とする溶解手段と、上記ゼラチン溶解液を加熱する加熱手段と、管体により上記ゼラチン溶解液を送液する送液手段と、上記管体に設けられた無菌化フィルタと、上記ゼラチン溶解液を所定形状のゼラチン形成物として形成する形成手段と、上記ゼラチン形成物を架橋してゼラチン架橋体を作製する架橋手段とを備え、
上記形成手段および架橋手段を無菌作業室に設けるとともに、上記無菌作業室の外部に上記溶解手段および上記加熱手段を設け、
上記送液手段は、上記加熱手段で加熱したゼラチン溶解液を上記管体を介して無菌作業室内へ送液し、その際当該加熱されたゼラチン溶解液を上記無菌化フィルタに通過させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記請求項1の発明によれば、無菌化されたゼラチン溶解液から形成した粒状のゼラチン形成物を架橋してゼラチン架橋体を作製することで、ゼラチン架橋体を無菌状態で製造することが可能となる。
その際、原料ゼラチンを液体で溶解してゼラチン溶解液として加熱することで、当該ゼラチン溶解液が無菌化フィルタを通過可能な粘度となるため、ゼラチン溶解液を無菌化フィルタによって無菌化することが可能となっている。
また請求項3の発明によれば、ゼラチン形成物を形成する形成手段と、ゼラチン形成物を架橋する架橋手段を無菌作業室に設けているため、ゼラチン架橋体を無菌状態で製造することができる。
この場合、原料ゼラチンを溶解し加熱する溶解手段および加熱手段を無菌作業室の外部に設け、得られたゼラチン溶解液を加熱手段によって加熱してから送液することにより、無菌化フィルタにより無菌化されたゼラチン溶解液を上記無菌作業室に供給することが可能となり、原料の無菌性が担保されるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施例にかかるゼラチン架橋体の製造装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について説明すると、
図1はゼラチン架橋体Gcを製造するための製造装置1を示しており、当該製造装置1で製造されたゼラチン架橋体Gcは、その後薬剤を含浸させることにより生体吸収性の徐放性製剤として利用することが可能となっている。
ここで、上記徐放性製剤は人体内に埋植して使用されることから、製造されるゼラチン架橋体Gcには無菌性が要求され、従って上記製造装置1では上記ゼラチン架橋体Gcを無菌環境で製造するものとなっている。
本実施例の製造装置1は、内部が所要の清浄度に維持されたクリーンベンチ2と、内部が無菌状態に維持されたアイソレータ3とを有している。
そして上記クリーンベンチ2の内部には、原料ゼラチンGmを溶解させる溶解手段4と、当該溶解手段4で溶解されたゼラチン溶解液Glを送液する送液手段5とが設けられている。
また上記アイソレータ3の内部には、上記送液手段5によって送液されたゼラチン溶解液Glを容器6に分注する分注手段7と、容器6に収容されたゼラチン溶解液Glを所定形状に形成する形成手段としての凍結乾燥機8と、凍結乾燥されてシート状に形成されたゼラチン形成物Gfを加熱して架橋する架橋手段としての真空オーブン9と、上記架橋されたゼラチン架橋体Gcの検査を行うとともにバイアル瓶10に収容して密封するための収容部11とが設けられている。
【0009】
上記クリーンベンチ2は従来公知であって、前面に透明な窓2aが設けられるとともに作業台2bの上部に作業空間を有しており、作業者は上記窓2aと作業台2bとの隙間2cから腕を差し入れて作業を行うものとなっている。
クリーンベンチ2によって形成された作業空間は、空気清浄手段によって清浄化されているものの、上記隙間2cが外部に開口していることから、完全な無菌性は担保されていない。
しかしながら、上記隙間2cを介して各種の作業を行うことができるため、後述するグローブ3cを装着して作業を行うアイソレータ3に比べて作業効率がよく、またクリーンベンチ2内に原料ゼラチンGmや資材等を搬入する際には、アイソレータ3で行うような滅菌作業が不要である。
なお、本実施例ではクリーンベンチ2を用いているが、製造装置1の設置環境がある程度の清浄度を維持している場合には、安全キャビネットや単なる作業台であってもよい。
【0010】
上記アイソレータ3は従来公知であり、開閉可能な開閉扉3aによって内部空間が密閉可能となっており、この内部空間は無菌作業室3Aとして事前に滅菌されるとともに無菌状態に維持され、さらに無菌エア供給手段によって陽圧化されている。
また前面の透明な窓3bには、作業者が内部の無菌作業室3Aで作業を行うためのグローブ3cが複数設けられており、上記クリーンベンチ2と異なり、無菌性が担保された無菌環境で作業を行うことが可能となっている。
さらにアイソレータ3に隣接して滅菌機能を有するパスボックス12が設けられており、上記開閉扉3aを介して無菌作業室3Aと連通するようになっている。
無菌作業室3A内に資材等を搬入する際には、パスボックス12の開閉扉12aを閉じてこのパスボックス12内で予め資材等を滅菌してから、上記開閉扉3aを開いて搬入するようになっており、外部からの塵埃や雑菌、微生物等の侵入を阻止するようになっている。
なお無菌環境下における作業を行うため、上記アイソレータ3に代えてアクセス制限バリアシステム(RABS:Restricted Access Barrier System)を用いてもよい。
【0011】
上記クリーンベンチ2の内部に設けられた溶解手段4には、原料ゼラチンGmを溶解する溶解容器21と、溶解容器21内の液体を撹拌するマグネティックスターラー22と、上記溶解容器21内の液体を一定温度に維持する恒温槽23とが設けられている。
上記原料ゼラチンGmとしては、液体に溶解できるものであれば、粉末、顆粒、粒子、固形、ゲル、ジェル等、様々な態様のものを用いることができ、また原料ゼラチンGmを溶解させる溶媒としては注射用水Wを使用することができる。
マグネティックスターラー22は、上記溶解容器21を載置するドライブ部22aと、上記溶解容器21の内部に設けられるとともに上記ドライブ部22aによる磁力によって回転する回転子22bとから構成されている。
上記ドライブ部22aが上記回転子22bを溶解容器21の内部で回転させることで、溶解容器21に投入された原料ゼラチンGmと注射用水Wとが撹拌されて、上記ゼラチン溶解液Glを得ることができる。
そして上記恒温槽23は加熱手段として設けられ、上記溶解容器21の内部で原料ゼラチンGmを溶解させる際に、当該溶解容器21の内部を所定の温度に維持し、上記送液手段5によって送液する際には、ゼラチン溶解液Glを所要の温度まで加熱するようになっている。
【0012】
上記送液手段5は、上記ゼラチン溶解液Glが流通する柔軟性を有するチューブからなる管体24と、上記管体24内のゼラチン溶解液Glを送液するチューブポンプ25と、チューブポンプ25の下流側に設けられて上記ゼラチン溶解液Glを無菌化する無菌化フィルタ26とを備えている。
上記管体24は一端が上記溶解容器21の内部に挿入され、他端が上記アイソレータ3の内部に設けられた上記分注手段7に接続されており、上記無菌化フィルタ26はアイソレータ3の外部に設けられている。
また上記チューブポンプ25は、上記管体24を外側から押圧することで、管体24を介してゼラチン溶解液Glを無菌作業室3A内へ送液するようになっており、上記分注手段7に設けられた電子秤27による計量結果に基づいて制御され、所定量のゼラチン溶解液Glを送液するようになっている。
上記無菌化フィルタ26としては従来公知の低吸着滅菌濾過フィルタを用いることができ、通過するゼラチン溶解液Gl中の雑菌や微生物、異物を除去するようになっている。
ここで、ゼラチン溶解液Glは粘性を有しており、常温では精密な無菌化フィルタ26を通過させることができず、上記無菌化フィルタ26にゼラチン溶解液Glを通過させるためには、当該ゼラチン溶解液Glの粘性を低くする必要がある。
このため本実施例では、原料ゼラチンGmを注射用水Wに溶解させる際の設定を40℃以下とし、送液する際のゼラチン溶解液Glの温度を40~80℃の範囲で設定するようになっている。
【0013】
アイソレータ3の内部に設けられた上記分注手段7には、上記送液手段5における管体24の端部に形成された吐出口24aが配置され、当該吐出口24aの下方にはゼラチン溶解液Glを収容する容器6が位置し、また当該容器6に分注されたゼラチン溶解液Glの重量を測定する電子秤27が設けられている。
上記送液手段5の管体24は上記アイソレータ3の壁面を貫通して設けられており、上記壁面の貫通部分には、アイソレータ3の内部空間の無菌状態を維持するための図示しないシール手段が設けられ密閉されている。
上記容器6は金属製で、シート状もしくは板状のゼラチン形成物Gfを形成するために、縦横数mm程度の幅で、深さ1mm程度の収容空間を有している。また上記容器6は上記グローブ3cを装着した作業者によって扱われるようになっている。
上記電子秤27は、上記送液手段5が送液したゼラチン溶解液Glが上記容器6内に注入されるとその重量を計測し、所定の重量に達すると上記送液手段5を制御してゼラチン溶解液Glの供給を停止させるようになっている。
【0014】
上記凍結乾燥機8は上記グローブ3cを装着した作業者によって操作可能な開閉扉8aを有し、上記アイソレータ3の無菌状態を維持したまま上記容器6の出し入れが可能となっている。
また上記真空オーブン9も、上記グローブ3cを装着した作業者によって操作可能な開閉扉9aを有し、上記アイソレータ3の無菌状態を維持したまま上記容器6の出し入れが可能となっている。
上記収容部11には、容器6から取り出したゼラチン架橋体Gcを切断するためのハサミ28や、切断したゼラチン架橋体Gcを収容するバイアル瓶10、当該バイアル瓶10を密閉するゴム栓10a等が、予め滅菌された状態で準備されており、また切断したゼラチン架橋体Gcの重量を測定するための電子秤29が設けられている。
【0015】
図2は上記ゼラチン架橋体Gcの製造装置1を用いたゼラチン架橋体Gcの製造方法を説明する作業フローを示している。
まず、上記クリーンベンチ2の溶解手段4において、原料ゼラチンGmを注射用水Wに溶解させてゼラチン溶解液Glを作製する工程を行う(A)。
具体的には、まず作業者が密閉された原料ゼラチンGmの容器と注射用水Wの容器とをクリーンベンチ2内に搬入し、これを開放して上記溶解容器21に投入する。このとき原料ゼラチンGmと注射用水Wとを所定の割合で投入する。
続いて、上記恒温槽23によって溶解容器21を20~30℃まで加温するとともに、この状態を1~10時間撹拌する。これにより原料ゼラチンGmが注射用水Wによって膨潤される。
続いて、溶解容器21にさらに注射用水Wを投入して、膨潤したゼラチンを溶解させてゼラチン溶解液Glを作製する。この時、上記マグネティックスターラー22を用いてゼラチンと注射用水Wとを1~10時間撹拌し、その際恒温槽23によって溶解容器21を30~40℃に維持する。
【0016】
次に、ゼラチン溶解液Glを加熱するとともに、当該加熱したゼラチン溶解液Glを送液し、さらに加熱したゼラチン溶解液Glを無菌化フィルタ26に通して無菌化する工程を行う(B)。
まず、上記溶解工程によってゼラチン溶解液Glを作製したら、上記恒温槽23によって溶解容器21中のゼラチン溶解液Glを改めて40℃以上に加熱し、上記送液手段5を構成する管体24の端部を上記溶解容器21内に挿入する。
続いて、上記チューブポンプ25を作動させ、溶解容器21内の加熱されたゼラチン溶解液Glを管体24に吸い上げて、これを上記アイソレータ3の内部に設けられた分注手段7に向けて送液する。
ゼラチン溶解液Glは上記管体24を送液される間に、当該管体24の途中に設けられた無菌化フィルタ26を通過し、これにより上記ゼラチン溶解液Glを作製する工程において雑菌等が混入したとしてもこれを除去することができ、ゼラチン溶解液Glを無菌化することができる。
ここで、ゼラチン溶解液Glが無菌化フィルタ26を通過するためには、当該ゼラチン溶解液Glの粘度が低い必要があるが、本工程においてゼラチン溶解液Glを加熱するため、ゼラチン溶解液Glの粘度を無菌化フィルタ26に通すことの可能な粘度とすることができる。
【0017】
次に、上記アイソレータ3の内部に設けられた分注手段7においてゼラチン溶解液Glを所定形状のゼラチン形成物Gfとして形成する工程を行う(C)。
まず、作業者が上記分注手段7の電子秤27に容器6を載置し、上記送液手段5のチューブポンプ25によって送液されたゼラチン溶解液Glを上記吐出口24aから排出させて当該容器6内に注入する。
上記電子秤27では投入されたゼラチン溶解液Glの重量を測定しており、所定量のゼラチン溶解液Glが注入されると、上記チューブポンプ25による送液を停止させる。
【0018】
次に、上記アイソレータ3の内部に設けられた凍結乾燥機8において、凍結乾燥する。
作業者は、上記分注手段7からゼラチン溶解液Glを収容した容器6を取り出すと、これを凍結乾燥機8の庫内に収容し、3時間程度かけてこれを冷却し、上記ゼラチン溶解液Glをゲル化させる。
このようにゼラチン溶解液Glをゲル化した後、凍結乾燥機8の庫内を-40~-80℃まで冷却するとともに、これを3時間程度保持して、ゲル化したゼラチン溶解液Glを凍結する。
続いて、凍結乾燥機8の内部を10Paに減圧して4日程度保持して低温乾燥した後、庫内を30℃まで昇温させ、3時間程度かけて完全に乾燥させる。これにより、シート状もしくは板状のゼラチン形成物Gfが形成される。
【0019】
次に、ゼラチン形成物Gfを架橋してゼラチン架橋体Gcとする工程を行う(D)。
作業者は上記凍結乾燥機8から容器6を取り出すと、これを上記真空オーブン9に収容し、10Pa程度に減圧するとともに、温度100~250℃、30分から120時間の範囲で加熱する。加熱温度や加熱時間を変更することにより、ゼラチン架橋体Gcを使用した徐放性製剤が人体で分解する速度を制御することができる。
これによりゼラチン形成物Gfが熱によって架橋され、ゼラチン架橋体Gcが得られる。またこのとき加熱による滅菌効果も得ることができる。また熱架橋であれば薬品を使用しないため人体への影響がなく、薬品の洗浄処理や残留検査が不要となる。
なお、真空オーブン9において減圧下で加熱するのに代えて、不活性ガス中において加熱する方法を用いても、ゼラチン形成物Gfを熱架橋することができる。
【0020】
最後に、得られたゼラチン架橋体Gcをバイアル瓶10に収容して密封する工程を行う(E)。
まず、作業者は上記真空オーブン9から容器6を取り出すと、当該容器6からシート状もしくは板状になったゼラチン架橋体Gcを取り出し、さらにハサミ28を用いて所要の大きさに切断する。
続いて、ゼラチン架橋体Gcを上記バイアル瓶10に収容するとともに、当該バイアル瓶10をゴム栓10aによって密封する。
最後に、電子秤29で計量して質量を確認した後、上記アイソレータ3の開閉扉3aを開放して、上記バイアル瓶10を上記パスボックス12へと移動し、当該パスボックス12からバイアル瓶10を外部に取り出す。
【0021】
上記実施例にかかるゼラチン架橋体Gcの製造方法によれば、ゼラチンを温めながら注射用水Wに溶解してゼラチン溶解液Glを作成し、さらに高い温度に当該ゼラチン溶解液Glを加熱することで粘度が低下し、無菌化フィルタ26に通すことが可能となる。
これにより、無菌化フィルタ26により無菌化されたゼラチン溶解液Glを無菌状態に維持されたアイソレータ3の内部に搬入して取り扱うことが可能となり、ゼラチン架橋体Gcを無菌環境で製造して密封し、供給することが可能となる。
【0022】
なお、上記実施例ではシート状もしくは板状のゼラチン架橋体Gcを作製する場合について説明したが、ゼラチン形成物Gfとして粒子状に形成することも可能である。
すなわち、上記実施例では、形成機として凍結乾燥機8を使用したが、粒子状に形成する場合は、造粒装置や顆粒化装置を使用する。
また上記実施例では、架橋手段としての真空オーブン9により熱架橋を行っているが、ガンマ線や電子線による放射線架橋や、薬剤を用いる化学架橋を採用することもできる。
【符号の説明】
【0023】
1 製造装置 2 クリーンベンチ
3 アイソレータ 4 溶解手段
5 送液手段 6 容器
7 分注手段 8 凍結乾燥機(形成手段)
9 真空オーブン(架橋手段) 23 恒温槽(加熱手段)
24 管体 26 無菌化フィルタ
Gw 原料ゼラチン Gl ゼラチン溶解液
Gf ゼラチン形成物 Gc ゼラチン架橋体