(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】電子機器組立装置および電子機器組立方法
(51)【国際特許分類】
H01R 43/26 20060101AFI20220104BHJP
B25J 15/08 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
H01R43/26
B25J15/08 C
(21)【出願番号】P 2021110783
(22)【出願日】2021-07-02
【審査請求日】2021-07-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】見上 慧
(72)【発明者】
【氏名】内島 大作
(72)【発明者】
【氏名】三村 京太郎
【審査官】高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-107068(JP,A)
【文献】特開2017-127950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R43/027-43/28
B25J 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦かつ柔軟性を有するとともに先端が略水平方向に寝た状態のケーブルを把持する把持装置と、
前記ケーブルの根元が電気的に接続された回路基板に対して前記把持装置を相対的に移動させるロボットアームと、
前記把持装置と前記ロボットアームとを動作制御するロボット制御装置と、
を備え、
前記把持装置は、すくい面を有するガイド部と、該ガイド部により案内された前記ケーブルを保持する保持部とを有し、
前記ロボット制御装置は、前記把持装置を移動させて、寝た姿勢の前記ケーブルの長手方向に沿った状態で前記ケーブルの前記先端に正対させ、前記ガイド部の前記すくい面を前記ケーブルの前記先端に接触させて、さらに前記回路基板に向かって進行させることによって前記ケーブルを起立させることを特徴とする電子機器組立装置。
【請求項2】
前記保持部は、アクチュエータにより動作する把持爪を有し、
前記把持爪は、前記ケーブルを前記長手方向に交差する方向で挟持して保持することを特徴とする請求項1に記載の電子機器組立装置。
【請求項3】
前記把持装置は、その下面に設けられるとともに前記ケーブルを吸引して保持する吸引部をさらに有することを特徴とする請求項1または2に記載の電子機器組立装置。
【請求項4】
前記ロボット制御装置は、前記把持装置を略水平移動させて、起立させたケーブルを折り返して、前記ケーブルの前記先端を前記保持部により保持させて、さらに接続先の前記回路基板のコネクタに挿入することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電子機器組立装置。
【請求項5】
平坦かつ柔軟性があり、根元が回路基板に接続されていて、先端が略水平方向に寝た状態のケーブルの前記先端を、前記回路基板のコネクタに挿入する電子機器組立方法であって、
すくい面を有するガイド部と該ガイド部により案内された前記ケーブルを保持する保持部とを有する把持装置を移動させ、
寝た姿勢の前記ケーブルの前記先端に前記把持装置を正対させ、
前記ガイド部の前記すくい面を該ケーブルの前記先端に接触させて、前記回路基板に向かって前記把持装置を進行させることによって前記ケーブルを起立させ、
前記把持装置を略水平移動させて、起立させた前記ケーブルを折り返して、前記ケーブルの前記先端を前記保持部により保持させて、さらに
接続先の前記回路基板の前記コネクタに挿入することを特徴とする電子機器組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の回路基板などに電気的に接続されたケーブルを把持する電子機器組立装置および電子機器組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器組立装置は、例えば工場などの生産現場で用いられる装置であり、FPC(Flexible Printed Circuit)やFFC(Flexible Flat Cable)などの平坦かつ柔軟性(可撓性)のあるケーブルの先端を、接続先の回路基板のコネクタ(基板側コネクタ)などに電気的に接続する接続作業を行う。この電子機器組立装置は、カメラなどの視覚装置と、ロボットアームと、視覚装置やロボットアームを制御する制御装置とを備える。
【0003】
ケーブルは、可撓性を有し長尺状の柔軟物であるため、曲げたり押したりすると不測の変形をする。このため、ケーブルの特に先端の位置や姿勢には、ばらつきがある。このようなばらつきのあるケーブルの先端を、電子機器組立装置の視覚装置によって認識したり、ロボットアームによって把持したり基板側コネクタに挿入したりすることは困難である。このため、手作業により接続作業が行われる場合があった。しかし、ケーブルの先端と基板側コネクタとの正確な位置合わせを手作業で行うと、作業効率が悪いという問題があった。
【0004】
このため電子機器組立装置では、ケーブルの先端を基板側コネクタに接続する接続作業を行う場合、ケーブルの先端を正確に把持することが求められていて、いくつかの技術が提案されている。
【0005】
特許文献1には、ロボットの運動制御装置が記載されている。この装置では、視覚センサを用いて把持目標位置とロボットハンドとの誤差を計測し、誤差に相当する移動量でロボットハンドを移動させて、ロボットハンドの位置を補正している。特許文献1では、ロボットハンドが把持目標位置に到達するまで、補正動作と視覚センサを用いた誤差の計測とを繰り返すことで精度を向上させる、と記載されている。
【0006】
特許文献2には、コネクタ把持装置が記載されている。このコネクタ把持装置では、第1ロボットの第1ハンドの把持部によりコネクタ付きケーブルの途中部位を把持し、第1ハンドの把持部をケーブルに接触させた状態のままでケーブルに対してコネクタに接近する方向に移動させ、コネクタの位置を一定の空間範囲内に拘束する。そしてコネクタ把持装置では、一定の空間範囲内に拘束されたコネクタの位置姿勢を第1視覚センサにより検出し、検出された位置姿勢に基づいて、第2ロボットの第2ハンドにより、コネクタを把持している。
【0007】
特許文献3には、第1端部と第2端部とを有するケーブルの第1端部が電子回路に接続された状態で、ケーブルの第2端部を回路基板のコネクタに装着する電子機器組立方法が記載されている。この電子機器組立方法では、まず、ケーブル保持ツールでケーブルの一部を保持したまま、ケーブル保持ツールをケーブルに対して幅方向の位置を規制しながら相対的にスライドさせる。つぎに、ケーブル保持ツールを第2端部へ接近させ、ケーブル保持ツールをコネクタに対して相対的に移動させて第2端部をコネクタに装着する。
【0008】
つまり特許文献2、3の技術では、ロボットハンドあるいはケーブル保持ツールによってケーブルの先端に比べて位置および姿勢のばらつきが小さいケーブルの途中部位を、ケーブルの長手方向にスライド可能に保持し、その状態からロボットハンドあるいはケーブル保持ツールを最終的な把持目標であるケーブルの先端へ移動させている。このようにして、ケーブルの途中部位よりも位置や姿勢のばらつきがあるケーブルの先端を把持あるいは保持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-11978号公報
【文献】特許第3876234号公報
【文献】特許第6500247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、生産現場では、生産性を高める観点から接続作業は短時間で完了することが好ましい。このため、接続作業では、短時間でケーブルの先端の位置を検出して把持することが要求される。
【0011】
これに対して特許文献1の技術では、ロボットハンドが把持目標位置に到達するまで、補正動作と視覚センサを用いた誤差の計測とを繰り返している。しかも、このロボットハンドでケーブルを把持しようとしても、ケーブルには曲げやねじれなどの可撓変形や伸縮変形が生じ、把持目標位置が変位する場合があり得る。したがって特許文献1の技術では、変位する把持目標位置にロボットハンドの位置を収束させるまで時間がかかるおそれがある。
【0012】
特許文献2の技術では、第1ロボットの第1ハンドの把持部によりコネクタ付きケーブルの途中部位を把持し、第1視覚センサにより検出されたケーブルのコネクタの位置姿勢に基づいて、第2ロボットの第2ハンドによりコネクタを把持する。このため、特許文献2の技術では、第1ロボットと第2ロボットの2つのロボットが必要となり、コストがかかってしまう。
【0013】
特許文献3の技術は、起立しているケーブルを保持対象としている。ところが、生産現場での実際の製造工程では、ケーブルを基板に接続(半田付け)した段階では寝た姿勢(基板が略水平だとすればケーブルも略水平な状態)である。このため、特許文献3の技術を実際の接続作業に適用するためには、寝た姿勢のケーブルを予め起立させる追加の工程が必要となってしまう。
【0014】
本発明は、このような課題に鑑み、簡素な構成で寝た姿勢のケーブルを起立させて接続作業を迅速に行うことができる電子機器組立装置および電子機器組立方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明にかかる電子機器組立装置の代表的な構成は、平坦かつ柔軟性を有するとともに先端が略水平方向に寝た状態のケーブルを把持する把持装置と、ケーブルの根元が電気的に接続された回路基板に対して把持装置を相対的に移動させるロボットアームと、把持装置とロボットアームとを動作制御するロボット制御装置と、を備え、把持装置は、すくい面を有するガイド部と、ガイド部により案内されたケーブルを保持する保持部とを有し、ロボット制御装置は、把持装置を移動させて、寝た姿勢のケーブルの長手方向に沿った状態でケーブルの先端に正対させ、ガイド部のすくい面をケーブルの先端に接触させて、さらに回路基板に向かって進行させることによってケーブルを起立させることを特徴とする。
【0016】
上記構成では、ケーブルの根元が回路基板に電気的に接続されていて、先端が略水平方向に寝た姿勢になっている場合であっても、把持装置を、寝た姿勢のケーブルの先端に正対させるように移動させ、ガイド部のすくい面をケーブルの先端に接触させて、さらに回路基板に向かって進行させることによりケーブルを起立させている。そして起立したケーブルは、ガイド部によって案内されさらに保持部によって保持される。
【0017】
したがって上記構成によれば、把持装置を移動させるという簡素な構成で、寝た姿勢のケーブルをガイド部のすくい面によって起立させることができるため、接続作業を迅速に行うことができる。
【0018】
上記の保持部は、アクチュエータにより動作する把持爪を有し、把持爪は、ケーブルを長手方向に交差する方向で挟持して保持するとよい。
【0019】
これにより、ガイド部のすくい面によって起立したケーブルは、保持部の把持爪によってケーブルの長手方向に交差する方向(例えば幅方向)で挟持される。このため、起立したケーブルを確実に保持することができる。
【0020】
上記の把持装置は、その下面に設けられるとともにケーブルを吸引して保持する吸引部をさらに有するとよい。
【0021】
これにより、把持装置のガイド部のすくい面によって起立したケーブルがさらに折り返されるなどして、把持装置の下面に接触した場合に、ケーブルを吸引部によって吸引して確実に保持することができる。
【0022】
上記のロボット制御装置は、把持装置を略水平移動させて、起立させたケーブルを折り返して、ケーブルの先端を保持部により保持させて、さらに接続先の回路基板のコネクタに挿入するとよい。
【0023】
これにより、把持装置を略水平移動させるという簡素な構成で、起立させたケーブルを折り返してケーブルの先端を接続先の回路基板のコネクタに挿入し、接続作業を完了することができる。
【0024】
上記課題を解決するために、本発明にかかる電子機器組立方法の代表的な構成は、平坦かつ柔軟性があり、根元が回路基板に接続されていて、先端が略水平方向に寝た状態のケーブルの先端を、接続先の回路基板のコネクタに挿入する電子機器組立方法であって、すくい面を有するガイド部とガイド部により案内されたケーブルを保持する保持部とを有する把持装置を移動させ、寝た姿勢のケーブルの先端に把持装置を正対させ、ガイド部のすくい面をケーブルの先端に接触させて、回路基板に向かって把持装置を進行させることによってケーブルを起立させ、把持装置を略水平移動させて、起立させたケーブルを折り返して、ケーブルの先端を保持部により保持させて、さらに接続先の回路基板のコネクタに挿入することを特徴とする。
【0025】
上記構成では、把持装置を、寝た姿勢のケーブルの先端に正対させるように移動させ、ガイド部のすくい面をケーブルの先端に接触させて、さらに回路基板に向かって進行させることによりケーブルを起立させている。このため、把持装置を移動させるという簡素な構成で、寝た姿勢のケーブルをガイド部のすくい面によって起立させることができる。さらに上記構成では、把持装置を略水平移動させるという簡素な構成で、起立させたケーブルを折り返してケーブルの先端を接続先の回路基板のコネクタに挿入することにより、接続作業を迅速に完了することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、簡素な構成で寝た姿勢のケーブルを起立させて接続作業を迅速に行うことができる電子機器組立装置および電子機器組立方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態における電子機器組立装置が適用されるロボットシステムの全体構成図である。
【
図2】
図1の電子機器組立装置の一部を示す図である。
【
図3】
図1のロボットシステムの機能を示すブロック図である。
【
図4】
図2の電子機器組立装置の把持装置を示す図である。
【
図5】
図4の把持装置によってケーブルの先端を起立させるための条件を説明する図である。
【
図6】
図3の電子機器組立装置の機能を示すブロック図である。
【
図7】
図4の把持装置によってケーブルの接続作業を行う様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0029】
図1は、本発明の実施形態における電子機器組立装置100が適用されるロボットシステム102の全体構成図である。
図2は、
図1の電子機器組立装置100の一部を示す図である。電子機器組立装置100は、例えば工場などの生産現場で用いられる装置であり、
図2に示すケーブル104の先端106を、接続先となる回路基板108のコネクタ110に電気的に接続(挿入)する接続作業を自動的に行う。
【0030】
ケーブル104としては、FPCやFFCなどの平坦かつ柔軟性がある長尺状のものであり、非常に撓みやすくその一部を円弧状に曲げられるように構成され、さらに根元112が回路基板108に電気的に接続され、先端106が寝た状態になっているものが対象となる。なお寝た状態とは、生産現場での実際の製造工程において、ケーブル104の根元112を回路基板108に電気的に接続(半田付け)した段階で、回路基板108が略水平だとすればケーブル104も略水平な状態となるような姿勢をいう。
【0031】
電子機器組立装置100は、
図1に示すロボット本体113と、ロボット本体113に接続されたロボット制御装置114とを備える。ロボットシステム102は、電子機器組立装置100に加え、ロボット制御装置114に接続された上位制御システム116と、入力装置118と、状態通知装置120とを備える。入力装置118は、ロボット制御装置114にコマンドやパラメータなどを入力する装置である。状態通知装置120は、ロボット制御装置114から送信されるロボット本体113の動作状態や接続作業の状態を受信し表示する装置である。
【0032】
ロボット本体113は、
図1に示すベース部122と、ベース部122に接続されたロボットアーム124と、把持装置126と、視覚装置128とを備える。把持装置126は、
図2に示すようにロボットアーム124の先端129に取り付けられ、ケーブル104を把持する装置である。
【0033】
また
図2に示すように、視覚装置128は、ケーブル104などを撮像する撮像装置であって、ロボットアーム124の先端129に向かって下向き姿勢で取り付けられていて、視覚センサであるカメラ130と、回路基板108やケーブル104を照明する照明装置132とを有する。
【0034】
図3は、
図1のロボットシステム102の機能を示すブロック図である。ロボットアーム124は、6軸垂直多関節型であり、その各関節に設けられたアクチュエータである電動モータ136と、各関節の位置を検出するエンコーダ138とを有する。エンコーダ138は、各関節の位置検出結果を示す位置信号をロボット制御装置114に出力する。ロボット制御装置114は、エンコーダ138からの位置信号に基づいて電動モータ136を駆動する駆動信号を生成する。そして電動モータ136は、ロボット制御装置114から出力される駆動信号によって駆動され、接続作業の際、ロボットアーム124の目標とする動作を実現する。
【0035】
このようにしてロボットアーム124は、その先端129に取り付けられた
図2に示す把持装置126を所定の位置に移動させることができる。なおロボットアーム124は、6軸垂直多関節型としたがこれに限定されず、6軸以外の垂直多関節型ロボットや水平多関節型ロボットなどであってもよい。
【0036】
図4は、
図2の電子機器組立装置100の把持装置126を示す図である。
図4(a)、
図4(b)は、把持装置126を斜め下方、斜め上方から見た状態をそれぞれ示している。
図5は、
図4の把持装置126によってケーブル104の先端106を起立させるための条件を説明する図である。
【0037】
把持装置126は、ガイド部140と保持部142とを有する。ガイド部140は、すくい面144および返し面145を有する。保持部142は、アクチュエータ146と、一対の把持爪148、150とを有する。把持爪148、150は、アクチュエータ146の駆動に伴って互いに接近または離間するように開閉動作することにより、ケーブル104の両側面を長手方向に交差する方向(例えば幅方向)で挟持して保持したり、あるいはケーブル104を開放したりする。
【0038】
ガイド部140のすくい面144は、
図5に示すように寝た姿勢のケーブル104の先端106と接触している状態において、圧力角αと摩擦角ρの関係からケーブル104の先端106に上方の力がかかるような角度θに設定されている。
【0039】
具体的には、寝た姿勢のケーブル104の先端106とすくい面144が接触することで、ケーブル104の先端106がすくい面144から力Fを受けたとき、力Fは、すくい面144の垂直抗力Nと、すくい面144の面方向に沿った摩擦力μNとに分解することができる。なおμは摩擦係数である。
【0040】
また圧力角αは、
図5に示すようにケーブル104の長手方向と垂直抗力Nとがなす角度である。さらに摩擦角ρは、力Fと垂直抗力Nとがなす角度である。このため、摩擦角ρと摩擦係数μの間には、以下の式(1)が成り立つ。
tanρ=μN/N=μ …式(1)
【0041】
さらに上記式(1)の逆関数は、以下の式(2)で示される。
ρ=tan-1μ …式(2)
【0042】
そして圧力角αと摩擦角ρの関係が、以下の式(3)を満たすと、力Fに上向き成分が発生し、ケーブル104の先端106に上方の力がかかる。
α-ρ>0 …式(3)
【0043】
さらに式(2)において算出した摩擦角ρを、式(3)に代入して左辺を圧力角αとすると、以下の式(4)が得られる。
α>tan-1μ …式(4)
【0044】
また、すくい面144の角度θと圧力角αとは、以下の式(5)が成り立つ。
α+θ=π/2 …式(5)
【0045】
上記式(4)(5)により、すくい面144の角度θは、以下の式(6)が成り立つように設定されている。
θ<π/2-tan-1μ …式(6)
【0046】
図4に示すように、ガイド部140の両側面には、突出部152が設けられている。突出部152は、導入部154と平行部156とを有する。導入部154は、すくい面144の両側面に位置し下方に向かうほど突出するよう傾斜している。平行部156は、導入部154に連続しケーブル106の長手方向に平行に延びている。
【0047】
寝た姿勢のケーブル104の先端106は、ガイド部140のすくい面144に接触して力F(
図5参照)の上向き成分の力を受けると上方に撓み、さらに突出部152の導入部154によってさらに上方に導入され、平行部156によって先端106の側面がガイドされる。
【0048】
また、ガイド部140の両側面に設けられた平行部156同士の間隔は、ケーブル104の先端106の側面を平行部156がガイドした状態で、ケーブル104の側面との間にクリアランスを確保して、ケーブル104がスライドできるように設定されている。このように、ケーブル104の先端106は、ガイド部140の突出部152によって長手方向にスライド可能とされ、幅方向の移動は規制される。
【0049】
電子機器組立装置100では、ロボット制御装置114によってロボット本体113(
図1参照)を制御し、把持装置126を移動させて、ガイド部140のすくい面144をケーブル104の先端106に接触させることができる(
図5参照)。さらに電子機器組立装置100は、ガイド部140のすくい面144とケーブル104の先端106とが接触した状態において、把持装置126を回路基板108に向かってさらに進行させると、ケーブル104の先端106が上方に撓むことによって、スライドしながら上方に移動するため、ケーブル104を起立させることができる(後述)。
【0050】
また電子機器組立装置100では、ケーブル104の先端106がスライドしながら上方に移動するとき、ガイド部140の両側面に設けられた突出部152だけに限らず、把持爪148、150の内側側面でケーブル104の先端106の両側面をガイドすることもできる。
【0051】
さらに
図4に示すように、把持爪148、150の下部158、160は、ガイド部140のすくい面144よりも下方に位置し、さらに保持部142の下面162よりも下方に突出している(
図5参照)。電子機器組立装置100では、寝た姿勢のケーブル104を起立させた後、把持装置126を回路基板108に向かってさらに進行させることでケーブル104を折り返し(
図7参照)、折り返したケーブル104の両側面を、把持爪148、150の下部158、160によって挟持する。
【0052】
このため、把持爪148、150の下部158、160は、
図4に示すように互いに接近するように内側に突出した凸形状を有し、これにより、折り返したケーブル104を挟持した後、ケーブル104が下方に脱落することを防止している。ただし把持爪148、150の下部158、160の形状は、これに限らず、挟持したケーブル104を下方から受け止めるように窪んだ凹形状であってもよい。
【0053】
さらにガイド部140は、
図4(a)に示す吸引部としての吸着孔164を有する。吸着孔164は、ガイド部140の下面166すなわち寝た姿勢から起立しさらに折り返されたケーブル104との接触面に形成されている。
【0054】
吸着孔164は、例えばエジェクタなどの真空圧発生源と連通していて、不図示の電磁弁の動作によりエジェクタに圧縮空気を送り込むことで真空を発生させる。そして、ケーブル104を折り返した後にケーブル104の片面に接触した状態で吸着孔164を真空吸引することにより、ケーブル104は吸着孔164によって吸着保持される。また吸着孔164を制御する電磁弁は、ロボットシステム102内のいずれかの要素内に設置され、ロボット制御装置114からの駆動信号を受けて動作する。
【0055】
また吸着孔164は、
図4(a)に示すように把持爪148、150の下部158、160の間に設けられている。このため、吸着孔164は、把持爪148、150の下部158、160で挟持されたケーブル104をさらに吸着保持するため、ケーブル104を確実に保持することができる。
【0056】
ここで
図3に示す各要素について詳述する。まず、視覚装置128のカメラ130および照明装置132は、ロボットアーム124の先端129(
図1参照)に取り付けられているが、これに限らず、接続作業の作業領域を俯瞰可能であれば、ロボット本体113とは別の位置に配置されていてもよい。またカメラ130は少なくとも1台以上必要だが、2台以上であるとさらに撮像精度が向上するため好ましい。さらにカメラ130は、カラー画像またはモノクロ画像を取得するものであってもよい。
【0057】
カメラ130が単眼の場合、公知のSLAM(simultaneous Localization and Mapping)技術を用いて3次元撮像情報を推定することができる。ただしこの場合には、カメラ130を動かしながら撮像する必要がある。なおカメラ130は、原理的に距離の相対値しか得られないが、カメラ130の位置情報をロボット制御装置114から取得できればロボット座標系における位置情報を取得することが可能である。
【0058】
カメラ130がステレオカメラの場合、公知のステレオマッチングによる視差情報から位置情報を取得することができる。カメラ130が多眼の場合、ステレオカメラと原理は同じであり、色々な方向からの視差画像が得られるため、オクルージョンが生じにくい。またカメラ130がTOF(Time of Flight)カメラの場合、光を被写体に照射し、その光が被写体に反射して受信するまでの時間から位置情報を取得することができる。さらにカメラ130が照射光を利用する場合、公知のパターン投影(縞模様やランダムドットパターン)を行い、位置情報を取得することができる。
【0059】
照明装置132は、一例として画像を撮像するカメラ130のレンズ周辺に配置され、把持装置126で把持するケーブル104や、接続先の回路基板108のコネクタ110などを照明するが、これに限られず、距離計測を行う場合はパターン光を照射することもできる。
【0060】
ロボット制御装置114は、
図3に示すようにCPU167と、信号の入出力を行う入出力部168と、RAM170およびROM172を有するメモリ174とを備える。これらCPU167、入出力部168およびメモリ174は、バス176を介して相互に信号を伝達可能に接続されている。
【0061】
CPU167は、演算処理装置として機能し、メモリ174にアクセスしてRAM170またはROM172、さらに外部記憶装置等に格納された各種プログラムを読み出して実行する。RAM170またはROM172は、ロボット本体113の制御すなわち電子機器組立方法を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータで読み取り可能な記録媒体である。ROM172は、CPU167が使用するプログラムや装置定数等を記憶する。RAM170は、CPU167が使用するプログラムやプログラム実行中に逐次変化する変数等を一次記憶する。このようにロボット制御装置114は、各種プログラムを実行することによって、ロボット本体113および把持装置126を制御し、各種機能をロボット本体113および把持装置126に実行させることができる。
【0062】
ロボット制御装置114の入出力部168は、通信装置、D/A変換器、モータ駆動回路、A/D変換器などを備えていて、インターフェイスを介して外部機器、電動モータ136およびアクチュエータ146、さらにはエンコーダ138などの各種センサとロボット制御装置114とを接続する。通信装置における具体的な通信手法としては、例えば、RS232C/485などのシリアル通信規格や、USB規格に対応したデータ通信であったり、一般的なネットワークプロトコルであるEtherNET(登録商標)や、産業用ネットワークプロトコルとして用いられるEtherCAT(登録商標)やEtherNet/IP(登録商標)等であったりしてもよい。
【0063】
ロボット制御装置114は、入出力部168を介してデータ格納用装置であるストレージ装置や記録媒体用リーダライタであるドライブ装置と接続した構成であってもよい。またロボット制御装置114は、専用のハードウェアを組み込んだ制御装置に限らず、各種プログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能な、例えば汎用のパーソナルコンピュータであってもよい。
【0064】
なおロボット制御装置114は、ロボットアーム124、把持装置126および視覚装置128をすべて制御しているが、これに限定されない。一例としてロボット制御装置114は、ロボットアーム124、把持装置126および視覚装置128をそれぞれ個別に制御する複数の制御装置の集合体として構成してもよく、複数の制御装置を互いに有線または無線で接続してもよい。さらに電子機器組立装置100では、ロボット制御装置114をロボット本体113の外部に設けているが、これに限らず、ロボット本体113の内部に設けてもよい。
【0065】
入力装置118は、キーボードやマウス、タッチパネル、ボタン、スイッチ、レバー、ペダル、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段、もしくはこれらを備えたパーソナルコンピュータ、ティーチングペンダントなどのユーザが操作する操作手段を備える。また、接続作業を行うユーザによる入力や設定が入力装置118を用いて行われる。なおロボット本体113に各種の機能を実行させるプログラムを入力装置118で作成してもよい。プログラムは機械語などの低級言語、ロボット言語などの高級言語で記述されていてもよい。
【0066】
状態通知装置120は、ロボット制御装置114からロボット本体113の動作状態や、ケーブル104の先端106を、接続先の回路基板108のコネクタ110に挿入した状態の情報を受信し表示することにより、これらの情報をユーザに視覚的かつ直観的に認識させる。また状態通知装置120は、液晶パネルやティーチングペンダント、点灯ランプなどの表示装置でもよいし、警告音や音声などによって情報を通知する通知装置であってもよい。一例として、状態通知装置120は、ケーブル104の先端106をコネクタ110に挿入する接続作業が失敗した場合、警告を発するように設定することができる。また、パーソナルコンピュータやティーチングペンダントの画面などが状態通知装置120を兼ねていてもよい。さらに状態通知装置120は、入力や状態通知を行うアプリケーションを備えていてもよい。
【0067】
上位制御システム116は、例えばシーケンサ(PLC)や監視制御システム(SCADA)、プロセスコンピュータ(プロコン)、パーソナルコンピュータ、各種サーバもしくはこれらの組み合わせからなり、ロボット制御装置114と有線または無線で接続されている。そして上位制御システム116は、ロボット制御装置114を含む生産ラインを構成する各装置の動作状況に基づいて指示を出力して生産ラインを統括的に管理する。
【0068】
また、上位制御システム116は、接続作業が完了するまでの時間や、接続作業の完了後の状態などをロボット制御装置114から受信して収集することにより、不良率やサイクルタイムの監視、製品検査に用いることもできる。さらに上位制御システム116は、ロボット本体113の把持装置126によるケーブル104の把持状態の情報などをロボット制御装置114から取得することにより、ロボットアーム124をホームポジションに戻したり各装置を停止させたりするなどの動作を行わせてもよい。
【0069】
つぎに、電子機器組立装置100の動作を説明する。
図6は、
図3の電子機器組立装置100の機能を示すブロック図である。図中では、電子機器組立装置100のロボット本体113の機能ブロックと、ロボット制御装置114のCPU167の機能ブロックとを示している。
図7は、
図4の把持装置126によってケーブル104の接続作業を行う様子を示す図である。
【0070】
まず電子機器組立装置100では、
図7に示すテーブル178に回路基板108が載置された後、CPU167の画像認識部180がロボット本体113の視覚装置128から取得した映像信号に基づいてケーブル104の位置や種類を認識する。なお映像信号を生成できるのであれば、視覚装置128に限らず、作業領域を俯瞰可能な位置に設置した固定カメラでケーブル104を撮像してもよい。
【0071】
つぎに、駆動制御部182は、画像認識部180の認識結果に基づいてロボットアーム124に駆動信号を出力して動作させることにより、把持装置126を移動させて、
図7(a)に示すように寝た姿勢のケーブル104の長手方向に沿った状態でケーブル104の先端106に正対させる。
【0072】
そして駆動制御部182は、回路基板108に向かって把持装置126を進行させて、ガイド部140のすくい面144をケーブル104の先端106に接触させる(
図7(b)参照)。続いて、回路基板108に向かって把持装置126をさらに略水平方向に進行させることによって(
図7(c)参照)、ケーブル104の先端106がガイド部140に案内されて上方にスライドして起立する(
図7(d)参照)。またこのとき、ケーブル104の先端106をガイド部140によって回路基板108に向かって押すことで、すくい面144に沿わせてケーブル104を丸めるように変形させている。
【0073】
なおガイド部140のすくい面144をケーブル104の先端106に接触させたとき、ロボットアーム124を動作させて把持装置126が略水平に移動するようにしているが、ケーブル104の先端106に上方の力がかかるような角度すなわち圧力角α(
図5参照)で接触可能であれば、動作方向は適宜選択することができる。
【0074】
図7(d)に示すようにケーブル104の先端106が起立して上方に進行すると、ガイド部140の上部に設けられた返し面145によって回路基板108側に向かって折り返される。このとき、ケーブル104は、その中間部184がガイド部140に接触している。このような状態で駆動制御部182は、起立させたケーブル104を折り返すように、把持装置126を例えば上方に移動させつつ(
図7(e)参照)、さらに回路基板108に向かって進行させる。その結果、折り返されたケーブル104は、保持部142の把持爪148、150の下部158、160(
図4参照)によって挟持され後、下方に脱落することが防止される。なお
図7(f)では、折り返されたケーブル104の先端106付近が把持爪148の下部158により挟持された状態を示している。その後、ケーブル104は、
図4(a)に示すガイド部140の下面166に接触し、下面166に形成された吸着孔164によって吸着保持されて、確実に保持される。
【0075】
つぎに駆動制御部182は、
図7(f)で示すようにケーブル104を把持した把持装置126をさらに回路基板108のコネクタ110の近傍に移動させる。電子機器組立装置100では、ケーブル104の先端106のおおよその位置を認識していれば、把持装置126を移動させつつ、ガイド部140によりケーブル104の姿勢を補正することができるため、高速な動作が可能である。
【0076】
続いて、コネクタ110とケーブル104の先端106との位置合わせを行う。しかし、この位置合わせは、把持装置126によるケーブル104の把持動作に伴う位置誤差、テーブル178(
図7参照)に載置された回路基板108の設置誤差、さらにコネクタ110の回路基板108上への実装位置の誤差など、両者の相対位置にばらつきが生じる。
【0077】
そこで電子機器組立装置100では、画像認識部180が認識したデータに基づいて、CPU167の補正データ生成部186が位置補正データを生成することにより、両者の相対位置のばらつきを吸収している。そして駆動制御部182は、位置補正データに基づいて把持装置126を移動させることにより、位置誤差および姿勢誤差を補正することができる。一例として駆動制御部182は、ケーブル104とコネクタ110のそれぞれの特徴点を抽出し、特徴点同士が適切な位置関係になるような位置補正量を算出し、把持装置126およびケーブル104を移動させる。
【0078】
コネクタ110とケーブル104の先端106との位置合わせが完了した後に、駆動制御部182は、把持装置126を移動させて、ケーブル104の先端106をコネクタ110に挿入する。なお位置補正は、ケーブル104やコネクタ110の位置精度などの条件によっては適宜省略することも可能である。
【0079】
つぎに、コネクタ110とコネクタ110に挿入された状態のケーブル104を視覚装置128によって撮像し、CPU167の挿入判定部188が挿入成功時の画像と比較する。この比較の結果、挿入が成功すなわち接続作業が完了したと判定されると処理を完了する。一方、挿入判定部188によって挿入が失敗したと判定されると、挿入判定部188は、
図3に示す状態通知装置120を通じて上位制御システム116に異常発生を通知してもよいし、ユーザに異常発生を通知してもよい。また、接続作業をリトライするなどの処置を行ってもよい。さらにロボットシステム102による自動判定を省略し、挿入完了後の回路基板108を別工程で検査してもよい。
【0080】
したがって電子機器組立装置100が適用されるロボットシステム102によれば、把持装置126を移動させるという簡素な構成で、寝た姿勢のケーブル104を起立させることができ、さらに起立させたケーブル104を折り返して先端106を接続先の回路基板108のコネクタ110に挿入することにより、接続作業を迅速に完了させ、作業効率を高めることができる。
【0081】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、電子機器の回路基板などに接続されたケーブルを把持する電子機器組立装置および電子機器組立方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0083】
100…電子機器組立装置、102…ロボットシステム、104…ケーブル、106…ケーブルの先端、108…回路基板、110…コネクタ、112…ケーブルの根元、113…ロボット本体、114…ロボット制御装置、116…上位制御システム、118…入力装置、120…状態通知装置、122…ベース部、124…ロボットアーム、126…把持装置、128…視覚装置、129…ロボットアームの先端、130…カメラ、132…照明装置、136…電動モータ、138…エンコーダ、140…ガイド部、142…保持部、144…すくい面、145…返し面、146…アクチュエータ、148、150…把持爪、152…突出部、154…導入部、156…平行部、158、160…把持爪の下部、162…保持部の下面、164…吸着孔、166…ガイド部の下面、167…CPU、168…入出力部、170…RAM、172…ROM、174…メモリ、176…バス、178…テーブル、180…画像認識部、182…駆動制御部、184…ケーブルの中間部、186…補正データ生成部、188…挿入判定部
【要約】
【課題】簡素な構成で寝た姿勢のケーブルを起立させて接続作業を迅速に行うことができる電子機器組立装置および電子機器組立方法を提供する。
【解決手段】電子機器組立装置100は、平坦かつ柔軟性を有するとともに先端が略水平方向に寝た状態のケーブル104を把持する把持装置126と、ケーブルの根元が電気的に接続された回路基板108に対して把持装置を相対的に移動させるロボットアーム124と、把持装置とロボットアームとを動作制御するロボット制御装置114とを備え、把持装置は、すくい面144を有するガイド部140と、ガイド部により案内されたケーブルを保持する保持部142とを有し、ロボット制御装置は、把持装置を移動させて、寝た姿勢のケーブルの長手方向に沿った状態でケーブルの先端に正対させ、ガイド部のすくい面をケーブルの先端に接触させて、回路基板に向かって進行させることでケーブルを起立させる。
【選択図】
図2