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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】減速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 35/10 20060101AFI20220104BHJP
   F16H 57/02 20120101ALI20220104BHJP
   F16H 1/32 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
F16H35/10 A
F16H57/02
F16H1/32 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017075333
(22)【出願日】2017-04-05
(65)【公開番号】P2018179043
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598163064
【氏名又は名称】学校法人千葉工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】島田 英史
(72)【発明者】
【氏名】バゼミニエクス ジョン
(72)【発明者】
【氏名】牧角 知祥
(72)【発明者】
【氏名】林原 靖男
(72)【発明者】
【氏名】川崎 文寛
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-016222(JP,A)
【文献】特開平09-324646(JP,A)
【文献】特開2014-062639(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0016001(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 35/10
F16H 57/02
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力回転軸と出力回転軸の間で入力に対する出力の回転数を減じる減速部と、
前記減速部を収容するハウジングと、
弾性体からなり、クッション力の働く主要方向が、前記ハウジングと前記減速部との間の略回転接線方向である緩衝手段と、
前記緩衝手段により前記ハウジング内に生じる変位量を計測する計測手段とを備え、
前記ハウジングは外ケースと内ケースとに分割され、前記外ケースと前記内ケースとの間に前記緩衝手段が配置され、
前記内ケースの外周面と前記外ケースの内周面は当接し、前記緩衝手段は半径方向に関し前記内ケースと前記外ケースとの間に、円周方向に沿って複数箇所に設けられている減速装置。
【請求項2】
前記計測手段は複数箇所に設けられた前記緩衝手段の変形量を測定する請求項1に記載の減速装置。
【請求項3】
前記ハウジングの内ケースは内歯車を構成し、この内歯車はその内周面において前記減速部と連結し、その外周面において前記複数箇所に設けられた前記緩衝手段と接する請求項1または2に記載の減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃を吸収する機能を備えるとともに、負荷トルクを確実に測定することができる減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットは近年、人との協働作業用途における研究がなされ、各メーカーから多くの協働作業が可能な産業用ロボットが開発・販売されている。産業用ロボットの動作を具現する重要な技術要素として減速装置がある。減速機はサーボモータと組み合わされ産業用ロボットの関節を構成する。産業用ロボットに用いる減速装置に求められる条件は、バックラッシュが少ないことである。
【0003】
また、ヒューマノイドロボットは近年盛んに研究がなされ様々な分野での活躍が期待されている。ヒューマノイドロボットの動作を具現する重要な技術要素として減速装置がある。減速機はサーボモータと組み合わされヒューマノイドロボットの関節を構成する。ヒューマノイドロボットに用いる減速装置に求められる条件は、バックラッシュが少ないことである。
【0004】
バックラッシュの少ない減速装置としては、遊星歯車型減速機、偏心揺動型減速機、波動歯車型減速機などがある。とくに波動歯車型減速機は、バックラッシュが少ないことに加え、高減速比、軽量、コンパクトであることから、小型の産業用ロボットやヒューマノイドロボットの関節に多用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-84989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この波動歯車型減速機にはウィークポイントがある。波動歯車型減速機は、フレクスプラインがウェーブジェネレータにより楕円形状に撓められ、長軸の部分で外輪の内歯と歯が噛み合うという特有の構成となっており、外部からの衝撃を受けると歯の噛み合いがずれるという現象(脱調)が容易に生じてしまうという性質がある。
【0007】
二足歩行が予定されるヒューマノイドロボットについては、転倒などにより受ける衝撃の他に、予定された動作を行う際に減速装置に対して予期せず生じる過剰な負荷も衝撃として減速装置に作用する。このような外的な力を受けることで、可撓性の構成を備える波動歯車型減速機は容易に脱調が生じ、のみならず歯車の損傷が生じてしまい、予定された動作を不能にしてしまう。
【0008】
ヒューマノイドロボットの関節を構成する減速装置において、脱調や歯車の損傷が生じないようにすることは、ヒューマノイドロボットの動作の安定化などに資するとともに、ひいてはヒューマノイドロボットの実用化のために極めて重要である。
【0009】
このために減速装置に弾性体からなる衝撃手段を設けることが考えられている。
【0010】
一方、動作中の減速装置の負荷トルクを測定しておき、減速装置を安全かつ安定して使用することも望まれている。
【0011】
本発明はこのような点を考慮してなされたものであり、負荷トルクを確実に測定することができる減速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための手段として、以下の発明などを提供する。すなわち、入力回転軸と出力回転軸の間で入力に対する出力の回転数を減じる減速部と、前記減速部を収容するハウジングと、弾性体からなり、クッション力の働く主要方向が、前記ハウジングと前記減速部との間の略回転接線方向である緩衝手段と、前記緩衝手段により前記ハウジング内に生じる変位量を計測する計測手段とを備えた減速装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、負荷トルクを確実に測定することができる減速装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(a)(b)は実施形態1の減速装置の一例を示す概念図。
図2図2(a)(b)は図1(a)に示した減速装置の断面と、その一部を拡大して示す概念図。
図3図3は弾性体の形状について説明するための概念図。
図4図4は実施形態2の減速装置の一例を示す概念図。
図5図5は実施形態2の減速装置を関節に用いた産業用ロボットの一例を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明は、これらの実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
【0016】
<実施形態1>
<概要>
本実施形態の減速装置は、入力回転軸と出力回転軸の間で入力に対する出力の回転数を減じる減速部と、前記減速部を収容するハウジングと、弾性体からなり、クッション力の働く主要方向が、前記ハウジングと前記減速部との間の略回転接線方向である緩衝手段と、前記緩衝手段により前記ハウジング内に生じる変位量を計測する計測手段とを備えた減速装置となっている。この緩衝手段により、減速部の回転軸に対する過剰な負荷を吸収し減速部を構成する歯車などの各要素の損傷を防止する。また計測手段により、減速装置に加わる負荷トルクを測定する。
【0017】
<構成>
本実施形態の減速装置は、減速機構(減速部ともいう)、ハウジング及び緩衝手段からなる。図1は、係る減速装置の一例を示す概念図である。図1(a)は、ハウジング内の一部を透視した概念図である。また、図1(b)は、図1(a)の「A-A」方向での断面を示す概念図である。
【0018】
図示するように、「減速装置」0100は、「入力回転軸」0102と「出力回転軸」0103の間で入力に対する出力を減じる「減速機構」(減速部ともいう)0101と、この減速機構を収容する金属製の「ハウジング本体」0104と、減速機構の外郭に複数配置される「弾性体」0105により構成される緩衝手段とからなる。
【0019】
なお、この弾性体0105は円柱形状であり、内歯車0108の外周面に設けられる溝0108aとハウジング本体0104の内周面に設けられる溝0104aのそれぞれによって自身が固定されるように嵌合した状態で配置されている。また、弾性体は、その長手方向が入力回転軸又は出力回転軸の軸線方向と略平行になるように配置されている。また、弾性体は、その長手方向が入力回転軸又は出力回転軸の軸線方向と一定の傾きをもって配置してもよい。この場合、先の配置の場合に比べて、弾性体が配置される総面積を大きくすることができる。
【0020】
図1(b)に示すように、減速機構として偏心揺動型の減速機構を示している。図示するように、「入力回転軸」0102は「クランク」0106に接続され、クランクは「遊星歯車」0107に接続される。入力回転軸の回転により遊星歯車は、波型形状の接触面を備える金属製の「内歯車」0108と自身の波型形状の歯を接触させ転がり(自転)ながら自転方向と逆向きに公転する。この自転を6つの「内ピン」0109により取り出す。6つの内ピンを入力回転軸の中心と同心円上に配置することで入力回転軸と出力回転軸を同心にすることができる。また後述のように内歯車0108を除く各要素により減速機構は構成される。そして、このような減速機構を収容するのが「ハウジング本体」0104である。
【0021】
ハウジング本体0104は、後述する産業用ロボット1(図5参照)または図示しないヒューマノイドロボットの関節の基部側又はアーム側に固定され減速機構0101を収容する。入力回転軸0102はモータなどによる動力が伝達される回転軸であり、出力回転軸0103は入力回転軸の回転数に対して減じられた回転運動を出力する回転軸である。ここで、産業用ロボット1は、図5に示すように、複数の減速装置0100と、各減速装置0100を介して接続された一対のアーム2ap,2bp,2cp,2ad,2bd,2cdと、を有している。また、減速装置0100は、一方向dax,dbx,dcx、あるいは他方向day,dby,dcyに相対回転する。
【0022】
ハウジング本体0104が基部側又はアーム側のいずれか一方に固定されることで、他方側を相対的に動かすことができる。例えば、産業用ロボットロボット1の関節に本減速装置0100を用いる場合、入力回転軸側となる上側のアーム側にハウジング本体0104を固定することで、出力回転軸側の下側の基部側を上側に対して動かすことができる。
【0023】
緩衝手段0105は、弾性体からなり、クッション力の働く主要方向が、前記ハウジング本体0104と減速機構0101との間の略回転接線方向であるように構成される。なお図1において、ハウジング本体0104と、内歯車0108とによりハウジング0104Aが構成される。
【0024】
また図1に示すように、ハウジング0104Aを構成する内歯車0108とハウジング本体0104のうち、内歯車0108の内周面には磁石0111が埋込まれており、他方、ハウジング本体0104の外周面には磁気センサ0112が埋込まれている。
【0025】
そしてハウジング0104Aの中心と、磁石0111と、磁気センサ0112は、直線上に並んでいる(図1参照)。また、動作中に減速装置0100の入力回転軸側と出力回転軸側との間に過剰な負荷がかかることがある。この場合、弾性体からなる緩衝手段0105が変形して、この減速装置0100に対して加わる負荷トルクを吸収して減速機構0101の損傷を防止することができる。
【0026】
この際、緩衝手段0105の変形に伴って磁石0111に対して磁気センサ0112は回転方向に沿って変位する。そして磁気センサ0112の回転方向の変位量に応じて、磁気センサ0112から出力信号が制御部0120へ送られる。
【0027】
次に制御部0120は磁気センサ0112からの出力信号に基づいて、磁石0111に対する磁気センサ0112の回転方向変位量を求めることができ、この変位量に基づいて減速装置0100に加わる負荷トルクの値を確実に測定することができる。
【0028】
このように磁石0111と磁気センサ0112とによって、磁石0111に対する磁気センサ0112の回転方向変位量、すなわち内歯車0108に対するハウジング本体0104の回転方向変位量を求めることができる。この場合磁石0111と磁気センサ0112は、内歯車0108とハウジング本体0104との間に生じる相対的な変位量を求める測定手段を構成する。
【0029】
なお、上述した内歯車0108に対するハウジング本体0104の回転方向変位量は、緩衝手段0105の変形量に一致する。
【0030】
次に図2および図3により、本実施の形態による減速装置0100について、更に述べる。
【0031】
図2は、図1に示した減速装置の断面と、その一部を拡大して示す概念図である。緩衝手段0105を構成する一の「弾性体」0201は、減速機構の外郭を構成する「内歯車」0202と、減速機構を収容する「ハウジング本体」0203との間で、内歯車0202とハウジング本体0203の双方によって自身が固定されるように嵌合した状態で配置されている。
【0032】
ここで、ハウジング本体0203が入力回転軸側に固定されている場合を考える。この場合において、出力回転軸の回転方向は6つの内ピンに描かれるように反時計回りであるとする。この場合、出力回転軸と接続される産業用ロボット1のアーム、及びヒューマノイドロボットの腕や脚に過剰な負荷がかかった場合(例えば、人との予期せぬ衝突や障害物などにより腕や脚の動きが妨げられるような場合)に、一の「弾性体」0201には、入力回転軸又は出力回転軸を中心とし当該弾性体0201までの距離を半径とする円周上であって当該弾性体0201の位置での略回転接線方向(図中の破線0204)に力が作用する。
【0033】
拡大図に示すように、出力回転軸に接続される腕や脚に過負荷がかかると出力回転軸から内ピン及び遊星歯車を介して減速機構の外郭となる内歯車に対して出力回転軸の回転方向と逆の回転方向へ力が作用する(図中矢印0205)。一方、ハウジング本体0203は入力回転軸側に固定されるため、出力回転軸が受けた力の反作用として、上記回転接線方向上で逆向きの力が作用する(図中矢印0206)。弾性体0201は、自身に作用するそれらの力を、自身が撓む(変形する)ことにより吸収する。この弾性体0201の他にも減速装置には複数の弾性体が配置され、各弾性体が同様に撓むことにより、出力回転軸にかかる力を吸収する。このように自身が撓むことにより力を吸収する作用をクッション作用といい、吸収する力の方向をクッション力の働く方向という。
【0034】
弾性体0201の撓みにより緩衝作用を得ることから、弾性体0201を介在させずに内歯車0202の外周面とハウジング本体0203の内周面とが接する部分については、双方を接着又は接合することは好ましくない。また、内歯車0202の外周面とハウジング本体0203の内周面との接触面に潤滑油を介在させてもよい。この場合、過負荷などにより減速機構に作用する力を弾性体0201により集中させることができ、減速機構及びハウジング本体0203の損傷をより防止し得る。なお、図2において、ハウジング本体0203と、内歯車0202とによりハウジング0203Aが構成される。
【0035】
さらに弾性体の形状について図3を用いて説明する。図3に示すように、「弾性体」0301の断面形状が略真円である場合、その断面形状は法線方向(図中鎖線0302)に対して線対照となる。このような形状である場合、弾性体がうける力の向きが正逆いずれの回転方向(図中太線両端矢印0303)であってもクッション力は平等に作用する。
【0036】
減速機構に対する過剰な負荷などの外的な力は、入力回転軸又は出力回転軸を回転させる回転接線方向に働き、その力の向きは正逆双方に働き得る。したがって、正逆いずれかの方向に対するクッション力に優劣が生じることは好ましくない。そのため、図3に示すように、法線方向に対して対照な形状とすることが好ましい。
【0037】
つぎに緩衝手段を構成する弾性体の配置について説明する。上述したように、緩衝手段は、主として入力回転軸又は出力回転軸を回転させる回転接線方向にクッション力を作用させることを意図している。また、正逆いずれの回転接線方向に対しても平等にクッション力が作用することが好ましい。そこで、弾性体は、入力回転軸又は/及び出力回転軸の軸心を中心として略点対称に配置されるようにすることが好ましい。
【0038】
また、弾性体0105,0201,0301の材料としては、ウレタンゴムやシリコンゴムなどの合成樹脂製のゴムなどを用いることができ、天然ゴムなどであってもよい。また、回転接線方向に伸縮する方向を揃えたつるまきばねや板ばねなどのばねを弾性体として配置してもよい。樹脂製のゴムが溶けるおそれのある高温環境下では、耐熱性を有する金属製のばねを弾性体に用いることが好適である。
【0039】
また、弾性体0105,0201,0301として油を用いてもよい。例えば、内歯車の外周面とハウジングの内周面との間に油の流路を設け、当該流路に流す油の流量を調整することで、調整可能な油圧による弾性体を構成することもできる。なお、内歯車とハウジングのみで密封された流路を形成することが難しい場合には、伸縮性のパイプ等を配置する溝を設け、そのパイプ等の中に油を流すことによってもよい。
【0040】
<効果>
本実施形態の減速装置0100により、減速機構0101の入力回転軸又は出力回転軸に対する過剰な負荷を吸収し減速機構0101を構成する歯車などの各要素の破損を防止することができる。
【0041】
また本実施形態によれば、磁石0111と磁気センサ0112とによって内歯車0108とハウジング本体0104との間に生じる相対的な変位量を求めることができ、この変位量から減速装置0100に加わる負荷トルクの値を確実に測定することができる。
【0042】
一般に減速装置に加わる負荷トルクの値を求める場合、ハウジング本体0104と内歯車0108は金属製となっているため、ハウジング本体0104と内歯車0108の変形量は小さい。このためこの小さな変形量から負荷トルクの値を求めるためには高分解能、高精度のセンサが必要となる。
【0043】
これに対して本実施の形態によれば、弾性体からなる緩衝手段0105が大きく変形することによりハウジング本体0104と内歯車0108との相対的変位量を大きくとることができ、このことにより高分解能、高精度のセンサを用いることなく、減速装置0100に加わる負荷トルクを確実に測定することができる。
【0044】
また、減速装置0100に複数のひずみゲージを設けることなく、磁石0111と磁気センサ0112の一対の組合わせを設けるだけで減速装置0100に加わる負荷トルクの値を容易に測定することができる。
【0045】
人との協働作業を行うような産業用ロボット1については、人との予期せぬ接触により、人及び産業用ロボット1の減速装置に対し、衝撃として作用する。このような衝撃は、人においては怪我に繋がり、ロボットの減速機構においては、可撓性の構成を備える波動歯車型減速機は脱調が生じる。さらに、歯車の損傷が生じて動作を不能にしてしまう。
【0046】
人との協働作業を行うような産業用ロボットにおいて、人へ危害を加えないために、ソフトウェアのみならず、ハードウェアにおいて、安全対策を行うことで、極めて重要であり、減速装置においても、脱調や歯車の損傷が生じないようにすることは、産業用ロボットの動作を安定化することができる。
【0047】
<実施形態2>
<概要>
本実施形態は、実施形態1の減速装置を基本とし、減速機構が偏心揺動型減速機構であって、内歯車や遊星歯車をプラスティック製とするとともに、内歯車を固定する金属製のリングを有し、この金属製のリングとハウジングとの間に弾性体を配置する減速装置である。
【0048】
このような構成とすることで、減速装置の軽量化を図るとともに、内歯車や遊星歯車を金属製のリングにより内包することで、例えば、本減速装置を関節に用いるヒューマノイドロボットが転倒するなどして衝撃を受けた場合であっても、内歯車や遊星歯車を破損から保護することができる。また、可撓性のあるプラスティックを内歯車に用いるため、内歯車に生じる応力を、内歯車を剛性に優れる金属製のリングで囲繞することで、その応力を分散させ、内歯車の破損を防止することができる。
【0049】
<構成>
図4は、本実施形態の減速装置の断面の一例を示す概念図である。「減速装置」0600は、「遊星歯車」0602や「内ピン」0603や「入力回転軸」0604及び「クランク」0605などを内包する「内歯車」0606により偏心揺動型の減速機能を実現する。また内歯車0606の外周に、その内歯車0606を更に固定する「内歯車固定リング」0607が設けられている。そして、内歯車固定リング0607を囲む「ハウジング本体」0608と内歯車固定リング0607との間に緩衝手段を構成する複数の「弾性体」0609が配置される。
【0050】
ここで減速装置0600は遊星歯車0602と、内ピン0603と、入力回転軸0604と、クランク0605とを有する減速機構(減速部)0601を含む。
【0051】
そして、これらの構成要素のうち少なくとも内歯車0606と遊星歯車0602はプラスティック製である。なお、クランクや内ピンもその一部又は全部をプラスティック製としてもよい。このようにプラスティック製とすることで減速装置の軽量化を図ることが可能となる。
【0052】
またハウジング本体0608と内歯車固定リング0607は金属製である。用いる具体的な金属は特段限定されるものではないが、例えば、鉄、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミ合金などを用いることができる。
【0053】
図示するように内歯車0606の外周にV字状の溝0606bを設け、内歯車固定リング0607の内周に内歯車0606の溝0606bと嵌合する突起0607bを設けて内歯車固定リング0607により内歯車0606が固定される。そして、内歯車固定リング0607の外周面には実施形態1における内歯車と同様に弾性体0609を嵌合するための溝0607aが設けられ、ハウジング本体0608の内周面にも同様に弾性体0609を嵌合する溝0608aが設けられている。
【0054】
弾性体0609は、上述のように内歯車固定リング0607とハウジング本体0608とに設けられる溝0607a,0608aの双方に嵌合されて配置される。そして、内歯車固定リング0607の外周面とハウジング0608の内周面とは、弾性体0609が配置される溝0607a,0608aの部分を除いて互いに接するように配置される。双方の間に隙間が生じないようにすることが、減速装置0600の機械的強度を高めるうえで好ましい。
【0055】
また、内歯車固定リング0607を構成する金属の内部あるいは内歯車固定リング0607の内周面であって、弾性体0609配置箇所近傍に発熱体(例えば、ニクロム線など)を配置してもよい。ゴムは温度に応じてその弾性が変化し得る。そこで、弾性体の近傍に発熱体を配置し、その加熱により弾性体の弾性を適宜調整し得るように構成してもよい。
【0056】
図4において、ハウジング本体0608と、内歯車固定リング0607と、内歯車0606とによりハウジング0608Aが構成される。また、ハウジング本体0608はハウジング0608Aの外ケースを構成し、内歯車固定リング0607はハウジング0608Aの内ケースを構成する。
【0057】
さらに上述のように減速機構0601は遊星歯車0602と、内ピン0603と、入力回転軸0604と、クランク0605とを有する。
【0058】
また図4に示すように、ハウジング0608Aのうち、内歯車固定リング0607の内周面には磁石0111が埋込まれており、他方、ハウジング本体0608の外周面には磁気センサ0112が埋込まれている。
【0059】
そしてハウジング0608Aの中心と、磁石0111と、磁気センサ0112は、直線上に並んでいる(図4参照)。また、動作中に減速装置0600の入力回転軸側と出力回転軸側との間に過剰な負荷がかかることがある。この場合、弾性体からなる緩衝手段0609が変形して、この減速装置0600に対して加わる負荷トルクを吸収して減速機構0601の損傷を防止することができる。
【0060】
この際、緩衝手段0609の変形に伴って磁石0111に対して磁気センサ0112は回転方向に沿って変位する。そして磁気センサ0112の回転方向の変位量に応じて、磁気センサ0112から出力信号が制御部0120へ送られる。
【0061】
次に制御部0120は磁気センサ0112からの出力信号に基づいて、磁石0111に対する磁気センサ0112の回転方向変位量を求めることができ、この変位量に基づいて減速装置0600に加わる負荷トルクの値を確実に測定することができる。
【0062】
このように磁石0111と磁気センサ0112とによって、磁石0111に対する磁気センサ0112の回転方向変位量、すなわち内歯車固定リング0607に対するハウジング本体0104の回転方向変位量を求めることができる。この場合、磁石0111と磁気センサ0112は、内歯車固定リング0607とハウジング本体0608との間に生じる相対的な変位量を求める測定手段を構成する。
【0063】
なお、上述した内歯車固定リング0607に対するハウジング本体0608の回転方向変位量は、緩衝手段0609の変形量に一致する。
【0064】
<変形例>
次に本発明の変形例について説明する。図4に示す実施形態2において、ハウジング本体0608と内歯車固定リング0607として金属製のものを用い、内歯車0606としてプラスチック製のものを用いた例を示したが、これに限らずハウジング本体0608と内歯車固定リング0607として金属製のものを用い、内歯車0606としてプラスチック製のものより高い弾性をもつウレタンゴムまたはシリコンゴム製の弾性体からなるものを用いてもよい。
【0065】
このように内歯車0606として弾性体を用いた場合は、ハウジング本体0608と内歯車固定リング0607との間の弾性体からなる緩衝手段0609は除くことができ、緩衝手段0609の代わりに弾性体からなる内歯車0606が減速装置0600に対して加わる負荷トルクを吸収することができる。
【0066】
ハウジング本体0608と内歯車固定リング0607との間から弾性体からなる緩衝手段0609が取り除かれた場合、ハウジング本体0608と内歯車固定リング0607とは適宜係合手段(図示せず)により円周方向に沿って堅固に係合される。
【0067】
この場合、磁石0111を、内歯車固定リング0607内周面ではなく、内歯車0606内であって内周面側に設置することが望ましい。
【符号の説明】
【0068】
1 産業用ロボット
2ap,2bp,2cp 一方のアーム
2ad,2bd,2cd 他方のアーム
0100 減速装置
0101 減速機構
0102 入力回転軸
0103 出力回転軸
0104 ハウジング本体
0104A ハウジング
0105 緩衝手段
0106 クランク
0107 遊星歯車
0108 内歯車
0109 内ピン
0111 磁石
0112 磁気センサ
0120 制御部
0201 弾性体
0202 内歯車
0203 ハウジング本体
0203A ハウジング
0301 弾性体
0600 減速装置
0601 減速機構
0602 遊星歯車
0603 内ピン
0604 入力回転軸
0605 クランク
0606 内歯車
0607 内歯車固定リング
0608 ハウジング本体
0608A ハウジング
0609 弾性体
図1
図2
図3
図4
図5