(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】金属管の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 5/01 20060101AFI20220104BHJP
B21D 51/10 20060101ALI20220104BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20220104BHJP
【FI】
B21D5/01 S
B21D51/10
B23K26/21 J
(21)【出願番号】P 2017132150
(22)【出願日】2017-07-05
【審査請求日】2020-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2017061414
(32)【優先日】2017-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500213915
【氏名又は名称】株式会社ワイテック
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國安 崇雅
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】江村 弘章
(72)【発明者】
【氏名】川口 秀明
(72)【発明者】
【氏名】中土 信之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 浩之
【審査官】山本 裕太
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-047441(JP,A)
【文献】特表2014-516801(JP,A)
【文献】特開2003-191011(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136259(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/052644(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 5/01
B21D 51/10
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の金属板から断面O字形の金属管を製造する方法であって、
上記平板状の金属板を断面U字形にプレス成形するU曲げ工程と、
上記U曲げ工程によってU字形になった金属板を断面O字形の管状になるようにプレス成形するO曲げ工程とを備え、
上記O曲げ工程の後に、上記金属板の突き合わせ端部をレーザー溶接する溶接工程を備え、
上記O曲げ工程では、相対する円弧状成形面を有する一対の割型を用い、上記U字形になった金属板の湾曲部を一方の割型の円弧状成形面で受け、他方の割型を上記一方の割型を合わせることによって上記プレス成形をするものであり、
上記他方の割型は、その円弧状成形面における上記U字形になった金属板の両側端が突き合わされる位置に対応する部位に凹部を有し、
上記平板状の金属板として、上記O曲げ工程のプレス成形によって突き合わされる両側端間の長さが、上記一対の割型の円弧状成形面を合わせてなる環状成形面の周長よりも長い金属板を用い、
上記O曲げ工程では、上記U字形になった金属板を、その突き合わせ端部において金属板長手方向への材料の移動を生じないように拘束して、その板厚が突き合わせ端部において他の部分よりも上記円弧状成形面の凹部の深さだけ外周側に厚くなるようにプレス成形し、
上記O曲げ工程によって、上記管状になった金属板の全周長にわたり、該金属板の内周面から外周側に向かって該金属板の板厚の少なくとも90%の範囲に周方向の圧縮応力を生じさせることを特徴とする金属管の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記O曲げ工程によって、上記管状になった金属板の全周長にわたり、その板厚の全範囲に周方向の圧縮応力を生じさせることを特徴とする金属管の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記O曲げ工程では、
上記U字形になった金属板の湾曲部を上記一対の割型のうちの一方の割型の円弧状成形面で受ける第1過程、
上記一対の割型を相対的に接近させていくことにより、当該両割型のうちの他方の割型の円弧状成形面が上記U字形になった金属板の相対する両側壁各々の端部に当接する第2過程、
上記一対の割型のさらなる接近によって、上記相対する両側壁各々の端部が、上記他方の割型の円弧状成形面に案内され該円弧状成形面の最奥部において当該側壁全長にわたって突き合わされた状態になる第3過程、並びに
上記一対の割型のさらなる接近によって、上記相対する両側壁が両外側に膨出変形して当該両割型の円弧状成形面に当接することにより、上記金属板が管状になる第4過程を有し、
上記平板状の金属板の両側端間の長さが上記一対の割型の円弧状成形面を合わせてなる環状成形面の周長よりも長いことにより、上記第4過程において上記管状の金属板に周方向に圧縮応力を生ずることを特徴とする金属管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平板状の金属板から断面O字状の金属管を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平板状の金属板から断面O字状の金属管を製造する方法の一例が特許文献1に記載されている。この方法は、平板状の金属板を断面U字形にプレス成形するU曲げ工程と、このU字形になった金属板を上下一対の割型でプレス成形して管状にするO曲げ工程とを備えている。所謂UO成形法である。平板状金属板の幅(U曲げ工程とO曲げ工程によって突き合わされる両側端間の長さ)は、当該プレス成形で得る金属管の外周長さと等しくなるようにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図17に示すように、UO成形において、O曲げ工程の割型で管状金属板aを成形したとき、金属板aの外周側には引張歪みが発生して引張応力が働き、内周側には圧縮歪みが発生して圧縮応力が働く。管状金属板aは、割型による拘束力が除去されると、上記引張及び圧縮の応力分布に起因して、
図18に示すように、外周側は周方向に縮み、内周側は周方向に伸びる。その結果、管状金属板aの突き合わせ端部の外周側に大きなギャップ(隙間)ができてしまう。そのような大きなギャップを生ずると、管状金属板cの突き合わせ端部をレーザー溶接することが難しくなり、或いは溶接しないで使用するケースにおいても、そのギャップが使用上の問題になることが考えられる。
【0005】
そこで、本発明は、UO成形において、得られる管状金属板の突き合わせ端部に大きなギャップを生じないようにする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、O曲げ工程において、管状金属板の外周側の引張応力がゼロになるように、又はゼロに近い状態になるようにする。
【0007】
ここに開示する金属管の製造方法は、平板状の金属板から断面O字形の金属管を製造する方法であって、
上記平板状の金属板を断面U字形にプレス成形するU曲げ工程と、
上記U曲げ工程によってU字形になった金属板を断面O字形の管状になるようにプレス成形するO曲げ工程とを備え、
上記O曲げ工程の後に、上記金属板の突き合わせ端部をレーザー溶接する溶接工程を備え、
上記O曲げ工程では、相対する円弧状成形面を有する一対の割型を用い、上記U字形になった金属板の湾曲部を一方の割型の円弧状成形面で受け、他方の割型を上記一方の割型を合わせることによって上記プレス成形をするものであり、
上記他方の割型は、その円弧状成形面における上記U字形になった金属板の両側端が突き合わされる位置に対応する部位に凹部を有し、
上記平板状の金属板として、上記O曲げ工程のプレス成形によって突き合わされる両側端間の長さが、上記一対の割型の円弧状成形面を合わせてなる環状成形面の周長よりも長い金属板を用い、
上記O曲げ工程では、上記U字形になった金属板を、その突き合わせ端部において金属板長手方向への材料の移動を生じないように拘束して、その板厚が突き合わせ端部において他の部分よりも上記円弧状成形面の凹部の深さだけ外周側に厚くなるようにプレス成形し、
上記O曲げ工程によって、上記管状になった金属板の全周長にわたり、該金属板の内周面から外周側に向かって該金属板の板厚の少なくとも90%の範囲に周方向の圧縮応力を生じさせることを特徴とする。
【0008】
この製造方法において、金属板がO曲げ工程において断面O字形に曲げられていくとき、金属板の両側端が突き合わせ状態になるまでは、金属板の外周側に引張応力が発生し、内周側に圧縮応力が発生する。しかし、金属板の両側端間の長さが一対の割型よりなる環状成形面の周長よりも長いから、その後、金属板が割型の円弧状成形面に沿った状態になると、割型から金属板に圧縮力が加わる。このとき、金属板の外周側は割型で拘束されるため、金属板の内周面が内側に移動する。つまり、金属板は板厚が内側へ増大する方向に塑性変形する。これに伴って、金属板外周側の引張応力を生じた部分は、あたかも弾性回復するような挙動をとって引張応力が解放されていき、ひいては、応力状態が圧縮側に移行していく。
【0009】
そうして、上記製造方法では、上記管状になった金属板の全周長にわたり、該金属板の内周面から外周側に向かって該金属板の板厚の少なくとも90%の範囲に周方向の圧縮応力を生じさせる。従って、管状になった金属板は、割型による拘束力が除去されたとき、内周側は周方向に伸びるが、外周側の周方向の縮みはほとんどなくなる。
【0010】
先に述べたように、割型から金属板に圧縮力が加わったときに金属板の板厚が内側へ増大するが、その板厚の増加による金属板の内周面の周長の増加は僅か(%で表してコンマ以下)であるから、この板厚増大に伴う圧縮応力の増大も僅かである。すなわち、金属板の板厚の少なくとも90%の範囲に周方向の圧縮応力を生じさせるようにしても、金属板の内周側の圧縮応力が僅かに増大する程度であるから、割型による拘束力が除去されたときの金属板内周側の周方向の伸びはそれほど大きくならない。
【0011】
このように、上記製造方法によれば、管状になった金属板は、割型による拘束力が除去されたとき、内周側は周方向に伸びるが、その伸び量はそれほど大きくならず、一方、外周側の周方向の縮みはほとんどなくなるから、当該金属板の突き合わせ端部に大きなギャップを生ずることが避けられる。
【0012】
好ましい実施形態では、上記O曲げ工程によって、上記管状になった金属板の全周長にわたり、その板厚の全範囲に周方向の圧縮応力を生じさせる。これにより、当該金属板の突き合わせ端部に生ずるギャップをさらに小さくすることができる。
【0013】
さらに、上記製造方法は、上述の如く、上記O曲げ工程の後に、上記金属板の突き合わせ端部をレーザー溶接する溶接工程を備え、
上記他方の割型は、その円弧状成形面における上記U字形になった金属板の両側端が突き合わされる位置に対応する部位に凹部を有し、
上記O曲げ工程では、上記U字形になった金属板を、その板厚が突き合わせ端部において他の部分よりも上記円弧状成形面の凹部の深さだけ外周側に厚くなるようにプレス成形する。
【0014】
金属板の突き合わせ端部には、上記割型による当該金属板のプレス成形によって突き合わせ方向に加圧力が加わる。この突き合わせ端部は、接触面積が小さい接触であり、且つ上記凹部により開放状態の境界条件をとるから、上記加圧によって塑性変形をし易い。この金属板両側端の塑性変形した部分が上記円弧状成形面の凹部に入り込むことによって、金属板の板厚が当該突き合わせ端部において厚くなる。
【0015】
従って、上記突き合わせ端部のレーザー溶接においては、この突き合わせ端部の板厚が増加した言わば余肉部分が溶接熱で溶けて上記ギャップを埋めることになる。これにより、突き合わせ端部の板厚方向の接合長さが増大し、つまり接合面積が増大し、溶接強度の確保に有利になる。また、溶接部近傍で発生し易いHAZ(溶接熱影響部)割れの防止に有利になる。
【0016】
さらに、上記製造方法は、上述の如く、上記O曲げ工程においては、上記金属板をその突き合わせ端部において金属板長手方向への材料の移動を生じないように拘束してプレス成形する。
【0017】
上記拘束によって、金属板の突き合わせ端部における金属板長手方向への材料の逃げが防がれるため、その突き合わされた部分が塑性変形して円弧状成形面の凹部に入り込み易くなり、当該突き合わせ端部の厚肉化に有利になる。
【0018】
好ましい実施形態の上記O曲げ工程では、
上記U字形になった金属板の湾曲部を上記一対の割型のうちの一方の割型の円弧状成形面で受ける第1過程、
上記一対の割型を相対的に接近させていくことにより、当該両割型のうちの他方の割型の円弧状成形面が上記U字形になった金属板の相対する両側壁各々の端部に当接する第2過程、
上記一対の割型のさらなる接近によって、上記相対する両側壁各々の端部が、上記他方の割型の円弧状成形面に案内され該円弧状成形面の最奥部において当該側壁全長にわたって突き合わされた状態になる第3過程、並びに
上記一対の割型のさらなる接近によって、上記相対する両側壁が両外側に膨出変形して当該両割型の円弧状成形面に当接することにより、上記金属板が管状になる第4過程を有し、
上記平板状の金属板の両側端間の長さが上記一対の割型の円弧状成形面を合わせてなる環状成形面の周長よりも長いことにより、上記第4過程において上記管状の金属板に周方向に圧縮応力を生ずる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、UO成形において、平板状の金属板として、O曲げ工程のプレス成形によって突き合わされる両側端間の長さが、一対の割型の円弧状成形面を合わせてなる環状成形面の周長よりも長い金属板を用いることにより、管状になった金属板の全周長にわたり、該金属板の内周面から外周側に向かって該金属板の板厚の少なくとも90%の範囲に周方向の圧縮応力を生じさせるようにしたから、突き合わせ端部のギャップが小さい金属管を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】平板状金属板から金属管を得るまでの断面形状の変化を示す図。
【
図2】U字形金属板を得る第1成形型の型開き状態の斜視図。
【
図3】予備成形用の第2成形型の型開き状態の斜視図。
【
図4】第2成形型による金属板の成形途中段階の状態を示す断面図。
【
図5】第2成形型による金属板の成形最終段階の状態を示す断面図。
【
図9】金属管成形型によるO曲げの途中段階を示す断面図。
【
図10】O曲げ工程において金属板に圧縮応力を生ずることを示す断面図。
【
図11】O曲げ工程後の金属板のレーザー溶接工程を示す断面図。
【
図13】同実施形態のO曲げ工程での割型と金属板を示す拡大断面図。
【
図14】同実施形態のO曲げ工程で得られた管状金属板のレーザー溶接状態を示す拡大断面図。
【
図15】O曲げ工程の金属板拘束手段(拘束前の状態)を示す断面図。
【
図16】O曲げ工程の金属板拘束手段(拘束状態)を示す断面図。
【
図17】従来法によってO曲げ成形された金属板の応力分布を示す図。
【
図18】従来法で得られた管状金属板の内周側と外周側の伸び縮みを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0022】
図1に示すように、本実施形態では、平板状の金属板5から、U曲げ工程A、予備成形工程B、O曲げ工程C、並びに溶接工程を順に行なうことによって金属管1を成形する。
【0023】
<U曲げ工程>
U曲げ工程Aでは、
図2に示す第1成形型21を用いて、平板状の金属板5から断面U字形の金属板22を成形する。第1成形型21において、23はパンチ、24はダイであり、各々パンチプレート25、ダイホルダ26に取り付けられている。ダイ24の上に金属板5を搬入し、パンチ23を下降させることにより、金属板5を断面U字形に曲げて、湾曲部27と該湾曲部27に続く相対する側壁28を有するU字形金属板22を得る。得られたU字形金属板22は、スプリングバックにより、相対する側壁28の間隔が端部に行くほど広くなった拡開形状になっている。
【0024】
<予備成形工程>
予備成形工程Bでは、
図3に示す第2成形型31を用いて、U字形金属板22の拡開形状になっている相対する側壁28を互いに内側に傾斜させる。第2成形型31において、33はU字形金属板22を受ける円弧状受け部33aを有する受けダイ、34は加工ダイ、35は加工ダイ34が取り付けられたダイプレートである。
【0025】
加工ダイ34の凹加工面の形状は略三角形状であって、その開口端側から順に、相対する誘い込み部36、該誘い込み部36に続く相対する第1傾斜部37、並びに該第1傾斜部37続く相対する第2傾斜部38を備えている。相対する第2傾斜部38はV字状の最奥部39を形成するように端部で繋がっている。
【0026】
図4に示すように、U字形金属板22を受けダイ33に受け、加工ダイ34を下降させると、U字形金属板22の相対する側壁28が誘い込み部36の間から加工ダイ34の凹部に入る。加工ダイ34の下降が進むと、両側壁28の端部が第1傾斜部37に当接し、該第1傾斜部37に案内されて第2傾斜部38に進む。そして、両側壁28の端部は、第2傾斜部38を経てV字状の最奥部39に至り、該最奥部において突き合わせ状態になる。
【0027】
この突き合わせ後の加工ダイ34のさらなる下降により、
図5及び
図6に示すように、U字形金属板22は、その両側壁28が第1傾斜部37及び第2傾斜部38に当接するように両外側へ膨出変形する。これにより、U字形金属板22は、脱型後にスプリングバックがあっても、基本的には、相対する側壁28が互いに内側に傾斜した形になる。
【0028】
<O曲げ工程>
O曲げ工程Cでは、
図7に示す一対の割型を有する金属管成形型41を用いて、上記予備成形がされたU字形金属板22を断面O字形の管状に成形する。金属管成形型41において、42はU字形金属板22を受ける第1割型である。43は第1割型42に向かって接近していくことにより、第1割型42と相俟って、U字形金属板22を管状になるようにプレス成形する第2割型である。両割型42,43は、金属板22を管状にするための円弧状成形面44,45を有する。第2割型43はダイプレート46に取り付けられている。
【0029】
U字形金属板22の湾曲部27を第1割型42の円弧状成形面44に受け、第2割型43を下降させると、該第2割型43の円弧状成形面44がU字形金属板22の相対する側壁28の端部に当接する。そして、第2割型43のさらなる下降により、上記相対する側壁28が両外側に膨出変形し、
図8に示すように、両割型42,43が合わさることにより、管状の金属板(金属管)40が形成される。
【0030】
以下、
図9を参照して具体的に説明する。第2割型43が下降すると、その円弧状成形面45がU字形金属板22の相対する側壁28の端部に当接する。第2割型43のさらなる下降に伴って、相対する側壁28の端部は第2割型43の円弧状成形面45に案内され該成形面45の最奥部に向かって移動し、この移動に伴って内側に撓んで行く。そうして、相対する側壁28の端部が側壁全長にわたって上記成形面45の最奥部において突き合わせ状態になった後、第2割型43がさらに下降していくことにより、U字形金属板22は、相対する側壁28が両外側へ膨出変形していく。
【0031】
<突き合わせ端部のギャップ>
ここに、
図1に示す平板状の金属板5としては、その幅W(O曲げ工程Cにおいて第2割型43の円弧状成形面45の最奥部で突き合わせ状態になる両側端間の長さ)が、割型42,43の円弧状成形面44,45を合わせてなる環状成形面の周長よりも長いものを用いている。
【0032】
従って、U曲げ工程A及び予備成形工程Bを経た金属板22がO曲げ工程において断面O字形に曲げられていくとき、金属板22の両側端が突き合わせ状態になるまでは、金属板22の外周側に引張応力が発生し、内周側に圧縮応力が発生する。しかし、その後、
図10に示すように、金属板22が割型42,43の円弧状成形面44,45に沿った状態になると(なお、
図10では、割型43側の一部のみを示している。)、金属板22の幅W(両側端間の長さ)が上記環状成形面の周長よりも長いから、割型42,43から金属板22に周方向の圧縮力Fが加わる。
【0033】
金属板22の外周側は割型42,43で拘束されているため、金属板22の内周面が内側に移動する。つまり、金属板22は板厚が内側へ増大する方向に塑性変形する。これに伴って、金属板外周側の引張応力を生じた部分は、あたかも弾性回復するような挙動をとって引張応力が解放されていき、ひいては、応力状態が圧縮側に移行していく。
【0034】
実験によれば、割型42,43よりなる環状成形面の直径をD、金属板5の板厚をtとするとき、平板状金属板5の幅Wを環状成形面の周長(π×D)よりも直径に対する板厚の比率(t/D)だけ長くすると、
図10に示すように、金属板22の厚さ方向の全範囲に周方向の圧縮応力Csを生ずることが認められた。例えば、環状成形面の直径D=100mm、板厚t=2.3mmであるケースでは、平板状金属板5の幅Wを次のようにすることになる。つまり、幅Wを環状成形面の周長よりもπ×tの寸法だけ長くすることになる。
【0035】
W=π×D×(1+t/D)=π×(D+t)=102.3×π
上記幅Wを過度に大きくすると、O曲げ工程において金属板22に座屈を生ずるから、好ましいのは、π×D<W≦π×(D+2t)とすることである。
【0036】
このように、金属板22の板厚の全範囲に周方向の圧縮応力Csを生ずるようにすれば、O曲げ工程で得られる管状金属板は、割型42,43による拘束力が除去されたとき、内周側は周方向に伸びるが、外周側の周方向の縮みはほとんどなくなる。
【0037】
ここに、割型42,43から金属板22に圧縮力が加わったときに金属板22の板厚が内側へ増大するが、その板厚の増加による金属板22の内周面の周長の増加は僅かである。例えば、環状成形面の直径D=100mm、板厚t=2.3mmであるケースにおいて、幅Wを環状成形面の周長よりもπ×tの寸法だけ長くする場合、概算によれば、金属板22の板厚が内側へ2.3%程度増加することになるが、その増加に伴う金属板22の内周面の周長の減少は0.4%程度(0.5%以下)である。従って、この板厚増大に伴う金属板22の内周側の圧縮応力の増大も僅かである。すなわち、割型42,43による拘束力が除去されたときの金属板22の内周側の周方向の伸びはそれほど大きくならない。
【0038】
以上のように、割型42,43による拘束力が除去されたときの金属板22の内周側の周方向の伸びはそれほど大きくならず、一方、外周側の周方向の縮みはほとんどなくなるから、
図11に示すように、得られる管状金属板40の突き合わせ端部に生ずるギャップ47は確実に板厚tの10%以下になる。すなわち、大きなギャップを生ずることは避けられる。
【0039】
<溶接工程>
図11に示すように、割型42,43から脱型した管状金属板40の突き合わせ端部に向けてレーザーLを照射して溶接する。この突き合わせ端部のギャップ47は板厚tの10%以下になっているから、レーザー溶接によって当該突き合わせ端部を確実な接合することができる。
【0040】
<別の実施形態(金属板の突き合わせ端部の厚肉化)>
本実施形態についてはその要部のみを
図12乃至
図14に示す。
図12に示すように、本実施形態は、O曲げ工程において、上記金属板22の両側端が突き合わされる円弧状成形面45の最奥部に凹部48が設けられている割型43を用いる点が先の実施形態と相違し、他の工程は先の実施形態と同じである。凹部48は、金属板22の突き合わされる両側端に跨がるように設けられている。
【0041】
本実施形態では、O曲げ工程において、
図13に示すように、金属板22の相対する側壁28の端部が成形面45の最奥部において突き合わせ状態になり、さらに、金属板22が成形面45に沿った状態になると、先に説明したように、金属板22に周方向の圧縮力Fが加わる。すなわち、金属板22の両側端の突き合わせ部に対して突き合わせ方向に加圧力が加わる。この突き合わせ端部は、接触面積が小さい接触であり、且つ上記凹部48により開放状態の境界条件をとるから、上記加圧によって塑性変形し、その塑性変形した部分が成形面45の凹部48に入る。これにより、金属板22の板厚が当該突き合わせ端部において局部的に厚くなる。すなわち、金属板22の突き合わせ端部に凹部48に対応する凸部49が形成される。
【0042】
従って、
図14に示すように、割型42,43から脱型した金属板22の突き合わせ端部にギャップ47を生じても、該突き合わせ端部のレーザー溶接においては、この突き合わせ端部の板厚が増加した言わば余肉部分である凸部49が溶接熱で溶けて上記ギャップ47を埋めることになる。これにより、突き合わせ端部の板厚方向の接合長さが増大し、つまり接合面積が増大し、溶接強度の確保に有利になり、HAZ割れ防止にも有利になる。
【0043】
ここに、上記凹部48の幅W1及び深さdは、金属板22の板厚t、ギャップ47の大きさG及びレーザーによる溶接幅W2に応じて設定することができる。
【0044】
この点を概算で説明すると、ギャップ47の断面積の大きさSは、S=G×tとすることができる。溶接幅W2の金属が溶接熱で溶けて凝固すると考えると、上記凹部48による板厚増加分は凹部48の深さdに相当するから、G×t=W1×dが成立するときに、ギャップ47を金属板22の溶け込みで埋めることができる。
【0045】
従って、幅W1=W2-G及び深さd=G×t/W1の大きさの凹部48を割型43の成形面45に設ければよいことになる。
【0046】
例えば、金属板22の板厚がt=2.3mmであり、ギャップ47の大きさがG=0.2mmであり、溶接幅がW2=1.5~2.0mmであるときは、幅W1=W2-0.2及び深さd=0.2×2.3÷W1の計算により、幅Wが1.3~1.8mm程度、深さdが0.25~0.36mm程度の凹部48を成形面45を設けることになる。
【0047】
ここに、上記金属板22の突き合わせ端部の厚肉化においては、
図15及び
図16に示すように、プレス成形時における金属板22の長手方向(金属板22が管状に成形されたときの管長方向)への材料の逃げを阻止する拘束手段を設けることが好ましい。
【0048】
図15,16において、51は拘束手段としてのカムスライダー、52はカムスライダー51を駆動するカムドライバーである。なお、
図15,16は、金属管成形型41の片端部を示すが、カムスライダー51及びカムドライバー52は金属管成形型41の両端部に対称に設けられている。
【0049】
カムスライダー51は、第1割型42の長手方向における円弧状成形面44の両外側に配置されている。カムスライダー51は、第1割型42に当該長手方向に移動自在に支持され、且つ第1割型42の円弧状成形面44が形成された部位から当該長手方向の外側へ離れる方向にスプリング(図示省略)で付勢されている。
【0050】
カムスライダー51は、円弧状成形面44に受けられた金属板22の端面に当接せしめる拘束面51aを備えている。カムスライダー51の拘束面51aの背面側にカムドライバー52から駆動力を受けるカム面51bが設けられている。
【0051】
カムドライバー52は、第2割型43に固定されて下方へ突出している。カムドライバー52の下部にカムスライダー51のカム面51bに当接するカム面52aが設けられている。カムドライバー52が第2割型43と共に下降し、そのカム面52aがカムスライダー51のカム面51bに当接して摺動することにより、カムスライダー51が第1割型42の円弧状成形面44が形成された部位に向かって移動し、拘束面51aが金属板22の端面に当接することになる。
【0052】
以下、具体的に説明する。
図15に矢符で示すように、O曲げ工程において、第2割型43の下降により、カムドライバー52がカムスライダー51を金属板22に向かって移動させる。
図9に示すように、遅くとも、金属板22の相対する側壁28の端部が成形面45の最奥部において突き合わせ状態になるまでに、カムスライダー51の拘束面51aが金属板22の端面に当接した状態(
図15において、2点鎖線で示す状態)になる。
【0053】
第2割型43のさらなる下降に伴って、金属板22の相対する側壁28が両外側へ膨出変形して第2割型43の円弧状成形面45に沿った状態になり、金属板22の両側端に突き合わせ方向の加圧力が加わっていく。この加圧力が加わっていく過程において、
図16に示すように、カムドライバー52は、2点鎖線の状態からさらにカムスライダー51の背面に当接するように下降し(実線で示す状態)、カムスライダー51の拘束面51aが金属板22の端面に当接した状態を保持する。
【0054】
カムスライダー51は金属板22の長手方向の両外側に設けられているから、金属板22の両側端に突き合わせ方向の加圧力が加わっていくときに、当該突き合わせ端部において材料が長手方向へ移動する(逃げる)ことがカムスライダー51の拘束面51aによって阻止される。
【0055】
そのため、金属板22の上記突き合わせ端部は、上記加圧力によって第2割型43の円弧状成形面45の凹部48を埋めるように塑性変形することになる。つまり、拘束手段によって上記突き合わせ端部の長手方向への材料の移動が阻止されるから、上記凹部48を埋めるような塑性変形を生じ易くなる。よって、金属板22の突き合わせ端部に凹部48に対応する凸部49を確実に形成することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 金属管
5 平板状の金属板
21 第1成形型
22 U字形の金属板
27 湾曲部
28 側壁
31 第2成形型
41 金属管成形型
42 第1割型
43 第2割型
44 円弧状成形面
45 円弧状成形面
51 カムスライダー(拘束手段)
51a 拘束面