IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社新エネルギー研究所の特許一覧 ▶ 佐渡精密株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-水素生成システム及び燃料電池システム 図1
  • 特許-水素生成システム及び燃料電池システム 図2
  • 特許-水素生成システム及び燃料電池システム 図3
  • 特許-水素生成システム及び燃料電池システム 図4
  • 特許-水素生成システム及び燃料電池システム 図5
  • 特許-水素生成システム及び燃料電池システム 図6
  • 特許-水素生成システム及び燃料電池システム 図7
  • 特許-水素生成システム及び燃料電池システム 図8
  • 特許-水素生成システム及び燃料電池システム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】水素生成システム及び燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/32 20060101AFI20220127BHJP
   C01B 3/56 20060101ALI20220127BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20220127BHJP
   B01J 35/06 20060101ALI20220127BHJP
   H01M 8/0612 20160101ALI20220127BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20220127BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220127BHJP
【FI】
C01B3/32 A
C01B3/56 Z
B01J23/42 M
B01J35/06 L
H01M8/0612
H01M8/04 J
H01M8/04 N
H01M8/10 101
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017232071
(22)【出願日】2017-12-01
(65)【公開番号】P2019099419
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-11-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)ベンチャー企業等による新エネルギー技術革新支援事業(燃料電池・蓄電池)に係る委託業務(平成29年度)
(73)【特許権者】
【識別番号】507037563
【氏名又は名称】株式会社新エネルギー研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】517286515
【氏名又は名称】佐渡精密株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 泰和
(72)【発明者】
【氏名】坂下 弘将
(72)【発明者】
【氏名】小林 大祐
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-510437(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01533271(EP,A1)
【文献】特表2005-500235(JP,A)
【文献】特開2009-062269(JP,A)
【文献】特開2004-277220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/32
C01B 3/56
B01J 23/42
B01J 35/06
H01M 8/0612
H01M 8/04
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノール水溶液を水溶液改質して水素ガスを生成する水素生成装置と、
前記水素生成装置から排出された水素を含む混合ガスが供給され、供給された混合ガスを凝縮して少なくとも水素ガスと凝縮物とを分離する凝縮分離装置と、
前記凝縮分離装置で分離された凝縮物中の少なくとも未反応のメタノールを、水素生成装置に再供給して水溶液改質に供する再供給手段と、
を備え、前記水素生成装置は、
少なくとも一端が開放された筒構造を有し、前記筒構造の内部に加熱室が配設された基体と、
前記基体の前記筒構造の外周面の少なくとも一部を覆うように配置され、カーボンシートに触媒金属が担持された触媒と、
前記触媒が配置された前記基体を収容する外装材と、
前記基体の筒の長さ方向における前記一端の側に配置され、水素ガスを排出する排出口と、
前記基体の筒の長さ方向における他端の側に配置され、前記基体と前記外装材との間にメタノール水溶液を供給する供給口と、
を備え、供給されたメタノール水溶液を前記触媒により水溶液改質して水素ガスを生成する、水素生成システム。
【請求項2】
前記触媒は、前記基体の外周面に巻回されて積層構造とされている、請求項1に記載の水素生成システム。
【請求項3】
前記触媒は、前記カーボンシートに担持された触媒金属の担持量が15g/L~150g/Lである請求項1又は請求項2に記載の水素生成システム。
【請求項4】
前記触媒は、供給されたメタノール水溶液を過熱液膜状態で水溶液改質する請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の水素生成システム。
【請求項5】
前記供給口から供給されたメタノール水溶液は、前記基体の筒の長さ方向に流通されながら予熱され、沸点を超える温度に過熱された状態で前記触媒により水溶液改質される請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の水素生成システム。
【請求項6】
前記カーボンシートが、カーボンクロス又はカーボンフェルトである請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の水素生成システム。
【請求項7】
前記触媒金属が、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケルもしくは銅、又は、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル及び銅からなる金属群より選ばれる少なくとも一つと前記金属群の金属と異なる他の金属との複合体である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の水素生成システム。
【請求項8】
前記他の金属が、マンガン及び亜鉛の少なくとも一方を含む請求項7の記載の水素生成システム。
【請求項9】
前記触媒金属が、少なくとも、白金、ルテニウム及びニッケルの少なくとも一つを含む固溶体である請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の水素生成システム。
【請求項10】
前記触媒は、前記触媒金属を含む金属粒子が担持され、前記金属粒子の平均一次粒子径が10nm以下である請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の水素生成システム。
【請求項11】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の水素生成システムと、
前記水素生成装置で生成された水素ガスにより発電する燃料電池と、
を備えた燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素生成システム及び燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
クリーンなエネルギー源であるメタノールは、改質反応により生成される水素量が多い点で水素供給源として注目されている。水素供給源の用途の一つとして、近年注目されている燃料電池は、実用化する上で特に高純度の水素を製造する方法が求められる。
【0003】
メタノールの改質は、気相接触による水蒸気改質法が一般に知られている。水蒸気改質法には、銅触媒もしくは銅に亜鉛等の第二金属を添加した複合触媒が使用されている。
ところが、水蒸気改質法は固気接触方式であるため、メタノール及び水をあらかじめ気体に変えておくための蒸発熱と吸熱反応器における広い固気接触面積とが用意される必要があるので、省エネルギー化及びシステムのコンパクト化の観点から好ましくない。
【0004】
一方、固体触媒の存在下、メタノール水溶液を液相で改質する水素の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、メタノール水溶液の改質反応として、過熱液膜状態を利用した過熱液膜型脱水素反応を適用することも開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-157803号公報
【文献】特許第4213952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、従来からメタノール水溶液を液相で改質する方法は開示されているが、単に触媒を用いて液相中でメタノールを改質しようとしても、高い水素転化率は期待できず、反応場を大きく確保しなければ、250℃~350℃程度の温度領域で所望とする水素量を確保することは困難である。
【0007】
また、改質反応を250℃~350℃程度の温度領域で行ってCOの生成を低く抑えながら、水素転化率を高めるには、液相触媒反応において過熱液膜状態を形成することが望ましいが、実際の反応場において過熱液膜状態を維持することは難しい。
【0008】
本開示は、上記に鑑みなされたものである。
本開示は、小型で、かつ、中温領域(250℃~350℃)にて安定的に水素生成する水素生成システム、及び需要に応じた電力供給が可能な燃料電池システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本開示の第1の態様に係る水素生成システムは、
<1> メタノール水溶液を水溶液改質して水素ガスを生成する水素生成装置と、水素生成装置から排出された水素を含む混合ガスが供給され、供給された混合ガスを凝縮して少なくとも水素ガスと凝縮物とを分離する凝縮分離装置と、凝縮分離装置で分離された凝縮物中の少なくとも未反応のメタノールを、水素生成装置に再供給して水溶液改質に供する再供給手段と、を備え、
前記水素生成装置は、
少なくとも一端が開放された筒構造を有し、前記筒構造の内部に加熱室が配設された基体と、
前記基体の前記筒構造の外周面の少なくとも一部を覆うように配置され、カーボンシートに触媒金属が担持された触媒と、
前記触媒が配置された前記基体を収容する外装材と、
前記基体の筒の長さ方向における前記一端の側に配置され、水素ガスを排出する排出口と、
前記基体の筒の長さ方向における他端の側に配置され、前記基体と前記外装材との間にメタノール水溶液を供給する供給口と、
を備え、供給されたメタノール水溶液を前記触媒により水溶液改質して水素ガスを生成するものである。
【0010】
第1の態様に係る水素生成システムは、メタノール水溶液をシート状の触媒を備えた水素生成装置で水溶液改質し、改質生成された水素を含む混合ガスは、凝縮分離装置で凝縮されることにより少なくとも水素ガスと凝縮物とに分離され、分離された水素ガス(好ましくは、水素ガス以外の気相成分から水素分離膜等により精製された水素ガス)は外部の水素使用装置に供給される。一方、分離された凝縮物には、水溶液改質反応に供されていない未反応のメタノール水溶液が含まれており、凝縮分離装置から排出された液相の凝縮物のうち、少なくとも未反応のメタノールは、再供給手段によって同一の又は別の水素生成装置に供給され、水素生成装置での水溶液改質に供されることになる。
この際、水素生成装置は、触媒の加熱機能を担う基体と、基体を収容する外装材の内壁と、の間に形成される空間を反応室とし、反応室を形成している基体の筒構造に、筒構造の周囲の少なくとも一部を覆うように、熱伝達性を有するシート状担体に触媒金属が担持されたシート状の触媒を、例えば巻回して(好ましくは複数回巻回して)配置し、反応室に供給されるメタノール水溶液をシート状の触媒を用いて水溶液改質する。
つまり、加熱室が設けられた基体の筒構造の周囲に亘って、シート状の担体に触媒金属が担持されたシート状の触媒を、例えば巻回して(好ましくは複数回巻回して)配置し、かつ、熱伝達性を有するカーボン系のシート状担体に、供給口から室温のメタノール水溶液を送入してミクロ細孔に毛細管凝縮貯留させ、そこで沸点を超えるまで予熱されるようにメタノール水溶液の流動線速度を設定する。過熱状態のメタノール水溶液は、適度の湿潤状態を維持しつつ、カーボン表面を拡散移動し、核沸騰発泡点にある触媒の金属粒子に到達する。触媒金属の表面に生成した水素、二酸化炭素、及び一酸化炭素の気相生成物と未反応のメタノール水溶液は、沸点を大きく上回る加熱源温度と良好な熱流束を生かして孤立気泡を頻度高く形成し、気泡が離脱すれば直ちに過熱液によって被覆され、メタノール水溶液改質反応が不可逆的に進行する。したがって、急峻な温度勾配と多量の熱移動の下、空いた活性サイトの高密度化の結果として、吸熱反応熱と生成物脱離熱とを触媒に対して効果的に供与することができる。
これにより、小型化を実現しながら、中温領域(250℃~350℃)で水素ガスの改質生成が行え、かつ、未反応のメタノール水溶液を含む凝集物の循環再利用により改質反応の転化率が飛躍的に改善する。また、メタノール水溶液の供給速度を調整すれば、過熱液膜状態を形成するメタノール水溶液の流動線速度が制御され、燃料電池より要求される水素量(外部の水素需要)に合致した量の水素の供給を実現すると共に、システム全体でのメタノールの完全転化を達成することができる。これにより、生成される水素量を飛躍的に向上させることができる。
【0011】
<2> 前記<1>に記載の第1の態様に係る水素生成システムにおいて、前記触媒は、基体の外周面に巻回されて積層構造とされていることが好ましい。
触媒が、基体内部より熱せられる基体の外周を覆うように巻回された積層構造とされると、触媒金属の担持量を増やしつつも、過熱液膜状態を形成するメタノール水溶液中に生成した気泡を効率良く逃がすことができる。これにより、触媒と気液混相との接触が極小化され、固液接触が確保されて熱伝達率を大きく保つことができ、結果、膜沸騰に至らない状態を保持しながら、効率良く水素ガスを生成できる。
【0012】
<3> 前記<1>又は前記<2>に記載の第1の態様に係る水素生成システムにおいて、前記触媒は、前記カーボンシートに担持された触媒金属の担持量が15g/L~150g/Lであることが好ましい。
カーボンシートに担持された触媒金属の担持量が上記の範囲にあることで、液相触媒反応における発泡点が増え、熱伝達率の大きい核沸騰の状態となりやすく、水素ガス生成効率により優れたものとなる。
【0013】
<4> 前記<1>~前記<3>のいずれか1つに記載の第1の態様に係る水素生成システムにおいて、前記触媒は、供給されたメタノール水溶液を過熱液膜状態で水溶液改質するものであることが好ましい。
【0014】
過熱液膜状態を利用した脱水素反応を行わせることで、水素ガス生成量をより大きくすることができる。
ここで、「過熱液膜状態」とは、過熱状態(メタノールの沸点を越える温度での加熱)で、かつ、触媒表面がメタノール水溶液によって僅かに湿潤した状態をいう。
【0015】
<5> 前記<1>~前記<4>のいずれか1つに記載の第1の態様に係る水素生成システムにおいて、前記供給口から供給されたメタノール水溶液は、前記基体の筒の長さ方向に流通されながら予熱され、沸点を超える温度に過熱された状態で前記触媒により水溶液改質されることが好ましい。
触媒温度が、メタノールの沸点を超える高温状態にあることで、反応系の温度を低めに抑えつつ、水素の生成効率に優れたものとなる。
【0016】
<6> 前記<1>~前記<5>のいずれか1つに記載の第1の態様に係る水素生成システムにおいて、前記カーボンシートは、カーボンクロス又はカーボンフェルトであることが好ましい。
カーボンクロス及びカーボンフェルトは、いずれも繊維状のカーボンを用いたシートであるので、ミクロ細孔を有し、表面積が大きい。そのため、過熱状態のメタノール水溶液を保持しやすく、かつ、触媒金属を担持しやすい。
【0017】
<7> 前記<1>~前記<6>のいずれか1つに記載の第1の態様に係る水素生成システムにおいて、前記触媒金属が、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケルもしくは銅、又は、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル及び銅からなる金属群より選ばれる少なくとも一つと前記金属群の金属と異なる他の金属との複合体であることが好ましい。
<8> 前記<7>に記載の第1の態様に係る水素生成システムにおいて、前記他の金属は、マンガン及び亜鉛の少なくとも一方を含むことが好ましい。
上記のように、触媒金属として上記の金属を選択することで、水溶液改質活性により優れたものとなる。
【0018】
<9> 前記<1>~前記<8>のいずれか1つに記載の第1の態様に係る水素生成システムにおいて、前記触媒金属は、少なくとも、白金、ルテニウム及びニッケルの少なくとも一つを含む固溶体であることが好ましい。
上記のように、触媒金属として上記の金属を選択することで、水溶液改質活性により優れたものとなる。
【0019】
<10> 前記<1>~前記<9>のいずれか1つに記載の第1の態様に係る水素生成システムにおいて、前記触媒は、前記触媒金属を含む金属粒子が担持され、前記金属粒子の平均一次粒子径が10nm以下であることが好ましい。
触媒金属が金属粒子として担持され、かつ、担持される金属粒子が小粒径であると、液相触媒反応における発泡点が多くなり、熱伝達性がより向上し、水溶液改質がより進行しやすくなる。
【0020】
本開示の第2の態様に係る燃料電池システムは、
<11> 前記<1>~前記<10>のいずれか1つに記載の水素生成システムと、前記水素生成システムで生成された水素ガスにより発電する燃料電池と、を備えたものである。
【0021】
第2の態様に係る燃料電池システムは、上記第1の態様に係る水素生成システムを備えているので、システムの小型化が可能であり、250℃~350℃の中温領域を維持しながら、外部の水素使用装置での需要に応じて電力供給することが可能である。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、小型で、かつ、中温領域(250℃~350℃)にて安定的に水素を生成する水素生成システム及び需要に応じた電力供給が可能な燃料電池システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示の燃料電池システムの一例を示す概略構成図である。
図2】本開示の水素生成装置の一例を示す概略斜視図である。
図3図2の水素生成装置を分解して示す分解図である。
図4図2の水素生成装置のA-A線断面図である。
図5】基体の筒構造の周囲を覆うように触媒が配置されている状態を示す概略斜視図である。
図6】カーボンクロスに白金粒子を担持した単層構造、2層構造又は3層構造の円形触媒を示す概略斜視図である。
図7図6の3種の円形触媒を用いて水素生成させた際の、メタノール水溶液供給量と水素生成速度との関係を示すグラフである。
図8】(a)はメタノール水溶液の供給量が少な過ぎて乾固する状態を示し、(b)は過熱液膜状態を示し、(c)はメタノール水溶液の供給量が多過ぎる懸濁状態を示す。
図9】本開示の燃料電池システムの他の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1図8を参照して、本開示の水素生成システム及び燃料電池システムの実施形態について具体的に説明する。但し、本開示においては、以下に示す実施形態に制限されるものではない。
【0025】
本開示の一実施形態では、触媒として、シート状のカーボンクロスに触媒金属である白金粒子が担持されたシート状触媒を用いて、供給されたメタノール水溶液を水溶液改質し、水素ガスを生成する態様を一例に詳細に説明する。
【0026】
本開示の一実施形態の燃料電池システム100は、図1に示すように、水素生成装置10と、水素生成装置と接続され、水素ガスを含む混合ガスが送られる凝縮分離装置である凝縮分離器20と、凝縮分離器20で凝縮性のメタノール及び水から分離された水素含有ガスを貯留する水素貯留タンク30と、水素ガスが供給される燃料電池の一例である固体高分子形燃料電池(PEFC)60と、システム動作を制御する制御装置40と、を備えている。
【0027】
本開示の一実施形態である燃料電池システム100では、水素生成装置10で水溶液改質により生成された水素を含む混合ガスから凝縮分離器20で水素含有ガスを分離し、水素透過膜を通して水素含有ガスから精製された水素ガスをPEFCに供給することによって、PEFCから外部の水素使用装置に需要に応じた電力を供給するシステムが構築されている。外部の需要に基づくPEFCの要求に応じた水素供給は、メタノール水溶液の流量調節によって調整することが可能である。
また、水素生成装置で一酸化炭素が生成される場合、一酸化炭素は水素と共に水素含有ガスとして一旦貯留されるが、水素含有ガスから水素が選択的に精製されるにしたがい、蓄えられる一酸化炭素は増える。そして、燃焼熱が必要とされる場合に一酸化炭素が燃焼に供され、熱エネルギーとして有効に利用される。
【0028】
水素生成装置10は、外部から供給されたメタノール水溶液を触媒により水溶液改質して水素ガスを生成する。生成された水素ガスは、水素生成装置10に接続されたガス排出管12を介して、他のガス成分と混合された混合ガスとして凝縮分離器20に送られる。
ここで、水素生成装置から排出される混合ガスには、水溶液改質反応により生成された水素に加え、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、及び未反応メタノール等の他のガス成分が含まれる。したがって、水素生成装置に接続されたガス排出管12には、水素を含む混合ガスが流通する。
【0029】
本開示の水素生成装置について、更に、図2図4を参照して詳細に説明する。
本開示の一実施形態は、図2に示す水素生成装置10を備えている。この水素生成装置10は、図3に示すように、一端が開放され、かつ、他端が閉塞された筒構造を有する基体13と、基体13を収容する外装材11と、を備えた二重円筒型改質反応器である。
図2は、本開示の一実施形態に係る水素生成装置を示す概略斜視図であり、図3は、図2の水素生成装置10を分解して示す分解図である。
【0030】
外装材11は、内部中空で一端が開放された筒構造と、筒構造の上に設けられた水素ガスを排出する排出口12aと水素生成装置にメタノール水溶液を供給する供給口14aとを有し、排出口12aには、生成ガスを排出するガス排出管12の一端が接続されており、供給口14aには、原料供給管14の一端が接続されている。
【0031】
ガス排出管12は、水素生成装置10の反応室で生成されたガスを外部へ排出するための配管である。ガス排出管12の他端は、図1に示すように、改質生成された水素ガスを含む混合ガスから水素ガスを分離する凝縮分離器20と接続されており、混合ガスポンプP1を動作させることで、水素生成装置10からガス排出管12を通じて混合ガスが凝縮分離器20に送られるようになっている。
【0032】
原料供給管14は、原料供給ポンプP2を備え、外部から改質用原料であるメタノール水溶液を水素生成装置10の反応室に供給するための配管である。原料供給管14の他端は、図1に示すように、メタノール水溶液の供給源である原料供給装置50と接続されており、原料供給ポンプP2を動作させることで、原料供給装置50から原料供給管14を通じてメタノール水溶液が水素生成装置の反応室に供給されるようになっている。
【0033】
原料供給管14には、図示しないが、配管途中にメタノール水溶液を予熱するための加熱器が配設された態様に構成されていることが好ましい。
原料供給管14の配管途中に加熱器を配設し、原料供給管14からメタノール水溶液を水素生成装置10の反応室に供給する際、メタノール水溶液が反応室に供給される前に予め沸点まで加熱されることが好ましい。メタノール水溶液が予め沸点まで予熱された状態で反応室に供給されることにより、過熱液膜状態が形成されやすく、水素の生成効率を高める上で有利である。
予熱に必要な熱の付与は、後述するような電気ヒーターを用いて行ってもよいが、予熱に必要な熱には、例えば、バーナーやボイラー等の燃焼機器で得られる燃焼熱を利用することもできる。燃焼熱のうち、目的の温度域の熱以外の例えば中温域(250℃~350℃程度)の熱を利用することが好ましい。
【0034】
基体13は、一端が開放され、かつ、他端が閉塞された円筒形状の筒構造16と、筒構造の開放された他端を閉塞し、かつ、外装材11に収容された場合に外装材11の他端を閉塞するための蓋材17と、を有しており、筒構造16の外周面には、筒構造16の周囲を覆うようにして触媒(不図示)が配置されるようになっている。
【0035】
ここで、外装材11に基体13が収容された状態の水素生成装置10の断面構造を図4に示す。図4は、図2の水素生成装置のA-A線断面図である。
外装材11に基体13が挿入されて収容された状態において、外装材11の内壁面と、基体13の筒構造の表面と、の間には、触媒による改質反応が行われる反応室18が形成されている。反応室18には、基体13の筒構造16の周囲方向に沿って筒構造の外周面を覆うようにして設けられた触媒15が配置されている。
【0036】
基体13の筒構造16は、図5に示すように、円筒形状の周囲の全面に亘ってシート状の触媒15が巻回されて3重の積層構造が形成されている。即ち、基体13には、筒構造16の曲面にシート状の触媒15を巻回し、3回巻き重ねることによって3層からなる触媒層が配置されている。
本実施形態では、触媒を3回巻き重ねた3層からなる触媒層を備えた場合を説明したが、触媒の積層構造は、特に制限されるものではなく、水素生成装置のスケール、供給されるメタノール水溶液の量もしくは流量又は温度、改質生成する水素ガスの量、触媒の担持量もしくは触媒金属の種類などの種々の要求等に応じて適宜選択することができる。
したがって、巻き重ねられる触媒の巻き数は、3以上が好ましく、必要に応じて、5以上でもよいし、10以上でもよい。巻き数の上限値に制限はないが、例えば20以下としてもよい。
【0037】
触媒15は、カーボンシートであるカーボンクロスと、カーボンクロスに担持された触媒金属である白金粒子と、を有している。
【0038】
触媒金属としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)、又は銅(Cu)が好適に挙げられ、触媒金属はこれら金属を含む複合体であってもよい。複合体としては、例えば、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル及び銅からなる金属群より選ばれる少なくとも一つと、前記金属群の金属と異なる他の金属と、からなる複合体が挙げられる。他の金属としては、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)等が含まれ、好ましくは、亜鉛もしくはマンガン、又は亜鉛及びマンガンを含む。
複合体である触媒金属としては、例えば、Ni-Ru(1:1)、Ni-Cu(1:1)、Cu-Ru(2:1)、Cu-Mn(12:1)等を挙げることができる。カッコ内の数値は、元素のモル比を示す。
複合体としては、過熱液膜方式によるメタノール水溶液改質をより効率良く行える点で、固溶体が好ましく、少なくとも、白金、ルテニウム及びニッケルの少なくとも一つを含む固溶体であることが好ましい。
【0039】
カーボンシートは、触媒金属を担持する担体として用いられる。シート状の担体を用いることで、本実施形態のように、筒構造の外周面を覆い、かつ、重ねて巻回することが可能になる。触媒金属が担持されたカーボンシートを重ねて巻回すると、触媒金属の担持量を増やしつつ、過熱液膜状態がメタノール水溶液中に生成され、触媒粒子の近傍に存在する気液混相中の気相成分を効率良く逃がすのに適している。したがって、固液接触が確保されて熱伝達率を大きくできるので、効率の良い水素生成が可能であり、さらにメタノール水溶液の供給流量を大きくすることで固液接触による反応機会をより増加させると、巻回構造を有しないカーボン担持触媒に比べ、より効率の良い水素生成が可能になる。
但し、メタノール水溶液の供給流量が大きくなり過ぎると、触媒と接触せずに巻回構造の触媒間の隙間を通り抜けて反応に寄与しない液相成分が生じやすくなり(チャンネリング)、結果として転化率が逓減し、水素生成速度を低下させることになる。温度を高めることで熱流束を増大させて水素生成速度を向上させることができる。温度を高めた場合、熱伝達に有利な核沸騰が熱伝達に不利な膜沸騰に転化しないように、膜沸騰に至らない温度域に低く抑えることが望ましい。膜沸騰に至らない温度域に抑えることにより、効率良く水素ガスを生成することが可能になる。
つまり、触媒量と、過熱液膜状態を保持しうるメタノール水溶液(改質用原料)の量と、の関係が固液接触状態を確保する範囲にあることが重要である。これにより、一端側から供給された改質用原料を他端側へ流通させながら、改質用原料の改質反応を効率良く進行させることができる。
【0040】
触媒がメタノール水溶液で適度に湿潤した状態(過熱液膜状態)を維持するには、以下の点を考慮することが重要である。
(1)メタノール水溶液改質は、蒸発に並行して液相が気相生成物に変化する反応であるので、供給されるメタノール水溶液の供給量は、メタノール水溶液が蒸発しきらずに過熱液が存在し、触媒量に比べて少な過ぎない範囲、即ち、固液接触が固気接触とならない範囲に調整されることが好ましい。
(2)また、触媒活性サイトが発泡点となって気泡を成長、離脱させることで反応速度が高められるので、供給されるメタノール水溶液の供給量は、触媒量に比べて多過ぎない範囲に調整されることが好ましい。これにより、担体がカーボンシートである場合は適度の湿潤状態を維持でき、担体が顆粒状カーボンである場合は懸濁状態となって固液界面での温度差が失われることが抑えられる。
(3)したがって、触媒がメタノール水溶液で適度に湿潤された状態を保持しつつ、核沸騰条件下に置かれることで、外部の加熱源から過熱液膜に伝えられる熱は気泡の成長と離脱を強く促すことができる。
以上のことから、触媒金属の量〔V;g〕と、過熱液膜状態を維持し得るメタノール水溶液の量〔V;L(リットル)〕と、の関係としては、以下の式1で示す範囲が好ましく、更には以下の式2で示す範囲がより好ましい。
/V=10g/L~50g/L ・・・式1
/V=15g/L~20g/L ・・・式2
【0041】
カーボンシートとしては、カーボンクロス、カーボンフェルトを用いることができる。
カーボンクロスは、例えばアクリル繊維等の炭素繊維を焼成し炭化することにより得られる炭化繊維を紡織したクロスを指し、上市されている市販品(例えば、クラレケミカル社製のカーボンクロス)を使用することができる。
カーボンフェルトは、炭素繊維を織らずに、炭素繊維の短繊維を絡み合わせたシート状の不織布を指し、上市されている市販品(例えば、クラレケミカル社製のカーボンクロス)を使用することができる。
【0042】
触媒としては、触媒金属を含む金属粒子が担持され、かつ、担持されている金属粒子の平均一次粒子径が10nm以下であることが好ましい。即ち、金属粒子の形態で担持されることで、表面積が大きくなり、しかも担持された金属粒子の平均一次粒子径が10nm以下の小粒径であると、液相触媒反応における発泡点が多くなり、熱流束が増大して改質反応性がより向上する。
平均一次粒子径は、改質反応活性の観点から小サイズであるほど良く、5nm以下がより好ましい。平均一次粒子径の下限値は、例えば2nmとしてもよい。
平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡で観察し、任意の金属粒子を20個任意に選択して計測された一次粒子径の平均値として求められる値である。
【0043】
触媒における触媒金属の担持量は、金属の種類、又は温度等に依存するが、本開示における触媒では、カーボンシートに担持された触媒金属の担持量が15g/L~150g/Lであることが好ましい。
カーボンシートに担持された触媒金属の担持量が15g/L以上であると、液相触媒反応における発泡点が増え、熱伝達率の大きい核沸騰の状態を維持しやすく、水素ガス生成効率により優れる。また、カーボンシートに担持された 触媒金属の担持量が150g/L以下であると、触媒の金属粒子の粒子径を適切な範囲に調節し、かつ、長期安定性を得やすい点で有利である。
カーボンシートに担持された触媒金属の担持量は、触媒の種類に応じて選択すればよく、例えばPt系触媒の場合は、高活性なため必要量を確保する観点から、15g/m~100g/mとしてもよいし、例えばCu-Mn系触媒の場合は、安価なため、100g/m~150g/mとしてもよい。
【0044】
カーボンシートに触媒金属が担持された触媒の作製方法には、特に制限はなく、いずれの方法で作製されてもよい。触媒は、例えば、金属含有液中に担体を含浸させる含浸法により作製されてもよい。
含浸法による場合、例えば以下の方法で作製することができる。即ち、
まず、塩基等で前処理が施されたカーボン材(例えば、細孔を有する高表面積のカーボンシート)を用意する。カーボンシートを、撹拌している塩化白金カリウム(KPtCl)水溶液中に24時間浸漬した後、90℃の水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)水溶液を用いて加熱還元して白金金属を生成させ、蒸留水1000mlで洗浄する。洗浄後の白金金属を70℃で10時間真空乾燥させることにより、カーボンシートに白金粒子が担持された白金担持触媒を作製することができる。
【0045】
本開示における触媒は、メタノール水溶液を過熱液膜状態で水溶液改質する。水溶液改質は、液相中で触媒反応させて水素を生成する改質反応であり、水蒸気を用いて水素を生成する水蒸気改質反応とは区別される。
水溶液改質を行う場合、触媒量とメタノール水溶液との量的関係が、気体を生成する液相触媒反応においては重要である。
メタノール水溶液の量が触媒量に対して多過ぎる反応系では、図8(c)のように、顆粒状カーボンに担持した触媒粒子は懸濁状態となって存在することになる。懸濁液の温度は、液相の沸点に等しくなるため、この反応系の脱水素活性は小さい。これに対し、触媒量を増やして、図8(b)のように触媒がメタノール水溶液で適度に湿潤された状態(湿潤状態)が形成される反応系では、触媒温度がメタノール水溶液の沸点よりも高い状態(過熱状態)となる。そして、触媒がメタノール水溶液で湿潤状態にある場合に脱水素活性は最も大きくなる。このような状態を「過熱液膜状態」という。
一方、図8(a)のように、メタノール水溶液の量が触媒量に対して少な過ぎる反応系では、メタノール水溶液が次第に減量して枯渇状態になると、固気接触になるため、脱水素活性は小さくなる。他方、一般に伝熱面の温度を高くし過ぎると、発生した気泡が合一して蒸気膜を形成して伝熱面を覆うため、膜沸騰が起きるが、膜沸騰では、固気接触であるため、伝熱面からの良好な熱伝達性は期待できない。
気体を生成する液相触媒反応においては、熱伝達率の大きい核沸騰によることが好ましい。核沸騰の領域では、固液界面の伝熱境膜に過熱液が生じ、気相生成と蒸発を介して気泡へ物質と熱を液相から供給する。この際、触媒粒子が存在すると、触媒粒子は発泡点の役割を果す。発泡点となる触媒粒子の表面積を増やすためには、触媒粒子は小粒子であることが好ましく、ナノオーダーサイズの粒子が好ましい。これにより、発泡点が増え、孤立気泡の発生を促進することができる。
また、相変化に吸熱反応が加わるので、熱伝達率は向上し、気泡の成長と脱離が有利になる。気泡の離脱によって空いた触媒活性サイトには、過熱液のメタノール分子が直ちに吸着し反応し始める。
高い気泡離脱頻度が大きな熱流束と空サイト表面密度をもたらし、反応速度を向上させることができる。
【0046】
ここで、シート状の触媒15を3回巻き重ねた3層構造の触媒層について説明する。
液相(メタノール水溶液)中では、シート状の触媒15は、カーボンシートの表面にナノスケールの触媒金属粒子が担持され、カーボンシートのミクロ細孔にはメタノール水溶液(メタノール:水=1:1[モル比])が貯留されて湿潤状態とされる。
沸点近くにまで予熱されたメタノール水溶液は、カーボンシートの細孔に毛管凝縮し、シートの一端から他端に向けて細孔凝縮と表面移動とを繰返し、吸熱的な改質反応と蒸発とが進行する。その際、反応室18は、基体13側と外装材11側との両側から、メタノール水溶液の沸点を上回る温度で加熱されている。
シートの一端では液相のみであったメタノール水溶液は、反応室内を移動する間に気液混相の状態に変化するので、固液接触していた触媒とメタノール水溶液とが固気接触に変化した分、過熱液膜状態に固有の反応速度を維持できなくなる。
このような状況を踏まえ、本開示の一実施形態では、触媒を、触媒金属を担持したカーボンシートを複数回巻き回した積層構造として配置することで、気液混相の気相成分を、シート間の隙間を通じて反応系外に逃がし易くする。これにより、液相中での安定的な核沸騰が進行しやすくなり、触媒での改質反応を良好に進行させるのに有利である。
【0047】
また、シート状の触媒15を複数枚重ねた場合、メタノール水溶液等の基質の供給速度を変えると、水素の生成速度はシート状の触媒の積層数におよそ比例する。即ち、シート状の触媒を重ねることで、過熱液膜状態は維持されつつ、触媒の金属粒子の反応器内における容積密度が高められる。この点で、シート状の触媒を重ねて用いることは有意義である。
例えば図6に示すように、φ4cmのカーボンクロスに白金粒子を12mg担持させた触媒をそのまま又は複数枚重ねて用いることで、単層構造、2層構造又は3層構造の円形触媒を用意し、それぞれ加熱面に接触配置した。そして、加熱面から最も遠い側から円形触媒の円心部に150℃に加熱した2-プロパノール(沸点:82.4℃)を滴下した。結果、図7のように、水素の生成速度は層数におよそ比例するとの知見を得た。
滴下された2-プロパノールは、多層の円形触媒の面内を表面拡散して移動するのに対し、熱は円形触媒の面と直交する方向に外部から伝えられているといえ、過熱液膜状態での改質反応の保持に有効である。
【0048】
また、筒構造16の内部には、図4に示すように、筒構造16の表面に配置された触媒を加熱するための加熱室19が設けられている。加熱室19での加熱温度を制御することにより、筒構造の曲面を形成している壁材を介して、触媒を所望の温度域に加熱制御することができる。
加熱室19は、燃料を燃焼させた際の燃焼熱で筒構造を加熱する燃焼室に構成されてもよい。この場合、加熱室に燃料を供給する燃料供給系と燃焼排ガスを排出する排出系とが取り付けられた構成とされてもよい。また、加熱室19は、電気ヒーターが配置された加熱室とされてもよい。電気ヒーターには、発熱ヒーター、輻射熱ヒーター等のいずれを用いてもよい。
【0049】
更に、筒構造16を収容する外装材11の外側に、外装材を介して触媒を加熱するための加熱器であるテープヒーターが配設されている。これにより、図4に示すように、反応室18中の触媒15は、基体13側と外装材11側との両側から加熱される。
加熱器としては、テープヒーター以外に、燃焼排熱を利用して加熱する燃焼排熱伝熱装置を用いてもよい。
【0050】
触媒の加熱に必要な熱の付与は、例えばバーナー等の燃焼機器70で得られる燃焼熱の一部を利用することが好ましい。本開示では、燃焼機器で得られる燃焼熱のうち、本来目的とする温度域の熱は所期の目的に利用し、目的の温度域の熱以外の例えば中温域(250℃~350℃程度)の熱を水素生成装置の加熱に利用する態様とすることができる。具体的には、燃焼排熱で加熱するいわゆる燃焼排熱伝熱装置を用い、システム始動時に水素生成装置で要求される熱量を、バーナー等の燃焼機器70で得られる燃焼排熱で賄う構成が好ましい。この場合、燃焼熱は、反応室の加熱に利用してもよいし、反応室に供給されるメタノール水溶液の予熱に利用してもよい。
【0051】
基体13及び外装材11は、触媒を昇温させるための加熱が行えるように、熱伝達性の材質で形成されていることが好ましい。熱伝達性の材質としては、金属が好ましい。金属としては、特に制限はなく、耐熱性又は腐食等の観点から、例えば、ステンレス合金(いわゆるSUS材)が好ましい。
【0052】
触媒の加熱温度としては、150℃~350℃が好ましく、250℃~350℃がより好ましい。
【0053】
凝縮分離装置である凝縮分離器20は、ガス排出管12により水素生成装置10と接続されている。
水素生成装置10で水素が生成されると、水素は他のガス成分と混合された混合ガスとしてガス排出管12に排出され、ガス排出管12に取り付けられた混合ガスポンプP1を作動させることにより、混合ガスはガス排出管12を介して凝縮分離器20に送られる。混合ガスには、水素ガス、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、及び未反応メタノールが含まれる。
【0054】
凝縮分離装置は、水素生成装置で生成された水素ガスを含む混合ガスを凝縮させ、沸点の違いを利用して水素ガス等のガス成分(水素含有ガス)と凝縮性成分(凝縮物)とを分離、精製する。
この際、ガス成分には、水素、二酸化炭素及び一酸化炭素が含まれる。したがって、凝縮によって、混合ガスから水素、二酸化炭素及び一酸化炭素のガス成分を分離することができる。
凝縮分離装置としては、未反応のメタノール及び水から、水素及び二酸化炭素の混合ガス、又は水素、二酸化炭素及び一酸化炭素の混合ガスを凝縮によって分離することができる機器を任意に選択して使用することができる。凝縮分離装置として、例えば蒸留装置を用いてもよい。
【0055】
凝縮分離器20には、凝集物を水素生成装置10での水溶液改質反応に供するための再供給手段である戻し配管24の一端が接続されている。凝縮分離器20において、水素ガス等のガス成分と分離された凝集物は、戻し配管24を通じて凝縮分離器20から排出される。
【0056】
戻し配管24は、他端が水素生成装置と接続された原料供給管14のメタノール水溶液流通方向上流側に接続されている。これにより、水素生成装置10と凝縮分離器20とは戻し配管によって互いに連通されている。戻し配管24を流通する凝縮物は、原料供給管14に戻され、原料供給ポンプP2を動作させることで水素生成装置の反応室に供給される。反応室に供給された凝縮物は、水溶液改質反応に再利用される。そして、水溶液改質反応に供されたメタノール水溶液と同量のメタノール及び水は、原料供給装置50から新たにメタノール水溶液として水素生成装置に供給される。
このように、水素ガスが分離された後の凝縮物中に残存する未反応のメタノール及び水が循環経路を通じて水溶液改質反応に再利用されることで、供給されたメタノールの完全転化が可能になる。
【0057】
戻し配管24には、図示していないが、必要に応じて液相の凝縮物を、配管内を良好に流通させるための駆動ポンプが設置されていてもよい。
【0058】
凝縮分離器20には、水素流通管22により水素貯留タンク30が接続されている。
凝縮分離器20において、水素生成装置10で生成された混合ガスからガス成分(水素含有ガス)が分離された後、分離された水素含有ガスは一旦水素貯留タンク30に貯留される。水素含有ガスには、水素のほか二酸化炭素等が含まれていてもよい。
水素生成装置で生成された水素含有ガスは、直接燃料電池に供給することもできるが、一旦水素貯留タンク30に貯留され、燃料電池システムの運転状況に応じて必要量が燃料電池に供給されることが好ましい。
【0059】
固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)60は、水素供給管26により水素貯留タンク30と接続されている。PEFC60は、電極間に電解質としてイオン伝導性を有する高分子膜(イオン交換膜)を用いた燃料電池であり、従来公知とされている一般的なPEFCを用いることができる。また、固体高分子形燃料電池(PEFC)以外の燃料電池を用いてもよい。
【0060】
水素供給管26は、バルブV1を備えており、バルブV1の開度が制御装置40からの信号を受けて制御されることで、水素貯留タンク30からPEFC60の要求量に応じた水素(水素含有ガス)が供給されるようになっている。
【0061】
また、水素供給管26には、水素透過膜28が取り付けられている。水素透過膜28は、水素含有ガス中の水素を選択的に通過させることができる膜であり、例えば、パラジウム(Pd)を含む合金薄膜等を用いることができる。これにより、水素供給管26を流通するガス中の水素濃度が高められ、水素濃度の高い水素ガス(好ましくは純水素ガス)をPEFC60に供給することができる。
【0062】
水素貯留タンク30には、バルブV2を備えた可燃ガス配管32が接続されている。
上記のように、水素透過膜28により水素含有ガスから水素が選択的に分離されると、水素貯留タンク30内における水素以外のガス成分(特に一酸化炭素、水素等の可燃性ガス)の濃度は高くなる。そのため、バルブV2を動作させることで、可燃ガス配管32を通じて水素以外のガス成分(可燃性ガス)を外部に排出できるようになっている。バルブV2の開度は、例えば水素貯留タンク30にタンク中の例えば水素濃度を検出する水素検知センサを設けておき、水素検知センサの検出値に基づく制御装置40からの信号を受けて制御されてもよい。
可燃ガス配管32には、燃焼機器の一例であるバーナー70が接続されており、可燃性ガスは、可燃ガス配管32を通じてバーナーに供給されて燃焼に供されるようになっている。バーナーで得られる燃焼熱は、水素生成装置における触媒の加熱や、水素生成装置に供給されるメタノール水溶液の予熱に利用することができる。これにより、エネルギーの有効利用も図られる。
以上のように、バルブV2の開度が制御装置40からの信号を受けて制御されることで、水素貯留タンク30内の水素以外のガス成分の濃度が所期の範囲に保たれ、また水素以外のガス成分をも有効に利用することができる。
なお、ここでは、燃焼機器としてバーナーを用いた例を説明したが、バーナー以外の燃焼機器が接続されても同様の効果が期待できる。
【0063】
上記のように、凝縮分離器20で分離された水素含有ガスは、一旦水素貯留タンク30に貯留された後、水素透過膜28を通して精製され、PEFCの要求量に応じた水素ガスがPEFC60に供給される。
【0064】
制御装置40は、水素生成システムを備えた燃料電池システムの動作を制御する。
制御装置40には、図1に示すように、混合ガスポンプP1、原料供給ポンプP2、及び凝縮分離装置等と電気的に接続されており、水素生成システム及びこれを備えた燃料電池システムの動作を制御している。
【0065】
次に、本開示の一実施形態に係る燃料電池システムでの水素生成及び電力の外部供給について略説する。
まず、原料供給ポンプP2を作動させると、原料供給装置50の供給口から原料供給管14を通じて液体の改質用原料(メタノール水溶液)が水素生成装置10に供給される。具体的に説明すると、供給口14aから水素生成装置10に供給された改質用原料は、図4に示すように、外装材11の内壁と、外装材に収容された基体13の筒構造の外周面と、の間に形成されている反応室18に導入される。反応室18には、基体13の筒構造の周囲全体を覆うように触媒15が配置されている。
【0066】
供給口14aから反応室18に供給された液体のメタノール水溶液は、基体13の筒構造の長手方向に筒構造の表面に沿って流通し、排出口12aが設けられている側へ反応室内を移動する。メタノール水溶液は、反応室内を移動しながら予熱され、沸点を超える温度に過熱された状態で触媒の金属粒子と接触することにより水溶液改質される。
この際、触媒15の触媒金属は、カーボンシートに担持されており、そこでメタノール水溶液によって適度に湿潤された状態(湿潤状態)が形成される。この際、触媒金属は伝熱境膜の中にあって、温度はメタノール水溶液の沸点よりも高い状態(過熱状態)となり、脱水素活性は最も大きくなる。即ち、この際、「過熱液膜状態」にある。
【0067】
また、上記したように、熱伝達性に優れた高表面積活性炭にナノスケールの触媒金属粒子が担持され、触媒金属粒子が液相中の発泡点となるので、核沸騰が進行する。核沸騰の領域では、固液界面の伝熱境膜に過熱液が生じ、加熱温度と沸点との温度差が適切であれば液相から気泡へ物質と熱を供給する。相変化に吸熱反応が加わるので、熱伝達率は向上し、気泡の成長と脱離が有利になる。気泡の脱離によって空いた触媒活性サイトには、過熱液のメタノール分子が直ちに吸着し反応し始めるので、反応速度が向上する。
【0068】
触媒15では、下記反応式に示すように、メタノールの水溶液改質反応(式3)が進行し、水素が生成される。また、触媒によっては、式3の水溶液改質反応とメタノール分解反応(式4)とが進行し、水素が生成される。
CHOH + HO → 3H + CO ・・・式3
CHOH → 2H + CO ・・・式4
【0069】
生成された気体の水素は、副生される二酸化炭素又は二酸化炭素及び一酸化炭素と未反応のメタノール等とともに反応室内を移動し、混合ガスとして排出口12aから排出され、ガス排出管12に取り付けられた混合ガスポンプP1を作動させることで、混合ガスは凝縮分離器20へ送られる。
凝縮分離器20では、供給された混合ガスに含まれる、凝縮性成分であるメタノール及び水と、非凝縮性成分である水素、二酸化炭素、及び場合により副生する一酸化炭素を含む水素含有ガスと、を分離し、分離された水素含有ガスは水素貯留タンク30に貯留される。その後、水素含有ガスを水素透過膜に通すことによって精製水素を生成する。精製水素の利用目的がPEFCでの発電用燃料である場合、一酸化炭素は、PEFCの燃料として利用され得ないため、例えば水素生成システムでの改質に必要とされる熱を得るための燃焼機器の燃料として利用すべく、水素貯留タンク30に一時的に貯留される。
凝縮分離器20で分離された水素含有ガスは、凝縮分離器20の一端に接続された水素流通管22を通じて一旦水素貯留タンク30に送られる。その後、水素供給管26に取り付けられた水素透過膜28によって一酸化炭素等を含まない精製水素とされ、PEFC60に送られる。精製された水素ガスが供給されることで、PEFC60は発電を行うことができる。
一方、凝縮分離器20で水素ガスが分離された後の凝縮性成分(凝縮物)は、凝縮分離器20の他端に接続された排出管を通じて排出除去され、メタノール水溶液として再利用することができる。
【0070】
次に、本開示の燃料電池システムの変形例を図9を参照して説明する。
なお、図9において、図1図8に示す既述の水素生成システムと同一の構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0071】
図9に示す燃料電池システム200は、2つの水素生成システムを備えることにより、2基の水素生成装置を備える。燃料電池システム200は、2基の水素生成装置が直列に接続されて配設されていることで、上流側の水素生成装置において水溶液改質に使用されずに残存する未反応のメタノールを下流側の水素生成装置に供給し、これによりメタノール水溶液の転化効率を高め、水素生成量を向上させる態様である。本態様では、水素生成装置に供給されたメタノール水溶液のうち、未反応のメタノールが別の水素生成装置に供される点で、未反応のメタノールが同一の水素生成装置に戻されて水溶液改質に供される図1に示す既述の水素生成システムと異なる。
【0072】
図9に示すように、本態様の水素生成システムでは、2基の水素生成装置10、10Aを備えており、上流側の水素生成装置10で生成した水素ガスを含む水素含有ガスと凝縮物とが凝縮分離器20で分離された後、分離後の凝縮物中の未反応のメタノール水溶液は、再供給手段である再供給配管34を通じて下流側の水素生成装置10Aに供給される。
【0073】
再供給配管34は、凝縮分離器20と水素生成装置10Aとを連通している。再供給配管34には、原料供給ポンプP2Aが取り付けられており、原料供給ポンプP2Aを動作させることで凝縮分離器20から排出された凝縮物を水素生成装置に供給し、水溶液改質反応に供する。この場合、凝縮分離器20から排出された凝縮物からメタノール及び水を分離し、メタノール及び水を選択的に再供給配管34に流通させるようにしてもよい。この場合、例えば凝縮分離器20から排出された凝縮物の組成を分析する等して、メタノール及び水が改質反応に適した組成(例えばメタノール:水=1:1(モル比))となるように混合比を調整した上で、メタノール及び水を再供給配管34に流通させてもよい。混合比の調整は、例えばメタノール等の不足成分を外部より補って行うようにしてもよい。
再供給配管34を通じて再供給されたメタノールは、水素生成装置10Aで水溶液改質されて水素が生成され、水素は水素含有ガスとして凝縮分離器20Aに送られる。凝縮分離器20Aでは、凝縮分離器20と同様に、水素含有ガスと凝縮物とに分離される。水素含有ガスは、水素流通管22Aを通じて一旦水素貯留タンク30に貯留される。水素含有ガスには、水素のほか二酸化炭素等が含まれていてもよい。
水素生成装置で生成された水素含有ガスは、直接燃料電池に供給することもできるが、一旦水素貯留タンク30に貯留され、燃料電池システムの運転状況に応じて必要量が燃料電池に供給されることが好ましい。
水素貯留タンク30には、バルブV1を備えた水素供給管26が接続されており、水素供給管26を介してPEFC60と連通され、水素貯留タンク30からPEFC60の要求量に応じた水素(水素含有ガス)が供給されるようになっている。水素が供給されたPEFC60は、発電を行うことができる。凝縮分離器20Aで分離された凝縮物は、メタノールの残存量が少ない状況であるので、凝縮分離器20Aから外部に排出されるようになっている。
【0074】
本態様の水素生成システムでは、下流側の水素生成装置10Aにおいて凝縮物中に残存する未反応のメタノールを(好ましくは、未反応のメタノール及び水の組成を調整した上で)水溶液改質するので、システム全体におけるメタノール水溶液の転化効率を高めることができる。これにより、水素生成量をより向上させることが可能である。
【0075】
本態様の水素生成システムでは、水素生成装置及び凝縮分離装置をそれぞれ2基ずつ配設した構成を中心に説明したが、水素生成装置は2基に限らず、未反応のメタノールの残存割合に応じて3基以上を直列に及び/又は並列に配設した構成にしてもよい。
他の変形例として、2基の水素生成装置を並列に配設し、この2基の水素生成装置から排出されて凝縮分離装置で凝縮分離された凝縮物を、2基の水素生成装置の双方に対して直列に配設された下流の1基の水素生成装置に供給し、未反応のメタノールを水溶液改質してもよい。これによっても、メタノール水溶液の転化効率を高め、水素生成量を向上させることが可能である。
また、凝縮分離装置も2基に限らず、図示しないが、例えば、2基の水素生成装置に対して1基の凝縮分離装置を配設し、水素含有ガスを一ヶ所に集約して一括して凝縮分離する構成にしてもよいし、水素生成装置の配設数に対応させて3基以上を配設した構成にしてもよい。
【0076】
上記の実施形態では、一端が閉塞した基体が外装材に収容された水素生成装置を一例に説明したが、基体は、基体の長手方向の両端部がともに開放されて例えば熱風が流通する筒形に構成されたものでもよい。
また、上記では、触媒金属として白金を用いた場合を説明したが、白金以外の触媒金属を用いた場合にも同等以上の効果が奏される。
さらに、上記の実施形態では、触媒金属が担持されたカーボンシートを3回巻き重ねることによって3層からなる触媒層が配置された構造を一例に説明したが、水素生成装置の反応室のスケール等、即ち水素ガスの生成量等に応じて、4回以上巻き重ねることによって多層の触媒層が配置された構造としても、同様の効果が奏される。
【符号の説明】
【0077】
10,10A・・・水素生成装置
11・・・外装材
12,12A・・・ガス排出管
12a・・・排出口
13・・・基体
14,14A・・・原料供給管
14a・・・供給口
15・・・触媒
16・・・筒構造
17・・・蓋材
18・・・反応室
19・・・加熱室
20,20A・・・凝縮分離装置
22,22A・・・水素流通管
24・・・戻し配管(再供給手段)
26・・・水素供給管
28・・・水素透過膜
30・・・水素貯留タンク
32・・・可燃ガス配管
34・・・再供給配管(再供給手段)
40・・・制御装置
50・・・原料供給装置
60・・・固体高分子形燃料電池(PEFC)
70・・・バーナー(燃焼機器)
100,200・・・燃料電池システム
P1,P1A・・・混合ガスポンプ
P2,P2A・・・原料供給ポンプ
V1,V2・・・バルブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9