(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】細胞塊を集合させる方法及び細胞塊を集合させる装置
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20220104BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C12N5/077
C12M3/00 A
(21)【出願番号】P 2019557352
(86)(22)【出願日】2018-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2018044196
(87)【国際公開番号】W WO2019107546
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2017230609
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【氏名又は名称】沖田 壮男
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】谷口 英樹
(72)【発明者】
【氏名】田所 友美
(72)【発明者】
【氏名】坂下 哲也
(72)【発明者】
【氏名】松本 聡
(72)【発明者】
【氏名】足立 聡
(72)【発明者】
【氏名】東端 晃
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-304791(JP,A)
【文献】特開2003-070458(JP,A)
【文献】米国特許第04208483(US,A)
【文献】国際公開第2014/148592(WO,A1)
【文献】特開2009-077708(JP,A)
【文献】特開2008-237203(JP,A)
【文献】特開2002-045173(JP,A)
【文献】国際公開第2010/143651(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/077423(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12M 1/00- 3/10
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体培地を含み生体適合性を有する比重調整液と、前記比重調整液よりも比重が小さい細胞塊と、が収容された回転体を回転させて前記細胞塊を集合させる細胞塊集合工程を行う細胞塊を集合させる方法。
【請求項2】
前記細胞塊集合工程では、前記回転体を前記回転体の中心軸周りに回転させて、前記中心軸の周辺に前記細胞塊を集合させる請求項1に記載の細胞塊を集合させる方法。
【請求項3】
前記回転体の前記中心軸上に母材を配置した状態で、前記細胞塊集合工程を行う請求項2に記載の細胞塊を集合させる方法。
【請求項4】
前記母材内に液体培地を供給させながら、前記細胞塊集合工程を行う請求項3に記載の細胞塊を集合させる方法。
【請求項5】
前記回転体を回転させて、前記回転体内の空気を前記母材上に集約して前記母材を通して前記回転体内から前記空気を除去する脱気工程を行う請求項3又は4に記載の細胞塊を集合させる方法。
【請求項6】
前記脱気工程は、前記細胞塊集合工程よりも前に行う請求項5に記載の細胞塊を集合させる方法。
【請求項7】
前記母材は人工血管又は再生血管である請求項3から6のいずれか1項に記載の細胞塊を集合させる方法。
【請求項8】
液体培地を含み生体適合性を有する比重調整液と、前記比重調整液よりも比重が小さい細胞塊と、が収容される回転体
と、
前記回転体の中心軸上に互いの間に隙間を形成して配置され、母材の各端部を取付けるための第1取付け部及び第2取付け部と、
を備える細胞塊を集合させる装置。
【請求項9】
前記母材内に液体培地を供給させる供給部を備
え、
前記供給部は、
本体と、
前記本体により第2液体媒体が供給される供給配管と、
前記第2液体媒体を前記本体内に戻す排出配管と、
を有し、
前記供給配管及び前記排出配管は、前記取付け部に連通する請求項8に記載の細胞塊を集合させる装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞塊を集合させる方法及び細胞塊を集合させる装置に関する。
本願は、2017年11月30日に、日本に出願された特願2017-230609号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体培地(比重調整液)内で細胞塊(スフェロイド、オルガノイド)に対して様々な処理を行うことが検討されている。
例えば、特許文献1に記載された細胞の培養装置(以下、培養装置とも略して言う)は、ガス交換機能を備えた1軸式の回転式バイオリアクターである。培養装置では、横向きの円筒形バイオリアクター内に液体培地が満たされている。液体培地に細胞(細胞塊)を播種した後で、バイオリアクターの水平軸方向に沿ってバイオリアクターを回転させながら培養を行う。バイオリアクターの回転によってバイオリアクター内の細胞(塊)に掛かる重力の方向が周期的に変化することで、細胞がバイオリアクターに対して相対的に微小な範囲に保持される。つまり、細胞の沈降が抑制される。細胞は液体培地内で均一に懸濁され、必要時間培養増殖され、融合して組織塊を形成する。
【0003】
また、特許文献2に記載された培養装置は、液体培地循環システムを搭載したクリノスタットを用いている。クリノスタットは、本体に設けられた支柱と、外側フレームと、内側フレームと、を備えている。外側フレームは、支柱に対して回転可能に支持されている。内側フレームは、外側フレームに対して回転可能に支持されている。内側フレームと同体に、培養容器が回転する。培養容器の内部には、液体培地と、培養される細胞塊とが封入される。各フレームが支持される軸周りに回転すると、培養容器に働く重力方向が分散され、細胞塊があらゆる方向に向けて増殖・伸展することができる。従って、細胞塊の3次元的な培養が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2005/056072号公報
【文献】特開2006-304791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に記載された培養装置は、培養容器内に微小重力環境を実現し、その環境内で細胞塊を培養する。しかしながら、これらの培養装置では、比重調整液内に分散した細胞塊を所定の位置に集合させることができないという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、比重調整液内の所定の位置に細胞塊を集合させることができる細胞塊を集合させる方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の細胞塊を集合させる方法は、液体培地を含み生体適合性を有する比重調整液と、前記比重調整液よりも比重が小さい細胞塊と、が収容された回転体を回転させて前記細胞塊を集合させる細胞塊集合工程を行うことを特徴としている。
また、本発明の細胞塊を集合させる装置は、液体培地を含み生体適合性を有する比重調整液と、前記比重調整液よりも比重が小さい細胞塊と、が収容される回転体と、前記回転体の中心軸上に互いの間に隙間を形成して配置され、母材の各端部を取付けるための第1取付け部及び第2取付け部と、を備えることを特徴としている。
【0008】
これらの発明によれば、回転体を回転させると、比重調整液の比重と細胞塊の比重との差で生じる向心力により、比重調整液に対して細胞塊が比重調整液内の所定の位置に向かって移動する。比重調整液は生体適合性を有するため、所定の位置に集まった細胞塊は比重調整液内で生存を続ける。従って、比重調整液内の所定の位置に細胞塊を集合させることができる。
【0009】
また、上記の細胞塊を集合させる方法において、前記細胞塊集合工程では、前記回転体を前記回転体の中心軸周りに回転させて、前記中心軸の周辺に前記細胞塊を集合させてもよい。
この発明によれば、中心軸の周辺に細胞塊を集合させることができる。
【0010】
また、上記の細胞塊を集合させる方法において、前記回転体の前記中心軸上に母材を配置した状態で、前記細胞塊集合工程を行ってもよい。
この発明によれば、細胞塊を母材周囲に集合させることができる。
【0011】
また、上記の細胞塊を集合させる方法において、前記母材内に液体培地を供給させながら、前記細胞塊集合工程を行ってもよい。
また、上記の細胞塊を集合させる装置において、前記母材内に液体培地を供給させる供給部を備え、前記供給部は、本体と、前記本体により第2液体媒体が供給される供給配管と、前記第2液体媒体を前記本体内に戻す排出配管と、を有し、前記供給配管及び前記排出配管は、前記取付け部に連通してもよい。
これらの発明によれば、母材を通して液体培地中の栄養や酸素等を供給し、細胞塊が壊死するのを抑制することができる。
【0012】
また、上記の細胞塊を集合させる方法において、前記回転体を回転させて、前記回転体内の空気を前記母材上に集約して前記母材を通して前記回転体内から前記空気を除去する脱気工程を行ってもよい。
この発明によれば、回転体内に空気が入っていても、その空気により比重調整液内の流れが乱れることを抑制して、細胞を確実に集合させることができる。
【0013】
また、上記の細胞塊を集合させる方法において、前記脱気工程は、前記細胞塊集合工程よりも前に行ってもよい。
この発明によれば、回転体内に空気が無い状態から、細胞塊をさらに確実に集合させることができる。
また、上記の細胞塊を集合させる方法において、前記母材は人工血管又は再生血管であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の細胞塊を集合させる方法及び細胞塊を集合させる装置によれば、比重調整液内の所定の位置に細胞塊を集合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態の細胞塊を集合させる装置の一部を破断した斜視図である。
【
図2】人工多能性幹細胞由来細胞、血管内皮細胞、及び間葉系細胞を混合させて細胞塊を生成する工程を説明する斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態の細胞塊を集合させる方法を示すフローチャートである。
【
図4】同細胞塊を集合させる方法における細胞塊集合工程で人工血管に複数の細胞塊が集合した状態を説明する斜視図である。
【
図5】同細胞塊を集合させる方法のシミュレーション結果を示す、回転体が回転する前の状態を示す斜視図である。
【
図6】同細胞塊を集合させる方法のシミュレーション結果を示す、回転体が回転してから4分後の状態を示す斜視図である。
【
図7】同細胞塊を集合させる方法のシミュレーション結果を示す、回転体が回転してから8分後の状態を示す斜視図である。
【
図8】同細胞塊を集合させる方法のシミュレーション結果を示す、回転体が回転してから12分後の状態を示す斜視図である。
【
図9】回転体内に比重調整液を充填し、複数の細胞塊を注入した状態で回転体を回転させた状態を斜視して示す写真である。
【
図10】細胞塊が人工血管上に集合した状態を斜視して示す写真である。
【
図11】細胞塊が人工血管上に集合した状態を正面視して示す写真である。
【
図12】細胞塊が蛍光発現を保持している状態を側面視して示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る細胞塊を集合させる装置(以下、集合装置とも略して言う)の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態の集合装置1は、回転体11と、一対の取付け部21,22と、供給部26と、を備えている。
回転体11は、後述する比重調整液及び細胞(細胞塊)を収容する収容空間が形成されていれば、特に形状は限定されない。本実施形態では、回転体11は、第1側部12と、第2側部13と、外周板14と、を有している。側部12,13は、円板状に形成され、互いに対向するように配置されている。外周板14は、筒状に形成されている。外周板14の軸線方向の各端部は、第1側部12の外周縁部、及び第2側部13の外周縁部にそれぞれ連なっている。回転体11は、樹脂等により中空の円柱状に形成されている。
例えば、外周板14には、ゴム等により注入口15が形成されている。注入口15は、外周板14を貫通し、回転体11の内部空間に達している。回転体11には、開閉可能な蓋部が設けられていることが好ましい。蓋部を閉じたときに、回転体11における蓋部以外の部分に対して、蓋部が液密に接続される。
【0017】
回転体11の側部12,13及び外周板14を形成する材料は、金属や、アクリル樹脂等、特に制限されない。しかし、生体適合性・内部の視認性の観点からは、回転体11を、射出成形により樹脂で形成することが好ましい。
また、本明細書で言う細胞とは、スフェロイドを形成できるものであれば、特に限定はないが、例えば、動物由来細胞であり、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、ハムスター等の哺乳動物由来細胞のことを意味する。細胞は、培養細胞として株化されたものであっても、生物組織から得られた初代細胞であってもよい。胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(以下、iPS細胞と言う)、間葉系幹細胞、細胞として、神経幹細胞等を用いることができ、また、分化細胞としては、肝細胞、膵島細胞、腎細胞、神経細胞、角膜内皮細胞、軟骨細胞、心筋細胞等を用いることができる。さらに、臍帯血、骨髄、脂肪、血液由来組織性幹細胞から分化誘導される細胞を用いることもできる。あるいは腫瘍化した細胞、遺伝子工学的手法により形質転換された細胞やウイルスベクターにより感染された細胞を用いることもできる。
【0018】
回転体11は、図示しない支持台により中心軸C周りに回転可能に支持されている。
回転体11は、モータ等の駆動部により中心軸C周りに回転する。駆動部は、回転体11の外周板14の外面に接触してこの外面を回転させたり、回転体11と同軸に固定されたプーリ等に巻かれたベルトを回転させることにより、駆動力を伝達させる。
【0019】
取付け部21,22は、筒状に形成され、回転体11の中心軸C上にそれぞれ配置されている。第1取付け部21は、第1側部12のうち第2側部13に対向する面に固定されている。第2取付け部22は、第2側部13のうち第1側部12に対向する面に固定されている。第1取付け部21と第2取付け部22との間には、隙間が形成されている。
取付け部21,22は、回転体11と同一の材料で形成されている。
【0020】
取付け部21,22には、人工血管(母材)Dが取付けられる。ここで言う人工血管とは、合成繊維や生体材料等により形成された血管のことを意味する。人工血管Dは、ガス透過性を有する材料により管状に形成されている。人工血管Dは、人工血管Dの各端部を取付け部21,22に径方向外側から嵌め込むこと等により、取付け部21,22に取付けられる。
なお、母材は人工血管Dであるとしたが、母材はこれに限定されず再生血管等でもよい。ここで言う再生血管とは、再生医療により形成された血管のことを意味する。
【0021】
回転体11内には、原液Wが収容される。原液Wは、比重調整液W1と、細胞塊W2と、を含む。
図2に示すように、細胞塊W2は、iPS細胞由来細胞W4と、血管内皮細胞(HUVEC)W5と、間葉系細胞(MSC)W6と、を所定の比率で混ぜた混合物W2aを、ウェル内等に集合させて共培養したものである。
ここで言う血管内皮細胞とは、血管内皮を構成する細胞、又はそのような細胞に分化することのできる細胞のことを意味する。ここで言う間葉系細胞とは、主として中胚葉に由来する結合織に存在し、組織で機能する細胞の支持構造を形成する結合織細胞のことを意味するが、間葉系細胞への分化運命が決定しているが、まだ間葉系細胞へ分化していない細胞も含む概念である。
細胞塊W2の比重は、比重調整液W1の比重よりも小さい。例えば、細胞塊W2の比重は1.05である。
【0022】
比重調整液W1は、第1液体培地、及び生体適合性を有する比重調整剤を含む。比重調整液W1は、第1液体培地及び比重調整剤以外に、pH調整剤や懸濁剤等を含んでもよい。比重調整剤W1は、イオディキサノール(Iodixanol)やフィコール(Ficoll)等でもよい。
ここで言う第1液体培地、及び後述する第2液体培地は特に限定はなく、培養する細胞(塊)に合わせて適宜選択することができる。例えば、MEM、α-MEM、DMEM、RPM1、cRDF、ERDF、F12、MCDB131、F12/DMEM、及びWE等の公知の培地を挙げることができる。また、細胞がヒト幹細胞である場合、ヒト全能性幹細胞用培地として市販されている、mTeSR1(Stem Cell Tech.社製)、Essential 8(登録商標、Life Technologies社製)、Ripro FF/FF2/XF(リプロセル社製)、StemSure(登録商標、和光純薬社製)、CELRENA(細胞科学研究所製)、S-Medium(DSファーマ社製)、StemFit(味の素社製)等を用いることができる。
また、ここで言う生体適合性とは、生体に強い悪影響や強い刺激を与えないことから、生体成分、細胞(塊)等の生体組織、及び生体由来の物質のいずれか1つ以上と共存することが可能である属性を意味する。
【0023】
例えば、第1液体培地は、細胞塊W2を肝臓に分化させるものが用いられている。第1液体培地の比重は、約1.0である。
比重調整剤は、細胞分離用の密度勾配媒体であることが好ましい。密度勾配媒体として、OptiPrep(登録商標、コスモ・バイオ株式会社製)が用いられる。例えば比重調整液W1の比重は、1.06以上1.08以下である。ただし、細胞塊W2の比重が比重調整液W1の比重よりも小さければ、比重調整液W1の比重は、例えば1.03以上1.15以下、1.01以上1.20以下とすることができる。
比重調整液W1中の比重調整剤の濃度は、比重調整液W1が細胞塊W2に害を与えない程度の濃度であることが好ましい。
【0024】
図1に示すように、例えば、供給部26は、本体27と、供給配管28と、排出配管29と、を有している。供給配管28と第1取付け部21とは、互いに連通している。排出配管29と第2取付け部22とは、互いに連通している。
例えば、本体27は、図示はしないが、供給タンク、ポンプ、廃棄タンクを有している。供給タンク内には、第2液体培地(液体培地)が収容されている。第2液体培地は特に限定されないが、第1液体培地と同一であってもよい。
ポンプは、供給タンク内の第2液体培地を一定の流速で供給配管28に供給する。供給部26は、回転体11内に第2液体培地を供給する。排出配管29を通して本体27に戻された使用済みの第2液体培地は、廃棄タンク内に収容される。
なお、供給部26は、第2液体培地に代えて血液や人工血液等を供給してもよい。
【0025】
次に、本実施形態の細胞塊を集合させる方法(以下、集合方法とも略して言う)について説明する。
図3は、本発明の一実施形態における集合方法Sを示すフローチャートである。
まず、取付け工程(
図3に示すステップS1)において、回転体11の蓋部を開け、人工血管Dの各端部を取付け部21,22に嵌め込む。これにより、回転体11の中心軸C上に人工血管Dを配置する。人工血管Dの各端部と取付け部21,22との間は、液密に封止される。人工血管Dの配置後、回転体11の蓋部を閉じる。取付け工程S1が終了すると、ステップS3に移行する。
【0026】
次に、充填工程(ステップS3)において、注射器等により注入口15を通して回転体11内に比重調整液W1を充填する。このとき、回転体11内に気泡が残らないように比重調整液W1を充填することが好ましい。
次に、脱気工程(ステップS5)において、比重調整液W1が収容された回転体11を、駆動部により中心軸C周りに回転させる。空気の比重は比重調整液W1の比重よりも小さいため、空気に作用する向心力により、比重調整液W1に対して空気が中心軸Cの径方向外側から中心軸Cに向かって移動する。回転体11内の空気は、人工血管D上に集約する。人工血管Dはガス透過性を有するため、空気が回転体11内から人工血管Dの血管壁を通して人工血管D内に除去される。
この脱気工程S5は、後述する細胞塊集合工程S9よりも前に行う。
【0027】
次に、細胞注入工程(ステップS7)において、注射器等により注入口15を通して回転体11内に複数の細胞塊W2を注入する。回転体11内の比重調整液W1は生体適合性を有するため、複数の細胞塊W2は比重調整液W1内で生存を続けることができる。
次に、細胞塊集合工程(ステップS9)において、比重調整液W1と複数の細胞塊W2とが収容された回転体11を、駆動部により中心軸C周りに回転させる。細胞塊W2の比重は比重調整液W1の比重よりも小さいため、細胞塊W2に作用する向心力により、比重調整液W1に対して複数の細胞塊W2が中心軸Cに向かって移動する。
図4に示すように複数の細胞塊W2は、中心軸C上に配置された人工血管Dの外周面に集合する。
【0028】
この細胞塊集合工程S9は、供給部26により人工血管D内に第2液体培地を供給させながら行ってもよい。このようにすることで、第2液体培地中の栄養や酸素等が細胞塊W2に供給される。
以上により、集合方法Sの全工程が終了する。
【0029】
本実施形態の集合方法Sを宇宙空間等の重力が作用しない場所、又は地球の重力に比べて小さい重力しか作用しない場所で行うと、回転体11が中心軸C周りに回転しなくても、比重調整液W1中で細胞塊W2が沈降しにくい。回転体11を中心軸C周りに回転させることにより、細胞塊W2を安定化して集合させることができる。
【0030】
〔シミュレーション結果〕
以下では、重力が作用する地上において、回転する回転体11中で複数の細胞塊W2が移動する様子をシミュレーションした結果について説明する。
回転体11の直径を20mm、厚さを10mmとし、側部12,13及び外周板14の厚さは無視した。回転体11は、中心軸Cが水平面に沿って配置されているとした。
細胞塊W2の径を100μm(マイクロメートル)、比重を1.05とした。回転体11内に供給される細胞塊W2の数は、600とした。比重調整液W1の比重を1.08とした。人工血管Dの径を1mmとした。重力が
図5に示す下方Aに向かって1G(9.8m/s
2)で作用するとした。回転体11の中心軸C周りの回転速度を、150rpm(回転/分)とした。
【0031】
回転体11が回転する前の初期状態では、
図5に示すように、複数の細胞塊W2が比重調整液W1内でほぼ均等に分散しているとする。回転体11が中心軸C周りに4分間、8分間、及び12分間回転したときの状態を、
図6、
図7、及び
図8にそれぞれ示す。回転体11が中心軸C周りに回転する時間が長くなるに従い、複数の細胞塊W2が人工血管Dに近付くように移動する。12分間回転した
図8に示す状態では、人工血管D周囲に細胞塊W2が集合することが分かった。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の集合方法S及び集合装置1によれば、回転体11を中心軸C周りに回転させると、比重調整液W1の比重と細胞塊W2の比重との差で生じる向心力により、比重調整液W1に対して複数の細胞塊W2が中心軸Cの径方向外側から中心軸Cに向かって移動する。比重調整液W1は生体適合性を有するため、複数の細胞塊W2を生存したまま中心軸C上に集合させることができる。
【0033】
取付け部21,22により回転体11の中心軸C上に人工血管Dを配置した状態で、細胞塊集合工程S9を行う。これにより、複数の細胞塊W2を人工血管D上に集合させることができる。
供給部26により人工血管D内に第2液体培地を供給させながら、細胞塊集合工程S9を行う。このため、人工血管Dを通して第2液体培地中の栄養や酸素等を複数の細胞塊W2に供給することができる。
【0034】
集合方法Sにおいて、脱気工程S5を行う。これにより、回転体11内に空気が入っていても、その空気により比重調整液W1内の流れが乱れることを抑制して、細胞塊W2を確実に集合させることができる。
脱気工程S5は、細胞塊集合工程S9よりも前に行う。従って、回転体11内に空気が無い状態から、細胞塊集合工程S9において細胞塊W2をさらに確実に集合させることができる。
【0035】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、集合装置1は、取付け部21,22を備えなくてもよい。この場合、集合方法Sでは取付け工程S1は行われない。人工血管Dを取付けずに細胞塊W2を集合させると、細胞塊W2は中心軸Cの周辺(中心軸C上)に集合する。中心軸C上の向心力が弱い場合には、細胞塊W2は管状に集合する。
集合装置1は、供給部26を備えなくてもよい。集合方法Sでは、脱気工程S5を細胞塊集合工程S9と同時に行ってもよいし、脱気工程S5を行わなくてもよい。
【0036】
比重調整液の比重よりも細胞塊W2の比重が小さい場合には、比重調整液が比重調整剤を含まずに、第1液体培地を含んで構成されるようにしてもよい。
【0037】
〔実施例〕
以下では、本発明の実施例及び比較例を具体的に示してより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
表1に示すように、比重調整剤としてサンプルNo.1~No.6のものを検討した。
回転体の中心軸上に、人工血管を配置した。iPS細胞由来の肝前駆細胞、血管内皮細胞及び間葉系細胞を所定の比率で混ぜて細胞塊を作成した。
図9に示すように、回転体内に比重調整液を充填し、複数の細胞塊を注入した状態で回転体を回転させた。回転体は、回転速度150rpmで、12分間回転させた。
なお、比重調整剤(比重調整液)が合格となる判断基準は、比重調整剤が生体適合性を有し、細胞塊よりも比重が大きく、比重調整剤内で複数の細胞塊が生存することである。
【0038】
【0039】
(実施例1)
比重調整剤として、サンプルNo.1のリンパ球分離溶液(ナカライテスク株式会社製)を、第1液体培地に70%(重量%)混合させて比重調整液を作成した。この場合、比重調整液中の30%が第1液体培地である。比重調整液の比重は1.06であり、pHは7.8であった。作成した比重調整液を充填して回転体を回転させた結果、複数の細胞塊が生存しており、合格となることが分かった。
(実施例2)
比重調整剤として、サンプルNo.2のOptiPrep(登録商標、コスモ・バイオ株式会社製)を、第1液体培地に14%混合させて比重調整液を作成した。比重調整液の比重は1.06~1.07であり、pHは7.8であった。作成した比重調整液を充填して回転体を回転させた結果、
図10、及び
図11において矢頭に示すように、クサビラオレンジを発現した血管内皮細胞、間葉系細胞、及びEGFPを発現したTkDA 3-4細胞(iPS細胞)由来肝前駆細胞を含む細胞塊は、人工血管上に集合した。この際、
図12に示すように、複数の細胞塊が蛍光発現を保持、すなわち生存しており、合格となることが分かった。
【0040】
(実施例3)
比重調整剤として、サンプルNo.3のOptiPrepを、第1液体培地に15%混合させて比重調整液を作成した。比重調整液の比重は1.07~1.08であり、pHは7.8であった。作成した比重調整液を充填して回転体を回転させた結果、血管内皮細胞、間葉系細胞、及びEGFPを発現したTkDA 3-4細胞は正常な形態とは少し異なるが、複数の細胞塊が生存しており、合格となることが分かった。
(実施例4)
比重調整剤として、サンプルNo.4のPercoll(登録商標、GEヘルスケア株式会社製)を、第1液体培地に70%混合させて比重調整液を作成した。比重調整液の比重は1.07~1.08であり、pHは8.1であった。作成した比重調整液を充填して回転体を回転させた結果、血管内皮細胞及び間葉系細は正常な形態とは少し異なるが、複数の細胞塊が生存しており、合格となることが分かった。
【0041】
(比較例1)
比重調整剤として、サンプルNo.5のポリタングステン酸ナトリウムを、第1液体培地に6%~8%混合させて比重調整液を作成した。比重調整液の比重は1.06であり、pHは6.6であった。作成した比重調整液を充填して回転体を回転させた結果、人工血管から細胞塊が剥がれ、細胞塊が壊死してしまうことが分かった。複数の細胞塊が生存できず、不合格であった。
(比較例2)
比重調整剤として、サンプルNo.6のメチルセルロースを、第1液体培地に0.10%混合させて比重調整液を作成した。比重調整液の比重は、0.98であった。この比重調整液よりも比重が小さい細胞塊は想定されないため、不合格であった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本実施形態の細胞塊を集合させる方法及び細胞塊を集合させる装置は、細胞塊を集合させるため等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 集合装置(細胞塊を集合させる装置)
11 回転体
21 第1取付け部(取付け部)
22 第2取付け部(取付け部)
26 供給部
C 中心軸
D 人工血管(母材)
S 集合方法(細胞塊を集合させる方法)
S5 脱気工程
S9 細胞塊集合工程
W1 比重調整液
W2 細胞塊