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6989834電位計の精度管理用電流発生装置、精度管理システム、及び校正方法
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  • -電位計の精度管理用電流発生装置、精度管理システム、及び校正方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】電位計の精度管理用電流発生装置、精度管理システム、及び校正方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/185 20060101AFI20220104BHJP
   G01T 1/17 20060101ALI20220104BHJP
   G01T 7/00 20060101ALI20220104BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
G01T1/185 E
G01T1/17 E
G01T7/00 C
A61N5/10 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021069598
(22)【出願日】2021-04-16
(65)【公開番号】P2021179425
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2021-05-07
(31)【優先権主張番号】P 2020082274
(32)【優先日】2020-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000173588
【氏名又は名称】公益財団法人がん研究会
(73)【特許権者】
【識別番号】592128191
【氏名又は名称】株式会社川口電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100179431
【弁理士】
【氏名又は名称】白形 由美子
(72)【発明者】
【氏名】松林 史泰
(72)【発明者】
【氏名】津野 隼人
(72)【発明者】
【氏名】松本 圭二
(72)【発明者】
【氏名】酒井 孝志
(72)【発明者】
【氏名】竹内 清
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-215857(JP,A)
【文献】特開2013-186014(JP,A)
【文献】特開2004-354216(JP,A)
【文献】特開2012-47517(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0164445(US,A1)
【文献】米国特許第5266883(US,A)
【文献】放射線治療用線量計に用いられる電位計のガイドライン,日本,日本医学物理学会,2018年12月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/185
G01T 1/18
G01T 1/17
G01T 7/00
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療用線量計の電位計の校正に用いる電流発生装置であって、
直流電圧源と
抵抗と
電位計に接続するためのポートと
通電時間を制御するためのタイマーを備えていることを特徴とする電位計の精度管理用電流発生装置。
【請求項2】
金属製のシールドを備えていることを特徴とする請求項1記載の電位計の精度管理用電流発生装置。
【請求項3】
前記抵抗が1MΩ以上1TΩ以下であることを特徴とする請求項1、又は2記載の電位計の精度管理用電流発生装置。
【請求項4】
電流シャッターを備えることを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載の電位計の精度管理用電流発生装置。
【請求項5】
電流の極性を切り替える回路を備えていることを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載の電位計の精度管理用電流発生装置。
【請求項6】
電流の大きさを切り替える回路を備えていることを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載の電位計の精度管理用電流発生装置。
【請求項7】
前記直流電圧源が乾電池であることを特徴とする請求項1~6いずれか1項記載の電位計の精度管理用電流発生装置。
【請求項8】
放射線治療用線量計の電位計の校正に用いる精度管理システムであって、
請求項1~7いずれか1項に記載の電位計の精度管理用電流発生装置を備えることを特徴とする電位計の精度管理システム。
【請求項9】
評価項目について計算し、表示するためのコンピュータを備えている請求項記載の精度管理システム。
【請求項10】
請求項1~7いずれか1項記載の精度管理用電流発生装置、又は請求項8、若しくは9記載の精度管理システムを用い、
所定の機関で校正された電位計を用いて得られた測定値と校正に必要な電位計によって得られた測定値を比較することによって電位計校正係数を算出し、
電位計の校正を行う放射線治療用線量計に用いられる電位計の校正方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線治療の線量管理に用いる電位計の校正のための精度管理用電流発生装置、精度管理システム、及び電位計の校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は、手術や化学療法と並ぶがんの治療法の一つである。エックス線、電子線、ガンマ線などの放射線を用いて、がん細胞内のDNAに損傷を与え、がん細胞を死滅させることにより治癒させることを目的とする。放射線治療は、正常細胞とがん細胞の放射線感受性の差を利用し、がん細胞を選択的に死滅させることを目的としている。しかしながら、がん細胞と正常細胞の放射線に対する感受性の差は大きなものではなく、患部への投与線量によってがんの再発率や副作用の発生率が大きく左右される。そのため、放射線治療装置から出力される放射線の線量、線量分布などが照射条件毎に測定されている。
【0003】
上述のように患部への投与線量によって治療効果が左右されることから、放射線治療における放射線量の測定は治療にとって非常に重要である。そのため、放射線量の日常的な点検や定期点検が実施され、放射線治療の安全性が担保されている。放射線量の測定は、放射線によって発生する電子(電気信号)を電離箱で収集し、電位計で電気信号を計測することによって行われる。放射線量は、検出素子である電離箱と計測回路である電位計とを分離して測定する系が一般的となっているため、これら測定機器の点検や校正に関しても、検出素子(電離箱)と計測回路(電位計)を別々に点検・校正する分離校正が主流となっている。
【0004】
電位計の性能要件を定めた国際標準規格として、IEC(International Electrotechnical Comissiom)が定めたIEC規格(IEC60731)やイギリスの二次標準線量機関用の電位計のガイドラインであるIPEM(Institute of Physics and Engineering Medicine)ガイドラインがある。しかし、日本医学物理学会は、IEC60731の性能要件は不十分であることから、精度の高い治療を行うためにはより高い性能要件を定める必要があるとしている。また、IPEMガイドラインの性能要件は、特定の電離箱を用いて測定する場合を想定して規定されているため、現在の放射線治療において行われる測定範囲や測定対象の放射線源を考慮すると、国内の全ての放射線治療用線量計の電位計にその性能要件を求めることは現状では難しいとしている。そこで、「放射線治療用線量計に用いられる電位計のガイドライン」(以下、単にガイドラインと言うこともある。)を策定し公開している(非特許文献1)。その中で、放射線量の計測に電位計を使用するユーザーに対して、電位計の正常な使用とその品質管理に必要な点検、校正について言及している。それによれば、「電位計の点検は製造販売業者等に依頼して実施することが推奨されるが、ユーザーが自ら実施することもできる」と記載されており、ユーザーによる電位計の点検手順が示されている。
【0005】
ガイドラインによれば、電離箱と電位計は定期的にJCSS(Japan Calibration Service System)に登録している事業者によるJCSS校正を受ける必要があり、電離箱は年1回以上、電位計は3年に1回以上の頻度で校正する必要があると定められている。その他に、電位計は、定められた点検項目である繰り返し性、感度変化、非直線性、ゼロ点ドリフト、ゼロ点シフト、電荷漏れについて1年に1回以上の頻度で点検することが求められている。ガイドラインによれば、これらの点検は、製造事業者等に依頼して実施することが推奨されるが、ユーザーが自ら実施することもできると規定されており、ユーザーにより点検を行うことが可能であることが明記されている。
【0006】
電位計の校正を所定の機関に依頼するとコストがかかるだけではなく、電位計を使用できない期間が発生することから、ユーザーが実施可能な点検はできる限りユーザー自身で行うことが望ましい。また、複数の電位計を所有している機関では、電位計を所定の頻度である3年に1回以上の頻度でJCSS校正を行い、直近にJCSS校正を受けた電位計を基準として、機関内の電位計を点検、校正すれば校正の精度を上げることができる。ユーザー自身が校正を行うことによって、電位計の品質管理の向上、コスト削減、定期点検のために電位計を使用できない期間を減らすことができるなど、多くのメリットがある。
【0007】
電位計の点検は、定めた電流を定めた時間、電位計に入力して点検を行う。校正に用いる電流としては、電離箱への放射線照射で発生する電流を用いるか、微小電流を発生することができる電源装置によって発生させればよい。具体的には、リニアック等の放射線治療装置によって放射線を照射し発生する電流を用いるか、あるいは高精度の電流発生装置と電流シャッターを準備し、定めた電流を定めた時間電位計に入力して点検を行えばよい。しかし、ガイドラインには電位計の点検手順についての記載はあるものの、校正に用いる微小電流についての具体的な手段については記載がない。したがって、ユーザーが自ら実施することもできるとの記載があるものの、具体的に点検に用いる微小電流を発生させる装置や方法については何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】日本医学物理学会、放射線治療用線量計に用いられる電位計のガイドライン、2018年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
JCSSに登録している所定の機関では、微小電流発生装置によって電流を発生させ点検を行っている。しかし、微小電流の発生は非常に難しく、高精度、すなわち非常に高価な電源発生装置を必要とする。そのため、ユーザーが自身で電位計を点検する場合には、通常電離箱への放射線照射で発生する電流を用いることにより点検を行っている。しかし、放射線治療装置や電離箱自体も校正を必要とする装置であることから、これを使用し、電位計を点検することは不確かさが発生することになる。したがって、放射線治療装置により発生する電流を用いる方法では、所定の機関と同等の確かさで電位計を点検することはできない。本発明は、微小電流を安定して発生させる電流発生装置を提供するとともに、ユーザーが電位計を校正し精度管理するためのシステム、及び電位計の校正方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ユーザー自身が電位計の校正に用いるための精度管理用電流発生装置(以下、単に電流発生装置と言う場合もある。)、精度管理システムであり以下の構成を備える。また、本電流発生装置、及び本システムを使用した電位計校正方法に関する。本電流発生装置を用いることにより、放射線照射時の電離箱の電気信号と同程度の微小電流を生成し、電位計の校正に用いることができる。
(1)放射線治療用線量計の電位計の校正に用いる電流発生装置であって、直流電圧源と抵抗と電位計に接続するためのポートとを備えていることを特徴とする電位計の精度管理用電流発生装置。
(2)前記抵抗が1MΩ以上1TΩ以下であることを特徴とする(1)記載の電位計の精度管理用電流発生装置。
(3)電流シャッターを備えることを特徴とする(1)、又は(2)記載の電位計の精度管理用電流発生装置。
(4)電流の極性を切り替える回路を備えていることを特徴とする(1)~(3)いずれか1つ記載の電位計の精度管理用電流発生装置。
(5)電流の大きさを切り替える回路を備えていることを特徴とする(1)~(4)いずれか1つ記載の電位計の精度管理用電流発生装置。
(6)前記直流電圧源が乾電池であることを特徴とする(1)~(5)いずれか1つ記載の電位計の精度管理用電流発生装置。
(7)放射線治療用線量計の電位計の校正に用いる精度管理システムであって、(1)~(6)いずれか1つに記載の電位計の精度管理用電流発生装置を備えることを特徴とする電位計の精度管理システム。
(8)評価項目について計算し、表示するためのコンピュータを備えている(7)記載の精度管理システム。
(9)(1)~(6)いずれか1つ記載の精度管理用電流発生装置、又は(7)、若しくは(8)に記載の精度管理システムを用い、所定の機関で校正された電位計を用いて得られた測定値と校正に必要な電位計によって得られた測定値を比較することによって電位計校正係数を算出し、電位計の校正を行う放射線治療用線量計に用いられる電位計の校正方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】電位計の精度管理システムの例を示す図。
図2】実施形態1の放射線治療用線量計の電位計の校正に用いる精度管理用電流発生装置の回路図。
図3】実施形態2の放射線治療用線量計の電位計の校正に用いる精度管理用電流発生装置の回路図。
図4】実施形態3、及び4の射線治療用線量計の電位計の校正に用いる精度管理用電流発生装置の回路図。
図5】安全装置、切り替え機構を備えた実施形態5の射線治療用線量計の電位計の校正に用いる精度管理用電流発生装置の回路図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
電位計や放射線治療用線量計の定義は、「放射線治療用線量計に用いられる電位計のガイドライン」の定義に倣うこととする。具体的には、測定装置である電位計とは、「吸収線量、吸収線量率又は線量関連量の値を表示、管理、若しくは保存するため、放射線検出器からの出力を適当な形に変換する機器」(JIS Z 4005:2012)と定義することができる。また、放射線治療における計測を目的としているものであることから、電位計は入力電流:20pA~1μA、入力電荷:1nC~10μCの範囲をいう。また、放射線治療用線量計は、「放射線治療において、光子線や電子線、粒子線の空気カーマや吸収線量及びそれらの率、又は分布を測定する電離箱と測定装置(電位計)からなる装置」と定義される。
【0013】
また、ガイドラインにはユーザーが電位計の評価を行う標準試験条件についても、気温(18から28℃)、気圧(測定開始からの変動が±3kPa以内)、相対湿度(20%から60%、ただし絶対湿度<20gm-3)、散乱線による線量当量率(<7.5μSvh-1)、主電源の電圧(定格100Vの場合:101±6V、定格200Vの場合:202±20V)、主電源の周波数(標準周波数±1Hz)、安定化時間(起動後15分以上)、ケーブル長(50m以下)と項目毎にかっこ内の数値を標準試験条件と定めている。
【0014】
また、電位計の点検項目は、ガイドラインには繰返し性、感度変化、非直線性、ゼロ点ドリフト、ゼロ点シフト、電荷漏れが定められているが、ゼロ点ドリフト、ゼロ点シフトは電位計単体で評価を行う点検項目であることから、精度管理用電流発生装置、あるいは精度管理システムを用いて評価する点検項目は、繰返し性、感度変化、非直線性、電荷漏れの4項目である。
【0015】
どのような電位計であっても、本電流発生装置、又は精度管理システムによって校正を行うことができるが、例えば、sakuraProof(株式会社川口電機製作所)、RAMTEC Smart(東洋メディック株式会社)、MAX4000PLUS(株式会社千代田テクノル)、SUPERMAX(株式会社千代田テクノル)、EMF521R型シリーズ(EMFジャパン株式会社)などを校正することが可能である。
【0016】
[精度管理システム]
最初に電位計の精度管理システムについて説明する。図1に、電位計の精度管理システム1を例示している。精度管理システム1は、精度管理用電流発生装置2、電流シャッター3、コンピュータ4からなる。精度管理用電流発生装置2により発生された微小電流は、電源シャッター3により一定時間、電位計5に入力される。入力された電流による電気信号は、電位計5で測定され、測定値は電位計5に接続されているコンピュータ4に送信され、コンピュータ4上でデータ解析を行い評価項目の結果を得る。あるいは、電位計の測定値を記録し、コンピュータに入力し、評価項目の結果を得てもよい。得られた評価項目は、コンピュータのディスプレイ、あるいは精度管理用電流発生装置に表示装置を設けて表示することができる。表示する評価項目としては、以下の実施例で検討した繰り返し性、非直線性、電荷漏れ等の測定値、及び電位計補正係数等が挙げられる。特に、電位計校正定数(kuser)及びkuserの不確かさは、電位計の校正に用いる値であり、必須の表示項目である。また、繰り返し性、非直線性、電荷漏れ等の測定値は、基準以内の値であれば、例えば、「合格」等の判定結果とともに数値が表示されれば、使用者は安心して使用することができる。
【0017】
タイマーが内蔵されている電位計を用いる場合には、電流シャッターを使用することなく、電位計の通電時間が記録されているログファイルをもとに、評価項目の点検を行うことが可能である。また、電位計に内蔵されているコンピュータ(マイクロコンピュータ)を利用して、測定値から評価項目を算出させ、表示させることも可能である。したがって、電位計の機種によっては、既存の電位計に精度管理用電流発生装置を接続させるだけでも、電位計の点検、校正を行うことが可能となる。さらに、上記の基本的な構成に加えて、誤って高電圧を付加したときの安全装置や、電流値を切り替える装置など、種々の装置を付加することができる。
【0018】
[精度管理用電流発生装置 実施形態1]
図2に精度管理用電流発生装置の回路図を示す。精度管理用電流発生装置は、電源、抵抗、電位計に接続するためのポートを備えている。実施形態1の電源部分は、安定化電源であって、入手しやすいことから乾電池を使用している。ここでは、1.5V形のアルカリ乾電池を用いているが、これに限らず3V形、9V形、12V形等、市販の乾電池を使用することができる。抵抗はここでは1GΩの高抵抗の抵抗器を用いているが、1MΩ~1TΩの抵抗値範囲の抵抗を用いることができる。これにより微小電流を発生させることができる。
【0019】
本精度管理用電流発生装置は、入力電流として20pA~1μA、入力電荷として1nC~10μCの範囲の微小電流を発生させる装置である。そのため、ごく僅かな信号であってもノイズとなり得る。また、電流は温度によっても左右されるため、温度変化を緩和することができることが好ましい。そこで、電源を外界からシールドすることが重要となる。シールドにはアルミ板等の金属製のシールドを用い、ノイズの発生を抑えている。
【0020】
上述のように、抵抗はここでは1GΩの高抵抗を用いているが、発生させる電流によって、1MΩ~1TΩの抵抗値範囲の抵抗を用いればよい。また、抵抗器は温度変化に強く、経年変化が少ないものが求められる。具体的には抵抗器の温度係数は±100ppm/℃の範囲の抵抗器であることが必要であり、これより範囲の小さいものが望ましい。これら要件を満たすものであれば、上記の標準試験条件内での変化に対応することができる。具体的な抵抗器としては、日本ファインケム製超精密級高精度抵抗器などを使用することができる。
【0021】
電位計の点検は、定めた電流を定めた時間、電位計に入力して点検を行う。電源により発生させた電流は、電流シャッター、あるいは電位計に内蔵されたタイマーにより制御して一定時間入力する。上述のように、電位計にタイマーが内蔵されているものであれば、ポートを直接電位計に接続する。あるいは、電流シャッターに接続し、一定時間電流を入力する。電流シャッターを用いることができれば、通電時間をログファイルより算出することなく、計測を行うことができるため、より簡便に校正を行うことができる。
【0022】
[精度管理用電流発生装置 実施形態2]
図3は、2つの電位計を接続可能な精度管理用電流発生装置を例示している。電源、抵抗器は、実施形態1に示した精度管理用電流発生装置と同様のものを使用しているが、電位計に接続するための2つのポートとそれを切り替えるリレーを備えている点で異なっている。2つのポートのうちの1つは、所定の機関によって校正を受けた電位計を接続し、他方のポートに校正を必要とする電位計を接続する。リレーは絶縁100TΩ以上の高絶縁が良く、静電容量のより小さいものが求められる。リレーを備えることによって同一の電流を入力し、測定を行うことができることから、すでに校正された電位計の値と比較して、電位計の校正を行うことができる。
【0023】
[精度管理用電流発生装置 実施形態3]
図4(A)は、リレーを備えた精度管理用電流発生装置を例示している。直流の電圧源を用いている点、アースを取っている点、3軸コネクタに対応する電位計ポートとしているが、基本的に実施態様1の電流発生装置と同様の形態である。リレーは、電流発生装置(または電流シャッター)に備えたマイクロコンピュータ(以下、マイコンとも記載する。)、あるいは外部のPCによって制御し、一定時間電流を流すことができる。
【0024】
実施形態1、及び2に記載の装置は乾電池を用いることを想定しているが、実施形態3の装置は、あらゆる直流の電圧源を用いることを想定している。直流の電圧源であれば良く、乾電池だけではなく、安定した直流電源であれば、電子部品、回路を使用した直流の電圧源を用いることができる。安定した電子部品、回路を使用した直流の電圧源を使用することにより、電池の交換が不要であり長期的に安定した電流発生装置とすることができる。また、直流電圧源と高抵抗器とタイマーを校正すれば、比較校正を行う必要がなく、単体で校正装置として使用できるというメリットがある。
【0025】
[精度管理用電流発生装置 実施形態4]
図4(B)は、2つの電位計に接続可能な精度管理用電流発生装置を例示している。電源は、実施形態3に示した精度管理用電流発生装置と同様に、直流の電圧源であればどのようなものを用いてもよい。リレーは、実施形態3の精度管理用電流発生装置と同様に、マイコンあるいはPCに接続して通電時間を制御するとともに、電位計に接続するための2つのポートを切り替えるために使用することができる。
【0026】
[精度管理用電流発生装置 実施形態5]
図5には、極性や電流値を切り替える機能、高電圧に対する安全装置を備えた回路例を示している。放射線治療用線量計に用いられる電位計は、電離箱に高電圧を印加して使用することが多い。そのため、高電圧印加機能が備えられている。高電圧印加機能は、電離箱を対象とした機能であることから、電離箱以外の機器を接続したときに高電圧を印加した場合、感電や電位計の故障などが生じるリスクがある。これらのリスクを回避するために、実施形態5の電流発生装置は、接続時に電位計からの高電圧を監視するための電圧計と高電圧が印加された場合に回路を遮断するリレーを安全機構として備えている。実施形態5の電流発生装置は、安全装置を備えていることから、誤って高電圧をかけた場合でも、電圧計が感知し、マイコンによってリレーが操作され、回路を切り離すことによって、操作者や機器を保護することができる。
【0027】
ここでは、マイコンは電圧計につながり、電圧計が感知した電圧値によって、リレーを操作することが図示されているが、実施形態2~4の電流発生装置と同様、電流を発生させる時間の制御にも用いることができる。すなわち、リレーは、高電圧がかかった際の高電圧遮断リレーとして作用するだけではなく、通電時間を制御するためにも使用される。また、マイコンは外部PCに接続するような態様としてもよい。
【0028】
また、高抵抗器は抵抗値の異なる2つの抵抗器を使用することにより、電流値を調節することができる。高抵抗器1、高抵抗器2は、1MΩ以上1TΩ以下の範囲の抵抗器で異なる抵抗値のものを使用することにより、高電流、低電流を出力するように設定することができる。高抵抗器1が有効なときにはリレー1を電流シャッターとして使用し、高抵抗器2が有効なときにはリレー2をシャッターとして使用すればよい。なお、ここでは電流値の切り替え機構として、抵抗器を切り替える機構を用いているが電圧源を切り替える機構を採用しても良いことは言うまでもない。さらに、実施形態5の精度管理用電流発生装置は極性切り替え機構を備えることにより、電流のプラスとマイナスの向きを切り替えることができる。また、ここでは、電流の向きを切り替える機構を採用しているが、プラス電源とマイナス電源を用意して切り替えてもよい。以上の実施形態で示した機構は例示であり、各実施形態で示した態様を組合せて使用しても良いし、この分野で使用されている通常の技術を用いて同様の効果を奏する電流発生装置を作製できることは言うまでもない。電流切り替え装置及び抵抗器を選択可能としたことで、プラスとマイナスの測定ができるだけではなく、広いレンジの測定を行うことができる。
【0029】
[実施例1]
[評価項目の検討]
実際に実施形態1の精度管理用電流発生装置を用いて、評価項目の検討を行った。上述のように、電流発生装置を用いて評価する点検項目は、繰返し性、感度変化、非直線性、電荷漏れの4項目である。繰り返し性とは、「同じ測定条件で測定装置に同じ入力を繰り返し行ったときの、読み値のばらつきの程度のこと」とガイドラインでは定義されており、一般に読み値の標準偏差で示される。感度変化は、電位計の感度の前回点検時の結果からの相違を指す。非直線性は、各点の応答の相違を指す。繰返し性、感度変化、非直線性については、水吸収線量校正定数または電位計校正定数が与えられている全てのレンジについて点検することが求められている。また、電荷漏れとは、「電荷蓄積方式などの電位計において、電荷を蓄積するキャパシタなどの内部回路において、蓄積した電荷の漏れが生じることで測定装置の読みが連続的に変化すること」と定義されており、電離箱に高電圧を印加した際に生じる漏れ電流とは明確に異なるものであるとされている。
【0030】
ガイドラインによれば各評価項目は、以下の範囲内であれば合格であるとされる。
繰り返し性:測定値の相対標準偏差が0.1%以内
感度変化:前回点検時の結果から±0.2%以内
非直線性:電位計校正点の応答の相違が±0.2%以内
電荷漏れ:フルスケールの約90%に相当する電荷を入力した後、50秒後の読みが入力直後の読みに対して±0.1%以内
【0031】
感度変化については、前回点検時の値との比較であることから、ここでは電源の出力電流を測定し、繰り返し性、非直線性、及び電荷漏れについて評価した。また、実施形態1の精度管理用電流発生装置を用い、電位計校正定数が未知であると仮定した電位計に対して電位計校正係数を決定し、JCSS校正によって与えられた電位計校正係数と、本精度管理用電流発生装置によって求めた電位計校正係数を比較した。
【0032】
1.電源の出力電流
最初に、実施形態1の精度管理用電流発生装置により発生される電流がガイドラインで要求されている電位計への入力電流の範囲内か検討を行った。実施形態1の精度管理用電流発生装置を電位計(RAMTEC Duo、東洋メディック株式会社製)へ接続し、RAMTEC Duoに10秒間通電したときの収集電荷量を10回計測した。10回の計測における収集電荷量の平均値は15.596nCとなり,通電時間と収集電荷量の平均値との関係から本精度管理用電流発生装置の出力電流は1.560nAと求められた.ガイドラインにおいて、電位計の性能要件が要求される入力電流の範囲は20pA~1μAであり、本精度管理用電流発生装置の出力電流は電位計の性能要件が要求される入力電流の範囲内であった。
【0033】
2.繰り返し性
実施形態1の精度管理用電流発生装置によりRAMTEC Duoに通電した際に、JCSS校正時に使用される電位計の収集電荷量の範囲の最小値(5nC)と最大値(200nC)となるような通電時間(それぞれTmin、Tmax)を算出した。上記で検討した電源の出力電流は1.560nAであることから、Tmin、Tmaxは、それぞれ3.2秒、128.2秒となる。RAMTEC DuoにTmin、Tmaxの通電をそれぞれ10回行って収集電荷量を計測した。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
min、Tmaxの通電を行った際の平均値と標準偏差を求めて変動係数(それぞれCVmin、CVmax)を求めた。CVminは3.782×10-2%、CVmaxは1.276×10-3%と求められた。ガイドラインにおいて、電位計の性能要件が要求される繰り返し性の範囲は変動係数が0.1%以下であり、本精度管理用電流発生装置を用いた電位計の繰り返し性の測定結果は、その範囲内であった。
【0036】
3.電荷漏れ
本精度管理用電流発生装置をRAMTEC Duoへ接続し、収集電荷量が測定可能最大量の90%になるまで通電して収集電荷量の計測を行った。その後、計測を続けたまま本精度管理用電流発生装置の接続を取り外し、取り外しの際の電気ノイズが安定するまで30秒待機して収集電荷量Mを記録した。更に50秒待機して収集電荷量Mを記録した。Mは、468.033nC、Mは、467.984nCであった。電荷漏れはMに対するMの変化を百分率として求めた。電荷漏れは0.010%であった。ガイドラインにおいて、電位計の性能要件が要求される電荷漏れの範囲は0.1%以下であり、本精度管理用電流発生装置を用いた電位計の電荷漏れの測定結果は、その範囲内であった。
【0037】
4.非直線性
上記と同様に、本精度管理用電流発生装置でRAMTEC Duoに通電した際に、JCSS校正時に使用される電位計の収集電荷量の範囲の最小値と最大値、またそれらの中間値となるような通電時間(それぞれtmin、tmax、t0.5)を算出した。なお、出力電流:1.56nA、Tmin:3.2秒、Tmax:128.2秒、t0.5:65.7秒を用いている。RAMTEC Duoにtmin、tmax、t0.5の通電を行って収集電荷量(それぞれqmin、qmax、q0.5)を計測した。それぞれの通電時間において、収集電荷量と通電時間との比(それぞれrmin、rmax、r0.5)を算出し、非直線性はrminまたはrmaxに対するr0.5の変化を百分率として求めた。結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
minに対するr0.5の変化は5.435×10-2%、rmaxに対するr0.5の変化は5.665×10-3%であった。ガイドラインにおいて、電位計の性能要件が要求される非直線性の範囲は0.1%以下であり、本精度管理用電流発生装置を用いた電位計の非直線性の測定結果は、その範囲内であった。
【0040】
5.電位計補正係数の導出
次いで、電位計校正係数の導出について記載する。JCSS校正を受けている電位計としてRAMTEC Duoを使用し、JCSS校正によってRAMTEC Duoに与えられた電位計校正定数をkjcss,duoとする。電位計校正係数が未知であると仮定する電位計としてUNIDOS webline(PTW社製)を使用し、JCSS校正によってUNIDOS weblineに与えられた電位計校正定数をkjcss,unidosとする。2つの電位計のそれぞれに本精度管理用電流発生装置を接続し、10秒間の通電を10回実施して計測した収集電荷量の平均値(それぞれmduo、munidos)を算出した。munidosに対するmduoの変化(Rduo/unidos)を求め、Rduo/unidosにkjcss,duoを乗じることによって、本精度管理用電流発生装置によるUNIDOS weblineの電位計校正定数(kuser,unidos)を求めた。結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
本精度管理用電流発生装置を用いて求めた電位計校正係数の精度は、kjcss,unidosに対するkuser,unidosの変化を百分率として求めた。Rduo/unidosは0.9985となり、Rduo/unidosにkjcss,duoである1.000を乗じて、kuser,unidosを0.9985と求めた。kjcss,unidosは0.9997であり、精度は0.12%となった。JCSS校正においてkjcss,unidosを求める際の不確かさは0.16%であり、本精度管理用電流発生装置を用いて求めた電位計校正係数はJCSS校正におけるそれと不確かさの範囲内で一致した。
【0043】
[実施例2]
1.電源の出力電流
次に、実施形態5の精度管理用電流発生装置を用いて検討を行った。精度管理用電流発生装置を電位計(RAMTEC Solo、東洋メディック株式会社製)へ接続し、精度管理用電流発生装置の高電流モードと低電流モードの両モードにおいてRAMTEC Soloに正負の両極性の電流をそれぞれ60秒通電したときの収集電荷量を10回計測した。結果を表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
10回の計測における収集電荷量の平均値は、高電流モードの正極性において93.862nC、負極性において-93.844nCとなり、低電流モードの正極性において9.474nC、負極性において-9.474nCであった。通電時間と収集電荷量の平均値との関係から精度管理用電流発生装置の出力電流は、高電流モードの正極性において1.564nA、負極性において-1.564nAとなり、低電流モードの正極性において0.158nA、負極性において-0.158nAと求められた。ガイドラインにおいて、電位計の性能要件が要求される入力電流の範囲は、20pA~1μAであり、精度管理用電流発生装置の出力電流の絶対値は電位計の性能要件が要求される入力電流の範囲内であった。
【0046】
さらに、精度管理用電流発生装置を別の電位計(Unidos webline、PTW社製)へ接続し、精度管理用電流発生装置の高電流モードと低電流モードの両モードにおいてUnidos weblineに正負の両極性の電流をそれぞれ60秒通電したときの収集電荷量を10回計測した。結果を表5に示す。
【0047】
【表5】
【0048】
10回の計測における収集電荷量の平均値は、高電流モードの正極性において93.994nC、負極性において-93.981nCとなり、低電流モードの正極性において9.478nC、負極性において-9.477nCであった。通電時間と収集電荷量の平均値との関係から精度管理用電流発生装置の出力電流は、高電流モードの正極性において1.567nA、負極性において-1.566nAとなり、低電流モードの正極性において0.158nA、負極性において-0.158nAと求められた。ガイドラインにおいて、電位計の性能要件が要求される入力電流の範囲は、20pA~1μAであり、精度管理用電流発生装置の出力電流の絶対値は電位計の性能要件が要求される入力電流の範囲内であった。
【0049】
2.繰り返し性
さらに、RAMTEC Soloを用いて、繰り返し性、電荷漏れ、非直線性を検討し、電位計校正定数を導出した。まず、繰り返し性の検討について示す。JCSS校正においてRAMTEC Soloの電位計校正定数を求める際に使用される収集電荷量の範囲は、下限は5nCであり、上限は200nCである。上記のように、精度管理用電流発生装置の出力電流は、高電流モードの正極性で1.564nA、負極性で-1.564nAであった(表4参照)。そうすると、精度管理用電流発生装置の出力電流の下限と上限が、収集電荷量が最も近くなるようにソフトウエアプログラムで設定可能な通電時間は5秒と100秒となる。また、上記の下限と上限の中間値に収集電荷量が最も近くなる精度管理用電流発生装置のソフトウエアプログラムで設定可能な通電時間は50秒となる。そこで、繰り返し性の試験は、精度管理用電流発生装置を高電流モードに設定し、両極性においてRAMTEC Soloに5秒と100秒、50秒の通電をそれぞれ10回実施して収集電荷量の計測を行った。得られた収集電荷量から、10回の測定における平均値と標準偏差を求めて変動係数を算出した。結果を表6に示す。
【0050】
【表6】
【0051】
変動係数は正極性の5秒の通電で0.007%、100秒の通電で0.002%、50秒の通電で0.001%となり、負極性では5秒の通電で0.006%、100秒の通電で0.002%、50秒の通電で0.002%であった。ガイドラインにおいて、電位計の性能要件が要求される繰り返し性の範囲は変動係数が0.1%以下であり、精度管理用電流発生装置を用いた電位計の繰り返し性の測定結果は、その範囲内であった。また、ガイドラインに準拠したメーカーによる繰り返し性の試験では、今回使用したRamtec Soloの繰り返し性は正極性で0.003%、負極性で0.002%であった。すなわち、精度管理用電流発生装置を用いた繰り返し性の試験結果は、JCSS校正における電位計校正定数を求める際に使用される収集電荷量の範囲においてメーカーによる試験結果と同等の結果であった。
【0052】
3.電荷漏れ
電荷漏れについて検討を行った。精度管理用電流発生装置をRAMTEC Soloへ接続し、精度管理用電流発生装置を高電流モードの正極性の設定にした上でソフトウエアプログラムを利用して100秒の通電を行い、収集電荷量の計測を行った。その後、ガイドラインに記されている電荷漏れの試験方法に準じ、計測を続けたまま精度管理用電流発生装置の接続を取り外してRAMTEC Soloの接続コネクタ部分に金属製のキャップを施し、取り外しの際の電気ノイズが安定するまで30秒待機して収集電荷量Munplugを記録した。更に50秒待機して収集電荷量Munplugを記録した。次いで、上記通電を行った後に精度管理用電流発生装置を接続したままで通電30秒後の収集電荷量Mplugを記録した。更に50秒待機して収集電荷量Mplugを記録した。結果を表7に示す。
【0053】
【表7】
【0054】
unplugは156.313nC、Munplugは156.303nC、Mplugは156.412nC、Mplugは156.403nCとなった。電荷漏れはMに対するMの変化を百分率として求め、Munplugに対するMunplugの変化をRunplug、Mplugに対するMplugの変化をRplugとした。Runplugは0.006%、Rplugは0.006%であった。ガイドラインにおいて、電位計の性能要件が要求される電荷漏れの範囲は0.1%であり、ガイドラインに準じた方法による評価結果であるRunplugはその範囲内であった。また、Rplugも電位計の性能要件が要求される電荷漏れの範囲内であるため、本精度管理用電流発生装置を電位計に接続することによる暗電流は極めて微量であり、その暗電流が測定に影響を及ぼさないことがわかった。
【0055】
4.非直線性
次に、非直線性について検討を行った。精度管理用電流発生装置を用いてRamtec Soloに5秒と100秒、50秒の通電によって得られた収集電荷量から、通電時間と収集電荷量との比(それぞれr、r100、r50)を算出した。非直線性はrまたはr100に対するr50の変化を百分率として求めた。結果を表8に示す。
【0056】
【表8】
【0057】
に対するr50の変化は正極性において-0.040%、負極性において-0.068%であった。r100に対するr50の変化は正極性において0.015%、負極性において0.008%であった。ガイドラインにおいて電位計の性能要件が要求される非直線性の範囲は0.2%以下であり、精度管理用電流発生装置を用いた電位計の非直線性の測定結果は、その範囲内であった。また、ガイドラインに準拠したメーカーによる非直線性の試験では、今回使用したRamtec Soloの非直線性は正極性の収集電荷量の最大値において0.015%、負極性の収集電荷量の最大値において0.078%であり、正極性の収集電荷量の最小値において-0.001%、負極性の収集電荷量の最小値において0.073%であった。すなわち、精度管理用電流発生装置を用いた非直線性の試験結果は、JCSS校正における電位計校正定数を求める際に使用される収集電荷量の範囲においてメーカーによる試験結果と同等の結果であった。
【0058】
5.電位計校正定数の導出
JCSS校正を受けている電位計としてRAMTEC Soloを準備し、JCSS校正によってRAMTEC Soloに与えられた電位計校正定数をkjcsssoloとする。電位計校正定数が未知であると仮定する電位計としてUNIDOS weblineを使用し、JCSS校正によってUNIDOS weblineに与えられた電位計校正定数をkjcssunidosとする。2つの電位計のそれぞれに精度管理用電流発生装置を接続した上でソフトウエアプログラムを用いて60秒の通電を10回実施し、計測した収集電荷量の平均値(それぞれmsolo,munidos)を算出した(表4、表5参照)。munidosnに対するmsoloの変化(Rsolo/unidos)を求め、Rsolo/unidosにkjcsssoloを乗じることによって、精度管理用電流発生装置によるUNIDOS weblineの電位計校正定数(kuserunidos)を求めた。kuserunidosは精度管理用電流発生装置の高電流モードと低電流モードの両モードにおいて、正負の両極性で求めた。精度管理用電流発生装置を用いて求めた電位計校正定数の精度は、kjcssunidosに対するkuserunidosの変化を百分率として求めた。結果を表9に示す。
【0059】
【表9】
【0060】
両モードにおける正負の両極性を含めた精度は、最大で0.13%となった。JCSS校正においてkjcssunidosを求める際の不確かさは0.16%であり、精度管理用電流発生装置を用いて求めた電位計校正定数は全ての電流モードの両極性においてJCSS校正におけるそれと不確かさの範囲内で一致した。
【0061】
上記実施例1及び2で示したように、本精度管理用電流発生装置の出力電流はいずれもガイドラインで要求されている電位計の範囲を満たしていた。評価項目である、繰り返し性、電荷漏れ、非直線性についても、所定の機関で測定した値と同等の値を示していた。さらに、所定の機関で校正された電位計と比較することによって、電位計校正定数を導出することができた。したがって、上記手順により、ユーザー機関でも、ユーザー自身で電位計の校正を行うことができる。
【0062】
また、実施例で示したように、本電流装置は、校正を必要とする放射線治療装置を使用する必要がないことから、不確かさを排除することができるだけではなく、放射線を使用するリスクがない。また、実施形態1及び2で示した本精度管理用電流発生装置は、乾電池と高抵抗で構成されることから非常に安価に作製することができる。さらに、実施形態3乃至5で示した精度管理用電流発生装置はどのような直流電圧源を用いてもよく、特に、実施形態5で示した精度管理用電流発生装置は安全装置も組み入れられていることから安心して使用することができる装置となっている。
図1
図2
図3
図4
図5