(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】リン酸回収方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/30 20060101AFI20220104BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C01B25/30 B
B01J20/34 G
(21)【出願番号】P 2017128613
(22)【出願日】2017-06-30
【審査請求日】2020-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】596164744
【氏名又は名称】▲高▼橋金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】廣川 載泰
(72)【発明者】
【氏名】野一色 剛
(72)【発明者】
【氏名】近藤 将充
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-092122(JP,A)
【文献】特開2006-130420(JP,A)
【文献】国際公開第2006/088083(WO,A1)
【文献】特開2008-049240(JP,A)
【文献】特開2002-370086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/30
C01F 1/02-1/18、1/58-1/64
B01J 20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
(A)リン酸イオンを吸着した、オキシ水酸化鉄をリン酸吸着成分として含有するリン酸吸着材を、30℃以上で3
~6質量%のアルカリ金属水酸化物水溶液と接触させ、当該リン酸イオンをリン酸塩水溶液として脱着させる工程、及び
(B)工程(A)で得られたリン酸塩水溶液を15℃以下に冷却することによりリン酸塩を晶出させ、当該リン酸塩と、リン酸濃度が1質量%以下であるアルカリ金属水酸化物水溶液とを回収する工程、
の両工程を有する、リン酸塩回収方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムであることを特徴とする、請求項
1に記載のリン酸塩回収方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のリン酸塩回収方法であって、前記工程(B)の後に、
(A’)工程(A)における3
~6質量%のアルカリ金属水酸化物水溶液に代えて、工程(B)で得られたリン酸濃度が1質量%以下であるアルカリ金属水酸化物水溶液を用い、リン酸イオンをリン酸塩水溶液として脱着させる工程、及び
工程(B)、
をこの順に実施することを特徴とする、リン酸塩回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸吸着材を用いてリン酸を回収する方法に関し、特にリン酸をアルカリ金属塩として回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚水や工業廃水に多量のリンや窒素が含まれると、富栄養化の原因となるため、このような汚水を排出することは環境に好ましくなく、適切な廃水処理が必要とされている。
リンは肥料成分として、また化学工業にも不可欠の成分であるが、日本においてはほぼ100%を輸入に頼っており、世界的にもリン鉱石の産出国が限定されるため、その他のリン源が求められている。
以上の諸問題を解決するために、廃水中に含まれるリン酸等のリン化合物の除去及び回収が注目されている。
【0003】
リン酸又はその塩を回収する方法としては、重金属等の不要又は有害な物質を含まず純度の高いリン酸又はその塩が得られることから、リン酸吸着材を用いる方法が優れている。例えば、特許文献1~4等には、リン酸を特に高効率で吸着するオキシ水酸化鉄系吸着材が記載されている。これらのリン酸吸着材からは、アルカリ性水溶液によりリン酸を脱着することが可能である。
またリン酸は、リン酸カルシウムあるいはリン酸マグネシウムアンモニウムといった難水溶性化合物として回収されることがこれまで一般的であったが、その後の工業的利用にはリン酸ナトリウム等のアルカリ金属塩の方が適している。
【0004】
特許文献5には、下水汚泥焼却灰から酸によって抽出したリン酸溶液から、リン酸分を金属水和酸化物に吸着させ、次いでこの金属水和酸化物からリン酸イオンをアルカリ溶液に移行させ回収する方法が記載されている。具体的には、ジルコニウム鉄水和酸化物からなる吸着材を用い、1%水酸化ナトリウム水溶液を用いて35℃で脱着を行い、脱着液を15℃に冷却してリン酸三ナトリウムを析出させている。また析出後の水酸化ナトリウム溶液に、適当量の水酸化ナトリウムを補充して脱着に再利用することも記載されている。
特許文献6には、排水に由来するリン酸をジルコニウムフェライト系吸着材に吸着させ、7%水酸化ナトリウムでリン酸を脱着させ、析出により回収する方法が記載されている。析出工程では脱着液を加温し水分の一部を蒸発させる方法をとっており、これは多量のエネルギー消費を要する。
特許文献7には、リン酸ソーダ含有廃液をpH4以上にした後、冷却晶析してリン酸ソーダ含水結晶を分離する、リン酸ソーダの回収方法が記載されている。例として、リン酸ソーダ廃液を苛性ソーダでpH12.5に調整し、該液を約7℃に冷却し、高純度結晶を得るために、第三リン酸ソーダ・12水塩の種結晶を添加して撹拌した後、一昼夜放置して析出した結晶を回収している(実施例3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-124239号公報
【文献】WO2006/088083号
【文献】WO2017/061115号
【文献】WO2017/061117号
【文献】特開平11-92122号公報
【文献】特開2002-18489号公報
【文献】特開平7-256274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、リン酸吸着材によってリン酸を吸着させ、さらに高効率で高品位のリン酸分を回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、リン酸吸着材を用い、リン酸をアルカリ金属塩として高効率で回収する方法を鋭意検討した。そして、特定のリン酸吸着材を用い、脱着用のアルカリ水溶液をこれまで知られたものより高濃度にして使用すると、冷却によるリン酸塩の回収効率が劇的に向上して、種結晶の使用や、別法でのリン酸回収は不要となり、しかもリン酸塩除去後のアルカリ溶液をそのまま再度脱着に利用でき、経済的にも優れた方法となることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)少なくとも、
(A)リン酸イオンを吸着したリン酸吸着材を、30℃以上で3質量%以上のアルカリ金属水酸化物水溶液と接触させ、当該リン酸イオンをリン酸塩水溶液として脱着させる工程、及び
(B)工程(A)で得られたリン酸塩水溶液を15℃以下に冷却することによりリン酸塩を晶出させ、当該リン酸塩と、リン酸濃度が1質量%以下であるアルカリ金属水酸化物水溶液とを回収する工程、
の両工程を有する、リン酸塩回収方法、
(2)前記アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度が6質量%以下であることを特徴とする、(1)に記載のリン酸塩回収方法、
(3)前記アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムであることを特徴とする、(1)又は(2)に記載のリン酸塩回収方法、
(4)リン酸吸着材が、無機系吸着材であることを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載のリン酸塩回収方法、及び、
(5)(1)~(4)のいずれかに記載のリン酸塩回収方法であって、前記工程(B)の後に、
(A’)工程(A)における3質量%以上のアルカリ金属水酸化物水溶液に代えて、工程(B)で得られたリン酸濃度が1質量%以下であるアルカリ金属水酸化物水溶液を用い、リン酸イオンをリン酸塩水溶液として脱着させる工程、及び工程(B)をこの順に実施することを特徴とする、リン酸塩回収方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、高品位のリン酸塩を経済的に回収することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の方法は、少なくとも、
(A)リン酸イオンを吸着したリン酸吸着材を、30℃以上で3質量%以上のアルカリ金属水酸化物水溶液と接触させ、当該リン酸イオンをリン酸塩水溶液として脱着させる工程、及び
(B)工程(A)で得られたリン酸塩水溶液を15℃以下に冷却することによりリン酸塩を晶出させ、当該リン酸塩と、リン酸濃度が1質量%以下であるアルカリ金属水酸化物水溶液とを回収する工程、
の両工程を有する、リン酸塩回収方法である。
【0011】
本発明に用いられるリン酸吸着材は、特に限定されるものではなく、30℃以上で3質量%以上のアルカリ金属水酸化物水溶液に耐えるものであればよい。
このようなリン酸吸着材としては、無機系吸着材(無機化合物をリン酸吸着成分として含有する吸着材。)が好ましい。特に、金属酸化物系吸着材(金属酸化物、金属水酸化物、金属オキシ水酸化物を包含する金属酸化物系成分をリン酸吸着成分として含有する吸着材。)が好ましい。金属酸化物系吸着材は、金属酸化物系成分を主成分とするか、またはリン酸イオンを吸着する金属酸化物系吸着材をリン酸吸着成分として含有し、補助成分として結着剤及び/又は担体を含有する吸着材であることが好ましい。
吸着成分の具体例としては、酸化鉄、水酸化鉄、オキシ水酸化鉄、活性アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム等が挙げられ、これらの成分から選ばれる2種以上を併用してもよい。この中で、オキシ水酸化鉄が好ましい。
金属酸化物系成分を主成分とする場合には、金属酸化物系成分の含有量は、99質量%以上であることが好ましく、実質的に100質量%であることがより好ましい。
結着剤及び/又は担体としては、水不溶性であり、30℃以上で3質量%以上のアルカリ金属水酸化物水溶液に耐える、無機成分、若しくはポリオレフィン系成分が好ましい。
【0012】
工程(A)におけるリン酸イオンの脱着温度は、30℃以上とすることにより、脱着が促進され、またリン酸の溶解度が高いため途中で晶析する恐れなく使用することができる。この温度は35~70℃とすることがさらに好ましい。
【0013】
工程(A)におけるリン酸イオンの脱着には、アルカリ金属水酸化物の水溶液を用いる。
一般にこのような脱着には、アルカリ性水溶液を使用することが可能であり、特にpH13以上であることが好ましい。アンモニア水やアルカリ土類金属水酸化物の水溶液を用いることも想定し得るが、アンモニア水はpH13以上にすることが困難であり、また高温で高濃度にすることが困難であるため脱着効率が低く、アルカリ土類金属水酸化物はリン酸イオンと反応して工程(A)の途中で水難溶性塩が析出する恐れが大きい。アルカリ金属水酸化物水溶液を用いればこのようなことがなく、高温で高濃度の水溶液として使用することが可能である。
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられ、このうちで水酸化ナトリウムが好ましい。
【0014】
工程(B)におけるリン酸塩晶出のための冷却温度は、15℃以下、好ましくは5~10℃にすることにより、高効率でリン酸塩を晶出させ、溶液中に残存するリン酸濃度を低くすることができる。特に、残存リン酸濃度を1質量%以下とすることができ、晶出したリン酸塩と分離して得られる液分をそのまま後述の工程(A’)に用いることができる。残存リン酸濃度は、0.5質量%以下とすることが好ましい。
工程(B)では、撹拌により温度を均一にしながら、リン酸塩を晶出させることが好ましい。また冷却時間は24時間以内とすることが効率面で好ましい。なお、結晶の粒度を調整する等の必要があれば、晶出開始前にリン酸塩の種結晶を加えることもできるが、本発明ではリン酸吸着材からの高純度の脱着液をリン酸塩原料液として使用しているため、不要成分を多量に含有する原料液を用いる場合のように、純度を高める目的で種結晶を使用する必要は特にない。
【0015】
工程(A)に用いるアルカリ金属水酸化物水溶液濃度は、3質量%以上とすることにより、工程(B)における冷却条件でのリン酸の飽和溶解度が特に低くなるため、リン酸塩の晶出効率を高めることができる。アルカリ金属水酸化物水溶液濃度は4質量%以上であることが好ましい。
一方、アルカリ金属水酸化物水溶液濃度を過度に高くすると、30℃以上の高温であってもリン酸の飽和溶解度が低くなる。これを避けることにより、工程(A)及び(B)におけるリン酸溶解度差を大きく、すなわちリン酸回収効率を高くすることができる。具体的には、工程(A)は、リン酸の飽和溶解度が2質量%以上である条件で行うことが好ましい。このためには、アルカリ金属水酸化物水溶液濃度が10質量%以下であることが好ましく、6質量%以下であることがより好ましい。
特に、工程(A)及び工程(B)の条件におけるリン酸の飽和溶解度(各CA、CB)の比CB/CAは、アルカリ金属水酸化物水溶液濃度が5質量%付近で最低値となり、冷却による回収効率が最高となる。この比は0.2以下であることが好ましく、0.15以下であることがより好ましい。
【0016】
工程(B)では、リン酸塩の晶出に続き、晶出したリン酸塩と液分とに分離する。これには、沈殿、ろ過等の公知の方法を使用することができる。ここで液分に含有されるリン酸濃度は1質量%以下である。この液分は、後述の工程(A’)に再使用することが好ましいが、必要に応じ中和、濃縮、希釈等の工程を経て、さらに他の工程に用いるか、若しくは環境・安全上の問題がなければ廃棄することもできる。
【0017】
本発明では、工程(B)の後に、工程(A’)及び工程(B)を行うことが好ましく、この工程(A’)及び工程(B)を複数回反復することがさらに好ましい。
工程(A’)とは、脱着液として、工程(A)における3質量%以上のアルカリ金属水酸化物水溶液の代わりに、工程(B)で得られたリン酸濃度が1質量%以下であるアルカリ金属水酸化物水溶液を用い、リン酸イオンをリン酸塩水溶液として脱着させる工程である。
ここで、工程(B)で得られたリン酸濃度が1質量%以下であるアルカリ金属水酸化物水溶液に含有されるアルカリ金属イオン(リン酸塩を含む。)の濃度は、アルカリ金属水酸化物に換算して、3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、また6質量%以下であることが好ましい。
工程(B)ではリン酸塩として一部のアルカリ金属イオンが除かれているため、その後の工程(A’)に使用する脱着液としてはアルカリ金属イオンが不足している場合がある。この場合には、脱着液にアルカリ金属水酸化物を補充し、好ましくはアルカリ金属イオンの濃度を上記範囲に調整して、工程(A’)を行ってもよい。
【実施例】
【0018】
次に、本発明の実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0019】
(参考例1)
純水に水酸化ナトリウムを溶解し、所定濃度の水酸化ナトリウム水溶液を作製した。各水酸化ナトリウムを、温度を40℃(工程(A)の条件として想定)及び10℃(工程(B)の条件として想定)に調整しながら撹拌し、リン酸三ナトリウム12水塩を過剰量添加してさらに2時間撹拌した。その後各温度で静置し、上清を採取して適宜希釈し、パックテスト(共立理化学研究所製)でリン酸イオン濃度を測定し、飽和リン酸イオン濃度を求めた(各条件2連)。各条件での平均値を表1に示した。
【0020】
【0021】
以上から、10℃及び40℃におけるリン酸の飽和溶解度(各C10、C40)の比C10/C40は、水酸化ナトリウム水溶液濃度が5質量%付近で最低値となり、冷却による回収効率が最高となると考えられる。
【0022】
(実施例1)
純水に水酸化ナトリウムを溶解し、5質量%水酸化ナトリウム水溶液を作製した。この水溶液500mLに、リン酸三ナトリウム12水塩80.1gを添加し、撹拌しながら加温して液温を40℃に調整し、完全に溶解したことを確認した。これを撹拌しながら液温低下速度を10℃/時間として3時間、10℃まで冷却した。これを減圧濾過して析出物と濾液とに分離した。濾液におけるリン酸濃度(下記方法によりリンを定量しリン酸濃度に換算した。)は0.506質量%であった。
濾別した析出物に、過剰のアルカリ分を除去するため、2~3℃に調整した純水約100mLを加えて減圧濾過し洗浄した。洗浄した析出物からエバポレーターにより水分を除去し、リン酸三ナトリウムを回収した。
以上により分離された濾液、洗液、及び回収されたリン酸三ナトリウムを、適宜希釈又は溶解し、含有されるリンをICP(誘導結合プラズマ)発光分光法により定量し、仕込量(リン酸三ナトリウム12水塩80.1g)に対する回収率として算出した結果は、以下の通りであった。
濾液:12.0%
洗液:12.5%
リン酸三ナトリウム:73.7%
【0023】
以上の実施例は吸着材を使用していないが、リン酸三ナトリウム12水塩を使用することで、吸着材に吸着されたリン酸イオンとみなすことができるから、本発明の回収方法により、高純度のリン酸三ナトリウムが効率よく生産できることが示された。