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特許6989844フリーデル氏塩の除去方法及びフリーデル氏塩の除去システム
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  • 特許-フリーデル氏塩の除去方法及びフリーデル氏塩の除去システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】フリーデル氏塩の除去方法及びフリーデル氏塩の除去システム
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/70 20220101AFI20220104BHJP
   C04B 7/38 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
B09B3/00 304G
C04B7/38
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017220652
(22)【出願日】2017-11-16
(65)【公開番号】P2019089040
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】506060258
【氏名又は名称】公立大学法人北九州市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】517401417
【氏名又は名称】丸屋商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094215
【弁理士】
【氏名又は名称】安倍 逸郎
(74)【代理人】
【識別番号】100189865
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 正寛
(72)【発明者】
【氏名】大矢 仁史
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-083144(JP,A)
【文献】特開2009-119407(JP,A)
【文献】特開2009-233490(JP,A)
【文献】特開平09-155326(JP,A)
【文献】特開2006-326462(JP,A)
【文献】特開2017-060903(JP,A)
【文献】特開2018-069108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00-5/00
C02F 11/00-11/20
C04B 7/38
F23G 5/00、5/027、5/20-2/28、5/32-5/38、7/00-7/02、7/10-7/12
F23J 1/00-99/00
F27D 17/00-99/00
B01D 53/34-53/73、53/92、53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属が除去されたフリーデル氏塩が含まれた汚染物質に、アルカリ土類金属化合物及び水を加え、その後、粉砕機を用いて微粉末状にした混合物を水洗し、
前記アルカリ土類金属化合物は、酸化カルシウム又は炭酸カルシウムであるフリーデル氏塩の除去方法。
【請求項2】
金属が除去されたフリーデル氏塩が含まれた汚染物質に、アルカリ土類金属化合物及び水を加え、その後、粉砕機を用いて微粉末状にした混合物を水洗し、前記アルカリ土類金属化合物は、酸化カルシウム又は炭酸カルシウムであるフリーデル氏塩の除去システムであって、
前記汚染物質に前記アルカリ土類金属化合物及び前記水を加えたものを微粉末状に粉砕する粉砕機と、
微粉末状にした前記混合物を水洗する水洗機と、
前記水洗した混合物を脱水する脱水機と、を有するフリーデル氏塩の除去システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリーデル氏塩が含まれた汚染物質から当該フリーデル氏塩を除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、都市ごみや下水汚泥等の一般廃棄物又は各種工場から排出される産業廃棄物は、減容化及び無害化のために焼却により処理されている。一般に、焼却炉から排出される焼却灰の処理方法としては、埋め立て処理、溶融スラグ化、建築資材への再資源化などが挙げられる。特に近年では、これらの灰をセメント原料、人工骨材、植栽用土、路床材、路盤材、焼成タイルなどの製品に加工して有効利用することが求められている。しかし、焼却灰を再資源化するに際して、焼却灰中には金属片等の異物が含有されているためこれを除去する必要がある。また、焼却灰には塩素が含まれているため、灰の用途に応じて、塩素濃度を基準値以下まで低減する必要がある。
【0003】
一般的な焼却灰の処理方法としては、金属片等の異物を除去した後、焼却灰を水洗することにより塩素を低減する方法が用いられている。しかしながら、大部分の塩素は水洗で除去可能であるが、高品質の再資源化原料として付加価値を与えるためには、単に水洗するのみでは塩素低減は不十分であった。
そこで、塩素低減の方法として、水洗における洗浄水のpHや、水洗回数、水洗時間、汚染物質の粉砕、吸着剤の検討等が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載のように、残留有害塩素化合物が含まれた汚染物質(被処理物)に、脱塩素処理剤と、吸着剤と、水とを加え、緻密な粉砕混合処理を行うことで、ダイオキシン、PCB等を除去する方法が提案されている。このとき、脱塩素処理剤は被処理物1トンあたり15~30kg(つまり、1.5~3.0wt%)、水は被処理物1トンあたり5~10wt%加えられる。これいより、ダイオキシンやPCB等の無害化処理を低コストで処理できるようにしている。
また、特許文献2には、水洗処理の処理時間について、焼却灰を小粒径灰と大粒径灰に分級し、小粒径灰と大粒径灰の洗浄工程における水洗処理時間を異ならせる方法も提案されている。このとき、塩素含有量の多い小粒径灰を集中的に水洗処理し、塩素含有量が比較的少ない大粒径灰の水洗処理を簡略化することにより、処理時間の短縮化を図り、装置容積を低減することができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-288511号公報
【文献】特開2009-90173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、焼却灰の塩素を除去する際には水洗処理が広く利用されているが、特許文献1及び特許文献2等のような水洗処理では依然として、大量の水が必要とするだけでなく、これらの方法では、フリーデル氏塩を除去することができない。
そもそも、特許文献1,2に記載の残留有害塩素化合物は、ダイオキシンやPCB等であり、例えば汚染物質をセメントの代替原料として利用する場合、キルンに投入し、高温処理でクリンカを製造する段階で、熱分解することから、特に低濃度にする必要がない。
その一方で、フリーデル氏塩については、キルンに投入し、高温処理でクリンカを製造する段階においては、脱水反応が生じるのみであり、それ以上熱分解されることがなく、セメント中に塩素が残留することとなる。現状、塩素濃度が1~2%台の焼却灰でも代替原料として利用できないわけではないが、塩素濃度をより下げることが出来れば、セメント工場の焼却灰受け入れ数量が上がり、埋立処分場の逼迫といった社会問題解決にも繋がる。そのためにも、汚染物質中に含まれるフリーデル氏塩の濃度が0.2wt%程度まで低減させる必要がある。
引用文献1,2に記載の技術では、汚染物質中に含まれるフリーデル氏塩の濃度が0.2wt%程度まで低減することができなかった。
【0007】
そこで、発明者らは、汚染物質中に含まれる残留有害塩素化合物の化学的性質に着目し、大量のアルカリ土類金属化合物と少量の水を加えることにより、水溶性の塩素を含む化合物を形成することを知見し、本発明を完成させた。
本発明は、汚染物質をセメントの代替原料として使用するために、フリーデル氏塩が含まれた汚染物質から当該フリーデル氏塩を除去するフリーデル氏塩の除去方法及び除去システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、金属が除去されたフリーデル氏塩が含まれた汚染物質に、アルカリ土類金属化合物及び水を加え、その後、粉砕機を用いて微粉末状にした混合物を水洗し、前記アルカリ土類金属化合物は、酸化カルシウム又は炭酸カルシウムであるフリーデル氏塩の除去方法である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、金属が除去されたフリーデル氏塩が含まれた汚染物質に、アルカリ土類金属化合物及び水を加え、その後、粉砕機を用いて微粉末状にした混合物を水洗し、前記アルカリ土類金属化合物は、酸化カルシウム又は炭酸カルシウムであるフリーデル氏塩の除去システムであって、前記汚染物質に前記アルカリ土類金属化合物及び前記水を加えたものを微粉末状に粉砕する粉砕機と、微粉末状にした前記混合物を水洗する水洗機と、前記水洗した混合物を脱水する脱水機と、を有するフリーデル氏塩の除去システムである。
【0011】
フリーデル氏塩は、セメントの内部において、セメント鉱物の一種であるアルミン酸三石灰と、塩化物イオンが反応して生成される塩のことであり、中性化などにより、フリーデル氏塩から塩化物イオンが遊離することにより、鉄筋の腐食やさびの発生などにつながるといわれている。このフリーデル氏塩を含む汚染物質にアルカリ土類金属化合物と少量の水を加え、粉砕機を用いて微粉末状にして混合物を製造する。粉砕機による混合物の製造の際に、粉砕による加工熱(せん断熱)が発生し、アルカリ土類金属と水と塩素との化合物(例えば、アルカリ土類金属がCaの場合、Ca(OH)Cl)が生成される。生成される化合物は、水に可溶であるため、微粉末状にした混合物を水洗することにより、汚染物質中に含まれる塩素化合物は、容易に除去される。
なお、粉砕機による混合物の製造の際に発生する熱による金属の燃焼反応を防止するため、あらかじめ汚染物質中に金属を取り除く必要がある。
【0012】
本発明におけるアルカリ土類金属は、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムのいずれであってもよく、また、アルカリ土類金属化合物は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩であってもよい。なお、入手の容易性、コストを考慮した場合、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩であることが好ましく、酸化カルシウム、炭酸カルシウムであれば、入手が極めて容易であることから好適である。また、セメントの主成分は酸化カルシウムであり、セメント製造においては、炭酸カルシウムを微粉砕して、アルミナ等のその他の原料とともに、セメントキルンで焼く工程がある。このため、アルカリ土類金属化合物が酸化カルシウム又は炭酸カルシウムであれば、フリーデル氏塩を除去した後、そのままセメント原料として用いることができ、添加した多量の酸化カルシウム又は炭酸カルシウムが無駄になることがない。よって、経済性の面で有利である。
【0013】
本発明であっては、金属をあらかじめ除去した汚染物質とアルカリ土類金属化合物との混合物を微粉末状に粉砕する粉砕工程と、粉砕した混合物を水洗する水洗工程と、水洗した混合物を脱水する脱水工程とを経ることにより、フリーデル氏塩を除去することができる。
このように既存の設備を組み合わせることにより、容易にフリーデル氏塩を除去することができることから、安価なセメントの代替原料を製造することが可能である。
粉砕機、水洗機、脱水機の種類は特に問わないが、粉砕器については、せん断力による粉砕であれば、せん断エネルギーが大きいことから、粉砕による発熱温度が高くなり、アルカリ土類金属と水と塩素との化合物の生成が容易となるため、好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属が除去されたフリーデル氏塩を含む汚染物質にアルカリ土類金属化合物と少量の水を加え、微粉砕機を用いて微粉末状にして混合物を製造する。微粉砕機による混合物の製造の際に、粉砕による加工熱(せん断熱)が発生し、アルカリ土類金属と水と塩素との化合物が生成される。生成される化合物は、水に可溶であるため、微粉末状にした混合物を水洗することにより、汚染物質中に含まれる塩素化合物は、容易に除去される。
本発明であっては、金属を除去した汚染物質とアルカリ土類金属化合物との混合物を微粉末状に粉砕する粉砕工程と、粉砕した混合物を水洗する水洗工程と、水洗した混合物を脱水する脱水工程とを経ることにより、フリーデル氏塩を除去することができる。
このように既存の設備を組み合わせることにより、容易にフリーデル氏塩を除去することができることから、安価なセメントの代替原料を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るフリーデル氏塩の除去システムを示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。
【0017】
(金属除去)
図1は、本発明の実施例に係るフリーデル氏塩の除去システムを示している。都市ガスや下水汚泥等の一般廃棄物又は各種工場から排出される産業廃棄物は、焼却後、埋め立て処理が行われる。その際に、灰溶融(焼却炉で発生した焼却灰を溶融し、スラグを回収する)が行われるが、福島第一原子力発電所事故の発生がきっかけとなり灰溶融を行うことができなくなった。これに対し、本発明の実施例では、磁力選別機、渦電流選別機、高磁力選別機、光学式選別機を用いて、焼却残灰中から鉄・ステンレス等の金属を取り除き、金属除去後の焼却残灰からフリーデル氏塩を除去する。なお、この段階における焼却残灰中の塩素濃度は1~2wt%前後と高塩素濃度である。
【0018】
(粉砕処理)
金属除去後の焼却にアルカリ土類金属化合物と水とを加え、粉砕機にて微粉末状にすることで混合物を製造した。粉砕機は、遊星ボールミル(ドイツ製・フリッチュ社 遊星型ボールミルクラシックラインP-7)を用いた。粉砕条件は400rpmで1時間とした。
【0019】
(洗浄処理)
粉砕機において製造された混合物に洗浄水を加えて高速分散機(ホモジナイザー)にて分散することで、混合物を洗浄した。洗浄水はイオン交換水を用い、焼却灰5g当たり25ml使用した。また、分散時間は30分とした。
【0020】
(脱水処理)
混合物の洗浄後、洗浄水と混合物との分散液を濾過により混合物を取り出し、脱水することで、洗浄済みの焼却残灰を得た。脱水はフィルタプレスを用いた。
【0021】
このようにして得られた洗浄済みの焼却残灰について、残留塩素含有量を電子線マイクロアナライザ(EPMA、日本電子株式会社製JXA-8100/8200)を用いて測定した。なお、各サンプルの内容は表1のとおりである。なお、比較例1は、使用した焼却灰とした。
【0022】
【表1】
【0023】
次に、脱水処理後の洗浄済み焼却残灰の残留塩素量の測定結果を表2に示す。なお、比較例1は、未処理の焼却灰の残留塩素量を示す。
【0024】
【表2】
【0025】
このように、本発明に係る洗浄済み焼却残灰は、未処理の残留塩素濃度(11,000mg/kg)に対し、1,315mg/kgまで残留塩素濃度を低下している。
これに対し、単に水洗した場合(残留塩素濃度5,850mg/kg)は、高い残留塩素濃度を示している。
このように、本発明に係るフリーデル氏塩の除去方法及びフリーデル氏塩の除去システムによれば、フリーデル氏塩が含まれた汚染物質から当該フリーデル氏塩を除去し、セメントの代替原料として使用することができる点で有用である。
図1