(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】カバリング弾性糸及び編地
(51)【国際特許分類】
D02G 3/26 20060101AFI20220127BHJP
D04B 1/18 20060101ALI20220127BHJP
D04B 21/18 20060101ALI20220127BHJP
D02G 3/32 20060101ALI20220127BHJP
D02G 3/36 20060101ALI20220127BHJP
A41D 27/10 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
D02G3/26
D04B1/18
D04B21/18
D02G3/32
D02G3/36
A41D27/10 Z
(21)【出願番号】P 2018088071
(22)【出願日】2018-05-01
【審査請求日】2021-02-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503328399
【氏名又は名称】竹中繊維株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518154538
【氏名又は名称】株式会社フューチャー
(74)【代理人】
【識別番号】100105809
【氏名又は名称】木森 有平
(72)【発明者】
【氏名】竹中 健
(72)【発明者】
【氏名】小山 祐一
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-099029(JP,A)
【文献】特開2002-105783(JP,A)
【文献】特開平10-037029(JP,A)
【文献】特開2007-009378(JP,A)
【文献】特開2002-038345(JP,A)
【文献】特開2003-247130(JP,A)
【文献】特開2003-138448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D04B1/00-1/28
21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフィラメントによってなる構成糸を撚り合わせて形成された撚糸であって
、前記撚糸を形成する際の撚りの回数が400T/m以上であ
り、前記撚糸の撚り回数±15%の範囲にて、前記撚糸の撚り方向とは反対方向に弾性糸である芯糸に側糸としてカバリングすることを特徴とするカバリング弾性糸。
【請求項2】
前記撚糸は1フィラメントあたりの繊度が3デニール以下であり、前記撚糸を形成する際の撚りの回数が400~600T/mであることを特徴とする請求項1に記載のカバリング弾性糸。
【請求項3】
前記構成糸は仮撚加工されていることを特徴とする請求項1
または2に記載のカバリング弾性糸。
【請求項4】
前記構成糸の仮撚方向と前記撚糸の撚り方向が同一であることを特徴とする
請求項3に記載のカバリング弾性糸。
【請求項5】
編糸にて編目を作りながら編成組織を有する編地において、前記編糸は、請求項1から4のいずれか一項に記載のカバリング弾性糸であることを特徴とする編地。
【請求項6】
前記編地に前記カバリング弾性糸が編み込まれており、前記カバリング弾性糸の表面に設けられた前記フィラメント同士の隙間である斜行溝が前記編地の伸縮方向に略平行に配置されることを特徴とする請求項5に記載の編地。
【請求項7】
前記編地は伸縮性の前記カバリング弾性糸にて編目を作りながら、ポリウレタン、ラテックス、エラストマ、天然ゴム、シリコンゴムのいずれか1種以上の弾性糸を経方向に編み込むとともに緯糸をコース方向に編み込んで形成された帯状の経編組織を有することを特徴とする請求項5または6に記載の編地。
【請求項8】
複数のフィラメントによってなる構成糸を撚り合わせて形成された撚糸の製造方法であって、前記撚糸を形成する際の撚りの回数が400T/m以上とし、前記撚糸の撚り回数±15%の範囲にて、前記撚糸の撚り方向とは反対方向に弾性糸である芯糸に側糸としてカバリングすることを特徴とするカバリング弾性糸の製造方法。
【請求項9】
前記撚糸は1フィラメントあたりの繊度が3デニール以下とし、前記撚糸を形成する際の撚りの回数が400~600T/mとすることを特徴とする請求項8に記載のカバリング弾性糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバリング弾性糸及び編地に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、編地は衣服の特に身体の一部をとおす開口部に用いられ、広く普及されている。身体、特に胴周り、首周り、手首や足首のサイズは人によって個体差があるが、既定サイズの衣服である程度対応させることが合理的である。また、衣服を着用したときに適度な着圧となることが好ましい場合があり、良く伸び、しかも元に戻る性質(伸長弾性回復性、ストレッチ性)に優れた編地の要望が高まりつつある。
また食品業界や電子部品業界等では、身体の体毛が落下することを防止する作業着の要求が高まっている。より具体的には、ひとつの既定サイズで、従来よりも良く伸び、しかも元に戻る性質に優れた編地が工業生産できないか、との要望がある。
【0003】
特許文献1は、弾性経編生地とスポーツウエアに関し、ポリウレタン弾性糸を用いて、ラッセル編みによって伸度80%の経編生地とすることが記載されている。
【0004】
特許文献2は、伸縮性経編生地に関し、パワーを発揮させるために2種類の弾性糸と非弾性糸を用いて、ラッセル編みによって伸縮性経編生地とすることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、ポリウレタン弾性糸および非弾性糸から編成され、弾性糸による編み目が形成されたソフトストレッチ弾性編地が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3000444号公報
【文献】特許第2718441号公報
【文献】特開2005-213662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、作業着等の衣服は長時間着用されることから、開口部に使用する生地に対してストレッチ性だけでなく肌あたりの良さが重要視されるようになってきた。
しかしながら、生地に使用する糸の太さ(デニール数)を小さくすることで肌あたりが良くなり柔らかな風合いの生地が得られるものの、糸自体が弱く少しの力で糸が切れてしまうため生地表面に毛羽立ちや毛玉(ピリング)、糸が表面に突出する引きつれ(スナッグ)が発生してしまう。
実際、JIS規格であるJIS L1076「織物及び編物のピリング試験方法」およびJIS L1058「織物及び編物のスナッグ試験方法」を利用してピリング試験およびスナッグ試験を実施した場合、肌あたりの良さを重視した生地はピリング試験およびスナッグ試験の結果が悪くなり、ピリング試験およびスナッグ試験の結果が良くなるように生地に改良を行うと肌あたりが悪くなるという不具合が発生した。
このように従来、肌あたりの良さと抗スナッグ性および抗ピリング性を両立する生地を製造するのは大変困難であるが、上述の問題は、実際の衣類に肌あたりの良い生地を適用した場合、最悪な事態を招く恐れがある。
例えば食品工場等の衛生管理された場所の作業着においては、衛生面から頻回に洗濯を行う必要があるため、短い期間に洗濯と着用を繰り返す。何度も洗濯された作業着は、すぐに毛玉が目立つようになり、毛羽立ちや引きつれが糸くずとなって衣類から落下し、食品の異物混入が発生し、重大な事件に発展する恐れがあった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、抗スナッグ性および抗ピリング性に優れかつ肌あたりのよい撚糸、カバリング弾性糸及び編地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は複数のフィラメントによってなる構成糸を撚り合わせて形成された撚糸であって、前記撚糸は1フィラメントあたりの繊度が3デニール以下で、かつ前記撚糸を形成する際の撚りの回数が400T/m以上である撚糸を弾性糸である芯糸に側糸としてカバリングしたことを特徴とする。
本願発明者は上記課題に関して鋭意検討を行った結果、フィラメントの太さおよび撚りの回数に工夫を凝らすことにより、肌あたりがよくかつ抗ピリング性および抗スナッグ性に優れた撚糸を発明するに至った。
本発明によれば、1フィラメントあたりの繊度を3デニール以下とすることで生地に接触した際に肌あたりがよくソフトな感触を得ることが可能となり、特に作業着の開口部に利用するのに好適な撚糸となる。撚糸は150デニールの糸(1フィラメントあたり1.0416デニール)であることがより好ましい。1フィラメントあたりの繊度が3デニールより大きい場合、編地を形成すると肌あたりがゴツゴツした感触となり、特に作業着の開口部に使用するには不適切となる。
また本発明によれば、撚糸を形成する際の撚りの回数を400T/m以上とすることが好ましく、400~600T/mであればさらに好ましい。撚りの回数が400T/m未満であれば、撚りの強度が弱くなり、ピリング・スナッグが発生してしまう。撚りの回数を400T/m以上とすることにより、糸が表面に突出する引きつれや毛玉を防止することが可能となる。
【0010】
本発明は、前記構成糸が仮撚加工されていることを特徴とする。
また本発明は、前記構成糸の仮撚方向と前記撚糸の撚り方向が同一であることを特徴とする。
本発明によれば、撚糸に使用する構成糸に仮撚加工することによりさらに撚糸の強度が向上し、抗ピリング性および抗スナッグ性が向上する。また、撚糸が嵩高となりふんわりとした風合いとなり、肌あたりがよくなる。
さらに構成糸の仮撚方向と撚糸の撚り方向が同一であれば、フィラメント同士のまとまりがよくなり、撚りやすくなって撚糸の強度がさらに向上し、製編性が向上すると共に、構成糸が解撚されることによって生じる編地表面の不規則な糸浮きが出にくくなるため、外観もよくなる。
【0011】
本発明のカバリング弾性糸は、弾性糸である芯糸に請求項1から請求項3のいずれか一項記載の撚糸を側糸としてカバリングしたことを特徴とする。
また本発明のカバリング弾性糸は、前記撚糸の撚り回数±15%の範囲にて、前記撚糸の撚り方向とは反対方向に前記撚糸をカバリングしたことを特徴とする。
本発明よれば、撚糸をカバリング弾性糸の側糸として使用することおよび撚糸の撚り方向とは反対方向に前記撚糸をカバリングすることで、カバリング弾性糸が伸長した場合でも、肌あたりのよい編地を提供することが可能となる。
カバリング弾性糸を編地に使用する場合、芯糸の伸長方向が編地の伸縮方向となることが多い。それはカバリング弾性糸が芯糸として弾性糸を使用しているためである。
よって、撚糸の撚り方向と巻回方向を反対方向にすることで、カバリング弾性糸の表面に形成されたフィラメント同士の隙間である斜行溝の斜行方向が芯糸の伸長方向と略平行となり、着用者の肌にカバリング弾性糸が接触したとしても不快感が少なくなる。
この時カバリングの撚り回数は、前記撚糸の撚り回数±15%の範囲にて、前記撚糸の撚り方向とは反対方向に前期撚糸をカバリングすることで、カバリング弾性糸の表面に形成されたフィラメント同士の隙間である斜行溝の斜行方向が芯糸の伸長方向と略平行となる。
【0012】
本発明は、編糸にて編目を作りながら編成組織を有する編地において、前記編糸は、請求項1から3のいずれか一項記載の撚糸および/または請求項4もしくは5記載のカバリング弾性糸であることを特徴とする。
また本発明は、前記編地に前記カバリング弾性糸が編み込まれており、前記カバリング弾性糸の表面に設けられた前記フィラメント同士の隙間である斜行溝が前記編地の伸縮方向に略平行に配置されることを特徴とする。
本発明によれば、編糸にて編目を作りながら編成組織を有する編地において、本発明の撚糸および/または本発明のカバリング弾性糸を使用すると、伸縮性の高い編地であっても肌あたりがよくやわらかな風合いを得ることができ、また抗ピリング性および抗スナッグ性の優れた編地を提供することができる。さらに編地が頻回に伸び縮みを繰り返す作業着の開口部等に使用されたとしても、伸び縮みの際の編地の肌当たりがソフトで作業者にとって快適な作業着を提供することが可能となる。
【0013】
本発明の編地は、伸縮性の前記カバリング弾性糸にて編目を作りながら、ポリウレタン、ラテックス、エラストマ、天然ゴム、シリコンゴムのいずれか1種以上の弾性糸を経方向に編み込むとともに緯糸をコース方向に編み込んで形成された帯状の経編組織を有することを特徴とする。
伸縮性の経糸にて編目を作りながら、伸縮性の挿入糸を経方向に随時編目を構成または挿入編み込みするとともに緯糸をコース方向に編み込んで形成された経編組織は、長手方向(コース方向)には高い伸縮性を示し、その幅方向(ウェール方向)には非伸縮性を示す編地となる。
本発明によれば、長手方向に高い伸縮性を示す編地であっても、経糸として本発明のカバリング弾性糸を使用することにより、ストレッチ性が高く、編地が伸縮している場合および伸縮していない場合いつでも肌あたりがソフトでかつ抗ピリング性および抗スナッグ性を備えた編地を提供することが可能となる。
【0014】
本発明の編地は、作業着の袖口又は裾口のいずれかないしは両方に用いたことを特徴とする。
本発明の編地を作業着の袖口又は裾口に使用することで、頻回に伸び縮みを繰り返したとしても伸び縮みの際の肌あたりがよく、長時間着用しても作業者にとって快適な作業着を提供することが可能となる。また、洗濯および着用を頻繁に繰り返したとしても毛羽立ちや毛玉(ピリング)、引きつれ(スナッグ)が発生し難い作業着を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の撚糸によれば、フィラメントの太さおよび構成糸の撚りの回数に工夫を凝らすことにより、肌あたりがよくかつ抗ピリング性および抗スナッグ性が向上した撚糸を提供することが可能となる。
また本発明のカバリング弾性糸によれば、本発明の撚糸をカバリング弾性糸の側糸として使用することおよびカバリング弾性糸を形成する際に前記撚糸の撚り回数±15%の範囲にて、前記撚糸の撚り方向とは反対方向に前記撚糸をカバリングすることで、カバリング弾性糸が伸長した場合でも、肌あたりのよい編地を提供することが可能となる。
さらに本発明の編地によれば、本発明のカバリング弾性糸を使用することでストレッチ性が高くかつ肌あたりがよい編地を提供することが可能であるため、着用感が大変優れ、着け心地が好ましく、さらに毛羽立ちや毛玉(ピリング)、引きつれ(スナッグ)が発生し難く、作業着等に使用したとしても食品の異物混入が発生する等の問題を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の編地A1の一実施例である経編生地1e(1)の編組織を例示する組織図である。
【
図2】本発明の実施例である経編生地1e(1)の製造手順を例示するフローチャート図である。
【
図3】本発明の実施例である経編生地1e(1)の製編工程を機能的に示す図である。
【
図4】実施例1で形成された編地A11の顕微鏡拡大図を示す写真である。
【
図5】比較例1で形成された編地A12の顕微鏡拡大図を示す写真である。
【
図6】撚糸T1の撚り方向とカバリング弾性糸C1の巻回方向を説明する説明図であり、(a)は撚り方向がZ撚りの撚糸T1であり、(b)は撚糸T1の撚り方向がZ撚りで巻回方向がZ撚りであるカバリング弾性糸C1であり、(c)は撚糸T1の撚り方向がZ撚りで巻回方向がS撚りであるカバリング弾性糸C1である。
【
図7】本発明の実施例である経地A1を用いた作業着100の袖口部分101を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態において図面を引用しながら説明する。
【0018】
(撚糸)
本発明の撚糸T1は、複数のフィラメントF1によってなる構成糸Y1を撚り合わせて撚糸としたものである。
フィラメントF1は非弾性であり、レーヨン、ポリエステル、ナイロン、アクリル、天然繊維、指定外繊維等の材質で形成されている。
撚糸T1を形成する際に、同一の材質のフィラメントによってなる構成糸を撚り合わせてもよいし、異なる材質のフィラメントによってなる構成糸を撚り合わせてもよいし、異なる材質の構成糸を組み合わせて撚り合わせてもよい。
【0019】
構成糸Y1として、仮撚加工した糸を使用してもよい。ここで、仮撚加工とは、ウーリー加工や嵩高加工とも呼ばれており、例えば未加工の構成糸に、仮撚りスピンドルとヒータにより、加撚-熱固定-解撚の作用を与え、糸に捲き縮を発生させ、伸縮性を持たせたる加工である。
構成糸Y1は、加撚方向がS撚りもしくはZ撚りに仮撚加工される。
【0020】
撚糸T1は、フィラメントF1の本数が144本の仮撚加工した構成糸Y1もしくは仮撚加工していない構成糸Y1にて形成する。肌あたりの良さの観点から、1フィラメントあたりの繊度が3デニール以下であることが好ましく、構成糸Y1が150デニールの糸(1フィラメントあたり1.0416デニール)であることがより好ましい。
1フィラメントあたりの繊度を3デニール以下とすることで、生地に接触した際にソフトな感触を得ることが可能となる。
【0021】
また撚糸T1の撚り方向は、構成糸Y1が仮撚加工されている場合は構成糸Y1の仮撚方向と同一の方向に撚りをかける。具体的には、構成糸Y1の仮撚方向がS撚りの場合は撚糸T1の撚り方向をS撚りとし、構成糸Y1の仮撚方向がZ撚りの場合は撚糸T1の撚り方向をZ撚りとする。構成糸Y1が仮撚加工されていない場合は、S撚りでもZ撚りでもかまわない。
撚糸T1を形成する際の撚りの回数は、400T/m以上であることが好ましく、400~600T/mであることがさらに好ましい。適切な回数の撚りをかけることによって、撚糸T1の強度が向上し、糸が表面に突出する引きつれ(スナッグ)や毛玉(ピリング)を防止することが可能となる。
撚り姿は、片撚糸、諸撚糸、駒撚糸のいずれかで形成する。
【0022】
このように、使用するフィラメントF1の繊度や撚糸T1を形成する際の撚り回数を工夫することにより、肌あたりが良くかつ抗ピリング性、抗スナッグ性に優れた撚糸を形成することが可能となる。
【0023】
(カバリング弾性糸)
本発明のカバリング弾性糸C1は、弾性糸を芯糸C2とし、この芯糸C2にカバリングの側糸として撚糸T1を使用したものであり、カバリング機により芯糸C2を伸長した状態で、その周囲に撚糸T1(カバリング側糸)をS方向もしくはZ方向に巻き付けて被覆し、カバリング弾性糸C1を形成する。
芯糸C2は、ポリウレタン、ラテックス、エラストマ、天然ゴム、シリコンゴムのいずれか1種ないしはいずれか2種以上を用いた弾性糸から形成される。
カバリング弾性糸C1は、撚糸T1の撚り方向と反対方向に側糸をカバリングすることで形成されている。具体的には、撚糸T1の撚り方向がS撚りの場合はカバリングの巻回方向をZ撚りとし、撚糸T1の撚り方向がZ撚りの場合はカバリングの巻回方向をS撚りとする。
本発明のカバリング弾性糸C1で使用されている構成糸Y1の仮撚方向、撚糸T1の撚り方向およびカバリングの巻回方向の関係を(表1)に記す。
【0024】
【0025】
カバリング弾性糸C1は、シングルカバリング糸でもダブルカバリング糸でもよい。ダブルカバリング糸の場合は、カバリングの上撚りの方向を撚糸T1の撚り方向と反対方向とする。
【0026】
(編地)
本発明の編地A1は編糸を用いて編組織が形成された生地であり、編糸として本発明のカバリング弾性糸C1、緯糸として本発明の撚糸T1を使用するものである。
編地A1の種類は特に限定されず、経編、緯編、丸編のいずれも用いることが可能である。経編については、例えば丸編はダブルニット、シングルニットいずれでもよく、ダブルニットではスムース、モックロディ、ダンボールニット、インレイニット等を例示することができ、シングルニットでは天竺、シンカーパイル等が挙げられる。経編についてはトリコット地、シングルラッセル地、ダブルラッセル地などの経編地が挙げられる。
【0027】
図1は、本発明の編地A1の一実施例である経編生地1e(1)の編組織を例示する組織図である。
本発明の編地A1の一例である経編生地1e(1)は、編目を形成する伸縮性の経糸2と、経方向に随時編目を構成または挿入編み込みされた挿入糸3と、コース方向に編み込まれた非伸縮性の緯糸4で形成された経編生地であり、経糸2に本発明のカバリング弾性糸C1を適用したものである。
経編生地1は帯状のテープ生地であり、その長手方向には高い伸縮性を示し、その幅方向には非伸縮性を示す。符号2(21,22,23)は編目を形成した伸縮性の経糸であり、符号3(31,32,33)は経方向に随時編目を構成または挿入編み込みされた伸縮性の挿入糸であり、符号4はコース方向に編み込まれた非伸縮性の緯糸であり、これらの糸によって帯状の経編組織が形成されている。
上記の編成組織で編地A1を形成すること、および伸縮性の経糸と非伸縮性の緯糸と伸縮性の挿入糸を使用することによって、長手方向には高い伸縮性を示し、その幅方向には非伸縮性を示す編地A1を形成することができる。
【0028】
ここで、伸縮性の経糸2として本発明のカバリング弾性糸C1を適用したが、本発明の撚糸T1を適用してもよい。
【0029】
(経編生地の製造方法)
図2は、経編生地1の製造手順を例示するフローチャート図である。経編生地1の製造手順は、製経(符号S1)、製編(符号S2)、浸水と蒸気加熱(符号S3)、洗浄と乾燥(符号S4)、加熱(符号S5)、巻き取り(符号S6)の各工程からなる(
図1)。
図1に示すフローチャートに基づき、以下に説明する。
【0030】
製経(符号S1)は、製編の準備工程であり、芯糸に本発明の撚糸T1を巻き付けることで形成したカバリング弾性糸C1を経糸2とし、次に、上記糸の供給量のばらつきを軽減するため、複数本揃えてビームに巻き取るビーム製経を行なう。また必要に応じて本発明の撚糸T1を緯糸4とし、同様にビーム整経を行なう。
【0031】
図3は、本実施形態の経編生地1の製編工程(製編装置10)(符号S2)を機能的に示す図である。本実施形態の製編装置10は、上流側に配されたビーム20から供給される各糸を、下流側に配された経編機40にて製編する構成となっている(
図3)。
【0032】
本実施形態では、前記経編機40としてクロッシェ経編機またはラッシェル経編機を用いている。クロッシェ経編機40を用いることで、挿入糸3にさらに高い張力をかけることが容易となる。
【0033】
本実施形態では、挿入糸3の経路に、積極的送り手段33を配置し、この積極的送り手段33(30)によって挿入糸3の送り量をそれぞれ一定に保ちながら経編機40に送り出す構成となっている(
図3)。また、経糸2と緯糸4についてもそれぞれ糸の張力を一定にするために、積極的送り手段32と34がそれぞれ配置され、これらの積極的送り手段32,34(30)によって経糸2と緯糸4の送り量をそれぞれ一定に保ちながら経編機40に送り出す構成となっている(
図3)。これら積極的送り手段30は、挿入糸3ならびに経糸2にかける張力を高くした状態で経編機40に受け渡すことを容易とするため、経編機40に近い位置の上流側に配されている。
【0034】
前記製編工程(符号S2)で製編された経編生地1aは、水タンクにて浸水され、スチーミングボックスにて高温蒸気で蒸して生地を熱収縮させて経編生地1bとする(符号S3)。水タンク内の水温は10~30℃の常温である。スチーミングボックス内の高温蒸気の温度は104~106℃である。ここで、水タンク内の水を染色液とすれば、上記と同じ工程にて、染色された経編生地1とすることができる。
【0035】
前記浸水と蒸気加熱(符号S3)で蒸気加熱された経編生地1bは、複数のソーピングタンクにて洗浄液に浸漬されて経編生地1cとなり、乾燥ドラムにて乾燥されて経編生地1dとなる(符号S4)。前記ソーピングは、経編生地1bを構成する糸に付着している油分や汚れを既知の洗浄液で洗浄する工程である。そして、洗浄された経編生地1cは、乾燥ドラムによって乾燥されて経編生地1dとなる。
【0036】
前記洗浄と乾燥工程(符号S4)で洗浄され乾燥された経編生地1dは、タンブラーボックスにて加熱収縮され(符号S5)、自然冷却又は送風ファン等で強制冷却されて経編生地1eとなる(符号S6)。
【0037】
(実施例1)
<編成組織>
図1に示す編成組織(経編生地1)を採用し、編地A11を形成した。
<編糸の種類>
(1) 経糸
芯糸にポリウレタン糸を使用し、側糸としてポリエステル糸の構成糸Y1で形成された撚糸T1を使用してカバリング弾性糸C1を形成し、経糸とした。
撚糸T1に使用された構成糸Y1の仮撚方向と撚糸T1の撚り方向をZ撚りとし、さらに芯糸に撚糸T1をカバリングする際の撚糸T1を巻き付ける方向(巻回方向)をS方向とした。
(1-1)撚糸
撚糸T1として、150デニール/144フィラメント(167 dtex/144 filaments)の仮撚加工糸を用いた。また撚糸T1を形成する際の撚りの回数は、500T/mとした。
(2) 緯糸
上記撚糸T1を使用。
(3)挿入糸
市販のポリウレタン糸を使用。
【0038】
(比較例1)
<編成組織>
実施例1と同一の編成組織を使用し、編地A12を形成した。
<編糸の種類>
(1)経糸
芯糸に実施例1と同一のポリウレタン糸を使用し、側糸としてポリエステル糸の構成糸Y1で形成された撚糸T1を使用してカバリング弾性糸C1を形成し、経糸とした。
撚糸T1に使用された構成糸Y1の仮撚方向と撚糸T1の撚り方向をZ撚りとし、さらに芯糸に撚糸T1をカバリングする際の撚糸T1を巻き付ける方向(巻回方向)をZ方向とした。
(1-1)撚糸
撚糸T1として、150デニール/48フィラメント(167 dtex/48 filaments)の仮撚加工糸を用いた。また撚糸T1を形成する際の撚りの回数は、500T/mとした。
(2)緯糸
上記150デニール/48フィラメントの撚糸T1を使用。
(3)挿入糸
実施例1と同一の糸を使用。
【0039】
(経地の拡大観察)
図4は、実施例1で形成された編地A11の顕微鏡拡大図を示す写真であり、
図5は、比較例1で形成された編地A12の顕微鏡拡大図を示す写真である。
本発明品である実施例1の編地A11と比較例1である編地A12について、編地の表面を顕微鏡で拡大し観察を行った。
比較例1である編地A12の顕微鏡拡大図では、編地A12の伸縮方向に対して撚糸T1の撚りの斜行方向が垂直となっている。この場合、編地A12を着用し編地A12が伸縮方向に伸縮すると、撚糸T1の斜行によって形成される凹凸(斜行溝)が着用者の肌に接触し、凹凸(斜行溝)が伸縮方向に移動するためザラザラとした感触となり、肌あたりが悪くなってしまう。
一方、実施例1である編地A11の顕微鏡拡大図では、編地A11の伸縮方向に対して撚糸T1の撚りの斜行方向が略平行となっている。この場合は、編地A11を着用し編地A11が伸縮方向に伸縮すると、撚糸T1の斜行によって形成される凹凸(斜行溝)は着用者の肌に接触しているものの、伸縮方向に移動しないため、肌あたりが良好となる。
【0040】
図6は、撚糸T1の撚り方向とカバリング弾性糸C1の巻回方向を説明する説明図であり、(a)は撚り方向がZ撚りの撚糸T1であり、(b)は撚糸T1の撚り方向がZ撚りで巻回方向がZ撚りであるカバリング弾性糸C1であり、(c)は撚糸T1の撚り方向がZ撚りで巻回方向がS撚りであるカバリング弾性糸C1である。
撚糸T1の撚り方向およびカバリング弾性糸C1の巻回方向と編地を着用した場合の肌あたりの関係を以下説明する。
撚り方向がZ撚りの撚糸T1をカバリング弾性糸C1の側糸として使用した場合(
図6(a))、撚糸T1には紙面上右上から左下へ傾斜した凹凸(斜行溝)が形成される。この凹凸(斜行溝)は、フィラメントF1によってなる構成糸を撚った際に撚糸T1の表面に形成されるフィラメントF1同士の隙間である。撚糸T1をZ撚りに撚って形成した場合は、紙面上右上から左下へ傾斜した凹凸(傾斜溝)が形成され、撚糸T1をS撚りに撚って形成した場合は、紙面上左上から右下へ傾斜した凹凸(傾斜溝)が形成される。
撚り方向がZ撚りの撚糸T1をカバリング弾性糸C1の側糸としてZ撚りに巻き回した場合、凹凸(傾斜溝)が芯糸C2の伸長方向に略垂直に配置される(
図6(b))。
一方、撚り方向がZ撚りの撚糸T1をカバリング弾性糸C1の側糸としてS撚りに巻き回した場合、凹凸(傾斜溝)が芯糸C2の伸長方向に略平行に配置される(
図6(c))。
カバリング弾性糸C1を編地の経糸として適用する場合、芯糸C2の伸長方向が編地の伸縮方向となる。例えば実施例1のように、編地に対してカバリング弾性糸C1を経糸2として使用することで、経糸2の伸長方向(芯糸C2の伸長方向)に伸縮性の高い編地が得ることができる。
撚糸T1の撚り方向がZ撚りで巻回方向がZ撚りであるカバリング弾性糸C1を編地に使用した場合(
図6(b))、凹凸(傾斜溝)が編地の伸縮方向に略垂直に配置されるため、凹凸(斜行溝)が着用者の肌に接触して移動し、編地が伸縮するたびにザラザラとした不快な感触が残る。
しかしながら、撚糸T1の撚り方向がZ撚りで巻回方向がS撚りであるカバリング弾性糸C1を編地に使用した場合(
図6(b))、着用者の肌に接触する凹凸(斜行溝)の位置が変わらないため、不快感が少なくなる。
【0041】
(繊度の違いによるピリングおよびスナッグの観察)
細いフィラメントを使用した場合の編地A11(実施例1)と太いフィラメントを使用した場合の編地A12(比較例1)の肌あたりのよさ、ピリング性能およびスナッグ性能を観察した。
編地A11および編地A12を実際に触って肌あたりを調査すると、細いフィラメントF1を使用した編地A11は、太いフィラメントを使用した編地A12と比較して格段に肌あたりがよかった。
また、JIS L1076「織物及び編物のピリング試験方法」およびJIS L1058「織物及び編物のスナッグ試験方法」により、編地A11(実施例1)および編地A12(比較例1)にピリング試験およびスナッグ試験を行ったところ、生地表面の毛羽立ちや毛玉(ピリング)、引きつれ(スナッグ)に関しては、編地A11(実施例1)および編地A12(比較例1)ともに結果が良好で抗ピリング性および抗スナッグ性に優れた編地を得ることができた。
【0042】
(作業着への応用)
図7は、本発明の実施例である編地A1を用いた作業着100の袖口部分101を例示する図である。袖口部分の幅は50~100mm程度である。本発明の編地A1を袖口部分101に使用すると、作業者が長時間作業着100を着用したとしても、袖口部分101のストレッチ性が高くかつ肌あたりがよいため、着用感が大変優れ着け心地も好ましい作業着となる。また繰り返し作業着を洗濯したとしても、毛羽立ちや毛玉(ピリング)、引きつれ(スナッグ)が発生し難く、食品の異物混入が発生する等の問題を防止することが可能となる。
【0043】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0044】
1,1a,1b,1c,1d 経編生地、
2 経糸、
3 挿入糸、
4 緯糸、
20、22、23、24 ビーム、
30、32、33、34 積極的送り手段、
40 編編機、
A1,A11,A12 編地、
C1 カバリング弾性糸、
C2 芯糸、
F1 フィラメント、
T1 撚糸、
Y1 構成糸、
100 作業着、
101 袖口部分