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特許6989871乾燥血液ろ紙を用いた低ホスファターゼ症のマススクリーニング検査法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】乾燥血液ろ紙を用いた低ホスファターゼ症のマススクリーニング検査法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/42 20060101AFI20220104BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C12Q1/42
G01N33/48 B
G01N33/48 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2017245181
(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公開番号】P2018102294
(43)【公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2016249901
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本先天代謝異常学会雑誌第32巻、第58回日本先天代謝異常学会総会号、第177頁、日本先天代謝異常学会(発行日:平成28年9月30日)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第58回日本先天代謝異常学会総会において、ポスター発表(開催日:平成28年10月27日)
(73)【特許権者】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100156111
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】久米田 幸介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 文夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 公俊
【審査官】原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-323499(JP,A)
【文献】特開昭62-190191(JP,A)
【文献】特開平10-257899(JP,A)
【文献】Annals of Clinical Biochemistry,2000年,Vol. 37,p. 775-780
【文献】Orphanet Journal of Rare Diseases,2007年,Vol.2, No.40,p.1-8
【文献】Clinical Chemistry,1975年,Vol.21, No.12,p.1791-1794
【文献】Clinica Chimica Acta,2013年,Vol.424, p.12-18
【文献】Analytical Biochemistry,1999年,Vol.273,p.41-48
【文献】Proceeding of the Association of Clinical Biochemists,1967年,Vol.4, No.6,159-163
【文献】Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism,1998年,Vol.83, No.11,p.3951-3957
【文献】Advances in Clinical Chemistry,1967年,Vol.10,p.255-370
【文献】Biochemical Journal,1970年,Vol.116,p.543-544
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
G01N
C12M
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/CAplus(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚の乾燥血液ろ紙からアルカリホスファターゼ(ALP)酵素活性を簡易に測定する、低ホスファターゼ症のマススクリーニング検査方法であって、以下の工程を含む方法:
(1)乾燥血液ろ紙から、ウシ血清アルブミン(BSA)、アジ化ナトリウム及び界面活性剤を含む抽出液を用いて血液試料を抽出する工程、
(2)抽出した血液試料に合成基質である4-Methylumbelliferyl phosphateを含む基質液を添加して酵素反応を行わせる工程、ここで、前記基質液はクエン酸ナトリウムまたはコハク酸ナトリウム、L-フェニルアラニン及びMgCl を含むトリス緩衝液である、
(3)1~4時間の酵素反応を行わせ、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含むアルカリ緩衝液で反応を停止した後に生成物を蛍光測定する工程、
(4)得られた蛍光値からALP酵素活性を測定する工程、
(5)検体と正常人検体を(1)~(4)の工程により測定し、ALP酵素活性価が正常人の値より低い場合に低ホスファターゼ症患者と判定する工程。
【請求項2】
前記抽出液が、リン酸イオン及びクエン酸イオンを含まない緩衝液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記界面活性剤がTritonX-100であり、0.05%~0.5%で含まれる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記抽出液に、0.02%~0.1%のアジ化ナトリウム及び0.05%~0.5%のBSAが含まれる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法
【請求項5】
前記基質液における4-Methylumbelliferyl phosphate0.1mM~1.0mMで含まれる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記基質液のpHが9~11である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記基質液に、L-フェニルアラニンが1mM~30mM含まれる、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記基質液に、MgCl 0.5~2.0mM含まれる、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記基質液に、コハク酸ナトリウムが1mM~30mM含まれる、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記基質液に、0.01~0.1%のTritonX-100が含まれる、請求項からのいずれか一項に記載の方法
【請求項11】
前記反応停止液が、グリシン緩衝液である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記反応停止液のpHが10~11である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記酵素反応を、25~45℃の温度で行った後、前記反応停止液を添加する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法
【請求項14】
前記蛍光測定の測定波長が、励起波長365~375nm、検出波長460~470nmである、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
下記を含む、請求項1に記載の検査方法に使用するためのキット:
(1)乾燥血液ろ紙
(2)ウシ血清アルブミン(BSA)、アジ化ナトリウム及び界面活性剤を含む抽出液、
(3)合成基質である4-Methylumbelliferyl phosphateを含む基質液、ここで、前記基質液はクエン酸ナトリウムまたはコハク酸ナトリウム、L-フェニルアラニン及びMgCl を含むトリス緩衝液である、
(4)反応停止液、ここで、反応停止液はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含むアルカリ緩衝液である、及び
(5)酵素反応により得られた生成物を蛍光測定する手段。
【請求項16】
前記抽出液が、0.1%BSA、0.1%TrtionX-100及び0.05%アジ化ナトリウムを含む精製水である、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
前記合成基質を含む基質液が、0.2mM 4-methylumbelliferyl-phosphate、0.05%TritonX-100、10mMコハク酸ナトリウム、10mM L-フェニルアラニン及び1mM MgCl2を含むpH9~11の100mMトリス緩衝である、請求項15又は16に記載のキット。
【請求項18】
前記反応停止液が、10mM EDTAナトリウムを含む300mMグリシン-NaOH緩衝液(pH10.6)である、請求項15から17のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥血液ろ紙を用いた低ホスファターゼ症の簡易スクリーニング検査法に関する。
【背景技術】
【0002】
低ホスファターゼ症は骨系統疾患の一つで、組織非特異的アルカリホスファターゼ(Tissue-Nonspecific Alkaline Phosphatase;以下、「TNSALP」という。)の欠損が原因である。発症時期及び症状の広がりに基づいて、胎内で発病する「周産期型」、生後半年以内に発病する「乳児型」、小児期に発病し乳歯の早期脱落を伴う「小児型」、成人期に発病する「成人型」、症状が歯に限局する「歯限局型」の5つの病型に分類され、四肢短縮、内反膝、骨折、骨変形、低身長、痙攣、乳歯早期脱落などの症状を呈する。低ホスファターゼ症は致死率が高く、周産期型の1年死亡率はほぼ100%、乳児型の1年死亡率は約50%と言われている。
【0003】
低ホスファターゼ症は、別の先天性代謝異常症であるフェニルケトン尿症のように、摂取制限で治療できるような必須アミノ酸代謝異常とは異なり、それらの責任酵素であるTNSALPは生体内で合成されることから、根治には遺伝子治療が必要である。現在は、酵素補充療法のための薬剤が市販され、多くの場合、酵素補充療法の早期治療開始により、患者のQOL向上や発症の予防など臨床的改善がもたらされる。このため、これらの疾患が新生児マススクリーニング検査によって早期に発見されることが望まれている。
【0004】
新生児マススクリーニング検査では、通常、血液をしみ込ませて乾燥させたろ紙(以下、「乾燥血液ろ紙」という。)を試験検体として用い、タンデムマス分析法、酵素免疫測定法(ELISA法)、酵素法、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)などにより、数十種類の先天性代謝異常症の有無を検出している。しかしながら、これらの既存のマススクリーニング検査法では、TNSALPの酵素活性を特異的に測定することができないため、低ホスファターゼ症の検査に使用した例は報告されていない。
【0005】
生体中のアルカリホスファターゼ(Alkaline Phosphatase;以下、「ALP」という。)は、小腸粘膜、胎盤、乳腺、腎臓、骨、肺、肝臓、脾臓の順に多く、骨格筋や結合組織には少ない。血清中のALP酵素活性は、これらの組織で産生されたALPに由来する。ALPは、遺伝子の違いにより、臓器非特異型である骨型、肝臓型、腎臓型、及び臓器特異的な小腸型、胎盤型、胚細胞型に大別される。TNSALPは、臓器非特異型ALPである。血清中には、臓器非特異型と臓器特異型のALPが混在し、これら6種類のALPアイソザイムのトータル酵素活性として計測される。
【0006】
特に近年、骨形成マーカーとして骨型アルカリホスファターゼ(BAP;Bone Specific Alkaline Phosphatase)が注目され、血清中のBAPを特異的に測定するためにBAP特異抗体を用いた酵素免疫測定法(ELISA法)や化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)などが開発され測定キットとして市販されている。しかしながら、これらの測定キットは高価であり、かつ専用の自動分析装置が必要となるため、マススクリーニング検査には適さない。
【0007】
低ホスファターゼ症は、TNSALP遺伝子の異常により、TNSALPの酵素活性が低下することによって引き起こされる。このため、血清中の総ALP酵素活性が低下していることを測定で確かめることによって容易に判別することができる。
【0008】
血清中のALP酵素活性は、パラニトロフェニルリン酸(以下、「p-NPP」という。)を基質とした測定方法が一般的に利用され、生化学自動分析装置を用いて測定されている。しかしながら、ヘモグロビンなどの血色素の影響を受けやすく、全血検体又は溶血した検体での測定には適さない。また、より高感度な基質として、蛍光基質を用いた酵素活性法もある。合成基質である4-Methylumbelliferyl phosphate(以下、「4MU-Phos」という。)を基質として用いる方法は、微生物が産生するALP酵素活性や酵素免疫測定法などの基質として広く利用されているものの、4MU-Phosは、鉄(II)イオン(Fe2+)のような2価の金属イオンにより自己分解を引き起こすため、ヘモグロビンが共存するような試料を測定することはできない。
【0009】
ALPの酵素活性の発現には、マグネシウムイオン(Mg2+)が必須であり、ALP測定時にはMg2+の共存が必須となるため、ヘモグロビンなどFe2+を多く含む試料を測定する場合には、Mg2+の作用を妨害せず、Fe2+など基質の自己分解に作用する金属イオンをマスクするような添加剤の共存が必要である。
【0010】
特許文献1には、アルカリホスファターゼを産生する細胞の培養液中ALP活性を4MU-Phos又はp-NPPを用いて測定することにより、細胞の培養状況をモニタリングする方法が記載されている。
【0011】
特許文献2には、小腸型アルカリホスファターゼを完全に阻害するL-フェニルアラニン(阻害剤)を用いて、阻害剤を含まないp-NPP基質液と阻害剤を含むP-NPP基質液を用いて得られたALP活性の差を利用して、小腸型アルカリホスファターゼ活性を特異的に測定する方法が記載されている。
【0012】
特許文献3には、低ホスファターゼ症のスクリーニング方法として、TNSALP遺伝子断片を数種類プライマーを用いて増幅させることにより、TNSALP遺伝子の変異を検出し、低ホスファターゼ症を検出する方法が記載されている。
【0013】
非特許文献1には、低ホスファターゼ症では、TNSALP遺伝子の変異により、血清中ALP活性の著しい低下が認められるため、一般の血液生化学検査でALP活性を測定する診断が有効であることが記載されている。
【0014】
非特許文献2には、4MU-Phosを用いて血清中の酸性ホスファターゼとアルカリホスファターゼを測定する方法が記載されている。
【0015】
非特許文献3には、p-NPPを用いて、培養細胞表面に結合しているALPの活性を測定する方法が記載されている。
【0016】
非特許文献4には、TNSALPの中で、骨形成マーカーとして有用な骨型アルカリホスファターゼ(BAP)を特異的に測定する方法として酵素免疫測定法(EIA法)及び化学発光免疫測定法(CLIA法)が有用であることが記載されている。
【0017】
非特許文献5には、ヒト由来ALPについても動物由来ALPと同様にALPアイソザイムのタイプにより阻害剤に対する反応性が異なることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開2005-58225
【文献】特開2003-180296
【文献】特開2011-50283
【非特許文献】
【0019】
【文献】Orphanet Journal of Rare Disease 2007 2:40
【文献】CLINICAL CHEMISTRY 1975 ;21(12): 1791-1794
【文献】Cell Biology International 2007; 31: 186-190
【文献】モダンメディア 2012;58(5):143-148
【文献】北海道歯学雑誌 2012;32(2):202-209
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、乾燥血液ろ紙を検体としてTNSALPの酵素活性を測定する方法を、大規模な測定機器や専用装置を必要とせず、簡易かつ安価に実施する方法を提供することを目的とする。本発明による方法を利用することで、新生児の低ホスファターゼ症のマススクリーニング検査が可能となる。
【0021】
新生児マススクリーニング検査は、乾燥血液ろ紙から抽出した試料を測定検体として用いる。従来の測定方法では、乾燥血液ろ紙を用いたALPの測定は不可能であり、このため低ホスファターゼ症のスクリーニング検査は実施できなかった。また、p-NPPや4MU-Phosの合成基質を用いた活性測定では、酵素反応を5~30分以内で測定する必要があり、マイクロプレートを用いて酵素反応を行わせるマススクリーニング検査においては、酵素反応時間が短すぎ、一度に大量の検体を同時に測定するには適しなかった。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、乾燥血液ろ紙から測定試料を抽出する際の酵素活性の低下や酵素活性測定時のpHに影響を及ぼさない抽出液の組成を見出した。さらに、当該抽出試料が高感度に測定できる基質液組成と酵素反応を停止させる反応停止液の組成を見出した。
【0023】
また、酵素活性の測定波長をシフトさせることで、乾燥血液ろ紙の抽出液中の蛍光物資や蛍光阻害物資の影響が少なくなることを発見した。
【0024】
さらに、各酵素の単位時間当たりの酵素活性は、酵素反応時間が長くなればなるほど低下する事実を見出した。そして、これに基づいて酵素反応時間をマススクリーニング検査にも十分利用できる測定条件(基質濃度、試料液量、基質液量、反応停止液量、酵素反応時間)を設定することにより、安価でかつ実用可能な基質液組成を設定することができ、測定操作の作業性が向上した。
【0025】
これらの知見に基づいて、1枚の乾燥血液ろ紙から抽出した試料より、TNSALP酵素活性を簡易、効率的かつ安価に検出する方法を見出し、本発明を完成した。
【0026】
すなわち本発明は、1枚の乾燥血液ろ紙から抽出した試料を用いて、マススクリーニング検査に適切な反応時間、簡易な操作により、TNSALP酵素活性を安価な基質液を用いて測定することで、低ホスファターゼ症を検出する方法、及び当該検査方法に使用するためのキットを提供する。
【0027】
したがって、本発明は以下を含む。
[1]1枚の乾燥血液ろ紙からアルカリホスファターゼ(ALP)酵素活性を簡易に測定する、低ホスファターゼ症のマススクリーニング検査方法であって、以下の工程を含む方法:
(1)乾燥血液ろ紙から抽出液を用いて血液試料を抽出する工程、
(2)抽出した血液試料に合成基質を含む基質液を添加して酵素反応を行わせる工程、
(3)酵素反応により得られた生成物を蛍光測定する工程。
[2]上記抽出液が、リン酸イオン及びクエン酸イオンを含まない緩衝液である、[1]に記載の方法。
[3]上記抽出液に界面活性剤が含まれる、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]上記界面活性剤がTritonX-100であり、0.05%~0.5%で含まれる、[3]に記載の方法。
[5]上記抽出液に、0.02%~0.1%のアジ化ナトリウム及び0.05%~0.5%のウシ血清アルブミン(BSA)が含まれる、[1]から[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]上記基質液が、4-Methylumbelliferyl(4MU)合成基質を含む緩衝液である、[1]から[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7]上記基質液における4MU合成基質が、4MU-Phosであり、0.1mM~1.0mMで含まれる、[6]に記載の方法。
[8]上記基質液のpHが9~11である、[6]又は[7]に記載の方法。
[9]上記基質液の緩衝液が、トリス緩衝液である、[8]に記載の方法。
[10]上記基質液に、1mM~30mMのL-フェニルアラニン(以下、「L-Phe」と略す。)が、組織非特異型アルカリホスファターゼ以外のアルカリホスファターゼを阻害する選択的阻害剤として含まれる、[6]から[9]のいずれか一項に記載の方法。
[11]上記基質液に、0.5~2.0mMのMgCl2が活性増強剤として含まれる、[6]から[10]のいずれか一項に記載の方法。
[12]上記基質液に、1mM~30mMのコハク酸ナトリウムが、基質自己分解抑制剤として含まれる、[6]から[11]のいずれか一項に記載の方法。
[13]上記基質液に、0.01~0.1%のTritonX-100が含まれる、[6]から[12]のいずれか一項に記載の方法。
[14]工程(2)において、酵素反応の停止を、酵素反応溶液にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む反応停止液を添加することにより行う、[1]から[13]のいずれか一項に記載の方法。
[15]上記反応停止液が、グリシン緩衝液である、[14]に記載の方法。
[16]上記反応停止液のpHが10~11である、[15]に記載の方法。
[17]上記酵素反応を、25~45℃の温度で行った後、上記反応停止液を添加する、[14]から[16]のいずれか一項に記載の方法。
[18]上記酵素反応を1~4時間で行う、[1]から[17]のいずれか一項に記載の方法。
[19]上記蛍光測定の測定波長が、励起波長365~375nm、検出波長460~470nmである、[1]から[18]のいずれか一項に記載の方法。
[20]下記を含む、[1]に記載の検査方法に使用するためのキット:
(1)乾燥血液ろ紙
(2)抽出液、
(3)合成基質を含む基質液、
(4)反応停止液、及び
(5)酵素反応により得られた生成物を蛍光測定する手段。
[21]上記抽出液が、0.1%BSA、0.1%TrtionX-100及び0.05%アジ化ナトリウムを含む精製水である、[20]に記載のキット。
[22]上記合成基質を含む基質液が、0.2mM 4MU-Phos、0.05%TritonX-100、10mMコハク酸ナトリウム、10mM L-Phe及び1mM MgCl2を含むpH9~11の100mMトリス緩衝である、[20]又は[21]に記載のキット。
[23]上記反応停止液が、10mM EDTAナトリウムを含む300mMグリシン-NaOH緩衝液(pH10.6)である、[20]から[22]のいずれか一項に記載のキット。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、乾燥血液ろ紙を検体として利用する新生児マススクリーニング検査において、1枚の乾燥血液ろ紙から、低ホスファターゼ症の責任酵素であるTNSALPの酵素活性測定を可能とした。
【0029】
本発明は、基質の安定化を図ることで、マススクリーニング検査に利用可能な基質組成を提供する。マススクリーング検査では、96ウェルマイクロプレートを用いて多数の検体を測定するが、本発明による基質組成を用いることにより測定時間が最適化され、検査の煩雑さが回避させるため、一度に多数の検体の測定が可能となる。
【0030】
本発明により、検体としての血液が採取しにくい新生児について、既存の新生児代謝異常で使用した乾燥血液ろ紙をそのまま使用することができるようになった。すべての新生児について、低ホスファターゼ症の可能性が検出できれば、未だ臨床症状が現れていない出生後の早期の段階で、酵素補充療法、遺伝子治療、骨髄移植等が実施でき、骨形成異常や発達の遅れ等をくい止めることができる可能性が高くなる。
【0031】
さらに本発明は、マススクリーニング検査での低ホスファターゼ症の検出のみならず、病状の把握、治療方針の決定、治療効果の確認、経過観察、モニタリング、医薬品開発の評価等へも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明での酵素活性測定法を例示したフローチャートである。
図2】基質液の緩衝液(トリス緩衝液、2-エチルアミノエタノール緩衝液(EAE緩衝液)、イミノジエタノール緩衝液(DEA緩衝液))と蛍光強度(RFU)の関係を示す。、
図3】基質液中の4MU-Phos濃度(mM)と蛍光強度(RFU)の関係を示す。(図中では4MU-Phosを4MU-Pと表記)
図4】基質液へ添加した金属キレート剤(EDTA、クエン酸Na、コハク酸Na)と蛍光強度(RFU)の関係を示す。
図5】基質液へのクエン酸、コハク酸の添加濃度(mM)と蛍光強度(RFU)の関係を示す。
図6】基質液へ添加したレバミソール(levamisole)、L-Pheと酵素活性(pmol/hr/disk)の関係を示す。
図7】基質液中のL-Phe濃度(mM)と蛍光強度(RFU)の関係を示す。
図8】本発明で使用する標準品(4MU)の濃度(μM)と蛍光強度(RFU)の関係を示す。本発明測定では検量線として使用した。
図9】TNSALPの酵素活性(pmol/hr/disk)と酵素反応時間(hr)との関係を示す。
図10】新生児2,659例の乾燥血液ろ紙中のTNSALP酵素活性分布図を示す。矢印は、低ホスファターゼ症患者の乾燥血液ろ紙中のTNSALP酵素活性(pmol/hr/disk)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(発明の詳細な説明)
本発明は、1枚の乾燥血液ろ紙から、TNSALPを含む血液を抽出し、抽出した血液試料を利用して、乾燥血液ろ紙中の酵素活性を測定する方法である。
【0034】
本発明方法による測定は、(1)乾燥血液ろ紙から抽出液を用いて血液試料を抽出する工程、(2)抽出試料に合成基質を含む基質液を添加して、酵素反応を行わせる工程、(3)酵素反応により得られた生成物を蛍光測定する工程の3ステップにより完了する。
【0035】
血液試料の酵素活性測定では、抽出試料と基質液を混合した場合に酵素活性測定に適するpHになるように抽出液と基質液のどちらか一方で、又は両方で最適pHの緩衝能を持つ組成にする必要がある。
【0036】
本発明では、TNSALPの酵素活性測定を妨害せず、かつ乾燥血液ろ紙から効果的に酵素を抽出することができる抽出液組成を見出し、1枚の乾燥血液ろ紙からTNSALP活性を測定することを可能とした。
【0037】
本発明方法による抽出液は、基質液と混合したときに酵素反応の最適pHを阻害しない低緩衝能の緩衝液であり、好ましくは、ALP酵素の反応を妨害するリン酸イオンやクエン酸イオンを含まない緩衝液である。
【0038】
本発明方法による抽出液は、酵素反応を妨害するイオンを含まず、抽出した酵素の安定化をはかるために、ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」という。)などの希薄な蛋白質を共存させpH緩衝能を持たせると共に、測定する酵素が細胞表面の細胞膜上に存在するため、抽出時に細胞膜を破砕して酵素を抽出液中に遊離させる作用を持つ界面活性剤(TritonX-100など)を共存させることが好ましい。
【0039】
本発明による抽出液は、測定対象の酵素活性の抑制には働かず、酵素を抽出する過程で目的以外の酵素活性による非特異反応を抑制する作用を持つ添加物を共存させ、かつ乾燥血液ろ紙からの抽出を促進させるための界面活性剤を共存させることが好ましい。
【0040】
本発明による抽出液に添加する界面活性剤は、一般的に、作用させる濃度により酵素反応を抑制したり、増強させたりするため、酵素活性を阻害しない濃度で添加する必要がある。
【0041】
本発明の一実施形態の抽出液の組成は、「0.1%BSA、0.1%TrtionX-100、0.05%アジ化ナトリウムを含む精製水」である。抽出液中のBSAは、抽出液に弱いpH緩衝能を持たせると共に、ALP酵素活性の保護に作用する。アジ化ナトリウムは、血液中に存在するペルオキシダーゼ類による非特異反応を防止すると共に、抽出液の防腐効果のために添加させる。界面活性剤であるTritonX-100は、乾燥血液ろ紙からの血液成分の溶出と細胞膜破砕による酵素の溶出を促進し、抽出時間の短縮のために添加される。各添加剤の濃度は、酵素活性を抑制しない濃度として設定することが好ましい。
【0042】
本発明による基質液は、ALP酵素活性測定に適したpH域で緩衝能を持つ緩衝液を使用することにより、抽出液で抽出した血液試料を用いて酵素の測定が可能となる。
【0043】
基質液に使用する合成基質は、測定対象酵素の特異基質となる構造を有する基質であることが必要である。そのような合成基質を使用することにより対象の酵素との反応特異性を向上させることができる。しかしながら、抽出された血液試料中には、無数の類似反応をする酵素やALPアイソザイムが存在するため、更に特異性を高めるための、類似酵素阻害剤の共存が好ましい。
【0044】
本発明の一実施形態の基質液は、以下の基質液組成からなる。すなわち、TNSALP酵素活性測定に使用する基質液(以下、「TNSALP基質液」という。)は、「0.2mM 4MU-Phos、0.05%TritonX-100、10mMコハク酸ナトリウム(以下、「コハク酸Na」と略す。)、10mM L-Phe、1.0mM MgCl、を含むpH9~11の100mMトリス緩衝液」の組成からなる。
【0045】
TNSALP基質液に添加される類似酵素阻害剤(L-Phe)は、TNSALP以外のALPアイソザイム(小腸型ALP、胎盤型ALP、生殖細胞型ALP)を阻害し、TNSALP酵素活性測定の特異性の強化に作用する。その濃度は1mM以上であれば良く、5~30mMであればALPアイソザイム類による酵素反応を完全に阻害することができる。
【0046】
TNSALP基質液のBase緩衝液は、pH9~11のアルカリ性側で酵素反応を起こさせるため、エタノールアミン類の緩衝液が一般に利用されているが、乾燥血液ろ紙抽出試料中のALP濃度は、血清試料を用いた場合に比べて低濃度での活性測定となるため、より高感度に測定することができるトリスヒドロキシメタン緩衝液が良く、好ましくは、pH10.0のトリス-NaOH緩衝液である。
【0047】
TNSALP基質液に添加される基質安定剤(コハク酸Na)は、ALPの活性発現に必要なMg2+の作用を妨害せず、血液試料やその他の試薬から混入するFe2+など基質自己分解金属である2価イオンを阻害するために添加する。その濃度は2mM以上であれば良く、好ましくは、5~30mMが良い。
【0048】
TNSALP基質液に添加されるALP活性増強剤(MgCl2)は、ALPの活性発現に必要なMg2+を基質液に供給する。その濃度は0.1mM以上であれば良く、好ましくは、0.5~3mMが良い。
【0049】
酵素反応により生成する反応生成物は、アルカリ域に強い蛍光を発する4MUである。この生成物の蛍光強度を測定することにより、酵素活性を測定する本反応では、酵素反応を停止させると共に蛍光の安定化のため反応停止液を添加して測定することで高感度な検出が可能となる。
【0050】
4MUは、pH9~11のアルカリ域で最も強い蛍光を発する。酵素反応はpH10の基質液中で行わせるため、pHをアルカリ側にシフトさせる必要はないが、ALPの酵素反応を停止させるために、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等の強力な金属キレート剤を用いることが望ましい。
【0051】
反応停止液は、EDTA等の金属キレート剤を含み、アルカリ域に強い緩衝能を持ち、基質液より高濃度のアルカリ緩衝液が望ましい。
【0052】
本発明の一実施形態で使用可能な反応停止液として、「10mMのEDTAを含む300mMグリシン-NaOH緩衝液(pH10.6)」が挙げられ、この反応停止液を使用することにより、酵素反応を停止させると共に反応生成物(4MU)の蛍光を増強させて測定することができる。
【0053】
反応生成物(4MU)は、pH8を超えるアルカリ域では、360nm付近の紫外線を吸収して、450nm付近に最大蛍光強度を持つ蛍光を発する。
【0054】
乾燥血液ろ紙抽出物には、ヘモグロビンなどの4MU蛍光測定を妨害する色素蛋白や紫外線を吸収して4MU励起効率を阻害する核酸成分などが含まれる。本発明では、血液成分を含む反応液での測定で、血液成分の阻害を少なくし4MUを測定するために、測定の波長を4MUの最大励起と最大蛍光波長を意図的にシフトさせて測定する。
【0055】
この励起波長と測定波長のシフトにより、これまで、血液成分の影響で測定ができなかた低濃度の酵素活性を効率よく測定することができ、高感度な測定が可能となった。
【0056】
本発明での一実施形態での蛍光測定の波長は、励起波長370nmと検出波長465nmの組み合わせである。
【0057】
酵素活性は、乾燥血液ろ紙1枚当たりの単位時間に得られる4MU産生量として計算する。4MU産生量は、4MU標準品の蛍光強度と抽出試料の蛍光強度を比較して算出する。また、酵素活性の計算式は、以下の式により算出する。
酵素活性(pmol/hr/disk)=抽出試料の4MU量(μM)×抽出試料量(μL)÷酵素反応時間(hr)×(乾燥血液ろ紙1枚当たりの抽出液量(μL)÷抽出試料量(μL))
【0058】
本発明での一実施形態での測定操作は、乾燥血液ろ紙1枚をマイクロプレートのウェル内に入れ、200μLの抽出液を添加して、1時間の抽出反応を行わせる。抽出された血液試料は、20μLずつ別のマイクロプレートにwell to wellで移注し、そこに基質液を20μL添加して、25~45℃で1~24時間反応させる。
【0059】
ALP測定での酵素反応時間は、5分~15分が一般的であるが、本測定系の場合、マイクロプレートを用いて、多数の検体の同時測定ができることを可能とするため、酵素反応が1~24時間で測定できるように基質組成を設定している。この測定条件での酵素活性は、24時間反応させた場合より高活性を示す。酵素反応時間は、1~4時間が好ましい。酵素反応終了後、各反応液に反応停止液を200μL添加して酵素反応を停止させる。蛍光マイクロプレートオートリーダーを用いて、励起波長370nm、検出波長465nmで蛍光を測定し、4MU標準品の蛍光強度と比較して酵素活性を算出する。
【0060】
本発明はまた、本発明の検査方法に使用するためのキットを提供する。本発明のキットは、以下の構成を含む:
(1)乾燥血液ろ紙
(2)抽出液、
(3)合成基質を含む基質液、
(4)反応停止液、及び
(5)酵素反応により得られた生成物を蛍光測定する手段。
【0061】
本発明のキットに含まれる上記抽出液は、0.1%BSA、0.1%TrtionX-100及び0.05%アジ化ナトリウムを含む精製水であるのが好ましい。
【0062】
本発明のキットに含まれる上記合成基質を含む基質液は、TNSALP基質液の組成であるのが好ましい。
【0063】
本発明のキットに含まれる上記反応停止液は、10mM EDTAナトリウムを含む300mMグリシン-NaOH緩衝液(pH10.6)であるのが好ましい。
【0064】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0065】
実施例において用いた検体、試薬等は以下のとおりである。
[検体及び標準品]
・検体:乾燥血液ろ紙(φ3mmに切り出して使用)
・4MU標準品:SIGMA-ALDRICH社製、Product No.M1381
【0066】
[合成基質]
・4MU-Phos:SIGMA-ALDRICH社製、Product No.M8883
【0067】
[類似酵素阻害剤]
・L-Phe:和光純薬社製、試薬特級
【0068】
[基質安定剤]
・コハク酸Na(和光純薬社製 試薬特級)
【0069】
・抽出液:0.1% BSA、0.1%TrtionX-100及び0.05%アジ化ナトリウムを含む精製水
・反応停止液:10mM EDTA、300mMグリシン-NaOH緩衝液(pH10.6)
【0070】
〔測定機器/器具〕
・マイクロプレート:96well透明マイクロプレート(GREINER社製)
・Blackマイクロプレート:蛍光測定用96well Blackマイクロプレート(NUNC社製)
・蛍光オートリーダー:Infinite M200PRO(TECAN製)
【実施例1】
【0071】
基質液の緩衝液検討
ALP活性で広く使用されている2-エチルアミノエタノール緩衝液(EAE緩衝液)、イミノジエタノール緩衝液(DEA緩衝液)、及びトリス緩衝液を用いて、基質液の緩衝液を検討した。
【0072】
(1)検体、試薬等
・検体:乾燥血液ろ紙(正常ヒト)sample1、2、3
・基質液:0.2mM 4MU-Phos、0.05%TritonX-100、10mM L-Phe、1.0mM MgCl、10mMコハク酸Naを含むpH10.0の下記(i)~(iii)の緩衝液
(i)100mMトリス緩衝液
(ii)10%EAE緩衝液
(iii)10%DEA緩衝液
【0073】
(2)測定方法
乾燥血液ろ紙より、φ3.0mmの乾燥血液ろ紙検体をマイクロプレートの各ウェルに切り出し、各ウェルに200μLの抽出液を添加して、室温で振とうしながら1時間の抽出操作を行った。抽出された血液試料を20μLずつBlackマイクロプレートに移注した。検体の入ったウェルに基質液を20μL添加し、37℃の恒温槽内に4時間静置して酵素反応を行わせた。酵素反応終了後、反応停止液を各ウェル200μL添加して、軽く混合した後、蛍光オートリーダーを用いて、励起波長370nm、検出波長465nmで蛍光強度を測定した。
【0074】
(3)結果
結果を図2に示す。4MU-Phosを用いて乾燥血液ろ紙より抽出した検体を測定する本発明の測定では、一般的に用いられるALP測定用緩衝液(EAE緩衝液やDEA緩衝液)を用いても十分な酵素反応が起きず、トリス緩衝液でのみ測定に必要な酵素反応が起きた。このため、本発明におけるTNSALP基質液はトリス緩衝液とした。
【実施例2】
【0075】
基質液の4MU-Phos濃度検討
基質液中の4MU-Phosの濃度を0.0625mMから0.5mMまでの4段階で変えて酵素反応後の蛍光強度を測定した。
【0076】
(1)検体、試薬等
・検体:乾燥血液ろ紙(正常ヒト)sample1、2、3
・基質液:0.0625mM~0.5mM 4MU-Phos、0.05%TritonX-100、10mM L-Phe、1.0mM MgCl、10mMコハク酸Naを含むpH10.0の100mMトリス緩衝液
【0077】
(2)測定方法
実施例1「(2)測定方法」と同様の方法で測定を行った。
【0078】
(3)結果
結果を図3に示す。4MU-Phos濃度を0.0625mM~0.5mMまで変えても、乾燥血液ろ紙をサンプルとして測定するのに十分な蛍光強度が得られることが分かった。
【実施例3】
【0079】
基質液への金属キレート剤添加検討
ALPの酵素活性発現にはMg2+の共存が必須であるが、ヘモグロビン由来のFe2+などMg2+以外の2価金属イオンが多量に存在すると合成基質の自己分解が促進されてしまう。このため、Mg2+の効果を阻害しない金属キレート剤3種(EDTA・4Na(キレート定数16.5)、クエン酸Na(キレート定数11)、及びコハク酸Na(キレート定数13))について、基質液への添加効果を調べた。
【0080】
(1)検体、試薬等
・検体:乾燥血液ろ紙(正常ヒト)
・基質液:
(i)0.2mM 4MU-Phos、0.05%TritonX-100、10mM L-Phe、1.0mM MgCl、を含むpH10.0の100mMトリス緩衝液
(ii)(i)に4mM EDTA・4Naを加えたもの
(iii)(i)に4mMクエン酸Naを加えたもの
(iv)(i)に4mMコハク酸Naを加えたもの
【0081】
(2)測定方法
実施例1「(2)測定方法」と同様の方法で測定を行った。
【0082】
(3)結果
結果を図4に示す。3種の金属キレート剤の中でキレート定数が一番高いEDTA・4Naを添加した場合はALP測定が阻害されることが分かった。一方、キレート定数がEDTA・4Naよりも低いクエン酸Naやコハク酸Naであれば、本測定法でのALP測定を阻害せず、添加しなかった場合と同等の蛍光強度が得られることが分かった。
【実施例4】
【0083】
基質液へのクエン酸Na、コハク酸Naの添加濃度検討
基質液のクエン酸Na又はコハク酸Naの添加濃度を変えてTNSALP活性を測定した。
【0084】
(1)検体、試薬等
・検体:乾燥血液ろ紙(正常ヒト)
・基質液:0.2mM 4MU-Phos、0.05%TritonX-100、10mM L-Phe、1.0mM MgCl、及び下記(i)又は(ii)を含むpH10.0の100mMトリス緩衝液
(i)0~8mMクエン酸Na
(ii)0~8mMコハク酸Na
【0085】
(2)測定方法
実施例1「(2)測定方法」と同様の方法で測定を行った。
【0086】
(3)結果
結果を図5に示す。クエン酸Naを加えた場合は、4mM以上の濃度で活性低下が認められたが、コハク酸Naを加えた場合は活性測定には影響を及ぼさなかった。このことから、基質安定剤としてはコハク酸Naが最も適していることが示された。
【実施例5】
【0087】
基質液へのレバミソール、L-Phe添加効果検討
TNSALP阻害剤として知られるレバミソール(Levamisole)と小腸型、胎盤型、生殖細胞型などのALP阻害剤として知られるL-Pheについて、基質液への添加効果を検討した。
【0088】
(1)検体、試薬等
・検体:乾燥血液ろ紙(正常新生児乾燥血液ろ紙 n=74)
・基質液:
(i)0.2mM 4MU-Phos、0.05%TritonX-100、10mMコハク酸Na、1.0mM MgCl、を含むpH10.0の100mMトリス緩衝液
(ii)(i)に0.3mMレバミソールを加えたもの
(iii)(i)に10mM L-Pheを加えたもの
【0089】
(2)測定方法
37℃の恒温槽内での酵素反応時間を1時間とした以外は、実施例1「(2)測定方法」と同様の方法で測定を行った。
【0090】
(3)結果
結果を図6に示す。TNSALPを50%阻害するのに必要なレバミゾール濃度は0.03mMであることが知られており、0.3mMの使用ではTNSALPが十分阻害されていると考えられる。これにより、新生児血液中の大部分は、レバミゾールにより阻害されるTNSALPの活性であることが分かった。一方、L-PheのTNSALP50%阻害濃度は31mMであることが知られており、小腸型は0.8mM、胎盤型は1.1mM、生殖細胞型は0.8mMとの報告があることから、10mM L-Pheの添加は、小腸型、胎盤型、生殖細胞型のALPを完全に阻害していると考えられる。したがって、本測定系に10mM L-Pheを添加しておことでTNSALP活性が測定できることが明らかとなった。
【実施例6】
【0091】
基質液のL-Phe濃度検討
基質液のL-Phe濃度を変えて、酵素反応後の蛍光強度を測定した。
【0092】
(1)検体、試薬等
・検体:乾燥血液ろ紙(正常ヒト)sample1、2、3
・基質液:2mM 4MU-Phos、0.05%TritonX-100、10mMコハク酸Na、0~8mM L-Phe、1.0mM MgCl、を含むpH10.0の100mMトリス緩衝液
【0093】
(2)測定方法
実施例1「(2)測定方法」と同様の方法で測定を行った。
【0094】
(3)結果
結果を図7に示す。前述の通り、ALP阻害剤であるL-Pheの50%阻害濃度は、TNSALPで31mM、小腸型で0.8mM、胎盤型で1.1mM、生殖細胞型で0.8mMである。本測定により、TNSALPの50%阻害濃度(31mM)より低く、かつTNSALP以外のALPの50%阻害濃度の2倍より高い濃度の範囲内で設定することが望ましいことが分かった。
【0095】
実施例1~6の結果をふまえ、本発明におけるTNSALP基質液を「0.2mM 4MU-Phos、0.05%TritonX-100、10mMコハク酸Na、10mM L-Phe、1.0mM MgCl2、を含むpH9~11の100mMトリス緩衝液」とした。
【実施例7】
【0096】
酵素反応時間検討
乾燥血液ろ紙を検体としてTNSALP酵素活性を酵素反応の時間を変えて検出を試みた。
(1)検体、試薬等
・検体:正常人ヒト乾燥血液ろ紙(新生児の乾燥血液ろ紙65例)
・基質液:TNSALP基質液(pH10.0)
【0097】
(2)測定操作
37℃の恒温槽内での酵素反応時間を1~24時間と段階的に変えたこと以外は、実施例1「(2)測定方法」と同様の方法で測定を行った。
【0098】
4MU標準品の蛍光強度の測定結果を図8に示した。また、この検量線より計算される酵素活性の結果と酵素反応の時間の関係を図9に示した。TNSALPの酵素活性は、反応時間の経過と共に低下し、1~2時間で酵素反応を終了させた場合が最も高い活性を示し、4時間では、1時間で反応させた場合より10%低下した。TNSALPは、高温で失活しやすく酵素反応が長くなるにつれて酵素の失活が生じ安い。これは、従来の血清での酵素反応が5~10分で測定するように設定している理由ともなっている。この結果より、本発明法では、1~4時間の反応で測定可能であり、マイクロプレートを用いて多量検体を測定するマススクリーニング検査法として利用可能であることが示された。
【実施例8】
【0099】
患者検体と正常人検体の比較
乾燥血液ろ紙を検体としてTNSALP酵素活性を低ホスファターゼ症患者と正常人とで比較した。
【0100】
(1)検体、試薬等
・検体:
正常人(新生児乾燥血液ろ紙)2,659例
低ホスファターゼ症患者(乾燥血液ろ紙)1例
・基質液:TNSALP基質液(pH10.0)
【0101】
(2)測定方法
実施例1「(2)測定方法」と同様の方法で測定を行った。
【0102】
(3)結果
正常人の酵素活性の分布と低ホスファターゼ症患者の酵素活性を図10に示した。正常新生児のTNSALP平均酵素活性は914.0pmol/hr/disk、標準偏差は329.0pmol/hr/diskであり、低ホスファターゼ症患者の酵素活性は、103.7pmol/hr/diskとなり、明確に正常人TNSALP酵素活性より、低い活性を有していた。したがって、本発明の測定により、乾燥血液ろ紙を用いて、低ホスファターゼ症のスクリーニング検査は可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明による測定方法は、新生児マススクリーニング検査等において利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10