(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】複合構造体の設計方法及び複合構造体
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20220127BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20220127BHJP
B32B 25/08 20060101ALI20220127BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20220127BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20220127BHJP
G06F 113/26 20200101ALN20220127BHJP
【FI】
G06F30/23
B32B5/28 101
B32B25/08
F16F15/02 Q
G06F30/10 100
G06F113:26
(21)【出願番号】P 2017111159
(22)【出願日】2017-06-05
【審査請求日】2020-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】599166208
【氏名又は名称】株式会社岩間工業所
(73)【特許権者】
【識別番号】500262614
【氏名又は名称】株式会社東鋼
(73)【特許権者】
【識別番号】517198595
【氏名又は名称】杉田 直彦
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】岩間 正俊
(72)【発明者】
【氏名】稲田 明弘
(72)【発明者】
【氏名】杉田 直彦
(72)【発明者】
【氏名】木崎 通
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
(72)【発明者】
【氏名】平岩 和也
(72)【発明者】
【氏名】白石 勝
(72)【発明者】
【氏名】寺島 誠人
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-257425(JP,A)
【文献】米国特許第04539252(US,A)
【文献】特開2013-008363(JP,A)
【文献】特開平10-124705(JP,A)
【文献】特表2010-516512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
B32B 5/22 - 5/32
B32B 25/00 -25/20
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の剛性を有する剛性材料と、該剛性材料と比較して振動の減衰性の高い減衰材料とからなる複合構造体の設計方法であって、
前記複合構造体のモデルと、該複合構造体の性能を解析する環境とを構築する予備構築ステップと、
前記複合構造体の解析制約条件を与えて、該複合構造体が目標性能を達成する前記減衰材料の最適な3次元構造及び3次元配置を計算するための最適化条件を設定する最適化条件設定ステップと、
前記減衰材料の最適な3次元構造及び3次元配置を計算するための変数を設定する変数設定ステップと、
前記変数設定ステップで設定された変数に基づいて計算された、前記減衰材料が配置された前記複合構造体の性能を解析する解析ステップと、
前記解析ステップの結果が前記目標性能を達成したか否かを判定する判定ステップと、を備え、
前記判定ステップにより前記目標性能を達成していないと判定された場合には、前記変数設定ステップにリターンすることを特徴とする複合構造体の設計方法。
【請求項2】
前記解析ステップでは、前記複合構造体に外力を加えた場合の該複合構造体の所定箇所の変位である静剛性と、該複合構造体の固有振動数とを解析することを特徴とする請求項1に記載の複合構造体の設計方法。
【請求項3】
前記解析ステップでは、前記複合構造体に外力を加えた場合の振動の減衰速度である損失係数を解析することを特徴とする請求項1又は2に記載の複合構造体の設計方法。
【請求項4】
前記減衰材料の最適な3次元構造及び3次元配置の計算に有限要素法を用いることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の複合構造体の設計方法。
【請求項5】
前記複合構造体中の前記剛性材料と前記減衰材料との境界を決定するためにレベルセット法を用い、
前記判定ステップから前記変数設定ステップにリターンして前記変数が変更される度に、前記レベルセット法で使用される関数が変更されることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の複合構造体の設計方法。
【請求項6】
所定の剛性を有する剛性材料と、該剛性材料と比較して振動の減衰性の高い減衰材料とからなる複合構造体であって、
前記減衰材料は、
前記複合構造体に外力を加えた場合の該複合構造体の所定箇所の変位である静剛性と、該複合構造体の固有振動数とを有限要素法を用いて計算した最適な3次元構造及び3次元配置に基づいて、前記剛性材料の間に充填されていることを特徴とする複合構造体。
【請求項7】
前記剛性材料は、炭素繊維強化プラスチックであり、
前記減衰材料は、コルクラバー又は発泡体であることを特徴とする請求項6に記載の複合構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合構造体の設計方法、及びその方法により設計された複合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、工作機械等に用いられる材料には、軽量、高剛性、高減衰性等の性能が求められているが、単一の材料で全ての要求性能を満足することは困難である。このため、炭素鋼と比較して剛性や減衰性の高い炭素繊維強化プラスチック(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastics)と、高粘弾性を有する減衰材料とを組み合わせた複合材料が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、カーボン繊維強化エポキシ樹脂やカーボン繊維強化プラスチック材料等の剛性材料の層の間に、粘弾性材料を含侵させた中間層を挿入した複合積層板の構造が開示されている。中間層は剛性材料と比べて柔らかい材料でできているため、複合積層板は機械特性に優れている(段落0011,0012,
図1)。
【0004】
このように、これまで、複合材料の減衰性を高めるため、剛性材料の表面や層間に減衰材料を付加する試み、また、減衰材料の配置の最適化に関する試みが多くなされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、剛性材料に対する減衰材料の最適化配置の手法は2次元的なものに止まっており、特許文献1に示されているような単純サンドウィッチ構造の積層構造体があるに過ぎなかった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、より高い剛性、減衰性を実現することができる複合構造体の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明は、所定の剛性を有する剛性材料と、該剛性材料と比較して振動の減衰性の高い減衰材料とからなる複合構造体の設計方法であって、前記複合構造体のモデルと、該複合構造体の性能を解析する環境とを構築する予備構築ステップと、前記複合構造体の解析制約条件を与えて、該複合構造体が目標性能を達成する前記減衰材料の最適な3次元構造及び3次元配置を計算するための最適化条件を設定する最適化条件設定ステップと、前記減衰材料の最適な3次元構造及び3次元配置を計算するための変数を設定する変数設定ステップと、前記変数設定ステップで設定された変数に基づいて計算された、前記減衰材料が配置された前記複合構造体の性能を解析する解析ステップと、前記解析ステップの結果が前記目標性能を達成したか否かを判定する判定ステップと、を備え、前記判定ステップにより前記目標性能を達成していないと判定された場合には、前記変数設定ステップにリターンすることを特徴とする。
【0009】
本発明の複合構造体の設計方法では、まず、予備構築ステップにおいて、設計する複合構造体のモデル(解析のための要素数や節点座標等)と、その性能を解析する環境(静荷重や拘束面の定義等)を構築する。次に、最適化条件設定ステップでは、複合構造体の解析制約条件(変位の限界値や固有振動数等)を与えて、複合構造体が目標性能を達成する減衰材料の3次元的な構造及び配置を最適化する最適化条件を設定する。
【0010】
さらに、変数設定ステップで、減衰材料の最適な構造及び配置を計算するための変数を設定し、解析ステップで、設定された変数に基づいて計算された複合構造体の性能を解析する。最後に、判定ステップにて解析ステップの結果が目標性能を達成したか否かが判定され、達成していないと判定された場合には、変数設定ステップにリターンする。
【0011】
これにより、目標性能が達成されるまで変数設定ステップにて新たな変数が設定されて、減衰材料の最適な構造及び配置が計算されるまでループする。すなわち、所定の剛性や減衰性を有する複合構造体を効率よく設計することができる。
【0012】
第1発明の複合構造体の設計方法において、前記解析ステップでは、前記複合構造体に外力を加えた場合の該複合構造体の所定箇所の変位である静剛性と、該複合構造体の固有振動数とを解析することが好ましい。
【0013】
この手法によれば、複合構造体の静剛性と固有振動数(共振周波数)とを解析することで、ある変数により設計された複合構造体の性能と目標性能とを比較して、減衰材料の最適な構造及び配置を評価することができる。
【0014】
また、第1発明の複合構造体の設計方法において、前記解析ステップでは、前記複合構造体に外力を加えた場合の振動の減衰速度である損失係数を解析することが好ましい。
【0015】
複合構造体の損失係数を解析することでも、設計された複合構造体の性能と目標性能とを比較して、減衰材料の最適な構造及び配置を評価することができる。なお、解析ステップにおいて、複合構造体の静剛性や動剛性に加えて、損失係数を解析するようにしてもよい。
【0016】
また、第1発明の複合構造体の設計方法において、前記減衰材料の最適な3次元構造及び3次元配置の計算に有限要素法を用いることが好ましい。
【0017】
減衰材料の最適な3次元構造及び3次元配置の計算する際には、有限要素法を用いることができる。有限要素法は、設計対象がどのような形状であっても、例えば、専用の解析ソフトウェアを用いて、迅速に目的の複合構造体を設計することができる。
【0018】
また、第1発明の複合構造体の設計方法において、前記複合構造体中の前記剛性材料と前記減衰材料との境界を決定するためにレベルセット法を用い、前記判定ステップから前記変数設定ステップにリターンして前記変数が変更される度に、前記レベルセット法で使用される関数が変更されることが好ましい。
【0019】
複合構造体中の剛性材料と減衰材料との境界を決定するための手法であるレベルセット法を用いることができる。判定ステップから変数設定ステップにリターンして変数が変更される度に、レベルセット法で使用される関数(レベルセット関数)が変更されるようにして、減衰材料の最適な構造及び配置を計算することができる。
【0020】
第2発明は、所定の剛性を有する剛性材料と、該剛性材料と比較して振動の減衰性の高い減衰材料とからなる複合構造体であって、前記減衰材料は、有限要素法を用いて計算した最適な3次元構造及び3次元配置に基づいて前記剛性材料の間に充填されていることを特徴とする。
【0021】
本発明の複合構造体は、有限要素法を用いることで、減衰材料が剛性材料に対して最適な3次元構造及び3次元配置で充填されている。これにより、設計された複合構造体は、目標性能(剛性や損失係数)を確実に満たすことができる。
【0022】
第2発明の複合構造体において、前記剛性材料は、炭素繊維強化プラスチックであり、前記減衰材料は、コルクラバー又は発泡体であることが好ましい。
【0023】
この構成によれば、炭素繊維強化プラスチックは、炭素鋼と比較して高い剛性、減衰性を有するので、剛性材料として適切である。また、コルクラバーやポリウレタン等の発泡体は、損失係数が高く、加工もし易いので、減衰材料として適切である。そして、これらを組み合わせることで、高剛性かつ高減衰性の複合構造体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】(a)CFRPの材料物性値テーブル。(b)コルクラバーの材料物性値テーブル。
【
図3】CFRPに対する減衰材料の最適化配置のフローチャート。
【
図4A】最適化処理前の減衰材料の配置(単純サンドウィッチ構造)を説明する図。
【
図4B】最適化処理後の減衰材料の配置(修正最適化構造)を説明する図。
【
図5A】最適化処理前後の片持ち梁の1次固有振動数(解析値)を比較したグラフ。
【
図5B】最適化処理前後の片持ち梁の静的変位(解析値)を比較したグラフ。
【
図5C】最適化処理前後の片持ち梁の損失係数(解析値)を比較したグラフ。
【
図6A】各構造の片持ち梁による1次固有振動数の実験値と解析値とを比較したグラフ。
【
図6B】各構造の片持ち梁による損失係数の実験値と解析値とを比較したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の複合構造体の設計方法の実施形態について説明する。
【0026】
図1は、本発明の設計方法により設計する片持ち梁1の形状(設計領域)を示した図である。片持ち梁1は、長手方向が300mm、幅方向が50mm、厚み方向が20mmであって、図中の壁Wと接した面が固定面(固定端)となっている。
【0027】
片持ち梁1は、基本的に炭素繊維強化プラスチック(以下、CFRP)を厚み方向に積層した構造である。CFRPは、縦糸と横糸を交差させることで、両方向に均一な引張り強度を有する平織構造のものを使用する。なお、CFRPの繊維方向は、片持ち梁1の長手方向及び幅方向に一致させている。
【0028】
本発明の設計方法では、片持ち梁1を、後述する静剛性と動剛性の制約条件の下で、減衰性能が最大となるようにする。CFRPは炭素鋼と比較して剛性や減衰性が高い材料であるが、片持ち梁1を工作機械等に適用するためには、より高い減衰性が必要となる。このため、片持ち梁1では、CFRPの間に、CFRPと比較して減衰性の高い減衰材料を充填する。
【0029】
減衰材料としては、損失係数が高く、加工し易いコルクラバー(AMORIM社、ACM87)を採用する。今回用いたCFRPとコルクラバーの材料物性値は、
図2に示す通りである。
【0030】
図2(a)には、CFRPの密度[kg/m
3]、ヤング率[GPa]、せん断弾性係数[GPa]、ポアソン比及び損失係数が示されている。ここで、ヤング率とは、物体の引張り応力と単位長さ当りの伸び(ひずみ)との比であり、この値が大きくなるほど硬い材料といえる。
【0031】
また、せん断弾性係数(剛性率)とは、せん断応力とせん断ひずみの比で定義され、せん断力による変形のし難さを示す数値である。また、ポアソン比とは、物体に弾性限界内で応力を加えたとき、応力に直角方向に発生するひずみと、応力方向に沿って発生するひずみとの比である。
【0032】
なお、CFRPは直交する3つの軸で弾性定数や線膨張係数が異なる直交異方弾性体であるため、これら数値が3種類ある。また、損失係数とは、物体を振動させた場合の減衰速度を示す数値である。
【0033】
図2(b)は、コルクラバーの密度[kg/m
3]、ヤング率[GPa]、ポアソン比及び損失係数が示されている。特に、コルクラバーの損失係数は、CFRPの27倍も大きい数値となっている。減衰材料として、コルクやポリウレタン、ポリスチレン等の発泡体を用いてもよい。
【0034】
剛性の制約条件は、片持ち梁1の自由端である先端部(参照点)に100Nを荷重したときの先端部のたわみが1mm以下(静剛性の制約)、かつ1次固有振動数が80Hz以上(動剛性の制約)となるように設定した。
【0035】
また、今回の設計方法では、片持ち梁1の最適構造を求めるために有限要素法を用いる。片持ち梁1は、長手方向を50分割、幅方向を8分割、厚み方向を15分割して、合計6000の要素(メッシュ)に分割した。各要素は、8節点の6面体で、中間節点のない1次要素を用いた。そして、片持ち梁1の厚み方向の中央部分に減衰材料の層を挿入した状態(
図4Aの単純サンドウィッチ構造)を初期状態として最適化を行った。
【0036】
次に、
図3を参照して、複合構造体の設計方法、すなわち、CFRPに対する減衰材料の最適な3次元構造及び3次元配置を行うためのフローチャートについて説明する。今回、有限要素法の解析ソフトウェアであるAbaqus(登録商標)と数値計算ソフトウェアであるMatlab(登録商標)とを連動させた。
【0037】
まず、ステップS10では、Abaqusを用いて解析モデルと解析環境の構築を行う。具体的には、有限要素法の解析に必要な要素数や節点数を決定するとともに、物体に加わる時間的に変化しない荷重である静荷重や各節点の自由度を拘束する拘束条件の定義を行う。その後、ステップS20に進む。
【0038】
ステップS20もAbaqusで行われる処理であり、最適化に必要なCFRPと減衰材料のデータを出力する。具体的には、CFRP及び減衰材料の要素マトリクス、荷重マトリクス、要素数及び節点座標を出力する。その後、ステップS30に進む。
【0039】
ステップS30は、Matlabで行われる処理である。ここでは、最適化条件の設定が行われる。具体的には、節点番号とその座標、拘束される節点集合、静荷重のかかる節点集合の定義を行う。また、ステップS20で出力した要素マトリクス及び荷重マトリクスの読込みと、静解析と動解析の定義を行う。その後、ステップS40に進む。
【0040】
ステップS40もMatlabで行われる処理であり、設計変数α(初期値α1)の設定、更新を行う。ここで、設計変数αは、以下の(1)式に示すレベルセット関数φの膨張係数である。
【0041】
【数1】
なお、ξ
iはi要素の形状関数であり、Xは要素座標、tは最適化計算の繰り返し数である。
【0042】
レベルセット関数φを用いるレベルセット法は、材料境界を定義する数学的手法の1つであり、ここでは、CFRPと減衰材料の境界を定義するのに利用することができる。
【0043】
また、ここでの数値計算は、逐次凸関数近似法のGCMMA(Globally Convergent version of the Method of Moving Asymptotes)法を用いた。GCMMA法は、ステップ毎に目的関数及び制約関数をテイラー展開で凸関数に近似することで、最適化問題を簡易的に解いていく手法である。その後、ステップS50に進む。
【0044】
ステップS50は、Abaqusで行われる処理である。ここでは、ステップS40で設定された設計変数αにより、静剛性と動剛性の解析を行う。具体的には、変位ベクトル、1次固有振動数及び固有ベクトルを出力する。その後、ステップS60に進む。
【0045】
ステップS60は、Matlabで行われる処理である。ここでは、ステップ50で出力された固有ベクトルを用いて損失係数や参照点の静的変位を算出し、収束条件を満たしているか否かを判定する。
【0046】
そして、収束条件を満たしている場合(ステップS60:YES)には最適化処理を終了し、収束条件を満たしていない場合(ステップS60:NO)にはステップS40にリターンする。
【0047】
ステップS40にリターンした場合には、Matlabにて設計変数αが更新される。そして、新たな設計変数α(=α2)によりステップS50以降の各処理が行われる。GCMMA法では、レベルセット関数φを変化させることで境界を動かし、トポロジーの変化を表現することができる。以上の処理を複数回繰り返すことにより、発明者らは、片持ち梁1の最適化構造を求めることに成功した。
【0048】
次に、
図4A、
図4Bを参照して、最適化処理前後の片持ち梁の構造(減衰材料の3次元構造及び3次元配置)について説明する。
【0049】
まず、
図4Aに、最適化処理を行う前の初期状態の片持ち梁1を示す。片持ち梁1は単純サンドウィッチ構造であり、厚み方向の中央の黒色部(厚み7.25mm)が減衰材料2、その上面及び下面がCFRP3である。なお、ここでも、図中の壁Wと接した面が固定面である。
【0050】
次に、
図4Bに、最適化処理を行った後の最適化構造の片持ち梁1’を示す。ここで、上記の最適化処理では、レベルセット関数φの値に基づいて、φ≧1の領域に減衰材料、φ≦-1の領域にCFRP、-1<φ<1の領域にCFRPと減衰材料の中間的な性質を示す仮想的な物質(中間物質)を配置する計算を行った。
【0051】
しかし、実際に片持ち梁を製造する場合には、中間物質を無くし、CFRPと減衰材料のみで構成する必要がある。そこで、φ≧0.6の領域に減衰材料、φ<0.6の領域にCFRPが配置されるように、新たなレベルセット関数φの閾値を設定した。そして、修正された最適化構造が、図示する片持ち梁1’である。すなわち、片持ち梁1’は、最初の最適化構造の性質を保持しつつ、CFRPと減衰材料とを3次元的に再配置したもの(修正最適化構造)となっている。
【0052】
片持ち梁1’の厚み方向の中央に略直線状に配置された黒色部が減衰材料2’、その上面及び下面がCFRP3’である。これによれば、高ひずみエネルギー領域の近傍に減衰材料2’が配置されるように、最適化が進んだと考えられる。
【0053】
次に、
図5A~
図5Cに、単純SW(サンドウィッチ)構造と修正最適化構造との各種性質を比較したグラフを示す。
【0054】
まず、
図5Aは、両構造の1次固有振動数の解析値を比較したグラフである。図示するように、修正最適化構造の1次固有振動数は105.5[Hz]、単純SW構造の1次固有振動数は109.3[Hz]であった。単純SW構造の方が高い数値を示したが、修正最適化構造についても動剛性の制約条件である1次固有振動数(80[Hz])を十分満たす結果となった。
【0055】
次に、
図5Bは、両構造の静的変位の解析値を比較したグラフである。図示するように、修正最適化構造の静的変位は0.99[mm]、単純SW構造の静的変位は1.07[mm]であった。ここで、静剛性の制約条件は、参照点のたわみが1.0[mm]以下であったので、修正最適化構造は制約条件を満たすが、単純SW構造は制約条件を満たさないという結果となった。
【0056】
次に、
図5Cは、両構造の損失係数の解析値を比較したグラフである。図示するように、修正最適化構造の損失係数は0.132、単純SW構造の損失係数は0.116であった。修正最適化構造の損失係数は、単純SW構造の損失係数と比較して約14%も高い値となり、目標である10%以上の結果が得られた。
【0057】
最後に、
図6A、
図6Bを参照して、単純SW(サンドウィッチ)構造及び修正最適化構造の実験値と解析値とを比較したグラフを示す。なお、実験値とは、実際に、コルクラバーを加工してCFRPの板材の間に埋設させた複合構造体(単純SW構造と修正最適化構造)とを製造し、ハンマーでその中心を加振して計測した値である。
【0058】
まず、
図6Aは、各構造の1次固有振動数の実験値及び解析値を比較したグラフである。単純SW構造と修正最適化構造の1次固有振動数の解析値は、
図5Aで示した数値(それぞれ109.3[Hz]、105.5[Hz])であった。
【0059】
一方、実験値は、それぞれ109.6[Hz]、106.4[Hz]となり、解析値に非常に近い数値が得られた。従って、
図3の処理によって求めたCFRPと減衰材料とによる最適化構造の妥当性が示された。
【0060】
次に、
図6Bは、各構造の損失係数の実験値及び解析値を比較したグラフである。単純SW構造と修正最適化構造の損失係数の解析値は、
図5Cで示した数値(それぞれ0.116、0.132)であった。
【0061】
一方、実験値は、それぞれ0.101、0.124となり、実験値の方が1割程度低い結果が得られた。これは、試験片の把持が完全固定でないことや、解析においてはCFRPと減衰材料を貼りあわせる接着剤の影響を考慮していないこと等が原因と考えられる。
【0062】
以上で説明したように、本発明の設計方法(
図3の処理)によりCFRPと減衰材料(コルクラバー)の最適な3次元構造及び3次元配置の構造を求め、解析値を調べた。また、実際にCFRPとコルクラバーを加工して最適化構造を製造し、加振する実験を行った。この結果、特に、1次固有振動数は解析値と実験値とが非常に近い値を示したので、一連の最適化処理の妥当性が証明された。
【0063】
今回、片持ち梁のモデルで最適化処理を行ったが、本発明の設計方法は、様々な形状の部品設計に適用することができる。例えば、工作機械のスピンドルを保持するクイル(円筒状部材)の設計に適用可能である。この部材の場合、円筒周囲に配置されたリニアモータによる吸引力等を考慮して制約条件を設定することで、CFRPと減衰材料による最適な3次元構造及び3次元配置の構造を求めることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 片持ち梁(単純サンドウィッチ構造)
1’ 片持ち梁(修正最適化構造)
2,2’ 減衰材料
3,3’CFRP(剛性材料)