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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】分光素子、測定方法、及び測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3586 20140101AFI20220104BHJP
   G01N 21/552 20140101ALI20220104BHJP
   G01N 21/3577 20140101ALI20220104BHJP
【FI】
G01N21/3586
G01N21/552
G01N21/3577
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017135803
(22)【出願日】2017-07-11
(65)【公開番号】P2019020147
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598163064
【氏名又は名称】学校法人千葉工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕久
(72)【発明者】
【氏名】古橋 遼平
(72)【発明者】
【氏名】水津 光司
【審査官】佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-163786(JP,A)
【文献】特開2009-229323(JP,A)
【文献】特開平11-044694(JP,A)
【文献】特開2010-008263(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0219809(US,A1)
【文献】田中耕一郎,テラヘルツ領域のエバネッセント光をもちいた水溶液の研究,表面科学,2011年,Vol.32, No. 12,(2011),Pages 785-791
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC
G01N 21/00-G01N 21/01、
G01N 21/17-G01N 21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層上に設けられた第2の誘電体層と、前記第2の誘電体層上に設けられ被測定物と接触する第3の誘電体層と、を備え、
前記第1の誘電体層に入射した電磁波が、前記第1の誘電体層と前記第2の誘電体層との界面で全反射するように、前記第1の誘電体層の第1の屈折率が前記第2の誘電体層の第2の屈折率よりも大きく、前記第2の誘電体層に生じたエバネッセント波が、前記第3の誘電体層内で多重反射するように、前記第3の誘電体層の第3の屈折率が、前記第2の屈折率よりも大きく、前記第2の誘電体層の厚みは、前記第1の誘電体層に入射する電磁波の波長よりも小さく、前記第3の誘電体層の厚みは、前記第2の誘電体層の厚みより厚い、
分光素子。
【請求項2】
前記第1の誘電体層は、入射した電磁波が前記界面で全反射する条件を満たす角度で前記界面に入射するように成形されたプリズムである
請求項1記載の分光素子。
【請求項3】
前記第2の誘電体層は、石英板である
請求項1又は請求項2記載の分光素子。
【請求項4】
前記第3の誘電体層は、シリコンウェハである
請求項1~3の何れか1項に記載の分光素子。
【請求項5】
前記第3の誘電体層上に形成された側壁により、被測定物を保持する保持部
を備えた請求項1~4の何れか1項に記載の分光素子。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の分光素子の前記第3の誘電体層上に被測定物を配置し、
前記第1の誘電体層に入射角度を固定した状態で電磁を入射し、
前記第1の誘電体層と前記第2の誘電体層の界面および前記第3の誘電体層と前記被測定物との界面にエバネッセント波を発生させ、
前記第3の誘電体層内で多重反射した波を含む、前記分光素子から出射された電磁波の強度が特徴的なスペクトル構造を有する特定周波数の強度に基づいて、被測定物の分光情報を測定する
測定方法。
【請求項7】
前記被測定物は溶液であり、前記特定周波数の強度に基づいて、前記溶液の濃度を前記分光情報として測定する
請求項6記載の測定方法。
【請求項8】
前記分光素子に入射される電磁波がテラヘルツ波である
請求項6又は請求項7記載の測定方法。
【請求項9】
請求項1~5の何れか1項に記載の分光素子と、
磁波を生成する光源と、
前記光源から出射された電磁波を、入射角度を固定した状態で前記分光素子に入射し、前記分光素子から出射された電磁波の強度が特徴的なスペクトル構造を有する特定周波数の強度に基づいて、前記第3の誘電体層上の被測定物の分光情報を測定する測定部と、
を備えた測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光素子、測定方法、及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、テラヘルツ波を用いた全反射減衰法(Attenuated Total Reflection、ATR法)により溶液の濃度を高感度に測定する装置として、導電性周期構造体を、テラヘルツ波が全反射する界面に設けた構成とし、テラヘルツ波の所定の周波数帯域に特徴的な吸収を示すディップを形成することで測定対象物質の濃度等を測定する装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、ATRプリズム上に設けられた薄膜試料と、その上部に設置された積層試料の界面における反射係数を用いてテラヘルツ波の減衰を修正することで、薄膜試料の含水率を求める方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、プリズムに対し任意の距離調整機構を設けて、試料と反射面との間の距離が一定となるように制御し、反射面側での光の干渉現象を利用することでテラヘルツ波の測定精度を向上させることができる装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-77672号公報
【文献】特開2016-53527号公報
【文献】特開2016-90314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的にテラヘルツ波による液体の測定については、特に水などの極性の高い液体に対するテラヘルツ波の強い吸収が存在するため透過測定を行うことが難しく、試料部位の光路長を極端に短くする必要がある。また、水溶液ではテラヘルツ波の吸収が広範囲に変化するために特徴的なスペクトル構造が存在しないことが多く、定量的な変化を確認することが困難である。
【0007】
上記の課題を解決するための具体的な方法として、上記特許文献1に記載された方法が挙げられるが、複雑な周期構造を有する導電性の構造体が必要となること、テラヘルツ波の波長程度の開口を有するため、そのサイズによってテラヘルツ波が予期しない回折を起こす可能性がある、という問題がある。
【0008】
また、特許文献2記載の方法では、特定のサンプルの含水率を求めるために、一部の材質の物理定数が既知である必要がある、という問題がある。
【0009】
また、特許文献3記載の方法では、試料の表面が極端に柔軟性に富む場合(特に液体表面)は、波紋の発生などにより試料表面の形状が変化し、試料との距離が必ずしも一定でなくなる場合が発生する。という問題がある。
【0010】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、被測定物の分光情報を高感度で測定することができる分光素子、測定方法、及び測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の第1態様に係る分光素子は、第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層上に設けられた第2の誘電体層と、前記第2の誘電体層上に設けられた第3の誘電体層と、を備え、前記第1の誘電体層に入射した電磁波が、前記第1の誘電体層と前記第2の誘電体層との界面で全反射するように、前記第1の誘電体層の第1の屈折率が前記第2の誘電体層の第2の屈折率よりも大きく、前記第2の誘電体層に生じたエバネッセント波が、前記第3の誘電体層内で多重反射するように、前記第3の誘電体層の第3の屈折率が、前記第2の屈折率よりも大きく、前記第2の誘電体層の厚みは、前記第1の誘電体層に入射する電磁波の波長よりも小さい。
【0012】
また、本発明の第2態様に係る分光素子は、前記第1の誘電体層は、入射した電磁波が前記界面で全反射する条件を満たす角度で前記界面に入射するように成形されたプリズムである。
【0013】
また、本発明の第3態様に係る分光素子は、前記第2の誘電体層は、石英板である。
【0014】
また、本発明の第4態様に係る分光素子は、前記第3の誘電体層は、シリコンウェハである。
また、本発明の第5態様に係る分光素子は、前記第3の誘電体層上に形成された側壁により、被測定物を保持する保持部を備える。
【0015】
また、本発明の第6態様に係る測定方法は、第1態様~第5態様の何れかに係る分光素子の前記第3の誘電体層上に被測定物を配置し、前記第1の誘電体層に電磁波を入射し、前記第1の誘電体層と前記第2の誘電体層の界面および前記第3の誘電体層と前記被測定物との界面にエバネッセント波を発生させ、前記第3の誘電体層内で多重反射した波を含む、前記分光素子から出射された電磁波の強度が特徴的なスペクトル構造を有する特定周波数の強度に基づいて、被測定物の分光情報を測定する。
【0016】
また、本発明の第7態様に係る測定方法は、前記被測定物は溶液であり、前記特定周波数の強度に基づいて、前記溶液の濃度を前記分光情報として測定する。
【0017】
また、本発明の第8態様に係る測定方法は、前記分光素子に入射される電磁波がテラヘルツ波である。
【0018】
また、本発明の第9態様に係る測定装置は、第1態様~第5態様の何れかに係る分光素子と、前記分光素子に入射する電磁波を生成する光源と、前記分光素子から出射された電磁波の強度が特徴的なスペクトル構造を有する特定周波数の強度に基づいて、前記第3の誘電体層上の被測定物の分光情報を測定する測定部と、を備える。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の分光素子、測定方法、及び測定装置によれば、被測定物の分光情報を高感度で測定することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】測定装置の構成を示す構成図である。
図2】分光素子の構成を示す構成図である。
図3】多重反射について説明するための図である。
図4】テラヘルツ波の周波数と強度との関係を示すグラフである。
図5】テラヘルツ波の周波数と強度との関係を示すグラフである。
図6】テラヘルツ波の周波数と強度との関係を示すグラフである。
図7】テラヘルツ波の周波数と強度との関係を示すグラフである。
図8】テラヘルツ波の周波数と強度との関係を示すグラフである。
図9】溶液の含水率とテラヘルツ波の強度との関係を示すグラフである。
図10】テラヘルツ波の周波数と強度との関係を示すグラフである。
図11】溶液の濃度とテラヘルツ波の強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
まず、本実施の形態に係る測定装置について説明する。図1には、本実施の形態に係る測定装置10の構成を示した。測定装置10は、テラヘルツ波を用いたATR法により被測定物の分光情報を測定する装置である。
【0023】
図1に示すように、測定装置10は、テラヘルツ波励起光源としてのフェムト秒ファイバレーザ12を備える。フェムト秒ファイバレーザ12としては、例えば中心波長が780nm、パルス幅が100fs、平均パワーが20mW、繰返し周波数が50MHzのフェムト秒ファイバレーザを用いることができるが、これに限られるものではない。
【0024】
フェムト秒ファイバレーザ12が発振したレーザ光は、ビームスプリッター14によりテラヘルツ波発生用のポンプ光L1と、テラヘルツ波検出用のプローブ光L2に分けられる。
【0025】
ポンプ光L1は、ミラーM1、M2で反射されてテラヘルツ波発生用光伝導アンテナ16に入射される。テラヘルツ波発生用光伝導アンテナ16は、例えば低温成長のガリウムヒ素(GaAs)を基板としたものが用いられる。
【0026】
テラヘルツ波発生用光伝導アンテナ16のギャップ間に図示しない電源から矩形波電圧が印加されると、テラヘルツ波発生用光伝導アンテナ16に装着された図示しない超半球型シリコンレンズを介して自由空間にテラヘルツ波(テラヘルツパルス)が放射される。なお、上記矩形波電圧としては、例えば±10V、50kHzの矩形波電圧とすることができる。
【0027】
テラヘルツ波発生用光伝導アンテナ16から放射されたテラヘルツパルスは、テラヘルツ用レンズ18によりコリメートされ、分光素子20に入射される。
【0028】
分光素子20は、図2に示すように、抵抗率が1kΩcm以上である高抵抗率のノンドープシリコン製の第1の誘電体層としてのプリズム22と、プリズム22上に設けられた第2の誘電体層としての石英(S)板24と、石英板24上に設けられた第3の誘電体層としての抵抗率が1kΩcm以上である高抵抗率のノンドープシリコン製のシリコン(S)ウェハ26と、シリコンウェハ26上に設けられた溶液セル28と、を備えている。溶液セル28は、シリコンウェハ26上に側壁を設けることにより、溶液を保持する保持部を有する。なお、被測定物が個体の場合でも測定可能であるが、正確な測定のためには被測定物と第3の誘電体層との間に隙間がなく、密着していることが望ましい。被測定物が液体の場合には、第3の誘電体層と隙間なく接触させることが容易であるため好適である。
【0029】
なお、プリズム22と石英板24との間、石英板24とシリコンウェハ26との間、シリコンウェハ26と溶液セル28との間は、化学的または物理的な結合は必要なく、各々が単に密着していればよい。また、溶液セル28は、例えばテフロン(登録商標)製の溶液セルを用いることができるが、これに限られるものではない。
【0030】
プリズム22は、側面から入射したテラヘルツ波Tが石英板24との界面30で全反射する条件を満たす角度、すなわちテラヘルツ波Tの界面30への入射角が臨界角より大きい角度で界面30に入射するように成形されている。本実施の形態では、プリズム22の形状は一例として台形であるが、入射したテラヘルツ波Tが界面30で全反射する条件を満たす角度で界面30に入射するものであれば、台形に限られるものではない。なお、プリズム22に入射されるテラヘルツ波Tの周波数は、本実施の形態では一例として0.1~4THzの帯域を含むテラヘルツパルスである。また、プリズム22は、例えばシリコン製のプリズムを用いることができるが、これに限られるものではない。
【0031】
また、プリズム22の屈折率n1は、石英板24の屈折率n2よりも大きく(n1>n2)、シリコンウェハ26の屈折率n3は、石英板24の屈折率n2よりも大きい(n3>n2)。
【0032】
このように、プリズム22の屈折率n1は石英板24の屈折率n2よりも大きいため、図3に示すように、プリズム22に入射したテラヘルツ波Tは、プリズム22と石英板24との界面30で反射波Rのように全反射する。
【0033】
界面30で全反射が生じると、界面30の石英板24側にエバネッセント波Eが生じる。エバネッセント波Eは、全反射条件下において低屈折率媒質側に、波長程度の領域に染み出すという特性を有する。石英板24の屈折率n2はシリコンウェハ26の屈折率n3よりも小さいため、石英板24側に生じたエバネッセント波Eは、シリコンウェハ26側へ透過する。石英板24の厚みは、プリズム22に入射するテラヘルツ波の波長よりも小さい。石英板24の厚みがプリズム22に入射するテラヘルツ波の波長よりも小さければ、エバネッセント波Eがシリコンウェハ26にまで到達する。なお、プリズム22に入射するテラヘルツ波の波長がある帯域(幅)を持っている場合には、石英板24の厚みは、プリズム22に入射するテラヘルツ波に含まれる一番長い波長よりも小さければよい。
【0034】
そして、溶液セル28に充填された被測定物としての溶液Sの屈折率がシリコンウェハ26の屈折率n3よりも小さい場合、シリコンウェハ26と溶液Sとの界面32でエバネッセント波Eが石英板24側へ全反射する。また、シリコンウェハ26の屈折率n3は石英板24の屈折率n2よりも大きいので、シリコンウェハ26と石英板24との界面34でも全反射が生じる。これにより、図3に示す光路のように、シリコンウェハ26内でエバネッセント波Eの全反射が複数回繰り返される、すなわち、シリコンウェハ26内でエバネッセント波Eが多重反射する。エバネッセント波Eの強度は小さいため、通常であればスペクトル構造の変化を検出することが困難であるが、多重反射による干渉によりスペクトル構造の変化を高感度に検出することが可能となる。
【0035】
シリコンウェハ26内で多重反射されたエバネッセント波Eは、界面30で全反射されたテラヘルツ波Tと共にプリズム22から放射(出射)される。シリコンウェハ26内でエバネッセント波Eが多重反射することにより、プリズム22から放射されたテラヘルツ波Tが干渉し、検出されたテラヘルツ波Tの波形にディップ(干渉縞)が生じる。なお、ディップについての詳細は後述する。
【0036】
図1に示すように、分光素子20から出力されたテラヘルツ波Tは、テラヘルツ用レンズ40によりコリメートされ、テラヘルツ波検出用光伝導アンテナ42に入射される。
【0037】
一方、プローブ光L2は、ミラーM3で反射され、遅延器44に入射される。遅延器44は、図中矢印A方向へ移動可能な可動ミラーMaを備え、可動ミラーMaを移動させることにより光路長を変化させることが可能な構成となっている。
【0038】
遅延器44から出射された光は、ミラーM4~M9により反射されてテラヘルツ波検出用光伝導アンテナ42に入射される。テラヘルツ波検出用光伝導アンテナ42は、テラヘルツ波発生用光伝導アンテナ16と同様に、例えば低温成長のガリウムヒ素(GaAs)を基板としたものが用いられる。
【0039】
遅延器44の可動ミラーMaを移動させることにより光路長を変化させて、プローブ光L2がテラヘルツ波検出用光伝導アンテナ42に到達するタイミングをずらしながら、プローブ光L2と分光素子20から出力されたテラヘルツ波Tとの時間的な重なりを変化させることにより、テラヘルツ波Tの時間波形をロックインアンプ46で検出する。
【0040】
パーソナルコンピュータ48は、ロックインアンプ46で検出されたテラヘルツ波Tの時間波形に基づいて、被測定物の分光情報を求める。
【0041】
図4には、本実施の形態に係る測定装置10で測定したテラヘルツ波の周波数と強度との関係を示した。なお、溶液セル28は、長さ60mm、幅20mm、高さ30mm(内寸の長さ40mm、幅13mm、高さ30mm)のテフロン(登録商標)製の溶液セルとし、被測定物としての溶液はメタノール(MeOH)とした。
【0042】
図4の例では、分光素子20のシリコンウェハ26の厚みを300μmとし、石英板24の厚みを50μmとした場合(Siウェハ+石英板50μm)、石英板24の厚みを100μmとした場合(Siウェハ+石英板100μm)の測定結果を示した。
【0043】
また、図4には、分光素子20から石英板24を除いた構成、すなわちプリズム22と溶液セル28との間にシリコンウェハ26のみが設けられた構成の測定結果(Siウェハ)と、分光素子20から石英板24及びシリコンウェハ26を除いた構成、すなわちプリズム22上に溶液セル28が設けられた構成の測定結果(プリズムのみ)も示した。
【0044】
図4に示すように、「Siウェハ+石英板50μm」の場合、周波数が0.68THz付近の周波数に特徴的なディップが発生しているのが判る。
【0045】
ここで、ディップとは、テラヘルツ波の強度が急激に落ち込む部分、すなわち、他の周波数の強度と比較して特徴的なスペクトル構造を有する部分をいう。以下では、ディップが形成される特定周波数を「ディップ周波数」と称する。
【0046】
また、図4の例では、石英板24の厚みが50μmの場合と100μmの場合を比較すると、石英板24の厚みが50μmの方が、より深いディップが発生しているのが判る。すなわち、石英板24をシリコンウェハ26とプリズム22との間に設け、石英板24の厚みを調整することでディップの深さを調整することができることが判った。
【0047】
次に、図5、6に、本実施の形態に係る分光素子20の石英板24の厚みは50μm固定で、シリコンウェハ26の厚みが300μm、500μm、750μmの場合におけるテラヘルツ波の周波数と強度との関係を示す。なお、図5には、溶液セル28には何も入れず空気のみとした場合の測定結果を示した。また、図6には、溶液セル28に純度99.9%のメタノール(MeOH)を6mL入れた場合の測定結果を示した。
【0048】
下記表1に、図5の測定結果に基づいて、溶液セル28内が空気のみの場合におけるシリコンウェハ26の厚み毎のディップ周波数をまとめた結果を示す。
【0049】
【表1】

また、下記表2に、図6の測定結果に基づいて、溶液セル28内に純度99.9%のメタノールを6mL入れた場合におけるシリコンウェハ26の厚み毎のディップ周波数をまとめた結果を示す。
【0050】
【表2】

上記表1、2に示すように、溶液セル28内が空気のみの場合、メタノールを入れた場合の何れの場合においても、シリコンウェハ26の厚みが変わると、発生するディップの数やディップ周波数が異なることが判った。
【0051】
従って、シリコンウェハ26の厚みを調整することにより、特定の周波数帯域にディップを発生させることができることが判った。
【0052】
次に、図7に、分光素子20の石英板24の厚みを50μm、シリコンウェハ26の厚みを750μmとした構成で測定したテラヘルツ波の周波数と強度との関係を示した。
【0053】
また、図7の測定結果は、溶液セル28に水とメタノールを混合した溶液を入れ、含水率を変えて測定した結果である。含水率は、水0%(メタノール100%)、水20%(メタノール80%)、水40%(メタノール60%)、水60%(メタノール40%)、水80%(メタノール20%)、水100%(メタノール0%)とした。
【0054】
また、図8には、図7の比較対象として、分光素子20から石英板24及びシリコンウェハ26を除いた構成、すなわちプリズム22上に溶液セル28が設けられた構成で測定したテラヘルツ波の周波数と強度との関係を含水率毎に示した。
【0055】
図7に示すように、本実施の形態に係る分光素子20を用いて測定した場合、含水率によってディップの深さに顕著な変化が生じていることが判る。
【0056】
これに対し、図8に示すように、石英板24及びシリコンウェハ26を省略したプリズム22のみの構成の場合は、ディップが発生していないことが判る。
【0057】
図9には、図7の測定結果においてディップが発生している0.49THzのテラヘルツ波の強度と含水率との関係(石英板50μm+シリコンウェハ750μm)と、図8の測定結果における0.49THzのテラヘルツ波の強度と含水率との関係(プリズムのみ)と、を示した。
【0058】
図9に示すように、本実施の形態に係る分光素子20を用いることにより、含水率が0%の場合のテラヘルツ波の強度と含水率が100%の場合のテラヘルツ波の強度との差が約2桁程度ある。これに対し、プリズム22のみの構成の場合は、含水率が0%の場合のテラヘルツ波の強度と含水率が100%の場合のテラヘルツ波の強度との差がほとんどない。
【0059】
従って、本実施の形態に係る分光素子20を用いることにより、プリズム22のみの構成の場合と比較して高感度に溶液の濃度を測定することができる。
【0060】
次に、図10に、溶液セル28に、23度飽和に調整した4-Dimethylamino-N’-methyl-4’-stilbazolium tosylate-MeOH溶液(以下、DAST-MeOH溶液と称する)を入れて、分光素子20の石英板24の厚みを50μm、シリコンウェハ26の厚みを750μmとした構成で測定したテラヘルツ波の周波数と強度との関係を示す。
【0061】
DAST-MeOH溶液は、1.89グラムのDAST粉末(純度99.9 %以上)を100グラムのメタノール、具体的にはHPLC(high performance liquid chromatography)用メタノールを混合させた後に、55℃に加熱して完全に溶解させた。また、DAST-MeOH溶液の濃度は、初期濃度1.86wt%で測定した後に、同溶液に対して1.59wt%、1.40wt%、1.20wt%となるように溶液セル28中にメタノールを追加し、一度マイクロピペットにて撹拌した後に、液面の揺れが治まってから測定を開始した。
【0062】
図10に示すように、DAST-MeOH溶液の濃度変化に伴い、0.49THzのディップ周波数におけるテラヘルツ波の強度が変化していることが判る。
【0063】
また、図11に、0.49THzにおけるDAST-MeOH溶液の濃度とテラヘルツ波の強度の関係を示す。図11に示すように、DAST-MeOH溶液の濃度が減少するに従って、テラヘルツ波の強度が増加していることが判る。
【0064】
従って、本実施の形態に係る分光素子20を用いて溶液の分光を行うことにより、溶液の濃度を高感度で測定することができる。すなわち、パーソナルコンピュータ48は、ロックインアンプ46で検出されたテラヘルツ波に基づいて、ディップ発生する周波数のテラヘルツ波の強度を求め、求めた強度に基づいて溶液の濃度を求めることができる。
【0065】
このように、本実施の形態では、テラヘルツ波がプリズム22と石英板24との界面30で全反射した際に生じるエバネッセント波をシリコンウェハ26内で多重反射させる構成としたことにより特定の周波数にディップを発生させることができ、ディップ周波数のテラヘルツ波の強度を測定することで溶液セル28内の溶液の濃度等、被測定物の分光情報を高感度で測定することができる。
【0066】
また、テラヘルツ波の発生方法は限定されないため、連続してテラヘルツ波を発生する発生装置を使用することにより、リアルタイムで溶液の濃度変化を計測することもできる。
【0067】
なお、本実施の形態では、テラヘルツ波を用いて溶液の濃度を測定する場合について説明したが、テラヘルツ波に限らず、他の周波数帯域の電磁波、特に光領域の電磁波を用いて被測定物の分光情報を測定してもよい。
【0068】
また、本実施の形態では、被測定物が溶液であり、分光情報として溶液の濃度を測定する場合について説明したが、測定する分光情報は、溶液の濃度に限られるものではない。
【0069】
また、本実施の形態では、第1の誘電体層がプリズム、第2の誘電体層が石英板、第3の誘電体層がシリコンウェハの場合について説明したが、これらに限られるものではない。すなわち、第1の誘電体層の屈折率が第2の誘電体層の屈折率よりも大きく、第3の誘電体層の屈折率が、第2の誘電体層の屈折率よりも大きい材料で構成されればよい。
【符号の説明】
【0070】
10 測定装置
12 フェムト秒ファイバレーザ
14 ビームスプリッター
16 テラヘルツ波発生用光伝導アンテナ
18、40 テラヘルツ用レンズ
20 分光素子
22 プリズム
24 石英板
26 シリコンウェハ
28 溶液セル
30、32、34 界面
42 テラヘルツ波検出用光伝導アンテナ
44 遅延器
46 ロックインアンプ
48 パーソナルコンピュータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11