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特許6989914キノコ栽培用培地添加剤、キノコ栽培用培地、及び同培地を用いたキノコの栽培方法
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  • 特許-キノコ栽培用培地添加剤、キノコ栽培用培地、及び同培地を用いたキノコの栽培方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】キノコ栽培用培地添加剤、キノコ栽培用培地、及び同培地を用いたキノコの栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 18/20 20180101AFI20220104BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
A01G18/20
C12N1/14 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018056254
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019165675
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】特許業務法人IPアシスト特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 陽
(72)【発明者】
【氏名】折橋 健
(72)【発明者】
【氏名】檜山 亮
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-310051(JP,A)
【文献】特開平3-98512(JP,A)
【文献】特開平4-293430(JP,A)
【文献】特開平8-259602(JP,A)
【文献】特開2005-21121(JP,A)
【文献】特開2002-369621(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0079214(US,A1)
【文献】原田陽,シイタケ菌床栽培における早生樹「ヤナギ」の利用,日本きのこ学会誌,2014年04月30日,Vol.22 No.1,p.24-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 18/20
C12N 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤナギの水性抽出物を含有するキノコ栽培用培地添加剤。
【請求項2】
キノコの子実体発生量を増大させるための、請求項1に記載の添加剤。
【請求項3】
ヤナギが、オノエヤナギ、エゾノキヌヤナギ及びシロヤナギよりなる群から選択される、請求項1又は2に記載の添加剤。
【請求項4】
キノコが、シイタケ、ブナシメジ、エリンギ、キクラゲ、ヒラタケ、タモギタケ、ナメコ及びマイタケよりなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の添加剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のキノコ栽培用培地添加剤を添加したキノコ栽培用培地。
【請求項6】
培地が木質基材を主成分とする人工培地である、請求項5に記載の培地。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のキノコ栽培用培地でキノコの種菌を培養する菌床培養工程、及びキノコの子実体を発生させる発生工程を含む、キノコ栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノコ栽培用培地添加剤、キノコ栽培用培地、及び同培地を用いたキノコの栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国内におけるキノコ類の栽培、特に代表的なキノコであるシイタケの栽培において、安定した子実体収穫量及び品質が見込める培地としておが粉が多用されている。ナラ類やクヌギ、又はカンバ類等の広葉樹のおが粉が代表例であるが、これらの良質なおが粉の供給量が減少しつつあり、価格高騰が懸念されている。そのため、おが粉の代替となる良質な栽培用培地、あるいはおが粉を培地としたときのキノコの収穫量を増加する手段等の開発が求められている。
【0003】
本発明者らは、従来のナラやクヌギ等のおが粉の代替として、オノエヤナギやエゾノキヌヤナギ等で河畔等に自生しているものや、栽培されたものから得られるおが粉の利用を提唱している(非特許文献1)。ヤナギ類のおが粉を基材とした培地でシイタケを栽培することで、他の培養基材を用いた栽培と比較して、シイタケの発生量を増加させるとともに、傘の大きさや形等により等級判別される商品価値が高いMサイズ以上の発生個数を増加させることができる。
【0004】
しかしながら、ヤナギ類の原木を確保することが難しい地域でのキノコの栽培でヤナギ類のおが粉を利用するには、ヤナギ類の原木又はおが粉をその地域に輸送する必要がある。原木及びおが粉の嵩高さ等が原因となって輸送コストが高額になると、ヤナギ類の利用による上記の利点を減殺するおそれがある。
【0005】
特許文献1は、カラマツ水抽出物を培地に1~15%添加して、各種食用キノコの菌糸体の成長を促進しつつ、主要害菌の成長を抑制する方法を開示している。しかし、特許文献1では、カラマツ水抽出物の複数種のキノコに対して菌糸体の成長促進効果は示されるものの、子実体発生に対する効果は明らかにされていない。
【0006】
また特許文献2は、カラマツ水抽出物と同様の成分を40%以上含有するカラマツ材の微粉末を添加したキノコ栽培用培地を用いることで、栽培日数を短縮し、子実体収量を増加させることができることを開示している。しかし、特許文献2の微粉末は、水抽出物の含有量の多いカラマツ微粉末の塊を粉砕機で粉砕して200メッシュ以下に微粒子化して微粉末を調整するという製造作業を要し、コスト的に不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平4-293430
【文献】特開平8-322379
【非特許文献】
【0008】
【文献】原田陽ら、日本きのこ学会誌22巻、24-29(2014)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、キノコの栽培、特にナラやクヌギ等の一般的なおが粉を木質基材とするキノコ栽培用培地を用いた栽培において、子実体収量を増加させる、さらには商品価値の高い、すなわち子実体のサイズが大きい又は品質の良好なキノコを収穫することができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ヤナギの水性抽出物をキノコの栽培用培地に添加することで、キノコの発生量、特に初期の発生量を増加させることができ、さらにはキノコの呈味成分含量も増加させることができることを見出し、以下の各発明を完成させた。
【0011】
(1)ヤナギの水性抽出物を含有するキノコ栽培用培地添加剤。
(2)キノコの子実体発生量を増大させるための、(1)に記載の添加剤。
(3)ヤナギが、オノエヤナギ、エゾノキヌヤナギ及びシロヤナギよりなる群から選択される、(1)又は(2)に記載の添加剤。
(4)キノコが、シイタケ、ブナシメジ、エリンギ、キクラゲ、ヒラタケ、タモギタケ、ナメコ及びマイタケよりなる群から選択される、(1)~(3)のいずれか一項に記載の添加剤。
(5)(1)から(4)のいずれか一項に記載のキノコ栽培用培地添加剤を添加したキノコ栽培用培地。
(6)培地が木質基材を主成分とする人工培地である、(5)に記載の培地。
(7)(5)又は(6)に記載のキノコ栽培用培地でキノコの種菌を培養する菌床培養工程、及びキノコの子実体を発生させる発生工程を含む、キノコ栽培方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のキノコ栽培用培地添加剤、キノコ栽培用培地及びキノコ栽培方法は、これを使用しない場合と比較して、キノコの発生量、特に初期の発生量の増加、総発生量の増加、又は商品価値が高いキノコの発生個数の増加等の利点をもたらすことができる。また本発明のキノコ栽培用培地添加剤は、ヤナギの入手が難しい地域でのキノコ栽培に対して、ヤナギ自体を供給して培地として利用する場合よりも低コストで、前記ヤナギの利点をもたらすことができる。さらに、資源量は豊富である一方で利用価値が低かったヤナギを有効活用する手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】シラカンバを木質基材とした培地にオノエヤナギの水性抽出物を添加して栽培したときのシイタケ子実体の累積収量を示すグラフである。
図2】シラカンバを木質基材とした培地にオノエヤナギの水性抽出物を添加して栽培したときのシイタケ子実体の1次、2次及び3次発生収量を示すグラフである。
図3】シラカンバを木質基材とした培地にオノエヤナギの水性抽出物を添加して栽培したときのシイタケ子実体のグアニル酸含量を示すグラフである。
図4】エゾキヌノヤナギを木質基材とした培地にオノエヤナギとエゾノキヌヤナギとの水性抽出物を添加して栽培したときのシイタケ子実体の累積収量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1の態様は、ヤナギの水性抽出物を含有するキノコ栽培用培地添加剤に関する。
【0015】
本発明において使用されるヤナギは、ヤナギ科ヤナギ属の広葉樹であり、シダレヤナギ(Salix babylonica)、マルバヤナギ(Salix chaenomeloides)、ネコヤナギ(Salix gracilistyla)、ヤマヤナギ(Salix sieboldiana)、オノエヤナギ(Salix udensis)、エゾノキヌヤナギ(Salix schwerinii)、シロヤナギ(Salix dolychostyla)、セイヨウシロヤナギ(Salix alba)等を挙げることができる。好ましいヤナギは、オノエヤナギ、エゾノキヌヤナギ及びシロヤナギである。本発明において、ヤナギは、一種類を単独で用いてもよく、また適宜異なる複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
ヤナギの水性抽出物は、ヤナギから水性溶媒を用いて抽出される水溶性の物質である。水性抽出物の好ましい例は、チップやおが粉、又はいわゆるカンナ屑のような薄片の形態に加工したヤナギから水を用いて抽出される、水溶性の物質である。
【0017】
ヤナギをチップ、おが粉又は薄片の形態に加工する場合、加工を容易にするため、ヤナギの樹幹を用いることが好ましい。また、ヤナギから樹皮を取り除く必要はなく、適当な粗砕機等を用いてそのまま加工すればよい。チップ、おが粉又は薄片の大きさには特に制限は無い。おが粉の場合、抽出効率の観点から、粒径がおおよそ0.5mm~2.0mm程度、又はそれより小さいものであることが好ましい。
【0018】
水性溶媒としては、水又は水とエタノール等の水溶性有機溶媒との混合溶媒等を利用することができる。本発明において好ましい水性溶媒は水である。ここで言う水は、キノコ栽培に用いるレベルの水質のものでよい。また、抽出を妨げない限り、水性溶媒には添加物が含まれていてもよい。
【0019】
ヤナギの水性抽出物は、ヤナギに含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させる、一般的な抽出方法によって調製することができる。例えば、チップ、おが粉又は薄片の形態にあるヤナギを適当量の溶媒に1~24時間浸漬させた後又はヤナギと溶媒とを1~24時間撹拌混合した後、固液分離を行って抽出液を回収することで調製することができる。抽出作業において、溶媒量はヤナギ1質量部に対して溶媒5~20質量部とすることが抽出効率の観点で好ましい。また抽出温度は、おおむね5~80℃程度、好ましくは15~50℃程度である。ヤナギ1kgから抽出される水性抽出物の固形分質量は、10g~50g、好ましくは15g~25gである。
【0020】
上記の抽出方法によって得られる抽出液は、固形分中の炭素/窒素比(C/N比)が10~50、好ましくは20~40であり、固形分中の糖類の含量が5~30質量%、好ましくは10~25質量%、固形分中の総フェノールの含量が1~8質量%、好ましくは2~5質量%である。かかる抽出液は上記の抽出時間、溶媒量及び抽出温度等の抽出条件に従って、又は上記の抽出条件を適宜変更して調製されるものであるが、その他の抽出方法によって調製される抽出液であっても、C/N比、糖類及び総フェノール含量が上記の範囲であるものは、本発明におけるヤナギの水性抽出物として利用することができる。
【0021】
上記の抽出方法によって得られる抽出液は、ヤナギの水性抽出物の代表的な一形態である。また抽出液は、必要に応じて、希釈、濃縮又は乾燥してもよく、そのような希釈液、濃縮液及び乾燥物も、本発明の水性抽出物の一形態である。また、抽出液の精製物、例えば抽出液をフィルターろ過した液、液液分配により不溶物を取り除いた液、若しくはイオン交換樹脂を用いて脱塩処理をした液、又はそれらの液の希釈液、濃縮液及び乾燥物等もまた、本発明の水性抽出物の一形態を構成する。
【0022】
本発明の第1の態様であるキノコ栽培用培地添加剤は、上述のヤナギ水性抽出物例えばヤナギの水性抽出液そのものでもよく、またヤナギ水性抽出物以外にキノコの栽培に適した他の物質を含有するものであってもよい。例えば、上述のヤナギ水性抽出液に必要に応じて有機酸、ミネラルその他の栄養成分を加えたものであってもよい。
【0023】
本発明において栽培対象となるキノコとしては、シイタケ、ブナシメジ、エリンギ、キクラゲ、ヒラタケ、タモギタケ、ナメコ及びマイタケ等を挙げることができ、特に好ましいキノコはシイタケである。
【0024】
キノコ栽培用培地添加剤が添加されるキノコ栽培用培地は、原木栽培に用いられる原木、菌床栽培等に用いられる人工培地のいずれでもよく、原木の種類又は人工培地の成分又は組成に特別な制限はない。人工培地としては、チップ、おが粉等の木質基材、米糠、ふすま、ミネラル又は有機酸等の栄養材及び適当量の水を含む一般的な培地の他に、コーンコブを培養基材とした培地、牛糞堆肥を含む培地、コーヒー滓や残飯等の食物残渣を利用した培地等を挙げることができるが、これらには限定されない。本発明において好ましく用いられる培地は、木質基材を主成分とする人工培地である。
【0025】
キノコ栽培用培地添加剤は、培地が原木である場合は、例えば液状の添加剤に原木を浸漬させる、原木に添加剤を掛ける又は噴霧することにより、添加することができる。培地が人工培地である場合は、例えば培地成分を混合する際に添加剤を加える、調製後の培地に添加剤を掛ける又は噴霧することにより、添加することができる。本発明は、このようにして調製されるキノコ栽培用培地添加剤を添加したキノコ栽培用培地を別の態様として提供する。
【0026】
上記の抽出方法によって得られる抽出液そのものをキノコ栽培用培地添加剤として用いる場合、添加剤(固形分として)は、人工培地に対しては培地100質量%中0.01~3質量%、好ましくは0.02~2質量%、より好ましくは0.05~1質量%となるように添加すればよい。シイタケ栽培用培地の好ましい例は、おが粉等の木質基材30~35質量%、フスマ等の栄養材10~15質量%、水60~65質量%及びキノコ栽培用培地添加剤0.08~0.7質量%をミキサーに投入撹拌して均一な状態にしたものである。この培地は、通常、ポリプロピレン製袋又は栽培ビンに適当量を充填し、高圧殺菌した後、放冷させてから使用される。また、原木を培地とする場合の添加量は、キノコ栽培用培地添加剤が原木の表層に染み込む程度であればよい。
【0027】
なお、キノコ栽培用培地添加剤の培地への添加量は、上に示した添加量を目安とし、ヤナギ水性抽出物の抽出条件(抽出時間、溶媒量及び抽出温度)、水性抽出物の形態(希釈液、濃縮液、乾燥物等)、培地組成や原木の状況等を考慮しつつ、適宜調節することができる。
【0028】
本発明はさらに、上述のキノコ栽培用培地でキノコの種菌を培養する菌床培養工程及びキノコの子実体を発生させる発生工程を含むキノコ栽培方法を、さらなる態様として提供する。キノコ栽培用培地添加剤及びキノコ栽培用培地は上で説明したとおりである。
【0029】
菌床培養工程は、キノコ栽培用培地に所望のキノコの種菌を接種して培養することにより行われる。種菌の品種は特に限定されないが、シイタケ、ブナシメジ、エリンギ、キクラゲ、ヒラタケ、タモギタケ、ナメコ及びマイタケ等を挙げることができ、特に好ましいキノコはシイタケである。これらの種菌はそれぞれ市販されているものを使用することができる。
【0030】
菌床培養は、品種毎に知られている一般的な条件に従って行うことができ、特別な操作や条件は必要としない。例えばシイタケの場合、ポリプロピレン製袋に充填した高圧殺菌後の培地にシイタケの種菌を適当量接種して、20℃前後、相対湿度70%前後、暗条件下で90日程度又はそれより長く培養することにより行われる。
【0031】
キノコの子実体を発生させる発生工程は、前記菌床培養が終了した培地に適当な刺激を加えて子実体を発生させることにより行うことができる。子実体の発生工程は、品種毎に知られている一般的な条件に従って行うことができ、特別な操作や条件は必要としない。例えばシイタケの場合、菌床培養終了後に除袋した菌床を発生室へ移動させて全面栽培に移行することにより行うことができる。発生工程は、菌床培養より低温、高湿度の条件下で行うことが好ましく、また必要に応じて蛍光灯やLEDによる間欠照射を行ってもよい。
【0032】
本発明のキノコ栽培用培地添加剤は、ヤナギ以外の培養基材、特に木質基材を用いた栽培用培地に対して、ヤナギを木質基材として用いた培地と同様に、キノコの発生量、特に初期の発生量の増加、総発生量の増加、又は商品価値が高いキノコの発生個数の増加等の利点をもたらすことができる。また、ヤナギを木質基材として含む栽培用培地に対しても、添加しない場合と比較してキノコの発生量、特に初期の発生量の増加、総発生量の増加、又は商品価値が高いキノコの発生個数の増加等の利点をもたらすことができる。
【0033】
シイタケの栽培を例とすれば、例えばシラカンバのおが粉を木質基材とする培地にヤナギの水性抽出物を添加することで、添加しない場合と比較して1次発生量が2倍近くに、また栽培期間の総発生量が2割ほど増加する等の効果をもたらすことができる。また累積収量が300gに達するまでの日数を、添加しない場合と比較して40日程度短縮することができる。同様の利点は、ヤナギを木質基材とする培地にヤナギの水性抽出物を添加することでももたらされる。
【0034】
また、本発明のキノコ栽培用培地で栽培されたシイタケは、旨味に関連するアミノ酸であるグルタミン酸及びアスパラギン酸、甘味に関連するアミノ酸であるアラニン及びグリシン、また旨味に関連するグアニル酸を、ヤナギの水性抽出物を含有しない培地で栽培した場合と比較してより多く含むことが確認された。これら複数の呈味物質の含有量が増大することで、シイタケの旨味が相乗的に増すことが期待される。さらに、本発明のキノコ栽培用培地で栽培することで、大粒、肉厚で食感が良い品質の優れたシイタケをより多く収穫することができる。
【0035】
このように、本発明のキノコ栽培用培地添加剤は、キノコの発生量、特に初期の発生量を増加させる剤、総収量を増加させる剤、又はキノコの品質、例えば大きさや味等を向上させる剤として表すこともできる。
【0036】
以下の非限定的な実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例
【0037】
実施例1 ヤナギの水性抽出物の調製
(1)玉切りしたオノエヤナギの原木を丸太の樹皮を取り除かずにおが粉製造機(エノ産業製、EWD75)に投入し、平均的な大きさが0.5mm~2.0mmのおが粉を製造した。抽出装置(高杉製作所製、TS-WO-50L)におが粉を、続いて質量比でおが粉の10倍量の水を投入し、50℃で1時間、撹拌した。スクリュープレスや遠心分離機を用いて固液分離を行って抽出液を回収した。抽出液をフラッシュエバポレーター(東京理化器械製、MF-5T)で10倍に濃縮して、オノエヤナギから水性抽出物を得た。(水性抽出物の乾燥質量/原木1kg)×100で表される収率は1.0%であった。
【0038】
(2)玉切りしたオノエヤナギとエゾノキヌヤナギの原木(質量比1:1)を樹皮を取り除かずにおが粉製造機(エノ産業製、EWD75)に同時投入し、平均的な大きさが0.5mm~2.0mmの、オノエヤナギとエゾノキヌヤナギとの混合おが粉を製造した。抽出装置(高杉製作所製、TS-WO-50L)に混合おが粉を、続いて質量比で混合おが粉の10倍量の水を投入し、30℃で16時間、撹拌した。スクリュープレスや遠心分離機を用いて固液分離を行って抽出液を回収した。抽出液をフラッシュエバポレーター(東京理化器械製、MF-5T)で10倍に濃縮して、オノエヤナギ及びエゾノキヌヤナギから水性抽出物を得た。(水性抽出物の乾燥質量/原木1kg)×100で表される収率は2.2%であった。
【0039】
(3)上の(1)及び(2)で得られた各水性抽出物の固形分の成分組成を、既報(原田陽ら、日本きのこ学会誌22巻、24-29(2014))の方法に従って分析した。結果を表1に示す。一般的なおが粉のC/N比は100を超えるが、本発明の水性抽出物の固形分のC/N比は33.1(実施例1(1))又は25.1(実施例1(2))であり、窒素分が多く含まれていることが確認された。また同様に、総フェノールの含有量は1.92質量%(実施例1(1))、5.02質量%(実施例1(2))、糖類の含有量は16.0質量%(実施例1(1))、19.4質量%(実施例1(2))であり、グルカンやマンナンが多く含まれていることが確認された。
【表1】
【0040】
実施例2 ヤナギの水性抽出物を添加したシラカンバおが粉を用いたシイタケ栽培試験
(1)30質量部のシラカンバのおが粉、10質量部の市販栄養材(デルトップ、森産業)、60質量部の水、及び固形分として0.08質量部、0.15質量部又は0.44質量部の実施例1(1)の水性抽出物をミキサーに投入し、撹拌して均一な状態にした。混合物をポリプロピレン製栽培袋に1kgずつ充填し、121℃で30分間高圧殺菌して、キノコ栽培用培地を調製した。
【0041】
(2)放冷した(1)の培地にシイタケ(森XR1号)の種菌を約10g接種して、温度22℃、相対湿度70%、暗条件下で90日間培養した。培養終了後に除袋した菌床を発生室へ移し、温度16℃、相対湿度85%、照度約350lx、間欠照明下(12時間/日)の条件下で全面栽培を行って子実体を発生させ、傘が6~8分開いて膜切れ前後の状態になったら子実体を収穫した。収穫した子実体は大きさに応じてLL(直径8cm以上)、L(直径8cm未満~6cm)、M(直径6cm未満~4cm)、S(直径4cm未満~3cm)、SS(直径3cm未満)に分別し、それぞれの個数及び生重量を測定した。最初に発生した子実体(1次発生の子実体)の収穫が終わった後、菌床を浸水刺激して発生操作を行い、2次発生を行った。発生工程の開始から90日間に同様に3次発生まで行い、収量を測定した。
【0042】
上記栽培における累積収量を図1に、1次~3次の各発生収量を図2にそれぞれ示す。ヤナギの水性抽出物を含まない培地(0%添加区)と比較して、ヤナギの水性抽出物を含む培地では1次発生収量で最大97%増加し、発生期間における総発生収量が最大23%増加した。また、累積収量が300gに達する期間が、0%添加区に比べて0.15%以上の添加区で40日短縮された。また、ヤナギの水性抽出物を培地に添加することによって、0%添加区と比較してMサイズのシイタケの発生収量が1.5~2倍程度増加した。
【0043】
(3)収穫した1次発生のシイタケの子実体乾燥粉末1gを30mLの蒸留水に懸濁した後、沸騰するまで加熱5分、その後さらに5分間沸騰させてから、氷冷した。撹拌後、懸濁液を30秒間摩砕した後、摩砕液を5000×gで20分間遠心分離を行い、上清部を5Aろ紙によりろ過した。得られたろ液に蒸留水を加えて20~25mlに定容して試料溶液とし、-30℃で保存した。
【0044】
クエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.2)により希釈した試料溶液について、HPLC(島津製作所、Prominenceシステム)を使用して、以下の条件でアミノ酸分析を行った。
カラム :Shim-PackAmino-Na(6.0×100nm、島津製作所)
カラム温度:60℃
移動相 :アミノ酸分析移動相キットNa型(島津製作所)
流速 :0.4mL/分
反応液 :アミノ酸分析キットOPA試薬(島津製作所)
検出 :SHIMADZU RF-20A蛍光検出器(励起350nm、発光450nm)
【0045】
アミノ酸分析の結果を表2に示した。0%添加区と比較して、ヤナギの水性抽出物を添加した培地で栽培したシイタケではグルタミン酸含量は30~50%、アラニン含量は10~30%、それぞれ増加した。
【表2】
【0046】
原液の試料溶液について、HPLC(島津製作所、Prominenceシステム)を使用して、以下の条件でヌクレオチド分析を行い、グアニル酸を定量した。
カラム :Lichrospher 100RP-18(4.0×250mm、Merck)
カラム温度:25℃
溶離液 :0.5Mリン酸緩衝液(pH4.0)
流速 :0.8mL/分
検出 :SHIMADZU-M20A
【0047】
グアニル酸の定量結果を図3に示した。0%添加区と比較して、ヤナギの水性抽出物を添加したシイタケではグアニル酸含有量は13~31%増加した。
【0048】
実施例3 ヤナギの水性抽出物を添加したヤナギおが粉を用いたシイタケ栽培試験
実施例2(1)のシラカンバのおが粉を同様に調製したエゾノキヌヤナギのおが粉に、水性抽出物を実施例1(2)の水性抽出物(固形分として0.65質量部)にそれぞれ代えた他は実施例2(1)(2)と同様の操作を行って、シイタケを栽培した。
【0049】
栽培結果(累積収量)を図4に示した。エゾノキヌヤナギのおが粉をベースとした培地にさらに本発明の水性抽出物を添加することで、シイタケの1次発生以降の後期発生が持続し、0%添加区と比較して約100日間の総発生収量が19%増加した。

図1
図2
図3
図4