(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】濃縮帯電防止剤及び帯電防止方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/16 20060101AFI20220104BHJP
B05D 5/12 20060101ALI20220104BHJP
B05D 1/28 20060101ALI20220104BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C09K3/16 104F
B05D5/12 C
B05D1/28
C09D5/24
C09K3/16 104D
(21)【出願番号】P 2018002234
(22)【出願日】2018-01-10
【審査請求日】2020-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】515052028
【氏名又は名称】株式会社アースクリーンテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【氏名又は名称】米山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】田村 吉宣
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 昇一郎
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-160096(JP,A)
【文献】特開平05-302077(JP,A)
【文献】特開昭58-038730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/16
B05D
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第4級アンモニウム塩と水とを含み、第4級アンモニウム塩の重量%と水の重量%の合計が40重量%以上である濃縮帯電防止剤。
【請求項2】
第4級アンモニウム塩が0.01重量%以上0.3重量%以下、水が0重量%を超えて15重量%未満、揮発性溶剤が84.7重量%を超えて99.99重量%未満の帯電防止剤となるように、請求項1に記載の濃縮帯電防止剤に揮発性溶剤を加えて希釈し、得られた帯電防止剤を、電気絶縁物の表面にワイプ塗布する帯電防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック及びガラス等の絶縁物に対して好適な濃縮帯電防止剤及び帯電防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第4級アンモニウム塩を0.5~2%と、イソプロピルアルコールを99.5~98%と、からなるプラスチックス用帯電防止処理液を含浸させた超極細繊維からなるウェスでプラスチックス表面をワイプするプラスチックス用帯電防止処理方法が記載され、実施例には、第4級アンモニウム塩が1%、イソプロピルアルコールが99%である帯電防止処理液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
帯電防止剤を含浸させたウェスによるワイプ塗布では、帯電防止剤を塗布する際に被塗布面からホコリ等を除去しながら、帯電防止膜を簡易な作業で形成することが可能である。
【0005】
しかし、特許文献1のように第4級アンモニウム塩を0.5~2%と、イソプロピルアルコールを99.5~98%と、からなるプラスチックス用帯電防止処理液を用いた場合、形成される帯電防止膜が粘着性を有し、ホコリ等を粘着させる問題が生じる。このため、被塗布面にホコリ等が付着し難い環境下(クリーンルーム内等)及び条件下(塗布後、直ちに塗装する等)での塗布作業が必要となり、適用範囲が極めて狭く限定される。
【0006】
また、イソプロピルアルコールの割合が高いため、引火性が極めて高い液体として取り扱う必要が生じ、帯電防止剤としての流通において配送や保管等が煩雑である。
【0007】
そこで、本発明は、ワイプ塗布によって帯電防止膜を簡易に形成することが可能な帯電防止剤及び帯電防止方法の提供を第1の目的とする。
【0008】
また、配送や保管時等の取扱いが簡易な濃縮帯電防止剤の提供を第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の目的は、第4級アンモニウム塩と揮発性溶剤とを含み、第4級アンモニウム塩が0.01重量%以上0.3重量%以下、揮発性溶剤が99.7重量%以上99.99重量%以下である帯電防止剤、或いは第4級アンモニウム塩と水と揮発性溶剤とを含み、第4級アンモニウム塩が0.01重量%以上0.3重量%以下、水が0重量%を超えて15重量%未満、揮発性溶剤が84.7重量%を超えて99.99重量%未満である帯電防止剤により達成される。揮発性溶剤には、例えばイソプロピルアルコール(IPA)などのアルコール系溶剤が含まれる。
【0010】
帯電防止剤は、電気絶縁物の表面(被塗布面)にワイプ塗布される。ワイプ塗布とは、帯電防止剤を含浸させた布で電気絶縁物の表面(被塗布面)を拭くことであり、ワイプ塗布によって被塗布面に帯電防止剤が塗布されるとともに、被塗布面に付着したゴミやホコリ(ホコリ等)が拭き取られる。ワイプ塗布は、塗布ムラが発生する低品質な処理であり、その作業は極めて簡易である。
【0011】
帯電防止剤をワイプ塗布することにより、被塗布面に粘着性を抑制した帯電防止膜が形成され、被塗布面に好適な導電性(帯電防止性)を簡易に付与することができる。
【0012】
なお、水を含有する帯電防止剤の場合には、帯電防止剤中の水成分が速乾性を緩和させるため、ワイプ塗布時に帯電防止剤を被塗布面に塗り拡げやすくなり、均一で連続した帯電防止膜を簡易に形成することができる。
【0013】
本発明の第2の目的は、第4級アンモニウム塩と水とを含み、第4級アンモニウム塩の重量%と水の重量%の合計が40重量%以上である濃縮帯電防止剤によって達成される。なお、濃縮帯電防止剤は、揮発性溶剤を含有していてもよく、含有していなくてもよい。
【0014】
第4級アンモニウム塩の重量%と水の重量%の合計が40重量%以上の濃縮帯電防止剤であり、第4級アンモニウム塩及び水以外の成分の割合は必ず60重量%未満となる。このため、濃縮帯電防止剤に第4級アンモニウム塩と水とアルコール系溶剤(例えばIPA)とが含まれる場合、アルコール系溶剤の割合は必ず60重量%未満となる。従って、配送や保管時等の取扱いを簡易に行うことが可能な濃縮帯電防止剤とすることができる。
【0015】
そして、第4級アンモニウム塩が0.01重量%以上0.3重量%以下、水が0重量%を超えて15重量%未満、揮発性溶剤が84.7重量%を超えて99.99重量%未満の帯電防止剤となるように、上記本発明の濃縮帯電防止剤に揮発性溶剤を加えて希釈し、得られた帯電防止剤を、電気絶縁物の表面にワイプ塗布することによって、本発明の第1の目的が達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ワイプ塗布によって粘着性を抑制した帯電防止膜を簡易に形成することができる。また、配送や保管時等の取扱いを簡易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に用いる第4級アンモニウム塩の一例を示す図である。
【
図3】静電付着性実験に用いたPPケース内面(帯電防止剤塗布面)の表面抵抗値の測定結果を示す図である。
【
図4】綿ホコリ粘着性実験の手順を説明する図であり、(a)は5箇所の領域の各々に帯電防止剤が塗布されたPPシートを、(b)はPPシートを箱の底にセットした状態を、(c)は綿ホコリを注入している状態をそれぞれ示す。
【
図5】各帯電防止剤濃度(重量%)の塗布領域を撮影した写真である。
【
図6】残存粘着ホコリが存在する塗布領域の拡大写真である。
【
図7】水配合量及び相対湿度の相違による静電付着性の相違を示す図である。
【
図8】水配合量を変えたIPA・水混合液で油溶解性を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の実施形態に係る帯電防止剤は、第4級アンモニウム塩と揮発性溶剤とを含み、これらの各成分の割合は、第4級アンモニウム塩が0.01重量%以上0.3重量%以下、揮発性溶剤が99.7重量%以上99.99重量%以下である。また、本発明の第2の実施形態に係る帯電防止剤は、第4級アンモニウム塩と水と揮発性溶剤とを含み、これらの各成分の割合は、第4級アンモニウム塩が0.01重量%以上0.3重量%以下、水が0重量%を超えて15重量%未満、揮発性溶剤が84.7重量%を超えて99.99重量%未満である。これら2つの実施形態の相違は、帯電防止剤が水を含有するか否かである。揮発性溶剤は、例えばアルコール系溶剤であり、本実施形態ではイソプロピルアルコール(IPA)が用いられる。なお、以下では、揮発性溶剤としてIPAを用いた場合について主に説明するが、本発明の帯電防止剤や濃縮帯電防止剤が含有する揮発性溶剤はIPAに限定されず、他のアルコール系溶剤や非アルコール系溶剤であってもよい。
【0019】
すなわち、第1及び第2の実施形態の帯電防止剤は、帯電防止剤中の第4級アンモニウム塩濃度を、帯電防止効果を持つ下限濃度0.01重量%以上であって、粘着性が低い上限濃度である0.3重量%以下の範囲としたものである。帯電防止剤は、絶縁性素材の表面に導電性の帯電防止膜を形成するものであり、界面活性剤である第4級アンモニウム塩を帯電防止膜とし、疎水性部がプラスチック等の帯電性素材に吸着すると共に親水性部が空気中の水分を吸着して弱い導電性を持った帯電防止表面を形成するものである。
【0020】
本発明の一実施形態に係る濃縮帯電防止剤は、第4級アンモニウム塩と水とを含み、第4級アンモニウム塩の重量%と水の重量%の合計が40重量%以上である。
【0021】
本発明の一実施形態に係る帯電防止方法は、本実施形態の濃縮帯電防止剤(第4級アンモニウム塩の重量%と水の重量%の合計が40重量%以上である濃縮帯電防止剤)に揮発性溶剤(例えばIPA)を加えて希釈することにより、第2の実施形態の帯電防止剤(第4級アンモニウム塩が0.01重量%以上0.3重量%以下、水が15重量%未満、揮発性溶剤が84.7重量%を超えて99.99重量%未満の帯電防止剤)とし、得られた帯電防止剤を電気絶縁物の表面(被塗布面)にワイプ塗布するものである。換言すると、本実施形態の帯電防止方法に用いられる濃縮帯電防止剤は、第4級アンモニウム塩の重量%と水の重量%の合計が40重量%以上であって、揮発性溶剤を加えて希釈することによって第2の実施形態の帯電防止剤となるものである。
【0022】
本実施形態(上記各実施形態)で使用する第4級アンモニウム塩は、塗料の抵抗値調整や表面張力調整に用いられるものが好ましく、例えば
図1に示すようなものがある。
【0023】
図1の式中のR
1、R
2はそれぞれ独立に炭素数1~16のアルキル基であり、m、nはそれぞれ独立に1~10の整数である。
【0024】
なお、第4級アンモニウム塩は夥しい品種が上市されており、本実施形態で提示した品種以外でも多くの好適なものがある。特に塗装の前処理として用いる場合には、塗料に用いられているものから選定することが好ましく、数品種を混合して用いるなど柔軟な対応も可能である。
【0025】
特に塗料メーカーや塗装メーカーから要件が提示される場合には、第4級アンモニウム塩品種と配合量、水配合量、濃縮倍率などを協議しての本発明範囲内でのオーダーメードが可能である。
【0026】
帯電防止効果の観点からは、帯電防止剤中の第4級アンモニウム塩の濃度が高い方が有利となる。係る理由から、例えば特許文献1(特開平9-173961号公報)では、第4級アンモニウム塩の濃度範囲を0.5重量%~2重量%としている。しかし、第4級アンモニウム塩の帯電防止剤塗布(ワイプ塗布)で得られる帯電防止膜は粘着性を有し、ホコリ等を粘着させてしまう問題があるため、特許文献1のように第4級アンモニウム塩の濃度が高い帯電防止剤を塗装前処理に用いる場合には、塗装直前にクリーンルームのようにホコリ等が無い清浄な環境下で塗布し、直ちに塗装する必要が生じる。
【0027】
これに対し、第1及び第2の実施形態の帯電防止剤は、上述したように帯電防止と低粘着性の両特性を有しているため、塗布後長期にわたるゴミ付着抑制性能(ホコリ等の静電付着と粘着付着を抑制する性能)を有し、帯電防止剤塗布が求めるゴミ付着抑制性能を発揮し続ける。例えば塗装前処理に本実施形態の帯電防止剤を適用する場合は、クリーンな塗布環境や塗装前時間の制約が無いため帯電防止剤塗布を素材の成形直後や素材開梱直後に行うことができ、塗装までの数日や数週間の期間もゴミ付着を抑制してホコリ等の付着量を低減し、更には塗装直前のエアブローやワイプ作業でのホコリ等の除去を容易にする。
【0028】
また、特許文献1のように第4級アンモニウム塩及びイソプロピルアルコールのみからなる帯電防止剤では、帯電防止剤の速乾性が高過ぎて帯電防止処理液を均一に塗り拡げられない場合や、低湿度時に帯電防止膜への水分吸着に時間がかかり、帯電防止効果が低下する。
【0029】
これに対し、第2の実施形態の帯電防止剤では、水の添加は帯電防止膜に最初から水を吸着させることができるため、特に低湿度下での帯電防止効果の即効性に貢献する。さらに、水の添加によりIPAの蒸発速度を緩和して帯電防止剤の塗布作業性を向上させる効果もある。低湿度下での帯電防止効果の即効性や蒸発速度の緩和による塗布作業性を考慮すると、帯電防止剤中の水の重量%は、1%以上が好適である。なお、帯電防止剤中の第4級アンモニウム塩の割合を0.01重量%以上0.3重量%以下とし、水の割合を1%以上15重量%未満とした場合、揮発性溶剤の割合は84.7重量%を超えて98.99重量%以下となる。
【0030】
また、本実施形態の帯電防止剤は、99.7重量%以上99.99重量%以下の範囲、或いは84.7重量%を超えて99.99重量%未満の範囲でIPAを含有しており、IPAが持つ低表面張力による濡れ性と油分の溶解性に優れた素材清浄化効果を発揮するが、引火性が極めて高い引火性液体(危険物第4類アルコール類)としての取り扱いが求められ、配送や保管の取扱いが煩雑となる。
【0031】
係る煩雑さを解消すべく、本実施形態では、第4級アンモニウム塩の重量%と水の重量%の合計を40重量%以上とした濃縮帯電防止剤を配送や保管のために製造し、ワイプ塗布の作業前に、素材清浄化作業に最も一般的に用いられるIPAを濃縮帯電防止剤に添加して希釈することにより、ワイプ塗布用の帯電防止剤(第2の実施形態の帯電防止剤)を得る。第4級アンモニウム塩の重量%と水の重量%の合計が40重量%以上であるため、濃縮帯電防止剤にIPAを含めた場合であってもIPA濃度は必ず60重量%未満となり、アルコール類危険物に分類されない非危険物の濃縮帯電防止剤となる。
【0032】
具体的には、帯電防止膜を形成する第4級アンモニウム塩を水(又は水とIPAの溶液)に溶解し、IPA濃度(イソプロピルアルコール濃度)が60重量%未満(0%を含む)である非危険物の水配合濃縮帯電防止剤とする。帯電防止剤を使用する現場(例えば塗装前処理を行う現場)では、溶剤型塗料やシンナーと共に清浄化作業用のIPAの入手及び備蓄は容易であり、IPAに上記濃縮帯電防止剤を添加することにより、本実施形態の帯電防止剤を得ることが可能となる。
【0033】
例えば、第4級アンモニウム塩の重量%が2%となるように第4級アンモニウム塩をIPA濃度50%、水50%の溶液を用いて希釈して濃縮帯電防止剤を製造し、帯電防止剤を使用する現場では、濃縮帯電防止剤をIPA(100%品)で10倍に希釈する。この希釈により、各成分の重量%が4級アンモニウム塩濃度0.2%、水配合量4.9%、IPA配合量94.9%の組成を持つ帯電防止剤を得ることができる。
【0034】
非危険物の濃縮帯電防止剤(水配合濃縮帯電防止剤)は、簡易に保管可能であるとともに、帯電防止剤を使用する現場へ簡易な方法により配送することができるので、容器コスト・製造コスト・物流コスト・保管コストを低減でき、製造者・流通者・使用者すべての利便性を向上する。
【0035】
[ゴミ付着抑制効果、帯電防止効果]
本発明の結果系となるゴミ付着抑制効果に関して、静電付着性実験と綿ホコリ粘着性実験により定量的に測定し、要因系となる帯電防止効果に関しては、帯電防止剤塗布面の表面抵抗値を測定した。なお、各実験において被塗布面に塗布する帯電防止剤には、第4級アンモニウム塩、水及びIPA以外の成分を配合していない。
【0036】
(静電付着性実験)
静電付着性実験では、ポリプロピレン製のA4サイズ書類収納ケース(以下「PPケース」と略す)への発泡スチロールビーズ(平均粒径約6mm、以下「ビーズ」と略す)の静電付着性を測定した。測定はすべて気温20℃、相対湿度45%の環境で実施した。具体的な測定手順を下記に示す。
(1)PPケース内面の上面・下面・側面(合計面積約1900cm2)に0.5gの帯電防止剤をティッシュペーパーで塗り拡げる。
(2)ビーズ1g(約300個)をPPケースに投入し、ケースを閉じる。
(3)PPケースを30秒間の間に100回振り、PPケースを立てて一隅にビーズを集めてからビーズが上になるように傾斜台にセットする。
(4)傾斜台を1秒間に1°の速度(角速度)で0°(水平倒伏)から90°(鉛直起立)まで傾斜させ、ビーズがすべて落下する角度を記録する。
【0037】
上記手順で、帯電防止剤無し(帯電防止剤未塗布(第4級アンモニウム塩濃度0%))から第4級アンモニウム塩濃度5%まで、塗布する帯電防止剤の第4級アンモニウム塩濃度(重量%)を徐々に増やし、各濃度帯電防止剤について全ビーズが落下する傾斜角度(ビーズ全落下傾斜角度)を測定した。
【0038】
測定の結果、
図2に示すように、第4級アンモニウム塩濃度が0.01%に達するまでの間(第4級アンモニウム塩濃度が0.01%未満の間)は、傾斜角度が90°に達しても(鉛直に起立しても)落下しないビーズが残存すること、及び第4級アンモニウム塩濃度が0.01%以上の場合に、全ビーズが落下し静電付着抑制効果が認められることが判明した。そして、0.1%以上の濃度では傾斜角度10°以下で全ビーズが落下するという優れた静電付着抑制効果が確認され、この効果は濃度5%までほぼ同じであった。すなわち、第4級アンモニウム塩の濃度が0.5%未満であっても静電付着抑制効果があることが確認された。なお、第4級アンモニウム塩濃度が0.01%に達するまでの間では、傾斜角度が90°に達しても落下しないビーズが残存する(ビーズ全落下角度が存在しない)ため、
図2では、0.01%未満の各濃度(0%、0.001%、0.002%、0.004%、0.004%、0.006%及び0.008%)に対応するビーズ全落下傾斜角度を、便宜上100°の位置にプロットして表示している。
【0039】
次に、上記静電付着性実験に用いたPPケース内面(帯電防止剤塗布面)の表面抵抗値を下記の手順により測定した。
(1)PPケースを開ける。
(2)PPケース内面に表面抵抗測定2重リング電極(JIS K6911準拠)を2kgの加重をかけて圧着する。
(3)超絶縁抵抗計(共立電気計器製KEW3125A)の5000V印加モードにて抵抗値を測定し、6πを掛けて表面抵抗値(GΩ/□)に換算する。
【0040】
測定の結果、
図3のグラフが得られた。帯電防止剤無し(未塗布)では4テラΩ/□の高表面抵抗値が、第4級アンモニウム塩濃度0.01%の帯電防止剤塗布からは1.7テラΩ/□まで低下し、その後の表面抵抗値は濃度とほぼ直線的な負の相関を持つことが確認された。また、静電付着抑制効果が高かった第4級アンモニウム塩濃度0.1%以上の領域では、表面抵抗値が1テラΩ以下のギガΩオーダーになることが分かった。さらに、第4級アンモニウム塩濃度0.5%未満でも表面抵抗変化は連続的であり、静電付着性実験結果を支持する測定結果が得られた。
【0041】
(綿ホコリ粘着性実験)
綿ホコリ粘着性実験では、綿ホコリ粘着状況が確認しやすいように黒色のポリプロピレンシート(以下「PPシート」と略す)1に帯電防止剤を塗布して綿ホコリを散布した後にエアブローで綿ホコリを拭き払い、残存した粘着綿ホコリを写真撮影した。
【0042】
図4(a)に示すように、帯電防止剤の塗布は、実際の帯電防止剤塗布作業に即した塗布圧と塗布速度で各塗布領域2が25mm幅×60mm長となるように、1枚のPPシート1に対して5箇所(
図4(a)中の5つの塗布領域2)に帯電防止剤の濃度(第4級アンモニウム塩の重量%)を変えて実施した。なお、帯電防止剤の第4級アンモニウム塩濃度は、0.01重量%から5重量%の範囲で変更した。
【0043】
綿ホコリの散布は、帯電防止剤を塗布したPPシート1を、
図4(b)に示すように箱3の底にセットして箱3を閉じ、
図4(c)に示すようにカット綿の袋4を200回圧縮して綿ホコリを箱3の上方から注入した。綿ホコリ注入後30分間静置してからPPシート1を箱3から取り出し、PPシート1(塗布領域2)から綿ホコリをエアブローにて拭き払い、残存した綿ホコリに斜光(数度の低角度での照明)を当てて写真撮影した。各濃度毎の塗布領域2の写真を
図5に、残存粘着ホコリが存在する塗布領域の拡大写真を
図6にそれぞれ示す。なお、
図6中の白いスジは帯電防止膜である。
【0044】
綿ホコリ粘着性実験により、第4級アンモニウム塩濃度が0.4重量%以上の領域では綿ホコリの粘着が著しく、0.3重量%以下であれば綿ホコリの粘着が抑えられることが分かった。
【0045】
[IPAを含有する帯電防止剤や濃縮帯電防止剤に水を配合することによる効果]
IPAに第4級アンモニウム塩を溶解した帯電防止剤成分に水を加える効果は、主に以下の3つである。
【0046】
第1の効果は、IPA濃度を60重量%未満とすることによる濃縮帯電防止剤の非危険物化である。IPAは危険物第4類のアルコール類であるが、水の配合によりアルコール類危険物に分類されない非危険物の濃縮帯電防止剤とすれば配送や貯蔵において危険物としての取扱が不要となる。
【0047】
第2の効果は、IPAの速乾性緩和である。帯電防止剤によるワイプ作業は素材の脱脂及び清浄化作業を兼ねており、同時に帯電防止剤の液膜を形成して親水性の第4級アンモニウム皮膜を得るものである。しかしながらIPAと第4級アンモニウム塩のみで構成された帯電防止剤ではIPAの速乾性がこれらの作業性に支障となる場合が多い。このため遅乾性の溶剤を配合してIPAの速乾性を緩和する方法がとられるが、水はIPA速乾性効果の緩和に優れた効果を示す。水を2重量%から5重量%の範囲で配合した第4級アンモニウム塩0.2重量%濃度IPA溶液を作成し、ポリプロピレン素材に対するワイプ作業を行い、液膜の乾燥時間を測定した。その結果、液膜乾燥時間は、水配合無しでは9秒、2重量%から5重量%の水配合有りでは何れも13秒から14秒となり、約50%の液膜乾燥時間延長による作業性向上効果が確認できた。
【0048】
第3の効果は、低湿度時の帯電防止効果の低下を抑えることである。第4級アンモニウム塩の帯電防止効果は疎水性の素材表面に親水性の連続皮膜を形成させ、空気中の水分子を吸着して弱い導電性を得ることにより得られる。しかしながら低湿度では空気中から水分子を吸着するのに時間がかかり、帯電防止剤塗布直後では帯電防止効果が低下する。これに対して、帯電防止剤の成分として水を配合することにより第4級アンモニウム塩の親水性皮膜を形成させると同時に配合した水が吸着するため、塗布直後でも帯電防止効果を発揮できる。
【0049】
水を0重量%(水配合無し)から5重量%の範囲で配合した第4級アンモニウム塩0.2重量%濃度IPA溶液を作成し、相対湿度45%で塗布直後、相対湿度30%で塗布直後、及び相対湿度30%で塗布から1時間経過後に、上述の静電付着性実験を行った結果、
図7に示すように、水配合2~5重量%の範囲では、相対湿度が30%の場合の静電付着性と45%の場合の静電付着性とが略同等であることが分った。また、相対湿度30%の場合、水配合無しでは塗布直後のビーズ全落下傾斜角度は30°まで低下したが、1時間後には11°まで静電付着防止効果が回復し、水配合2~5重量%の帯電防止剤と略同等となることが分った。
【0050】
さらに、相対湿度30%で塗布直後での上述の静電付着性実験において、水配合が0.1重量%、0.5重量%、1重量%、及び1.5重量%である場合の各々についてビーズ全落下傾斜角度を測定した。各水配合割合でのビーズ全落下傾斜角度は、1重量%及び1.5重量%では2重量%と同等(ビーズ全落下傾斜角度は何れも10°以下)であったが、0.5重量%ではビーズ全落下傾斜角度が15°に低下し、0.1重量%では20°に低下した。係る結果から、低湿度下での帯電防止効果の即効性や蒸発速度の緩和による塗布作業性を考慮した場合の水の配合割合は、1重量%以上が好適であることが分かった。
【0051】
なお、水配合量には上限があり、15重量%を超えた場合はIPAが持つ油溶解性を失い、素材洗浄に必須な脱脂ができなくなる。このため、水の配合量は15重量%未満が適正範囲となる。
【0052】
図8に水配合量を変えたIPA・水混合液で油溶解性を評価した結果を示す。油溶解性評価は2gの混合液に0.04gの油(トウモロコシ油とゴマ油の混合油)を滴下して強撹拌し、1時間静置した後に油の溶解状況を記録した。結果は「溶解(油分離せず)」「分離沈降(水配合40%までは混合液の比重が油比重より低いため分離した油が沈降)」「分離浮上(水配合60%以上では混合液比重が油比重を上回り、分離した油が浮上)」の3つに分類して記録した。結果から明らかなように、水配合量の上限が14重量%(範囲は15重量%未満)であることが分かった。
【0053】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、上記実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、電気絶縁物の表面に粘着性を持たせることなく帯電防止性を付与するために広く用いることができる。
【符号の説明】
【0055】
1:ポリプロピレンシート(PPシート)
2:塗布領域
3:箱
4:カット綿の袋