IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日特建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-薬液注入工法及び装置 図1
  • 特許-薬液注入工法及び装置 図2
  • 特許-薬液注入工法及び装置 図3
  • 特許-薬液注入工法及び装置 図4
  • 特許-薬液注入工法及び装置 図5
  • 特許-薬液注入工法及び装置 図6
  • 特許-薬液注入工法及び装置 図7
  • 特許-薬液注入工法及び装置 図8
  • 特許-薬液注入工法及び装置 図9
  • 特許-薬液注入工法及び装置 図10
  • 特許-薬液注入工法及び装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】薬液注入工法及び装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20220104BHJP
【FI】
E02D3/12 101
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017235981
(22)【出願日】2017-12-08
(65)【公開番号】P2019100165
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】特許業務法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】巴 直人
(72)【発明者】
【氏名】上杉 芳隆
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-209315(JP,A)
【文献】特開2010-047950(JP,A)
【文献】実開昭50-106209(JP,U)
【文献】実開昭53-048404(JP,U)
【文献】国際公開第2008/123674(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外管(1)と注入内管(2)を備え、前記外管(1)の外周面(1D)には円周方向へ延在する溝(1A)が形成され、当該溝(1A)には円周方向等間隔に注入口(1B)が形成され、前記溝(1A)には2本の中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)が半径方向について積層する様に嵌合しており、前記溝(1A)の側面には段部は形成されておらず、半径方向外方に配置された中空円筒形状弾性部材(1C2)は半径方向内方に配置された中空円筒形状弾性部材(1C1)よりも外管(1)軸方向寸法が大きく設定されており、前記溝(1A)の外管(1)軸方向寸法(B)は前記積層された中空円筒形状弾性部材の半径方向外側に配置された中空円筒形状弾性部材(1C2)の外管(1)軸方向寸法に等しく設定され、前記溝(1A)の深さ(DH)は、注入薬液が吐出されていない時には前記溝(1A)に嵌合している中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)が外管(1)外周面(1D)から外管(1)半径方向外方に突出しない深さであり、注入薬液が吐出されている時には半径方向外側に配置された中空円筒形状弾性部材(1C2)の軸方向両端部が半径方向外方に捲れ上がり外管(1)軸方向両端と前記溝(1A)の側面との間に隙間が形成される深さに設定されている薬液注入装置(10)を配置する薬液注入装置配置工程と、
薬液を注入する注入工程を含み、当該注入工程は、
前記薬液注入装置(10)の注入口(1B)から注入薬液が吐出される際に、前記中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)が変形して薬液を半径方向外方に吐出する流路(s)が形成される工程を有していることを特徴とする薬液注入工法。
【請求項2】
外管と注入内管を備え、
前記外管の外周面には円周方向へ延在する溝が形成され、
当該溝には円周方向等間隔に注入口が形成され、
前記溝には2本の中空円筒形状弾性部材が半径方向について積層する様に嵌合しており、
前記溝(1A)の側面には段部は形成されておらず、
半径方向外方に配置された中空円筒形状弾性部材(1C2)は半径方向内方に配置された中空円筒形状弾性部材(1C1)よりも外管(1)軸方向寸法が大きく設定されており、
前記溝(1A)の外管(1)軸方向寸法(B)は前記積層された中空円筒形状弾性部材の半径方向外側に配置された中空円筒形状弾性部材(1C2)の外管(1)軸方向寸法に等しく設定され、
前記溝(1A)の深さ(DH)は、注入薬液が吐出されていない時以外(注入時以外)には前記溝(1A)に嵌合している中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)は外管(1)外周面(1D)から外管(1)半径方向外方に突出しない深さであり、注入薬液が吐出されている時には半径方向外側に配置された中空円筒形状弾性部材(1C2)の軸方向両端部が半径方向外方に捲れ上がり外管(1)軸方向両端と前記溝(1A)の側面との間に隙間が形成される深さに設定されていることを特徴とする薬液注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入装置を用いて地中に注入薬液(例えばセメントミルク)を注入する注入工法に関する。
【背景技術】
【0002】
注入工法では、施工するべき地盤中にボーリング孔を掘削し、薬液注入装置を挿入する。
図10で示す様に、薬液注入装置100は外管11と注入内管12を備えており、外管11には長手方向に所定間隔で複数の注入口11Aが形成されており、長手方向の個々の注入口形成位置には逆止弁の機能を有する弾性部材11Bが設けられている。
外管11は中空管状に構成されており、薬液供給口12A(吐出口)及びパッカー12Bを設けた薬液注入管12(パッカー付き内管)を外管11の中空空間に挿入している。
【0003】
図10の点線(仮想線)で示す様に、薬液注入に際しては、薬液を注入するべき領域に注入機構12Cを位置せしめ、外管11の注入口11Aに対応する位置にパッカー付き内管12(薬液注入管)の薬液供給口12Aを位置せしめ、パッカー12Bを膨張させる。パッカー12Bを膨張させることにより、薬液供給口12Aから外管11の中空部に供給される注入薬液は、薬液を注入するべき領域における外管11の注入口11Aのみから吐出する(矢印CP)。薬液を吐出(矢印CP)する際に、逆止弁の機能を有する弾性部材11B(スリーブ状の弾性部材)は実線で示す状態から点線で示す様に変形する。
薬液注入が完了したら、パッカー12Bを収縮してパッカー付き内管12を引き上げ(鉛直方向上方に移動して)、次の注入予定領域(薬液を注入するべき領域)に注入機構12Cを位置させる。そして次の注入予定領域において再びパッカー12Bを膨張させて、薬液注入を行う。この様にして、薬液を注入するべき領域において、順次、薬液を注入する。
【0004】
しかし、図10で示す逆止弁の機能を有する弾性部材11B(スリーブ状の弾性部材)を逆流防止用の弁として使用しているため、当該弾性部材11Bの厚さ寸法(符号δ)の分だけ外管11よりも半径方向外方に突出することになる。図10においては、弾性部材11Bの厚さ寸法を符号δで示している。
厚さ寸法δだけ逆止弁の機能を有する弾性部材11Bが外管11の半径方向外方に突出しているため、図11で示す様に、ボーリング孔Hの内壁面に逆止弁の機能を有する弾性部材11Bの下端部11BEが干渉して、ボーリング孔H内に薬液注入装置100を挿入する際の抵抗となってしまう。特に、図11で示す様に、薬液注入装置100の先端に掘削装置13を設け、ボーリング孔Hを削孔しつつ、薬液注入装置100を当該ボーリング孔H内に挿入させる場合には、ボーリング孔Hの内径は薬液注入装置100の外径と等しいので、逆止弁の機能を有する弾性部材11Bの下端部11BEがボーリング孔H内壁面に干渉することによる抵抗が大きくなってしまう。図11において、符号12はパッカー付き内管(薬液注入管)を表す。
それに加えて、弾性部材11Bの下端部11BEがボーリング孔H内壁面に干渉することで、逆止弁の機能を有する弾性部材11Bが摩耗し或いは破損して、弁としての機能を発揮しなくなる恐れも存在する。
【0005】
また出願人は、外管と注入内管を備え、
前記外管の外周面には円周方向へ延在する溝が形成され、
当該溝には円周方向等間隔に注入口が形成され、
前記溝には円環状弾性部材(例えばO-リング)が2本嵌合しており、
前記溝の半径方向内方の領域は湾曲面で構成され、
前記溝の半径方向距離は、そこに嵌合している円環状弾性部材が外管の外周面から突出しない深さに設定されている薬液注入装置を、先に提案している(特願2016-171665号)。
この薬液注入装置はグラウト溶液を注入するには大変に有効であることが、その後の研究で実証されている。
しかし、円環状弾性部材(例えばO-リング)には常に強い引張力が作用しているので、粒子が懸濁しているタイプのグラウト材(例えばセメント懸濁液)を注入する場合には、グラウト材中で懸濁している粒子により円環状弾性部材が僅かでも摩耗して僅かな亀裂が生じると、当該亀裂に前記強い引張力が作用して(亀裂が)急速に進展して、円環状弾性部材が破断してしまう、という問題が存在する。
【0006】
その他の従来技術として、既存構造物直下の領域でも薬液注入を実行することが出来る技術が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、係る従来技術(特許文献1)では、上述した逆止弁の機能を有する弾性部材とボーリング孔内壁との干渉による種々の問題を解消することは出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-125781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、薬液注入用の弁としての機能を確実に発揮することが出来て、ボーリング孔内壁面に干渉せず、長期間に亘って弁としての機能を発揮することが出来て、しかも粒子が懸濁しているタイプのグラウト材を注入する場合でも弁の構成要素が破損することがない薬液注入装置と、その様な装置を用いて薬液を注入する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の薬液注入工法は、(ボーリング孔Hを削孔する削孔工程と、)
外管(1)と注入内管(2)を備え、前記外管(1)の外周面(1D)には円周方向へ延在する溝(1A)が形成され、当該溝(1A)には円周方向等間隔に注入口(1B)が形成され、前記溝(1A)には2本の中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)が半径方向について積層する様に嵌合しており、前記溝(1A)の側面(底面1AAと直交して外管1の半径方向に延在する壁面)には段部は形成されておらず、半径方向外方に配置された中空円筒形状弾性部材(1C2)は半径方向内方に配置された中空円筒形状弾性部材(1C1)よりも外管(1)軸方向寸法が大きく設定されており、前記溝(1A)の外管(1)軸方向寸法(B)は前記積層された中空円筒形状弾性部材の半径方向外側に配置された中空円筒形状弾性部材(1C2)の外管(1)軸方向寸法に等しく設定され、前記溝(1A)の深さ(DH)は注入薬液が吐出されていない時(注入時以外)には当該溝(1A)に嵌合している中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)が外管(1)外周面(1D)から外管(1)半径方向外方に突出しない深さであり、注入薬液が吐出されている時には半径方向外側に配置された中空円筒形状弾性部材(1C2)の軸方向両端部が半径方向外方に捲れ上がり外管(1)軸方向両端と前記溝(1A)の側面との間に隙間が形成される深さに設定されている薬液注入装置(10)を(ボーリング孔H内に)配置する薬液注入装置配置工程と、
薬液を注入する注入工程を含み、当該注入工程は、
前記薬液注入装置(10)の注入口(1B)から注入薬液が吐出(注入)される際に、前記中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)が変形して薬液を半径方向外方に吐出する(地盤中に注入する)流路(s)が形成される工程を有していることを特徴としている。
【0010】
本発明の薬液注入工法において、薬液注入装置(10)は先端(削孔方向先端)に削孔装置(例えば削孔ビット、高圧水噴射機構等)を備えており、前記削孔工程の際にボーリング孔(H)の掘削と同時に薬液注入装置(10)がボーリング孔(H)内に挿入され、以て、前記削孔工程と前記薬液注入装置配置工程を同時に実行することが出来るのが好ましい。
もちろん、前記薬液注入装置(10)とは別個に用意した削孔装置により前記削孔工程を実行し、削孔工程でボーリング孔(H)が削孔された後、薬液注入装置(10)をボーリング孔(H)内に挿入することにより薬液注入装置配置工程を実行しても良い。この場合、前記削孔工程と前記薬液注入装置配置工程は同時には実行されず、前記削孔工程の後に前記薬液注入装置配置工程が実行される。
【0011】
また本発明の薬液注入装置(10)は、
外管(1)と注入内管(2)を備え、
前記外管(1)の外周面(1D)には円周方向へ延在する溝(1A)が形成され、
当該溝(1A)には円周方向等間隔に注入口(1B)が形成され、
前記溝(1A)には2本の中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)が半径方向について積層する様に嵌合しており、
前記溝(1A)の側面には段部は形成されておらず、
半径方向外方に配置された中空円筒形状弾性部材(1C2)は半径方向内方に配置された中空円筒形状弾性部材(1C1)よりも外管(1)軸方向寸法が大きく設定されており、
前記溝(1A)の外管(1)軸方向寸法(B)は前記積層された中空円筒形状弾性部材の半径方向外側に配置された中空円筒形状弾性部材(1C2)の外管(1)軸方向寸法に等しく設定され、
前記溝(1A)の深さ(DH)は、注入薬液が吐出されていない時(注入時以外)には前記溝(1A)に嵌合している中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)が外管(1)外周面(1D)から外管(1)半径方向外方に突出しない深さであり、注入薬液が吐出されている時には半径方向外側に配置された中空円筒形状弾性部材(1C2)の軸方向両端部が半径方向外方に捲れ上がり外管(1)軸方向両端と前記溝(1A)の側面との間に隙間が形成される深さに設定されている深さに設定されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
上述の構成を具備する本発明によれば、薬液注入装置(10)の外管(1)外周面(1D)に溝(1A)を形成し、当該溝(1A)には注入口(1B)が形成され且つ2本の中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2:例えばゴムリング)が嵌合しているので、注入作業が行われない状態では、溝(1A)に形成された注入口(1B)は2本の中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)により閉鎖されている。
薬液を地盤中に注入する際には、パッカー(2A)を膨張させて注入内管(2)から薬液を吐出すると、当該薬液の吐出圧(P1:薬液注入圧力)が作用して、2本の中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)が変形して溝(1A)との間に隙間を形成し、当該隙間が注入薬液の流路(s)となる。
そして注入薬液は、前記隙間(流路s)を介して、半径方向外方に吐出される(地盤中に注入される)。
【0013】
薬液の注入(吐出)が終了すると、中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)に作用していた注入薬液の吐出圧(P1)が消失するので、中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)の弾性反撥力が作用して、中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)を注入薬液吐出圧(P1)が作用する以前の状態に復帰せしめて吐出口(1B)を閉鎖する。
換言すれば、本発明によれば、従来の逆止弁の機能を有する弾性部材(スリーブ状の弾性部材)により構成されている弁と同様に、注入時のみ薬液注入流路(s)を開放し、非注入時には薬液注入流路(s)が閉鎖される。
【0014】
また本発明によれば、注入薬液が例えばセメント粒子が懸濁している懸濁液であり、注入薬液を地盤に注入する際に中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)がセメント粒子により摩耗したとしても、半径方向内方に位置する中空円筒形状弾性部材(1C1)の摩耗箇所には半径方向外方に位置する中空円筒形状弾性部材(1C2)の軸方向中央部における弾性反撥力(T)が半径方向内方に向かって作用し、半径方向内方に位置する中空円筒形状弾性部材(1C1)の軸方向中央部には当該弾性部材(1C1)自体の弾性反撥力(T)も作用する。そのため、中空円筒形状弾性部材(1C1)の半径方向内側が摩耗しても、当該摩耗箇所は中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)の軸方向中央部の弾性反撥力(T)によって押し潰されるので、中空円筒形状弾性部材(1C1)と溝(1A)の間に薬液が洩れる流路が形成されてしまうことはない。すなわち、非注入時には、半径方向内方に位置する中空円筒形状弾性部材(1C1)が注入液通路の注入口(1B)と密着して閉鎖している状態が、常時、保持される。
したがって、注入薬液が懸濁液であっても本発明を実施することが出来る。
【0015】
さらに本発明によれば、中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)には当該弾性部材の弾性反撥力が常に半径方向内方へ向かって作用しているので、半径方向内方の中空円筒形状弾性部材(1C1)の軸方向両端が半径方向外方に捲れ上がる様に変形した状態を保持しようとしても、半径方向外側に位置する他方の中空円筒形状弾性部材(1C2)の軸方向中央の領域に作用する弾性反撥力(T)により、半径方向内方の中空円筒形状弾性部材(1C1)の軸方向両端は半径方向外方に捲れ上がる様に変形した状態を保持することは出来ずに、溝(1A)の半径方向内方面に押し付けられる。
そのため、注入液通路から注入液が吐出することは無く、且つ、地盤側から注入液が逆流して来ても、半径方向内方の中空円筒形状弾性部材(1C1)が溝(1A)の半径方向内方面に押し付けられて密着している箇所において、完全にシールされる。
【0016】
それに加えて、中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)は溝(1A)内に嵌合しており、溝(1A)の半径方向距離(DH:溝の深さ)は、そこに嵌合している中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)が外管(1)の外周面(1D)から突出しない深さに設定されているので、薬液注入装置(10)をボーリング孔(H)内に挿入するに際して、中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)はボーリング孔(H)の内壁面と干渉せず、薬液注入装置(10)のボーリング孔(H)内の移動の抵抗となることはない。
そのため、中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)とボーリング孔(H)の内壁面との干渉による摩擦で、中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)が摩耗や破損することはなく、中空円筒形状弾性部材(1C1、1C2)は弁としての機能を長期間に亘って確実に発揮することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態を示す説明図である。
図2図1における符号Aで示す部分の断面を示す部分拡大断面図である。
図3】実施形態における作用を説明する部分拡大断面図である。
図4】好適でない構成を示す部分拡大断面図である。
図5図4で示す構成が不都合である理由の説明図である。
図6】好適でない構成であって、図4の構成とは別の構成を示す部分拡大断面図である。
図7図2における各種寸法の説明図である。
図8】注入口の位置を示す端面図である。
図9】本発明の別の実施形態に係る薬液注入工法で用いられるバルブを示す部分拡大断面図である。
図10】従来の逆止弁の機能を有する弾性部材で構成されているバルブを有する薬液注入装置の要部を示す部分断面図である。
図11図10の従来技術の問題点を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1図9を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の実施形態の概要を示しており、薬液注入装置10の外管1の外周面1Dには円周方向へ延在する溝1Aが形成されている。
外管1は中空空間を有する中空管状に構成されており、当該中空空間には注入内管2(図1では点線で示す)を備えている。注入内管2はパッカー2Aを備えており、注入内管2の構成及び作用効果は、図10を参照に説明した従来公知のパッカー付き内管12と同様である。
外管1の溝1Aは、外管1の軸方向(図1で上下方向)において、薬液注入すべき複数の箇所に形成される(図1では、軸方向で1箇所の溝1Aのみが示される)。ここで、薬液注入すべき複数の箇所は薬液注入口を設ける箇所であり、図8を参照して後述する。この薬液注入すべき複数の箇所に対応して、注入内管2は外管1内の中空空間を移動して、所定位置に保持される。
図1図7では、溝1Aには、円周方向等間隔に薬液注入口1Bが例えば4箇所形成されている。ただし図1においては、半径方向(左右方向)中心の注入口1Bは表示されるが、半径方向両端の注入口1Bは符号と引き出し線により位置のみを示している。
【0019】
図2において、幅方向(図2では上下方向)寸法Bを有する溝1Aの底面1AAは平坦に加工されており、その幅方向(図2では上下方向)の中央に注入口1Bが形成されている。
溝1Aには、注入口1Bを閉鎖する様に、2本の弾性材(例えばゴム)製の中空円筒状の弾性部材1C1、1C2(ゴムバンド)が半径方向について積層する様に嵌合している。
ゴムバンド1C1は注入液通路の半径方向出口である薬液注入口1Bを閉鎖するように配置されている。ゴムバンド1C2はゴムバンド1C1の半径方向外側(図2で右側)に配置されており、その弾性反撥力(図3の矢印T)によりゴムバンド1C1を半径方向内側に抑え付けている。
溝1Aの深さDH(半径方向距離)は、図2で示す様に、ゴムバンド1C1、1C2が溝1Aに嵌合した際に、ゴムバンド1C1、1C2が外管1の外周面1Dから突出しない深さに設定されている。
溝1Aとゴムバンド1C1、1C2に関する各種寸法については、図7を参照して後述する。
【0020】
図3において、薬液注入作業が行われていない状態では、ゴムバンド1C1、1C2(中空円筒形状弾性部材)は実線で示された状態で、溝1A内に収容されている。そして、溝1Aの底面1AAに形成された注入口1Bは、実線で示すゴムバンド1C1により閉鎖されている。
なお、図3において薬液注入作業が行われていない状態では、ゴムバンド1C2の半径方向端部(図5で左側端部)は外管1の外周面1Dから突出していない。
【0021】
図示しないパッカー付き注入内管から薬液を吐出すると、当該薬液の吐出圧P1(薬液注入圧力)によりゴムバンド1C1、1C2は点線で示す様に変形し(半径方向外方へ捲れ上がり)、溝1Aの壁面との間に隙間が形成され、当該隙間を薬液が流れる。図3において、前記隙間を流れる薬液の流線が複数の矢印sで示されている。換言すれば、薬液は複数の矢印sで示す流路に沿って、半径方向外方(図3では左方)に噴射(吐出)され、地盤中に注入される。
ここで、ゴムバンド1C1、1C2には、素材であるゴム(弾性部材)の弾性反撥力(図3の矢印T)が、半径方向内方に常時作用している。薬液の注入(吐出)が終了すると、ゴムバンド1C1、1C2に作用していた薬液の吐出圧P1が消失するので、ゴムバンド1C1、1C2は(ゴムバンド1C1、1C2自体の)弾性反撥力Tにより、図3の点線で示す変形した状態(捲れ上がった状態)から実線で示す状態に復元する。そして、ゴムバンド1C1が再び注入口1B(吐出口)を閉鎖し、ゴムバンド1C1、1C2は溝1A内に収容された状態に復帰する。
その結果、図示の実施形態によれば、従来の逆止弁の機能を有する弾性部材(スリーブ状の弾性部材)で構成された弁と同様に、薬液の注入時のみ矢印sで示す薬液注入流路が開放され、薬液を注入しない時には矢印sで示す薬液注入流路は閉鎖される。
【0022】
ここで、注入薬液が例えばセメント粒子が懸濁している懸濁液であり、注入薬液を地盤に注入する際にゴムバンド1C1、1C2がセメント粒子により摩耗したとしても、ゴムバンド1C1の摩耗箇所にはゴムバンド1C2の軸方向中央部における弾性反撥力Tが半径方向内方(図2図3では左方)向かって作用し、且つ、ゴムバンド1C1自体の弾性反撥力Tも作用する。そのため、ゴムバンド1C1の半径方向内側が摩耗しても、当該摩耗箇所はゴムバンド1C2の軸方向中央部における弾性反撥力T及びゴムバンド1C1自体の弾性反撥力Tにより押し潰されて、溝1Aの底面1AAと密着するので、ゴムバンド1C1と溝1Aの底面1AA間に薬液が洩れる流路は形成されない。すなわち、薬液を注入しない時(非注入時)においては、ゴムバンド1C1が溝1Aに密着して注入液通路の注入口1Bを閉鎖している状態が、常時、保持される。
したがって、注入薬液が懸濁液であっても、図示の実施形態では良好に実施することが出来る。
【0023】
図4図5は、本発明の実施形態としては不適切な例を示しており、外管1の溝1E内にゴムバンド1CS(中空円筒形状弾性部材)が1本のみ嵌合している。以下、図4で示す構造が不都合である理由を説明する。
図1~3の実施形態では、図2図3で詳細に示した通り、溝1A内に2本のゴムバンド1C1、1C2が収容されており、溝1Aの注入口1Bから半径方向外方に薬液吐出圧P1(薬液注入圧力)が作用すると、2本のゴムバンド1C1、1C2が半径方向外方に捲れ上がる様に変形して溝1Aの壁面との間に隙間が形成され、当該隙間が矢印s(図3参照)で示す流路を構成する。
図4の構成であっても、薬液注入時には、薬液注入口1Bを閉鎖するように配置されている単一のゴムバンド1CSが、薬液吐出圧P1により単一のゴムバンド1CSの軸方向両端(図4では上下方向両端)が半径方向外方(図4では右方)に捲れ上がる様に変形(図4ではゴムバンド1CSの上下両端が実線で示す位置から点線で示す様に変形)して、溝1Eの壁面との間に流路s4が構成される。図4において、符号2、2Cは、それぞれ薬液注入管、薬液注入機構を示している。また図4では、半径方向他方の側(図4で左側)における単一のゴムバンド1CSや流路s4等の表示を省略している。
【0024】
しかし、図4の構成であると、単一のゴムバンド1CSが変形して、その軸方向両端(図4では上下方向両端)が半径方向外方(図4では右方)に捲れ上がった状態(図4の点線の状態)になると、薬液注入が終了し注入薬液の吐出圧P1が消失しても、例えばゴムバンド1CSの経年劣化や硬化により、図4の実線で示す状態に復元しなくなる可能性が存在する。
図4で示す薬液注入装置を使用して、図5の符号No.1の位置において薬液注入を行った後、符号No.2の位置で薬液注入を行った場合において、符号No.1のゴムバンド1CSが経年劣化や硬化により図4の点線の状態のままになってしまうと、符号No.1における薬液注入が完了した後、符号No.2の箇所で注入薬液吐出圧P1を作用させて薬液注入を開始すると、符号No.2から吐出された薬液の一部が、例えば経路ROを介して、符号No.1の箇所におけるゴムバンド1CSが変形して捲れ上がった状態(図4の点線の状態)の箇所を通過して、薬液注入装置10の注入内管2内に侵入(逆流)してしまう恐れがある。
なお、図5の左側における単一のゴムバンド1CS、薬液侵入(逆流)の経路ROの表示は省略する。
【0025】
図4図5の例に対して図示の実施形態では、図3で示す様に、2本のゴムバンド1C1、1C2には常に半径方向内方へ向かう弾性反撥力が作用しているので、ゴムバンド1C1の軸方向(図3では上下方向)両端が、半径方向外方(図3では右方)に捲れ上がる様に変形した状態を保持しようとしても、半径方向外側に位置する他方のゴムバンド1C2の軸方向(図3では上下方向)中央の領域に作用する弾性反撥力Tにより、ゴムバンド1C1の軸方向(図3では上下方向)両端は半径方向外方(図3では右方)に捲れ上がる様に変形した状態を保持することは出来ずに、溝1Aの半径方向内方面に押し付けられて底面1AAに密着する。
そのため、注入液通路から注入液が吐出することは無く、且つ、地盤側から注入液が逆流して来ても、ゴムバンド1C1が溝1Aの半径方向内方面に押し付けられている箇所において、完全にシールされる。
【0026】
仮に、半径方向外方(図3では右側)に位置するゴムバンド1C2の軸方向(図3では上下方向)両端が半径方向外方(図3では右方)に捲れ上がる様に変形したとしても、ゴムバンド1C1を溝1Aの半径方向内方面に押し付けるのはゴムバンド1C2の軸方向中央の領域における弾性反撥力であり、ゴムバンド1C2の軸方向両端が変形してもゴムバンド1C1を溝1Aの半径方向内方面に押し付ける作用は変化しない。
【0027】
図6も本発明の実施形態としては不適切な例であって、図4とは別の例を示している。図6において、溝F1内の軸方向(図6では上下方向)中央にさらに別の溝F2が形成されており、溝F2には2本のOリング1o、1o(円環形状弾性部材)が嵌合しており、溝F1には単一のゴムバンド1CS(中空円筒形状弾性部材)が嵌合している。
図4で示す構成と同様に、図6の例でも、薬液注入時には注入口1Bから(変形した2本のOリング1oを介して)薬液吐出圧(薬液注入圧力)が作用し、単一のゴムバンド1CSの軸方向(図6では上下方向)両端が捲れ上がる様に変形し、経年劣化や硬化等によりその変形が保持されてしまうと、図5で示すのと同様に薬液が薬液注入装置10の注入内管2内(図1参照)に侵入(逆流)してしまう恐れがある。
また、注入薬液として、例えばセメントの様な粒子が懸濁している懸濁液を用いた場合には、Oリング1o、1oが摩耗して亀裂が生じ、当該亀裂にOリング1o、1o自体の弾性反撥力が作用して進展し、破断してしまう。
さらに、溝F1(深さ寸法D1)に加えて、溝F2(深さ寸法D2)を加工する必要があり、半径方寸法「D1+D2」だけ外管1(図1参照)を(半径方向に)切削しなければならないので、外管1の強度が低下してしまうという問題を有している。
図1図3の実施形態では、図6の例における上述した問題点を生じない。
【0028】
次に図7を参照して、図2図3で示す溝1Aとゴムバンド1C1、1C2(中空円筒形状弾性部材)の寸法について、説明する。
ゴムバンド1C1の軸方向寸法(図7の上下方向寸法)をL1(長さL1=1C1の軸方向長さ)とすると、長さL11と、注入口1Bに通じる注入液通路の直径φ、符号Rαで示す距離との関係は、下式で表すことが出来る。
L1=Rα×2+φ、
∴Rα=(L1-φ)/2
ここで、距離Rαは、ゴムバンド1C1と溝1Aとの間に形成される注入液の流路(全体を符号sで示す)の長さに相当する。
一方、距離Rβは、ゴムバンド1C2の厚さt2に等しい。すなわち、 Rβ=t2 である。また距離Rβは、ゴムバンド1C2と溝1Aとの間に形成される注入液の流路の長さに相当する。
【0029】
上述した様に、距離Rαと距離Rβは、ゴムバンド1C1、1C2と溝1Aとの間に形成される注入液の流路sの一部を構成し、流路sの中で流路抵抗が大きい部分である。
したがって、図示の実施形態における薬液注入装置を設定する際、流路s、特に距離Rα及び距離Rβの流路抵抗が、注入薬液(グラウト材)が所定時間内に通常の吐出圧のポンプにより注入できる程度である様に、設定する。それに基づいて、ゴムバンド1C1の軸方向長さL1、注入液通路の直径φ、ゴムバンド1C2の厚さt2を決定している。
換言すれば、距離Rαと距離Rβ(すなわち、ゴムバンド1C1の軸方向長さL1、注入液通路の直径φ、ゴムバンド1C2の厚さt2)は、施工条件や使用されるポンプ吐出圧等により、ケース・バイ・ケースで決定される。
【0030】
図7において、ゴムバンド1C2の軸方向長さL2(図7の上下方向長さ)は、溝1Aの軸方向長さと概略等しい。
実施形態においては、薬液注入の際にゴムバンド1C1の軸方向(図7の上下方向)両端が捲れ上がった状態が保持されない様に、ゴムバンド1C2の弾性反撥力により抑え付けている。ゴムバンド1C2の弾性反撥力は、ゴムバンド1C2の軸方向長さL2及びゴムバンド1C2の厚さt2に基づいて決定される。なお、ゴムバンド1C2の軸方向長さL2の決定に際しては、ゴムバンド1C1の長さL1との比率が大きく影響する。
図示の実施形態における薬液注入装置を設定する際に、ゴムバンド1C2の軸方向長さL2、ゴムバンド1C2の厚さt2に関しては、上述した様に、ゴムバンド1C2の弾性反撥力によりゴムバンド1C1の両端部を抑え付けられる様に設定される。
【0031】
ここで、「一般的」とされる注入工法の施工条件が、例えば、
注入薬液の流量Qが、Q=20リットル/分、
注入液通路の直径φが、φ=7mm、
ポンプ吐出圧Peが、0.2MPa≦Pe≦0.5MPa
であれば、図7における各寸法数値は、例えば、
t1=1mm、
t2=2mm、
L1=30mm(Lα=10mm)、
L2=50mm
である。
ただし、発明者の実験によれば、上記t1、t2、L1、L2は、±20%の変動は許容可能であった。
【0032】
図8を参照して、外管1における注入口1Bの円周方向位置を説明する。
図8(A)は図1図7を参照して説明した実施形態の場合であり、注入口1Bは円周方向に4箇所、等間隔に設けられている。なお、図8では外管1に形成した溝1Aの図示は省略している。
注入口1Bの個数は円周方向に4箇所に限定される訳ではなく、図8(B)、(C)に示す様に、注入口1Bを円周方向で3箇所、円周方向で2箇所、それぞれ等間隔に設けることも出来る。
なお、図示しないが、注入口1Bを円周方向で1箇所のみ形成することも可能であり、注入口1Bを円周方向に5箇所以上形成することも可能である。
【0033】
図示の実施形態を施工するに際しては、先ずボーリング孔H(従来技術を示す図11参照)を削孔する削孔工程を、従来公知の方法で実行する。
次に削孔したボーリング孔H内に、図1図7を参照して説明した本発明の実施形態に係る薬液注入装置10を配置する。
そして薬液注入装置10から地盤中に薬液を注入する注入工程を実行する。当該注入工程では、パッカー付き注入内管2(図1)のパッカーを膨張した後に薬液を吐出し、薬液注入装置10の注入口1Bから注入薬液が吐出(注入)される。薬液注入の際には、吐出圧P1(薬液注入圧力)によりゴムバンド1C1、1C2(中空円筒形状弾性部材)が変形し、薬液を半径方向外方に吐出する(地盤中に注入する)ための流路sが形成される。
【0034】
薬液注入工程に際して、外管1において薬液注入すべき複数の箇所に溝1Aが形成されていれば、当該複数の溝1Aの注入口1Bの位置に対応させて順次、注入内管2を移動、配置させながら、例えば下方領域から上方領域に向かって、地盤中への薬液注入を実行する。
但し、外管1における複数の溝1A(注入口1B)の位置に対応して複数の注入ノズル及び複数のパッカーを有する注入内管を使用すれば、複数の溝1Aの注入口1Bから同時に地盤中に薬液を注入することも出来る。
【0035】
図示の実施形態において、薬液注入装置10の先端(削孔方向先端)に削孔装置(例えば削孔ビット、高圧水噴射機構等、従来技術を示す図11の符号13)を設置すれば、前記ボーリング孔Hの削孔の際に、ボーリング孔Hの削孔と同時に薬液注入装置10がボーリング孔H内に配置されるので、ボーリング孔Hの削孔と薬液注入装置の配置(挿入)を同時に実行することが出来る。
もちろん、薬液注入装置10とは別個に用意した削孔装置によりボーリング孔Hを削孔し、ボーリング孔Hが削孔された後、薬液注入装置10をボーリング孔H内に挿入しても良い。この場合、ボーリング孔Hの削孔と、ボーリング孔H内への薬液注入装置10の挿入(配置)とは同時には実行されず、ボーリング孔Hの削孔の後に、薬液注入装置10が挿入(配置)される。
【0036】
図示の実施形態によれば、逆止弁の機能を有する弾性部材で構成された弁を用いた従来技術と同様に、注入時のみ薬液注入流路sを構成し、非注入時には薬液注入流路sは構成されない。
ここで図示の実施形態では、ゴムバンド1C1、1C2は溝1A内に嵌合しており、溝1Aの半径方向距離(DH:溝の深さ、図2参照)は、そこに嵌合しているゴムバンド1C1、1C2が外管1の外周面1Dから突出しない深さに設定されているので、薬液注入装置10をボーリング孔H内に挿入するに際して、ゴムバンド1C1、1C2はボーリング孔Hの内壁面と干渉せず、薬液注入装置10のボーリング孔H内の移動の抵抗となることはない。
そのため、ゴムバンド1C1、1C2とボーリング孔Hの内壁面との干渉による摩擦で、ゴムバンド1C1、1C2が摩耗や破損することはなく、ゴムバンド1C1、1C2は弁としての機能を長期間に亘って確実に発揮することが出来る。
【0037】
そして、2本のゴムバンド1C1、1C2には常に半径方向内方へ向かう弾性反撥力が作用しているので、半径方向内方に位置するゴムバンド1C1の軸方向両端が、半径方向外方に捲れ上がる様に変形しても、半径方向外側に位置する他方のゴムバンド1C2の軸方向中央の領域に作用する弾性反撥力Tにより、ゴムバンド1C1の軸方向両端は半径方向外方に捲れ上がる様に変形せずに、溝1Aの半径方向内方面に押し付けられる。
そのため、注入液通路から注入液が吐出することは無く、且つ、地盤側から注入液が逆流して来ても、ゴムバンド1C1が溝1Aの半径方向内方面に押し付けられている箇所において、完全にシールされる。
それに加えて図1図7で示す実施形態であれば、注入薬液が例えばセメント粒子が懸濁している懸濁液であり、注入薬液を地盤に注入する際にゴムバンド1C1、1C2がセメント粒子により摩耗しても、半径方向内方に位置するゴムバンド1C1の摩耗箇所はゴムバンド1C2の弾性反発力Tにより半径方向内方に押し潰されるので、ゴムバンド1C1と溝1Aは密着し、その間に薬液が漏れる流路は形成されない。そのため、非注入時にゴムバンド1C1が注入液通路の注入口1Bを閉鎖している状態が、常時、保持される。すなわち、注入薬液が懸濁液であっても、図示の実施形態では良好に実施することが出来る。
【0038】
上述した図1図7の実施形態とは別の実施形態に係る薬液注入工法では、外管1の溝1Aに2本のゴムバンド1C1、1C2(中空円筒形状弾性部材)を嵌合することに代えて、図9で示す様に、外管1における湾曲した溝1Gに2本のOリング1o1を嵌合している。
すなわち、溝1Gの底面1GAにおいて、幅方向(図9では上下方向)の中央の注入口1Bを閉鎖する様に、弾性材(例えばゴム)製の円環状弾性部材であるOリング1o1が2本嵌合している。その際、2本のOリング1o1は、溝1Gの幅方向に均等に配置されており、注入口1Bの中心軸1BCは2本のOリング1o1の境界を定義している。
溝1Gの深さDH(半径方向距離)は、図9で示す様に、Oリング1o1を溝1Gに嵌合した際、Oリング1o1が外管1の外周面1Dから突出しない深さに設定される。
ここで図9においては、外管1の外周面1Dに形成した溝1Gの底面1GAは所定の曲率半径を有する湾曲面に形成される。
【0039】
薬液注入時に注入口1Bから薬液による吐出圧を受けた際に、2本のOリング1o1は適正に変形し、当該2本のOリング1o1間に薬液流路は形成され、薬液は外管1の半径方向外方に吐出される(地盤中に注入される)。
図9で示すバルブを用いる実施形態におけるその他の構成及び作用効果は、図1図7で示す実施形態と同様である。
【0040】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
例えば、円環状弾性部材として、実施形態ではゴム製のOリングを例示したが、他の材質によるものでも良く、また円環状弾性部材の断面形状も円形でなくても良い。
【符号の説明】
【0041】
1・・・外管
1A・・・溝
1B・・・注入口
1C1、1C2・・・ゴムバンド(中空円筒形状弾性部材)
1D・・・外周面
2・・・注入内管
10・・・薬液注入装置
H・・・ボーリング孔
s・・・流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11