(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】噴霧乾燥装置
(51)【国際特許分類】
B01D 1/18 20060101AFI20220127BHJP
B01J 2/04 20060101ALI20220127BHJP
F26B 3/12 20060101ALI20220127BHJP
F26B 17/10 20060101ALI20220127BHJP
F26B 21/10 20060101ALI20220127BHJP
G01N 15/02 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
B01D1/18
B01J2/04
F26B3/12
F26B17/10 B
F26B21/10
G01N15/02 A
(21)【出願番号】P 2017040511
(22)【出願日】2017-03-03
【審査請求日】2017-06-20
【審判番号】
【審判請求日】2019-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】512313920
【氏名又は名称】株式会社プリス
(74)【代理人】
【識別番号】100110434
【氏名又は名称】佐藤 勝
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晋介
(72)【発明者】
【氏名】川口 晋也
(72)【発明者】
【氏名】三隅 雄一
(72)【発明者】
【氏名】市川 義人
(72)【発明者】
【氏名】笹倉 大督
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文章
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】伊藤 真明
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-279835(JP,A)
【文献】特開2006-137832(JP,A)
【文献】特開平5-57102(JP,A)
【文献】特開2007-5238(JP,A)
【文献】特表2006-510717(JP,A)
【文献】特開平7-246325(JP,A)
【文献】特開平6-7662(JP,A)
【文献】特開平4-281872(JP,A)
【文献】特表2006-509717(JP,A)
【文献】佐藤文章、外3名、“工業用スプレードライ工程におけるリアルタイム粒子径分析を計測値に用いた工程制御に関する基礎的検討”、日本セラミックス協会2016年年会講演予稿集、平成28年3月1日、第1P217頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D1/18
B05B1/00-3/00
B05B7/00
B01J2/04
G01N15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴霧機構部を介して乾燥室内に粒子化される原液を供給し、前記噴霧機構部から液滴状の前記原液を噴霧し乾燥させて乾燥室内に粒径が1~500ミクロンの乾燥粒体を得る噴霧乾燥装置であって、
前記乾燥室内から前記乾燥粒体の捕集部に向けて連結され前記乾燥粒体が常時排出されるラインに設けられ、且つ捕集される前の前記乾燥粒体の粒径を体積分布としてリアルタイムで監視する監視部と、前記監視部からの監視結果についての信号が入力される制御部とを設け、前記監視部での粒径の監視結果に基づいて前記制御部は前記噴霧機構部を通過する原液の噴霧状態についてリアルタイムで且つ連続的に帰還制御するものであって、前記監視部はレーザー回
折法による前記乾燥粒体の粒径のデータを取得
し、取得したデータの中から粒径の中心径を導くと共に、前記体積分布の分散についてもリアルタイムで計測し、前記中心径と前記分散を含む該リアルタイムの粒径分布と目標とする粒径分布の比較に基づいて原液の噴霧状態について帰還制御することを特徴とする噴霧乾燥装置。
【請求項2】
請求項1記載の噴霧乾燥装置であって、前記目標とする粒径分布は、制御システムに記憶されたデータであり、過去の良好な生産ラインのデータを保存したものであることを特徴とする噴霧乾燥装置。
【請求項3】
請求項1記載の噴霧乾燥装置であって、前記制御部は2段階の帰還制御を行うものとされ、初めに中心径が許容範囲内に収まるように帰還制御を行い、次いで粒径のばらつきが許容範囲内に収まるように帰還制御を行うことを特徴とする噴霧乾燥装置。
【請求項4】
請求項1記載の噴霧乾燥装置であって、前記噴霧機構部は回転数を制御できる回転部を液滴状の前記原液を噴霧する際に用い、前記制御部は前記回転部の回転数を制御することを特徴とする噴霧乾燥装置。
【請求項5】
請求項1記載の噴霧乾燥装置であって、前記噴霧機構部は圧力を制御できる圧縮気体を用い、前記制御部は前記圧縮気体の圧縮値を制御することを特徴とする噴霧乾燥装置。
【請求項6】
請求項1記載の噴霧乾燥装置であって、
前記制御部は、前記原液の供給速度、温度、pH値、固形分濃度、若しくは粘度を制御することを特徴とする噴霧乾燥装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原液を乾燥室内に供給して所定の粒径の乾燥粒体を生成することができる噴霧乾燥装置に関し、特にその生成される乾燥粒体の粒径の制御に優れた噴霧乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スラリー・溶液などの原液を瞬時に粒体にするための噴霧乾燥装置は食品、化学・医薬品、工業用材料、鉄鋼・金属などの広範囲の分野で使用されている。従来の噴霧乾燥装置では、ロータリーアトマイザーと呼ばれる回転式の機構部、または二流体ノズルと呼ばれる機構が乾燥室の天井部に取り付けられ、ロータリーアトマイザーでは、モーターでロータリーアトマイザーの回転ディスクなどの回転部を回転させると共に粒子のもとになる原液が乾燥室に導入される。ロータリーアトマイザーの回転に応じて原液が微粒化され、二流体ノズルでは、コンプレッサー、ボンベ等から送られた圧縮気体と原液を二流体ノズル内部、または外部にて混合し、微粒化された原液を噴霧し、乾燥室内に投入された熱風によって溶媒を蒸発させて所要の粒体を形成する。このような噴霧乾燥装置では、生成される粒体の粒径は例えば1~500ミクロン程度のサイズであり、粒径の分布が粒体製品の品質を決めるものとなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の噴霧乾燥装置の一般生産工程では、一定の条件にて運転し、捕集された乾燥粒体をサンプリングし、間欠的なオフラインの粒度分布測定装置にて計測し、従来通りの粒度分布であるか確認していた。
【0004】
しかしながら、一定の条件で噴霧乾燥装置を運転しても、様々な要因により、粒度分布が一定になるとは限らず、または運転中に変化することもある。要因としては、例えば原液の濃度、粘度、気温、湿度等多岐に考えられる。また一定の条件で運転していたつもりでも、原液供給速度の変化、温度条件の変化等により、粒度分布の変化に影響を与えることもある。
【0005】
また、間欠的なオフラインの粒度分布測定にて従来通りの粒度分布とならなかった場合は、運転条件、または原液条件を変更する必要があり、従来通りの粒度分布に合わせるための条件設定にはオペレーターの経験やノウハウが必要となる。また従来通りの粒度分布に合わせるために条件を変更して、再度サンプリングしてオフラインの粒度分布測定し、合わなければこの工程を繰り返す必要がある。これらにより、従来通りの粒度分布とならなかった粉体は規格外品となり、製品とならない可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、上述の技術的な課題に鑑み、原液を乾燥室内に供給して所定の粒径の乾燥粒体を生成することができる噴霧乾燥装置において、生成される乾燥粒体の粒径の分布を安定させ、高品質の粒体を製造する噴霧乾燥装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の噴霧乾燥装置は、噴霧機構部を介して乾燥室内に粒子化される原液を供給し、前記噴霧機構部から液滴状の前記原液を噴霧し乾燥させて乾燥室内に粒径が1~500ミクロンの乾燥粒体を得る噴霧乾燥装置であって、前記乾燥室内から前記乾燥粒体の捕集部に向けて連結され前記乾燥粒体が常時排出されるラインに設けられ、且つ捕集される前の前記乾燥粒体の粒径を体積分布としてリアルタイムで監視する監視部と、前記監視部からの監視結果についての信号が入力される制御部とを設け、前記監視部での粒径の監視結果に基づいて前記制御部は前記噴霧機構部を通過する原液の噴霧状態についてリアルタイムで且つ連続的に帰還制御するものであって、前記監視部はレーザー回折法による前記乾燥粒体の粒径のデータを取得し、取得したデータの中から粒径の中心径を導くと共に、前記体積分布の分散についてもリアルタイムで計測し、前記中心径と前記分散を含む該リアルタイムの粒径分布と目標とする粒径分布の比較に基づいて原液の噴霧状態について帰還制御することを特徴とする。
【0008】
本発明にかかる噴霧乾燥装置を用いることで、乾燥粒体の粒径についてのデータをリアルタイムに測定して監視することができ、その監視結果に基づいて原液の噴霧状態を帰還制御する。原液の噴霧状態は、例えば、噴霧機構部の回転部の回転速度、前記原液の供給速度、圧縮気体の供給圧力などによって制御することができる。粒径の分布をリアルタイムに監視することから、短時間でのフィードバック制御をすることができ、安定して高品質の粒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態にかかる噴霧乾燥装置の一例の全体構成図である。
【
図2】本発明の実施形態にかかる噴霧乾燥装置の一例の噴霧機構部の二流体ノズルを示す模式図である。
【
図3】本発明の実施形態にかかる噴霧乾燥装置の一例における監視部でモニターされるデータを示すグラフである。
【
図4】本発明の実施形態にかかる噴霧乾燥装置の一例のフィードバック制御の様子を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施形態にかかる噴霧乾燥装置の一例のフィードバック制御を用いた運転を説明する流れ図である。
【
図6】本発明の実施形態にかかる噴霧乾燥装置の一例におけるモニターされるデータと目標値の関係を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施形態にかかる噴霧乾燥装置の一例の他のフィードバック制御を用いた運転を説明する流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の好適な実施形態にかかる噴霧乾燥装置の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1に示すように、噴霧乾燥装置10は、乾燥室11の上方から原液12を噴霧させるとともに、原液12を乾燥させるための供給ガスAを供給し、乾燥室11内に噴霧された原液12は乾燥室11の上方から旋回しながら、供給ガスAによって乾燥され、乾燥室11の内部で造粒粉13となり排出されるものである。
【0012】
このような噴霧乾燥装置10の乾燥室11の上部には、供給される原液12を乾燥室11内に遠心噴霧または圧縮気体にて噴霧する噴霧機構部14が形成されている。噴霧機構部14のロータリーアトマイザーでは、配管部、モーター部29、回転ディスク28、フレーム部などを有して構成されている。詳しくは、噴霧機構部14の配管部は、供給された原液12を回転ディスク28上に送液するための部材である。回転ディスク28は、回転部として機能する部材であって、モーター部29より伝えられる駆動力に応じた回転数で回転して配管部より送液される原液12を遠心噴霧する。回転ディスク28としては、種々の形状のものを採用することができ、ベル型、ピン型など形状や構造を問わず搭載させることができる。回転ディスク28は、噴霧機構部14の下部側で乾燥室11に面して形成され、その回転軸は概ね円錐形状の噴霧機構部14の中心軸と重なるように取り付けられている。モーター部29は噴霧機構部14に設けられた回転ディスク28を所要の回転数で回転させることができる。モーター部29の出力は、制御部である制御システム16からの信号によって制御され、必要に応じて回転数を上げたり下げたりすることができる。
【0013】
図2は噴霧機構部14の二流体ノズルを示す模式図である。噴霧機構部14の二流体ノズルは、原液配管部30、圧縮気体配管部31、圧縮気体32、二流体ノズル本体33にて構成されている。原液配管部30は供給された原液12を二流体ノズル本体33に送液するための部材であり、圧縮気体配管部31はコンプレッサー、ボンベ等から供給される圧縮気体32を二流体ノズル本体33へ供給するための配管である。二流体ノズル本体33は、原液配管部30から送液された原液12を圧縮気体配管31から供給された圧縮気体32と混合し噴霧する。圧縮気体32の供給圧力は制御部である制御システム16からの信号によって制御され、必要に応じて供給圧力を上げたり下げたりすることができる。
【0014】
噴霧機構部14の配管部には、原液タンク17に収納された原液12が原液供給ライン19を介して供給される。原液タンク17から延長される原液供給ライン19の途中には、供給ポンプ18が設置され、原液タンク17からの原液12を送ることができ、必要な場合には、原液12の供給量を制御することができる。原料タンク17には図示しない回転機構部を設けることができ、例えばpH調整のためのpH調整装置を配設することもできる。このpH調整装置は、制御部であるコンピュータ16によって制御可能とされる。
【0015】
また、噴霧機構部14の回転部付近には、原液12を乾燥させるための供給ガスAが供給されている。供給ガスAは、例えば、空気などの気体であり、あるいは窒素などの不活性ガスを用いることもできる。本実施形態では、オープンサイクルシステムを採用するため、空気を供給する。本実施形態は、乾燥ガスが循環するようなクローズサイクルシステムを採用することもでき、その場合には、通常、窒素などの不活性ガスが循環するようにシステムを構築することができる。本実施形態では、空気の吸入口にガス用フィルター20が設けられており、ガス用フィルター20を通過した空気は送風ブロワー21を介してヒーター22に送られ、さらにヒーター22からHEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter)23とつながる熱風ダクト24を介して空気は乾燥室11内に送られる。乾燥室11に導入されるガスAは、ヒーター22を通過することから、所要の温度に昇温されており、必要な場合にはヒーター22で加熱する加熱量と送風ブロワー21からの送風量や途中に配設する図示しないバルブ等によって、その供給量やガス温度の制御もすることができる。
【0016】
乾燥室11内で噴霧機構部14より噴霧された原液12は、即時に乾燥され、微粒子として乾燥室11内に滞留し、取り出し口を介して乾燥室11の外部に常時搬送される。原液12を乾燥して得られる粒体は、たとえば1~500ミクロン程度の粒径を有しているが、収量が得られる粒体は装置やシステム、適応分野などに応じて適宜選択できるものであり、その粒径についても画一的ではなく種々の値や分布を取り得るものである。また、本明細書においては、粉体や顆粒など細かいサイズの塊や粒には、種々の称呼が存在するものの、これらの細かい粒のあらゆる形態を総称して粒体と称しているものであり、粒体として粉体や顆粒の他の呼び名の材料物をそのサイズや形状に拘わらず含んでいることはいうまでもない。
【0017】
乾燥室11の外部に搬送された乾燥粒体13は、得られた乾燥粒体13の粒径を監視する監視部として機能する粒度分布測定装置15の測定部を通過し、その際に乾燥粒体13の粒度分布が測定される。このような乾燥粒体13の粒度分布を測定する装置としては、種々のものが知られるが、本実施形態においては、乾燥粒体13の粒度分布を測定する粒度分布測定装置15として、例えばミー散乱式のリアルタイム粒度分布計測装置であるインシテックシステム、プロセス用リアルタイムレーザ回折式粒度分布測定機(Malvern Instruments社)を採用することができる。この粒度分布測定装置15の計測される粒度分布に関するデータはリアルタイムで制御部である制御システム16に送られ、分析され後述するようにリアルタイムで且つ連続的な帰還制御に利用される。
【0018】
粒度分布測定装置15を通過した乾燥粒体13、あるいは粒度分布測定装置15をバイパスして乾燥室11の外部に搬送された乾燥粒体13は、乾燥室下捕集部、またはサイクロン25で捕集され、さらにサイクロン25の後段に位置するバグフィルター26でも捕集される。これらサイクロン25とバグフィルター26により乾燥粒体13が所要の粒体分布で得られることになる。これらサイクロン25とバグフィルター26に供給されたガスは排風ブロワー27により大気に放出される。
【0019】
図3は本実施形態にかかる噴霧乾燥装置10の粒度分布測定装置15でモニターされるデータを示すグラフである。図中、縦軸は体積累積分布指標(%)であり、横軸は粒径(ミクロン)である。一般に噴霧乾燥装置10を稼働して、噴霧した原液12を乾燥して乾燥粒体13を生成した際には、生成された乾燥粒体13は、その粒径に関してばらつきを伴う粒径分布を有する。この粒径分布は、粒径が揃っていれば粒径に対してそのピークがシャープなガウス分布を呈し、粒径の分散が大きければ粒径についてのピークが拡がった分散値の大きな分布となる。
図3は一般的な乾燥粒体13の生成過程において粒度分布測定装置15でモニターされるデータであり、体積累積分布指標として50%を示すD
V50が粒度分布測定装置15のリアルタイムの計測データとして出力され、同様に、体積累積分布指標として10%を示すD
V10、体積累積分布指標として90%を示すD
V90もモニターできるデータとされる。また、同時に計測データD
V50とD
V10の間の差分S
Lや計測データD
V50とD
V90の間の差分S
Hもリアルタイムで算出できる。これら差分S
L、差分S
Hはその値が大きければ粒径の分散が大きいことを示す。なお、粒度分布測定装置15は、体積累積分布指標として50%の計測データD
V50と、10%、90%の計測データD
V10、計測データD
V90をモニターするが、例えば50%の計測データD
V50と25%、75%の計測データD
V25、D
V75をモニターするように設定することも可能である。
【0020】
このようなリアルタイムの計測データを取得して監視を続けることができる本実施形態の噴霧乾燥装置10は、これらの粒径分布についての計測データを利用してシステム全体での帰還制御を連続的に行うことができる。噴霧乾燥装置10で行われる帰還制御については、種々の方法があり、ここではその代表的な制御として、計測データDV50をモニターして制御システム16によりモーター部29の出力を制御して回転ディスク28の回転数を制御する方法、計測データDV50、DV10、DV90をモニターして制御システム16によりモーター部29の出力、圧縮気体32の供給圧力、原液12の供給速度を制御する方法が挙げられる。
【0021】
本実施形態の噴霧乾燥装置10の他の制御方法としては、原液12の調整により、粒子径や粒子分布の幅などを制御することもできる。原液12の調整法として、原液12のpH値を調整したり、原液12の固形分濃度、若しくは粘度を調整することも可能であり、これらの調整を行う機構部に対して制御システム16から信号を送って制御することで、所要の粒度制御が行われる。また、本実施形態の噴霧乾燥装置10の他の制御方法としては、噴霧乾燥装置10の各種の機構部分を制御することでも実現される。各種の機構部分としては、例えば、ヒーター22の出力を変更させて、乾燥室11に導入されるガスAの入口温度を制御することもでき、また、制御システム16から送風ブロワー21や排風ブロワー27のモーターの周波数を調整、またはダンパー開度を変更して風量を調整することも可能である。
【0022】
図4は、本実施形態にかかる噴霧乾燥装置10のフィードバック制御の様子を示すグラフである。
図4において、縦軸は回転ディスク28の回転数、及び計測データD
V50の数値、横軸は時間である。まず、粒径分布の体積累積分布指標として50%を示すD
V50の目標値(図中、細い実線で示す。)が60ミクロンとなる設定で噴霧乾燥装置10の運転を開始し(t
1)、回転数(図中、太い実線で示す。)を本実施形態での初期設定18000rpmから開始される。運転開始時刻t
1以降では、噴霧乾燥装置10のフィードバック制御が行われており、リアルタイム粒度分布測定装置15の計測データである計測データD
V50(図中、点線で示す。)の目標値とのずれに応じて制御システム16を介して回転ディスク28の回転数が制御される。その結果、回転数が6000rpm程度まで急速に低回転に遷移され、計測データD
V50も急速に60ミクロン付近まで立ち上がり、計測データD
V50が目標値に近くなると回転数の遷移の幅が小さく、やがて微調整となり計測データD
V50も安定した状態となる。安定した状態の計測データD
V50の値は目標値である60ミクロンから大きくずれることがなく乾燥粒体13を生成し続け、回転数の微調整に応じて粒径分布も調整されることになる。
【0023】
次に、目標値を時刻t2で一旦60ミクロンから30ミクロンに変えたところ、噴霧乾燥装置10のフィードバック制御に応じて回転ディスク28の回転数は、14000rpm程度の高回転に遷移され、その回転数の増加に応じて計測データDV50の値は急速に30ミクロンに収束される。30ミクロンに収束された後は、計測データDV50の値は30ミクロンから大きくずれることもなく、回転数の微調整に応じて粒径分布も調整されることになる。仮に、フィードバック制御がない制御であれば、粒径が大きく、または小さくなることもあり得るが、本実施形態の噴霧乾燥装置10ではそのような無駄な挙動なく安定して一定の大きさの粒径を得ることができる。
【0024】
同様に、時刻t3で目標値を30ミクロンから40ミクロンに遷移させた場合では、噴霧乾燥装置10のフィードバック制御に応じて回転ディスク28の回転数は、14000rpm程度の高回転から9000rpm程度に落とされることになるが、その回転数の減少に応じて計測データDV50の値は急速に40ミクロンに収束され、同様に40ミクロン付近から大きくずれることのない収束状態を呈する。
【0025】
上述のように、本実施形態の噴霧乾燥装置10では、リアルタイムの粒度分布測定装置15の計測データDV50の値は、制御システム16に送信され、制御システム16では目標値とのずれについて計算され、その計算値に基づいてフィードバック制御のための信号としてモーター部29に対する所要の信号が出力され、噴霧機構部14の回転ディスク28の回転数が制御される。その結果、生成される乾燥粒体の粒径の分布は安定したものとなり、高品質の粒体を製造することができる。
【0026】
図5は、本実施形態の噴霧乾燥装置10における帰還制御についてのフローチャートである。本実施形態の噴霧乾燥装置10では、リアルタイムの粒度分布測定装置15において、計測データD
V50や必要な場合には計測データD
V10、D
V90を取得して、生成されている粒体の分布を計測し、そのデータを制御システム16に送る。制御システム16では、
図5に示すような流れのプログラムが実行されており、噴霧機構部14のロータリーアトマイザーの回転ディスク28や二流体ノズルの圧縮気体の供給圧力32、必要な場合には、原液12のpH値、液粘度、液温度、固形分量や供給速度、ヒーター22、送風ブロワー21、排風ブロワー27によるガスAの温度や風量を制御することで、帰還制御が行われる。以下、
図5では、噴霧条件αは、回転ディスク28の回転数、圧縮気体の供給圧力、原液12のpH値、液粘度、液温度、固形分量や供給速度、ヒーター22、送風ブロワー21、排風ブロワー27によるガスAの温度や風量などの噴霧乾燥処理に制御可能な種々のファクターの総称である。もし本実施形態の噴霧乾燥装置10の帰還制御で回転ディスク28の回転数だけを制御する場合には、噴霧条件αは物理量としての回転ディスク28の回転数が制御対象とされる。
【0027】
初めに、本実施形態の噴霧乾燥装置10の運転を開始した場合、制御システムに初期値としての噴霧条件をαに設定し(手順S11)、その設定された噴霧条件で噴霧を行う(手順S12)。この噴霧により、乾燥室11内では即時の乾燥により粒体が生成される。生成された粒体13は乾燥室11から外部に搬送され、先に説明した粒度分布測定装置15の計測部を通過するように運ばれる。この際、粒度分布測定装置15によって通過する粒体の粒径分布が監視されており(手順S13)、その計測データDV50が制御システム16に信号として送られる。制御システム16は、例えばオペレーターによって操作されており、帰還制御をするものとの指示があれば、手順S14では、目標とする目標分布と監視データの比較が行われる。詳しくは、目標とする目標分布は例えば目標粒径を50ミクロンとするような値とされ、目標粒径はオペレーターより入力され、あるいはプログラムにより自動生成される。監視データはリアルタイムの実測データである体積累積分布指標として50%の計測データDV50である。
【0028】
この目標分布と監視データの比較の結果、許容範囲を越えるようなずれが生じていると判断される場合(手順S14でNo)は、噴霧条件をα´に調整(手順S15)して、手順S12に戻る。他方、目標分布と監視データの比較の結果、許容範囲を越えるようなずれが生じていない場合(手順S14でYes)は、噴霧条件を変えることなく(手順S16)、手順S12に戻り、運転終了時まで、連続して監視を続ける。必要量の設定は、予めプログラムしておくこともでき、タイマーや捕集する装置からアラームなどを制御システム16に入力される信号に代用することも可能である。
【0029】
上述の本実施形態の噴霧乾燥装置10の帰還制御は、主に計測データDV50を中心に信号処理をしているため、粒体の分布としては目標となるガウス分布と実測した粒体のガウス分布のそれぞれの中心値若しくはその代替値を一致させるように働くフィードバックということができる。噴霧条件の再設定時には、制御システム16のメモリに格納されている過去のデータを読み込んで、比較しながら噴霧条件をα´を設定することもできる。
【0030】
次にさらに本実施形態の噴霧乾燥装置10は、中心値だけではなく、その分散についてもリアルタイムで監視することが可能であり、これらのデータに基づくフィードバック制御が実現される。
【0031】
図6は、噴霧乾燥装置を使用して乾燥粉体を生成させた場合の計測データE
A(点線で示す。)と目標となる目標分布のデータE
T(実線で示す。)を示す分布図である。
図6において、縦軸は体積分布の%であり、横軸は径のサイズである。
図5に示す例では、計測データE
Aの粒径分布は、その中心径がD
V50(E
A)であり、その粒径のばらつきは分散S
L+H(E
A)で示される。中心径はD
V50(E
A)として粒度分布測定装置15から直接得られるデータであり、同時に分散S
L+H(E
A)は、例えば計測データD
V90と計測データD
V10の差分、あるいは計測データD
V75と計測データD
V25の差分からなるデータである。同様に、目標分布の方では、中心径はD
V50(E
T)として制御システム16によって設定される値であり、例えば過去の高品質な良品を生産したラインのデータを制御システム16のメモリ内に保存しておき、その際の粒径分布を目標とするような設定であっても良い。また、目標分布の粒径のばらつきについては、分散データS
L+H(E
T)で示される。
図6の例では、計測データE
Aの分布と目標分布のデータE
Tを比較すると、中心径については、D
V50(E
A)の方が大きく、また分散についてもS
L+H(E
A)の方が大きくなっており、これは実際に製造されている粒体の部分が大きめであり、そのばらつき自体もおおきいことを示している。そして、本実施形態の噴霧乾燥装置10は、その帰還制御によって、中心径だけではなく分布のばらつきも同時に制御することができる。
【0032】
図7は本実施形態の噴霧乾燥装置10における帰還制御についてのフローチャートである。本実施形態の噴霧乾燥装置10では、リアルタイムの粒度分布測定装置15において、計測データD
V50を取得し、同時にばらつきについても帰還制御をかけるために計測データD
V10と計測データD
V90(あるいは計測データD
V75と計測データD
V25)を取得して、生成されている粒体の分布を計測し、そのデータを制御システム16に送る。計測データD
V10と計測データD
V90などにより、分散についてのデータS
L+H(E
A)が得られることから、このデータS
L+H(E
A)を目標分布のデータE
Tの分散データS
L+H(E
T)と比較することで、的確な分散についてのフィードバック制御が実現される。以下、
図7では、
図5の流れと同様に、噴霧条件αは、回転ディスク28の回転数、供給ガスAの温度や供給量、原液12のpH値、液粘度、液温度、固形分量や供給速度などの噴霧乾燥処理に制御可能な種々のファクターの総称である。また、機械的な運転条件として、ヒーター22、送風ブロワー21、排風ブロワー27によるガスAの温度や風量の調整を制御システム16からの信号に応じて制御する機構とすることもできる。
【0033】
先ず、本実施形態の噴霧乾燥装置10の運転を開始した場合、制御システム16内のメモリ等を参照して、初期値としての噴霧条件をαに設定し(手順S21)、その設定された噴霧条件で噴霧を行う(手順S22)。この噴霧により、乾燥室11内では即時の乾燥により粒体が生成される。生成された粒体13は乾燥室11から外部に搬送され、先に説明した粒度分布測定装置15の計測部を通過するように運ばれる。この際、粒度分布測定装置15によって通過する粒体の粒径分布が監視されており(手順S23)、その計測データDV10、DV50、DV90が制御システム16に信号として送られる。制御システム16では、計測データDV10、DV90に基づいてデータSL+H(EA)が計算される。
【0034】
このようなデータSL+H(EA)を算出したところで、目標分布のデータETとの比較を行うが、本実施形態では、その比較は手順S24と手順S26の2段階となる。すなわち、手順S24では、中心径についての比較が行われ、手順S26ではばらつきについての比較が行われる。手順S24において、目標分布の中心径DV50(ET)の許容範囲の値βに中心径のデータDV50(EA)が収まるか否かが判断され、それはDV50(ET)-β<DV50(EA)<DV50(ET)+βが成立するか否かという判断ともなる。手順S24でNoの場合には、手順S25に進み、噴霧条件をα´に調整(手順S25)して、手順S22に戻る。手順S24でYesの場合には、手順S26に進み、目標分布の分散データSL+H(ET)の許容範囲γ内に計測されたデータSL+H(EA)が収まるか否かは判断され、それはSL+H(EA)<SL+H(ET)+γが成立するか否かという判断ともなる。手順S26でNoの場合には、手順S25に進み、噴霧条件をα´に調整(手順S25)して、手順S22に戻る。手順S26でYesの場合には、手順S22に進み、噴霧条件を変えることなく、まだ運転継続が必要であるため手順S22に戻る。
【0035】
上述の
図7にそのプログラムを示す本実施形態の噴霧乾燥装置10の帰還制御は、主に計測データD
V50と共に、粒径のばらつき(分散)についてのデータについてもリアルタイムで継続的に取得し、そのデータについての計算処理をしている。このため、粒体の分布としては目標となるガウス分布と実測した粒体のガウス分布のそれぞれの中心値のみならずそのばらつき対しても帰還制御を働かせることができ、本実施形態の噴霧乾燥装置10の帰還制御によれば、生成される乾燥粒体の粒径の分布を安定させ、より粒径のばらつきの少ない高品質の粒体を製造することができる。
【符号の説明】
【0036】
10 噴霧乾燥装置
11 乾燥室
12 原液
13 乾燥粒体
14 噴霧機構部
15 粒度分布測定装置
16 制御システム
17 原液タンク
18 供給ポンプ
19 原液供給ライン
20 ガス用フィルター
21 送風ブロワー
22 ヒーター
23 HEPAフィルター
24 熱風ダクト
25 サイクロン
26 バグフィルター
27 排風ブロワー
28 モーター部
29 回転ディスク
30 原液配管
31 圧縮気体配管
32 圧縮気体
33 二流体ノズル本体